追記型光記録媒体及びその記録方法
【課題】青色レーザ波長領域でも精度の良い記録マークを形成でき、良好な記録品質で情報を記録できる無機記録層を備えた追記型光記録媒体、特に、無機記録層として酸化ビスマスを主成分とする記録層を備えた追記型光記録媒体について、更なる記録特性と保存信頼性の向上を図ること、及び、該光記録媒体、特に、記録極性が「High to Low」である光記録媒体に対しても適用可能な記録方法の提供。
【解決手段】基板上に、少なくとも、無機材料からなる記録層と反射層が形成されており、青色レーザ光の照射により該記録層に非可逆的な変化を生じさせて情報の記録を行なうことができる追記型光記録媒体。
【解決手段】基板上に、少なくとも、無機材料からなる記録層と反射層が形成されており、青色レーザ光の照射により該記録層に非可逆的な変化を生じさせて情報の記録を行なうことができる追記型光記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、追記型光記録媒体、特に青色レーザ波長領域で高密度の記録が可能な追記型光記録媒体、及び、該光記録媒体への記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、普及が目覚しいDVD(Digital Versatile Disc)記録媒体の規格では、レーザ波長(λ)650nm(業務用のオーサリング用途の追記型では635nm)、対物レンズの開口数(NA)0.6、記録層の形成されている基板1枚の厚さ0.6mmであり、記録層一層当たりの記憶容量が4.7GBと定められている。
この記憶容量で、殆どの映画一本分を収容できる133分間の映像、音声、及び字幕を再生することが可能である。
一方、高精細(HD:High Definition)動画像を2時間再生又は記録再生するための開発も進められており、そのために必要な記憶容量は、ほぼ15GBと見積もられ、レーザ波長(λ)405nm、対物レンズの開口数(NA)0.65、記録層の形成されている基板1枚の厚さ0.6mmであり、記録層一層当たりの記憶容量が15GB(HD DVD−Rの場合)と定められたHD DVD規格が制定されている。
このHD DVD−R規格では、レーザ光源の短波長化による高密度化の他に、記録マーク密度の向上を可能にする信号処理技術(PRML技術)が採用されている。
【0003】
このPRMLは、集光ビーム径に比して記録マーク長が短くなったときに起こる符号間干渉に強い読み出し方法であり、従来、DVD記録媒体から信号を再生する際には、閾値電圧と読み出し電圧値とを比較するレベルスライス法という手法を用いてきたが、PR(Partial Response:パーシャルレスポンス)法とML(Maximum Likelihood;最尤)復号法とを組み合わせたPRML法を用いると、記録密度が高い場合でもレベルスライス法より安定した再生を行なうことができる。
また一方で、高密度化を図るために、記録再生波長を405nm程度まで短くし、かつ、対物レンズの開口数を0.85程度まで大きくして、ディスク構造に0.1mmのカバー層方式を採用することにより、DVDの4倍以上となる25GB/面の記録容量を実現したBlu−ray規格が制定されている。
これらの青色レーザ波長領域のレーザ光で記録再生を行なう追記型光記録媒体(HD DVD規格における追記型光記録媒体であるHD DVD−Rや、Blu−ray規格における追記型光記録媒体であるBD−R)を実現させるために、CD−RやDVD±Rとは異なる記録材料が開発されている。
上記青色レーザ波長領域のレーザ光とは、405nm±15nm(390nm〜420nm)程度の波長のレーザ光を示す。実際に規格で定められているレーザ光の波長は、Blu−ray disc規格でも、HD DVD規格でも、その範囲内となる405nm±5nmである。
【0004】
従来の追記型光記録媒体では、有機材料からなる記録層にレーザ光を照射し、主に有機材料の分解・変質による屈折率変化を生じさせることで記録ピットを形成させており、記録層に用いられる有機材料の光学定数や分解挙動が、良好な記録ピットを形成させるための重要な要素となっている。
したがって、青色レーザ対応の追記型光記録媒体の記録層に用いる有機材料としては、青色レーザ波長に対する光学的性質や分解挙動の適切な材料を選択する必要がある。
即ち、High to Low型(記録によって反射率が低下する)の追記型光記録媒体の場合、未記録時の反射率を高め、またレーザの照射によって有機材料が分解し大きな屈折率変化が生じるようにするため(これによって大きな変調度が得られる)、記録再生波長は大きな吸収帯の長波長側の裾に位置するように選択される。何故ならば、有機材料の大きな吸収帯の長波長側の裾は、適度な吸収係数を有し且つ大きな屈折率が得られる波長領域となるためである。
【0005】
しかしながら、青色レーザ波長に対する光学的性質が従来並み(CD−RやDVD±R並)の値を有する材料は見出されていない。何故ならば、有機材料の吸収帯を青色レーザ波長近傍に持たせるためには分子骨格を小さくするか或いは共役系を短くする必要があるが、そうすると吸収係数の低下、即ち屈折率の低下を招くためである。
つまり、青色レーザ波長近傍に吸収帯を持つ有機材料は多数存在し、吸収係数を制御することは可能であるが、大きな屈折率を持たないため、High to Low型で、CD−RやDVD±Rのような非常に優れた記録再生特性を実現することが困難である。
そこで近年、青色レーザ対応の追記型光記録媒体に有機材料を利用するため、記録極性を「Low to High」、いわゆる「未記録部の反射率が記録マーク部よりも低くなるもの」とする傾向が見られる。
【0006】
しかし、記録装置から見た場合、再生専用の光記録媒体(ROM)や従来から使用されている光記録媒体との互換性がなくなる等の観点から、記録極性は「High to Low」である方がより好ましいことは否めない。
そのため本発明者らは、有機材料に代えて無機材料を記録層として使用することを提案している。例えば、本発明者らが提案した、青色レーザ波長以下でも高密度の記録が可能な追記型光記録媒体として、特許文献1〜4及び本出願人の先願に係る、特願2005−064328、特願2005−071626等がある。
これら特許文献1〜4、及び先願では、金属又は半金属の酸化物、とりわけビスマス酸化物を主成分とする記録層、或いは、酸素を除く構成元素の主成分がビスマスであり且つ酸化ビスマスを含有する記録層の有用性を提案している。
【0007】
ところで、光記録媒体では一般に高反射率化が容易なことや熱伝導率の特性から反射層にAgを用いることが多い。しかし、Agは安定性に問題があり、特に反射層に接する層に硫黄(S)を含む場合には、Agの硫化が起き特性が劣化し易いという問題がある。
その対策として、特許文献5などには、保護層と反射層の間に界面層を設ける方法が開示されている。また、特許文献6などには、添加元素を加えてAg合金とすることにより安定性を向上させる方法が開示されている。
しかし、界面層を設ける特許文献5の方法は、層の数が増えることにより製造工程が増えるなどの問題があり、特許文献6のAg合金を用いる方法では、十分に劣化を防止することができない。
【0008】
本発明者らが提案している酸素を除く構成元素の主成分がビスマスであり且つ酸化ビスマスを含有する記録層を有する追記型光記録媒体の反射層としてAg又はAg合金(Ag系反射層)を利用することは可能であるが、上述の層数増加によるコスト増、安定性の問題以外に、反射率が高くなりすぎて記録感度が悪化するという問題がある。
例えば、酸素を除く構成元素の主成分がビスマスであり、かつ酸化ビスマスを含有する記録層を用いてHD DVD−R SL(Single Layer)を作製した場合(記録極性はHigh to Lowの場合)、最良なPRSNR(パーシャル・レスポンス・ツー・ノイズ・レシオ)、エラー率が得られる膜厚設定が行われた時のデータ部の反射率は25%程度(規格値は14〜28%)、システムリードインの反射率は30〜32%(規格値は16〜32%)となり、1Xの記録感度も9.0〜10.0mWとなっており(規格値は10.0mW以下)、一応規格値を満足することは可能であるが、更なる高感度化が望まれる。
【0009】
同様に、酸素を除く構成元素の主成分がビスマスであり且つ酸化ビスマスを含有する記録層を用いてBD−R SL(Single Layer)を作製した場合(記録極性はHigh to Lowの場合)、最良なジッタ、エラー率が得られる膜厚設定が行われた時のデータ部の反射率は25%程度(規格値は11〜24%)となり、1Xの記録感度も6.0mW程度となっており(規格値は6.0mW以下)、一応規格値を満足することは可能であるが、更なる高感度化が望まれる。
このように、酸素を除く構成元素の主成分がビスマスであり且つ酸化ビスマスを含有する記録層を有する追記型光記録媒体において、反射率が高くなりすぎる原因は、該記録層が、青色レーザ波長においても比較的高い透過率を有するためである。
勿論、酸素を除く構成元素の主成分がビスマスであり且つ酸化ビスマスを含有する記録層や、この記録層に隣接する層の膜厚を調整すれば、追記型光記録媒体としての反射率を適当な範囲に抑制し、感度を改善することは可能であるが、感度中心の層構成、膜厚設定を行なうと、一般的にPRSNR、ジッタ、エラー率等の記録特性が悪化する傾向が見られる。
【0010】
そこで、本発明者らは高い生産性、保存信頼性を有し、かつ高感度化を実現させるために、酸素を除く構成元素の主成分がビスマスであり且つ酸化ビスマスを含有する記録層を有する追記型光記録媒体用の反射層材料として、従来のAg系反射層に替えてAl−Ti合金(Ti0.5原子%)を適用した。
Tiの添加量を0.5原子%とした理由は、従来、反射層に要求される物性は高反射率と高熱伝導率であり、Alの反射率特性と熱伝導特性を損なわないようにするためには、一般的に添加元素はAlに対し1重量%程度以下にするというのが常識となっているためである(添加元素がTiの場合、Alに対する添加量1重量%は0.58原子%に相当)。
【0011】
酸素を除く構成元素の主成分がビスマスであり且つ酸化ビスマスを含有する記録層を有する追記型光記録媒体用の反射層材料としてAl−Ti合金(Ti0.5原子%)を適用した結果、Ag系反射層に比べて追記型光記録媒体としての反射率を概ね80%以下に抑制することができ、例えば、酸素を除く構成元素の主成分がビスマスであり且つ酸化ビスマスを含有する記録層を適用したHD DVD−R SLの媒体では、記録感度は8.0mW程度となり、記録感度の改善が図られることを確認した。
また、酸素を除く構成元素の主成分がビスマスであり且つ酸化ビスマスを含有する記録層とAl−Ti合金(Ti0.5原子%)からなる反射層の間にZnS−SiO2層を設けた層構成を採用した場合でも、Ag系反射層材料で見られたような硫化による欠陥の増加は認められず、保存信頼性の改善が図られることを確認した。
【0012】
また、追記型光記録媒体に関しては各種の技術が提案されている。例えば、有機色素記録層を有する光記録媒体に多段階のマルチレベルの記録を行ない、良好な信号品質を得る光記録方法が提案されている(例えば、特許文献7、8参照)。
しかしながら、有機色素を記録層とする場合、青色レーザ波長領域において光学特性(反射率や変調度など)が十分でなく、特に、記録極性が「High to Low」である青色レーザ対応の追記型光記録媒体への適用は難しい。
また、記録マークを形成するときには、前後の記録マークやスペースの種類による熱分布の変化を低減させるために、記録ストラテジと呼ばれる発光パワーのパルス形状等に関する規則(方式)に基づいて、発光パワーのパルス形状等を設定している。記録ストラテジは記録品質に大きな影響を与えるため、記録ストラテジの最適化が重要となる。
例えば、再生時の信号品質の劣化を防止するため、記録層(色素使用)にレーザビームの照射時間を多段階に切り替えて照射し、データをマルチレベルで記録する記録方法が提案されている(例えば、特許文献9〜11参照)。
しかしながら、上記提案の記録ストラテジは色素使用の記録層において適合するものであり、本発明の対象となる青色レーザ対応の酸化ビスマスを主成分とする記録層の場合には良好な記録マーク形成が難しい。
【0013】
そのため、本出願人は先に、基板上に少なくともR及びOの各元素を含有する薄膜と、有機材料薄膜を有する追記型光記録媒体及びその記録再生方法について提案した(例えば特許文献2、3参照)。これらの光記録媒体は、青色レーザ波長領域以下の短波長で多値記録が可能なものである。なお、これらの技術に関しては、非特許文献1、2にも報告されている。
しかし、提案の記録再生方法における記録ストラテジでは記録マーク形成において記録品質が必ずしも十分とは云えず、更なる向上が求められている。
また、良好な記録品質での記録を行なうためには、記録ストラテジによる記録マーク形成方法の制御の他に、記録時のトラッキングサーボの安定性を確保することも重要な要素となる。
しかしながら、これらの従来技術では、トラッキングサーボの安定性の向上、ウォブルを利用したアドレス情報の再生安定性の向上、及び、システムリードイン領域にプリピットにより記録した情報の再生安定性の向上を図ろうとすると、記録特性が悪くなってしまうという問題があることが分った。
【0014】
【特許文献1】特開2003−48375号公報
【特許文献2】特開2005−108396号公報
【特許文献3】特開2005−161831号公報
【特許文献4】特開2006−248177号公報
【特許文献5】特開2004−327000号公報
【特許文献6】特開2004−339585号公報
【特許文献7】特開2001−184647号公報
【特許文献8】特開2002−25114号公報
【特許文献9】特開2003−151137号公報
【特許文献10】特開2003−141725号公報
【特許文献11】特開2003−132536号公報
【非特許文献1】Write−Once Disk with BiFeO Thin Films for Multilevel Optical Recording,JJAP,Vol.43,No.7B,2004,pp.4972
【非特許文献2】Write−Once Disk with BiFeO Thin Films for Multilevel Optical Recording,JJAP,Vol.44,No.5B,2005,pp.3643−3644
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記従来技術に鑑みてなされたものであり、青色レーザ波長領域でも精度の良い記録マークを形成でき、良好な記録品質で情報を記録できる無機記録層を備えた追記型光記録媒体、特に、無機記録層として酸化ビスマスを主成分とする記録層を備えた追記型光記録媒体について、更なる記録特性と保存信頼性の向上を図ること、及び、該光記録媒体、特に、記録極性が「High to Low」である光記録媒体に対しても適用可能な記録方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題は、次の1)〜22)の発明によって解決される。
1) 基板上に、少なくとも、無機材料からなる記録層と反射層が形成されており、青色レーザ光の照射により該記録層に非可逆的な変化を生じさせて情報の記録を行なうことができることを特徴とする追記型光記録媒体。
2) 青色レーザ光の波長が390〜420nmであることを特徴とする1)記載の追記型光記録媒体。
3) 基板が案内溝を有し、該基板上に、少なくとも、記録層、上部保護層、反射層をこの順に有することを特徴とする1)又は2)記載の追記型光記録媒体。
4) 基板が案内溝を有し、該基板上に、少なくとも、下部保護層、記録層、上部保護層、反射層をこの順に有することを特徴とする1)又は2)記載の追記型光記録媒体。
5) 基板が案内溝を有し、該基板上に、少なくとも、反射層、上部保護層、記録層、カバー層をこの順に有することを特徴とする1)又は2)記載の追記型光記録媒体。
6) 基板が案内溝を有し、該基板上に、少なくとも、反射層、上部保護層、記録層、下部保護層、カバー層をこの順に有することを特徴とする1)又は2)記載の追記型光記録媒体。
7) 下部保護層が、酸化物、窒化物、炭化物、硫化物、ホウ化物、ケイ化物、炭素の単体、又はそれらの混合物を主成分とする無機材料から形成されており、膜厚が20〜90nmであることを特徴とする4)又は6)記載の追記型光記録媒体。
8) 下部保護層及び/又は上部保護層が、ZnS−SiO2を主成分とする材料からなることを特徴とする3)〜7)の何れかに記載の追記型光記録媒体。
9) 基板がウォブル付き案内溝を有し、該案内溝の溝幅が半値幅で170〜230nm、溝深さが23〜33nmであることを特徴とする1)〜8)の何れかに記載の追記型光記録媒体。
10) ウォブル付き案内溝のトラックピッチが0.4±0.02μmであることを特徴とする9)記載の追記型光記録媒体。
11) ウォブルの振幅量が16±2nmであることを特徴とする9)又は10)記載の追記型光記録媒体。
12) 酸素を除く構成元素の主成分がビスマスであり且つ酸化ビスマスを含有する記録層と、Alに対して、下記元素群(I)から選択された少なくとも1種の元素を、合計で0.6〜7.0原子%含有させた反射層を有することを特徴とする1)〜11)の何れかに記載の追記型光記録媒体。
元素群(I):Mg、Pd、Pt、Au、Zn、Ga、In、Sn、Sb、Be、Ru、Rh、Os、Ir、Cu、Ge、Y、La、Ce、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ti、Zr、Hf、Si、Fe、Mn、Cr、V、Ni、Bi、Ag
13) 元素群(I)から選択された少なくとも1種の元素の合計が1.0〜5.0原子%であることを特徴とする12)記載の追記型光記録媒体。
14) 記録層がビスマス、酸素、及び下記元素群(II)から選択された少なくとも1種の元素Xを含有することを特徴とする1)〜13)の何れかに記載の追記型光記録媒体。
元素群(II):B、Si、P、Fe、Co、Ni、Cu、Ga、Ge、As、Se、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Sn、Sb、Te、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、Pb、Po、At、Zn、Cd、In
15) 光記録媒体に対し、予熱工程とそれに続く加熱工程とを有する記録ストラテジにより記録マークを形成し、予熱工程では、再生パワー(Pr)より強く且つ記録パワー(Pw)の70%以下である予熱パワー(Pb)の予熱パルスを照射し、加熱工程では、記録パワー(Pw)の記録パルスを照射することを特徴とする1)〜14)の何れかに記載の追記型光記録媒体への記録方法。
16) 光記録媒体に対し、予熱工程とそれに続く加熱工程及び冷却工程を有する記録ストラテジにより記録マークを形成し、予熱工程では、再生パワー(Pr)より強く且つ記録パワー(Pw)の70%以下である予熱パワー(Pb)の予熱パルスを照射し、加熱工程では、記録パワー(Pw)の記録パルスを照射し、冷却工程では、予熱パワー(Pb)より弱い冷却パワー(Pc)の冷却パルスを照射することを特徴とする1)〜14)の何れかに記載の追記型光記録媒体への記録方法。
17) 予熱パルスが、互いに異なるパワーを有する2種類以上のパルスを含むことを特徴とする15)又は16)記載の記録方法。
18) 記録パルスが単パルスであることを特徴とする15)〜17)の何れかに記載の記録方法。
19) 単パルスの記録パワーを、形成する記録マークの長さに応じて2種類以上に変化させることを特徴とする18)記載の記録方法。
20) 記録パルスが、2種類以上のパワーの組み合わせからなるパルスであることを特徴とする15)〜17)の何れかに記載の記録方法。
21) 4T(T:チャネルクロック周期)以上の記録マークを形成する場合に、前記加熱工程において、前記記録パワー(Pw)よりも小さく、かつ前記予熱パワー(Pb)よりも大きいパワー(Pm)でレーザ光を照射する工程を更に備えることを特徴とする16)記載の記録方法。
22) 2T(T:チャネルクロック周期)の記録マークを形成する場合に、前記加熱工程に続いて、前記冷却工程を実行することを特徴とする16)記載の記録方法。
【0017】
以下、本発明の実施の形態について詳しく説明するが、本発明はこれらの実施の形態に限定されるものではない。
本発明の光記録媒体は、下記のような構成とすることが好ましいが、これに限定される訳ではない。
(a) 基板(光透過層)/記録層/上部保護層/反射層
(b) 基板(光透過層)/下部保護層/記録層/上部保護層/反射層
(c) カバー層(光透過層)/記録層/上部保護層/反射層/基板
(d) カバー層(光透過層)/下部保護層/記録層/上部保護層/反射層/基板
更に、上記構造を基本として、多層化されても構わない。例えば、(a)の構成を基本として二層化される場合には、次のような層構成が挙げられる。
(e) 基板(光透過層)/記録層/上部保護層/反射層(半透過層)/接着層/記録層/上部保護層/反射層/基板
【0018】
この基本構成に対し、必要に応じて、反射層上にオーバーコート層(耐環境保護層)を設けたり、反射層にAg系金属材料を使用する場合には上部保護層との間に中間層(界面層、バリア層、硫化防止層、酸化防止層とも言う)を設けたり、基板又はカバー層の表面側(記録層又は下部保護層と接している面の反対側)にハードコート層を設けたり、オーバーコート層上に印刷層を設けたりしても良い。また、上記の(a)、(b)のような単板ディスクを、接着層を介して貼り合わせた構造としてもよい。その際、オーバーコート層は形成せず、その機能を接着層で兼ねても良い。貼り合わせる反対面のディスクは、透明基板のみでも、同様の単板ディスクでも、単板ディスクの層構成を逆に積層したもの、即ち、基本構成を基板/反射層/保護層/記録層/保護層とした構成の単板ディスクでも良い。また、単板ディスクに印刷層を形成せずに貼り合わせ、貼り合わせ後に反対面側に印刷層を形成しても良い。
図1、図2に、本発明の追記型光記録媒体の層構成の一例について、模式図を示す。
図1に示す追記型光記録媒体は、基板1上に、下部保護層2、記録層3、上部保護層4、反射層5、オーバーコート層6、接着層7、保護基板8が順次設けられている。
図2に示す追記型光記録媒体は、基板1上に、反射層5、上部保護層4、記録層3、下部保護層2、カバー層9が順次設けられている。
【0019】
次に、各構成層について説明する。
本発明の記録層には、無機材料を用いる。
記録層に無機材料を用いた追記型光記録媒体としては、特開2003−145934号公報に述べられているように、主にレーザ光照射により媒体にピット(穴)をあけて情報を記録する方式のものと、相変化や合金化等による構造変化を生じさせ反射率を変化させて情報を記録する方式のものが提案されている。しかしながら、ピット方式の場合は、記録密度の向上に伴って均一なピットを得ることが困難となり、これにより信号特性と記録感度が劣化するため、あまり望ましくない。一方、相変化方式の場合には、結晶と非晶の間の相転移を利用するものにおいて、場合により記録マークが消去される危険性があり、合金化方式の場合には、レーザ照射による反射率の変動、即ち、記録マークの再生信号のコントラストが小さいという問題を有するが、記録マークの大きさを制御するためには、構造変化を利用するこれらの方式が望ましい。
【0020】
本発明の記録層として、特に好ましいのは、酸素を除く構成元素の主成分がビスマスであり、かつ、酸化ビスマスを含有する無機記録材料である。
ビスマスは、金属ビスマス、ビスマス合金、ビスマス酸化物、ビスマス硫化物、ビスマス窒化物、ビスマス弗化物等の何れの状態で含有されていてもよいが、酸化ビスマス(ビスマス酸化物の1つ)は必ず含有されていなければならない。
記録層中に酸化ビスマスを含有させることにより、記録層の熱伝導率を低くすることができ、高感度化や低ジッタ化を図ることができるし、記録層の複素屈折率虚部を小さくすることができるので、透過性に優れた記録層となり、多層化が容易になる。
更に、記録再生特性の改良のため、記録層中にビスマス以外の元素Xを添加することが好ましい。ビスマス及び元素Xは、安定性向上や熱伝導率の観点から、例えば、酸化状態で存在させることが望ましいが、完全に酸化させる必要はない。
即ち、本発明の記録層がビスマス、酸素、元素Xの3元素から構成される場合、ビスマス、ビスマス酸化物、元素X、元素Xの酸化物が含まれていても良い。
【0021】
記録層中にビスマス(金属ビスマス)と酸化ビスマスを混在させる方法(ビスマス元素を異なる状態で記録層中に存在させる方法)としては、例えば、次の(イ)〜(ハ)のような方法が考えられる。
(イ)ビスマス酸化物ターゲットを用いてスパッタする方法
(ロ)ビスマスターゲットとビスマス酸化物のターゲットを用いてスパッタする方法
(共スパッタ法)
(ハ)ビスマスターゲットを用い、酸素導入を行ないながらスパッタする方法
(イ)の方法では、ターゲット中のビスマスが完全に酸化した状態となっているが、真空度やスパッタパワー等のスパッタ条件により、酸素が欠損し易いという現象を利用するものである。
【0022】
記録層に元素Xを添加する理由の1つは、熱伝導率を下げて微小マークを形成させ易くするためである。熱伝導率は、フォノンの散乱に起因する値であるため、粒子サイズや結晶サイズが小さくなる場合、材料を構成する原子の数が多い場合、更には構成する原子の原子量差が大きい場合等に、熱伝導率を下げることができる。
したがって、酸素を除く構成元素の主成分がビスマスであり且つ酸化ビスマスを含有する記録層に元素Xを添加することにより、熱伝導率を制御し、高密度記録特性を向上させることができるのである。
更に、酸素を除く構成元素の主成分がビスマスであり且つ酸化ビスマスを含有する記録層では、記録によって、ビスマスの酸化物やビスマスが結晶化するが、この結晶や結晶粒の大きさを元素Xによって制御できる。
したがって、元素Xによって記録部の結晶や結晶粒の大きさを制御することができ、ジッタ等の記録再生特性を大きく向上できる。これが記録層に元素Xを添加する、もう1つの理由である。
【0023】
熱伝導率の観点からは、記録層に添加できる元素Xに課せられる条件は、原料の安定性や製造の難易度等の単純な条件以外には殆どない。しかしながら、記録層の信頼性(再生安定性や保存安定性)は、元素Xによって大きく変動する可能性があるため、信頼性に関しては、下記(i)〜(ii)の条件が有効である。
(i)Paulingの電気陰性度が1.80以上の元素
(ii)Paulingの電気陰性度が1.65以上、かつ酸化物の標準生成エンタルピーΔHf0が、−1000(kJ/mol)以上である、遷移金属を除く元素
この(i)〜(ii)を満足する元素Xを用いることにより、ジッタ等の記録再生特性が良好で、かつ高い信頼性を有する追記型光記録媒体を実現できる。
【0024】
以下、上記条件(i)〜(ii)について詳しく説明する。
酸素を除く構成元素の主成分がビスマスであり且つ酸化ビスマスを含有する記録層の信頼性が低下する主な原因は、酸化の進行、或いは酸化状態の変化(価数の変化等)である。
この酸化の進行や酸化状態の変化が信頼性の低下を招く恐れがあるため、元素Xの物性値としてPaulingの電気陰性度と、酸化物の標準生成エンタルピーΔHf0が重要になるのである。
信頼性を十分高めるためには、第一に、元素Xとして、Paulingの電気陰性度が1.80以上の元素を選ぶことが好ましい。
これは、Paulingの電気陰性度が高い元素では、酸化が進行しにくいためであり、十分な信頼性を確保するためには、1.80以上のPaulingの電気陰性度を有する元素が有効であることによる。また、Paulingの電気陰性度が1.80以上であれば、酸化物の標準生成エンタルピーΔHf0がどのような値をとっても構わない。
Paulingの電気陰性度が1.80以上の元素Xとしては、B、Si、P、Fe、Co、Ni、Cu、Ga、Ge、As、Se、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Sn、Sb、Te、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、Pb、Po、Atが挙げられる。
【0025】
ここで簡単に電気陰性度について説明する。
電気陰性度とは、分子内に存在する原子が、電子をどれだけ自分自身に引き付けるかを表した尺度のことである。電気陰性度の値の決め方には、Paulingの電気陰性度、Mullikenの電気陰性度、Allred−Rochowの電気陰性度などがあるが、本発明では、Paulingの電気陰性度を用いて、元素Xとしての適正を判断する。
Paulingの電気陰性度は、分子ABの結合エネルギーE(AB)は、分子AAと分子BBの結合エネルギー〔各々E(AA)、E(BB)〕の平均よりも大きく、この差が各原子の電気陰性度(χA、χB)の差の二乗であると定義する。
即ち、次式(1)のようになる。
E(AB)−〔E(AA)+E(BB)〕/2=96.48(χA−χB)2…(1)
Paulingの電気陰性度では、電子ボルトを使って電気陰性度の値を決めたため、式中には変換係数の96.48(1eV=96.48kJmol−1)が入る。
【0026】
注目する元素が分子中でどのような原子価をとるかによって電気陰性度が異なるため、本発明では各元素のPaulingの電気陰性度を決めるにあたり、下記のような制限を加える。
即ち、1族元素は1価、2族元素は2価、3族元素は3価、4族〜10族元素は2価、11族元素は1価、12族元素は2価、13族元素は3価、14族元素は4価、15族元素は3価、16族元素は2価、17族元素は1価、18族元素は0価のそれぞれの原子価をとったときの値を、その元素のPaulingの電気陰性度とする。
なお、先述したPaulingの電気陰性度が1.80以上の元素の、本発明での規定によるPaulingの電気陰性度は、それぞれ、B(2.04)、Si(1.90)、P(2.19)、Fe(1.83)、Co(1.88)、Ni(1.91)、Cu(1.90)、Ga(1.81)、Ge(2.01)、As(2.18)、Se(2.55)、Mo(2.16)、Tc(1.90)、Ru(2.20)、Rh(2.28)、Pd(2.20)、Ag(1.93)、Sn(1.96)、Sb(2.05)、Te(2.10)、W(2.36)、Re(1.90)、Os(2.20)、Ir(2.20)、Pt(2.28)、Au(2.54)、Hg(2.00)、Tl(2.04)、Pb(2.33)、Po(2.00)、At(2.20)である。
【0027】
これらの元素は、酸素を除く構成元素の主成分がビスマスであり且つ酸化ビスマスを含有する記録層に、複数添加することも可能である。
更にPaulingの電気陰性度が1.80未満であっても、Paulingの電気陰性度が1.65以上、かつその元素の酸化物の標準生成エンタルピーΔHf0が−1000(kJ/mol)以上である元素であれば、十分な信頼性を確保できる。
この条件が有効な理由は、Paulingの電気陰性度が多少小さくても、酸化物の標準生成エンタルピーΔHf0が大きな値であれば、酸化物を形成しにくいためである。
Paulingの電気陰性度を決めるにあたり、各族によって原子価を固定して考えたが、標準生成エンタルピーΔHf0を決める場合にも同様の条件を課す。
即ち、1族元素は1価、2族元素は2価、3族元素は3価、4族〜10族元素は2価、11族元素は1価、12族元素は2価、13族元素は3価、14族元素は4価、15族元素は3価、16族元素は2価、17族元素は1価の原子価で酸化物を構成したときの値を、その元素の酸化物の標準生成エンタルピーをΔHf0とする。
但し、遷移金属の場合は、色々な原子価で酸化物を形成するため、酸化物の標準生成エンタルピーΔHf0を簡単に決めることができない(酸化物を形成する元素の原子価が高まれば高まるほど、一般的には酸化物の標準生成エンタルピーΔHf0が小さくなる)。つまり、遷移金属の場合、酸化物を形成する原子価が種々存在するため、酸化物を形成し易いと考えられ、本発明では好ましい元素Xとならない。
【0028】
例えばV(バナジウム)は2価となるため、Vの酸化物の標準生成エンタルピーΔHf0はVOの標準生成エンタルピーΔHf0値=−431(kJmol−1)となり、本発明の元素Xへの条件(ii)に該当することになる。
しかし、Vは、VO(2価)以外に、V2O3(3価)、V2O4(4価)、V2O5(5価)等の酸化物を容易に形成する。
これらの酸化物の標準生成エンタルピーΔHf0値は、それぞれ、V2O3(−1218kJmol−1)、V2O4(−1424kJmol−1)、V2O5(−1550kJmol−1)であり、これらの値は、本発明の元素Xへの条件(ii)に該当しない。
つまり、Vがほぼ2価のみで酸化物を形成すると仮定すれば、Vは、本発明の元素Xへの条件(i)、(ii)に該当するが、Vは2価以外の酸化物を容易に形成し、これらの酸化物は酸化し易いため(より安定である)、本発明の好ましい元素Xから除外される。
この除外を明記したのが、本発明の元素Xへの条件(ii)における「遷移金属を除く」という記述である。
【0029】
ここで簡単に標準生成エンタルピーΔHf0について説明する。
一般に化学反応は、次のような化学反応式によって表される。
H2(気体)+(1/2)O2(気体)=H2O(液体)
左辺を原系、右辺を生成系という。分子についている係数は化学量論数と呼ばれる。
一定の温度で、系の化学反応に伴い出入りする熱を反応熱といい、定圧条件のもとでの反応熱を定圧反応熱という。一般の実験条件で測定される反応熱は定圧の場合が殆どなので、一般に定圧反応熱がよく用いられる。
定圧反応熱は生成系と原系のエンタルピー差「ΔH」に等しい。
ΔH>0のものは吸熱反応、ΔH<0のものは発熱反応という。
化合物がその構成元素の単体から生成するときの反応熱を生成熱又は生成エンタルピーといい、標準状態にある1モルの化合物が、標準状態にある成分元素の単体から生ずる時の反応熱を標準生成エンタルピーという。標準状態としては圧力0.1MPa(≒1気圧)の下である指定された温度(通常298K)で最も安定な物理的な状態をとり、その標準生成エンタルピーをΔHf0で示す。
また、標準状態では、それぞれの単体のエンタルピーはゼロであると約束する。
したがって、ある元素の酸化物の標準生成エンタルピーが小さな値(負の大きな値)であればあるほど、酸化物が安定で、その元素が酸化し易いと言える。
なお、標準生成エンタルピーの詳細な値は、例えば「第5版 電気化学便覧 電気化学会編(丸善)」に詳しく記載されている。
【0030】
ところで、注目する元素がどのような原子価で酸化物を形成するかによって、標準生成エンタルピーΔHf0が異なるため、本発明では各元素の酸化物の標準生成エンタルピーΔHf0を決めるに当り、上記のような制限を加える。
Paulingの電気陰性度が1.65以上、かつ酸化物の標準生成エンタルピーΔHf0が−1000(kJ/mol)以上である元素としては、Zn、Cd、Inが挙げられる。
本発明での規定によるPaulingの電気陰性度は、それぞれ、Zn(1.65)、Cd(1.69)、In(1.78)であり、本発明での規定による標準生成エンタルピーΔHf0は、それぞれ、Zn(−348kJmol−1)、Cd(−258kJmol−1)、In(−925kJmol−1)である。
なおビスマスに対する元素Xの総量の原子数比は1.25以下であることが好ましい。本発明の記録層は、酸素を除く構成元素の主成分がビスマスであり且つ酸化ビスマスを含有することを基本としているため、ビスマスに対する元素Xの総量の原子数比が1.25を超えると、本来の記録再生特性が得られない場合が生じるためである。
【0031】
本発明の追記型光記録媒体は、記録再生が680nm以下のレーザ光により行なわれることが好ましい。
本発明の記録層は、色素と異なり、広い範囲で適当な吸収係数と高い屈折率を有するため、赤色レーザ波長680nm以下のレーザ光により記録再生が可能であり、良好な記録再生特性と高い信頼性が実現できる。
その中でも、最も好ましいのは、波長450nm以下のレーザ光により記録再生を行なうことである。これは、酸素を除く構成元素の主成分がビスマスであり且つ酸化ビスマスを含有する記録層が、波長450nm以下の領域で特に追記型光記録媒体として適した複素屈折率を有するためである。
【0032】
上記記録層材料の具体例としては、例えば、本出願人の出願に係る前記特許文献2、3に記載されている下記(1)〜(5)のようなものが挙げられる。
(1)酸化ビスマスからなる材料。
(2)ビスマス元素単体と酸化ビスマスを含有する材料。
(3)Bi元素と4B族の中から選ばれる一種以上の元素を含有し、この組成をBia4BbOd(4Bは4B族の元素、a,b,dは原子比)としたとき、10≦a≦40、3≦b≦20、50≦d≦70、である酸化ビスマスを含有する材料。
(4)Al、Cr、Mn、In、Co、Fe、Cu、Ni、Zn及びTiの中から選ばれる一種以上の元素Mを含有し、この組成をBia4BbMcOd(4Bは4B族の元素、a,b,c,dは原子比)としたとき、10≦a≦40、3≦b≦20、3≦c≦20、50≦d≦70、である酸化ビスマスを含有する材料。
(5)Bi元素とO(酸素)元素、及びBi以外の元素Xを主成分とする材料で、XはB、Fe、Cu、Ti、Znなどから選ばれた少なくとも一種の元素である材料。
上記(3)、(4)の4B族の元素としては、例えば、C、Si、Ge、Sn、Pbなどが挙げられるが、SiとGeが特に好ましい。
上記酸化ビスマスを主成分とする材料は、特に、青色レーザ対応の記録層材料として非常に有用であり、熱伝導率が低く耐久性が良好で高反射率化や高透過率化が実現しやすい(複素屈折率に起因する)という特徴がある。
【0033】
他にも、酸化ビスマスを主成分とする材料を用いると、次のような利点がある。
(1)酸化物とすることで膜の硬度を高めることができる(記録層の薄膜自体の変形、
或いは基板等の隣接層の変形を抑制することが可能である)。
(2)酸化物とすることで保存安定性を高めることができる。
(3)Bi等の500nmの波長域に対して光吸収率が高い元素を含ませることで、
記録感度を向上させることができる。
(4)Bi等の低融点元素或いは拡散を起こし易い元素を含ませることで、大きな変形
を伴わないにも拘わらず大きな変調度を発生させる記録マークを形成させること
ができる。
(5)スパッタ等の気相成長法により良好な薄膜を形成させることができる。
【0034】
記録層の形成方法としては、スパッタリング法、イオンプレーティング法、化学蒸着法、真空蒸着法等が挙げられるが、スパッタリング法が好ましい。
スパッタ法を用いた場合の実際の記録層の組成は、ターゲットの状態、それぞれの元素・化合物のスパッタの進み易さ、製膜時の電力、アルゴン流量などの条件に依存して変動する。また、ターゲットの組成と製膜した膜の組成とが異なる場合も多く、その組成のズレを考慮する必要もある。
記録層の厚さについては、使用される光記録媒体の条件によって最適な値は異なるが、およそ5〜30nmの範囲にあることが望ましい。更に好ましくは、10〜25nmである。膜厚が5nmより薄くなると記録マークの変調度が小さくなるため、また、30nmを超えると記録時における記録マークの形成精度が下がるため、何れも記録信号の特性が良好でなくなるので望ましくない。
【0035】
酸化物を含む記録層では、酸素の出入りが起こると特性に影響するが、記録層の両側に保護層(上部保護層、下部保護層)を設ければ酸素の出入りが抑制され保存安定性を向上させることができる。
保護層材料としては、通常、記録時の記録層からの熱によって分解、昇華、空洞化等を起こさないものが好ましく、例えば、Nb2O5、Sm2O3、Ce2O3、Al2O3、MgO、BeO、ZrO2、UO2、ThO2などの単純酸化物系の酸化物;SiO2、2MgO・SiO2、MgO・SiO2、CaO・SiO2、ZrO2・SiO2、3Al2O3・2SiO2、2MgO・2Al2O3・5SiO2、Li2O・Al2O3・4SiO2などのケイ酸塩系の酸化物;Al2TiO5、MgAl2O4、Ca10(PO4)6(OH)2、BaTiO3、LiNbO3、PZT〔Pb(Zr,Ti)O3〕、PLZT〔(Pb,La)(Zr,Ti)O3〕、フェライトなどの複酸化物系の酸化物;Si3N4、AlN、BN、TiNなどの窒化物系の非酸化物;SiC、B4C、TiC、WCなどの炭化物系の非酸化物;LaB6、TiB2、ZrB2などのホウ化物系の非酸化物;ZnS、CdS、MoS2などの硫化物系の非酸化物;MoSi2などのケイ化物系の非酸化物;アモルファス炭素、黒鉛、ダイヤモンド等の炭素系の非酸化物等を用いることが可能である。
【0036】
上記の中で、記録再生光に対する透明性や生産性の点では、SiO2又はZnS−SiO2を主成分とするものが、十分な断熱効果を得るためには、ZrO2を主成分とするものが、安定性では、Si3N4、AlN、Al2O3を主成分とするものが好ましい。ここで主成分とは、凡そ90モル%以上含有することを意味する。
特にZnS−SiO2は、酸素、水分などの出入りを防ぐ効果が大きく、保存安定性の向上に好適である。また、ZnS−SiO2は、炭素や透明導電性材料などを添加して導電性を持たせることにより直流スパッタリングでの製膜が可能となる。また、記録層の温度を記録マークが形成されるまでに効率良く上昇させることができ、記録感度を大幅に高めることが可能となる(即ち、低記録パワーでの記録が可能となる)。更に、熱伝導率の調整のためにZnO、GeOなどを添加したり、酸化物と窒化物を混合するなどの方法も可能である。ZnSとSiO2の混合比は、70:30〜90:10(モル%)の範囲が好ましく、膜の応力がほぼゼロになる80:20が特に好ましい。
これらの無機保護層の形成方法としては、前述の記録層と同様に、スパッタリング法、イオンプレーティング法、化学蒸着法、真空蒸着法等が挙げられる。
【0037】
また、保護層には色素や樹脂などの有機材料を用いることもできる。
色素としては、ポリメチン系、ナフタロシアニン系、フタロシアニン系、スクアリリウム系、クロコニウム系、ピリリウム系、ナフトキノン系、アントラキノン(インダンスレン)系、キサンテン系、トリフェニルメタン系、アズレン系、テトラヒドロコリン系、フェナンスレン系、トリフェノチアジン系、アゾ系、ホルマザン系各色素、及びこれらの金属錯体化合物などが挙げられる。
樹脂としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ニトロセルロース、酢酸セルロース、ケトン樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ウレタン樹脂、ポリビニルブチラール、ポリカーボネート、ポリオレフィン等を用いることができ、これらを単独で又は2種以上混合して用いることができる。
【0038】
有機材料からなる保護層の形成は、蒸着、スパッタリング、CVD、溶剤塗布等の通常の手段によって行なうことができる。塗布法を用いる場合には、上記有機材料などを有機溶剤に溶解して、スプレー、ローラーコーティング、ディッピング、スピンコーティングなどの慣用のコーティング法で行なうことができる。
用いられる有機溶剤としては、一般にメタノール、エタノール、イソプロパノールなどアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミドなどのアミド類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテル類;酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステル類;クロロホルム、塩化メチレン、ジクロルエタン、四塩化炭素、トリクロルエタンなどの脂肪族ハロゲン化炭素類;ベンゼン、キシレン、モノクロルベンゼン、ジクロルベンゼンなどの芳香族類;メトキシエタノール、エトキシエタノールなどのセロソルブ類;ヘキサン、ペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの炭化水素類などが挙げられる。
【0039】
上部保護層及び下部保護層の膜厚は、記録感度、反射率等の記録・再生信号、機械特性が良好となる範囲を設定すれば良いが、記録層を保護する機能が要求される場合には、少なくとも5nm、好ましくは10nm以上の膜厚が必要である。しかし、膜厚が厚すぎると、特に無機材料層の場合、保護層を形成する際に熱変形を起こしたり、膜収縮による反りを生じたりするため、機械特性を確保することが困難となり、好ましくない。
下部保護層については、下側に接しているのが樹脂材料からなる基板である場合には、更に膜厚を厚くし、20nm以上とするのがより好適である。
したがって、下部保護層の好ましい膜厚は、5〜150nmであり、更に好ましくは、20〜90nmである。特に、ZnS−SiO2(80:20モル%)を用いる場合には、30〜90nmとするのが、より好適である。
また、上部保護層の好ましい膜厚は、5〜50nmであり、更に好ましくは、5〜30nmである。
【0040】
反射層の材料としては、再生光の波長で反射率の十分高いもの、例えば、Au、Ag、Al、Cu、Ti、Cr、Ni、Pt、Ta、Pdなどの金属を単独で又は合金にして用いることができる。中でもAu、Ag、Alは反射率が高く反射層の材料として適している。また、上記金属を主成分として他の元素を含んでいても良く、他の元素としては、Mg、Se、Hf、V、Nb、Ru、W、Mn、Re、Fe、Co、Rh、Ir、Zn、Cd、Ga、In、Si、Ge、Te、Pb、Po、Sn、Biなどの金属及び半金属が挙げられる。
また、金属以外の材料を用いて、低屈折率薄膜と高屈折率薄膜を交互に積み重ねて多層膜を形成し、反射層として用いることも可能である。
中でも、より高密度を目指した光記録媒体の場合には、より熱伝導率が高く、高反射率を得やすい上に、比較的コストが安いことから、Agを主成分とする反射層材料が良く用いられる。ここで主成分とは、50原子%以上含有することを意味する。
但し、隣接層がSを含有する場合には、Agの硫化反応により反射層が劣化することがあるため、特許文献5に開示されているように、隣接層との間にSを含まない誘電体材料などからなる硫化防止層を設けることが望ましい。
しかしながら、青色レーザ対応の追記型光記録媒体(HD DVD−RやBD−R)の場合、規格における記録部の反射率が、従来のCD−RやDVD±Rよりも低い値に設定されているため(例えば、DVD+Rの反射率規格は、45〜80%であるのに対し、BD−R規格では11〜24%、HD DVD−R規格では、14〜28%である)、Ag系反射層を用いると反射率が高くなりすぎるため、記録感度が悪化しやすいという問題がある(但し、Ag系反射層では、規格を満足できないという意味ではない)。
【0041】
前述のように、酸素を除く構成元素の主成分がビスマスであり且つ酸化ビスマスを含有する記録層を用いてHD DVD−R SL(Single Layer)やBD−R SL(Single Layer)を作製した場合、一応規格値を満足することは可能であるが、更なる高感度化が望まれる。高感度化は、更なる記録線速度の向上や、多層化が進む将来に向けて、必ず必要となる要件である。ここで、主成分とは、ビスマスが酸素を除いた構成元素のうち、40原子%以上を占めることを意味する。
前述のように、酸素を除く構成元素の主成分がビスマスであり且つ酸化ビスマスを含有する記録層を有する追記型光記録媒体において、反射率が高くなりすぎる原因は、該記録層が、青色レーザ波長においても、比較的高い透過率を有するためである。
そこで、熱伝導率が高く、Ag系材料よりも反射率が低下し、かつ、ZnS−SiO2に含まれるSと反応しない反射層材料としてAl合金を用いることを検討した。
その結果、反射層材料としてAl−Ti合金(Ti0.5原子%)を用いると、Ag系反射層に比べて高温高湿下での欠陥の発生がなく、青色レーザ対応の追記型光記録媒体としての各種規格値に対して適当な反射率を有し、高感度化できることを確認した。なお、Tiの添加量を0.5原子%とした理由は、前述のとおりである。
ところが、Alに対し1重量%程度以下の元素が添加されたAl反射層では、高温高湿下の保存信頼性が十分でない場合があることが判明した(例えば、80℃85%RHの環境下で、400時間程度からアーカイバル特性が劣化するケースがある。但し、室温保存下での保存寿命に問題がある訳ではない)。
このようなAl反射層における、高温高湿下の保存信頼性悪化の原因は、粒状性(表面平滑性)の増大(悪化)によるものと考えられる。
【0042】
そこで、本発明者らは、次の(1)〜(3)の点について総合的に評価した結果、下記元素群(I)から選択された少なくとも1種の元素を合計で0.6〜7.0原子%、好ましくは1.0〜5.0原子%含有させたAl反射層が非常に有効であることを見出した。
(1)青色レーザ対応の追記型光記録媒体の規格(HD DVD−RやBD−R)に対する規格満足度
(2)記録感度の向上
(3)高温高湿下の保存信頼性の向上
元素群(I):Mg、Pd、Pt、Au、Zn、Ga、In、Sn、Sb、Be、Ru、Rh、Os、Ir、Cu、Ge、Y、La、Ce、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ti、Zr、Hf、Si、Fe、Mn、Cr、V、Ni、Bi、Ag
【0043】
このように、従来のAl反射層に比べて、添加元素の割合を高い範囲に設定すると次の(a)〜(c)の利点が生じる。
(a)反射率の上昇を抑えることができる。
(b)反射率の上昇が抑えられることと、熱伝度率が低下することにより、記録感度が
向上する。
(c)高温高湿下での、粒状性(表面平滑性)の増大(悪化)が抑制される。
しかし、Alへの添加元素が、本発明の添加下限量より少ない範囲では、次の(d)〜(f)のデメリットが生じ、逆に、Alへの添加元素が、本発明の添加上限量より多い範囲では、次の(g)〜(h)のデメリットが生じる。
(d)反射率の上昇を抑えることができない(規格外となる可能性がある)。
(e)反射率が上昇し、かつ熱伝度率が増大することにより、記録感度が悪化する
(規格外となる可能性がある)。
(f)高温高湿下での、粒状性(表面平滑性)の増大(悪化)が起こる可能性が高い。
(g)反射率が急激に低下する(規格外となる可能性がある)。
(h)反射率が低下し、かつ熱伝度率が急激に低下することにより、再生光安定性が
悪化する。
【0044】
即ち、本発明のAl反射層への添加元素量の規定範囲では、酸素を除く構成元素の主成分がビスマスであり且つ酸化ビスマスを含有する記録層を有する追記型光記録媒体において、Alへの添加元素量増加に伴う反射率と熱伝導率の低下が生じても、記録再生特性を損なうことがない範囲であると言うことができる。
なお、本発明のAl反射層への添加元素は、Alの粒状性(表面平滑性)を改善する(小さくする)効果を担うものであるため、添加元素自体の効果は大きくない。
したがって、Al反射層への添加元素としては、従来から使用実績のある添加元素を広く使用することができる。
【0045】
本発明の反射層は、蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングなどにより形成することができる。中でも、スパッタリングが好ましい。
そこで、スパッタリングを用いた反射層形成方法について説明する。
スパッタリングに用いる放電用ガスとしては、Arが好ましく用いられる。また、スパッタリングの条件としては、Ar流量1〜50sccm、パワー0.5〜10kW、成膜時間0.1〜30秒の範囲が好ましく、より好ましいのは、Ar流量3〜20sccm、パワー1〜7kW、成膜時間0.5〜15秒の範囲であり、更に好ましい範囲としては、Ar流量4〜10sccm、パワー2〜6kW、成膜時間1〜5秒の範囲である。
なお、スパッタリングの条件は、Ar流量、パワー、及び成膜時間の少なくとも1つが上記範囲にあることが好ましく、2つ以上が上記範囲にあることがより好ましく、全ての条件が上記範囲にあることが更に好ましい。
【0046】
このようなスパッタリング条件で光反射層を形成することにより、反射率の向上や耐腐食性の更なる向上が図られ、優れた記録特性を有する光記録媒体を得ることができる。
反射層の膜厚は、20〜200nmの範囲が好ましく、25〜180nmの範囲がより好ましく、30〜160nmの範囲が特に好ましい。但し、本発明の反射層が多層型光記録媒体に適用される場合は、膜厚の下限は、この限りではない。
膜厚が20nmより薄い場合、所望の反射率が得られない問題や保存時に反射率が低下する問題、更に、記録振幅が十分にとれない問題を生じることがある。膜厚が200nmより厚い場合、成膜面が粗れ、反射率が低下することがある。また、生産性の観点からも好ましくない。
反射層の成膜速度は6〜95nm/sの範囲であることが好ましく、7〜90nm/sの範囲であることがより好ましく、8〜80nm/sの範囲であることが特に好ましい。成膜速度が、6nm/sより遅い場合、スパッタ中に酸素が入りやすくなり、酸化により反射率が低下したり、反射層の耐腐食性が低下する場合がある。成膜速度が95nm/sより速い場合、温度上昇が大きく、基板に反りが発生することがある。
【0047】
基板の素材としては、熱的、機械的に優れた特性を有し、基板側から(基板を通して)記録・再生が行われる場合には光透過特性にも優れたものであれば特別な制限はない。
具体例としては、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、非晶質ポリオレフィン、セルロースアセテート、ポリエチレンテレフタレートなどが挙げられるが、ポリカーボネートや非晶質ポリオレフィンが好ましい。
基板の厚さは用途により異なり、特に制限はない。
基板の表面に、トラッキング用の案内溝や案内ピット、更にアドレス信号等のプレフォーマットが形成されていてもよい。
基板の鏡面側(案内溝等のある反対面)に、表面保護やゴミ等の付着防止のために、紫外線硬化樹脂層や無機系薄膜等を形成してもよい。
【0048】
特に青色レーザ対応の光記録媒体においては、トラッキングサーボの安定性、ウォブルを利用したアドレス情報の再生安定性、及び、システムリードイン領域にプリピットとして記録した情報の再生安定性を確保し、かつ実用可能な記録特性を維持するという技術課題について鋭意検討した結果、ウォブル付き案内溝の溝幅を半値幅で170〜230nm、溝深さを23〜33nmとすればよいことを見出した。なお、一般にディスク状光記録媒体の基板は射出成形で作製されるため、成形の都合上、システムリードイン領域のプリピットの深さとデータ領域のウォブル付き案内溝の深さを等しくしている。したがって、上記案内溝の溝深さはプリピットの深さにもなるから、案内溝の溝深さを設計する際には、プリピットの深さとしても問題がないように設計する必要がある。
また、HD DVD−R規格に対応する追記型光記録媒体については、好ましい案内溝のトラックピッチは0.4±0.02μm、好ましいウォブルの振幅量は16±2nmである。
【0049】
反射層やカバー層(光透過層)等の上に保護層を形成しても良い。保護層の材料としては、反射層やカバー層等を外力から保護するものであれば特に限定されない。有機材料としては熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂等が挙げられる。また無機材料としてはSiO2、Si3N4、MgF2、SnO2等が挙げられる。
熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂は適当な溶剤に溶解した塗布液を塗布し乾燥することによって形成することができる。紫外線硬化性樹脂は、そのまま又は適当な溶剤に溶解した塗布液を塗布し、紫外線を照射して硬化させることによって形成することができる。
紫外線硬化性樹脂としては、例えば、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレートなどのアクリレート系樹脂を用いることができる。
これらの材料は単独で用いても混合して用いても良いし、1層だけでなく多層膜にして用いても良い。
上記保護層の形成方法としては、スピンコート法やキャスト法等の塗布法、スパッタリング法、化学蒸着法等が用いられるが、中でも、有機材料を用いる場合には、スピンコート法が好ましい。
上記保護層の膜厚は、一般に0.1〜100μmの範囲であるが、本発明においては、有機材料を用いる場合には、3〜30μmが好ましい。
【0050】
カバー層(光透過層)は、高密度化を図るため高NAのレンズを用いる場合に必要となる。例えば高NA化すると、再生光が透過する部分の厚さを薄くする必要がある。
これは、高NA化に伴い、光学ピックアップの光軸に対してディスク面が垂直からズレる角度(いわゆるチルト角、光源の波長の逆数と対物レンズの開口数の積の2乗に比例する)により発生する収差の許容量が小さくなるためであり、このチルト角が基板の厚さによる収差の影響を受け易いためである。したがって、基板の厚さを薄くしてチルト角に対する収差の影響をなるべく小さくするようにしている。
そこで、例えば基板上に凹凸を形成して記録層とし、その上に反射層を設け、更にその上に光を透過する層である光透過性のカバー層を設けるようにし、カバー層側から再生光を照射して記録層の情報を再生するような光記録媒体や、基板上に反射層を設け、その上に記録層を設け、更にこの上に光透過性を有するカバー層を設けるようにし、カバー層側から再生光を照射して記録層の情報を再生するような光記録媒体が提案されている(Blu−ray規格)。
このようにすれば、カバー層を薄型化していくことで対物レンズの高NA化に対応可能である。つまり、薄いカバー層を設け、このカバー層側から記録再生することで、更なる高記録密度化を図ることができる。
なお、このようなカバー層は、ポリカーボネートシートや、紫外線硬化型樹脂により形成されるのが一般的である。本発明で言うカバー層には、カバー層を接着するための層を含めてもよい。
【0051】
また、反射層(又はその上層の保護層)やカバー層(又はその上層の保護層)面に更に基板を貼り合わせてもよく、反射層やカバー層面相互を内面として対向させ、光学記録媒体2枚を貼り合わせても良い。
貼り合わせる際に用いられる接着層の材料としては、紫外線硬化型樹脂、ホットメルト接着剤、シリコーン樹脂などの接着剤を用いることができる。このような接着層の材料は、反射層又はオーバーコート層の上に、材料に応じて、スピンコート、ロールコート、スクリーン印刷法などの方法により塗布し、紫外線照射、加熱、加圧等の処理を行なって反対面のディスクと貼り合わせる。
反対面のディスクは、同様の単板ディスクでも透明基板のみでも良く、反対面のディスクの貼り合わせ面については、接着層の材料を塗布してもしなくても良い。また、接着層として粘着シートを用いることもできる。
接着層の膜厚は特に制限されるものではないが、材料の塗布性、硬化性、ディスクの機械特性の影響を考慮すると、5〜100μmが好適である。
接着面の範囲も特に制限されるものではないが、HD DVD−R規格に準拠する光記録媒体に応用する場合、接着強度を確保するためには内周端の位置がΦ15〜40mm、好適にはΦ15〜30mmであることが望ましい。
【0052】
次に、本発明の追記型光記録媒体への記録方法について詳しく説明する。
本発明では、予熱工程とそれに続く加熱工程とを有する記録ストラテジにより、記録層を記録マーク形成開始温度以上に加熱して記録マークを形成する。
これにより、青色レーザ波長領域においても、記録マーク形成時に記録層が速やかに記録マーク形成開始温度以上に昇温され、記録層に精度の良い記録マークが形成されるので記録品質が向上する。予熱パワー(Pb)が記録パワー(Pw)に対して70%以下の強さであれば、予熱パワーが好適な強さに維持されて、記録マークの先頭部が余分に広がるようなことがなく、PRSNRやジッタが規格値に対して十分な記録品質を得ることができる。70%を超えると、PRSNRやジッタが悪化して規格値よりも小さな値となり、十分な記録品質を得ることができない。つまり、予熱パワーが強くなり過ぎるため、記録マークが広がり過ぎてしまい、これが原因となってPRSNRが悪化する。
【0053】
また、本発明によれば、予熱パルスによる予備加熱状態を制御することにより、形成する記録マークの大きさの変化に適切に対応できる。
予熱パワー(Pb)は再生パワー(Pr)よりも強くする必要がある。予熱パワーが再生パワー以下の場合には、記録パワーが強くても温度上昇が遅れるため、記録マーク形状にバラツキが生じて記録品質が悪化する。予熱工程の効果を確実にするには、予熱パワー(Pb)を再生パワー(Pr)よりも、0.7mW以上強くすることが好ましい。
なお、PRSNRとは、Partial Response Signal to Noize Ratio(パーシャル・レスポンス・シグナル・ツー・ノイズ・レシオ)のことで、HD DVD規格に基づく信号品質を表す指標であり、規格値として15以上である必要がある。
【0054】
また、本発明の記録方法の対象となる追記型光記録媒体は、青色レーザにより記録・再生が可能であり、優れた光学的性質(光吸収機能、記録機能など)を有している。そして本発明の記録方法を適用することにより、記録極性が「High to Low」であっても高品質の記録が行なうことができる。
加熱工程の後に冷却工程を設ける場合には、冷却パワー(Pc)を予熱パワー(Pb)よりも弱くする。これにより、記録マーク後方の余分な広がりを抑えることができ、精度の良い記録マークを形成できるため、PRSNRやジッタが規格値を十分に満足する記録品質を得ることができる。冷却工程の効果を確実にするには、冷却パワー(Pc)を予熱パワー(Pb)よりも、1.0mW以上弱くすることが好ましい。
【0055】
また、予熱パルスは、互いに異なるパワーを有する2種類以上のパルスを含むことが好ましい。このような予熱パルスを照射することによって、記録ストラテジが適切なものとなり、記録層に形成される記録マークの大きさが変化しても、常に予熱状態が木目細かく好適な状態に制御され、記録時には速やかに記録マーク形成開始温度以上に昇温されて記録層に精度の良い記録マークが形成される。
また、記録パルスを単パルスとしてもよい。これにより、青色レーザ対応の短い記録マークを形成することができるほか、強い記録パワーが必要な高速記録の場合においても、高感度(低いパワー)で記録マークを形成することが可能となる。
また、単パルスの記録パワーを、形成する記録マークの長さに応じて2種類以上に変化させてもよい。青色レーザ対応の高速記録においては、長い記録マークよりも短い記録マークを形成する方が難しいが、2種類以上の記録パワーを用い、短い記録マークを形成する際により強い記録パワーを用いることにより、高速記録においても短い記録マークを精度良く形成することが可能となる。
また、記録パルスを、単パルスではなく、2種類以上のパワーの組み合わせからなるパルスとしてもよい。記録マークの形成中に記録パルスのパワーを変化させることにより、特に長い記録マークの後方が広がらず、品質の高い記録マークを形成することが可能となる。
【0056】
本発明の記録方法における、記録マーク形成時の予熱工程とそれに続く加熱工程、更にそれに続く冷却工程について図面を参照しつつ説明する。
図3〜図6は、予熱工程とそれに続く加熱工程、更には、それに続く冷却工程を説明するための模式図である。
図3の例は、先ず予熱工程で、再生パワー(Pr)より強く且つ記録パワー(Pw)より弱い予熱パワー(Pb)を記録層に加えて予熱し〔ここで(Pb)は(Pw)の70%以下の強さとする〕、続いて加熱工程で、形成すべき記録マークに対応する記録パワー(Pw)を加えて、トラックに記録マークを形成する場合を示している。
図4の例は、図3の予熱工程、加熱工程に続いて、予熱パワー(Pb)より弱い冷却パワー(Pc)を記録層に加えて、記録マーク形成後に記録層の冷却を早める場合を示している。
【0057】
図5、図6の例は、予熱工程の予熱パワーを第1予熱パワー(Pb1)、第2予熱パワー(Pb2)の2段階に設定し、図3、図4よりも細分して予熱パワーを加えた後、記録パワー(Pw)を加えてトラックに記録マークを形成する場合を示している。なお、図5、図6は一例であって、予熱パワーの設定段階を更に増やして予熱しても構わない。
図3、図5では、予熱パルスを照射して、記録層を記録マーク形成開始温度未満の温度に予熱し、続いて記録すべき情報に基づいて記録パルスを照射し、記録マーク形成開始温度以上の温度に加熱して、記録マークを形成する。
図4、図6では、更に冷却パルスを照射して、記録層の冷却を早める。
このように予熱パルスと記録パルスにより順に加熱すると、記録層を速やかに記録マーク形成開始温度以上に昇温することができる。更に、冷却パルスにより、記録層の冷却を早めることができる。
【0058】
また、記録パルスは、図7〜図8に示すように単パルスにしたり、図9に示すように、2種類以上のパワーの組み合わせからなるパルスにしてもよい。
短い記録マークを形成するときは、長い記録マークに比べて記録マークの後方が広がって涙状のマークになることが少ないため、単パルスで記録する方が好ましく、しかも高速記録の場合に高感度(低いパワー)で記録マークを形成することが可能となる。
また、2種類以上の記録パワーで記録することにより、特に長い記録マークの後方が広がらず、品質の高い記録マークを形成することが可能となる。
実際に記録に用いられる記録パルスの具体例としては、図10〜図13に示したようなパルスパターンが挙げられる。ここで、図10〜図13では、パルス幅について一種類の固定値を提示しているが、各パターンとも、その値に限定されるものではなく、品質の高い記録マークを形成できる条件のパルス幅を任意に選択すれば良い。
【発明の効果】
【0059】
本発明によれば、青色レーザ波長領域でも精度の良い記録マークを形成でき、良好な記録品質で情報を記録できる無機記録層を備えた追記型光記録媒体、特に、無機記録層として酸化ビスマスを主成分とする記録層を備えた追記型光記録媒体について、記録感度の高感度化を実現し、かつ、PRSNR、ジッタ、エラー率等の記録特性の更なる改善と、高温高湿下での保存安定性の更なる向上を実現させることができる。また、該光記録媒体、特に記録極性が「High to Low」である光記録媒体に対しても適用可能な記録方法を提供できる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0061】
実施例1〜9
住友重機械工業社製トグル式成形機に、厚さ0.6mm、直径120mmディスク基板用の精工技研社製の金型を組み合わせて射出成形を行ない、ウォブル振幅量16±1nmのウォブル付き案内溝(溝深さ:表1参照、溝幅:半値幅205±5nm、Top165±15nm、Bottom265±20nm、トラックピッチ:0.4±0.02μm)を有する厚さ0.6mm、直径120mmのポリカーボネート基板(三菱エンジニアリングプラスチックス社製ユーピロンH−4000)を形成し、その案内溝面上に、エリコン社製スパッタ装置(DVDスプリンター)を用いてスパッタ法で、ZnS−SiO2(80:20モル%)からなる膜厚60nmの下部保護層、BiとBとOからなる膜厚16nmの記録層、ZnS−SiO2(80:20モル%)からなる膜厚20nmの上部保護層、AlTi合金(Ti:1.0重量%)からなる膜厚40nmの反射層(実施例1〜5及び実施例9)、又は、AgNdBi合金(Ag:Nd:Bi=96.5:3.0:0.5原子%)からなる膜厚80nmの反射層(実施例6〜8)を順に製膜し、その上に、紫外線硬化型樹脂(日本化薬社製KAYARAD DVD−802)を用いて、厚さ0.6mmのポリカーボネート基板(三菱エンジニアリングプラスチック社製ユーピロンH−4000)を貼り合わせて、図1に示したような(但し、オーバーコート層は除く)厚さ約1.2mmの追記型光記録媒体を作成した。
また、実施例1と同様の方法で、ウォブル付き案内溝〔溝深さ:26nm、溝幅:表2参照(半径位置毎に半値幅を変更したもの)、トラックピッチ:0.4±0.02μm〕を有するポリカーボネート基板を形成し、これを用いて実施例1と同様にして追記型光記録媒体(実施例10)を作成した。
【0062】
上記実施例1〜10の追記型光記録媒体に対し、パルステック工業社製の光ディスク評価装置ODU−1000(波長:405nm、NA:0.65)を用いて、HD DVD−R規格〔DVD Specifications for High Density Recordable Disc(HD DVD−R) Version1.0〕に合わせた条件で記録を行ない、特性を調べた。
結果を、表1、表2、及び図14〜図18に示す(但し、実施例10については表2のみ)。なお、図14〜図18中の左右に横切るやや太い直線は規格値を示す。
また、図17の「PRSNR」は「Partial Response Signal to Noize Ratio(パーシャル・レスポンス・シグナル・ツー・ノイズ・レシオ)」の略であり、図18の「SbER」は「Simulated bit Error Rate(シミュレイテッド・ビット・エラー・レイト)」の略である。
図14〜図18から分かるように、特性の測定結果は、案内溝の溝深さ及び溝幅の影響を受けており、プッシュプルが規格内となるのは、内周部では、溝深さが23〜33nmのときであり、中周部では、溝深さが24.5nm以上のとき、外周部では、溝深さが25nm以上のときとなっている。また、中周部のPRSNRは溝深さが32nm以下のときに、SbERは溝深さが33nm以下のときに、規格内となる。
SLI(システムリードイン)領域の変調度については、溝深さが23nm以上のときに、規格内となる。
溝幅については、中周部では、170〜230nmのときに、プッシュプルが規格内となっている。
また、実施例1〜10の追記型光記録媒体に対し、HD DVD対応の光記録装置(東芝製RD−A1)により、コンテンツデータの記録・再生を行なったところ、何れの場合も、途中で記録ストップすること無く記録が終了し、記録後のデータの再生も行なうことができた。
したがって、特性が僅かに規格外となるものであっても、光記録装置での記録・再生は可能となっていた。
【0063】
【表1】
【表2】
【0064】
実施例11
ZnS−SiO2(80:20モル%)からなる下部保護層の膜厚を、0〜140nmの範囲で変化させた点以外は、実施例1と同様にして追記型光記録媒体を作成した(膜厚0nmの場合は、下部保護層が無いことになる)。
得られた追記型光記録媒体に対し、パルステック工業社製の光ディスク評価装置ODU−1000(波長:405nm、NA:0.65)を用いて、記録部に対する特性評価を行なった。その後で、80℃、85%RHの環境下に100時間保管する環境試験を行ない、再度、特性評価を実施し、これを100時間毎に繰り返して、通算300時間となるまで、環境試験及び特性評価を行なった。環境試験投入前(初期)の結果と、各環境試験後毎の結果を比較して、初期値を1としたときの変動した比率を求めたものを、図19〜図22に示す。
図から、ZnS−SiO2(80:20モル%)からなる下部保護層を用いる場合に、特性の劣化を抑えるためには、反射率を基準とする場合は20nm以上、変調度、PRSNR、SbERを基準とする場合は30nm以上の膜厚が必要であることが分かる。
【0065】
実施例12〜18、及び比較例1〜2
実施例1と同じ成形機と金型を用いて射出成形した、溝深さ26nmの案内溝を有する厚さ0.6mmのポリカーボネート基板(三菱エンジニアリングプラスチックス社製ユーピロンH−4000)上に、エリコン社製スパッタ装置(DVDスプリンター)を用いてスパッタ法で、下記の層を順次積層した。
・下部保護層(ZnS−SiO2,モル比80:20)、膜厚50nm
・記録層(Bi2BOx)、膜厚15nm
・上部保護層(ZnS−SiO2,モル比80:20)、膜厚20nm
・反射層(表3に示す組成のAl−Ti合金)、膜厚60nm
なお、記録層の組成をRBS(ラザフォード後方散乱分光)で測定し、Biが完全には酸化されていないことを確認した。
次いで、Al合金反射層上に、スピンコート法で紫外線硬化型樹脂(日本化薬社製KAYARAD DVD−802)からなる膜厚約5μmの有機保護層を設け、更に、厚さ0.6mmのダミー基板を紫外線硬化型樹脂により貼り合わせて図1に示したような追記型光記録媒体を得た。
【0066】
【表3】
【0067】
上記実施例12〜18、及び比較例1〜2の追記型光記録媒体に対し、パルステック工業社製の光ディスク評価装置ODU−1000(波長:405nm、NA:0.65)を用いて、HD DVD−R規格〔DVD Specifications for High Density Recordable Disc(HD DVD−R) Version1.0)〕に合わせた条件で記録を行い、記録部の反射率、PRSNRを測定した。
更に、記録したサンプルを80℃85%RHの環境下に300時間放置した後のPRSNRを測定し、初期PRSNRとの比較を行った。
結果を図23〜図24に示す。なお、図23、図24中の横方向の点線は、規格値を示す線である。
図23から、添加元素量が7.0原子%以下で〔図23の(A)で示した領域〕、HD DVD−R規格を満足する反射率が得られることが分かる。よって、本発明の添加元素量規定範囲における上限値の有効性を確認できた。
なお、感度は、添加元素量に対して反射率と同様な傾向を示し、添加元素量が0.6〜7.0原子%の範囲では、HD DVD−R規格で規定する記録感度を十分満足した。
また、添加元素量が増えるに従い、熱伝導率や反射率の低下に伴うPRSNRの低下が起きているが、添加元素量が5.0原子%以下では、ほぼその低下量が無視できる程度である〔図23の(B)で示した領域〕。よって、本発明の添加元素量規定範囲における好ましい上限値の有効性を確認できた。
また、図24からは、80℃85%RHの環境下に300時間放置した後のPRSNR低下量が、添加元素量の増加とともに抑制できることが分かった。
図24から、添加元素量が0.6原子%以上では、80℃85%RHの環境下に300時間放置した後のPRSNR低下量が1.0以下となり、本発明の添加元素量規定範囲における、下限値の有効性を確認できた〔図24の(C)で示した領域〕。
また、添加元素量が1.0原子%以上では、80℃85%RHの環境下に300時間放置した後のPRSNR低下量が0.5以下となり、本発明の添加元素量規定範囲における、好ましい下限値の有効性を確認できた〔図24の(D)で示した領域〕。
なお、Alへの添加元素量が7.0原子%を超えると、反射率が低下しすぎるとともに、再生光に対する安定性が悪化する傾向が見られた。
【0068】
実施例19〜25、及び比較例3〜4
表4に示すように、Alへの添加元素の種類と添加量を変えた点以外は、実施例12と同様にして追記型光記録媒体を作製し、実施例12と同じ評価項目について測定を行なった。結果を表4に示す。
なお、表4において、最適記録パワーと最適記録パワーで記録した部分の反射率の両方がHD DVD−R規格を満足する場合を○、最適記録パワーと最適記録パワーで記録した部分の反射率の少なくとも一方がHD DVD−R規格を満足しない場合を×とした。
更に、80℃85%RHの環境下に300時間放置した後の、保存前のPRSNRに対するPRSNR低下量(アーカイバル特性)が1.0以下である場合を○、1.0を超える場合を×とした。
【0069】
【表4】
上記の結果から、酸素を除く構成元素の主成分がビスマスであり且つ酸化ビスマスを含有する記録層を有する追記型光記録媒体において、本発明におけるAlに対する添加元素量範囲の有効性が証明された。
【0070】
比較例5〜7
反射層材料を表5に示すものに変えた点以外は、実施例12と同様にして追記型光記録媒体を作製し、実施例12と同じ評価項目について測定を行なった。結果を表5に示す。
表5から分かるように。本発明のAl系反射層の場合に比べて反射率が高く、記録感度がHD DVD−R規格の上限値を超えた。
また、80℃85%RHの環境下に300時間放置した後の、保存前のPRSNRに対するPRSNR低下量(アーカイバル特性)は10以上であり、再生信号にAgの硫化に起因すると思われるヒゲ状の欠陥が多数発生した。
【表5】
【0071】
〔実施例26〜31〕
反射層材料と記録層材料を表6に示すものに変えた点以外は、実施例12と同様にして追記型光記録媒体を作製し、実施例12と同じ評価項目について測定を行なった。結果を表6に示す。
表6から分かるように、何れの記録層においても、反射率と記録感度は、HD DVD−R規格を満足し、また、80℃85%RHの環境下に300時間放置した後の、保存前のPRSNRに対するPRSNR低下量(アーカイバル特性)は1.0以下であることが確認できた。
即ち、本発明のAl反射層への添加元素の効果は、酸素を除く構成元素の主成分がビスマスであり且つ酸化ビスマスを含有する記録層に対して、更には、該記録層と本発明のAl系反射層が、ZnS−SiO2を主成分とする層を介して積層されている追記型光記録媒体に対して有効であることが証明された。
【0072】
【表6】
なお、上記実施例では、図1に示したようなHD DVD−R構成の追記型光記録媒体で効果を確認したが、図2に示したようなBD−R構成としても同様の結果が得られた。
【0073】
(実施例32〜48、比較例8〜16)
本発明に係る追記型光記録媒体の記録・再生信号の評価を実施するため、図1、図2に示した層構成の追記型光記録媒体を、次のようにして作製した。
<図1の媒体について>
実施例1と同じ成形機と金型を用いて射出成形した厚さ0.6mmのポリカーボネート製基板1(三菱エンジニアリングプラスチックス社製ユーピロンH−4000)上に、エリコン社製スパッタ装置(DVDスプリンター)を用いて、スパッタ法で、Al2O3からなる膜厚15nmの下部保護層2、Bi10Fe5Oxからなる膜厚13nmの記録層3、ZnS−SiO2(80:20モル%)からなる膜厚20nmの上部保護層4、及びAlTi(Ti:1重量%)からなる膜厚110nmの反射層5を順に製膜した。
次に、反射層5上に、スピンコート法で紫外線硬化性樹脂(大日本インキ化学工業社製、SD−381)を塗布し膜厚5μmのオーバーコート層6を形成した。
更に、オーバーコート層6上に、厚さ0.6mmのポリカーボネート製保護基板8を、接着層7となる紫外線硬化性樹脂(日本化薬製KAYARAD DVD−003)で貼り合わせた。
<図2の媒体について>
実施例1と同じ成形機と金型を用いて射出成形した厚さ1.1mmのポリカーボネート製基板1(三菱エンジニアリングプラスチックス社製ユーピロンH−4000)上に、スパッタ法で順次、AlTi(Ti:1重量%)からなる膜厚35nmの反射層5、Si3N4からなる膜厚13nmの上部保護層4、Bi2BOxからなる膜厚16nmの記録層3、ZnS−SiO2(80:20モル%)からなる膜厚10nmの下部保護層2を順に成膜した。
次に、下部保護層2上に、スピンコート法で紫外線硬化性樹脂(日本化薬社製KAYARAD BRD−807)を塗布し厚さ0.1mmのカバー層9を形成した。
上記記録層材料の「x」は酸素欠損が生じていることを意味している。これらの記録層は、酸素以外の構成元素(Bi、Fe、B)の化学量論組成を満たす酸化物を用いてスパッタ法で作成されるが、通常の場合、酸素欠損を生じる。しかし、正確な酸素欠損量は測定できないため「x」と表現した。なお、酸素欠損の結果、記録層には、Bi、Fe、Bの単体を含むことになる。
【0074】
上記のようにして作製した追記型光記録媒体は、何れも記録極性が「High to Low」であった。
これらの光記録媒体の記録・再生特性を調べるため、図1の光記録媒体については、波長:405nm、NA:0.65のパルステック工業社製の光ディスク評価装置ODU−1000を用いて、HD DVD−R規格〔DVD Specifications for High Density Recordable Disc(HD DVD−R) Version1.1〕に合わせた条件により、また、図2の光記録媒体については、波長:405nm、NA:0.85のパルステック工業社製の光ディスク評価装置ODU−1000を用いて、Blu−ray Disc Recordable(BD−R)規格〔System Description Blu−ray Disc Recordable Format Version1.0〕に合わせた条件により、トラックに記録マークを形成し、それぞれ規格の1倍速での記録・再生信号の評価を行なった。
記録方法としては、図3、図4に示した記録ストラテジを採用し、予熱パワー(Pb)の予熱パルスを記録層に加えて予熱した後、記録パワー(Pw)を加えた。また、図4の場合には、更に冷却パワー(Pc)を加えた。これにより、予め記録層をその記録マーク形成開始温度未満の温度に予熱し、続いて、予熱された記録層を記録マーク形成開始温度以上の温度に加熱した。更に、図4の場合には、冷却パワーを加えることにより記録層の冷却を早めた。
図1の光記録媒体の記録ストラテジの波形とパラメータを図10に、図2の光記録媒体の記録ストラテジの波形とパラメータを図11に、各パワーの強度(mW)及び予熱パワーと記録パワーの比(Pb/Pw)を表7に示す(図中のTはチャネルクロック周期を示す)。冷却パワー(Pc)を加えない場合には、図10、図11の右端のクーリングパルスが無い波形となる。なお、表には再生パワー(Pr)が記載されているが、図10、図11は記録ストラテジの波形を示すものであるから、再生パワーは省略した。また、図10、図11中の各パラメータの符号は、何れも規格で使われているものである。
記録・再生信号の評価における記録品質の指標としては、図1の光記録媒体では、HD DVD−R規格に基づいたPRSNRを用いた。判定基準は、PRSNRが15以上のものを「○」、15未満のものを「×」とした。
一方、図2の光記録媒体では、Blue−ray Disk Recordable規格に基づいたジッタを用いた。判定基準は、ジッタが6.5%以下のものを「○」、6.5%より大きいものを「×」とした。
評価結果を表7に示す。
【0075】
【表7】
【0076】
表7から分かるように、実施例32〜48のように、記録パワーに対して予熱パワーが70%以下の場合には、PRSNRが15以上、又はジッタが6.5%以下の値を示した。
これに対し、比較例9、11、13、15のように予熱パワーが70%を超えると、PRSNRが15よりも小さな値、又はジッタが6.5%より大きな値となり、十分な記録品質を得ることができなかった。記録品質が悪化したのは、予熱パワーが強すぎて記録マークが広がりすぎてしまったことに起因すると考えられる。
また、比較例8、10、12、14においては、予熱パワーが再生パワーと同じであるため、記録品質が悪化した。予熱パワーが弱い場合は、記録パワーが強くても温度上昇が遅れ、記録マーク形状にバラツキが生じてしまうことに起因すると考えられる。
また、冷却工程を設ける場合には、冷却パワーを予熱パワーよりも弱くする必要があり、この条件を満たさないと、比較例16のように記録品質が悪化する。
【0077】
(実施例49〜51)
図2の光記録媒体に対し、予熱パワーをPb1とPb2に分け、各パワーの強度(mW)を表8に示す値とした点以外は、実施例41と同様にして、記録・再生信号の評価を行った。記録ストラテジの波形とパラメータは図11と同じである。結果を表8に示す。
【0078】
(実施例52〜54、比較例17)
図2の光記録媒体に対し、図12に示す記録ストラテジの波形(記録パルスが単パルス)とパラメータを用い、各パワーの強度(mW)を表8に示す値とし、記録線速を規格の4倍速とした点以外は、実施例41と同様にして、記録・再生信号の評価を行った(図中のTはチャネルクロック周期を示す)。なお、表には再生パワー(Pr)が記載されているが、図12は記録ストラテジの波形を示すものであるから、再生パワーは省略してある。また、図12中の各パラメータの符号は何れも規格で使われているものである。
結果を表8に示すが、比較例17では、予熱パワーが記録パワーの70%を超えるため、記録品質が悪化している。
【0079】
(実施例55〜56、比較例18)
図2の光記録媒体に対し、図13に示す記録ストラテジの波形とパラメータを用い、各パワーの強度(mW)を表8に示す値とし、記録線速を規格の4倍速とした点以外は、実施例41と同様にして、記録・再生信号の評価を行った(図中のTはチャネルクロック周期を示す)。なお、表には再生パワー(Pr)が記載されているが、図13は記録ストラテジの波形を示すものであるから、再生パワーは省略してある。また、図12中の各パラメータの符号は何れも規格で使われているものである。また、図中のPmは、このストラテジでは第2の記録パワーに相当するが、既に図8〜図9において第2、第3記録パワーがあるため、第4記録パワーと呼ぶことにした。
結果を表8に示すが、比較例18では、予熱パワーが記録パワーの70%を超えるため、記録品質が悪化している。
【0080】
【表8】
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の対象となる追記型光記録媒体の層構成の一例を示す模式図。
【図2】本発明の対象となる追記型光記録媒体の層構成の他の例を示す模式図。
【図3】本発明の記録方法における記録マーク形成時の予熱工程とそれに続く加熱工程及び冷却工程を説明するための模式図。
【図4】本発明の記録方法における記録マーク形成時の予熱工程とそれに続く加熱工程及び冷却工程を説明するための模式図。
【図5】本発明の記録方法における記録マーク形成時の予熱工程とそれに続く加熱工程及び冷却工程を説明するための模式図。
【図6】本発明の記録方法における記録マーク形成時の予熱工程とそれに続く加熱工程及び冷却工程を説明するための模式図。
【図7】本発明の記録方法における記録マーク形成時の予熱工程とそれに続く加熱工程及び冷却工程を説明するための模式図。
【図8】本発明の記録方法における記録マーク形成時の予熱工程とそれに続く加熱工程及び冷却工程を説明するための模式図。
【図9】本発明の記録方法における記録マーク形成時の予熱工程とそれに続く加熱工程及び冷却工程を説明するための模式図。
【図10】実施例32〜37、及び比較例8〜11の記録ストラテジの波形とパラメータを示す図。(a)波形の模式図、(b)各パラメータの値。
【図11】実施例38〜48、及び比較例12〜16の記録ストラテジの波形とパラメータを示す図。(a)波形の模式図、(b)各パラメータの値。
【図12】実施例52〜54、及び比較例17の記録ストラテジの波形とパラメータを示す図。(a)波形の模式図、(b)各パラメータの値。
【図13】実施例55〜56、及び比較例18の記録ストラテジの波形とパラメータを示す図。(a)波形の模式図、(b)各パラメータの値。
【図14】実施例1〜9における半径位置別の溝深さとプッシュプルの関係を示す図。
【図15】実施例1〜9における半径40mmでの溝幅とプッシュプルの関係を示す図。
【図16】実施例1〜9におけるシステムリードイン領域(SLI)の溝深さと変調度の関係を示す図。
【図17】実施例1〜9における半径40mmでの溝深さとPRSNRの関係を示す図。
【図18】実施例1〜9における半径40mmでの溝深さとSbERの関係を示す図。
【図19】実施例11における下部保護層膜厚と反射率変動比率の関係を示す図。
【図20】実施例11における下部保護層膜厚と変調度変動比率の関係を示す図。
【図21】実施例11における下部保護層膜厚とPRSNR変動比率の関係を示す図。
【図22】実施例11における下部保護層膜厚とSbER変動比率の関係を示す図。
【図23】Al合金の添加元素量を変化させたときの、反射率、PRSNRとの関係を示す図。
【図24】初期PRSNRと、80℃85%RHの環境下に300時間放置した後のPRSNRとの比較結果を示す図。
【符号の説明】
【0082】
1 基板
2 下部保護層
3 記録層
4 上部保護層
5 反射層
6 オーバーコート層
7 接着層
8 保護基板
9 カバー層
T チャネルクロック周期
Pw 記録パワー
Pw1 第1記録パワー
Pw2 第2記録パワー
Pw3 第3記録パワー
Pm 第4記録パワー
Pb 予熱パワー
Pb1 第1予熱パワー
Pb2 第2予熱パワー
Pr 再生パワー
Pc 冷却パワー
【技術分野】
【0001】
本発明は、追記型光記録媒体、特に青色レーザ波長領域で高密度の記録が可能な追記型光記録媒体、及び、該光記録媒体への記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、普及が目覚しいDVD(Digital Versatile Disc)記録媒体の規格では、レーザ波長(λ)650nm(業務用のオーサリング用途の追記型では635nm)、対物レンズの開口数(NA)0.6、記録層の形成されている基板1枚の厚さ0.6mmであり、記録層一層当たりの記憶容量が4.7GBと定められている。
この記憶容量で、殆どの映画一本分を収容できる133分間の映像、音声、及び字幕を再生することが可能である。
一方、高精細(HD:High Definition)動画像を2時間再生又は記録再生するための開発も進められており、そのために必要な記憶容量は、ほぼ15GBと見積もられ、レーザ波長(λ)405nm、対物レンズの開口数(NA)0.65、記録層の形成されている基板1枚の厚さ0.6mmであり、記録層一層当たりの記憶容量が15GB(HD DVD−Rの場合)と定められたHD DVD規格が制定されている。
このHD DVD−R規格では、レーザ光源の短波長化による高密度化の他に、記録マーク密度の向上を可能にする信号処理技術(PRML技術)が採用されている。
【0003】
このPRMLは、集光ビーム径に比して記録マーク長が短くなったときに起こる符号間干渉に強い読み出し方法であり、従来、DVD記録媒体から信号を再生する際には、閾値電圧と読み出し電圧値とを比較するレベルスライス法という手法を用いてきたが、PR(Partial Response:パーシャルレスポンス)法とML(Maximum Likelihood;最尤)復号法とを組み合わせたPRML法を用いると、記録密度が高い場合でもレベルスライス法より安定した再生を行なうことができる。
また一方で、高密度化を図るために、記録再生波長を405nm程度まで短くし、かつ、対物レンズの開口数を0.85程度まで大きくして、ディスク構造に0.1mmのカバー層方式を採用することにより、DVDの4倍以上となる25GB/面の記録容量を実現したBlu−ray規格が制定されている。
これらの青色レーザ波長領域のレーザ光で記録再生を行なう追記型光記録媒体(HD DVD規格における追記型光記録媒体であるHD DVD−Rや、Blu−ray規格における追記型光記録媒体であるBD−R)を実現させるために、CD−RやDVD±Rとは異なる記録材料が開発されている。
上記青色レーザ波長領域のレーザ光とは、405nm±15nm(390nm〜420nm)程度の波長のレーザ光を示す。実際に規格で定められているレーザ光の波長は、Blu−ray disc規格でも、HD DVD規格でも、その範囲内となる405nm±5nmである。
【0004】
従来の追記型光記録媒体では、有機材料からなる記録層にレーザ光を照射し、主に有機材料の分解・変質による屈折率変化を生じさせることで記録ピットを形成させており、記録層に用いられる有機材料の光学定数や分解挙動が、良好な記録ピットを形成させるための重要な要素となっている。
したがって、青色レーザ対応の追記型光記録媒体の記録層に用いる有機材料としては、青色レーザ波長に対する光学的性質や分解挙動の適切な材料を選択する必要がある。
即ち、High to Low型(記録によって反射率が低下する)の追記型光記録媒体の場合、未記録時の反射率を高め、またレーザの照射によって有機材料が分解し大きな屈折率変化が生じるようにするため(これによって大きな変調度が得られる)、記録再生波長は大きな吸収帯の長波長側の裾に位置するように選択される。何故ならば、有機材料の大きな吸収帯の長波長側の裾は、適度な吸収係数を有し且つ大きな屈折率が得られる波長領域となるためである。
【0005】
しかしながら、青色レーザ波長に対する光学的性質が従来並み(CD−RやDVD±R並)の値を有する材料は見出されていない。何故ならば、有機材料の吸収帯を青色レーザ波長近傍に持たせるためには分子骨格を小さくするか或いは共役系を短くする必要があるが、そうすると吸収係数の低下、即ち屈折率の低下を招くためである。
つまり、青色レーザ波長近傍に吸収帯を持つ有機材料は多数存在し、吸収係数を制御することは可能であるが、大きな屈折率を持たないため、High to Low型で、CD−RやDVD±Rのような非常に優れた記録再生特性を実現することが困難である。
そこで近年、青色レーザ対応の追記型光記録媒体に有機材料を利用するため、記録極性を「Low to High」、いわゆる「未記録部の反射率が記録マーク部よりも低くなるもの」とする傾向が見られる。
【0006】
しかし、記録装置から見た場合、再生専用の光記録媒体(ROM)や従来から使用されている光記録媒体との互換性がなくなる等の観点から、記録極性は「High to Low」である方がより好ましいことは否めない。
そのため本発明者らは、有機材料に代えて無機材料を記録層として使用することを提案している。例えば、本発明者らが提案した、青色レーザ波長以下でも高密度の記録が可能な追記型光記録媒体として、特許文献1〜4及び本出願人の先願に係る、特願2005−064328、特願2005−071626等がある。
これら特許文献1〜4、及び先願では、金属又は半金属の酸化物、とりわけビスマス酸化物を主成分とする記録層、或いは、酸素を除く構成元素の主成分がビスマスであり且つ酸化ビスマスを含有する記録層の有用性を提案している。
【0007】
ところで、光記録媒体では一般に高反射率化が容易なことや熱伝導率の特性から反射層にAgを用いることが多い。しかし、Agは安定性に問題があり、特に反射層に接する層に硫黄(S)を含む場合には、Agの硫化が起き特性が劣化し易いという問題がある。
その対策として、特許文献5などには、保護層と反射層の間に界面層を設ける方法が開示されている。また、特許文献6などには、添加元素を加えてAg合金とすることにより安定性を向上させる方法が開示されている。
しかし、界面層を設ける特許文献5の方法は、層の数が増えることにより製造工程が増えるなどの問題があり、特許文献6のAg合金を用いる方法では、十分に劣化を防止することができない。
【0008】
本発明者らが提案している酸素を除く構成元素の主成分がビスマスであり且つ酸化ビスマスを含有する記録層を有する追記型光記録媒体の反射層としてAg又はAg合金(Ag系反射層)を利用することは可能であるが、上述の層数増加によるコスト増、安定性の問題以外に、反射率が高くなりすぎて記録感度が悪化するという問題がある。
例えば、酸素を除く構成元素の主成分がビスマスであり、かつ酸化ビスマスを含有する記録層を用いてHD DVD−R SL(Single Layer)を作製した場合(記録極性はHigh to Lowの場合)、最良なPRSNR(パーシャル・レスポンス・ツー・ノイズ・レシオ)、エラー率が得られる膜厚設定が行われた時のデータ部の反射率は25%程度(規格値は14〜28%)、システムリードインの反射率は30〜32%(規格値は16〜32%)となり、1Xの記録感度も9.0〜10.0mWとなっており(規格値は10.0mW以下)、一応規格値を満足することは可能であるが、更なる高感度化が望まれる。
【0009】
同様に、酸素を除く構成元素の主成分がビスマスであり且つ酸化ビスマスを含有する記録層を用いてBD−R SL(Single Layer)を作製した場合(記録極性はHigh to Lowの場合)、最良なジッタ、エラー率が得られる膜厚設定が行われた時のデータ部の反射率は25%程度(規格値は11〜24%)となり、1Xの記録感度も6.0mW程度となっており(規格値は6.0mW以下)、一応規格値を満足することは可能であるが、更なる高感度化が望まれる。
このように、酸素を除く構成元素の主成分がビスマスであり且つ酸化ビスマスを含有する記録層を有する追記型光記録媒体において、反射率が高くなりすぎる原因は、該記録層が、青色レーザ波長においても比較的高い透過率を有するためである。
勿論、酸素を除く構成元素の主成分がビスマスであり且つ酸化ビスマスを含有する記録層や、この記録層に隣接する層の膜厚を調整すれば、追記型光記録媒体としての反射率を適当な範囲に抑制し、感度を改善することは可能であるが、感度中心の層構成、膜厚設定を行なうと、一般的にPRSNR、ジッタ、エラー率等の記録特性が悪化する傾向が見られる。
【0010】
そこで、本発明者らは高い生産性、保存信頼性を有し、かつ高感度化を実現させるために、酸素を除く構成元素の主成分がビスマスであり且つ酸化ビスマスを含有する記録層を有する追記型光記録媒体用の反射層材料として、従来のAg系反射層に替えてAl−Ti合金(Ti0.5原子%)を適用した。
Tiの添加量を0.5原子%とした理由は、従来、反射層に要求される物性は高反射率と高熱伝導率であり、Alの反射率特性と熱伝導特性を損なわないようにするためには、一般的に添加元素はAlに対し1重量%程度以下にするというのが常識となっているためである(添加元素がTiの場合、Alに対する添加量1重量%は0.58原子%に相当)。
【0011】
酸素を除く構成元素の主成分がビスマスであり且つ酸化ビスマスを含有する記録層を有する追記型光記録媒体用の反射層材料としてAl−Ti合金(Ti0.5原子%)を適用した結果、Ag系反射層に比べて追記型光記録媒体としての反射率を概ね80%以下に抑制することができ、例えば、酸素を除く構成元素の主成分がビスマスであり且つ酸化ビスマスを含有する記録層を適用したHD DVD−R SLの媒体では、記録感度は8.0mW程度となり、記録感度の改善が図られることを確認した。
また、酸素を除く構成元素の主成分がビスマスであり且つ酸化ビスマスを含有する記録層とAl−Ti合金(Ti0.5原子%)からなる反射層の間にZnS−SiO2層を設けた層構成を採用した場合でも、Ag系反射層材料で見られたような硫化による欠陥の増加は認められず、保存信頼性の改善が図られることを確認した。
【0012】
また、追記型光記録媒体に関しては各種の技術が提案されている。例えば、有機色素記録層を有する光記録媒体に多段階のマルチレベルの記録を行ない、良好な信号品質を得る光記録方法が提案されている(例えば、特許文献7、8参照)。
しかしながら、有機色素を記録層とする場合、青色レーザ波長領域において光学特性(反射率や変調度など)が十分でなく、特に、記録極性が「High to Low」である青色レーザ対応の追記型光記録媒体への適用は難しい。
また、記録マークを形成するときには、前後の記録マークやスペースの種類による熱分布の変化を低減させるために、記録ストラテジと呼ばれる発光パワーのパルス形状等に関する規則(方式)に基づいて、発光パワーのパルス形状等を設定している。記録ストラテジは記録品質に大きな影響を与えるため、記録ストラテジの最適化が重要となる。
例えば、再生時の信号品質の劣化を防止するため、記録層(色素使用)にレーザビームの照射時間を多段階に切り替えて照射し、データをマルチレベルで記録する記録方法が提案されている(例えば、特許文献9〜11参照)。
しかしながら、上記提案の記録ストラテジは色素使用の記録層において適合するものであり、本発明の対象となる青色レーザ対応の酸化ビスマスを主成分とする記録層の場合には良好な記録マーク形成が難しい。
【0013】
そのため、本出願人は先に、基板上に少なくともR及びOの各元素を含有する薄膜と、有機材料薄膜を有する追記型光記録媒体及びその記録再生方法について提案した(例えば特許文献2、3参照)。これらの光記録媒体は、青色レーザ波長領域以下の短波長で多値記録が可能なものである。なお、これらの技術に関しては、非特許文献1、2にも報告されている。
しかし、提案の記録再生方法における記録ストラテジでは記録マーク形成において記録品質が必ずしも十分とは云えず、更なる向上が求められている。
また、良好な記録品質での記録を行なうためには、記録ストラテジによる記録マーク形成方法の制御の他に、記録時のトラッキングサーボの安定性を確保することも重要な要素となる。
しかしながら、これらの従来技術では、トラッキングサーボの安定性の向上、ウォブルを利用したアドレス情報の再生安定性の向上、及び、システムリードイン領域にプリピットにより記録した情報の再生安定性の向上を図ろうとすると、記録特性が悪くなってしまうという問題があることが分った。
【0014】
【特許文献1】特開2003−48375号公報
【特許文献2】特開2005−108396号公報
【特許文献3】特開2005−161831号公報
【特許文献4】特開2006−248177号公報
【特許文献5】特開2004−327000号公報
【特許文献6】特開2004−339585号公報
【特許文献7】特開2001−184647号公報
【特許文献8】特開2002−25114号公報
【特許文献9】特開2003−151137号公報
【特許文献10】特開2003−141725号公報
【特許文献11】特開2003−132536号公報
【非特許文献1】Write−Once Disk with BiFeO Thin Films for Multilevel Optical Recording,JJAP,Vol.43,No.7B,2004,pp.4972
【非特許文献2】Write−Once Disk with BiFeO Thin Films for Multilevel Optical Recording,JJAP,Vol.44,No.5B,2005,pp.3643−3644
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記従来技術に鑑みてなされたものであり、青色レーザ波長領域でも精度の良い記録マークを形成でき、良好な記録品質で情報を記録できる無機記録層を備えた追記型光記録媒体、特に、無機記録層として酸化ビスマスを主成分とする記録層を備えた追記型光記録媒体について、更なる記録特性と保存信頼性の向上を図ること、及び、該光記録媒体、特に、記録極性が「High to Low」である光記録媒体に対しても適用可能な記録方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題は、次の1)〜22)の発明によって解決される。
1) 基板上に、少なくとも、無機材料からなる記録層と反射層が形成されており、青色レーザ光の照射により該記録層に非可逆的な変化を生じさせて情報の記録を行なうことができることを特徴とする追記型光記録媒体。
2) 青色レーザ光の波長が390〜420nmであることを特徴とする1)記載の追記型光記録媒体。
3) 基板が案内溝を有し、該基板上に、少なくとも、記録層、上部保護層、反射層をこの順に有することを特徴とする1)又は2)記載の追記型光記録媒体。
4) 基板が案内溝を有し、該基板上に、少なくとも、下部保護層、記録層、上部保護層、反射層をこの順に有することを特徴とする1)又は2)記載の追記型光記録媒体。
5) 基板が案内溝を有し、該基板上に、少なくとも、反射層、上部保護層、記録層、カバー層をこの順に有することを特徴とする1)又は2)記載の追記型光記録媒体。
6) 基板が案内溝を有し、該基板上に、少なくとも、反射層、上部保護層、記録層、下部保護層、カバー層をこの順に有することを特徴とする1)又は2)記載の追記型光記録媒体。
7) 下部保護層が、酸化物、窒化物、炭化物、硫化物、ホウ化物、ケイ化物、炭素の単体、又はそれらの混合物を主成分とする無機材料から形成されており、膜厚が20〜90nmであることを特徴とする4)又は6)記載の追記型光記録媒体。
8) 下部保護層及び/又は上部保護層が、ZnS−SiO2を主成分とする材料からなることを特徴とする3)〜7)の何れかに記載の追記型光記録媒体。
9) 基板がウォブル付き案内溝を有し、該案内溝の溝幅が半値幅で170〜230nm、溝深さが23〜33nmであることを特徴とする1)〜8)の何れかに記載の追記型光記録媒体。
10) ウォブル付き案内溝のトラックピッチが0.4±0.02μmであることを特徴とする9)記載の追記型光記録媒体。
11) ウォブルの振幅量が16±2nmであることを特徴とする9)又は10)記載の追記型光記録媒体。
12) 酸素を除く構成元素の主成分がビスマスであり且つ酸化ビスマスを含有する記録層と、Alに対して、下記元素群(I)から選択された少なくとも1種の元素を、合計で0.6〜7.0原子%含有させた反射層を有することを特徴とする1)〜11)の何れかに記載の追記型光記録媒体。
元素群(I):Mg、Pd、Pt、Au、Zn、Ga、In、Sn、Sb、Be、Ru、Rh、Os、Ir、Cu、Ge、Y、La、Ce、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ti、Zr、Hf、Si、Fe、Mn、Cr、V、Ni、Bi、Ag
13) 元素群(I)から選択された少なくとも1種の元素の合計が1.0〜5.0原子%であることを特徴とする12)記載の追記型光記録媒体。
14) 記録層がビスマス、酸素、及び下記元素群(II)から選択された少なくとも1種の元素Xを含有することを特徴とする1)〜13)の何れかに記載の追記型光記録媒体。
元素群(II):B、Si、P、Fe、Co、Ni、Cu、Ga、Ge、As、Se、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Sn、Sb、Te、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、Pb、Po、At、Zn、Cd、In
15) 光記録媒体に対し、予熱工程とそれに続く加熱工程とを有する記録ストラテジにより記録マークを形成し、予熱工程では、再生パワー(Pr)より強く且つ記録パワー(Pw)の70%以下である予熱パワー(Pb)の予熱パルスを照射し、加熱工程では、記録パワー(Pw)の記録パルスを照射することを特徴とする1)〜14)の何れかに記載の追記型光記録媒体への記録方法。
16) 光記録媒体に対し、予熱工程とそれに続く加熱工程及び冷却工程を有する記録ストラテジにより記録マークを形成し、予熱工程では、再生パワー(Pr)より強く且つ記録パワー(Pw)の70%以下である予熱パワー(Pb)の予熱パルスを照射し、加熱工程では、記録パワー(Pw)の記録パルスを照射し、冷却工程では、予熱パワー(Pb)より弱い冷却パワー(Pc)の冷却パルスを照射することを特徴とする1)〜14)の何れかに記載の追記型光記録媒体への記録方法。
17) 予熱パルスが、互いに異なるパワーを有する2種類以上のパルスを含むことを特徴とする15)又は16)記載の記録方法。
18) 記録パルスが単パルスであることを特徴とする15)〜17)の何れかに記載の記録方法。
19) 単パルスの記録パワーを、形成する記録マークの長さに応じて2種類以上に変化させることを特徴とする18)記載の記録方法。
20) 記録パルスが、2種類以上のパワーの組み合わせからなるパルスであることを特徴とする15)〜17)の何れかに記載の記録方法。
21) 4T(T:チャネルクロック周期)以上の記録マークを形成する場合に、前記加熱工程において、前記記録パワー(Pw)よりも小さく、かつ前記予熱パワー(Pb)よりも大きいパワー(Pm)でレーザ光を照射する工程を更に備えることを特徴とする16)記載の記録方法。
22) 2T(T:チャネルクロック周期)の記録マークを形成する場合に、前記加熱工程に続いて、前記冷却工程を実行することを特徴とする16)記載の記録方法。
【0017】
以下、本発明の実施の形態について詳しく説明するが、本発明はこれらの実施の形態に限定されるものではない。
本発明の光記録媒体は、下記のような構成とすることが好ましいが、これに限定される訳ではない。
(a) 基板(光透過層)/記録層/上部保護層/反射層
(b) 基板(光透過層)/下部保護層/記録層/上部保護層/反射層
(c) カバー層(光透過層)/記録層/上部保護層/反射層/基板
(d) カバー層(光透過層)/下部保護層/記録層/上部保護層/反射層/基板
更に、上記構造を基本として、多層化されても構わない。例えば、(a)の構成を基本として二層化される場合には、次のような層構成が挙げられる。
(e) 基板(光透過層)/記録層/上部保護層/反射層(半透過層)/接着層/記録層/上部保護層/反射層/基板
【0018】
この基本構成に対し、必要に応じて、反射層上にオーバーコート層(耐環境保護層)を設けたり、反射層にAg系金属材料を使用する場合には上部保護層との間に中間層(界面層、バリア層、硫化防止層、酸化防止層とも言う)を設けたり、基板又はカバー層の表面側(記録層又は下部保護層と接している面の反対側)にハードコート層を設けたり、オーバーコート層上に印刷層を設けたりしても良い。また、上記の(a)、(b)のような単板ディスクを、接着層を介して貼り合わせた構造としてもよい。その際、オーバーコート層は形成せず、その機能を接着層で兼ねても良い。貼り合わせる反対面のディスクは、透明基板のみでも、同様の単板ディスクでも、単板ディスクの層構成を逆に積層したもの、即ち、基本構成を基板/反射層/保護層/記録層/保護層とした構成の単板ディスクでも良い。また、単板ディスクに印刷層を形成せずに貼り合わせ、貼り合わせ後に反対面側に印刷層を形成しても良い。
図1、図2に、本発明の追記型光記録媒体の層構成の一例について、模式図を示す。
図1に示す追記型光記録媒体は、基板1上に、下部保護層2、記録層3、上部保護層4、反射層5、オーバーコート層6、接着層7、保護基板8が順次設けられている。
図2に示す追記型光記録媒体は、基板1上に、反射層5、上部保護層4、記録層3、下部保護層2、カバー層9が順次設けられている。
【0019】
次に、各構成層について説明する。
本発明の記録層には、無機材料を用いる。
記録層に無機材料を用いた追記型光記録媒体としては、特開2003−145934号公報に述べられているように、主にレーザ光照射により媒体にピット(穴)をあけて情報を記録する方式のものと、相変化や合金化等による構造変化を生じさせ反射率を変化させて情報を記録する方式のものが提案されている。しかしながら、ピット方式の場合は、記録密度の向上に伴って均一なピットを得ることが困難となり、これにより信号特性と記録感度が劣化するため、あまり望ましくない。一方、相変化方式の場合には、結晶と非晶の間の相転移を利用するものにおいて、場合により記録マークが消去される危険性があり、合金化方式の場合には、レーザ照射による反射率の変動、即ち、記録マークの再生信号のコントラストが小さいという問題を有するが、記録マークの大きさを制御するためには、構造変化を利用するこれらの方式が望ましい。
【0020】
本発明の記録層として、特に好ましいのは、酸素を除く構成元素の主成分がビスマスであり、かつ、酸化ビスマスを含有する無機記録材料である。
ビスマスは、金属ビスマス、ビスマス合金、ビスマス酸化物、ビスマス硫化物、ビスマス窒化物、ビスマス弗化物等の何れの状態で含有されていてもよいが、酸化ビスマス(ビスマス酸化物の1つ)は必ず含有されていなければならない。
記録層中に酸化ビスマスを含有させることにより、記録層の熱伝導率を低くすることができ、高感度化や低ジッタ化を図ることができるし、記録層の複素屈折率虚部を小さくすることができるので、透過性に優れた記録層となり、多層化が容易になる。
更に、記録再生特性の改良のため、記録層中にビスマス以外の元素Xを添加することが好ましい。ビスマス及び元素Xは、安定性向上や熱伝導率の観点から、例えば、酸化状態で存在させることが望ましいが、完全に酸化させる必要はない。
即ち、本発明の記録層がビスマス、酸素、元素Xの3元素から構成される場合、ビスマス、ビスマス酸化物、元素X、元素Xの酸化物が含まれていても良い。
【0021】
記録層中にビスマス(金属ビスマス)と酸化ビスマスを混在させる方法(ビスマス元素を異なる状態で記録層中に存在させる方法)としては、例えば、次の(イ)〜(ハ)のような方法が考えられる。
(イ)ビスマス酸化物ターゲットを用いてスパッタする方法
(ロ)ビスマスターゲットとビスマス酸化物のターゲットを用いてスパッタする方法
(共スパッタ法)
(ハ)ビスマスターゲットを用い、酸素導入を行ないながらスパッタする方法
(イ)の方法では、ターゲット中のビスマスが完全に酸化した状態となっているが、真空度やスパッタパワー等のスパッタ条件により、酸素が欠損し易いという現象を利用するものである。
【0022】
記録層に元素Xを添加する理由の1つは、熱伝導率を下げて微小マークを形成させ易くするためである。熱伝導率は、フォノンの散乱に起因する値であるため、粒子サイズや結晶サイズが小さくなる場合、材料を構成する原子の数が多い場合、更には構成する原子の原子量差が大きい場合等に、熱伝導率を下げることができる。
したがって、酸素を除く構成元素の主成分がビスマスであり且つ酸化ビスマスを含有する記録層に元素Xを添加することにより、熱伝導率を制御し、高密度記録特性を向上させることができるのである。
更に、酸素を除く構成元素の主成分がビスマスであり且つ酸化ビスマスを含有する記録層では、記録によって、ビスマスの酸化物やビスマスが結晶化するが、この結晶や結晶粒の大きさを元素Xによって制御できる。
したがって、元素Xによって記録部の結晶や結晶粒の大きさを制御することができ、ジッタ等の記録再生特性を大きく向上できる。これが記録層に元素Xを添加する、もう1つの理由である。
【0023】
熱伝導率の観点からは、記録層に添加できる元素Xに課せられる条件は、原料の安定性や製造の難易度等の単純な条件以外には殆どない。しかしながら、記録層の信頼性(再生安定性や保存安定性)は、元素Xによって大きく変動する可能性があるため、信頼性に関しては、下記(i)〜(ii)の条件が有効である。
(i)Paulingの電気陰性度が1.80以上の元素
(ii)Paulingの電気陰性度が1.65以上、かつ酸化物の標準生成エンタルピーΔHf0が、−1000(kJ/mol)以上である、遷移金属を除く元素
この(i)〜(ii)を満足する元素Xを用いることにより、ジッタ等の記録再生特性が良好で、かつ高い信頼性を有する追記型光記録媒体を実現できる。
【0024】
以下、上記条件(i)〜(ii)について詳しく説明する。
酸素を除く構成元素の主成分がビスマスであり且つ酸化ビスマスを含有する記録層の信頼性が低下する主な原因は、酸化の進行、或いは酸化状態の変化(価数の変化等)である。
この酸化の進行や酸化状態の変化が信頼性の低下を招く恐れがあるため、元素Xの物性値としてPaulingの電気陰性度と、酸化物の標準生成エンタルピーΔHf0が重要になるのである。
信頼性を十分高めるためには、第一に、元素Xとして、Paulingの電気陰性度が1.80以上の元素を選ぶことが好ましい。
これは、Paulingの電気陰性度が高い元素では、酸化が進行しにくいためであり、十分な信頼性を確保するためには、1.80以上のPaulingの電気陰性度を有する元素が有効であることによる。また、Paulingの電気陰性度が1.80以上であれば、酸化物の標準生成エンタルピーΔHf0がどのような値をとっても構わない。
Paulingの電気陰性度が1.80以上の元素Xとしては、B、Si、P、Fe、Co、Ni、Cu、Ga、Ge、As、Se、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Sn、Sb、Te、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、Pb、Po、Atが挙げられる。
【0025】
ここで簡単に電気陰性度について説明する。
電気陰性度とは、分子内に存在する原子が、電子をどれだけ自分自身に引き付けるかを表した尺度のことである。電気陰性度の値の決め方には、Paulingの電気陰性度、Mullikenの電気陰性度、Allred−Rochowの電気陰性度などがあるが、本発明では、Paulingの電気陰性度を用いて、元素Xとしての適正を判断する。
Paulingの電気陰性度は、分子ABの結合エネルギーE(AB)は、分子AAと分子BBの結合エネルギー〔各々E(AA)、E(BB)〕の平均よりも大きく、この差が各原子の電気陰性度(χA、χB)の差の二乗であると定義する。
即ち、次式(1)のようになる。
E(AB)−〔E(AA)+E(BB)〕/2=96.48(χA−χB)2…(1)
Paulingの電気陰性度では、電子ボルトを使って電気陰性度の値を決めたため、式中には変換係数の96.48(1eV=96.48kJmol−1)が入る。
【0026】
注目する元素が分子中でどのような原子価をとるかによって電気陰性度が異なるため、本発明では各元素のPaulingの電気陰性度を決めるにあたり、下記のような制限を加える。
即ち、1族元素は1価、2族元素は2価、3族元素は3価、4族〜10族元素は2価、11族元素は1価、12族元素は2価、13族元素は3価、14族元素は4価、15族元素は3価、16族元素は2価、17族元素は1価、18族元素は0価のそれぞれの原子価をとったときの値を、その元素のPaulingの電気陰性度とする。
なお、先述したPaulingの電気陰性度が1.80以上の元素の、本発明での規定によるPaulingの電気陰性度は、それぞれ、B(2.04)、Si(1.90)、P(2.19)、Fe(1.83)、Co(1.88)、Ni(1.91)、Cu(1.90)、Ga(1.81)、Ge(2.01)、As(2.18)、Se(2.55)、Mo(2.16)、Tc(1.90)、Ru(2.20)、Rh(2.28)、Pd(2.20)、Ag(1.93)、Sn(1.96)、Sb(2.05)、Te(2.10)、W(2.36)、Re(1.90)、Os(2.20)、Ir(2.20)、Pt(2.28)、Au(2.54)、Hg(2.00)、Tl(2.04)、Pb(2.33)、Po(2.00)、At(2.20)である。
【0027】
これらの元素は、酸素を除く構成元素の主成分がビスマスであり且つ酸化ビスマスを含有する記録層に、複数添加することも可能である。
更にPaulingの電気陰性度が1.80未満であっても、Paulingの電気陰性度が1.65以上、かつその元素の酸化物の標準生成エンタルピーΔHf0が−1000(kJ/mol)以上である元素であれば、十分な信頼性を確保できる。
この条件が有効な理由は、Paulingの電気陰性度が多少小さくても、酸化物の標準生成エンタルピーΔHf0が大きな値であれば、酸化物を形成しにくいためである。
Paulingの電気陰性度を決めるにあたり、各族によって原子価を固定して考えたが、標準生成エンタルピーΔHf0を決める場合にも同様の条件を課す。
即ち、1族元素は1価、2族元素は2価、3族元素は3価、4族〜10族元素は2価、11族元素は1価、12族元素は2価、13族元素は3価、14族元素は4価、15族元素は3価、16族元素は2価、17族元素は1価の原子価で酸化物を構成したときの値を、その元素の酸化物の標準生成エンタルピーをΔHf0とする。
但し、遷移金属の場合は、色々な原子価で酸化物を形成するため、酸化物の標準生成エンタルピーΔHf0を簡単に決めることができない(酸化物を形成する元素の原子価が高まれば高まるほど、一般的には酸化物の標準生成エンタルピーΔHf0が小さくなる)。つまり、遷移金属の場合、酸化物を形成する原子価が種々存在するため、酸化物を形成し易いと考えられ、本発明では好ましい元素Xとならない。
【0028】
例えばV(バナジウム)は2価となるため、Vの酸化物の標準生成エンタルピーΔHf0はVOの標準生成エンタルピーΔHf0値=−431(kJmol−1)となり、本発明の元素Xへの条件(ii)に該当することになる。
しかし、Vは、VO(2価)以外に、V2O3(3価)、V2O4(4価)、V2O5(5価)等の酸化物を容易に形成する。
これらの酸化物の標準生成エンタルピーΔHf0値は、それぞれ、V2O3(−1218kJmol−1)、V2O4(−1424kJmol−1)、V2O5(−1550kJmol−1)であり、これらの値は、本発明の元素Xへの条件(ii)に該当しない。
つまり、Vがほぼ2価のみで酸化物を形成すると仮定すれば、Vは、本発明の元素Xへの条件(i)、(ii)に該当するが、Vは2価以外の酸化物を容易に形成し、これらの酸化物は酸化し易いため(より安定である)、本発明の好ましい元素Xから除外される。
この除外を明記したのが、本発明の元素Xへの条件(ii)における「遷移金属を除く」という記述である。
【0029】
ここで簡単に標準生成エンタルピーΔHf0について説明する。
一般に化学反応は、次のような化学反応式によって表される。
H2(気体)+(1/2)O2(気体)=H2O(液体)
左辺を原系、右辺を生成系という。分子についている係数は化学量論数と呼ばれる。
一定の温度で、系の化学反応に伴い出入りする熱を反応熱といい、定圧条件のもとでの反応熱を定圧反応熱という。一般の実験条件で測定される反応熱は定圧の場合が殆どなので、一般に定圧反応熱がよく用いられる。
定圧反応熱は生成系と原系のエンタルピー差「ΔH」に等しい。
ΔH>0のものは吸熱反応、ΔH<0のものは発熱反応という。
化合物がその構成元素の単体から生成するときの反応熱を生成熱又は生成エンタルピーといい、標準状態にある1モルの化合物が、標準状態にある成分元素の単体から生ずる時の反応熱を標準生成エンタルピーという。標準状態としては圧力0.1MPa(≒1気圧)の下である指定された温度(通常298K)で最も安定な物理的な状態をとり、その標準生成エンタルピーをΔHf0で示す。
また、標準状態では、それぞれの単体のエンタルピーはゼロであると約束する。
したがって、ある元素の酸化物の標準生成エンタルピーが小さな値(負の大きな値)であればあるほど、酸化物が安定で、その元素が酸化し易いと言える。
なお、標準生成エンタルピーの詳細な値は、例えば「第5版 電気化学便覧 電気化学会編(丸善)」に詳しく記載されている。
【0030】
ところで、注目する元素がどのような原子価で酸化物を形成するかによって、標準生成エンタルピーΔHf0が異なるため、本発明では各元素の酸化物の標準生成エンタルピーΔHf0を決めるに当り、上記のような制限を加える。
Paulingの電気陰性度が1.65以上、かつ酸化物の標準生成エンタルピーΔHf0が−1000(kJ/mol)以上である元素としては、Zn、Cd、Inが挙げられる。
本発明での規定によるPaulingの電気陰性度は、それぞれ、Zn(1.65)、Cd(1.69)、In(1.78)であり、本発明での規定による標準生成エンタルピーΔHf0は、それぞれ、Zn(−348kJmol−1)、Cd(−258kJmol−1)、In(−925kJmol−1)である。
なおビスマスに対する元素Xの総量の原子数比は1.25以下であることが好ましい。本発明の記録層は、酸素を除く構成元素の主成分がビスマスであり且つ酸化ビスマスを含有することを基本としているため、ビスマスに対する元素Xの総量の原子数比が1.25を超えると、本来の記録再生特性が得られない場合が生じるためである。
【0031】
本発明の追記型光記録媒体は、記録再生が680nm以下のレーザ光により行なわれることが好ましい。
本発明の記録層は、色素と異なり、広い範囲で適当な吸収係数と高い屈折率を有するため、赤色レーザ波長680nm以下のレーザ光により記録再生が可能であり、良好な記録再生特性と高い信頼性が実現できる。
その中でも、最も好ましいのは、波長450nm以下のレーザ光により記録再生を行なうことである。これは、酸素を除く構成元素の主成分がビスマスであり且つ酸化ビスマスを含有する記録層が、波長450nm以下の領域で特に追記型光記録媒体として適した複素屈折率を有するためである。
【0032】
上記記録層材料の具体例としては、例えば、本出願人の出願に係る前記特許文献2、3に記載されている下記(1)〜(5)のようなものが挙げられる。
(1)酸化ビスマスからなる材料。
(2)ビスマス元素単体と酸化ビスマスを含有する材料。
(3)Bi元素と4B族の中から選ばれる一種以上の元素を含有し、この組成をBia4BbOd(4Bは4B族の元素、a,b,dは原子比)としたとき、10≦a≦40、3≦b≦20、50≦d≦70、である酸化ビスマスを含有する材料。
(4)Al、Cr、Mn、In、Co、Fe、Cu、Ni、Zn及びTiの中から選ばれる一種以上の元素Mを含有し、この組成をBia4BbMcOd(4Bは4B族の元素、a,b,c,dは原子比)としたとき、10≦a≦40、3≦b≦20、3≦c≦20、50≦d≦70、である酸化ビスマスを含有する材料。
(5)Bi元素とO(酸素)元素、及びBi以外の元素Xを主成分とする材料で、XはB、Fe、Cu、Ti、Znなどから選ばれた少なくとも一種の元素である材料。
上記(3)、(4)の4B族の元素としては、例えば、C、Si、Ge、Sn、Pbなどが挙げられるが、SiとGeが特に好ましい。
上記酸化ビスマスを主成分とする材料は、特に、青色レーザ対応の記録層材料として非常に有用であり、熱伝導率が低く耐久性が良好で高反射率化や高透過率化が実現しやすい(複素屈折率に起因する)という特徴がある。
【0033】
他にも、酸化ビスマスを主成分とする材料を用いると、次のような利点がある。
(1)酸化物とすることで膜の硬度を高めることができる(記録層の薄膜自体の変形、
或いは基板等の隣接層の変形を抑制することが可能である)。
(2)酸化物とすることで保存安定性を高めることができる。
(3)Bi等の500nmの波長域に対して光吸収率が高い元素を含ませることで、
記録感度を向上させることができる。
(4)Bi等の低融点元素或いは拡散を起こし易い元素を含ませることで、大きな変形
を伴わないにも拘わらず大きな変調度を発生させる記録マークを形成させること
ができる。
(5)スパッタ等の気相成長法により良好な薄膜を形成させることができる。
【0034】
記録層の形成方法としては、スパッタリング法、イオンプレーティング法、化学蒸着法、真空蒸着法等が挙げられるが、スパッタリング法が好ましい。
スパッタ法を用いた場合の実際の記録層の組成は、ターゲットの状態、それぞれの元素・化合物のスパッタの進み易さ、製膜時の電力、アルゴン流量などの条件に依存して変動する。また、ターゲットの組成と製膜した膜の組成とが異なる場合も多く、その組成のズレを考慮する必要もある。
記録層の厚さについては、使用される光記録媒体の条件によって最適な値は異なるが、およそ5〜30nmの範囲にあることが望ましい。更に好ましくは、10〜25nmである。膜厚が5nmより薄くなると記録マークの変調度が小さくなるため、また、30nmを超えると記録時における記録マークの形成精度が下がるため、何れも記録信号の特性が良好でなくなるので望ましくない。
【0035】
酸化物を含む記録層では、酸素の出入りが起こると特性に影響するが、記録層の両側に保護層(上部保護層、下部保護層)を設ければ酸素の出入りが抑制され保存安定性を向上させることができる。
保護層材料としては、通常、記録時の記録層からの熱によって分解、昇華、空洞化等を起こさないものが好ましく、例えば、Nb2O5、Sm2O3、Ce2O3、Al2O3、MgO、BeO、ZrO2、UO2、ThO2などの単純酸化物系の酸化物;SiO2、2MgO・SiO2、MgO・SiO2、CaO・SiO2、ZrO2・SiO2、3Al2O3・2SiO2、2MgO・2Al2O3・5SiO2、Li2O・Al2O3・4SiO2などのケイ酸塩系の酸化物;Al2TiO5、MgAl2O4、Ca10(PO4)6(OH)2、BaTiO3、LiNbO3、PZT〔Pb(Zr,Ti)O3〕、PLZT〔(Pb,La)(Zr,Ti)O3〕、フェライトなどの複酸化物系の酸化物;Si3N4、AlN、BN、TiNなどの窒化物系の非酸化物;SiC、B4C、TiC、WCなどの炭化物系の非酸化物;LaB6、TiB2、ZrB2などのホウ化物系の非酸化物;ZnS、CdS、MoS2などの硫化物系の非酸化物;MoSi2などのケイ化物系の非酸化物;アモルファス炭素、黒鉛、ダイヤモンド等の炭素系の非酸化物等を用いることが可能である。
【0036】
上記の中で、記録再生光に対する透明性や生産性の点では、SiO2又はZnS−SiO2を主成分とするものが、十分な断熱効果を得るためには、ZrO2を主成分とするものが、安定性では、Si3N4、AlN、Al2O3を主成分とするものが好ましい。ここで主成分とは、凡そ90モル%以上含有することを意味する。
特にZnS−SiO2は、酸素、水分などの出入りを防ぐ効果が大きく、保存安定性の向上に好適である。また、ZnS−SiO2は、炭素や透明導電性材料などを添加して導電性を持たせることにより直流スパッタリングでの製膜が可能となる。また、記録層の温度を記録マークが形成されるまでに効率良く上昇させることができ、記録感度を大幅に高めることが可能となる(即ち、低記録パワーでの記録が可能となる)。更に、熱伝導率の調整のためにZnO、GeOなどを添加したり、酸化物と窒化物を混合するなどの方法も可能である。ZnSとSiO2の混合比は、70:30〜90:10(モル%)の範囲が好ましく、膜の応力がほぼゼロになる80:20が特に好ましい。
これらの無機保護層の形成方法としては、前述の記録層と同様に、スパッタリング法、イオンプレーティング法、化学蒸着法、真空蒸着法等が挙げられる。
【0037】
また、保護層には色素や樹脂などの有機材料を用いることもできる。
色素としては、ポリメチン系、ナフタロシアニン系、フタロシアニン系、スクアリリウム系、クロコニウム系、ピリリウム系、ナフトキノン系、アントラキノン(インダンスレン)系、キサンテン系、トリフェニルメタン系、アズレン系、テトラヒドロコリン系、フェナンスレン系、トリフェノチアジン系、アゾ系、ホルマザン系各色素、及びこれらの金属錯体化合物などが挙げられる。
樹脂としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ニトロセルロース、酢酸セルロース、ケトン樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ウレタン樹脂、ポリビニルブチラール、ポリカーボネート、ポリオレフィン等を用いることができ、これらを単独で又は2種以上混合して用いることができる。
【0038】
有機材料からなる保護層の形成は、蒸着、スパッタリング、CVD、溶剤塗布等の通常の手段によって行なうことができる。塗布法を用いる場合には、上記有機材料などを有機溶剤に溶解して、スプレー、ローラーコーティング、ディッピング、スピンコーティングなどの慣用のコーティング法で行なうことができる。
用いられる有機溶剤としては、一般にメタノール、エタノール、イソプロパノールなどアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミドなどのアミド類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテル類;酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステル類;クロロホルム、塩化メチレン、ジクロルエタン、四塩化炭素、トリクロルエタンなどの脂肪族ハロゲン化炭素類;ベンゼン、キシレン、モノクロルベンゼン、ジクロルベンゼンなどの芳香族類;メトキシエタノール、エトキシエタノールなどのセロソルブ類;ヘキサン、ペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの炭化水素類などが挙げられる。
【0039】
上部保護層及び下部保護層の膜厚は、記録感度、反射率等の記録・再生信号、機械特性が良好となる範囲を設定すれば良いが、記録層を保護する機能が要求される場合には、少なくとも5nm、好ましくは10nm以上の膜厚が必要である。しかし、膜厚が厚すぎると、特に無機材料層の場合、保護層を形成する際に熱変形を起こしたり、膜収縮による反りを生じたりするため、機械特性を確保することが困難となり、好ましくない。
下部保護層については、下側に接しているのが樹脂材料からなる基板である場合には、更に膜厚を厚くし、20nm以上とするのがより好適である。
したがって、下部保護層の好ましい膜厚は、5〜150nmであり、更に好ましくは、20〜90nmである。特に、ZnS−SiO2(80:20モル%)を用いる場合には、30〜90nmとするのが、より好適である。
また、上部保護層の好ましい膜厚は、5〜50nmであり、更に好ましくは、5〜30nmである。
【0040】
反射層の材料としては、再生光の波長で反射率の十分高いもの、例えば、Au、Ag、Al、Cu、Ti、Cr、Ni、Pt、Ta、Pdなどの金属を単独で又は合金にして用いることができる。中でもAu、Ag、Alは反射率が高く反射層の材料として適している。また、上記金属を主成分として他の元素を含んでいても良く、他の元素としては、Mg、Se、Hf、V、Nb、Ru、W、Mn、Re、Fe、Co、Rh、Ir、Zn、Cd、Ga、In、Si、Ge、Te、Pb、Po、Sn、Biなどの金属及び半金属が挙げられる。
また、金属以外の材料を用いて、低屈折率薄膜と高屈折率薄膜を交互に積み重ねて多層膜を形成し、反射層として用いることも可能である。
中でも、より高密度を目指した光記録媒体の場合には、より熱伝導率が高く、高反射率を得やすい上に、比較的コストが安いことから、Agを主成分とする反射層材料が良く用いられる。ここで主成分とは、50原子%以上含有することを意味する。
但し、隣接層がSを含有する場合には、Agの硫化反応により反射層が劣化することがあるため、特許文献5に開示されているように、隣接層との間にSを含まない誘電体材料などからなる硫化防止層を設けることが望ましい。
しかしながら、青色レーザ対応の追記型光記録媒体(HD DVD−RやBD−R)の場合、規格における記録部の反射率が、従来のCD−RやDVD±Rよりも低い値に設定されているため(例えば、DVD+Rの反射率規格は、45〜80%であるのに対し、BD−R規格では11〜24%、HD DVD−R規格では、14〜28%である)、Ag系反射層を用いると反射率が高くなりすぎるため、記録感度が悪化しやすいという問題がある(但し、Ag系反射層では、規格を満足できないという意味ではない)。
【0041】
前述のように、酸素を除く構成元素の主成分がビスマスであり且つ酸化ビスマスを含有する記録層を用いてHD DVD−R SL(Single Layer)やBD−R SL(Single Layer)を作製した場合、一応規格値を満足することは可能であるが、更なる高感度化が望まれる。高感度化は、更なる記録線速度の向上や、多層化が進む将来に向けて、必ず必要となる要件である。ここで、主成分とは、ビスマスが酸素を除いた構成元素のうち、40原子%以上を占めることを意味する。
前述のように、酸素を除く構成元素の主成分がビスマスであり且つ酸化ビスマスを含有する記録層を有する追記型光記録媒体において、反射率が高くなりすぎる原因は、該記録層が、青色レーザ波長においても、比較的高い透過率を有するためである。
そこで、熱伝導率が高く、Ag系材料よりも反射率が低下し、かつ、ZnS−SiO2に含まれるSと反応しない反射層材料としてAl合金を用いることを検討した。
その結果、反射層材料としてAl−Ti合金(Ti0.5原子%)を用いると、Ag系反射層に比べて高温高湿下での欠陥の発生がなく、青色レーザ対応の追記型光記録媒体としての各種規格値に対して適当な反射率を有し、高感度化できることを確認した。なお、Tiの添加量を0.5原子%とした理由は、前述のとおりである。
ところが、Alに対し1重量%程度以下の元素が添加されたAl反射層では、高温高湿下の保存信頼性が十分でない場合があることが判明した(例えば、80℃85%RHの環境下で、400時間程度からアーカイバル特性が劣化するケースがある。但し、室温保存下での保存寿命に問題がある訳ではない)。
このようなAl反射層における、高温高湿下の保存信頼性悪化の原因は、粒状性(表面平滑性)の増大(悪化)によるものと考えられる。
【0042】
そこで、本発明者らは、次の(1)〜(3)の点について総合的に評価した結果、下記元素群(I)から選択された少なくとも1種の元素を合計で0.6〜7.0原子%、好ましくは1.0〜5.0原子%含有させたAl反射層が非常に有効であることを見出した。
(1)青色レーザ対応の追記型光記録媒体の規格(HD DVD−RやBD−R)に対する規格満足度
(2)記録感度の向上
(3)高温高湿下の保存信頼性の向上
元素群(I):Mg、Pd、Pt、Au、Zn、Ga、In、Sn、Sb、Be、Ru、Rh、Os、Ir、Cu、Ge、Y、La、Ce、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ti、Zr、Hf、Si、Fe、Mn、Cr、V、Ni、Bi、Ag
【0043】
このように、従来のAl反射層に比べて、添加元素の割合を高い範囲に設定すると次の(a)〜(c)の利点が生じる。
(a)反射率の上昇を抑えることができる。
(b)反射率の上昇が抑えられることと、熱伝度率が低下することにより、記録感度が
向上する。
(c)高温高湿下での、粒状性(表面平滑性)の増大(悪化)が抑制される。
しかし、Alへの添加元素が、本発明の添加下限量より少ない範囲では、次の(d)〜(f)のデメリットが生じ、逆に、Alへの添加元素が、本発明の添加上限量より多い範囲では、次の(g)〜(h)のデメリットが生じる。
(d)反射率の上昇を抑えることができない(規格外となる可能性がある)。
(e)反射率が上昇し、かつ熱伝度率が増大することにより、記録感度が悪化する
(規格外となる可能性がある)。
(f)高温高湿下での、粒状性(表面平滑性)の増大(悪化)が起こる可能性が高い。
(g)反射率が急激に低下する(規格外となる可能性がある)。
(h)反射率が低下し、かつ熱伝度率が急激に低下することにより、再生光安定性が
悪化する。
【0044】
即ち、本発明のAl反射層への添加元素量の規定範囲では、酸素を除く構成元素の主成分がビスマスであり且つ酸化ビスマスを含有する記録層を有する追記型光記録媒体において、Alへの添加元素量増加に伴う反射率と熱伝導率の低下が生じても、記録再生特性を損なうことがない範囲であると言うことができる。
なお、本発明のAl反射層への添加元素は、Alの粒状性(表面平滑性)を改善する(小さくする)効果を担うものであるため、添加元素自体の効果は大きくない。
したがって、Al反射層への添加元素としては、従来から使用実績のある添加元素を広く使用することができる。
【0045】
本発明の反射層は、蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングなどにより形成することができる。中でも、スパッタリングが好ましい。
そこで、スパッタリングを用いた反射層形成方法について説明する。
スパッタリングに用いる放電用ガスとしては、Arが好ましく用いられる。また、スパッタリングの条件としては、Ar流量1〜50sccm、パワー0.5〜10kW、成膜時間0.1〜30秒の範囲が好ましく、より好ましいのは、Ar流量3〜20sccm、パワー1〜7kW、成膜時間0.5〜15秒の範囲であり、更に好ましい範囲としては、Ar流量4〜10sccm、パワー2〜6kW、成膜時間1〜5秒の範囲である。
なお、スパッタリングの条件は、Ar流量、パワー、及び成膜時間の少なくとも1つが上記範囲にあることが好ましく、2つ以上が上記範囲にあることがより好ましく、全ての条件が上記範囲にあることが更に好ましい。
【0046】
このようなスパッタリング条件で光反射層を形成することにより、反射率の向上や耐腐食性の更なる向上が図られ、優れた記録特性を有する光記録媒体を得ることができる。
反射層の膜厚は、20〜200nmの範囲が好ましく、25〜180nmの範囲がより好ましく、30〜160nmの範囲が特に好ましい。但し、本発明の反射層が多層型光記録媒体に適用される場合は、膜厚の下限は、この限りではない。
膜厚が20nmより薄い場合、所望の反射率が得られない問題や保存時に反射率が低下する問題、更に、記録振幅が十分にとれない問題を生じることがある。膜厚が200nmより厚い場合、成膜面が粗れ、反射率が低下することがある。また、生産性の観点からも好ましくない。
反射層の成膜速度は6〜95nm/sの範囲であることが好ましく、7〜90nm/sの範囲であることがより好ましく、8〜80nm/sの範囲であることが特に好ましい。成膜速度が、6nm/sより遅い場合、スパッタ中に酸素が入りやすくなり、酸化により反射率が低下したり、反射層の耐腐食性が低下する場合がある。成膜速度が95nm/sより速い場合、温度上昇が大きく、基板に反りが発生することがある。
【0047】
基板の素材としては、熱的、機械的に優れた特性を有し、基板側から(基板を通して)記録・再生が行われる場合には光透過特性にも優れたものであれば特別な制限はない。
具体例としては、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、非晶質ポリオレフィン、セルロースアセテート、ポリエチレンテレフタレートなどが挙げられるが、ポリカーボネートや非晶質ポリオレフィンが好ましい。
基板の厚さは用途により異なり、特に制限はない。
基板の表面に、トラッキング用の案内溝や案内ピット、更にアドレス信号等のプレフォーマットが形成されていてもよい。
基板の鏡面側(案内溝等のある反対面)に、表面保護やゴミ等の付着防止のために、紫外線硬化樹脂層や無機系薄膜等を形成してもよい。
【0048】
特に青色レーザ対応の光記録媒体においては、トラッキングサーボの安定性、ウォブルを利用したアドレス情報の再生安定性、及び、システムリードイン領域にプリピットとして記録した情報の再生安定性を確保し、かつ実用可能な記録特性を維持するという技術課題について鋭意検討した結果、ウォブル付き案内溝の溝幅を半値幅で170〜230nm、溝深さを23〜33nmとすればよいことを見出した。なお、一般にディスク状光記録媒体の基板は射出成形で作製されるため、成形の都合上、システムリードイン領域のプリピットの深さとデータ領域のウォブル付き案内溝の深さを等しくしている。したがって、上記案内溝の溝深さはプリピットの深さにもなるから、案内溝の溝深さを設計する際には、プリピットの深さとしても問題がないように設計する必要がある。
また、HD DVD−R規格に対応する追記型光記録媒体については、好ましい案内溝のトラックピッチは0.4±0.02μm、好ましいウォブルの振幅量は16±2nmである。
【0049】
反射層やカバー層(光透過層)等の上に保護層を形成しても良い。保護層の材料としては、反射層やカバー層等を外力から保護するものであれば特に限定されない。有機材料としては熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂等が挙げられる。また無機材料としてはSiO2、Si3N4、MgF2、SnO2等が挙げられる。
熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂は適当な溶剤に溶解した塗布液を塗布し乾燥することによって形成することができる。紫外線硬化性樹脂は、そのまま又は適当な溶剤に溶解した塗布液を塗布し、紫外線を照射して硬化させることによって形成することができる。
紫外線硬化性樹脂としては、例えば、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレートなどのアクリレート系樹脂を用いることができる。
これらの材料は単独で用いても混合して用いても良いし、1層だけでなく多層膜にして用いても良い。
上記保護層の形成方法としては、スピンコート法やキャスト法等の塗布法、スパッタリング法、化学蒸着法等が用いられるが、中でも、有機材料を用いる場合には、スピンコート法が好ましい。
上記保護層の膜厚は、一般に0.1〜100μmの範囲であるが、本発明においては、有機材料を用いる場合には、3〜30μmが好ましい。
【0050】
カバー層(光透過層)は、高密度化を図るため高NAのレンズを用いる場合に必要となる。例えば高NA化すると、再生光が透過する部分の厚さを薄くする必要がある。
これは、高NA化に伴い、光学ピックアップの光軸に対してディスク面が垂直からズレる角度(いわゆるチルト角、光源の波長の逆数と対物レンズの開口数の積の2乗に比例する)により発生する収差の許容量が小さくなるためであり、このチルト角が基板の厚さによる収差の影響を受け易いためである。したがって、基板の厚さを薄くしてチルト角に対する収差の影響をなるべく小さくするようにしている。
そこで、例えば基板上に凹凸を形成して記録層とし、その上に反射層を設け、更にその上に光を透過する層である光透過性のカバー層を設けるようにし、カバー層側から再生光を照射して記録層の情報を再生するような光記録媒体や、基板上に反射層を設け、その上に記録層を設け、更にこの上に光透過性を有するカバー層を設けるようにし、カバー層側から再生光を照射して記録層の情報を再生するような光記録媒体が提案されている(Blu−ray規格)。
このようにすれば、カバー層を薄型化していくことで対物レンズの高NA化に対応可能である。つまり、薄いカバー層を設け、このカバー層側から記録再生することで、更なる高記録密度化を図ることができる。
なお、このようなカバー層は、ポリカーボネートシートや、紫外線硬化型樹脂により形成されるのが一般的である。本発明で言うカバー層には、カバー層を接着するための層を含めてもよい。
【0051】
また、反射層(又はその上層の保護層)やカバー層(又はその上層の保護層)面に更に基板を貼り合わせてもよく、反射層やカバー層面相互を内面として対向させ、光学記録媒体2枚を貼り合わせても良い。
貼り合わせる際に用いられる接着層の材料としては、紫外線硬化型樹脂、ホットメルト接着剤、シリコーン樹脂などの接着剤を用いることができる。このような接着層の材料は、反射層又はオーバーコート層の上に、材料に応じて、スピンコート、ロールコート、スクリーン印刷法などの方法により塗布し、紫外線照射、加熱、加圧等の処理を行なって反対面のディスクと貼り合わせる。
反対面のディスクは、同様の単板ディスクでも透明基板のみでも良く、反対面のディスクの貼り合わせ面については、接着層の材料を塗布してもしなくても良い。また、接着層として粘着シートを用いることもできる。
接着層の膜厚は特に制限されるものではないが、材料の塗布性、硬化性、ディスクの機械特性の影響を考慮すると、5〜100μmが好適である。
接着面の範囲も特に制限されるものではないが、HD DVD−R規格に準拠する光記録媒体に応用する場合、接着強度を確保するためには内周端の位置がΦ15〜40mm、好適にはΦ15〜30mmであることが望ましい。
【0052】
次に、本発明の追記型光記録媒体への記録方法について詳しく説明する。
本発明では、予熱工程とそれに続く加熱工程とを有する記録ストラテジにより、記録層を記録マーク形成開始温度以上に加熱して記録マークを形成する。
これにより、青色レーザ波長領域においても、記録マーク形成時に記録層が速やかに記録マーク形成開始温度以上に昇温され、記録層に精度の良い記録マークが形成されるので記録品質が向上する。予熱パワー(Pb)が記録パワー(Pw)に対して70%以下の強さであれば、予熱パワーが好適な強さに維持されて、記録マークの先頭部が余分に広がるようなことがなく、PRSNRやジッタが規格値に対して十分な記録品質を得ることができる。70%を超えると、PRSNRやジッタが悪化して規格値よりも小さな値となり、十分な記録品質を得ることができない。つまり、予熱パワーが強くなり過ぎるため、記録マークが広がり過ぎてしまい、これが原因となってPRSNRが悪化する。
【0053】
また、本発明によれば、予熱パルスによる予備加熱状態を制御することにより、形成する記録マークの大きさの変化に適切に対応できる。
予熱パワー(Pb)は再生パワー(Pr)よりも強くする必要がある。予熱パワーが再生パワー以下の場合には、記録パワーが強くても温度上昇が遅れるため、記録マーク形状にバラツキが生じて記録品質が悪化する。予熱工程の効果を確実にするには、予熱パワー(Pb)を再生パワー(Pr)よりも、0.7mW以上強くすることが好ましい。
なお、PRSNRとは、Partial Response Signal to Noize Ratio(パーシャル・レスポンス・シグナル・ツー・ノイズ・レシオ)のことで、HD DVD規格に基づく信号品質を表す指標であり、規格値として15以上である必要がある。
【0054】
また、本発明の記録方法の対象となる追記型光記録媒体は、青色レーザにより記録・再生が可能であり、優れた光学的性質(光吸収機能、記録機能など)を有している。そして本発明の記録方法を適用することにより、記録極性が「High to Low」であっても高品質の記録が行なうことができる。
加熱工程の後に冷却工程を設ける場合には、冷却パワー(Pc)を予熱パワー(Pb)よりも弱くする。これにより、記録マーク後方の余分な広がりを抑えることができ、精度の良い記録マークを形成できるため、PRSNRやジッタが規格値を十分に満足する記録品質を得ることができる。冷却工程の効果を確実にするには、冷却パワー(Pc)を予熱パワー(Pb)よりも、1.0mW以上弱くすることが好ましい。
【0055】
また、予熱パルスは、互いに異なるパワーを有する2種類以上のパルスを含むことが好ましい。このような予熱パルスを照射することによって、記録ストラテジが適切なものとなり、記録層に形成される記録マークの大きさが変化しても、常に予熱状態が木目細かく好適な状態に制御され、記録時には速やかに記録マーク形成開始温度以上に昇温されて記録層に精度の良い記録マークが形成される。
また、記録パルスを単パルスとしてもよい。これにより、青色レーザ対応の短い記録マークを形成することができるほか、強い記録パワーが必要な高速記録の場合においても、高感度(低いパワー)で記録マークを形成することが可能となる。
また、単パルスの記録パワーを、形成する記録マークの長さに応じて2種類以上に変化させてもよい。青色レーザ対応の高速記録においては、長い記録マークよりも短い記録マークを形成する方が難しいが、2種類以上の記録パワーを用い、短い記録マークを形成する際により強い記録パワーを用いることにより、高速記録においても短い記録マークを精度良く形成することが可能となる。
また、記録パルスを、単パルスではなく、2種類以上のパワーの組み合わせからなるパルスとしてもよい。記録マークの形成中に記録パルスのパワーを変化させることにより、特に長い記録マークの後方が広がらず、品質の高い記録マークを形成することが可能となる。
【0056】
本発明の記録方法における、記録マーク形成時の予熱工程とそれに続く加熱工程、更にそれに続く冷却工程について図面を参照しつつ説明する。
図3〜図6は、予熱工程とそれに続く加熱工程、更には、それに続く冷却工程を説明するための模式図である。
図3の例は、先ず予熱工程で、再生パワー(Pr)より強く且つ記録パワー(Pw)より弱い予熱パワー(Pb)を記録層に加えて予熱し〔ここで(Pb)は(Pw)の70%以下の強さとする〕、続いて加熱工程で、形成すべき記録マークに対応する記録パワー(Pw)を加えて、トラックに記録マークを形成する場合を示している。
図4の例は、図3の予熱工程、加熱工程に続いて、予熱パワー(Pb)より弱い冷却パワー(Pc)を記録層に加えて、記録マーク形成後に記録層の冷却を早める場合を示している。
【0057】
図5、図6の例は、予熱工程の予熱パワーを第1予熱パワー(Pb1)、第2予熱パワー(Pb2)の2段階に設定し、図3、図4よりも細分して予熱パワーを加えた後、記録パワー(Pw)を加えてトラックに記録マークを形成する場合を示している。なお、図5、図6は一例であって、予熱パワーの設定段階を更に増やして予熱しても構わない。
図3、図5では、予熱パルスを照射して、記録層を記録マーク形成開始温度未満の温度に予熱し、続いて記録すべき情報に基づいて記録パルスを照射し、記録マーク形成開始温度以上の温度に加熱して、記録マークを形成する。
図4、図6では、更に冷却パルスを照射して、記録層の冷却を早める。
このように予熱パルスと記録パルスにより順に加熱すると、記録層を速やかに記録マーク形成開始温度以上に昇温することができる。更に、冷却パルスにより、記録層の冷却を早めることができる。
【0058】
また、記録パルスは、図7〜図8に示すように単パルスにしたり、図9に示すように、2種類以上のパワーの組み合わせからなるパルスにしてもよい。
短い記録マークを形成するときは、長い記録マークに比べて記録マークの後方が広がって涙状のマークになることが少ないため、単パルスで記録する方が好ましく、しかも高速記録の場合に高感度(低いパワー)で記録マークを形成することが可能となる。
また、2種類以上の記録パワーで記録することにより、特に長い記録マークの後方が広がらず、品質の高い記録マークを形成することが可能となる。
実際に記録に用いられる記録パルスの具体例としては、図10〜図13に示したようなパルスパターンが挙げられる。ここで、図10〜図13では、パルス幅について一種類の固定値を提示しているが、各パターンとも、その値に限定されるものではなく、品質の高い記録マークを形成できる条件のパルス幅を任意に選択すれば良い。
【発明の効果】
【0059】
本発明によれば、青色レーザ波長領域でも精度の良い記録マークを形成でき、良好な記録品質で情報を記録できる無機記録層を備えた追記型光記録媒体、特に、無機記録層として酸化ビスマスを主成分とする記録層を備えた追記型光記録媒体について、記録感度の高感度化を実現し、かつ、PRSNR、ジッタ、エラー率等の記録特性の更なる改善と、高温高湿下での保存安定性の更なる向上を実現させることができる。また、該光記録媒体、特に記録極性が「High to Low」である光記録媒体に対しても適用可能な記録方法を提供できる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0061】
実施例1〜9
住友重機械工業社製トグル式成形機に、厚さ0.6mm、直径120mmディスク基板用の精工技研社製の金型を組み合わせて射出成形を行ない、ウォブル振幅量16±1nmのウォブル付き案内溝(溝深さ:表1参照、溝幅:半値幅205±5nm、Top165±15nm、Bottom265±20nm、トラックピッチ:0.4±0.02μm)を有する厚さ0.6mm、直径120mmのポリカーボネート基板(三菱エンジニアリングプラスチックス社製ユーピロンH−4000)を形成し、その案内溝面上に、エリコン社製スパッタ装置(DVDスプリンター)を用いてスパッタ法で、ZnS−SiO2(80:20モル%)からなる膜厚60nmの下部保護層、BiとBとOからなる膜厚16nmの記録層、ZnS−SiO2(80:20モル%)からなる膜厚20nmの上部保護層、AlTi合金(Ti:1.0重量%)からなる膜厚40nmの反射層(実施例1〜5及び実施例9)、又は、AgNdBi合金(Ag:Nd:Bi=96.5:3.0:0.5原子%)からなる膜厚80nmの反射層(実施例6〜8)を順に製膜し、その上に、紫外線硬化型樹脂(日本化薬社製KAYARAD DVD−802)を用いて、厚さ0.6mmのポリカーボネート基板(三菱エンジニアリングプラスチック社製ユーピロンH−4000)を貼り合わせて、図1に示したような(但し、オーバーコート層は除く)厚さ約1.2mmの追記型光記録媒体を作成した。
また、実施例1と同様の方法で、ウォブル付き案内溝〔溝深さ:26nm、溝幅:表2参照(半径位置毎に半値幅を変更したもの)、トラックピッチ:0.4±0.02μm〕を有するポリカーボネート基板を形成し、これを用いて実施例1と同様にして追記型光記録媒体(実施例10)を作成した。
【0062】
上記実施例1〜10の追記型光記録媒体に対し、パルステック工業社製の光ディスク評価装置ODU−1000(波長:405nm、NA:0.65)を用いて、HD DVD−R規格〔DVD Specifications for High Density Recordable Disc(HD DVD−R) Version1.0〕に合わせた条件で記録を行ない、特性を調べた。
結果を、表1、表2、及び図14〜図18に示す(但し、実施例10については表2のみ)。なお、図14〜図18中の左右に横切るやや太い直線は規格値を示す。
また、図17の「PRSNR」は「Partial Response Signal to Noize Ratio(パーシャル・レスポンス・シグナル・ツー・ノイズ・レシオ)」の略であり、図18の「SbER」は「Simulated bit Error Rate(シミュレイテッド・ビット・エラー・レイト)」の略である。
図14〜図18から分かるように、特性の測定結果は、案内溝の溝深さ及び溝幅の影響を受けており、プッシュプルが規格内となるのは、内周部では、溝深さが23〜33nmのときであり、中周部では、溝深さが24.5nm以上のとき、外周部では、溝深さが25nm以上のときとなっている。また、中周部のPRSNRは溝深さが32nm以下のときに、SbERは溝深さが33nm以下のときに、規格内となる。
SLI(システムリードイン)領域の変調度については、溝深さが23nm以上のときに、規格内となる。
溝幅については、中周部では、170〜230nmのときに、プッシュプルが規格内となっている。
また、実施例1〜10の追記型光記録媒体に対し、HD DVD対応の光記録装置(東芝製RD−A1)により、コンテンツデータの記録・再生を行なったところ、何れの場合も、途中で記録ストップすること無く記録が終了し、記録後のデータの再生も行なうことができた。
したがって、特性が僅かに規格外となるものであっても、光記録装置での記録・再生は可能となっていた。
【0063】
【表1】
【表2】
【0064】
実施例11
ZnS−SiO2(80:20モル%)からなる下部保護層の膜厚を、0〜140nmの範囲で変化させた点以外は、実施例1と同様にして追記型光記録媒体を作成した(膜厚0nmの場合は、下部保護層が無いことになる)。
得られた追記型光記録媒体に対し、パルステック工業社製の光ディスク評価装置ODU−1000(波長:405nm、NA:0.65)を用いて、記録部に対する特性評価を行なった。その後で、80℃、85%RHの環境下に100時間保管する環境試験を行ない、再度、特性評価を実施し、これを100時間毎に繰り返して、通算300時間となるまで、環境試験及び特性評価を行なった。環境試験投入前(初期)の結果と、各環境試験後毎の結果を比較して、初期値を1としたときの変動した比率を求めたものを、図19〜図22に示す。
図から、ZnS−SiO2(80:20モル%)からなる下部保護層を用いる場合に、特性の劣化を抑えるためには、反射率を基準とする場合は20nm以上、変調度、PRSNR、SbERを基準とする場合は30nm以上の膜厚が必要であることが分かる。
【0065】
実施例12〜18、及び比較例1〜2
実施例1と同じ成形機と金型を用いて射出成形した、溝深さ26nmの案内溝を有する厚さ0.6mmのポリカーボネート基板(三菱エンジニアリングプラスチックス社製ユーピロンH−4000)上に、エリコン社製スパッタ装置(DVDスプリンター)を用いてスパッタ法で、下記の層を順次積層した。
・下部保護層(ZnS−SiO2,モル比80:20)、膜厚50nm
・記録層(Bi2BOx)、膜厚15nm
・上部保護層(ZnS−SiO2,モル比80:20)、膜厚20nm
・反射層(表3に示す組成のAl−Ti合金)、膜厚60nm
なお、記録層の組成をRBS(ラザフォード後方散乱分光)で測定し、Biが完全には酸化されていないことを確認した。
次いで、Al合金反射層上に、スピンコート法で紫外線硬化型樹脂(日本化薬社製KAYARAD DVD−802)からなる膜厚約5μmの有機保護層を設け、更に、厚さ0.6mmのダミー基板を紫外線硬化型樹脂により貼り合わせて図1に示したような追記型光記録媒体を得た。
【0066】
【表3】
【0067】
上記実施例12〜18、及び比較例1〜2の追記型光記録媒体に対し、パルステック工業社製の光ディスク評価装置ODU−1000(波長:405nm、NA:0.65)を用いて、HD DVD−R規格〔DVD Specifications for High Density Recordable Disc(HD DVD−R) Version1.0)〕に合わせた条件で記録を行い、記録部の反射率、PRSNRを測定した。
更に、記録したサンプルを80℃85%RHの環境下に300時間放置した後のPRSNRを測定し、初期PRSNRとの比較を行った。
結果を図23〜図24に示す。なお、図23、図24中の横方向の点線は、規格値を示す線である。
図23から、添加元素量が7.0原子%以下で〔図23の(A)で示した領域〕、HD DVD−R規格を満足する反射率が得られることが分かる。よって、本発明の添加元素量規定範囲における上限値の有効性を確認できた。
なお、感度は、添加元素量に対して反射率と同様な傾向を示し、添加元素量が0.6〜7.0原子%の範囲では、HD DVD−R規格で規定する記録感度を十分満足した。
また、添加元素量が増えるに従い、熱伝導率や反射率の低下に伴うPRSNRの低下が起きているが、添加元素量が5.0原子%以下では、ほぼその低下量が無視できる程度である〔図23の(B)で示した領域〕。よって、本発明の添加元素量規定範囲における好ましい上限値の有効性を確認できた。
また、図24からは、80℃85%RHの環境下に300時間放置した後のPRSNR低下量が、添加元素量の増加とともに抑制できることが分かった。
図24から、添加元素量が0.6原子%以上では、80℃85%RHの環境下に300時間放置した後のPRSNR低下量が1.0以下となり、本発明の添加元素量規定範囲における、下限値の有効性を確認できた〔図24の(C)で示した領域〕。
また、添加元素量が1.0原子%以上では、80℃85%RHの環境下に300時間放置した後のPRSNR低下量が0.5以下となり、本発明の添加元素量規定範囲における、好ましい下限値の有効性を確認できた〔図24の(D)で示した領域〕。
なお、Alへの添加元素量が7.0原子%を超えると、反射率が低下しすぎるとともに、再生光に対する安定性が悪化する傾向が見られた。
【0068】
実施例19〜25、及び比較例3〜4
表4に示すように、Alへの添加元素の種類と添加量を変えた点以外は、実施例12と同様にして追記型光記録媒体を作製し、実施例12と同じ評価項目について測定を行なった。結果を表4に示す。
なお、表4において、最適記録パワーと最適記録パワーで記録した部分の反射率の両方がHD DVD−R規格を満足する場合を○、最適記録パワーと最適記録パワーで記録した部分の反射率の少なくとも一方がHD DVD−R規格を満足しない場合を×とした。
更に、80℃85%RHの環境下に300時間放置した後の、保存前のPRSNRに対するPRSNR低下量(アーカイバル特性)が1.0以下である場合を○、1.0を超える場合を×とした。
【0069】
【表4】
上記の結果から、酸素を除く構成元素の主成分がビスマスであり且つ酸化ビスマスを含有する記録層を有する追記型光記録媒体において、本発明におけるAlに対する添加元素量範囲の有効性が証明された。
【0070】
比較例5〜7
反射層材料を表5に示すものに変えた点以外は、実施例12と同様にして追記型光記録媒体を作製し、実施例12と同じ評価項目について測定を行なった。結果を表5に示す。
表5から分かるように。本発明のAl系反射層の場合に比べて反射率が高く、記録感度がHD DVD−R規格の上限値を超えた。
また、80℃85%RHの環境下に300時間放置した後の、保存前のPRSNRに対するPRSNR低下量(アーカイバル特性)は10以上であり、再生信号にAgの硫化に起因すると思われるヒゲ状の欠陥が多数発生した。
【表5】
【0071】
〔実施例26〜31〕
反射層材料と記録層材料を表6に示すものに変えた点以外は、実施例12と同様にして追記型光記録媒体を作製し、実施例12と同じ評価項目について測定を行なった。結果を表6に示す。
表6から分かるように、何れの記録層においても、反射率と記録感度は、HD DVD−R規格を満足し、また、80℃85%RHの環境下に300時間放置した後の、保存前のPRSNRに対するPRSNR低下量(アーカイバル特性)は1.0以下であることが確認できた。
即ち、本発明のAl反射層への添加元素の効果は、酸素を除く構成元素の主成分がビスマスであり且つ酸化ビスマスを含有する記録層に対して、更には、該記録層と本発明のAl系反射層が、ZnS−SiO2を主成分とする層を介して積層されている追記型光記録媒体に対して有効であることが証明された。
【0072】
【表6】
なお、上記実施例では、図1に示したようなHD DVD−R構成の追記型光記録媒体で効果を確認したが、図2に示したようなBD−R構成としても同様の結果が得られた。
【0073】
(実施例32〜48、比較例8〜16)
本発明に係る追記型光記録媒体の記録・再生信号の評価を実施するため、図1、図2に示した層構成の追記型光記録媒体を、次のようにして作製した。
<図1の媒体について>
実施例1と同じ成形機と金型を用いて射出成形した厚さ0.6mmのポリカーボネート製基板1(三菱エンジニアリングプラスチックス社製ユーピロンH−4000)上に、エリコン社製スパッタ装置(DVDスプリンター)を用いて、スパッタ法で、Al2O3からなる膜厚15nmの下部保護層2、Bi10Fe5Oxからなる膜厚13nmの記録層3、ZnS−SiO2(80:20モル%)からなる膜厚20nmの上部保護層4、及びAlTi(Ti:1重量%)からなる膜厚110nmの反射層5を順に製膜した。
次に、反射層5上に、スピンコート法で紫外線硬化性樹脂(大日本インキ化学工業社製、SD−381)を塗布し膜厚5μmのオーバーコート層6を形成した。
更に、オーバーコート層6上に、厚さ0.6mmのポリカーボネート製保護基板8を、接着層7となる紫外線硬化性樹脂(日本化薬製KAYARAD DVD−003)で貼り合わせた。
<図2の媒体について>
実施例1と同じ成形機と金型を用いて射出成形した厚さ1.1mmのポリカーボネート製基板1(三菱エンジニアリングプラスチックス社製ユーピロンH−4000)上に、スパッタ法で順次、AlTi(Ti:1重量%)からなる膜厚35nmの反射層5、Si3N4からなる膜厚13nmの上部保護層4、Bi2BOxからなる膜厚16nmの記録層3、ZnS−SiO2(80:20モル%)からなる膜厚10nmの下部保護層2を順に成膜した。
次に、下部保護層2上に、スピンコート法で紫外線硬化性樹脂(日本化薬社製KAYARAD BRD−807)を塗布し厚さ0.1mmのカバー層9を形成した。
上記記録層材料の「x」は酸素欠損が生じていることを意味している。これらの記録層は、酸素以外の構成元素(Bi、Fe、B)の化学量論組成を満たす酸化物を用いてスパッタ法で作成されるが、通常の場合、酸素欠損を生じる。しかし、正確な酸素欠損量は測定できないため「x」と表現した。なお、酸素欠損の結果、記録層には、Bi、Fe、Bの単体を含むことになる。
【0074】
上記のようにして作製した追記型光記録媒体は、何れも記録極性が「High to Low」であった。
これらの光記録媒体の記録・再生特性を調べるため、図1の光記録媒体については、波長:405nm、NA:0.65のパルステック工業社製の光ディスク評価装置ODU−1000を用いて、HD DVD−R規格〔DVD Specifications for High Density Recordable Disc(HD DVD−R) Version1.1〕に合わせた条件により、また、図2の光記録媒体については、波長:405nm、NA:0.85のパルステック工業社製の光ディスク評価装置ODU−1000を用いて、Blu−ray Disc Recordable(BD−R)規格〔System Description Blu−ray Disc Recordable Format Version1.0〕に合わせた条件により、トラックに記録マークを形成し、それぞれ規格の1倍速での記録・再生信号の評価を行なった。
記録方法としては、図3、図4に示した記録ストラテジを採用し、予熱パワー(Pb)の予熱パルスを記録層に加えて予熱した後、記録パワー(Pw)を加えた。また、図4の場合には、更に冷却パワー(Pc)を加えた。これにより、予め記録層をその記録マーク形成開始温度未満の温度に予熱し、続いて、予熱された記録層を記録マーク形成開始温度以上の温度に加熱した。更に、図4の場合には、冷却パワーを加えることにより記録層の冷却を早めた。
図1の光記録媒体の記録ストラテジの波形とパラメータを図10に、図2の光記録媒体の記録ストラテジの波形とパラメータを図11に、各パワーの強度(mW)及び予熱パワーと記録パワーの比(Pb/Pw)を表7に示す(図中のTはチャネルクロック周期を示す)。冷却パワー(Pc)を加えない場合には、図10、図11の右端のクーリングパルスが無い波形となる。なお、表には再生パワー(Pr)が記載されているが、図10、図11は記録ストラテジの波形を示すものであるから、再生パワーは省略した。また、図10、図11中の各パラメータの符号は、何れも規格で使われているものである。
記録・再生信号の評価における記録品質の指標としては、図1の光記録媒体では、HD DVD−R規格に基づいたPRSNRを用いた。判定基準は、PRSNRが15以上のものを「○」、15未満のものを「×」とした。
一方、図2の光記録媒体では、Blue−ray Disk Recordable規格に基づいたジッタを用いた。判定基準は、ジッタが6.5%以下のものを「○」、6.5%より大きいものを「×」とした。
評価結果を表7に示す。
【0075】
【表7】
【0076】
表7から分かるように、実施例32〜48のように、記録パワーに対して予熱パワーが70%以下の場合には、PRSNRが15以上、又はジッタが6.5%以下の値を示した。
これに対し、比較例9、11、13、15のように予熱パワーが70%を超えると、PRSNRが15よりも小さな値、又はジッタが6.5%より大きな値となり、十分な記録品質を得ることができなかった。記録品質が悪化したのは、予熱パワーが強すぎて記録マークが広がりすぎてしまったことに起因すると考えられる。
また、比較例8、10、12、14においては、予熱パワーが再生パワーと同じであるため、記録品質が悪化した。予熱パワーが弱い場合は、記録パワーが強くても温度上昇が遅れ、記録マーク形状にバラツキが生じてしまうことに起因すると考えられる。
また、冷却工程を設ける場合には、冷却パワーを予熱パワーよりも弱くする必要があり、この条件を満たさないと、比較例16のように記録品質が悪化する。
【0077】
(実施例49〜51)
図2の光記録媒体に対し、予熱パワーをPb1とPb2に分け、各パワーの強度(mW)を表8に示す値とした点以外は、実施例41と同様にして、記録・再生信号の評価を行った。記録ストラテジの波形とパラメータは図11と同じである。結果を表8に示す。
【0078】
(実施例52〜54、比較例17)
図2の光記録媒体に対し、図12に示す記録ストラテジの波形(記録パルスが単パルス)とパラメータを用い、各パワーの強度(mW)を表8に示す値とし、記録線速を規格の4倍速とした点以外は、実施例41と同様にして、記録・再生信号の評価を行った(図中のTはチャネルクロック周期を示す)。なお、表には再生パワー(Pr)が記載されているが、図12は記録ストラテジの波形を示すものであるから、再生パワーは省略してある。また、図12中の各パラメータの符号は何れも規格で使われているものである。
結果を表8に示すが、比較例17では、予熱パワーが記録パワーの70%を超えるため、記録品質が悪化している。
【0079】
(実施例55〜56、比較例18)
図2の光記録媒体に対し、図13に示す記録ストラテジの波形とパラメータを用い、各パワーの強度(mW)を表8に示す値とし、記録線速を規格の4倍速とした点以外は、実施例41と同様にして、記録・再生信号の評価を行った(図中のTはチャネルクロック周期を示す)。なお、表には再生パワー(Pr)が記載されているが、図13は記録ストラテジの波形を示すものであるから、再生パワーは省略してある。また、図12中の各パラメータの符号は何れも規格で使われているものである。また、図中のPmは、このストラテジでは第2の記録パワーに相当するが、既に図8〜図9において第2、第3記録パワーがあるため、第4記録パワーと呼ぶことにした。
結果を表8に示すが、比較例18では、予熱パワーが記録パワーの70%を超えるため、記録品質が悪化している。
【0080】
【表8】
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の対象となる追記型光記録媒体の層構成の一例を示す模式図。
【図2】本発明の対象となる追記型光記録媒体の層構成の他の例を示す模式図。
【図3】本発明の記録方法における記録マーク形成時の予熱工程とそれに続く加熱工程及び冷却工程を説明するための模式図。
【図4】本発明の記録方法における記録マーク形成時の予熱工程とそれに続く加熱工程及び冷却工程を説明するための模式図。
【図5】本発明の記録方法における記録マーク形成時の予熱工程とそれに続く加熱工程及び冷却工程を説明するための模式図。
【図6】本発明の記録方法における記録マーク形成時の予熱工程とそれに続く加熱工程及び冷却工程を説明するための模式図。
【図7】本発明の記録方法における記録マーク形成時の予熱工程とそれに続く加熱工程及び冷却工程を説明するための模式図。
【図8】本発明の記録方法における記録マーク形成時の予熱工程とそれに続く加熱工程及び冷却工程を説明するための模式図。
【図9】本発明の記録方法における記録マーク形成時の予熱工程とそれに続く加熱工程及び冷却工程を説明するための模式図。
【図10】実施例32〜37、及び比較例8〜11の記録ストラテジの波形とパラメータを示す図。(a)波形の模式図、(b)各パラメータの値。
【図11】実施例38〜48、及び比較例12〜16の記録ストラテジの波形とパラメータを示す図。(a)波形の模式図、(b)各パラメータの値。
【図12】実施例52〜54、及び比較例17の記録ストラテジの波形とパラメータを示す図。(a)波形の模式図、(b)各パラメータの値。
【図13】実施例55〜56、及び比較例18の記録ストラテジの波形とパラメータを示す図。(a)波形の模式図、(b)各パラメータの値。
【図14】実施例1〜9における半径位置別の溝深さとプッシュプルの関係を示す図。
【図15】実施例1〜9における半径40mmでの溝幅とプッシュプルの関係を示す図。
【図16】実施例1〜9におけるシステムリードイン領域(SLI)の溝深さと変調度の関係を示す図。
【図17】実施例1〜9における半径40mmでの溝深さとPRSNRの関係を示す図。
【図18】実施例1〜9における半径40mmでの溝深さとSbERの関係を示す図。
【図19】実施例11における下部保護層膜厚と反射率変動比率の関係を示す図。
【図20】実施例11における下部保護層膜厚と変調度変動比率の関係を示す図。
【図21】実施例11における下部保護層膜厚とPRSNR変動比率の関係を示す図。
【図22】実施例11における下部保護層膜厚とSbER変動比率の関係を示す図。
【図23】Al合金の添加元素量を変化させたときの、反射率、PRSNRとの関係を示す図。
【図24】初期PRSNRと、80℃85%RHの環境下に300時間放置した後のPRSNRとの比較結果を示す図。
【符号の説明】
【0082】
1 基板
2 下部保護層
3 記録層
4 上部保護層
5 反射層
6 オーバーコート層
7 接着層
8 保護基板
9 カバー層
T チャネルクロック周期
Pw 記録パワー
Pw1 第1記録パワー
Pw2 第2記録パワー
Pw3 第3記録パワー
Pm 第4記録パワー
Pb 予熱パワー
Pb1 第1予熱パワー
Pb2 第2予熱パワー
Pr 再生パワー
Pc 冷却パワー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、少なくとも、無機材料からなる記録層と反射層が形成されており、青色レーザ光の照射により該記録層に非可逆的な変化を生じさせて情報の記録を行なうことができることを特徴とする追記型光記録媒体。
【請求項2】
青色レーザ光の波長が390〜420nmであることを特徴とする請求項1記載の追記型光記録媒体。
【請求項3】
基板が案内溝を有し、該基板上に、少なくとも、記録層、上部保護層、反射層をこの順に有することを特徴とする請求項1又は2記載の追記型光記録媒体。
【請求項4】
基板が案内溝を有し、該基板上に、少なくとも、下部保護層、記録層、上部保護層、反射層をこの順に有することを特徴とする請求項1又は2記載の追記型光記録媒体。
【請求項5】
基板が案内溝を有し、該基板上に、少なくとも、反射層、上部保護層、記録層、カバー層をこの順に有することを特徴とする請求項1又は2記載の追記型光記録媒体。
【請求項6】
基板が案内溝を有し、該基板上に、少なくとも、反射層、上部保護層、記録層、下部保護層、カバー層をこの順に有することを特徴とする請求項1又は2記載の追記型光記録媒体。
【請求項7】
下部保護層が、酸化物、窒化物、炭化物、硫化物、ホウ化物、ケイ化物、炭素の単体、又はそれらの混合物を主成分とする無機材料から形成されており、膜厚が20〜90nmであることを特徴とする請求項4又は6記載の追記型光記録媒体。
【請求項8】
下部保護層及び/又は上部保護層が、ZnS−SiO2を主成分とする材料からなることを特徴とする請求項3〜7の何れかに記載の追記型光記録媒体。
【請求項9】
基板がウォブル付き案内溝を有し、該案内溝の溝幅が半値幅で170〜230nm、溝深さが23〜33nmであることを特徴とする請求項1〜8の何れかに記載の追記型光記録媒体。
【請求項10】
ウォブル付き案内溝のトラックピッチが0.4±0.02μmであることを特徴とする請求項9記載の追記型光記録媒体。
【請求項11】
ウォブルの振幅量が16±2nmであることを特徴とする請求項9又は10記載の追記型光記録媒体。
【請求項12】
酸素を除く構成元素の主成分がビスマスであり且つ酸化ビスマスを含有する記録層と、Alに対して、下記元素群(I)から選択された少なくとも1種の元素を、合計で0.6〜7.0原子%含有させた反射層を有することを特徴とする請求項1〜11の何れかに記載の追記型光記録媒体。
元素群(I):Mg、Pd、Pt、Au、Zn、Ga、In、Sn、Sb、Be、Ru、Rh、Os、Ir、Cu、Ge、Y、La、Ce、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ti、Zr、Hf、Si、Fe、Mn、Cr、V、Ni、Bi、Ag
【請求項13】
元素群(I)から選択された少なくとも1種の元素の合計が1.0〜5.0原子%であることを特徴とする請求項12記載の追記型光記録媒体。
【請求項14】
記録層がビスマス、酸素、及び下記元素群(II)から選択された少なくとも1種の元素Xを含有することを特徴とする請求項1〜13の何れかに記載の追記型光記録媒体。
元素群(II):B、Si、P、Fe、Co、Ni、Cu、Ga、Ge、As、Se、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Sn、Sb、Te、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、Pb、Po、At、Zn、Cd、In
【請求項15】
光記録媒体に対し、予熱工程とそれに続く加熱工程とを有する記録ストラテジにより記録マークを形成し、予熱工程では、再生パワー(Pr)より強く且つ記録パワー(Pw)の70%以下である予熱パワー(Pb)の予熱パルスを照射し、加熱工程では、記録パワー(Pw)の記録パルスを照射することを特徴とする請求項1〜14の何れかに記載の追記型光記録媒体への記録方法。
【請求項16】
光記録媒体に対し、予熱工程とそれに続く加熱工程及び冷却工程を有する記録ストラテジにより記録マークを形成し、予熱工程では、再生パワー(Pr)より強く且つ記録パワー(Pw)の70%以下である予熱パワー(Pb)の予熱パルスを照射し、加熱工程では、記録パワー(Pw)の記録パルスを照射し、冷却工程では、予熱パワー(Pb)より弱い冷却パワー(Pc)の冷却パルスを照射することを特徴とする請求項1〜14の何れかに記載の追記型光記録媒体への記録方法。
【請求項17】
予熱パルスが、互いに異なるパワーを有する2種類以上のパルスを含むことを特徴とする請求項15又は16記載の記録方法。
【請求項18】
記録パルスが単パルスであることを特徴とする請求項15〜17の何れかに記載の記録方法。
【請求項19】
単パルスの記録パワーを、形成する記録マークの長さに応じて2種類以上に変化させることを特徴とする請求項18記載の記録方法。
【請求項20】
記録パルスが、2種類以上のパワーの組み合わせからなるパルスであることを特徴とする請求項15〜17の何れかに記載の記録方法。
【請求項21】
4T(T:チャネルクロック周期)以上の記録マークを形成する場合に、前記加熱工程において、前記記録パワー(Pw)よりも小さく、かつ、前記予熱パワー(Pb)よりも大きいパワー(Pm)でレーザ光を照射する工程を更に備えることを特徴とする請求項16記載の記録方法。
【請求項22】
2T(T:チャネルクロック周期)の記録マークを形成する場合に、前記加熱工程に続いて、前記冷却工程を実行することを特徴とする請求項16記載の記録方法。
【請求項1】
基板上に、少なくとも、無機材料からなる記録層と反射層が形成されており、青色レーザ光の照射により該記録層に非可逆的な変化を生じさせて情報の記録を行なうことができることを特徴とする追記型光記録媒体。
【請求項2】
青色レーザ光の波長が390〜420nmであることを特徴とする請求項1記載の追記型光記録媒体。
【請求項3】
基板が案内溝を有し、該基板上に、少なくとも、記録層、上部保護層、反射層をこの順に有することを特徴とする請求項1又は2記載の追記型光記録媒体。
【請求項4】
基板が案内溝を有し、該基板上に、少なくとも、下部保護層、記録層、上部保護層、反射層をこの順に有することを特徴とする請求項1又は2記載の追記型光記録媒体。
【請求項5】
基板が案内溝を有し、該基板上に、少なくとも、反射層、上部保護層、記録層、カバー層をこの順に有することを特徴とする請求項1又は2記載の追記型光記録媒体。
【請求項6】
基板が案内溝を有し、該基板上に、少なくとも、反射層、上部保護層、記録層、下部保護層、カバー層をこの順に有することを特徴とする請求項1又は2記載の追記型光記録媒体。
【請求項7】
下部保護層が、酸化物、窒化物、炭化物、硫化物、ホウ化物、ケイ化物、炭素の単体、又はそれらの混合物を主成分とする無機材料から形成されており、膜厚が20〜90nmであることを特徴とする請求項4又は6記載の追記型光記録媒体。
【請求項8】
下部保護層及び/又は上部保護層が、ZnS−SiO2を主成分とする材料からなることを特徴とする請求項3〜7の何れかに記載の追記型光記録媒体。
【請求項9】
基板がウォブル付き案内溝を有し、該案内溝の溝幅が半値幅で170〜230nm、溝深さが23〜33nmであることを特徴とする請求項1〜8の何れかに記載の追記型光記録媒体。
【請求項10】
ウォブル付き案内溝のトラックピッチが0.4±0.02μmであることを特徴とする請求項9記載の追記型光記録媒体。
【請求項11】
ウォブルの振幅量が16±2nmであることを特徴とする請求項9又は10記載の追記型光記録媒体。
【請求項12】
酸素を除く構成元素の主成分がビスマスであり且つ酸化ビスマスを含有する記録層と、Alに対して、下記元素群(I)から選択された少なくとも1種の元素を、合計で0.6〜7.0原子%含有させた反射層を有することを特徴とする請求項1〜11の何れかに記載の追記型光記録媒体。
元素群(I):Mg、Pd、Pt、Au、Zn、Ga、In、Sn、Sb、Be、Ru、Rh、Os、Ir、Cu、Ge、Y、La、Ce、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ti、Zr、Hf、Si、Fe、Mn、Cr、V、Ni、Bi、Ag
【請求項13】
元素群(I)から選択された少なくとも1種の元素の合計が1.0〜5.0原子%であることを特徴とする請求項12記載の追記型光記録媒体。
【請求項14】
記録層がビスマス、酸素、及び下記元素群(II)から選択された少なくとも1種の元素Xを含有することを特徴とする請求項1〜13の何れかに記載の追記型光記録媒体。
元素群(II):B、Si、P、Fe、Co、Ni、Cu、Ga、Ge、As、Se、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Sn、Sb、Te、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、Pb、Po、At、Zn、Cd、In
【請求項15】
光記録媒体に対し、予熱工程とそれに続く加熱工程とを有する記録ストラテジにより記録マークを形成し、予熱工程では、再生パワー(Pr)より強く且つ記録パワー(Pw)の70%以下である予熱パワー(Pb)の予熱パルスを照射し、加熱工程では、記録パワー(Pw)の記録パルスを照射することを特徴とする請求項1〜14の何れかに記載の追記型光記録媒体への記録方法。
【請求項16】
光記録媒体に対し、予熱工程とそれに続く加熱工程及び冷却工程を有する記録ストラテジにより記録マークを形成し、予熱工程では、再生パワー(Pr)より強く且つ記録パワー(Pw)の70%以下である予熱パワー(Pb)の予熱パルスを照射し、加熱工程では、記録パワー(Pw)の記録パルスを照射し、冷却工程では、予熱パワー(Pb)より弱い冷却パワー(Pc)の冷却パルスを照射することを特徴とする請求項1〜14の何れかに記載の追記型光記録媒体への記録方法。
【請求項17】
予熱パルスが、互いに異なるパワーを有する2種類以上のパルスを含むことを特徴とする請求項15又は16記載の記録方法。
【請求項18】
記録パルスが単パルスであることを特徴とする請求項15〜17の何れかに記載の記録方法。
【請求項19】
単パルスの記録パワーを、形成する記録マークの長さに応じて2種類以上に変化させることを特徴とする請求項18記載の記録方法。
【請求項20】
記録パルスが、2種類以上のパワーの組み合わせからなるパルスであることを特徴とする請求項15〜17の何れかに記載の記録方法。
【請求項21】
4T(T:チャネルクロック周期)以上の記録マークを形成する場合に、前記加熱工程において、前記記録パワー(Pw)よりも小さく、かつ、前記予熱パワー(Pb)よりも大きいパワー(Pm)でレーザ光を照射する工程を更に備えることを特徴とする請求項16記載の記録方法。
【請求項22】
2T(T:チャネルクロック周期)の記録マークを形成する場合に、前記加熱工程に続いて、前記冷却工程を実行することを特徴とする請求項16記載の記録方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2009−20919(P2009−20919A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−173720(P2007−173720)
【出願日】平成19年7月2日(2007.7.2)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月2日(2007.7.2)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
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