説明

量子ドット−無機マトリックス複合体の製造方法

【課題】無機マトリックス前駆体溶液に均質に分散される量子ドット前駆体を用いて、比較的低温で発光量子ドット−無機マトリックス複合体を製造する方法を提供する。
【解決手段】本発明は、量子ドット前駆体を含む無機マトリックス前駆体溶液を製造した後、前記マトリックス前駆体溶液を基板上にスピンコーティングして熱処理して量子ドット−無機マトリックス複合体を得るという量子ドット−無機マトリックス複合体の製造方法に関する。本発明により製造される量子ドット−無機マトリックス複合体は、無機マトリックス中に高効率の量子ドットが高密度で充填され、発光効率に優れ、低温工程で容易に製造することができ、様々なディスプレイ及び電子素子の材料として有用に使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子ドット−無機マトリックス複合体の製造方法に関し、詳細には、量子ドット前駆体を含む無機マトリックス前駆体溶液を製造した後、これを基板上にスピンコーティングし、熱処理して量子ドット−無機マトリックス複合体を得る、量子ドット−無機マトリックス複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
量子ドットは、数ナノメートルの大きさの結晶構造を有する物質であって、数百〜数千個の原子から構成されている。このように微細な大きさの物質は、単位体積当りの表面積が広くて大部分の原子が表面に存在するようになり、量子閉じ込め(quantum confinement)効果などを示すようになって、物質自体の固有な特性とは異なる独特な電気的、磁気的、光学的、化学的及び機械的特性を有することになる。すなわち、量子ドットの物理的な大きさを調節することで、多様な特性を調節することが可能となる。
【0003】
このような量子ドットを基板上に配列させることにより、高集積化した素子を製造することができる。そして、かかる素子は、たとえば、光増幅器、レーザー、発光ダイオード(LED)、変調器、スイッチなどの光学素子やメモリ素子として応用することができる。また、ガラスのような透明な無機マトリックス内に高い蛍光効率を有する量子ドットを高充填密度で含ませる技術に関し、広範囲に亘る光学素子の素材として応用することができるため、研究が盛んに行われているところである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、無機マトリックスに、高い蛍光効率を有する量子ドットを高充填密度で含ませる技術はまだ開発されていないという問題がある。
【0005】
そこで、本発明の目的は、無機マトリックス前駆体溶液中に均質に分散される量子ドット前駆体を用いて、比較的低温で発光する量子ドット−無機マトリックス複合体を製造する方法を提供する。
【0006】
また、本発明の他の目的は、優れた発光効率を有する量子ドットを高充填密度で充填させた量子ドット−無機マトリックス複合体、及びこれを用いた電子素子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明は、一種以上の量子ドット前駆体を含む無機マトリックス前駆体溶液を準備する段階と、前記量子ドット前駆体を含む無機マトリックス前駆体溶液を基板上にスピンコーティングして無機マトリックス薄膜を形成する段階と、無機マトリックスの内部で前記量子ドット前駆体を量子ドットとして成長させつつ、前記無機マトリックス薄膜を熱処理して無機マトリックスを形成させて、量子ドット−無機マトリックス複合体を得る段階とを含む、量子ドット−無機マトリックス複合体の製造方法である。
【0008】
また、上記目的を達成するための本発明の電子素子は、本発明に係る製造方法により得られる、無機マトリックス中に量子ドットが分散されてなる量子ドット−無機マトリックス複合体を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、量子ドット−無機マトリックス複合体における量子ドットの量子効率を非常に高くすることができる。また、一定以上の空間充填率を有する、量子ドットが高密度で充填された量子ドット−無機マトリックス複合体が得られる。また、本発明では、反応条件を調節することによって当該複合体の発光波長を自由に調節することができる。そして、光増幅器、レーザー、発光ダイオード(LED)、変調器、スイッチなどの光学素子やメモリ素子として応用可能な、高集積化した素子を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明をより詳細に説明する。
【0011】
本発明による一実施形態は、無機マトリックス中に量子ドットが高密度で充填されてなる量子ドット−無機マトリックス複合体を製造する方法に関する。より具体的にいえば、一種以上の量子ドット前駆体を含む無機マトリックス前駆体溶液を準備する段階と、前記量子ドット前駆体を含む無機マトリックス前駆体溶液を基板上にスピンコーティングして無機マトリックス薄膜を形成する段階と、無機マトリックスの内部で前記量子ドット前駆体を量子ドットとして成長させつつ、前記無機マトリックス薄膜を熱処理して無機マトリックスを形成させて、量子ドット−無機マトリックス複合体を得る段階とを含む、量子ドット−無機マトリックス複合体の製造方法に関する。本発明の技術上の意義は、無機マトリックス形成過程において量子ドット前駆体を量子ドットで成長させ、蛍光効率の高い量子ドットが高充填率密度で充填される量子ドット−無機マトリックス複合体を製造することにある。より詳細にいえば、従来の製造方法は、量子ドットを合成した後に無機マトリックス前駆体に分散させて硬化させたり、900℃以上の高温の液体ガラスに量子ドット前駆体を溶解した後にこれを冷却する手法を採っている。これに対し、本発明はマトリックス形成過程において量子ドット前駆体を量子ドットで成長させるとともに、量子ドットも同時に形成する点に特徴がある。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態による量子ドット−無機マトリックス複合体の製造方法を説明するための工程フローチャートである。図1を参照すると、まず、一種以上の量子ドット前駆体を含む無機マトリックス前駆体溶液を準備する(S10段階)。次に、任意の基板(例えばガラス基板)上に、前段階(S10段階)で得られた量子ドット前駆体を含む無機マトリックス前駆体溶液をスピンコーティングして無機マトリックス薄膜を形成する(S20段階)。そして、無機マトリックスの内部で前記量子ドット前駆体を量子ドットとして成長させつつ、前記無機マトリックス薄膜を熱処理により硬化させて無機マトリックスを形成させて、量子ドット−無機マトリックス複合体を得る(S30段階)。本発明の製造方法によれば、量子ドット−無機マトリックス複合体における量子ドットの量子効率を非常に高くすることができる(例えば、量子ドット−無機マトリックス複合体における量子ドットの量子効率が40%以上)。また、一定以上の空間充填率(例えば数%以上)を有する、量子ドットが高密度で充填された量子ドット−無機マトリックス複合体が得られる。また、本発明では、反応条件を調節することによって当該複合体の発光波長を自由に調節することができる。以下、各段階についてより詳細に説明する。
【0013】
(1)量子ドット前駆体を含む無機マトリックス前駆体溶液の準備段階
まず、無機マトリックス前駆体溶液に一種以上の量子ドット前駆体を混合して、量子ドット前駆体を含む無機マトリックス前駆体溶液を準備する。具体的には、前記一種以上の量子ドット前駆体の各々と配位可能な溶媒に前記量子ドット前駆体を溶解させた量子ドット前駆体溶液を無機マトリックス前駆体溶液に混合することを含み、かかる混合により無機マトリックス前駆体溶液を準備することができる。
【0014】
前記無機マトリックス前駆体溶液としては、特に限定されることはないが、例えば、スピン・オン・ガラス(Spin−On−Glass:SOG)溶液が挙げられる。スピン・オン・ガラスとは、シリカ系の高分子が添加物とともに様々な極性有機溶媒に分散されてなる混合溶液である。前記無機マトリックス前駆体溶液は、特に限定されることはないが、シラン化合物、シロキサン化合物、シルセスキオキサン、ペルヒドロシラザン及びシラザンからなる群より選択される一種を有機溶媒に溶解させることにより得ることが好ましい。そして、前記無機マトリックス前駆体溶液として、かかるシラン化合物、シロキサン化合物、シルセスキオキサン、ペルヒドロシラザン及びシラザンからなる群より選択されるSOG物質を有機溶媒に溶解させてなるSOG溶液を用いることがより好ましい。SOG物質として、例えば、トリエトキシシラン(HTEOS)、テトラエトキシシラン(TEOS)、メチルトリエトキシシラン(MTEOS)、ジメチルジエトキシシラン、テトラメトキシシラン(TMOS)、メチルトリメトキシシラン(MTMOS)、トリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン(PTEOS)、フェニルトリメトキシシラン(PTMOS)、ジフェニルジエトキシシラン及びジフェニルジメトキシシランを含む様々なシラン反応物から合成される物質が挙げられる。また、前記SOG物質の合成に用いられるシラン反応物として、ハロシラン、特にクロロシランが挙げられ、例えば、トリクロロシラン、メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、テトラクロロシラン、ジクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、クロロトリエトキシシラン、クロロトリメトキシシラン、クロロメチルトリエトキシシラン、クロロエチルトリエトキシシラン、クロロフェニルトリエトキシシラン、クロロメチルトリメトキシシラン、クロロエチルトリメトキシシラン及びクロロフェニルトリメトキシシランが挙げられる。その他のSOG物質として、ポリシロキサン(polysiloxane)またはポリシラザン(polysilazane)などを有機溶媒に溶解させてなるSOG溶液も挙げられる。
【0015】
このようなSOG物質は、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、カルビノールなどのアルコール性溶媒と混合してもよい。
【0016】
前記無機マトリックス前駆体溶液には、一種以上の量子ドット前駆体(前駆物質)が混合されるが、好ましくは二種以上の量子ドット前駆体が混合される。このような量子ドット前駆体は、第12族元素、第13族元素、第14族元素、第15族元素及び第16族元素を含有する前駆体からなる群より選択される一種以上であることが好ましい。
【0017】
第12族元素を含む量子ドット前駆体として、以下に限定されることはないが、例えば、ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、酢酸亜鉛、亜鉛アセチルアセトネート、ヨウ化亜鉛、臭化亜鉛、塩化亜鉛、フッ化亜鉛、炭酸亜鉛、シアン化亜鉛、硝酸亜鉛、酸化亜鉛、過酸化亜鉛、過塩素酸亜鉛、硫酸亜鉛、ジメチルカドミウム、ジエチルカドミウム、酢酸カドミウム、カドミウムアセチルアセトネート、ヨウ化カドミウム、臭化カドミウム、塩化カドミウム、フッ化カドミウム、炭酸カドミウム、硝酸カドミウム、酸化カドミウム、過塩素酸カドミウム、リン化カドミウム、硫酸カドミウム、酢酸水銀、ヨウ化水銀、臭化水銀、塩化水銀、フッ化水銀、シアン化水銀、硝酸水銀、酸化水銀、過塩素酸水銀及び硫酸水銀が挙げられる。
【0018】
第13族元素を含む量子ドット前駆体として、以下に限定されることはないが、例えば、ガリウムアセチルアセトネート、塩化ガリウム、フッ化ガリウム、酸化ガリウム、硝酸ガリウム、硫酸ガリウム、塩化インジウム、酸化インジウム、硝酸インジウム、硫酸インジウム、酢酸タリウム、タリウムアセチルアセトネート、塩化タリウム、酸化タリウム、タリウムエトキシド、硝酸タリウム、硫酸タリウム及び炭酸タリウムからなる群より選択される一種以上が挙げられる。
【0019】
第14族元素を含む量子ドット前駆体として、以下に限定されることはないが、例えば、酢酸錫、錫ビスアセチルアセトネート、臭化錫、塩化錫、フッ化錫、酸化錫、硫酸錫、四塩化ゲルマニウム、酸化ゲルマニウム、ゲルマニウムエトキシド、酢酸鉛、臭化鉛、塩化鉛、フッ化鉛、酸化鉛、過塩素酸鉛、硝酸鉛、硫酸鉛及び炭酸鉛からなる群より選択される一種以上が挙げられる。
【0020】
第15族元素を含む量子ドット前駆体として、以下に限定されることはないが、例えば、トリメチルシリルホスフィン、アルキルホスフィン(例えば、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン)、酸化ヒ素、塩化ヒ素、硫酸ヒ素、臭化ヒ素、ヨウ化ヒ素、亜酸化窒素ヒ素(arsenic nitrous oxide)、硝酸ヒ素、及び硝酸アンモニウムヒ素(arsenic ammonium nitrate)が挙げられる。
【0021】
第16族元素を含む量子ドット前駆体として、以下に限定されることはないが、例えば、ヘキサンチオール、オクタンチオール、デカンチオール、ドデカンチオール、ヘキサデカンチオール及びメルカプトプロピルシランのようなアルキルチオール化合物、サルファー−トリオクチルホスフィン(S−TOP)、サルファー−トリブチルホスフィン(S−TBP)、サルファー−トリフェニルホスフィン(S−TPP)、サルファー−トリオクチルアミン(S−TOA)、トリメチルシリルサルファー、硫化アンモニウム、硫化ナトリウム、セレン−トリオクチルホスフィン(Se−TOP)、セレン−トリブチルホスフィン(Se−TBP)、セレン−トリフェニルホスフィン(Se−TPP)、テルル−トリオクチルホスフィン(Te−TOP)、テルル−トリブチルホスフィン(Te−TBP)、テルル−トリフェニルホスフィン(Te−TPP)、トリス(3−ヒドロキシプロピル)ホスフィンセレナイド(THPPSe)錯化合物、並びにこれらの組み合わせが挙げられる。
【0022】
前記量子ドット前駆体を含む無機マトリックス前駆体溶液は、前記一種以上の量子ドット前駆体の各々と配位可能な溶媒に該量子ドット前駆体を溶解させた量子ドット前駆体溶液を無機マトリックス前駆体溶液に混合することによって得ることができる。前記溶媒として、以下に限定されることはないが、例えば、炭素数6〜22の1次アルキルアミン、2次アルキルアミン及び3次アルキルアミン;炭素数6〜22の1次アルコール、2次アルコール及び3次アルコール;炭素数6〜22のケトン及びエステル;炭素数6〜22の窒素または硫黄を含む複素環化合物;炭素数6〜22のアルカン、アルケン及びアルキン;並びにトリオクチルアミン、トリオクチルホスフィン及び酸化トリオクチルホスフィンからなる群より選択される一種以上が挙げられる。
【0023】
(2)無機マトリックス薄膜を形成する段階
前記量子ドット前駆体を含む無機マトリックス前駆体溶液を調製した後、前記量子ドット前駆体を含む無機マトリックス前駆体溶液を基板上にスピンコーティングして無機マトリックス薄膜を形成する。前記量子ドット前駆体を含む無機マトリックス前駆体溶液を基板上にスピンコーティングする方法としては、特に制限されることはないが、例えば、ステージ上に備え付けた基板上に、前記量子ドット前駆体を含む無機マトリックス前駆体溶液を塗布した後、前記ステージを回転駆動させて、前記量子ドット前駆体を含む無機マトリックス前駆体溶液を前記基板上に均一にコーティングさせる。前記量子ドット前駆体を含む無機マトリックス前駆体溶液は、成形前には液状で存在するため、非常に簡易に塗布することができるという利点がある。スピンコーティングの際、300〜4,000rpmで回転させながら塗布することにより、形成される薄膜の厚さを調節することができる。無機マトリックス薄膜の厚さは、最終的に得られる量子ドット−無機マトリックス複合体の用途に応じて異なるが、一般的には500〜1,000nmの厚さとなるように成膜することが好ましい。
【0024】
(3)熱処理段階
前記基板上に無機マトリックス薄膜を塗布した後、前記基板を熱処理して溶媒を蒸発させ、前記無機マトリックス薄膜を硬化させる。前記無機マトリックス薄膜が硬化して無機マトリックスを形成し、同時に、前記無機マトリックスの内部で前記量子ドット前駆体から量子ドットへの還元が起こり、前記無機マトリックス中に量子ドットが均質に分散された量子ドット−無機マトリックス複合体が得られる。前記量子ドット前駆体を結晶化温度以上で加熱すると、熱処理の過程で結晶状の核が生成し、前記結晶状の核が成長すると量子ドットを形成する。このように、前記無機マトリックス前駆体を用いて量子ドット−無機マトリックス複合体の薄膜を製造する方法は、簡易なスピンコーティング及び硬化の工程により行われることができるため、コストが節減されるという利点がある。
【0025】
このような段階で得られる量子ドット−無機マトリックス複合体は、SiO、TiO、ZrO、ZnO、ITO及びSnOより選択される一種以上の金属酸化物を含む無機マトリックス内に量子ドットが均質に分散される。なお、前記金属酸化物は一種単独からなっても二種以上からなってもよい。
【0026】
本発明において、熱処理の温度は、量子ドットの材料及び前駆体によって異なるが、一般的には150〜300℃でありうる。熱処理温度が150℃以上であれば確実に量子ドットを生成させることができ、一方、300℃以下であれば、生成した量子ドットが成長しすぎることを防止でき、十分な量子効果を示すことができる。また、熱処理におけるその他の条件として、対応雰囲気については、不活性ガス雰囲気であることが好ましく、前記不活性ガス雰囲気として、以下に限定されることはないが、例えば窒素雰囲気、ヘリウム雰囲気などが挙げられる。
【0027】
このように、前記量子ドット前駆体の還元によって、前記無機マトリックスの内部に量子ドットの粒子が形成される。このような量子ドットは、第12族−第16族元素の量子ドット、第13族−第15族元素の量子ドット、第14族−第16族元素の量子ドット及びこれらの混合物からなる群より選択される一種以上であることが好ましい。前記熱処理を行う段階で前記無機マトリックスの内部に形成される前記量子ドットが、第12族−第16族元素の量子ドット、第13族−第15族元素の量子ドット、第14族−第16族元素の量子ドット及びこれらの混合物からなる群より選択される一種以上でありうる。なお、本願において、例えば、「第12族−第16族元素」とは、「第12族元素と第16族元素とにより構成される化合物」を意味する。第12族−第16族元素の量子ドットは、CdSe、CdTe、ZnS、ZnSe、ZnTe、ZnO、HgS、HgSe、HgTeなどの2成分系の量子ドット;CdSeS、CdSeTe、CdSTe、ZnSeS、ZnSeTe、ZnSTe、HgSeS、HgSeTe、HgSTe、CdZnS、CdZnSe、CdZnTe、CdHgS、CdHgSe、CdHgTe、HgZnS、HgZnSeなどの3成分系の量子ドット;及び、CdZnSeS、CdZnSeTe、CdZnSTe、CdHgSeS、CdHgSeTe、CdHgSTe、HgZnSeS、HgZnSeTe、HgZnSTeなどの4成分系の量子ドットからなる群より選択することができる。
【0028】
第13族−第15族元素の量子ドットは、GaN、GaP、GaAs、GaSb、AlN、AlP、AlAs、AlSb、InN、InP、InAs、InSbなどの2成分系の量子ドット;GaNP、GaNAs、GaNSb、GaPAs、GaPSb、AlNP、AlNAs、AlNSb、AlPAs、AlPSb、InNP、InNAs、InNSb、InPAs、InPSb、GaAlNPなどの3成分系の量子ドット;及び、GaAlNAs、GaAlNSb、GaAlPAs、GaAlPSb、GaInNP、GaInNAs、GaInNSb、GaInPAs、GaInPSb、InAlNP、InAlNAs、InAlNSb、InAlPAs、InAlPSbなどの4成分系の量子ドットからなる群より選択することができる。
【0029】
第14族−第16族元素の量子ドットは、SnS、SnSe、SnTe、PbS、PbSe、PbTeなどの2成分系の量子ドット;SnSeS、SnSeTe、SnSTe、PbSeS、PbSeTe、PbSTe、SnPbS、SnPbSe、SnPbTeなどの3成分系の量子ドット;及び、SnPbSSe、SnPbSeTe、SnPbSTeなどの4成分系の量子ドットからなる群より選択することができる。
【0030】
前記量子ドット−無機マトリックス複合体の製造において、前記量子ドットの発光波長帯域は、使用される量子ドット前駆体の比率、熱処理温度及び時間を調節することにより自由に調節することができる。例えば、熱処理温度を上げると小さな核が迅速に生成される一方、熱処理温度を下げると大きな核がゆっくりと生成される。結果として、無機マトリックス中に形成される量子ドットの発光波長帯域は多様なものとなる。
【0031】
本発明で無機マトリックス中に形成される量子ドットは、反応条件に応じて様々な形態を有することができ、以下に限定されるものではないが、例えば、球形、四面体、円筒形、棒形、三角形、円板形、三脚形、四脚形、立方形、箱形、星形及び管形からなる群より選択される形態を有することができる。無機マトリックス中に形成される量子ドットは、可視光及びその他の領域(紫外線、赤外線など)で効率的に発光することができる。
【0032】
本発明による他の実施形態は、本発明の上記実施形態に係る製造方法により得られる無機マトリックス中に量子ドットが分散されてなる量子ドット−無機マトリックス複合体に関する。前記製造方法により得られる量子ドット−無機マトリックス複合体における量子ドットの量子効率を非常に高くすることができる(例えば、量子ドット−無機マトリックス複合体における量子ドットの量子効率が40%以上)。また、一定以上の空間充填率(例えば数%)を有する、量子ドットが高密度で充填された量子ドット−無機マトリックス複合体が得られる。本実施形態による量子ドット−無機マトリックス複合体を図2に示した。図2を参考すると、基板100の上に量子ドット−無機マトリックス複合体の薄膜200が形成され、量子ドット−無機マトリックス複合体の薄膜200は、ガラスのような無機マトリックス中に高効率の量子ドット300が高密度で充填される。
【0033】
従来技術によれば、量子ドットを含む無機複合体(量子ドット−無機マトリックス複合体)の製造方法として大きく2種類の方法がある。すなわち、(1)約900℃という高温下、液体ガラスに量子ドット構成物質を溶解した後にこれを冷やす方法;及び、(2)量子ドットを合成した後表面改質を経て、無機前駆体に分散させた後に無機前駆体を硬化させる方法である。しかし、これら2種類の方法はいずれも、高温条件が必須となる上、量子ドット合成や表面改質のような多くの段階を経らなければならないため、複合体の製造に多大な労力やコストが必要となる。さらに、上記従来の方法により製造された複合体についても、量子ドットの蛍光効率や充填率が低いため、実用レベルに達する高集積化素子を得難いという問題がある。
【0034】
これに対し、本発明に係る製造方法によれば、上記した従来の2種類の方法のような多くの、かつ厳しい条件下で行う必要もなく、従来よりも有意に簡易な方法によって、高品質の量子ドットを含む無機複合体を得ることができる。このように、ガラスのような透明な誘電体(無機マトリックス)中に高い蛍光効率を有する量子ドットが高密度で充填されるため、本発明に係る量子ドット−無機マトリックス複合体は、多様な光学素子の素材として応用することができる。すなわち、本発明による他の実施形態は、前記量子ドット−無機マトリックス複合体を含む、電子素子に関する。例えば、前記量子ドット−無機マトリックス複合体を用いて製造することができる素子の例として、光増幅器、レーザー、光学ディスプレイ、光学平面回路及び有機発光ダイオード(OLED)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。さらに、前記量子ドット−無機マトリックス複合体は、現在、シリコン基板産業において応用し易いシリカをマトリックスとして用いることができ、量子ドットを別途準備する過程または表面改質の過程を省略することができるため、工程が簡易であるとともに、比較的低温で製造することができる。したがって、ローリングのような、大量生産するのに容易な工法で応用され、様々なディスプレイ及び電子素子の材料として応用することができる。
【0035】
本発明に係る量子ドット−無機マトリックス複合体は、例えば、白色の光源に適用することができる。その際、前記量子ドット−無機マトリックス複合体は、波長変換機としての用途に使用できる。特に、橙色系の広い発光波長帯域を有する量子ドット−無機マトリックス複合体は、青色LEDと連係すると、簡易に白色の光源として用いることができる。
【0036】
また、他の例として、本発明に係る量子ドット−無機マトリックス複合体は、エルビウム増幅器の感光素子に適用することができる。エルビウム増幅器の場合、エルビウムの小さな吸収断面積による短所を補うために、イッテルビウムなどの様々な無機化合物を使用することができる。量子ドットの場合、広い吸光波長帯域及び大きな吸収断面積を有しているため、エルビウム増幅器の感光素子として用いることができる。また、シリカ系統の光繊維とすぐに融合しやすいという利点を有する。
【0037】
さらに、本発明による他の実施形態は、前記量子ドット−無機マトリックス複合体を含む、光学装備に関する。前記光学装備として、従来公知の各種の光学装備が挙げられるが、例えば、光増幅器、レーザー、光学ディスプレイ、光学平面回路、有機発光ダイオード(OLED)などを素子として用いてなる光学装備が好適に挙げられる。
【0038】
以下、実施例を挙げてより詳しく本発明を説明するが、これらの実施例が本発明の保護範囲を制限するものと解釈してはならない。
【実施例】
【0039】
実施例1
本実施例では、カドミウム(Cd)及びセレン(Se)からなるCdSe量子ドット−ガラス複合体を製造した。カドミウム前駆体としては、塩化カドミウムのエタノール溶液を用い、セレン前駆体としては、トリス(3−ヒドロキシプロピル)ホスフィンセレナイド(THPPSe)錯化合物のエタノール溶液を用いた。ここで、カドミウム前駆体の濃度及びセレン前駆体の濃度は、下記表1に示すように、共に50mmol/mlとした。前記THPPSe錯化合物は、トリス(3−ヒドロキシプロピル)ホスフィンとセレンのペレット(2mmの大きさ)とを反応させることにより得た。また、0.25M 塩化カドミウムのエタノール溶液200μl、0.5M セレン錯化合物のエタノール溶液100μl、及びT−512B SOG(ACCUGLASS(登録商標) T−512B、ハネウェル社)700μlを混合して、量子ドット前駆体含有SOG溶液を1ml(総量)調製した。こうして、カドミウム前駆体とセレン前駆体とを混合して得られるSOG溶液(量子ドット前駆体を含む無機マトリックス前駆体溶液)を2.5cm×2.5cm×0.1cmの大きさのガラス基板上に500rpmでスピンコーティングして、約900nmの厚さのSOG膜(無機マトリックス薄膜)を形成(成膜)した。次に、240℃で4分間、窒素雰囲気下、オーブンで熱処理して、量子ドット−無機マトリックス複合体の薄膜を得た。
【0040】
実施例2
SOGとして、ハネウェル社のACCUGLASS P−112LSを使用したことを除いて、実施例1と同様にして量子ドット−無機マトリックス複合体の薄膜を得た。実施例1及び2で得られた量子ドット−無機マトリックス複合体の薄膜の平面を透過型電子顕微鏡で撮影して、それぞれ図3A及び図3Bに示した。図3A及び図3Bを参考すると、量子ドット−無機マトリックス複合体中に量子ドットが均質に分散されていることを確認することができる。
【0041】
実施例3〜5
カドミウム前駆体の濃度及びセレン前駆体の濃度を下記表1に示したように変化させたことを除いては、実施例1と同様にして量子ドット−無機マトリックス複合体の薄膜を得た。
【0042】
【表1】

【0043】
実施例1及び3〜5で製造した量子ドット−ガラス複合体の蛍光スペクトルを図4に示した。図4を参考すると、カドミウム前駆体の濃度及びセレン前駆体の濃度が異なる場合、互いに異なる波長を蛍光する量子ドットを含む複合体が得られることを確認することができる。また、実施例1及び3〜5で製造された量子ドット−ガラス複合体を直接UVランプの下で撮影した蛍光写真を図5に示す。図中、左側から実施例1(緑色)、3(橙色)、4(青色)及び5(黄色)の蛍光写真に相当する。
【0044】
実施例6〜10
実施例1で使用されたものと同一の組成の量子ドット前駆体を含むSOG溶液を用いて、実施例1と同様にして基板上にスピンコーティングした後、熱処理温度をそれぞれ150℃(実施例6)、180℃(実施例7)、210℃(実施例8)、270℃(実施例9)及び240℃(実施例10)にし、2時間熱処理して量子ドット−無機マトリックス複合体の薄膜を製造した。実施例6〜10で製造して得た量子ドット−ガラス複合体の薄膜の蛍光を撮影した写真を図6に示す。撮影の際、蛍光を励起するのにUVランプを使用した。図6の量子ドット−ガラス複合体の薄膜の蛍光写真は、左上側から時計回りで、150℃(実施例6、緑色)、180℃(実施例7、黄色)、210℃(実施例8、橙色)、270℃(実施例9、赤色)及び240℃(実施例10、橙色)での結果を示したものである。図6の結果より、同一のSOG溶液を使用した場合であっても、熱処理温度を変化させることによって、量子ドット−無機マトリックス複合体の発光波長を調節できることが確認できる。
【0045】
このように、本発明によれば、無機マトリックス形成過程において量子ドット前駆体を量子ドットで成長させ、蛍光効率の高い量子ドットが高充填率密度で充填される量子ドット−無機マトリックス複合体を製造することが可能になることを実証した。
【0046】
以上、好適な実施例を挙げつつ本発明を詳細に説明したが、これらの実施例は例示的なものに過ぎない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、各種の変更及び改変、または均等な他の実施例に想到し得ることは明らかである。したがって、本発明の真の技術的な保護範囲は、特許請求の範囲に反映された技術的思想によって定められるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一実施形態による量子ドット−無機マトリックス複合体の製造方法を説明するための工程フローチャートである。
【図2】本発明の一実施形態による量子ドット−無機マトリックス複合体の概略断面図である。
【図3A】実施例1で製造された量子ドット−無機マトリックス複合体の電子透過顕微鏡写真である。
【図3B】実施例2で製造された量子ドット−無機マトリックス複合体の電子透過顕微鏡写真である。
【図4】実施例1及び3〜5で製造された量子ドット−無機マトリックス複合体の発光スペクトルである。
【図5】実施例1及び3〜5で製造された量子ドット−ガラス複合体の蛍光写真である。
【図6】実施例6〜10で製造された量子ドット−無機マトリックス複合体の蛍光写真である。
【符号の説明】
【0048】
100 基板、
200 量子ドット−無機マトリックスの薄膜、
300 量子ドット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一種以上の量子ドット前駆体を含む無機マトリックス前駆体溶液を準備する段階と、
前記量子ドット前駆体を含む無機マトリックス前駆体溶液を基板上にスピンコーティングして無機マトリックス薄膜を形成する段階と、
無機マトリックスの内部で前記量子ドット前駆体を量子ドットとして成長させつつ、前記無機マトリックス薄膜を熱処理して無機マトリックスを形成させて、量子ドット−無機マトリックス複合体を得る段階とを含む、量子ドット−無機マトリックス複合体の製造方法。
【請求項2】
前記無機マトリックス前駆体溶液が、二種以上の前記量子ドット前駆体を含む、請求項1に記載の量子ドット−無機マトリックス複合体の製造方法。
【請求項3】
前記量子ドット前駆体が、第12族元素、第13族元素、第14族元素、第15族元素及び第16族元素を含有する前駆体からなる群より選択される一種以上である、請求項1または2に記載の量子ドット−無機マトリックス複合体の製造方法。
【請求項4】
前記量子ドット前駆体を含む無機マトリックス前駆体溶液を準備する段階が、前記一種以上の量子ドット前駆体の各々と配位可能な溶媒に該量子ドット前駆体を溶解させた量子ドット前駆体溶液を無機マトリックス前駆体溶液に混合することを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の量子ドット−無機マトリックス複合体の製造方法。
【請求項5】
前記無機マトリックス前駆体溶液が、シラン化合物、シロキサン化合物、シルセスキオキサン、ペルヒドロシラザン及びシラザンからなる群より選択される一種を有機溶媒に溶解させて得られる、請求項4に記載の量子ドット−無機マトリックス複合体の製造方法。
【請求項6】
前記熱処理を行う段階が、150〜300℃の温度で行われる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の量子ドット−無機マトリックス複合体の製造方法。
【請求項7】
前記無機マトリックスが、SiO、TiO、ZrO、ZnO、ITO及びSnOからなる群より選択される一種以上の金属酸化物である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の量子ドット−無機マトリックス複合体の製造方法。
【請求項8】
前記熱処理を行う段階で前記無機マトリックスの内部に形成される前記量子ドットが、第12族−第16族元素の量子ドット、第13族−第15族元素の量子ドット、第14族−第16族元素の量子ドット及びこれらの混合物からなる群より選択される一種以上である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の量子ドット−無機マトリックス複合体の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の製造方法により得られる、量子ドット−無機マトリックス複合体を含む、電子素子。
【請求項10】
光増幅器、レーザー、光学ディスプレイ、光学平面回路または有機発光ダイオードである、請求項9に記載の電子素子。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の製造方法により得られる、量子ドット−無機マトリックス複合体を含む、光学装備。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−263621(P2009−263621A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−283540(P2008−283540)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(390019839)三星電子株式会社 (8,520)
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG ELECTRONICS CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】416,Maetan−dong,Yeongtong−gu,Suwon−si,Gyeonggi−do 442−742(KR)
【出願人】(506083693)浦項工科大学校 産学協力団 (11)
【Fターム(参考)】