説明

逓倍発振回路及びECL出力圧電発振回路

【課題】小型化で異常発振の発生を抑制できる逓倍発振回路を提供する。
【解決手段】水晶振動子Y1を有し所定の周波数で発振する水晶発振回路11と、水晶発
振回路11の発振出力に含まれる所定の高調波出力に同調する同調回路13と、増幅用ト
ランジスタQ2とこの増幅用トランジスタQ2コレクタ−ベース間に接続され自己バイア
ス機能とデカップリング機能を有する抵抗R4と、増幅用トランジスタQ2コレクタに接
続され、増幅用トランジスタQ2から出力される所定の高調波出力に同調する同調回路1
5と、同調回路13と同調回路15との間を結合する結合コンデンサC6とを備えるよう
にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は逓倍発振回路及びその逓倍発振回路を備えたECL出力圧電発振回路に関わり
、特に異常発振を防止するのに好適なものである。
【背景技術】
【0002】
近年、情報通信インフラの伝送速度の向上に伴い、クロック周波数源である発振器に対
する高周波化の要求が増々強くなっている。
周波数安定度の高い水晶発振器において、200MHz以上の高周波領域の出力を得る
には、オーバートーン発振回路、逓倍発振回路、PLL発振回路等が一般的に用いられて
いる。
これらの発振回路のうち、電圧制御型発振器(以下、「VCO」という)を用いたPL
L発振回路は、所望の高周波領域にて発振するVCOの出力をフィードバックし、VCO
より低周波であるが周波数安定度の高い水晶発振器等の基準信号と位相比較器により位相
比較を行うことにより、高周波出力の安定度を保つという機構を備えている。しかしなが
ら、このようなPLL発振回路では、位相比較器により位相比較を行っているため、周波
数追従特性が劣化するという欠点があった。
またオーバートーン発振回路を用いた電圧制御型水晶発振器(以下、「VCXO」とい
う)の場合は、そのオーバートーン次数の二乗に比例して周波数の可変感度が劣化するた
め、周波数制御範囲を広くすることが困難であった。
そこで、周波数制御範囲を広くし、かつ良好な周波数追従特性を得ることができる発振
回路として逓倍方式を用いたVCXOが提案されている。
【0003】
図3は逓倍方式を採用した従来の逓倍発振回路の一例を示した図である。
図3に示す従来の逓倍発振回路は、逓倍方式を採用したVCXOであり、コルピッツ型
水晶発振回路11の出力から、同調回路12、13により所望の周波数の出力だけを取り
出して、次段のエミッタ接地増幅回路51によって出力レベルを増幅する。更に、同調回
路15により所望の周波数の出力だけを取り出し、同調回路16により所望の周波数にお
ける出力インピーダンスを調整して出力端子(OUT)より出力するようにしている。
コルピッツ型水晶発振回路11は、発振用トランジスタQ1のベースに抵抗R1、R2
から成るベースバイアス回路を接続する共に、ベースと接地との間に負荷容量の一部を担
うコンデンサC1、C2との直列回路を接続する。更に、この直列回路の接続中点をトラ
ンジスタQ1のエミッタとエミッタ抵抗R3との接続点に接続する。また水晶振動子Y1
の一端をトランジスタQ1のベースに接続し、他端を接地する。
【0004】
同調回路12は、インダクタL1とコンデンサC3とを並列接続した共振回路であり、
コルピッツ型水晶発振回路11の出力端である発振用トランジスタQ1のコレクタに接続
される。また同調回路12は結合コンデンサC4を介して同調回路13に接続される。
同調回路13は、インダクタL2とコンデンサC5とを並列接続した共振回路であり、
結合コンデンサC6を介してエミッタ接地増幅回路51のベースに接続される。
エミッタ接地増幅回路51は、バッファ回路として機能しており、増幅用トランジスタ
Q2のベースに抵抗R11、R12から成るベースバイアス回路を接続すると共に、トラ
ンジスタQ2のエミッタと接地との間にバイアス抵抗R13とバイパスコンデンサC21
とを接続して高周波的に接地するようにしている。
【0005】
同調回路15は、インダクタL3とコンデンサC7とを並列接続した共振回路であり、
エミッタ接地増幅回路51の出力端である増幅用トランジスタQ2のコレクタに接続され
る。また同調回路15は結合コンデンサC8を介して同調回路16に接続される。
同調回路16は、インダクタL4と並列にコンデンサC9、C10の直列回路を接続し
て構成されており、この直列回路の接続中点より出力を取りだし、出力インピーダンスが
所望の周波数において出力端側とのインピーダンスマッチングが取れるよう調整している
。なお、電源VccはコンデンサC11により高周波的に接地されている。
なお、上記したような逓倍発振回路は特許文献1などに開示されている。
【特許文献1】特開2004−320413公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、近年、データの複雑化に伴い、伝送装置に要求される機能が増す関係上
、装置内のボード間隔を狭めたり、限られたスペースを有効活用したりするために、部品
の小型化及び基板上での高密度実装が進められている。このため、図3に示した逓倍発振
回路においても、単体での小型化、表面実装部品(SMD:Surface Mount Device)化が
求められていた。
また図3に示した従来の逓倍発振回路は、同調回路同士が結合して異常発振が生じやす
く回路定数を最適化するのが難しいという問題点があった。
本発明はこのような点を鑑みてなされたものであり、小型化で異常発振の発生を抑制で
きる逓倍発振回路とECL出力圧電発振回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の逓倍発振回路は、圧電素子を有し所定の周波数で発
振する圧電発振回路と、前記圧電発振回路の発振出力に含まれる所定の高調波出力に同調
する第1の同調回路と、増幅素子と、該増幅素子のコレクタ−ベース間に接続され自己バ
イアス機能とデカップリング機能を有する抵抗と、前記増幅素子のコレクタに接続され前
記増幅素子から出力される所定の高調波出力に同調する第2の同調回路と、前記第1の同
調回路と前記第2の同調回路との間を結合する結合コンデンサと、を備えるようにした。
このような本発明によれば、増幅回路を構成する増幅素子のベース−コレクタ間に自己バ
イアスとデカップリング機能を有する抵抗を接続したことで、従来に比べて少ない部品点
数で逓倍発振回路を構成することが可能になるため、その分だけ回路の小型化を図ること
ができる。また、増幅素子のベース−コレクタ間に接続した抵抗は、第1の同調回路と第
2の同調回路との結合を小さくするデカップリング機能も有するため、第1の同調回路と
第2の同調回路との結合による異常発振を抑制でき、回路定数の最適化を容易に図ること
ができる。
【0008】
また本発明のECL出力圧電発振回路は、圧電素子を有し所定の周波数で発振する圧電
発振回路と、圧電発振回路の発振出力に含まれる所定の高調波出力に同調する第1の同調
回路と、増幅素子と該増幅素子のコレクタ−ベース間に接続され、自己バイアス機能とデ
カップリング機能を有する抵抗とにより構成される増幅回路と、増幅回路から出力される
所定の高調波出力に同調する第2の同調回路と、第1の同調回路と第2の同調回路との間
を結合する結合コンデンサとから構成される逓倍発振回路を備えるようにした。このよう
な本発明によれば、逓倍発振回路の増幅回路を構成する増幅素子のベース−コレクタ間に
自己バイアス抵抗とデカップリング機能を有する抵抗を接続したことで、従来に比べて少
ない部品点数で逓倍発振回路を構成することが可能になるので、その分だけ回路の小型化
を図ることが可能になる。また、逓倍発振回路の増幅素子のベース−コレクタ間に接続し
た抵抗は、第1の同調回路と第2の同調回路との結合を小さくするデカップリング機能も
有するため、第1の同調回路と第2の同調回路との結合による異常発振を抑制でき、回路
定数の最適化を容易に図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の逓倍発振回路の実施形態を説明する。なお、本実施形態では圧電素子と
して水晶振動子を用いた場合を例に挙げて説明する。
図1は本実施形態の逓倍発振回路を示した図であり、この図1に示す逓倍発振回路は逓
倍方式を採用したVCXOであり、コルピッツ型水晶発振回路11の出力から発振回路側
の同調回路12、13により所定の高調波周波数の出力だけを取り出し、次段のエミッタ
接地増幅回路14によって出力レベルを増幅する。更に、増幅回路側の同調回路15によ
り所望の周波数の出力だけを取り出し、同調回路16により所望の周波数における出力イ
ンピーダンスを調整して出力端子(OUT)より出力するようにしている。
コルピッツ型水晶発振回路11は、発振用トランジスタQ1のベースに抵抗R1、R2
から成るベースバイアス回路を接続する共に、ベースと接地との間に負荷容量の一部を担
うコンデンサC1、C2との直列回路を接続する。更に、この直列回路の接続中点をトラ
ンジスタQ1のエミッタとエミッタ抵抗R3との接続点に接続する。また水晶振動子Y1
の一端をトランジスタQ1のベースに接続し、他端を接地する。
【0010】
同調回路12は、インダクタL1とコンデンサC3とを並列接続した共振回路であり、
コルピッツ型水晶発振回路11の出力端である発振用トランジスタQ1のコレクタに接続
する。同調回路12は結合コンデンサC4を介して同調回路13に接続される。
同調回路(第1の同調回路)13は、インダクタL2とコンデンサC5とを並列接続し
た共振回路であり、結合コンデンサC6を介してエミッタ接地増幅回路14に接続される

エミッタ接地増幅回路14は、バッファ回路として機能しており、増幅用トランジスタ
(増幅素子)Q2のベース−コレクタ間に抵抗R4を接続すると共に、トランジスタQ2
のコレクタに同調回路15を接続するようにしている。
同調回路(第2の同調回路)15は、インダクタL3とコンデンサC7とを並列接続し
た共振回路である。また同調回路15は、結合コンデンサC8を介して同調回路16に接
続される。
同調回路16は、インダクタL4と並列にコンデンサC9、C10の直列回路を接続し
て構成されており、この直列回路の接続中点より出力を取りだし、出力インピーダンスが
所望の周波数において出力端側とのインピーダンスマッチングが取れるよう調整している
。電源VccはコンデンサC11により高周波的に接地されている。
【0011】
このように構成される本実施形態の逓倍発振回路においては、エミッタ接地増幅回路1
4を構成する増幅用トランジスタQ2のベース−コレクタ間に抵抗R4を設け、この抵抗
R4を自己バイアス抵抗として機能させるようにした。これにより、図3に示した従来の
逓倍発振回路に比べてエミッタ接地増幅回路14の部品点数を3点減らすことができ、そ
の分だけ小型化を図ることが可能になる。
また、通常、自己バイアス側の増幅回路では、増幅用トランジスタのコレクタにコレク
タ抵抗を接続するのに対して、本実施形態の増幅回路14では増幅用トランジスタQ2の
コレクタに同調回路15を接続してフィルタ機能を持たせるようにした。
更に本実施形態では、結合コンデンサC6に対して直列に抵抗R4を接続したことで、
発振回路側と増幅回路側との間の交流的な結合も減結合(デカップリング)にした。即ち
、抵抗R4により同調回路13と同調回路15との結合をデカップリングした。これによ
り、同調回路13と同調回路15との結合による異常発振を抑制することが可能になり、
回路定数の最適化を容易に図ることができるという利点がある。
【0012】
図2は本実施形態の逓倍発振回路を備えたエミッタ結合ロジック出力水晶発振回路の構
成を示した図である。なお、図1と同一部位には同一符号を付して詳細な説明は省略する

この図2に示すに示すエミッタ結合ロジック(ECL:Emitter Coupled Logic、以下
、「ECL」という)出力水晶発振回路においては、コルピッツ型水晶発振回路11を構
成している水晶振動子Y1の他端に周波数調整回路21が接続されている。
【0013】
周波数調整回路21は、コンデンサC17と、コンデンサC15とC16とを並列に接
続した並列回路と、抵抗R8とコイルL4とを並列に接続した並列回路と、抵抗R7とを
直列にした直列回路から成り、コンデンサC17を水晶振動子Y1の他端に接続し、抵抗
R7を接地している。そして、抵抗R8とコイルL4とを並列に接続した並列回路と抵抗
R7との接続点に周波数電圧制御回路22を接続している。
周波数電圧制御回路22は、コンデンサC14と可変容量ダイオードD2とを並列に接
続した第1の並列回路と、コンデンサC13と可変容量ダイオードD1とを並列に接続し
た第2の並列回路とを直列に接続した直列回路から成る。そして、第1の並列回路を構成
する可変容量ダイオードD2のアノード側を周波数調整回路21に接続し、第2の並列回
路を構成する可変容量ダイオードD1のアノード側を接地している。また第1の並列回路
と、第2の並列回路との接続点、即ち可変容量ダイオードD1、D2のカソード同士を接
続した接続点を交流阻止用の抵抗R6を介して制御電圧端子Vcontラインに接続している
。これにより、制御電圧端子Vcontからの制御電圧により水晶発振回路11の発振出力を
可変制御可能に構成されている。
【0014】
また、この図2に示すECL出力水晶発振回路においては、同調回路16の後段にEC
L回路23を接続するようにしている。
ECL回路23は、ICにより構成される差動増幅回路V1の出力端子と抵抗R5及び
コンデンサC12を図示するように接続することにより構成され、同調回路から出力され
る出力信号の波形成形を行った後、出力するようにしている。このように図1に示した逓
倍発振回路を用いて電圧制御型のECL出力水晶発振回路を構成すれば、逓倍発振回路の
部品点数の削減によりECL出力水晶発振回路の小型化を図ることができ、また、逓倍発
振回路の異常発振も抑制できるため、回路定数の最適化を容易に図ることができる。
【0015】
なお、近年、逓倍方式のVCXOにおいては、所望の高周波成分を得る同調回路にSA
Wフィルタを使用したものなども提案されているが、設計変更の自由度やコスト面を考慮
すると、SAWフィルタよりも本実施形態に示したようなコイルとコンデンサ等による同
調回路を採用した方が有利である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態の逓倍発振回路の構成例を示した図。
【図2】本実施形態の逓倍発振回路を備えたECL出力水晶発振回路の構成を示した図。
【図3】従来の逓倍発振回路の一例を示した図。
【符号の説明】
【0017】
L1〜L5…コイル(インダクタ)、Q1…発振用トランジスタ、Q2…増幅用トラン
ジスタ、Y1…水晶振動子、C1〜C17…コンデンサ、R1〜R8…抵抗、11…コル
ピッツ型水晶発振回路、12、13、15、16…同調回路、14…エミッタ接地増幅回


【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電素子を有し所定の周波数で発振する圧電発振回路と、
前記圧電発振回路の発振出力に含まれる所定の高調波出力に同調する第1の同調回路と

増幅素子と、該増幅素子のコレクタ−ベース間に接続され、自己バイアス機能とデカッ
プリング機能を有する抵抗と、前記増幅素子のコレクタに接続され、前記増幅素子から出
力される所定の高調波出力に同調する第2の同調回路と、
前記第1の同調回路と前記第2の同調回路との間を結合する結合コンデンサと、
を備えたことを特徴とする特徴とする逓倍発振回路。
【請求項2】
請求項1に記載の逓倍発振回路を備えたことを特徴とするECL出力圧電発振回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−189283(P2007−189283A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−3273(P2006−3273)
【出願日】平成18年1月11日(2006.1.11)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】