説明

透明導電性積層体及びその製造方法

【課題】短時間で透明導電層を結晶化させること、及び、基板の熱収縮処理を行い、導電層のパターニング、貼り合せの前に、後工程で加えられる熱による寸法変化を抑制することで、複数の透明導電性フィルムのパターン位置合わせ精度を向上させる透明導電性積層体の製造方法を提供する。
【解決手段】透明基板の片面に少なくとも透明導電層を形成する工程と、前記透明基板上に形成された透明導電層を加熱処理する工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電性積層体及び透明導電性積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイ画面に指で触れ、またはペンでディスプレイ画面を押圧するだけで入力できる透明タッチパネルが普及している。この種のタッチパネルの電極として使用される透明導電性基材は基本的にガラスもしくは高分子フィルムに導電膜を積層した構成を有している。
【0003】
特に、近年では、可撓性、加工性に優れ、軽量である等の点からポリエチレンテレフタレートをはじめとする高分子フィルムを使用した透明導電性フィルムが使用されている。
【0004】
タッチパネルには、静電容量結合式や光学式等の多様な方式のものが存在する。その中で、透明導電フィルムが使用されるのは、上下の電極が接触することでタッチ位置を特定する抵抗膜式や、静電容量の変化を感知する静電容量結合方式のものである。このタッチパネルは、携帯用端末装置及び携帯ゲーム機等のディスプレイ前面に使用されており、そのために、ディスプレイの表示を損なわない透過・反射特性や、特に静電容量式タッチパネルにおいては、透明導電層のパターン形状を目立ちにくくし、視認性を向上させる必要がある。
【0005】
タッチパネル用途での透明導電性フィルムでは、抵抗膜式においては、上下の電極が接触するため、機械的耐久性が求められる。そのために、特許文献1のように機械的強度を持たせる目的で、フィルムを加熱することで酸化インジウムスズ(ITO)を結晶化させる手段がとられている。また、静電容量式においては、透明導電層のパターン形状が目立ちにくいことの他に、特許文献2のように異なるパターンを有する複数の導電性フィルムを貼り合せるといった技術が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−149884号公報
【特許文献2】特開2003−114762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1などの方法では、フィルム上の導電層を結晶化させるために、多くの時間を要するという問題があった。時間短縮を図る為にはフィルムの加熱温度を上げることが考えられるが、基材が有機高分子である場合は加熱できる温度に限界がある。また、静電容量式のように、パターンを有する複数の導電性フィルムを貼り合せる場合にあっては、フィルムの加熱による熱収縮で、個々のフィルムに生じる寸法変化があることから、微細なパターンを形成しようとする場合、パターンの位置を合わせることが難しく、これが大きな課題となっている。
【0008】
本発明は、かかる従来技術の課題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、短時間で透明導電層を結晶化させること、及び、基板の熱収縮処理を行い、導電層のパターニング、貼り合せの前に、後工程で加えられる熱による寸法変化を抑制することで、導電層の光学特性及び機械的耐久性を向上させ、複数の透明導電性フィルムのパターン位置合わせ精度を向上させるといった、抵抗膜式用、静電容量用両者の課題を解決する透明導電性積層体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、透明基板の片面に少なくとも透明導電層を形成する工程と、前記透明基板及び/又は前記透明導電層を加熱処理する工程とを備えることを特徴とする透明導電性積層体の製造方法である。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、第一の透明基板の片面に少なくとも第一の透明導電層を形成する工程と、第二の透明基板の片面に少なくとも第二の透明導電層を形成する工程と、前記第一の透明基板及び/又は前記第一の透明導電層、及び前記第二の透明基板及び/又は前記第二の透明導電層を加熱処理する工程と、前記第一の透明導電層が積層された第一の透明導電性積層体と、前記第二の透明導電層が積層された第二の透明導電性積層体を粘着層で貼り合わせる工程と、を備えることを特徴とする透明導電性積層体の製造方法である。
【0011】
また、請求項3に記載の発明は、加熱処理した前記第一の透明導電層に、第一の導電性パターン領域および第一の非導電性パターン領域を形成する工程と、加熱処理した前記第二の透明導電層に、第二の導電性パターン領域および第二の非導電性パターン領域を形成する工程を備えることを特徴する請求項2に記載の透明導電性積層体の製造方法である。
【0012】
また、請求項4に記載の発明は、前記加熱処理が透明導電層を結晶化させるための処理であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の透明導電性積層体の製造方法である。
【0013】
また、請求項5に記載の発明は、前記加熱処理が透明基板を収縮させるための処理であることを特徴とする請求項1から3のいずれかの一項に記載の透明導電性積層体の製造方法である。
【0014】
また、請求項6に記載の発明は、前記加熱処理が大気中で行われる処理であり、透明導電性積層体の表面温度が130℃以上150℃以下であり、加熱時間が30分以上90分以下であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の透明導電性積層体の製造方法である。
【0015】
また、請求項7に記載の発明は、前記加熱処理が真空中で行われる処理であり、透明導電性積層体の表面温度が80℃以上150℃以下であり、加熱時間が1分以上30分以下であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の透明導電性積層体の製造方法である。
【0016】
また、請求項8に記載の発明は、前記加熱処理がロールトゥロール方式により行われることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の透明導電性積層体の製造方法である。
【0017】
また、請求項9に記載の発明は、請求項1から8までの製造方法により作製されたことを特徴とする透明導電性積層体である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、透明導電層のパターニング、透明導電性積層体の貼り合せ前に、透明基板層を加熱処理することで、透明導電層を結晶化、透明基板の収縮を行うことで、導電層の光学特性及び機械的耐久性を向上させ、後工程で加えられる熱による抵抗変化及び寸法変化を抑制し、電気特性の安定化、及び、パターンが微細なものであっても位置合わせ精度を向上させることができる。また、真空中で加熱処理を行うことで、透明導電層の結晶化を大気圧中での加熱処理より短時間に行うことが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の透明導電性積層体の断面形態の例1の説明図である。
【図2】本発明の透明導電性積層体の断面形態の例2の説明図である。
【図3】本発明の透明導電性積層体の断面形態の例3の説明図である。
【図4】本発明の透明導電性積層体の断面形態の例4の説明図である。
【図5】本発明の透明導電性積層体の断面形態の例5の説明図である。
【図6】本発明の透明導電性積層体加熱処理装置の概略図である。
【図7】本発明の実施例1及び実施例2で得られた透明導電性積層体はX線回折装置での分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態を、図面を用いながら説明する。なお、本発明は、以下に記載する実施の形態のものに限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて設計の変更などの変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれるものとする。
【0021】
図1は、本発明の透明導電性積層体の断面形態の例1の説明図である。透明導電性積層体11は透明基板1aの一方の面に設けられた透明導電層2からなる。
【0022】
図2は、本発明の透明導電性積層体の断面形態の例2の説明図である。透明導電性積層体11は、透明基板1aの一方の面に設けられた透明導電層2からなる導電性パターン領域4a及び、非導電性パターン領域4bとから構成される。ここで、導電性パターン領域とは、導電性を有する部分のことをいい、非導電性パターン領域とは、透明導電層2を除去した導電性を有しない部分のことをいう。
【0023】
図3(a)(b)は、本発明の透明導電性積層体の断面形態の例3の説明図である。図3(a)(b)のように、図1又は図2に示した透明導電性積層体11の透明基板1aの透明導電層2を積層する面に光学調整層3aを設けてもよい。
【0024】
図4(a)〜(d)は、本発明の透明導電性積層体の断面形態の例4の説明図である。図4(a)〜(d)のように、図1から図3に示した透明導電性積層体11の透明基板1aの一方の面に設けられた透明導電層2あるいは光学調整層3aと、透明基板1aとの間に設けた樹脂層5aから構成される。その他の実施形態としては、透明基板1の透明導電層2、光学調整層3aが設けられていない面にも樹脂層5aを設けてもよい。
【0025】
図5は、本発明の透明導電性積層体の断面形態の例5の説明図である。透明導電性積層体11は、第一の透明基板1aの片面に設けられた導電性パターン領域4a及び非導電性パターン領域4bを形成した第一の透明導電層2aと、第二の透明基板1bの片面に設けられた導電性パターン領域4a及び非導電性パターン領域4bを形成した第二の透明導電層2bと、第一の透明導電層2aと第二の透明導電層2bを外側にして、第一の透明基板1aと第二の透明基板1bとの間に設けた粘着層6とから構成される。その他の実施形態としては、第一の透明導電層2a面側と第二の透明基板1bの第二の透明導電層2bを有さない面とを粘着層6を介して貼り合せてもよい。
【0026】
図6は、本発明の透明導電性積層体を加熱処理する加熱処理装置8の概略図である。透明導電性積層体を加熱処理する場合は、透明導電性積層体11をロールトゥロール方式で透明導電性積層体を搬送し、この透明導電性積層体が搬送される経路中に、ヒーター7を設置し、任意の温度で加熱処理を行えるようにする。また、加熱処理装置内の圧力を真空ポンプ(図示せず)により大気圧から0.1Paまで調整が行えるようにしているので、大気中又は真空中での加熱処理が可能である。
【0027】
ヒーター7は、図6のように、透明導電性積層体の両方の面を同時に加熱する機構を有したものでもよく、また、透明導電性積層体の一方の面のみを加熱する機構を有したものでもよい。また、透明導電性積層体の一方の面のみを加熱し、透明導電性積層体の他方の面側に熱を反射させる機構を設けて、透明導電性積層体の他方の面も同時に加熱できる機構を有したものでもよい。
【0028】
ヒーターを用いて透明導電性積層体を加熱処理する場合であって、その加熱処理が透明導電層を結晶化させるための処理である場合、透明導電層側にヒーターを配置し、透明導電層側から加熱処理することが好ましい。一方、その加熱処理が透明基板を収縮させるための処理である場合、透明基板側にヒーターを配置し、透明基板側から加熱処理することが好ましい。また、加熱処理の条件によっては、透明導電層及び透明基板側を同程度に加熱することができるので、透明導電層側または透明基板側のどちらか一方にヒーターを配置すればよい。
【0029】
本発明の加熱処理装置は、透明導電性積層体を構成する透明基板及び/又は透明導電層を加熱処理できればよく、図6に示した装置形状または装置構成でなくてもよい。
【0030】
本発明で用いる透明基板層1a及び1bは、ガラスの他に、樹脂からなるプラスチックフィルムが用いられる。プラスチックフィルムとしては、成膜工程および後工程において十分な強度があり、表面の平滑性が良好であれば、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、ポリスルホンフィルム、ポリアリレートフィルム、環状ポリオレフィンフィルム、ポリイミドフィルムなどが挙げられる。その厚さは部材の薄型化と基材の可撓性とを考慮し、10μm以上200μm以下程度のものが用いられる。
【0031】
透明基板層1a及び1bに含有される材料としては、周知の種々の添加剤や安定剤、例えば帯電防止剤、可塑剤、滑剤、易接着剤などが使用されてもよい。各層との密着性を改善するため、前処理としてコロナ処理、低温プラズマ処理、イオンボンバード処理、薬品処理などを施してもよい。
【0032】
本発明で用いる樹脂層5a,5bは、透明導電性積層体11に機械的強度を持たせるために設けられる。用いられる樹脂としては、特に限定はしないが、透明性と適度な硬度と機械的強度を持つ樹脂が好ましい。具体的には3次元架橋の期待できる3官能以上のアクリレートを主成分とするモノマー又は架橋性オリゴマーのような光硬化性樹脂が好ましい。
【0033】
3官能以上のアクリレートモノマーとしては、トリメチロールプロパントリアクリレート、イソシアヌル酸EO変性トリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ポリエステルアクリレートなどが好ましい。特に好ましいのは、イソシアヌル酸EO変性トリアクリレートおよびポリエステルアクリレートである。これらは単独で用いても良いし、2種以上併用しても構わない。また、これら3官能以上のアクリレートの他にエポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリオールアクリレートなどのいわゆるアクリル系樹脂を併用することが可能である。
【0034】
架橋性オリゴマーとしては、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ポリウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレートなどのアクリルオリゴマーが好ましい。具体的にはポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA型エポキシアクリレート、ポリウレタンのジアクリレート、クレゾールノボラック型エポキシ(メタ)アクリレートなどがある。
【0035】
樹脂層5a、5bは、その他に粒子、光重合開始剤などの添加剤を含有してもよい。
【0036】
添加する粒子としては、有機又は無機の粒子が挙げられるが、透明性を考慮すれば、有機粒子を用いることが好ましい。有機粒子としては、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂及びフッ素樹脂などからなる粒子が挙げられる。
【0037】
粒子の平均粒径は、樹脂層5a,5bの厚みによって異なるが、ヘイズ等の外観上の理由により、下限として2μm以上、より好ましくは5μm以上、上限としては30μm以下、好ましくは15μm以下のものを使用する。また、粒子の含有量も同様の理由で、樹脂に対し、0.5重量%以上5重量%以下であることが好ましい。
【0038】
光重合開始剤を添加する場合、ラジカル発生型の光重合開始剤として、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンジルメチルケタールなどのベンゾインとそのアルキルエーテル類、アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、などのアセトフェノン類、メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−アミルアントラキノンなどのアントラキノン類、チオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントンなどのチオキサントン類、アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタールなどのケタール類、ベンゾフェノン、4,4−ビスメチルアミノベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類及びアゾ化合物などがある。これらは単独または2種以上の混合物として使用でき、さらにはトリエタノールアミン、メチルジエタノールアミンなどの第3級アミン、2−ジメチルアミノエチル安息香酸、4−ジメチルアミノ安息香酸エチルなどの安息香酸誘導体などの光開始助剤などと組み合わせて使用することができる。
【0039】
上記光重合開始剤の添加量は、主成分の樹脂に対して0.1重量%以上5重量%以下であり、好ましくは0.5重量%以上3重量%以下である。下限値未満ではハードコート層の硬化が不十分となり好ましくない。また、上限値を超える場合は、ハードコート層の黄変を生じたり、耐候性が低下したりするため好ましくない。光硬化型樹脂を硬化させるのに用いる光は、紫外線、電子線、あるいはガンマ線などであり、電子線あるいはガンマ線の場合、必ずしも光重合開始剤や光開始助剤を含有する必要はない。これらの線源としては高圧水銀灯、キセノンランプ、メタルハライドランプや加速電子などが使用できる。
【0040】
また、樹脂層5a,5bの厚みは、特に限定されないが、0.5μm以上15μm以下の範囲が好ましい。また、透明基板層11と屈折率が同じかもしくは近似していることがより好ましく、1.45以上1.75以下程度が好ましい。
【0041】
樹脂層5a,5bの形成方法は、主成分である樹脂等を溶剤に溶解させ、ダイコーター、カーテンフローコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、グラビアコーター、ナイフコーター、バーコーター、スピンコーター、マイクログラビアコーターなどの公知の塗布方法で形成する。
【0042】
溶剤については、上記の主成分の樹脂等を溶解するものであれば特に限定しない。具体的には、溶剤として、エタノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、ベンゼン、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソアミル、乳酸エチル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、メチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、などが挙げられる。これらの溶剤は1種を単独で用いても良いし、2種以上を併用してもよい。
【0043】
本発明の粘着層6は、第一の透明基板1aと第二の透明基板1bとを接着するための層である。粘着層6に用いられる樹脂としては、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、ゴム系樹脂などが挙げられ、クッション性や透明性に優れた樹脂を用いることが好ましい。
【0044】
光学調整層3a,3bは、第一の透明導電層2a及び第二の透明導電層2bに形成されたパターンを目立たなくする機能を有し、視認性を向上させるための層である。光学調整層3a,3bとして無機化合物を用いる場合、酸化物、硫化物、フッ化物、窒化物などの材料が使用可能である。上記無機化合物からなる薄膜は、その材料により屈折率が異なり、その屈折率の異なる薄膜を特定の膜厚で形成することにより、光学特性を調整することが可能となる。なお、光学機能層の層数としては、目的とする光学特性に応じて、複数層あってもよい。
【0045】
屈折率の低い材料としては、酸化マグネシウム(1.6)、二酸化珪素(1.5)、フッ化マグネシウム(1.4)、フッ化カルシウム(1.3〜1.4)、フッ化セリウム(1.6)、フッ化アルミニウム(1.3)などが挙げられる。また、屈折率の高い材料としては、酸化チタン(2.4)、酸化ジルコニウム(2.4)、硫化亜鉛(2.3)、酸化タンタル(2.1)、酸化亜鉛(2.1)、酸化インジウム(2.0)、酸化ニオブ(2.3)、酸化タンタル(2.2)が挙げられる。但し、上記括弧内の数値は屈折率を表す。
【0046】
第一の透明導電層2a及び第二の透明導電層2bは、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズのいずれか、または、それらの2種類もしくは3種類の混合酸化物、さらには、その他添加物が加えられた物などが挙げられるが、目的・用途により種々の材料が使用でき、特に限定されるものではない。現在のところ、最も信頼性が高く、多くの実績のある材料は酸化インジウムスズ(ITO)である。
【0047】
最も一般的な透明導電膜である酸化インジウムスズ(ITO)を第一の透明導電層2a及び第二の透明導電層2bとして用いる場合、酸化インジウムにドープされる酸化スズの含有比は、デバイスに求められる仕様に応じて、任意の割合を選択する。例えば、透明基板がプラスチックフィルムの場合、機械強度を高める目的で薄膜を結晶化させるために用いるスパッタリングターゲット材料は、酸化スズの含有比が10重量%未満であることが好ましい。また、薄膜に低抵抗が求められる場合は、酸化スズの含有比は3重量%から20重量%の範囲が好ましい。
【0048】
光学調整層3a,3bおよび第一の透明導電層2a及び第二の透明導電層2bの製造方法としては、膜厚の制御が可能であればいかなる成膜方法でも良く、なかでも薄膜の形成乾式法が優れている。これには、真空蒸着法、スパッタリングなどの物理的気相析出法やCVD法のような化学的気相析出法を用いることができる。特に大面積に均一な膜質の薄膜を形成するために、プロセスが安定し、薄膜が緻密化するスパッタリング法が好ましい。
【0049】
透明基板及び/又は透明導電層の加熱処理としては、例えば、ロールトゥロール方式で搬送され、搬送スピードを0.1から20m/minの範囲で調整し、加熱処理時間を調整できることが好ましく、導電性積層体が搬送される経路中に25℃から200℃の範囲で調整が可能な熱源を有することが好ましい。熱源については圧力が大気圧から0.1Paの範囲で使用できれば種類は限定されず、一例としてIRヒーターが挙げられる。これにより透明導電層の特性によって加熱温度及び加熱時間を任意に選択し、透明導電層の結晶化及び透明基板の熱収縮を行うことが出来る。
【0050】
本発明は、透明基板及び/又は透明導電層の加熱処理することを特徴とする。透明基板を加熱処理することにより、透明基板が熱収縮するため、後工程で透明導電性積層体に熱が加わったとしても、予め透明基板の熱収縮が行われていることにより、抵抗変化及び寸法変化を抑制することができる。また、透明導電層を加熱処理することにより、透明導電層が結晶化され、導電層の光学特性及び機械的耐久性を向上させることができる。
【0051】
静電容量用の透明導電性積層体を製造する場合、2つの透明導電性積層体を粘着層で貼り合わせる、貼り合わせ工程を有するが、本発明の加熱処理は、貼り合わせ工程の前の工程で、2つの透明導電性積層体を加熱処理することが好ましい。これにより、特に、透明基板の熱収縮による寸法変化を抑制することができることから、貼り合わせ工程を精度よく行うことができる。
【0052】
また、静電容量用の透明導電性積層体を製造する場合、透明導電層をパターニングする工程を有するが、本発明の加熱処理は、パターニング工程の前に透明導電性積層体を加熱処理することが好ましい。これにより、特に、透明基板の熱収縮による寸法変化を抑制することができることから、パターニング工程を精度よく行うことができる。
【0053】
加熱処理が大気中で行われる処理である場合、透明導電性積層体の表面温度が130℃以上200℃以下であり、加熱時間が30分以上90分以下であることが好ましい。また、加熱処理が真空中で行われる処理である場合、透明導電性積層体の表面温度が80℃以上200℃以下であり、加熱時間が1分以上30分以下であることが好ましい。上記条件により、透明導電層を結晶化、透明基板の収縮を行うことができ、透明導電層の光学特性及び機械的耐久性を向上させ、後工程で加えられる熱による抵抗変化及び寸法変化を抑制することができる。なお、透明導電性積層体の表面温度とは、透明基板又は透明導電層の温度のことを指す。
【0054】
透明導電層2のパターン形成方法としては、透明導電層2上にレジストを塗布し、パターンを露光・現像により形成した後に透明導電層を化学的に溶解させるフォトリソグラフィによる方法、真空中で化学反応により気化させる方法、レーザーにより透明導電層を昇華させる方法、などが挙げられる。パターン形成方法は、パターンの形状、精度などにより適宜選択できる。
【0055】
また、本発明の透明導電性積層体11は、導電性パターン領域と非導電性パターン領域との全光線透過率の差が1.5%以下であり、かつ透過色相b*差が2.0以下であることが好ましい。この範囲である場合、透明導電性積層体の両面に異なるパターンを形成しても、パターン形状が目立たなくなり、視認性が向上する。
【0056】
また、本発明の透明導電性積層体11は、150℃30分間における熱収縮率が0.5%以下であることが好ましい。この範囲である場合、透明導電層のパターン形成工程において加わる熱による収縮を抑えることができ、第一の透明導電層2a及び第二の透明導電層2bに形成したパターンの位置のずれを防止することができる。
【実施例】
【0057】
次に実施例及び比較例について説明する。
【0058】
<実施例1>
透明基板1として厚さ125μmのニ軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用意し、両面に樹脂層5が塗布されている。透明基板1の一方の面に光学調整層3、透明導電層2、順にマグネトロンスパッタリング法により成膜を行い、全光線透過率が90%、表面抵抗値が400Ω/□となるように、透明導電層2、光学調整層3の膜厚を調整し透明導電性積層体を作製した。この場合、透明導電層2にはITO、光学調整層3には酸化珪素及び酸化チタンを使用した。次に作製した透明導電性積層体を加熱処理装置に設置し、装置内圧力を1.0Pa、透明導電性積層体の表面温度を150℃、加熱時間を3分とし、ロールトゥロールで加熱処理を行った。
【0059】
透明導電層2上にレジストを塗布し、パターンを露光・現像により形成した後に塩化第二鉄を使用し、透明導電層を部分的に溶解してパターン形成を行った。
【0060】
<実施例2>
実施例1と同様の構成で透明導電性積層体を作製し、装置内圧力を大気圧、透明導電性積層体の表面温度を150℃、加熱時間を30分とし、ロールトゥロールで加熱処理を行った。次に実施例1と同様に透明導電層を部分的に溶解してパターン形成した。
【0061】
<比較例>
加熱処理を行わなかったほかは、実施例1と同様の構成で透明導電性積層体を作製した。
得られた透明導電性積層体を下記評価方法にて評価した。
[評価方法1]
透明導電層の結晶性:加熱処理装置により加熱処理する前、加熱処理後の透明導電性積層体の透明導電層部分についてX線回折装置(リガク社製)を用いて分析し、結晶化を確認した。
【0062】
寸法安定性:パターン形成後の透明導電性積層体を、150℃、30分加熱し、加熱する前後での透明導電性積層体の寸法を測定し、熱収縮率を算出した。
【0063】
実施例1及び実施例2で得られた透明導電性積層体はX線回折装置での分析結果より、図7のように、加熱処理前では酸化インジウムのピークが見られないが、加熱処理後は実施例1、2両者の透明導電性積層体とも222面のピークが観測され結晶化されていることが確認された。これにより、真空中での加熱処理は大気中での加熱処理と比較し、短時間で透明導電層の結晶化が行えることがわかった。
【0064】
次に実施例1、2及び比較例の透明導電性積層体の熱収縮率を算出したところ、実施例1、2の透明導電性積層体は熱収縮率が0.3%で寸法安定性が良いのに対し、比較例の透明導電性積層体は熱収縮率が0.8%となり、寸法安定性に乏しいことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、電子機器のディスプレイ上に入力デバイスとして取り付けられる透明なタッチパネルに用いられる。特に、マルチタッチが可能なモバイル機器などに用いられる。
【符号の説明】
【0066】
1 …透明基板層
1a…第一の透明基板層
1b…第二の透明基板層
2a…透明導電層
2b…透明導電層
3a…光学調整層
3b…光学調整層
4a…導電性パターン領域
4b…非導電性パターン領域
5a…樹脂層
5b…樹脂層
6 …粘着層
7 …ヒーター
8 …加熱処理装置
11…透明導電性積層体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板の片面に少なくとも透明導電層を形成する工程と、
前記透明基板及び/又は前記透明導電層を加熱処理する工程と
を備えることを特徴とする透明導電性積層体の製造方法。
【請求項2】
第一の透明基板の片面に少なくとも第一の透明導電層を形成する工程と、第二の透明基板の片面に少なくとも第二の透明導電層を形成する工程と、
前記第一の透明基板及び/又は前記第一の透明導電層、及び前記第二の透明基板及び/又は前記第二の透明導電層を加熱処理する工程と、前記第一の透明導電層が積層された第一の透明導電性積層体と、前記第二の透明導電層が積層された第二の透明導電性積層体を粘着層で貼り合わせる工程と、を備えることを特徴とする透明導電性積層体の製造方法。
【請求項3】
加熱処理した前記第一の透明導電層に、第一の導電性パターン領域および第一の非導電性パターン領域を形成する工程と、
加熱処理した前記第二の透明導電層に、第二の導電性パターン領域および第二の非導電性パターン領域を形成する工程を備えることを特徴する請求項2に記載の透明導電性積層体の製造方法。
【請求項4】
前記加熱処理が透明導電層を結晶化させるための処理であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の透明導電性積層体の製造方法。
【請求項5】
前記加熱処理が透明基板を収縮させるための処理であることを特徴とする請求項1から3のいずれかの一項に記載の透明導電性積層体の製造方法。
【請求項6】
前記加熱処理が大気中で行われる処理であり、透明導電性積層体の表面温度が130℃以上150℃以下であり、加熱時間が30分以上90分以下であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の透明導電性積層体の製造方法。
【請求項7】
前記加熱処理が真空中で行われる処理であり、透明導電性積層体の表面温度が80℃以上150℃以下であり、加熱時間が1分以上30分以下であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の透明導電性積層体の製造方法。
【請求項8】
前記加熱処理がロールトゥロール方式により行われることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の透明導電性積層体の製造方法。
【請求項9】
請求項1から8の製造方法を用いて作製されたことを特徴とする透明導電性積層体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−64546(P2012−64546A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−210089(P2010−210089)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】