説明

軸受部品、転がり軸受および軸受部品の製造方法

【課題】炭素含有量を0.3質量%以下に低減して高い破壊靱性値を確保するとともに、合金元素の添加を低減した鋼を素材として採用しつつ、十分な耐摩耗性を有する軸受部品、転がり軸受および軸受部品の製造方法を提供する。
【解決手段】外輪21、内輪22、ころ23は、0.15〜0.3質量%のCと、0.15〜0.7質量%のSiと、0.15〜1.0質量%のMnとを含有し、残部鉄および不純物からなる鋼から構成され、転走面21A,22A,23Aを含む領域には、炭素富化層21B,22B,23Bと、窒素富化層21D,22D,23Dとが形成されている。そして、窒素富化層21D,22D,23Dに含まれる転走面21A,22A,23Aにおける窒素濃度は0.3質量%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受部品、転がり軸受および軸受部品の製造方法に関し、より特定的には、耐摩耗性を向上させることが可能な軸受部品、転がり軸受および軸受部品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、機械の軽量化やコンパクト化が進み、当該機械に使用される転がり軸受のサイズも小さくなっている。そのため、転がり軸受内で発生する面圧(軌道部材と転動体との間における接触面圧)が高くなる傾向にある。そして、その結果として生じる温度上昇により、潤滑油が劣化したり、低粘度化したりすることによって油膜が十分に形成されなくなると、転動体と軌道部材(内輪、外輪)との接触面で金属接触が発生し、当該接触面において摩耗が進行することがある。特に、以下の式(1)で表される油膜パラメーターΛの値が1未満となるような潤滑条件では摩耗が大きな問題になる。
【0003】
Λ=h/(α+α1/2・・・(1)
ここで、hは油膜厚さ、αおよびαはそれぞれ軌道面および転動体の表面粗さRMSである。
【0004】
軌道部材の軌道面(転走面)や転動体の表面(軌道部材との接触面)に摩耗によって発生する凹凸が生じた場合、当該凹凸が応力集中源となったり、脱落した鉄粉が軌道面に噛み込んだりすることにより、転がり軸受の寿命が低下するおそれがある。
【0005】
上述のような転がり軸受における摩耗が問題となるアプリケーションとしては、たとえば鉄鋼の連続鋳造設備のガイドロールに使用される自動調心ころ軸受が挙げられる。連続鋳造設備のガイドロールにおいては、溶鋼の重量と高熱により、熱膨張やたわみが生じる。そのため、ガイドロールを支持する転がり軸受(以下、ガイドロール用軸受という)には、内輪の調心を許容でき、かつ高いアキシアル荷重負荷能力を有する自動調心ころ軸受が多く使用されている。ガイドロール用軸受は、極低速の内輪回転かつ高負荷荷重の条件下で使用されるため、油膜が形成されにくく、負荷域が固定される外輪の転走面に摩耗が発生する。特に、自動調心ころ軸受はころの形状が樽型であるため、差動すべりが発生することが知られており、純転がり部とすべり部の間に摩耗差が生じ、外輪転走面には2山形状の偏摩耗が発生する。上記偏摩耗の結果形成される2つの突起部には応力集中が生じるため、早期はく離が発生する原因となることがある。さらに、溶鋼を凝固するための冷却水が多量に吹きつけられるため、軸受内への水や水蒸気の浸入も発生する。このような過酷な潤滑条件下において用いられるガイドロール用軸受には、軸受を構成する軸受部品(軌道部材、転動体など)の摩耗の抑制が求められている。
【0006】
また、軸に対して高はめあいで使用される軸受の軸受部品を構成する鋼には、引張応力による寿命低下や内輪割れを防止することを目的として、表層に圧縮残留応力を形成することが可能な浸炭処理が実施された浸炭鋼が採用されている。浸炭処理が実施された浸炭鋼においては、表層の浸炭部に比べて硬度が低い芯部の破壊靭性が優れているため、全体が均一に硬化された鋼(JIS規格SUJ2など)に比べて割れに対する抵抗性が高い。ガイドロール用軸受においても、突然の軸受の破断によるロールの脱落を回避するため、浸炭鋼が広く使用されている。
【0007】
さらに、耐摩耗性や異物混入潤滑下での軸受寿命を向上させる手段として、浸炭窒化処理が利用される場合がある。浸炭窒化処理は、また、母材の高温での硬度低下を抑制する効果もあるため、鉄鋼の連続鋳造設備用の転がり軸受の他にも、圧延設備用の転がり軸受や製紙機械のドライヤーロール用の転がり軸受などにも広く使用されている。しかし、これらの軸受に対しては更なる長寿命化が要求されており、単に浸炭窒化処理を実施するのみでは、十分な耐摩耗性が確保できていない。
【0008】
上述のような従来の技術を含め、軸受部品の耐摩耗性向上には、主に以下の2つの方針が提案されてきた。まず第1の方針は、表面硬度の向上である。表面硬度の向上は、たとえば上記浸炭窒化処理により達成することができる。元来、鋼からなる軸受部品には焼入が実施されて硬度が高められているため、耐摩耗性にも優れてはいるが、窒化処理を実施することで更に表面硬度を上げ、耐摩耗性を一層向上させることができる(たとえば、特許文献1参照)。
【0009】
一方、第2の方針は、高硬度析出物量の増加である。微細な高硬度析出物が多量に存在することで、耐摩耗性が向上する。高硬度析出物の生成には、鋼中の添加元素が大きく影響する。具体的には、V(バナジウム)、Al(アルミニウム)、Cr(クロム)、Ti(チタン)、Mo(モリブデン)などを鋼中に添加し、さらに浸炭窒化処理などを実施することにより、高硬度析出物が生成する(たとえば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8−311603号公報
【特許文献2】特開平8−49057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記特許文献1に記載の方策を含めて、浸炭窒化処理により表面硬度を単に向上させる方策では、耐摩耗性を十分に向上させることは難しいという問題があった。特に、破壊靭性値の向上を目的として炭素含有量が0.3質量%以下の鋼を素材として採用した場合、浸炭窒化処理のみによって耐摩耗性を十分に向上させることは困難であった。一方、Cr、Mo、Vなどの合金元素を多量に添加した鋼を採用し、浸炭窒化処理を実施する方策を採ることにより、高い耐摩耗性を実現することができる。しかし、このような合金元素は資源供給が十分であるとはいえず、供給の不安定化やそれに伴う価格の高騰などのおそれがあるため、鋼への添加は極力低減することが望ましい。
【0012】
そこで、本発明の目的は、炭素含有量を0.3質量%以下に低減して高い破壊靱性値を確保するとともに、合金元素の添加を低減した鋼を素材として採用しつつ、十分な耐摩耗性を有する軸受部品、転がり軸受および軸受部品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一の局面における軸受部品は、0.15質量%以上0.3質量%以下の炭素と、0.15質量%以上0.7質量%以下の珪素と、0.15質量%以上1.0質量%以下のマンガンとを含有し、残部鉄および不純物からなる鋼から構成されている。表面を含む領域には、他の領域に比べて炭素濃度が高い炭素富化層と、他の領域に比べて窒素濃度が高く、上記炭素富化層に重なる窒素富化層とが形成されている。そして、窒素富化層に含まれる表面における窒素濃度は0.3質量%以上である。
【0014】
また、本発明の他の局面における軸受部品は、0.15質量%以上0.3質量%以下の炭素と、0.15質量%以上0.7質量%以下の珪素と、0.15質量%以上1.0質量%以下のマンガンとを含有し、さらに0.4質量%以上2.0質量%以下のクロム、0.15質量%以上0.5質量%以下のモリブデン、1.0質量%以上2.0質量%以下のニッケルおよび0.1質量%以上1.0質量%以下のバナジウムからなる群から選択される少なくとも一種以上の元素を含み、残部鉄および不純物からなる鋼から構成されている。表面を含む領域には、他の領域に比べて炭素濃度が高い炭素富化層と、他の領域に比べて窒素濃度が高く、上記炭素富化層に重なる窒素富化層とが形成されている。そして、窒素富化層に含まれる表面における窒素濃度は0.3質量%以上である。
【0015】
本発明者は、高い破壊靱性値を確保するとともに、合金元素の添加を低減した鋼を素材として採用しつつ、十分な耐摩耗性を軸受部品に付与する方策について詳細な検討を行なった。その結果、以下のような知見を見出し、本発明に想到した。
【0016】
すなわち、耐摩耗性を向上させる手法としては、上述のように、表面硬度の上昇と高硬度析出物の生成が一般的である。ここで、摩耗量Vは一般的に以下の式(2)により表される。
【0017】
V=K(WL/H)・・・(2)
ここで、Wは荷重、Lは摩擦距離、Hは硬度、Kは定数である。つまり、摩耗量は、硬度に反比例する。しかし、焼入硬化された鋼からなる軸受部品の硬度を、更に2倍、3倍と上げることは困難である。そのため、軸受部品を高硬度化することにより、耐摩耗性を2倍、3倍と大きく向上させることは難しい。
【0018】
一方、高硬度析出物の生成には、VやCrなどの合金元素を多く添加する必要があるが、このような合金元素の添加は、資源供給の観点から極力低減することが好ましいことは上述の通りである。また、上記合金元素は、浸炭窒化処理等により母材に侵入した窒素と結合して窒化物を生成することにより、高硬度析出物として析出する。そのため、上記合金元素を多く添加した鋼に対して浸炭窒化処理を実施すると、表面付近の窒素濃度が高くなる一方、窒素の侵入深さが浅くなる傾向にある。ここで、通常、浸炭窒化処理は高温で実施されるため、熱処理による変形量は大きくなる。この熱処理による変形を修正するため、浸炭窒化処理が実施された軸受部品に対しては、比較的取り代の大きい加工を実施する必要がある。そのため、浸炭窒化による窒素の侵入深さが浅い場合、当該加工により窒素濃度の高い層(窒素富化層)の大部分あるいは全部が除去されるおそれもある。
【0019】
これに対し、本発明者は、耐摩耗性を向上させる新たな方策として、摩耗のモードをシビア摩耗からマイルド摩耗へと早期に遷移させる方法に着目した。ここで、シビア摩耗とは、滑り速度および接触面圧が高い場合に発生する、摩耗の進行が早い状態をいう。一方、マイルド摩耗とは、滑り速度および接触面圧が低い場合に見られる、摩耗の進行が遅い状態をいう。比摩耗量で両者を比較すると、シビア摩耗はおおよそ10−7〜10−8mm/Nであるのに対し、マイルド摩耗は10−9mm/N以下であって、その摩耗速度は大きく異なる(山本雄二、外1名著、「トライボロジー」、理工学社 参照)。なお、比摩耗量とは、摩耗体積を荷重と摩擦距離との積で除した値であり、値が小さいほど耐摩耗性に優れることを意味する。
【0020】
耐摩耗性を向上させるためには、このシビア摩耗からマイルド摩耗への移行(シビア−マイルド摩耗遷移)を早期発生させることが重要であり、その時期が早いほど摩耗量は抑制される。一般的に、シビア−マイルド摩耗遷移は、酸化膜などの表面保護膜が生成することで発生しやすくなる。表面保護膜の形成には、化学的に吸着性の高い材料や環境を選ぶことが有効である。焼入された鋼のマルテンサイト組織は、室温では熱力学的に不安的な組織であるため活性が高く、雰囲気気体の化学吸着が発生しやすい。そのため、焼入された鋼からなる軸受部品にはシビア−マイルド摩耗遷移が発生すると考えられる(たとえば、「摩耗」、笹田直 著、養賢社 参照)。そして、さらに窒化処理(浸炭窒化処理)を実施することにより、遷移を早期に実現できるものと考えられる。しかし、炭素含有量が0.3質量%以下の鋼を素材として採用することにより、高い破壊靭性値を確保した軸受部品においては、以下のような理由により、浸炭窒化処理が実施された場合でも、上記遷移を十分に早期に達成することは困難であった。
【0021】
すなわち、一般に浸炭窒化処理においては、雰囲気中に添加されたアンモニア(NH)ガスが窒素の供給源として機能する。具体的には、鋼中への窒素の供給は、以下の式(3)に示す反応が進行することにより達成される。
【0022】
NH+3/2H・・・(3)
ここで、とは、鋼中に固溶する窒素を意味する。つまり、式(3)は、炉内の雰囲気中にNHガスが存在しなければ鋼中への窒素の固溶が進行しないことを示している。
【0023】
一方、浸炭処理と窒化処理とを同時に実施する浸炭窒化処理においては、被処理物である軸受部品を構成する鋼の炭素含有量が0.3質量%以下の場合、当該被処理物が920℃を超える高温に加熱されて実施される。これは、炭素含有量が低いことによりA変態点が高くなっている軸受部品に対して、高い侵入速度で炭素を侵入させるためである。このような高温で浸炭窒化が実施された場合、雰囲気中に含まれるNHガスの大部分は水素(H)と窒素(N)とに分解された状態となり、未分解の状態で存在するNHガスの割合は低くなっている。
【0024】
ここで、一般的なガス浸炭窒化処理においては、NHガスの添加率は、浸炭に寄与する吸熱型の変性ガスに対して数%程度(10%以下)とされている(たとえば、「鉄鋼材料便覧」p146参照)。そして、このようなNHガスの添加率では、大半のNHガスが分解し、軸受部品の表面における窒素濃度は0.1質量%以下となる。表面における窒素濃度がこの程度であっても、たとえば潤滑中に硬質の異物が混入する条件下において使用される軸受部品の長寿命化や、高温で使用される軸受部品に求められる焼戻軟化抵抗性の向上などの効果が得られるため、炭素含有量が0.3質量%以下の鋼からなる軸受部品に対しては、比較的低い表面窒素濃度が得られる条件で浸炭窒化処理が実施されている。
【0025】
しかし、本発明者の検討によれば、破壊靭性値の向上と耐摩耗性向上とを両立させる観点からは、炭素含有量が0.3質量%以下の鋼からなる軸受部品の表面の窒素濃度をより高くすることが好ましいことが明らかとなった。より具体的には、表面における窒素濃度を0.3質量%以上とすることにより、シビア−マイルド摩耗遷移を早期に実現し、軸受部品の耐摩耗性を十分に向上させることができることが明らかとなった。
【0026】
これに対し、上記本発明の軸受部品においては、炭素含有量が0.3質量%以下であることにより高い破壊靭性値が確保され、さらに合金元素の添加を低減した適切な成分組成を有する鋼が素材として採用される。また、表面を含む領域に炭素富化層が形成されて十分な硬度が確保されるとともに、表面における窒素濃度が0.3質量%以上であることにより、シビア−マイルド摩耗遷移が早期に実現され、高い耐摩耗性が達成される。その結果、本発明の軸受部品によれば、高い破壊靱性値を確保するとともに、合金元素の添加を低減した鋼を素材として採用しつつ、十分な耐摩耗性を有する軸受部品を提供することができる。なお、軸受部品の耐摩耗性は、表面における窒素濃度が上昇するに従って向上するが、0.3質量%を超えると耐摩耗性の向上は飽和する傾向にある。一方、表面における窒素濃度が0.8質量%を超えると、同じ侵入型固溶体を形成する炭素の拡散を阻害するおそれがあるため、0.8質量%以下とすることが好ましい。以下、鋼の成分範囲を上記の範囲に限定した理由について説明する。
【0027】
炭素:0.15質量%以上0.3質量%以下
炭素が0.15質量%未満では、芯部の硬度が低く強度不足となるおそれがある。また、浸炭に要する時間が長くなる。一方、炭素が0.3質量%を超えると、破壊靭性値が不十分となる。したがって、炭素は0.15質量%以上0.3質量%以下とする必要がある。
【0028】
珪素:0.15質量%以上0.7質量%以下
珪素が0.15質量%未満では、十分な焼戻軟化抵抗性を確保できなくなるおそれがある。一方、珪素が0.7質量%を超えると、浸炭性が悪くなるおそれがある。したがって、珪素は0.15質量%以上0.7質量%以下とする必要がある。
【0029】
マンガン:0.15質量%以上1.0質量%以下
マンガンが0.15質量%未満では、焼入性が不足するおそれがある。一方、マンガンが1.0質量%を超えると、MnS(硫化マンガン)などの非金属介在物を多く生成するおそれがある。したがって、マンガンは0.15質量%以上1.0質量%以下とする必要がある。
【0030】
クロム:0.4質量%以上2.0質量%以下
クロムを0.4質量%以上添加することにより、軸受部品の表面における窒素濃度を高くすることが容易となる。この効果を一層顕著なものとするためには、クロムを0.8質量%以上とすることが好ましい。一方、クロムが2.0質量%を超えると素材のコストが高くなるだけでなく、鋼に侵入した窒素と結合して窒化物を形成することにより窒素の侵入深さを小さくするおそれがある。そのため、本発明の軸受部品を構成する鋼には、0.4質量%以上2.0質量%以下のクロムを添加してもよい。
【0031】
モリブデン:0.15質量%以上0.5質量%以下
モリブデンを0.15質量%以上添加することにより、軸受部品の表面における窒素濃度を高くすることが容易となる。一方、モリブデンが0.5質量%を超えると素材のコストが高くなる。そのため、本発明の軸受部品を構成する鋼には、0.15質量%以上0.5質量%以下のモリブデンを添加してもよい。
【0032】
ニッケル:1.0質量%以上2.0質量%以下
ニッケルを1.0質量%以上添加することにより、より焼入性が良くなる。一方、ニッケルが2.0質量%を超えると素材コストが高くなる。そのため、本発明の軸受部品を構成する鋼には、1.0質量%以上2.0質量%以下のニッケルを添加してもよい。
【0033】
バナジウム:0.1質量%以上1.0質量%以下
バナジウムを0.1質量%以上添加することにより、軸受部品の表面における窒素濃度を高くすることが容易となる。一方、バナジウムが1.0質量%を超えると素材のコストが高くなるだけでなく、鋼に侵入した窒素と結合して窒化物を形成することにより窒素の侵入深さを小さくするおそれがある。そのため、本発明の軸受部品を構成する鋼には、0.1質量%以上1.0質量%以下のバナジウムを添加してもよい。
【0034】
上記本発明の他の局面における軸受部品においては、上記鋼は、JIS規格SCr420、SCM420またはSNCM420からなる群から選択されるいずれか1種とすることができる。
【0035】
JIS規格G4053に機械構造用合金鋼として規定された上記鋼は、0.23質量%以下の炭素を含有し、かつ合金元素の添加量が少ないだけでなく、規格鋼であるため素材の入手も容易な鋼である。このような鋼を素材として採用することにより、軸受部品の破壊靭性値を向上させるとともに、合金元素の添加を低減した鋼を素材とすることができる。そして、上記3種のうちいずれかの鋼からなる軸受部品は、通常の浸炭窒化を実施するのみでは表面の窒素濃度が不十分となるものの、0.3質量%以上にまで表面の窒素濃度を上昇させることにより、シビア−マイルド摩耗遷移を早期に実現し、高い耐摩耗性を達成することができる。以上のように、上記本発明の他の局面における軸受部品を構成する鋼にSCr420、SCM420またはSNCM420を採用することにより、より高い破壊靱性値を確保するとともに、合金元素の添加を一層低減した鋼を素材として採用しつつ、十分な耐摩耗性を有する軸受部品を提供することができる。
【0036】
上記軸受部品において好ましくは、炭素富化層に含まれる上記表面における炭素濃度は0.6質量%以上1.2質量%以下である。
【0037】
表面における炭素濃度を0.6質量%以上とすることにより、焼入後の表面硬度を十分に高くすることができる。一方、表面における炭素濃度が1.2質量%を超えると、過浸炭により粒界に炭化物が析出し、脆くなり、強度が低下するおそれがある。そのため、上記表面における炭素濃度は0.6質量%以上1.2質量%以下であることが望ましい。
【0038】
本発明に従った転がり軸受は、軌道部材と、軌道部材に接触し、円環状の軌道上に配置される複数の転動体とを備えている。そして、軌道部材および転動体の少なくともいずれか一方は、上記本発明の軸受部品である。
【0039】
上記本発明の軸受部品を軌道部材および転動体の少なくともいずれか一方として含んでいることにより、本発明の転がり軸受によれば、高い破壊靭性値と十分な耐摩耗性とを両立可能な転がり軸受を提供することができる。
【0040】
上記本発明の転がり軸受は、自動調心ころ軸受であってもよい。自動調心ころ軸受は、転動体であるころがたる型の形状を有しているため、軌道部材と転動体との間で差動すべりが発生し、軸受部品の摩耗が問題となる。そのため、自動調心ころ軸受には、耐摩耗性に優れた本発明の転がり軸受を採用することが好適である。
【0041】
上記本発明の転がり軸受は、連続鋳造される鋳造物をガイドするための連続鋳造ロールを、当該連続鋳造ロールを支持する部材に対して回転自在に支持する軸受(ガイドロール用軸受)として使用されてもよい。
【0042】
ガイドロール用軸受においては、軌道部材が極低速で回転し、かつ高い荷重が負荷されるため、油膜が形成されにくく、摩耗が問題となり易い。そのため、耐摩耗性に優れた本発明の転がり軸受を採用することが好適である。
【0043】
本発明の一の局面における軸受部品の製造方法は、0.15質量%以上0.3質量%以下の炭素と、0.15質量%以上0.7質量%以下の珪素と、0.15質量%以上1.0質量%以下のマンガンとを含有し、残部鉄および不純物からなる鋼から構成され、成形加工された成形部材を準備する工程と、成形部材を一酸化炭素およびアンモニアを含む雰囲気中において加熱することにより、成形部材を浸炭窒化処理する工程とを備えている。そして、成形部材を浸炭窒化処理する工程では、未分解アンモニア濃度が0.2体積%以上となるように雰囲気が調整された状態で、成形部材が920℃以上960℃以下の温度域に加熱される。
【0044】
また、本発明の他の局面における軸受部品の製造方法は、0.15質量%以上0.3質量%以下の炭素と、0.15質量%以上0.7質量%以下の珪素と、0.15質量%以上1.0質量%以下のマンガンとを含有し、さらに0.4質量%以上2.0質量%以下のクロム、0.15質量%以上0.5質量%以下のモリブデン、1.0質量%以上2.0質量%以下のニッケルおよび0.1質量%以上1.0質量%以下のバナジウムからなる群から選択される少なくとも一種以上の元素を含み、残部鉄および不純物からなる鋼から構成され、成形加工された成形部材を準備する工程と、成形部材を一酸化炭素およびアンモニアを含む雰囲気中において加熱することにより、成形部材を浸炭窒化処理する工程とを備えている。そして、成形部材を浸炭窒化処理する工程では、未分解アンモニア濃度が0.2質量%以上となるように雰囲気が調整された状態で、成形部材が920℃以上960℃以下の温度域に加熱される。
【0045】
本発明に従った軸受部品の製造方法においては、炭素含有量が0.3質量%以下であり、合金元素の添加を低減した適切な成分組成を有する鋼が素材として採用される。これにより、高い靭性が確保される。そして、浸炭窒化処理が実施されることにより表面における十分な硬度が付与される。さらに、浸炭窒化処理は、未分解アンモニア濃度が0.2体積%以上となるように雰囲気が調整された状態で、920℃以上960℃以下の温度域に加熱することにより実施される。このように、高温に加熱しつつ高い未分解アンモニア濃度を達成することにより、成形部材(軸受部品)への高い炭素の侵入速度と軸受部品の表面における高い窒素濃度とを両立することができる。その結果、本発明の軸受部品の製造方法によれば、容易に、上記本発明の軸受部品を製造することができる。
【0046】
上記本発明の他の局面における軸受部品の製造方法においては、上記鋼は、JIS規格SCr420、SCM420またはSNCM420からなる群から選択されるいずれか1種であってもよい。これにより、より高い破壊靱性値を確保するとともに、合金元素の添加を一層低減した鋼を素材として採用しつつ、十分な耐摩耗性を有する軸受部品を製造することができる。
【発明の効果】
【0047】
以上の説明から明らかなように、本発明の軸受部品、転がり軸受および軸受部品の製造方法によれば、炭素含有量を0.3質量%以下に低減して高い破壊靱性値を確保するとともに、合金元素の添加を低減した鋼を素材として採用しつつ、十分な耐摩耗性を有する軸受部品、転がり軸受および軸受部品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】連続鋳造ガイドロール装置の構造を示す概略断面図である。
【図2】自動調心ころ軸受の構成を示す概略断面図である。
【図3】図2の要部を拡大して示す概略部分断面図である。
【図4】自動調心輪付き円筒ころ軸受の構成を示す概略断面図である。
【図5】図4の要部を拡大して示す概略部分断面図である。
【図6】ガイドロール用軸受の製造方法の概略を示すフローチャートである。
【図7】ガイドロール用軸受の製造方法に含まれる熱処理工程の詳細を説明するための図である。
【図8】サバン型摩耗試験機の主要部の構成を示す概略図である。
【図9】サバン型摩耗試験機の主要部の構成を示す概略図である。
【図10】表面窒素濃度と比摩耗量との関係を示す図である。
【図11】実施例Aの表面付近における析出物の状態を示すSEM写真である。
【図12】実施例Bの表面付近における析出物の状態を示すSEM写真である。
【図13】比較例Aの表面付近における析出物の状態を示すSEM写真である。
【図14】摩耗量の経時変化を示す図である。
【図15】NHガスの添加率と雰囲気中のNHガス濃度との関係を示す図である。
【図16】SCM420の表面付近における炭素および窒素の濃度分布を示す図である。
【図17】SNCM420の表面付近における炭素および窒素の濃度分布を示す図である。
【図18】V添加鋼の表面付近における炭素および窒素の濃度分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。
【0050】
以下、図1〜図5を参照して、本発明の一実施の形態について説明する。図1を参照して、連続鋳造ガイドロール装置50に含まれる連続鋳造ロール51は、中央部に、連続鋳造される鋳造物に接触し、当該鋳造物をガイドするための円柱状のロール部511を有している。また、連続鋳造ロール51の一方の端部には、ロール部511よりも直径の小さい円柱状の固定端ロールネック512Aが形成されている。さらに、連続鋳造ロール51の他方の端部には、連続鋳造ロール51の熱膨張による軸方向への伸びが吸収される側のロールネックであり、ロール部511よりも直径の小さい円柱状の自由端ロールネック512Bが形成されている。
【0051】
また、連続鋳造ロール51を保持するためのスタンド53は、円筒状の貫通穴であるロール保持部53Aを有している。そして、固定端ロールネック512Aおよび自由端ロールネック512Bがロール保持部53Aを貫通するように、連続鋳造ロール51およびスタンド53は配置されている。さらに、固定端ロールネック512Aの外周面とロール保持部53Aの内周面との間には、自動調心ころ軸受20が配置されている。また、自由端ロールネック512Bの外周面とロール保持部53Aの内周面との間には、自動調心輪付き円筒ころ軸受30が配置されている。これにより、連続鋳造ロール51は、スタンド53に対して軸まわりに回転自在に保持されており、連続鋳造される鋳造物をガイドすることができる。すなわち、自動調心ころ軸受20および自動調心輪付き円筒ころ軸受30は、連続鋳造される鋳造物をガイドするための連続鋳造ロール51を、連続鋳造ロール51を支持するスタンド53に対して回転自在に支持するガイドロール用軸受である。
【0052】
次に、自動調心ころ軸受20および自動調心輪付き円筒ころ軸受30について説明する。図2を参照して、自動調心ころ軸受20は、軸受部品である軌道部材としての環状の2つの外輪21と、外輪21の内側に配置された環状の内輪22と、外輪21と内輪22との間に配置され、円環状の保持器24に保持された樽状の形状を有する複数のころ23(転動体)とを備えている。
【0053】
外輪21の内周面には外輪転走面21Aが形成されており、内輪22の外周面には内輪転走面22Aが形成されている。そして、内輪転走面22Aが、2つの外輪転走面21Aに対向するように、2つの外輪21と1つの内輪22とは配置されている。さらに、複数のころ23は、外輪転走面21Aのそれぞれに沿って、外輪転走面21Aと内輪転走面22Aとにころ接触面23A(外周面)において接触し、かつ保持器24に保持されて周方向に所定のピッチで配置されることにより2列の円環状の軌道上に転動自在に保持されている。以上の構成により、自動調心ころ軸受20の外輪21および内輪22は、互いに相対的に回転可能となっている。
【0054】
また、外輪転走面21Aは、軸受中心Cを中心とする球面となっている。そのため、外輪21および内輪22は、ころ23の転走方向に垂直な断面において、軸受中心Cを中心として角度をなすことができる。その結果、図1を参照して、連続鋳造ロール51が鋳造物をガイドすることにより撓んだ場合であっても、スタンド53は、自動調心ころ軸受20を介して連続鋳造ロール51を安定して回転自在に保持することができる。
【0055】
さらに、図2および図3を参照して、自動調心ころ軸受20を構成する軸受部品である外輪21、内輪22およびころ23は、0.15質量%以上0.3質量%以下の炭素と、0.15質量%以上0.7質量%以下の珪素と、0.15質量%以上1.0質量%以下のマンガンとを含有し、残部鉄および不純物からなる鋼から構成されている。図3を参照して、外輪転走面21A、内輪転走面22Aおよびころ接触面23Aを含む領域には、他の領域である芯部領域21C,22C,23Cに比べて炭素濃度が高い炭素富化層21B,22B,23Bと、芯部領域21C,22C,23Cに比べて窒素濃度が高く、炭素富化層21B,22B,23Bに重なる窒素富化層21D,22D,23Dとが形成されている。そして、窒素富化層21D,22D,23Dに含まれる外輪転走面21A、内輪転走面22Aおよびころ接触面23Aにおける窒素濃度は0.3質量%以上となっている。ここで、上記不純物は、鋼の原料に由来するもの、あるいは製造工程において混入するものなどの不可避的不純物を含む。
【0056】
一方、図4を参照して、自動調心輪付き円筒ころ軸受30は、軸受部品としての環状の外輪31と、外輪31の内側に配置された環状の内輪32と、外輪31と内輪32との間に配置された円筒状の形状を有する複数のころ33と、外輪31の外周面31Eに内周面に形成された摺動面35Aにおいて接触する環状の自動調心輪35とを備えている。
【0057】
外輪31の内周面には外輪転走面31Aが形成されており、内輪32の外周面には内輪転走面32Aが形成されている。そして、内輪転走面32Aと外輪転走面31Aとが対向するように、外輪31と内輪32とは配置されている。さらに、複数のころ33は、外輪転走面31Aと内輪転走面32Aとにころ接触面33A(外周面)において接触し、周方向に並べて配置されることにより円環状の軌道上に転動自在に保持されている。以上の構成により、自動調心輪付き円筒ころ軸受30の外輪31および内輪32は、互いに相対的に回転可能となっている。
【0058】
また、外輪31の外周面31Eと、自動調心輪35の摺動面35Aとは、軸受中心Cを中心とする球面となっており、互いに摺動可能に構成されている。そのため、外輪31および自動調心輪35は、ころ33の転走方向に垂直な断面において、軸受中心Cを中心として角度をなすことができる。その結果、図1を参照して、連続鋳造ロール51が鋳造物をガイドすることにより撓んだ場合であっても、スタンド53は、自動調心輪付き円筒ころ軸受30を介して連続鋳造ロール51を安定して回転自在に保持することができる。
【0059】
さらに、図4および図5を参照して、自動調心輪付き円筒ころ軸受30を構成する軸受部品である外輪31、内輪32、ころ33および自動調心輪35は、上記自動調心ころ軸受20の外輪21、内輪22およびころ23と同様の成分組成を有する鋼から構成されている。そして、図5を参照して、外輪31、内輪32、円筒ころ33および自動調心輪35の表面である外輪転走面31A、内輪転走面32A、ころ接触面33Aおよび摺動面35Aを含む領域には、他の領域である芯部領域31C,32C,33C,35Cに比べて炭素濃度が高い炭素富化層31B,32B,33B,35Bと、芯部領域31C,32C,33C,35Cに比べて窒素濃度が高く、炭素富化層31B,32B,33B,35Bに重なる窒素富化層31D,32D,33D,35Dとが形成されている。そして、窒素富化層31D,32D,33D,35Dに含まれる外輪転走面31A、内輪転走面32A、ころ接触面33Aおよび摺動面35Aにおける窒素濃度は0.3質量%以上となっている。ここで、上記不純物は、鋼の原料に由来するもの、あるいは製造工程において混入するものなどの不可避的不純物を含む。
【0060】
本実施の形態における軸受部品である外輪21,31、内輪22,32、ころ23,33および自動調心輪35においては、炭素含有量が0.3質量%以下であることにより高い破壊靭性値が確保され、さらに合金元素の添加を低減した適切な成分組成を有する上記鋼が素材として採用されている。また、表面である外輪転走面21A,31A、内輪転走面22A,32A、ころ接触面23A,33Aおよび摺動面35Aを含む領域に炭素富化層21B,22B,23B,31B,32B,33B,35Bが形成されて十分な硬度が確保されるとともに、窒素富化層31D,32D,33D,35Dの表面における窒素濃度が0.3質量%以上であることにより、シビア−マイルド摩耗遷移が早期に実現され、高い耐摩耗性が達成されている。その結果、本実施の形態における外輪21,31、内輪22,32、ころ23,33および自動調心輪35は、高い破壊靱性値を確保するとともに、合金元素の添加を低減した鋼が素材として採用されつつ、十分な耐摩耗性を有する軸受部品となっている。
【0061】
また、本実施の形態の転がり軸受としての自動調心ころ軸受20および自動調心輪付き円筒ころ軸受30は、高い破壊靭性値と十分な耐摩耗性とを両立可能な転がり軸受となっている。さらに、本実施の形態における連続鋳造ガイドロール装置50は、上記自動調心ころ軸受20および自動調心輪付き円筒ころ軸受30を備えることにより、耐久性に優れた圧延機となっている。
【0062】
ここで、上記外輪21,31、内輪22,32、ころ23,33および自動調心輪35は、上記鋼に代えて、0.15質量%以上0.3質量%以下の炭素と、0.15質量%以上0.7質量%以下の珪素と、0.15質量%以上1.0質量%以下のマンガンとを含有し、さらに0.4質量%以上2.0質量%以下のクロム、0.15質量%以上0.5質量%以下のモリブデン、1.0質量%以上2.0質量%以下のニッケルおよび0.1質量%以上1.0質量%以下のバナジウムからなる群から選択される少なくとも一種以上の元素を含み、残部鉄および不純物からなる鋼から構成されていてもよい。これにより、外輪21,31、内輪22,32、ころ23,33および自動調心輪35の表面における窒素濃度を高くすることが容易となるため、耐摩耗性を容易に向上させることができる。
【0063】
特に、上記鋼に代えてSCr420、SCM420またはSNCM420を採用することにより、より高い破壊靱性値を確保するとともに、合金元素の添加を一層低減した鋼を素材として採用しつつ、十分な耐摩耗性を有する外輪21,31、内輪22,32、ころ23,33および自動調心輪35を得ることができる。
【0064】
さらに、炭素富化層21B,22B,23B,31B,32B,33B,35Bに含まれる表面、すなわち外輪転走面21A,31A、内輪転走面22A,32A、ころ接触面23A,33Aおよび摺動面35Aにおける炭素濃度は0.6質量%以上1.2質量%以下であることが好ましい。これにより、軸受として必要かつ十分な表面硬度を得ることができる。
【0065】
次に、図6を参照して、本実施の形態における軸受部品および転がり軸受の製造方法について説明する。本実施の形態における軸受部品および転がり軸受の製造方法では、まず、工程(S10)として、成形部材準備工程が実施される。この工程(S10)では、0.15質量%以上0.3質量%以下の炭素と、0.15質量%以上0.7質量%以下の珪素と、0.15質量%以上1.0質量%以下のマンガンとを含有し、さらに0.4質量%以上2.0質量%以下のクロム、0.15質量%以上0.5質量%以下のモリブデン、1.0質量%以上2.0質量%以下のニッケルおよび0.1質量%以上1.0質量%以下のバナジウムからなる群から選択される少なくとも一種以上の元素を含み、残部鉄および不純物からなる鋼、たとえばJIS規格SCr420、SCM420またはSNCM420などの棒鋼、鋼線などが用意される。そして、この棒鋼、鋼線などの鋼材に対して、切断、鍛造、旋削などの加工が実施されることにより、当該鋼材が軸受部品としての外輪21、内輪22およびころ23などの形状に成形加工されて、成形部材が準備される。
【0066】
次に、工程(S20)として実施される浸炭窒化工程、工程(S30)として実施される1次焼入工程、工程(S40)として実施される2次焼入工程および工程(S50)として実施される焼戻工程を含む熱処理工程が実施される。この熱処理工程の詳細については後述する。
【0067】
次に、工程(S60)として、熱処理工程が実施された成形部材に対して、仕上げ加工などが施される仕上げ工程が実施される。具体的には、たとえば、熱処理工程が実施された成形部材の外輪転走面21A、内輪転走面22Aおよびころ接触面23Aなどに対する研磨加工が実施される。これにより、本実施の形態における軸受部品は完成し、本実施の形態における軸受部品の製造方法は完了する。
【0068】
さらに、工程(S70)として、転がり軸受が組立てられる組立て工程が実施される。具体的には、上述の工程により製造された本実施の形態における軸受部品である、外輪21,31、内輪22,32、ころ23,33および自動調心輪35などが組合わされて、自動調心ころ軸受20および自動調心輪付き円筒ころ軸受30が組立てられる。これにより、本実施の形態における転がり軸受が完成する。
【0069】
次に、図7を参照して、上記熱処理工程の詳細について説明する。図7において、横方向は時間tを示しており右に行くほど時間が経過していることを示している。また、図7において、縦方向は温度Tを示しており上に行くほど温度が高いことを示している。
【0070】
図7を参照して、本実施の形態における熱処理工程においては、まず、被処理物としての成形部材が浸炭窒化処理される浸炭窒化工程(工程(S20))が実施される。この工程(S20)では、工程(S10)において準備された成形部材が、一酸化炭素およびアンモニアを含む雰囲気中において加熱されて浸炭窒化処理される。具体的には、上記成形部材は、たとえばベースガスである吸熱型の変成ガスにエンリッチガスが添加されて所望のカーボンポテンシャル値に調整されるとともに、NHガスが添加された雰囲気中において、A点以上の温度である920℃以上960℃以下の浸炭窒化温度Tに加熱される。これにより、成形部材は浸炭窒化処理され、成形部材の表面を含む領域には炭素富化層および窒素富化層が形成される。このとき、上記雰囲気における未分解アンモニア濃度(分解されることなく雰囲気中に存在するNHガスの雰囲気中の濃度)が0.2体積%以上となるように、雰囲気が調整される。
【0071】
次に、1次焼入工程(工程(S30))が実施される。この工程(S30)では、工程(S20)において浸炭窒化処理された成形部材が、A点以上の温度であり、上記浸炭窒化温度Tよりも低い1次焼入温度TからM点以下の温度域に冷却されることにより、焼入硬化される。
【0072】
さらに、2次焼入工程(工程(S40))が実施される。この工程(S40)では、工程(S30)において焼入硬化された成形部材が、A点以上の温度であり、上記1次焼入温度Tよりも低い2次焼入温度Tに加熱された後M点以下の温度に冷却されることにより、焼入硬化される。これにより、工程(S20)において炭素富化層が形成された成形部材の表面に十分な硬度が付与される。
【0073】
次に、焼戻工程(工程(S50))が実施される。この工程(S50)では、工程(S40)において焼入硬化された成形部材がA点以下の温度に加熱されることにより、焼戻処理される。これにより、焼入硬化処理によって成形部材に導入されたひずみが緩和される。以上の工程により、本実施の形態における熱処理工程は完了する。
【0074】
上記熱処理工程の工程(S20)においては、未分解アンモニア濃度が0.2体積%以上という高い値になるように雰囲気が調整された状態で、920℃以上960℃以下の温度域に加熱されることにより、成形部材が浸炭窒化処理される。このように、高温に加熱しつつ高い未分解アンモニア濃度を確保した雰囲気中で浸炭窒化を実施することにより、成形部材への高い炭素の侵入速度と、成形部財の表面における高い窒素濃度、より具体的には0.3質量%以上の窒素濃度とを両立することができる。
【0075】
また、上記熱処理工程の工程(S20)においては、浸炭処理を実施した後、浸炭処理よりも低い温度で窒化処理を実施することにより成形部材の浸炭窒化処理を達成するのではなく、成形部材に対して浸炭処理と窒化処理とを同時に実施している。これにより、浸炭窒化処理に要する時間が短縮されている。また、浸炭処理よりも低い温度で窒化処理を実施した場合、成形部材における窒素の侵入深さが浅くなる。ここで、浸炭窒化処理は比較的熱処理による被処理物の変形が大きい。そのため、仕上げ工程における研削加工等による取り代が比較的大きくとられる場合も多い。そのため、窒素の侵入深さが浅い場合、仕上げ加工後の軸受部品における表面の窒素濃度が不十分となるおそれもある。これに対し、920℃以上という高温において浸炭処理と同時に窒化処理を実施することにより、窒素の侵入深さを十分に確保し、容易に表面における窒素濃度が0.3質量%以上である軸受部品を製造することができる。
【0076】
以上のように、本発明の軸受部品の製造方法によれば、容易に、上記本発明の軸受部品を製造することができる。
【0077】
以上の熱処理工程を含む製造方法により、上記実施の形態における軸受部品を製造することができる。ここで、A点とは鋼を加熱した場合に、鋼の組織がフェライトからオーステナイトに変態を開始する温度に相当する点をいう。また、M点とはオーステナイト化した鋼が冷却される際に、マルテンサイト化を開始する温度に相当する点をいう。また、本願において、表面(外輪転走面21A,31A、内輪転走面22A,32A、ころ接触面23A,33Aおよび摺動面35A)における窒素濃度とは、表面からの深さが50μm以内の領域において、母材中に固溶している窒素濃度の平均値をいう。
【実施例1】
【0078】
以下、実施例1について説明する。鋼中の固溶窒素の摩耗抑制効果を定量的に検証し、シビア−マイルド摩耗遷移を早期に発生させるために必要な表面窒素濃度を把握するため、表面窒素濃度と耐摩耗性との関係を検証する実験を行なった。実験の手順は以下の通りである。
【0079】
実験においては、以下の表1に示す5種類の鋼を素材として採用した。なお、表1に記載された数値は各元素の含有量を質量%の単位で示したものである。また、−が記載された元素は添加されておらず、残部は鉄および不純物からなっている。
【0080】
【表1】

【0081】
耐摩耗性の評価は、サバン型摩耗試験機を用いて実施した。まず、上記実施例A、B、および比較例A〜Cの鋼を内径φ50mm×外径φ64mm×高さ18mmのリング形状に成形した成形体を作製し、上記実施の形態において説明した浸炭窒化工程、1次焼入工程、2次焼入工程および焼戻工程(工程(S20)〜(S50))と同様の工程を実施した。このとき、浸炭窒化処理においては、実施例A、Bおよび比較例Cのいずれについても成形体の表面における炭素濃度分布が同じとなるように、CP(カーボンポテンシャル)値を一定の値に統一した。
【0082】
一方、比較例AおよびBからなる成形体については、通常の焼入硬化処理(ずぶ焼入)を行なった後、焼戻処理を実施したサンプルも作製した。ここで、浸炭窒化工程においては、雰囲気中の未分解アンモニア濃度を変化させることにより、成形体の表面における窒素濃度を変化させた。そして、上記成形体の端面部を研削加工することにより、試験片を完成させた。また、実施例A、B、および比較例A〜Cに関しては、同一条件で浸炭窒化処理した成形体を表面に垂直な面で切断し、形成された断面の表面付近における窒素濃度分布をEPMA(Electron Probe Micro Analysis)により測定した。そして、上記研削加工における取り代を考慮して、試験片の表面における窒素濃度(表面から50μm以内の領域における母材の平均窒素濃度)を把握した。
【0083】
次に、サバン型摩耗試験機を用いた摩耗試験について説明する。図8および図9を参照して、サバン型摩耗試験機40は、ロードセル43とエアスライダ44とを備えている。平板形状の摩耗試験片41はエアスライダ44に保持される。そして、摩耗試験片41の表面と、相手材45の外周面とを接触させた状態で、相手材45を回転させる。摩耗試験片41と相手材45との接触面には直接潤滑油は供給されず、相手材45の一部が潤滑油を含むフェルトパット46に接触することにより、当該接触面に潤滑油が供給される。摩耗試験の試験条件を表2に示す。
【0084】
【表2】

【0085】
表2に示すように、相手材の回転速度を低くし、低粘度の潤滑油を使用することで、金属接触を伴う潤滑条件での耐摩耗性を評価することができる。試験片の耐摩耗性は、試験片に生じる摩耗痕(楕円形状)の短軸幅(回転方向に平行)を測定し、その測定結果から摩耗体積を算出して評価した。
【0086】
次に、図10を参照して、実験結果について説明する。図10において、横軸は試験片の表面における窒素濃度、縦軸は比摩耗量である。図10に示すように、耐摩耗性は、試験片を構成する鋼の組成にはほとんど依存せず、表面における窒素濃度が高くなるにつれて向上することが明らかとなった。すなわち、耐摩耗性の向上に対しては、表面における窒素濃度の増加の効果が大きいものと推定される。
【0087】
ここで、耐摩耗性を向上させる要因としては、表面における窒素濃度以外にも、表面硬度や高硬度析出物(炭化物・窒化物)の影響が考えられる。そこで、図10のα、βおよびγのデータ点に対応する試験片の表面における析出物の状態および表面硬度を調査した。表3に、図10のα、βおよびγに対応する試験片の表面硬度および表面における析出物の面積率を示す。また、図11、図12および図13に、それぞれ図10のα、βおよびγに対応する試験片の表面付近を撮影したSEM写真を示す。
【0088】
【表3】

【0089】
表3を参照して、表面硬度に関しては、浸炭窒化を実施したSCM420材(α)やSNCM420材(β)に比べて、窒化処理を実施していないSUJ2材(γ)の方が高くなっている。また、表3および図11〜図13を参照して、析出物の面積率に関しても、浸炭窒化を実施したSCM420材(α)やSNCM420材(β)に比べて、窒化処理を実施していないSUJ2材(γ)の方が高くなっている。しかし、上記耐摩耗性試験の結果、浸炭窒化を実施したSCM420材(α)やSNCM420材(β)の比摩耗量は、窒化処理を実施していないSUJ2材(γ)の1/5以下となっている。以上の実験結果より、表面における窒素濃度(表面からの深さが50μm以下の領域における母材に固溶した窒素量)の増加が、耐摩耗性向上の支配的要因となっていることが明らかとなった。
【実施例2】
【0090】
次に、実施例2について説明する。表面窒素濃度の増加が耐摩耗性向上につながる理由を検証するため、同一材料に浸炭処理を実施した試験片と浸炭窒化処理を実施した試験片とを作製して、摩耗試験における摩耗量の経時変化を調査し、シビア摩耗からマイルド摩耗への遷移を確認する実験を行なった。実験の手順は以下の通りである。
【0091】
まず、素材となる鋼材として、JIS規格SUJ2とSCM420とを準備し、上記実施例1の場合と同様の形状に成形して成形体を得た。そして、SUJ2に関しては、当該成形体に対して通常のずぶ焼入(標準焼入)を実施した試験片と、浸炭窒化焼入を実施した試験片とを作製した。一方、SCM420に関しては、当該成形体に対して浸炭焼入を実施した試験片と、浸炭窒化焼入を実施した試験片とを作製した。そして、上記実施例1の場合と同一の条件で摩耗試験を実施し、摩耗量の経時変化を測定した。
【0092】
次に、図14を参照して、実験結果について説明する。図14において、横軸は試験開始からの経過時間、縦軸は摩耗量を示している。
【0093】
図14を参照して、浸炭窒化処理が実施されていないSCM420およびSUJ2からなる試験片は、試験開始から90分近く経過するまで単位時間あたりの摩耗量が大きい状態(シビア摩耗状態)が続き、その後単位時間あたりの摩耗量が小さい状態(マイルド摩耗状態)となった。すなわち、シビア−マイルド摩耗遷移は、試験開始から約90分後に達成された。一方、浸炭窒化処理が実施されたSCM420およびSUJ2からなる試験片は、シビア−マイルド摩耗遷移は、試験開始から15〜30分後に達成されている。すなわち、浸炭窒化を実施して試験片の表面における窒素濃度を高めることにより、シビア−マイルド摩耗遷移を早期に達成することが可能となることが分かる。
【0094】
そして、マイルド摩耗状態に移行すると、摩耗の進行は著しく遅くなる。したがって、上記実施例1において図10に基づいて説明した試験片の表面における窒素濃度の上昇による比摩耗量の減少は、マイルド摩耗への移行が早くなっていることに起因しているものと考えられる。
【0095】
また、図10を参照して、表面における窒素濃度を0.1質量%以上とすることにより、シビア−マイルド摩耗遷移を早期に達成し、比摩耗量を、窒素濃度が0質量%の場合の半分程度にまで低減できる。さらに、高い耐摩耗性を確保するためには窒素濃度0.25質量%以上であることが好ましく、比摩耗量のばらつきを抑制し、安定して高い耐摩耗を確保するためには、表面における窒素濃度を0.3質量%以上とする必要がある。また、表面における窒素濃度を、0.3質量%を超えてさらに高くしても、耐摩耗性は大きくは向上せず、たとえばSCM420(実施例A)はV添加鋼(比較例C)と同等の耐摩耗性を獲得している。すなわち、表面における窒素濃度を0.3質量%以上とすることにより、Cr、Mo、Vなどの合金元素の添加量を低減しても、高い耐摩耗性を実現できることが明らかとなった。
【0096】
なお、サバン型摩耗試験機を用いた摩耗試験では、摩耗の進行により接触面積が大きくなり、試験片と相手材との接触面圧が低下する。しかし、摩耗痕は接触面積より小さいことや、摩耗量が少なく接触面圧が低下していない浸炭窒化処理材で単位時間あたりの摩耗量が低下していることから、接触面積の拡大が単位時間あたりの摩耗量低下の原因ではないといえる。
【実施例3】
【0097】
次に、実施例3について説明する。SCr420、SCM420、SNCM420などの標準的な浸炭鋼(JIS規格G4053に規定された機械構造用合金鋼)からなる軸受部品の表面における窒素濃度を、0.3質量%以上とするための熱処理方法を検討する実験を行なった。
【0098】
まず、熱処理炉の炉内へのNHガスの添加率と炉内の雰囲気中における未分解アンモニア濃度(炉内NHガス濃度)との関係を、雰囲気温度が850℃の場合と940℃の場合とについて調査した。ここで、実験には、容積120Lのバッチ炉を使用した。また、850℃の雰囲気温度は炭素含有量が1質量%程度である高炭素クロム軸受鋼(たとえばSUJ2)の浸炭窒化温度、940℃の雰囲気温度は炭素含有量が0.2質量%程度である機械構造用合金鋼(たとえばSCM420)の浸炭窒化温度を想定した温度である。
【0099】
次に、図15を参照して、実験結果について説明する。図15において、横軸は炉内へのNHガスの添加率、縦軸は炉内における未分解アンモニア濃度を示している。ここで、NHガスの添加率とは、浸炭処理に必要な変成ガスの添加量をも含めた総添加量(雰囲気ガス全体)に対する比率である。
【0100】
図15を参照して、同じNHガスの添加率でも、雰囲気温度が850℃よりの場合に比べて940℃の場合のほうが、炉内のNHガス濃度(未分解アンモニア濃度)が極端に低くなっている。このことから、上記標準的な浸炭鋼からなる軸受部品の表面における窒素濃度を浸炭窒化処理によって高くするためには、軸受鋼などの高炭素の素材を採用する場合に比べて大幅に高いNHガスの添加率が必要であることがわかった。そして、上記標準的な浸炭鋼からなる軸受部品において、表面における窒素濃度を0.3質量%以上とするためには、炉内の未分解アンモニア濃度が0.2体積%以上とした状態で浸炭窒化を実施する必要があり、0.25体積%以上とすることが好ましい。
【実施例4】
【0101】
次に、実施例4について説明する。軸受部品を構成する鋼の成分組成、特にCr、Vの含有量が表面における窒素濃度に及ぼす影響について調査する実験を行なった。
【0102】
具体的には、まず、表1の実施例A(SCM420)、実施例B(SNCM420)および比較例C(V添加鋼)の鋼からなる試験片を準備し、同一条件で浸炭窒化を実施した。ここで、浸炭窒化処理は、上記実施の形態の場合と同様に実施した。浸炭窒化処理の温度は940℃、CP値は1.3、浸炭窒化処理の際における炉内の未分解アンモニア濃度は0.25体積%とした。そして、EPMAにより、試験片の表面付近における炭素および窒素の濃度分布を調査した。
【0103】
次に、実験結果について説明する。図16、図17および図18に、それぞれSCM420、SNCM420およびV添加鋼の表面付近の炭素濃度および窒素濃度を示す。図16〜図18において、横軸は表面からの深さ、縦軸は炭素および窒素の濃度を示している。
【0104】
図16〜図18を参照して、SCM420はSNCM420に比べて表層から深さ0.3mmまでの窒素濃度が高くなっている。これは、SCM420は、SNCM420に比べてCr含有量が多い効果であると考えられる。また、V添加浸炭鋼は、更に表層部の窒素濃度が高くなっている。これはVの含有量が大きいことによる効果であると考えられる。
【0105】
このように、VおよびCrは、母材に固溶する窒素濃度を高めやすくする効果がある。しかし、添加量が多いと材料コストが上がる。また、表層の窒素濃度が高くなる反面、窒素の侵入深さが小さくなるおそれがある。たとえば、ガイドロール用軸受として用いられる自動調心ころ軸受の転走面における、熱処理後の研削での取り代は、0.3mm程度である。したがって、浸炭窒化処理においては、表面から0.3mmの深さにおける窒素濃度が0.3質量%以上である必要がある。これらを考慮すると、Crは1.0質量%以上1.5質量%以下、Vは0.1質量%以上1質量%以下添加されてもよい。
【0106】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の軸受部品、転がり軸受および軸受部品の製造方法は、耐摩耗性を向上させることが求められる軸受部品、転がり軸受および軸受部品の製造方法に、特に有利に適用され得る。
【符号の説明】
【0108】
20 自動調心ころ軸受、21,31 外輪、21A,31A 外輪転走面、21B,22B,23B,31B,32B,33B,35B 炭素富化層、21C,22C,23C 芯部領域、21D,22D,23D,31D,32D,33D,35D 窒素富化層、22,32 内輪、22A,32A 内輪転走面、23,33 ころ、23A,33A ころ接触面、24 保持器、30 自動調心輪付き円筒ころ軸受、31E 外周面、35 自動調心輪、35A 摺動面、40 サバン型摩耗試験機、41 摩耗試験片、42 重錘、43 ロードセル、44 エアスライダ、45 相手材、46 フェルトパット、50 連続鋳造ガイドロール装置、51 連続鋳造ロール、511 ロール部、512A 固定端ロールネック、512B 自由端ロールネック、53 スタンド、53A ロール保持部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.15質量%以上0.3質量%以下の炭素と、0.15質量%以上0.7質量%以下の珪素と、0.15質量%以上1.0質量%以下のマンガンとを含有し、残部鉄および不純物からなる鋼から構成され、
表面を含む領域には、
他の領域に比べて炭素濃度が高い炭素富化層と、
他の領域に比べて窒素濃度が高く、前記炭素富化層に重なる窒素富化層とが形成され、
前記窒素富化層に含まれる前記表面における窒素濃度は0.3質量%以上である、軸受部品。
【請求項2】
0.15質量%以上0.3質量%以下の炭素と、0.15質量%以上0.7質量%以下の珪素と、0.15質量%以上1.0質量%以下のマンガンとを含有し、さらに0.4質量%以上2.0質量%以下のクロム、0.15質量%以上0.5質量%以下のモリブデン、1.0質量%以上2.0質量%以下のニッケルおよび0.1質量%以上1.0質量%以下のバナジウムからなる群から選択される少なくとも一種以上の元素を含み、残部鉄および不純物からなる鋼から構成され、
表面を含む領域には、
他の領域に比べて炭素濃度が高い炭素富化層と、
他の領域に比べて窒素濃度が高く、前記炭素富化層に重なる窒素富化層とが形成され、
前記窒素富化層に含まれる前記表面における窒素濃度は0.3質量%以上である、軸受部品。
【請求項3】
前記鋼は、JIS規格SCr420、SCM420またはSNCM420からなる群から選択されるいずれか1種である、請求項2に記載の軸受部品。
【請求項4】
前記炭素富化層に含まれる前記表面における炭素濃度は0.6質量%以上1.2質量%以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の軸受部品。
【請求項5】
軌道部材と、
前記軌道部材に接触し、円環状の軌道上に配置される複数の転動体とを備え、
前記軌道部材および前記転動体の少なくともいずれか一方は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の軸受部品である、転がり軸受。
【請求項6】
自動調心ころ軸受である、請求項5に記載の転がり軸受。
【請求項7】
連続鋳造される鋳造物をガイドするための連続鋳造ロールを、前記連続鋳造ロールを支持する部材に対して回転自在に支持する、請求項5または6に記載の転がり軸受。
【請求項8】
0.15質量%以上0.3質量%以下の炭素と、0.15質量%以上0.7質量%以下の珪素と、0.15質量%以上1.0質量%以下のマンガンとを含有し、残部鉄および不純物からなる鋼から構成され、成形加工された成形部材を準備する工程と、
前記成形部材を一酸化炭素およびアンモニアを含む雰囲気中において加熱することにより、前記成形部材を浸炭窒化処理する工程とを備え、
前記成形部材を浸炭窒化処理する工程では、未分解アンモニア濃度が0.2体積%以上となるように前記雰囲気が調整された状態で、前記成形部材が920℃以上960℃以下の温度域に加熱される、軸受部品の製造方法。
【請求項9】
0.15質量%以上0.3質量%以下の炭素と、0.15質量%以上0.7質量%以下の珪素と、0.15質量%以上1.0質量%以下のマンガンとを含有し、さらに0.4質量%以上2.0質量%以下のクロム、0.15質量%以上0.5質量%以下のモリブデン、1.0質量%以上2.0質量%以下のニッケルおよび0.1質量%以上1.0質量%以下のバナジウムからなる群から選択される少なくとも一種以上の元素を含み、残部鉄および不純物からなる鋼から構成され、成形加工された成形部材を準備する工程と、
前記成形部材を一酸化炭素およびアンモニアを含む雰囲気中において加熱することにより、前記成形部材を浸炭窒化処理する工程とを備え、
前記成形部材を浸炭窒化処理する工程では、未分解アンモニア濃度が0.2体積%以上となるように前記雰囲気が調整された状態で、前記成形部材が920℃以上960℃以下の温度域に加熱される、軸受部品の製造方法。
【請求項10】
前記鋼は、JIS規格SCr420、SCM420またはSNCM420からなる群から選択されるいずれか1種である、請求項9に記載の軸受部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図14】
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【図15】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2010−222678(P2010−222678A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−73675(P2009−73675)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】