説明

透明導電フィルム

【課題】耐久性、光学特性に優れると共に、配線精度の高精度化を容易に図ることができる透明配線層を備えた透明導電フィルム及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】透明導電フィルム1は、透明な樹脂からなる基材フィルム11と、基材フィルム11の表面に形成され、基材フィルム11よりも光屈折率の高い高屈折コート層12と、高屈折コート層12の表面に形成され、高屈折コート層12よりも光屈折率の低い低屈折コート層13と、低屈折コート層13の表面に形成された酸化形素からなる防湿性の下地層14と、下地層14の表面においてパターン形成され、下地層14よりも光屈折率の高い結晶質のITOからなる透明配線層15とを有する。透明配線層15は、ITOの結晶子サイズが9nm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タッチパネル等に用いられる透明導電フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
タッチパネルに用いられる透明導電フィルムとして、その一方の面に透明導電膜をパターニングしてなる透明配線層を備えたものがある。
近年、スマートフォン等に搭載されたタッチパネルにおいて、その光学的特性は高くなっている。すなわち、タッチパネルを通して見える画像の色合いを保つと共に、透明配線層の存在が目立たないようにすることが要求されるようになっている。それとともに、透明配線層の細線化や高い耐久性も要求されている。
【0003】
透明配線層の透明性を確保して配線が目立たないようにする技術として、例えば、光学調整層を基材フィルムと透明導電膜(透明配線層)との間に形成した透明導電フィルムが提案されている(特許文献1、2)。
そして、透明配線層としてはITO(インジウム錫酸化物)が用いられるが、その透明配線層の耐久性、光学特性の観点から、結晶質のITOが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−23282号公報
【特許文献2】特開2008−98169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、透明配線層のパターニングを行う際に、透明導電膜のエッチングを行うこととなるが、透明導電膜(透明配線層)に結晶質のITOを用いると、エッチング速度が低下したり、エッチング残渣が残るなど、エッチング特性が悪くなる。特に上述のごとく透明配線層の細線化が要求される昨今の透明導電フィルムにおいては、エッチング特性に優れた透明導電膜が望まれている。そこで、透明配線層をアモルファス(非晶質)のITOによって構成することが考えられる。しかし、アモルファスのITOでは、透明配線層の耐久性や光学特性を維持することが困難となる。
【0006】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたもので、耐久性、光学特性に優れると共に、配線精度の高精度化を容易に図ることができる透明配線層を備えた透明導電フィルム及びその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、透明な樹脂からなる基材フィルムと、
該基材フィルムの表面に形成され、該基材フィルムよりも光屈折率の高い高屈折コート層と、
該高屈折コート層の表面に形成され、該高屈折コート層よりも光屈折率の低い低屈折コート層と、
該低屈折コート層の表面に形成された酸化ケイ素からなる防湿性の下地層と、
該下地層の表面においてパターン形成され、該下地層よりも光屈折率の高い結晶質のITOからなる透明配線層とを有し、
上記透明配線層は、ITOの結晶子サイズが9nm以下であることを特徴とする透明導電フィルムにある(請求項1)。
【0008】
第2の発明は、透明な樹脂からなる基材フィルムの表面に該基材フィルムよりも光屈折率の高い高屈折コート層と、該高屈折コート層の表面に形成され該高屈折コート層よりも光屈折率の低い低屈折コート層とが形成された多層フィルムにおける上記低屈折コート層側の表面に、酸化ケイ素からなる防湿性の下地層を形成し、
次いで、該下地層の表面に、該下地層よりも光屈折率の高いアモルファスのITOからなる透明導電膜を形成し、
次いで、上記透明導電膜の一部をエッチングしてパターン形成することにより透明配線層を形成し、
次いで、上記多層フィルムと上記下地層と上記透明配線層とからなる積層体を加熱処理することにより上記透明配線層を結晶化させることを特徴とする透明導電フィルムの製造方法にある(請求項2)。
【発明の効果】
【0009】
第1の発明にかかる透明導電フィルムは、上記基材フィルムと上記透明配線層との間に、上記高屈折コート層と上記低屈折コート層と上記下地層とを、上記の積層順にて設けてある。これにより、透明導電フィルムにおける光透過率を向上させ、光学特性を高めることができる。
【0010】
そして、上記透明配線層は、ITOの結晶子サイズが9nm以下である。すなわち、上記透明配線層を形成するITOは、結晶化しているものの結晶化の程度が小さい状態である。この状態を以下において「微結晶」と言うこととする。
上記透明配線層は、微結晶の状態であっても結晶質であることには変わりはない。それゆえ、透明配線層の耐久性、光学特性を維持することができる。すなわち、例えば、上記透明導電フィルムをタッチパネル用に用いた場合に、打鍵特性や摺動特性に優れると共に、光透過性を高く維持することができる。
【0011】
また、透明配線層が上記微結晶の状態にあることにより、透明配線層は、成膜後、加熱処理(アニーリング)前の状態においてアモルファス(非晶質)の状態としておくことができる。つまり、透明導電膜を成膜した後、これを部分的にエッチングして透明配線層とした後に加熱処理を行うことによって、透明配線層を結晶化する場合、加熱処理後のITOの結晶化の程度を上記微結晶の状態よりも高くするためには、加熱処理前の状態においてもある程度結晶質であることが必要となる。これに対し、加熱処理前において非晶質(アモルファス)であっても、上記微結晶であれば加熱処理によってこれを実現することができる。
【0012】
それゆえ、加熱処理後のITOが上記微結晶の程度であれば、エッチングを透明配線層の結晶化の前、すなわちアモルファス(非晶質)の状態にある透明導電膜に対して行うことが可能となる。その結果、エッチングによる配線の形成精度を高くすることができ、配線精度の高精度化を図ることができる。
また、透明導電膜は酸化ケイ素からなる上記下地層の表面に形成されているため、加熱処理時におけるITOの結晶化を促進することができる。
【0013】
第2の発明に係る透明導電フィルムの製造方法においては、上記多層フィルムにおける低屈折コート層側の表面に上記下地層を形成する。これにより、加熱処理時におけるITOの結晶化を促進することができる。
【0014】
そして、下地層の表面にアモルファスのITOからなる透明導電膜を形成し、次いで、透明導電膜の一部をエッチングしてパターン形成することにより透明配線層を形成する。つまり、エッチング特性に優れたアモルファスのITOからなる透明導電膜をエッチングすることとなるため、パターン形成を容易に精度よく行うことができる。その結果、透明配線層の細線化が容易になるなど、配線精度を向上させることができる。
そして、その後、上記積層体を加熱処理することにより上記透明配線層を結晶化させるため、透明配線層の耐久性、光学特性を確保することができる。
【0015】
以上のごとく、本発明によれば、耐久性、光学特性に優れると共に、配線精度の高精度化を容易に図ることができる透明配線層を備えた透明導電フィルム及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1における、透明導電フィルムの断面説明図。
【図2】実施例1における、多層フィルムの断面説明図。
【図3】実施例1における、多層フィルム上に下地層とアモルファスの透明導電膜を形成した状態の断面説明図。
【図4】実施例1における、透明導電膜をエッチングした直後のアモルファスの透明配線層を形成した断面説明図。
【図5】実験例1における、透明配線層についての、スパッタリング時の成膜条件とITOの結晶子サイズとの関係を示す線図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
上記第1の発明に係る透明導電フィルムは、例えば、静電容量式や抵抗膜式のタッチパネルにおいて用いられる。
上記基材フィルムは、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリカーボネイト(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリアミド(PA)、ポリアクリル(PAC)、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、脂肪族環状ポリオレフィン、ノルボルネン系の熱可塑性透明樹脂などの可撓性フィルムやこれら2種以上の積層体によって構成することができる。また、上記基材フィルムは、その表裏にハードコート層を備えていてもよい。
【0018】
また、高屈折コート層は、例えば、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム、酸化アルミニウム、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、酸化錫、酸化ニオブ、酸化ランタン、酸化アルミニウム、酸化錫、ITOによって構成することができ、その光屈折率は1.7〜2.8とすることができる。高屈折コート層の膜厚は例えば5〜50nmとすることができる。
また、低屈折コート層は、例えば、酸化シリコン、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム等によって構成することができ、その光屈折率は1.2〜1.5とすることができる。低屈折コート層の膜厚は例えば10〜100nmとすることができる。
【0019】
下地層の光屈折率は、例えば1.4〜1.5とし、その膜厚は10〜20nmとすることができる。また、透明配線層の光屈折率は、例えば1.9〜2.2とし、その膜厚は18〜30nmとすることができる。
上記下地層及び上記透明配線層(透明導電膜)は、スパッタリングによって成膜することが好ましい。
【0020】
上記第2の発明において、上記加熱処理後の上記透明配線層におけるITOの結晶子サイズが9nm以下であることが好ましい(請求項3)。
この場合には、耐久性、光学特性に優れると共に、配線精度の高精度化を容易に図ることができる透明配線層を、より確実に得ることができる。
上記結晶子サイズが9nmを超える場合には、加熱処理前の透明配線層(透明導電膜)のITOをアモルファスの状態にしておくことが困難となる。この臨界意義は、上記第1の発明に係る透明導電フィルムにおける上記透明配線層におけるITOの結晶子サイズについても同様である。
【0021】
なお、加熱処理後における透明配線層の結晶化の度合い(ITOの結晶子サイズ)は、透明配線層(透明導電膜)の成膜時における成膜条件によって調整することができる。例えば、透明配線層(透明導電膜)をスパッタリングによって成膜する場合、チャンバー内におけるアルゴンと酸素の混合ガスの圧力及び酸素分圧を調整することによって、加熱処理(アニーリング)後の透明配線層の結晶化の度合いを調整することができる(実験例1参照)。
【実施例】
【0022】
(実施例1)
本発明の実施例に係る透明導電フィルム及びその製造方法につき、図1〜図4を用いて説明する。
本例の透明導電フィルム1は、図1に示すごとく、透明な樹脂からなる基材フィルム11と、該基材フィルム11の表面に形成され、該基材フィルム11よりも光屈折率の高い高屈折コート層12と、該高屈折コート層12の表面に形成され、該高屈折コート層12よりも光屈折率の低い低屈折コート層13とを有する。さらに、透明導電フィルム1は、低屈折コート層13の表面に形成された酸化ケイ素からなる防湿性の下地層14と、該下地層14の表面においてパターン形成され、該下地層14よりも光屈折率の高いITOからなる透明配線層15とを有する。
【0023】
透明配線層15は、ITOの結晶子サイズが9nm以下である。
すなわち、透明配線層15を構成するITOは、結晶質であり、その結晶化の程度が小さい状態(微結晶状態)にある。
【0024】
本例において、基材フィルム11は、その表裏にハードコート層111、112を備えている。
上記基材フィルム11はPET(ポリエチレンテレフタレート)からなり、その光屈折率は1.4〜1.7である。また、基材フィルム11の厚みは25〜188μmである。また、ハードコート層111、112は、それぞれ3〜8μmの膜厚を有する。
【0025】
また、高屈折コート層12は、例えば、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム、酸化アルミニウム、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、酸化錫、酸化ニオブ、酸化ランタン、酸化アルミニウム、酸化錫、ITOによって構成することができ、その光屈折率は1.7〜2.8である。高屈折コート層12の膜厚は5〜50nmとすることができる。
また、低屈折コート層13は、例えば、酸化シリコン、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム等によって構成することができ、その光屈折率は1.2〜1.5である。低屈折コート層13の膜厚は10〜100nmとすることができる。
【0026】
下地層14の光屈折率は、1.4〜1.5であり、その膜厚は10〜20nmである。また、透明配線層15の光屈折率は、1.9〜2.2であり、その膜厚は18〜30nmとすることができる。
【0027】
透明配線層15は、例えば互いに平行な複数の直線状の配線パターンからなるものとすることができる。
そして、本例の透明導電フィルム1は、タッチパネルに利用することができ、その場合、2枚の透明導電フィルム1を、両者間に所定の間隔を設けながら透明配線層15同士を向い合せにして重ね合わせるように配置することとなる。
【0028】
上記透明導電フィルム1を製造するにあたっては、まず、図2に示すような、樹脂からなる多層フィルム10を用意する。多層フィルム10は、基材フィルム11の表面に高屈折コート層12と、低屈折コート層13とが順次形成されたフィルムである。
この多層フィルム10における低屈折コート層13側の表面に、図3に示すごとく、酸化ケイ素からなる下地層14を形成する。
次いで、下地層14の表面の全面に、アモルファスのITOからなる透明導電膜150を形成する。
【0029】
次いで、図4に示すごとく、透明導電膜150の一部をエッチングしてパターン形成することにより透明配線層15を形成する。
次いで、多層フィルム10と下地層14と透明配線層15とからなる積層体101を加熱処理することにより透明配線層15を結晶化させる(図1)。
【0030】
上述した下地層14の形成及び透明導電膜150を形成する方法の一例を以下に示す。
すなわち、成膜には、ロール・トゥ・ロール方式のマグネトロンスパッタリング装置を用いる。スパッタリング設備のチャンバー内に多層フィルム10を取付け、チャンバー内に複数設置されているカソードの内の一つにケイ素ターゲット(住友金属鉱山株式会社製)を配置し、別のカソードにITOターゲット(住友金属鉱山株式会社製)を配置する。
なお、チャンバーは、2つの空間に分割されており、その一方の空間にケイ素ターゲットが配置され、他方の空間にITOターゲットが配置されている。
【0031】
次いで、多層フィルム10を配置したチャンバー内を真空排気し、その真空度を1×10-3〜1×10-5Pa程度にする。
次いで、チャンバー内にアルゴン(Ar)と酸素(O2)との混合ガスを導入し、その圧力を0.3〜0.6Paとする。このとき、チャンバー内におけるケイ素ターゲットを配置した空間に導入する混合ガスについては、カソードにおける放電電圧が所定の放電電圧となるように、酸素(O2)の量を調整する。一方、ITOターゲットを配置した空間に導入する混合ガスについては、アルゴンに対する酸素の割合(アルゴン分圧に対する酸素分圧の比率)を3〜6%とした。
この状態において、スパッタ装置の電極間に適宜電圧を印加して、酸化ケイ素とITOとを順次、多層フィルム10の表面(低屈折コート層13側の表面)に成膜する。
【0032】
これにより、図3に示すごとく、基材フィルム11と高屈折コート層12と低屈折コート層13とからなる多層フィルム10の表面に下地層14及びアモルファスの透明導電膜150を形成してなる積層体100を得る。
次いで、積層体100をチャンバー内から取り出し、アモルファスの透明導電膜150を部分的にエッチングして、パターン形成を行う。エッチング液としては、例えばHCl(塩酸)を用いる。これにより、図4に示すごとく、アモルファスのITOからなる透明配線層15を形成する。
【0033】
次いで、透明配線層15を形成した積層体101を、例えば150℃×90分にて、加熱処理(アニーリング)する。これによって、透明配線層15におけるアモルファスのITOを結晶化させる。このときの結晶化の程度が、X線回折ピーク強度において200cps以下の微結晶の程度である。
以上により、本例の透明導電フィルム1を得ることができる。
【0034】
次に、本例の作用効果につき説明する。
透明導電フィルム1は、基材フィルム11と透明配線層15との間に、高屈折コート層12と低屈折コート層13と下地層14とを、上記の積層順にて設けてある。これにより、透明導電フィルム1における光透過率を向上させ、光学特性を高めることができる。
【0035】
そして、透明配線層15は、ITOの結晶子サイズが9nm以下である。すなわち、透明配線層15を形成するITOは、結晶化しているものの結晶化の程度が小さい状態(微結晶の状態)にある。
透明配線層15は、微結晶の状態であっても結晶質であることには変わりがない。それゆえ、透明配線層15の耐久性、光学特性を維持することができる。すなわち、例えば、上記透明導電フィルム1をタッチパネル用に用いた場合に、打鍵特性や摺動特性に優れると共に、光透過性を高く維持することができる。
【0036】
また、透明配線層15が上記微結晶の状態にあることにより、透明配線層15は、成膜後、加熱処理(アニーリング)前の状態においてアモルファス(非晶質)の状態としておくことができる。つまり、透明導電膜150を成膜した後、これを部分的にエッチングして透明配線層15とした後に加熱処理を行うことによって、透明配線層15を結晶化する場合、加熱処理後のITOの結晶化の程度を上記微結晶の状態よりも高くするためには、加熱処理前の状態においてもある程度結晶質であることが必要となる。これに対し、加熱処理前において非晶質(アモルファス)であっても、上記微結晶であれば加熱処理によってこれを実現することができる。
【0037】
それゆえ、加熱処理後のITOが上記微結晶の程度であれば、エッチングを透明配線層15の結晶化の前、すなわちアモルファス(非晶質)の状態にある透明導電膜150に対して行うことが可能となる。その結果、エッチングによる配線の形成精度を高くすることができ、配線精度の高精度化を図ることができる。
また、透明導電膜150は酸化ケイ素からなる下地層14の表面に形成されているため、加熱処理時におけるITOの結晶化を促進することができる。
【0038】
そして、本例の透明導電フィルムの製造方法においては、下地層14の表面にアモルファスのITOからなる透明導電膜150を形成し、次いで、透明導電膜150の一部をエッチングしてパターン形成することにより透明配線層15を形成する。つまり、エッチング特性に優れたアモルファスのITOからなる透明導電膜150をエッチングすることとなるため、パターン形成を容易に精度よく行うことができる。その結果、透明配線層15の細線化が容易になるなど、配線精度を向上させることができる。
そして、その後、積層体101を加熱処理することにより透明配線層15を結晶化させるため、透明配線層15の耐久性、光学特性を確保することができる。
【0039】
以上のごとく、本例によれば、耐久性、光学特性に優れると共に、配線精度の高精度化を容易に図ることができる透明配線層を備えた透明導電フィルム及びその製造方法を提供することができる。
【0040】
(実験例1)
本例は、図5、表1に示すごとく、上記実施例1に示した透明導電フィルムの製造方法において、透明導電膜150の成膜時におけるスパッタリングの条件と、その後の加熱処理による透明配線層15の結晶化の程度との関係を調べた例である。
上記スパッタリングの条件としては、チャンバー内に導入するアルゴン(Ar)と酸素(O2)との混合ガスの圧力と、混合ガス中のアルゴンに対する酸素の割合(アルゴン分圧に対する酸素分圧の比率(O2/Ar))とを種々変更した。種々の条件に基づいて、それぞれ透明導電膜150を成膜し、その後、透明導電膜150をエッチングすることによってパターン形成して透明配線層15を形成すると共に、これを150℃×90分にて加熱処理して、透明配線層15を結晶化させて、透明導電フィルム1を作製した。
なお、スパッタリング時におけるチャンバー内の真空度は、1×10-3Paとした。
また、用いたスパッタ装置は、ロール・トゥ・ロール方式のマグネトロンスパッタリング装置である。
【0041】
得られた種々の透明導電フィルム1について、透明配線層15におけるITOの結晶子サイズを測定した。
ITOの結晶子サイズは、X線回折法を用いて求めた。すなわち、薄膜のX線回折のITO(222)回折ピークからシェラー法により求めた。ここで、シェラー法とは、X線の使用波長をλ〔nm〕、回折角をθ〔rad.〕、結晶子サイズをt〔nm〕、回折線の広がり(半値幅)をB〔rad.〕としたとき、これらの間に、t=0.9λ/Bcosθで表される関係があることを用いた測定法である。なお、測定には、リガク社製のX線回折装置(RINT−2100)を用いた。また、そのX線源は、CuKα(40kV、40mA)である。
【0042】
測定した結晶子サイズを、図5に示す。同図において、曲線L1にて結んだデータが、スパッタリング時の混合ガスの圧力を0.38Paとしたものであり、曲線L2にて結んだデータが、スパッタリング時の混合ガスの圧力を0.42Paとしたものであり、曲線L3にて結んだデータが、スパッタリング時の混合ガスの圧力を0.45Paとしたものであり、曲線L4にて結んだデータが、スパッタリング時の混合ガスの圧力を0.47Paとしたものであり、曲線L5にて結んだデータが、スパッタリング時の混合ガスの圧力を0.51Paとしたものである。
そして、同図の横軸がアルゴン分圧に対する酸素分圧の比率(O2/Ar)を表し、縦軸が、結晶子サイズを表す。
【0043】
同図から分かるように、スパッタリング時における混合ガスの圧力及び混合ガス中のアルゴン分圧に対する酸素分圧の比率を調整することにより、ITOの結晶子サイズを9nm以下に調整することができることが分かる。すなわち、例えば、混合ガスの圧力を0.51Paとしつつ混合ガス中のアルゴンに対する酸素の割合を3.25%としたり、混合ガスの圧力を0.38Paとしつつ混合ガス中のアルゴンに対する酸素の割合を6%としたりすることにより、上記結晶子サイズを9nm以下に調整することができる。なお、加熱処理後における結晶子サイズが9nmを超えるものについては、加熱処理前においても結晶化していた。一方、加熱処理後における結晶子サイズが9nm以下のものについては、加熱処理前の状態においてはアモルファス状態にあった。
【0044】
次に、上記各種条件にて成膜した透明配線層15(透明導電膜150)について、その色合い(L色空間におけるb値)とエッチング特性とを評価した。評価対象の試料は、上述した図5に示すデータを採取した種々の試料からピックアップしたものであり、そのスパッタ条件等は、下記の表1に示すとおりである。ただし、試料6、9、10については、チャンバー内の到達真空度を1×10-4Paまたは1×10-5Paにして透明導電膜150を成膜したものである。
【0045】
値については、透明配線層15のない部分におけるb値が1.0である場合における、透明配線層15のある部分におけるb値を示している。それゆえ、b値が1.0であれば透明配線層15は目立たず、b値が1.0から大きくずれるほど目立つこととなる。なお、b値の測定は、スガ試験機株式会社製の測色計「Colour Cute i」を用いて、JIS K 7105に従って測定した。
【0046】
また、エッチング特性については、透明導電膜150をエッチングすることによってパターン形成したとき、エッチング残渣がない場合は良品(○)、エッチング残渣がある場合は不良(×)とした。
また、アニール(加熱処理)前における透明導電膜150の結晶子サイズも測定した。表1中の「−」は、結晶化していないことを示す。
【0047】
【表1】

【0048】
表1に示すように、透明配線層15のITOの結晶子サイズが9nm以下のもの(試料1〜6)については、b値が1.0であって透明配線層15が目立たず、また、エッチング特性も優れていた。それに対し、透明配線層15のITOの結晶子サイズが9nmを超えるもの(試料7〜10)については、b値が0.9以下であって透明配線層15が目立ち、また、エッチング特性も劣っている。また、試料0として、アニールを行わず、透明配線層をアモルファスのままの状態としたものも用意した。そして、この試料0における透明配線層のb値は2.0であり、透明配線層が目立つものであった。
【0049】
また、アニール(加熱処理)後の透明配線層15のITOの結晶子サイズが9nm以下の試料は、アニール前の状態において、ITOに起因するX線回折ピークが出ず、非晶質(アモルファス)であることが確認された。これに対し、アニール(加熱処理)後の透明配線層15のITOの結晶子サイズが9nmを超える試料については、アニール(加熱処理)前における透明導電膜150のX線回折ピーク強度が生じ、アモルファス状態ではなかった。これが、エッチング特性が劣る要因となっていると考えられる。
【0050】
なお、試料1〜6の透明導電フィルム1における透明配線層15の耐酸性についても確認した。評価方法は、上記透明導電フィルム1を、25℃の5%HCl(塩酸)に30分間浸漬したときに、その抵抗変化が20%以内に収まるか否かによって行った。その結果、試料1〜6のいずれについても、抵抗変化は20%以内に収まり、耐酸性についても問題ないことが確認された。
【0051】
さらに、各試料について、打鍵特性の評価を行った。打鍵特性は、100万回打鍵試験を行った後に抵抗値変化率が20%以内に収まる場合を良品(○)、20%を超える場合に不良(×)とした。表1から分かるように、透明配線層が結晶化していない試料0については、打鍵特性が不充分であり、透明配線層が結晶化している試料1〜10については、優れた打鍵特性を有していた。
【0052】
以上の結果から、透明配線層において、ITOが結晶化していると共にその結晶子サイズが9nm以下であれば、耐久性、光学特性に優れると共に、配線精度の高精度化を容易に図ることができる透明配線層を備えた透明導電フィルムを得ることができることが分かる。特に、少なくとも透明配線層におけるITOの結晶子サイズが7.8〜9nmであれば、優れた耐久性、光学特性と、配線精度の高精度化とを確保することができることが分かる。
【符号の説明】
【0053】
1 透明導電フィルム
11 基材フィルム
12 高屈折コート層
13 低屈折コート層
14 下地層
15 透明配線層
150透明導電膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な樹脂からなる基材フィルムと、
該基材フィルムの表面に形成され、該基材フィルムよりも光屈折率の高い高屈折コート層と、
該高屈折コート層の表面に形成され、該高屈折コート層よりも光屈折率の低い低屈折コート層と、
該低屈折コート層の表面に形成された酸化ケイ素からなる防湿性の下地層と、
該下地層の表面においてパターン形成され、該下地層よりも光屈折率の高い結晶質のITOからなる透明配線層とを有し、
上記透明配線層は、ITOの結晶子サイズが9nm以下であることを特徴とする透明導電フィルム。
【請求項2】
透明な樹脂からなる基材フィルムの表面に該基材フィルムよりも光屈折率の高い高屈折コート層と、該高屈折コート層の表面に形成され該高屈折コート層よりも光屈折率の低い低屈折コート層とが形成された多層フィルムにおける上記低屈折コート層側の表面に、酸化ケイ素からなる防湿性の下地層を形成し、
次いで、該下地層の表面に、該下地層よりも光屈折率の高いアモルファスのITOからなる透明導電膜を形成し、
次いで、上記透明導電膜の一部をエッチングしてパターン形成することにより透明配線層を形成し、
次いで、上記多層フィルムと上記下地層と上記透明配線層とからなる積層体を加熱処理することにより上記透明配線層を結晶化させることを特徴とする透明導電フィルムの製造方法。
【請求項3】
請求項2において、上記加熱処理後の上記透明配線層におけるITOの結晶子サイズが9nm以下であることを特徴とする透明導電フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−103958(P2012−103958A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−252810(P2010−252810)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(000242231)北川工業株式会社 (268)
【Fターム(参考)】