説明

運転支援装置、運転支援方法およびプログラム

【課題】 初期状態からの画像のずれを自動的に補正する機能を提供する。
【解決手段】 運転支援装置100は、車両に取り付けられたカメラ10と、カメラ10の設置条件のデータを記憶した設置条件記憶部39と、設置条件記憶部39に記憶された設置条件のデータを用いて、画像中に映る路上の所定点までの距離を画像内での所定点の位置座標から算出する理論距離算出部35と、所定点までの距離を求めるステレオ測距部34と、ステレオ測距部34にて求めた距離と理論距離算出部35にて求めた距離との差分を求める差分算出部36と、差分算出部36で求めた差分に基づいてカメラ画像を補正する射影変換部38と、射影変換部38にて補正したカメラ画像に対し、運転を支援するためのガイド線を重畳するガイド線重畳部40とを備えた構成を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載された車載カメラで撮影した画像に運転を支援する情報を重畳して表示する運転支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車載カメラで撮影した画像を利用して、自動車の安全運転を支援する運転支援装置が知られている。運転支援装置として、車載カメラにより車両周辺の状況を撮影し、運転手から死角となる場所を映像として提示するとともに、車両の進行方向などを示すガイド線を映像に重畳することで駐車動作を支援するものが知られている。
【0003】
車載カメラの取り付け及び取り付け微調整は自動車メーカにおける車体組立工場において実施され、ユーザに自動車が納品された後は通常使用においてアフターケアされない。したがって、数年から数十年におよぶ自動車の走行による経年変化、あるいは軽微な接触等によってカメラの取り付け位置が僅かにずれてしまう問題を生じる。カメラが位置ずれを生じた場合、特にガイド線を重畳する場合において、自動車の実際の進行方向と映像上におけるガイド線の重畳位置とにずれが生じ運転手の判断を誤らせる要因となる。
【0004】
このようなカメラの取り付けずれに対して、例えば、特許文献1では、リアカメラならばバンパー、サイドカメラならば前方ウインカーの位置を映像中から検出し、あらかじめ正解位置として保持しているテンプレート画像と比較を行う。その結果、現在の映像とテンプレート画像とに相違があるならばカメラの取り付け位置にずれが生じていると判別する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4045862号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、映像とガイド線の位置のずれが発生する要因は、カメラの取り付けずれだけではない。映像とガイド線の位置のずれが発生するもう一つの大きな要因として、乗員や積荷などの重量によって生じる車体自体の傾きが挙げられる。この場合、カメラの取り付け位置に関しては問題を生じていないため、特許文献1のように自車体の一部を使って校正を行うだけでは車体の傾きを検知することができず、映像とガイド線の位置のずれが充分に補正できないという課題があった。
【0007】
本発明は、従来の問題を解決するためになされたもので、初期状態からの画像のずれを自動的に補正する機能を有する運転支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の運転支援装置は、車両に取り付けられたカメラと、前記カメラの設置条件のデータを記憶した記憶部と、前記記憶部に記憶された設置条件のデータを用いて、前記画像中に映る路上の所定点までの距離を前記画像内での前記所定点の位置座標から算出する理論距離算出部と、前記所定点までの距離を求める測距部と、前記測距部にて求めた距離と前記理論距離算出部にて求めた距離との差分を求める差分算出部と、前記差分算出部で求めた差分に基づいて前記カメラで撮影された画像を補正する補正部と、前記補正部にて補正した画像に対し、運転を支援するための情報を重畳する重畳部とを備えた構成を有する。ここで、前記補正部は、前記カメラで撮影された画像を幾何学変換により補正してもよい。
【0009】
このように測距によって求めた距離と設置条件(例えば、路面からの高さ、撮影角度等)のデータから求めた距離との差分に基づいて、初期の設置状態で撮影した場合に得られるであろうカメラの画像とのずれを補正することができる。これにより、カメラ画像に適切に運転支援情報を重畳することができる。なお、路面上の所定点としては、例えば白線やマンホールを用いることができる。
【0010】
本発明の運転支援装置において、前記カメラはステレオカメラであり、前記測距部はステレオ測距により距離を求める構成を有する。
【0011】
このようにステレオ測距を行うことにより、カメラの画像だけを用いて画像のずれを補正することができる。
【0012】
本発明の運転支援装置において、前記理論距離算出部および前記測距部は、前記車両の一部分を前記所定点として距離を求める構成を有する。この構成により、車両の傾きに影響を受けずカメラの取り付けずれを検出することができる。ここで、前記車両の一部は、バンパーであってもよい。バンパーは標準的に撮影されているので、本発明のためにカメラの取り付け位置を変更する必要がない。
【0013】
本発明の運転支援装置は、前記測距部にて求めた距離と前記理論距離算出部にて算出した距離が一致しない場合、前記カメラの設置条件を前記記憶部に記憶された設置条件から変えながら、前記理論距離算出部にて前記所定点までの距離を求める処理および前記差分算出部にて差分を求める処理を繰り返し行って複数の異なる設置条件において前記差分を求め、前記差分が最小となる設置条件と前記記憶部に記憶された設置条件との撮影角度のずれを傾き量として求め、前記補正部は、傾き量を用いて、前記カメラで撮影された画像を補正する構成を有する。
【0014】
この構成により、カメラの取り付けずれや車両の傾きによって生じた撮影角度の傾き量を求め、この傾き量によって適切にカメラ画像を補正できる。
【0015】
本発明の車載カメラは、車両に取り付けられた複数のカメラからなる車載カメラであって、前記複数のカメラの設置条件のデータを記憶した記憶部と、前記記憶部に記憶された設置条件のデータを用いて、前記画像中に映る路上の所定点までの距離を前記画像内での前記所定点の位置座標から算出する理論距離算出部と、前記複数のカメラにて撮影した画像を用いて前記所定点までの距離をステレオ測距する測距部と、前記測距部で求めた距離と前記理論距離算出部で求めた距離との差分を求める差分算出部と、前記差分算出部で求めた差分に基づいて前記カメラで撮影された画像を補正する補正部とを備えた構成を有する。
【0016】
このようにステレオ測距によって求めた距離と設置条件のデータから求めた距離との差分に基づいて、初期の設置状態で撮影した場合に得られるであろうカメラ画像とのずれを補正することができる。
【0017】
本発明の運転支援方法は、車両に取り付けられたカメラにて撮影した画像に、運転を支援するための情報を重畳して表示する方法であって、運転支援装置が、カメラにて画像を撮影するステップと、前記運転支援装置が、記憶部から前記カメラの設置条件のデータを読み出すステップと、前記運転支援装置が、前記設置条件のデータを用いて、前記画像中に映る路上の所定点までの距離を前記画像内での前記所定点の位置座標から算出するステップと、前記運転支援装置が、前記所定点までの距離を測距するステップと、前記運転支援装置が、測距によって求めた距離と位置座標から求めた距離との差分を求めるステップと、前記運転支援装置が、前記差分に基づいて前記カメラで撮影された画像を補正するステップと、前記運転支援装置が、補正された画像に対し、運転を支援するための情報を重畳するステップとを備えた構成を有する。
【0018】
また、本発明のプログラムは、車両に取り付けられたカメラにて撮影した画像に、運転を支援するための情報を重畳して表示するためのプログラムであって、コンピュータに、前記カメラにて撮影した画像を取得するステップと、記憶部から前記カメラの設置条件のデータを読み出すステップと、前記設置条件のデータを用いて、前記画像中に映る路上の所定点までの距離を前記画像内での前記所定点の位置座標から算出するステップと、前記所定点までの距離を測距するステップと、測距によって求めた距離と位置座標から求めた距離との差分を求めるステップと、前記差分に基づいて前記カメラで撮影された画像を補正するステップと、補正された画像に対し、運転を支援するための情報を重畳するステップとを実行させる構成を有する。
【0019】
これらの構成により、本発明の運転支援方法およびプログラムは、上記した運転支援装置と同様に、初期の設置状態で撮影した場合に得られるであろうカメラ画像とのずれを適切に補正し、カメラ画像に適切に運転支援情報を重畳することができる。なお、本発明の運転支援方法およびプログラムに、上記した運転支援装置の各種の構成を適用することも可能である。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、初期の設置状態で撮影した場合に得られるであろうカメラ画像とのずれを適切に補正し、カメラ画像に適切に運転支援情報を重畳することができるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施の形態における運転支援装置の概略構成を示すブロック図
【図2】(a)バンパーエリアの抽出例を示す図(b)路面エリアの抽出例を示す図
【図3】(a)時刻Tで測距した測距点を示す図(b)時刻T+tで測距した測距点を示す図(c)2つの時刻における測距点の統合を示す図
【図4】測距点の座標値と測定距離を示す図
【図5】車両を真横からみたときのカメラ取りつけ位置と路面の関係を示す図
【図6】光軸中心の理論距離を示す図
【図7】垂直光軸上の任意の点の理論距離を示す図
【図8】路面エリアにおける測距点と測定距離と理論距離を示す図
【図9】現実の座標系と映像座標系の関係を示す図
【図10】カメラの撮影角度のずれによって生じる映像ずれを示す図
【図11】カメラ取り付け修正と理論距離の測定を行うフローチャート
【図12】(a)補正前の映像例を示す図(b)補正後の映像例を示す図
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、本発明の実施の形態の運転支援装置について、図面を参照しながら説明する。
図1は、実施の形態の運転支援装置の構成を示す図である。運転支援装置100は、2台のカメラ10と、元画像メモリ20と、画像補正部30と、ガイド線重畳部40とを備えている。画像補正部30およびガイド線重畳部40の機能は、プログラムを実行することにより実現することとしてもよい。このようなプログラムも本発明の範囲に含まれる。
【0023】
2台のカメラ10は、車両の後方ナンバープレート周辺の所定位置に所定の角度で取り付けられている。2台のカメラ10は、ステレオカメラによる測距を行うために、所定の距離だけ離して取り付けられる。また、2台のカメラ10の関係は完全に固定されているものとし、2台のカメラ10の位置関係や撮影方向の相対的な関係がずれることはないとする。
【0024】
カメラ10は、レンズ11と、撮像素子12と、A/D変換器13と、カメラ信号処理回路14とを備えており、車両後方の被写体を撮影して映像信号を生成する。レンズ11は、被写体からの光を撮像素子12に結像する。撮像素子12は、結像した像を光電変換してアナログ信号を出力する。A/D変換器13は、撮像素子12から出力されたアナログ信号をデジタル信号に変換する。カメラ信号処理回路14は、A/D変換されたデジタル信号に対して映像を生成するためのカメラ信号処理を行う。カメラ信号処理は、主に輝度信号生成、色信号生成、アパーチャ信号生成であるが、その他にもOB減算やホワイトバランス調整、ノイズ低減など一般的な映像用の信号処理を行う。
【0025】
元画像メモリ20は、カメラ10のカメラ信号処理回路14から出力される映像信号を2台のカメラ10からそれぞれ入力し、各カメラの映像1フレーム分を記憶し、後述する画像補正部30のバンパーエリア抽出部31、路面エリア抽出部32、射影変換部38に映像信号を出力する。
【0026】
画像補正部30は、バンパーエリア抽出部31と、路面エリア抽出部32と、セレクタ33と、ステレオ測距部34と、理論距離算出部35と、差分算出部36と、傾き量記憶部37と、射影変換部38とを備えている。画像補正部30は、元画像メモリ20に記憶されている2台のカメラ10の映像を元に、カメラ10の撮影角度の傾き量を検出し、元画像メモリ20に記憶されている映像信号を射影変換にて補正したうえで、後述するガイド線重畳部40に補正後の映像信号を出力する。
【0027】
ガイド線重畳部40は、画像補正部30で補正された映像信号に対して車両の進行方向や車両からの距離をガイドするガイド線を重畳し、ガイド線を重畳した映像信号を出力する。
【0028】
次に、上記した構成を有する画像補正部30について詳述する。まず、バンパーエリア抽出部31が、元画像メモリ20から出力される2台のカメラ10で撮影された映像から、映像の中でバンパーが写っている領域であるバンパーエリアを抽出し、路面エリア抽出部32が路面が写っている領域である路面エリアを抽出する。
【0029】
図2(a)はバンパーエリアの抽出例を示す図、図2(b)は路面エリアの抽出例を示す図であり、斜線部分が抽出領域にあたる。なお、バンパーエリアおよび路面エリアはカメラ10が取り付けられている自動車の車種、カメラ10の取り付け位置、取り付け角度、レンズ特性等によって一意に定まるので、映像中から画像処理にてエリアを判別する必要はない。また、ここで抽出されたバンパーエリアはカメラ10の取り付けずれを検出するために利用し、路面エリアはカメラ10の取り付けずれおよび車体の傾きに起因するカメラ画像のずれを検出するために利用する。
【0030】
次に、セレクタ33が、バンパーエリア抽出部31及び路面エリア抽出部32で抽出された2つのエリアをどちらかを選択し、後段のステレオ測距部34に送る。どちらを選択するかは、例えば、時間によって切り替えることができる。なお、セレクタ33は、必須の構成ではない。仮にセレクタ33が存在しない場合は、後段のステレオ測距部34、理論距離算出部35、差分算出部36を、それぞれバンパーエリア用と路面エリア用で2つずつ用意すればよい。しかし、ステレオ測距部34から、差分算出部36は比較的演算が複雑であることを考慮し、本実施の形態では、ステレオ測距部34、理論距離算出部35、差分算出部36等の演算器を共用化する構成を採用した。
【0031】
次に、ステレオ測距部34が、セレクタ33で選択されたバンパーエリアまたは路面エリアのいずれかのエリアを対象に距離を測定する。後段で行う補正のために、エリア中の複数点において、距離の測定を行う。測距を実施できた点がエリア中で広く分布し、かつ点数が多いほど補正の精度は向上する。また、一度に必要な測距点が取れなかった場合には、異なる時刻で測距を行って測距結果を統合して利用するのも有効である。
【0032】
図3(a)〜図3(c)は、路面エリアの測距点を統合する例を示す図である。時刻Tで測距した測距点4点(図3(a))と、時刻Tから時刻t進んだ時刻T+tで測距した測距点4点(図3(b))を統合すると、図3(c)のように計8点の測距点が得られる。なお、本発明では時刻Tと時刻T+tで同じ被写体を測距点としなくてもよいという特長を有するため、一度測距した測距点をトラッキングするなどの処理は必要ない。
【0033】
ステレオカメラからの映像を元に、映像中のある被写体に対する距離を測定する方法は既に数多く存在する。本実施の形態では、公知の方法を用いて距離の測定を行う。なお、ステレオ測距部34は、本発明の「測距部」に相当する。
【0034】
ステレオ測距を実施することにより、ステレオ測距部34では映像中で距離を求めた点と、その点の映像上の座標値が分かる。図4は、処理結果の例を示す図である。ここでは路面エリアにおけるステレオ測距を例に説明しているが、バンパーエリアについても同様である。バンパーエリアは、路面エリアに比べて色やテクスチャが一様であるため、測距点を定めるのが難しい面もあるが、車体の影などの影響によりバンパーにも変化があるため、時間をかけて測距点を統合すれば十分な測距点の確保が可能である。ステレオ測距部34は、求めた座標値を理論距離算出部35と差分算出部36に送り、距離値(この距離を「測定距離」という)を差分算出部36に送る。
【0035】
理論距離算出部35は、ステレオ測距部34で測距した測距点の映像上の座標値を受け取ると、カメラ10にずれが生じていないとしたときの座標点までの距離を算出する(この距離を「理論距離」という)。理論距離算出部35には、カメラ10の設置条件のデータを記憶した記憶部39が接続されている。ここで、設置条件とは、例えば、カメラ10の取り付け位置の路面からの高さ、取り付け角度、レンズ特性等である。車両と水平な路面上の点は、カメラ10の取り付け位置の高さ、取り付け角度、レンズ特性が既知であるとき、映像上の座標値と対応して1対1で理論的に求めることができる。レンズ特性とはレンズに対する画角と実像高の関係である。
【0036】
ここでは説明のため車両を真横から見たときの2次元空間上で説明する。図5は、車両を真横から見たときのカメラ10の取り付け位置の高さと角度、そして路面の関係を図示したものである。図6は、映像上での光軸中心に撮影されている点の距離を説明する図である。カメラの取り付け位置の高さをH、取り付け角度を路面からθとしたとき、映像の中心点までの距離はH/cos(θ)で表すことができる。
【0037】
図7は、垂直光軸上の任意の点Pについての説明図であり、映像上での光軸中心から垂直方向にYピクセル離れた点が路面上の点であるとき、レンズ特性からカメラ光軸中心から角度α離れた点であることが分かるので、任意の点Pまでの距離はH/cos(θ+α)となる。同様にして映像上の任意の点について、その任意の点が車体と平行な路面上の点であるならば、映像上の座標値を元に、その座標点までの理論距離を求めることができる。
【0038】
一方、バンパー上の点は、カメラ10とバンパーの相対位置関係が既知であるとき、映像中の座標値と対応して1対1で理論的に求めることができる。理論距離の求め方は路面上の点と同様である。理論距離算出部35は、以上のようにして求めた各測距点の理論距離を、差分算出部36に送る。
【0039】
差分算出部36には、ステレオ測距部34と理論距離測定部35から、バンパーエリアまたは路面エリア上における測距点の座標値と測定距離のデータ、理論距離のデータが入力される。差分算出部36は、入力された測定距離と理論距離の差分を算出し、差分データを理論距離算出部35にフィードバックする。
【0040】
図8は、差分算出部36に入力された路面エリアにおける測距点の座標値及び測定距離データと理論距離データの一例を示す図である。カメラ10の取り付け位置が設置したときの状態、すなわち設置条件と同じ状態に調整されているならば、ここでの測定距離と理論距離は一致する筈である。図8に示す例では、各座標点において差を生じており、初期の設置状態からずれが生じていることが分かる。この測定距離と理論距離の差をもとにカメラ画像を補正する。
【0041】
次に、カメラの傾きの補正方法について説明する。本実施の形態では、測定距離と理論距離の差が最も小さくなる射影変換の係数を求める。ここではカメラの傾きを、現実の座標系でのX軸に対する回転、Y軸に対する回転、Z軸に対する回転によって生ずると定義する。
【0042】
図9は、現実の座標系と映像座標系の関係を表す図である。現実の座標系上の点P(Xw,Yw,Zw)を映像座標(x,y)上へ投影する式は、次式(1)となる。
【数1】

ここで、fはカメラの焦点距離である。
【0043】
現実の座標系上の点PをX軸周りにθx回転させた回転後の点P(Xw’,Yw’,Zw’)は回転行列を使って次式(2)で表すことができる。
【数2】

上式の回転後の点P(Xw’,Yw’,Zw’)に対応する映像座標上の点(x,y)は、映像座標(x,y)を使って次式(3)で表される。
【数3】

【0044】
同様に、現実の座標系上の点PをY軸周りにθy回転させた回転後の点に対応する映像座標上の点(x,y)は、映像座標(x,y)を使って次式(4)で表される。
【数4】

同様に、現実の座標系上の点PをZ軸周りにθz回転させた回転後の点に対応する映像座標上の点(x,y)は、映像座標(x,y)を使って次式(5)で表される。
【数5】

【0045】
上に示した式(3)、式(4)、式(5)を用いることにより、現実の座標系上の点PをX軸、Y軸、Z軸周りに回転させた回転後の点に対応する映像座標上の点(xxyz,yxyz)は、映像座標(x,y)を使って次式(6)で表される。
【数6】

【0046】
以上のように求めた映像座標上の点(xxyz,yxyz)は、カメラの取り付け位置が本来の取り付け位置に対してX軸周りにθx、Y軸周りにθy、Z軸回りにθzずれたときの座標値であり、図10に示すように撮影角度のずれによって本来撮像される画素に対してもずれが生じる。したがって、理論距離を求める座標値は(xxyz,yxyz)に修正される。理論距離算出部35は、この修正された座標値(xxyz,yxyz)を用いて、カメラ取り付け位置を修正したと仮定したときの理論距離を算出する。
【0047】
図11は、カメラ取り付け位置を修正しながら理論距離を測定するときのフローチャートを示す図である。まず、カメラの取り付け位置を修正する。具体的には、カメラをX軸、Y軸、Z軸方向に回転する(S10)。カメラ取付位置の修正量を見つけるための試行は、例えば、カメラ取り付けずれ量の変化に応じて、X軸周りのずれθx、Y軸周りのずれθy、Z軸回りのずれθzを変えて行ってもよいし、所定の角度範囲においてX軸周りのずれθx、Y軸周りのずれθy、Z軸回りのずれθzの組み合わせを総当たりで行ってもよい。
【0048】
次に、カメラの取り付け位置を修正した状態で、測距点までの理論距離を求め(S12)、求めた理論距離と測定距離との差分を求める(S14)。この差分を求める処理を複数の測距点について行い、求めた差分の総和を計算する。差分の総和が、カメラの取り付け位置を修正して行ったこれまでの試行の中で最小であるか否かを判定する(S16)。この結果、差分が最小である場合には(S16でYES)、その回転量(θx、θy、θz)を記録する(S18)。
【0049】
次に、試行回数が終了条件の試行回数に到達したか否かを判定する(S20)。終了条件は、あらかじめ定めた回数の試行とし、最終的に全ての測距点における測定測距と修正後の理論距離の差分の総和が最も小さいときの回転角(θx、θy、θz)の組み合わせがカメラ位置の取り付けずれ量となる。試行回数が終了条件に到達した場合には(S20でYES)、最終的に記録された回転量を、撮影角度の傾き量、すなわち、カメラの撮影角度を修正すべき修正量として出力する。なお、終了条件は試行回数に限らず、あらかじめ定めた差分総和以下の組み合わせが見つかった時点で終了するようにしてもよい。
【0050】
ここまで路面エリア上における測距点を例にとって車体の傾きの測定方法について説明してきたが、バンパーエリア上の測距点を使ったカメラの傾き量の測定についても同様の方法で求めることができる。差分算出部36は、差分が最小となる傾き量を傾き量記憶部37に記憶する。傾き量記憶部37には、バンパーエリア上の測距点を用いて求めた傾き量のデータと、路上エリア上の測距点を用いて求めた傾き量のデータとを記憶する。バンパー上の測距点を用いて求めた傾き量は、カメラの取り付けずれの傾き量を示すので、以下「取付傾き量」という。ここで、取付傾き量を表す回転角を(θtx、θty、θtz)、撮影傾き量を表す回転角を(θsx、θsy、θsz)とする。路上エリアの測距点を用いて求めた傾き量は、カメラの取り付けずれと車両の傾きを含むカメラの撮影角度の傾きを示すので、以下「撮影傾き量」という。
【0051】
次に、射影変換部38は傾き量記憶部37に記憶された撮影傾き量のデータを用いて、カメラからの入力映像に対して射影変換を行う。射影変換部38は、撮影傾き量を表す回転角(θsx、θsy、θsz)を使うことにより、現実の座標系上の点PをX軸、Y軸、Z軸周りにそれぞれ(θsx、θsy、θsz)だけ回転させた回転後の点に対応する映像座標上の点(xxyz,yxyz)を求める。映像座標上の点(xxyz,yxyz)は、変換前の点(x,y)を使って、次式(7)で表される。
【数7】

【0052】
以上のように射影変換した映像は、カメラ取り付けずれと車体傾きによって生じる映像のずれを補正したものとなる。なお、射影変換部38は本発明の「補正部」に相当する。次に射影変換部38で補正された映像はガイド線重畳部40に入力され、車両の進行方向を示すガイド線などが重畳される。重畳されるガイド線はあらかじめ与えられるものとする。
【0053】
図12(a)は補正前の映像、図12(b)は補正後の映像例である。画像補正部30において映像のずれが補正されているので、映像とガイド線の重畳位置のずれがなくなり、運転手に正しい映像を提示することができる。
【0054】
このような実施の形態の運転支援装置によれば、経年変化等によって生じるカメラ取り付けずれと、乗員や積荷等の重量によって発生する車体傾きという2つの要因によって生じるカメラ映像のずれに対して、自動車の走行中に自動的に補正を行い、運転手に対して常に正常な映像を提示することができる。
【0055】
また、上記した実施の形態の運転支援装置によれば、カメラ画像を画像信号上で電気的に補正するため、カメラの取り付け位置を物理的に調整する必要がなくユーザの負担を著しく軽減することができる。
【0056】
なお、上記した実施の形態では、映像のずれを生じる要因としてX軸、Y軸、Z軸に対する回転のみを対象として説明したが、補正の対象はこれに限るものではない。例えば、回転だけでなく、X軸、Y軸、Z軸に対する平行移動もずれの要因となる。この場合、式(2)におけるXw、Yw、Zwについてそれぞれの軸に対する平行移動量分を差し引いた値に置き換えればよい。
【0057】
また、上記した実施の形態では、映像とガイド線のずれを補正する方法として、映像を補正したうえでガイド線を重畳していたが、映像のずれはそのままにガイド線を映像のずれに合わせて補正することで映像とガイド線のずれを一致させてもよい。
【0058】
上記した実施の形態において、取付傾き量が所定の閾値を超える場合には、ユーザに対し、カメラの取付角度が傾いていることを通知してもよい。これにより、運転手は、カメラの取付角度を調整するきっかけを得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
以上のように、初期の設置状態で撮影した場合に得られるであろうカメラ画像とのずれを適切に補正できるという効果を有し、カメラ画像に運転支援情報を重畳して表示する運転支援装置として有用である。
【符号の説明】
【0060】
10 カメラ
11 レンズ
12 撮像素子
13 A/D変換器
14 カメラ信号処理回路
20 元画像メモリ
30 画像補正部
31 バンパーエリア抽出部
32 路面エリア抽出部
33 セレクタ
34 ステレオ測距部
35 理論距離算出部
36 差分算出部
37 傾き量記憶部
38 射影変換部
39 設置条件記憶部
40 ガイド線重畳部
100 運転支援装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に取り付けられたカメラと、
前記カメラの設置条件のデータを記憶した記憶部と、
前記記憶部に記憶された設置条件のデータを用いて、前記画像中に映る路上の所定点までの距離を前記画像内での前記所定点の位置座標から算出する理論距離算出部と、
前記所定点までの距離を求める測距部と、
前記測距部にて求めた距離と前記理論距離算出部にて求めた距離との差分を求める差分算出部と、
前記差分算出部で求めた差分に基づいて前記カメラで撮影された画像を補正する補正部と、
前記補正部にて補正した画像に対し、運転を支援するための情報を重畳する重畳部と、
を備えたことを特徴とする運転支援装置。
【請求項2】
前記カメラはステレオカメラであり、前記測距部はステレオ測距により距離を求めることを特徴とする請求項1に記載の運転支援装置。
【請求項3】
前記理論距離算出部および前記測距部は、前記車両の一部分を前記所定点として距離を求めることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の運転支援装置。
【請求項4】
前記車両の一部は、バンパーであることを特徴とする請求項3に記載の運転支援装置。
【請求項5】
前記補正部は、前記カメラで撮影された画像を幾何学変換により補正することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の運転支援装置。
【請求項6】
前記測距部にて求めた距離と前記理論距離算出部にて算出した距離が一致しない場合、前記カメラの設置条件を前記記憶部に記憶された設置条件から変えながら、前記理論距離算出部にて前記所定点までの距離を求める処理および前記差分算出部にて差分を求める処理を繰り返し行って複数の異なる設置条件において前記差分を求め、前記差分が最小となる設置条件と前記記憶部に記憶された設置条件との撮影角度のずれを傾き量として求め、
前記補正部は、前記傾き量を用いて、前記カメラで撮影された画像を補正する請求項1〜5のいずれかに記載の運転支援装置。
【請求項7】
車両に取り付けられた複数のカメラからなる車載カメラであって、
前記複数のカメラの設置条件のデータを記憶した記憶部と、
前記記憶部に記憶された設置条件のデータを用いて、前記画像中に映る路上の所定点までの距離を前記画像内での前記所定点の位置座標から算出する理論距離算出部と、
前記複数のカメラにて撮影した画像を用いて前記所定点までの距離をステレオ測距する測距部と、
前記測距部で求めた距離と前記理論距離算出部で求めた距離との差分を求める差分算出部と、
前記差分算出部で求めた差分に基づいて前記カメラで撮影された画像を補正する補正部と、
を備えたことを特徴とする車載カメラ。
【請求項8】
車両に取り付けられたカメラにて撮影した画像に、運転を支援するための情報を重畳して表示する運転支援方法であって、
運転支援装置が、カメラにて画像を撮影するステップと、
前記運転支援装置が、記憶部から前記カメラの設置条件のデータを読み出すステップと、
前記運転支援装置が、前記設置条件のデータを用いて、前記画像中に映る路上の所定点までの距離を前記画像内での前記所定点の位置座標から算出するステップと、
前記運転支援装置が、前記所定点までの距離を測距するステップと、
前記運転支援装置が、測距によって求めた距離と位置座標から求めた距離との差分を求めるステップと、
前記運転支援装置が、前記差分に基づいて前記カメラで撮影された画像を補正するステップと、
前記運転支援装置が、補正された画像に対し、運転を支援するための情報を重畳するステップと、
を備えたことを特徴とする運転支援方法。
【請求項9】
車両に取り付けられたカメラにて撮影した画像に、運転を支援するための情報を重畳して表示するためのプログラムであって、コンピュータに、
前記カメラにて撮影した画像を取得するステップと、
記憶部から前記カメラの設置条件のデータを読み出すステップと、
前記設置条件のデータを用いて、前記画像中に映る路上の所定点までの距離を前記画像内での前記所定点の位置座標から算出するステップと、
前記所定点までの距離を測距するステップと、
測距によって求めた距離と位置座標から求めた距離との差分を求めるステップと、
前記差分に基づいて前記カメラで撮影された画像を補正するステップと、
補正された画像に対し、運転を支援するための情報を重畳するステップと、
を実行させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−180962(P2011−180962A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−46439(P2010−46439)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】