説明

転がり軸受

【課題】何れの部材に関しても表面の残留オーステナイト量を多くせずに、転がり接触部に働く接線力を低く抑えられて、圧痕起点型の早期剥離を防止できる転がり軸受を実現する。
【解決手段】各玉6、6は、窒化処理又は浸炭窒化処理により、転動面の窒素濃度を0.2〜2.0質量%とすると共に、Si及びMnを含有した窒化物であるSi・Mn系窒化物の面積率を1〜20%とする。外輪3及び内輪5と上記各玉6、6とのうちの少なくとも1種の部材を構成する金属材料中に含まれる非金属介在物の粒径を抑える。具体的には、極値統計法により推定した、面積30000mm2 中での、酸化物系の最大介在物の寸法と、TiN系の最大介在物の寸法とのうち、大きい方の最大介在物の寸法に関して、長径Dと短径dとの積の平方根√(D×d)を推定介在物寸法√(areamax )とした場合に、√(areamax )<30μmを満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車、農業機械、建設機械、その他各種一般機械の回転支持部に組み込んだ状態で使用する転がり軸受の改良に関する。具体的には、表面起点剥離を抑えて、使用条件が厳しい場合でも十分な耐久性を確保できる転がり軸受の実現を図るものである。尚、本発明の対象となる転がり軸受には、玉軸受に限らず、円筒ころ軸受、円すいころ軸受、自動調心ころ軸受も含む。更には、ラジアル転がり軸受に限らず、スラスト転がり軸受も含む。但し、以下の説明は、最も一般的な転がり軸受である、ラジアル玉軸受を中心に行う。
【背景技術】
【0002】
自動車用の変速機等、各種回転機械装置の回転支持部に、例えば図1に示す様なラジアル玉軸受1が組み込まれている。このラジアル玉軸受1は、内周面に外輪軌道2を有する外輪3と、外周面に内輪軌道4を有する内輪5と、これら外輪軌道2と内輪軌道4との間に設けた、それぞれが転動体である玉6、6とを備える。これら各玉6、6は、円周方向等間隔に配置された状態で、保持器7により、転動自在に保持されている。この様なラジアル玉軸受1は、例えば上記外輪3をハウジングに内嵌固定すると共に、上記内輪5を回転軸に外嵌固定する事により、この回転軸を上記ハウジングに対し、回転自在に支持する。
【0003】
この様なラジアル玉軸受1を含め、1対の軌道輪と複数個の転動体とを組み合わせて成る転がり軸受の場合、使用に伴って互いに転がり接触する何れかの面が剥離し、寿命に達する事が広く知られている。特に、上記ラジアル玉軸受1を潤滑する為の潤滑油やグリース中に混入した、金属粉等の硬い異物が、上記外輪軌道2又は上記内輪軌道4と上記各玉6、6の転動面との転がり接触部に噛み込まれると、上記何れかの面が早期に剥離して、上記ラジアル玉軸受1の耐久性が著しく損なわれる事が知られている。この様な早期剥離の発生するメカニズムとしては、上記異物に基づいて上記何れかの面に圧痕が形成されると共に、この圧痕に隣接する部分が盛り上がる事が知られている。即ち、この盛り上がった部分が相手面により強く押される事でこの部分に応力が集中する事に加えて、この部分に相手面から接線方向の力が加わる為、上記早期剥離に至ると考えられている。即ち、転がり軸受内部の転がり接触部は、完全な転がり接触ではなく、僅かとは言え滑り接触状態となる事が避けられない。そして、この滑りに基づいて、上記盛り上がった部分に、上記接線方向の力(接線力)が強く加わり、この部分に早期剥離が起こり易くなる。
【0004】
この様なメカニズムで発生する早期剥離を防止する為の技術として、特許文献1に記載されたものが知られている。この特許文献1に記載された従来技術の場合には、各転動体を摩擦抵抗の低い鋼材により造ると共に、これら各転動体の表面層の残留オーステナイト量を5〜20容量%とする。より具体的には、これら各転動体を、Cを0.3〜1.2質量%、Siを0.4〜2.0質量%、Mnを0.2〜2.0質量%、Crを0.5〜2.0質量%含む鋼材により造ると共に、上記各転動体の表面に、窒素濃度が0.2〜2.0質量%、残留オーステナイト量が5〜20容量%である浸炭窒化層を形成する。この浸炭窒化層は、400〜1200MPaの残留圧縮応力と、Hv820以上の表面硬さとを有するものとする。又、上記各転動体の表面粗さを、0.03μmRa以下とする(転動面を滑らかにする)。一方、これら各転動体と組み合わされる1対の軌道輪は、Cを0.3〜1.2質量%、Siを0.15〜2.0質量%、Mnを0.2〜2.0質量%、Crを0.5〜2.0質量%、Moを0〜2.0質量%、Vを0〜2.0質量%含む鋼材により造ると共に、上記両軌道輪の表面に、残留オーステナイト量が20〜40容量%である浸炭窒化層を形成する。
【0005】
この様な、特許文献1に記載された技術によれば、上記各転動体の転動面と上記両軌道輪の軌道面との転がり接触部に、上述の様な原因で発生する接線力を緩和し、異物混入に基づく圧痕を起点として発生する早期剥離(圧痕起点型剥離)を或る程度は防止できる。即ち、上記各転動体を構成する鋼材の摩擦係数を抑える事と、これら各転動体の転動面を滑らかにする事とにより、上記接線力を抑えられる。この為、上記盛り上がった部分に応力集中に基づく亀裂が発生した場合でも、この亀裂が上記接線力に基づいて他の部分まで伝播する事を防止できて、上記圧痕起点型の剥離を抑えられる。
【0006】
但し、上記特許文献1に記載された従来技術の様に、各転動体の転動面に存在する、比較的軟らかい組織である、残留オーステナイトの量を増加させると、これら各転動面の表面硬度が低下してその耐摩耗性が低下するだけでなく、耐圧痕性が低下する。この為、上記各転動面の残留オーステナイト量が多いと、前述した様な硬い異物の存在や、静的な過大荷重によって、上記各転動面に圧痕が形成され易くなる。圧痕が形成された転動面は形状崩れや表面粗さの増大を起こすが、これら形状崩れや表面粗さの増大は、圧痕の大きさが大きく、数が多い程顕著になる。特に、潤滑油やグリースに硬い異物が混入した状態である、異物混入潤滑環境下では、上記各転動面表面の残留オーステナイト量が多い程、圧痕が形成され易くなり、表面粗さの増大に伴って、上記各転動面と各軌道面との転がり接触部に作用する接線力が大きくなる。
【0007】
この場合に於いて、転がり接触面部分の残留オーステナイト量が多い部材自身に関しては、特許文献2に記載される等により従来から知られている様な、残留オーステナイトの影響による応力集中緩和効果により、異物混入潤滑環境下での使用等に伴って転がり接触部に作用する接線力が大きくなっても、寿命低下は限られたものとなる。但し、互いに転がり接触する1対の部材の転がり接触部には、互いに同じ大きさの接線力が作用する。この為、相手部材(表面の残留オーステナイト量が多い部材と転がり接触する、表面の残留オーステナイト量が少ない部材)の寿命は、上記接線力に基づいて発生する表面剥離により低下してしまう。例えば、軌道輪表面の残留オーステナイト量を多くした場合には、この軌道輪の寿命確保は図れるが、相手部材である転動体の寿命は、接線力増加の為に低下してしまう。
【0008】
転がり軸受の場合、転動体の転動面が剥離した場合でも、軌道輪の軌道面が剥離した場合でも、当該転がり軸受は寿命に達し、運転に伴って発生する振動や騒音が著しくなる。従って、転がり軸受全体としての寿命を延ばす為には、何れか1種類の部材の寿命を延ばす事は無意味であり、複数の転動体と1対の軌道輪との総ての部材の寿命を延ばす必要がある。言い換えれば、前述した特許文献1に記載された従来技術の様に、各転動体の転動面の残留オーステナイト量を増加させただけでは、使用条件が特に厳しい場合等には、必ずしも十分な寿命延長効果は得られない。又、転がり軸受の使用条件によっては、残留オーステナイト量を増加させる事による長寿命化を図れない場合もある。即ち、オーステナイトは高温で分解されてマルテンサイトに変態し、その際、寸法が僅かとは言え変化する。この為、例えば、転がり軸受を高温で使用する場合には、残留オーステナイト量が多い部材を組み込んだ転がり軸受は、予圧変化により所期の性能を発揮できなくなる可能性がある。これらの事を考慮すれば、転がり軸受を構成する何れの部材に関しても、残留オーステナイト量は少ない方が好ましい。
【0009】
【特許文献1】特開2005−282854号公報
【特許文献2】特開昭64−55423号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、何れの部材に関しても表面の残留オーステナイト量を多くしなくても、転がり接触部に働く接線力を低く抑えられて、圧痕起点型の早期剥離を防止できる転がり軸受を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の転がり軸受は、従来から広く知られている各種型式の転がり軸受と同様に、第一、第二の軌道輪と複数個の転動体とを備える。
このうちの第一の軌道輪は、何れかの面に第一の軌道面を有する。
又、上記第二の軌道輪は、この第一の軌道面と対向する面に第二の軌道面を有する。
又、上記各転動体は、これら第一、第二の両軌道面同士の間に転動自在に設けられている。
そして、上記第一、第二の軌道輪のうちの少なくとも一方の軌道輪を、JIS G 4805に規定している高炭素クロム軸受鋼(例えばSUJ2)製若しくは高炭素鋼製としている。
【0012】
特に、本発明の転がり軸受に於いては、この高炭素クロム軸受鋼製若しくは高炭素鋼製の軌道輪を、焼き入れ・焼き戻し処理と、浸炭処理と、窒化処理と、浸炭窒化処理とのうちから選択される何れかの処理を施されたものとしている。
又、上記各転動体は、窒化処理又は浸炭窒化処理により、転動面の窒素濃度を0.2〜2.0質量%とすると共に、Si及びMnを含有した窒化物であるSi・Mn系窒化物の面積率を1〜20%としたものとしている。
更に、上記第一、第二の軌道輪と上記各転動体とのうちの少なくとも1種の(好ましくは総ての)部材を構成する金属材料(本明細書及び特許請求の範囲中の金属材料とは、総て、Feを主成分とする鋼材)中に含まれる非金属介在物に関して、酸化物系の介在物及びTiN系の介在物の最大寸法を抑えている。具体的には、極値統計法により推定した、面積30000mm2 中での、酸化物系の最大介在物の寸法と、TiN系の最大介在物の寸法とのうち、大きい方の最大介在物の寸法に関して、長径Dと短径dとの積の平方根√(D×d)を推定介在物寸法√(areamax )とした場合に、√(areamax )<30μmを満たす{好ましくは、√(areamax )<20μmを満たす}様に、上記両種類の介在物の最大寸法を小さく抑えている。
【0013】
上述の様な本発明の転がり軸受を実施する場合に好ましくは、請求項2に記載した発明の様に、上記各転動体転動面乃至内部の硬さを適切に規制する。具体的には、これら各転動体の直径をDaとし、これら各転動体の内部で転動面からの距離をZとした場合に、Z<0.03Daの領域の硬さをHv750以上とする。又、Z=0.03Da〜0.06Daの領域の硬さをHv650〜850とする。更に、Z>0.06Daの領域の硬さをHv400〜800とする。
この様な請求項2に記載した発明を実施する場合に好ましくは、請求項3に記載した発明の様に、上記各転動体の転動面で、面積375μm2 中に存在する、平均粒径が0.05〜1μmのSi・Mn系窒化物の個数を100個以上とする。
更に好ましくは、請求項4に記載した発明の様に、上記各転動体を構成する鋼材を、Cを0.3〜1.2質量%、Siを0.3〜2.2質量%、Mnを0.2〜2.0質量%、Crを0.5〜2.0質量%含むものとする。
【発明の効果】
【0014】
上述の様な本発明の転がり軸受によれば、第一、第二の軌道輪及び各転動体の何れの部材に関しても、表面の残留オーステナイト量を多くせずに、転がり接触部に働く接線力を低く抑えられて、早期剥離を防止できる。この理由、並びに、各数値を上述の様に規制した理由に就いて、以下に説明する。
尚、転がり軸受の寿命となる剥離には、表面起点型のものと内部起点型のものとがあるが、本発明の場合には、それぞれの剥離を、後述する様な機構により抑える。
これらの剥離を防止する為に行った本発明者等の研究により、転がり軸受の構成部材の耐圧痕性及び耐摩耗性を向上させる材料因子としては、表面硬さ、残留オーステナイト量の他、表面窒素濃度や表面に析出したSi・Mn系窒化物の面積率が関係している事が分かった。
【0015】
先ず、本発明により、表面起点型の剥離を抑えられる点に就いて説明する。転がり接触する1対の面の表面粗さを小さく(平滑面に)すると、何れの面の表面粗さを小さくした場合でも、表面起点型の剥離を抑制できるが、転動面の表面粗さを小さくする(表面粗さ、表面形状の悪化を抑制する)方が、軌道面の表面粗さを小さくするのに比べて、より効果的である事も分かった。即ち、同じ手間をかける(コストを抑える為に、表面粗さを小さくする面を限定する)のであれば、軌道面よりも転動面の表面粗さを小さくする(表面粗さや表面形状の悪化を抑制する)事が、転がり軸受全体としての寿命延長に効果がある事が分かった。そこで本発明の場合には、各転動体の転動面の、窒素濃度、Si・Mn系窒化物の面積率、更に必要に応じて表面硬さ(請求項2に記載した発明の場合)や窒化物量(請求項3に記載した発明の場合)を適切に規定する事によって、表面形状の悪化を抑える為の耐圧痕性及び耐摩耗性を向上させる。そして、転がり軸受の使用中に生じる、上記各転動体の転動面と第一、第二の両軌道面との間の転がり接触部で発生する接線力の増大を抑制すると共に、耐剥離強度も向上させて、異物混入潤滑環境下でも、圧痕起点型剥離を生じにくくして、転がり軸受の耐久性向上を図れる。
【0016】
次に、本発明により、内部起点型の剥離を抑えられる点に就いて説明する。近年、地球温暖化防止等の環境問題から、各種機械の効率を向上すべく、回転支持部の摩擦抵抗を低減する為に、転がり軸受の小型・軽量化が求められている。この為、転がり軸受内部の転がり接触部の面圧が高くなり、各転動体の転動面及び第一、第二の両軌道面には、繰り返し高面圧が作用する。そして、この繰り返し作用する高面圧により、これら各面に内部起点型の剥離が生じ易くなる事に加えて、高面圧が静的に作用して生じるブリネル圧痕が、この内部起点型の剥離の原因として問題となる。この様な内部起点型の剥離は、上記各転動体や第一、第二の軌道輪を構成する金属材料の内部に含まれる非金属介在物を起点として生じる。そして、この非金属介在物のサイズ(粒径)を小さくする事で、上記内部起点型の剥離を抑制できる。
【0017】
転がり軸受を構成する各部材を構成する金属材料の内部に含まれる非金属介在物としては、酸化物系、TiN系、MnS系が一般的であるが、内部起点型の剥離(転がり疲労)に悪影響を及ぼす介在物は、このうちの酸化物系とTiN系とである。そこで本発明の場合には、酸化物系、TiN系の非金属介在物の大きさを規定して、内部起点型剥離の抑制を図った。一方、静的な高面圧によって生じるブリネル圧痕に影響を及ぼす因子は硬さであり、このブリネル圧痕の発生を防止する為には、上記各転動体や第一、第二の軌道輪(特に表面粗さを抑える必要性が高い各転動体)が、表面から芯部まで硬さが高い(Hv700以上である)事が望ましい。そして、必要な硬さを確保する為には、当該部材(特に各転動体)に、焼き入れ・焼き戻し処理と浸炭処理と窒化処理と浸炭窒化処理とのうちから選択される何れかの処理を施す必要があるが、この様な処理により上記必要とされる硬さを得る為の素材としては、高炭素クロム軸受鋼が好ましい。
次に、本発明で、転がり軸受の構成各部材の材質や各条件の数値を限定した理由に就いて説明する。
【0018】
「第一、第二の軌道輪に就いて」
これら両軌道輪のうちの少なくとも一方(例えば、円周方向の形状が凸円弧である為、転がり接触部の面圧が高くなる、ラジアル転がり軸受の内輪。好ましくは両方の軌道輪)は、好ましくは、高炭素クロム軸受鋼製とする。そして、当該軌道輪に、焼き入れ・焼き戻し処理と浸炭処理と窒化処理と浸炭窒化処理とのうちから選択される何れかの処理を施す事で、当該軌道輪の軌道面に、上記ブリネル圧痕に耐え得るだけの硬さを付与する。
尚、この軌道輪を、例えば、SCr420の如きクロム鋼(JIS G 4104)や、SCM420の如きクロムモリブデン鋼(JIS G 4105)により造った場合、浸炭処理若しくは浸炭窒化処理により、過大荷重に耐えられるだけの十分な硬化層を形成する為には、非常に長時間の処理時間が必要となり、熱処理コストが著しく増大する。これに対して、高炭素クロム軸受鋼は、浸炭処理、浸炭窒化処理の有無に拘らず、焼き入れ処理のみで、必要とする硬さを十分に確保できる。この為、必要とする硬さを有する軌道輪を低コストで得られる。尚、上記軌道輪を造る為の鋼材としては、SUJ2、SUJ3等の高炭素クロム軸受鋼が適切であるが、過共析組成を有する高炭素鋼であれば、これらの高炭素クロム軸受鋼と同等の強度を実現する事が可能である。従って、清浄度等の品質が、転がり軸受を構成する為の軌道輪の品質を満足するものであれば、これに類する高炭素鋼、例えば、炭素含有量が0.8〜1.2質量%の炭素鋼又は合金鋼を使用する事もできる。
【0019】
「金属材料中に含まれる非金属介在物の最大寸法を抑える点に就いて」
前述した通り、極値統計法により推定した面積30000mm2 中での、酸化物系の最大介在物の寸法と、TiN系の最大介在物の寸法とのうち、大きい方の最大介在物の寸法に関して、長径Dと短径dとの積の平方根√(D×d)を推定介在物寸法√(areamax )とした場合に、√(areamax )<30μmを満たすベく、転がり軸受の構成部材の清浄度を規制している。
この理由は、前述した様に、内部起点型の剥離を抑制する最適な方法が、この剥離を抑えるべき部材を構成する金属材料中に含まれる非金属介在物の大きさを小さくする事である為である。金属材料中に含まれる非金属介在物の大きさを評価する方法は各種存在するが、本発明を規定する上では、上記極値統計法を採用した。この理由は、極値統計法によれば、或る一定体積中に含まれる最大の介在物寸法√(areamax )を精度良く推定できる為である。
【0020】
本発明を規定する為に使用した極値統計法の具体的な手順の1例に就いて、以下に説明する。
第一行程
転がり軸受の構成部品を造る為の金属材料を切り出し、検査基準面積S0 =100mm2 (10mm×10mm)の、鏡面である検査面を作成する。この検査面は、上記金属材料の圧延方向に対し平行な面とする。
第二行程
上記検査基準面積S0 の中で、酸化物系、TiN系のそれぞれの介在物毎に、それぞれ最大の面積を占める介在物を選び出し、当該介在物の面積の平方根√(area)[μm]を測定する。但し、測定作業の簡略化の為、本発明では、この面積の平方根√(area)を、√(長径×短径)で近似する。
第三行程
上記第一行程と上記第二行程とを30個の試料(n=30)に就いて繰り返し行い、30個の平方根を得て、これを小さいものから順に並べる(j=1〜30)。
第四行程
基準化変数yi =−ln[−ln{j/(n+1)}]を計算する。
第五行程
上記平方根√(area)=a・y+bで表せる一次関数中のa、bの値を、最小二乗法により求める。
本発明の場合には、推定面積Sを30000mm2 とするので、
再帰期間T=(S+S0 )/S0 =(30000+100)/100=301
基準化変数y=−ln[−ln{(T−1)/T}]=5.705
となる。
第六行程
そこで、y=5.705の時の、上記平方根√(area)を求める。
この様にして求めた介在物の寸法{平方根√(area)}が、推定面積S=30000mm2 中に含まれると予想される、最大の介在物の寸法となる。本発明の場合には、それぞれをこの様にして推定した、酸化物系の最大介在物の寸法と、TiN系の最大介在物の寸法とのうちの大きい方の介在物寸法を、√(areamax )とする。
【0021】
転がり軸受を構成する部材を造る為の金属材料中に含まれる非金属介在物の寸法が大きくなると、当該部材に大きな面圧が作用した場合に、当該非金属介在物部分で応力集中が生じて、当該非金属介在物の縁で大きな応力が発生する。即ち、非金属介在物が存在しなければ破損が生じない程度の小さな繰り返し応力が加わった場合でも、非金属介在物の周辺部分には、応力集中によって、大きな応力が作用し、当該非金属介在物の縁から、亀裂が発生する。そして、一度亀裂が発生すると、この亀裂の先端には極めて高い応力が作用し、この亀裂が応力の繰り返しと共に進展し、最終的には剥離に至る。この様な機構で剥離の原因となる、非金属介在物の縁に作用する応力の大きさは、当該非金属介在物の寸法に依存する(大きい程大きな応力が作用する)。この為、非金属介在物の寸法を小さくすれば、当該非金属介在物の近傍に作用する応力を小さくできて、転がり軸受の剥離寿命を延長できる。√(areamax )<30μmとすれば、内部起点型の剥離を十分に抑えて、実用上十分な転がり疲れ寿命を有する転がり軸受を得られる。より高荷重で使用する転がり軸受に関しては、十分な転がり疲れ寿命の確保を図る為に、√(areamax )<20μmとする事が好ましい。
【0022】
「各転動体の転動面の性状に就いて」
これら各転動体の転動面に関しては、窒化処理又は浸炭窒化処理により、転動面の窒素濃度を0.2〜2.0質量%とすると共に、Si及びMnを含有した窒化物であるSi・Mn系窒化物の面積率を1〜20%としている。
先ず、上記窒化処理又は浸炭窒化処理は、上記各転動体の転動面(の表面層)に所定の窒素(N)を富化させる為に行う。窒素は炭素(C)と同じ様に、マルテンサイトの固溶強化及び残留オーステナイトの安定化に作用するだけでなく、硬い窒化物又は炭窒化物を形成して、耐圧痕性及び耐摩耗性を向上させる作用がある。この様な耐摩耗性及び耐圧痕性の向上は、表面窒素濃度が高い程顕著になり、特に、この濃度が0.2質量%を超えると顕著になる。好ましくは、この濃度を0.45質量%以上とする。
但し、この表面窒素濃度が高過ぎると、靭性や静的強度が低下してしまう欠点がある。転がり軸受の転動体にとって、靭性や静的強度は必要な性能である為、窒素濃度が高過ぎてこれらの性能が過度に低下する事は好ましくない。そこで、本発明を規制する場合に於ける、上記各転動体の表面の窒素濃度の上限は、2.0質量%とする。
【0023】
又、これら各転動体の表面の窒素濃度が同じ場合でも、これら各転動体を構成する金属材料内部の窒素の存在状態によって、これら各転動体表面の耐圧痕性及び耐摩耗性が変わる。即ち、窒素は、金属材料の内部に固溶して存在する場合と、窒化物として析出して存在する場合とがある。又、Si及びMnを多く含む金属材料を浸炭窒化処理した場合、同じ窒素濃度でも、材料中に固溶して存在する窒素量よりも、表面にSi及びMnを含有する窒化物(Si・Mn系窒化物)として析出して存在する窒素量が多くなる。Si・Mn系窒化物の面積率が高い程、転動面の耐摩耗性及び耐圧痕性が優れた転動体となる。この様な、耐摩耗性及び耐圧痕性の向上効果は、上記転動面でのSi・Mn系窒化物の面積率が1%を超えると顕著に現れる。より好ましくは、この面積率を2%以上とすれば、より優れた耐摩耗性及び耐圧痕性を得られる。但し、上述した表面窒素濃度と同様に、転動体表面(転動面)のSi・Mn系窒化物の析出量が多くなり過ぎると、この転動面の靭性や静的強度が低下してしまう欠点がある為、Si・Mn系窒化物の析出量に関しても、多くなり過ぎる事は好ましくない。特に、Si・Mn系窒化物の面積率が20%を超えると、急激に靭性が低下する。従って、Si・Mn系窒化物の面積率の上限は20%に、より好ましくは10%に抑える。
【0024】
「各転動体の転動面及び内部の硬さに就いて」
各転動体の直径をDaとし、これら各転動体の内部で転動面からの距離をZとした場合、Z<0.03Daの領域の硬さをHv750以上とし、Z=0.03Da〜0.06Daの領域の硬さをHv650〜850とし、Z>0.06Daの領域の硬さをHv400〜800としている(請求項2に記載した発明の場合)。更に、各転動体の転動面で、面積375μm2 中に存在する、平均粒径が0.05〜1μmのSi・Mn系窒化物の個数が100個以上としている(請求項3に記載した発明の場合)。尚、上記各転動体にこれらの条件を満たす性状を付与する為に好ましくは、これら各転動体を構成する鋼材として、Cを0.3〜1.2質量%、Siを0.3〜2.2質量%、Mnを0.2〜2.0質量%、Crを0.5〜2.0質量%含むものを使用する(請求項4に記載した発明の場合)。
【0025】
上記各転動体の硬さを上述の様に規制する理由は、これら各転動体の耐圧痕性を向上させるである。即ち、耐圧痕性向上の為に最も有効な材料因子は、硬さである。圧痕の種類としては、転がり接触部に異物を噛み込む事によって生じる異物圧痕と、過大荷重が作用した場合に転動体が軌道輪に食い込み、軌道輪が転動体を押し潰す事によって生じるブリネル圧痕とがある。異物圧痕の場合には、表面近傍の硬さのみを大きくすれば、これを抑える事ができるのに対して、ブリネル圧痕の場合には、表面だけでなく芯部まで硬さを高くする事が重要になる。
【0026】
圧痕は、軌道輪と転動体とが接触し、接触部に荷重が負荷される事で材料内部に生じる、静的剪断応力(転がり方向に対して45゜の方向の剪断応力)によって形成される。圧痕が形成される現象は、金属材料に塑性変形が生じる事によって起こるので、材料の持つ降伏剪断応力が、実際に作用する静的剪断応力以上であれば、圧痕は形成されない。通常、転がり軸受に作用する荷重は静定格荷重以下となる様に設計されている為、静定格荷重が作用した場合にも圧痕が形成されない材料強度を確保する事が重要である。静定格荷重は、玉軸受の場合4200MPa、ころ軸受の場合4000MPaの接触面圧を生じさせる様な荷重と定義されている。従って、この面圧が作用した場合に発生する静的剪断応力が、転がり軸受の構成各部材を造っている金属材料の降伏剪断応力以下であれば、圧痕は生じない。一方で、金属材料の降伏剪断応力は、金属材料の硬さと比例関係にあり、降伏剪断応力τyとビッカース硬さとの間には、τy=1/6×Hvの如き比例関係がある。
【0027】
従って、ブリネル圧痕が形成されない様にする為には、静定格荷重作用時の静的剪断応力分布を上回る剪断降伏応力分布(硬さ分布)となる様に、硬さを規定する事が重要になる。一方、転動体の芯部の硬さが大き過ぎると靭性が低下し、転動体の割れが問題となる。又、最大静的剪断応力作用深さ(静的剪断応力分布)は、転動体の直径と相関がある為、前述の様に、深さとの関係で硬さを規定した。この様に、転動体の表面乃至内部の硬さを規定する事により、軌道輪と転動体との接触によるブリネル圧痕の形成を抑制する事ができ、両軌道輪と各転動体との転がり接触部に作用する接線力を抑制して、転がり軸受の長寿命化を図れる。
【0028】
前記Si・Mn系窒化物の粒径及び数を規制した理由は、転動面の耐摩耗性及び耐圧痕性を向上させる為である。前述した通り、転動面及びその表面層部分に存在する窒化物は、転動面の耐摩耗性及び耐圧痕性を向上させる。但し、平均粒径が1μmを越える窒化物は、金属材料の強化にあまり寄与しない。金属材料を強化する面からは、細かい窒化物が分散している方が有利である。この理由は、析出強化の理論上、析出物粒子間距離の小さい方が強化能力が優れるので、Si・Mn系窒化物の面積率が同じであっても、析出粒子数が多ければ、相対的に粒子間距離が短くなり、強化される程度が著しくなる為である。即ち、Si及びMnの含有量の多い鋼を用い、Si・Mn系窒化物の面積率が1〜20%の範囲で、平均粒径が0.05〜1μmの微細な窒化物をより多く形成する事が好ましい。特に、平均粒径が0.05μm以上のSi・Mn系窒化物のうち、平均粒径が0.05〜0.50μmのSi・Mn系窒化物の個数の比率を20%以上とする事により、上記強化の程度を著しくできる。具体的には、前述の通り、面積375μm2 の範囲で、平均粒径が0.05〜1μmのSi・Mn系窒化物の数を100個以上とする事が好ましい。
【0029】
尚、上記転動面及びその表面層部分に存在する窒化物の状態をこの様にする為には、浸炭窒化処理温度を、800〜870℃に規制する事が好ましい。この処理温度が870℃を越えると、窒化物が粗大化して、微細なSi・Mn系窒化物の個数が減少するだけでなく、窒素の固溶限が大きくなる為、窒化物の量が少なくなり、所望の面積率が得られなくなる場合がある。又、上記浸炭窒化処理工程の初期から、RXガスとエンリッチガスとアンモニウムガスとの混合ガス雰囲気とし、CP値は1.2以上、アンモニアガスの流量はRXガス流量の少なくとも1/5以上とする事が好ましい。又、浸炭窒化後の焼き入れは、油温60〜120℃の範囲で行う事が好ましい。油温がこれよりも高いと、十分な硬さが得られない場合がある。又、焼き戻しは、160〜270℃の温度で行い、転動体の表面(転動面)の硬さは、少なくともHv740以上、好ましくはHv780以上とする(より好ましくはHv800以上、更に好ましくはHv820以上)。又、必要に応じて、焼き入れ処理後に、サブゼロ処理を行っても良い。
【0030】
更に、上記各転動体に上記性状を備えさせる為には、前述した通り、これら各転動体を構成する鋼材として、Cを0.3〜1.2質量%、Siを0.3〜2.2質量%、Mnを0.2〜2.0質量%、Crを0.5〜2.0質量%含むものを使用する事が好ましい。これら各元素をこれらの割合だけ含有させる理由は、それぞれ次の通りである。
[C:0.3〜1.2質量%]
炭素は鋼の硬度を高め、必要な強度と寿命とを付与する為に重要な元素である。炭素が少な過ぎると十分な強度が得られないだけでなく、各転動体の表面を浸炭窒化させる際に必要な硬化層深さを得る為の熱処理時間が長くなり、熱処理コストの増大に繋がる。この為、炭素含有量は0.3質量%以上、好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは0.95質量%以上とする。これに対して、炭素含有量が多過ぎると、製鋼時に巨大炭化物が生成され、その後の焼き入れ特性や転動疲労寿命に悪影響を与えるだけでなく、ヘッダー性が低下してコストの上昇を招く可能性がある。そこで、炭素含有量の上限は、1.2質量%、好ましくは1.1質量%とする。
【0031】
[Si:0.3〜2.2質量%、Mn:0.2〜2.0質量%]
前記Si・Mn系窒化物を十分に析出させる為には、Si及びMnを多く含有した鋼材を用いる必要がある。一般的な軸受材料であるSUJ2は、Si含有量が0.25%程度、Mn含有量が0.4%程度であり、浸炭窒化等で窒素を過剰に付加してもSi・Mn系窒化物量が少ない。そこで、Si及びMnの含有量を、次の理由で、上記範囲に規制する。
このうちのSiは、Si・Mn系窒化物の析出に必要な元素であり、Mnの存在によって、0.3質量%以上の添加で、窒素と効果的に反応して顕著に析出する。好ましくは0.4〜0.7質量%とする。
【0032】
又、Mnにしても、上記Si・Mn系窒化物の析出に必要な元素であり、Siとの共存によって、0.2質量%以上の添加で、Si・Mn系窒化物の析出を促進させる作用がある。但し、Mnはオーステナイトを安定化する働きがあるので、過剰に加えると、硬化熱処理後に残留オーステナイトが必要以上に増加し、転動体の寸法及び形状の安定化を図る面から不利になる。そこで、この様な問題が生じる事を避ける為、Mnの含有量を2.0質量%以下、好ましくは含有量を0.9〜1.15質量%とする。更に好ましくは、下記理由により、SiとMnとの質量比(Si/Mn比)を、5以下とする。
【0033】
即ち、Si・Mn系窒化物は、焼き戻しによる窒化物とは異なり、浸炭窒化処理時に侵入してきた窒素が、オーステナイト域で、Mnを取り込みながらSiと反応して生成される。従って、Si添加量に対してMn添加量が少ないと、十分に窒素を拡散させても、Si・Mn系窒化物の析出が促進されない。前述したSi及びMn添加量の範囲で、且つ窒素量を0.2質量%以上侵入させた場合、Si/Mn比率を5以下とする事によって、寿命延長や耐摩耗性・耐焼き付き性向上に効果のある、面積率1.0%以上のSi・Mn系窒化物の析出量を確保する事ができる。
【0034】
[Cr:0.5〜2.0質量%]
Crは焼き入れ性を向上させると同時に、炭化物形成元素であり、材料を強化する炭化物の析出を促進し、更に微細化させる為、適量であれば添加する事が好ましい。但し、添加量が0.5質量%未満であると、焼き入れ性が低下して十分な硬さが得られなかったり、浸炭窒化時に炭化物が粗大化したりする。これに対して、添加量が2.0質量%を越えると、浸炭窒化時に表面にCr酸化膜が形成されて、炭素及び窒素の拡散を阻害する。この為、Cr含有量は、0.5〜2.0質量%の範囲が好ましく、より好ましくは、0.9〜1.2質量%とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明の特徴は、転がり軸受を構成する1対の軌道輪及び複数個の転動体の性状にある。図面に表れる構造に就いては、前述の図1に示したラジアル玉軸受1を含み、従来から知られている各種転がり軸受と同様である為、図示並びに説明は省略する。
【実施例1】
【0036】
本発明の効果を確認する為に行った実験(耐久試験)に就いて説明する。この耐久試験は、単列深溝型の玉軸受で呼び番号が6206であるもの(外径:62mm、内径:30mm、幅:16mm)を用い、クリーン潤滑環境下でのクリーン潤滑寿命試験と、異物混入潤滑環境下での異物混入寿命試験とを行った。このうちのクリーン潤滑寿命試験は、試験前に各試料(玉軸受)に、Fr=19kNなる大きさの、静的で過大なラジアル荷重を負荷した後、実施した。
【0037】
上記両耐久試験の条件は以下の通りである。
クリーン潤滑寿命試験
試験荷重 : Fr=13. 8kN(ラジアル荷重)
回転速度 : 3900min-1
潤滑油 : ISO−VG68
異物混入寿命試験
試験荷重 : Fr=6.4kN
回転速度 : 3000min-1
潤滑油 : ISO−VG68
異物の硬さ: Hv870
異物サイズ: 粒径74〜147μm
異物混入量: 0.05g
【0038】
何れの場合でも、1対の軌道輪(外輪及び内輪)を構成する金属材料及びその熱処理に就いては、高炭素クロム軸受鋼(SUJ2)に関しては、ずぶ焼き入れ(840〜860℃×1hr、RXガス、油焼き入れ)、焼き戻し(160〜220℃×2hr)とし、浸炭鋼(SCr420)に関しては、浸炭窒化焼き入れ(940℃×4hr、RXガス+エンリッチガス+アンモニアガス雰囲気)の後、焼き入れ(830℃×0.5hr、RXガス、油焼き入れ)、焼き戻し(160〜220℃×2hr)とした。又、各転動体に関しては、軌道輪と同じ材質の線材を、ヘッダー加工、粗研削加工により加工して玉(転動体)とした後、この玉に、浸炭窒化焼き入れ(830℃×5〜20hr、RXガス+エンリッチガス+アンモニアガス雰囲気)、焼き戻し(180〜270℃)の熱処理及び後工程を施した。
【0039】
転動体の表面窒素量の測定には電子線マイクロアナライザー(EPMA)を用い、定量分析を行った。又、表面層の残留オーステナイト量の測定は、X線回折法により行った。何れも、転動体表面を直接分析測定した。更に、Si・Mn系窒化物の面積率の測定は、電界放射型走査型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて、加速電圧10Kvで転動面の観察を行い、倍率5000倍で最低3視野以上写真を撮影した後、写真を2値化してから画像解析装置を用いて、面積率を計算した。介在物の寸法は、前述した極値統計により推定(S=30000mm2 )した結果である。極値統計は、試験済み軸受の外輪及び内輪を、中心軸を含む断面で切断したものを検鏡体として行った。寿命試験は、同種の試料に就いて12個ずつ(n=12)、合計168個の試料に就いて行い、各試料毎に剥離が発生する迄の寿命時間を調査して、ワイブルプロットを作成し、ワイブル分布の結果からL10寿命を求め、寿命値とした。クリーン潤滑寿命は最も短寿命であった比較例3の値を1とし、異物混入寿命は最も短寿命であった比較例1の値を1として、それぞれ比の値で示してある。
【0040】
この様な条件で行った実験の結果を、使用した軌道輪の金属材料、各転動体の性状、及び、両軌道輪の介在物の寸法と共に、次の表1に示す。
【表1】

この表1に示した実験の結果から、転動体の性状を適正に規制する事で、クリーン潤滑環境下、異物混入潤滑環境下を問わず、十分な耐久性を得られる転がり軸受を実現できる事が分かる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の対象となる転がり軸受の1例を示す断面図。
【符号の説明】
【0042】
1 ラジアル玉軸受
2 外輪軌道
3 外輪
4 内輪軌道
5 内輪
6 玉
7 保持器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
何れかの面に第一の軌道面を有する第一の軌道輪と、この第一の軌道面と対向する面に第二の軌道面を有する第二の軌道輪と、これら第一、第二の両軌道面同士の間に転動自在に設けられた複数個の転動体とを備え、上記第一、第二の軌道輪のうちの少なくとも一方の軌道輪が、高炭素クロム軸受鋼若しくは高炭素鋼製である転がり軸受に於いて、この軌道輪が、焼き入れ・焼き戻し処理と浸炭処理と窒化処理と浸炭窒化処理とのうちから選択される何れかの処理を施されたものであり、上記各転動体は、窒化処理又は浸炭窒化処理により、転動面の窒素濃度を0.2〜2.0質量%とすると共に、Si及びMnを含有した窒化物であるSi・Mn系窒化物の面積率を1〜20%としたものであり、上記第一、第二の軌道輪と上記各転動体とのうちの少なくとも1種の部材を構成する金属材料中に含まれる非金属介在物に関して、極値統計法により推定した、面積30000mm2 中での、酸化物系の最大介在物の寸法と、TiN系の最大介在物の寸法とのうち、大きい方の最大介在物の寸法に関して、長径Dと短径dとの積の平方根√(D×d)を推定介在物寸法√(areamax )とした場合に、√(areamax )<30μmを満たす事を特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
各転動体の直径をDaとし、これら各転動体の内部で転動面からの距離をZとした場合、Z<0.03Daの領域の硬さがHv750以上であり、Z=0.03Da〜0.06Daの領域の硬さがHv650〜850であり、Z>0.06Daの領域の硬さがHv400〜800である、請求項1に記載した転がり軸受。
【請求項3】
各転動体の転動面で、面積375μm2 中に存在する、平均粒径が0.05〜1μmのSi・Mn系窒化物の個数が100個以上である、請求項2に記載した転がり軸受。
【請求項4】
各転動体を構成する鋼材が、Cを0.3〜1.2質量%、Siを0.3〜2.2質量%、Mnを0.2〜2.0質量%、Crを0.5〜2.0質量%含むものである、請求項3に記載した転がり軸受。

【図1】
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【公開番号】特開2009−191942(P2009−191942A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−33200(P2008−33200)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】