説明

車輌の制動装置

【課題】良好なブレーキペダルの操作感を確保しつつ運転者のペダル踏力の大きさに応じた適切な制動性能を確保すること。
【解決手段】ブレーキペダル23の操作に伴い発生した作動流体の圧力を要求制動力に従って調圧し、調圧後の作動流体の圧力に応じて第1制動力を車輪10FL,10FR,10RL,10RRに作用させる第1制動力発生手段(マスタカット弁32,33等)と、第1制動力が要求制動力に対して不足するときに、その不足分に応じた加圧量で作動流体を加圧して当該加圧量に相当する第2制動力を車輪10FL,10FR,10RL,10RRに作用させる第2制動力発生手段(電動機58や油圧ポンプ59,60等)と、要求制動力に対して第1制動力が不足する場合、運転者によるブレーキペダル23へのペダル踏力が大きいほど第2制動力発生手段の加圧量を増大させる制動制御手段と、を備えること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者のブレーキペダルの操作に伴い発生した作動流体の圧力を調圧することによって要求制動力を車輪に働かせる一方、その調圧後の圧力のみで要求制動力を満たすことができなければ、その不足分について加圧手段で作動流体を加圧して発生させる車輌の制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポンプ等の加圧手段を作動させることによって作動流体(ブレーキ液)の加圧を行い、その加圧分に相当する制動力を車輪に働かせることが可能な車輌の制動装置が知られている。例えば、この種の制動装置については、下記の特許文献1,2に開示されている。この特許文献1には、モータ駆動に伴いポンプを駆動させることによってリザーバのブレーキ液をブレーキ回路に還流させる所謂バキューム式の制動装置が記載されている。また、特許文献2に記載の制動装置は、ポンプの作動音を低減させるべく、走行路面の摩擦係数が小さければポンプの駆動量が小さくなるように制御させ、また、実際の制御量が制御目標値に近接するほどにポンプの駆動量が小さくなるように制御させるよう構成されている。
【0003】
【特許文献1】特開2005−59626号公報
【特許文献2】特開2000−203401号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来のバキューム式の制動装置においては、ポンプを駆動(つまり、モータを電動機として作動)させた場合、そのポンプの加圧量(モータのデューティ出力)が大きくなるにつれてマスタシリンダ圧が増圧されていくので、その加圧量(デューティ出力)が大きいほどブレーキペダルが運転者側に押し戻されてしまう可能性が高くなる。また、そのモータを発電機として駆動させた場合には、ポンプがリザーバタンクやマスタシリンダからブレーキ液を引き出すので、モータのデューティ出力が大きくなるにつれてマスタシリンダ圧が減圧されていき、そのデューティ出力が大きいほどブレーキペダルがマスタシリンダ側に引き込まれてしまう可能性が高くなる。これが為、この制動装置は、ポンプ(モータ)の駆動に伴って運転者にブレーキペダルを介して違和感を覚えさせてしまう虞がある。従って、この種の制動装置においては、可能な限りポンプ、言うなればモータを駆動させない又は駆動量を低く抑えるようにしたい。
【0005】
一方、運転者のブレーキペダルへのペダル踏力、つまり運転者による要求制動力が大きいときには、ポンプによりブレーキ液を加圧して制動力を増加させなければ要求制動力を車輪に働かせることができない可能性がある。これが為、そのときにはポンプ(モータ)を駆動させる必要があるのだが、ここでは、そのペダル踏力が大きくなるにつれてマスタシリンダ圧が高くなり、そのマスタシリンダ圧がポンプから吐出されたブレーキ液の流動方向とは逆方向に働くので、ポンプの吐出性能を悪化させていってしまう。つまり、そのマスタシリンダ圧はブレーキ液をポンプの吐出口側に向けて押し戻す方向に働くので、そのポンプは、ペダル踏力が大きくなるほどに所期の吐出圧よりも低く(吐出量よりも少なく)しかブレーキ液を吐出できない可能性がある。従って、この制動装置は、ペダル踏力が大きくなるにつれて要求制動力よりも小さな制動力しか車輪に作用させることができない可能性が高くなる。
【0006】
そこで、本発明は、かかる従来例の有する不都合を改善し、良好なブレーキペダルの操作感を確保しつつ運転者のペダル踏力の大きさに応じた適切な制動性能を確保することが可能な車輌の制動装置を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する為、請求項1記載の発明では、運転者のブレーキペダルの操作に伴い発生した作動流体の圧力を要求制動力に従って調圧し、この調圧後の作動流体の圧力に応じた第1制動力を車輪に作用させる第1制動力発生手段と、その第1制動力が要求制動力に対して不足するときに、その不足分に応じた加圧量で作動流体を加圧して当該加圧量に相当する第2制動力を車輪に作用させる第2制動力発生手段と、を備えた車輌の制動装置において、要求制動力に対して第1制動力が不足する場合、運転者によるブレーキペダルへのペダル踏力が大きいほど第2制動力発生手段の加圧量を増大させる制動制御手段を設けている。
【0008】
また、上記目的を達成する為、請求項2記載の発明では、運転者のブレーキペダルの操作に伴いマスタシリンダを介して発生した作動流体の圧力を要求制動力に従い調圧し、この調圧後の作動流体の圧力を各車輪のホイールシリンダに伝達して当該各車輪に第1制動力を作用させる作動流体調圧部、及びこの作動流体調圧部とマスタシリンダとの間に配設し、通電量に応じて弁開度を制御することでマスタシリンダから排出された作動流体の流量を調節して当該作動流体を作動流体調圧部に送出するマスタカット弁を有する第1制動力発生手段と、マスタカット弁と作動流体調圧部との間に吐出側が接続され、第1制動力発生手段で調圧された作動流体の圧力に対して電動機を駆動源にして更に加圧を行う加圧手段を有し、第1制動力が前記要求制動力に対して不足するときにその不足分に相当する第2制動力を加圧手段の作動に伴う加圧量によって車輪に作用させる第2制動力発生手段と、を備えた車輌の制動装置において、運転者によるブレーキペダルへのペダル踏力が大きいほど加圧手段の作動に伴う加圧量を増大させる制動制御手段を設けている。
【0009】
これら請求項1又は2に記載の車輌の制動装置は、第1制動力だけで要求制動力を満足させることができるならば、その第1制動力のみを発生させて車輪に要求制動力を働かせる。一方、第1制動力だけで要求制動力を満足させることができないならば、この制動装置は、第2制動力発生手段によって第2制動力も発生させ、これにより不足分を補って車輪に要求制動力を働かせる。その際、ペダル踏力の増大化に伴って高くなったマスタシリンダ圧が第2制動力発生手段の加圧方向とは反対方向に働き、第2制動力で不足分を補えなくなる程度にまで第2制動力発生手段の加圧性能を低下させるが、この制動装置は、ペダル踏力が大きいほど第2制動力発生手段の加圧量を増大させて第2制動力の増加を図り、その増加させた第2制動力で不足分を適切に補って車輪に要求制動力を働かせる。また、第2制動力発生手段の加圧によってマスタシリンダ圧が変化すると、ブレーキペダルの運転者側への押し戻しやマスタシリンダ側への引き込みが発生してしまう可能性があるが、この制動装置は、ペダル踏力が小さいときに第2制動力発生手段の加圧量を小さくしているので、そのときの押し戻しや引き込みを抑えることができる。
【0010】
ここで、請求項3記載の発明に示す如く、第2制動力発生手段は、請求項1記載の車輌の制動装置において、作動流体を加圧させる加圧手段と、この加圧手段を作動させる電動機と、を備え、制動制御手段は、第2制動力発生手段の加圧量を増大させる際にペダル踏力が大きいほど電動機のデューティ出力を大きくするよう構成する。
【0011】
また、請求項4記載の発明に示す如く、ペダル踏力は、ペダル踏力検出センサの検出値とブレーキペダルの踏み込み量に応じた推定値とマスタシリンダ圧に応じた推定値の内の少なくとも1つを利用して求めるように構成すればよい。
【0012】
また、請求項5記載の発明に示す如く、制動制御手段は、作動流体の温度が低いほど加圧手段の作動に伴う加圧量を増大させるよう構成すればよい。
【0013】
また、請求項6記載の発明に示す如く、制動制御手段は、作動流体が所定温度よりも低い低温状態のときに制動要求され、その際の要求制動力に対して第1制動力が不足する場合、その不足分が低温状態よりも高温の常温状態のときと同じでも、その常温状態のときと比べて第2制動力発生手段の加圧量を増大させるよう構成している。
【0014】
この請求項6記載の車輌の制動装置は、作動流体の温度が低いと第2制動力発生手段の加圧性能が低下して第2制動力で不足分を補えなくなるので、常温状態のときよりも加圧量を増大させて第2制動力の増加を図り、その増加させた第2制動力で不足分を適切に補って車輪に要求制動力を働かせる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る車輌の制動装置は、ペダル踏力の大きさに拘わらず車輪に対して要求制動力を働かせることができる。そして、この制動装置は、ペダル踏力が小さいほどに第2制動力発生手段の加圧量を小さくしているので、そのときの押し戻しや引き込みを抑えてブレーキペダルの操作感を良好にすることができる。つまり、この制動装置によれば、良好なブレーキペダルの操作感を確保しつつ運転者のペダル踏力の大きさに応じた適切な制動力を車輌に働かせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明に係る車輌の制動装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。尚、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0017】
本発明に係る車輌の制動装置についての実施例1を図1から図3に基づいて説明する。
【0018】
最初に、本実施例1の制動装置の構成について図1に基づき説明する。
【0019】
本実施例1の制動装置は、車輪10FL,10FR,10RL,10RRに対して摩擦等で機械的な制動力を発生させる機械制動力発生手段と、その制動動作についての制御を行う制動制御手段(以下、「ブレーキECU」という。)1と、を備えている。そのブレーキECU1は、図示しないCPU(中央演算処理装置),所定の制動制御プログラム等を予め記憶しているROM(Read Only Memory),そのCPUの演算結果を一時記憶するRAM(Random Access Memory),予め用意された情報等を記憶するバックアップRAM等で構成されている。
【0020】
例えば、本実施例1の機械制動力発生手段としては、油圧(ブレーキ液の液圧)の力により夫々の車輪10FL,10FR,10RL,10RRに機械的な制動トルクを付与して機械制動力を発生させる一般的に知られた所謂油圧ブレーキを例示する。これが為、以下においては、この機械制動力発生手段を「油圧制動力発生手段」といい、この油圧制動力発生手段によって発生させられた機械制動力を「油圧制動力」という。
【0021】
具体的に、ここで例示する油圧制動力発生手段は、夫々の車輪10FL,10FR,10RL,10RRに配設したキャリパーやブレーキパッド、ディスクロータ等からなる油圧制動手段21FL,21FR,21RL,21RRと、これら各油圧制動手段21FL,21FR,21RL,21RRのキャリパーに対して各々に油圧(即ち、作動流体としてのブレーキ液)を供給する油圧配管22FL,22FR,22RL,22RRと、を備えている。つまり、この油圧制動力発生手段は、油圧の力でブレーキパッドをディスクロータに押し付け、その間に発生した摩擦によって制動力を働かせるものである。
【0022】
更に、この油圧制動力発生手段には、運転者により操作されるブレーキペダル23と、このブレーキペダル23に入力された運転者のブレーキ操作に伴う操作圧力(ペダル踏力)を所定の倍力比で倍化させる制動倍力手段(ブレーキブースタ)24と、この制動倍力手段24により倍化されたペダル踏力をブレーキ液の液圧(以下、「マスタシリンダ圧」という。)へと変換するマスタシリンダ25と、ブレーキ液を貯留するリザーバタンク26と、が備えられている。
【0023】
ここでは、運転者によるブレーキペダル23の操作量の検出を行い、その検出信号をブレーキECU1に送信するブレーキペダル操作量検出手段が例えばブレーキペダル23に設けられている。例えば、その操作量にはブレーキペダル23の踏み込み量やペダル踏力があり、これが為、ブレーキペダル操作量検出手段としては、ペダルストロークセンサやペダル踏力センサがある。ここでは、図1に示す如く、そのペダルストロークセンサ27Aとペダル踏力センサ27Bの双方が用意されている。尚、ブレーキペダル操作量検出手段としては、ペダルストロークセンサ27Aとペダル踏力センサ27Bの内の少なくとも一方が用意されていればよい。また、マスタシリンダ25とリザーバタンク26の間は、ブレーキペダル23の踏み込みが解除されたときに連通状態となるよう構成されている。
【0024】
ここで、そのマスタシリンダ25の内部には図示しない2つの油圧室が設けられており、その夫々の油圧室に上記のマスタシリンダ圧が発生している。そして、本実施例1の油圧制動力発生手段には、その夫々の油圧室に各々接続させた第1及び第2の油圧配管28,29が設けられている。
【0025】
また、この油圧制動力発生手段には、ブレーキECU1の制御指令に従って、その第1及び第2の油圧配管28,29内の油圧(マスタシリンダ圧)をそのまま又は調圧して上述した油圧配管22FL,22FR,22RL,22RRに伝える作動流体圧力調節部(以下、「ブレーキアクチュエータ」という。)30が備えられている。以下、このブレーキアクチュエータ30について詳述する。
【0026】
例えば、本実施例1のブレーキアクチュエータ30は、右前輪10FR及び左後輪10RL用の第1油圧制御回路と、右後輪10RR及び左前輪10FL用の第2油圧制御回路と、を備えたものとして例示する。ここでは、その第1油圧制御回路を第1油圧配管28に接続させる一方、第2油圧制御回路を第2油圧配管29に接続させる。
【0027】
また、このブレーキアクチュエータ30には、自身への供給油圧(つまり、マスタシリンダ圧)の検出を行うマスタシリンダ圧センサ31と、第1及び第2の油圧制御回路の夫々のブレーキ液の流量調節手段としてのマスタカット弁32,33と、を設けている。
【0028】
そのマスタシリンダ圧センサ31は、第1又は第2の油圧配管28,29の内の何れか一方に配備され、その検出信号をブレーキECU1へと送信する。一方、その各マスタカット弁32,33は、通常は開弁状態にある所謂ノーマルオープン式の流量調整用電磁弁であって、ブレーキECU1による通電に伴って弁開度の制御が実行されるものである。つまり、これらマスタカット弁32,33は、通電量に応じて弁開度を制御することでマスタシリンダ25から排出されたブレーキ液の流量を調節して当該ブレーキ液を後述する作動流体調圧部に送出する。ここでは、そのマスタシリンダ圧センサ31を第1油圧配管28に配設するものとして例示し、これが為、その第1油圧配管28におけるマスタシリンダ圧センサ31の下流にマスタカット弁32を配設する。尚、この実施例1にて示す下流とは、ペダル操作時のブレーキ液の流動方向(つまり、油圧制動手段21FL,21FR,21RL,21RRへと向かう方向)における下流側のことを表すものとする。
【0029】
ここで、このブレーキアクチュエータ30においては、第1油圧配管28がマスタカット弁32を介して連結通路34に接続される一方、第2油圧配管29がマスタカット弁33を介して連結通路35に接続される。そして、第1油圧制御回路の連結通路34には、そこから分岐させるが如く2本の分岐通路36,37を接続し、第2油圧制御回路の連結通路35には、そこから分岐させるが如く2本の分岐通路38,39を接続する。第1油圧制御回路においては、その各々の分岐通路36,37を夫々に右前輪10FRの油圧配管22FRと左後輪10RLの油圧配管22RLに接続する。一方、第2油圧制御回路においては、その各々の分岐通路38,39を夫々に右後輪10RRの油圧配管22RRと左前輪10FLの油圧配管22FLに接続する。
【0030】
また、その各分岐通路36,37,38,39には、夫々に保持弁40,41,42,43が配備されており、更に、これら各保持弁40,41,42,43よりも下流側に油圧排出通路44,45,46,47が夫々に分岐通路36,37,38,39から分岐させるが如く接続されている。そして、その各油圧排出通路44,45,46,47には、夫々に減圧弁48,49,50,51が配備されている。
【0031】
その夫々の保持弁40,41,42,43は、通常は開弁状態にある所謂ノーマルオープン式の流量調整用電磁弁であって、ブレーキECU1による通電に伴って弁開度の制御が実行されるものである。一方、各減圧弁48,49,50,51は、通常は閉弁状態にある所謂ノーマルクローズ式の流量調整用電磁弁であって、ブレーキECU1による通電に伴って弁開度の制御が実行されるものである。
【0032】
また、ここでは、第1油圧制御回路の夫々の油圧排出通路44,45を一纏めにする油圧排出集合通路52と、第2油圧制御回路の夫々の油圧排出通路46,47を一纏めにする油圧排出集合通路53と、が用意されており、その夫々の油圧排出集合通路52,53が補助リザーバ54,55に接続されている。
【0033】
更に、第1油圧制御回路においては、連結通路34と各分岐通路36,37との分岐点から分岐して油圧排出集合通路52に接続されるポンプ通路56を配設する。これと同様に、第2油圧制御回路においては、連結通路35と各分岐通路38,39との分岐点から分岐して油圧排出集合通路53に接続されるポンプ通路57を配設する。
【0034】
その夫々のポンプ通路56,57には、電動機58によって駆動される油圧ポンプ(加圧手段)59,60を各々配備している。これら各油圧ポンプ59,60は、夫々にマスタカット弁32,33側の分岐点に向けてブレーキ液を吐出させるものであり、夫々に分岐通路36,37と分岐通路38,39にブレーキ液を供給する。つまり、第1油圧制御回路の油圧ポンプ59は、右前輪10FRの油圧制動手段21FRと左後輪10RLの油圧制動手段21RLの夫々のキャリパーへの油圧を増加させ、これらが発生させる制動力を増加させる。一方、第2油圧制御回路の油圧ポンプ60は、右後輪10RRの油圧制動手段21RRと左前輪10FLの油圧制動手段21FLの夫々のキャリパーへの油圧を増加させ、これらが発生させる制動力を増加させる。尚、その電動機58は、図示しないバッテリからの電力供給により駆動する。
【0035】
また、その各ポンプ通路56,57には、油圧ポンプ59,60によるブレーキ液の夫々の吐出方向の順番で、逆止弁61,62とブレーキ液中の塵埃等を取り除くフィルタ63,64とオリフィス65,66が各々配設されている。これら逆止弁61,62は、夫々に油圧ポンプ59,60から吐出されたブレーキ液を逆流させない為のものである。
【0036】
また、このブレーキアクチュエータ30には、第1及び第2の油圧配管28,29から各々分岐して補助リザーバ54,55に夫々接続される吸入通路67,68が配設されており、更に、その夫々の吸入通路67,68の補助リザーバ54,55側にリザーバカット逆止弁69,70が配設されている。
【0037】
尚、ここで例示したブレーキアクチュエータ30は油圧制御回路を右前輪10FR及び左後輪10RL用と右後輪10RR及び左前輪10FL用とで分けた所謂クロス配管としたが、その油圧制御回路については、前輪10FL,10FRと後輪10RL,10RRとで分けた所謂前後配管にしてもよい。
【0038】
このように構成した本実施例1の油圧制動力発生手段は、その動作について上述したが如くブレーキECU1によって制御される。
【0039】
具体的に、そのブレーキECU1には、ペダルストロークセンサ27A及びペダル踏力センサ27Bにより夫々検出されたブレーキペダル23の踏み込み量及びペダル踏力と、マスタシリンダ圧センサ31により検出されたマスタシリンダ圧と、が入力される。つまり、ブレーキECU1には、運転者がブレーキペダル23の操作によって制動要求を行ったときに検出されたブレーキペダル操作量としてのブレーキペダル23の踏み込み量及びペダル踏力と、その操作に伴い発生したマスタシリンダ圧と、が入力される。
【0040】
このブレーキECU1においては、そのブレーキペダル23の踏み込み量やペダル踏力に基づいて運転者の要求制動力Fdriverが演算される。例えば、その要求制動力Fdriverについては、この技術分野において周知の演算手法によって求める。そして、このブレーキECU1は、その要求制動力Fdriverが車輪10FL,10FR,10RL,10RRに働くように油圧制動力発生手段を制御する。
【0041】
ここで、油圧ポンプ59,60を駆動させずとも要求制動力Fdriverを発生させることができるのであれば、ブレーキECU1は、ブレーキペダル操作量(ブレーキペダル23の踏み込み量やペダル踏力)とマスタシリンダ圧に基づいて、マスタカット弁32,33と保持弁40,41,42,43と減圧弁48,49,50,51を各車輪10FL,10FR,10RL,10RRで要求制動力Fdriverが働くように制御する。その際、ブレーキECU1は、電動機58を停止させ、油圧ポンプ59,60が駆動しないようにする。例えば、油圧を増圧させる増圧モードの場合には、マスタカット弁32,33と保持弁40,41,42,43を開弁させる一方、減圧弁48,49,50,51を閉弁させる。また、油圧を保持させる保持モードの場合には、マスタカット弁32,33と保持弁40,41,42,43と減圧弁48,49,50,51を閉弁させる。また、油圧を減圧させる減圧モードの場合には、マスタカット弁32,33と保持弁40,41,42,43を閉弁させる一方、減圧弁48,49,50,51を開弁させる。つまり、ここでは、そのマスタカット弁32,33、保持弁40,41,42,43、減圧弁48,49,50,51、及びこれらを繋ぐ分岐通路36,37等の通路が、運転者のブレーキペダル23の操作に伴い発生したブレーキ液の液圧(マスタシリンダ圧)を要求制動力Fdriverに従って調圧する作動流体調圧部として機能する。
【0042】
本実施例1においては、そのようにして油圧ポンプ59,60を駆動させずに発生させた油圧制動力について「基準制動力(第1制動力)Fbase」という。そして、ここでは、油圧制動力発生手段の中でもその基準制動力Fbaseを発生させる為の構成を「基準制動力発生手段(第1制動力発生手段)」という。具体的に、その基準制動力発生手段とは、上述した油圧制動力発生手段の構成から油圧ポンプ59,60に係る構成を除いたものを指す。つまり、この基準制動力発生手段は、油圧制動力発生手段の構成から電動機58やポンプ通路56,57上の油圧ポンプ59,60等の部品を除いたものである。
【0043】
一方、この油圧制動力発生手段においては、基準制動力Fbaseを最大限の大きさで発生させたとしても、その基準制動力Fbaseが要求制動力Fdriverに満たない場合がある。即ち、基準制動力Fbaseのみでは要求制動力Fdriverを発生させることができない場合がある。これが為、この場合のブレーキECU1は、ブレーキペダル操作量(ブレーキペダル23の踏み込み量やペダル踏力)とマスタシリンダ圧に基づいて、マスタカット弁32,33と保持弁40,41,42,43と減圧弁48,49,50,51のみならず電動機58も駆動制御し、各車輪10FL,10FR,10RL,10RRで要求制動力Fdriverが働くようにする。具体的に、ブレーキECU1は、マスタカット弁32,33と保持弁40,41,42,43を開弁させる一方、減圧弁48,49,50,51を閉弁させ、その不足分に相当する油圧制動力(以下、「差圧制動力(第2制動力)Fpump」という。)が発生するように電動機58を駆動させる。つまり、ここでは、その不足分に応じた油圧ポンプ59,60の加圧量(即ち、吐出量や吐出圧)でブレーキ液が加圧されるように電動機58を駆動させ、その加圧量に相当する差圧制動力Fpumpを夫々の車輪10FL,10FR,10RL,10RRに働かせる。これにより、ここでは、基準制動力発生手段だけで制動力を発生させるときよりも油圧が増圧するので、夫々の車輪10FL,10FR,10RL,10RRに要求制動力Fdriverを作用させることができる。
【0044】
ここで、その差圧制動力Fpumpについては、下記の式1に基づき求めることができる。その式1の「Fbase-max」は、基準制動力の最大値であり、本ブレーキシステム固有の値として予め明らかにしておくことが可能である。
【0045】
pump=Fdriver−Fbase-max … (1)
【0046】
また、ここでは、その差圧制動力Fpumpと基準となる電動機58のデューティ出力(以下、「電動機基準出力」という。)D0との対応関係が図示しないマップデータとして予め用意されている。従って、ブレーキECU1は、差圧制動力Fpumpが判明した際にこれに対応する電動機基準出力D0をそのマップデータから読み込み、その電動機基準出力D0を駆動指令値として電動機58に送る。
【0047】
本実施例1においては、油圧制動力発生手段の中でもその差圧制動力Fpumpを発生させる為の構成を「差圧制動力発生手段(第2制動力発生手段)」という。この差圧制動力発生手段は、上述した基準制動力発生手段とは逆で、油圧制動力発生手段の構成の内の油圧ポンプ59,60に係る構成を指す。
【0048】
ところで、ここで例示している油圧制動力発生手段においては、油圧ポンプ59,60(電動機58)を駆動させた際にマスタシリンダ圧が変化して、ブレーキペダル23が運転者側に押し戻されてしまう又はマスタシリンダ25側に引き込まれてしまう可能性がある。そのブレーキペダル23の押し戻し又は引き込み現象については、油圧ポンプ59,60の加圧量(電動機58のデューティ出力)が大きくなるにつれてマスタシリンダ圧の変化量が大きくなるので発生し易くなる。そして、かかる現象が発生した場合には、運転者がブレーキペダル23の操作に違和感を覚えてしまう。つまり、この場合には、ブレーキペダル23の操作感が悪化してしまう。従って、そのような不都合を解消する為には、可能な限り油圧ポンプ59,60(電動機58)を駆動させない又は駆動量を低く抑えるようにすることが望ましい。
【0049】
その反面、運転者のブレーキペダル23へのペダル踏力Fbが大きいときには、運転者による要求制動力Fdriverが大きくなるので、第1制動力発生手段の基準制動力Fbaseのみでは要求制動力Fdriverを発生させることができず、第2制動力発生手段の差圧制動力Fpumpも発生させなければならないことがある。つまり、本実施例1の油圧制動力発生手段は、ペダル踏力Fbが大きくなるにつれて、油圧ポンプ59,60(電動機58)の駆動が要求制動力Fdriverを車輪10FL,10FR,10RL,10RRに働かせる上で必ず必要になってくる。
【0050】
しかしながら、この油圧制動力発生手段においては、ペダル踏力Fbが大きくなるにつれてマスタシリンダ圧が高くなっていくので、油圧ポンプ59,60の吐出性能を悪化させてしまう可能性が高くなる。つまり、マスタシリンダ圧は、ペダル踏力Fbが大きくなるにつれて高くなり、ポンプ通路56,57において夫々の油圧ポンプ59,60から吐出されたブレーキ液の流動方向とは逆方向に働くので、油圧ポンプ59,60からのブレーキ液の吐出をペダル踏力Fbが大きくなるほど邪魔するようになる。従って、この油圧制動力発生手段においては、ペダル踏力Fbが大きくなるにつれて第2制動力発生手段からの差圧制動力Fpumpの発生が難しくなり、要求制動力Fdriverよりも小さな制動力しか車輪10FL,10FR,10RL,10RRに働かせることができなくなる。
【0051】
そこで、本実施例1においては、ペダル踏力Fbの大きさに拘わらず上記の要求された差圧制動力Fpumpを発生させることができるように構成する。具体的に、ここでは、ペダル踏力Fbの大きさに応じて油圧ポンプ59,60の加圧量を調節、即ちペダル踏力Fbが大きいほどその加圧量を増大させるようにブレーキECU1を構成しておく。
【0052】
ここで、本実施例1の制動装置においては、そのようなペダル踏力Fbの大きさに応じた油圧ポンプ59,60の加圧量の増大制御を行う為にペダル踏力Fbの観察が必要になる。例えば、そのペダル踏力Fbについては、上述したペダル踏力センサ27Bから検出することができる。従って、この場合には、そのペダル踏力センサ27BとブレーキECU1とで構成されたペダル踏力検出手段を設ける。
【0053】
また、ペダル踏力Fbとブレーキペダル23の踏み込み量は略比例関係にあると考えられるので、そのペダル踏力Fbは、上述したペダルストロークセンサ27Aの検出値(つまり、ブレーキペダル23の踏み込み量)に基づきブレーキECU1で推定させてもよい。そして、この場合には、そのペダルストロークセンサ27AとブレーキECU1とで構成されたペダル踏力推定手段を設けておけばよい。ここでは、ブレーキペダル23の踏み込み量とペダル踏力Fbとの対応関係を予め実験やシミュレーションで求め、この対応関係を表したマップデータ(図示略)として用意しておく。これが為、ブレーキECU1は、ブレーキペダル23の踏み込み量に応じたペダル踏力Fbの情報をそのマップデータから読み取り、これに基づいて現時点におけるペダル踏力Fbを推定する。そのマップデータにおいては、ブレーキペダル23の踏み込み量が多いほどペダル踏力Fbが大きくなっている。
【0054】
更にまた、ペダル踏力Fbとマスタシリンダ圧についても略比例関係にあると考えられるので、ペダル踏力Fbは、マスタシリンダ圧センサ31の検出値(つまり、マスタシリンダ圧)に基づきブレーキECU1で推定させてもよい。この場合には、そのマスタシリンダ圧センサ31とブレーキECU1とで構成されたペダル踏力推定手段を設ける。ここでは、マスタシリンダ圧とペダル踏力Fbとの対応関係を予め実験やシミュレーションで求め、この対応関係を表したマップデータ(図示略)として用意しておく。これが為、ブレーキECU1は、マスタシリンダ圧に応じたペダル踏力Fbの情報をそのマップデータから読み取り、これに基づいて現時点におけるペダル踏力Fbを推定する。そのマップデータにおいては、マスタシリンダ圧が高いほどペダル踏力Fbが大きくなっている。
【0055】
本実施例1においては、ペダル踏力検出手段や各ペダル踏力推定手段の内の少なくとも1つを利用してペダル踏力Fbの検出又は推定を実行する。つまり、本実施例1の制動装置においては、ペダル踏力センサ27Bの検出値とブレーキペダル23の踏み込み量に応じた推定値とマスタシリンダ圧に応じた推定値の内の少なくとも1つを利用し、その検出値や推定値に基づいて運転者のペダル踏力Fbを求める。例えば、その検出値と推定値を共に利用してペダル踏力Fbを求めるとした場合には、仮に経時劣化等でペダル踏力センサ27Bの検出値にズレが生じたとしても、推定値でそのズレを補正又は補完することができる。
【0056】
以下に、本実施例1の制動装置の制御動作の一例について図2のフローチャートに基づき説明する。
【0057】
先ず、本実施例1のブレーキECU1は、運転者からの制動要求があったか否かについて判定する(ステップST5)。例えば、その制動要求の有無の判断は、ブレーキペダル23の動きに連動して作動する図示しないストップランプスイッチのスイッチオン信号、ペダルストロークセンサ27Aやペダル踏力センサ27Bの検出信号の入力有無に基づいて行う。つまり、ブレーキECU1は、そのスイッチオン信号や検出信号の内の少なくとも1つが入力されたときに運転者からの制動要求ありと判定する。
【0058】
このブレーキECU1は、制動要求なしと判定した場合、本処理を一旦終えてステップST5に戻る。一方、制動要求ありと判定された場合、ブレーキECU1は、上述したペダル踏力検出手段やペダル踏力推定手段を利用してペダル踏力Fbの検出又は推定を行い(ステップST10)、そのペダル踏力Fbに応じた補正係数αを求める(ステップST15)。
【0059】
その補正係数αとは、油圧ポンプ59,60の駆動によって差圧制動力Fpumpを発生させる為の電動機基準出力D0に対する補正係数であって、マスタシリンダ圧による油圧ポンプ59,60の加圧量(吐出量や吐出圧)の低下分を補う為の補正係数である。つまり、この補正係数αは、ペダル踏力Fbが大きくなるにつれて電動機58のデューティ出力を増大させ、これにより油圧ポンプ59,60の加圧量を増大させる補正値である。例えば、この補正係数αは、ペダル踏力Fbをパラメータとした図3に示すマップデータから求める。このマップデータにおいては、ペダル踏力Fbが大きくなるほどに補正係数αが「1」よりも大きくなっていく。つまり、ペダル踏力Fbが大きければ大きいほどに大きな値の補正係数αが設定される。尚、そのマップデータは、一例であり、必ずしもペダル踏力Fbと補正係数αが比例関係にあるとは限らない。
【0060】
本実施例1のブレーキECU1は、補正係数αの演算処理を終えた後、運転者による要求制動力Fdriverをペダルストロークセンサ27Aやペダル踏力センサ27Bから検出したブレーキペダル23の踏み込み量やペダル踏力に基づいて求める(ステップST20)。尚、この要求制動力Fdriverの演算処理は、上記ステップST5の後に又は上記ステップST10やステップST15と同時に実行してもよい。
【0061】
続いて、このブレーキECU1は、その要求制動力Fdriverと基準制動力の最大値Fbase-maxを上記式1に代入して差圧制動力Fpumpを求め(ステップST25)、この差圧制動力Fpumpが「0」以下か否かの判定を行う(ステップST30)。つまり、このステップST30では、基準制動力Fbaseだけで要求制動力Fdriverを発生させることができるのか、それとも油圧ポンプ59,60を駆動して差圧制動力Fpumpも加えなければ要求制動力Fdriverを発生させることができないのかについての判定を行っている。
【0062】
ブレーキECU1は、そのステップST30で差圧制動力Fpumpが「0」よりも大きいと判定し、油圧ポンプ59,60を駆動させる必要があると判断した場合、その差圧制動力Fpumpに対応する電動機基準出力D0を上述したマップデータから導き出す(ステップST35)。
【0063】
そして、ブレーキECU1は、その電動機基準出力D0と上記ステップST15の補正係数αとに基づいて電動機58のデューティ出力の補正値(以下、「電動機補正出力」という。)D1を求める(ステップST40)。この電動機補正出力D1については、下記の式2から導き出す。従って、ここでは、「D1>D0」となる。
【0064】
D1=D0×α … (2)
【0065】
しかる後、このブレーキECU1は、夫々の車輪10FL,10FR,10RL,10RRに要求制動力Fdriverが働くようにブレーキアクチュエータ30の駆動制御を実行する(ステップST45)。
【0066】
このステップST45においては、マスタカット弁32,33と保持弁40,41,42,43を開弁させると共に減圧弁48,49,50,51を閉弁させ、更に電動機58を電動機補正出力D1で駆動させる。これにより、上述した第1制動力発生手段からはマスタシリンダ圧に応じた基準制動力の最大値Fbase-maxが発生させられると共に、第2制動力発生手段からは上記ステップST25で求めた油圧ポンプ59,60による差圧制動力Fpumpが発生させられ、夫々の車輪10FL,10FR,10RL,10RRには、ペダル踏力Fbの大きさに拘わらず、上記ステップST20で設定した要求制動力Fdriverが働くようになる。尚、その要求制動力Fdriverで保持する場合には、マスタカット弁32,33と保持弁40,41,42,43と減圧弁48,49,50,51を閉弁させると共に、電動機58を停止させればよい。
【0067】
一方、上記ステップST30で差圧制動力Fpumpが「0」以下と判定し、基準制動力Fbaseだけで要求制動力Fdriverを発生させることができると判断した場合、ブレーキECU1は、夫々の車輪10FL,10FR,10RL,10RRに要求制動力Fdriverが働くようブレーキアクチュエータ30の駆動制御を実行する(ステップST50)。この場合、ブレーキECU1は、その要求制動力Fdriverに応じて上述した増圧モード、保持モード又は減圧モードの内の何れのモードなのかについて判断し、そのモードに適したマスタカット弁32,33と保持弁40,41,42,43と減圧弁48,49,50,51の制御を行う。尚、その際には、電動機58を駆動させない。
【0068】
以上示した如く、本実施例1の車輌の制動装置は、油圧ポンプ59,60によるブレーキ液の加圧が必要無ければ第1制動力発生手段によって要求制動力Fdriverを夫々の車輪10FL,10FR,10RL,10RRに働かせることができる。
【0069】
一方、油圧ポンプ59,60によるブレーキ液の加圧が必要なときには、この制動装置は、運転者のペダル踏力Fbが大きくなるほど油圧ポンプ59,60の加圧量(吐出量や吐出圧)を増加して、必要とされる差圧制動力Fpumpを発生させることができる。つまり、ペダル踏力Fbの増大によりマスタシリンダ圧が高くなり、そのマスタシリンダ圧が抗力となって油圧ポンプ59,60のブレーキ液への加圧量を低下させていってしまうが、ここでは、電動機58を上述した電動機補正出力D1で駆動させることによってその低下分を補った所期の加圧量でブレーキ液を加圧するので、ペダル踏力Fbの大きさに拘わらず、必要とされる差圧制動力Fpumpを発生させ、要求制動力Fdriverを夫々の車輪10FL,10FR,10RL,10RRに働かせることができるようになる。
【0070】
このように、本実施例1の制動装置は、ペダル踏力Fbを大きくしても油圧ポンプ59,60の吐出性能が損なわれないので、運転者がブレーキペダル23を強い力で踏み込んで、そして、これに伴い油圧ポンプ59,60によるブレーキ液の加圧が必要とされたならば、ペダル踏力Fbに応じた所望の加圧量でブレーキ液を加圧して適切な制動性能を発揮することができる。
【0071】
更に、この制動装置は、ペダル踏力Fbの大きさに拘わらず、制動要求が行われていないとき及び制動要求が行われていても油圧ポンプ59,60によるブレーキ液の加圧が必要とされないときに電動機58を駆動させなくともよい。また、油圧ポンプ59,60によるブレーキ液の加圧が必要とされているときには、ペダル踏力Fbの大きさに応じて電動機58の駆動量(つまり、デューティ出力)を増減、つまりペダル踏力Fbが小さくなるにつれて電動機58の駆動量を小さくしている。これが為、この制動装置は、その電動機58の駆動に要する消費電力を必要最小限に抑えることができ、また、電動機58及び油圧ポンプ59,60の駆動に伴う車輌の騒音や振動を低減することができる。即ち、この制動装置においては、制動要求され且つ油圧ポンプ59,60によるブレーキ液の加圧が必要とされるときにのみ電動機58を駆動させ、更にその中でもペダル踏力Fbが小さくなるほど電動機58の駆動量を小さくしているので、その駆動の為の電力消費量が低く抑えられると共に、車輌の騒音性能や振動性能(つまり、音振性能)を向上させることができる。従って、例えば、かかる車輌が内燃機関等の原動機と電動機を夫々駆動源にする所謂ハイブリッド車輌の場合には、バッテリの残存蓄電量不足に伴う原動機の駆動頻度を少なくすることが可能となり、原動機駆動用の燃料の消費量を減少させることができる。また、車輌が電気自動車の場合には、バッテリの残存蓄電量不足による航続距離の低下を防ぐことができる。
【0072】
また更に、本実施例1の制動装置は、ペダル踏力Fbが小さいときに、電動機58の駆動量を小さくして油圧ポンプ59,60の加圧量を低く抑えることができるので、そのときの油圧ポンプ59,60の駆動に伴うマスタシリンダ圧の変化を抑制することができる。従って、この制動装置は、油圧ポンプ59,60を駆動させたとしても、ペダル踏力Fbが小さければブレーキペダル23の押し戻しや引き込みの発生を回避できるので、ペダル踏力Fbが小さいときのブレーキペダル23の操作感を良好に保つことができる。つまり、この制動装置は、ブレーキペダル23の操作感の悪化を最小限に抑えることができる。
【0073】
ところで、上述した本実施例1においては補正係数αを用いて電動機補正出力D1の演算を行っているが、その電動機補正出力D1は、以下に示すような補正項α1を用いて求めてもよい。つまり、電動機補正出力D1を求める為には、電動機基準出力D0に乗算させる補正係数αを使ってよく、その電動機基準出力D0に加算させる補正項α1を用いてもよい。その補正項α1とは、油圧ポンプ59,60の駆動によって差圧制動力Fpumpを発生させる為の電動機基準出力D0に対する補正項であり、補正係数αと同様に、ペダル踏力Fbが大きくなるにつれて電動機58のデューティ出力を増大させ、これにより油圧ポンプ59,60の加圧量を増大させる補正値である。例えば、この補正項α1についても、補正係数αと同様にペダル踏力Fbをパラメータとした図示しないマップデータから求めればよい。このマップデータにおいては、ペダル踏力Fbが大きくなるほどに補正項α1が「0」よりも大きくなっていく。つまり、ペダル踏力Fbが大きければ大きいほどに大きな値の補正項α1が設定される。
【0074】
そのような補正項α1を用いた場合の制動装置の制御動作については、上述した図2のフローチャートのとき(つまり、補正係数αを用いたとき)と略同じである。つまり、この場合には、その図2のステップST15において補正係数αの替わりに補正項α1を求め、更に、その補正項α1を用いてステップST40で電動機補正出力D1を求める点が相違する。この場合のステップST40においては、下記の式3から電動機補正出力D1を導き出す。
【0075】
D1=D0+α1 … (3)
【0076】
ここでも電動機補正出力D1は「D1>D0」となり、これが為、この制動装置は、その補正項α1を用いたとしても、補正係数αを用いたときと同様の効果を奏することができる。
【実施例2】
【0077】
次に、本発明に係る車輌の制動装置についての実施例2を図4から図8に基づいて説明する。
【0078】
一般に、機関冷間始動時等の状況下においては、油圧制動力発生手段の夫々の油路や油圧室内等に存在しているブレーキ液の温度が低くなっていることがある。そして、ブレーキ液は低温になると粘度が高くなるので、この場合には、電動機58の出力が同じであれば油圧ポンプ59,60の吐出機能を低下させてしまう。これが為、かかる状況下においては、油圧ポンプ59,60を駆動して実施例1の式1の演算式に基づき要求された差圧制動力Fpumpを発生させようとしても、その吐出性能の悪化に伴って差圧制動力Fpumpを発生させることができず、要求制動力Fdriverを夫々の車輪10FL,10FR,10RL,10RRに働かせることができない。特に、かかる事象は、ブレーキ液の温度低下が著しい寒冷地等において顕著に表れる。そして、ブレーキ液が低温のときに運転者が大きなペダル踏力Fbでブレーキ操作した場合には、要求制動力Fdriverに対する実際の制動力のズレが大きくなってしまう可能性がある。
【0079】
そこで、本実施例2においては、前述した実施例1の制動装置において、ブレーキ液温度Tbが所定温度T0より低くても上記の要求された差圧制動力Fpumpを発生させることができるように構成する。その所定温度T0とは、油圧ポンプ59,60の吐出性能を悪化させることのない最低のブレーキ液温度Tbのことであり、ブレーキ液の規格(即ち、DOT規格等)に応じて予め設定しておく。ここでは、ブレーキ液温度Tbがその所定温度T0より低い状態を低温状態といい、その所定温度T0以上になっている状態を常温状態という。
【0080】
具体的に、本実施例2においては、低温状態ならば常温状態のときよりも油圧ポンプ59,60の加圧量を増大させるようにブレーキECU1を構成しておく。つまり、このブレーキECU1には、ブレーキ液温度Tbが所定温度T0よりも低い場合、この場合の油圧ポンプ59,60の加圧量をブレーキ液温度Tbが所定温度T0以上のときに設定される加圧量よりも増大させるよう油圧ポンプ59,60を駆動させる。例えば、ここでは、上記の所定温度T0に対するブレーキ液の温度差に応じて(即ち、ブレーキ液温度Tbがその所定温度T0よりも低くなっていくほどに)加圧量を増大させていく。
【0081】
ここで、本実施例2の制動装置においては、そのような低温状態における油圧ポンプ59,60の加圧量の増大制御を行う為にブレーキ液温度Tbの観察が必要になる。例えば、そのブレーキ液温度Tbについては、マスタシリンダ25やリザーバタンク26、油路等に図示しない温度センサを配備し、これとブレーキECU1とで構成されたブレーキ液温度検出手段(作動流体の温度取得手段)を設けて直接測ってもよい。しかしながら、そのような温度検出手段は部品点数の増加や原価の高騰を招いてしまうので、ここでは、これを使用せずにブレーキ液温度Tbを観察することが望ましい。これが為、本実施例2においては、その作動流体の温度取得手段としてブレーキ液温度Tbの推定を行うブレーキ液温度推定手段(作動流体の温度推定手段)を用意する。
【0082】
例えば、ブレーキ液温度Tbは、車輌の外気温の影響を受ける。つまり、一般には、外気温が高ければブレーキ液温度Tbも高くなっている。従って、そのブレーキ液温度推定手段としては、外気温の検出を行う図4に示す外気温センサ81とその検出信号に基づき演算処理を行うブレーキECU1とで構成することができる。この場合、外気温とブレーキ液温度Tbとの対応関係を予め実験やシミュレーションで求め、この対応関係を表したマップデータ(図示略)として用意しておく。これが為、ブレーキECU1は、外気温に応じたブレーキ液温度Tbの情報をそのマップデータから読み取り、これに基づいて現時点におけるブレーキ液温度Tbを推定する。そのマップデータにおいては、外気温が低いほどブレーキ液温度Tbも低くなっている。
【0083】
また、ブレーキ液温度Tbは、図示しない内燃機関等の原動機を始動させてから時間が経つにつれて又は走行距離が延びるにつれて上昇していく。つまり、原動機が始動してから所定時間経過後又は所定距離走行後には、原動機の発熱量が高くなり、その熱の影響を受けてエンジンコンパートメント内の温度が上昇し、これに伴いブレーキ液温度Tbが上がっていく。従って、ブレーキ液温度推定手段としては、原動機始動後の経過時間を利用したもの、原動機始動後の走行距離を利用したものが考えられる。例えば、このブレーキ液温度推定手段は、原動機が始動してからの経過時間が所定時間を超えるまで又は原動機が始動してからの走行距離が所定距離を超えるまで、ブレーキ液温度Tbが上述した所定温度T0よりも低いと推定する。尚、この場合は、エンジンコンパートメント内に油圧制動力発生手段の主要構成部品(少なくともマスタシリンダ25)が配備されていることを前提とする。
【0084】
先ず、その経過時間を利用したブレーキ液温度推定手段について説明する。このブレーキ液温度推定手段は、原動機の始動を示すイグニッションオン信号82又はスタータ信号83とこれが入力されるブレーキECU1とで構成することができる。かかる構成におけるブレーキECU1には、イグニッションオン信号82又はスタータ信号83が入力された際に時間の計測を始めさせ、その経過時間が所定時間を超えるまでは低温状態と判断させる。この場合、その原動機始動後の経過時間とブレーキ液温度Tbとの対応関係を予め実験やシミュレーションで求め、上述した所定温度T0に達した際の経過時間を上記の所定時間として設定しておく。また、この場合には、その実験やシミュレーションの結果に基づいて、その対応関係を表したマップデータ(図示略)を用意しておく。これが為、この場合のブレーキECU1は、経過時間に応じたブレーキ液温度Tbの情報をそのマップデータから読み取り、これに基づいて現時点におけるブレーキ液温度Tbを推定する。そのマップデータにおいては、経過時間が短いほどブレーキ液温度Tbが低くなっている。
【0085】
次に、走行距離を利用したブレーキ液温度推定手段について説明する。このブレーキ液温度推定手段は、イグニッションオン信号82又はスタータ信号83と、車輪10FL,10FR,10RL,10RRの回転速度(即ち、車輪速度)の検出を行う車輪速センサ84FL,84FR,84RL,84RRと、これらの信号が入力されるブレーキECU1と、で構成することができる。その車輪速度については、各車輪10FL,10FR,10RL,10RRの内の少なくとも1本の情報を用いればよい。かかる構成におけるブレーキECU1には、イグニッションオン信号82又はスタータ信号83が入力された際に車輪速度の情報に基づき走行距離を演算させ始め、その走行距離が所定距離を超えるまでは低温状態と判断させる。この場合、その原動機始動後の走行距離とブレーキ液温度Tbとの対応関係を予め実験やシミュレーションで求め、上述した所定温度T0に達した際の走行距離を上記の所定時間として設定しておく。また、この場合には、その実験やシミュレーションの結果に基づいて、その対応関係を表したマップデータ(図示略)を用意しておく。これが為、この場合のブレーキECU1は、走行距離に応じたブレーキ液温度Tbの情報をそのマップデータから読み取り、これに基づいて現時点におけるブレーキ液温度Tbを推定する。そのマップデータにおいては、走行距離が短いほどブレーキ液温度Tbが低くなっている。
【0086】
更に、ブレーキ液温度Tbは、同じ日時であっても車輌を使用する地域毎に異なり、また、同じ地域であっても大きくは季節毎に異なる。これが為、自車位置や日時が判ればブレーキ液温度Tbの推定が可能になる。従って、この場合のブレーキ液温度推定手段としては、自車位置情報85と日時情報86とこれらの入力されるブレーキECU1とで構成することができる。この場合、自車位置情報85と日時情報86とブレーキ液温度Tbとの対応関係を予め実験やシミュレーションで求め、この対応関係を表したマップデータ(図示略)として用意しておく。これが為、ブレーキECU1は、自車位置情報85と日時情報86に応じたブレーキ液温度Tbの情報をそのマップデータから読み取り、これに基づいて現時点におけるブレーキ液温度Tbを推定する。そのマップデータにおいては、寒冷地であればあるほど、また、外気温の低い時間帯であればあるほど、ブレーキ液温度Tbが低くなっている。
【0087】
ここで、その自車位置情報85としては、例えば所謂カーナビゲーションシステムの情報を利用すればよい。つまり、ここでは、そのカーナビゲーションシステムの地図情報と自車位置検索機能を利用すれば自車位置情報85を知ることができる。また、その日時情報86としては、通常、車輌に搭載されている時計機能を利用すればよい。
【0088】
上記においては様々な形態のブレーキ液温度推定手段について例示したが、本実施例1においては、その夫々のブレーキ液温度推定手段の内の少なくとも1種類を利用する。
【0089】
一方、その中でも外気温を利用したブレーキ液温度推定手段や自車位置情報85と日時情報86を利用したブレーキ液温度推定手段については、その推定演算を行った時点でのブレーキ液温度Tbを観ることはできるが、その後の温度変化を観ることが難しく、低温状態から常温状態への移行を判断し難い。つまり、ブレーキ液温度Tbは、外気温に変化が無くとも、また、外気温の大きく異なる地域や日時へと瞬時に車輌が移ることはあり得ないので、原動機の発する熱の影響を受けて(即ち、エンジンコンパートメント内の温度上昇の影響を受けて)上昇していく。このことから、かかる外気温を利用したブレーキ液温度推定手段や自車位置情報85と日時情報86を利用したブレーキ液温度推定手段を用いる場合には、上述した経過時間又は走行距離を利用したブレーキ液温度推定手段との併用を図ることが望ましい。
【0090】
以下に、本実施例2の制動装置の制御動作の一例について図5のフローチャートに基づき説明する。
【0091】
先ず、本実施例2のブレーキECU1は、上述したブレーキ液温度推定手段を利用してブレーキ液温度Tbの推定を行う(ステップST1)。そして、このブレーキECU1は、運転者からの制動要求があったか否かについて実施例1のときと同様にして判定する(ステップST5)。
【0092】
このブレーキECU1は、制動要求なしと判定した場合、本処理を一旦終えてステップST1に戻る。
【0093】
一方、制動要求ありと判定された場合、ブレーキECU1は、実施例1のときと同様にして、運転者によるペダル踏力Fbの検出又は推定を行い(ステップST10)、且つ、そのペダル踏力Fbに応じた補正係数αを求める(ステップST15)。また、この場合、ブレーキECU1は、上記ステップST1で推定したブレーキ液温度Tbに応じて補正係数βを求める(ステップST17)。更に、この場合、ブレーキECU1は、実施例1のときと同様にして、運転者による要求制動力Fdriverを求め(ステップST20)、その要求制動力Fdriverと基準制動力の最大値Fbase-maxに基づき差圧制動力Fpumpを求める(ステップST25)。
【0094】
ここで、その補正係数βとは、油圧ポンプ59,60の駆動によって差圧制動力Fpumpを発生させる為の電動機基準出力D0に対する補正係数である。つまり、この補正係数βは、低温状態で電動機58のデューティ出力を増大させ、これにより油圧ポンプ59,60の加圧量を増大させる為の補正値である。例えば、この補正係数αは、ブレーキ液温度Tbをパラメータとした図6に示すマップデータから求める。このマップデータにおいては、ブレーキ液温度Tbが所定温度T0より低ければ、その温度差が拡がるほどに補正係数βが「1」よりも大きくなっていく。つまり、ブレーキ液温度Tbが低温であればあるほどに大きな値の補正係数βが設定される。一方、このマップデータにおいては、ブレーキ液温度Tbが所定温度T0以上のときに補正係数βが「1」に設定される。つまり、常温状態のときには、電動機58のデューティ出力を増大させる必要がないので、電動機基準出力D0で電動機58を駆動させるようになっている。尚、そのマップデータは、一例であり、必ずしも低温状態にて比例関係にあるとは限らない。
【0095】
続いて、このブレーキECU1は、その差圧制動力Fpumpが「0」以下か否かの判定を行い(ステップST30)、基準制動力Fbaseだけで要求制動力Fdriverを発生させることができるのか、それとも油圧ポンプ59,60を駆動して差圧制動力Fpumpも加えなければ要求制動力Fdriverを発生させることができないのかについて判断する。
【0096】
ブレーキECU1は、そのステップST30で差圧制動力Fpumpが「0」よりも大きいと判定し、油圧ポンプ59,60を駆動させる必要があると判断した場合、その差圧制動力Fpumpに対応する電動機基準出力D0を実施例1のときと同様にして導き出す(ステップST35)。
【0097】
そして、ブレーキECU1は、その電動機基準出力D0と上記ステップST15の補正係数αと上記ステップST17の補正係数βに基づいて電動機58のデューティ出力の補正値(以下、「電動機補正出力」という。)D1を求める(ステップST41)。この電動機補正出力D1については、下記の式4から導き出す。従って、ここでは、低温状態にあればペダル踏力Fbの大きさに拘わらず「D1>D0」となり、常温状態にあれば「D1=D0×α」となる。
【0098】
D1=D0×α×β … (4)
【0099】
しかる後、このブレーキECU1は、夫々の車輪10FL,10FR,10RL,10RRに要求制動力Fdriverが働くようにブレーキアクチュエータ30の駆動制御を実行する(ステップST45)。
【0100】
このステップST45においては、実施例1のときと同様に、マスタカット弁32,33と保持弁40,41,42,43を開弁させると共に減圧弁48,49,50,51を閉弁させ、更に電動機58を電動機補正出力D1で駆動させる。従って、夫々の車輪10FL,10FR,10RL,10RRには、上記ステップST20で設定した要求制動力Fdriverが働くようになる。
【0101】
一方、上記ステップST30で差圧制動力Fpumpが「0」以下と判定し、基準制動力Fbaseだけで要求制動力Fdriverを発生させることができると判断した場合、ブレーキECU1は、その要求制動力Fdriverに応じて実施例1のときと同様に増圧モード、保持モード又は減圧モードの内の何れのモードなのかについて判断し、そのモードに適したブレーキアクチュエータ30の駆動制御(マスタカット弁32,33と保持弁40,41,42,43と減圧弁48,49,50,51の制御)を実行する(ステップST50)。尚、その際には、電動機58を駆動させない。
【0102】
以上示した如く、本実施例2の車輌の制動装置は、油圧ポンプ59,60によるブレーキ液の加圧が必要無ければ第1制動力発生手段によって要求制動力Fdriverを夫々の車輪10FL,10FR,10RL,10RRに働かせることができる。
【0103】
一方、油圧ポンプ59,60の吐出性能(加圧性能)はブレーキ液温度Tbに影響されるが、本実施例2の車輌の制動装置は、油圧ポンプ59,60によるブレーキ液の加圧が必要であれば、ペダル踏力Fbの大きさのみならずブレーキ液温度Tbの高低にも従って加圧量(吐出量や吐出圧)を調節するので、その際に必要とされる差圧制動力Fpumpを発生させ、要求制動力Fdriverを夫々の車輪10FL,10FR,10RL,10RRに働かせることができる。その際、この制動装置は、ブレーキ液温度Tbが所定温度T0より低く且つ制動要求が行われたときで、更に電動機58によるブレーキ液の加圧が必要とされるときにのみ電動機58のデューティ出力を常温状態のときよりも増大させ、要求制動力Fdriverが満たされるように油圧ポンプ59,60の加圧量(吐出量や吐出圧)を増加させる。つまり、この制動装置は、ブレーキ液が低温で粘度が高く、これにより油圧ポンプ59,60の吐出性能を悪化させてしまう状況下においても、必要とされる要求制動力Fdriverを夫々の車輪10FL,10FR,10RL,10RRに働かせることができる。
【0104】
更に、本実施例2の制動装置は、ペダル踏力Fbの大きさやブレーキ液温度Tbの高低に拘わらず、制動要求が行われていないとき及び制動要求が行われていても油圧ポンプ59,60によるブレーキ液の加圧が必要とされないときに電動機58を駆動させなくともよい。また、油圧ポンプ59,60によるブレーキ液の加圧が必要とされているときには、ペダル踏力Fbの大きさに応じて電動機58の駆動量(つまり、デューティ出力)を増減、つまりペダル踏力Fbが小さくなるにつれて電動機58の駆動量を小さくし、更にそのときに常温状態にあればその駆動量を低温状態のときよりも低く抑えている。これが為、この制動装置は、その電動機58の駆動に要する消費電力を実施例1のときと同様に必要最小限に抑えることができ、また、電動機58及び油圧ポンプ59,60の駆動に伴う車輌の騒音や振動を低減することができる。
【0105】
また更に、本実施例2の制動装置は、ペダル踏力Fbが小さいときに、そして、常温状態にあるときに、電動機58の駆動量を小さくして油圧ポンプ59,60の加圧量を低く抑えることができるので、そのようなときの油圧ポンプ59,60の駆動に伴うマスタシリンダ圧の変化を抑制することができる。従って、この制動装置は、そのようなときに油圧ポンプ59,60を駆動させたとしてもブレーキペダル23の押し戻しや引き込みの発生を回避でき、その操作感を良好に保つことができる。つまり、この制動装置は、実施例1のときと同じく、ブレーキペダル23の操作感の悪化を最小限に抑えることができる。
【0106】
ところで、上述した本実施例2においては補正係数α,βを用いて電動機補正出力D1の演算を行っているが、その電動機補正出力D1は、実施例1に示した補正項α1と以下に示すような補正項β1を用いて求めてもよい。つまり、電動機補正出力D1を求める為には、電動機基準出力D0に乗算させる補正係数α,βを使ってよく、その電動機基準出力D0に加算させる補正項α1,β1を用いてもよい。ここで示す補正項β1とは、油圧ポンプ59,60の駆動によって差圧制動力Fpumpを発生させる為の電動機基準出力D0に対する補正項であり、補正係数βと同様に、低温状態で電動機58のデューティ出力を増大させ、これにより油圧ポンプ59,60の加圧量を増大させる為の補正値である。例えば、この補正項β1についても、補正係数βと同様にブレーキ液温度Tbをパラメータとした図示しないマップデータから求めればよい。このマップデータにおいては、ブレーキ液温度Tbが所定温度T0より低ければ、その温度差が拡がるほどに補正項β1が「0」よりも大きくなっていく。つまり、ブレーキ液温度Tbが低温であればあるほどに大きな値の補正項β1が設定される。一方、このマップデータにおいては、ブレーキ液温度Tbが所定温度T0以上のときに補正項β1が「0」に設定される。つまり、常温状態のときには、電動機58のデューティ出力を増大させる必要がないので、ここでも電動機基準出力D0で電動機58を駆動させるようになっている。
【0107】
そのような補正項α1,β1を用いた場合の制動装置の制御動作については、上述した図5のフローチャートのとき(つまり、補正係数α,βを用いたとき)と略同じである。つまり、この場合には、その図5のステップST15及びステップST17において補正係数α,βの替わりに補正項α1,β1を求め、更に、その補正項α1,β1を用いてステップST41で電動機補正出力D1を求める点が相違する。この場合のステップST41においては、下記の式5から電動機補正出力D1を導き出す。
【0108】
D1=D0+α1+β1 … (5)
【0109】
ここでは、低温状態にあれば「D1>D0」となり、常温状態にあれば「D1=D0+α1」となる。従って、ここでは、そのような補正項α1,β1を用いたとしても、補正係数α,βを用いたときと同様の効果を奏することができる。
【0110】
更に、上述した本実施例2においては、低温状態であると常温状態であるとに拘わらず補正係数α,β(又は補正項α1,β1)を求める。しかしながら、この制動装置においては、常温状態であればブレーキ液温度Tbに係る補正係数β(又は補正項β1)が「β=1(β1=0)」になるので、敢えてこれを求めずとも電動機補正出力D1を導き出すことができる。また、低温状態は長期に渡って続くものではなく、一般的には走行時間が長くなるにつれて常温状態へと移行していく。これが為、上述した本実施例2の制動装置においては、走行中の大半の時間を占めている常温状態のときであっても補正係数β(又は補正項β1)の演算を行わなければならず、演算処理の複雑化や演算処理時間の長期化を招いてしまう可能性がある。
【0111】
そこで、以下においては、常温状態と判断された際の演算処理の簡素化を図るべく本実施例2の制動装置を構成する。具体的には、常温状態と判断された場合に、上記のブレーキ液温度Tbに係る補正係数β(又は補正項β1)の演算を必要とせずに常温時の制動制御が実行されるように構成する。
【0112】
この本実施例2の制動装置の制御動作の一例については、図7のフローチャートに基づき説明する。
【0113】
尚、その制御動作の多くは上述した図5のフローチャートのときと同じであるので、以下においては、その相違点について説明する。つまり、ここでのブレーキECU1は、ステップST5で制動要求ありと判定し、ステップST10,ST15でペダル踏力Fb及び当該ペダル踏力Fbに応じた補正係数α(又は補正項α1)を得た後に、ステップST1で推定したブレーキ液温度Tbが上述した所定温度T0よりも低くなっているのか否かについての判定を行う(ステップST16)。
【0114】
そして、そのステップST16でブレーキ液温度Tbが所定温度T0よりも低くなっており低温状態であると判断された場合、このブレーキECU1は、ステップST17へと進んで、以降、図5のフローチャートのときと同様の演算処理を実行する。尚、そのステップST17で求められる補正係数β(又は補正項β1)は低温状態のときのもののみであり、これに伴いステップST41では低温状態のときの電動機補正出力D1(>D0)だけが求められる。これが為、この場合のステップST45では、常温状態においてのブレーキアクチュエータ30の駆動制御が実行されない。
【0115】
一方、このブレーキECU1は、上記ステップST16でブレーキ液温度Tbが所定温度T0以上になっており常温状態であると判断した場合、常温時の制動制御を実行する(ステップST55)。
【0116】
この常温時の制動制御は、図8のフローチャートに示す如く、先ずブレーキECU1がステップST20と同様にして運転者による要求制動力Fdriverを求める(ステップST55A)。
【0117】
そして、このブレーキECU1は、ステップST25,ST30と同様にして、差圧制動力Fpumpを求め(ステップST55B)、この差圧制動力Fpumpが「0」以下か否かの判定を行う(ステップST55C)。
【0118】
ブレーキECU1は、そのステップST55Cで差圧制動力Fpumpが「0」よりも大きいので油圧ポンプ59,60を駆動させる必要があると判断した場合、その差圧制動力Fpumpに対応する電動機基準出力D0をステップST35と同様にして求め(ステップST55D)、その電動機基準出力D0とペダル踏力Fbに係る補正係数α(又は補正項α1)を上述した式2(式3)に代入して電動機補正出力D1を求める(ステップST55E)。
【0119】
しかる後、このブレーキECU1は、夫々の車輪10FL,10FR,10RL,10RRに要求制動力Fdriverが働くようにブレーキアクチュエータ30の駆動制御を実行する(ステップST55F)。
【0120】
このステップST55Fにおいては、マスタカット弁32,33と保持弁40,41,42,43を開弁させると共に減圧弁48,49,50,51を閉弁させ、更に電動機58を電動機補正出力D1で駆動させる。これにより、第1制動力発生手段からはマスタシリンダ圧に応じた基準制動力の最大値Fbase-maxが発生させられると共に、第2制動力発生手段からは上記ステップST55Bで求めた油圧ポンプ59,60による差圧制動力Fpumpが発生させられ、夫々の車輪10FL,10FR,10RL,10RRには、上記ステップST55Aで設定した要求制動力Fdriverが働くようになる。尚、その要求制動力Fdriverで保持する場合には、ここでもマスタカット弁32,33と保持弁40,41,42,43と減圧弁48,49,50,51を閉弁させると共に、電動機58を停止させればよい。
【0121】
一方、上記ステップST55Cで差圧制動力Fpumpが「0」以下なので油圧ポンプ59,60を駆動させる必要がないと判断した場合、ブレーキECU1は、夫々の車輪10FL,10FR,10RL,10RRに要求制動力Fdriverが働くようステップST50と同様にしてブレーキアクチュエータ30の駆動制御を実行する(ステップST55G)。つまり、このステップST55Gにおいては、その要求制動力Fdriverに応じて増圧モード、保持モード又は減圧モードの内の何れのモードなのかについて判断し、そのモードに適したマスタカット弁32,33と保持弁40,41,42,43と減圧弁48,49,50,51の制御を行うと共に、電動機58を駆動させない。
【0122】
以上示した如く、ここで例示した本実施例2の車輌の制動装置は、上述した本実施例2のものと同様の効果を得ることができ、且つ、常温状態において補正係数β(又は補正項β1)を求めずに電動機58を駆動させるので、演算処理の複雑化や演算処理時間の長期化を防ぐことができる。
【0123】
ところで、上述した各実施例1,2においては運転者がブレーキペダル23を操作したときについてのみ示しているが、本発明は、必ずしもかかる運転者による制動時に限定するものではない。例えば、車輌の挙動制御等のようにブレーキECU1自身が制動力の発生を必要とすると判断したときに行う制動時に適用してもよく、これによっても上記と同様の効果を奏することができる。
【産業上の利用可能性】
【0124】
以上のように、本発明に係る車輌の制動装置は、良好なブレーキペダルの操作感を得ながらも要求制動力を運転者のペダル踏力の大きさに影響されることなく適切に発生させる技術に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】本発明に係る車輌の制動装置の実施例1の構成を示すブロック図である。
【図2】実施例1の制動装置の制御動作について説明するフローチャートである。
【図3】ペダル踏力に応じた補正係数を求める為のマップデータの一例を示す図である。
【図4】本発明に係る車輌の制動装置の実施例2の構成を示すブロック図である。
【図5】実施例2の制動装置における制御動作の一例について説明するフローチャートである。
【図6】ブレーキ液温度に応じた補正係数を求める為のマップデータの一例を示す図である。
【図7】実施例2の制動装置における全体の制御動作の他の例について説明するフローチャートである。
【図8】実施例2の制動装置の常温状態での制動制御動作について説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0126】
1 ブレーキECU
10FL,10FR,10RL,10RR 車輪
21FL,21FR,21RL,21RR 油圧制動手段
22FL,22FR,22RL,22RR 油圧配管
23 ブレーキペダル
24 制動倍力手段
25 マスタシリンダ
26 リザーバタンク
27A ペダルストロークセンサ
27B ペダル踏力センサ
28,29 油圧配管
30 ブレーキアクチュエータ
31 マスタシリンダ圧センサ
32,33 マスタカット弁
40,41,42,43 保持弁
48,49,50,51 減圧弁
58 電動機
59,60 油圧ポンプ
81 外気温センサ
82 イグニッションオン信号
83 スタータ信号
84FL,84FR,84RL,84RR 車輪速センサ
85 自車位置情報
86 日時情報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者のブレーキペダルの操作に伴い発生した作動流体の圧力を要求制動力に従って調圧し、該調圧後の作動流体の圧力に応じた第1制動力を車輪に作用させる第1制動力発生手段と、該第1制動力が前記要求制動力に対して不足するときに、その不足分に応じた加圧量で前記作動流体を加圧して当該加圧量に相当する第2制動力を車輪に作用させる第2制動力発生手段と、を備えた車輌の制動装置において、
前記要求制動力に対して前記第1制動力が不足する場合、運転者による前記ブレーキペダルへのペダル踏力が大きいほど前記第2制動力発生手段の加圧量を増大させる制動制御手段を設けたことを特徴とする車輌の制動装置。
【請求項2】
運転者のブレーキペダルの操作に伴いマスタシリンダを介して発生した作動流体の圧力を要求制動力に従い調圧し、該調圧後の作動流体の圧力を各車輪のホイールシリンダに伝達して当該各車輪に第1制動力を作用させる作動流体調圧部と、該作動流体調圧部と前記マスタシリンダとの間に配設し、通電量に応じて弁開度を制御することで前記マスタシリンダから排出された作動流体の流量を調節して当該作動流体を前記作動流体調圧部に送出するマスタカット弁と、を有する第1制動力発生手段と、
前記マスタカット弁と前記作動流体調圧部との間に吐出側が接続され、前記第1制動力発生手段で調圧された作動流体の圧力に対して電動機を駆動源にして更に加圧を行う加圧手段を有し、前記第1制動力が前記要求制動力に対して不足するときにその不足分に相当する第2制動力を前記加圧手段の作動に伴う加圧量によって前記車輪に作用させる第2制動力発生手段と、
を備えた車輌の制動装置において、
運転者による前記ブレーキペダルへのペダル踏力が大きいほど前記加圧手段の作動に伴う加圧量を増大させる制動制御手段を設けたことを特徴とする車輌の制動装置。
【請求項3】
前記第2制動力発生手段は、前記作動流体を加圧させる加圧手段と、該加圧手段を作動させる電動機と、を備え、前記制動制御手段は、前記第2制動力発生手段の加圧量を増大させる際に前記ペダル踏力が大きいほど前記電動機のデューティ出力を大きくするよう構成したことを特徴とする請求項1記載の車輌の制動装置。
【請求項4】
前記ペダル踏力は、ペダル踏力検出センサの検出値とブレーキペダルの踏み込み量に応じた推定値とマスタシリンダ圧に応じた推定値の内の少なくとも1つを利用して求めるように構成したことを特徴とする請求項1,2又は3に記載の車輌の制動装置。
【請求項5】
前記制動制御手段は、前記作動流体の温度が低いほど前記加圧手段の作動に伴う加圧量を増大させるよう構成したことを特徴とする請求項1から4の内の何れか1つに記載の車輌の制動装置。
【請求項6】
前記制動制御手段は、前記作動流体が所定温度よりも低い低温状態のときに制動要求され、その際の要求制動力に対して前記第1制動力が不足する場合、その不足分が前記低温状態よりも高温の常温状態のときと同じでも、該常温状態のときと比べて前記第2制動力発生手段の加圧量を増大させるよう構成したことを特徴とする請求項1から5の内の何れか1つに記載の車輌の制動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−90724(P2009−90724A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−260956(P2007−260956)
【出願日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】