説明

軸受付きシャフト装置

【課題】シャフトの外周面に圧入固定される規制部材によってころ軸受の軸方向への不測の移動を防止することができると共に、ころ軸受との間に発生する摺動抵抗を軽減することができる軸受付きシャフト装置を提供する。
【解決手段】シャフト11の外周面の軸方向に、駒体と、ころ軸受20とが所定の間隔を保って配置される。ころ軸受20は、シャフト11の外周面を内輪軌道面12とする多数のころ25と、内周面に外輪軌道面22を有する外輪21とを備える。シャフト11の外周面には、環状の規制部材30がころ軸受20の端部に接近して圧入固定される。規制部材30ところ軸受20との相対する端面のうち、少なくとも一方の端面が湾曲面に形成されて他方の端面に当接することでころ軸受20の軸方向の移動を規制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、シャフトと、駒体と、ころ軸受とを備えた軸受付きシャフト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シャフトと、駒体と、ころ軸受とを備えた軸受付きシャフト装置としては、例えば、内燃機関のシリンダヘッド部に回転可能に組み付けられる軸受付きカムシャフト装置がある。
軸受付きシャフト装置がカムシャフト装置である場合、シャフトと、複数のカム駒(駒体に相当する)と、シャフトの外周面を内輪軌道面とする多数のころを有するころ軸受とがそれぞれ個別に製作された後、シャフトの外周面の軸方向に、カム駒ところ軸受とが所定順に嵌挿されて組み付けられるものがある。
なお、ころ軸受を分割構成してシャフトの外周方向からころ軸受を組み付け可能にした軸受付きシャフト装置しては、例えば、特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開2007−192315号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、シャフトの外周面の軸方向に、カム駒ところ軸受とが所定順に嵌挿されて組み付けられた軸受付きカムシャフト装置をシリンダヘッド部に組み付ける際、シャフトの軸方向にころ軸受が不測に移動することがある。この場合には、シャフトの軸方向の所定位置までころ軸受を移動調整して組み付けなければならず、その作業が厄介となる。
そこで、シャフトの外周面に、ころ軸受の外輪の端部に接近して規制部材を配設してころ軸受の軸方向への不測の移動を規制することが考えられる。
しかしながら、ころ軸受の外輪の端部に接近して規制部材を配設すると、軸受回転時において、ころ軸受の外輪の端部と規制部材との間に摺動抵抗(摩擦力)が発生し、軸受性能を悪化させることが想定される。
【0004】
この発明の目的は、前記問題点に鑑み、シャフトの外周面に圧入固定される規制部材によってころ軸受の軸方向への不測の移動を防止することができると共に、ころ軸受との間に発生する摺動抵抗を軽減することができる軸受付きシャフト装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、この発明の請求項1に係る軸受付きシャフト装置は、シャフトの外周面の軸方向に、駒体と、ころ軸受とが所定の間隔を保って配置される軸受付きシャフト装置であって、
前記ころ軸受は、前記シャフトの外周面を内輪軌道面とする多数のころと、内周面に外輪軌道面を有する外輪とを備え、
前記シャフトの外周面には、環状の規制部材が前記ころ軸受の端部に接近して圧入固定され、
前記規制部材と前記ころ軸受との相対する端面のうち、少なくとも一方の端面が湾曲面に形成されて他方の端面に当接することで前記ころ軸受の軸方向の移動を規制する構成にしてあることを特徴とする。
【0006】
前記構成によると、シャフトの外周面に圧入固定された規制部材の端面に、ころ軸受の端面が当接することによってころ軸受の軸方向への不測の移動を防止することができる。このため、軸受付きシャフト装置をシリンダヘッド部等のハウジングに組み付ける作業が容易となる。
また、軸受回転時において、規制部材の端面ところ軸受の端面とが湾曲面で接触するため、規制部材ところ軸受との間に発生する摺動抵抗(摩擦力)を軽減することができる。
【0007】
この発明の請求項2に係る軸受付きシャフト装置は、請求項1に記載の軸受付きシャフト装置であって、
規制部材は、ころ軸受の外輪の端面に接近してシャフトの外周面に圧入固定されていることを特徴とする。
【0008】
前記構成によると、シャフトの外周面に圧入固定された規制部材の端面に、ころ軸受の外輪の端面が当接することによってころ軸受の軸方向への不測の移動を防止することができる。
【0009】
この発明の請求項3に係る軸受付きシャフト装置は、請求項1に記載の軸受付きシャフト装置であって、
ころ軸受は多数のころを転動可能に保持する保持器を備え、
規制部材は、前記保持器の端面に接近してシャフトの外周面に圧入固定されていることを特徴とする。
【0010】
前記構成によると、シャフトの外周面に圧入固定された規制部材の端面に、ころ軸受の保持器の端面が当接することによってころ軸受の軸方向への不測の移動を防止することができる。
この場合、規制部材の外径寸法をころ軸受の外輪の端部の内径寸法よりも小さく設定して規制部材の小型・軽量化を図ることができる。
さらに、軸受付きシャフト装置を、例えばシリンダヘッド部等のハウジングに押えカバーを締め付けて組み付ける際、規制部材の外周部が押えカバーに当たることを回避することができ、軸受付きシャフト装置の組み付けに支障をきたす不具合が生じない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、この発明を実施するための最良の形態を実施例にしたがって説明する。
【実施例】
【0012】
(実施例1)
この発明の実施例1を図1〜図3にしたがって説明する。
図1はこの発明の実施例1に係る軸受付きカムシャフト装置を示す縦断面図である。図2は図1のII−II線に基づく横断面図である。図3は図2のIII−III線に基づく縦断面図である。
【0013】
図1に示すように、この実施例1においては、軸受付きシャフト装置が内燃機関のシリンダヘッド部に組み付けられる軸受付きカムシャフト装置(カムシャフトユニット)である場合を例示する。
軸受付きカムシャフト装置は、シャフト11の外周面の軸方向に、駒体としての複数のカム駒14と、複数のころ軸受(シェル形の針状ころ軸受も含む)20と、複数対の規制部材30とが所定間隔を保って所定順に組み付けられることでユニット化されている。
【0014】
図2と図3に示すように、ころ軸受20は、外輪21と、シャフト11の外周面を内輪軌道面12とする多数のころ(針状ころも含む)25と、これら多数のころ25を保持する保持器26とを備えている。
外輪21の内周面には、外輪軌道面22が形成され、外輪21の両端部には、半径方向内方に環状に突出する鍔23が形成されている。
そして、ころ軸受20は、その外輪21の外輪軌道面22に多数のころ25がグリース等の潤滑剤の粘性によって保持された状態でシャフト11の一端側から嵌込まれて同シャフト11の所定位置まで嵌挿されてることで、シャフト11の外周面を内輪軌道面12として組み付けられる。
【0015】
シャフト11の外周面には、ころ軸受20の外輪21の鍔23の両端面24に近接してころ軸受20の軸方向の移動を規制する対の規制部材30が圧入固定されている。
この実施例1において、規制部材30は、鋼鉄製のシャフト11よりも硬度が小さい合成樹脂材の射出成形によって環状に形成され、シャフト11の外周面に圧入固定される。
また、規制部材30の外径寸法は、ころ軸受20の外輪21の外径寸法よりも小さく設定されている。
【0016】
規制部材30ところ軸受20の外輪21との相対する端面のうち、少なくとも一方の端面が湾曲面に形成されている。
この実施例1において、規制部材30の両端面31が同一形状の湾曲面(円弧面も含む宇)に形成されている。
規制部材30の両端面31が同一形状の湾曲面に形成されることによって、規制部材30をシャフト11の外周面に圧入する際、規制部材30の端面31の向きが一方向に規制されることなく容易に圧入固定することができる。
言い換えると、規制部材30の一方の端面31が湾曲面に形成され、他方の端面31が平坦面に形成された場合には、誤って、他方の平坦な端面を外輪21の端面24と相対する向きにしてシャフト11の外周面に圧入することが想定されるが、規制部材30の両端面31を同一形状の湾曲面(円弧面も含む宇)に形成することによって前記不具合が生じない。
【0017】
上述したように構成されるこの実施例1に係る軸受付きカムシャフト装置において、シャフト11の外周面の軸方向の一端側から他端側に向けてカム駒14ところ軸受20と規制部材30とが所定順に順次に挿入あるいは圧入されて組み付けられることで軸受付きカムシャフト装置が構成される(図1参照)。
合成樹脂製の規制部材30を鋼鉄製のシャフト11の外周面の所定位置まで圧入する際、シャフト11の外周面に対し規制部材30の圧入による圧入傷が発生することを抑制することができる。このため、シャフト11の外周面を内輪軌道面12とするころ軸受20の軸受性能を確保することができる。
【0018】
また、軸受付きカムシャフト装置を運搬したり、あるいは保管する場合やシリンダヘッド部等のハウジングに軸受付きカムシャフト装置を組み付ける場合などにおいて、ころ軸受20に外力が作用してころ軸受20がシャフト11の軸方向へ移動しようとすると、シャフト11に圧入固定された規制部材30の端面31に、ころ軸受20の外輪21の鍔部23が当接する。これによって、ころ軸受20の軸方向への不測の移動を阻止することができる。
このため、軸受付きカムシャフト装置をシリンダヘッド部等のハウジングに組み付ける作業が容易となる。
【0019】
また、規制部材30の外径寸法がころ軸受20の外輪21の外径寸法よりも小さく設定されているため、軸受付きカムシャフト装置をシリンダヘッド部等のハウジングに押えカバーを締め付けて組み付ける際、規制部材30の外周部が押えカバーに当たることを回避することができ、軸受付きカムシャフト装置の組み付けに支障をきたす不具合が生じない。
【0020】
また、シリンダヘッド部等のハウジングに組み付けられた軸受付きカムシャフト装置の軸受回転時において、規制部材30の端面31の湾曲面が外輪21の端面24に接触することで、規制部材30の端面31ところ軸受20の外輪21の端面24との間に発生する摺動抵抗(摩擦力)を軽減することができる。
【0021】
(実施例2)
次に、この発明の実施例2を図4にしたがって説明する。
図4はこの発明の実施例2に係る軸受付きカムシャフト装置のシャフトのころ軸受と規制部材とが組み付けられた状態を示す縦断面図である。
図4に示すように、この実施例2のころ軸受120は、外輪(シェル型外輪)121と、シャフト11の外周面を内輪軌道面12とする多数のころ(針状ころも含む)125と、これら多数のころ125を転動可能に保持する保持器126とを備えている。
外輪121の内周面には、外輪軌道面122が形成され、外輪121の両端部には、半径方向内方に湾曲状に折り返された鍔123が形成されている。
そして、ころ軸受120は、シャフト11の一端側から嵌込まれて同シャフト11の所定位置まで嵌挿されてることで、シャフト11の外周面を内輪軌道面12として組み付けられる。
【0022】
シャフト11の外周面には、ころ軸受120の外輪121の鍔123の両端面(湾曲状の折返し部端面)124に近接してころ軸受20の軸方向の移動を規制する対の規制部材130が圧入固定されている。
そして、この実施例2においては、規制部材130の両端面131はそれぞれ平坦面に形成されている。
また、この実施例2において、規制部材130は、実施例1と同様にして鋼鉄製のシャフト11よりも硬度が小さい合成樹脂材の射出成形によって環状に形成され、シャフト11の外周面に圧入固定される。さらに、規制部材130の外径寸法は、ころ軸受120の外輪121の外径寸法よりも小さく設定されている。
この実施例2のその他の構成も実施例1と同様に構成されるため、その説明は省略する。
したがって、この実施例2においても、実施例1と同様の作用効果を奏する。
【0023】
(実施例3)
次に、この発明の実施例3を図5にしたがって説明する。
図5はこの発明の実施例3に係る軸受付きカムシャフト装置のシャフトのころ軸受と規制部材とが組み付けられた状態を示す縦断面図である。
図5に示すように、この実施例3のころ軸受220は、実施例2と同様にして外輪221と、シャフト11の外周面を内輪軌道面12とする多数のころ225と、これら多数のころ225を転動可能に保持する保持器226とを備えている。
外輪221の内周面には、外輪軌道面222が形成され、外輪221の両端部には、半径方向内方に湾曲状に折り返された鍔223が形成されている。
そして、ころ軸受220は、シャフト11の一端側から嵌込まれて同シャフト11の所定位置まで嵌挿されてることで、シャフト11の外周面を内輪軌道面12として組み付けられる。
【0024】
シャフト11の外周面には、ころ軸受220の保持器226の両端面227に近接してころ軸受20の軸方向の移動を規制する対の規制部材230が圧入固定されている。
この実施例3において、規制部材230の外径寸法は、ころ軸受220の外輪221の鍔223の内径寸法よりも小さく、保持器226の外径寸法とほぼ同じ大きさに設定されている。
【0025】
規制部材230ところ軸受220の保持器226との相対する端面のうち、少なくとも一方の端面が湾曲面に形成されている。
この実施例3において、保持器226の両端面227が湾曲面(円弧面も含む)に形成され、規制部材230の両端面231はそれぞれ平坦面に形成されている。
また、規制部材230は、実施例1又は2と同様にして鋼鉄製のシャフト11よりも硬度が小さい合成樹脂材の射出成形によって環状に形成され、シャフト11の外周面に圧入固定される。
この実施例3のその他の構成は実施例1又は2と同様に構成されるため、その説明は省略する。
したがって、この実施例3においても、実施例1又は2と同様の作用効果を奏する。
【0026】
但し、この実施例3においては、規制部材230の外径寸法をころ軸受220の外輪221の鍔223の内径寸法よりも小さく設定して規制部材230の小型・軽量化を図ることができる。
さらに、軸受付きカムシャフト装置を、例えばシリンダヘッド部等のハウジングに押えカバーを締め付けて組み付ける際、規制部材230の外周部が押えカバーに当たることを実施例1又は2と比べても容易に回避することができ、軸受付きカムシャフト装置の組み付けに支障をきたす不具合が生じない。
【0027】
なお、この発明は、前記実施例1〜3に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々の形態で実施可能である。
例えば、前記実施例1〜3においては、規制部材30(130、230)が合成樹脂材によって形成される場合を例示したが、鋼鉄製のシャフト11よりも硬度が小さい材料であればよく、例えば、アルミ材等の軟質の金属材によって規制部材30(130、230)を形成してもよい。
また、前記実施例1〜3においては、軸受付きシャフト装置が軸受付きカムシャフト装置である場合を例示したが、例えば、駒体としてウエート体を有する軸受付きバランサーシャフト装置でもよく、クランクシャフト装置等でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明の実施例1に係る軸受付きカムシャフト装置を示す縦断面図である。
【図2】同じく図1のII−II線に基づく横断面図である。
【図3】同じく図2のIII−III線に基づく縦断面図である。
【図4】この発明の実施例2に係る軸受付きカムシャフト装置のシャフトのころ軸受と規制部材とが組み付けられた状態を示す縦断面図である。
【図5】この発明の実施例3に係る軸受付きカムシャフト装置のシャフトのころ軸受と規制部材とが組み付けられた状態を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0029】
11 シャフト
12 内輪軌道面
14 カム駒(駒体)
20、120、220 ころ軸受
21、121、221 外輪
22 122、222 外輪軌道面
25、125、225 ころ
30、130、230 規制部材
31、131、231 端面


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトの外周面の軸方向に、駒体と、ころ軸受とが所定の間隔を保って配置される軸受付きシャフト装置であって、
前記ころ軸受は、前記シャフトの外周面を内輪軌道面とする多数のころと、内周面に外輪軌道面を有する外輪とを備え、
前記シャフトの外周面には、環状の規制部材が前記ころ軸受の端部に接近して圧入固定され、
前記規制部材と前記ころ軸受との相対する端面のうち、少なくとも一方の端面が湾曲面に形成されて他方の端面に当接することで前記ころ軸受の軸方向の移動を規制する構成にしてあることを特徴とする軸受付きシャフト装置。
【請求項2】
請求項1に記載の軸受付きシャフト装置であって、
規制部材は、ころ軸受の外輪の端面に接近してシャフトの外周面に圧入固定されていることを特徴とする軸受付きシャフト装置。
【請求項3】
請求項1に記載の軸受付きシャフト装置であって、
規制部材は、ころ軸受の多数のころを保持する保持器の端面に接近してシャフトの外周面に圧入固定されていることを特徴とする軸受付きシャフト装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−191893(P2009−191893A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−31590(P2008−31590)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】