車輪用軸受装置
【課題】衝撃荷重に対する耐性を向上させることができる車輪用軸受装置を提供する。
【解決手段】内周に複列の軌道面3が形成された固定側部材である外方部材1と、前記各軌道面3に対向する軌道面4が外周に形成された回転側部材である内方部材2と、これら対向する軌道面3、4の間に介在した複列の転動体5とを備える車輪用軸受装置に適用される。前記外方部材1を、焼入れおよび高温焼戻し処理により調質し、表面から少なくとも2mmまでの層を微細パーライトとする。
【解決手段】内周に複列の軌道面3が形成された固定側部材である外方部材1と、前記各軌道面3に対向する軌道面4が外周に形成された回転側部材である内方部材2と、これら対向する軌道面3、4の間に介在した複列の転動体5とを備える車輪用軸受装置に適用される。前記外方部材1を、焼入れおよび高温焼戻し処理により調質し、表面から少なくとも2mmまでの層を微細パーライトとする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、乗用車用や貨物車用などの高強度化を図った車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の第2世代型や第3世代型の車輪用軸受装置において、内方部材を回転側部材とし外方部材を固定側部材としたものでは、外方部材の外周に車体取付用のフランジが設けられているため、外方部材の材料としてS53Cなどの中炭素鋼を使用することで必要な強度を確保している。外方部材の軌道面は、転動部として必要な硬度とするために高周波熱処理が施されるが、それ以外の部分は特に熱処理されることなく、生材のままで使用される。その理由は、外方部材全体を硬化させると引張強度は向上するものの、変形(伸び)に対しては弱く破断することがあるからである。
また、上記した従来の車輪用軸受装置の外方部材では、回転側部材である内方部材と比較して繰り返し疲労の回数が少ないため、低荷重・高サイクルである疲労に対する耐強度よりも高荷重・低サイクルである塑性変形に対する耐力に重点が置かれていた。
【0003】
しかし、車両を軽量化するために、車輪用軸受装置にも軽量化の要求があり、小型となった車輪用軸受装置において従来と同等の機能が要求される。車輪用軸受装置の外方部材についても同様であり、前記車体取付用のフランジの小型化などで軽量化(小体積化)されることが多い。
【0004】
このような要請に応えるものとして、回転側部材(ハブ輪や、第2世代型の車輪用軸受装置における外輪回転タイプの外方部材)におけるパイロット部の付け根部を高周波熱処理で硬化させたり、回転側部材の全体を調質することで、旋回走行時における高応力部位の疲労強度の向上を図ったものも提案されている(例えば特許文献1〜3)。
【特許文献1】特開2005−308152号公報
【特許文献2】特開2006−291250号公報
【特許文献3】特開2004−314820号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自動車が走行中に何らかの原因でスリップし、縁石に車輪(タイヤ、ホイール)が衝突することがある。この時、車輪用軸受装置には、アキシアル方向の荷重が衝撃的に負荷され、モーメント荷重が掛かる。車両がスリップするときは、雨で路面が濡れているときや、路面が凍結し滑りやすくなっているときである。路面が凍結しているときは大気温も低く、車が屋外で駐車された後の走り始めでスリップし縁石に衝突すると、車輪用軸受装置も冷えた状態で衝撃的な荷重が負荷されることとなる。
車輪用軸受装置に衝撃的な荷重が負荷された場合の破壊例として、脆性的に破壊される場合と、延性的に破壊される場合とがある。脆性的な破壊の場合は、吸収できるエネルギーが低く、靱性が低い。延性的な破壊の場合は、吸収できるエネルギーが高く、靱性が高い。一般には、鋼材にシャルピー衝撃試験を行なった際に、脆性破面と延性破面が50%ずつとなる遷移温度があり、低温ほど吸収できるエネルギーが低い(脆性破壊)。遷移温度が高い場合、高温となっても靱性が低い材料ということになる。一方、遷移温度が低ければ、低温となっても靱性の高い材料といえる。
【0006】
上記した従来の車輪用軸受装置の場合のように、外方部材の材料として炭素鋼を使用し、高周波熱処理した軌道面以外の部分を特に熱処理せず鍛造のままの組織で使用すると、図11にシャルピー衝撃試験の結果をグラフで示すように、低温(−40〜−20℃)での衝撃吸収エネルギーが常温時よりも大きく低下してしまうことになる。具体的な吸収エネルギーの測定数値の数例を以下に示し、さらにより詳しい測定値を表1に示す。
20℃ …35〜40J/cm2 〔N=6平均:37.0J/cm2 〕
−20℃ …9〜30J/cm2 〔N=6平均:20.8J/cm2 〕
−40℃ …8〜21J/cm2 〔N=6平均:15.8J/cm2 〕
【0007】
【表1】
【0008】
なお、このシャルピー衝撃試験での諸条件は、以下の通りである。
・2mm/Uノッチ
・熱間鍛造後の組織を模す目的で、S53Cの熱間圧延のままのバー材を1050℃/ 1hr保持後に放冷した。
・試験片はφ60のバー材の1/4D部から作製(試験片の長手方向がバー材の圧延方 向)
・材料はS53Cであるが2種類ある(試験片は各n=3ずつ、鋼材メーカー違い)
【0009】
前記シャルピー衝撃試験の結果から、上記した従来の車輪用軸受装置では、冷えた状態で衝撃荷重を受けると、鍛造のままの組織である外方部材が、低温で靱性が低下した状態で衝撃荷重を受けることとなり、小型軽量化された車体取付用のフランジが損傷し車輪用軸受装置ごと外れてしまう可能性がある。
【0010】
この発明の目的は、外方部材の靱性に優れ、衝撃荷重に対して損傷を生じる荷重を高めることができる車輪用軸受装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明の車輪用軸受装置は、内周に複列の軌道面が形成された固定側部材である外方部材と、前記各軌道面に対向する軌道面が外周に形成された回転側部材である内方部材と、これら対向する軌道面の間に介在した複列の転動体とを備え、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受装置において、前記外方部材を調質したことを特徴とする。この調質は、狭義の調質であり、焼入れおよび高温焼戻し処理により行った調質である。
このように、固定側部材である外方部材を、焼入れおよび高温焼戻し処理により調質することにより、外方部材の靱性、特に低温時の靱性を高めることができる。その結果、衝撃荷重に対する耐性を向上させることができる。すなわち、衝撃荷重に対して損傷を生じる荷重を高めることができる。これにより、車両がスリップして、車両側面から車輪部分が縁石に衝撃的にぶつかるような場合に、衝撃荷重が車輪用軸受装置に負荷されても、車輪用軸受装置が丸ごと車体から外れて走行不能となることや、外れた車輪などが転がって他の物にぶつかることを防止できる。また、前記外方部材の表面から少なくとも2mmまでの層が微細パーライトにされた組織である。これにより、焼入性の悪い炭素鋼であっても、表面に靭性に優れた微細パーライトにされた層を設けることで、外方部材の靭性を高めることができる。
【0012】
この発明において、前記外方部材の外周に車体取付用のフランジが設けられ、このフランジはインボード側から車体にボルト止めするための雌ねじ孔を有するものとしても良い。このような雌ねじ孔を有する場合も、外方部材の調質により、衝撃荷重に対する優れた耐性が得られる。
【0013】
この発明において、前記外方部材の外周に車体取付用のフランジが設けられ、このフランジはアウトボード側から車体にボルト止めするためのボルト挿通孔と、車体締結ボルトの座面となる旋削加工面または座繰り加工面を有するものとしても良い。このようなボルト挿通孔、および旋削加工や座繰り加工された座面を有する場合も、外方部材の調質により、衝撃荷重に対する優れた耐性が得られる。
【0014】
この発明において、前記外方部材は中炭素鋼、または中炭素鋼に相当する化学成分の鋼材からなり、熱間鍛造後に前記調質についで旋削が行なわれてから、外方部材の前記軌道面が高周波熱処理により所定深さにわたって硬化されていても良い。
【0015】
この発明において、前記外方部材の軌道面の硬度が58〜64HRCであり、外方部材の他の部位の硬度が15〜35HRCであっても良い。
製品としての外方部材の引張強度と耐衝撃性と旋削加工性を両立させるためには、外方部材の軌道面以外の部位の硬度は、20〜30HRCの範囲とするのが好ましく、さらには20〜25HRCとするのが好ましい。
【0016】
この発明において、前記転動体はボールであっても円錐ころであっても良い。
【0017】
この発明において、前記車輪用軸受装置は駆動輪支持用であっても従動輪支持用であっても良い。
【発明の効果】
【0018】
この発明の車輪用軸受装置は、内周に複列の軌道面が形成された固定側部材である外方部材と、前記各軌道面に対向する軌道面が外周に形成された回転側部材である内方部材と、これら対向する軌道面の間に介在した複列の転動体とを備え、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受装置において、前記外方部材を、焼入れおよび高温焼戻し処理により調質したため、外方部材が靱性が優れ、衝撃荷重に対する耐性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
この発明の第1の実施形態を図1および図2と共に説明する。この実施形態の車輪用軸受装置は、自動車用で、第3世代に分類される複列のアンギュラ玉軸受型であり、内輪回転タイプでかつ駆動輪支持用のものである。なお、この明細書において、車両に取付けた状態で車両の車幅方向の外側寄りとなる側をアウトボード側と呼び、車両の中央寄りとなる側をインボード側と呼ぶ。
この車輪用軸受装置は、図1に断面図で示すように、内周に複列の軌道面3を形成した外方部材1と、これら各軌道面3に対向する軌道面4を外周に形成した内方部材2と、これら外方部材1および内方部材2の軌道面3、4間に介在した複列の転動体5とで構成される。転動体5はボールからなり、各列毎に保持器6で保持されている。上記軌道面3、4は断面円弧状であり、各軌道面3、4は接触角が背面合わせとなるように形成されている。外方部材1と内方部材2との間の軸受空間の両端は、密封装置となるシール7、8によってそれぞれ密封されている。
【0020】
外方部材1は固定側部材となるものであって、車体の懸架装置(図示せず)におけるナックル60に取付ける車体取付用のフランジ1aを外周に有し、全体が一体の部品とされている。フランジ1aには、周方向の複数箇所に車体取付用のボルト挿通孔14が設けられ、アウトボード側から前記ボルト挿通孔14に挿通した車体締結ボルトであるナックルボルト61をナックル60の雌ねじ孔60aに螺合することにより、フランジ1aがナックル60にボルト止めされる。
内方部材2は回転側部材となるものであって、車輪取付用のハブフランジ9aを有するハブ輪9と、このハブ輪9の軸部9bのインボード側端の外周に嵌合した内輪10とでなる。これらハブ輪9および内輪10に、前記各列の軌道面4が形成されている。ハブ輪9のインボード側端の外周には段差を持って小径となる内輪嵌合面12が設けられ、この内輪嵌合面12に内輪10が嵌合している。ハブ輪9の中心には貫通孔11が設けられている。この貫通孔11に、等速ジョイント62の外輪63のステム部63aを挿通し、ステム部63aの基端周辺の段面と先端に螺合するナット64との間で内方部材2を挟み込むことで、車輪用軸受装置と等速ジョイント62とを連結している。ハブフランジ9aには、周方向複数箇所にハブボルト15の圧入孔16が設けられている。ハブ輪9のハブフランジ9aの根元部付近には、ブレーキロータ40とホイール(図示せず)を案内する円筒状のパイロット部13がアウトボード側に突出している。このパイロット部13の案内により、前記ハブフランジ9aにブレーキロータ40とホイールとを重ね、ハブボルト15で固定する。
【0021】
前記外方部材1はS53Cなどの中炭素鋼(C=0.45〜0.80wt%、好ましくは0.50〜0.65wt%)、または中炭素鋼に相当する化学成分の鋼材からなり、焼入れと高温焼戻し処理により調質されている。この調質は熱間鍛造後に行なわれ、その後に旋削が行なわれる。前記調質により、製品とされた外方部材1の表面から少なくとも2mmまでの深さの層は、十分に焼きを入れられて完全なマンテルサイトにされた後に、高温焼き戻しによって微細パーライトにされた組織とされている。言い換えると、製品となった外方部材1の表面から少なくとも2mmまでの深さの層には、調質組織である微細パーライト以外の組織が混在していない。
前記旋削加工の後で、外方部材1の軌道面3には必要とされる所定深さにわたって高周波熱処理が行なわれ、これにより軌道面3に所定深さの硬化層3aが形成されている。この軌道面3の硬化層3aの硬度は58〜64HRCとされ、外方部材1のその他の部位の硬度は15〜35HRCとされる。製品としての外方部材1の引張強度と耐衝撃性と旋削加工性を両立させるためには、外方部材1の軌道面3以外の部位の硬度は、20〜30HRCの範囲とするのが好ましく、さらには20〜25HRCとするのが好ましい。
【0022】
この構成の車輪用軸受装置によると、固定側部材である外方部材1を、焼入れおよび高温焼戻し処理により調質しているので、外方部材1の靱性、特に低温時の靱性を高めることができる。その結果、衝撃荷重に対する耐性を向上させることができる。すなわち、衝撃荷重で損傷を生じる荷重を大きくできる。これにより、車両がスリップして、車両側面から車輪部分が縁石に衝撃的にぶつかるような場合に、衝撃荷重が車輪用軸受装置に負荷されても、車輪用軸受装置が丸ごと車体から外れて走行不能となることや、外れた車輪などが転がって他の物にぶつかることを防止できる。
【0023】
図3および図4は、この発明の他の実施形態を示す。この実施形態では、図1および図2に示した実施形態の車輪用軸受装置において、ハブ輪9の軸部9bのインボード側端に内輪10を加締固定する加締部9baを形成している。この加締部9baと共に、等速ジョイント62の外輪63のステム部63a先端に螺合するナット64と、等速ジョイント62のカップ部との間で内方部材2を挟み込こむことにより、車輪用軸受装置と等速ジョイント62とを連結する。
また、この実施形態では、外方部材1の車体取付用のフランジ1aの周方向の複数箇所に車体取付用の雌ねじ孔14Aが設けられ、インボード側からナックル60のボルト挿通孔60bに挿通した車体締結ボルトであるナックルボルト61を前記フランジ1aの雌ねじ孔14Aに螺合することにより、フランジ1aがナックル60にボルト止めされる。ハブフランジ9aには、周方向複数箇所にハブボルトのボルト挿通孔16Aが設けられている。アウトボード側から前記ボルト挿通孔16Aにハブボルトを螺合することにより、前記ハブフランジ9aに重ねたブレーキロータ40とホイールとをハブフランジ9aに固定する。その他の構成は、図1および図2に示す実施形態の場合と略同様である。
【0024】
図5は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この実施形態では、図1および図2に示した実施形態の車輪用軸受装置において、外方部材1の車体取付用のフランジ1aの周方向の複数箇所に車体取付用の雌ねじ孔14Aが設けられ、インボード側からナックルのボルト挿通孔に挿通した車体締結ボルトであるナックルボルトを前記フランジ1aの雌ねじ孔14Aに螺合することにより、フランジ1aがナックルにボルト止めされる。その他の構成は、図1および図2に示す実施形態の場合と略同様である。
【0025】
図6は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この実施形態の車輪用軸受装置は、第4世代に分類される複列のアンギュラ玉軸受型であり、内輪回転タイプでかつ駆動輪支持用のものである。内方部材2は、ハブ輪9と、その貫通孔11に挿入されて嵌合する等速ジョイント62の外輪63とからなり、外方部材1の軌道面3に対向する複列の軌道面4が、ハブ輪9および等速ジョイント外輪63のステム部にそれぞれに設けられている。ハブ輪9は、等速ジョイント外輪63の中空軸状としたステム部の拡径加締によって等速ジョイント外輪63と結合されている。また、インボード側のシール8は、外方部材1の内径面と等速ジョイント外輪63の外径面との間に介在させている。外方部材1の車体取付用のフランジ1aの周方向の複数箇所には車体取付用の雌ねじ孔14Aが設けられ、インボード側からナックルのボルト挿通孔に挿通した車体締結ボルトであるナックルボルトを前記フランジ1aの雌ねじ孔14Aに螺合することにより、フランジ1aがナックルにボルト止めされる。その他の構成は、図1および図2に示す実施形態の場合と略同様である。
【0026】
図7は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この実施形態の車輪用軸受装置は、第2世代に分類される複列のアンギュラ玉軸受型であり、内輪回転タイプでかつ駆動輪支持用のものである。回転側部材である内方部材2は、ハブ輪9と、このハブ輪9の軸部9bの外周に、軸方向に並べてそれぞれ圧入状態に嵌合させた2列の個々の内輪10A、10Bとでなる。これら2列の内輪10A、10Bの外周に、各列の軌道面4が形成されている。その他の構成は、図1および図2の実施形態の場合と略同様である。
【0027】
図8は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この実施形態の車輪用軸受装置は、第2世代に分類される複列の円錐ころ軸受型であり、内輪回転タイプでかつ駆動輪支持用のものである。この車輪用軸受装置は、図7の実施形態において、転動体5であるボールを円錐ころに置き換えたものである。また、この実施形態でも、外方部材1の車体取付用のフランジ1aにはアウトボード側からナックルにボルト止めするためのボルト挿通孔14が設けられるが、そのフランジ1aのアウトボード側を向く側面には、ナックルボルトの座面となる旋削加工面1aaが形成されている。旋削加工面1aaに代えて、上記座面となる部分を座繰り加工面としても良い。座繰り加工は切削加工の一種である。図8では、図7における等速ジョイント外輪63の図示を省略しているが、その他の構成は図7の実施形態の場合と同様である。
【0028】
図9は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この実施形態の車輪用軸受装置は、図8の実施形態において、ハブ輪9の軸部9bのインボード側端に内輪10A、10Bを加締固定する加締部9baを形成している。また、この実施形態では、外方部材1の車体取付用のフランジ1aの周方向の複数箇所に車体取付用の雌ねじ孔14Aが設けられ、インボード側からナックルのボルト挿通孔に挿通した車体締結ボルトであるナックルボルトを前記フランジ1aの雌ねじ孔14Aに螺合することにより、フランジ1aがナックルにボルト止めされる。その他の構成は、図8に示す実施形態の場合と略同様である。
【0029】
図10は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この実施形態の車輪用軸受装置は、第3世代に分類される複列のアンギュラ玉軸受型であり、内輪回転タイプでかつ従動輪支持用のものである。回転側部材である内方部材2は、車輪取付用フランジ9aを有するハブ輪9と、このハブ輪9の軸部9bのインボード側端の外周に嵌合した内輪10とでなり、ハブ輪9の軸部9bのインボード側端に内輪10を加締固定する加締部9baを形成している。ハブ輪9は中実状のものであって、図3の実施形態の場合のような貫通孔11がなく、車輪用軸受装置には等速ジョイント外輪が連結されない。その他の構成は図3および図4に示した実施形態の場合と同様である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明の第1の実施形態にかかる車輪用軸受装置の断面図である。
【図2】同車輪用軸受装置における外方部材の半部拡大断面図である。
【図3】この発明の他の実施形態にかかる車輪用軸受装置の断面図である。
【図4】同車輪用軸受装置における外方部材の半部拡大断面図である。
【図5】この発明のさらに他の実施形態にかかる車輪用軸受装置の断面図である。
【図6】この発明のさらに他の実施形態にかかる車輪用軸受装置の断面図である。
【図7】この発明のさらに他の実施形態にかかる車輪用軸受装置の断面図である。
【図8】この発明のさらに他の実施形態にかかる車輪用軸受装置の断面図である。
【図9】この発明のさらに他の実施形態にかかる車輪用軸受装置の断面図である。
【図10】この発明のさらに他の実施形態にかかる車輪用軸受装置の断面図である。
【図11】生材のシャルピー衝撃試験結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0031】
1…外方部材
1a…車体取付用のフランジ
1aa…旋削加工面
2…内方部材
3、4…軌道面
3a…硬化層
5…転動体
14…ボルト挿通孔
14A…雌ねじ孔
61…ナックルボルト(車体締結ボルト)
【技術分野】
【0001】
この発明は、乗用車用や貨物車用などの高強度化を図った車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の第2世代型や第3世代型の車輪用軸受装置において、内方部材を回転側部材とし外方部材を固定側部材としたものでは、外方部材の外周に車体取付用のフランジが設けられているため、外方部材の材料としてS53Cなどの中炭素鋼を使用することで必要な強度を確保している。外方部材の軌道面は、転動部として必要な硬度とするために高周波熱処理が施されるが、それ以外の部分は特に熱処理されることなく、生材のままで使用される。その理由は、外方部材全体を硬化させると引張強度は向上するものの、変形(伸び)に対しては弱く破断することがあるからである。
また、上記した従来の車輪用軸受装置の外方部材では、回転側部材である内方部材と比較して繰り返し疲労の回数が少ないため、低荷重・高サイクルである疲労に対する耐強度よりも高荷重・低サイクルである塑性変形に対する耐力に重点が置かれていた。
【0003】
しかし、車両を軽量化するために、車輪用軸受装置にも軽量化の要求があり、小型となった車輪用軸受装置において従来と同等の機能が要求される。車輪用軸受装置の外方部材についても同様であり、前記車体取付用のフランジの小型化などで軽量化(小体積化)されることが多い。
【0004】
このような要請に応えるものとして、回転側部材(ハブ輪や、第2世代型の車輪用軸受装置における外輪回転タイプの外方部材)におけるパイロット部の付け根部を高周波熱処理で硬化させたり、回転側部材の全体を調質することで、旋回走行時における高応力部位の疲労強度の向上を図ったものも提案されている(例えば特許文献1〜3)。
【特許文献1】特開2005−308152号公報
【特許文献2】特開2006−291250号公報
【特許文献3】特開2004−314820号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自動車が走行中に何らかの原因でスリップし、縁石に車輪(タイヤ、ホイール)が衝突することがある。この時、車輪用軸受装置には、アキシアル方向の荷重が衝撃的に負荷され、モーメント荷重が掛かる。車両がスリップするときは、雨で路面が濡れているときや、路面が凍結し滑りやすくなっているときである。路面が凍結しているときは大気温も低く、車が屋外で駐車された後の走り始めでスリップし縁石に衝突すると、車輪用軸受装置も冷えた状態で衝撃的な荷重が負荷されることとなる。
車輪用軸受装置に衝撃的な荷重が負荷された場合の破壊例として、脆性的に破壊される場合と、延性的に破壊される場合とがある。脆性的な破壊の場合は、吸収できるエネルギーが低く、靱性が低い。延性的な破壊の場合は、吸収できるエネルギーが高く、靱性が高い。一般には、鋼材にシャルピー衝撃試験を行なった際に、脆性破面と延性破面が50%ずつとなる遷移温度があり、低温ほど吸収できるエネルギーが低い(脆性破壊)。遷移温度が高い場合、高温となっても靱性が低い材料ということになる。一方、遷移温度が低ければ、低温となっても靱性の高い材料といえる。
【0006】
上記した従来の車輪用軸受装置の場合のように、外方部材の材料として炭素鋼を使用し、高周波熱処理した軌道面以外の部分を特に熱処理せず鍛造のままの組織で使用すると、図11にシャルピー衝撃試験の結果をグラフで示すように、低温(−40〜−20℃)での衝撃吸収エネルギーが常温時よりも大きく低下してしまうことになる。具体的な吸収エネルギーの測定数値の数例を以下に示し、さらにより詳しい測定値を表1に示す。
20℃ …35〜40J/cm2 〔N=6平均:37.0J/cm2 〕
−20℃ …9〜30J/cm2 〔N=6平均:20.8J/cm2 〕
−40℃ …8〜21J/cm2 〔N=6平均:15.8J/cm2 〕
【0007】
【表1】
【0008】
なお、このシャルピー衝撃試験での諸条件は、以下の通りである。
・2mm/Uノッチ
・熱間鍛造後の組織を模す目的で、S53Cの熱間圧延のままのバー材を1050℃/ 1hr保持後に放冷した。
・試験片はφ60のバー材の1/4D部から作製(試験片の長手方向がバー材の圧延方 向)
・材料はS53Cであるが2種類ある(試験片は各n=3ずつ、鋼材メーカー違い)
【0009】
前記シャルピー衝撃試験の結果から、上記した従来の車輪用軸受装置では、冷えた状態で衝撃荷重を受けると、鍛造のままの組織である外方部材が、低温で靱性が低下した状態で衝撃荷重を受けることとなり、小型軽量化された車体取付用のフランジが損傷し車輪用軸受装置ごと外れてしまう可能性がある。
【0010】
この発明の目的は、外方部材の靱性に優れ、衝撃荷重に対して損傷を生じる荷重を高めることができる車輪用軸受装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明の車輪用軸受装置は、内周に複列の軌道面が形成された固定側部材である外方部材と、前記各軌道面に対向する軌道面が外周に形成された回転側部材である内方部材と、これら対向する軌道面の間に介在した複列の転動体とを備え、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受装置において、前記外方部材を調質したことを特徴とする。この調質は、狭義の調質であり、焼入れおよび高温焼戻し処理により行った調質である。
このように、固定側部材である外方部材を、焼入れおよび高温焼戻し処理により調質することにより、外方部材の靱性、特に低温時の靱性を高めることができる。その結果、衝撃荷重に対する耐性を向上させることができる。すなわち、衝撃荷重に対して損傷を生じる荷重を高めることができる。これにより、車両がスリップして、車両側面から車輪部分が縁石に衝撃的にぶつかるような場合に、衝撃荷重が車輪用軸受装置に負荷されても、車輪用軸受装置が丸ごと車体から外れて走行不能となることや、外れた車輪などが転がって他の物にぶつかることを防止できる。また、前記外方部材の表面から少なくとも2mmまでの層が微細パーライトにされた組織である。これにより、焼入性の悪い炭素鋼であっても、表面に靭性に優れた微細パーライトにされた層を設けることで、外方部材の靭性を高めることができる。
【0012】
この発明において、前記外方部材の外周に車体取付用のフランジが設けられ、このフランジはインボード側から車体にボルト止めするための雌ねじ孔を有するものとしても良い。このような雌ねじ孔を有する場合も、外方部材の調質により、衝撃荷重に対する優れた耐性が得られる。
【0013】
この発明において、前記外方部材の外周に車体取付用のフランジが設けられ、このフランジはアウトボード側から車体にボルト止めするためのボルト挿通孔と、車体締結ボルトの座面となる旋削加工面または座繰り加工面を有するものとしても良い。このようなボルト挿通孔、および旋削加工や座繰り加工された座面を有する場合も、外方部材の調質により、衝撃荷重に対する優れた耐性が得られる。
【0014】
この発明において、前記外方部材は中炭素鋼、または中炭素鋼に相当する化学成分の鋼材からなり、熱間鍛造後に前記調質についで旋削が行なわれてから、外方部材の前記軌道面が高周波熱処理により所定深さにわたって硬化されていても良い。
【0015】
この発明において、前記外方部材の軌道面の硬度が58〜64HRCであり、外方部材の他の部位の硬度が15〜35HRCであっても良い。
製品としての外方部材の引張強度と耐衝撃性と旋削加工性を両立させるためには、外方部材の軌道面以外の部位の硬度は、20〜30HRCの範囲とするのが好ましく、さらには20〜25HRCとするのが好ましい。
【0016】
この発明において、前記転動体はボールであっても円錐ころであっても良い。
【0017】
この発明において、前記車輪用軸受装置は駆動輪支持用であっても従動輪支持用であっても良い。
【発明の効果】
【0018】
この発明の車輪用軸受装置は、内周に複列の軌道面が形成された固定側部材である外方部材と、前記各軌道面に対向する軌道面が外周に形成された回転側部材である内方部材と、これら対向する軌道面の間に介在した複列の転動体とを備え、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受装置において、前記外方部材を、焼入れおよび高温焼戻し処理により調質したため、外方部材が靱性が優れ、衝撃荷重に対する耐性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
この発明の第1の実施形態を図1および図2と共に説明する。この実施形態の車輪用軸受装置は、自動車用で、第3世代に分類される複列のアンギュラ玉軸受型であり、内輪回転タイプでかつ駆動輪支持用のものである。なお、この明細書において、車両に取付けた状態で車両の車幅方向の外側寄りとなる側をアウトボード側と呼び、車両の中央寄りとなる側をインボード側と呼ぶ。
この車輪用軸受装置は、図1に断面図で示すように、内周に複列の軌道面3を形成した外方部材1と、これら各軌道面3に対向する軌道面4を外周に形成した内方部材2と、これら外方部材1および内方部材2の軌道面3、4間に介在した複列の転動体5とで構成される。転動体5はボールからなり、各列毎に保持器6で保持されている。上記軌道面3、4は断面円弧状であり、各軌道面3、4は接触角が背面合わせとなるように形成されている。外方部材1と内方部材2との間の軸受空間の両端は、密封装置となるシール7、8によってそれぞれ密封されている。
【0020】
外方部材1は固定側部材となるものであって、車体の懸架装置(図示せず)におけるナックル60に取付ける車体取付用のフランジ1aを外周に有し、全体が一体の部品とされている。フランジ1aには、周方向の複数箇所に車体取付用のボルト挿通孔14が設けられ、アウトボード側から前記ボルト挿通孔14に挿通した車体締結ボルトであるナックルボルト61をナックル60の雌ねじ孔60aに螺合することにより、フランジ1aがナックル60にボルト止めされる。
内方部材2は回転側部材となるものであって、車輪取付用のハブフランジ9aを有するハブ輪9と、このハブ輪9の軸部9bのインボード側端の外周に嵌合した内輪10とでなる。これらハブ輪9および内輪10に、前記各列の軌道面4が形成されている。ハブ輪9のインボード側端の外周には段差を持って小径となる内輪嵌合面12が設けられ、この内輪嵌合面12に内輪10が嵌合している。ハブ輪9の中心には貫通孔11が設けられている。この貫通孔11に、等速ジョイント62の外輪63のステム部63aを挿通し、ステム部63aの基端周辺の段面と先端に螺合するナット64との間で内方部材2を挟み込むことで、車輪用軸受装置と等速ジョイント62とを連結している。ハブフランジ9aには、周方向複数箇所にハブボルト15の圧入孔16が設けられている。ハブ輪9のハブフランジ9aの根元部付近には、ブレーキロータ40とホイール(図示せず)を案内する円筒状のパイロット部13がアウトボード側に突出している。このパイロット部13の案内により、前記ハブフランジ9aにブレーキロータ40とホイールとを重ね、ハブボルト15で固定する。
【0021】
前記外方部材1はS53Cなどの中炭素鋼(C=0.45〜0.80wt%、好ましくは0.50〜0.65wt%)、または中炭素鋼に相当する化学成分の鋼材からなり、焼入れと高温焼戻し処理により調質されている。この調質は熱間鍛造後に行なわれ、その後に旋削が行なわれる。前記調質により、製品とされた外方部材1の表面から少なくとも2mmまでの深さの層は、十分に焼きを入れられて完全なマンテルサイトにされた後に、高温焼き戻しによって微細パーライトにされた組織とされている。言い換えると、製品となった外方部材1の表面から少なくとも2mmまでの深さの層には、調質組織である微細パーライト以外の組織が混在していない。
前記旋削加工の後で、外方部材1の軌道面3には必要とされる所定深さにわたって高周波熱処理が行なわれ、これにより軌道面3に所定深さの硬化層3aが形成されている。この軌道面3の硬化層3aの硬度は58〜64HRCとされ、外方部材1のその他の部位の硬度は15〜35HRCとされる。製品としての外方部材1の引張強度と耐衝撃性と旋削加工性を両立させるためには、外方部材1の軌道面3以外の部位の硬度は、20〜30HRCの範囲とするのが好ましく、さらには20〜25HRCとするのが好ましい。
【0022】
この構成の車輪用軸受装置によると、固定側部材である外方部材1を、焼入れおよび高温焼戻し処理により調質しているので、外方部材1の靱性、特に低温時の靱性を高めることができる。その結果、衝撃荷重に対する耐性を向上させることができる。すなわち、衝撃荷重で損傷を生じる荷重を大きくできる。これにより、車両がスリップして、車両側面から車輪部分が縁石に衝撃的にぶつかるような場合に、衝撃荷重が車輪用軸受装置に負荷されても、車輪用軸受装置が丸ごと車体から外れて走行不能となることや、外れた車輪などが転がって他の物にぶつかることを防止できる。
【0023】
図3および図4は、この発明の他の実施形態を示す。この実施形態では、図1および図2に示した実施形態の車輪用軸受装置において、ハブ輪9の軸部9bのインボード側端に内輪10を加締固定する加締部9baを形成している。この加締部9baと共に、等速ジョイント62の外輪63のステム部63a先端に螺合するナット64と、等速ジョイント62のカップ部との間で内方部材2を挟み込こむことにより、車輪用軸受装置と等速ジョイント62とを連結する。
また、この実施形態では、外方部材1の車体取付用のフランジ1aの周方向の複数箇所に車体取付用の雌ねじ孔14Aが設けられ、インボード側からナックル60のボルト挿通孔60bに挿通した車体締結ボルトであるナックルボルト61を前記フランジ1aの雌ねじ孔14Aに螺合することにより、フランジ1aがナックル60にボルト止めされる。ハブフランジ9aには、周方向複数箇所にハブボルトのボルト挿通孔16Aが設けられている。アウトボード側から前記ボルト挿通孔16Aにハブボルトを螺合することにより、前記ハブフランジ9aに重ねたブレーキロータ40とホイールとをハブフランジ9aに固定する。その他の構成は、図1および図2に示す実施形態の場合と略同様である。
【0024】
図5は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この実施形態では、図1および図2に示した実施形態の車輪用軸受装置において、外方部材1の車体取付用のフランジ1aの周方向の複数箇所に車体取付用の雌ねじ孔14Aが設けられ、インボード側からナックルのボルト挿通孔に挿通した車体締結ボルトであるナックルボルトを前記フランジ1aの雌ねじ孔14Aに螺合することにより、フランジ1aがナックルにボルト止めされる。その他の構成は、図1および図2に示す実施形態の場合と略同様である。
【0025】
図6は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この実施形態の車輪用軸受装置は、第4世代に分類される複列のアンギュラ玉軸受型であり、内輪回転タイプでかつ駆動輪支持用のものである。内方部材2は、ハブ輪9と、その貫通孔11に挿入されて嵌合する等速ジョイント62の外輪63とからなり、外方部材1の軌道面3に対向する複列の軌道面4が、ハブ輪9および等速ジョイント外輪63のステム部にそれぞれに設けられている。ハブ輪9は、等速ジョイント外輪63の中空軸状としたステム部の拡径加締によって等速ジョイント外輪63と結合されている。また、インボード側のシール8は、外方部材1の内径面と等速ジョイント外輪63の外径面との間に介在させている。外方部材1の車体取付用のフランジ1aの周方向の複数箇所には車体取付用の雌ねじ孔14Aが設けられ、インボード側からナックルのボルト挿通孔に挿通した車体締結ボルトであるナックルボルトを前記フランジ1aの雌ねじ孔14Aに螺合することにより、フランジ1aがナックルにボルト止めされる。その他の構成は、図1および図2に示す実施形態の場合と略同様である。
【0026】
図7は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この実施形態の車輪用軸受装置は、第2世代に分類される複列のアンギュラ玉軸受型であり、内輪回転タイプでかつ駆動輪支持用のものである。回転側部材である内方部材2は、ハブ輪9と、このハブ輪9の軸部9bの外周に、軸方向に並べてそれぞれ圧入状態に嵌合させた2列の個々の内輪10A、10Bとでなる。これら2列の内輪10A、10Bの外周に、各列の軌道面4が形成されている。その他の構成は、図1および図2の実施形態の場合と略同様である。
【0027】
図8は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この実施形態の車輪用軸受装置は、第2世代に分類される複列の円錐ころ軸受型であり、内輪回転タイプでかつ駆動輪支持用のものである。この車輪用軸受装置は、図7の実施形態において、転動体5であるボールを円錐ころに置き換えたものである。また、この実施形態でも、外方部材1の車体取付用のフランジ1aにはアウトボード側からナックルにボルト止めするためのボルト挿通孔14が設けられるが、そのフランジ1aのアウトボード側を向く側面には、ナックルボルトの座面となる旋削加工面1aaが形成されている。旋削加工面1aaに代えて、上記座面となる部分を座繰り加工面としても良い。座繰り加工は切削加工の一種である。図8では、図7における等速ジョイント外輪63の図示を省略しているが、その他の構成は図7の実施形態の場合と同様である。
【0028】
図9は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この実施形態の車輪用軸受装置は、図8の実施形態において、ハブ輪9の軸部9bのインボード側端に内輪10A、10Bを加締固定する加締部9baを形成している。また、この実施形態では、外方部材1の車体取付用のフランジ1aの周方向の複数箇所に車体取付用の雌ねじ孔14Aが設けられ、インボード側からナックルのボルト挿通孔に挿通した車体締結ボルトであるナックルボルトを前記フランジ1aの雌ねじ孔14Aに螺合することにより、フランジ1aがナックルにボルト止めされる。その他の構成は、図8に示す実施形態の場合と略同様である。
【0029】
図10は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この実施形態の車輪用軸受装置は、第3世代に分類される複列のアンギュラ玉軸受型であり、内輪回転タイプでかつ従動輪支持用のものである。回転側部材である内方部材2は、車輪取付用フランジ9aを有するハブ輪9と、このハブ輪9の軸部9bのインボード側端の外周に嵌合した内輪10とでなり、ハブ輪9の軸部9bのインボード側端に内輪10を加締固定する加締部9baを形成している。ハブ輪9は中実状のものであって、図3の実施形態の場合のような貫通孔11がなく、車輪用軸受装置には等速ジョイント外輪が連結されない。その他の構成は図3および図4に示した実施形態の場合と同様である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明の第1の実施形態にかかる車輪用軸受装置の断面図である。
【図2】同車輪用軸受装置における外方部材の半部拡大断面図である。
【図3】この発明の他の実施形態にかかる車輪用軸受装置の断面図である。
【図4】同車輪用軸受装置における外方部材の半部拡大断面図である。
【図5】この発明のさらに他の実施形態にかかる車輪用軸受装置の断面図である。
【図6】この発明のさらに他の実施形態にかかる車輪用軸受装置の断面図である。
【図7】この発明のさらに他の実施形態にかかる車輪用軸受装置の断面図である。
【図8】この発明のさらに他の実施形態にかかる車輪用軸受装置の断面図である。
【図9】この発明のさらに他の実施形態にかかる車輪用軸受装置の断面図である。
【図10】この発明のさらに他の実施形態にかかる車輪用軸受装置の断面図である。
【図11】生材のシャルピー衝撃試験結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0031】
1…外方部材
1a…車体取付用のフランジ
1aa…旋削加工面
2…内方部材
3、4…軌道面
3a…硬化層
5…転動体
14…ボルト挿通孔
14A…雌ねじ孔
61…ナックルボルト(車体締結ボルト)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に複列の軌道面が形成された固定側部材である外方部材と、前記各軌道面に対向する軌道面が外周に形成された回転側部材である内方部材と、これら対向する軌道面の間に介在した複列の転動体とを備え、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受装置において、
前記外方部材を、焼入れおよび高温焼戻し処理により調質し、前記外方部材の表面から少なくとも2mmまでの層が微細パーライトにされたことを特徴とする車輪用軸受装置。
【請求項2】
請求項1において、前記外方部材の外周に車体取付用のフランジが設けられ、このフランジはインボード側から車体にボルト止めするための雌ねじ孔を有する車輪用軸受装置。
【請求項3】
請求項1において、前記外方部材の外周に車体取付用のフランジが設けられ、このフランジはアウトボード側から車体にボルト止めするためのボルト挿通孔と、車体締結ボルトの座面となる旋削加工面または座繰り加工面を有する車輪用軸受装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記外方部材は中炭素鋼、または中炭素鋼に相当する化学成分の鋼材からなり、熱間鍛造後に前記調質についで旋削が行なわれてから、外方部材の前記軌道面が高周波熱処理により所定深さにわたって硬化された車輪用軸受装置。
【請求項5】
請求項4において、前記外方部材の軌道面の硬度が58〜64HRCであり、外方部材の他の部位の硬度が15〜35HRCである車輪用軸受装置。
【請求項1】
内周に複列の軌道面が形成された固定側部材である外方部材と、前記各軌道面に対向する軌道面が外周に形成された回転側部材である内方部材と、これら対向する軌道面の間に介在した複列の転動体とを備え、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受装置において、
前記外方部材を、焼入れおよび高温焼戻し処理により調質し、前記外方部材の表面から少なくとも2mmまでの層が微細パーライトにされたことを特徴とする車輪用軸受装置。
【請求項2】
請求項1において、前記外方部材の外周に車体取付用のフランジが設けられ、このフランジはインボード側から車体にボルト止めするための雌ねじ孔を有する車輪用軸受装置。
【請求項3】
請求項1において、前記外方部材の外周に車体取付用のフランジが設けられ、このフランジはアウトボード側から車体にボルト止めするためのボルト挿通孔と、車体締結ボルトの座面となる旋削加工面または座繰り加工面を有する車輪用軸受装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記外方部材は中炭素鋼、または中炭素鋼に相当する化学成分の鋼材からなり、熱間鍛造後に前記調質についで旋削が行なわれてから、外方部材の前記軌道面が高周波熱処理により所定深さにわたって硬化された車輪用軸受装置。
【請求項5】
請求項4において、前記外方部材の軌道面の硬度が58〜64HRCであり、外方部材の他の部位の硬度が15〜35HRCである車輪用軸受装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−191912(P2009−191912A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−31847(P2008−31847)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
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