説明

転がり軸受

【課題】 主軸剛性の低下を防止し、機械の小型化を図ることができると共に、高速長寿命、メンテナンスフリーを可能にする転がり軸受を提供する。
【解決手段】 グリース溜り4を、内輪傾斜部CBのある側の軸受端面の軸方向一方に隣接して配置し、グリース溜り4から突出するノズル7を内輪傾斜部CBの外周に被さるように設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、グリース潤滑で用いられる工作機械主軸等に使用する転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械主軸用軸受の潤滑方法として、メンテナンスフリーで使用可能なグリース潤滑、搬送エアーに潤滑オイルを混合してオイルをノズルより軸受内に噴射するエアオイル潤滑、軸受内に軸受油を直接に噴射するジェット潤滑等の方法がある。
最近の工作機械は、加工能率を上げるために、ますます高速化の傾向にあり、主軸軸受の潤滑も比較的安価で簡単に高速化が可能なエアオイル潤滑が多く用いられてきている。しかし、このエアオイル潤滑法は、付帯設備としてエアオイル供給装置が必要であることと、多量のエアーを必要とすることから、コスト、騒音、省エネ、省資源の観点から問題がある。また、オイルの飛散によって環境を悪化させる問題もある。これらの問題点を回避するため、最近ではグリース潤滑による高速化が注目され始め、要望も多くなってきている。
【0003】
グリース潤滑は、軸受組立時に封入されたグリースのみで潤滑するため、高速運転すると、軸受発熱によるグリースの劣化や、軌道面、特に内輪での油膜切れのため、早期焼き付きに至ってしまうことが考えられる。特に、dn値が100万(軸受内径mm×回転数rpm)を超えるような高速回転領域では、グリース寿命を保証するのは困難である。
【0004】
グリース寿命を延長させる手段として、新しい提案も紹介されている。一つには、外輪軌道面部にグリース溜りを設けて高速長寿命を狙った提案(特許文献1)がある。またスピンドル外部に設けたグリース補給装置により、適宜軸受部に給脂して潤滑する提案(特許文献2)がある。
【特許文献1】特開平11−108068号公報
【特許文献2】特開2003−113998号公報
【特許文献3】特開2006−132765号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記各提案例の技術は、エアオイル潤滑と同等の使用回転数(>dn値150万)や、またメンテナンスフリーを考えると満足できるものではない。
本件出願人は、特許文献1の技術を発展させた技術(特許文献3)を提案している。この特許文献3においては、軸受正面側に隣接したグリース溜りから伸びる隙間形成片と、外輪転走面付近に設けられた段差面の間から、グリースの基油が毛細管現象や軸受軌道面付近の空気流等によって運ばれ、転走面に供給される。また、エアーなどにより潤滑油を搬送する必要もない。この技術では、グリース溜りに封入されたグリースだけを使用し、軸受の高速、長寿命、メンテナンスフリーを実現している。
【0006】
この技術では、グリース溜りから伸びる隙間形成片を、外輪カウンター側から外輪内径側に挿入する。そのため、この技術を接触角を持つアンギュラ玉軸受に適用するには、グリース溜りをアンギュラ玉軸受の正面側に隣接させる必要があり、軸受と主軸先端工具の距離がその分、不所望に長くなってしまう。
一方、固定側つまり工具側をアンギュラ玉軸受の背面組合わせで支えることが多い工作機械主軸では、剛性低下の防止や機械の小型化のために、軸受と主軸先端(工具)までの距離を短くすることが一般的である。
【0007】
この発明の目的は、主軸剛性の低下を防止し、機械の小型化を図ることができると共に、高速長寿命、メンテナンスフリーを可能にする転がり軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の転がり軸受は、内輪、外輪、およびこれら内外輪の軌道面間に介在した複数の転動体を有する転がり軸受において、前記内輪の外径部に、この内輪の端面側から同内輪の軌道面側に向かう程大径となる内輪傾斜部が設けられ、前記内輪傾斜部のある側の軸受端面の軸方向一方に隣接して配置されるグリース溜りと、このグリース溜りから突出して前記内輪傾斜部の外周に被さるノズルであって、グリースの基油を滲み出させる基油吐出部を含むノズルとを有することを特徴とする。
【0009】
この構成によると、グリース溜りを、内輪傾斜部のある側の軸受端面の軸方向一方に隣接して配置し、このグリース溜りから突出するノズルを内輪傾斜部の外周に被さるように設けたため、外輪転走面付近に段差面等を設けることなく、ノズルを軸受内に挿入させてこのノズルの基油吐出部から、グリースの基油を滲み出させることができる。グリース溜り内のグリースの基油は、軸受の内輪回転による発熱、温度上昇に起因するグリースの圧力上昇で分離される。この基油は、例えば、内輪回転で生じる空気流により内輪軌道面や転動体等に供給されるか、または、内輪回転の遠心力および表面張力により内輪傾斜部の斜面を経由して内輪軌道面に供給され、潤滑に寄与する。
【0010】
したがって、エアー等により潤滑油を強制的に搬送する必要がなく、グリース溜りに封入されたグリースを使用して、軸受の高速、長寿命、及びメンテナンスフリーを実現することができる。外輪転走面付近に段差面等を設けないため、その分、軸受の剛性低下を防止して軸受サイズの小形化を図ることができる。軸受の剛性を確保できるため、主軸剛性の低下を防止することが可能となる。潤滑油を強制的に搬送する手段も不要とすることで、構造を簡単化できるうえ、機械、装置全体の小型化を図ることも可能となる。
【0011】
この発明において、アンギュラ玉軸受であって、このアンギュラ玉軸受の外輪背面に隣接して前記グリース溜りを設けても良い。このように、グリース溜りを前記外輪背面に隣接して設けることで、例えば、このアンギュラ玉軸受の背面組合わせで主軸等を支持する場合、軸受と主軸先端までの距離を短くすることができる。
つまり、従来のように、グリース溜りを外輪正面に隣接して設けて、アンギュラ玉軸受の背面組合わせとした場合、先端側つまり工具側に近い軸受の先端にグリース溜りが位置することになる。しかも後端側つまりリア側の軸受の後端にグリース溜りが位置することになる。したがって、全体としてグリース溜りの幅だけ軸方向に不所望に長くなる。
本発明において、外輪背面に隣接してグリース溜りを設けた場合、このような問題を解決し、主軸剛性の低下を防止し、機械の小型化を確実に図ることができる。
【0012】
縦軸に設けられる前記アンギュラ玉軸受であって、前記グリース溜りをこのアンギュラ玉軸受の上部に設けても良い。この場合、グリース溜りから分離した基油を、重力の作用によって軸受側に自然に移動させ、軌道面に供給させ得る。したがって、基油を強制的に搬送する手段を不要とし、構造を簡単化できる。その分、製造コストの低減を図ることが可能となる。
【0013】
前記ノズルにおける基油吐出部付近に、基油を浸透させるブラシ状または布状の基油浸透手段を設けても良い。この場合、グリースから分離して基油は、基油浸透手段に浸透して内輪傾斜部の斜面上に確実に移動し、潤滑に寄与することができる。
前記内輪傾斜部に、前記基油吐出部から吐出させた基油を前記内輪の軌道面に導く溝を形成しても良い。内輪傾斜部の斜面上に、内輪の軌道面付近まで延びる最適な溝を形成することで、内輪傾斜部の斜面上で小径側から大径側に向けて空気流が効率良く流れ、基油吐出部から吐出した基油が軌道面または転動体に確実に運ばれ、潤滑に寄与することができる。
【0014】
前記ノズルは、前記内輪傾斜部の斜面に略平行なノズル内径側斜面を有し、このノズル内径側斜面に、前記基油吐出部から吐出させた基油を転動体近傍まで導く溝を形成しても良い。この場合、軸受内輪の小径側から大径側に向けて空気流が効率良く流れ、基油吐出部から吐出した基油が軌道面または転動体に確実に運ばれ、潤滑に寄与することができる。
【0015】
前記複数の転動体を保持する保持器を有し、前記転動体中心と前記保持器のポケット内径部との軸方向距離よりも、前記ノズルの先端と前記転動体中心との軸方向距離を小さく規定しても良い。この場合、内輪傾斜部の斜面とノズル内径側斜面との間から流れてきた空気流が、軌道面に向かって流れ易くなり、基油を転動体や軌道面に確実に供給することができる。
【0016】
前記複数の転動体を保持する保持器を有し、この保持器の内径面に、同保持器のポケット部の基準径よりも大径となる内径側ポケット部を設けても良い。この場合、内輪傾斜部の斜面とノズル内径側斜面との間から、基油を運んできた空気流が転動体から遠ざかるのを防ぎ、基油を内径側ポケット部で捕捉して転動体または軌道面に確実に供給することができる。
この発明において、工作機械主軸を支持するアンギュラ玉軸受であっても良い。軸受正面側にグリース溜りを設置していた従来技術のように軸受から軸端までの軸方向長さを、グリース溜り設置のために伸ばすことなく、グリース溜り内のグリースから分離した基油を用いた潤滑方法を工作機械主軸の分野に適用できる。
【発明の効果】
【0017】
この発明の転がり軸受は、内輪、外輪、およびこれら内外輪の軌道面間に介在した複数の転動体を有する転がり軸受において、前記内輪の外径部に、この内輪の端面側から同内輪の軌道面側に向かう程大径となる内輪傾斜部が設けられ、
前記内輪傾斜部のある側の軸受端面の軸方向一方に隣接して配置されるグリース溜りと、このグリース溜りから突出して前記内輪傾斜部の外周に被さるノズルであって、グリースの基油を滲み出させる基油吐出部を含むノズルとを有するため、主軸剛性の低下を防止し、機械の小型化を図ることができると共に、高速長寿命、メンテナンスフリーを可能にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
この発明の第1の実施形態を図1および図2と共に説明する。
この第1の実施形態に係る転がり軸受は、内輪1、外輪2、および内外輪1,2の軌道面1a,2a間に介在した複数の転動体3を有し、軸受背面つまり外輪背面2hに隣接して後述するグリース溜り4を配置している。複数の転動体3は、外輪案内形の保持器5であって、円筒形状で所定間隔おきに複数のポケット5aが形成された保持器5に保持されている。この転がり軸受はアンギュラ玉軸受であり、このアンギュラ玉軸受の内輪1は、例えば、図示しない工作機械主軸に嵌合して回転可能とされ、外輪2はスピンドルユニットにおける図示しないハウジングの内周に嵌合状態で固定支持される。
【0019】
前記内輪1の外径部には、この内輪1の端面側から軌道面1a側に向かう程大径となる内輪傾斜部CBいわゆる内輪カウンター部が設けられている。つまり、内輪1のうち、その軌道面1aにおける接触角α1が生じる方向と反対側の縁部に続く外径部に、内輪カウンター部が設けられている。グリース溜り4の半径方向内方であって内輪正面1sに隣接して当接する内輪間座6が設けられている。前記内輪正面1sは、前記内輪カウンター部の最小径部に続く。
【0020】
グリース溜り4及びノズル7について説明する。
グリース溜り4は、内部にグリースを溜める環状の容器部8を有する。この容器部8から軸方向一方つまり軸受内部まで突出して内輪傾斜部CBの外周に被さるノズル7が設けられている。このノズル7は、グリースGrの基油を滲み出させる基油吐出部7aを含む。
前記環状の容器部8は、外輪位置決め間座としての外筒部9、前記内輪間座6の外径面6aに所定の半径方向隙間δ1を介して配置される内筒部10、これら内外筒部10,9における一側面の大部分を塞ぐ一側面部11、および内外筒部10,9における他側面を塞ぐ他側面部12を有する。これら外筒部9、内筒部10、一側面部11、および他側面部12により囲繞される環状空間にグリースGrが封入される。前記他側面部12の例えば円周方向一箇所に、容器部8内にグリースGrを封入する図示外のグリース封入孔が形成されている。
【0021】
前記ノズル7は、前記一側面部11の半径方向内周縁部から、前記軸方向一方に所定小距離突出する外周側ノズル本体13、前記内筒部10の右端から一体に前記軸方向一方に突出する内周側ノズル本体14とを有する。これら内周側ノズル本体14の外径面14aと、外周側ノズル本体13の内径面13aとの間に、環状のグリース基油浸透隙間δ2が形成されている。また、外周側ノズル本体13のうち前記内輪傾斜部CBに被さる一斜面13b、および内周側ノズル本体14のうち前記内輪傾斜面CBに被さる他斜面14bは、同内輪傾斜面CBの外径面に一定の環状隙間δ3を隔てて配置される。これら一斜面13bおよび他斜面14bによりノズル内径側斜面15を成す。
【0022】
前記ノズル7の基油吐出部7aは、一斜面13bの軸方向一端と他斜面14bの軸方向他端との間で、全周にわたって形成されるスリットであり、前記グリース基油浸透隙間δ2に連通する。また、基油吐出部7aは、前記ノズル内径側斜面15に対して略直交する方向に開通してグリース基油浸透隙間δ2に連通する。なお、前記スリットは、全周にわたり形成されない場合もあり得る。例えば、スリットを円周方向一定間隔置き、換言すれば円周等配に形成し、円周上で均一にグリース基油が吐出されるようにしても良い。
前記基油吐出部7aと、前記グリース基油浸透隙間δ2と、前記容器部8内とは連通し、これにより、前記容器部8に封入されるグリースGrの基油がグリース基油浸透隙間δ2を介して基油吐出部7aに導かれ、後述するように軸受の潤滑に供される。
【0023】
前記グリース溜り4およびノズル7は、転がり軸受に組み付ける前の別体品の状態では、前記基油吐出部7aを、例えば、取り外し自在な図示外の封止部材で封止しても良い。この場合、グリース溜り4およびノズル7を別体品として取り扱ってもグリースGrが露出せず、グリース封入量の管理等に不安を与えることなく容易に取り扱うことができ、製品の信頼性を向上させることができる。なお、グリース溜り4およびノズル7を、転がり軸受に組み付けた一体品の状態では、前記封止部材は取り外して基油吐出部7aの流路を確保している。
【0024】
グリース溜り4等を図1のように組み付けた転がり軸受の作用について説明する。
主軸等へ軸受を組み込んだとき、グリース溜り4の容器部8内、グリース基油浸透隙間δ2、および基油吐出部7aにはグリースGrが充填されており、軸受内へは初期潤滑用としてグリースGrが封入されている。
【0025】
軸受を運転すると、密閉された容器部8等に溜められたグリースGrにおいて、運転時の温度上昇により膨張率の異なる基油と増稠剤とが分離する。同時に、密閉された容器部8の内部圧力が上昇する。この内部圧力により、分離された基油がグリース基油浸透隙間δ2を経て、基油吐出部7a付近に留まる。
【0026】
ここで、内輪回転の遠心力でグリース基油が基油吐出部7aから運ばれる場合について説明する。
温度上昇によりグリース溜り4から基油が連続的に吐出されるため、基油はやがて表面張力によって盛り上がり、内輪傾斜部CBに接する。
この内輪傾斜部CBに接した基油は、表面張力と前記遠心力とにより付着した箇所から内輪傾斜部CBのテーパー大径側に向かって斜面上を移動し、やがて軌道面1aに達して潤滑に寄与する。前記内輪傾斜部CBの軸方向に対する傾斜角度α2は、基油粘度や内輪回転数等を考慮し、基油が表面張力と遠心力とで移動し易いように、最適に設定可能である。
以下の表に示すように、試験において、傾斜角度α2と、油が移動可能な軸受の回転数との関係確認した。
【表1】

【0027】
上記温度が上昇して定常状態になると、内部圧力の上昇要因が消滅するので、基油の吐出と並行して内部圧力が徐々に減じ、単位時間当たりの基油吐出量も減少していく。その後、運転が中止されると、グリース溜り4の温度も下降し、グリース溜り4の内部圧力が略大気圧となる。このとき、圧力による基油の吐出はなく、基油吐出部7aには基油が満たされる。したがって、運転停止状態では、グリース溜り4は密閉された状態にある。
その後、運転が再開されると、グリース溜り4の内部圧力が再度上昇する。このような温度上昇と下降のヒートサイクルによって、グリース溜り4内での圧力変動が繰り返され、グリースGrから分離した基油が確実にノズル7の基油吐出部7aに移動して、内輪1の軌道面1a、転動体3、外輪2の軌道面2aに繰り返し供給される。
【0028】
本実施形態では、内輪回転の遠心力でグリース基油が基油吐出部7aから運ばれる場合について説明したが、この代わりに、軸受内の空気流でグリース基油が運ばれる場合について説明する。
軸受を運転すると、密閉された容器部8等に溜められたグリースGrにおいて、運転時の温度上昇により膨張率の異なる基油と増稠剤とが分離する。同時に、密閉された容器部8の内部圧力が上昇する。この内部圧力により、分離された基油がグリース基油浸透隙間δ2を経て、基油吐出部7a付近に留まる。
【0029】
グリース溜り4から基油が連続的に吐出されるが、回転速度が速く軸受内部の空気流が強いときには、上記のように基油が内輪傾斜部CBに接する前に、基油吐出部7a付近から飛ばされることがある。
この飛ばされた基油は、前記空気流に乗り内輪軌道面1aや転動体3等に供給され、潤滑に寄与する。なお、運転停止状態では、圧力による基油の吐出はなく、基油吐出部7aには基油が満たされる。したがって、運転停止状態では、グリース溜り4は密閉された状態にある。
【0030】
上記軸受内の空気流で基油が運ばれる場合において、転動体中心P1と保持器5のポケット内径部との軸方向距離L1よりも、ノズル7の先端7bと前記転動体中心P1との軸方向距離L2を小さく規定しても良い。この構成によると、基油吐出部7aから流れてくる空気流が保持器5よりも遠ざかることを防ぎ、保持器5の内径側から転走部に基油をより確実に供給できる。
【0031】
以上説明した第1の実施形態に係る転がり軸受によれば、グリース溜り4を、内輪傾斜部CBのある側の軸受端面の軸方向一方に隣接して配置し、このグリース溜り4から突出するノズル7を内輪傾斜部CBの外周に被さるように設けたため、外輪軌道面付近に段差面等を設けることなく、ノズル7を軸受内に挿入させてこのノズル7の基油吐出部7aから、グリースGrの基油を滲み出させることができる。軸受の内輪回転による発熱、温度上昇に起因するグリースGrの圧力上昇で基油を分離する。この基油は、内輪回転の遠心力により内輪傾斜部CBの斜面を経由して内輪軌道面1aに供給されるか、または、内輪回転で生じる空気流により内輪軌道面1aや転動体3等に供給され、潤滑に寄与する。
【0032】
したがって、エアー等により潤滑油を強制的に搬送する必要がなく、グリース溜り4に封入されたグリースGrを使用して、軸受の高速、長寿命、及びメンテナンスフリーを実現することができる。外輪軌道面付近に段差面等を設けないため、その分、軸受の剛性低下を防止して軸受サイズの小形化を図ることができる。軸受の剛性を確保できるため、主軸剛性の低下を防止することが可能となる。また、ノズル7を、アンギュラ玉軸受の内輪傾斜部CBの外周に被さるように設け、外輪軌道面付近に段差面等を設ける必要がなくなったため、外輪案内形の保持器5を採用することができ、これにより軸受の高速化をより図ることができる。潤滑油を強制的に搬送する手段も不要とすることで、構造を簡単化できるうえ、機械、装置全体の小型化を図ることも可能となる。
【0033】
本実施形態では、アンギュラ玉軸受の外輪背面2hに隣接してグリース溜り4を設けることで、例えば、このアンギュラ玉軸受の背面組合わせで主軸等を支持する場合、軸受と主軸先端までの距離を短くすることができる。
つまり、従来のように、グリース溜りを外輪正面に隣接して設けて、アンギュラ玉軸受の背面組合わせとした場合、先端側つまり工具側に近い軸受の先端にグリース溜りが位置することになる。しかも後端側つまりリア側の軸受の後端にグリース溜りが位置することになる。したがって、全体としてグリース溜りの幅だけ軸方向に不所望に長くなる。
本実施形態では、外輪背面2hに隣接してグリース溜り4を設けたため、このような問題を解決し、主軸剛性の低下を防止し、機械の小型化を確実に図ることができる。
【0034】
また、ノズル7の基油吐出部7aは全周にわたって形成されるスリットであるため、吐出される基油が円周上で切れ目なく滲み出される。したがって、基油を軌道面1aへより確実に供給することができる。スリットを円周等配に形成し、円周上で均一にグリース基油が吐出されるように構成した場合、外周側ノズル本体13と内周側ノズル本体14とが、スリット間の柱部(図示せず)により繋がるため、剛性を高めることができる。したがって、グリース基油浸透隙間δ2、基油吐出部7aのスリット幅を一定に保つことが可能となる。これにより、グリース基油を停滞させることなく安定して軌道面1a等に供給することができる。さらに、ノズル内径側斜面15と、内輪1の内輪傾斜部CBとの間の環状隙間δ3を一定に保持することができるため、この環状隙間δ3を通る基油の潤滑信頼性を高め、軸受の高速化、長寿命化を図ることができる。前記剛性を高めることができるため、容器部8のうち、特に一側面部11および他側面部12の薄肉化を図ることができ、これにより全体の軽量化を図ることが可能となる。
【0035】
次に、この発明の第1の実施形態に係る転がり軸受を部分的に変更した変更形態を図3ないし図7と共に説明する。
以下の説明においては、各形態で先行する形態で説明している事項に対応している部分には同一の参照符を付し、重複する説明を略する場合がある。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、先行して説明している形態と同様とする。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0036】
図3(A)は、転がり軸受の内輪傾斜部に溝を形成した断面図、同図(B)は、同内輪傾斜部の要部を破断して示す平面図である。図1、図2も参照しつつ説明する。軸受内の空気流でグリース基油が運ばれる場合において、空気流が基油吐出部7aから軌道面方向に流れ易くするため、内輪傾斜部CBに複数の溝CB1を形成している。これら溝CB1は円周方向一定間隔おきに形成され、各溝CB1は、例えば、軸方向に沿って且つ内径側から内輪軌道面1a付近まで延びるように形成されている。ただし、各溝CB1を、内輪傾斜部CBにおける基油吐出部7aに臨む部位から内輪軌道面1a付近まで延びる程度に短く形成しても良い。
この構成によると、内輪回転により基油吐出部7aと比べて転動体3側が低圧となり、空気流が内輪傾斜部CBの小径側から大径側に向けて効率良く流れ、基油吐出部7aから吐出した基油が軌道面1aまたは転動体3に確実に運ばれ、潤滑に寄与することができる。
【0037】
図4は、内輪傾斜部の溝を軸方向に対し角度を付けた場合の平面図であり、図5は、内輪傾斜部の溝を湾曲させた場合の平面図である。この場合においても、内輪回転により基油吐出部7aと比べて転動体3側が低圧となり、内輪傾斜部CBの小径側から大径側に向けて空気流がより効率良く且つ円滑に流れ得る。これにより、基油吐出部7aから吐出した基油が軌道面1aまたは転動体3に確実に運ばれ、潤滑に寄与することができる。図4、図5においても、各溝CB1を、内輪傾斜部CBにおける基油吐出部7aに臨む部位から内輪軌道面1a付近まで延びる程度に短く形成しても良い。
【0038】
図6は、同変更形態に係り、内輪傾斜部の溝を螺旋状に形成した場合の平面図である。
この場合、内輪回転により基油吐出部7aと比べて転動体3側が低圧となり、内輪傾斜部CBの小径側から大径側に向けて空気流が最も効率良く且つ円滑に流れ得る。基油吐出部7aから吐出した基油が軌道面1aまたは転動体3に確実に運ばれ、潤滑に寄与することができる。
なお、図3乃至図6の各変更形態において、溝CB1を内輪軌道面1a付近ではなく内輪軌道面1aに至るまで形成しても良い。この場合、空気流で飛ばされなかった基油がこの溝CB1に付着しても、内輪回転により遠心力により内輪軌道面1aに前記基油が容易に運ばれ得る。
【0039】
図7(A)は、ノズルの内径側斜面に溝を形成した場合の要部の断面図、同図(B)は、同ノズルの内径側斜面を半径方向内方側から見た底面図である。
前記外周側ノズル本体13のうち内輪傾斜部CBに被さる一斜面13bには、円周方向一定間隔おきに複数の溝13baを形成している。各溝13baは、前記一斜面13bの軸方向一端から軸方向他端にわたり軸方向に沿って形成されている。
【0040】
この構成によると、内輪回転により基油吐出部7aと比べて転動体3側が低圧となり、空気流が、ノズル7の内径側斜面15と内輪傾斜部CBとの間の環状隙間δ3(図2参照)において小径側から大径側に向けて効率良く流れ、基油吐出部7aから吐出した基油が軌道面1aまたは転動体3に確実に運ばれ、潤滑に寄与することができる。ただし、上記溝13baを、内輪傾斜部CBに設けたように軸方向に対して角度を付けても良いし、螺旋状に形成しても良い。図7等のノズル7の内径側斜面15に形成した溝13baと、図3乃至図6の少なくともいずれか一つの溝CB1とを併用して設けても良い。
【0041】
次に、この発明の第2の実施形態を図8と共に説明する。
この第2の実施形態に係る転がり軸受では、ノズル7における基油吐出部7a付近に、基油を浸透させる基油浸透手段16を設けている。この基油浸透手段16は、内輪回転による摩耗に耐え得る材質で形成された、例えば、ブラシ状部材または布状部材等によって実現される。ただし、基油浸透手段16は、基油を浸透させる機能を有し、かつ内輪回転に悪影響を与えなければ、ブラシ状部材または布状部材だけに限定されるものではない。この基油浸透手段16が、基油吐出部7aを成すスリットに沿って形成される。
この構成によると、基油吐出部7aから吐出する基油は、基油浸透手段中を浸透し無駄なく軸受内輪側に移動し、確実に潤滑に寄与させることができる。その他第1の実施形態と同様の構成となっており、第1の実施形態と同様の作用、効果を奏する。
【0042】
次に、この発明の第3の実施形態を図9と共に説明する。
第3の実施形態では、保持器5の内径面に、同保持器5のポケット部5aの基準径D1よりも大径となる内径側ポケット部5bを設けている。つまり保持器5のポケット部5aをいわゆるアキシアル平面で切断して見た断面において、(内径側ポケット部5bの内径側ポケット径D2)>(前記基準径D1)となる関係を満たす保持器形状としている。
この場合、内輪傾斜部CBの斜面とノズル内径側斜面15との間から、基油を運んできた空気流が転動体3から遠ざかるのを防ぎ、基油を内径側ポケット部5bで捕捉して転動体3または軌道面2aに確実に供給することができる。その他第1の実施形態と同様の構成となっており、第1の実施形態と同様の作用、効果を奏する。
【0043】
図10は、工作機械主軸を支持するアンギュラ玉軸受を縦軸で使用した例を表す断面図である。図10に示すように、縦軸17に設けられるアンギュラ玉軸受であって、グリース溜り4をこのアンギュラ玉軸受の上部に設けても良い。この場合、グリース溜り4から分離した基油を、重力の作用によって軸受側に自然に移動させ、軌道面1aに供給させ得る。したがって、基油を強制的に搬送する手段を不要とし、構造を簡単化できる。その分、製造コストの低減を図ることが可能となる。
【0044】
図11は、この発明の第4の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
上記各実施形態では、転がり軸受としてアンギュラ玉軸受を用いた例を示したが、図11に示すように、円筒ころ軸受を適用可能である。この場合であっても、上記各実施形態と同様の作用、効果を奏する。
なお、図示しないが、円錐ころ軸受、および深溝玉軸受等の種々の転がり軸受を適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】この発明の第1の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
【図2】同転がり軸受の要部を拡大して表す断面図である。
【図3】(A)同転がり軸受の内輪傾斜部に溝を形成した断面図、(B)同内輪傾斜部の要部を破断して示す平面図である。
【図4】第1の実施形態に係る転がり軸受を部分的に変更した変更形態に係り、内輪傾斜部の溝を軸方向に対し角度を付けた場合の平面図である。
【図5】同変更形態に係り、内輪傾斜部の溝を湾曲させた場合の平面図である。
【図6】同変更形態に係り、内輪傾斜部の溝を螺旋状に形成した場合の平面図である。
【図7】(A)第1の実施形態に係る転がり軸受におけるノズルの内径側斜面に溝を形成した場合の要部の断面図、(B)同ノズルの内径側斜面を半径方向内方側から見た底面図である。
【図8】この発明の第2の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
【図9】この発明の第3の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
【図10】工作機械主軸を支持するアンギュラ玉軸受を縦軸で使用した例を表す断面図である。
【図11】この発明の第4の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
【符号の説明】
【0046】
1…内輪
1a…軌道面
2…外輪
2a…軌道面
2h…外輪背面
3…転動体
4…グリース溜り
5…保持器
5b…内径側ポケット部
CB…内輪傾斜部
CB1…溝
7…ノズル
7a…基油吐出部
13ba…溝
15…ノズル内径側斜面
16…基油浸透手段
17…縦軸


【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪、外輪、およびこれら内外輪の軌道面間に介在した複数の転動体を有する転がり軸受において、
前記内輪の外径部に、この内輪の端面側から同内輪の軌道面側に向かう程大径となる内輪傾斜部が設けられ、
前記内輪傾斜部のある側の軸受端面の軸方向一方に隣接して配置されるグリース溜りと、
このグリース溜りから突出して前記内輪傾斜部の外周に被さるノズルであって、グリースの基油を滲み出させる基油吐出部を含むノズルと、
を有することを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
請求項1において、アンギュラ玉軸受であって、このアンギュラ玉軸受の外輪背面に隣接して前記グリース溜りを設けた転がり軸受。
【請求項3】
請求項2において、縦軸に設けられる前記アンギュラ玉軸受であって、前記グリース溜りをこのアンギュラ玉軸受の上部に設けた転がり軸受。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記ノズルにおける基油吐出部付近に、基油を浸透させるブラシ状または布状の基油浸透手段を設けた転がり軸受。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記内輪傾斜部に、前記基油吐出部から吐出させた基油を前記内輪の軌道面に導く溝を形成した転がり軸受。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記ノズルは、前記内輪傾斜部の斜面に略平行なノズル内径側斜面を有し、このノズル内径側斜面に、前記基油吐出部から吐出させた基油を転動体近傍まで導く溝を形成した転がり軸受。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、前記複数の転動体を保持する保持器を有し、前記転動体中心と前記保持器のポケット内径部との軸方向距離よりも、前記ノズルの先端と前記転動体中心との軸方向距離を小さく規定した転がり軸受。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、前記複数の転動体を保持する保持器を有し、この保持器の内径面に、同保持器のポケット部の基準径よりも大径となる内径側ポケット部を設けた転がり軸受。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項において、工作機械主軸を支持するアンギュラ玉軸受である転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−162341(P2009−162341A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−1782(P2008−1782)
【出願日】平成20年1月9日(2008.1.9)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】