説明

軸受ユニット

【課題】密封性能を長期に亘って一定に維持することが可能なシール装置を備えることで軸受寿命の延命化を図ると共に、軸受製造時の周辺環境への汚染を防止しつつ低コストでの製造が可能な軸受ユニットを提供する。
【解決手段】内輪相当部材16及び外輪相当部材2との間に介在された転動体8と、軸受内部を軸受外部から密封するシール装置10aとを備え、シール装置のスリンガ42が嵌合固定された内輪相当部材の内輪外周面16mには、その周端縁に面取り部16Rが設けられていると共に、面取り部16Rには、内輪外周面から繋がって且つ軸受外部に向けて5度〜30度の範囲の傾斜角度で平坦状に連続した少なくとも1つの傾斜平面S1,S3が設けられており、傾斜平面S1は、その軸受外部側が所定の傾斜角度を有する平坦状の他の傾斜平面S3を介して内輪相当部材の軸受外部側周面16sに連続している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受回転検出用のエンコーダがスリンガに一体化されたシール装置を備えた軸受ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1の軸受をはじめとして、シール装置にエンコーダ付きスリンガが用いられた種々の軸受ユニットが知られている。その一例として図5に示された軸受ユニットには、軸受内部を軸受外部から密封するシール装置としてパックシール10aが用いられている。当該パックシール10aは、内輪相当部材16の内輪外周面16mに嵌合して固定されたスリンガ42と、外輪相当部材2の外輪内周面2mに嵌合されたシール本体とから構成されている。ここで、シール本体は、心金44の内周面(スリンガ42に対向する面)にシール材46を加硫して構成されており、シール材46には、例えば3つのシールリップ46a,46b,46cが一体成形されている。なお、心金44は、外輪内周面2mに嵌合される中空円筒部44aと、中空円筒部44aから内輪相当部材16(内輪外周面16m)に向けて折り返された環状折返部44bとを備えて構成されている。
【0003】
一方、スリンガ42は、内輪相当部材16の内輪外周面16mに嵌合された中空円筒状の円筒部42aと、当該円筒部42aの軸受外部側から外輪相当部材2(外輪内周面2m)に向けて延出し、外輪相当部材2(外輪内周面2m)に対して非接触状態に位置決めされた円環状の円環部42bとを有して構成されている。この場合、シール材46に成形された各シールリップ46a,46b,46cは、それぞれスリンガ42の環状スリンガ面M1,M2に摺接している。なお、一方の環状スリンガ面M1は、円環部42bの内周(シール本体に対向する周面)に形成され、他方の環状スリンガ面M2は、円筒部42aの内周(シール本体に対向する周面)に形成されている。
【0004】
また、スリンガ42には、その円環部42bの軸受外部側に軸受回転検出用のエンコーダ36が取り付けられている。ここで、エンコーダ36は、例えば磁性粉が混入された弾性部材をスリンガ42(円環部42b)の軸受外部側に加硫して接着されていると共に、その周方向に沿って磁気特性を交互に変化(例えば図6に示すように、S極とN極とを周方向に沿って交互に変化)させた状態で着磁されている。この場合、内輪相当部材16及び外輪相当部材2を複数の転動体(例えば、玉)8を介して相対回転させた際に、内輪相当部材16と共に回転するエンコーダ36の単位時間あたりの磁気変化がセンサ38で検出され、その検出結果に基づいて、軸受の回転速度が計測される。
【0005】
このようなシール装置によれば、軸受の回転状態並びに非回転状態において、例えば2つのシールリップ46a,46bが環状スリンガ面M1,M2に対して常に摺接状態となり、残りのシールリップ46cと環状スリンガ面M2との間にラビリンスが構成される。これにより、軸受内部を軸受外部から密封することができるため、軸受外部への潤滑剤(例えば、グリース、油)の漏洩防止や軸受内部への異物(例えば、水、塵埃)の浸入防止を図ることができる。なお、シール材46としては、例えばゴムやエラストマーなどの弾性材を適用することができると共に、当該シール材46を心金44の内周面に付加する方法としては、例えば焼き付けや接着剤により付加すれば良い。
【0006】
また、上述したシール装置において、スリンガ42を内輪相当部材16(内輪外周面16m)に嵌合する場合、まず、スリンガ42を接着剤液に浸してその全面に接着剤を塗布した後、半硬化させる。続いて、当該スリンガ42を所定の金型内にセットして成形(例えば、圧縮、射出など)処理を施す。このとき、磁性粉が混入された弾性部材をスリンガ42(円環部42b)の軸受外部側に加硫してエンコーダ36を一体的に接着させる。この後、エンコーダ36が一体化されたスリンガ42の円筒部42aに接着剤を塗布する。具体的には、内輪相当部材16の内輪外周面16mに嵌合させる円筒部42aの内周面(スリンガ42の内径面)M3に接着剤を塗布する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−215132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、円筒部42aの内周面(内径面)M3に対する接着剤の塗布処理では、当該接着剤が円筒部42aの内周面M3以外の部位(例えば、エンコーダ36など他の部位)にかからないようにマスキングした状態で、内周面M3に接着剤を噴霧(スプレー)している。しかしながら、このような塗布処理は、マスキングに要する手間や時間がかかるため、その分だけ処理コストが増加し、その結果、シール装置(スリンガ42)を内輪相当部材16(内輪外周面16m)に嵌合するための費用がかさんで、軸受ユニット全体の製造コストが上昇してしまう。
【0009】
また、スリンガ42を内輪相当部材16に固定する場合、円筒部42aの内周面M3を内輪外周面16mに圧入して嵌合させることになるが、その際の圧入力(摩擦力)の大きさによっては、当該内周面M3に塗布された接着剤が削り取られたり、剥離したりする場合がある。この場合、削り量や剥離量の程度によっては、スリンガ42の円筒部42a(内周面M3)と内輪相当部材16(内輪外周面16m)との間の密封性能を長期に亘って一定に維持することが困難になってしまう虞がある。そうなると、軸受寿命の延命化を図ることが困難になってしまう。更に、削り量や剥離量の程度によっては、軸受製造時に接着剤の削り粉や剥離粉が発生し、周辺環境を汚染してしまう虞もある。
【0010】
本発明は、このような問題を解決するためになされており、その目的は、密封性能を長期に亘って一定に維持することが可能なシール装置を備えることで軸受寿命の延命化を図ると共に、軸受製造時の周辺環境への汚染を防止しつつ低コストでの製造が可能な軸受ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的を達成するために、本発明は、互いに相対回転可能に対向配置された内輪相当部材及び外輪相当部材と、内輪相当部材と外輪相当部材との間に転動自在に介在された複数の転動体と、内輪相当部材と外輪相当部材との間で区画された軸受内部を軸受外部から密封するシール装置とを備えた軸受ユニットであって、シール装置には、内輪相当部材の内輪外周面に嵌合して固定されたスリンガと、当該スリンガに取り付けられた軸受回転検出用のエンコーダとが設けられ、且つ、スリンガは、内輪外周面に嵌合された中空円筒状の円筒部と、当該円筒部の軸受外部側から外輪相当部材に向けて延出し、外輪相当部材に対して非接触状態に位置決めされた円環状の円環部とを有すると共に、円筒部には、少なくとも内輪外周面に嵌合する内径面の全周に亘って所定の厚さで接着剤が塗布されており、内輪外周面のうち軸受外部側の周端縁には、内輪外周面から繋がって且つ軸受外部に向けて5度〜30度の範囲の傾斜角度で連続した面取り部が設けられていると共に、面取り部には、内輪外周面から繋がって且つ軸受外部に向けて5度〜30度の範囲の傾斜角度で平坦状に連続した少なくとも1つの傾斜平面が設けられており、少なくとも当該傾斜平面と内輪外周面との繋ぎ目領域は、平滑な曲面状を成して形成され、内輪外周面に対する傾斜平面の傾斜角度が5度に近づくに従って、繋ぎ目領域の曲率半径を小さく設定し、内輪外周面に対する傾斜平面の傾斜角度が30度に近づくに従って、繋ぎ目領域の曲率半径を大きく設定すると共に、スリンガの円筒部の内径面と内輪外周面との間の締め代は、その径寸法で0.1%〜0.4%に設定されており、傾斜平面は、その軸受外部側が所定の傾斜角度を有する平坦状の他の傾斜平面を介して内輪相当部材の軸受外部側周面に連続している。
本発明において、傾斜平面と他の傾斜平面との繋ぎ目領域は、平滑な曲面状を成して形成されている。
本発明は、上記した軸受ユニットを用いた車輪用軸受ユニットであって、内輪相当部材及び外輪相当部材のいずれか一方は、車体側構成品に固定されて常時非回転状態に維持されていると共に、内輪相当部材及び外輪相当部材のいずれか他方は、車輪側構成品に接続されて車輪と共に回転可能状態に維持されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、密封性能を長期に亘って一定に維持することが可能なシール装置を備えることで軸受寿命の延命化を図ると共に、軸受製造時の周辺環境への汚染を防止しつつ低コストでの製造が可能な軸受ユニットを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)は、本発明の一実施の形態に係る軸受ユニットの構成を示す断面図、(b)は、同図(a)の軸受ユニットに設けられた面取り部の構成を示す図、(c)は、同図(a)の軸受ユニットに設けられた面取り部の他の構成を示す図、(d)は、同図(a)の軸受ユニットに設けられた面取り部の他の構成を示す図。
【図2】(a)は、シール装置のスリンガを軸受に嵌合させる様子を示す図、(b)は、同図(a)のスリンガの嵌合先端側の拡大図であって、嵌合先端が面取り部に沿って移動している状態を示す図、(c)は、同図(a)のスリンガの嵌合先端側の拡大図であって、嵌合先端が面取り部を乗り越えて移動した状態を示す図。
【図3】本発明の一実施の形態に係る軸受ユニットを用いた車輪用軸受ユニットの構成を示す断面図。
【図4】(a)は、本発明の変形例に係る軸受ユニットの構成を示す断面図、(b)は、本発明の他の変形例に係る軸受ユニットの構成を示す断面図。
【図5】従来の軸受ユニットの構成を示す断面図。
【図6】エンコーダが一体化されたスリンガの斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施の形態に係る軸受ユニットについて、添付図面を参照して説明する。本実施の形態は、図5に示された軸受ユニットの改良であるため、以下、改良部分の説明にとどめる。この場合、上述した軸受ユニット(図5)と同一の構成には、その構成に付された参照符号と同一の参照符号を本実施の形態の添付図面上に付すことで、その説明を省略する。
【0015】
図1(a),(b)には、シール装置(パックシール)10aを備えた軸受ユニットの構成が示されている。当該軸受ユニットにおいて、内輪相当部材16の内輪外周面16mのうち軸受外部側の周端縁には、当該内輪外周面16mから繋がって且つ軸受外部に向けて所定の傾斜角度で連続した面取り部16Rが設けられている。また、少なくとも面取り部16Rと内輪外周面16mとの繋ぎ目領域Mrは、平滑な曲面状を成して形成されている。
【0016】
具体的に説明すると、面取り部16Rには、内輪外周面16mから繋がって且つ軸受外部に向けて所定の傾斜角度αで平坦状に連続した1つの傾斜平面S1が設けられている。そして、当該傾斜平面S1と内輪外周面16mとの繋ぎ目領域Mrは、平滑な曲面状を成して形成されている。この場合、傾斜角度αは、内輪外周面16mと傾斜平面S1との成す角度であり、5度〜30度の範囲に設定することが好ましい。
【0017】
また、曲面状を成す繋ぎ目領域Mrは、内輪外周面16mに対する傾斜平面S1の傾斜角度αの大きさに応じて、その曲率半径が設定される。例えば傾斜角度αが5度に近づくに従って、繋ぎ目領域Mrの曲率半径を小さく設定し、これに対して、例えば傾斜角度αが30度に近づくに従って、繋ぎ目領域Mrの曲率半径を大きく設定する。なお、傾斜平面S1の傾斜角度αと繋ぎ目領域Mrの曲率半径との関係は、例えば内輪外周面16mの軸受外部側の周端縁の形状や大きさ、或いは、内輪外周面16mに嵌合するスリンガ42(円筒部42a)の形状や大きさなどに応じて最適な関係に設定されるため、ここでは特に限定しない。
【0018】
これにより、繋ぎ目領域Mrをなだらかなで且つ角になっていない平滑な曲面状に構成することができる。この結果、傾斜平面S1から繋ぎ目領域Mrを介して内輪外周面16mに亘って滑らかに連続した面取り部16Rを実現することができる。なお、当該面取り部16R(傾斜平面S1)の軸受外部側は、外端繋ぎ目領域Trを介して内輪相当部材16の軸受外部側周面16sに連続している。
【0019】
ここで、図2(a)〜(c)を参照して、上述したような面取り部16Rが設けられた内輪相当部材16の内輪外周面16mに対して、エンコーダ36が一体化されたスリンガ42を嵌合するプロセスについて説明する。なお、図面では、パックシール10aのシール本体を外輪相当部材2の外輪内周面2mに嵌合しながら、当該パックシール10aのスリンガ42を内輪相当部材16の内輪外周面16mに嵌合する場合が例示されているが、エンコーダ36が一体化されたスリンガ42のみを内輪相当部材16の内輪外周面16mに嵌合する場合も同様のプロセスを適用することができる。
【0020】
まず、図2(a)に示すように、円筒部42aの軸受内部側(円環部42bとは反対側)を内輪相当部材16の内輪外周面16mに向けた状態で、当該スリンガ42を矢印K方向に移動させる。このとき、円筒部42aの内周面(スリンガ42の内径面)M3の径寸法と内輪外周面16mの径寸法との間には、予め所定の締め代が設定されているため、スリンガ42(円筒部42a)の軸受内部側の嵌合先端42tが、内輪外周面16mの軸受外部側周端縁に設けられた面取り部16R(傾斜平面S1)に当接する。
【0021】
この状態で、スリンガ42を矢印K方向に移動させると、図2(b)に示すように、嵌合先端42tが面取り部16R(傾斜平面S1)に沿ってスムーズに案内されて移動する。このとき、嵌合先端42tの移動に伴って、円筒部42aの内周面(スリンガ42の内径面)M3の径寸法が拡径する。この場合、傾斜平面S1は、傾斜角度αで平坦状に連続しているため、当該傾斜平面S1に沿って嵌合先端42tが移動することによって、円筒部42aの内周面(内径面)M3の径寸法は、徐々に且つ連続的に滑らかに拡径し、当該円筒部42aが急激に変形したり歪んだりすることは無い。
【0022】
そして、更にスリンガ42を矢印K方向に移動させると、図2(c)に示すように、嵌合先端42tが傾斜平面S1から繋ぎ目領域Mrを滑らかに乗り越えて移動することによって、円筒部42aの内周面(内径面)M3を内輪相当部材16の内輪外周面16mにスムーズに圧入して嵌合させることができる。この場合、スリンガ42(円筒部42a)の嵌合先端42tには、その内周面(内径面)M3から末広がり状に連続した円錐形の傾斜面M4を形成することが好ましい。これにより、上記嵌合プロセスに際し、嵌合先端42tの傾斜面M4が面取り部16R(傾斜平面S1)に面状に摺接しながら移動するため、よりスムーズに且つ安定して円筒部42aの内周面(内径面)M3を内輪相当部材16の内輪外周面16mに圧入して嵌合させることができる。
【0023】
以上、本実施の形態によれば、5度〜30度の傾斜角度αを成す面取り部16R(傾斜平面S1)を設けて、その繋ぎ目領域Mrを平滑な曲面状に形成したことにより、傾斜平面S1から繋ぎ目領域Mrを経て内輪外周面16mに亘る領域全体をなだらかなで且つ角になっていない形状にすることができる。これにより、上記嵌合プロセスに際し、スリンガ42(円筒部42a)の嵌合先端42tが面取り部16R(傾斜平面S1)から繋ぎ目領域Mrを滑らかに案内されて乗り越えることで、スリンガ42(円筒部42a)の内周面(内径面)M3を内輪外周面16mにスムーズに圧入して嵌合させることができる。
【0024】
このとき、円筒部42aの内周面(内径面)M3の径寸法は、徐々に且つ連続的に滑らかに拡径し、急激に変形したり歪んだりすることは無い。これにより、円筒部42aの内周面(内径面)M3に塗布された接着剤が削り取られたり、剥離したりするといった不具合の発生を防止することができる。この場合、スリンガ42(円筒部42a)の内周面(内径面)M3には、適量(厚さ10μm以下)の接着剤を残留させることができる。この結果、スリンガ42の円筒部42a(内周面M3)と内輪相当部材16(内輪外周面16m)との間の密封性能を長期に亘って一定に維持することができるため、軸受寿命の延命化を図ることが可能となる。
【0025】
また、上記嵌合プロセスに際し、接着剤が削り取られたり、剥離したりしたとしても、その削り量や剥離量は極僅かであるため、当該削り粉や剥離粉によって軸受製造時における周辺環境を汚染してしまうことは無い。なお、このように接着剤が削り・剥離しても、スリンガ42(円筒部42a)の内周面(内径面)M3には、適量(厚さ10μm以下)の接着剤が残留することになるため、密封性能は一定に維持される。
【0026】
更に、本実施の形態によれば、例えばマスキングした状態で接着剤を噴霧(スプレー)するといった従来の嵌合プロセスが不要となり、シール装置(スリンガ42)を内輪相当部材16(内輪外周面16m)に嵌合するための費用を少なくすることができる。これにより、軸受ユニット全体の製造コストを従来に比べて大幅に低減させることができる。
【0027】
また、上述した実施の形態において、面取り部16R(傾斜平面S1)の傾斜角度αについては、5度未満では、スリンガ42(円筒部42a)の嵌合先端42tを安定してスムーズに案内することができなくなる。これに対して、30度を越えると、上記嵌合プロセスに際し、円筒部42aの内周面(内径面)M3の径寸法が急激に拡径し、当該円筒部42aが急激に変形したり歪んだりすることで、円筒部42aの内周面(内径面)M3に塗布された接着剤が削り取られたり、剥離したりする場合がある。従って、面取り部16R(傾斜平面S1)の傾斜角度αは、5度〜30度に設定することが好ましいが、これを10度〜20度に設定することにより、スリンガ42(円筒部42a)の嵌合先端42tの案内性や接着剤の削り及び剥離防止性を更に向上させることができる。
【0028】
また、上述した実施の形態において、円筒部42aの内周面(スリンガ42の内径面)M3と内輪外周面16mとの間の締め代については、その径寸法で0.1%よりも小さく設定すると、嵌合力(固定力)が弱くなり、スリンガ42(円筒部42a)の移動や抜けといった不具合が生じる場合がある。これに対して、0.4%よりも大きく設定すると、スリンガ42(円筒部42a)の塑性変形が大きくなるだけで嵌合力(固定力)の増加はほとんど無く、また、接着剤が削り取られたり、剥離したりする場合がある。従って、円筒部42aの内周面(スリンガ42の内径面)M3と内輪外周面16mとの間の締め代については、その径寸法で0.1%〜0.4%に設定することが好ましいが、これを0.15%〜0.35%に設定することにより、嵌合力(固定力)の増加と共に、接着剤の削り及び剥離防止性を更に向上させることができる。
【0029】
更に、上述した実施の形態では、面取り部16R(傾斜平面S1)の軸受外部側を外端繋ぎ目領域Trを介して内輪相当部材16の軸受外部側周面16sに連続させているが、これに代えて、例えば図1(c)に示すように、傾斜平面S1の軸受外部側を所定の曲率半径を有する曲面S2を介して内輪相当部材16の軸受外部側周面16sに連続させるようにしても良い。この場合、傾斜平面S1と外端繋ぎ目領域Trとの間に所定の曲率半径を有する曲面S2を介在させて、傾斜平面S1と曲面S2との繋ぎ目領域Srは、平滑な曲面状を成して形成されている。
【0030】
このような構成によれば、軸受外部側周面16sから外端繋ぎ目領域Tr、曲面S2、繋ぎ目領域Sr、傾斜平面S1、繋ぎ目領域Mrを経て内輪外周面16mに亘る領域全体をなだらかなで且つ角になっていない形状にすることができる。これにより、スリンガ42(円筒部42a)の内周面(内径面)M3を内輪外周面16mによりスムーズに圧入して嵌合させることができる。なお、その他の効果は上述した実施の形態と同様であるため、その説明は省略する。
【0031】
また、上述した実施の形態では、面取り部16R(傾斜平面S1)の軸受外部側を外端繋ぎ目領域Trを介して内輪相当部材16の軸受外部側周面16sに連続させているが、これに代えて、例えば図1(d)に示すように、傾斜平面S1の軸受外部側を所定の傾斜角度βを有する平坦状の他の傾斜平面S3を介して内輪相当部材16の軸受外部側周面16sに連続させるようにしても良い。この場合、傾斜平面S1と外端繋ぎ目領域Trとの間に所定の傾斜角度βを有する他の傾斜平面S3を介在させた面取り2段の構成となり、傾斜平面S1と他の傾斜平面S3との繋ぎ目領域Srは、平滑な曲面状を成して形成されている。
【0032】
このような面取り2段の構成によれば、他の傾斜平面S3から繋ぎ目領域Sr、傾斜平面S1、繋ぎ目領域Mrを経て内輪外周面16mに亘る領域全体をなだらかなで且つ角になっていない形状にすることができる。この場合、他の傾斜平面S3の傾斜角度βは、5度〜30度の範囲に設定することが好ましい。なお、当該傾斜平面S3の傾斜角度βと傾斜平面S1の傾斜角度αとの関係は、例えば内輪外周面16mの軸受外部側の周端縁の形状や大きさ、或いは、内輪外周面16mに嵌合するスリンガ42(円筒部42a)の形状や大きさなどに応じて最適な関係に設定されるため、ここでは特に限定しない。また、このような構成の効果は上述した実施の形態と同様であるため、その説明は省略する。
【0033】
更に、上述した実施の形態において、例えば磁性粉が混入されたプラスチック製のエンコーダ36を適用する場合には、スリンガ42全面に接着剤を塗布して半硬化させた状態で、磁性粉が混入されたプラスチック材を射出成形した後、接着剤を二次加熱することが好ましい。これにより、エンコーダ36をスリンガ42(円環部42b)に堅牢に且つ強固に接着することができるため、例えば上記嵌合プロセスに際し、スリンガ42からエンコーダ36が脱落したり、剥がれたりすることは無い。
【0034】
ここで、上述したような構成に基づく本実施の形態の効果について、当該実施品と従来品との比較検証を行った結果を示す。かかる比較検証では、スリンガの内径面に対してその径寸法で0.25%大きな軸を圧入した後、当該軸を引き抜いた際にスリンガの内径面に残留した接着剤を確認した。この場合、従来品に適用した軸には、本実施の形態と同様の面取り部が設けられているが、平滑な曲面状を成した繋ぎ目領域は形成されていない。これに対して、実施品に適用した軸には、平滑な曲面状を成した繋ぎ目領域を有する本実施の形態と同様の面取り部が設けられている。
【0035】
従来品(1):面取り部の傾斜角度45度
スリンガの内径面全周に亘って、接着剤の残留はほとんど確認されない。
従来品(2):面取り部の傾斜角度30度
スリンガの内径面の一部に接着剤が残留しているが、スリンガの内径面全周に亘って、接着剤の残留は確認されない。
従来品(3):面取り部の傾斜角度15度
スリンガの内径面の一部に接着剤が残留しているが、スリンガの内径面全周に亘って、接着剤の残留は確認されない。
【0036】
実施品(1):面取り部の傾斜角度30度
スリンガの内径面の一部の接着剤が削れているが、スリンガの内径面全周の2/3以上に亘って、適量(厚さ10μm以下)の接着剤が残留していることが確認された。
実施品(2):面取り部の傾斜角度5度
スリンガの内径面全周に亘って、適量(厚さ10μm以下)の接着剤が残留していることが確認された。
実施品(3):面取り部の傾斜角度15度
スリンガの内径面全周に亘って、適量(厚さ10μm以下)の接着剤が残留していることが確認された。
実施品(4):面取り部の傾斜角度10度(軸受外部側の傾斜角度15度の面取り2段)
スリンガの内径面全周に亘って、適量(厚さ10μm以下)の接着剤が残留していることが確認された。
【0037】
また、図3には、本実施の形態の軸受ユニットを用いた車輪用軸受ユニットの構成が示されている。ここでは一例として、自動車の車輪(例えば、ディスクホイール)を車体(例えば、懸架装置(サスペンション))に対して回転自在に支持する駆動輪用軸受ユニットが示されている。この場合、当該軸受ユニットは、車体側構成品に固定されて常時非回転状態に維持される静止輪(外輪相当部材)2と、静止輪2の内側に対向して設けられ且つ車輪側構成品に接続されて車輪と共に回転する回転輪4と、静止輪2と回転輪4との間に複列(例えば2列)で回転可能に組み込まれた複数の転動体6,8とを備えている。
【0038】
このような軸受ユニットにおいて、上述したシール装置であるパックシール10aは、車体側の静止輪2と回転輪4(後述のハブ12と共に回転輪4を構成する別体内輪16)との間に設けられており、一方、車輪側の静止輪2と回転輪4との間には、リップシール10bが設けられている。これにより、軸受内部が軸受外部から密封されている。なお、転動体6,8として図面では、玉を例示しているが、軸受ユニットの構成や種類に応じて、コロが適用される場合もある。
【0039】
また、静止輪2には、その外周面から外方に向って突出した固定フランジ2aが一体成形されており、固定フランジ2aの固定孔2bに固定用ボルト20を挿入し、これを車体側構成品に締結することによって、静止輪2を懸架装置(ナックル)22に固定することができる。また、回転輪4には、例えば自動車のディスクホイール(図示しない)を支持しつつ共に回転する略円筒形状のハブ12が設けられており、ハブ12には、ディスクホイールが固定されるハブフランジ12aが突設されている。
【0040】
ハブフランジ12aは、静止輪2を越えて外方(ハブ12の半径方向外側)に向って延出しており、その延出縁付近には、周方向に沿って所定間隔で配置された複数のハブボルト14が設けられている。この場合、複数のハブボルト14をディスクホイールに形成されたボルト孔(図示しない)に差し込んでハブナット(図示しない)で締付けることにより、ディスクホイールをハブフランジ12aに対して位置決めして固定することができる。
【0041】
また、ハブ12(回転輪4)には、その車体側に環状の内輪相当部材16(ハブ12と共に回転輪4を構成する別体内輪)が嵌合されるようになっている。この場合、例えば静止輪2と回転輪4との間に複数の転動体6,8を介挿した状態(具体的には、各転動体6,8を保持器18で保持した状態)で、内輪相当部材(別体内輪)16をハブ12に形成された段部12bまで嵌合した後、ハブ12の車体側端部の加締め領域12cを塑性変形させて、当該加締め領域12cを内輪相当部材16の軸受外部側周面16sに沿って加締めることにより、当該内輪相当部材16を回転輪4(ハブ12)に固定することができる。
【0042】
このとき、軸受ユニットには所定の予圧が付与された状態となり、この状態において、各転動体6,8は、互いに所定の接触角を成して静止輪2と回転輪4の軌道面(特に参照符号は付さない)にそれぞれ接触して回転可能に組み込まれる。この場合、2つの接触点を結んだ作用線(図示しない)は、各軌道面に直交し且つ各転動体6,8の中心を通り、軸受ユニットの中心線上の1点(作用点)で交わる。これにより背面組合せ形(DB)軸受が構成される。
【0043】
なお、このような構成において、自動車走行中に車輪に作用した力は、全てディスクホイールから軸受ユニットを通じて懸架装置に伝達されることになり、その際、軸受ユニットには、各種の荷重(ラジアル荷重、アキシアル荷重、モーメント荷重など)が作用する。しかし、軸受ユニットは、上述したような背面組合せ形(DB)軸受となっているため、各種の荷重に対して高い剛性が維持される。
【0044】
また、上述した駆動輪用軸受ユニットには、等速ジョイント(CVJ)が連結されるようになっている。具体的に説明すると、軸受ユニットの回転輪4(ハブ12)には、その回転中心に沿って軸方向に貫通したスプライン孔12hが形成されており、一方、等速ジョイント(CVJ)には、スプライン孔12hに嵌入可能なスプライン軸24が等速ジョイント用外輪26から延出されている。
【0045】
この場合、スプライン軸24をスプライン孔12hに嵌入して、その嵌入先端をナット28でパイロット部12dに固定する。このとき、等速ジョイント用外輪26を回転輪4(ハブ12の加締め領域12c)に当接させることにより、当該外輪26とナット28との間でハブ12を挟持した状態で等速ジョイント(CVJ)と軸受ユニットとが相互に連結される。
【0046】
なお、等速ジョイント用外輪26の内側には、当該外輪26に対向して配置された等速ジョイント用内輪30が設けられており、これら外内輪26,30間に複数のボール32が保持器34で保持された状態で転動自在に介在されている。また、等速ジョイント用内輪30の中心には、駆動装置(エンジン)に連結された駆動軸(ドライブシャフト)が嵌入(連結)されるスプライン孔30hが形成されている。
【0047】
この場合、等速ジョイント用内輪30に嵌入された駆動軸は、外内輪26,30間でボール32が転動することで、任意の角度を成して回転駆動可能となる。これにより、例えばドライブシャフトの角度の変化に追従して等速ジョイント(CVJ)が自由に角度変化することにより、駆動装置(エンジン)から駆動軸(ドライブシャフト)に伝達された所定トルクの駆動力(回転運動)が軸受ユニットを介してディスクホイールに等速で伝達される。
【0048】
また、上述した駆動輪用軸受ユニットには、車輪の回転速度を検出するための回転検出機構として、スリンガ42(円環部42b)に接着された軸受回転検出用のエンコーダ36と、エンコーダ36の磁気特性(情報特性)を検出するセンサ38とが設けられている。この場合、エンコーダ36は、シール装置のスリンガ42を内輪相当部材16に固定することで、回転輪4と同心円状に位置決めされる。一方、センサ38は、センサ支持体40の車輪側に支持されており、当該センサ支持体40を静止輪2の車体側に形成された車体側端部2nに固定することで、エンコーダ36に対向して位置決めされる。
【0049】
かかる回転検出機構において、エンコーダ36は、周方向に沿って磁気特性が交互に変化(例えば、S極とN極とを周方向に沿って交互に変化)して構成されており、自動車の走行時に回転輪4と共に回転するエンコーダ36の単位時間あたりの磁気変化がセンサ38で検出されるようになっている。このとき、センサ38から出力された検出信号は、例えばハーネス(図示しない)又は電波(ワイヤレス)などを介して車体側のECU(Electronic Control Unit:図示しない)に送信され、ここで当該検出信号に所定の演算処理が施されることで、車輪の回転速度が計測される。
【0050】
このような駆動輪用軸受ユニットによれば、スリンガ42(円筒部42a)の内周面(内径面)M3に適量(厚さ10μm以下)の接着剤を残留させた状態で、シール装置(パックシール)10aを外輪相当部材2の外輪内周面2mと内輪相当部材16の内輪外周面16mとの間に嵌合して固定することができる。この場合、軸受内部の密封性能を長期に亘って一定に維持することができるため、軸受寿命の延命化を図ることができる。これにより、自動車の車輪(ディスクホイール)を車体(懸架装置(サスペンション))に対して長期に亘って安定して回転自在に支持することが可能となり、その結果、自動車の走行安定性を長期に亘って一定に維持することができる。
【0051】
なお、本実施の形態の軸受ユニットの適用例としては、図3に示した駆動輪用軸受ユニットに限定されることは無く、例えば従動輪用軸受ユニットに適用することもできる。また、図3には、ハブ12に別体内輪としての1つの内輪相当部材16を嵌合して回転輪4を構成する軸受ユニットを例示したが、これに限定されることは無く、例えばハブに複列の内輪相当部材を嵌合させた軸受ユニットや、ハブを設けずに複列の内輪相当部材を外輪相当部材に対向配置させた軸受ユニットなど各種の軸受ユニットにも上述した実施の形態の技術を適用することができることは言うまでも無い。
【0052】
また、本発明の軸受ユニットとしては、上述した実施の形態の構成に限定されることは無く、その変形例として図4(a)に示すように、内輪相当部材16の内輪外周面16mを一部に周方向に沿って窪ませた環状の窪み部16hを形成し、ここにスリンガ42の円筒部42aを嵌合させる構成であっても良い。更に、本発明の軸受ユニットとしては、上述した実施の形態の構成に代えて、他の変形例として図4(b)に示すように、内輪相当部材16における面取り部16Rの軸受外部側に段部16gを掘り込み形成した構成であっても良い。
【0053】
更に、上述した実施の形態では、シール装置としてパックシール10aを想定して説明したが、これに限定されることは無く、エンコーダ36が一体化されたスリンガ42のみをシール装置として構成しても良い。また、エンコーダ36の材質としては、磁性粉が混入可能であれば、例えばゴムや合成樹脂、或いは焼結金属など種々の材料を適用することができる。
【符号の説明】
【0054】
2 外輪相当部材
8 転動体
10a シール装置
16 内輪相当部材
16m 内輪外周面
16R 面取り部
16s 軸受外部側周面
42 スリンガ
S1,S3 傾斜平面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに相対回転可能に対向配置された内輪相当部材及び外輪相当部材と、内輪相当部材と外輪相当部材との間に転動自在に介在された複数の転動体と、内輪相当部材と外輪相当部材との間で区画された軸受内部を軸受外部から密封するシール装置とを備えた軸受ユニットであって、
シール装置には、内輪相当部材の内輪外周面に嵌合して固定されたスリンガと、当該スリンガに取り付けられた軸受回転検出用のエンコーダとが設けられ、且つ、スリンガは、内輪外周面に嵌合された中空円筒状の円筒部と、当該円筒部の軸受外部側から外輪相当部材に向けて延出し、外輪相当部材に対して非接触状態に位置決めされた円環状の円環部とを有すると共に、円筒部には、少なくとも内輪外周面に嵌合する内径面の全周に亘って所定の厚さで接着剤が塗布されており、
内輪外周面のうち軸受外部側の周端縁には、内輪外周面から繋がって且つ軸受外部に向けて5度〜30度の範囲の傾斜角度で連続した面取り部が設けられていると共に、
面取り部には、内輪外周面から繋がって且つ軸受外部に向けて5度〜30度の範囲の傾斜角度で平坦状に連続した少なくとも1つの傾斜平面が設けられており、少なくとも当該傾斜平面と内輪外周面との繋ぎ目領域は、平滑な曲面状を成して形成され、
内輪外周面に対する傾斜平面の傾斜角度が5度に近づくに従って、繋ぎ目領域の曲率半径を小さく設定し、内輪外周面に対する傾斜平面の傾斜角度が30度に近づくに従って、繋ぎ目領域の曲率半径を大きく設定すると共に、
スリンガの円筒部の内径面と内輪外周面との間の締め代は、その径寸法で0.1%〜0.4%に設定されており、
傾斜平面は、その軸受外部側が所定の傾斜角度を有する平坦状の他の傾斜平面を介して内輪相当部材の軸受外部側周面に連続していることを特徴とする軸受ユニット。
【請求項2】
傾斜平面と他の傾斜平面との繋ぎ目領域は、平滑な曲面状を成して形成されていることを特徴とする請求項1に記載の軸受ユニット。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の軸受ユニットを用いた車輪用軸受ユニットであって、
内輪相当部材及び外輪相当部材のいずれか一方は、車体側構成品に固定されて常時非回転状態に維持されていると共に、内輪相当部材及び外輪相当部材のいずれか他方は、車輪側構成品に接続されて車輪と共に回転可能状態に維持されていることを特徴とする車輪用軸受ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−255549(P2012−255549A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−143950(P2012−143950)
【出願日】平成24年6月27日(2012.6.27)
【分割の表示】特願2007−159128(P2007−159128)の分割
【原出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】