説明

配線基板およびその製造方法ならびに半導体モジュール

【課題】絶縁性と放熱性を高めた絶縁層を備える配線基板を低コストで実現する。
【解決手段】配線基板100を、基材となるベース金属部材1と、酸化アルミニウムを含むセラミックス微粒子を原料粉末としてベース金属部材の面に溶射して形成された絶縁層2とによって作製する。絶縁層のX線回折法の回折強度から求まる結晶変換指数が所定の値以上、好ましくは、0.6以上とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線基板およびその製造方法ならびに半導体モジュールに関する。より詳細には、本発明は、例えば半導体モジュールを製造するため、および、個別電子部品の搭載のために用いる配線基板およびその製造方法、ならびにその配線基板を備える半導体モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)やMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)などのパワー半導体素子を含む回路モジュールすなわちパワーモジュールが民生用機器や産業用機器に広範に使用されている。このようなパワーモジュールを用いる民生用機器には、例えば、家庭用エアコン、冷蔵庫などの電源装置がある。その一方、パワーモジュールを用いる産業用機器には、インバータ電源回路中のコンバータ部やインバータ部、電動機の出力制御装置やサーボコントローラなどが含まれる。パワーモジュール以外にも、例えば能動回路素子を1つまたは集積して複数個含む半導体回路素子とコンデンサなどの受動回路素子とを組み合わせることによってひとつのモジュールとしたハイブリッドIC(集積回路)も広範に用いられる。さらに、発光ダイオード(LED)や半導体レーザーなどの発光素子が、単体でまたは複数個組み合わされた光源モジュールという形態で製造されている。これらの半導体素子を用いる各種のモジュール(以下、「半導体モジュール」という)の中には、扱う電力が大きいため、回路の集積度が高いため、または回路の動作周波数が高いためといったさまざまな理由から、搭載している半導体素子によって生成される熱を適切に放散すなわち放熱させなくてはならないものがある。
【0003】
ところで、上述のような半導体モジュールは、その性能上の要求や実装上の要求に加えて、流通の便宜のためにさまざまな形態をとるように作製される。この半導体モジュールの形態は、半導体パッケージ、あるいは単にパッケージとも呼ばれる。ここで、半導体素子の発熱量が問題となるパッケージの設計ないし製造は、電気的な特性のみならず、上述のように放熱に対しても適切に対処されなくてはならない。同様に、必ずしもパッケージの形態をとらない個別部品(ディスクリート部品)であっても、その部品を構成要素とする製品において、部品からの放熱は適切に対処されなくてはならない。
【0004】
半導体パッケージにおいては、その表面において端子以外となる部分を樹脂によってモールド成型したもの、すなわちフルモールド半導体モジュールが用いられる(例えば、特許文献1参照)。また、放熱が課題となる半導体モジュールのパッケージには、しばしば、金属を用いた基板(以下、「ベース金属板」または「ベース金属部材」という)やセラミックスの基板などの何らかの基板または基体が用いられる。また、パッケージを用いない個別部品に対しても、個別部品を実装するために、配線を行なう基板または基体が用いられる。以下、これらの基板または基体を総称して「配線基板」という。いずれにせよ、パッケージを用いるかどうかにかかわらず、放熱が問題となりうる用途での配線基板の選択に際しては、放熱を妨げないこと、さらには放熱を促進することが考慮すべき要素である。
【0005】
従来の配線基板の一例として、基材(ベース)として金属板を用いるプリント配線基板300(以下、「金属ベースプリント配線基板300」という)の断面構造を図1に示す。金属ベースプリント配線基板300は、アルミニウム板や銅板からなるベース金属板31の上に、エポキシ樹脂を含む絶縁層35を介して回路パターンや接続パッドとなる導電層33を設けることにより三層の積層構造となるように作製されている。その作製の際、絶縁層35には、熱伝導率を高めるために二酸化ケイ素(Si0)、酸化アルミニウム(Al)、窒化アルミニウム(AlN)などに代表される無機フィラーを混入したエポキシ樹脂を用いることがある。このような構造の金属ベースプリント配線基板は、金属板を用いるために熱放散性に優れた配線基板として知られている。なお、このような金属ベースプリント配線基板は、しばしばIMS(Insulated Metal Substrateすなわち絶縁金属基板)とも呼ばれる。
【0006】
しかしながら、金属ベースプリント配線基板300のような従来の金属ベースプリント配線基板に用いられる絶縁層の熱伝導率は1〜4W/m・K程度となる。その理由は、エポキシ樹脂に無機フィラーを混入させるものを例にすれば、無機フィラーの充填率に上限があるためである。したがって、エポキシ樹脂の熱伝導率の大幅な向上を達成することは困難であるため、この絶縁層の熱伝導率が従来の金属ベースプリント配線基板を適用しうる半導体モジュールの電流容量の上限を決定してしまっている。その上限の具体的な数値例を挙げれば、従来の金属ベースプリント配線基板を用いて作製される半導体モジュールのパッケージは、電流容量が50A程度までのパワーモジュールにしか適用することができない。
【0007】
一方、従来の金属ベースプリント配線基板の上限を超える電流容量のパワー半導体に適用しうる配線基板も知られている。例えば、電流容量が50Aを超えるようなパワーモジュールに対して、セラミックス材料の焼結体の薄板を絶縁層として用いる配線基板(以下、「セラミックスベース配線基板」という)が用いられることがある。図2に、このようなセラミックスベース配線基板500の断面構造を示す。セラミックスベース配線基板500は、セラミックス絶縁板56の一方の面に金属層53を形成し、他方の面に接合用金属層54を配置したセラミックス絶縁板アセンブリ50を形成する。その上で、セラミックス絶縁板アセンブリ50がベース金属板51に積層されることにより、セラミックスベース配線基板500が作製される。
【0008】
つまり、このセラミックスベース配線基板500を作製するためには、まず、酸化アルミニウム(Al)などの焼結体からなるセラミックス絶縁板56の両面に銅またはアルミニウムなどの金属箔が熱処理によって接合される。次いで、その一方の面の金属箔は、配線層として機能させるために必要な回路パターンが形成されて金属層53とされ、他方の面の金属箔は、通常はそのままとされて接合用金属層54とされる。こうして、セラミックス絶縁板アセンブリ50が作製される。そして、セラミックス絶縁板アセンブリ50の接合用金属層54の面をハンダ層57によってベース金属板51に接合すれば、セラミックスベース配線基板500が作製される。このようなセラミックスベース配線基板は、熱伝導率が絶縁性素材としては比較的高いセラミックス絶縁板を用いるため、絶縁性と放熱性を両立させることができる。ここで、セラミックスベース配線基板500に相当する従来の基板として、特に金属箔を銅としたものはDBC(Direct Bond Copper)基板と呼ばれることがある。
【0009】
ちなみに、電流の上限値の具体例として示した50Aという値は、種々の条件に依存して変更されるものである。この条件には、半導体回路素子の種類がどのようなものであるか、すなわち、パワー半導体、ハイブリッドIC、LEDであるかという適用対象に加えて、具体的な設計事項、例えば寸法などの細部も含まれている。したがって、電流の上限の値に関連して記載する50Aの値は、本出願を通じて例示のみの目的のために記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−66559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のように、電流容量が大きい用途には高い熱伝導率を有するセラミックスベース配線基板を採用することが考えられる。しかし、例えばセラミックスベース配線基板500には全体としての熱抵抗を低下させにくいという問題がある。その理由には、例示的に以下の事象(1)〜(3)が挙げられる。
(1)セラミックス絶縁板56は、材質自体の熱伝導率の値が大きくてもセラミックス絶縁板56としての熱抵抗は低下させにくい。
(2)セラミックスベース配線基板500は、配線層53を有するセラミックス絶縁層56とベース金属とをハンダ付けによって接合して作製されることにより界面の数が増える。
(3)そのハンダ層57自体の層厚が比較的厚く2〜3mm程度にならざるを得ない。
なお、セラミックス絶縁板56の熱抵抗を低下させにくいのは、熱抵抗だけを目的として薄く作製しても、セラミックス絶縁板アセンブリ50として形状を保つための機械的強度が確保できず、熱抵抗だけの側面からみると過大な厚みとせざるを得ないためである。ちなみに、本出願の記載において説明に用いる「熱抵抗」とは、(温度差ΔT)=(熱抵抗R)×(熱流Q)として表現されるRであり、例えば℃/WまたはK/Wを単位とする数値によって表現される量である。この熱抵抗Rは、板状の物体の厚み方向への熱流のみがある場合には、(熱抵抗R)=(物体の厚み)/(物体の面積)/(物体の熱伝導率)によって算出される。
【0012】
また、セラミックスベース配線基板はコストの点からも問題を有している。その端的な理由は、作製工程が複雑なためである。セラミックスベース配線基板500を例にその作製工程をみると、まず、焼成後にセラミックス材料となる原料粉を樹脂等のバインダーと練り合わせることにより、シート状の絶縁板が準備される。この絶縁板はグリーンシートと呼ばれる。次に、そのグリーンシートが高温の炉によって焼成されることにより、セラミックス絶縁板56が作製される。その後は、上述のように、そのセラミックス絶縁板56の一方に回路パターンのための金属箔が、もう一方の面に接合用金属層54が、ともに熱処理によって接合される。次に、金属層53の回路パターンが形成され、接合用金属層54が、ベース金属板51によってハンダ付けによって接合される。セラミックスベース配線基板の作製工程はこのように多くの工程を含んでいるため、必然的に作製コストの低減が困難となる。
【0013】
そこで、本願発明者らは、上述の金属ベースプリント配線基板300(図1)の順序と同様に、ベース金属板すなわち基材となるベース金属部材に熱伝導率が大きい絶縁層を形成しつつ、そのための絶縁層の形成処理を低コストで実現できれば十分な絶縁性と放熱性を併せ持つ理想的な配線基板を低コストで実現しうるものと考えた。図2に示すようにセラミックス絶縁板56を作製してから金属を積層させるのではなく、全く逆に、金属部材に熱伝導率が大きいセラミックス粒子を薄層にして絶縁層を形成するのである。本願発明者らが検討した手法は、具体的には、絶縁層を形成するために溶射法を用いることにより、例えば酸化アルミニウムや酸化珪素の微粒子を原料粉末としてセラミックスの絶縁層をベース金属板上に形成する手法である。そして、その過程において本願発明者らは、酸化アルミニウム(Al)の微粒子を原料粉末として溶射した場合には、形成された絶縁層が本来の熱伝導率を発現せず、十分な熱伝導率が得られないという課題に直面した。
【0014】
具体的には、本願発明者らは、検討の第一段階として絶縁層に適する材料である酸化アルミニウム(Al)の粉末をプラズマ溶射法によって層状または膜状になるように金属基材に形成した。そして、形成された溶射による絶縁層が半導体モジュールに用いる配線基板の絶縁層として望ましい絶縁性と熱伝導率とを示すかどうかについて調査を行った。その結果、溶射によって形成された酸化アルミニウムの絶縁層は、その絶縁層自体の熱伝導率が概ね2〜4W/m・Kにとどまるという問題が明らかとなった。ちなみに、溶射ではなく焼成によって作られるタイプの酸化アルミニウム(アルミナの焼結体)における熱伝導率は通常約20W/m・K程度となる。それにもかかわらず、溶射された絶縁層の熱伝導率は2〜4W/m・K、すなわちアルミナ焼結体の約1/10〜1/5程度にとどまってしまう。
【0015】
したがって、たとえ絶縁層の形成コストが安い溶射法を用いたとしても、この程度の熱伝導率の絶縁層を利用して十分に小さい熱抵抗を実現することは難しい。絶縁性が必要となる用途では絶縁層はある値以上に厚くしなければならないため、その厚みが前提となる以上、上述の熱伝導率では十分に小さい熱抵抗値を実現することは極めて困難となる。
【0016】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、溶射法によって作製される絶縁層の熱伝導率を増大させた配線基板およびその製造方法の実現、およびそのような配線基板を備える半導体モジュールやディスクリート部品を搭載するための基板の実現、ひいてはこれらを用いる電気機器の実現に大きく寄与するものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、検討の第二段階として本願発明者らは、溶射法によって形成された絶縁層の熱伝導率を事後的に高める方策、すなわち、溶射によって形成された後の絶縁層の熱伝導率を焼結タイプの酸化アルミニウムの値に近づける方策を検討した。より具体的には、本願発明者らは熱処理などによって絶縁層の性質を変化または改質させようと試みた。しかしながら、絶縁層の性質の変化を管理または評価するために適する手法が明確でないという問題がさらに明らかとなった。つまり、最終的には絶縁層の熱伝導率を増大させれば絶縁層に対する処理としては目的を達成することができるものの、溶射によって形成した絶縁層の熱伝導率の測定はそれ自体が容易ではない。また、仮に熱伝導率の簡易な測定方法があったとしても、測定された値は絶縁層の最終的な性能を計測しているに過ぎず、管理のための十分な指標とはいえない。そして、そのために熱伝導率の測定の代わりとなる指標をもって絶縁層の性質を管理しようとしても、どのような指標のどのような値がその目的にかなうものとなるかは知られていない。
【0018】
そこで、本願発明者らは、熱伝導率の増大という観点での絶縁層の変化の指標を得るために溶射膜の結晶構造などの膜質の評価手段としてのX線回折法に着目した。というのは、本願発明者らは、溶射法によって形成された絶縁層において上述のように十分な熱伝導率が得られない原因には、以下のようなメカニズムが関与していると推察したためである。
【0019】
まず、溶射法によって絶縁層を形成する際に、原料粉末である酸化アルミニウム粒子は、高温のプラズマによって瞬間的に少なくとも一部溶融しながら溶射される。溶射される酸化アルミニウムの粒子は基板に激突し、溶融した状態で、または、溶融しない部分においても塑性変形を伴いながら絶縁層として堆積してゆく。このため、堆積後の絶縁層の酸化アルミニウムの原子配列は、原料粉末(コランダムすなわちα−アルミナ)の配列からアモルファス状態または軸長の長い立方晶へと変化してしまう。また、溶射法においては、その手法自体が粉末を吹き付けるような処理を行うものであるため、気孔の形成は避けがたい。これらの理由から、溶射法によって形成された酸化アルミニウムの絶縁層においては、結晶格子レベルでの影響と気孔による不連続性とが避けられない。結果として、焼成タイプの酸化アルミニウム(すなわち酸化アルミニウム焼結体)の熱伝導率に対し、溶射による酸化アルミニウムの絶縁層の熱伝導率が約1/10〜1/5程度にとどまるものと本願発明者らは推測している。
【0020】
この推測に基づき本願発明者らは、酸化アルミニウムの溶射後にその結晶構造を再構成するような処理を定量的に実行することができれば、目的とする熱伝導率の値を再現性よく発現させられるとの作業仮説を立てた上で、その検証を行なった。その結果、そのような結晶構造の再構成を定量的に管理するためには、X線回折法によって絶縁層から取得した回折強度のうち、目的とする結晶構造と目的としない結晶構造とによって発現する2つの回折ピークの相対的な比または割合を適切に管理することが肝要であるとの結論に至った。より詳細には、例えば、10W/m・K以上といった目的の熱伝導率を絶縁層に発現させることと、2つの回折ピークの相対的の比または割合が所定の値となるように絶縁層を変化させることとの間には良い対応関係が存在していることを見出した。本願の発明は、以上の知見に基づいて創出された。
【0021】
すなわち、本発明のある態様においては、基材となるベース金属部材と、少なくとも酸化アルミニウムを含むセラミックス微粒子を原料粉末として溶射することにより前記ベース金属部材のいずれかの面に形成された絶縁層とを備えてなる配線基板であって、次式に従って算出される前記絶縁層の結晶変換指数が所定の値以上である配線基板が提供される。ここで、
【数1】

ただし、
【数2】

である。このように定義される結晶変換指数は、酸化アルミニウムのα型(以降、「α−アルミナ」という)と酸化アルミニウムのγ型(「γ−アルミナ」)の二つの異なる結晶型が混在する場合において、両成分に占めるα−アルミナの比率を定量的に表したものである。ここで、α−アルミナの原子間距離を示す格子定数は、γ−アルミナのものよりも小さい。したがって、α−アルミナとγ−アルミナとからなる二成分系では、結晶変換指数が大きな値を持つ絶縁層のほうが、結晶変換指数が小さい値を持つ絶縁層に比べて、原子レベルでみても密に充填された状態をとることができる。本願発明者らは、このような事象により上述のような指数を用いて絶縁層の熱伝導率が適切に管理することが可能となると考えている。
【0022】
本発明は、配線基板の製造方法の態様によって実施することもできる。すなわち、本発明のある態様においては、基材となるベース金属部材のいずれかの面に少なくとも酸化アルミニウムを含むセラミックス微粒子を原料粉末として溶射することにより絶縁層を形成する絶縁層形成ステップを含み、次式に従って算出される前記絶縁層の結晶変換指数が所定の値以上である配線基板の製造方法が提供される。ここで、
【数3】

ただし、
【数4】

である。この製造方法の態様においては、熱伝導率を直接測定することなく絶縁層の製造の管理が適切に行えるとの効果も奏する。
【0023】
ここで、結晶変換指数に対して求める下限値とする「所定の値」は特に限定されるものではないが、その値を0.6とすることは好適な一態様である。このように結晶変換指数の値を管理することによって、熱伝導率の値が10W/m・K以上となるような絶縁層を作製することができるためである。
【0024】
本発明の各態様において用いられる溶射法には、セラミックス微粒子によって絶縁層を形成するために利用可能な任意の溶射法が含まれる。典型的には、本発明の各態様には、プラズマ溶射法、フレーム溶射法、高速フレーム溶射法といった手法を用いることができる。
【0025】
本発明の各態様において用いられるセラミックス微粒子は、代表的には、α−アルミナ粉末すなわちコランダム(例えば99.7%の純度のアルミナ粉)である。このようなセラミックス微粒子には、α−アルミナ粉末に加えて、他の種類の絶縁性のセラミックス粒子が含まれていてもよい。また、このようなセラミックス微粒子には、例えば、他の結晶構造のアルミナ粉末を含めることもできる。
【0026】
本発明の上述の各態様の配線基板は、電気絶縁性と放熱性とを両立させうるような配線のための基板、または、支持のための基体として用いられる任意の部材をいい、その用途は特段限定されるものではない。例えば、本発明の各態様の配線基板は、絶縁層を有する銅ベース基板上にパワー半導体素子を搭載したパワーモジュールの一部として用いることができる。また、本発明の各態様の配線基板は、種類の異なる半導体素子を用いる例として、IPM(インテリジェントパワーモジュール)の一部として用いることもできる。さらには、上述の各態様の配線基板は、例えば半導体モジュールの表面にベース金属部材の金属面を露出させて、内部の半導体素子から外部のヒートシンクまでの熱抵抗を低下させる目的で熱を拡散させるヒートスプレッダーとして用いることもできる。
【0027】
本発明の上述の各態様の配線基板は、必ずしも板状の形態のものに限られない。たとえば、本発明の上述の各態様の配線基板は、絶縁性と放熱性を両立させることによって電気部品または電子部品を単独でまたは他の部材(例えば封止樹脂)とともに支持するような任意の形態または構造をとることができる。例えば、本発明のある態様の配線基板は、絶縁層が表面に形成された水冷ヒートシンクとすることもできる。
【0028】
本発明のある態様の配線基板においては、溶射したままの絶縁層に比べて増大された熱伝導率、例えば10W/m・K以上の熱伝導率を有する絶縁層がベース金属部材に形成される。このため、例えば半導体モジュールの回路素子や個別電子部品からの熱を適切に放散させることができる配線基板を実現することができる。
【0029】
さらに、本発明のある態様においては、絶縁層の上に金属層を形成することもできる。この金属層は、例えば金属箔を接合させた金属層としても、また、溶射して形成した金属層とすることもできる。金属箔による金属層を用いる場合には、その金属箔は溶射膜に接合させることができる。また、溶射膜の金属層を用いる場合に金属層はパターンをなるようにすることができる。例えば、ベース金属部材の上に絶縁層を形成し、その絶縁層に金属層を形成すれば、その金属層によって半導体素子を搭載するための回路パターンや、その半導体素子からのまたは半導体素子への信号または電力を伝達するための回路パターンを形成することができる。その回路パターンに回路素子を搭載または接続する。このため、本発明のある態様は、電気的に必要な配線と放熱のために必要な接触とを実現する基板が提供されるための特に有用な配線基板として実施することができる。このような金属層は、銅、白金、タングステン、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタン、モリブデンからなる群から選ばれる少なくとも1種類の金属、または、当該群に含まれるいずれかの金属を少なくとも含む合金により形成される金属層とすることが有用である。
【0030】
以上のような各態様により実施しうる本発明は、半導体モジュールとして実施する際に特に有用である。すなわち、本発明によれば、上述のいずれかの態様の配線基板、または上述のいずれかの態様の製造方法によって製造された配線基板を備える半導体モジュールが提供される。熱伝導率が増大された絶縁層を有する配線基板を用いると、配線基板の絶縁性と放熱性とを両立させることができる。本発明のような配線基板を用いて作成される半導体モジュールは、同じ絶縁性を示すような金属ベースプリント配線基板を利用した場合に比べて、内部で生成された熱を放出する経路の熱抵抗値を低下させることができる。そうすると、半導体モジュール全体の設計をみたとき、配線基板の金属部材のサイズや半導体モジュールの外部に設ける外部ヒートシンクを小型化しても、十分な放熱性能が確保できる。その結果、半導体モジュールの小型化やそれを用いる電源装置の小型化が実現される。また、本発明のような配線基板を用いて作成される半導体モジュールは、同じ絶縁性や放熱性を示すようなセラミックスベース配線基板に比べて、低コストで作製することができる。
【発明の効果】
【0031】
以上説明したように、本発明のいずれかの態様によれば、特定のX線回折のピーク強度の比が一定の条件を満たすように溶射によって形成された絶縁層を利用するため、絶縁性と従来のセラミックス配線板と比肩しうる放熱性とを両立する配線基板が実現され得るとともに、そのような配線基板が少ない工程数によって作製され得る。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】従来の金属ベースプリント配線基板の構造を示す断面図である。
【図2】従来のセラミックスベース配線基板の構造を示す断面図である。
【図3】本発明のある実施形態にかかる配線基板の各作成段階における構造を示す断面図である。
【図4】本発明のある実施形態にかかる各比較例および実施例の絶縁層から取得したX線回折強度である。
【図5】本発明のある実施形態にかかる配線基板の各作成段階における構造を示す断面図である。
【図6】本発明のある実施形態にかかる配線基板の各作成段階における構造を示す断面図である。
【図7】本発明のある実施形態にかかる配線基板の各作成段階における構造を示す断面図である。
【図8】本発明のある実施形態にかかる半導体モジュールの構造を示す断面図である。
【図9】本発明のある実施形態にかかる半導体モジュールの製造工程における各段階の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
次に、本発明の実施態様について説明する。以下の説明に際し、全図にわたり特に言及がない限り、共通する部分または要素には共通する参照符号が付されている。また、図中、各実施形態の要素のそれぞれは、必ずしも互いの縮尺比を保って示されてはいない。
【0034】
<第1実施形態>
図3は、本発明の第1実施形態にかかる溶射法を用いる配線基板100の作製工程において、各段階の構造を示す断面図である。図3(a)、(b)は、それぞれ、溶射処理中および溶射処理後の配線基板状態を示している。本実施形態においては、まず、ベース金属板1(ベース金属部材)に、酸化アルミニウムや酸化珪素などのセラミックスからなる絶縁層2aを溶射によって形成する。このために、本実施形態においてはプラズマ溶射法を用いる。このプラズマ溶射法を採用すると、溶射の際に原料粉末として用いるセラミックス微粒子2Aが、例えば2000以上10000℃以下となっている作動ガスのプラズマによって熱せられつつ噴射される(図3(a))。この溶射の際には、溶射処理の諸条件を予め調整しておく。この溶射処理の諸条件には、主として、溶射ガンの動作条件と、基材と溶射ガンの動作系の動作条件とがある。前者には、アーク電流値や電圧値、1次ガス種類および流量、2次ガス種類および流量、ならびに、原料粉末送り速度が含まれ、後者には、溶射距離、溶射角度、溶射ガンと基材との相対移動速度、および、基材の表面温度が含まれる。溶射の際には、不要な部分に原料粉末が溶射されないようにマスクM1が用いられる。原料粉末2Aは、基材すなわち金属ベース基板1に吹き付けられて堆積し、絶縁層2aとなる(図3(b))。絶縁層2aの厚みは主に回路電圧とその耐絶縁性を考慮して設定されるが、その厚みの数値範囲の例を挙げれば、50μm程度から500μm程度までの範囲とされる。この厚みは、上述の溶射処理の諸条件を調整して変更することができる。
【0035】
以上のようにして堆積された絶縁層2aには再構成処理が施され、絶縁層2が形成される(図3(c))。この再構成処理は、一例として、熱処理によって行なわれ、別例としては、圧力または圧縮応力を絶縁層に作用させることによって行なわれる。絶縁層2は、典型的には、再構成処理によって絶縁層2aの結晶構造を変化させたものである。すなわち、溶射直後の絶縁層2aの材質中では酸化アルミニウムのほとんどはγ−アルミナの形態をとっている。そこに熱処理等の再構成処理を施すことによって、α−アルミナの割合が増加した絶縁層2を得ることができる。絶縁層2の熱伝導率は、再構成処理によって増大されて焼結体のアルミナの熱伝導率に近づくこととなる。本実施形態(第1実施形態)においては、熱処理による再構成処理を説明することとし、圧力を利用する再構成処理は別の実施形態(第2実施形態)において後述する。
【0036】
次に、この再構成処理の条件を変更して作製したいくつかの比較例および実施例について説明する。以下の説明において、最初に各例に共通する条件について説明する。次いで、特段の再構成処理を行われない例である比較例1を説明し、再構成処理を試行したにも関わらず良好な結果が得られなかった例を比較例2として説明する。その後、目的とする熱伝導率が達成されて良好な結果が得られた再構成処理の条件の例として実施例1を説明する。最後に、その再構成処理の条件を変更して熱伝導率の目標値が達成された条件の例を実施例2として説明する。各例の説明では、実際に得られたX線回折強度パターン、回折強度パターンから求まる結晶変換効率、および熱伝導率の測定結果も示される。
【0037】
[共通する条件]
本実施形態において、これらの例において再構成以外の条件はすべて同様であり、各例の試料はこれまで述べたような実施形態により作製される。具体的には、本実施形態では、ベース金属板1として寸法70×40×3(mm)の銅基板が採用され、平均粒子径1μmのアルミナ微粒子を用いたプラズマ溶射法により、厚さ200μmのアルミナ溶射層がその銅基板上に形成された。また、この際に用いられた作動ガスはアルゴン(Ar)であり、前述のプラズマ溶射法としては大気プラズマ溶射法が採用された。
【0038】
その後、比較例1については再構成処理を施さず、他の例(比較例2、実施例1、および実施例2)については再構成処理を施した後、溶射層のX線回折強度を測定した。なお、X線回折強度の測定条件は以下のとおりである。
X線回折測定装置:ATX−G(理学株式会社製)
測定モード: 2θ/ωモード
スキャン角度範囲:10°〜140°
角度分解能: 0.005°step
掃引速度: 5°/min
【0039】
以上のようにして得られた試料のX線回折強度の各曲線から、2θが35°と46°との二つの回折角(2θ)を中心に各角度の近傍±0.5°の範囲からピーク強度を取得した。このX線回折強度の測定を精度良く測定するために、本実施形態における測定用試料として、銅基板から剥離させて膜状に研磨した絶縁層を用いた。そして、各角度のピーク強度から、次式に従って結晶変換指数を計算した。
【数5】

ただし、
【数6】

である。
【0040】
上式から明らかなように、本出願において定義する結晶変換指数は、絶縁層から取得されるX線回折強度のそれぞれの曲線において、回折角が35°付近のピーク強度と46°付近のピーク強度との和に対し、回折角が35°付近のピーク強度が占める割合を算出するものである。ここで、各回折角付近のピーク強度は、それぞれの回折角を中心に±0.5°の範囲のうちの最も強い回折強度の値を用いる。このようにして特定される35°付近の回折角において、ピーク強度を与える酸化アルミニウムの結晶構造はα−アルミナであり、46°付近のピーク強度を与える結晶構造はγ−アルミナである。したがって、結晶変換指数は、α−アルミナとγ−アルミナのX線回折強度の総量に対するα−アルミナのX線回折強度が占める割合を示している。なお、回折強度のピークの値は、回折ピークのみられない角度範囲の回折強度の波形を用いてベースラインの値を各角度について求めた後、そのベースラインの値を回折強度から差し引きすることによって特定される。
【0041】
また、各例に対して熱伝導率を測定した。その計測法は以下のとおりとした。
測定方法:フラッシュ法
測定装置:LFA447(Nanoflash)(NETZSCH社製)
照射光: キセノンランプ
雰囲気: 空気中
測定温度:25℃
測定方向:厚さ方向
比熱: DSC法
かさ密度:試料の質量と断面積および厚さ計測から計算
熱伝導率:熱伝導率=熱拡散率×比熱×密度 の関係から算出。
【0042】
さらに、各例の絶縁層の溶射膜における気孔率を試算した。この気孔率は、実際に形成された膜のかさ密度(見かけの密度)が、気孔となる空隙部分には何も物質がなく、気孔ではない部分すなわち充填されている部分には一様な密度の物質が充填されているような仮想の膜の実効的な密度と等しいものと仮定し、その仮想の膜の気孔の占める体積分率として算出したものである。この際、仮想の膜の実効的な密度の算出に用いる密度の物質は、サファイア結晶と同じ3.987g/cmと仮定した。
【0043】
次に、比較例1、比較例2、実施例1、および実施例2の各例についての再構成の条件および各例の試料に対して得られた結果を説明する。
【0044】
[比較例1]
比較例1は、全く再構成処理を施さない場合の例である。すなわち、上述の図3(a)から図3(b)までのように処理することにより、絶縁層を溶射によって形成した配線基板を作製した。その後に大気中にて室温保存しただけの試料を比較例1の試料とした。この比較例1の試料からは、図4(a)に示したX線回折強度が得られた。このX線回折強度から得られた比較例1の試料における絶縁層の結晶変換指数は7.5であった。そして、比較例1の試料から求められた絶縁層の気孔率は25%であり、測定された熱伝導率は4W/m・Kであった。
【0045】
[比較例2]
比較例2は、最初に試行した再構成処理条件において得られた試料の例である。具体的には、まず、上述の図3(a)から図3(b)までのように処理することにより、絶縁層を溶射によって形成した配線基板を作製した。その後に圧力3×10Paの減圧雰囲気下で温度300℃に5時間保持して図3(c)に示した配線基板100を比較例2の試料とした。このような再構成条件を設定したのは、この程度の熱処理によって絶縁層中においてα−アルミナの割合が増加するか、または、気孔率が減少することを狙いとしたものであり、比較例1の値よりも増大した熱伝導率が得られる可能性を調べるためである。しかし、この比較例2の試料の絶縁層から得られたX線回折強度は、図4(b)に示すようなものであった。すなわち、X線回折強度は、測定範囲の至る角度で小さい値しか示さず、この強度から計算される結晶変換指数は0.0であった。このようなX線回折強度は、測定された膜がアモルファス状態となっていることを示している。また、比較例2の試料の絶縁層にから求められた気孔率は30%であり、さらにその熱伝導率の測定値は3W/m・Kであった。
【0046】
[実施例1]
次に、実施例1について説明する。この実施例1の試料は、熱伝導率の値を十分高めるために、再構成処理の効果を最大限引き出すことを目的とする熱処理の条件を設定して作製したものである。具体的には、図3(a)から図3(b)までのように処理することにより作製された配線基板100に対して、電気炉にて設定温度900℃、100時間の熱処理を行なって、図3(c)に示した配線基板100の実施例1の試料が作製された。この際、窒素ガス(N)を電気炉内に流すことにより、ベース金属部材1の酸化を防止した。そのようにして再構成処理を行った絶縁層のX線回折強度を測定したところ、図4(c)に示したようなX線回折強度が得られた。さらに、そのX線回折強度から求まる実施例1の試料の結晶変換指数は96%、その気孔率は15%、そしてその熱伝導率の測定値は14W/m・Kであった。
【0047】
[実施例2]
上述の各試料に加えて、実施例1の条件よりも処理時間の短縮を目指して温度条件を変更した熱処理によって作製した試料が、実施例2の試料である。具体的には、図3(a)から図3(b)のように処理することにより、絶縁層を溶射によって形成した試料を、電気炉にて設定温度1000℃の条件によって5時間熱処理して、図3(c)に示した配線基板100の実施例2の試料が作製された。この熱処理に際しては、実施例1と同様に窒素ガス(N)を電気炉内に流すことにより、ベース金属部材1の酸化を防止した。このようにして作製した実施例2の試料のX線回折強度を測定したところ、図4(d)に示したX線回折強度が得られた。そのX線回折強度から求まる実施例2の試料の結晶変換指数は0.6であった。また、実施例2の試料の気孔率は20%と計算され、そしてその熱伝導率の測定値は10W/m・Kであった。
【0048】
以上の各例に関して処理条件と試料の測定結果を表1にまとめている。
【表1】

【0049】
以上の各例を比較すれば明らかなように、再構成処理の条件によって熱伝導率の測定値が大きく異なるという非常に興味深い結果が得られた。すなわち、実施例1の試料を比較例1の試料と比較すれば、溶射したままの絶縁層においては、そこから熱伝導率を大きく増大させる余地がある。そして、実際に熱伝導率が大きく増大する条件では、結晶変換指数の大幅な上昇も観察される。つまり、X線回折強度に基づく結晶変換指数の値と熱伝導率の値との間に一定程度の相関関係、具体的には、結晶変換指数の値が大きくなれば熱伝導率の値も大きくなるという関係が存在していることが分かった。この関係は実施例2の試料と他の試料との間にも明瞭に表れている。
【0050】
ここで、比較例2の熱伝導率を比較例1の熱伝導率と比較すれば、熱処理によって必ずしも熱伝導率が増大するとは限らないことも明らかである。ただし、比較例2の場合には、比較例1からみると熱処理を追加して行っているにもかかわらず熱伝導率が低下しているが、同時に結晶変換指数も低下している。すなわち、結晶変換指数が大きいときに熱伝導率の値も大きくなる関係についてはここでも成立している。以上から、算出される結晶変換指数の値が熱伝導率の目的の値を得るための良好な指標となっていることが本願発明者らの研究によって明らかとなった。
【0051】
次に、各例の試料の熱伝導率の具体的な数値について説明する。まず、結晶変換指数が最大の値(0.96)になっている実施例1の試料においては、熱伝導率も最大の値(14W/m・K)となっている。この実施例1の試料の熱伝導率の値は、比較例1の熱伝導率(4W/m・K)から見て3倍以上の値である。さらに、実施例2の試料は、実施例1の試料に比して低い熱伝導率となってはいるものの、その値(10W/m・K)は比較例1の値から見ると依然2.5倍もの値である。この実施例2の試料の熱伝導率の値は、従来用いられていた無機フィラーを混入させた樹脂の値(1〜4W/m・K)の上限値と比べてみても2.5倍となっている。このように、実施例1は言うに及ばず、実施例2であっても、溶射したままの絶縁層や樹脂による絶縁層に比して十分に大きな熱伝導率が実現している。
【0052】
しかも注目すべき点は、この実施例2の試料に施した再構成処理は、実施例1の場合に比べて処理時間が20分の1となっていることである。実施例2の試料と同様の条件によって作製する配線基板を用いると、電流容量の大きい半導体回路素子に用いることができるような基板を高い生産性によって製造することが可能となる。
【0053】
以上のように、実施例1と各比較例との比較において、結晶変換指数と熱伝導率には明確な相関関係が存在することが確かめられた。また、実施例2の試料の測定値に基づけば、再構成処理によって達成しようとする熱伝導率の目標値または下限値を例えば10W/m・Kに設定すると、結晶変換指数の値は0.6を下限とするようにすればよいことが確かめられた。この結晶変換指数の値を指標とすることによって、従来の金属ベースプリント配線板よりも優れた放熱性を有する配線基板を作製することが可能となった。さらには、その結晶変換指数の値が0.6以上となるかどうかという判定基準を用いることによって、セラミック基板を絶縁層として用いるセラミックスベース配線基板に比べても遜色のない熱伝導性を示す配線基板を製造することができる。加えて、前述の判定基準を用いることにより、配線基板の製造工程の一部としてのハンダ付けが不要なこととも相まって、省力化された製造工程によって配線基板を製造することもできる。しかも、結晶変換指数の値を適切に設定することによって、再構成処理によって絶縁層の品質を過剰に高めてしまうといった事態を防止することができる。
【0054】
<第1実施形態:変形例1>
本実施形態は、上述の実施例1および2といった例に加えて、絶縁層にさらに金属層を形成するような実施形態によって実施することもできる。以下、この形態を第1実施形態の変形例1として説明する。
【0055】
図5は、本実施形態の変形例1の基板の各作成段階における構造を断面図により示している。本実施形態の変形例1では、絶縁層の上にさらに金属層を溶射によって形成する。この際、溶射法の利点を活用して、絶縁層上に設ける金属層には、溶射の際に回路パターンをも形成しておく。この変形例1においては、再構成処理を行った配線基板100(図3(c))の絶縁層2の上に金属層を形成する。
【0056】
図5(a)は、回路パターンとして金属層を形成する部分以外を被覆するマスクM2を通して金属層を溶射する工程における配線基板の断面図である。このとき、マスクM2を用いるため、金属の原料粉末3AはマスクM2の開口部を通り抜けた部分の絶縁層2の上に衝突して金属層3として堆積してゆく。この処理によって導通または伝熱のためのパターンを有する金属層3が形成される。この溶射によって金属層3が目的の厚みとなると溶射処理は停止される。最終的に、所望の回路パターンが形成された金属層3が図5(b)のように形成された配線基板150が得られる。
【0057】
より具体的な条件について説明すると、この回路パターンとなる金属層3は、原料粉末3として、例えば、銅、白金、タングステン、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタン、モリブデンからなる群から選ばれる少なくとも1種類の金属もしくはこれらの合金の粉末を用いた溶射膜とすることができる。金属層3の厚みは主として電流密度を考慮して設定され、その厚みの数値例を挙げれば、通常のパワーモジュールのための配線基板の用途では30μm程度から500μm程度までの範囲の値が選択される。金属層3の厚みを決定する際には、電流密度以外にも、絶縁層2を通じた放熱ベース金属基材1と絶縁層2との熱膨張の差による反りの緩和などが考慮される場合がある。
このようにして金属層3も溶射によって作製することができる。
【0058】
ところで、変形例1においては溶射法を用いるため、所望のパターン化(パターニング)を金属層3の形成と同時に行なうことができる。したがって、金属層を面全体に形成して事後的に回路パターンをパターニングする場合に比べて、目的とする回路パターンを金属層の形成と同時に得ることができる。このような金属層の溶射には、プラズマ溶射、高速フレーム溶射、およびコールドスプレー法などの公知の方法が適宜利用され得る。
【0059】
このように、金属層3が溶射によって形成される場合には、実施例1および実施例2において説明した再構成処理となる熱処理を、一例として金属層を溶射する前に行なうことができる。また、別例として、金属層を溶射した後にその再構成処理となる熱処理を行なうこともできる。ここで、金属層の溶射の前に再構成処理を行う場合には、金属層3に対して再構成処理が及ぼす影響を考慮する必要がなくなり、金属層の材質の選択に制約が生じない利点がある。これに対して、金属層の溶射の後に再構成処理を行う場合には、金属層に対しても再構成処理の影響が及ぶ。このため、例えば再構成処理が熱処理であるときに、その熱処理の温度によって溶射後の金属層3の電気伝導率が影響を受けないように材質が選択される。例えば、再構成処理の影響によって配線基板150が反るような場合には、金属層3の材質の選択の際に、このような基板に残留する熱応力を勘案した上で、配線基板の反りを軽減させる作用を考慮することができる。
【0060】
以上の変形例1によれば、絶縁性と熱伝導率とを両立させることができる配線基板を低コストで作製することができる。加えて、この変形例1によれば、ベース金属基材にセラミックス絶縁層を形成する処理と金属層を回路パターンまで形成する処理とを、ともに溶射によって行うことができることとなる。
【0061】
<第1実施形態:変形例2>
変形例2においては、図3に示した絶縁層の再構成処理の後に、例えば銅箔などの金属箔(図示しない)を絶縁層2に接合する。この接合工程においては、まず金属箔の接合面が清浄にされる。すなわち、その後の接合に障害となる汚れや金属箔の接合面に形成されている化合物が除去される。次に、その金属箔を絶縁層2(図3(c))上に積層した後、電気炉によって熱処理を行って金属箔を絶縁層2に直接接合する。この処理のための熱処理の条件は、例えば、設定温度が1050℃で、処理時間が5時間という条件を採用することができる。なお、金属箔の清浄化から金属箔を積層するまでのハンドリングは窒素(N)雰囲気中にて行い、その後の熱処理の際にも、ベース金属部材1と金属箔の露出している面の酸化を防止するために電気炉には窒素ガス(N)を流しておく。
【0062】
最終的に作製される配線基板(図示しない)は、金属箔を接合して作製した金属層のパターニングを行うことにより作製される。こうして、図5(b)に示した配線基板150と同様の構造の変形例2の配線基板が作製される。
【0063】
以上の変形例2においては、金属箔を接合して形成した金属層を用いるため、良好な電気特性の金属層を実現することができる。加えて、金属層の接合処理が絶縁層の再構成処理と同様の効果をもたらすため、本実施形態の変形例2において絶縁層の熱伝導率の増大にも寄与するようにして金属層を形成することができる。
【0064】
ところで、金属箔を接合するための熱処理は、絶縁層の再構成処理としての作用も有している。したがって、一度の熱処理によって、金属層の接合処理と、絶縁層の熱伝導率を高めるための再構成処理とが実行され、製造工程の複雑化を回避しつつ金属層が接合された配線基板を作製することも可能となる。このため、上述の変形例2をさらに変更して、再構成処理を行う前の配線基板100(図3(b))の上に金属箔を形成するような実施形態も採用され得る。その場合において、仮に金属箔の接合のための熱処理の条件のみでは再構成処理によって結晶変換指数が目的の値(例えば0.6)に達しない場合には、その金属箔の接合の前または後のいずれかのタイミングに再構成処理としての熱処理を追加することができる。
【0065】
<第2実施形態>
次に、再構成処理において熱処理に加えて加圧処理を行う形態について説明する。本実施形態における加圧処理は、絶縁層に対して面の法線方向に加える荷重すなわち圧力を利用する処理をいう。このような加圧処理は、例えば予め適切な加圧具となる冶具を作製して加圧すること、または、プレス装置によって加圧することなどによって実現することができる。
【0066】
図6は、本実施形態における再構成の各工程における配線基板の構造を示す断面図である。このような加圧処理を用いる配線基板の作製工程は次のようにして行う。
【0067】
まず、第1実施形態において図3(b)に関連して説明したように、溶射によって絶縁層2aが形成される。この段階の配線基板を準備し、配線基板に図6(a)に示すように絶縁層に圧力を印加して加圧処理を行う。その加圧処理において印加される圧力は、一例としては10GPaとすることができるが、それ以外にも、1MPa以上、さらに好ましくは10MPa以上であって、100GPa以下、さらに好ましくは10GPa以下のいずれかの圧力を印加することもできる。このように圧力が印加されることによって、溶射したままの酸化アルミニウムが再構成され、熱伝導率が高められた絶縁層2を有する配線基板120が作製される(図6(b))。なお、このような圧力は、例えば金属板を用いる加圧具によって機械的に印加することができる。これ以外にも、HIP(Hot Isostatic Pressing)などの処理を行うこともできる。
【0068】
以上のような処理によって絶縁層の熱伝導率が増大する理由について、本願の発明者らは、圧力による圧縮のために気孔がつぶれる効果、すなわち、絶縁層の溶射膜の実効的な密度の向上による気孔の縮小効果も寄与しているものと推測している。
【0069】
ここで、本実施形態においては、絶縁層2のうちその一部のみに圧力を印加することによって、部分的に熱伝導率を上昇させることも好ましい一態様である。このように圧力が印加される領域を限定すれば、印加する全体の荷重を比較的小さく保ちつつ、必要な圧力すなわち圧縮応力の値を得ることができる。なお、加圧される領域を、絶縁層の平面において回路要素が搭載されて熱伝導率が問題となる領域のみに制限しても、他の領域には回路要素が直接は搭載されないため、放熱性すなわち回路要素からみた熱抵抗に対して大きな影響はない。
【0070】
さらに、本実施形態の加圧処理は、圧力を加えながら熱を印加する処理とすることもできる。このように熱とともに圧力を加えることにより、熱処理のみによって熱伝導率を上昇させる実施形態1の実施例1または2の場合に比して、低い温度または短い処理時間で熱伝導率の向上が達成できる利点がある。
【0071】
加えて、本実施形態においても、上述の実施形態1の変形例1または2と同様にして、絶縁層の上に金属層を形成することもできる。その金属層は、溶射によって回路パターンとなるようにパターニングした金属層とすることもでき、また、金属箔を接合させて形成した金属層とすることもできる。その金属箔による接合を用いるときには、接合した後に任意のパターニングの手法によって金属箔による金属層をパターン化することができる。いずれの金属層を形成する実施形態においても、加圧処理を行うタイミングは、金属層を形成する前とすることもでき、また、金属層を形成した後とすることもできる。
【0072】
このうち、特に金属層がパターニングされた後に加圧処理を行う場合には、配線基板の製造工程上の二つの利点がある。1つの利点は、金属層のパターン化をすることによって、形成された金属層にはアライメント(位置合わせ)用のマークを形成することができることである。つまり、ベース金属部材に絶縁層が形成された後に、その後の位置合わせに必要となるアライメント用のマークを金属層のパターンによって作製することができる。このアライメント用のマークは、例えば加圧を部分的にのみ行う場合に加圧部分を目的の場所のみに位置合わせするため、または、その後の任意の工程の位置合わせを行う場合の基準として用いることができる。
【0073】
金属層がパターニングされた後に加圧処理を行う場合のもう1つの利点として、金属層のパターンを加圧に積極的に利用することが可能となる点があげられる。すなわち、配線基板のうち、金属層が形成されていない領域または金属層が形成された後に除去された領域と、金属層が形成された領域との間には、全体的に見た場合に金属層のパターン自体の厚みだけの差が生じる。この厚みの差は金属層の有無によってもたらされ、例えば30μm程度から500μm程度までの範囲の値となる。このため、圧力を印加する際に平行平板による荷重の印加、すなわち、互いに平行に保たれている2つの対向する平面を有するような2つの平板によって配線基板全体を挟んで荷重をかけることによって、金属層が形成された領域に荷重が集中する。都合の良いことに、その金属層が形成された領域は、配線基板に回路要素を搭載する領域となるため、絶縁基板の放熱経路とほぼ一致している。それとは逆に、金属層が形成されない領域(除去された領域)は、放熱経路からほぼ外れている。したがって、金属層がパターニングされた後に加圧を行う場合には、放熱経路すなわち熱伝導率を増大させることが望ましい領域に荷重を集中させることが、単なる平行平板による荷重の印加によって実現する。このように、金属層がパターニングされた後に加圧処理を行うことによって、金属層のパターンそれ自体によって加圧される領域が決定されるため、加圧領域が自己整合(セルフアライメント)されることとなる。このため、金属層がパターニングされた後に加圧処理を行うと、部分的に加圧するための放熱経路に合わせた加圧治具を別途作製することなく、まして、そのような治具を用いて精密な位置合わせをすることなく、目的とする部分のみに容易に荷重を集中させることができる。
【0074】
図7に、このようにして作製した配線基板170の断面図を示す。図7に示したように、金属層3がパターニングされた後に、平板の加圧具によって金属層3ごと加圧されると、絶縁層のうち、金属層3の直下の領域は膜質が再構成された絶縁層2となり、金属層3の無い領域では溶射されたままの絶縁層2aとなる。
【0075】
<第3実施形態>
本発明の実施形態には、上述の実施形態によって作製された配線基板を用いるパワー半導体モジュールも含まれる。以下、そのパワー半導体モジュールを提供するための実施形態として本発明の第3実施形態について説明する。
【0076】
図8は、本実施形態のパワー半導体モジュールの構成を示す断面図であり、図9は、そのパワー半導体モジュールを作製する工程の各段階における構成を示す断面図である。図6のパワー半導体モジュール200は、図5(b)に示した金属層を形成した配線基板100に例えばIGBTなどのパワー半導体回路素子10を搭載し、封止樹脂14によって周囲を封止したものである。配線基板150はベース金属板1の金属の面を図8の紙面の下側にむけて外部に露出させている。
【0077】
このように構成された半導体モジュール200は、図9に示すような工程によって作製される。まず、図5(b)と同様の配線基板150を準備する(図9(a))。次に、この配線基板150に半導体回路素子10が搭載される(図9(b))。この際には、例えばハンダ付けによって半導体回路素子10と金属層3との間の熱的な接触が確保される。次に、リードフレーム16が配置され、半導体回路素子10の電気的な接続のためのパッド(図示しない)とリードフレーム16の接続部分と、金属層3のパターンとが、相互に接続される(図9(c))。この際、超音波接合法によって電気的な接続を行なう公知のワイヤーボンディング工程を利用することができる。最後に、トランスファー成型方式によって樹脂による封止処理を行う。この封止処理は、まず、図9(c)に示した回路部品を金型(図示しない)の内部に配置する。この際、金型の温度を予め170以上180℃以下程度にしておく。次いで、適切な温度に予熱しておいた成型用樹脂をプランジャーにてその金型内に流し込む。
【0078】
この成型樹脂14の材料は公知の任意の樹脂材料を用いることができる。本実施形態では、エポキシ樹脂に無機フィラーを混入させたものが採用される。なお、この成型樹脂の材料は、成型前にはタブレット状の外観になっている。無機フィラーとしては、酸化珪素、酸化アルミニウム、窒化珪素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素からなる群から選ばれる1種類以上の材質の粒子または粉体が適用可能である。成型樹脂の材質としては、他の要求性能を満たす限り熱伝導率が高いものほど望ましい。その一例としては、熱伝導率が0.5W/m・K以上5W/m・K以下の材質が挙げられる。成型用樹脂を流し込んだ数十秒後には成型樹脂の硬化が開始する。この直後に成型樹脂によって封止された回路部品を金型から取り外した後に、後硬化(ボストキュア)処理が行われる。この後硬化処理は、成型樹脂によって封止された回路部品を恒温槽によって加熱することによって行なわれる。以上のようにして、封止処理が完了し、半導体モジュール200の製造工程が完了する(図9(d)、図8)。なお、トランスファー成型工程における半導体モジュールの温度条件は、絶縁層の熱伝導率が低下することがないように設定される。
【0079】
封止処理に用いられる成型樹脂は、任意の樹脂を用いることができる。一例を挙げれば、エポキシ樹脂に無機フィラーを混入させた樹脂を用いることができる。なお、ここに用いられる無機フィラーには、例えば、酸化珪素、酸化アルミニウム、窒化珪素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素からなるフィラー群から選ばれる1種類以上を用いることができる。
【0080】
このようにして作製された半導体モジュール200における絶縁層2には、各実施形態において述べたような良好な絶縁性と熱伝導性とが備わっている。そのため、半導体モジュール200を全体としてみても良好な絶縁性と放熱性を備えることとなる。具体的には、半導体モジュール200が電気機器に使用される段階では、図8の下方に露出しているベース金属部材1の金属面には、図示しない外部ヒートシンクが取り付けられる。この取り付けの際には、ベース金属部材の金属面に直接または適当な伝熱部材を介して外部ヒートシンクと半導体モジュール200とが設置される。このため、絶縁層が大きな熱伝導率を有するように作製されていれば、外部ヒートシンクと導通する可能性のあるベース金属部材1と回路パターンの金属層3との間の電気的な絶縁は絶縁層2によって確保され、同時に、内部の半導体モジュールからの熱が絶縁層2を通じて外部ヒートシンクに対して良好に放散される。この際、半導回路素子10から放出される熱の経路は、回路パターンの金属層3、絶縁層2、そして、ベース金属部材1の順となる。
【0081】
このように、絶縁層2が半導体モジュール200全体の絶縁性と熱抵抗に大きな影響を有するため、本出願においてすでに説明したいずれの実施形態による配線基板を用いる場合であっても、半導体モジュールの放熱性を改善したパッケージを容易に作製することができる。
【0082】
<他の変形例>
実施形態1および2に関連して、絶縁層の熱伝導率を増大させる原因についてα−アルミナの比率に関連して説明してきた。ここで、本願の発明はそのようなメカニズムのみによって実現していることを要求するものではなく、他のメカニズムによって実現される実施形態も本願の発明の一部となり得る。
【0083】
例えば、表1に示したように、熱伝導率が10W/m・K以上となった試料は、いずれも気孔率が20%以下となっていて、熱伝導率が10W/m・Kに満たない試料は、いずれも気孔率が20%を超えている。気孔率が小さいことは、気孔の空隙が熱の伝導を妨げる点を考慮すれば、配線基板に用いる絶縁層の性質としては望ましいものといえるため、本発明のある態様の配線基板の性質を特性づける量として気孔率に着目し、その値を20%以下のものに限定することは他の好ましい一態様となる。
【0084】
また、実施形態2に関連して、半導体モジュール200からの放熱のために外部ヒートシンクを用いる例を説明したが、本発明の実施形態における放熱の態様はそのような構成のみに限定されるものではない。例えば、金属ベースそれ自体が水冷ヒートシンクの一部をなしていること、すなわち、水冷ヒートシンクにいずれかの実施形態によって説明したような絶縁層が直接形成されているような構成としても本発明の各実施形態の配線基板を実現することができる。このように、基材形状は必ずしも板状または平面を有するようなものにも限定されない。
【0085】
そして、基材となるベース金属部材については、任意の形状の金属部材や、任意の他の機能を発揮することが可能な金属部材を本発明の各実施形態のベース金属部材として利用することができる。例えば、ヒートシンクまたはヒートスプレッダーとして利用される任意の金属部材を絶縁層を形成する基材として用いることができる。また、本発明の各実施形態において基材に対して絶縁層が形成される面は、必ずしも金属が露出しているものには限定されない。例えば、金属部材に形成した陽極酸化膜、または、金属部材の自然酸化膜などの酸化膜が意図的にまたは意図しないで形成されているような面の上に絶縁層が形成されることも、本発明の各実施形態における基材となるベース金属部材のある面に絶縁層が形成されることに含まれる。さらには、例えば溶射される絶縁層の剥離を防止するため、または、熱膨張時の応力を緩和するために基材と絶縁層との間に設けられうる何らかの中間層を利用するようなものも、本発明の実施形態の1つに含まれる。
【0086】
上述の各実施形態においては、基材となる金属基板として銅を中心に説明したが、例えば、アルミニウムを主成分とするアルミニウム合金などの任意の金属材料を金属基材として用いることもきる。
【0087】
上述の第3実施形態においてパワー半導体モジュールの実施形態を説明した。このようなパワー半導体モジュールは、例えばコンバータ回路およびインバータ回路を含む電源装置やモータ制御装置などに利用することができる。このような電源装置は、各種家庭用機器、産業用機器、またな輸送用機械の電気機器に用いることができる。
【0088】
しかし、本発明の各実施形態の配線基板の適用先は必ずしもパワー半導体の実装パッケージのみに限定されるものではない。個別部品(ディスクリート部品)を利用する回路のための配線基板として用いることもできる。例えば、各種照明用途に利用されるLED(発光ダイオード)は、必ずしも高い電圧によって動作させられるものではないが、温度が上昇すると発光効率が低下することが知られている。したがって、面積あたりの光束を高めるために実装密度が高められて用いられることが多く、加えて、製造コストの低減に対する要求が強い。このため、本発明の各実施形態の配線基板をLEDに利用することは特に有用な一態様といえる。
【0089】
別例としては、例えば高い周波数で動作することによって単位面積当たりの放熱量が多い半導体装置(例えばCPU:中央演算装置)などのパッケージに用いる基板として、あるいはそのような半導体装置を実装するための配線基板としても、本発明の各実施形態の配線基板は有用である。
【0090】
なお、本発明の各実施形態の絶縁層は、X線回折強度を測定して結晶変換指数を算出した場合にその値が所定の値以上の値となるようなものである。この際、結晶変換指数の算出のための測定条件や試料の作製条件として各実施形態に関連して説明した条件は例示のために記載したものであって、結晶変換指数の算出のための前提とするものではない。例えば、ベース金属部材に積層したままX線が照射された場合に測定されるX線回折強度曲線には、ベース金属部材の材質によって生じる回折強度と絶縁層の材質によって生じる回折強度とが同時に含まれる。このような場合に本発明の各実施形態において求める結晶変換指数の値を算出するためには、ベース金属部材に起因する回折強度をバックグラウンドまたはベースラインの値として除去する補正を行うことができる。なお、そのような補正が必要となるかどうかは、ベース金属部材の材質によって生じる回折強度がいずれの回折角にピークを示すかに依存し、また、結晶変換指数に求める必要精度にも依存する。X線回折の測定は、ベース金属部材に加えて、回路パターンとなる金属層を形成した後に行うこともできる。
【0091】
さらに、本発明の態様として、絶縁層のX線回折強度を測定して結晶変換指数を算出することによる絶縁層の特定を含んで記載されているものがある。本出願に記載される絶縁層に関しては、各請求項に規定される限定を満たす限り任意の絶縁層が本発明の各態様における絶縁層に該当する。すなわち、本発明の各態様において絶縁層を特徴付けている事項の記載は、例えば製造される配線基板を対象にしたX線回折強度の測定や測定値からの結晶変換指数の算出を実施時に常に行うことを要求するものではない。まして、それらの記載は、配線基板の全数を対象にしてX線回折強度の測定を実施時に行うことを要求するものでもない。また、請求項に記載した判定条件による判定は、これと数学的に可換、等価または同値な判定条件による判定をも包含する。
【0092】
以上、本発明の実施形態について具体的に説明した。上述の各実施形態は、本出願の発明を説明するために記載されたものであり、本出願の発明の範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきものである。また、各実施形態の他の組合せを含む本発明の範囲内に存在する変形例もまた、特許請求の範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、低コストで製造し得る熱伝導率の高い絶縁層を備える配線基板を提供することにより、例えば半導体モジュールの放熱性を高めて、半導体装置の高性能化に大きく貢献するものである。
【符号の説明】
【0094】
1、31、51 ベース金属部材
2 絶縁層(再構成処理後)
2a 絶縁層(溶射したままのもの)
2A セラミックス粉末(原料粉末)
3、33、53 金属層
3A 金属粉末(原料粉末)
10 半導体回路素子
12 ボンデイングワイヤー
14 成型樹脂
16 リードフレーム
35 樹脂絶縁層
50 セラミックス絶縁板アセンブリ
54 接合用金属層
56 セラミックス絶縁板
57 ハンダ層
100、120、150、300、500 配線基板
200 半導体モジュール
M1、M2 マスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材となるベース金属部材と、
少なくとも酸化アルミニウムを含むセラミックス微粒子を原料粉末として溶射することにより前記ベース金属部材のいずれかの面に形成された絶縁層と
を備えてなる配線基板であって、
次式に従って算出される前記絶縁層の結晶変換指数が所定の値以上である
配線基板。
【数1】

ただし、
【数2】

【請求項2】
前記所定の値が0.6である
請求項1に記載の配線基板。
【請求項3】
前記絶縁層は、溶射によって形成された後に熱処理されている
請求項1または請求項2に記載の配線基板。
【請求項4】
前記絶縁層は、溶射によって形成された後に加圧処理されている
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の配線基板。
【請求項5】
前記絶縁層の上にパターン化された金属層をさらに備え、
前記絶縁層の加圧処理が、前記パターン化された金属層とともに前記絶縁層を加圧して行われる
請求項4に記載の配線基板。
【請求項6】
前記絶縁層の上に形成された金属層をさらに備え、
前記金属層は、銅、白金、タングステン、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタン、モリブデンからなる群から選ばれる少なくとも1種類の金属、または、当該群に含まれるいずれかの金属を少なくとも含む合金により形成される金属層である
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の配線基板。
【請求項7】
前記金属層は、金属箔を絶縁層に接合させた金属層である
請求項5または請求項6に記載の配線基板。
【請求項8】
前記金属層は、パターンをなすように溶射された金属層である
請求項5または請求項6に記載の配線基板。
【請求項9】
前記絶縁層の気孔率が20%以下である
請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の配線基板。
【請求項10】
前記絶縁層の厚さが50μm以上500μm以下である
請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の配線基板。
【請求項11】
基材となるベース金属部材のいずれかの面に少なくとも酸化アルミニウムを含むセラミックス微粒子を原料粉末として溶射することにより絶縁層を形成する絶縁層形成ステップ
を含み、
次式に従って算出される前記絶縁層の結晶変換指数が所定の値以上である
配線基板の製造方法。
【数3】

ただし、
【数4】

【請求項12】
前記所定の値が0.6である
請求項11に記載の配線基板の製造方法。
【請求項13】
前記絶縁層形成ステップを経て絶縁層が形成された基材に絶縁層の結晶構造を再構成する処理を施す膜質再構成ステップをさらに含む
請求項11または請求項12に記載の配線基板の製造方法。
【請求項14】
前記膜質再構成ステップが熱処理ステップを含む
請求項13に記載の配線基板の製造方法。
【請求項15】
前記膜質再構成ステップが、前記絶縁層が加圧される加圧処理ステップを含む
請求項13または請求項14に記載の配線基板の製造方法。
【請求項16】
前記絶縁層の上に金属層を形成する金属層形成ステップをさらに含み、
前記金属層は、前記金属層形成ステップにおいてパターン化されて形成されるか、または、前記金属層形成ステップより後にパターン化されており、
前記加圧処理ステップが、前記金属層形成ステップより後に、パターン化された金属層とともに前記絶縁層が加圧されるステップである
請求項15に記載の配線基板の製造方法。
【請求項17】
前記絶縁層の上に、銅、白金、タングステン、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタン、モリブデンからなる群から選ばれる少なくとも1種類の金属、または、当該群に含まれるいずれかの金属を少なくとも含む合金の金属層を形成する金属層形成ステップをさらに含む
請求項11乃至請求項15のいずれかに記載の配線基板の製造方法。
【請求項18】
前記金属層形成ステップは、金属箔を前記絶縁層上に接合させる処理を含む
請求項16または請求項17に記載の配線基板の製造方法。
【請求項19】
前記金属層形成ステップは、前記金属層がパターンをなすように前記絶縁層上に前記金属層を溶射する処理を含む
請求項16または請求項17に記載の配線基板の製造方法。
【請求項20】
前記絶縁層形成ステップにおいて形成された絶縁層の気孔率が20%以下になるようにされる
請求項11乃至請求項19のいずれかに記載の配線基板の製造方法。
【請求項21】
前記絶縁層形成ステップは、絶縁層を厚さ50μm以上500μm以下に形成するものである
請求項11乃至請求項20のいずれかに記載の配線基板の製造方法。
【請求項22】
請求項1乃至請求項10のいずれかに記載の配線基板、または、請求項11乃至請求項21のいずれかに記載の製造方法によって製造された配線基板を備える
半導体モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−129731(P2011−129731A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287185(P2009−287185)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】