説明

重合した液晶を含む機械的構造物及び当該構造物の製造方法

機械的構造物は熱又は放射線のような非機械的手段によって第1形状を有する第1状態と第1形状とは異なる第2形状を有する第2状態との間で可動な素子を有する。この目的のため、素子は、そのような手段が与えられたときに異方的な膨張を示す配向した重合液晶層を含む。素子製造を促進するため、素子は重合した液晶の高架橋領域及び低架橋領域を有する基板上に設置される。そのような構造物を製造するため、配向した重合液晶層が基板上に形成される。基板は重合した液晶に対する高架橋を与える架橋領域及び重合した液晶に対する低架橋を与える非架橋領域を与えるパターニングされた面と共に供される。重合後、たとえば熱衝撃を与えることで、非架橋領域で重合した液晶層が剥がれる一方で、架橋領域では固定されたままである。よって、方法は時間のかかる下部エッチング工程を必要としない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般的には機械的構造物及び、特に非機械的手段によって第1状態と第2状態との間で可動な素子を有する機械的構造物に関する。
【0002】
本発明はまた、そのような機械的構造物の製造方法にも関する。
【背景技術】
【0003】
技術分野の項で述べたような機械的構造物は特許文献1で開示されている。特許文献1はロールアップ装置について開示している。ロールアップ装置は多数のフレキシブルポリエステル細片(strip)を有する。各々は約1μmから5μmの厚さを有し、薄いアルミニウム層でコーティングされている。ポリエステル細片は伸張し、その一端は基板に固定され、他端は自由なままで、曲げられる。基板は透明ITO(インジウムスズ酸化物)対向電極と共に供される。アルミニウム電極とITO電極との間に電圧を印加とき、電極間で電場が発生し、曲げられていた自由端がまっすぐになり、基板に対して平坦な状態になる。アルミニウム層によって細片は不透明になっているので、細片は非機械的手段によって可動な機械的シャッターとなる。
【0004】
ポリエステル細片は基板上にポリマー膜を積層し、細片をレーザー切断して作製される。伸張した膜にかかる機械的応力によって自由端は曲げられる。所望であれば付加的な機械的応力及び/又は加熱工程によってそれは助長される。
【特許文献1】米国特許公開第4235522号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記装置の欠点とは切断工程は通常装置の分解能に制限されるということである。レーザー切断処理はレーザービームの寸法に制限されるため、切断線は10μm以上の寸法を有する。
【0006】
他の欠点とは伸張はある程度の二軸配向を誘起することである。二軸配向によって細片は2方向で曲げられてしまい、結果ロールアップ機構の精密さを制限してしまう。
【0007】
本発明の目的は第1形状を有する第1状態と第1形状とは異なる第2形状を有する第2状態との間で可動であって、精密かつ容易に製造可能な機械的素子の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
これら及び他の目的は、基板及び当該基板上で素子を形成する配向した重合液晶層を有する機械的構造物によって実現される。当該機械的構造物は以下のような特徴を有する。
【0009】
当該素子は当該基板の架橋領域で局所的に架橋し、かつ当該基板の非架橋領域で当該基板から剥離し、当該架橋領域は当該非架橋領域よりも、配向した重合液晶に対して高い架橋性を有する。及び、
当該層の配向した重合液晶は異方的配向を有し、それによって素子は第1形状を有する第1状態と第1形状とは異なる第2形状を有する第2状態との間で可動となる。
【0010】
本発明に従った機械的構造物は下部エッチングを行うことなく製造可能という点で有利である。その代わり、基板は架橋領域と非架橋領域とを有するようにパターニングされる。架橋領域では重合した液晶混合物は永久的に架橋し、非架橋領域では重合した液晶混合物は容易に基板から分離する。
【0011】
よって基板は、重合した液晶に対して高い架橋性を有する領域及び重合した液晶に対して低い架橋性を有する領域と共に供されて良い。高い架橋性を有する領域では素子は基板に付着していなくてはならず、低い架橋性を有する領域では素子は基板に対して可動でなくてはならない。よってたとえば、基板の一端でちょうつがいで動くようになっている独立の長方形のシャッター素子を有する光シャッターは、長方形の非架橋領域及び架橋領域である隣接する細片を基板上に供し、引き続いて両領域で液晶混合物を重合することで製造可能である。
【0012】
目下の応用に依存して、機械的構造物は1つ以上の素子を有する。たとえば複数の素子は行及び列に沿ったアレイで配列されて良い。そのような場合、各素子は分離して制御可能なこともあるし、又は制御不可能なこともある。
【0013】
一の実施例に従うと、当該非機械的手段は温度変化を含む。
【0014】
この実施例に従うと、基本的に素子は、第1温度を有するときにはまっすぐで第1温度とは異なる第2温度を有するときには曲がる。そのような温度依存の振る舞いは重合した液晶の配向を適切に選択することで得ることができる。配向はツイステッド・ネマティック配向又はスプレイ配向であることが好ましい。配向は次のような事実に基づいている。それはたとえば重合した液晶のようなものは液晶の長手軸に沿った熱膨張係数は、長手軸に垂直な方向の熱膨張係数よりも異なっているということである。
【0015】
熱応答の代替方法又は熱と代替方法との組み合わせとして、重合した液晶はたとえば紫外線のような電磁波に応答して、液晶分子の配向に依存して異方的に伸張及び収縮可能である。分子の適切な配向及び電磁波に応答して伸張及び収縮する液晶分子の使用によって、この効果は熱応答効果と同じように利用することが可能である。よって別な実施例に従うと、当該非機械的手段はそれぞれ異なる波長の電磁波露光を含む。
【0016】
重合した液晶の配向はそれぞれ異なる方法で供されて良い。たとえば暫定的な、配向基板及び/又はサーファクタント基板に接する層を重合する方法、及び/又は、カイラル分子のような添加物を混合物に加える方法で良い。
【0017】
しかし素子はある程度基板に固定され、基板に対して所定の方法において可動でなくてはならないため、配向は大抵の場合基板に対して明確でなくてはならない。従って一の実施例に従うと、基板は配向層を有し、その面は少なくとも1つの非架橋領域を有する。
【0018】
配向層はたとえばラビングされたポリイミド層であって良い。分子配向は典型的には素子全体、特に基板に対して固定されない部分について明確である必要がある。従って配向層は架橋領域及び非架橋領域の両方に延在するのが好ましい。しかし目下の応用に依存して、より制限された配向層又は各異なる領域でそれぞれ異なるラビング方向を有する配向層も考えられる。
【0019】
架橋領域及び/又は非架橋領域を与える各異なる方法が存在する。
【0020】
一の実施例に従うと、当該非架橋領域は無極性ポリイミド面で形成され、当該架橋領域は極性ポリイミド面で形成される。極性ポリイミド面は無極性ポリイミド面を酸化させることで得ることができる。
【0021】
無極性ポリイミドはたとえば、オクチル、デシル又はオクタデシルのようなアルキルテールと共に供されるポリイミド、又はフッ素処理されたユニットで修飾されたポリイミドであって良い。これらの極性が低いため、液晶アクリル酸ネットワークの架橋は通常小さい。しかしたとえば架橋しない領域をコンタクトマスクで被覆する一方で、酸素プラズマによるラビングされたポリイミドの局所的処理によって、架橋を選択的に促進させることが可能である。それによって酸化された領域は重合した液晶と十分に架橋し、架橋した領域はたとえば温度サイクルにも耐える。未処理領域の架橋性は非常に弱く、重合した液晶はたとえば制御された温度サイクル又はサーファクタント水溶液処理によって容易に剥離可能である。
【0022】
別な実施例に従うと、架橋領域では重合した液晶は基板と共有結合する。
【0023】
たとえば上述のような低い架橋性を有するラビングされた無極性ポリイミド層(日産化学から販売されているニッサン7511(商標)は適した材料である)に液晶混合物ネットワークに十分架橋するポリイミドをたとえばオフセットプリント法、スクリーンプリント又は柔軟性のある鋳型若しくはスタンプを使用するマイクロコンタクトプリントによって選択的にプリントする。後者のポリイミドは重合した液晶モノマー(メルクから販売されているZLI2650(商標)は適した材料である)と共有結合を形成することが可能な反応基を有することが好ましい。その代わりに、重合可能な液晶と反応できるように所望の架橋領域が空いたままになっている架橋ポリイミド上に、非架橋ポリイミドを選択的にプリントすることが可能である。その代わりに非架橋配向層としてポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標))を使用することも可能である。この材料の単分子を220℃以上の高温でテフロンロッドをラビングすることで整合させて、それまでに架橋層で被覆されている基板上にパターニングした状態で成膜することは可能である。さらに基板がたとえばガラスで作製されている場合、基板を3-アミノプロピルトリメトキシシラン又はメタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランのような結合剤で被覆することが可能である。そのような結合剤は被覆領域での架橋を増大させる。任意で非架橋ポリイミドをプリントし、結合剤の上部でラビングすることが可能である。
【0024】
上述のように、素子は熱及び/又は電磁波の手段によって制御可能である。たとえこれらの方法が多くの用途で非常に多目的であっても、たとえば素子を画素化されたシャッター素子として使用するディスプレイ装置中の駆動ユニットによる制御のようなコンピュータ制御に関係すると、多少の制約は受ける。
【0025】
この目的のため、一の実施例では当該非機械的手段は、当該素子上に供される制御電極及び当該基板上に供されるグランド電極を有する。その際、素子は当該制御電極と当該グランド電極との間に生じる静電力によって当該第1状態と当該第2状態との間で可動となる。
【0026】
それにより、素子はたとえばまっすぐの形状と曲がった形状との間を当該電極間での静電力によって制御可能となる。静電力は電極間に電圧を印加することで容易に作用させることができる。制御電極はアルミニウムで作製することが可能であり、アルミニウムはスパッタでたとえば堆積させる。グランド電極はたとえば前述と同様にITOで形成可能である。ITO電極が基板上に供される場合、これは架橋領域及び非架橋領域を与える前に行われるのが好ましい。架橋領域及び非架橋領域は典型的には基板上に同じようにして供されて良く、電極が供されているかどうかには依らない。電極を有する複数の素子が同一基板上で配列されている場合、電極は基板上に配置され、駆動ユニットによって駆動される駆動回路と相互接続していることが好ましい。たとえばディスプレイ応用において素子が画素を形成するものとして使用される場合、素子は典型的にはアレイ構成で配置され、各対応する電極はたとえば従来の方法で行及び列に配置される。
【0027】
本発明の別な態様は上述の機械的構造物の製造方法を提供する。
【0028】
本発明は基板及び当該基板上に素子を形成する配向した重合液晶層を有する機械的構造物に関する。前記層の配向した重合液晶は異方的配向を有し、それによって素子は非機械的手段によって第1形状を有する第1状態と第1形状とは異なる第2形状を有する第2状態との間で可動となる。当該方法は:
架橋領域及び非架橋領域を有するパターニング面を有し、当該架橋領域は当該非架橋領域よりも重合した液晶に対する高架橋性を有することを特徴とする基板を提供する工程;
当該パターニング基板上に重合可能な液晶層を成膜する工程;
当該層中の重合可能な液晶を配向させる工程;
当該配向した重合可能な液晶を重合することで、当該層は架橋領域では十分に架橋し、非架橋領域では架橋しないことを特徴とする配向した重合液晶層を提供する工程;及び、
当該の配向した重合液晶混合物層を当該基板の当該非架橋領域で剥離する工程;
を有する。
【0029】
よって代替製造方法と比較した基本的な差異は、本方法は下部エッチング工程を必要としないことである。その代わりに電極と基板との間の選択的架橋は重合中に形成される基板のパターニングされた架橋性によって供される。よって重合した液晶層を分離する工程は下部エッチングを用いることなく上記方法によって可能となる。それどころか装置はまず加熱し、続いて急速に冷却することによる熱衝撃を与えることが可能である。熱衝撃は重合した液晶層に十分な応力を発生させ、各独立した素子を基板の非架橋領域から剥がして各素子は曲げられる。剥離はさらに熱衝撃とエタノールへの侵浸及び/又は超臨界CO2による処理とを組み合わせることでさらに促進させることが可能である。
【0030】
一の実施例に従うと、パターニングされた面を有する基板を提供する工程は、選択的に架橋領域で、重合したたとえばアクリル酸基を含む配向ポリイミド層のような液晶混合物と反応する能力を有する化学基を含む配向層を提供する工程を含む。
【0031】
別な実施例に従うと、パターニングされた面を有する基板を提供する工程は、選択的に当該非架橋領域で当該非架橋領域近くにある重合可能な液晶混合物の重合を抑制する抑制基を含む配向層を提供する工程を含む。
【0032】
従来のポリイミド配向層(たとえばJSR社から販売されているAL3046(商標)のような材料)になりうる配向層はフリーラジカル重合抑制剤を加えることで修飾される。たとえば光重合で通常使用されるようなフリーラジカル機構によってアクリル酸ポリマーが重合されるとき、すべてのフリーラジカルが抑制剤によって有効に除去されるので重合は界面では進行しない。適した抑制剤はp-メトキシフェノールである。しかしこの物質はポリイミドのベーキング温度に依存する応用では揮発しやすすぎるかもしれない。そのような応用ではたとえばアントラキノン又はブロモフェノール・ブルー(シグマ社から販売れている)のような揮発しにくい抑制剤が好ましい。界面での抑制により、架橋は小さく、ポリマー膜はプロパノール-2のような溶媒に浸すことで容易に除去される。局所的に増大する架橋は、抑制剤によって修飾されたポリイミド上部で非架橋ポリイミドを選択的にプリントすることによって得ることが可能である。そのような上部層は処理されるモノマーを抑制剤から保護し、重合した膜は十分な架橋をする。好適実施例では、プリントされたポリイミドは反応基(たとえばメルクから販売されているZLI2650(商標)のような)を有する。
【0033】
別な実施例では、パターニングされた面を有する基板を提供する工程は、無極性ポリイミド配向層を当該架橋領域及び非架橋領域に与え、当該架橋領域の当該ポリイミド配向層を選択的に酸化させることで架橋領域を極性にする工程を含む。
【0034】
上述のように、重合した液晶は素子中で配向を有する。基板に対する明確な運動を提供するため、その配向は基板に対して明確である。
【0035】
従って一の実施例に従うと、製造方法はさらに重合可能な液晶を成膜する前に配向層を提供することで重合可能な液晶を配向させる工程を有する。
【0036】
配向層はパターニング面(架橋領域と非架橋領域の両方を含む)全体に延在して良く、又はパターニング面の部分に限定されても良い。目下の応用に依存して、配向層はまた、それぞれ異なる領域においてそれぞれ異なる配向を有しても良く、よって素子の各異なる部分で各異なる液晶分子配向を提供する。
【0037】
一の実施例に従うと、重合した液晶はツイステッド・ネマティック配向を有する。
【0038】
本発明に従った方法の実施例に従うと、そのようなツイステッド・ネマティック配向は重合可能な液晶がカイラル分子を有するときに得られる。
【0039】
そのような場合、分子のねじれは好適には明確でなくてはならず、基板と層が空気と接する面との間ではたとえば90°であって良い。そのようなツイステッド・ネマティック配向はカイラル分子を重合可能な液晶に加えることで促進することが可能である。しかしカイラル分子を加え、引き続き空気に触れている部分で層を重合することで常に比較的大きな配向の広がりが分子間で生じる。その中には90°より大きな角度でねじれるのもあれば、90°未満でねじれるものある。従って、光重合中に基板と反対側の面と平行な所望の配向方向を有し、基板の反対側面上に設けられている配向層を有する暫定基板を保持するのは利点がある。暫定基板はそのような暫定基板近くに存在する重合可能な液晶の基本的に均一な配向を保証する。
【0040】
暫定基板は基板上で配向層と組み合わせて使用するのも好ましい。
【0041】
よって一の実施例に従うと、当該の重合可能な液晶を重合する工程は基板の外側を向く面上で重合可能な液晶を配向層と接するようにすることで重合可能な液晶に基板近くの重合可能な液晶で誘起されている配向とは異なる配向を与える工程を有する。ツイステッド・ネマティック配向の場合、両方の配向層は面配向であり、配向方向の違いは90°である。
【0042】
スプレイ配向の場合、一の配向層は面配向層であり、よって面配向を重合可能な液晶に与え、他の面はホメオトロピック配向である。
【0043】
よってより詳細には、スプレイ配向を提供する一の実施例に従うと、基板の外側を向く面に供される配向層は、当該配向層近くの重合可能な液晶にホメオトロピック配向を与えるサーファクタントによって官能化される面を有する。
【0044】
その代わりに、当該重合可能な液晶は極性端部及び無極性端部を有するモノマーを有することで、モノマーが空気に接している重合可能な液晶層面でホメオトロピック配向を誘起する能力を有するようになる。
【0045】
当然のこととして、そのようなモノマーの使用は暫定サーファクタント基板の使用と組み合わせて良い、重合中。その組み合わせられた両方の技術によってホメオトロピック配向は保証される。
【実施例】
【0046】
ここで本発明について例示となる添付の図を参照することでさらに詳細に説明する。
【0047】
図1はスプレイ分子配向を有する重合した液晶層100を図示している。層100の下部面102は基板103に架橋し、下部面102の反対側にある上部面101は空気に接している。この特別な層では、下部面102での分子112は下部面と平行と配向し、上部面101での分子111は上部面と垂直に配向する。中間領域にある分子110は平行な配向と垂直な配向(ホメオトロピック配向)との間を漸進的に傾斜する。
【0048】
実際、重合した液晶も、それが得られる重合可能な液晶も90°のスプレイ配向を有する。この方向で重合し、動径方向よりも分子の長手方向でより異なる熱膨張係数を有する重合可能な液晶は温度変化に応じて曲がる。
【0049】
代替方法としては、液晶混合物が異方的な熱膨張係数を有する場合に、ツイステッド・ネマティック配向が誘起可能でホメオトロピック配向と同様な特性を与える。
【0050】
前述のように、(重合した)液晶の中には、温度応答の代わり又は温度応答と組み合わせて電磁波(たとえば紫外光)に応答した異方的な伸張をするのもある。そのような場合、重合した液晶は代わりにそのような電磁波の使用によって制御可能となる。
【0051】
本発明に従った機械的構造物のわかりやすい製造方法を図2に図示する。よって、基板201は高架橋性領域204と交互になっている低架橋領域203を有するパターニングされた配向層とともに供される。パターニングされた基板はたとえばラビングされた無極性ポリイミド層202で良く、これは大気中でマスクのような物を用いた深紫外光による露光によって選択的に酸化される。それによって面は局所的に酸化され、結果として選択領域204での極性が増大することで架橋が改善される。そのような場合、製造工程(1.)は無極性のラビングされたポリイミド層の提供を有し、引き続いて行われる工程(2.)はマスクのような物を用いた架橋領域への紫外光照射を有する。
【0052】
その代わりに、薄い架橋ポリイミド層は基板の架橋領域204に局所的にプリントされ、これらの特別な領域で基板と重合した液晶混合物との間の架橋を促進させる。架橋ポリイミドはたとえば、下に図示されているように反応性アクリル酸基が供されるポリイミドであって良い。
【0053】
【化1】

この反応性ポリイミドは基板上で単軸整合するポリイミド配向層と十分に架橋する。
【0054】
一旦配向層の架橋領域204及び非架橋領域205が供されると、重合可能な液晶層205は配向層203及び配向層204上に供される。一旦成膜されると、マスクを用いた紫外光206の手段によって、層は高温にて選択的に処理される。マスクは狭い細片208を露光させない、つまり処理しない。重合可能な液晶はスピンコーティング又はドクターブレード法による成膜が可能である。高温で処理が行われるとき、結果として生成される膜(つまり機械的構造物)は高温で伸張し、温度が下がると曲がろうとする。
【0055】
その後、装置はゆっくりと室温まで冷却される。あまりに急速な温度変化は層に高い応力を引き起こすだろう。その結果層は基板の非架橋領域203から剥離する。室温のとき、まっすぐな重合可能な液晶はTHFのような溶媒で除去される。その結果された重合した液晶内のギャップ209によって独立した素子が画定される。素子が電圧によって制御される場合、工程5においてアルミニウム薄膜210が重合した液晶層205上に成膜されることで、素子上に電極を形成する。しかしこの工程は電極を必要としない場合又は、アルミニウムが他の材料と交換可能な場合には省略して良い。電極を必要としない場合、構造物の光学特性を画定するため、さらに不透明又は有色の層を成膜して良い。
【0056】
最後の工程6では、最初に加熱し、その後急速に冷却することで熱衝撃を装置に与える。熱衝撃は各独立した素子211が基板の非架橋領域から剥離して、曲げられるのに十分な応力を重合した層205に起こす。熱衝撃とエタノールへの侵浸及び/又は超臨界CO2での処理とを組み合わせることによりさらに剥離を促進させることが可能である。
【0057】
目下の重合可能な液晶に依存して、光架橋反応はフリーラジカル機構に基づいて起こるかもしれない。そのような場合、液晶アクリル酸混合物の光架橋反応を局所的に抑制する修飾がなされた配向層を供することでさらに改善可能である。そこでポリイミドは抑制基と共に供される。当業者に周知のそのような抑制基はフリーラジカルを除去する。そのような基の例としてはたとえば化合物であって、通常は少量を反応性混合物に加えることで寿命を延ばす又は光劣化を減少させるような化合物がある。都合の良い化合物は1,4-ベンゾキノン又はp-メトキシフェノールのようなフェノール化合物で、ポリイミドに数%加えられる。しかしほとんどのポリイミドは高温度でのベーキングが必要になるので、揮発しにくい抑制剤が好ましい。共有結合した抑制剤はさらに良い。他の抑制剤の例には以下がある:ターシャルブチルカテコールフェノチアジン、N,N’-ビス-sec-ブチル-p-フェニレンジアミン、p-ニトロソフェノール、2,2,6,6-テトラメチル-1-オキシル-ピパジン(TEMPO)、及び、4-アセトキシ-2,2,6,6-テトラメチル-1-オキシルピパジン(4-アセトキシ-TEMPO)
もちろんフリーラジカル以外の他の重合機構も利用可能である。そのような場合、他の抑制剤を使用するべきである。たとえばカチオン重合を利用する場合、アニオンを抑制する機構又はアミンのような他の抑制基本基の利用が可能である。抑制剤を配向層(たとえばポリイミド)に添加することで界面付近での架橋が防止される。その結果、基板と重合した液晶との間の界面架橋は実質的に減少する。
【0058】
換言すれば、本発明は新規な機械的構造物及び当該機械的構造物の製造方法の提供であって、構造物は少なくとも1つの素子を有し、素子は配向した重合液晶層202を有する。熱又は電磁波のような非機械的手段が作用するときに配向した重合液晶は異方的な伸張を示す。その結果素子はそのような非機械的手段に応答して曲がり、そしてまっすぐになる。
【0059】
そのような素子を有する機械的構造物は基板201上の配向した重合可能な液晶層を重合することで製造可能である。基板はパターニングされた面と共に供されていて、パターニングされた面は重合した液晶に対して高い架橋性を有する架橋領域204及びそのような液晶に対して低い架橋性を有する非架橋領域203を有する。よって、素子211は架橋領域では固定している一方で、非架橋領域では時間のかかる下部エッチング工程を行うことなく容易に基板から剥離される。
【0060】
本発明の機械的構造物は様々な用途を有する。一の用途では、機械的構造物は光ビームの変調に使用される。
【0061】
他にはマイクロ流体装置でのポンプ及びバルブ、集積マイクロ光装置での可動ミラー及びシャッター、マイクロロボットのアクチュエータ並びに、マイクロモーター及びマイクロマシンの駆動機構、薬の放出を制御して行う格納容器がある。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】スプレイ配向の重合した液晶層を有する素子の断面を概略的に図示している。
【図2】本発明に従った機械的構造物の製造方法における複数の工程の断面を概略的に図示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板及び前記基板上で素子を形成する配向した重合液晶層を有する機械的構造物であって、
前記素子は前記基板の架橋領域で局所的に架橋し、かつ前記基板の非架橋領域で前記基板から剥離し、前記架橋領域は前記非架橋領域よりも配向した重合液晶に対して高い架橋性を有し、かつ、
前記層の配向した重合液晶は異方的配向を有し、それによって前記素子は第1形状を有する第1状態と前記第1形状とは異なる第2形状を有する第2状態との間で可動となる、
ことを特徴とする機械的構造物。
【請求項2】
前記非機械的手段は温度変化を含むことを特徴とする、請求項1に記載の機械的構造物。
【請求項3】
前記非機械的手段はそれぞれ異なる波長の電磁波の露光を含むことを特徴とする、請求項1に記載の機械的構造物。
【請求項4】
前記基板は配向層を有し、前記配向層の表面は少なくとも前記非架橋領域を有することを特徴とする、請求項2に記載の機械的構造物。
【請求項5】
前記非架橋領域は無極性ポリイミド面で形成され、及び、
前記架橋領域は無極性ポリイミド面の酸化によって得られる極性ポリイミド面で形成される、
ことを特徴とする、請求項1,2,3又は4に記載の機械的構造物。
【請求項6】
前記架橋領域では、前記重合した液晶は前記基板と共有結合していることを特徴とする、請求項1,2,3,4又は5に記載の機械的構造物。
【請求項7】
前記非機械的手段は前記素子上に供される制御電極及び前記基板上に供されるグランド電極を有し、それにより前記素子が前記制御電極と前記グランド電極との間に生じる静電力の手段によって前記第1状態と前記第2状態との間を可動となる、ことを特徴とする、請求項5に記載の機械的構造物。
【請求項8】
前記重合した液晶はツイステッド・ネマティック配向を有することを特徴とする、請求項1,2,3,4,5,6又は7に記載の機械的構造物。
【請求項9】
前記重合した液晶はスプレイ配向を有することを特徴とする、請求項1,2,3,4,5,6又は7に記載の機械的構造物。
【請求項10】
基板及び前記基板上に素子を形成する配向した重合液晶層を有する機械的構造物の製造方法であって、
前記の配向した重合液晶層は異方的配向を有し、それによって前記素子は非機械的手段によって第1形状を有する第1状態と第1形状とは異なる第2形状を有する第2状態との間で可動となることを特徴とし、
架橋領域及び非架橋領域を有するパターニング面を有し、前記架橋領域は前記非架橋領域よりも重合した液晶に対する高架橋性を有することを特徴とする基板を提供する工程;
前記パターニング基板上に重合可能な液晶層を成膜する工程;
前記層中の重合可能な液晶を配向させる工程;
前記配向した重合可能な液晶を重合することで、前記層が架橋領域では十分に架橋し、非架橋領域では架橋しないことを特徴とする配向重合液晶層を提供する工程;及び、
前記の配向した重合液晶混合物層を前記基板の前記非架橋領域で剥離する工程;
を有する方法。
【請求項11】
前記のパターニングされた面を有する基板を提供する工程は選択的に前記架橋領域で、たとえばアクリル酸基を含む配向ポリイミド層のような、前記重合可能な液晶混合物と反応する能力を有する化学基を含む配向層を提供する工程を含むことを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記のパターニングされた面を有する基板を提供する工程は選択的に前記非架橋領域で、前記非架橋領域近くの前記重合可能な液晶混合物の重合を抑制する抑制基を含む配向層を提供する工程を含むことを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記のパターニングされた面を有する基板を提供する工程は前記架橋領域及び前記非架橋領域で無極性ポリイミド配向層を提供し、前記架橋領域で前記ポリイミド配向層を選択的酸化させることで、前記架橋領域を極性にする工程を含むことを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記の重合可能な液晶を重合する工程は前記基板の外側を向く面上で前記重合可能な液晶を配向層と接するようにすることで前記重合可能な液晶に基板近くの重合可能な液晶で誘起されている配向とは異なる配向を与える工程を含むことを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
基板の外側を向く面に供される配向層は、前記配向層近くの前記重合可能な液晶にホメオトロピック配向を与えるサーファクタントによって官能化される面を有することを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記重合可能な液晶は極性端部及び無極性端部を有するモノマーを有することで、モノマーが空気に接している前記重合可能な液晶層の面でホメオトロピック配向を誘起する能力を有するようになることを特徴とする、請求項10に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−525705(P2007−525705A)
【公表日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−551975(P2006−551975)
【出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【国際出願番号】PCT/IB2005/050356
【国際公開番号】WO2005/076247
【国際公開日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】