説明

車体後部構造

【課題】車両のコストの低減や、車両の軽量化を図ることを可能にする。
【解決手段】車体前後方向に左右のリヤフレーム14,14が延ばされ、これらのリヤフレーム14,14にトーションビーム式後輪懸架装置16を配置した車体後部構造10において、リヤフレーム14と後輪懸架装置16のサスペンションアーム26との間に上下に分離することを抑制する分離抑制手段19を備え、分離抑制手段19が、リヤフレーム14又はサスペンションアーム26のいずれか一方に固定され、サスペンションアーム26の回転軌跡に合わせた形状のビーム27と、リヤフレーム14又はサスペンションアーム26のいずれか他方に固定されるとともに、ビーム27に沿って移動可能に配置され、一方の所定距離を超える移動を禁止する係合部材28とから構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リヤフレームにトーションビーム式後輪懸架装置を配置した車体後部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車体後部構造として、車体前後方向に左右のサイドシルを延ばし、これらのサイドシルの後部から左右のリヤフレームを延ばしたものが知られている。
この種の車体後部構造では、トーションビーム式後輪懸架装置を配置する場合には、リヤフレームにトーションビームを揺動自在に取付けている。
このような、車体後部構造として、車体上方に且つ車体中央に湾曲したリヤフレームを備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
特許文献1の車体後部構造は、車体の左右両側に設けられ略前後に延びる左右のリヤフレームと、これらのリヤフレームの後端を連結する後端部材と、この後端部材の前方に配置されるとともに、一対のリヤフレームに架設された後部クロスメンバと、後部クロスメンバと後端部材とに架設され、下面が前上がりに傾斜するリヤセンタフレームとを備え、スペアタイヤを車体のフロアパネルの下方に配置するとともに、スペアタイヤをリヤセンタフレームの下面に当接して配置したものである。
【0004】
しかし、特許文献1のような車体後部構造では、左右のリヤフレームは、前部が車輪の配置を許容するために車体上方に且つ車体中央に湾曲して形成される湾曲部が設けられている。従って、衝突時(後部衝突時)に、湾曲部が特に曲がりやすく、リヤフレームが折れ曲がることを防止するための対策をする必要がある。
リヤフレームが折れ曲がることを防止するために、リヤフレームの材料の高強度化や、リヤフレームの厚板化が考えられる。しかし、材料の高強度化や厚板化を図ったのでは、車両のコストアップや車両の重量の増加につながり、好ましいことではない。
【0005】
また、特許文献1の車体後部構造において、左右のリヤフレームの前部にトーションビーム式後輪懸架装置のトーションビームが揺動自在に配置される場合がある。トーションビームは、一般的には高強度の部材であり、このような場合に、トーションビームをリヤフレームの折れ曲がりの防止に役立てたいものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−362426公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、車両のコストの低減や、車両の軽量化を図ることができる車体後部構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、車体前後方向に左右のリヤフレームが延ばされ、これらのリヤフレームにトーションビーム式後輪懸架装置を配置した車体後部構造において、リヤフレームと後輪懸架装置のサスペンションアームとの間に上下に分離することを抑制する分離抑制手段を設けたことを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明は、分離抑制手段が、リヤフレーム又はサスペンションアームのいずれか一方に固定され、サスペンションアームの回転軌跡に合わせた形状のビームと、リヤフレーム又はサスペンションアームのいずれか他方に固定されるとともに、ビームに沿って移動可能に配置され、一方の所定距離を超える移動を禁止する係合部材とから構成されることを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明は、分離抑制手段が、リヤフレーム又はサスペンションアームのいずれか一方に回転自在に取付けられたビームと、リヤフレーム又はサスペンションアームのいずれか他方に固定されるとともに、ビームに沿って移動可能に配置され、一方の所定距離を超える移動を禁止する係合部材とから構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は以下の効果を奏する。
請求項1に係る発明では、車体前後方向に延ばされた左右のリヤフレームと、これらのリヤフレームに配置されたトーションビーム式後輪懸架装置を備える。
リヤフレームと後輪懸架装置のサスペンションアームとの間に上下に分離することを抑制する分離抑制手段を設けたので、サスペンションアームとリヤフレームとの相対的な間隔が広がることを抑制することができる。これにより、リヤフレームの曲げ変形を抑制することができる。この結果、リヤフレームに必要とされる強度を確保するために、材料の高強度化や、厚板化を図る場合に比べて、車両のコストの低減や、車両の軽量化を図ることができる。
【0012】
請求項2に係る発明では、分離抑制手段が、リヤフレーム又はサスペンションアームのいずれか一方に固定され、サスペンションアームの回転軌跡に合わせた形状のビームと、リヤフレーム又はサスペンションアームのいずれか他方に固定されるとともに、ビームに沿って移動可能に配置され、一方の所定距離を超える移動を禁止する係合部材とから構成された。すなわち、ビームは、サスペンションアームの回転軌跡に合わせた形状であるので、サスペンションの通常の揺動(機能)を阻害することはなく、後突が発生した場合にリヤフレームの折れ曲がりの防止を図ることができる。
【0013】
請求項3に係る発明では、分離抑制手段が、リヤフレーム又はサスペンションアームのいずれか一方に回転自在に取付けられたビームと、リヤフレーム又はサスペンションアームのいずれか他方に固定されるとともに、ビームに沿って移動可能に配置され、一方の所定距離を超える移動を禁止する係合部材とから構成された。すなわち、ビームは、回転自在に取付けられたビームであるので、ビームを直線状に形成できる。この結果、リヤフレームとサスペンションアームとの分離抑制効果を増大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る第1実施例の車体後部構造の側面図である。
【図2】図1の2−2線断面図である。
【図3】図1に示された車体後部構造に後突荷重が作用したときの側面図である。
【図4】図3の4−4線断面図である。
【図5】本発明に係る第1実施例の車体後部構造の比較検討図である。
【図6】本発明に係る第2実施例の車体後部構造の側面図である。
【図7】図6の7−7線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
【実施例1】
【0016】
図1及び図2に示されたように、第1実施例の車体後部構造10は、車体前後方向に延ばされた左右のサイドシル13,13(一方不図示)と、このサイドシル13,13の後部から車体後方に延ばされた左右のリヤフレーム14,14(一方不図示)と、左右のサイドシル13,13の後部に設けられた左右のダンパハウジング15,15(一方不図示)と、これらの左右のリヤフレーム14,14及び左右のダンパハウジング15,15の廻りに設けられたトーションビーム式後輪懸架装置16と、この後輪懸架装置16で懸架された後輪18,18(一方不図示)と、後輪懸架装置16と左右のリヤフレーム14,14との間に設けられた左右の分離抑制手段19,19(一方不図示)とからなる。
【0017】
リヤフレーム14は、サイドシル13の後部から上方に且つ車幅中央に湾曲して形成される湾曲部21と、この湾曲部21から車体後方に直線的に延ばされた直線部22とから構成される。
【0018】
後輪懸架装置16は、左右のリヤフレーム14,14の湾曲部21,21(一方の21は不図示)に揺動自在に取付けられるトーションビーム24と、左右のダンパハウジング15,15に取付けられ、トーションビーム24の左右後部をそれぞれ支持するリヤダンパ25,25(一方不図示)とからなる。トーションビーム24には、左右のサスペンションアーム26,26(一方不図示)が一体的に形成されている。
【0019】
分離抑制手段19は、リヤフレーム14の湾曲部21に固定され、サスペンションアーム26の回転軌跡に合わせた形状に形成されたビーム(アーム)27と、サスペンションアーム26に固定された係合部材28とから構成される。
【0020】
ビーム27は、円弧状に形成されたビームであり、係合部材28に係合して係合部材28を案内するガイド溝31と、リヤフレーム14の湾曲部21に嵌合してビーム27の回転止めをなす段部32とを備える。さらに、ビーム27は、リヤフレーム14の湾曲部21に設けられた取付部34にボルト35で締結されている。
【0021】
係合部材28は、ビーム27に沿って移動可能に配置され、トーションビーム24の所定距離を超える移動を禁止する部材である。具体的には、係合部材28は、トーションビーム24に設けられた取付ナット36にねじ込まれるボルトである。
【0022】
車体後部構造10では、分離抑制手段19が、リヤフレーム14に固定されサスペンションアーム26の回転軌跡に合わせた形状のビーム27と、サスペンションアーム26に固定されるとともにビーム27に沿って移動可能に配置され、所定距離を超える移動を禁止する係合部材28とから構成されているので、通常時には、サスペンションアーム26の挙動を自由に許容している。この通常時のリヤフレーム14とサスペンションアーム26とのなす交差角度をθ1とする。
【0023】
図3及び図4に示されたように、他車両41が自車両11に後部から衝突し、後突荷重がリヤフレーム14に矢印a1の如く作用すると、リヤフレーム14は、矢印a2の如く曲げ変形を受ける。リヤフレーム14が曲げ変形を受けると、図1に示された通常時のリヤフレーム14とサスペンションアーム26との交差角度をθ1は拡大される。すなわち、図3のような後突時のリヤフレーム14とサスペンションアーム26との交差角度をθ2とするときに、交差角度θ2は交差角度θ1よりも大きい(θ2>θ1)。
【0024】
図4に示されたように、車体後部構造10では、リヤフレーム14とサスペンションアーム26との交差角度θ2に達したときに、ガイド溝31の下端が係合部材28で規制される。すなわち、所定の後突荷重の範囲内では、リヤフレーム14とサスペンションアーム26との交差角度はθ2で規制される。これにより、リヤフレーム14とサスペンションアーム26との分離抑制効果を増大することができる。
【0025】
図1〜図4に示されたように、車体後部構造10では、車体前後方向に延ばされた左右のリヤフレーム14,14と、これらのリヤフレーム14,14に配置されたトーションビーム式後輪懸架装置16を備える。
【0026】
リヤフレーム14と後輪懸架装置16のサスペンションアーム26との間に上下に分離することを抑制する分離抑制手段19を設けたので、サスペンションアーム26とリヤフレーム14との相対的な間隔が広がることを抑制することができる。これにより、リヤフレーム14の曲げ変形を抑制することができる。この結果、リヤフレーム14に必要とされる強度を確保するために、材料の高強度化や、厚板化を図る場合に比べて、車両のコストの低減や、車両の軽量化を図ることができる。
【0027】
分離抑制手段19は、リヤフレーム14に固定され、サスペンションアーム26の回転軌跡に合わせた形状のビーム27と、サスペンションアーム26に固定されるとともに、ビーム27に沿って移動可能に配置され、サスペンションアーム26の所定距離を超える移動を禁止する係合部材28とから構成された。すなわち、ビーム27は、サスペンションアーム26の回転軌跡に合わせた形状であるので、サスペンションの通常の揺動(機能)を阻害することはなく、後突が発生した場合にリヤフレーム14の折れ曲がりの防止を図ることができる。
【0028】
図5(a)に示される比較例の車体後部構造100では、車体前後方向に延ばされた左右のサイドシル103,103(一方不図示)と、このサイドシル103,103の後部から車体後方に延ばされた左右のリヤフレーム104,104(一方不図示)と、左右のサイドシル103,103の後部に設けられた左右のダンパハウジング105,105(一方不図示)と、これらの左右のリヤフレーム104,104及び左右のダンパハウジング105,105の廻りに設けられたトーションビーム式後輪懸架装置106と、この後輪懸架装置106で懸架された後輪108,108(一方不図示)とから構成される。
【0029】
従って、図5(b)に示されるように、比較例の車体後部構造100では、リヤフレーム104に他車両111から矢印b1の如く後突荷重が作用したときには、リヤフレーム104は、大きな変形を受け、車室の変形量が増加する。
すなわち、リヤフレーム104は大きな荷重を受けるために、所定の強度を保つためには、高強度の部材を使用したり、板厚を増す必要がある。この結果、車両のコストアップや、車両の重量の増加につながる。
【0030】
図5(c)に示される実施例1の車体後部構造10では、リヤフレーム14と後輪懸架装置16のサスペンションアーム26との間に上下に分離することを抑制する分離抑制手段19を設けたので、他車両41から矢印c1の如く後突荷重が作用したときにも、サスペンションアーム26とリヤフレーム14との相対的な間隔が広がることを抑制することができる。
【0031】
これにより、リヤフレーム14の曲げ変形を抑制することができる。この結果、リヤフレーム14に必要とされる強度を確保するために、材料の高強度化や、厚板化を図る場合に比べて、車両のコストの低減や、車両の軽量化を図ることができる。
【実施例2】
【0032】
図6に示されたように、第2実施例の車体後部構造50は、車体前後方向に延ばされた左右のサイドシル53,53(一方不図示)と、このサイドシル53,53の後部から車体後方に延ばされた左右のリヤフレーム54,54(一方不図示)と、左右のサイドシル53,53の後部に設けられた左右のダンパハウジング55,55(一方不図示)と、これらの左右のリヤフレーム54,54及び左右のダンパハウジング55,55の廻りに設けられたトーションビーム式後輪懸架装置56と、この後輪懸架装置56で懸架された後輪58,58(一方不図示)と、後輪懸架装置56と左右のリヤフレーム54,54との間に設けられた左右の分離抑制手段59,59(一方不図示)とからなる。
【0033】
リヤフレーム54は、サイドシル53の後部から上方に且つ車幅中央に湾曲して形成される湾曲部61と、この湾曲部61から車体後方に直線的に延ばされた直線部62とから構成される。
【0034】
後輪懸架装置56は、左右のリヤフレーム54の湾曲部61に揺動自在に取付けられるトーションビーム64と、左右のダンパハウジング55,55に取付けられ、トーションビーム64の左右後部をそれぞれ支持するリヤダンパ65,65(一方不図示)とからなる。トーションビーム64には、左右のサスペンションアーム66,66が一体的に形成されている。
【0035】
分離抑制手段59は、リヤフレーム54の湾曲部61にベアリングを介して揺動自在に取付けられビーム(アーム)67と、サスペンションアーム66に固定された係合部材68とから構成される。
【0036】
ビーム67は、直線状に形成されたビームであり、係合部材68に係合して係合部材68を案内する直線状のガイド溝71とを備える。さらに、ビーム67は、リヤフレーム54の湾曲部61に設けられた取付部74にベアリング73を介してボルト75で締結されている。
【0037】
係合部材68は、ビーム67に沿って移動可能に配置され、トーションビーム64の所定距離を超える移動を禁止する部材である。具体的には、係合部材68は、トーションビーム64に設けられた取付ナット76にねじ込まれるボルトである。
【0038】
第2実施例の車体後部構造50では、分離抑制手段59が、リヤフレーム54に回転自在に取付けられたビーム67と、サスペンションアーム66に固定されるとともに、ビーム67に沿って移動可能に配置され、一方の所定距離を超える移動を禁止する係合部材68とから構成された。すなわち、ビーム67は、回転自在に取付けられたビームであるので、ビーム67を直線状に形成できる。この結果、リヤフレーム54とサスペンションアーム66との分離抑制効果を増大することができる。
【0039】
尚、本発明に係る第1実施例及び第2実施例の車体後部構造10,50は、図1及び図6に示すように、分離抑制手段19,59は、ビーム27,67がリヤフレーム14,54に設けられ、係合部材28,68がサスペンションアーム26,66に設けられたが、これに限るものではなく、ビームがサスペンションアームに設けられ、係合部材がリヤフレーム設けられるものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明に係る車体後部構造は、セダンやワゴンなどの乗用車に採用するのに好適である。
【符号の説明】
【0041】
10,50…車体後部構造、14,54…リヤフレーム、16,56…トーションビーム式後輪懸架装置、19,59…分離抑制手段、26,66…サスペンションアーム、27,67…ビーム、28,68…係合部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前後方向に左右のリヤフレームが延ばされ、これらのリヤフレームにトーションビーム式後輪懸架装置を配置した車体後部構造において、
前記リヤフレームと前記後輪懸架装置のサスペンションアームとの間に上下に分離することを抑制する分離抑制手段を設けたことを特徴とする車体後部構造。
【請求項2】
前記分離抑制手段は、前記リヤフレーム又は前記サスペンションアームのいずれか一方に固定され、前記サスペンションアームの回転軌跡に合わせた形状のビームと、前記リヤフレーム又は前記サスペンションアームのいずれか他方に固定されるとともに、前記ビームに沿って移動可能に配置され、前記一方の所定距離を超える移動を禁止する係合部材とから構成されることを特徴とする請求項1記載の車体後部構造。
【請求項3】
前記分離抑制手段は、前記リヤフレーム又は前記サスペンションアームのいずれか一方に回転自在に取付けられたビームと、前記リヤフレーム又は前記サスペンションアームのいずれか他方に固定されるとともに、前記ビームに沿って移動可能に配置され、前記一方の所定距離を超える移動を禁止する係合部材とから構成されることを特徴とする請求項1記載の車体後部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−247629(P2010−247629A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−98471(P2009−98471)
【出願日】平成21年4月14日(2009.4.14)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】