説明

農産業及び食品産業の余剰品に対する乳酸菌(LAB)の使用によりγアミノ酪酸(GABA)を調製する方法

本発明は、ラクトコッカス・ラクティス亜種DSM19464及びラクトバチルス・プランタルムDSM19463又はこれらの関連種からのγアミノ酪酸(GABA)の果実汁での生産方法に関する。特に、本発明は、皮膚科分野での使用の可能性のためにビタミン、ミネラル、ポリフェノール、及び生きた活力のある乳酸菌をも含む、GABAに基づいた調製物の生産のために果実汁の成分がその組成について適切に最適化された、果実汁でのラクトコッカス・ラクティス亜種DSM19464及びラクトバチルス・プランタルムDSM19463又はこれらの関連種の選択及び使用を企図する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農産業及び食品産業の余剰品に乳酸菌(LAB)を使用してγアミノ酪酸(GABA)を調製する方法に関する。特に、本発明は、皮膚科の分野、並びに腎障害、例えば、高血圧及び糖尿病の症状によって引き起こされるものの治療で有利に使用される果実汁やバターミルクのような農産業及び食品産業の余剰品でのγアミノ酪酸(GABA)の生産のために選択された乳酸菌の使用に関する。非天然アミノ酸と定義されるGABAは、GABAのL−グルタミン酸塩の不可逆的脱炭酸を触媒する、ピリドキサールリン酸依存性の酵素グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)(EC 4.1.1.15)によって合成される。酵素GADは、真核生物及び原核生物の両方に広範に分布している(Ueno、2000、「デカルボキシラーゼにおける酵素的及び構造的側面(Enzymatic and structural aspect on decarboxylase)」、J.Mol.Catal、10:67−79)。GABAがヒトの様々な生理学的機能を発達させることができることが広く示されてきた。GABAは、神経伝達物質として、降圧誘導剤として、利尿薬として、及びトランキライザーとして機能することができる(Guinら、2003、「GABA、γヒドロキシ酪酸及び神経疾患(GABA,gamma−hydroxybutyric acid,and neurological disease)」、Ann.Neur.、6:3−12;Jakobsら、1993、「GABA代謝の先天性疾患(Inherited disorders of GABA metabolism)」、J.Inherit.Metab.Di、16:704−715)。うつ病(Okadaら、2000、「経口投与による不眠症、うつ病、自律神経障害に対するGABA強化脱脂米胚芽の効果(Effect of the defatted rice germ enriched with GABA for sleeplessness,depression,autonomic disorder by oral administration)」、Nippon Shokuhin Kagaku Kaishi、75:596−603)、アルコール中毒に関連した症状(Ohら、2003、「発芽玄米抽出物は慢性アルコール中毒に関連した症状の回復において栄養補助効果を示す(Germinated brown rice extract shows a nutraceutical effect in the recovery of chronic alcohol−related symptoms)」、J.Med.Food、6:115−121)、及び免疫系の刺激(Oh及びOh、2003、「GABの濃度が高められた玄米抽出物は免疫細胞を刺激する(Brown rice extracts with enhanced levels of GABA stimulate immune cells)」、Food Sci.Biotechnol.、12:248−252)の治療が、GABAの投与に関連している。皮膚科分野の近年の研究から、(i)紫外線に対する応答としての表皮レベルでの恒常性維持機構(Warskulatら、2004、「細胞恒常性の維持における正常なヒトケラチノサイトの浸透圧調節物質法(The osmolyte strategy of normal human keratinocytes in mantaining cell homeostasis)」、J.Invest.Dermatol.、123:516−521)、(ii)表皮の機能障害及び過増殖の症状を防止するバリア受容体の調節(Dendaら、2002、「γアミノ酪酸(A)受容体作用薬は、皮膚バリアの回復を促進させ、バリア破壊によって引き起こされる表皮過形成を防止する(gamma−aminobutyric aid(A)receptor agonists accelerate cutaneous barrier recovery and prevent epidermal hyperplasia induced by barrier disruption)」、J.Invest.Dermatol.、119:1041−1047)、及び(iii)酸化ストレス後の表皮線維芽細胞の生存率の改善及びヒアルロン酸の刺激(Itoら、「真皮線維芽細胞由来GABA合成酵素GAD67:新規の皮膚機能の証拠(GABA−synthesizing enzyme,GAD67,from dermal fibroblasts:evidence for a new skin function)」、Biochim.Biophys.Acta.、1770:291−296)にGABAが関与していることが分かった。さらに、近年、腎臓にあるGABAの受容体の様々なサブユニットの存在、新しい受容体複合体へのサブユニットの凝集、及び腎臓近位尿細管細胞におけるGABAの活性受容体が示された(Satinder S.ら、The Journal of pharmacology and experimental therapeutics、第324巻、第1版、376−382、2008)。
【0002】
このように広く認知されている生理的機能に基づいて、様々な機能性食品で、技術的処理及び酵素又は微生物の性質によってGABAが濃縮又は強化されている(Okadaら、2000;Nagaoka、2005、「内在性酵素によって触媒されるGABA及びIP6の濃度を上昇させるための発芽小麦の処理(Treatment of germinated wheat to increase levels of GABA and IP6 catalyzed by endogenous ezymes)」、Biotechnol.Prog.、21:405−410;Ohら、2003、「キトサン/Glu発芽溶液及びカルシウム/カルモジュリンによる玄米におけるγアミノ酪酸の合成活性の刺激(Stimulation of gamma−aminobutyric acid synthesis activity in brown rice by a chitosan/Glu germination solution and calcium/calmodulin)」、J.Biochem.Mol.Biol.、36:319−325)。
【0003】
ある種の研究は、機能性ミルクチーズ誘導体の生産と、このような酵素活性の基礎となる生理的機構の理解の両方のために乳酸菌からのGABAの合成についても考察した(Nomuraら、1998、「チーズの熟成中のチーズスターターによるγアミノ酪酸の生産(Production of gamma−aminobutyric acid by cheese starters during cheese ripening)」、J.Dairy Sci.、81:1486−1491;Park及びOh、2004、「ラクトバチルス・プランタルムからの完全長グルタミン酸デカルボキシラーゼ遺伝子のクローニング及び発現(Cloning and expression of a full length glutamate decarboxylase gene from Lactobacillus plantarum)」、J.Food Sci.Nutr.、9:324−329:Park及びOh、2007、「新規に単離した乳酸菌、ラクトバチルス・ブレビスOPK−3からの新規な長グルタミン酸デカルボキシラーゼ遺伝子のクローニング、配列決定、及び発現(Cloning,sequencing and expression of a novel glutamate decarboxylase gene from a newly isolated lactic acid bacterium,Lactobacillus brevis OPK−3)」、Bioresour.Technol.、98:312−319)。一般に、GABAの合成により、酸環境条件にさらされる細菌細胞に耐性が付与され(Cotter及びHill、2003、「酸試験で残存:低いpHに対するグラム陽性細菌の応答(Surviving the acid text:responses of the of Gram−positive bacteria to low pH)」、Microbiol.Mol.Rev.、67:429−453)、酵素GADによるプロセスが、乳酸菌種E1のエネルギー合成に関連している(Higuchiら、1997、「乳酸菌株におけるグルタミン酸塩とγアミノ酪酸の置換(Exchange of glutamate and gamma−aminobutyrate in a Lactobacillus strain)」、J.Bacteriol.、179:3362−3364)。公表された文献に属するミルクチーズ誘導値体でのGABAの生産は、約70mg/l(約0.67mM)の閾値を超えることはない。我々の現在の知識状態では、米胚芽及び牛乳に基づいた飲料の調製の際に、培養土MRSでの大量生産のために、「鮒寿司」から単離されたラクトバチルス・パラカゼイ(lactobacillus paracasei)NFRI(7415)の使用についての特開2005−102559も同様である。さらに、同じ生物型のL.パラカゼイNFRIによる培養土MRSでのGABAの生産が、いくつかの発酵パラメータを基準に最適化された研究が知られている(Komatsuzakiら、2005、「従来の発酵食品から単離したラクトバチルス・パラカゼイによるγアミノ酪酸(GABA)の生産(Production of gamma−aminobutyric acid(GABA) by lactobacillus paracasei isolated from traditional fermented foodstuffs)」、Food Microbiol.、22:497−504)。しかしながら、周知の技術に記載されている方法によって得たGABAの収率は満足できるものではない。
【0004】
したがって、上記を鑑み、周知の方法の不都合を克服できるGABAの調整のための材料及び方法が要望されていることは明らかである。
【0005】
本発明の発明者は、いくつかの乳酸菌、特にラクトバチルス・プランタルムDSM19463(DSMZと共に2007年6月26日に出願)、これらの増殖に適した基質、特に果実汁を選択し、周知の技術により得ることができる収率よりも遥かに高い収率でGABAを生産する方法について説明する。
【0006】
本発明のさらなる利点は、(i)微生物の増殖及びGABAの生合成を助けるために、市販の複雑な培養土の使用を避けて低コストの天然発酵基質(例えば、果実汁やバターミルク)を利用する可能性、(ii)文献に報告されている濃度に対する食物起源の母体でのGABA合成の増加、(iii)高い生理的な値と、GABA、ビタミン、ミネラル、ポリフェノール、及び潜在的に有益な菌である生きた活力のある乳酸菌で自然に強化されていることとを特徴とする乾燥又は凍結乾燥された製品を得ることができる発酵方法、及び(iv)GABAに基づいた製品の適用分野を皮膚科分野及び腎障害の治療分野へ拡張する可能性である。
【0007】
本発明による乳酸菌は、ラクトバチルス(lactobacillus)属及びラクトコッカス(lactococcus)属に属する。これらの乳酸菌は、GABAで自然に強化され、且つ培養土で高濃度にGABAを合成する能力に基づいて選択した食物母体(チーズ)から前もって単離した。本発明では、果実汁やバターミルク(リコッタ生産の副産物)のような基質から開始し、酵母水又は酵母抽出物を添加し、標準的な培養条件下で発酵させる際のGABAの増殖及び合成能力に基づいて、GABAの8種類の生産株に対して選択を行った。
【0008】
具体的には、L.プランタルムDSM19463を選択して、濃縮果実汁(全糖量、61.8%)を50:50の割合で酵母水と水で希釈し(全糖量1%)、L−グルタミン酸ナトリウム(20mM)を添加し、約6.0の初期pH値に調整して発酵させた。
【0009】
L.プランタルムDSM19463からのGABAの生産プロトコルを標準化及び最適化した。前記プロトコルでは、L.プランタルムDSM19463を、30℃で24時間、培養土MRSで初めの増殖を行い、遠心分離及び洗浄によって細胞を回収し、酵母水で希釈した果実汁を接種し、20mM L−グルタミン酸ナトリウム(pH、約6.0)を添加し、30℃で、好ましくは72時間〜78時間、連続的にインキュベーションする。
【0010】
本発明によるL.プランタルムDSM19463による発酵プロセスにより、(i)食品分野及び農業食物分野からの余剰物である果実汁を利用することによって基質のコストを0にすることができ、(ii)果実汁の発酵プロセスの最後に約500mg/l(約4.8mM)のGABAの生産、又は凍結乾燥製品の乾燥物質100g当たり約890mgのGABAの生産が可能になり、(iii)酵母水の使用によるビタミンB群及び果実汁の使用によるミネラル及びポリフェノールを用いたGABAを含む製品の天然強化が可能となり、(iv)in vitro試験に基づいた、L.プランタルムDSM19463の生きた活力のある細胞を用いた凍結乾燥製品の天然強化(実験室条件下、約1010ufc/g)により、あらゆる生菌特性を有することができ、且つ(v)上記した近年の公表に示されているように、皮膚科分野における製品の潜在的な利用が可能となる。
【0011】
本発明によるL.プランタルムDSM19463は、「鮒寿司」から単離されたL.パラカゼイNFRI(7415)によって異なる食物母体(米胚芽及び牛乳を基にした飲料)で発酵させて得た、食物起源(果実汁)の母体でのGABAの生産量が、乾燥物質100g当たり約890mgであり、特開2005−102559で報告されている生産量(乾燥物質100g当たり103.9mg)よりも格段に多いことを示している。L.プランタルムDSM19463については、GAD遺伝子の部分配列を、L.パラカゼイNFRIとは異なるようにクローニングした。このGAD遺伝子は、GABAの合成に関与している。
【0012】
L.プランタルムDSM19463(配列番号1)の遺伝子グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)の部分配列は次の通りである。
1 gnangctatt cangcctgnn cctggcaact ttttgtcaga cctatatgga acccgaagcc
61 gttgaattga tgaaggatac gctggctaag aatgccatcg acaaatctga gtacccccgc
121 acggccgaga ttgaaaatcg gtgtgtgaac attattgcca atctgtggca cgcacctgat
181 gacgaacact ttacgggtac ctctacgatt ggctcctctg aagcttgtat gttaggcggt
241 ttagcaatga aattcgcctg gcgtaaacgc gctcaagcgg caggtttaga tctgaatgcc
301 catcgaccta acctcgttat ttcggctggc tatcaagttt gctgggaaaa gttttgtgtc
361 tactgggacg ttgttttttt ttttttttcc caatggatga gcaacacgtg gcccttgggg
421 ttaaacacgt ctacggcttg ggccgagaat cgcttggtat ttttttgtaa acaaggcgtc
481 ccctttaccc ctgccc
【0013】
本発明の発明者はまた、GABAの収率が異なる発酵プロトコルに従って利用できる果実汁及び主にバターミルクの発酵に用いることができる乳酸菌、ラクトコッカス・ラクティス亜種(Lactococcus lactis ssp.)DSM19464(DSMZと共に2007年6月26日に出願)を選択した。
【0014】
したがって、本発明の特定の目的は、L.プランタルムDSM19463若しくはLc.ラクティス亜種DSM19464又はこれらの関連種である。
【0015】
本発明の別の目的は、γアミノ酪酸の生産又はγアミノ酪酸を豊富にした生菌混合物の調製にL.プランタルムDSM19463又はLC.ラクティス亜種DSM19464を使用することにある。
【0016】
さらに、本発明は、γアミノ酪酸の生産又はγアミノ酪酸を豊富にした生菌混合物の調製のための方法にも関し、この方法は、以下のステップ:
a)L.プランタルムDSM19463若しくはLc.ラクティス亜種DSM19464又はこれらの関連種の、30℃で24時間の培養土、好ましくはMRS又はM17での増殖、
b)約10ufc/gの細胞密度に従った、果実汁又はバターミルクから選択した20mM L−グルタミン酸ナトリウムを添加した一定量の基質中での、ステップa)で得たバイオマスの再懸濁、
c)1〜4%での基質の接種、及び72〜96時間、好ましくは72〜78時間、30〜33℃、好ましくは30℃の発酵
を含む。
【0017】
好ましくは、果実汁は、酵母水で希釈するか、又は酵母を添加することができる。特に、果実汁は、酵母水及び50/50蒸留水で希釈し、1N NaOHによって脱酸して、pH6.0〜6.5、好ましくはpH約6.0まで下げることができる。対照的に、バターミルクに酵母抽出物(約0.5%)を添加することができる。さらに、果実汁又はバターミルクにピリドキサール−5−リン酸を添加することができる。
【0018】
本発明による方法は、ステップc)で得た発酵基質を乾燥又は凍結乾燥させるステップd)もさらに含むことができる。別法では、本発明による方法は、γアミノ酪酸の抽出に関連するステップd1)もさらに含むことができる。
【0019】
したがって、上記に基づいて、γアミノ酪酸の生産又はγアミノ酪酸を豊富にした生菌混合物の調製の方法は、以下のステップ:
a)L.プランタルムDSM19463又はLc.ラクティス亜種DSM19464の、30℃で24時間の培地、好ましくはMRS又はM17での増殖、
a1)遠心分離(10,000×gで、4℃で10分間)による細胞の収集、及び50mMリン酸緩衝液、pH7.0による洗浄、並びに
b)約10ufc/gの細胞密度に従った、一定量の希釈果実汁又はバターミルク中でのバイオマスの再懸濁;
b1)蒸留水約300mlに市販のビール酵母約60gを懸濁することによる酵母水の調製;オートクレーブでの、120℃で30分間の滅菌;バイオマスの、4℃で12時間のデカンテーション;60,000×gでの、4℃で10分間の遠心分離;滅菌条件下での、酵母細胞の細胞質抽出物を含む上清(酵母水)の最終的な回収;
b2)上記の割合に従った、水及び酵母水での濃縮果実汁の希釈(調整後の最終pHは約6.0)、続いてのオートクレーブにおける120℃で15分間の滅菌、又は酵母抽出物(0.5%)が添加されたバターミルク(ラクトース4.8%、タンパク質0.79%、脂質0.40%、pH5.90)の使用後の120℃で15分間の滅菌
c)1〜4%での基質の接種、約72〜96時間(好ましくは72〜78時間)、30℃での発酵
を含む。
【0020】
本発明による方法は、さらに、ステップc)で得た発酵基質を乾燥若しくは凍結乾燥させるステップd)、又はγアミノ酪酸を抽出するステップd1)を含むことができる。
【0021】
本発明のさらなる目的は、上記した方法で得ることができるγアミノ酪酸を豊富にした生菌混合物である。生菌混合物は、好ましくは乾燥物質100g当たり少なくとも890mgのγアミノ酪酸を含み、これに加えて、ビタミン、ミネラル、ポリフェノール、及び生きた活力のある乳酸菌を含む。
【0022】
この生菌混合物は、医学及び美容の分野に好都合に利用することができ、出願者が実施した、本願の実験の部分で報告する研究によると、GABAのみで処理した後に得られた生菌混合物に対して有利な効果を示した。したがって、本発明は、薬学的又は化粧用に許容される化合物である1つ又は複数の賦形剤及び/又はアジュバントと共に、活性成分としての、既に上記したγアミノ酪酸を豊富にした生菌混合物を含む医薬組成物又は化粧品組成物にも関連する。
【0023】
本発明のさらなる目的は、本発明による化粧品化合物としての、γアミノ酪酸を豊富にした生菌混合物の使用である。
【0024】
さらに、本発明は、皮膚科で使用する薬物の調製のための、本発明によるγアミノ酪酸を豊富にした生菌混合物の使用に関する。
【0025】
本発明のさらなる目的は、例えば、高血圧及び糖尿病の症状によって引き起こされる腎障害などの腎疾患の治療用の上記定義した医薬組成物である。
【0026】
本発明を、具体的に添付の図面を参照しながら、本発明の実現のための好適な形態に従って、限定目的ではなく例示として次に開示する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】蒸留水で希釈した、pH約4.0の果実汁(全糖量1%)でのL.パラカゼイFC4、ラクトバチルス・プランタルムFC15、ラクトバチルス・デルブリュッキイ PR1(Lactobacillus delbrueckii PR1)、L.プランタルムFC8、及びL.ラクティス亜種DSM19464の酸性化動態及び増殖を示すグラフである。発酵は、30℃で行った。
【図2】50:50の割合で酵母水と蒸留水で希釈した、pH約4.5の果実汁(全糖量1%)でのL.パラカゼイFC4、L.プランタルムFC15、L.デルブリュッキイPR1、L.プランタルムDSM19463、L.プランタルムFC8、及びLC.ラクティス亜種DSM19464の酸性化動態及び増殖を示すグラフである。発酵は、30℃で行った。
【図3】酵母水及び蒸留水(50/50)で希釈し、L−グルタミン酸ナトリウム(20mM)を添加したpH約4.5の果実汁(全糖量1%)(A);酵母抽出物(0.5%)及びL−グルタミン酸ナトリウム(20mM)を添加したpH約4.5の水希釈果実汁(全糖量1%)(B);L−グルタミン酸ナトリウム(20mM)を添加したpH5.90のバターミルク(C);酵母抽出物(0.5%)及びL−グルタミン酸ナトリウム(20mM)を添加したpH5.90のバターミルク(D)でのL.プランタルムDSM19463からのγアミノ酪酸(GABA)(mg/l)の生産を示すグラフである。発酵は、30℃で行った。
【図4】酵母水及び蒸留水(50/50)で希釈した果実汁(全糖量1%、pH約6.0、L−グルタミン酸ナトリウム(20mM)を添加)でのL.プランタルムDSM19463の酸性化動態(A)及び増殖(B)、並びにL.プランタルムDSM19463からのγアミノ酪酸(GABA)(mg/l)の生産(C)を示すグラフである。発酵は、30℃で行った。
【図5】酵母水及び蒸留水(50/50)で希釈し、L−グルタミン酸ナトリウム(20mM)を添加し、全糖の濃度が異なる(A:0.3%、B:0.5%、C:0.7%、及びD:1%)、pH約6.0の果実汁でのL.プランタルムDSM19463(C)からのγアミノ酪酸(GABA)(mg/l)の生産を示すグラフである。発酵は、30℃で行った。
【図6】酵母水及び蒸留水(50/50)で希釈した果実汁(全糖量1%、pH約6.0、L−グルタミン酸ナトリウム(20mM)及びピリドキサール−5−リン酸を添加)でのL.プランタルムDSM19463の酸性化動態(A)及び増殖(B)、並びにL.プランタルムDSM19463からのγアミノ酪酸(GABA)(mg/l)の生産(C)を示すグラフである。発酵は、30℃で行った。
【図7】酵母水及び蒸留水(50/50)で希釈し、L−グルタミン酸ナトリウム(20mM)を添加したpH約6.0の果実汁(全糖量1%)でのL.プランタルムDSM19463の酸性化動態(A)及びL.プランタルムDSM19463の静止細胞(増殖期でない細胞)からのγアミノ酪酸(GABA)(mg/l)の生産(B)を示すグラフである。発酵は、30℃で行った。
【図8】酵母水及び蒸留水(50/50)で希釈し、L−グルタミン酸ナトリウム(20mM)を添加したpH約6.0の果実汁(全糖量1%)でのL.プランタルムDSM19463からのγアミノ酪酸(GABA)の生産性:gl−1−1(A)、収率:ΔP/ΔS(B)、及び比生産速度:1/x dP/dt(C)を示すグラフである。発酵は、30℃で行った。
【図9】本発明によるバイオマス又はGABAでの8時間、24時間、48時間、及び72時間の処理の後のFT−皮膚モデルにおける酵素ヒアルロン酸シンセターゼの発現を示す図である。
【図10】本発明によるバイオマス又はGABAでの8時間、24時間、48時間、及び72時間の処理の後のFT−皮膚モデルにおけるフィラグリン遺伝子の発現を示す図である。
【図11】本発明によるバイオマス又はGABAでの8時間、24時間、48時間、及び72時間の処理の後のFT−皮膚モデルにおけるインボルクリン遺伝子の発現を示す図である。
【0028】
(例1)
本発明による乳酸菌の選択
イタリアのバリ大学(University of Bari)の植物保護及び応用微生物学部の培養物の収蔵品(Collezione di Colture del Dipartimento di protezione delle Piante e Microbiologia Applicata dell’Universita’ degli Studi di Bari)に属し、予めチーズから単離され、培地の条件下でGABAの合成能に基づいて選択した乳酸菌を、MRS又はM17で、30℃で24時間培養した(Lc.ラクティス亜種DSM19464)(Oxoid、Basingstoke、Hampshire、England)。表1に、γアミノ酪酸の生産のために本発明に用いた種及び生物型のリストを示す。
表1
【表1】

【0029】
(1)農業及び食品の母体の発酵のための乳酸菌の使用
培地で培養した後、乳酸菌細胞を遠心分離(10,000×gで、4℃で10分間)によって収集した。次いで、乳酸菌細胞を、50mMリン酸緩衝液、pH7.0で2回洗浄し、10ufc/mlの細胞密度で一定量の果実汁又はバターミルクに再懸濁した。
【0030】
無水亜硫酸(sulphurous anhydride)が添加されていない濃縮果実汁(全糖量、59.2%)を、蒸留水又は50/50の割合の蒸留水と酵母水で全糖量1%の濃度になるまで希釈し、1N NaOHによってpH約4.0〜4.5又は約6.0になるまで脱酸し、オートクレーブで、120℃で15分間滅菌した。酵母水を用いる場合、酵母水は、市販のビール酵母約60gを約300mlの蒸留水に懸濁し;オートクレーブで、120℃で30分間滅菌し;バイオマスを4℃で12時間デカンテーションして分離し;6,000×gで、4℃で10分間遠心分離し;滅菌条件下で酵母細胞の細胞質抽出物を含む上清(酵母水)を最後に回収して調製した。
【0031】
「リコッタ」の生産の副産物として得たバターミルクは、ラクトース4.80%、タンパク質0.79%、脂質0.40%、pH5.0のパラメータによって特徴付けられた。前記バターミルクは、そのまま又は酵母抽出物(0.5%)を添加して発酵プロセスに用いた。
【0032】
20mM L−グルタミン酸ナトリウムを発酵基質に添加し、実験によっては、0.1mMピリドキサール−5−リン酸を添加した。
【0033】
発酵は、4%乳酸菌(約10ufc/mlの初期細胞密度)を接種し、30℃で96時間インキュベーションして行った。
【0034】
「静止細胞」、すなわち細胞が増殖期でない細胞を用いる場合は、約10ufc/mlに等しい初期細胞密度を得ることができる種菌を用意した。L.プランタルムDSM19463及びLc.ラクティス亜種DSM19464を共に使用した場合は、これらを、それぞれ約10ufc/mlの細胞密度に従って接種した。
【0035】
(2)増殖動態及び酸性化
乳酸菌の細胞密度は、MRS寒天プレートカウンティング(Oxoid)によって決定した。軟質混合物の酸性化動態を、pHの測定(pH−meter 507、Crison、Italy)によってオンラインで得た。増殖及び酸性化動態に関連したデータは、Zwieteringらによって変更されたゴンパーツの式(Zwieteringら、1990、「細菌の増殖曲線のモデル化(Modelling of bacterial growth curve)」、Appl.Environ.Microbiol.、56:1875−1881)によってモデル化した。初期の実験では、異なる基質における乳酸菌の増殖を、620nmでの光学密度(O.D.620)の決定によって調べた。D−乳酸及びL−乳酸の決定は、酵素キット(DHFF CHAMB Italia Srl、Italy)によって行った。
【0036】
(3)GABAの決定
異なって発酵させた基質のGABA濃度を、陽イオン交換カラム(Na Oxidised Feedstuff、20cm×4.6mm)を用いる「Amino Acid Analyzer Biochrom 30」(Biochrom Ltd.,Cambridge,UK)によって決定した(Di Cagnoら、2007、「非従来的な条件下で成熟させたイタリアチーズの特徴付け(Characterization of Italian Cheeses Ripened Under Nonconventional Conditions)」、J.Dairy Sci.、90:2689−2704)。
【0037】
GABAの生産は、生産性:gl−1−1、収率:ΔP/ΔS、すなわち基質(L−グルタミン酸ナトリウム)の消費に対するGABAの生産量、及び比生産速度(1/x dP/dt)(xは、考察時の細胞密度を表す)によっても特徴付けられた。
【0038】
(4)ビタミン、ミネラル、及びポリフェノールの含有量の決定
発酵した基質中のビタミンB群及びポリフェノールの含有量を、HPLC分析によって決定した。ミネラルの濃度は、原子吸光法によって決定した。
【0039】
(5)ラクトバクテリウム・プランタルム(Lactobacterium plantarum)DSM19463のGAD遺伝子の分子特徴付け
L.プランタルムDSM19463からのDNAの抽出を、De Los Reyes−Gavilanによって報告された方法によって行った(De Los Reyes−Gavilanら、「ラクトバチルス・ヘルベティカス特異的DNAプローブが、この種における制限酵素断片長多型を検出する(A Lactobacillus helveticus−specfic DNA probe detects restriction fragment length polymorphisms in this species.)」、Appl.Environ.Microbiol.、58:3492−3432)。GAD遺伝子の高度に保存された領域によって設計されたプライマー、CoreF/CoreR(5’−CCTCGAGAAGCCGATCGCTTAGTTCG−3(配列番号2)及び5’−TCATATTGACCGGTATAAGTGATGCCC−3’(配列番号3))(PRIM srl San Raffaele Biomedical Science Park,Milano,Italy)を、GAD遺伝子の増幅に用いた。PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)の各反応液50μlには、それぞれ200μM 2’−デゾキシリボヌクレオシド5’−3リン酸、それぞれ1μM プライマー、2μM MgCl、Taq DNAポリメラーゼ 2U、DNA約50ngを含めた。PCR増幅反応は、GeneAmpPCR System9700(Applied Biosystem,USA)によって行った。増幅産物を、1.5%アガロースゲル上で電気泳動にかけて分離し、臭化エチジウム(0.5μg/ml)によって着色した。ゲルによって溶出させたアンプリコンを、GFX PCR DNA及びGel Band Purification Kit(Amersham Biosciences、Upsala、Sweden)によって精製した。DNAの配列決定反応をPRIMで行った。配列の比較を、Basic BLASTデータベースによって行った。ヌクレオチド配列の翻訳を、OMIGAソフトウエア(Oxford Molecular、Madison、USA)によって行った。
【0040】
結果
(1)果実汁及びバターミルクにおける増殖及び酸性化
乳酸菌から開始するGABAの合成のために基質として果実汁及びバターミルクを使用することに関連したバイオテクノロジー革命を考慮して、細菌の増殖及び酸性化の可能性を、2つの基質に対して初めに試験した。図1から分かるように、pHを約4.0に調製した蒸留水希釈果実汁(全糖量1%)でも、乳酸菌が中程度に増殖した。図1に示す培養に関する例は、30℃で48時間インキュベーションした後の0.89〜1.06のOD620値を示した。初期スクリーニングに用いた他の細菌も、上記の範囲のOD620値を示した。微生物の増殖に対して、3.11〜3.65の範囲の様々なpH値が一致した(図1)。果実汁の希釈を蒸留水ではなく酵母水(50:50の割合)で行った場合は、微生物の増殖が明確に上昇した(図2)。OD620の決定によって推定したように、細菌の増殖は、2.28〜2.48の範囲であることが示され、L.プランタルムDSM19463の場合は最大値が記録された。同じ結果が、バターミルクのみ又は酵母抽出物(0.5%)を添加したバターミルクでの乳酸菌の増殖の比較によっても得られた。特に、Lc.ラクティス亜種DSM19464は、バターミルクで最大の増殖を示した。したがって、この第1のステップの選択の終了時に、酵母水と蒸留水(50:50の割合)で希釈した果実汁(全糖量1%)及び酵母抽出物(0.5%)を添加したバターミルクを基質として用いて、L.プランタルムDSM19463及びLc.ラクティスDSM19464で実験を続けることにした。
【0041】
(2)ラクトバチルス・プランタルムDSM19463及びラクトコッカス・ラクティス亜種DSM19464からのGABAの合成
図3は、様々に混合した果実汁とバターミルクでのラクトバチルス・プランタルムDSM19463からのGABAの合成を示している。果実汁(pH約4.5)の使用に関するさらなる変更として、酵素GAD活性のために基質としてL−グルタミン酸ナトリウム(20mM)を添加した。バターミルクのpH値は、明らかに約5.9であった。増殖及び酸性化プロセスの場合に観察されたように、酵母水の添加により、GABAの最大の生産量が増加し、この生産量は、発酵の96時間後に約95g/l(約0.91mM)の値に固定された。バターミルクでのGABAの生産量は、たとえ酵母抽出物が存在しても著しく低いことが示された。
【0042】
対照的に、Lc.ラクティス亜種DSM19464は、約80g/l(0.77mM)の値に固定されるバターミルクでのGABAの最大の合成を示した。
【0043】
このように得た結果に基づいて、唯一の基質として果実汁を用いてL.プランタルムDSM19463からのGABAの生産を何とか最適化することにした。
【0044】
(3)果実汁でのL.プランタルムDSM19463からのGABAの合成の最適化
特に、発酵の変数:(i)pH、(ii)果実汁中の糖の初期濃度、(iii)酵素GADの補助因子としてのピリドキサール−5−リン酸の添加、(iv)「静止細胞」の使用、及び(v)L.プランタルムDSM19463とLc.ラクティス亜種DSM19464の組合せ使用について考慮した。
【0045】
インキュベーションの期間中、pH値を一定に維持するためにリン酸緩衝液を使用すると、高すぎるモル濃度を使用することになり、L.プランタルムDSM19463の増殖及び酵素活性が阻害される。インキュベーション期間中に、pH値が著しい酸性値に急速に達するのを回避するために、果実汁の初期pH値を、1N NaOHを添加して約6.0の値まで調整した。図4は、蒸留水及び酵母水で希釈され、L−グルタミン酸ナトリウム(20mM)が添加されたpH約6.0の果実汁(全糖量1%)でのL.プランタルムDSM19463からのGABAの酸性化、増殖、及び合成動態を示している。このような条件下で、約25mM乳酸の合成に一致する、ΔpH=2.12単位、Vmax=0.151dpH/分、及びλ=0.89hの値によって特徴付けられる強い酸性化プロセスを観察することが可能である。微生物の増殖は、このような酸性化動態に一致する。前記微生物の増殖は、A=1.79 log cfu ml−1、μmax=0.31Δlog cfu ml−1−1、及びλ=0.89hの値;特に、発酵の78時間後に約500mg/ml(約4.79mM)の値に固定されるGABAの合成の一定の上昇によって特徴付けられる。
【0046】
果実汁中の初期の糖の濃度を、0.3〜1.0%の範囲に変更した(図5)。GABAの合成は、アミノ酸の異化反応にリンクしているが、このような合成は、糖の濃度(0.3〜1.0%)に比例して増大することが分かった(376〜500mg/l)。1%を超える濃度では、GABAの合成が有意に増大しなかった。糖1%の初期濃度で存在する場合は、微量(<0.1%)のグルコース及びフルクトースが、発酵の72〜96時間後に果実汁で検出された。
【0047】
図6に強調するように、ピリドキサール−5−リン酸(0.1mM)を添加しても、ピリドキサール5−リン酸が存在しない場合に観察された値に対してGABAの合成が増大しなかった(図5)。明らかに、果実汁中のこのような化合物の濃度は、酵素GADの補助因子の機能を発達させるのに十分である。予想した通り、酸性化及び増殖動態は、ピリドキサール−5−リン酸の添加による影響を受けなかった。
【0048】
GABAの合成が、細菌の増殖に理論的にリンクしていない純粋な酵素反応であるため、「静止細胞」の仮想条件下、L.プランタルムDSM19463の高いバイオマス(10ufc/ml)での果実汁の接種の可能性を評価した。図7は、細胞が増殖しないこのような条件下では、GABAの合成が、細胞が増殖する条件下(図5)で観察された値よりも低いことを示している。このような条件下でのL.プランタルムDSM19463の細胞の使用では、インキュベーションの最初の数時間の間、GABAの生産が僅かしか上昇しなかった。
【0049】
ここでも、図5の発酵条件に従ってL.プランタルムから得られるGABAの生産性向上の目的で、このような細菌のLc.ラクティスDSM19464との組合せ接種を行うことを仮定した。また、このような実験条件下では、GABAの合成の増加が観察されなかった。
【0050】
(4)果実汁でのL.プランタルムDSM19463からのGABAの合成プロセスの特徴付け
GABAの生産性:gl−1−1、収率:ΔP/ΔS、及び比生産速度(1/x dP/dt)のような一部のバイオテクノロジーパラメータを、酵母水及び蒸留水で希釈した果実汁(50/50(全糖量1%)、pH約6.0、L−グルタミン酸ナトリウム(20mM)を添加)のL.プランタルムDSM19463の作用による発酵の際に決定した。図8から分かるように、5.74〜5.79gl−1−1に等しい高い生産性が、72〜78時間後にそれぞれ観察された。したがって、GABAの高い収率(0.206)及び比生産速度(0.673 1/x dP/dt)の値が、30℃での72時間の発酵の後に観察された。
【0051】
発酵の72時間後、培養ブロスを回収し、そのまま凍結乾燥させた。表2は、この調製物の機能性分子及び乳酸菌についての組成、具体的には、L.プランタルムDSM19463による発酵及びこれに続く凍結乾燥の後の果実汁に基づいた調製物の乾燥物質100g当たりの機能性分子の濃度を示している。
表2
【表2】

【0052】
表2から分かるように、調製物は、乾燥物質100g当たり約890mgの濃度のGABAを含み、この濃度は、特開2005−102559で報告されている濃度よりも8倍高い。調製物は、果実汁の希釈手段としての酵母水の使用に由来するビタミンB群、及び基本物質である果実汁に由来するミネラル及びポリフェノールなどの他の機能性分子も含む。最後に、L.プランタルムDSM19463 1g当たり約10個の細胞が調製物中に存在し、このような細胞は、予備試験から潜在的生菌活性を有する可能性が高い。
【0053】
(例2)
in vitroで再構築されたヒト表皮モデル及び次のin vitroで再構築された皮膚FTモデルにおける、本明細書でバイオマス又はビオ複合物と定義した、本発明に従ったGABAを豊富にした混合物の効率の評価
この研究は、アトピー性乾皮症、皮膚及び頭皮の脂漏性皮膚炎、バリア機能及びミクロフローラに対する作用の改善に本発明による混合物を利用可能性を調べるために行った。
【0054】
特に、本発明の目的は、まず第1に、in vitroで再構築されたヒト表皮に対して異なる接触時間で1回塗布した後の前記バイオマスの皮膚許容度の検査、並びにバイオマスの活力のある皮膚との相互作用の検査及び皮膚バリア機能に対する検査である。
【0055】
次いで、第2のアプローチでは、先の科学文献に従ったGABAの効率、並びに以下に示すパラメータに対する陽性コントロールとして用いたGABAに対するバイオマスの作用機序の確認である。
【0056】
実験計画
試験システム:ヒト再構築表皮
(1)用いる表皮モデルは、研究室用Skinethic(登録商標),Nice(F)によって作製し、ロットの平均厚みが120μ(角質層及び生きた表皮)である分化の17日目の0.5cmサイズで用いる。
【0057】
完全に分化した表皮は、空気と液体の境界にある多孔質ポリカーボネートから形成された不活性支持体上の化学的に限定された培地(MCDB153)(ウシ胎児血清を添加していない)にヒトケラチノサイトを入れて開始し、17日間培養して得る。この分化段階で、形態学的解析により、生きた多層表皮及び10以上の緻密な細胞層からなる角質層が示された。
【0058】
(2)「完全な厚みの皮膚モデル」(FT)(Phenion GmbH&Co.、Frankfurt am Main、Germany)は、同じドナーからのケラチノサイト及び線維芽細胞からなる多層ヒト皮膚モデルである。5週間の培養期間の後、「完全な厚みの皮膚モデル」が完全に形成され、表皮、基底膜、及び真皮を含んでいた。このモデルは、表皮レベル(サイトケラチン10、フィラグリン(philagrin)、トランスグルタミナーゼ、及びインボルクリン)、真皮−表皮接合部(ラミニン及びコラーゲンIV)、及び真皮レベル(エラスチン、フィブロネクチン)での分化の基本的なマーカーの発現について特徴付けられた。モデルFTの直径は1.3cmである。
【0059】
培地及び培養条件
組織及び培地をGMPに従って作製し、特定の標準規格に対するこれらの再現性を確保した。この組織及び培地の使用は、研究目的のため、及び製品又は化学物質のin vitroでの評価のためだけに許可されている。
【0060】
組織ロットを、HIVウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、サイトメガロウイルス、マイコプラズマが存在しないことを保証するために分析した。培地が滅菌されていることが保証された。培養の17日目に、RHEインサートを、24穴プレートの栄養アガロースゲルを含む穴に入れる。
【0061】
プレートが研究室に到着したらすぐに、層流フード下のアガロースゲルからRHEを分離する。インサートを、室温で維持培地SkinEthic 500μl又は1mlをそれぞれ含む6穴又は12穴のFalconプレートに迅速に入れる。インサートの下に泡ができないように注意を払う。組織を、飽和湿度の大気中で、5%COの存在下、37℃のインキュベータに入れる。土壌は、24時間間隔で交換し、そして試験開始の少なくとも2時間前にも毎回交換する。
【0062】
到着後、FT皮膚組織を輸送用の半個体土壌からすぐに取り出す。
【0063】
カバーのない3枚の小さいペトリ皿を、100mmペトリ皿に置き、ALI培地5mlを、上にFT組織を丁寧に配置する小さな濾紙ディスク及び2つの金属支持体と共に小さいペトリ皿のそれぞれの中に添加する。
【0064】
次いで、組織をインキュベータ(37℃、5%CO、湿度90%)に入れる。
製品
【表3】


コントロール試料
【表4】

【0065】
方法
TEERの測定
TEER(経上皮電気抵抗値)は、皮膚バリアの機能性の直接的な測定値であり、その厚み及びそれ自体の構造によって生じる組織の全体的な抵抗を反映する。TEERは、密着接合部のレベルでの細胞内接触の完全性、及び外部の化合物の浸透を妨げる二層脂質構造の完全性を反映する。
【0066】
TEERは、EUが認めた、終点を角質層とバリア機能の完全性とみなす腐食性を評価するためのラット皮膚電気抵抗試験(B40)の識別パラメータである。
【0067】
TEERは、経表皮水分蒸散量(trans−epidermal water loss)の測定値であるin vivoで測定されたTEWLに反比例し、TEWLが高ければ高いほど、バリア機能のダメージが大きく、TEERが高ければ高いほど、バリア機能のダメージが小さい。
【0068】
PBS 1mlをインサートに添加し、経上皮電気抵抗値をMillicell−ERS器具で測定した(0〜20kΩの範囲)。
【0069】
各組織に対して2回測定を行った。
【0070】
細胞傷害性試験:MTT試験
この方法により、細胞の活力の測定によって、製品によって引き起こされる細胞傷害作用を定量することができる。細胞傷害は、未処理試料のネガティブチェックに対する細胞の活力の低下を測定することによって定量する。この試験は、異なる処理時点で製品に接触した後にテトラゾリウム塩(MTT)とミトコンドリア酵素(コハク酸デヒドロゲナーゼ)との間で起こる代謝反応に基づいており、活力のある細胞のみが、テトラゾリム塩を不溶性誘導体(ホルマザン)に変換することができ、インサートを基にした紫の変色によって証明される反応である。
【0071】
塩の代謝は、ポリカーボネート支持体の上のゾーンにある上皮基底細胞で起こる。紫色の誘導体の抽出を、イソプロパノールで行い、分光光度法によって570nmで定量する。
材料
MTTテトラゾリウム塩(Sigma M2128)(Sigma L3771)
生理食塩水(FU)
イソプロパノール(Sigma)
維持培地(SkinEthic)
マイクロプレートオートリーダーM−200 INFINITE(TECAN)
化学天秤XS204 Mettler(0.00001)
【0072】
プロトコル
処理時間が過ぎたら、処理した表皮の表面をPBSで3回洗浄し、MTT(培地に0.5mg/ml)溶液300μlを含むプレートに移す。
【0073】
37℃で3時間インキュベートした後、光を当てて室温で2時間ホルマザンを抽出する。O.D.値を、分光光度法によって、ブランクとして用いたイソプロパノール対して570mで測定する。
【0074】
細胞傷害のパーセンテージを、ネガティブチェック試料のO.D.値に対して計算する。
【0075】
組織学的分析
RHEの組織学的分析に必要な組織学的調製は、外部の専門機関に委託する。
【0076】
すべての処理の終了時に、RHEをそのプラスチック支持体からランセットで取り出し、10%ホルマリンを用いて定着処理を行う。
【0077】
リアルタイムPCR
この試験では、以下の遺伝子を用いた。
【表5】


1.RNAの抽出
2.全RNAから開始するcDNAの合成
3.PCR
この技術は、蛍光信号を検出するためのTaqmanプローブを用い、極めて高感度であり、核酸の特定の配列の増幅及び定量による。PCR産物の検出をリアルタイムで行う。DNA、cDNA、又はRNAの定量は、初めにPCR産物を検出できたサイクルを決定して行うのであって、反応が飽和した時点ではない。PCR産物の定量は、各サイクルで測定した蛍光の検出によって行い、信号の強度は、増幅された産物の量に正比例する。
【0078】
RNAの抽出
材料
RNAqueousキット(AMBION)
【0079】
この方法の原理
RNAqueousは、フィルターを用いてRNAを単離する迅速な方法である。この方法は、濃縮塩溶液中の核酸に結合するガラス線維の能力に基づいている。
【0080】
RNAの濃度は、紫外線透過性である96穴プレートにおける200nm及び280nmでの吸光度の値を読み取り、式:A260希釈因子40=g RNA/mlを用いて決定した。
【0081】
RNAのcDNAへの逆転写
材料
高性能cDNA逆転写キット(Applied Biosystems)
【0082】
この方法の原理
この方法の原理は、存在するすべてのRNA分子の初めのへリックスの効率的な合成を確実にするランダムプライマーの使用に基づいている。
【0083】
cDNAを希釈し、−20℃で保管する。
【0084】
リアルタイムPCR
定量は、未処理のコントロール試料又は基準時点での試料とすることができる較正試料中の標的核酸配列に対する試料中の標的核酸配列の発現の変化を決定する。
【0085】
相対的定量化では、内在性コントロールを、cNA標的を標準化するために「活性基準」として用いる。
【0086】
材料
2X TaqMan Universal PCR Master Mix
20X TaqMan遺伝子発現アッセイ(Applied Biosystems)
GAPDH(内在性コントロール)Hs999999m1
標的遺伝子(4.4の表を参照)
「ヌクレアーゼフリー」水
方法
各生体試料を3回ずつ試験して評価する。以下のプログラムを行うためにサーモサイクラーApplied Biosystems7500を用いる。
【表6】

【0087】
器具からの一般データを内部SDS1.3.1.ソフトウエアによって記録し、相対的定量化の「生データ」として報告する。結果は、エクセルとしてエクスポートする。
【0088】
較正試料に対して1回で過剰に発現したか又は下方制御された場合は、値が有意であると認める。
【0089】
プロトコル
皮膚の許容性及びバリア機能の効率
刺激の可能性を、バイオマス50l(1%−3%−3%+保存剤0.8%)を4回(24時間−24時間−24時間の回復−48時間−72時間)迅速に塗布した後の表皮SkinEthicモデルに対して評価する。
【0090】
皮膚レベルでのバイオマスの生物作用の広範囲且つ予測的な評価がこれまで実現されておらず、皮膚科学の新しい研究方法となるため、3つの相補的なパラメータを、この種の評価を定義する目的で検討した。この評価により、特定のバイオマーカーによって、許容性のモニタリングと同時に文献に記載されている生物作用のモニタリングを行うことができる。
【0091】
皮膚の刺激の可能性を決定するMTT試験による細胞活力のモニタリング:このような場合、短期の迅速な塗布(24時間)後の結果だけではなく、バイオマスの潜在的な生物活性を考慮する長期の効果も調べたい。
【0092】
組織学的評価H&E、相補性、及び細胞傷害値の確認
抗菌作用、したがって生理的抗菌保護の向上の利益とは別に、βディフェンシンは、細胞増殖及び特定のサイトカインの産生を増加させるため、皮膚レベルで先天免疫の広範囲の制御の役割を果たす。
【0093】
GABAに対するFT皮膚モデルにおける、酸化還元平衡時のヒアルロン酸の合成及び最終分化のマーカー(フィラグリン及びインボルクリン)に対する作用
製品(1%バイオマス及びGABA)50lを組織の表面に塗布し、3日間=72時間、毎日塗布を繰り返す。処理の終了時に、組織のRT−PCRを行う。
【0094】
負の刺激の非存在下での一定の「生理学的」状態での組織に対するこの種の処理により、成分に対する繰り返しの曝露及びその作用機序の生物学的効果が真皮レベルで証明される。
【0095】
用量1mmに塗布する正のGABAコントロールは、その有効性が、ヒアルロン酸の合成と親水性非酵素的抗酸化剤であるGSHの産生の増加による酸化ストレスに対する保護の両方についての文献に記載されているため選択した。
【0096】
データの取得
器具ABI PRISM7500によって得た一般データを内部SDS1.3.1.ソフトウエアによって記録し、相対的定量化の「生データ」として報告する。結果は、エクセルとしてエクスポートする。
【0097】
較正試料に対して1回で過剰に発現したか又は下方制御された場合は、値が有意であると認める。
【0098】
組織学的試料(スライドガラス)を顕微鏡Leica DM2500によって分析し、そのイメージを保存し、LEICA APPLICATION SUITE(LAS)ソフトウエアによって処理する。
【0099】
組織の形態学的変化を未処理の組織と比較する。
【0100】
結果
皮膚の許容性
MTT試験の結果を、負のコントロール試料に対して計算した細胞活力(%)として表した。定められたあらゆる時点でのMTT試験の結果は、細胞傷害活性が、実験の化合物、すなわちLB.プランタルムからのバイオマスに一切起因しないことを示している。
【0101】
抗菌防腐剤(イソシド(isocide)0.8%)の存在は、細胞傷害の結果に影響を与えなかった。
【0102】
1%及び3%の両方のバイオマスでの処理後の細胞活力が、試験の内因性の変動の値(±15%)を超えて増加し(24時間+回復及び48時間の時)、負のコントロール試料に起因する100%に対して40%の増加であることに留意されたい。
【0103】
このような結果は、24時間+24時間の回復の時が遅延性の毒性の影響を観察できるため、24時間+24時間の回復が特に厳密な処理であるという事実も考慮する高い価値を有する。
【0104】
組織レベルでの他の毒性成分の非存在下では、このような増加は、バイオマスでの処理によって誘導された細胞増殖の刺激に相関しうる。
【0105】
24時間の処理
1%では、バイオマスで処理した組織は、負のコントロール試料に対して有意な変化が一切観察されない。防腐剤の存在下、3%では、一部の基底細胞において、凝集性の喪失及び細胞質の僅かな膨張(海綿状態)が観察される。
【0106】
24時間の処理+24時間の回復
24時間のコントロール試料に対して有意な変化が一切観察されない。
【0107】
48時間の処理
コントロール試料に対して有意な形態学的変化が一切観察されず、1%及び3%の両方で表皮の厚みが増大する。
【0108】
防腐剤の存在下では、僅かに厚くなった角質層が観察され、表面の小さな剥がれ(剥離層)がある。
【0109】
72時間の処理
1%及び3%の両方で、コントロール試料に対して有意でない生体表皮の厚みの減少が観察されたが、これは、組織の生理的発達に関連している。
【0110】
RT−PCR
試験した様々な濃度でのバイオマスでの処理の後、既に24時間後に、βディフェンシンの発現に対する刺激作用が観察され、この刺激作用が72時間後まで低下することなく続き、これはどう考えてもコントロール試料(PBS)の2倍の値である。この結果は、生理的抗菌保護の向上に対する有意な刺激に一致する。
【0111】
抗菌防腐剤の存在は、観察パラメータ全体に影響を与え、絶対値が低下するが、バイオマスの挙動は変化せず、βディフェンシン2の発現が誘発される。
【0112】
TEERの測定
TEERの値は、2つの測定が行われた2つの組織の平均を指す。
【0113】
TEERの値に関しては、角質層及び一体的な密着接合部のレベルでの緻密な層状構造の存在、及び有効なバリア機能を全体的に画定する表皮の厚みが関係している。各組織は、t=0及びt=有限時間での測定値をもつ適切な基準である。
【0114】
24時間+24時間の回復では、処理した組織及びPBS=ロットの未処理コントロール試料の両方において、TEERの無意味な上昇が観察された。
【0115】
48時間の結果は、特に興味深く、最も興味深い組織構造は、バイオマスで処理した後(の表皮の厚みの増大)に一致する。
【0116】
1%の濃度で、TEERの有意な上昇が観察された。3%でも起こるが、このTEER値は、標準偏差が大きいため急激ではない。
【0117】
この上昇は、表皮の厚みの増大及び密着接合部のレベルでの角質層の良好な緻密性及び完全性の両方の直接的な結果である。
【0118】
72時間では、パラメータに対する影響がないことが証明され、この傾向が、処理後のTEERの減少につながり、前記減少が、組織構造で観察された厚みの減少に部分的に相関している。
【0119】
グルタミン酸−システイニルリガーゼ
GCLCは、GSH合成の酵素前駆体である。酸化還元平衡が酸化防御の第1の表皮機構であるため、GCLCの発現の研究を、塗布(8H)後の早期の時点から開始した。
【0120】
選択した実験条件下では、一切の遺伝子調節が観察されなかった。
【0121】
グルタチオンシンテターゼ
GSSは、主に表皮レベルに存在する抗酸化性で親水性の非酵素的なグルタチオンの合成を制限する酵素である。
【0122】
遺伝子調節が、GABA及びバイオマスの両方において、24時間での傾向として観察されたが、発現値は極めて低く有意ではない。いずれにしても、早期の時点での有意な低発現(sub−expression)が、真皮又は表皮レベルでの製品とその生理作用の適合性についての間接的な正の信号であり、外部刺激(例えば、誘導された酸化ストレス)の非存在下で、GSH合成の増加を所望しない生理的酸化還元平衡が維持されることに留意することが重要である。
【0123】
ヒアルロン酸シンセターゼ
HASは、ヒアルロン酸の合成を担う酵素である。前記合成は、真皮レベルで線維芽細胞によって行われる。負の刺激の非存在下での線維芽細胞活性の刺激が、健常な皮膚に対する期待する効率及び日常使用にとって重要であるという事実に留意することが重要である。
【0124】
この発現は、文献に開示されているように、24時間及び48時間でGABAの作用によって上昇し、コントロール試料に対する発現値が3倍である24時間のバイオマスの処理によってより明確に裏づけられた(図9)。
【0125】
大きい標準偏差では、得たデータをチェックするためにさらなる試験が必要である。
【0126】
フィラグリン
400kDAのフィラグリンの前駆体であるプロフィラグリン(prophilagrin)は、ヒト表皮におけるケラトアヒアリン(keratoahyalin)顆粒の主な構成成分である。
【0127】
角質層の最終分化の後、プロフィラグリンは、37kDのタンパク質であるフィラグリンに変換される。
【0128】
フィラグリンにより、ケラチンが凝集及び緻密化して細胞骨格になり、人体の最外部である角質総包(horny invlucre)が形成される。
【0129】
表皮の分化のマーカーであるフィラグリンは、バリア機能の重要なタンパク質であり、NMF形成の基本要素であるとみなされる。
【0130】
このバリアが分布すると、カルシウムが減少し、フィラグリンがmRNAレベルで減少する。
【0131】
GABA及びバイオマスの両方の処理により、既に24時間でGABAの存在の証拠となる遺伝子の過剰発現が誘導され、72時間からGABA及びバイオマスの両方でこの過剰発現が著しくなる。バイオマスは、GABAよりも高い遺伝子発現を誘導する(図10)。
【0132】
インボルクリン
68kDの可溶性の細胞質タンパク質であって角膜実質細胞の最終分化のマーカー
インボルクリンは、ケラチノサイトのトランスグルタミナーゼの基質であり、表皮の角質総包の形成のための「足場」として機能する。
【0133】
この遺伝子発現は、角質層で始まり、顆粒層で維持される。
【0134】
バリアが分布すると、カルシウムが減少し、インボルクリンがmRNAレベルで減少する。
【0135】
インボルクリンも同様に、脂質(セラミド、コレステロール、及び脂肪酸)の「足場」として機能する。
【0136】
選択した実験条件下では、一般に、遺伝子の有意な調節は全く起こらない(図11)。
【0137】
1%バイオマスでの表皮モデル(RHE)に基づいて、フィラグリン及びインボルクリンの発現にも関連してFT−皮膚で観察されたことを確認し、この結果、フィラグリンの有意な調節及びインボルクリンの僅かな調節が確認された。
【0138】
結論
この研究は、表皮及び真皮レベルでの異なる皮膚機構でラクトバチルス・プランタルムからバイオマスを効率的に提供する目的が達成されたことを示した。
【0139】
RHEに対する刺激の可能性
1%及び3%で塗布した化合物バイオマスの24時間から72時間まで各時点での許容性が、生体組織のレベルで、毒性の兆候が一切なく、細胞(細胞傷害)及び形態学的(H&E)パラメータによって完全に証明された。
【0140】
バイオマスは、負のコントロール試料よりも高い細胞活力のデータ、生体表皮の厚みの増大、及び抗菌防御に対する刺激の生理反応も示唆するβディフェンシン2の発現に基づいて、1%及び3%の両方で細胞増殖の刺激を誘発することが分かった。
【0141】
RHEのバリア機能に対する作用
この結果から、TEERの測定値が48時間でのTEERの有意な増大を示し、1%及び3%の両方のバイオマスでの処理後に最も興味深い組織の応答(表皮の厚みの増大)があったため、認知されているGABAの機能が確認された。この結果、表皮の厚みの増大及び密着接合部レベルでの角質層の良好な緻密化及び一体化の両方が直接起こる。
【0142】
γアミノ酪酸(GABA)に対するFT−皮膚モデルでのヒアルロン酸の合成及び酸化還元平衡に対する作用
1%バイオマスを3日間繰り返し塗布した後、GABAで得られた値よりも高い量のヒアルロン酸シンセターゼの有意な過剰発現が観察された。このデータの値は、GABAについての文献を裏づけ、局所的に塗布されると線維芽細胞がヒアルロン酸の新合成に早期に一定の刺激作用を与える製品としてバイオマスを定義するという事実につながる。
【0143】
ヒアルロン酸の合成に対する生理的刺激作用は、以下に示す皮膚科学的な結果を招くと仮定した。
・深いレベルで水を保持する皮膚線維の高い能力に相関して真皮が大きく膨張すること
・弾性繊維及びコラーゲン繊維が、若くて弾性のある皮膚(すなわち、深部に水分が多い皮膚)が特徴であるマトリックス内に覆われているため、時間が経過しても皮膚の弾性が良好であること
【0144】
最終分化のマーカー(FT−皮膚モデルでモニタリングしたフィラグリン及びインボルクリン)に対する作用
3日間繰り返し塗布した後、バイオマス及びGABAの両方によって誘導されたフィラグリンの有意な発現の上昇が観察されたが、インボルクリンは調節されないことが示された。このような結果は、顆粒層レベルで合成された天然保湿因子NMFの産生機構の再開におけるバイオマスの効果を証明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス・プランタルムDSM19463若しくはラクトコッカス・ラクティス亜種DSM19464又はこれらの関連種。
【請求項2】
γアミノ酪酸を豊富にした生菌混合物又はγアミノ酪酸の調製のための、ラクトバチルス・プランタルムDSM19463若しくはラクトコッカス・ラクティス亜種DSM19464又はこれらの関連種の使用。
【請求項3】
γアミノ酪酸の生産又はγアミノ酪酸を豊富にした生菌混合物の調製のための方法であって、以下のステップ:
a)ラクトバチルス・プランタルムDSM19463又はラクトコッカス・ラクティス亜種DSM19464の、30℃で24時間の培地での増殖、
b)約10ufc/gの細胞密度に従った、果実汁又はバターミルクの間で選択した20mM L−グルタミン酸ナトリウムを添加した基質のアリコート中での、ステップa)で得たバイオマスの再懸濁、
c)1〜4%での基質の接種であって、30〜33℃の温度、好ましくは30℃での72〜96発酵時間、好ましくは72〜78発酵時間での接種、
を含む方法。
【請求項4】
ステップa)の培地がMRS又はm17である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
果実汁を酵母水で希釈するか、又は果実汁に酵母抽出物を添加する、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
果実汁を、50:50の酵母水及び蒸留水で希釈し、1N NaOHによってpH値6.0〜6.5、好ましくはpH6.0に脱酸する、請求項3から5までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
バターミルクに酵母抽出物(約0.5%)を添加する、請求項3から6までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
果実汁又はバターミルクにピリドキサール−5−リン酸を添加する、請求項3から7までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ステップc)で得た発酵基質を乾燥又は凍結乾燥させるステップd)をさらに含む、請求項3から7までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
γアミノ酪酸を抽出するステップd1)をさらに含む、請求項3から7までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項3から9までのいずれか一項に記載の方法によってγアミノ酪酸を豊富にした混合物。
【請求項12】
乾燥物質100g当たり少なくとも890mgのγアミノ酪酸を含む、請求項11に記載のγアミノ酪酸を豊富にした混合物。
【請求項13】
ビタミン、ミネラル、ポリフェノール、及び生きた活力のある乳酸菌をさらに含む、請求項11又は12に記載のγアミノ酪酸を豊富にした混合物。
【請求項14】
1つ又は複数の薬学的又は化粧用に許容される賦形剤及び/又はアジュバントと共に、活性成分としての、請求項11から13までのいずれか一項に記載のγアミノ酪酸を豊富にした混合物を含む医薬又は化粧用組成物。
【請求項15】
請求項11から13までのいずれか一項に記載のγアミノ酪酸を豊富にした混合物の化粧品としての使用。
【請求項16】
請求項11から13までのいずれか一項に記載のγアミノ酪酸を豊富にした又は請求項14に記載の組成物を有する混合物の、皮膚科で使用する薬物の調製のための使用。
【請求項17】
腎障害の治療に使用するための、請求項14に記載の医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2010−533487(P2010−533487A)
【公表日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−516657(P2010−516657)
【出願日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際出願番号】PCT/IT2008/000481
【国際公開番号】WO2009/011008
【国際公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(309020242)ジュリアーニ ソシエタ ペル アチオニ (2)
【Fターム(参考)】