説明

車体構成部材

【課題】 通常は充分な剛性を保てると共に衝撃力が作用した場合に変形荷重を低減できる車体構成部材を提供することを目的とする。
【解決手段】 外力が作用した際に弾性座屈をする車体構成部材であって、外力の入力方向に沿うようにして配置される構成部材本体8と、この構成部材本体8を加振する加振手段15とを備え、前記加振手段15は衝突検知手段18が車両の衝突を検知した場合に作動することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車等の車体に用いられる車体構成部材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両にあっては、フロントウインドシールドの下部に外力が作用した場合に、この外力により容易に変形することでフロントウインドシールドの支持部分の変形荷重を小さくできるウインドシールドサポートパネルが設けられた構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−191750号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記ウインドシールドサポートパネルの変形荷重を小さくすることで外力に対して容易に変形させることができるが、このウインドシールドサポートパネルは車体剛性に影響を与える部材でありフロントウインドシールドを支持している部材であるため、ある程度の強度剛性を持たせないとフロントウインドシールドの支持剛性が得られなくなってしまう。
したがって、車体剛性の点及びフロントウインドシールドを支持する点からある程度強固にする必要があることと、上方から外力が作用した際に少ない荷重で変形することとの両立が困難なものとなってしまう。
【0004】
そこで、この発明は、通常は充分な剛性を保てると共に衝撃力が作用した場合に変形荷重を低減できる車体構成部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1に記載した発明は、外力が作用した際に弾性座屈をする車体構成部材であって、外力の入力方向に沿うようにして配置される構成部材本体(例えば、実施形態におけるダッシュボードアッパ8)と、この構成部材本体を加振する加振手段(例えば、実施形態における圧電素子15)とを備え、前記加振手段は衝突検知手段(例えば、実施形態における歩行者センサ18)が車両の衝突を検知した場合に作動することを特徴とする。
【0006】
請求項2に記載した発明は、前記構成部材本体はフロントウインドシールド(例えば、実施形態におけるフロントウインドシールド6)を支持する部材であって、この構成部材本体はフロントウインドシールドの略上下方向に沿って配置されるパネル部材(例えば、実施形態におけるウインドシールドロアパネル12)を備えていることを特徴とする。
【0007】
請求項3に記載した発明は、前記加振手段は圧電素子であり、前記車体部材本体の外力入力方向に沿う方向の略中央部に配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に記載した発明によれば、通常は構成部材本体のもつ剛性により車体部材として十分な剛性を保つことができると共に、衝突検知手段により衝突が起きたことが検知され構成部材本体に外力が作用する可能性のある場合には加振装置により構成部材本体を加振してその座屈を促進し、座屈変形する構成部材本体の変形荷重を低減することができる効果がある。
請求項2に記載した発明によれば、構成部材本体はフロントウインドシールドを高い剛性で支持するパネル部材を備えるものでありながら、フロントウインドシールドの下部に略上下方向に沿って下側に向かう荷重が作用した場合に、これを効果的に変形させることができる。
請求項3に記載した発明によれば、加振手段として圧電素子を用いることで、配置が簡単で占有スペースが少なくて済み、前記車体部材本体の外力入力方向に沿う方向の略中央部に配置して小さな加振であっても大きな座屈促進効果を得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1はこの発明の実施形態の自動車の斜視図、図2は図1のA−A線に沿う断面図である。図1、図2に示すように、自動車の車体1には、エンジンルーム2と車室3との隔壁としてダッシュボードロアパネル4が設けられている。このダッシュボードロアパネル4の上縁フランジ4uには、フロントウインドシールド6とエンジンフード7の後端部との間に車幅方向に亘ってダッシュボードアッパ(構成部材本体)8が設けられている。このダッシュボードアッパ8は、フロントウインドシールド6を支持し空調用の外気を取り入れると共に、フロントウインドシールド6を流れた雨水を排水ガイドするものであり、上部をカウルトップガーニッシュ9で覆うことで閉断面構造に形成されている。
【0010】
具体的にはダッシュボードアッパ8は、両側部をフロントピラー10,10に接続され車幅方向に延びる車体構造部材であって、ダッシュボードロアパネル4の上縁フランジ4uに取り付けられるダッシュアッパパネル11とこのダッシュアッパパネル11の後縁フランジ11bに接合されるウインドシールドロアパネル(パネル部材)12とを備えている。ウインドシールドロアパネル12は、その後縁に前記ダッシュアッパパネル11の後縁フランジ11bに接続される後縁フランジ12bを備えフロントウインドシールド6を支持するパネル部材であって、前縁にはフロントウインドシールド6に沿って前側に屈曲する取付フランジ12fを備えている。
【0011】
ウインドシールドロアパネル12の取付フランジ12fの上面には接着材13とダムラバー14によりフロントウインドシールド6の下縁部6dが接着固定されている。このウインドシールドロアパネル12によってフロントウインドシールド6が支持されている。
そして、前記ダッシュアッパパネル11の前縁部にカウルトップガーニッシュ9の前部係止部9aが係止すると共に、カウルトップガーニッシュ9の後縁部9bが前記フロントウインドシールド6の下縁部に当接している。尚、23はエンジンフードの内面に密接するフードシールを示す。
【0012】
図3はこの発明の実施形態のウインドシールドロアパネル12を車室内側から視た斜視図である。ウインドシールドロアパネル12はフロントウインドシールド6の略上下方向に沿って配置されることで、外力(図2で矢印で示す)の入力方向に沿うように配置されることとなり、この外力により弾性座屈する部材である。ここで、座屈現象には弾性座屈と塑性座屈があるが、弾性座屈とは、材料が塑性変形のない状態で荷重と変位の関係が非線形(幾何学的非線形)となり、その後に座屈点に到達する座屈をいい、塑性座屈とは、塑性変形により荷重と変位の関係が非線形(材料非線形性)となり、座屈点に達する現象である。
【0013】
前記ウインドシールドロアパネル12の上面12a側には、上下方向略中央部に複数(この実施形態では4つ)の圧電素子(加振手段)15が所定間隔をもって車幅方向に列をなして配置されている。この圧電素子15は各々がリード線16により接続されている。
【0014】
図3において17は制御ユニットを示し、この制御ユニット17には車両が歩行者と衝突したことを検出する歩行者センサ(衝突検知手段)18が接続され、この歩行者センサ18からの入力信号に基づいて後述するスイッチング回路19をオン作動させるものである。尚、この歩行者センサ18はフロントバンパに取り付けられる、例えばGセンサである。
【0015】
一方、バッテリ20(12Vバッテリ)には昇圧回路21が接続され、この昇圧された電圧を圧電素子15に印加できるようになっている。昇圧回路21にはオシレータ22が接続されていて、このオシレータ22は圧電素子15を用いてウインドシールドロアパネル12に振動を付与するために、圧電素子15に付与する電圧を変化させたり、間欠的に電圧を印加するための前記振動の波形信号を出力するものである。昇圧回路21にはスイッチング回路19が接続され、前記歩行者センサ18が衝突を検知した際にオンとなり圧電素子15を作動させるようになっている。このスイッチング回路19と前記圧電素子15とがリード線16によって接続されている。
【0016】
図4はウインドシールドロアパネル12の実験用サンプルを示し、このサンプルは取付フランジ側12fからインパクタ(EU−NCAP ADULT)を衝接させるインパクターテストを行うために使用される。サンプルの材質は鋼板材(SP)であって、板厚t=0.6mm、高さh=150mm、幅d=500mmで取付フランジ12fと後縁フランジ12bの張り出し幅f=30mmに設定し、表面に4つの圧電素子15…を取り付けて、圧電素子15を挟む位置にひずみゲージ23を取り付けた。
【0017】
図5は前記サンプルを用いて行った座屈促進実験の結果を示し、横軸を時間(msec)、縦軸をResultant G(G:衝撃加速度)としたものである。「BESE」は圧電素子による振動を付与しない場合(破線)を示し、「圧電素子加振」は圧電素子15による加振を行った場合を(実線)を示している。
この実験結果によれば、圧電素子15により加振することにより衝突直後の衝撃加速度がやや上昇するものの、衝撃加速度が衝突初期でのピークが大きく抑えられ全体として平滑化され、衝突初期のHICで36%(X−Y)の低減効果が得られた。
ここで、「HIC」とは歩行者頭部保護安全性能試験においては頭部インパクタにおいて計測された加速度を用いて計算される頭部傷害の程度を示す指数をいう。尚、図5中Aの範囲は歪みエネルギーによる解析で求められた値に基づいている。
【0018】
次に、図6、図7に基づいて、振動を与えることで座屈が促進されるのは座屈対象が弾性座屈する部材であることが条件となる点について説明する。一例として、両端固定で一端側が梁の長手方向に滑るように構成された梁サンプルを用い、その梁サンプルの両端に圧縮荷重Pが作用する場合で考える。ここで、梁の長さl、Eはヤング率、Iは断面2次モーメント、板幅w、板厚t、断面積A、断面の回転半径r(=(I/A)1/2)である。
jonson(ジョンソン)の式とEuler(オイラー)の式により塑性座屈領域から弾性座屈領域となるのは、細長比では、
【0019】
【数1】

【0020】
より大きい場合であり、Gerardの式により塑性座屈領域から弾性座屈領域となるのは、板幅厚比では、
【0021】
【数2】

【0022】
より大きい場合となる。
【0023】
図6は縦軸を座屈荷重比、具体的には振動を付与しない場合の座屈荷重を分母、振動を付与した場合の座屈荷重を分子とした場合の比率、横軸を細長比として前述した梁サンプルによる実験結果を示す。その結果、数1に示した細長比(108.8)を境として座屈荷重比が徐々に小さくなっていくことが判明した(囲まれている部分)。つまり、弾性座屈領域において座屈が促進されるのである。また、板幅厚比で同様の実験を行うと、図7に縦軸を座屈荷重比、横軸を板幅厚比とし同様に梁サンプルによる実験結果として示すように、数2に示した板幅厚比(60)を境として座屈荷重の比が徐々に小さくなっていくことが判明した(囲まれている部分)。つまり、この場合も弾性座屈領域において座屈が促進されるのである。したがって、ウインドシールドロアパネル12は弾性座屈する部材であることが前提となるのである。
【0024】
上記実施形態によれば、弾性座屈するウインドシールドロアパネル12を備えたダッシュボードアッパ8はフロントウインドシールド6を支持する部材として機能し、また両端部をフロントピラー10,10に接続される車体構造部材として機能する十分な剛性を保つようになっている。
【0025】
ここで、前記フロントバンパに歩行者が衝接する等して、歩行者センサ18により衝突状態が検出され、ウインドシールドロアパネル12に外力が作用する可能性が生ずると、歩行者センサ18からの信号に基づいて制御ユニット17がスイッチング回路19をオン作動させる。すると、歩行者の衝突直後や所定の条件で予め昇圧回路21により昇圧されたバッテリ20の電圧がオシレータ22により連続的に変化した状態で圧電素子15に印加される。その結果、前記ウインドシールドロアパネル12は圧電素子15の伸縮変形により振動した状態となり、その後に歩行者の頭部などが衝接した場合に備える。
【0026】
したがって、このように振動した状態にあるウインドシールドロアパネル12は、振動をしていない状態に比較して座屈荷重が低く抑制されているため、フロントウインドシールド6の下部に荷重が作用した場合にウインドシールドロアパネル12の座屈を促進して効果的に変形させることができる。
また、ウインドシールドロアパネル12を振動させるために小型の圧電素子15を用いているため、配置が簡単で占有スペースが少なくて済み、前記ウインドシールドロアパネル12の外力入力方向に沿う方向の略中央部に配置して小さな加振であっても大きな座屈促進効果を得られる。
このようにして、ウインドシールドロアパネル12、つまりダッシュボードアッパ8に通常は十分な剛性を確保しつつ、衝突が発生して外力が作用する可能性が生じた場合にのみ加振して座屈を促進し、座屈荷重、つまり衝撃荷重を低減するのである。
【0027】
尚、この発明は上記実施形態に限られるものではなく、例えば、構成部材本体はウインドシールドロアパネルに限られるものではなく、衝突時にのみ座屈荷重を低減できれば他の部材でもよい。また、加振手段は圧電素子に限られるものではなく、例えば、磁歪素子、電歪素子、電磁モータなどを用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明の実施形態の自動車の斜視図である。
【図2】図1のA−A線に沿う断面図である。
【図3】この発明の実施形態のウインドシールドロアパネルを車室内側から視た斜視図である。
【図4】この発明の実施形態のウインドシールドロアパネルの実験用のサンプルを示す図である。
【図5】図4のサンプルを用いた座屈促進実験の結果を示すグラフ図である。
【図6】細長比に応じて変化する座屈荷重比を示すグラフ図である。
【図7】板幅厚比に応じて変化する座屈荷重比を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0029】
6 フロントウインドシールド
8 ダッシュボードアッパ(構成部材本体)
12 ウインドシールドロアパネル(パネル部材)
15 圧電素子(加振手段)
18 歩行者センサ(衝突検知手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外力が作用した際に弾性座屈をする車体構成部材であって、外力の入力方向に沿うようにして配置される構成部材本体と、この構成部材本体を加振する加振手段とを備え、前記加振手段は衝突検知手段が車両の衝突を検知した場合に作動することを特徴とする車体構成部材。
【請求項2】
前記構成部材本体はフロントウインドシールドを支持する部材であって、この構成部材本体はフロントウインドシールドの略上下方向に沿って配置されるパネル部材を備えていることを特徴とする請求項1に記載の車体構成部材。
【請求項3】
前記加振手段は圧電素子であり、前記車体部材本体の外力入力方向に沿う方向の略中央部に配置されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車体構成部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−298138(P2006−298138A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−122179(P2005−122179)
【出願日】平成17年4月20日(2005.4.20)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】