説明

透明導電性ガスバリヤフィルム及びその製造方法

【課題】薄板ガラスの一方の表面に保護フィルムを貼付け他方の面に透明導電膜を形成した透明導電性ガスバリヤフィルムにおいて、保護フィルムとしてPPフィルムのように耐熱性のないものを用いても、透明導電膜を低抵抗に形成できるようにする。
【解決手段】透明導電性ガスバリヤフィルム1は、ガスバリヤ層となる基材フィルム10の裏面に保護フィルム(PPフィルム)20が貼付けられ、表面に透明導電膜30が形成されている。透明導電膜30は、ITO層31、Ag合金からなるAg層32、ITO層33の3層を順次積層してなる積層膜であって、ITO層,Ag層は、スパッタリング法で形成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ELディスプレイ、電子ペーパー、太陽電池等に用いられる透明導電性ガスバリヤフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ(LCD)や有機ELディスプレイ(OELD)等のフラットディスプレイパネル(FPD)において、液晶層や発光層が大気中の水分(水蒸気)や酸素成分と触れて劣化するのを防止する手段としてガスバリヤフィルムが開発され、実用化されている。また、電子ペーパーの構成要素や太陽電池の発電要素を保護するためにも、ガスバリヤフィルムは利用されている。
【0003】
ガスバリヤフィルムには、一般にフレキシブル性を求められるので、多くは軽量で透明性を備えるプラスチックフィルムを基材として開発が行われており、例えば、プラスチックフィルムの表面に、アルミナ、ジルコニア、シリカ等の無機成分、あるいは紫外線硬化樹脂または熱硬化樹脂等の有機成分からなるガスバリヤ層を形成して構成されている。
一方、ガスバリヤフィルムの基材として、熱的安定性及びガスバリヤ性に優れるガラス板も用いられている。
【0004】
ガラス板は、プラスチックフィルムと比べてフレキシブル性が劣るが、例えば、特許文献1には、厚さ200μm以下の薄いガラス層とプラスチック層を用いることによって可撓性を有する複合構造体が開示され、また、特許文献2には、薄板ガラスにフレキシブル性を付与して、ロール状の形態を維持できるようにしたものが開示され、このようにガラス薄板をガスバリヤフィルムとして用いた有機EL製品も開発されている。
【0005】
また、有機ELや電子ペーパーなどに用いられるガスバリヤフィルムにおいては、表示要素を駆動させるための透明導電膜を表面に形成した透明導電性ガスバリヤフィルムも開発されている。
この透明導電膜には、可視光の透過率が80%以上であること、並びに電気伝導度が高く、表面抵抗値が10Ω/□以下の低抵抗であることが要求される。
【0006】
透明電極薄膜として、従来、Au,Ag,Pt,Cu,Rh,Pd,Al,Crなどの金属を薄膜に形成したものが用いられていたが、金属単体の材料は一般的に化学的安定性が低いなどの問題があり、In23,SnO2,ZnO,CdO,InSbO4,Cd2SnO4,Zn2SnO4,In23−ZnO系などの酸化物半導体膜、さらに、In23,SnO2,ZnOにドーパントを添加することによって低抵抗化した酸化物半導体膜が用いられるようになっている。
【0007】
特に、In23にSnをドープしたITOは、透明性及び導電性に優れ、光デバイス用の透明電極として幅広く用いられている。
このような透明導電膜を薄板ガラスの表面に形成することによって、ガスバリヤ性が良好で且つ透明性の良好な導電性ガスバリヤフィルムを得ることもできる。また、この透明導電性ガスバリヤフィルムを長尺状に形成してロール状に巻回することもできるので、搬送も容易にできる。
【0008】
ところで、一般に薄板ガラスが、積み重ねるとブロッキングが生じやすいように、薄板ガラスの表面に透明導電膜を形成したガスバリヤフィルムにおいても、積み重ねたり、ロール状に巻回すると、ブロッキングが生じやすい。また、このようなガスバリヤフィルムを形成すると、その加工時に薄板ガラスが割れて飛散する可能性もあるので、加工することも難しい。
【0009】
このような問題に対して、ガスバリヤフィルムの基材となる薄板ガラスに、保護フィルムを貼付けることによって、ブロッキングを防止し、またガラスが飛散するのを抑える対策もなされており、それによって加工も容易になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第4332579号
【特許文献2】特開2010−105900号公報
【特許文献3】特許第4455204号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このような背景技術に基づいて、薄板ガラスの一方の表面に保護フィルムを貼付け、他方の面にITOからなる透明導電膜を形成することによって、ガスバリヤ性に優れ、ブロッキング及びガラスの飛散を抑えることができ、且つ低抵抗の透明導電膜を備えるガスバリヤフィルムを実現できると考えられる。
ITOからなる透明導電膜を低抵抗に形成する主な方法として、真空蒸着法とスパッタ法があるが、いずれも低抵抗率の薄膜を得るためには、成膜時に基材の温度を100℃以上の高温に維持し、且つ薄膜の厚みを400nm程度の膜厚にする必要がある。
【0012】
従って、保護フィルムを貼付けたガラス薄板にITO透明導電膜を低抵抗で形成しようとするには、ポリプロピレン(PP)やポリエチレン(PE)のような耐熱性のない保護フィルムを用いることはできず、耐熱性の高い保護フィルムを用いる必要があり、また、製膜時間も長くなるので、それだけコスト高になってしまう。
本発明は、上記課題に鑑み、薄板ガラスの一方の表面に保護フィルムを貼付け他方の面に透明導電膜を形成した透明導電性ガスバリヤフィルムにおいて、保護フィルムとしてPPフィルムのように耐熱性のないものを用いても、導電性の良好な透明導電膜を形成できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明にかかる透明導電性ガスバリヤフィルムは、ガラス薄板からなる基材フィルムの一方の面に保護フィルムを配し、他方の面に透明導電膜を形成し、透明導電膜を、金属酸化物からなる薄膜どうしの間に、銀を主成分とする材料(銀又は銀合金)からなる銀層が挟まれた積層構造とした。
上記透明導電性ガスバリヤフィルムにおいて、銀層は、Ag−Pd−Cu合金で形成することが好ましい。
【0014】
また、薄膜を構成する金属酸化物はITOであることが好ましい。
また、保護フィルムは、伸縮性の高いPPやPEからなるフィルムを用いることが好ましい。
上記透明導電性ガスバリヤフィルムをロール状に巻回して透明導電性ガスバリヤフィルムロール体を形成してもよい。
【0015】
上記目的を達成するため、本発明にかかる透明導電性ガスバリヤフィルムの製造方法では、一方の面に保護フィルムが配されたガラス薄板の他方の面に、金属酸化物からなる薄膜を形成する第1工程と、第1工程で形成した薄膜上に銀を主成分とする材料で銀層を薄膜形成する第2工程と、第2工程で形成した銀層上に金属酸化物からなる薄膜を形成する第3工程とを設けることとした。
【発明の効果】
【0016】
上記本発明にかかる透明導電性ガスバリヤフィルム、並びに、上記本発明の製造方法によって製造された透明導電性ガスバリヤフィルムによれば、基材としてガラス薄板が用いられているので、ガスバリヤ性が優れ、フレキシブル性も有している。
そして、ガラス薄板の一方の面に保護フィルムを貼付けられているので、この透明導電性ガスバリヤフィルムを積み重ねたときに、ガラス薄板同士の間に保護フィルムが介在され、それによってブロッキングが防止される。
【0017】
また、透明導電膜が、金属酸化物からなる薄膜どうしの間に導電性の良好な銀層が挟まれた積層構造となっているので、これらの各層をガラス薄板の表面上に薄膜形成するときに、基板となるガラス薄板の温度を高温にしなくても、また、膜厚が薄くても、低抵抗の透明導電膜を形成することができる。
すなわち、銀層は、基板となるガラス薄板の温度を高温にしなくても低抵抗で形成することができ、この銀層がITOなどの金属酸化物からなる薄膜間に介在した積層構造なので、金属酸化物からなる薄膜の導電性は低くても、銀層によって十分な導電性を確保できる。
【0018】
また、金属酸化物からなる薄膜と銀層との光干渉効果を利用して、透明導電膜の透明性を確保することもできる。
従って、保護フィルムとして、PPフィルムのように耐熱性がないものを用いても、ガラス薄板に保護フィルムを貼付けた状態で、その表面に低抵抗の透明導電膜を形成することができる。
【0019】
よって、コストを抑えながら、ブロッキングを防止でき且つ低抵抗の透明導電膜を有する透明導電性ガスバリヤフィルムを実現することができる。
特に、保護フィルムとしてPPフィルムを用いれば、低価格で良好な耐ブロッキング性が得られる。
また、本発明にかかる透明導電性ガスバリヤフィルムは、基材であるガラス薄板、保護フィルムの各層がフレキシブル性を有するので、透明導電性ガスバリヤフィルム全体においてもフレキシブル性を有する。
【0020】
従って、本発明にかかる透明導電性ガスバリヤフィルムをロール状に巻回して、透明導電性ガスバリヤフィルムロール体を形成することができる。
このロール体においても、巻回されたガラス薄板同士の間に、保護フィルムが介挿されているので、ブロッキングが防止され、使用時には透明導電性ガスバリヤフィルムをスムースに繰り出すことができる。
【0021】
銀層をAg−Pd−Cu合金で形成すれば、導電性及び耐候性が良好な銀層を形成できる。
保護フィルムとして、特に表面荒さの粗い保護フィルムを用いれば、ブロッキング防止効果が優れ、透明導電性ガスバリヤフィルムを加工するときに加工しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施の形態にかかる透明導電性ガスバリヤフィルム1の断面模式図である。
【図2】透明導電膜30を形成するのに用いるスパッタリング装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[透明導電性ガスバリヤフィルム1の構成]
図1は、実施の形態にかかる透明導電性ガスバリヤフィルム1の断面を模式的に示す図である。
この透明導電性ガスバリヤフィルム1は、例えば有機ELディスプレイのカバーフィルムとして用いられるものであって、ガスバリヤ層となる基材フィルム10の裏面に保護フィルム20が貼付けられ、表面に透明導電膜30が形成されて構成されている。
【0024】
この透明導電性ガスバリヤフィルム1は、厚みが数十〜数百μm程度であり、長尺状であって、巻芯2の周りにロール状に巻回されている。
基材フィルム10:
基材フィルム10は、薄板ガラスからなるフィルムであるため、水蒸気および酸素をはじめとするガスに対して高いガスバリヤ性を有し、可視光透過性も高い。
【0025】
基材フィルム10の材料としては、ケイ酸塩ガラスが好ましく、より好ましくはシリカガラス、ホウ珪酸ガラスが用いられる。
基材フィルム10にアルカリが含有されていると、表面に陽イオンの置換が発生し、ソーダ吹きの現象が生じて破損し易くなるため、アルカリ含有量が1000ppm以下の無アルカリガラスが好ましい。
【0026】
ガスバリヤフィルム1に可撓性を付与するために、基材フィルム10の厚みは200μm以下に設定することが好ましく、更に100μm以下が望ましい。一方、基材フィルム10の厚みが薄すぎると、強度不足となるので、基材フィルム10の厚みは10μm以上が好ましい。
このように基材フィルム10の厚みを10〜200μmに設定することによって、ガスバリヤフィルム1を曲げたときに基材フィルム10にかかる応力も少なくなり、ガスバリヤフィルム1を長尺物にしてロール状に巻き取ることも可能となる。
【0027】
なお、ロール状に巻き取る際には、ガラスからなる基材フィルム10が破壊されないように、一定以上の巻き径で巻き取る。
保護フィルム20:
保護フィルム20は、粘着層21を介して基材フィルム10に貼付けられている。ただし、保護フィルム20を基材フィルム10に貼付けるのに、必ずしも粘着層を介さなくてもよく、保護フィルム20を基材フィルム10に熱圧着などで直接貼付けることもできる。
【0028】
この保護フィルム20は、万一、外部から加えられる衝撃によって基材フィルム10が壊れた場合に、その破片が飛散するのを防止する。また、ガスバリヤフィルム1が巻き取られたときに、保護フィルム20が基材フィルム10どうしの間に介在して、ブロッキングが発生するのを防止する。
PPやPEフィルムは基材フィルム10に貼付けやすく、保護フィルムとしての機能及びブロッキング防止効果が優れ、価格も安価なので、保護フィルム20として好ましい。
【0029】
また、保護フィルム20として、基材フィルム10に貼り付ける側と反対表面の表面荒さの粗いフィルムを用いれば、ブロッキング防止効果が優れる。
粘着層21を形成する粘着剤としては、アクリル系透明樹脂を用いることができる。このアクリル系透明樹脂は、塗工タイプと、共押出成形で粘着層を形成する自己粘着タイプとに大別されるが、透明導電膜30を形成する工程で基材フィルム10にシワや剥離が生じることなく接着していれば、どちらを用いてもかまわない。
【0030】
透明導電膜30:
透明導電膜30は、ITO層31、Ag層32、ITO層33の3層を順次積層してなる積層膜である。
ITO層31、Ag層32、ITO層33は、いずれも導電層として機能するが、特にAg層32は導電性に優れ、主な導電機能を有している。
【0031】
Ag層32は、導電性の良好なAgを主成分とする合金からなる透明層である。
Agは、基本的に低抵抗率を有するが、Ag合金は、Ag単独の材料と比べて、耐熱性、耐腐食性に優れ、長期にわたって良好な電気伝導性を維持できるので好ましい。特に、Ag−Pd−Cu系合金(APC合金)は、AgにPdを添加することによって、耐候性が向上し、さらに、Cuを添加することによって、加熱工程における凝集による表面ラフネスやヒロックを抑制する効果を奏する。
【0032】
また、Ag合金には、Geなどの金属が含まれていてもよく、Geの添加によって耐熱性及び耐硫化性が向上する。
Ag層32の膜厚は10〜30nmに調整することが好ましい。
これは、Ag層32の膜厚を10nm以上に設定すれば、Ag層32の表面抵抗(Rs)を10Ω/□以下の低抵抗にすることができ、一方、膜厚を30nm以下にすることによって、Ag層32の透過性を確保できるからである。
【0033】
ITO層31及びITO層33は、In23にSnをドープしてなるITOを薄膜状に成形したものである。ITO層31の厚みは20nm〜40nmに調整し、その表面抵抗は、200Ω〜10kΩ/□とすることが好ましい。
ITO層31は、Ag層32の下面側において、基材フィルム10の表面上に直接積層され、基材フィルム10と強固に密着する機能を有している。
【0034】
ITO層33は、Ag層32を被覆して、環境性能を向上させ、Ag層32が大気と触れて酸化反応により劣化するのを防止する。
このような透明導電性ガスバリヤフィルム1は、有機ELディスプレイの表面にカバーガラスとして貼付けられる。なお、有機ELディスプレイの使用時には保護フィルム20は剥がされる。
【0035】
ここでは、透明導電膜30は、基材フィルム10の表面に一様に形成されていることとするが、透明導電性ガスバリヤフィルム1を貼付ける対象となる有機ELディスプレイ本体の配線構造に合わせて、透明導電膜30に適宜パターニングを施してもよい。
[透明導電性ガスバリヤフィルムの製造方法]
透明導電性ガスバリヤフィルム1の製造方法について、以下に例示する。
【0036】
1.基材フィルム10の成形と保護フィルム20の貼付け
長尺状の基材フィルム10は、ガラス材料を溶融した後、ダウンドロー法(溶解したガラスを、炉の底に空けたスリットを通して下に引き出す方法)で連続的に板状に成形することによって作製することができる。
そして、基材フィルム10の裏面に、長尺状の保護フィルム20を連続的に貼付け、ロール状に巻き取る。
【0037】
保護フィルム20としてはPPまたはPEフィルムを用いることが好ましい。PPフィルムを基材フィルム10に貼付けるのに、保護フィルム20にアクリル系、合成ゴム系、変性ゴム系などの粘着材を塗工して貼付けてもよいし、エチレン酢酸ビニル系粘着材などの樹脂粘着材を共押出成形した自己粘着タイプを用いて貼り付けてもよい。
2.透明導電膜30の形成
裏面に保護フィルム20を貼付けた基材フィルム10の表面に、Ag層32をITO層31,33で挟んだ構造の透明導電膜30を成膜する。
【0038】
この透明導電膜30を形成する具体的方法を以下に説明する。
図2は、透明導電膜30を形成するのに用いるスパッタリング装置の概略構成を示す図であって、ITO層31を形成する様子を示している。
スパッタリング装置50は、チャンバー51の中に、主ローラ52、巻出し軸53、巻取り軸54、ガイドローラ55a,55b、ターゲット56などが配置されて構成されている。
【0039】
そして、ターゲット56の下には、マグネトロンを形成するマグネット57が配置されてカソードが構成され、このカソードと、アノード58との間にDC電源60が接続されている。また、ターゲット56の上方には、ガスを導入するガスノズル59が設けられている。
3.ITO層31の成膜:
ターゲット56として、酸化インジウム(In23)と酸化錫(SnO2)とを混合して焼結させたセラミックターゲットを用いる。
【0040】
裏面に保護フィルム20が貼付けられた基材フィルム10がロール状に巻回されてなるロール体41を、巻出し軸53に設置する。
チャンバー51内を1.6×10-3Torr以下に減圧すると共に、ガスノズル59からアルゴンガスと酸素ガスを流し、電源60でDC電圧を印加してプラズマを生成しながら、ロール体41から保護フィルム20付きの基材フィルム10を繰り出し、主ローラ52上を経由して、巻取り軸54で巻き取る。
【0041】
これによって、主ローラ52上を流れる基材フィルム10上にITOがスパッタリングされてITO層31が形成される。形成するITO層31の厚みは20nm〜40nmになるよう電力および走行速度を調整する。
なお、Arガスと酸素ガスの流量比については、形成する薄膜に対して要求される特性(例えば表面抵抗や透明性)を得るのに適した比率を事前に求めておいて、その比率に設定する。
【0042】
また、スパッタリング時には、プラズマによって基材フィルム10が加熱されるが、印加する電力などを調整して、基材フィルム10の温度が保護フィルム20の耐熱温度を越えないよう低温に維持する。
巻取られたロール体42においては、基材フィルム10の裏面に保護フィルム20が貼付けられ、表面にITO層31が形成されている。
【0043】
4.Ag層32の成膜:
次に、スパッタリング装置50を用いて、上記のようにして形成されたITO層31の上にAg層32を形成する。
ターゲット56としてAg合金を用い、ガスノズル59からアルゴンガスを流し、電源60でDC電圧を印加してプラズマを生成しながら、ロール体42から保護フィルム20付きの基材フィルム10を繰り出し、主ローラ52上を経由して巻き取る。
【0044】
なお、銀合金の製造方法や銀合金をスパッタリングして薄膜を形成する方法については、上記特許文献3を参照することができる。
これによって、ITO層31上にAg層32が形成される。
形成するAg層32の厚みは10〜30nmになるよう電力および走行速度を調整する。
【0045】
このスパッタ時においても、印加する電力などを適宜調整して、基材フィルム10が保護フィルム20の耐熱温度を越えないように低温に維持する。
このように基材フィルム10を低温度にしてAg層32を形成しても、形成されるAg層32は低抵抗な薄膜となる。
5.ITO層33の成膜:
Ag層32の上にITO層33を形成する。このITO層33は、上記ITO層31の成膜方法と同様にして形成することができる。
【0046】
以上のようにして、裏面に保護フィルム20を貼付けた基材フィルム10の表面に透明導電膜30を成膜することによって、透明導電性ガスバリヤフィルム1を作製することができる。
なお、以上の説明では、ITO層31の成膜工程、Ag層32の成膜工程、ITO層33の成膜工程ごとに、繰り出し及び巻き取りを行ったが、スパッタリング装置に3つのターゲットを設けておいて、1回の繰り出し及び巻き取りで、ITO層31の成膜、Ag層32の成膜、ITO層33の成膜を連続して行うことがより好ましい。
【0047】
[透明導電性ガスバリヤフィルム1による効果について]
上記のように、透明導電性ガスバリヤフィルム1は長尺上に形成されているが、ロール状に巻回されているので容易に搬送することができる。
ここで、透明導電性ガスバリヤフィルム1は、基材フィルム10の裏面に保護フィルム20が貼付けられているので、透明導電性ガスバリヤフィルム1を長尺状に形成してロール状に巻回したときに、基材フィルム10同士が直接接触することがなく、保護フィルム20が間に介在するので、ブロッキングが防止される。
【0048】
従って、ロール状に巻回された透明導電性ガスバリヤフィルム1から繰り出して加工するときにも加工しやすい。
また、製造途中のロール体41、ロール体42においても、基材フィルム10同士が直接接触することがなく、保護フィルム20が間に介在するので、ブロッキングが防止される。
【0049】
透明導電性ガスバリヤフィルム1は、透明導電膜30がITO層31/Ag層32/ITO層33が積層された積層構造なので、Ag層32によって優れた導電性を得ることができる。
また、Ag層32がITO層31とITO層33によって挟まれているので、Ag層32の安定性も良好である。すなわち、Ag層が単独で存在する場合は、特に湿熱環境において水分が侵入し、腐食及び劣化されやすいが、 ITO層31とITO層33で挟まれていることによって、水分の侵入が抑えられるので、腐食及び劣化が防止される。
【0050】
また、透明導電膜30のITO層31が、基材フィルム10の表面と直接接触しているので、透明導電膜30と基材フィルム10との密着性も良好である。
さらに、透明導電膜30は積層構造であるため、光干渉効果(基材表面に屈折率の異なる層を形成して各層の境界面での反射光の干渉効果)を利用して反射光を打ち消し合うように設計することができ、それによって良好な透明性が得られる。
【0051】
上記製法で説明したように、透明導電膜30を成膜する工程において、保護フィルム20が貼付けられた基材フィルム10の温度が低温であっても、低抵抗の透明導電膜30を製膜することができる。従って、耐熱性の低いPPフィルムが保護フィルム20として基材フィルム10に貼付けられていても、導電性の良好な透明導電膜30を製膜することができる。
【0052】
また、 透明導電膜30は、ITO層31,33、Ag層32の膜厚が数十nmと薄くても、導電性の良好な透明導電膜30を製膜することができる。
一方、比較例として透明導電膜をITO層だけで形成する場合、低抵抗の薄膜を形成するためには基板を250℃〜300℃程度の高温に設定することが必要である。従って、基材フィルムにPPフィルムのような耐熱性のない保護フィルムが貼付けられている場合には、基材フィルムの表面に導電性の良好なITO層を形成することは難しい。
【0053】
また、透明導電膜を150℃以下の低温でITO層だけで形成する場合、ITO層の膜厚として400nm程度の厚さが必要であるため製膜時間も長く必要である。
[実施例]
基材フィルム10として、厚さ50μmのガラス薄板(日本電気硝子(株)製 OA−10G、無アルカリガラス)を用い、保護フィルム20として、粘着塗工タイプPPフィルム(厚さ75μm、日立化成工業(株)製ヒタレックスDP−1010)を、粘着層(粘着剤はアクリル系樹脂)を介して、基材フィルム10の裏面に貼付け、表面にITO層31を圧力4×10-4Torr、電力密度1.74W/cmの条件にて厚さ35nmで、APCからなるAg層32を圧力3×10-3Torr、電力密度0.31W/cmの条件にて厚さ10nmで、ITO層33を厚さ35nmで形成することによって、実施例にかかる透明導電性ガスバリヤフィルム1を作製した。
作製した透明導電性ガスバリヤフィルムは、表面抵抗値が7.98Ω/□(三菱化学(株)製ロレスターFPで測定)であり、全光線透過率は84.10%、ヘイズは0.27%であった(日本電色工業(株)製NDH−5000でASTM D 1003準拠にて測定)。また、透明導電膜の総厚が80nm程度と薄く、カールは発生せず良好であった。
【0054】
また、表1に示すように、保護フィルム20として、PEフィルム及びポリエステルテレフタレート(PET)フィルムを用いて、同様に透明導電性ガスバリヤフィルムを作製した。
作製した各透明導電性ガスバリヤフィルムについて、以下のようにブロッキングテストを行った。
【0055】
(ブロッキングテスト)
スパッタ装置での実走行をライン速度1m/minの条件で行いながら、巻き出し軸の回転状態を観察することによって、ブロッキングが発生しているか否かを判定した。ブロッキングが起ると、回転はスムースではなくフィルム同士がくっつくため間欠的な回転となるので、明らかに判定できる。
【0056】
その結果、表1に示すように、保護フィルムを貼り付けた透明導電性ガスバリヤフィルムはいずれもブロッキングが発生しなかった。すなわち、保護フィルムの材質および厚みを問わず、耐ブロッキング性は良好であった。
一方、保護フィルムを設けない透明導電性ガスバリヤフィルムについても同様にブロッキングテストを行ったところブロッキングが発生した。
【0057】
次に、上で用いた各保護フィルムについて、以下のように静摩擦係数を測定した。
(静摩擦係数の測定)
数値評価をするため表面性測定機(HEIDON(新東化学(株))製Type 14FW)を用いて、63.5×63.5mmのサンプルを用意し、下面に薄板ガラスを置き、上面には薄板ガラスに保護フィルムを貼り付けたサンプルを、保護フィルムを下側にして設置する。上面から200gの加重をかけた状態で200mm/minの速度で滑らせて静摩擦係数を調べた。この静摩擦係数が高いとブロッキング発生しやすいことは経験的に得ている。
【0058】
保護フィルムを設けないサンプルについても同様に静摩擦係数を測定した。
静摩擦係数の測定結果は表1に示すとおりである。表中のトレテック7332は、東レフィルム加工(株)製の自己粘着タイプのPE保護フィルムである。
いずれの保護フィルムにおいても、保護フィルムを貼り付けることによって静摩擦係数が低くなりブロッキングしないことがわかる。
【0059】
【表1】

【0060】
(剥離強度の測定)
各保護フィルムの接着強度について、Peeling Tester(HEIDON(新東化学(株))製 HEIDON−17)を用いて測定した。25mm幅×150mm程度の短冊状の薄板ガラスに各保護フィルムを貼り付けたサンプルを用意し、薄板ガラスを水平に設置して、保護フィルムを180度方向に200mm/minの速度で引き剥がす際の力を測定することで剥離強度を求めた。その結果を表2示す。
【0061】
【表2】

【0062】
表2に示すように、PETの保護フィルムに比べて、PP及びPEの保護フィルムは、接着強度が高い。この結果から、ガラスの飛散防止効果が高いことがわかる。よって保護フィルムの材料として、PP及びPEが好適であることがわかる。
[比較例]
基材フィルム10として、厚さ50μmのガラス薄板を用い、保護フィルムを貼り付けず、枚葉にて150℃の成膜温度で厚み400nmのITO膜を形成して比較例にかかる透明導電性ガスバリヤフィルムを作製した。成膜温度を150℃としたのは、150℃以下の低温では、10Ω/□以下の表面抵抗値を有するITO膜を形成することが困難であることを考慮している。
【0063】
得られた透明導電性ガスバリヤフィルムは、表面抵抗値22.40Ω/□であり、全光線透過率は84.22%、ヘイズは0.31%であった。
この比較例にかかる透明導電性ガスバリヤフィルムにおいては、カールが発生した。これは、ITO膜の膜厚が厚く、膜応力が強いためと考えられる。
表3に、上記実施例と比較例の透明導電性ガスバリヤフィルムについて、その電気特性および光学特性、カールの有無を示している。
【0064】
【表3】

【0065】
[その他の事項]
上記製法においては、スパッタリング装置50において、電源60でDC電圧を印加する例を示したが、RF電圧を印加することによってスパッタリングしても、ITO層31,Ag層32,ITO層33を形成することができる。
ITO層31,33及びAg層32を成膜するのにスパッタリング法を用いる例を示したが、ITO層31,33およびAg層32を形成するのに、EB蒸着法、イオンプレーティング、CVD法などを用いてもよい。
【0066】
上記実施の形態の製法においては、保護フィルム20を貼付けた長尺状の基材フィルム10をロール状に巻回したロール体41を用いて、ロール状に巻回した透明導電性ガスバリヤフィルム1を作製する例を示したが、透明導電性ガスバリヤフィルム1が枚葉の場合にも、上記実施の形態で説明した積層構造とすることによって、同様に、良好なブロッキング防止効果を奏し、また透明導電膜30を製膜する工程において基材フィルム10が低温でも低抵抗の透明導電膜30を製膜することができる。
【0067】
上記実施の形態では、透明導電膜30を、ITO層31/Ag層32/ITO層33で形成したが、ITO層31,33の代わりに、アンチモン添加酸化鉛、フッ素添加酸化錫、アルミニウム添加酸化亜鉛(AZO等)、ガリウム添加酸化亜鉛(GZO等)、シリコン添加酸化亜鉛、チタン添加酸化インジウム系(ITiO)、酸化亜鉛−酸化錫系(ZnO等)、スズ酸化膜(SnO2等)、タングステン添加酸化インジウム(IWO等)などの酸化物からなる1対の薄膜で、銀合金層を挟んでも、同様に透明性及び導電性の優れた透明導電膜を形成できる。
【0068】
また、銀合金層を挟み込む1対の酸化物薄膜は、必ずしも同じ種類の酸化物で形成されていなくてもよく、別々の種類の酸化物で形成されていてもよい。例えば、ITO層とZnO層で銀合金層を挟み込んで、透明導電膜を形成してもよい。
また、上記金属酸化物薄膜以外にポリ(エチレンジオキシ−チオフェン)−ポリスチレンスルホン酸(PDOT:PSS)などの透明導電性高分子薄膜でも良い。
【0069】
また、Ag層32の代わりに純銀からなる銀層を形成してもよい。すなわち、純Ag層もAg層と同様に導電性に優れ、これをITO層などで挟むことによって安定性も得られるので、透明導電膜30を、純Ag層をITO層などで挟んだ構成とすることによって、同様に、優れた導電性と安定性を有する透明導電膜とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明による透明導電性ガスバリヤフィルムは、有機ELや電子ペーパー等のフラットディスプレイパネルの要素として利用できる。
【符号の説明】
【0071】
1 透明導電性ガスバリヤフィルム
2 巻芯
10 基材フィルム
20 保護フィルム
21 粘着層
30 透明導電膜
31,33 ITO層
32 Ag層
41,42 ロール体
50 スパッタリング装置
51 チャンバー
52 主ローラ
53 巻出し軸
54 巻取り軸
56 ターゲット
59 ガスノズル
60 電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス薄板からなる基材フィルムの一方の面に保護フィルムが配され、他方の面に透明導電膜が形成された透明導電性ガスバリヤフィルムであって、
前記透明導電膜は、
金属酸化物からなる薄膜どうしの間に、銀又は銀合金からなる銀層が挟まれた積層構造であることを特徴とする透明導電性ガスバリヤフィルム。
【請求項2】
前記薄膜を構成する金属酸化物はITOであることを特徴とする請求項1記載の透明導電性ガスバリヤフィルム。
【請求項3】
前記銀層は、
Ag−Pd−Cu合金からなることを特徴とする請求項1又は2記載の透明導電性ガスバリヤフィルム。
【請求項4】
前記保護フィルムは、ポリプロピレンまたはポリエチレンからなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の透明導電性ガスバリヤフィルム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか記載の透明導電性ガスバリヤフィルムがロール状に巻回されてなる透明導電性ガスバリヤフィルムロール体。
【請求項6】
一方の面に保護フィルムが配されたガラス薄板の他方の面に、金属酸化物からなる薄膜を形成する第1工程と、
前記第1工程で形成した薄膜上に銀を主成分とする材料で銀層を薄膜形成する第2工程と、
前記第2工程で形成した銀層上に金属酸化物からなる薄膜を形成する第3工程とを備えることを特徴とする透明導電性ガスバリヤフィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−54006(P2012−54006A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193591(P2010−193591)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】