説明

転がり軸受装置

【課題】グリース自体を連続して軸受内部に供給することにより、軸受の潤滑寿命を向上させることができる転がり軸受装置を提供する。
【解決手段】内輪2と、外輪3と、複数の転動体4と、グリース貯留空間7を有する内輪間座6と、内輪2又は内輪間座6の外周面にグリース貯留空間7内のグリースを供給するグリース供給路と、を備えている。グリース供給路は、内輪間座の端面6aに形成された渦巻き状の溝8で構成されており、この渦巻き状の溝8は、内輪2の回転方向Rと逆向きに外方へ向かう形状であり、グリース貯留空間7の外径面7aから周方向成分をもって径方向外方に延びるとともに、内輪間座6の外径面6bにおいて周方向成分をもつ角度で軸受空間20に開口している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は転がり軸受装置に関する。さらに詳しくは、グリース貯留空間内に封入され、軸の回転によって軸受空間に自然補給されるグリースにより潤滑される転がり軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械の主軸等の高速回転軸に使用される転がり軸受において潤滑剤としてグリースを用いる場合、運転初期に軸受空間に封入されるグリース量は、一般的な転がり軸受に比べて少なめに設定されている。具体的には、攪拌抵抗によるグリースの発熱及びそれに起因する軸受の温度上昇を抑えるために、例えば軸受空間容積(内外輪間の環状空間の容積から、転動体及び保持器の合計容積を除いた容積)の10〜15%程度に設定されている。このため、軸受の潤滑寿命を長期化するためには、外部へ流出する等して不足するグリースを補給する必要がある。
【0003】
そこで、潤滑剤を自然補給して軸受の潤滑寿命を向上させるため、例えば、図3に示す転がり軸受装置が提案されている(特許文献1参照)。
特許文献1には、個別に設けられた各列の内輪102と、共用の外輪103と、両内輪102間に設けられた内輪間座104と、内外輪間において保持器106により保持されている転動体105とで構成される内輪回転型の複列アンギュラ玉軸受101が記載されている。そして、この転がり軸受装置101は、内輪間座104に潤滑剤溜め空間115を設け、軸の回転に伴う遠心力で内輪間座104と内輪102との突合わせ面である接触面117からグリースを軌道面に自然供給している。
【0004】
【特許文献1】実開平4−133024号公報(図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された転がり軸受装置101では、接触面117を潤滑剤流出路としているので、軌道面には、潤滑剤溜め空間115に封入されたグリース全体が供給されるのではなく、当該グリースのうち増ちょう剤から分離した基油が主として供給されることになる。この基油は粘性が低く流動性が高いので、軸受外に比較的容易に流出してしまう。このため、前記転がり軸受装置101においては、軸受の潤滑寿命の向上効果が十分でなかった。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、グリース自体を連続して軸受内部に供給することにより、軸受の潤滑寿命を向上させることができる転がり軸受装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の転がり軸受装置は、外周に内輪軌道面を有し、回転側軌道輪である内輪と、内周に外輪軌道面を有し、固定側軌道輪である外輪と、前記内輪軌道面と前記外輪軌道面との間を転動する複数の転動体と、前記内輪の軸方向一方の端面に当接しており、この内輪に当接する端面にグリース貯留空間を有する内輪間座と、前記内輪間座の端面と前記内輪の端面との当接部を通って、前記内輪又は内輪間座の外周面に前記グリース貯留空間内のグリースを供給するグリース供給路と、を備えた転がり軸受装置であって、前記グリース供給路は、前記内輪間座の端面と前記内輪の端面とのいずれか一方に形成された渦巻き状の溝で構成されており、この渦巻き状の溝は、前記内輪の回転方向と逆向きに外方へ向かう形状であり、前記グリース貯留空間の外径面から周方向成分をもって径方向外方に延びるとともに、前記内輪間座又は内輪の外径面において周方向成分をもつ角度で軸受空間に開口していることを特徴としている。
【0007】
本発明の転がり軸受装置では、グリース貯留空間と内輪間座又は内輪の外周面との間をつなぐグリース供給路として渦巻き状の溝を形成しており、この溝を、内輪の回転方向と逆向きに外方へ向かう形状としている。また、前記渦巻き状の溝を、グリース貯留空間の外径面から周方向成分をもって径方向外方に延びるとともに、前記内輪間座又は内輪の外径面において周方向成分をもつ角度で軸受空間に開口させている。そして、内輪及び内輪間座の回転によりグリース貯留空間内のグリースに遠心力を与えることで、グリース貯留空間内のグリースをこの渦巻き状の溝に容易に導くことができ、また渦巻き状の溝内のグリースを軸受内部に途切れることなく連続的に供給することができる。その結果、グリース自体を軸受内部に連続して供給することができ、供給されたグリースは、その中に含まれる増ちょう剤の作用により軸受内部に保持されるので、軸受の潤滑寿命を向上させることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の転がり軸受装置によれば、グリース自体を連続して軸受内部に供給することができ、これにより軸受の潤滑寿命を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の転がり軸受装置の実施形態を、添付した図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係る転がり軸受装置1の概略断面図である。この転がり軸受装置1は、図示しない軸が内嵌される、回転側軌道輪である内輪2と、この内輪2の径方向外側において当該内輪2と同心に配置される、固定側軌道輪である外輪3と、これらの間に配置された転動体としての複数の玉4と、これら複数の玉4を保持する保持器5と、を有するアンギュラ玉軸受と、内輪間座6とで構成される転がり軸受装置である。
【0010】
内輪2の外周面には内輪軌道面2aが形成されており、外輪3の内周面には、前記内輪軌道面2aと対向する外輪軌道面3aが形成されている。
保持器5のポケット5aにより周方向において所定間隔に保持された玉4が、内輪軌道面2aと外輪軌道面3aとの間を転動する。
内輪間座6は、内輪2の軸方向一方の端面2cに当接して配設されている。内輪2の端面2cに当接する内輪間座6の端面6aに、円筒形状のグリース貯留空間7が形成されており、このグリース貯留空間7内にグリースが封入される。グリース貯留空間7に充填するグリース9としては、基油となる潤滑油に増ちょう剤を分散させて半固体にした一般的なグリースを使用することができる。
【0011】
転がり軸受装置1は、グリース貯留空間7内に封入されたグリースを、前記内輪間座6の端面6aと内輪2の端面2aとの当接部を通って、内輪2又は内輪間座6の外周面に供給するためのグリース供給路である渦巻き状の溝8を有している。
図2は、この渦巻き状の溝8を示す、図1のA−A線矢視説明図である。なお、図2においては、分かり易くするために、端面6aの径方向寸法(外径と内径の差)を誇張して描いている。渦巻き状の溝8は、内輪間座6の端面6aであって、グリース貯留空間7の径方向外側の環状部分に形成されている。溝8は、一端がグリース貯留空間7につながっており、他端が、外輪3と内輪2との間の軸受空間20につながっている。溝8の他端は、保持器5と径方向に重なる範囲に開口する。
溝8は、内輪2の回転方向Rと逆向きに外方に向かう形状、すなわち図2において、時計廻りの方向へ徐々に径大となる形状を呈している。また、溝8は、グリース貯留空間7の外径面7aから周方向成分をもって径方向外方に延びるとともに、内輪間座6の外径面6bにおいて、周方向成分をもつ角度で前記軸受空間20に開口している。本実施の形態における溝8の断面は、半円形状(図1参照)であり、その幅wは、グリースの流動性を考慮して0.5〜1.0mm程度に設定されている。なお、本明細書において、「周方向成分をもって」とは、渦巻き状の溝8の一端(グリース貯留空間7側の端部)が、グリース貯留空間7の外径面7aから径方向外方に、すなわち外径面7aの接線と直交する方向に延びるのを除く趣旨であり、又、「周方向成分をもつ角度で」とは、渦巻き状の溝8の他端が、内輪間座6の外径面6bから径方向外方に、すなわち外径面6bの接線と直交する方向で軸受空間20に開口するのを除く趣旨である。換言すれば、図2に示されるように、溝8の中心線Oと外径面7a又は外径面6bとが、鋭角の交差角αで交差する趣旨である。
【0012】
グリース貯留空間7に貯留されたグリース9は、内輪2及び内輪間座6の回転時に当該グリース貯留空間7からグリース供給路である渦巻き状の溝8を通って内輪間座6及び内輪2の各外周面6b,2bに供給される。より詳細には、グリース貯留空間7に貯留されているグリース9には、内輪2及び内輪間座6が回転することにより遠心力が付与されるが、本実施の形態では、渦巻き状の溝8が、内輪2の回転方向Rと逆向きに外方に向かう形状を呈しているので、当該渦巻き状の溝8内のグリースに対してこれを外方に(軸受空間側に)移動させようとする分力が作用する。したがって、内輪2の回転によりグリースを軸受空間20に自然補給することができる。
本実施の形態では、グリース貯留空間7と軸受空間20とをつなぐグリース供給路として、溝を用いているので、基油に比べて粘性が高く流動性の低いグリース自体を軸受空間20に供給することができる。
また、本実施の形態では、渦巻き状の溝8が、周方向成分をもつ角度でグリース貯留空間7の外径面7aから延びているので、グリース貯留空間7内に封入されているグリースはスムーズに途切れることなく当該渦巻き状の溝8に移動することができる。さらに、渦巻き状の溝8が、周方向成分をもつ角度で軸受空間20に開口しているので、同じくスムーズに途切れることなく軸受空間20に移動することができる。
軸受空間20に供給されたグリースは、その中に含まれる増ちょう剤の作用により当該軸受空間20に長期に亘り保持されるので、転がり軸受装置1の潤滑寿命を向上させることができる。
【0013】
なお、本発明は前述した実施の形態に限らず、本発明の範囲内で適宜変更が可能である。例えば、前記実施の形態では、渦巻き状の溝8を内輪間座6の端面6aに形成しているが、内輪2の軸方向一方の端面2cに形成してもよい。また、溝8の断面形状は、半円形状以外に四角形状、V溝形状であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施の形態に係る転がり軸受装置を示す概略断面図である。
【図2】渦巻き状の溝8を示す、図1のA−A線矢視説明図である。
【図3】従来の転がり軸受装置を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0015】
1 転がり軸受装置
2 内輪(回転側軌道輪)
3 外輪(固定側軌道輪)
4 玉(転動体)
5 保持器
6 内輪間座
7 グリース貯留空間
8 渦巻き状の溝(グリース供給路)
9 グリース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周に内輪軌道面を有し、回転側軌道輪である内輪と、
内周に外輪軌道面を有し、固定側軌道輪である外輪と、
前記内輪軌道面と前記外輪軌道面との間を転動する複数の転動体と、
前記内輪の軸方向一方の端面に当接しており、この内輪に当接する端面にグリース貯留空間を有する内輪間座と、
前記内輪間座の端面と前記内輪の端面との当接部を通って、前記内輪又は内輪間座の外周面に前記グリース貯留空間内のグリースを供給するグリース供給路と、を備えた転がり軸受装置であって、
前記グリース供給路は、前記内輪間座の端面と前記内輪の端面とのいずれか一方に形成された渦巻き状の溝で構成されており、この渦巻き状の溝は、前記内輪の回転方向と逆向きに外方へ向かう形状であり、前記グリース貯留空間の外径面から周方向成分をもって径方向外方に延びるとともに、前記内輪間座又は内輪の外径面において周方向成分をもつ角度で軸受空間に開口していることを特徴とする転がり軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−168140(P2009−168140A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−6759(P2008−6759)
【出願日】平成20年1月16日(2008.1.16)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】