説明

通信装置、伝送方式設定方法、プログラムおよび無線通信システム

【課題】最大限のデータ転送レートを確保して、スループットの向上を図る。
【解決手段】CPU114は、通信相手との間の通信に時間依存性の干渉があるか否かを判定する。時間依存性の干渉があると判定するとき、CPU I/F用レジスタ113を経由して取り込んだ伝送路状態情報またはパケットエラー検出情報に基づいて、通信相手毎に、各ゾーンで使用すべきPHYモードを決定し、CPUバスを通じてPHYモードテーブル115に設定する。セレクタ116は、次回送信または受信する際の通信相手の宛先IDとゾーン情報(TimeZoneカウンタ110のカウント値)をもとに、その伝送で使用するPHYモードをPHYモードテーブル115から選択して、パケット合成・分解処理部118に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、他の通信装置との間でフレーム構成による無線通信を行う通信装置、伝送方式設定方法、プログラムおよび無線通信システムに関する。詳しくは、この発明は、フレーム期間を分割して得られた複数の時間領域のそれぞれにおける通信状態を監視し、その監視結果に基づいて複数の時間領域のそれぞれで使用すべき伝送方式を設定することによって、最大限のデータ転送レートを確保して、スループットの向上を図るようにした通信装置等に係るものである。
【背景技術】
【0002】
無線LAN(LocalArea Network)やUWB(Ultra Wide Band)を使った無線PAN(Personal Area Network)では、複数のPHYモードが定義され、そのときの通信品質(伝送路の状況)に応じて、最適なPHYモードを選択し、通常、パケット誤り率が10%以下になるように制御される(一般に「適応変調方式」などと呼ばれる)。
【0003】
例えば、IEEE802.11aでは、PHYモードは6Mbpsから54Mbpsまで8種類定義されている。また、Wireless USB(Universal Serial Bus)で使用されるUWB方式であるWiMedia PHYのMB-OFDM (Multi Band-OrthogonalFrequency Division Multiplexing)方式では、PHYモードは53.3Mbpsから480Mbpsまで8種類定義される。このように複数のPHYモードが定義されているシステムにおいて、通信品質に応じて最適なPHYモードを選択する方法が従来より提案されている。
【0004】
従来、適応変調方式を行う場合は、パイロット信号をモニタして伝送路の状態を推定したり(特許文献1参照)、ある一定の送信パケット数に対するパケット誤りやパケット到達遅延をモニタし、その誤り率や遅延が所定の値を越えた場合、PHYモードを1段階低レート側に切り替えて改善させる(特許文献2参照)、という方法が採られていた。
【0005】
この際、どのような方法で伝送路状態やパケット誤り率をモニタする、ということに関しては、ほとんど考慮されておらず、モニタのばらつきを抑えるためには、モニタ数をある程度増やして平均個数を増やす、という方法が検討されているだけであった。パケット誤りの原因が、時間依存性のない干渉信号やガウスノイズであれば、このモニタ方法による適応変調はおよそ問題なく動作する。しかし、時間依存性のある干渉が存在する場合は問題を生じる。
【0006】
例えば、WUSB(Wireless USB)で採用されているMB-OFDM方式においては、時間依存性のある干渉が存在する。まず、この干渉について説明し、次に時間依存性のある干渉が存在する場合に、従来の方法による適応変調方式を当てはめると、どのような問題が生じるかを説明する。
【0007】
WiMedia PHYのMB-OFDM方式では、図6にあるとおり7種類の“チャネル”が定義されている。ただし、MB-OFDM方式における“チャネル”は、一般的な周波数チャネルのことではなく、同一周波数帯の中でホッピングパターンが異なる、という意味で使用されている。すなわち、チャネルが異なっていても、互いに干渉を及ぼすことになる。
【0008】
図7に示すように、TFC:1のチャネルとTFC:2のチャネルを例に取ると、3シンボルに1回、サブバンド1(Subband 1)で信号の衝突が生じる。例えば、図8において,通信装置#1と通信装置#2がTFC:1で通信し、通信装置#3と通信装置#4がTFC:2で通信している場合、通信装置#2においてこのような衝突が生じる。通信装置の位置関係や送信電力にもよるが、通信装置#2に同程度の信号強度で通信装置#1と通信装置#3から電波が到達する場合、通信装置#2ではSubband1の信号を正確に受信することができなくなる。
【0009】
MB-OFDM方式には、図9に示すように、8つのPHYモードが存在するが、320Mbps,400Mbps,480Mbpsモードについては、時間軸拡散(TDS:Time Domain Spreading)を行わないため、上述したようにSubband1が正確に受信できないと、エラー訂正しきれずにパケットエラーになってしまう。一方、200Mbps以下のモードでは、時間軸拡散を行っており、同じ内容のデータを2つの連続するシンボルで送信するため、Subband1で正しく受信できなくても次のSubband2で正しく受信できればパケットエラーにはならない。
【特許文献1】特開平7−250116号公報
【特許文献2】特表2004−519894号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図10は、WUSBのネットワーク構成例を示している。ネットワーク1は、例えばTFC:1のチャネルを使用し、それぞれ通信装置としてのホスト1およびデバイス1a,1bで構成されている。ネットワーク2は、例えばTFC:2のチャネルを使用し、それぞれ通信装置としてのホスト2およびデバイス2a,2bで構成されている。
【0011】
図11は、上述の図10に示すように、WUSBのネットワークA,Bが異なるチャネルで動作しているときの、時間軸に沿った動作の様子を示示している。なお、このWUSBのネットワークにおける無線通信はスーパーフレーム構成で行われている。図12は、スーバーフレームの構成例を示している。図示のように、スーパーフレーム周期は、256個のメディアアクセススロット(MAS)に細分化されている。また、スーパーフレーム内には、管理領域としてのビーコン期間(Beacon Period)と、データ伝送領域が配置されている。また、ビーコン期間は9個のビーコンスロット(Beacon Slot)からなっている。
【0012】
ホストとデバイスとの間のデータ伝送は、ホストによってDRP(Distributed Reservation Protocol)予約されたMASを利用して行われる。図13は、DRP MASの中でのアクセス制御例を示している。ここでは、DRP予約された領域の最初に、WUSBのホストから、コマンドであるMMC(Micro-scheduled Management Command)が送信される。
【0013】
このMMCには、ホストを識別するための情報や、そのMMC区間内におけるホストからあるデバイスへの下りデータの開始時間、デバイスからホストへの上りデータの開始時間、および次のMMC送信時間が記載されている。すなわち、MMC51を受信すると、以降の下りデータ52、上りデータ53、上りACK54、次回のMMC55のタイミングを設定することができる。同様に、次のMMC55を受信すると、以降の下りデータ56、上りデータ57、上りACK58、次回のMMC(図示せず)のタイミングが判断できる構成になっている。
【0014】
図11では、それぞれのスーパーフレーム周期を16個のゾーン(Zone)に分けて表示している。スーパーフレーム周期は上述したように256個のMASに細分化されているので、それぞれのゾーンには16個のMASが含まれている。Zone0にはビーコン期間が含まれるため、いずれのネットワークでも頻繁に送信が行われる。それ以外のゾーンについては、それぞれDRP予約されたMASを含むゾーンにおいて頻繁に通信が行われることになる。
【0015】
そして、ネットワークA,Bで頻繁に通信が行われているZoneが重なっている時間領域で上述した信号衝突が発生する。図11では、ネットワークA,Bで頻繁に通信が行われているゾーンをハッチングを施して表している。ネットワークAでは、Zone0,Zone2〜Zone4,Zone6〜Zone8,Zone10〜Zone12,Zone14が、頻繁に通信が行われているゾーンである。ネットワークBは、Zone0,Zone3,Zone6,Zone10,Zone13が、頻繁に通信が行われているゾーンである。
【0016】
この場合、図11で矢印で示す、4個のゾーンで信号衝突が発生する。すなわち、ネットワークAでみるとZone0,Zone3,Zone6,Zone12で、ネットワークBでみるとZone0,Zone6,Zone10,Zone13で、信号衝突が発生する。
【0017】
このような状態において、従来行われてきた一定の送信パケット数に対するパケットエラーをモニタする方法による適応変調方式を適用すると、PHYモードを200Mbps以下に下げない限り、1スーパーフレームあたりのパケット誤り率は、例えば4/11≒0.36となってしまう。この結果、衝突が生じていないゾーンでは480MMbpsで通信できる距離にあったとしても、PHYモードは一律200Mbpsに設定されてしまい、本来持っている伝送キャパシティを十分活用できないことになる。
【0018】
この発明の目的は、最大限のデータ転送レートを確保して、スループットの向上を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
この発明の概念は、
他の通信装置との間でフレーム構成による無線通信を行う通信装置であって、
上記フレームの期間を複数の時間領域に分割する時間領域分割部と、
上記時間領域分割部で分割された複数の時間領域のそれぞれにおける通信状態を監視する通信状態監視部と、
上記通信状態監視部で得られる上記複数の時間領域のそれぞれにおける監視結果に基づいて、上記複数の時間領域のそれぞれで使用すべき伝送方式を設定する伝送方式設定部と
を有することを特徴とする通信装置にある。
【0020】
この発明においては、他の通信装置との間でフレーム構成による無線通信が行われる。フレーム期間が複数の時間領域に分割される。例えば、WUSBの場合には、ゾーン毎、MAS毎、あるいは所定数のMAS毎等に分割される。そして、分割された複数の時間領域における通信状態が監視される。例えば、少なくとも送信または受信されるパケットのエラーが監視される。また例えば、他の通信装置との間の通信における伝送路状態が監視される。
【0021】
複数の時間領域のそれぞれにおける監視結果に基づいて、それぞれの時間領域で使用すべき伝送方式が設定される。ここで、使用すべき伝送方式は、例えばWUSBの場合には、8種類のPHYモード(図9参照)から選ばれる。例えば、通信状態の監視としてパケットのエラーが監視されるものにあっては、パケットのエラー率に応じて伝送方式が設定される。例えば、所定の伝送方式に設定されている状態で、パケットのエラー率が所定値を越えるとき、所定の伝送方式よりデータ転送レートの低い伝送方式に設定し直される。
【0022】
また例えば、通信状態の監視として他の通信装置との間の伝送路状態が監視されるものにあっては、伝送路状態に応じて伝送方式が設定される。例えば、所定の伝送方式に設定されている状態で、伝送路状態が所定状態より悪いとき、所定の伝送方式よりデータ転送レートの低い伝送方式に設定し直される。
【0023】
他の通信装置が複数存在する場合には、それぞれの他の通信装置毎に通信状態が監視され、それぞれの他の通信装置毎に通信状態の監視結果に基づいて伝送方式が設定されるようにしてもよい。複数の他の通信装置が存在する場合、通常、それぞれの通信端末装置の位置、性能等によって通信状態が異なることが予想されるからである。
【0024】
なお、上述したようにフレーム期間を複数の時間領域に分割して通信状態を監視するのは、他の通信装置との間の通信に時間依存性の干渉がある場合に特に有効である。そこで、上述したそれぞれの時間領域毎の通信状態の監視および伝送方式の設定は、他の通信装置との間の通信に時間依存性の干渉があると判定された場合に行われるようにしてもよい。
【0025】
例えば、無線通信が所定の周波数ホッピングパターンの繰り返しで行われる場合、この所定の周波数ホッピングパターンを除いて、周波数ホッピングパターンを順次変化させて受信を行い、いずれかの周波数ホッピングパターンで何らかの通信が受信されるとき、時間依存性の干渉があると判定できる。また例えば、分割された複数の時間領域のそれぞれにおける受信品質のばらつきが所定の範囲を越えるとき、時間依存性の干渉があると判定できる。
【0026】
例えば、時間依存性の干渉がないと判定される場合には、時間領域分割部で分割された複数の時間領域のうち所定の時間領域における通信状態が監視され、その所定の時間領域における監視結果に基づいて複数の時間領域のそれぞれで使用すべき伝送方式が設定される。この場合には時間依存性の干渉がないのであるから、それぞれの時間領域毎の通信状態の監視および伝送方式の設定は意味がないと考えられるからである。
【0027】
上述したように、フレーム期間を分割して得られた複数の時間領域のそれぞれにおける通信状態の監視結果に基づいてそれぞれの時間領域で使用すべき伝送方式を設定することで、それぞれの時間領域毎に、最もデータ転送効率のよい伝送方式を設定することが可能となる。これにより、他の通信装置との間の無線通信において、最大限のデータ転送レートを確保して、スループットの向上を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0028】
この発明によれば、フレーム期間を分割して得られた複数の時間領域のそれぞれにおける通信状態を監視し、その監視結果に基づいて複数の時間領域のそれぞれで使用すべき伝送方式を設定するものであり、最大限のデータ転送レートを確保して、スループットの向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、図面を参照しながら、この発明の実施の形態について説明する。図1は、実施の形態としての、WUSBのホストとして使用される通信装置100の構成を示している。
【0030】
この通信装置100は、TimeZoneカウンタ110と、伝送路モニタ部111と、パケットエラー検出部112と、CPU I/F用レジスタ113と、CPU114と、PHYモードテーブル115と、セレクタ116と、PHY信号処理部117と、パケット合成・分解処理部118とを有している。
【0031】
TimeZoneカウンタ110は、各スーパーフレーム周期(図12参照)をゾーン(Zone)毎に分割するためのカウント値を発生する。このTimeZoneカウンタ110は16進カウンタ(4ビットカウンタ)で構成され、Zone0の開始時に0にリセットされ、その後各ゾーンの開始時にインクリメントされていく。このTimeZoneカウンタ110は時間領域分割部を構成している。
【0032】
伝送路モニタ部111は、デバイスとしての他の通信装置(通信相手)との間の伝送路状態をモニタする。PHY信号処理部117でパケット受信時に受信品質LQIを評価し、この受信品質LQIを受信パケットに添付している。伝送路モニタ部111は、例えば、このように受信パケットに添付されている受信品質LQIを用いて、伝送路状態をモニタできる。
【0033】
パケットエラー検出部112は、通信相手との間で送受信されるパケットのエラーを検出する。ここでは、受信パケットおよび送信パケットのいずれか、あるいは双方が使用される。パケットには、正常に受信できたか否かを判定するためにFCSというCRCコードが付加されている。パケットエラー検出部112は、受信パケットのエラー検出に関しては、このFCSをチェックすることで行うことができる。また、パケットエラー検出部112は、送信パケットのエラー検出に関しては、通信相手から送られてくる上りACK(図13参照)に基づいて検出できる。これら伝送路モニタ部111およびパケットエラー検出部112は、それぞれ、通信状態監視部を構成している。
【0034】
CPU I/F用レジスタ113は、伝送路モニタ部111で得られる伝送路状態情報およびパケットエラー検出部112で得られるパケットエラー検出情報を、ゾーン(時間領域)を示すタグ(TimeZoneカウンタ110のカウント値)と共に、CPU114に渡す。
【0035】
このように伝送路状態情報およびパケットエラー検出情報にゾーンを示すタグを付加しておくことで、CPU114が後でこれらの情報を読み込む際に、どのゾーンのものであるかを簡単に判別できる。なお、複数の通信相手がある場合には、これらの情報にさらに通信相手を特定するための宛先IDも付加しておく。これにより、それぞれの通信相手毎に、時間領域を分割した管理が可能となる。
【0036】
CPU114は、PHY信号処理部217におけるチャネル設定、各ゾーンで使用すべきPHYモード(伝送方式)の設定等の処理を行う。PHYモードテーブル115は、ゾーン毎に使用すべきPHYモードを記憶する。この場合、通信相手が複数存在する場合には、それぞれの通信相手毎に使用すべきPHYモードを記憶する。
【0037】
セレクタ116は、TimeZoneカウンタ110で得られるカウント値およびパケット合成・分解処理部118で得られる通信相手を特定する宛先IDに基づいて、現在のゾーンおよび通信相手に使用すべきPHYモードをPHYモードテーブル115から選択して、パケット合成・分解処理部118に設定する。
【0038】
PHY信号処理部117は、PHY層の信号処理、すなわち変復調処理、周波数シフト処理、エラー訂正処理等を行う。パケット合成・分解処理部118は、設定されたPHYモード情報を取り込んでパケットのヘッダを生成しデータペイロードと合わせて送信パケットを合成し、また受信パケットを分解してヘッダ情報とデータペイロード情報を抽出する。
【0039】
図1に示す通信装置100において、PHYモードの設定に係る部分の動作を説明する。
【0040】
CPU114は、通信相手との間の通信に時間依存性の干渉があるか否かを判定する。上述したように、WUSBにおける通信は例えば7種類のチャネル(図6参照)から選択される所定のチャネルをもって行われる。この場合、各チャネルで周波数ホッピングパターンがそれぞれ異なるものとされている。例えば、周波数ホッピングパターンを各チャネル(自己の使用チャネルを除く)のものに順次変化させて受信を行い、いずれかの周波数ホッピングパターンで所定の通信が受信されているか否かで、干渉の有無の判定を行う。また例えば、各ゾーンのそれぞれにおける受信品質LQIのばらつきが所定の範囲を越えるか否かで、干渉の有無の判定を行う。
【0041】
CPU114は、時間依存性の干渉がないと判定するとき、ゾーンを区別せずに、PHYモードを設定する。また、CPU114は、時間依存性の干渉があると判定するとき、ゾーン毎に、PHYモードを設定する。CPU114は、CPU I/F用レジスタ113を経由して取り込んだ伝送路状態情報およびパケットエラー検出情報に基づいて、通信相手毎に、各ゾーンで使用すべきPHYモードを決定し、CPUバスを通じてPHYモードテーブル115に設定する。
【0042】
セレクタ116は、次回送信または受信する際の通信相手の宛先IDとゾーン情報(TimeZoneカウンタ110のカウント値)をもとに、その伝送で使用するPHYモードをPHYモードテーブル115から選択して、パケット合成・分解処理部118に設定する。送信の場合には送信パラメータに選択されたPHYモードを設定し、受信(デバイス側の送信)の場合には、WDTCTAのPHYモードに当該PHYモードを設定する。
【0043】
図2に示すフローチャートを用いて、PHYモードの決定処理の手順を説明する。この図2に示すフローは、通信に対する干渉の状態が時間の経過と共に変化していくので(ドリフトや双方の通信状態の変化)、PHYモードの切り替え時だけではなく、所定の時間間隔、例えば1秒毎に実行することが望ましい。
【0044】
まず、ステップST1で、処理を開始し、ステップST2で、各変数の初期化を行う。つまり、CNT(k)=0、PEC(k)=0に設定する。ここで、CNT(k)はゾーンkにおける送受信パケットのカウント数を示し、PEC(k)はゾーンkにおけるパケットエラーのカウント数を示している。
【0045】
次に、ステップST3で、時間依存性の干渉があるか否かを判定する。この判定処理の手順については、後述する。時間依存性の干渉があるときは、ステップST4で、CPU I/F用レジスタ113から、ゾーンkのパケットエラー検出情報FCSを取り込み、ステップST5で、送受信パケットのカウント数を1だけ増加する。ここで、FCS=1はパケットエラー有りを示し、FCS=0はパケットエラー無しを示す。
【0046】
次に、ステップST6で、ステップST4で取り込んだパケットエラー検出情報FCSに基づいて、パケットエラー有りであるか否かを判定する。パケットエラー有りであるときは、ステップST7で、パケットエラーのカウント数PEC(k)を1だけ増加し、その後にステップST8に進む。一方、パケットエラー無しであるときは、直ちにステップST8に進む。
【0047】
ステップST8では、ゾーンkの送受信パケットのカウント数CNT(k)が、パケットエラー評価をリセットするパケットカウント数CNT0、例えば100となったか否かを判定する。CNT(k)=CNT0でないときは、ステップST4に戻って、CPU I/F用レジスタ113から、ゾーンkのパケットエラー検出情報FCSを取り込み、上述したと同様の処理を行う。CNT(k)=CNT0であるときは、ステップST9に進む。
【0048】
このステップST9では、ゾーンkにおけるパケットエラーのカウント数PEC(k)が0より大きいか否かを判定する。PEC(k)>0であるときは、ステップST10で、カウント数PEC(k)が、PHYモードを切り替えるパケットエラーのカウント数のしきい値TH、例えば0.1*CNT0より大きいか否かを判定する。
【0049】
PEC(k)>THであるときは、ステップST11で、ゾーンkのPHYモードRate(k)が53.3MbpsのPHYモードであるか否かを判定する。なお、PHYモードには、図9に示すように、53.3Mbps、80Mbps、106.7Mbps、160Mbps、200Mbps、320Mbps、400Mbps、480Mbpsの8種類
がある。53.3MbpsのPHYモードでないときは、ステップST12で、ゾーンkのPHYモードRate(k)を1段階下げ、その後にステップST13に進む。
【0050】
なお、ステップST10でPEC(k)>THでないとき、あるいはステップST11で53.3MbpsのPHYモードあるときは、PHYモードRate(k)を変化させる必要がないので、直ちにステップST13に進む。このステップST13では、PHYモードテーブル115におけるゾーンkのPHYモードRate(k)を更新し、その後にステップST14で処理を終了する。
【0051】
ステップST9でPEC(k)>0でないとき、つまりPEC(k)=0であるときは、ステップST15で、ゾーンkのPHYモードRate(k)が480Mbpsのモードであるか否かを判定する。PHYモードが480Mbpsのモードでないときは、ステップST16で、ゾーンkの現在のPHYモードRate(k)を1段階上げる。そして、ステップST13でゾーンkのPHYモードRate(k)を更新し、その後にステップST14で処理を終了する。
【0052】
上述したステップST4〜ステップST14の処理は、kの各値、つまりゾーン0〜ゾーン15のそれぞれに対して行われると共に、複数の通信相手があるときは宛先IDが異なるそれぞれの通信相手毎に行われる。
【0053】
また、上述のステップST3で、時間依存性の干渉がないときは、ステップST21に進む。このステップST21では、CPU I/F用レジスタ113から、自己が使用している所定のゾーンkuのパケットエラー検出情報FCSを取り込み、ステップST22で、送受信パケットのカウント数CNT(ku)を1だけ増加する。
【0054】
次に、ステップST23で、ステップST21で取り込んだパケットエラー検出情報FCSに基づいて、パケットエラー有りであるか否かを判定する。パケットエラー有りであるときは、ステップST24で、パケットエラーのカウント数PEC(ku)を1だけ増加し、その後にステップST25に進む。一方、パケットエラー無しであるときは、直ちにステップST25に進む。
【0055】
ステップST25ではゾーンkuの送受信パケットのカウント数CNT(ku)がパケットカウント数CNT0となったか否かを判定する。CNT(ku)=CNT0でないときは、ステップST21に戻って、CPU I/F用レジスタ113から、ゾーン0のパケットエラー検出情報FCSを取り込み、上述したと同様の処理を行う。CNT(ku)=CNT0であるときは、ステップST26に進む。
【0056】
このステップST26では、全てのゾーンk(k=0〜15)のパケットエラーのカウント数PEC(k)を、上述したように得られたゾーンkuのパケットエラーのカウント数PEC(ku)とし、その後にステップST9に進み、以下は上述した時間依存性の干渉がある場合の処理と同様にして、各ゾーンのPHYモードを設定する。このように時間依存性の干渉がないときは、各ゾーンにおけるパケットエラーのカウント数が等しくなるので、各ゾーンにおけるPHYモードは同じモードに設定される。
【0057】
なお、上述では自己が使用している所定ゾーンkuにおけるパケットエラー検出情報FCSを用いて各ゾーンのPHYモードを設定するものを示したが、例えば全てのゾーンのパケットエラー検出情報FCSを用いて各ゾーンのPHYモードを設定することもできる。
【0058】
次に、図3のフローチャートを用いて、CPU114における時間依存性の干渉の判定処理の一例を説明する。この処理は、各ゾーンの受信品質のばらつきが所定の範囲を越えているかどうかで判定を行うものである。
【0059】
ステップST31で、処理を開始して、ステップST32で、時間依存性の干渉に係るフラグTime_Depend_Interferを0に設定する。ここで、Time_Depend_Interfer=0は時間依存性の干渉が無いことを意味し、Time_Depend_Interfer=1は時間依存性の干渉が有ることを意味する。
【0060】
次に、ステップST33で、PHY信号処理部117におけるチャネル(TFC)を、自己が使用しているチャネルに設定する。そして、ステップST34で、各ゾーンの受信品質LQIを取得する。そして、ステップST35で、各ゾーンにおける受信品質のばらつきがしきい値以上であるか否かを判定する。
【0061】
各ゾーンにおける受信品質のばらつきがしきい値以上であるときは、時間依存性の干渉があると判定し、ステップST36で、Time_Depend_Interfer=1とし、その後にステップST37で、処理を終了する。一方、各ゾーンにおける受信品質のばらつきがしきい値以上でないときは、時間依存性の干渉がないと判定し、Time_Depend_Interfer=0のまま、ステップST37で、処理を終了する。
【0062】
次に、図4のフローチャートを用いて、CPU114における時間依存性の干渉の判定処理の他の例を説明する。この処理は、自己が使用していないチャネルで通信が行われているかどうかで判定を行うものである。
【0063】
ステップST41で、処理を開始して、ステップST42で、時間依存性の干渉に係るフラグTime_Depend_Interferを0に設定する。そして、ステップST43で、PHY信号処理部117におけるチャネル(TFC)を、1にセットする。そして、ステップST44で、セットされたチャネルが自己が使用しているチャネルであるか否かを判定する。自己が使用しているチャネルでないときは、ステップST45に進む。
【0064】
このステップST45では、ステップST43でセットされたチャネルで所定時間受信を行う。そして、ステップST46で、何らかの通信を検出したか否かを判定する。何らかの通信が検出されたときは、ステップST47に進む。このステップST47では、時間依存性の干渉があると判定し、Time_Depend_Interfer=1とし、その後にステップST48で、処理を終了する。
【0065】
ステップST46で何も通信が検出されないときは、ステップST49に進む。ステップST44で、セットされたチャネルが自己の使用チャネルであるときも、このステップST49に進む。このステップST49では、チャネルが最大チャネルTFCmax(=7)であるか否かを判定する。最大チャネルであるときは、自己の使用チャネルを除く全てのチャネルでの受信が行われたことを意味するので、時間依存性の干渉がないと判定し、Time_Depend_Interfer=0のまま、ステップST48で処理を終了する。
【0066】
一方、ステップST49で、最大チャネルTFCmaxでないときは、ステップST50で、チャネル番号を1だけ増加して、次のチャネルをセットし、その後にステップST44に戻り、上述したと同様の処理を行う。
【0067】
上述したように、図1に示す通信装置100によれば、各ゾーンの通信状態、例えばパケットエラー率に基づいて、それぞれのゾーンのPHYモード(伝送方式)が設定される。そのため、それぞれのゾーンに、最もデータ転送効率のよいPHYモードを設定でき、
通信相手との間の無線通信において、最大限のデータ転送レートを確保して、スループットの向上を図ることができる。
【0068】
例えば、図10に示すように存在するネットワークA,Bにおいて、これらのネットワークA,Bの間で、図5に矢印で示すように、16ゾーンのうち4ゾーンで干渉が存在する場合を考える。この場合、従来型の一律PHYモード設定では、図5のネットワークA(2)に示すように、各ゾーンのPHYモードは一律に200Mbpsに設定され、データ転送レートは200Mbpsとなる。これに対して、この発明では、干渉が存在するゾーンのPHYモードは200Mbpsとされるが、その他のゾーンでは例えば480Mbpsに設定され、データ転送レートは平均で427Mbpsとなり、従来型のPHYモードの設定方式に比べて、スループットに約2倍の差が生じる。
【0069】
なお、上述実施の形態においては、PHYモードの設定処理(図2参照)では、各ゾーンの通信状態を判断するためにパケットエラー検出情報を用いたが、各ゾーンの通信状態を判断するために伝送路状態情報を用いることもできる。その場合、所定のPHYモードに設定されている状態で、伝送路状態が所定の状態より悪いときは、データ転送レートが1段階低いPHYモードに更新されるようにすればよい。
【0070】
また、上述実施の形態においては、1スーパーフレーム期間をゾーン毎に時間領域を分割したものであるが、その他の分割単位、例えばMAS毎、あるいは所定数のMAS毎に時間領域を分割するようにしてもよい。
【0071】
また、上述実施の形態においては、この発明をWUSBの通信システムに適用したものであるが、この発明は、データ転送レートが異なる複数の伝送方式を選択的に使用でき、フレーム構成による無線通信を行う通信システムに同様に適用できることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0072】
この発明は、最大限のデータ転送レートを確保して、スループットの向上を図るものであり、WUSBの通信システム等のようにフレーム構成による無線通信を行う通信システムに適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】実施の形態としてのWUSBのホストとして使用される通信装置の構成を示すブロック図である。
【図2】CPUにおけるPHYモードの設定処理を説明するためのフローチャートである。
【図3】時間依存性の干渉の有無の判定処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【図4】時間依存性の干渉の有無の判定処理の他の例を説明するためのフローチャートである。
【図5】従来方式と本発明とのスループットを説明するための図である。
【図6】WiMediaのPHYのMB-OFDM方式のチャネルを示す図である。
【図7】チャネル1(TFC:1)とチャネル2(TFC:2)との周波数ホッピングパターンを比較して示す図である。
【図8】ネットワークの構成例を示す図である。
【図9】MB-OFDM方式の8種類のPHYモードを示す図である。
【図10】WUSBのネットワークの構成例を示す図である。
【図11】2つのネットワークが異なるチャネルで動作した場合の干渉を説明するための図である。
【図12】スーパーフレームの構成例を示す図である。
【図13】DRP MASの中でのアクセス制御例を説明するための図である。
【符号の説明】
【0074】
100・・・通信装置、110・・・Time Zoneカウンタ、111・・・伝送路モニタ部、112・・・パケットエラー検出部、113・・・CPU I/F用レジスタ、114・・・CPU,115・・・PHYモードテーブル、116・・・セレクタ、117・・・PHY信号処理部、118・・・パケット合成・分解処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
他の通信装置との間でフレーム構成による無線通信を行う通信装置であって、
上記フレーム期間を複数の時間領域に分割する時間領域分割部と、
上記時間領域分割部で分割された複数の時間領域のそれぞれにおける通信状態を監視する通信状態監視部と、
上記通信状態監視部で得られる上記複数の時間領域のそれぞれにおける監視結果に基づいて、上記複数の時間領域のそれぞれで使用すべき伝送方式を設定する伝送方式設定部と
を有することを特徴とする通信装置。
【請求項2】
上記通信状態監視部は、上記他の通信装置との間で少なくとも送信または受信されるパケットのエラーを監視し、
上記伝送方式設定部は、上記パケットのエラー率に応じて上記伝送方式を設定する
ことを特徴とする請求項1に記載の通信装置。
【請求項3】
上記伝送方式設定部は、所定の伝送方式に設定されている状態で、上記パケットのエラー率が所定値を越えるとき、上記所定の伝送方式よりデータ転送レートの低い伝送方式に設定し直す
ことを特徴とする請求項2に記載の通信装置。
【請求項4】
上記通信状態監視部は、上記他の通信装置との間の伝送路状態を監視し、
上記伝送方式設定部は、上記伝送路状態に応じて上記伝送方式を設定する
ことを特徴とする請求項1に記載の通信装置。
【請求項5】
上記伝送方式設定部は、所定の伝送方式に設定されている状態で、上記伝送路状態が所定状態より悪いとき、上記所定の伝送方式よりデータ転送レートの低い伝送方式に設定し直す
ことを特徴とする請求項4に記載の通信装置。
【請求項6】
上記他の通信装置は複数存在し、
上記通信状態監視部は、それぞれの他の通信装置毎に、上記通信状態を監視し、
上記伝送方式設定部は、それぞれの他の通信装置毎に、上記通信状態監視部の監視結果に基づいて上記伝送方式を設定する
ことを特徴とする請求項1に記載の通信装置。
【請求項7】
上記他の通信装置との間の通信に時間依存性の干渉があるか否かを判定する時間依存性判定部をさらに有し、
上記時間依存性判定部で上記時間依存性の干渉があると判定されるとき、
上記通信状態監視部は、上記時間領域分割部で分割された上記複数の時間領域のそれぞれにおける通信状態を監視し、
上記伝送方式設定部は、上記通信状態監視部で得られる上記複数の時間領域のそれぞれにおける監視結果に基づいて、上記複数の時間領域のそれぞれで使用すべき伝送方式を設定する
ことを特徴とする請求項1に記載の通信装置。
【請求項8】
上記時間依存性判定部で上記時間依存性の干渉がないと判定されるとき、
上記通信状態監視部は、上記時間領域分割部で分割された複数の時間領域のうち所定の時間領域における通信状態を監視し、
上記伝送方式設定部は、上記通信状態監視部で得られる上記所定の時間領域における監視結果に基づいて、上記複数の時間領域のそれぞれで使用すべき伝送方式を設定する
ことを特徴とする請求項7に記載の通信装置。
【請求項9】
上記無線通信は所定の周波数ホッピングパターンの繰り返しで行われ、
上記時間依存性判定部は、上記所定の周波数ホッピングパターンを除いて、周波数ホッピングパターンを順次変化させて受信を行い、いずれかの周波数ホッピングパターンで何らかの通信が受信されるとき、上記時間依存性の干渉があると判定する
ことを特徴とする請求項7に記載の通信装置。
【請求項10】
上記時間依存性判定部は、上記時間領域分割部で分割された複数の時間領域のそれぞれにおける受信品質のばらつきが所定の範囲を越えるとき、上記時間依存性の干渉があると判定する
ことを特徴とする請求項7に記載の通信装置。
【請求項11】
他の通信装置との間でフレーム構成による無線通信を行う通信装置における伝送方式設定方法であって、
上記フレーム期間を複数の時間領域に分割する時間領域分割ステップと、
上記時間領域分割ステップで分割された複数の時間領域のそれぞれにおける通信状態を監視する通信状態監視ステップと、
上記通信状態監視ステップで得られる上記複数の時間領域のそれぞれにおける監視結果に基づいて、上記複数の時間領域のそれぞれで使用すべき伝送方式を設定する伝送方式設定ステップと
を有することを特徴とする通信装置における伝送方式設定方法。
【請求項12】
他の通信装置との間でフレーム構成による無線通信を行う通信装置における伝送方式を設定するために、
上記フレーム期間を複数の時間領域に分割する時間領域分割ステップと、
上記時間領域分割ステップで分割された複数の時間領域のそれぞれにおける通信状態を監視する通信状態監視ステップと、
上記通信状態監視ステップで得られる上記複数の時間領域のそれぞれにおける監視結果に基づいて、上記複数の時間領域のそれぞれで使用すべき伝送方式を設定する伝送方式設定ステップと
を有する伝送方式設定方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項13】
ホスト側の第1の通信装置とデバイス側の第2の通信装置とからなり、上記第1の通信装置と上記第2の通信装置との間でフレーム構成による無線通信を行う無線通信システムであって、
上記第1の通信装置は、
上記フレーム期間を複数の時間領域に分割する時間領域分割部と、
上記時間領域分割部で分割された複数の時間領域のそれぞれにおける通信状態を監視する通信状態監視部と、
上記通信状態監視部で得られる上記複数の時間領域のそれぞれにおける監視結果に基づいて、上記複数の時間領域のそれぞれで使用すべき伝送方式を設定する伝送方式設定部とを有する
ことを特徴とする無線通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−288708(P2007−288708A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−116393(P2006−116393)
【出願日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】