説明

転動体間にセパレータを配設した転がり案内装置

【課題】 この転がり案内装置は,セパレータが転動体間距離を調整し,セパレータの剛性が大きく,弾性変形が大きく柔軟な弾性を備えており,転動体間の相互作用力も外枠部を含めてしっかりと受容することができる。
【解決手段】セパレータ30は,隣り合う転動体20をそれぞれ嵌入する両端面45,47に形成された凹部27,28,外形を構成する外枠部5,及び外枠部5から凹部27,28の中心Oに向かって延びて舌片状に形成され且つ転動体20に接触して弾性変形可能な複数の爪部4(25,26)を備えている。爪部4は,転動体20に対向する面が凹球面31,32,凹円錐面又は凹角錐面に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,例えば,軌道溝を備えた軌道レール及び該軌道レール上を転動体を介して相対移動するスライダから成る直動案内ユニットや外輪と内輪から成る軸受に適用され,特に,循環路を転走する転動体間に配設されたセパレータに特徴を有する転がり案内装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年,機械要素である軸受及び直動案内ユニット,特に,直動案内ユニットは,半導体製造装置,各種組立装置,各種機械装置等の各種装置に盛んに使用され,ますます高速化,高サイクル化されることが要望されている。このような情勢の中,機械要素,特に,直動案内ユニットには, 高速化で高サイクル化に対応可能な滑らかな動きと, 低騒音化が求められている。
【0003】
従来, 直動案内ユニット等における転がり案内装置において,転動体の循環路には,転動体同士の接触を防止するために転動体間にセパレータが組み込まれており,それぞれ工夫されてきている。直動案内ユニットにおけるセパレータの中には,セパレータ自身が弾性変形可能で転動体間の距離を調整可能にした弾性セパレータが知られている。しかしながら,近年の使用状況に対応するために,さらにセパレータの剛性が大きく且つ弾性変形が柔軟なものが望まれるようになってきている。
【0004】
本出願人は,直動転がり案内ユニットにおいて,転動体間に配設されるセパレータは,中心部に位置するセパレータ本体とセパレータ本体の外周に接続された3つずつの弾性支持部とで構成され,弾性変形部分の弾性変形に基づいて変位可能な弾性支持部を備えることにより,無限循環路の長さのバラツキを吸収して転動体を組込み可能にしたものを開発した。該直動転がり案内ユニットは,隣り合う転動体間に配設されるセパレータが,セパレータ本体とその外周から延びる弾性変形部分及び放射状に一体形成された支持部分から成る弾性支持部とを備えている。転動体を接近させる力が小さい時には,セパレータは支持部分の先端部分で転動体と接触し,転動体を接近させる力が大きい時は,弾性変形部分の変形で支持部分が後退し,セパレータ本体の周辺環状領域で接触するように構成されている(例えば,特許文献1参照)。
【0005】
従来,玉軸受のための弾性のセパレータとして,一方の玉が中央部においてほぼ点状に間壁に衝突しているのに対して,他方の玉が接触円で間壁に衝突しているように構成したものが知られている。該弾性のセパレータは,円筒形に形成されている外郭を有しており,セパレータ長さが少なくとも玉直径の1/2に相当し,セパレータが孔内に円錐形の間壁を有しており,間壁が円錐頂部に連続する中央範囲において半径方向に延びるスリットによってばね弾性的な舌片で区分され,一方の玉がその中央部においてほぼ点状に間壁に衝突するのに対して,他方の玉が接触円で間壁に衝突するものである(例えば,特許文献2参照)。
【0006】
また,直動装置において,弾性力のある特別な素材を使用することなく,セパレータに十分な弾性力を付与し,作動性を向上させんとするものが知られている。該直動装置は,内方部材と相対移動可能な外方部材からなり,転動通路と戻し通路に転動自在に装填された転動体と,転動体間に介装されたセパレータを備え,セパレータが隣接する転動体が個別に接触する一対の転動体接触面を有し,両転動体接触面の転動体接触角が異なる角度に設定されているものである(例えば,特許文献3参照)。
【0007】
また,一軸アクチュエータとして,球状転動体同士やボール同士の衝突による騒音や振動の発生を抑制することができ,耐久性を図ったものが知られている。該一軸アクチュエータは,各球状転動体間及び各ボール間に樹脂からなるセパレータを設け,作動時に転動体同士やボール同士が衝突し合うことをセパレータで防止したものである(例えば,特許文献4参照)。
【特許文献1】特開2001−124075号公報
【特許文献2】特開昭63−111316号公報(又は,米国特許第4761820号)
【特許文献3】特開2003−239964号公報
【特許文献4】特開2003−222128号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら,本出願人が開発した前掲特許文献1に開示したセパレータは,柔軟性に富むものであったが,剛性を確保する上で弾性変形部分が小さくなり,確保しづらいものになっていた。また,上記の玉軸受のための弾性のセパレータのようなものは,弾性変形の柔軟性に欠け,更に,転動体の間隔が大き目になるので,負荷域の転動体数が減少して負荷容量が小さなものになり,しかもセパレータが複雑な形状になっており,製作しにくいものになっている。また,従来の直動装置については,セパレータが両転動体接触面の転動体接触位置を異なる位置に設定したものになっており,セパレータの弾性変形力が大きく, 弾性変形量が小さなものになっており,転動体の転動に対する追従性に問題を有している。
【0009】
この発明の目的は,上記の課題を解決することであり,転動体が循環する循環路において転動体間に組み込まれるセパレータについて,循環路を有する種々の形式の機械要素,例えば,直動案内ユニット,ボールねじ,軸受等の転がり案内装置に良好に適用でき,セパレータが転動する転動体に対して適度の弾性変形力を持ち,転動体の転走を阻害しない程度の弾性変形量を確保できる転がり案内装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は,互いに相対移動する相対移動部材間に形成された循環路を転走する転動体,及び前記転動体同士の接触を防止するため前記転動体間に配置され且つ前記転動体間の距離を調整可能で弾性変形可能なセパレータを備えた転がり案内装置において,
前記セパレータは,外形を構成する環状の外枠部,隣り合う前記転動体がそれぞれ嵌入可能な両端面に形成された凹部,及び前記外枠部から前記凹部の中心に向かって舌片状に延びて前記転動体に接触して弾性変形可能な複数の爪部を前記凹部内にそれぞれ備えていることを特徴とする転がり案内装置に関する。
【0011】
前記爪部は,前記転動体に対向する対向面が凹球面,凹円錐面,及び凹角錐面のいずれかの単一面又は複合面で形成されている。
【0012】
また,前記爪部は,前記セパレータの一方の前記端面から延びる第1爪部と他方の前記端面から延びる第2爪部とから成り,前記第1爪部と前記第2爪部とは周方向に互い違いに形成されている。更に,前記爪部を構成する前記第1爪部と前記第2爪部は,3個ずつ形成されている。
【0013】
前記セパレータの前記凹球面は,前記転動体の半径よりも小さい曲率半径でなり,前記曲率半径の中心は前記セパレータの中心から偏心している。
【0014】
前記セパレータは,前記舌片状に延びる前記爪部の舌片先端がフリーになって中心に中央孔が形成されている。
【0015】
前記セパレータは,隣接する前記爪部間にスリットが形成されており,前記爪部は,互いに独立して弾性変形可能に構成されている。更に,前記セパレータは,隣接する前記爪部間において前記外枠部と前記爪部との境界に前記スリットに連通する肉抜き孔が形成されて前記爪部の基端部の幅が小さく形成されている。
【0016】
前記セパレータは,前記爪部の裏面に肉抜き部が形成されている。
【0017】
この転がり案内装置は,前記相対移動部材が長手方向に沿って軌道溝が設けられた軌道レールと前記軌道溝に対応して軌道溝が設けられた前記軌道レールに対して前記転動体を介して摺動自在なスライダとから成る直動案内ユニットに適用されるものである。
【発明の効果】
【0018】
この転がり案内装置は,上記のように構成されているので,転動体間の相互作用力によりセパレータのそれぞれの爪部が弾性変形して転動体間の距離を変化可能に調整することができる。また,セパレータは, 転動体同士を押し込んだ状態では外枠部のそれぞれの凹球面の外周部分が全面でそれぞれ転動体と接触し, 同時に, 爪部の裏側部の先端部分も他方の転動体に接触し,その結果, 爪部の先端部分が両方の転動体に接触する状態になり,最小の転動体間の距離がほぼ爪部の肉厚相当になって同時に大きな転動体間の相互作用力も外枠部を含めてしっかりと受容することができる。また,セパレータは, その剛性が大きく,弾性変形が大きく柔軟な弾性を備えたものに構成され,セパレータの存在によって循環路に潤滑剤を保留するスペースが確保され,潤滑剤切れが生じにくく,転動体の循環が滑らかに行われ,更に,転動体間の距離も最小に抑えられ,負荷軌道路での転動体の数を最大限に確保でき,負荷容量への影響を最小なものにしている。また,この転がり案内装置では,使用される機械要素,例えば,直動案内ユニットや転がり軸受の形式に適合させて, セパレータの形状を若干変更するだけで,セパレータの弾性力を変更できる構造に形成されており,セパレータの特性を最適に発揮させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下,図面を参照して,この発明による転がり案内装置における転動体の循環路に組み込まれたセパレータは,ここでは,直動案内ユニットにおける転動体の循環路に適用した実施例について説明する。しかしながら,その他,ボールねじ,内輪と外輪とから成る転がり軸受等の機械要素の循環路にも容易に適用できることは勿論である。
【0020】
この発明による転がり案内装置は,図1及び図2では直動案内ユニットに適用した実施例が示されており,この転がり案内装置は,特に,負荷域と無負荷域とを循環する転動体20の循環路19において転動体20間にセパレータ30が組み込まれたものであり,セパレータ30は,転動体20同士の接触を防止すると共に,転動体20間の距離を調整可能に自身が弾性変形可能に構成されたものである。セパレータ30は,主として,隣り合う転動体20がそれぞれ嵌入する両端面45,47に形成された凹部27,28,外形を構成する環状の外枠部5,及び外枠部5から凹部27,28の中心に向かって延びて舌片状に形成され且つ転動体20に接触して弾性変形可能になる複数の爪部25,26(総称は4)が形成されている。セパレータ30は,一方の端面45には凹部27(第1凹部)が形成され,他方の端面47には凹部28(第2凹部)が形成されている。セパレータ30の凹部27には,周方向に等間隔に形成された複数(図では3個)爪部25(第1爪部)と爪部25間の切欠き部50とが設けられ,また,セパレータ30の凹部28には周方向に等間隔に形成された複数(図では3個)爪部26(第2爪部)と爪部26間の切欠き部51とが設けられている。
【0021】
セパレータ30については,セパレータ30の爪部25,26は,転動体20に対向する対向面が凹球面31,32,凹円錐面15(図7,図8),及び凹角錐面16(図7,図8)のいずれかの単一面(図4〜図6)又は複合面(図7及び図8)で形成されている。セパレータ30は,図5に示すように,一方の端面45に形成された爪部25(第1爪部,a,b,c)と,他方の端面47に形成された爪部26(第2爪部,d,e,f)とは互い違いに形成され,具体的には,3個ずつ形成されている。また,セパレータ30について,図5に示すように,凹球面31,32は,転動体20の半径よりも小さい曲率半径R1でなり,曲率半径R1の中心O1はセパレータ30の中心O−Oから距離eだけ偏心して形成されている。
【0022】
この直動案内ユニットは,図1及び図2に示すように,断面矩形状の長手方向の両側面3に沿って軌道溝13を備えた軌道レール1と,軌道溝13に対応して軌道溝14を備え且つ軌道レール1に跨架して転動体20を介して相対移動するスライダ2とから構成されている。軌道レール1は,上面42に隔置して開口するように形成されている複数個の取付孔34に締結ボルトを挿通してベッド,機台,加工台等のベース8に形成されたねじ穴に螺入することによってベース8に固定される。スライダ2は,軌道レール1に対して相対移動可能なケーシング10,ケーシング10の両端にそれぞれ取り付けられたエンドキャップ11,エンドキャップ11の端面に取り付けられたエンドシール12を有している。ケーシング10の上面43には,機械部品,チャック,把持装置等の他の部品を取り付けるための取付ねじ穴33が形成されている。
【0023】
ケーシング10の下面及びエンドキャップ11の下面は,ケーシング10及びエンドキャップ11とが軌道レール1に跨がって移動するようにスライダ2の長手方向に延びる凹部に形成され,軌道溝14はケーシング10の凹部の対向面にそれぞれ形成されている。この直動案内ユニットは,対向する軌道溝13と軌道溝14とで構成される負荷軌道路21にボールから成る転動体20が転走するように組み込まれており,また,ケーシング10から転動体20が脱落するのを防止するために保持バンド40が多数の転動体20を保持するように設けられている。軌道レール1とスライダ2との間のシールを達成するために,下面シール41がスライダ2の下面に設けられている。また,エンドキャップ11とエンドシール12は,複数の取付孔に貫通させた取付けねじ46によってケーシング10の両端面に取り付けられている。この直動案内ユニットでは,潤滑剤としてグリース又は潤滑油がグリースニップル39から転動体20が走行する方向転換路24やリターン路23に供給され,場合によっては,グリースニップル39の代わりに設けた配管継ぎ手等を通じて潤滑剤が供給される。
【0024】
この直動案内ユニットは,図2に示すように,転動体20が転走する循環路19が形成されており,循環路19は,軌道レール1の軌道溝13とケーシング10の軌道溝14との間に形成された負荷軌道路21,ケーシング10に形成された無負荷軌道路22であるリターン路23,及びエンドキャップ11に形成された無負荷軌道路22である方向転換路24から構成されている。ケーシング10に形成されたリターン路23は,負荷軌道路21と平行に延びている。方向転換路24は,湾曲して形成され,負荷軌道路21とリターン路23とを接続するように構成されている。循環路19は,上記のように,負荷軌道路21と無負荷軌道路22とで構成された無限循環路である。循環路19には,複数のボールである転動体20と,隣接する転動体20間に配設されたセパレータ30とが循環して転走する。負荷軌道路21を転走した転動体20は,エンドキャップ11内に形成された方向転換路24に導かれ,次いで,ケーシング10に形成されたリターン路23に移動するように循環路19を転走する。負荷軌道路21を転動体20が転動することにより,軌道レール1とスライダ2とがスムースに相対移動することができる。エンドキャップ11には,負荷軌道路21から転動体20をすくう爪6が形成されている。
【0025】
この直動案内ユニットにおいて, 潤滑剤を含浸可能な多孔質構造に構成されたパイプ部材7は,ケーシング10に形成された嵌挿孔18に嵌挿されており,パイプ部材7によって循環路19のリターン路23が形成されている。エンドキャップ11には, 方向転換路24からリターン路23に延びる継続管部9が設けられており,継続管部9はケーシング10に形成された嵌挿孔18の端部にそれぞれ嵌合している。従って,パイプ部材7と継続管部9とは,互いに当接してリターン路23が段差なく形成され,転動体20が滑らかに循環できるように構成されている。セパレータ30は,特に,負荷域である負荷軌道路21と無負荷域であるリターン路23と方向転換路24とを循環する転動体20に対して,転動体20同士の接触を防止するために転動体20間に組み込まれ,転動体20間の距離を変化可能に調整し,セパレータ30自体が弾性変形可能に構成されている。この直動案内ユニットでは,セパレータ30が全ての転動体20間に組み込まれているが,場合によっては, 部分的に組み込んでもよいものであり, 他の部分を弾性の無い従来のセパレータを組み込んでもよいものである。また, この実施例では, 転動体20がボールになっている。
【0026】
図3〜図5に示すように,この転がり案内装置において,セパレータ30は, 合成樹脂製で作製されており,外周面44が外径Dよりも長さBが短い形状の短尺状の円筒体に形成されており,両端面45,47には隣り合う転動体20同士がそれぞれ嵌入する凹部27,28が形成されている。また, セパレータ30の外周角部48は,セパレータ30が循環路19を通過するのに引っかかりが無いように角がR面に形成されている。セパレータ30の凹部27,28内には, 転動体20に接触して弾性変形可能な複数の爪部4(25,26)がそれぞれ形成されている。複数個の爪部4は, 外枠部5と一体構造であり,外周面49及び凹部27,28の外形が外枠部5を起点として先端がセパレータ30の中心Oに向かって延びた舌片状に形成されている。
【0027】
セパレータ30には,それぞれの端面45,47側から見て,円形の凹部27,28内において中心Oを通る複数(図では6個)のスリット29が形成されている。1つの爪部4は,円周方向にそれぞれの端面45,47で切欠き部50,51で等分(図では3等分)に分割された一片でなり,中心Oに向かって延びる先細状になってフリー端に形成されている。セパレータ30は,断面で見て, 接触する一方の転動体20に対向する表側(裏側)になる対向面が凹球面31(32)に形成され, 裏側部は肉抜きされた肉抜部35(36)により他方の転動体20に爪部25(26)の基幹部が接触することなく,対向面に沿って薄肉状, 即ち舌片状に形成されている。爪部4は, 凹部27,28内において,3本の切欠き部50,51により3等分されて一方側(表側)の凹部27内には一つ置きに3つの爪部25(a,b,c)が形成され,また, 反対側(裏側)の他方の凹部28内に3つの爪部26(d,e,f)が形成されている。その結果,セパレータ30の凹部27,28の外枠部5が環状体になっている。即ち,セパレータ30は,爪部25間の切欠き部50が一端面45に3個形成され,爪部26間の切欠き部51が他端面47に3個形成されており,爪部25,26は周方向に等分にそれぞれ形成されているので,一端面45の切欠き部50と他端面47の切欠き部51とが重なった領域,言い換えれば,切欠き部50,51の貫通した状態がスリット29として現れることになる。
【0028】
セパレータ30については,外枠部5と爪部4とは一体化された構造に形成されている。外枠部5のそれぞれの端面45,47には, 凹球面31,32の外周部分49が形成されている。図5に示すように, セパレータ30の凹球面31,32は, 爪部25,26の先端部が転動体20に接触するように, 曲率半径R1が転動体20の半径より小さく中心O1が中心線O−Oから偏心eした位置でなる2つの球面が合わさった複合球面に形成されている。従って, セパレータ30は, 隣り合う転動体20間にあって, 一方の転動体20と一側の3つの爪部25(a,b,c)で接触し, 他方の転動体20と他側の3つの爪部26(d,e,f)で接触し, 転動体20間の相互作用力によりそれぞれの爪部4が弾性変形して変化可能に転動体20間の距離を調整できるものになっている。また, セパレータ30は, 最も転動体20同士を押し込んだ状態では外枠部5のそれぞれの凹球面31,32の外周部分が全面でそれぞれ転動体20と接触し, 同時に, 爪部4の裏側部の先端部分も他方の転動体20に接触して, 結果, 爪部4の先端部分が両方の転動体20に接触する態様になる。従って, セパレータ30について,最小の転動体20間の距離が略爪部4の肉厚相当に確保され, 同時に大きな転動体20間の相互作用力も外枠部5を含めてしっかりと受容できるものになっている。
【0029】
また,セパレータ30の爪部4の裏側部は, 図5に示すように, 各爪部4の裏側にあって, 肉抜部35,36により肉抜きされて, 外周面に沿って外枠部5の所定肉厚を確保するように形成された内周面, 内周面と断面で鋭角状に交差して爪部4の対向面に沿って爪部4の薄肉の肉厚部を形成する円錐面15, 及び内周面と円錐面との交差部で爪部4の根元部を形成する角Rで形成され, 円周方向にスリット29を通して互い違いに形成されたものになっている。爪部4の転動体20との接触位置は, 隣り合う転動体20同士で中心Oからの距離が同一位置になっている。セパレータ30の中心には, 中央孔17が設けられており,言い換えれば,スリット29が交差することによって中央孔17が形成されている。従って, セパレータ30は, セパレータ30の剛性が大きく且つ弾性変形が大きく柔軟な弾性を備えたものになっている。また, 循環路19において,セパレータ30の存在によって潤滑剤を保留するスペースが確保され,潤滑切れが生じ難く,滑らかな転動体20の循環が可能になっている。また, 転動体20間の距離も最小に抑えられ,セパレータ30を介在させないタイプに比較しても負荷容量への影響を最小なものにしている。
【0030】
また,図6には, この転がり案内装置に組み込まれたセパレータ30の別の実施例が示されている。図6に示すセパレータ30は,図4のものと同様に,側面図で示されており,図4のセパレータ30に比べて, 各スリット29の外周側の端部に, 即ち爪部4の両側の根元部に肉抜孔37を形成したものになっており, 爪部4の弾性力をさらに柔軟にしたものになっている。
【0031】
また,図7及び図8において,セパレータ30は, 他の実施例を示したものであり, 図7は図4と同様の側面図を示し, 図8は図7のB−B断面図を示している。ここに示すセパレータ30は, 図4のセパレータ30に比べて, 爪部4の対向面を異にするものであり,爪部4は,凹部27,28の外周部分が凹球面31にそれぞれ形成され, 凹球面31に続き爪部4の根元部より若干先端寄りの位置から先端まで転動体20側に転動体20を底上げする態様で凹円錐面15にそれぞれ形成されている。爪部4の裏側には,肉抜部35,36が形成され,また,爪部4の先端部がそれぞれ切り欠かれて,中央に肉抜き孔38が形成されている。また,この時の凹球面31の中心O2は, セパレータ20の中心線O−Oに一致した位置になっている。爪部4は, 先端より外周側に寄った位置の凹円錐面15で転動体20と接触することになる。従って, この実施例のセパレータ30は, 図4のセパレータ30に比べて弾性力が大きい,即ちばね性が強いものになっている。従って, この発明による転がり案内装置に組み込まれたセパレータ30は, 使用される機械要素の形式に合わせて, 若干形状を変更するだけで弾性力を変更できるものになっている。また,セパレータ30については,爪部4は,凹部27,28の外周部分が凹球面31に形成され, 上記の凹円錐面15の代わりに,凹球面31に続き爪部4の根元部より若干先端寄りの位置から先端まで転動体20側に転動体20を底上げする態様で凹角錐面16,言い換えれば,三角形状の平面に形成してもよいものである。
【産業上の利用可能性】
【0032】
この発明による転がり案内装置は,転動体が循環する循環路において転動体間にセパレータが組み込まれたものであり, これらのセパレータは循環路を有する種々の形式の機械要素,例えば,直動案内ユニットや転がり軸受に適用できるものであり,半導体製造装置,組立装置,検査装置,医療機器,測定装置等の各種装置に適用して往復運動を行う部品に対して高精度で滑らかな往復運動等の性能を達成でき,特に,高速化,高サイクル化された半導体製造装置等に適用して好ましいものである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】この発明による転がり案内装置の一実施例を示し,特に,転動体間に介在されるセパレータを備えた直動案内ユニットを示す部分断面を含む斜視図である。
【図2】図1の直動案内ユニットにおける転動体とセパレータとの循環路を示す説明図である。
【図3】図1の直動案内ユニットにおける転動体間に介在されたセパレータを示す正面図である。
【図4】図3のセパレータの一実施例を示す一方の端面を示す側面図である。
【図5】図4のセパレータにおけるA−A断面を示す断面図である。
【図6】図3のセパレータの別の実施例を示す一方の端面を示す側面図である。
【図7】図3のセパレータの更に別の実施例を示す一方の端面を示す側面図である。
【図8】図7のセパレータにおけるB−B断面を示す断面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 軌道レール
2 スライダ
3 長手方向の側面
4 爪部
5 外枠部
13,14 軌道溝
15 凹円錐面
16 凹角錐面
17 中央孔
18 嵌挿孔
19 循環路
20 転動体
21 負荷軌道路
23 リターン路
24 方向転換路
25,26 爪部
27,28 凹部
29 スリット
30 セパレータ
31,32 凹球面
35,36 肉抜き部
37,38 肉抜き孔
45,47 端面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに相対移動する相対移動部材間に形成された循環路を転走する転動体,及び前記転動体同士の接触を防止するため前記転動体間に配置され且つ前記転動体間の距離を調整可能で弾性変形可能なセパレータを備えた転がり案内装置において,
前記セパレータは,外形を構成する環状の外枠部,隣り合う前記転動体がそれぞれ嵌入可能な両端面に形成された凹部,及び前記外枠部から前記凹部の中心に向かって舌片状に延びて前記転動体に接触して弾性変形可能な複数の爪部を前記凹部内にそれぞれ備えていることを特徴とする転がり案内装置。
【請求項2】
前記爪部は,前記転動体に対向する対向面が凹球面,凹円錐面,及び凹角錐面のいずれかの単一面又は複合面で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の転がり案内装置。
【請求項3】
前記爪部は,前記セパレータの一方の前記端面から延びる第1爪部と他方の前記端面から延びる第2爪部とから成り,前記第1爪部と前記第2爪部とは周方向に互い違いに形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の転がり案内装置。
【請求項4】
前記爪部を構成する前記第1爪部と前記第2爪部は,3個ずつ形成されていることを特徴とする請求項3に記載の転がり案内装置。
【請求項5】
前記セパレータの前記凹球面は,前記転動体の半径よりも小さい曲率半径でなり,前記曲率半径の中心は前記セパレータの中心から偏心していることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の転がり案内装置。
【請求項6】
前記セパレータは,前記舌片状に延びる前記爪部の舌片先端がフリーになって中心に中央孔が形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の転がり案内装置。
【請求項7】
前記セパレータは,隣接する前記爪部間にスリットが形成されており,前記爪部は,互いに独立して弾性変形可能に構成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の転がり案内装置。
【請求項8】
前記セパレータは,隣接する前記爪部間において前記外枠部と前記爪部との境界に前記スリットに連通する肉抜き孔が形成されて前記爪部の基端部の幅が小さく形成されていることを特徴とする請求項7に記載の転がり案内装置。
【請求項9】
前記セパレータは,前記爪部の裏面に肉抜き部が形成されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の転がり案内装置。
【請求項10】
前記相対移動部材が長手方向に沿って軌道溝が設けられた軌道レールと前記軌道溝に対応して軌道溝が設けられた前記軌道レールに対して前記転動体を介して摺動自在なスライダとから成る直動案内ユニットに適用されることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の転がり案内装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−283838(P2006−283838A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−102850(P2005−102850)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000229335)日本トムソン株式会社 (96)
【Fターム(参考)】