説明

酸窒化アルミニウムでコーティングした物品および同物品を作製する方法

【課題】酸窒化アルミニウムでコーティングした物品および同物品を作製する方法を提供する。
【解決手段】基材および基材上のコーティング組織を含む、コーティング付き切削工具またはコーティング付き摩耗部品などのコーティング付き物品。コーティング組織は、チタン含有コーティング層と、チタン含有コーティング層上の酸窒化アルミニウムコーティング層とを有する。酸窒化アルミニウムは、六方晶系窒化アルミニウム型構造(空間群:P63mc)、立方晶系窒化アルミニウム型構造(空間群:Fm−3m)、および所望により非晶構造を有する相の混合物を含む。酸窒化アルミニウムコーティング層は、約20原子%〜約50原子%の量のアルミニウムと、約40原子%〜約70原子%の量の窒素と、約1原子%〜約20原子%の量の酸素からなる組成を有する。コーティング付き物品を作製する方法も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、コーティング付き切削工具、コーティング付き超硬ドリル、およびエンドミルなどのコーティング付き物品に関する。本発明はさらに、例えば、弁本体(valve body)、パンチおよびダイなどのコーティング付き摩耗部品に関する。より具体的には、本発明は、基材と基材上のコーティング組織とを有する、切削工具または摩耗部品などのコーティング付き物品に関する。コーティング組織は、化学蒸着(CVD)により堆積した酸窒化アルミニウムのコーティング層を含む。コーティング組織は、通常1つまたは複数の他のコーティング層をさらに含む。
【0002】
本発明はまた、酸窒化アルミニウムコーティング層を含む、切削工具または摩耗部品などのコーティング付き物品を作製する方法に関する。その方法は、基材を用意し、次いで、化学蒸着によりコーティング組織を堆積させる。コーティング組織は、酸窒化アルミニウムの少なくとも1つのコーティング層を含む。ガス混合物は、以下のガス、すなわち、水素、窒素、三塩化アルミニウム、二酸化炭素、塩化水素、アンモニア、ならびに、所望により、一酸化炭素および/またはアルゴンを含む。
【背景技術】
【0003】
従来からのものとして、フリードクルップ(Fried Krupp)の特許文献1では、切削インサートは、金属酸窒化物のコーティング層を含むコーティング組織を有し、その金属は、アルミニウム、チタン、またはジルコニウムとしてもよい。一例では、硬質材料からなる、割り出し可能な切削インサートが、TiClおよびCHのガス混合物からの炭化チタン層でコーティングされた。次に、炭化チタンコーティング層が、窒素含有量4原子%のAl2.80.2の層でコーティングされた。ガス混合物は、H50%、N46.6%、NH0.4%、CO2%、およびAlCl1%を含んでいた。1ページ、51〜59行を参照されたい。
【0004】
サリン(Sarin)の特許文献2では、セラミック基材がその上にコーティング組織を有している。コーティング層の1つは、組成的に勾配を持つコーティングであるAlを含む。サリン(Sarin)の特許によれば(5欄、21〜39行を参照のこと)、酸窒化アルミニウムコーティング層は、下記の反応を同時に行うことで堆積させてもよい。
(1)AlCl(g)+NH(g)(R)AlN(s)+3HCl(g)
(2)2AlCl(g)+CO+3H(R)Al(s)+6HCl(g)
この例において、酸窒化アルミニウムコーティング層は傾斜(graded)組成を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】英国特許出願公開第2 038 370 A号明細書
【特許文献2】米国特許第4,950,558号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の製品が酸窒化アルミニウムのCVDコーティング層を含んでいたとしても、性能特性を改善した酸窒化アルミニウムコーティング層を含むコーティング組織を有する、切削工具または摩耗部品などのコーティング付き物品を提供する必要がまだある。そのようなコーティング付き切削工具または摩耗部品は、低減された引張り応力から適度な圧縮応力までを有する酸窒化アルミニウムコーティング層を示す。低減された引張り応力状態または適度な圧縮応力状態は、低い熱膨張特性、良好な熱安定性、または高い硬度のうちの1つまたは複数によって生じ得る。
【0007】
酸窒化アルミニウムのコーティング層を含むコーティング組織を有する、コーティング付き切削工具またはコーティング付き摩耗部品などの改良されたコーティング物品であって、切削インサートおよび摩耗部品は改善された性能特性を有するカッティング部品を提供することが非常に望ましい。これらの改善された性能特性には、強化された耐摩耗性、および強化された耐熱衝撃性が含まれる。
【0008】
さらに、低減された引張り応力から適度な圧縮応力までを示す酸窒化アルミニウムコーティング層を有する、コーティング付き切削工具またはコーティング付き摩耗部品などのコーティング付き物品を提供することが非常に望ましい。低減された引張り応力から適度な圧縮応力までを有する酸窒化アルミニウムコーティング層を設けることによって、コーティング付き物品は、クラック成長に対する抵抗性を示す。この種のコーティングでは、引張り応力状態にあることでクラック成長が助長され、圧縮応力状態にあることでクラックおよびクラック成長が回避される。クラックおよびクラック成長の回避は、断続切削のような用途において特に有益である。
【0009】
さらに、低い熱膨張特性を有する、すなわち、コーティングの表面に見られる微小クラックのない酸窒化アルミニウムコーティング層を有する、コーティング付き切削工具またはコーティング付き摩耗部品などのコーティング付き物品を提供することが非常に望ましい。量的な意味で、これは、30倍の光学顕微鏡で見て、コーティングのクレータ断面において観察されるクラックの発生がゼロであることを意味する。低い熱膨張特性を有する酸窒化アルミニウムコーティング層を設けることにより、コーティング付き物品は熱クラックの発生がなくなり、これは、切削工具の耐熱衝撃性を改善するのに有益である。
【0010】
さらに、良好な熱安定性を示す、すなわち、真空中において、1200℃で2時間にわたり熱処理した後もコーティングがまだ存在する酸窒化アルミニウムコーティング層を有する、コーティング付き切削インサートまたはコーティング付き摩耗部品などのコーティング付き物品を提供することが非常に望ましい。これは、X線回折によって検出可能な相変態(phase transformation)がないことを意味する。良好な熱安定性を有する酸窒化アルミニウムコーティング層を設けることにより、コーティング物品は改善された耐摩耗性を示す。
【0011】
最後に、高い硬度を示す、すなわち、ISO 3878により測定した場合に、少なくとも約2200に等しい硬度値HV0.5を示す酸窒化アルミニウムコーティング層を有する、コーティング付き切削インサートまたはコーティング付き摩耗部品などのコーティング付き物品を提供することが非常に望ましい。高い硬度を有する酸窒化アルミニウムコーティング層を設けることにより、コーティング付き物品は改善された耐摩耗性を示す。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一形態では、本発明は、コーティング付き物品を作製する方法であり、その方法は、基材を用意するステップと、ガス混合物から酸窒化アルミニウムコーティング層を堆積させるステップとを含み、ガス混合物は、ガス混合物のうちの約30.0体積%〜約65.0体積%の量の窒素と、ガス混合物のうちの約0.7体積%〜約1.3体積%の量の三塩化アルミニウムと、ガス混合物のうちの約1.0体積%〜約2.0体積%の量のアンモニアと、ガス混合物のうちの約0.1体積%〜約1.5体積%の量の二酸化炭素と、ガス混合物のうちの約1.5体積%〜約4.5体積%の量の塩化水素と、所望により、ガス混合物のうちの約0体積%〜約2.0体積%の量の一酸化炭素と、所望により、ガス混合物のうちの約0体積%〜約25体積%の量のアルゴンと、ガス混合物の残り分の水素とを含む。
【0013】
別の形態では、本発明はコーティング付き物品である。コーティング付き物品は、基材表面を有する基材と、基材上のコーティング組織とを有する。コーティング組織は、チタン含有コーティング層と、チタン含有コーティング層上の酸窒化アルミニウムコーティング層とを含む。酸窒化アルミニウムは、六方晶系窒化アルミニウム型構造(空間群:P63mc)、立方晶系窒化アルミニウム型構造(空間群:Fm−3m)、および所望により非晶構造を有する相の混合物を含む。酸窒化アルミニウムコーティング層は、約20原子%〜約50原子%の量のアルミニウムと、約40原子%〜約70原子%の量の窒素と、約1原子%〜約20原子%の量の酸素とを含む組成を有する。
【0014】
さらに別の形態では、本発明は、基材を用意するステップと、ガス混合物から酸窒化アルミニウムコーティング層を堆積させるステップとを含む方法によって作製されるコーティング付き物品であり、ガス混合物は、ガス混合物のうちの約30.0体積%〜約65.0体積%の量の窒素と、ガス混合物のうちの約0.7体積%〜約1.3体積%の量の三塩化アルミニウムと、ガス混合物のうちの約1.0体積%〜約2.0体積%の量のアンモニアと、ガス混合物のうちの約0.1体積%〜約1.5体積%の量の二酸化炭素と、ガス混合物のうちの約1.5体積%〜約4.5体積%の量の塩化水素と、所望により、ガス混合物のうちの約0体積%〜約2.0体積%の量の一酸化炭素と、所望により、ガス混合物のうちの約0体積%〜約25体積%の量のアルゴンと、ガス混合物の残り分の水素とを含む。
【0015】
本発明は下記の実施形態を含むが、本発明は下記の実施形態に限定されるものではない。
<1>コーティング付き物品を作製する方法であって、
基材を用意するステップと、
ガス混合物から酸窒化アルミニウムコーティング層を堆積させるステップと、
を含み、前記ガス混合物は、
前記ガス混合物のうちの約30.0体積%〜約65.0体積%の量の窒素と、
前記ガス混合物のうちの約0.5体積%〜約1.3体積%の量の三塩化アルミニウムと、
前記ガス混合物のうちの約1.0体積%〜約2.0体積%の量のアンモニアと、
前記ガス混合物のうちの約0.1体積%〜約1.6体積%の量の二酸化炭素と、
前記ガス混合物のうちの約1.5体積%〜約4.5体積%の量の塩化水素と、
所望により、前記ガス混合物のうちの約0体積%〜約2.0体積%の量の一酸化炭素と、
所望により、前記ガス混合物のうちの約0体積%〜約25体積%の量のアルゴンと、
残り分としての水素と、
を含む、方法。
【0016】
<2> 前記堆積ステップは、約750℃〜約1020℃の温度で行われる、<1>に記載の方法。
<3> 前記堆積ステップは、約850℃〜約950℃の温度で行われる、<1>に記載の方法。
<4> 前記堆積ステップは、約10mbar〜約900mbarの圧力で行われる、<1>に記載の方法。
<5> 前記堆積ステップは、約50mbar〜約100mbarの圧力で行われる、<1>に記載の方法。
【0017】
<6> 前記ガス混合物は、
前記ガス混合物のうちの約30体積%〜約40体積%の量の窒素と、
前記ガス混合物のうちの約0.5体積%〜約1.3体積%の量の三塩化アルミニウムと、
前記ガス混合物のうちの約1.0体積%〜約2.0体積%の量のアンモニアと、
前記ガス混合物のうちの約0.2体積%〜約1.5体積%の量の二酸化炭素と、
前記ガス混合物のうちの約1.5体積%〜約3.0体積%の量の塩化水素と、
所望により、前記ガス混合物のうちの約0体積%〜約2.0体積%の量の一酸化炭素と、
所望により、前記ガス混合物のうちの約0体積%〜約25体積%の量のアルゴンと、
残り分としての水素と、
を含む、<1>に記載の方法。
<7> 前記ガス混合物は、前記ガス混合物のうちの約0.2体積%〜約0.6体積%の量の二酸化炭素を含む、<6>に記載の方法。
<8> 前記ガス混合物は、前記ガス混合物のうちの約0.7体積%〜約1.5体積%の量の二酸化炭素を含む、<6>に記載の方法。
<9> 前記ガス混合物は、前記ガス混合物のうちの約0.5体積%〜約1.3体積%の量の二酸化炭素を含む、<6>に記載の方法。
<10> 前記ガス混合物は、
前記ガス混合物のうちの約40体積%〜約50体積%の量の窒素と、
前記ガス混合物のうちの約0.6体積%〜約1.0体積%の量の三塩化アルミニウムと、
前記ガス混合物のうちの約1.0体積%〜約1.6体積%の量のアンモニアと、
前記ガス混合物のうちの約0.6体積%〜約1.4体積%の量の二酸化炭素と、
前記ガス混合物のうちの約1.5体積%〜約2.5体積%の量の塩化水素と、
所望により、前記ガス混合物のうちの約0体積%〜約2.0体積%の量の一酸化炭素と、
所望により、前記ガス混合物のうちの約0体積%〜約25体積%の量のアルゴンと、
残り分としての水素と、
を含む、<1>に記載の方法。
【0018】
<11> 前記ガス混合物は、
前記ガス混合物のうちの約60体積%〜約65体積%の量の窒素と、
前記ガス混合物のうちの約0.6体積%〜約1.0体積%の量の三塩化アルミニウムと、
前記ガス混合物のうちの約1.0体積%〜約1.6体積%の量のアンモニアと、
前記ガス混合物のうちの約0.6体積%〜約1.6体積%の量の二酸化炭素と、
前記ガス混合物のうちの約1.5体積%〜約2.5体積%の量の塩化水素と、
所望により、前記ガス混合物のうちの約0体積%〜約2.0体積%の量の一酸化炭素と、
所望により、前記ガス混合物のうちの約0体積%〜約25体積%の量のアルゴンと、
残り分としての水素と、
を含む、<1>に記載の方法。
<12> 前記ガス混合物は、
前記ガス混合物のうちの約60体積%〜約65体積%の量の窒素と、
前記ガス混合物のうちの約0.6体積%〜約1.0体積%の量の三塩化アルミニウムと、
前記ガス混合物のうちの約1.0体積%〜約1.6体積%の量のアンモニアと、
前記ガス混合物のうちの約0.6体積%〜約1.6体積%の量の二酸化炭素と、
前記ガス混合物のうちの約2.5体積%〜約3.6体積%の量の塩化水素と、
所望により、前記ガス混合物のうちの約0体積%〜約2.0体積%の量の一酸化炭素と、
所望により、前記ガス混合物のうちの約0体積%〜約25体積%の量のアルゴンと、
残り分としての水素と、
を含む、<1>に記載の方法。
【0019】
<13> 前記酸窒化アルミニウムは、六方晶系窒化アルミニウム型構造(空間群:P63mc)、立方晶系窒化アルミニウム型構造(空間群:Fm−3m)、および所望により非晶構造を有する相の混合物を含む、<1>に記載の方法。
<14> 前記酸窒化アルミニウムは、約20原子%〜約50原子%の量のアルミニウムと、約40原子%〜約70原子%の量の窒素と、約1原子%〜約20原子%の量の酸素とを含む組成を有する、<1>に記載の方法。
<15> 前記酸窒化アルミニウムは、約32原子%〜約38原子%の量のアルミニウムと、約63原子%〜約67原子%の量の窒素と、約4原子%〜約6原子%の量の酸素とを含む組成を有する、<1>に記載の方法。
<16> 前記基材は、切刃を有する切削工具基材を含み、前記コーティング付き物品はコーティング付き切削工具である、<1>に記載の方法。
<17> 前記基材は、摩耗性表面を有する摩耗部品基材を含み、前記コーティング付き物品はコーティング付き摩耗部品である、<1>に記載の方法。
【0020】
<18> 基材表面を有する基材と、前記基材上のコーティング組織とを含むコーティング付き物品であって、
前記コーティング組織は、
チタン含有コーティング層と、
前記チタン含有コーティング層上の酸窒化アルミニウムコーティング層と、
を含み、
前記酸窒化アルミニウムは、六方晶系窒化アルミニウム型構造(空間群:P63mc)、立方晶系窒化アルミニウム型構造(空間群:Fm−3m)、および所望により非晶構造を有する相の混合物を含み、
前記酸窒化アルミニウムコーティング層は、約20原子%〜約50原子%の量のアルミニウムと、約40原子%〜約70原子%の量の窒素と、約1原子%〜約20原子%の量の酸素とを含む組成を有する、コーティング付き物品。
【0021】
<19> 前記チタン含有コーティング層は、窒化チタンおよび炭窒化チタンからなる群から選択される、<18>に記載のコーティング付き物品。
<20> アルミナのコーティング層が前記酸窒化アルミニウムコーティング層の上にある、<18>に記載のコーティング付き物品。
<21> 窒化アルミニウムのコーティング層が前記酸窒化アルミニウムコーティング層の上にある、<18>に記載のコーティング付き物品。
<22> チタンオキシカーボナイトライドのコーティング層が前記酸窒化アルミニウムコーティング層の上にある、<18>に記載のコーティング付き物品。
【0022】
<23> 前記酸窒化アルミニウムは、約32原子%〜約38原子%の量のアルミニウムと、約63原子%〜約67原子%の量の窒素と、約4原子%〜約6原子%の量の酸素とを含む組成を有する、<18>に記載のコーティング付き物品。
<24> 前記基材は、切刃を有する切削工具基材を含み、前記コーティング付き物品はコーティング付き切削工具である、<18>に記載のコーティング付き物品。
<25> 前記基材は、摩耗性表面を有する摩耗部品基材を含み、前記コーティング付き物品はコーティング付き摩耗部品である、<18>に記載のコーティング付き物品。
【0023】
<26> 基材を用意するステップと、
ガス混合物から酸窒化アルミニウムコーティング層を堆積させるステップと、
を含む方法によって作製されるコーティング付き切削工具または摩耗部品であって、前記ガス混合物は、
前記ガス混合物のうちの約30.0体積%〜約65.0体積%の量の窒素と、
前記ガス混合物のうちの約0.5体積%〜約1.3体積%の量の三塩化アルミニウムと、
前記ガス混合物のうちの約1.0体積%〜約2.0体積%の量のアンモニアと、
前記ガス混合物のうちの約0.1体積%〜約1.6体積%の量の二酸化炭素と、
前記ガス混合物のうちの約1.5体積%〜約4.5体積%の量の塩化水素と、
所望により、前記ガス混合物のうちの約0体積%〜約2.0体積%の量の一酸化炭素と、
所望により、前記ガス混合物のうちの約0体積%〜約25体積%の量のアルゴンと、
残り分としての水素と、
を含む、コーティング付き切削工具または摩耗部品。
【0024】
以下は、この特許出願の一部を形成する図面についての簡単な説明である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】典型的なコーティング切削インサートの等角図であり、下にある基材を露出させるためにコーティング組織の一部が除去されている。
【図2】コーティング組織の特定の一実施形態の概略的な断面図である。
【図3】コーティング組織の第2の特定の実施形態の概略的な断面図である。
【図4】コーティング組織の第3の特定の実施形態の概略的な断面図である。
【図5】コーティング組織の第4の特定の実施形態の概略的な断面図である。
【図6】実施例1の酸窒化アルミニウムコーティング層の表面の顕微鏡写真(倍率は10,000倍)である。
【図7】実施例1のコーティング組織を断面で示す顕微鏡写真(倍率は15,000倍)である。
【図8】実施例1のコーティングの順番を示す断面の顕微鏡写真である。
【図9】実施例1の酸窒化アルミニウムコーティング層の斜入射X線回折パターンであり、入射角は1°、3°、5°、7°、および9°である。
【図10】実施例2のコーティングの順番を示す断面の顕微鏡写真である。
【図11】実施例3のコーティングの順番を示す断面の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図面を参照すると、図1は全体を30として示した典型的なコーティング付き切削インサート(コーティング付き物品)の等角図である。コーティング付き切削インサート30は、コーティング層の一部が除去されたために見える基材32と、コーティング組織34とを有する。コーティング付き切削インサート30は、逃げ面38およびすくい面40を有し、切刃42が、逃げ面38とすくい面40との合わせ目にある。コーティング付きの切削インサート30は、切り屑を形成しながらの材料除去作業で使用するのに適している。
【0027】
切り屑を形成しながらの材料除去作業では、切削インサートは加工物と係合して、通常は切り屑の形態で加工物から材料を除去する。通常は切り屑の形態で加工物から材料を除去する材料除去作業は、切り屑形成材料除去作業として当業者には公知である。モルトレヒト(Moltrecht)著、書籍「機械工作実習(Machine Shop Practice)」(インダストリアルプレス社(Industrial Press Inc.)、ニューヨーク州、ニューヨーク(1981))は、199〜204ページに、特に、切り屑形成および様々な種類の切り屑(すなわち、連続型切り屑、不連続型切り屑、セグメント型切り屑)についての説明を提示している。モルトレヒトは、199〜200ページで(一部抜粋)「切削工具が最初に金属と接触すると、切削工具は切刃の前方の金属を圧縮する。工具が前進すると、切刃の前方の金属には、それが内向きに剪断する部分に向かって圧力がかかり、剪断面と呼ばれる平面に沿って金属の結晶粒を塑性的に変形および流動させる…切削される金属のタイプが、鋼などの延性のあるものの場合、切り屑は、連続するリボンの形ではがれる…」と書いている。モルトレヒトは、続いて、連続型切り屑およびセグメント型切り屑の形成について説明している。
【0028】
別の例として、「ASTEツールエンジニアハンドブック(ASTE Tool Engineers Handbook)」、マグロウヒルブック社(McGraw Hill Book Co.)、ニューヨーク州、ニューヨーク(1949)の302〜315ページに見られる文は、金属切削加工時の切り屑形成について長文で記載している。303ページで、ASTEハンドブックは、切り屑形成と、旋削加工、フライス加工、およびドリル加工などの機械加工とを明瞭に関連付けている。以下の特許文献、すなわち、(ケナメタル社(Kennametal Inc.)に譲渡された)バタグリア(Battaglia)らの米国特許第5,709,907号明細書、(ケナメタル社に譲渡された)バタグリアらの米国特許第5,722,803号明細書、および(ケナメタル社に譲渡された)オレス(Oles)らの米国特許第6,161,990号明細書は、材料除去作業時の切り屑の形成について説明している。
【0029】
上記のように、コーティング付き物品は、コーティング付き摩耗部品も包含する。コーティング付き摩耗部品には、限定するものではないが、以下の部品、すなわち、弁本体、パンチおよびダイが含まれる。
【0030】
特定のコーティング組織が図2〜5に示されている。図2は、コーティング付き切削インサート50の断面を概略的な形態で示している。これらの図面がコーティング付き切削インサート(または切削工具)を示しているとしても、当然ながら、コーティング組織は摩耗部品に適用可能であることが理解されるべきである。コーティング付き切削インサート50は、基材52およびその上のコーティング組織54を有する。コーティング組織54は、窒化チタンのベースコーティング層56と、ベースコーティング層上の酸窒化アルミニウムのコーティング層58とを含む。図3は、コーティング付き切削インサート60の断面を概略的な形態で示している。コーティング付き切削インサート60は、基材62およびその上のコーティング組織64を有する。コーティング組織64は、窒化チタンのベースコーティング層66と、ベースコーティング層上の酸窒化アルミニウムの中間コーティング層68とを含む。κ酸化アルミニウムの外側コーティング層69は、酸窒化アルミニウムコーティング層の上にある。
【0031】
図4は、コーティング付き切削インサート70の断面を概略的な形態で示している。この図面がコーティング付き切削インサート(または切削工具)を示しているとしても、当然ながら、コーティング組織は摩耗部品に適用可能であることが理解されるべきである。コーティング付き切削インサート70は、基材72およびその上のコーティング組織74を有する。コーティング組織74は、窒化チタンのベースコーティング層75と、MT(中温)炭窒化チタンの中間コーティング層76とを含む。酸窒化アルミニウムコーティング層77は、中間コーティング層76の上にある。窒化アルミニウムの外側コーティング層78は、酸窒化アルミニウムコーティング層77の上にある。
【0032】
図5は、コーティング付き切削インサート80の断面を概略的な形態で示している。この図面がコーティング付き切削インサート(または切削工具)を示しているとしても、当然ながら、コーティング組織は摩耗部品に適用可能であることが理解されるべきである。コーティング付き切削インサート80は、基材82およびその上のコーティング組織83を有する。コーティング組織83は、窒化チタンのベースコーティング層84と、ベースコーティング層上の酸窒化アルミニウムのコーティング層85とを含む。チタンオキシカーボナイトライドのコーティング層87は、酸窒化アルミニウムコーティング層85の上にある。外側コーティング層88はαアルミナであり、チタンオキシカーボナイトライドコーティング層の上にある。
【0033】
上記のように、酸窒化アルミニウムコーティング層は、化学蒸着(CVD)により堆積する。酸窒化アルミニウムコーティング層を堆積させるための基本プロセスパラメータ(例えば、温度、圧力、およびガス組成)が、下記の表Iに記載されている。温度および圧力に関して、広い方の範囲と、狭い方の好ましい範囲とがある。ガス組成は、ガス混合物の中の体積%で表されている。
【表1】


6つの異なる酸窒化アルミニウムコーティング層を堆積させるのに使用されるガス混合物の(体積%で表した)特定の組成、ならびに圧力および温度が下記の表IIに記載されている。
【表2】


上記のように、組成はガス混合物中の体積%で表されている。温度は℃(摂氏温度)で表され、圧力はミリバール(mbar)で表されている。
【実施例】
【0034】
酸窒化アルミニウムコーティング層を堆積させるステップを含む、コーティング付き切削インサートを形成する方法の特定の例、すなわち実施例1〜4が以下に記載されている。特定の例は、一酸化炭素もアルゴンも含まないが、これらのガスは、本発明のプロセスに有用である。この点について、反応収支を補って酸窒化アルミニウムコーティング層の堆積速度を落とすために、一酸化炭素を使用することができる。堆積時の材料の高い粘性により、酸窒化アルミニウムコーティング層を均一な厚さで分布させるために、アルゴンを使用することができる。一酸化炭素およびアルゴンは、酸窒化アルミニウムコーティング層の化学組成に影響を及ぼさない。
【0035】
実施例1は、上に本発明のTiN−AlONコーティング組織を有する基材を含むコーティング付き切削インサートである。基材は、WCと、6.1重量%のCoおよび0.15重量%のバナジウムとを含む。この基材は、次の特性を有する、すなわち、炭化タングステンの平均結晶粒径が約1μm〜約2μmであり、多孔度がA02、B02、C00であり、比重が約14.7〜約15.1g/cmであり、ロックウェルA硬度が約91.5〜約92.3であり、磁気飽和が9.9〜11.7μTm/kgであり、保磁力が約200〜約243エルステッドである。
【0036】
コーティング組織は、厚さが約0.5μmである窒化チタンのベースコーティング層を含む。当然ながら、窒化チタンコーティング層の厚さは、約0.1μm〜約3μmの範囲をとることもできることが理解されるべきである。酸窒化アルミニウムコーティング層は、ベースコーティング層の上にある。酸窒化アルミニウムコーティング層の厚さは5μmである。当然ながら、酸窒化アルミニウムコーティング層の厚さは、約3μm〜約10μmの範囲をとることもできることが理解されるべきである。実施例1のコーティング付き切削インサートを製造する特定のプロセスに対する処理の詳細(ガス組成、濃度、継続時間、温度、および圧力)が下記の表IIIに記載されている。
【表3】


表IIの例Bに記載した特定のパラメータを使用して、酸窒化アルミニウムコーティング(AION)層を堆積させた。
【0037】
酸窒化アルミニウムコーティング層の組成をグロー放電スペクトル(GDOES)から求めた。具体的な手段としてはGDA750装置(スペクトラムアナリティック社(Spectrum Analytic Ltd.)、ドイツ、ホーフ(Hof))がある。スポット径を1.0mmで使用した。分析を行うために、スパッタリングにより、上面から基材側に0.5μm刻みで材料を除去した。平均組成(原子%)は、Al(原子%)=35%、N(原子%)=65%、およびO(原子%)=5%であった。
【0038】
図6は、実施例1の酸窒化アルミニウムコーティング層の表面形態を示す顕微鏡写真である。図6を参照すると、コーティングは、ドーム形の超微細結晶粒群で構成されている。図7は、コーティング組織を断面で示す顕微鏡写真である。図7を参照すると、断面の平滑な劈開が、コーティング層の超微細結晶粒構造をさらに示している。図8は、クレータ状のコーティング断面を示す顕微鏡写真である。図8を参照すると、窒化チタンコーティング層および酸窒化アルミニウムコーティング層のコーティング順を見ることができる。30倍の光学顕微鏡での目視検査によると、酸窒化アルミニウムコーティング層内に、見て分かる微細クラックは何らなかった。
【0039】
図9は、実施例1の酸窒化アルミニウムコーティング層のX線回折(XRD)パターンである。X線回折結果は、酸窒化アルミニウムが、六方晶系窒化アルミニウム型構造(空間群:P63mc)、立方晶系窒化アルミニウム型構造(空間群:Fm−3m)を有する相の混合物を含むことを示している。XRD結果はまた、コーティング内に非晶質相があることを示している。XRD結果に関して、ブラッグ・ブレンターノ(Bragg−Brentano)型斜入射システム、およびNiフィルタで取り出したX線のCu Kα線(λ0.15478nm)を用いる回折計タイプD5000(シーメンス)を使用した。XRD分析用のパラメータを図9に記載している。
【0040】
実施例2は、上に本発明のTiN−AlON−κ−Alコーティング組織を有する基材を含むコーティング付き切削インサートである。基材は、WCと、12.2重量%のCo、ならびに含有量の総計が2.3重量%になるタンタル、ニオブ、およびバナジウムとを含む。この基材は、次の特性を有する、すなわち、炭化タングステンの平均結晶粒径が約1μm〜約3μmであり、多孔度がA02、B02、C00であり、比重が約14〜約14.4g/cmであり、ロックウェルA硬度が約89〜約90であり、磁気飽和が19.5〜23.3μTm/kgであり、保磁力が約136〜約166エルステッドである。
【0041】
本発明のコーティング組織は、厚さが0.5μmである窒化チタンのベースコーティング層を含む。当然ながら、窒化チタンコーティング層の厚さは、約0.1μm〜約3μmの範囲をとることもできることが理解されるべきである。コーティング組織は、厚さが4μmである酸窒化アルミニウムコーティング層をベースコーティング層の上にさらに含む。当然ながら、酸窒化アルミニウムコーティング層の厚さは、約3μm〜約10μmの範囲をとることもできることが理解されるべきである。最後に、コーティング組織は、厚さが3μmであるκ−酸化アルミニウムのコーティング層を酸窒化アルミニウムコーティング層の上に含む。当然ながら、κ−酸化アルミニウムコーティング層の厚さは、約2μm〜約6μmの範囲をとることもできることが理解されるべきである。実施例2のコーティング付き切削インサートを製造する特定のプロセスに対する処理の詳細(ガス組成、濃度、継続時間、温度、および圧力)が下記の表IVに記載されている。
【表4】


表IIの例Bに記載した特定のパラメータを使用して、酸窒化アルミニウムコーティング層(AION)を堆積させた。
【0042】
図10は、実施例2のコーティング組織をクレータ状の断面で示す顕微鏡写真である。図10を参照すると、窒化チタンコーティング層、酸窒化アルミニウムコーティング層、および酸化アルミニウムコーティング層のコーティング順を見ることができる。30倍の光学顕微鏡での目視検査によると、酸窒化アルミニウムコーティング層内に、見て分かる微細クラックは何らない。
【0043】
実施例2のコーティング付き切削インサートの切削性能を従来のコーティング付き切削インサートの切削性能と比較するために、金属切削試験を行った。従来のコーティング付き切削インサートは、WCと、12.2重量%のCo、ならびに含有量の総計が2.3重量%になるタンタル、ニオブ、およびバナジウムとからなる基材を含む。この基材は、次の特性を有する、すなわち、炭化タングステンの平均結晶粒径が約1μm〜約3μmであり、多孔度がA02、B02、C00であり、比重が約14〜約14.4g/cmであり、ロックウェルA硬度が約89〜約90であり、磁気飽和が19.5〜23.3μTm/kgであり、保磁力が約136〜約166エルステッドである。
【0044】
従来のコーティング切削インサートのコーティング組織は、TiNのベースコーティング層(厚さ1μm)、MT(中温)−TiCNの中間コーティング層(厚さ4μm)、およびκ−アルミナの外側コーティング層(厚さ2μm)を含む。フライス加工試験の切削パラメータを下記に記載する。
加工物:42 Cr Mo 4 Vインサート:HNGJ0905ANSN−GD
切削速度(m/分):250
軸方向の切込み深さ(mm):2.0
半径方向の切込み深さ(mm):120
送り速度(mm/歯):0.3
冷却液=有り
金属切削試験の結果を表Vに記載する。結果は不良になるまでを分で記載し、不良モードおよび基準は、目視検査で判断した切刃の微小欠けとする。
【表5】


切刃の微小欠けが熱クラックによって引き起こされると分かった。上記結果の平均から判断すると、これらの結果は、実施例2の本発明のコーティング付き切削インサートの性能が、従来のコーティング付き切削インサートと比較して30パーセント(30%)改善されたことを示している。
【0045】
実施例3は、上に本発明のTiN−(MT)TiCN−AlON−AlNコーティング組織を有する基材を含むコーティング付き切削インサートである。基材は、WCと、6.1重量%のCoおよび0.15重量%のバナジウムとを含む。この基材は、次の特性を有する、すなわち、炭化タングステンの平均結晶粒径が約1μm〜約2μmであり、多孔度がA02、B02、C00であり、比重が約14.7〜約15.1g/cmであり、ロックウェルA硬度が約91.5〜約92.3であり、磁気飽和が9.9〜11.7μTm/kgであり、保磁力が約200〜約243エルステッドである。
【0046】
本発明のコーティング組織は、厚さが0.5μmである窒化チタンのベースコーティングを含む。当然ながら、コーティング層の厚さは、約0.1μm〜約3μmの範囲をとることもできることが理解されるべきである。コーティング組織は、厚さが3.5μmであるMT−炭窒化チタンの中間コーティング層をベースコーティング層の上にさらに有する。当然ながら、MT−中間炭窒化チタンコーティング層の厚さは、約2μm〜約5μmの範囲をとることもできる。コーティング組織は、厚さが2.5μmである酸窒化アルミニウムコーティング層を中間コーティング層の上にさらに含む。当然ながら、酸窒化アルミニウムコーティング層の厚さは、約2μm〜約5μmの範囲をとることもできることが理解されるべきである。最後に、コーティング組織は、酸窒化アルミニウムコーティング層上に窒化アルミニウムのコーティング層を有する。窒化アルミニウムのコーティング層は、厚さが0.5μmであり、窒化アルミニウムコーティングの厚さは、約0.3μm〜約2μmの範囲をとることもできる。
【0047】
実施例3のコーティング付き切削インサートを製造する特定のプロセスに対する処理の詳細(ガス組成、濃度、継続時間、温度、および圧力)が下記の表VIに記載されている。
【表6】


表IIの例Bに記載した特定のパラメータを使用して、酸窒化アルミニウムコーティング層(AION)を堆積させた。
【0048】
図11は、実施例3のコーティング組織をクレータ状の断面で示す顕微鏡写真である。図11を参照すると、窒化チタンコーティング層、MT−炭窒化チタンコーティング層、酸窒化アルミニウムコーティング層、および窒化アルミニウムコーティング層のコーティング順を見ることができる。30倍の光学顕微鏡での目視検査によると、酸窒化アルミニウムコーティング層内に、見て分かる微細クラックは何らなかった。
【0049】
実施例4は、上に本発明のTiN−AlON−TiOCN−αAlコーティング組織を有する基材を含むコーティング付き切削インサートである。基材は、WCと、6.1重量%のCoおよび0.15重量%のバナジウムとを含む。この基材は、次の特性を有する、すなわち、炭化タングステンの平均結晶粒径が約1μm〜約2μmであり、多孔度がA02、B02、C00であり、比重が約14.7〜約15.1g/cmであり、ロックウェルA硬度が約91.5〜約92.3であり、磁気飽和が9.9〜11.7μTm/kgであり、保磁力が約200〜約243エルステッドである。
【0050】
本発明のコーティング組織は、厚さが2μmである窒化チタンのベースコーティングを含む。当然ながら、窒化チタンコーティング層の厚さは、約1.5μm〜約3.0μmの範囲をとることもできることが理解されるべきである。コーティング組織は、厚さが6.0μmである中間酸窒化アルミニウムコーティング層をベースコーティング層の上にさらに含む。当然ながら、中間酸窒化アルミニウムコーティング層の厚さは、約4.5μm〜約8.0μmの範囲をとることもできることが理解されるべきである。そのうえ、コーティング組織は、厚さが0.5μmである酸窒化チタン炭素のコーティング層を酸窒化アルミニウムコーティング層の上にさらに有する。当然ながら、酸窒化チタン炭素コーティング層の厚さは、約0.2μm〜約1.0μmの範囲をとることもできることが理解されるべきである。最後に、コーティング組織は、厚さが3.0μmである、α−酸化アルミニウムの外側コーティング層をTiOCNコーティング層の上に有する。当然ながら、α−酸化アルミニウムコーティング層の厚さは、約2.0μm〜約5.0μmの範囲をとることもできることが理解されるべきである。
【0051】
実施例4のコーティング付き切削インサートを製造する特定のプロセスに対する処理の詳細(ガス組成、濃度、継続時間、温度、および圧力)が下記の表VIIに記載されている。
【表7】


表IIの例Bに記載した特定のパラメータを使用して、酸窒化アルミニウムコーティング層(AION)を堆積させた。
【0052】
本発明が、酸窒化アルミニウムのコーティング層を含むコーティング組織を有する改良されたコーティング切削インサートを提供することがこのように明らかになり、切削インサートは改善された性能特性を有する。
【0053】
本発明が、低減された引張り応力から圧縮応力までを示す酸窒化アルミニウムコーティング層を有するコーティング付き切削インサートを提供することも明らかである。コーティング層に引張り応力があるとクラック成長が助長されるため、引張り応力を低減することは、クラックが成長する傾向を軽減するのに寄与する。圧縮応力が存在することで、クラック形成およびクラック成長を回避することが容易になる。クラック形成およびクラック成長の回避は、断続切削用途に対して特に重要である。
【0054】
さらに、本発明が、熱膨張性の低い酸窒化アルミニウムコーティング層を有するコーティング付き切削インサートを提供することは明らかである。熱膨張性の低い酸窒化アルミニウムコーティング層は、圧縮応力状態を示す酸窒化アルミニウムコーティング層の下のコーティング層に相当する。
【0055】
さらに、本発明が、良好な熱安定性を示す酸窒化アルミニウムコーティング層を有するコーティング付き切削インサートを提供することは明らかである。コーティングに良好な熱安定性を付与することにより、より高い摩耗特性およびより長い工具寿命が予測される。
【0056】
最後に、本発明が、高い硬度を示す酸窒化アルミニウムコーティング層を有するコーティング付き切削インサートを提供することは明らかである。コーティングに高い硬度を付与することにより、より高い摩耗特性が予測される。
【0057】
本発明が、酸窒化アルミニウムのコーティング層を有するコーティング付き切削インサートを作製する方法を提供することは明らかである。
【0058】
本明細書に示した特許および他の文献は、参照により本明細書に援用される。本明細書を検討することで、または本明細書に開示した本発明を実施することで、本発明の他の実施形態が当業者に明らかになるであろう。本明細書および例は単なる例示であり、本発明の範囲を限定することを意図しないものとする。本発明の真の範囲および趣旨は、添付の特許請求の範囲に示されている。
【符号の説明】
【0059】
30、50、60、70、80 コーティング付き切削インサート
32、52、62、72、82 基材
34、54、64、74、83 コーティング組織
38 逃げ面
40 すくい面
42 切刃
56、66、75、84 窒化チタンのベースコーティング層
58、68、77、85 酸窒化アルミニウムのコーティング層
69 κ酸化アルミニウムの外側コーティング層
76 MT(中温)炭窒化チタンの中間コーティング層
78 窒化アルミニウムの外側コーティング層
87 チタンオキシカーボナイトライドのコーティング層
88 外側コーティング層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーティング付き物品を作製する方法であって、
基材を用意するステップと、
ガス混合物から酸窒化アルミニウムコーティング層を堆積させるステップと、
を含み、前記ガス混合物は、
前記ガス混合物のうちの30.0体積%〜65.0体積%の量の窒素と、
前記ガス混合物のうちの0.5体積%〜1.3体積%の量の三塩化アルミニウムと、
前記ガス混合物のうちの1.0体積%〜2.0体積%の量のアンモニアと、
前記ガス混合物のうちの0.1体積%〜1.6体積%の量の二酸化炭素と、
前記ガス混合物のうちの1.5体積%〜4.5体積%の量の塩化水素と、
所望により、前記ガス混合物のうちの0体積%〜2.0体積%の量の一酸化炭素と、
所望により、前記ガス混合物のうちの0体積%〜25体積%の量のアルゴンと、
残り分としての水素と、
を含む、方法。
【請求項2】
前記堆積ステップは、750℃〜1020℃の温度で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記堆積ステップは、850℃〜950℃の温度で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記堆積ステップは、10mbar〜900mbarの圧力で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記堆積ステップは、50mbar〜100mbarの圧力で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ガス混合物は、
前記ガス混合物のうちの30体積%〜40体積%の量の窒素と、
前記ガス混合物のうちの0.5体積%〜1.3体積%の量の三塩化アルミニウムと、
前記ガス混合物のうちの1.0体積%〜2.0体積%の量のアンモニアと、
前記ガス混合物のうちの0.2体積%〜1.5体積%の量の二酸化炭素と、
前記ガス混合物のうちの1.5体積%〜3.0体積%の量の塩化水素と、
所望により、前記ガス混合物のうちの0体積%〜2.0体積%の量の一酸化炭素と、
所望により、前記ガス混合物のうちの0体積%〜25体積%の量のアルゴンと、
残り分としての水素と、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ガス混合物は、前記ガス混合物のうちの0.2体積%〜0.6体積%の量の二酸化炭素を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ガス混合物は、前記ガス混合物のうちの0.7体積%〜1.5体積%の量の二酸化炭素を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記ガス混合物は、前記ガス混合物のうちの0.5体積%〜1.3体積%の量の二酸化炭素を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記ガス混合物は、
前記ガス混合物のうちの40体積%〜50体積%の量の窒素と、
前記ガス混合物のうちの0.6体積%〜1.0体積%の量の三塩化アルミニウムと、
前記ガス混合物のうちの1.0体積%〜1.6体積%の量のアンモニアと、
前記ガス混合物のうちの0.6体積%〜1.4体積%の量の二酸化炭素と、
前記ガス混合物のうちの1.5体積%〜2.5体積%の量の塩化水素と、
所望により、前記ガス混合物のうちの0体積%〜2.0体積%の量の一酸化炭素と、
所望により、前記ガス混合物のうちの0体積%〜25体積%の量のアルゴンと、
残り分としての水素と、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記ガス混合物は、
前記ガス混合物のうちの60体積%〜65体積%の量の窒素と、
前記ガス混合物のうちの0.6体積%〜1.0体積%の量の三塩化アルミニウムと、
前記ガス混合物のうちの1.0体積%〜1.6体積%の量のアンモニアと、
前記ガス混合物のうちの0.6体積%〜1.6体積%の量の二酸化炭素と、
前記ガス混合物のうちの1.5体積%〜2.5体積%の量の塩化水素と、
所望により、前記ガス混合物のうちの0体積%〜2.0体積%の量の一酸化炭素と、
所望により、前記ガス混合物のうちの0体積%〜25体積%の量のアルゴンと、
残り分としての水素と、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記ガス混合物は、
前記ガス混合物のうちの60体積%〜65体積%の量の窒素と、
前記ガス混合物のうちの0.6体積%〜1.0体積%の量の三塩化アルミニウムと、
前記ガス混合物のうちの1.0体積%〜1.6体積%の量のアンモニアと、
前記ガス混合物のうちの0.6体積%〜1.6体積%の量の二酸化炭素と、
前記ガス混合物のうちの2.5体積%〜3.6体積%の量の塩化水素と、
所望により、前記ガス混合物のうちの0体積%〜2.0体積%の量の一酸化炭素と、
所望により、前記ガス混合物のうちの0体積%〜25体積%の量のアルゴンと、
残り分としての水素と、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記酸窒化アルミニウムは、六方晶系窒化アルミニウム型構造(空間群:P63mc)、立方晶系窒化アルミニウム型構造(空間群:Fm−3m)、および所望により非晶構造を有する相の混合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記酸窒化アルミニウムは、20原子%〜50原子%の量のアルミニウムと、40原子%〜70原子%の量の窒素と、1原子%〜20原子%の量の酸素とを含む組成を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記酸窒化アルミニウムは、32原子%〜38原子%の量のアルミニウムと、63原子%〜67原子%の量の窒素と、4原子%〜6原子%の量の酸素とを含む組成を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記基材は、切刃を有する切削工具基材を含み、前記コーティング付き物品はコーティング付き切削工具である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記基材は、摩耗性表面を有する摩耗部品基材を含み、前記コーティング付き物品はコーティング付き摩耗部品である、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
基材表面を有する基材と、前記基材上のコーティング組織とを含むコーティング付き物品であって、
前記コーティング組織は、
チタン含有コーティング層と、
前記チタン含有コーティング層上の酸窒化アルミニウムコーティング層と、
を含み、
前記酸窒化アルミニウムは、六方晶系窒化アルミニウム型構造(空間群:P63mc)、立方晶系窒化アルミニウム型構造(空間群:Fm−3m)、および所望により非晶構造を有する相の混合物を含み、
前記酸窒化アルミニウムコーティング層は、20原子%〜50原子%の量のアルミニウムと、40原子%〜70原子%の量の窒素と、1原子%〜20原子%の量の酸素とを含む組成を有する、コーティング付き物品。
【請求項19】
前記チタン含有コーティング層は、窒化チタンおよび炭窒化チタンからなる群から選択される、請求項18に記載のコーティング付き物品。
【請求項20】
アルミナのコーティング層が前記酸窒化アルミニウムコーティング層の上にある、請求項18に記載のコーティング付き物品。
【請求項21】
窒化アルミニウムのコーティング層が前記酸窒化アルミニウムコーティング層の上にある、請求項18に記載のコーティング付き物品。
【請求項22】
チタンオキシカーボナイトライドのコーティング層が前記酸窒化アルミニウムコーティング層の上にある、請求項18に記載のコーティング付き物品。
【請求項23】
前記酸窒化アルミニウムは、32原子%〜38原子%の量のアルミニウムと、63原子%〜67原子%の量の窒素と、4原子%〜6原子%の量の酸素とを含む組成を有する、請求項18に記載のコーティング付き物品。
【請求項24】
前記基材は、切刃を有する切削工具基材を含み、前記コーティング付き物品はコーティング付き切削工具である、請求項18に記載のコーティング付き物品。
【請求項25】
前記基材は、摩耗性表面を有する摩耗部品基材を含み、前記コーティング付き物品はコーティング付き摩耗部品である、請求項18に記載のコーティング付き物品。
【請求項26】
基材を用意するステップと、
ガス混合物から酸窒化アルミニウムコーティング層を堆積させるステップと、
を含む方法によって作製されるコーティング付き切削工具または摩耗部品であって、前記ガス混合物は、
前記ガス混合物のうちの30.0体積%〜65.0体積%の量の窒素と、
前記ガス混合物のうちの0.5体積%〜1.3体積%の量の三塩化アルミニウムと、
前記ガス混合物のうちの1.0体積%〜2.0体積%の量のアンモニアと、
前記ガス混合物のうちの0.1体積%〜1.6体積%の量の二酸化炭素と、
前記ガス混合物のうちの1.5体積%〜4.5体積%の量の塩化水素と、
所望により、前記ガス混合物のうちの0体積%〜2.0体積%の量の一酸化炭素と、
所望により、前記ガス混合物のうちの0体積%〜25体積%の量のアルゴンと、
残り分としての水素と、
を含む、コーティング付き切削工具または摩耗部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−192516(P2012−192516A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−55432(P2012−55432)
【出願日】平成24年3月13日(2012.3.13)
【出願人】(399031078)ケンナメタル インコーポレイテッド (182)
【氏名又は名称原語表記】Kennametal Inc.
【住所又は居所原語表記】1600 Technology Way Latrobe PA 15650−0231, USA
【Fターム(参考)】