説明

連続焼鈍炉の入側シール装置

【課題】炉内からの高温雰囲気ガスの漏出を、少ないメンテナンスで、長期間に亘って効果的に防止することができる連続焼鈍炉の入側シール装置を提供すること。
【解決手段】鋼板Sを連続焼鈍する連続焼鈍炉10の入側シール装置20において、連続焼鈍炉の入側に連続焼鈍炉の炉殻12を水封する水タンク21を設け、水タンクの中に鋼板を駆動するロール22を設け、水タンクの出側に鋼板を乾燥及び予熱する乾燥・予熱炉25を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板を連続焼鈍する連続焼鈍炉の入側(鋼板入口)をシールするシール装置に関する。
【背景技術】
【0002】
連続焼鈍炉は鋼板を連続的に熱処理するための炉であり、炉内は窒素と水素の混合ガスで満たされている。連続焼鈍炉の入側には、鋼板を通し、炉内ガスを漏らさないシール装置が必要である。
【0003】
従来、鋼板の連続焼鈍炉の入側に設けられるシール装置には、図2に示すように、セラミックボードやフェルト等の鋼板102よりも硬度の低い耐熱材料で作られたシールパット101を連続焼鈍炉105の入側105aに設置することによって鋼板102を挟むようにしてシールするものがある。
【0004】
しかし、このようなシール装置では、鋼板の反りや移送時のバタツキによりシールパットの摩耗や破損が短期間に発生し、その都度、連続焼鈍炉を停止してシールパットの交換を行うか、又は炉内圧力を一定に保つために雰囲気ガスの投入量を増加する必要がある。また、連続焼鈍炉においては、色々な板厚の鋼板を連続的に通板するが、板厚の違いにより、シール性に違いが発生し、漏れる炉内ガスの流量が変わることになってしまう。
【0005】
一方、図3に示すように、同一レベルに配置した一対又は複数対のシールロール103a,103bを、アクチュエータ104a,104bで鋼板102に対して移動させることによって鋼板102を挟んでシールするものもある。
【0006】
しかし、このように同一レベルに配置した金属製のシールロールによって鋼板を挟むと、鋼板の表面に付着した異物を強圧して鋼板に押込み疵を発生させたり、軽微なシールロールの熱変形でもロール同士が接触して回転抵抗が大きくなり、駆動モータがトリップしてラインを停止させる場合がある。
【0007】
したがって、一般に、金属製のシールロールを用いたシール装置では、シールロール103a,103bの表面と、鋼板102との間に隙間を持たせた設定で使用することとなる。すなわち、実際には鋼板と接触しない程度の隙間を確保することで製品品質や操業性を重視し、シール性能は犠牲にした使用方法となっている。
【0008】
そこで、このようなシールロールを用いたシール装置において、水平型雰囲気炉のシール室に、パスラインを挟んで、可とう性耐火物を積層した対をなす上下のロールを、鋼板に摺接するように配置するものが、特許文献1で提案されている。この特許文献1で提案されたシール装置では、上ロールの一部を切欠き、その断面を半月状とすることで、鋼板の先端通板時のロール損傷を防止している。
【0009】
また、縦型熱処理炉の出入口部に設置する、その表面にシリコンゴム、ウレタンゴム等の弾性体をライニングしたシールロールと、炉体との間に、弾性隔膜を張設したチャンバを形成し、チャンバ内の圧力調整によって弾性隔膜をシールロールに押し付けることで、炉内ガスの漏出を防止するものが、特許文献2で提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平9−3535号公報
【特許文献2】特開平10−46261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1で提案されたシール装置における上下のロールを縦型炉に適用した場合には、ロールを形成する素材がセラミックファイバーシートなどの可撓性耐火物なので摩耗が進むため、前述のシールパットと同じ問題が生じ、長期間に亘って安定したシール性能を発揮することができない。
【0012】
また、特許文献2で提案されたシール装置では、シールロールをゴム弾性ロールとしているが、これらのロールの耐熱温度は200℃程度であるため、雰囲気ガスが高温の場合には採用できない。また、弾性隔膜を一定の力で常にシールロールに摺接させる構造となっていることから、弾性隔膜が摩耗し、弾性隔膜交換が必要となる。
【0013】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、炉内からの高温雰囲気ガスの漏出を、少ないメンテナンスで、長期間に亘って効果的に防止することができる連続焼鈍炉の入側シール装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、鋼板を連続焼鈍する連続焼鈍炉の入側シール装置であって、連続焼鈍炉の入側に連続焼鈍炉の炉殻を水封する水タンクを有し、水タンクの中に鋼板を駆動するロールを有し、水タンクの出側に鋼板を乾燥及び予熱する乾燥・予熱炉を有するものである。
【0015】
このように、本発明の入側シール装置は、連続焼鈍炉の入側に連続焼鈍炉の炉殻を水封する水タンクを有するので、連続焼鈍炉の炉内からの高温雰囲気ガスの漏出を効果的に防止できる。また、鋼板を水タンクに通すだけであるので、メンテナンスは少なくて済み、長期間に亘ってシール効果を維持できる。また、水タンクを通過後の鋼板に随伴する水分は、水タンクの出側に配置された乾燥・予熱炉によって蒸発除去されるので、その水分が連続焼鈍炉の操業に悪影響を及ぼすことを防止できる。この水分をより確実に除去するには、水タンクと乾燥・予熱炉との間に水切りノズルを配置することが好ましい。
【0016】
また、本発明においては、乾燥・予熱炉の出側に、連続焼鈍炉の雰囲気ガスの仕切りとなる雰囲気ガス仕切り装置と、乾燥・予熱炉からの湿ったガスを排出する湿りガス排出装置とを配置することができる。このように雰囲気ガス仕切り装置を配置することで、連続焼鈍炉からの雰囲気ガスの漏出をより確実に防止できる。また、湿りガス排出装置を配置することで、乾燥・予熱炉からの湿ったガスが連続焼鈍炉に持ち込まれることを確実に防止できる。
【0017】
さらに、本発明においては、乾燥・予熱炉と連続焼鈍炉との間に、鋼板の張力を変更する張力変更ロールを配置することができる。このように張力変更ロールを配置することで、連続焼鈍炉内に比べ乾燥・予熱炉内の鋼板の張力を高くすることができ、乾燥・予熱炉内において安定して鋼板を通すことができる。
【0018】
ここで、本発明において連続焼鈍炉入側の水封に使用する水タンクは、一般に連続焼鈍炉の入側に設置される入側洗浄設備の水洗タンクを兼ねることができる。これにより、水タンクを重複して設ける必要がなくなり、設備構成を簡略化できる。
【0019】
また、この水タンクには、その水面部の間口を狭める機構を設けることができる。これにより、揮発して炉内へ進入する水分量を抑制することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、連続焼鈍炉からの高温雰囲気ガスの漏出を、少ないメンテナンスで、長期間に亘って効果的に防止することができる。したがって、雰囲気ガスの消費量を大幅に削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る連続焼鈍炉の入側シール装置の一例を示す。
【図2】シールパットを使用した従来のシール装置を示す。
【図3】シールロールを使用した従来のシール装置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面に示す実施例に基づき本発明の実施の形態を説明する。
【0023】
図1において、連続焼鈍炉10の加熱帯11の入側に、本発明の入側シール装置20が配置され、その前段に鋼板の洗浄設備30が配置されている。
【0024】
洗浄設備30は、鋼板Sに付着した冷延油などを除去するために、アルカリ洗浄タンク31と電解洗浄タンク32を有する。鋼板Sは、これらのアルカリ洗浄タンク31及び電解洗浄タンク32を通過することにより洗浄され、水噴霧ノズル33によって一次的に水洗された後、水タンク21によってさらに水洗される。
【0025】
この水タンク21は、本発明の入側シール装置20において、連続焼鈍炉10(加熱帯11)の炉殻12を水封する役割も担う。すなわち、連続焼鈍炉10の入側は、水タンク21よって雰囲気ガスが漏出しないように水封によりシールされる。
【0026】
水タンク21の中には鋼板Sを駆動するロール22が配置されている。また、乾燥・予熱炉25の水タンク21への水封部は、30mm程度の小さな幅になっており(水タンクの水面部の開口を狭める機構)、水タンク21中の水の蒸発量を小さく抑えている。また、鋼板Sが振動し、水封部に接触しないように、鋼板Sの位置を安定させるサポートロール29を設置している。
【0027】
水タンク21の出側には水切りノズル23が上下に複数段配置されている。水切りノズル23からは鋼板Sに向かってガスが吹き付けられる。これによって水タンク21を通過した鋼板Sに随伴する水分が吹き飛ばされて水切りされる。水切りノズル23で使用するガスとしては、連続焼鈍炉10内への窒素ガスの供給を兼ねて窒素ガスを使用するが、連続焼鈍炉10の雰囲気ガス(窒素・水素混合ガス)を循環して使用する方法もある。
【0028】
水切りノズル23が配置されている鋼板通路の炉体外壁には、水冷ジャケット24が配置されている。すなわち、水冷ジャケット24で水切りノズル23近辺のガスを冷却し、結露させることにより、ガス中の水分もできるだけ除去するようにしている。
【0029】
水切りノズル23の後段には、鋼板Sを乾燥及び予熱する乾燥・予熱炉25が配置されている。乾燥・予熱炉25は上下に複数段配置されたガス吹付けノズル25aを有し、このガス吹付けノズル25aから鋼板Sにガスを吹き付けることによって、鋼板Sを乾燥及び予熱する。具体的には、例えば鋼板Sの板温が約100℃、乾燥・予熱炉25の雰囲気温度が約400℃となるようにする。なお、ガス吹付けノズル25aで使用するガスとしては、連続焼鈍炉10の雰囲気ガス(窒素・水素混合ガス)や加熱した窒素ガスを循環させて使用することができる。
【0030】
乾燥・予熱炉25の出側には、雰囲気ガス仕切り装置26と湿りガス排出装置27が配置されている。雰囲気ガス仕切り装置26はガス吹付けノズル26aを有し、このガス吹付けノズル26aから鋼板Sにガスを吹き付けることによってエアカーテンを形成し、これが連続焼鈍炉10の雰囲気ガスの仕切りとなる。ガス吹付けノズル26aで使用するガスとしては、前述の水切りノズル23の場合と同様に、連続焼鈍炉10の雰囲気ガス(窒素・水素混合ガス)や窒素ガスを循環させて使用することができる。
【0031】
湿りガス排出装置27は雰囲気ガス仕切り装置26と併設されており、前述の乾燥・予熱炉25からの湿ったガスを排出する。そのため、湿りガス排出装置27は吸引ブロワ27aを有する。
【0032】
雰囲気ガス仕切り装置26及び湿りガス排出装置27と連続焼鈍炉10の加熱帯11との間には、鋼板Sの張力を変更する張力変更ロールとしてブライドルロール28が配置されている。このブライドルロール28によって、連続焼鈍炉10内に比べ、連続焼鈍炉10入側の鋼板Sの張力を高くするようにしており、これによって鋼板Sが、乾燥・予熱炉25内等を安定して通過できるようにしている。
【0033】
ブライドルロール28を通過した鋼板Sは連続焼鈍炉10の加熱帯11に導入され、所定の熱処理が施される。
【符号の説明】
【0034】
10 連続焼鈍炉
11 加熱帯
20 入側シール装置
21 水タンク
22 ロール
23 水切りノズル
24 水冷ジャケット
25 乾燥・予熱炉
25a ガス吹付けノズル
26 雰囲気ガス仕切り装置
26a ガス吹付けノズル
27 湿りガス排出装置
27a 吸引ブロワ
28 ブライドルロール
29 サポートロール
30 洗浄装置
31 アルカリ洗浄タンク
32 電解洗浄タンク
33 水噴霧ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板を連続焼鈍する連続焼鈍炉の入側シール装置であって、
連続焼鈍炉の入側に連続焼鈍炉の炉殻を水封する水タンクを有し、
水タンクの中に鋼板を駆動するロールを有し、
水タンクの出側に鋼板を乾燥及び予熱する乾燥・予熱炉を有する連続焼鈍炉の入側シール装置。
【請求項2】
水タンクと乾燥・予熱炉との間に水切りノズルを有する請求項1に記載の連続焼鈍炉の入側シール装置。
【請求項3】
乾燥・予熱炉の出側に、連続焼鈍炉の雰囲気ガスの仕切りとなる雰囲気ガス仕切り装置と、乾燥・予熱炉からの湿ったガスを排出する湿りガス排出装置とを有する請求項1又は2に記載の連続焼鈍炉の入側シール装置。
【請求項4】
乾燥・予熱炉と連続焼鈍炉との間に、鋼板の張力を変更する張力変更ロールを有する請求項1〜3のいずれかに記載の連続焼鈍炉の入側シール装置。
【請求項5】
水タンクが連続焼鈍炉入側の洗浄設備の水洗タンクを兼ねる請求項1〜4のいずれかに記載の連続焼鈍炉の入側シール装置。
【請求項6】
水タンクの水面部の間口を狭める機構を有する請求項1〜5のいずれかに記載の連続焼鈍炉の入側シール装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−80114(P2011−80114A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−233546(P2009−233546)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【出願人】(390022873)日鐵プラント設計株式会社 (275)
【Fターム(参考)】