説明

透明電極及びその製造方法

【課題】 インジウムを使用しない透明電極であり、耐アルカリ性や湿熱安定性に優れ、しかもエッチング性に優れた透明電極を提供する。
【解決手段】 酸化亜鉛及び酸化スズを主成分とし、電極端部のテーパー角が30〜89度である透明電極。この透明電極中の亜鉛原子とスズ原子の総量に対する、亜鉛原子の割合(Zn/(Zn+Sn)、原子比)は0.5〜0.85であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄型ディスプレイ等に使用される透明電極に関する。さらに詳しくは、酸化亜鉛及び酸化スズを主成分とする透明電極であって、電極端部にテーパーが施された電極、及びその電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、低消費電力、フルカラー化が容易等の特徴を有することから薄型ディスプレイの中で有望視され、近年表示画面の大型化に関する開発が活発である。中でも、各画素毎にα−Si型薄膜トランジスタ(TFT)又はp−Si型TFTをスイッチング素子としてマトリックス状に配列し、駆動するアクティブマトリックス方式液晶平面ディスプレイは、800×600画素以上の高精細化を行っても、コントラスト比が劣化しないことから、高性能カラー表示用平面ディスプレイとして注目されている。
【0003】
このようなアクティブマトリックス方式液晶平面ディスプレイでは、画素電極として、酸化インジウム−酸化スズ(ITO)等の透明電極を用い、ゲート電極、ソース・ドレイン電極としては、Al系合金薄膜を用いることが多い。これは、ITOのシート抵抗が低く、透過率が高いこと、また、Alは、容易にパターニングできる上に低抵抗で密着性が高いためである。
【0004】
ここで、TFT基板の構成例について説明する。図3は液晶平面ディスプレイの製造工程において、画素電極のパターン形成が終了した段階のα−SiTFT近傍の断面を示したものである。
図3では、透光性ガラス基板21上にゲート電極パターン22を形成し、次にプラズマCVD法を用いて、SiNゲート絶縁膜23、α−Si:H(i)膜24、チャンネル保護膜25及びα−Si:H(n)膜26を連続的に形成し、所望の形状パターン化する。さらに、Alを主体とする金属膜を真空蒸着法或いはスパッタ法により堆積し、フォトリソグラフィ技術によりソース電極パターン27及びドレイン電極パターン28を形成し、α−SiTFT素子部分が完成する。尚、本例では保護膜30を形成してある。
【0005】
この上に、ITO膜をスパッタリング法にて堆積し、フォトリソグラフィ技術によりソース電極27と電気的に接続した画素電極パターン29とする。ITO膜をAl膜の後に堆積する理由は、α−Si:H膜とソース及びドレイン電極との電気的なコンタクト特性を劣化させないためである。
Alは安価で比抵抗が低く、ゲート及びソース・ドレイン電極配線の抵抗増大による液晶ディスプレイの表示性能の低下を防ぐ意味で必須の材料である。
【0006】
上記の製造工程において、Alを主体とするソース・ドレイン電極パターンを形成した後、ITO画素電極パターンをHCl−HNO−HO系エッチング液で加工すると、加工終了時点でAlパターンが溶出するという問題が頻繁に発生した。
これは、本来、AlもITOエッチング液であるHCl−HNO−HO系エッチング液に溶解する性質を持っていることに起因する。エッチング液中のHNOはAl表面に薄いAl酸化膜を形成し、Alの溶出を防止する意味で添加されているが、ITO膜のエッチング時間が長かったり、Al堆積中に混入したAl膜中の不純物、異物等の欠陥部分が存在すると、局部電池反応により、上記のHNOによるAlの酸化効果が十分に作用しないものと考えられる。また、AlとITOが電気的に接合した状態でレジストの現像液であるテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)の2.38wt%水溶液中に浸漬した場合、電池反応によりAlが溶出するという問題もある。
【0007】
このようなAlの溶出を防止するために、ITO膜を非晶質にすることで、HCl−HNO−HO系のエッチング液に対するITO/Alエッチングレート比を大きくすることが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
しかしながら、ITO膜を非晶質にしてもHCl−HNO−HO系のエッチング液を用いるため、Alの溶出は完全には防止されておらず、高精細な液晶ディスプレイを実現することはできなかった。
【0008】
この問題に関し、Alゲート、ソース・ドレイン電極パターン上における、酸化インジウム−酸化亜鉛からなる透明電極、画素電極のパターン化を、蓚酸系のエッチング液にて行なうことにより、パターン化を容易にすることが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0009】
ところで、透明電極として一般に使用されている酸化インジウム−酸化スズ(ITO)や酸化インジウム−酸化亜鉛(IZO)は、どちらも酸化インジウムを主成分としている。近年、インジウムは薄型ディスプレイ用途等に需要が急増しており、その価格は高騰している。このため、透明電極を作製するために用いるスパッタリングターゲットの価格も上昇するという問題がある。
【0010】
このため、酸化インジウムを用いない酸化亜鉛系の透明導電膜や、酸化スズ系の透明導電膜が提案されている(例えば、非特許文献1参照。)。
しかしながら、酸化亜鉛膜では、その性質上、酸及びアルカリ溶液に弱いため、耐久性がなく実用的ではないことが知られている。また、酸化亜鉛の成膜においては、基板近傍の酸化亜鉛は結晶性が低くなり、透明導電膜表面は結晶性が高くなる性質を有するため、エッチング工程において、基板近傍の膜が表面よりエッチングされ易く、エッチングされた電極が逆台形(アンダーカット)になるという問題があった。
【0011】
一方、酸化スズは、化学的な安定性が強すぎるために、強酸である王水(硝酸・塩酸の混合酸)でもエッチングしずらいという問題があった。
【特許文献1】特開昭63−184726号公報
【特許文献2】特開平11−264995号公報
【非特許文献1】日本学術振興会 透明酸化物 光・電子材料第166委員会編:透明導電膜の技術、オーム社(1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上述の問題に鑑みなされたものであり、インジウムを使用しない透明電極であり、耐アルカリ性や湿熱安定性に優れ、しかもエッチング性に優れた透明電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究したところ、酸化亜鉛・酸化スズからなるスパッタリングターゲットを使用して透明電極を形成することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
本発明によれば、以下の透明電極及びその製造方法等が提供できる。
【0014】
1.酸化亜鉛及び酸化スズを主成分とし、電極端部のテーパー角が30〜89度である透明電極。
2.前記透明電極中の亜鉛原子とスズ原子の総量に対する、亜鉛原子の割合(Zn/(Zn+Sn)、原子比)が0.5〜0.85である1に記載の透明電極。
3.酸化亜鉛及び酸化スズを主成分とする透明導電膜を、蓚酸水溶液を用いてエッチングする方法。
4.前記蓚酸水溶液における蓚酸の濃度が1wt%〜10wt%である3に記載のエッチング方法。
【0015】
5.亜鉛原子とスズ原子の総量に対する、亜鉛原子の割合(Zn/(Zn+Sn)、原子比)が0.5〜0.85である酸化亜鉛及び酸化スズを主成分とする透明導電膜を形成する工程と、前記透明導電膜を、エッチング液として蓚酸濃度が1wt%〜10wt%である水溶液を用い、エッチング液の温度を20〜50℃の範囲においてエッチングし、パターニングする工程と、を有する2に記載の透明電極の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の透明電極は、インジウムを使用しないため、インジウムの価格変動に関係なく安価である。特定の組成とした酸化亜鉛・酸化スズを使用することによって、電極の耐アルカリ性、耐湿熱性を優れたものとできる。
また、特定のエッチング液を使用することにより、電極端部が逆台形状となることを防止でき、一定のテーパー角に制御した電極を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の透明電極を具体的に説明する。
図1は、本発明の透明電極の断面図である。
本発明の透明電極11は基板10上に形成され、酸化亜鉛及び酸化スズを主成分とし、電極端部のテーパー角(α)が30〜89度である。
「酸化亜鉛及び酸化スズを主成分とする」とは、透明電極中に占める亜鉛及びスズの酸化物の占める割合(原子比)が51%以上であることを意味する。尚、本発明において、上記酸化物の占める割合は、好ましくは、75%以上、特に好ましくは90%以上である。
【0018】
亜鉛及びスズの酸化物の形態としては、ZnO等の酸化亜鉛の形態、SnO、SnO等の酸化スズの形態、ZnSnO、ZnSnO等の酸化亜鉛−酸化スズ間の複合酸化物の形態があるが、非晶質の形態が好ましい。
この非晶質透明導電膜は、酸化亜鉛系の透明導電膜及び酸化スズ系の透明導電膜にはない、優れたエッチング特性を有する。即ち、酸化亜鉛系の透明導電膜とは異なり、エッチング後の電極端部が逆台形状になりにくく、また、酸化スズ系のようにエッチング特性が悪いということはない。
【0019】
本発明の透明電極は、電極端部のテーパー角が30〜89度である。テーパー角が30度より小さい場合、電極エッジ部分の距離が長くなり、液晶や有機ELを駆動させた場合、画素周辺部と内部とでコントラストが異なることがある。テーパー角が89度を超えると、エッジ部分の電極割れや剥離が起こり、また、液晶の場合には、配向膜の不良を起こしたり、有機ELの場合、対向電極の断線を引き起こす場合がある。
【0020】
この透明導電膜(透明電極)の膜厚は、5〜300nmが好ましく、20〜150nmがより好ましく、30〜80nmが特に好ましい。膜厚が5nm未満では、抵抗値が高くなり過ぎるおそれがあり、300nmを超えると、エッチング後の電極端部のテーパー角が30〜89度に入らないおそれがある。
【0021】
本発明では、上述した酸化亜鉛及び酸化スズを主成分とする透明導電膜を使用しているので、透明電極のテーパー角の制御が可能である。テーパー角の制御は、例えば、エッチング剤である蓚酸水溶液の濃度を調整することにより行なう。具体的に、テーパー角を小さくするには、蓚酸水溶液の濃度を低めに調整し、逆にテーパー角を大きくするには蓚酸水溶液の濃度を高めに調整すればよい。
尚、酸化亜鉛・酸化スズを主成分とする透明導電膜は非晶質膜であることが好ましい。非晶質膜でない場合、テーパー角の制御が難しく30〜89度に収めることができなくなることがある。
【0022】
本発明においては、透明電極中の亜鉛原子とスズ原子の総量に対する、亜鉛原子の割合(Zn/(Zn+Sn)、原子比)は、0.5〜0.85であることが好ましい。Zn/(Zn+Sn)が0.85より大きいと、蓚酸水溶液でエッチングする場合、制御が困難となり、電極端部のテーパー角が90度以上となったり、サイドエッチングが大きくなりすぎて、電極の細りや断線のおそれがある。また、透明電極と外部回路を接続する異方導電フィルム(ACF)との接触抵抗が大きくなったり、耐久試験(高温、高湿)でACFとの接触抵抗が大きくなるおそれがある。
一方、Zn/(Zn+Sn)が0.5未満の場合では、蓚酸でのエッチング速度が低下し、エッチングできない場合がある。好ましくは、Zn/(Zn+Sn)は0.5〜0.8であり、より好ましくは、0.7〜0.8である。
尚、原子の割合(Zn/(Zn+Sn)、原子比)は、ICP(高周波誘導結合プラズマ)分析法により測定した値である。
【0023】
本発明の透明電極は、酸化亜鉛と酸化スズを主成分とする非晶質導電性酸化物からなる透明導電膜を、エッチング、パターン化することにより製造できる。以下、図面を参照しながら説明する。
【0024】
図2は、本発明の透明電極の製造工程を示す図である。製造工程は主に、透明導電膜の形成(図2(a))、レジスト膜の形成(図2(b))、レジスト膜のパターニング(図2(c))、透明導電膜のエッチング(図2(d))からなる。
(1)透明導電膜の形成
透明電極を形成する基板10上に透明導電膜11’を形成する。
基板10としては、透明基板であるガラス板、ポリスルフォン,ポリカーボネート等の透明樹脂板等が使用できる。
透明導電膜11’の成膜方法としては、蒸着法、スパッタ法、CVD法、スプレー法、デップ法等が挙げられる。なかでも、スパッタ法が好適に用いられる。
具体的には、酸化亜鉛及び酸化スズを主原料として調製、焼結したスパッタリングターゲットを使用すればよい。尚、形成される透明導電膜11’を非晶質透明導電膜とするには、スパッタリング中の基板温度を300℃以下に調整したり、スパッタリング中のスパッタガス中に水素を添加(10vol%以下)すればよい。
このように、透明導電膜11’を非晶質とすることにより、蓚酸水溶液にて容易にエッチングできるようになる。
【0025】
(2)透明電極の形成
続いて、透明導電膜をエッチングして所望の電極パターンにパターニングする。パターニングは本技術分野において通常なされる方法、例えば、フォトリソグラフィによってすることができる。即ち、透明導電膜11’にレジスト膜12を形成し(図2(b))、露光、現像により、レジスト膜12をパターン化する(図2(c))。その後、エッチング液を用いて、透明導電膜11’をエッチングし、所望のパターンに形成する。最後に、透明電極11上に残存しているレジスト膜12を剥離液を用いて除去することによって(図2(d))、透明電極を形成する(図2(e))。
【0026】
本発明においては、エッチング液として蓚酸水溶液を使用することが好ましい。蓚酸以外の酸を用いると、エッチング力が大きくなるため、TFTで使用されるAlを溶解してしまう場合がある。
蓚酸水溶液における蓚酸の濃度は、1wt%〜10wt%であることが好ましい。蓚酸濃度が1wt%未満では、エッチング速度が遅く実用的ではなく、10wt%を超えると、蓚酸塩の結晶が析出するおそれがある。より好ましくは、2wt%〜7wt%、特に好ましくは、2wt%〜5wt%である。
【0027】
エッチング時におけるエッチング液の使用温度は、20〜50℃であることが好ましい。20℃未満では、エッチング速度が遅く実用的でなく、50℃を超えると、水分の蒸発により、蓚酸水溶液の濃度が変動する場合がある。好ましくは25℃〜45℃、より好ましくは30℃〜45℃である。
【0028】
レジスト現像液には、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)の水溶液を用いることが好ましい。TMAH以外のアルカリ成分を用いると、レジストパターンのずれや溶解が起こり、エッチング上重大なトラブルを発生するおそれがある。また、Alと透明導電膜が電気的に接合している場合に、電解質液と接触した場合に電池反応を起こすことがあり、注意を要することがある。
【0029】
TMAHの濃度は、1〜5wt%が好ましい。1wt%未満では、レジスト現像不良が起こりことがあり、形成した透明電極がショートしやすくする。また、5wt%を超える濃度では、レジストパターンの線細りや剥離が起こるため、電極パターンの線細りや断線する場合がある。好ましくは、2〜4wt%である。
【0030】
レジスト剥離液には、エタノールアミン系アミンを用いることが好ましい。エタノールアミン系アミンとしては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等があり、ジエタノールアミンが好適に用いられる。また、水溶液でもよいが、極性溶媒との混合液でも使用できる。このような極性溶媒としては、DMF、DMSO、NMP等が挙げられる。
レジスト剥離液におけるエタノールアミン系アミンの濃度は、10wt%〜60wt%であることが好ましく、特に、20wt%〜40wt%であることが好ましい。
尚、剥離液として、NaOHやKOH等の無機アルカリを使用すると、電極表面が溶解され凸凹になる場合があるため好ましくない。
【0031】
こうして形成された透明電極のキャリヤー(電荷)移動度は、10cm/V・SEC以上であることが好ましい。より好ましくは20cm/V・SEC以上である。TFT駆動LCDの場合、10cm/V・SEC未満では、応答速度が遅くなったりし、液晶の画質を低下させる場合がある。比抵抗は、低いほうが良いが、TFT駆動の場合、TFT素子からLCD駆動電極端部までの距離は非常に短いので10−2Ωcm台であれば問題はない。
尚、キャリヤー移動度は、ホール測定法(ファンディア・ポー法)で測定する。
【0032】
本発明の透明電極では、キャリヤー移動度に影響を与えない範囲で、第三の金属を添加することができる。第三の金属としては、例えば、透過率を向上させる目的で、屈折率の小さな金属酸化物を添加できる。これらの代表例としては、MgO、B、Ga、GeO等が挙げられる。
また、透明電極の比抵抗を下げることを目的として、比抵抗の小さい酸化物を添加できる。これらの代表例としては、酸化レニウム、酸化イリジウム、酸化ルテニウム等が挙げられる。但し、これらの重金属酸化物は着色する可能性があり、添加する量には注意が必要であるので、透過率に影響しない範囲で添加する。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明する。
実施例1
(1)スパッタリングターゲットの作製
平均粒径が1μm以下の酸化亜鉛粉末(白水テック社製)、及び平均粒径が1μm以下の酸化スズ粉末(三菱マテリアルズ社製)を、Zn/(Zn+Sn)=0.79(原子比)の割合となるように調合して、樹脂製ポットに入れ、さらに純水を加えて、硬質ZrOボールミルを用いた湿式ボールミル混合を行った。混合時間は20時間とした。
得られた混合スラリーを取り出し、濾過、乾燥及び造粒を行った。
この造粒物を、294MPa(3t/cm)の圧力を掛けて冷間静水圧プレスで成形した。
【0034】
この成形体を以下のように焼結した。
焼結炉内に、炉内容積0.1m当たり5L/minの割合で、酸素を導入する雰囲気で、1500℃で5時間焼結した。この際、1000℃までを1℃/min、1000〜1500℃を3℃/minで昇温した。その後、酸素の導入を止め、1500℃〜1300℃を10℃/minで降温した。そして、炉内容積0.1m当たり10L/minの割合でアルゴンガスを導入する雰囲気で、1300℃を3時間保持した後、放冷した。これにより、相対密度90%以上の酸化亜鉛・酸化スズ含有焼結体が得られた。
【0035】
得られた焼結体のスパッタ面をカップ砥石で磨き、直径100mm、厚み5mmに加工し、インジウム系合金を用いてバッキングプレートを貼り合わせて、スパッタリングターゲット(焼結体ターゲット1)を作製した。このターゲットの密度は、5.72g/cmであった。
【0036】
尚、ターゲットにおいては、酸化スズが分散していること、特に、酸化亜鉛の亜鉛サイトに置換固溶していることが好ましい。即ち、Snがターゲット内に含まれる形態は、SnO、SnO等の酸化スズの形で分散している形態でもよいが、ZnSnO、ZnSnO等の酸化亜鉛−酸化スズ間の複合酸化物の形で、酸化亜鉛焼結体中に分散している形態が好ましい。これは、Snが酸化亜鉛焼結体中に原子レベルで分散している方が、スパッタリングにおいて放電が安定し、得られる透明導電性薄膜を低抵抗にするからである。
【0037】
焼結体ターゲット1のEPMA(X線マイクロアナライザ)のSn原子のマッピング画像処理により求めた平均した結晶粒子の直径は、3.87μmであった。また、ターゲット1のバルク抵抗(比抵抗)は360Ωcmであり、安定したRFスパッタリングができるターゲットを得た。
焼結体ターゲットの性状を表1に示す。
【0038】
(2)透明導電膜の作製
焼結体ターゲット1を、スパッタリング装置に装着した。ガラス基板(厚さ1.1mm)を装置内に移動し、到達真空度:5×10−4Pa、成膜圧力:0.1Pa、基板温度:200℃として、基板上に透明導電膜(厚さ100nm)を成膜した。
この透明導電膜の比抵抗、キャリアー移動度及び光線透過率を評価した。尚、比抵抗は及びキャリアー(電荷)移動度は、ホール測定にて求めた。また、光線透過率は分光光度計にて、波長550nmの光線について測定した。
測定結果を表2に示す。
【0039】
(3)透明電極の作製
(2)で作製した透明導電膜付き基板の透明導電膜上に、レジスト液(フジハント社製、HPR204)を使用してスピンコートによってレジスト膜を形成した。
次に、所定パターンのレジストマスクを使用して、レジスト膜の露光・現像を行なった。現像液にはテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)の2.8wt%水溶液を使用した。
【0040】
次に、この基板を、エッチング液である蓚酸水溶液によって処理することにより、透明導電膜のエッチングを行ない、透明電極をパターニングした。このときの条件は、蓚酸水溶液の濃度を3.5wt%、温度を30℃とし、ディッピングによりエッチングした。
この条件におけるエッチング速度を評価した。
また、蓚酸水溶液の使用温度を40℃とした場合、及び蓚酸水溶液の濃度を5.0wt%とし、使用温度を35℃とした場合のエッチング速度も評価した。
結果を表3に示す。
【0041】
最後に、透明電極上に残存するレジスト膜を、剥離液としてジエタノールアミンのDMSO溶液(30wt%)を使用して除去した。このときの条件は、40℃、1分の浸漬とした。
以上により透明電極(幅90μm、ピッチ110μm)を形成した基板を作製した。
得られた透明電極の電極端部のテーパー角をSEM観察より測定した。結果を表3に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
【表3】

【0045】
実施例2−5 比較例1−2
平均粒径が1μm以下の酸化亜鉛粉末、及び平均粒径が1μm以下の酸化スズ粉末を原料粉末とし、亜鉛原子とスズ原子の比が表1に示す割合となるように調製した他は、実施例1と同様にしてスパッタリングターゲットを作製し、これを利用して透明電極を形成した基板を作製した。
尚、スパッタリングターゲットの直径は152mm、厚さは5mmであった。
スパッタリングターゲットの性状、透明電極の評価結果を表1−3に示す。
【0046】
評価1
上記実施例1−5及び比較例1−2で作製した透明電極付き基板について、TCP法(Tape Carrier Package)による接続試験を行い、接続安定性を評価した。
TCP接続基板について、60℃、90%RHの環境下に保存して、接続抵抗の経時変化を観察した。結果を表4に示す。
【0047】
【表4】

【0048】
評価2
ガラス基板上に、純Alのスパッタリングターゲットをスパッタリング装置に装着し、到達真空度:5×10−4Pa、成膜圧力:0.1Pa、基板温度:室温として、ガラス基板上にAlの薄膜(厚さ200nm)を成膜した。
得られたガラス基板の面積の1割をカプトンテープにてシールした。この基板上に、上述の実施例及び比較例で作製したスパッタリングターゲットを用いて、厚さ100nmの薄膜を室温にて成膜した。その後、カプトンテープを剥がして、Al膜が一部露出している積層膜付きガラス基板を作製した。
尚、参考例として、Al膜上にITO薄膜を形成した積層膜付きガラス基板も作製した。
【0049】
これらの積層膜付きガラス基板を、TMAHの2.4wt%水溶液(20℃)中に2分間浸漬し、Al膜の溶解を観察した。結果を表5に示す。
【0050】
【表5】

【0051】
尚、純Al膜のみを成膜したガラス基板を、この水溶液に浸漬しても、Al層の溶解は観測されなかった。従って、本評価にてAlの溶解が観測されたものでは、Al/透明導電膜の積層構造によって電池反応が起きていることが確認された。
【0052】
評価3
実施例1で得た100nmの薄膜付きガラスを、レジスト剥離剤であるジエタノールアミン30vol%、ジメチルスルフォキサイド(DMSO)70vol%の混合液に、10vol%の水を添加して、45℃で5分間浸漬した。その後、薄膜の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察した。その結果、凸凹及び表面の荒れは観察されなかった。
一方、比較例1で得た100nmの薄膜付きガラスを用いて、同様の操作を行なった結果、薄膜の表面に凸凹及び表面の荒れが観察され、液晶用又は有機EL用の電極としては不適であることが確認された。
【0053】
評価4
ガラス基板に、上述した各例の透明導電膜及びAl膜を積層した基板において、透明導電膜及びAl膜をそれぞれ線幅50μmの細線状に、Al細線と透明導電細線が直交するように形成した(両細線の交わり部は積層状態となっている)。この積層界面の接触抵抗測定(ケルビンプローブ法)を行った。結果を表6に示す。
【0054】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の透明電極は、インジウムを使用していないため安価である。また、エッチング特性がよく、電極端部をテーパー状に形成できる。従って、液晶表示装置、有機エレクトロルミネッセンス表示装置、プラズマディスプレイ等の薄型ディスプレイに使用される透明電極として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の透明電極の断面図である。
【図2】本発明の透明電極の製造工程を示す図である。
【図3】TFT基板の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0057】
10 基板
11 透明電極
11’透明導電膜
12 レジスト膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛及び酸化スズを主成分とし、電極端部のテーパー角が30〜89度である透明電極。
【請求項2】
前記透明電極中の亜鉛原子とスズ原子の総量に対する、亜鉛原子の割合(Zn/(Zn+Sn)、原子比)が0.5〜0.85である請求項1に記載の透明電極。
【請求項3】
酸化亜鉛及び酸化スズを主成分とする透明導電膜を、蓚酸水溶液を用いてエッチングする方法。
【請求項4】
前記蓚酸水溶液における蓚酸の濃度が1wt%〜10wt%である請求項3に記載のエッチング方法。
【請求項5】
亜鉛原子とスズ原子の総量に対する、亜鉛原子の割合(Zn/(Zn+Sn)、原子比)が0.5〜0.85である酸化亜鉛及び酸化スズを主成分とする透明導電膜を形成する工程と、
前記透明導電膜を、エッチング液として蓚酸濃度が1wt%〜10wt%である水溶液を用い、エッチング液の温度を20〜50℃の範囲においてエッチングし、パターニングする工程と、
を有する請求項2に記載の透明電極の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−196200(P2006−196200A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−3477(P2005−3477)
【出願日】平成17年1月11日(2005.1.11)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】