説明

軸受付きシャフト装置

【課題】シャフトの外周面に圧入固定される規制部材によってころ軸受の軸方向への不測の移動を防止することができると共に、ころ軸受との間に発生する摺動抵抗を軽減することができる軸受付きシャフト装置を提供する。
【解決手段】シャフト11の外周面の軸方向に、駒体14と、ころ軸受20とが所定の間隔を保って配置される。ころ軸受20は、シャフト11の外周面を内輪軌道面12とする多数のころ25を有し、これら多数のころ25のうち、少なくとも一つのころ25aは他のころ25よりも長尺に形成される。一方、シャフト11の外周面には、長尺のころ25aの端面26に近接してころ軸受20の軸方向の移動を規制する筒状の規制部材30が圧入固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、シャフトと、駒体と、ころ軸受とを備えた軸受付きシャフト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シャフトと、駒体と、ころ軸受とを備えた軸受付きシャフト装置としては、例えば、内燃機関のシリンダヘッド部に回転可能に組み付けられる軸受付きカムシャフト装置がある。
軸受付きシャフト装置がカムシャフト装置である場合、シャフトと、複数のカム駒(駒体に相当する)と、及びシャフトの外周面を内輪軌道面とする多数のころを有するころ軸受とがそれぞれ個別に製作された後、シャフトの外周面の軸方向に、カム駒ところ軸受とが所定順に嵌挿されて組み付けられるものがある。
なお、ころ軸受を分割構成してシャフトの外周方向からころ軸受を組み付け可能にした軸受付きシャフト装置しては、例えば、特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開2007−187259号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、シャフトの外周面の軸方向に、カム駒ところ軸受とが所定順に嵌挿されて組み付けられた軸受付きカムシャフト装置をシリンダヘッド部に組み付ける際、シャフトの軸方向にころ軸受が不測に移動することがある。この場合には、シャフトの軸方向の所定位置までころ軸受を移動調整して組み付けなければならず、その作業が厄介となる。
そこで、シャフトの外周面に、ころ軸受の外輪の端部に接近して規制部材を配設してころ軸受の軸方向への不測の移動を規制することが考えられる。
しかしながら、ころ軸受の外輪の端部に接近して規制部材を配設すると、軸受回転時において、ころ軸受の外輪の端部と規制部材とは相対回転するため、これら両者間に摺動抵抗(摩擦力)が発生し、軸受性能を悪化させることが想定される。
【0004】
この発明の目的は、前記問題点に鑑み、シャフトの外周面に圧入固定される規制部材によってころ軸受の軸方向への不測の移動を防止することができると共に、ころ軸受との間に発生する摺動抵抗を軽減することができる軸受付きシャフト装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、この発明の請求項1に係る軸受付きシャフト装置は、シャフトの外周面の軸方向に、駒体と、ころ軸受とが所定の間隔を保って配置される軸受付きシャフト装置であって、
前記ころ軸受は、前記シャフトの外周面を内輪軌道面とする多数のころを有し、これら多数のころのうち、少なくとも一つのころは他のころよりも長尺に形成される一方、
前記シャフトの外周面には、前記長尺のころの端面に近接して前記ころ軸受の軸方向の移動を規制する筒状の規制部材が圧入固定されていることを特徴とする。
【0006】
前記構成によると、シャフトの外周面に圧入固定された筒状の規制部材に、ころ軸受の多数のころのうちの、長尺のころの端面が当接することによってころ軸受の軸方向への不測の移動を防止することができる。このため、軸受付きシャフト装置をシリンダヘッド部等のハウジングに組み付ける作業が容易となる。
また、軸受回転時において、筒状の規制部材と長尺のころの端面とが接触することで、他のころの端面や外輪との接触を抑制することができる。
このため、筒状の規制部材ところ軸受との間に発生する摺動抵抗(摩擦力)を軽減することができる。
【0007】
この発明の請求項2に係る軸受付きシャフト装置は、請求項1に記載の軸受付きシャフト装置であって、
規制部材は、シャフトの外周面に圧入固定される円筒部と、この円筒部の一端部外周面に環状に突出されたフランジ部とを備え、
前記フランジ部の外径寸法は、ころ軸受の外輪の外径寸法よりも小さく設定されていることを特徴とする。
【0008】
前記構成によると、規制部材の円筒部をシャフトの外周面の所定位置まで圧入する際、圧入工具によって規制部材のフランジ部を軸方向へ押圧することによってシャフトの外周面の所定位置まで規制部材を容易に圧入して固定することができる。
また、規制部材のフランジ部の外径寸法がころ軸受の外輪の外径寸法よりも小さく設定されているため、軸受付きシャフト装置をシリンダヘッド部等のハウジングに押えカバーを締め付けて組み付ける際、規制部材のフランジ部の外周部が押えカバーに当たることを回避することができ、軸受付きシャフト装置の組み付けに支障をきたす不具合が生じない。
【0009】
この発明の請求項3に係る軸受付きシャフト装置は、請求項1又は2に記載の軸受付きシャフト装置であって、
規制部材は、シャフトよりも硬度が小さい材料によって形成されていることを特徴とする。
【0010】
前記構成によると、規制部材をシャフトの外周面の所定位置まで圧入する際、シャフトの外周面に規制部材の圧入傷が発生することを抑制することができる。このため、シャフトの外周面を内輪軌道面とするころ軸受の軸受性能を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、この発明を実施するための最良の形態を実施例にしたがって説明する。
【実施例】
【0012】
(実施例1)
この発明の実施例1を図1〜図4にしたがって説明する。
図1はこの発明の実施例1に係る軸受付きカムシャフト装置を示す縦断面図である。図2は図1のII−II線に基づく横断面図である。図3は図2のIII−III線に基づく縦断面図である。図4は図2のIV−IV線に基づく縦断面図である。
【0013】
図1に示すように、この実施例1においては、軸受付きシャフト装置が内燃機関のシリンダヘッド部に組み付けられる軸受付きカムシャフト装置(カムシャフトユニット)である場合を例示する。
軸受付きカムシャフト装置は、シャフト11の外周面の軸方向に、駒体としての複数のカム駒14と、複数のころ軸受(シェル形の針状ころ軸受も含む)20と、複数対の規制部材30とが所定間隔を保って所定順に組み付けられることでユニット化されている。
【0014】
図2と図3に示すように、ころ軸受20は、外輪21と、シャフト11の外周面を内輪軌道面12とする多数のころ(針状ころも含む)25とを備えており、ころ25を保持する保持器を用いない総ころ型軸受である。
外輪21の内周面には、外輪軌道面22が形成され、外輪21の両端部には、半径方向内方に環状に突出する鍔23が形成されている。
外輪21の外輪軌道面22上に配置される多数のころ25のうち、少なくとも一つのころ25aは他のころ25よりも長尺に形成されている。
また、この実施例1において、長尺のころ25aの両端面26は半球状に形成されている。
さらに、長尺のころ25aの長さ寸法は、外輪21の両鍔23の対向面の間隔寸法と略同じ大きさに設定されている。
そして、ころ軸受20は、その外輪21の外輪軌道面22に多数のころ(長尺のころ25aも含む)25がグリース等の潤滑剤の粘性によって保持された状態でシャフト11の一端側から嵌込まれて同シャフト11の所定位置まで嵌挿されてることで、シャフト11の外周面を内輪軌道面12として組み付けられる。
【0015】
図3と図4に示すように、シャフト11の外周面には、ころ軸受20の多数のころ25のうち長尺のころ25aの両端面26に近接してころ軸受20の軸方向の移動を規制する筒状の規制部材30が圧入固定されている。
この実施例1において、規制部材30は、鋼鉄製のシャフト11よりも硬度が小さい合成樹脂材の射出成形によって形成され、シャフト11の外周面に圧入固定される円筒部31と、この円筒部31の一端部外周面に環状に突出されたフランジ部32とを一体に備えている。
また、規制部材30のフランジ部32の外径寸法は、ころ軸受20の外輪21の外径寸法よりも小さく設定されている。
【0016】
上述したように構成されるこの実施例1に係る軸受付きカムシャフト装置において、シャフト11の外周面の軸方向の一端側から他端側に向けてカム駒14ところ軸受20と規制部材30とが所定順に順次に挿入あるいは圧入されて組み付けられることで軸受付きカムシャフト装置が構成される(図1参照)。
また、この実施例1において、規制部材30の円筒部31をシャフト11の外周面の所定位置まで圧入する際、圧入工具によって規制部材30のフランジ部32を軸方向へ押圧することによってシャフト11の外周面の所定位置まで規制部材30を容易に圧入して固定することができる。
【0017】
また、この実施例1において、規制部材30は合成樹脂材によって形成されているため、合成樹脂製の規制部材30を鋼鉄製のシャフト11の外周面の所定位置まで圧入する際、シャフト11の外周面に対し規制部材30の圧入による圧入傷が発生することを抑制することができる。このため、シャフト11の外周面を内輪軌道面12とするころ軸受20の軸受性能を確保することができる。
【0018】
また、軸受付きカムシャフト装置を運搬したり、あるいは保管する場合やシリンダヘッド部等のハウジングに軸受付きカムシャフト装置を組み付ける場合などにおいて、ころ軸受20に外力が作用してころ軸受20がシャフト11の軸方向へ移動しようとすると、シャフト11に圧入固定された規制部材30の円筒部31の端面に、長尺のころ25aの端面26が当接すると共に、外輪21の鍔23の内側面が長尺のころ25aの端面26が当接する。これによって、ころ軸受20の軸方向への不測の移動を阻止することができる。
このため、軸受付きカムシャフト装置をシリンダヘッド部等のハウジングに組み付ける作業が容易となる。
さらに、規制部材30の円筒部31の端面と外輪21の鍔部23の内周面に長尺のころ25aのみが強制的に当接させられ、他のころ25は軸方向にフリーのため、軸受の回転トルク、当接部の摩耗が小さい。
【0019】
また、規制部材30のフランジ部32の外径寸法がころ軸受20の外輪21の外径寸法よりも小さく設定されているため、軸受付きカムシャフト装置をシリンダヘッド部等のハウジングに押えカバーを締め付けて組み付ける際、規制部材30のフランジ部32の外周部が押えカバーに当たることを回避することができ、軸受付きカムシャフト装置の組み付けに支障をきたす不具合が生じない。
【0020】
また、シリンダヘッド部等のハウジングに組み付けられた軸受付きカムシャフト装置の軸受回転時において、規制部材30の円筒部31の端面と長尺のころ25aの端面26とが接触することで、規制部材30が他のころ25の端面や外輪21と接触することを抑制することができる。
このため、規制部材30ところ軸受20との間に発生する摺動抵抗(摩擦力)を軽減することができる。
また、この実施例1において、長尺のころ25aの端面26が半球面に形成されるため摺動抵抗の低減に効果が大きい。
【0021】
なお、この発明は、前記実施例1に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々の形態で実施可能である。
例えば、前記実施例1においては、規制部材30が合成樹脂材によって形成される場合を例示したが、鋼鉄製のシャフト11よりも硬度が小さい材料であればよく、例えば、アルミ材等の軟質の金属材によって規制部材30を形成してもよい。
また、前記実施例1においては、保持器を用いない総ころ型軸受を例示したが、保持器を用いる軸受にも適用してもよい。
また、前記実施例1においては、軸受付きシャフト装置が軸受付きカムシャフト装置である場合を例示したが、例えば、駒体としてウエート体を有する軸受付きバランサーシャフト装置でもよく、クランクシャフト装置等でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明の実施例1に係る軸受付きカムシャフト装置を示す縦断面図である。
【図2】同じく図1のII−II線に基づく横断面図である。
【図3】同じく図2のIII−III線に基づく縦断面図である。
【図4】同じく図2のIV−IV線に基づく縦断面図である。
【符号の説明】
【0023】
11 シャフト
12 内輪軌道面
14 カム駒(駒体)
20 ころ軸受
21 外輪
25 ころ
25a 長尺のころ
26 端面
30 規制部材
31 円筒部
32 フランジ部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトの外周面の軸方向に、駒体と、ころ軸受とが所定の間隔を保って配置される軸受付きシャフト装置であって、
前記ころ軸受は、前記シャフトの外周面を内輪軌道面とする多数のころを有し、これら多数のころのうち、少なくとも一つのころは他のころよりも長尺に形成される一方、
前記シャフトの外周面には、前記長尺のころの端面に近接して前記ころ軸受の軸方向の移動を規制する筒状の規制部材が圧入固定されていることを特徴とする軸受付きシャフト装置。
【請求項2】
請求項1に記載の軸受付きシャフト装置であって、
規制部材は、シャフトの外周面に圧入固定される円筒部と、この円筒部の一端部外周面に環状に突出されたフランジ部とを備え、
前記フランジ部の外径寸法は、ころ軸受の外輪の外径寸法よりも小さく設定されていることを特徴とする軸受付きシャフト装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の軸受付きシャフト装置であって、
規制部材は、シャフトよりも硬度が小さい材料によって形成されていることを特徴とする軸受付きシャフト装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−191892(P2009−191892A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−31589(P2008−31589)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】