説明

金型温度制御方法および金型温度制御装置

【課題】金型の加熱および冷却に要する時間を短くすると共に構成を単純にする。
【解決手段】金型温度制御装置(10)が、伝熱媒体流路が形成されている金型(20)と、伝熱媒体を加熱して蒸気を発生させるボイラ(B)と、伝熱媒体の蒸気を凝縮するコンデンサ(C)と、伝熱媒体流路の他方の端部に接続されると共に凝縮した伝熱媒体を回収する伝熱媒体タンク(35)とを含む。駆動時には、ボイラにより発生した伝熱媒体の蒸気を金型の伝熱媒体流路に供給することにより金型を加熱し、金型の伝熱媒体流路において凝縮して伝熱媒体タンクに回収された伝熱媒体を伝熱媒体流路に戻して該伝熱媒体流路において沸騰した伝熱媒体の蒸気を伝熱媒体流路の一方の端部を通じてコンデンサに供給することにより、金型を冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型の温度を制御する金型温度制御方法およびこの方法を実施する金型温度制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックを成形する際には、加熱溶融させた材料をシリンダなどによってノズルを通じて閉鎖金型内に射出する射出成型法が広範に用いられている。近年では、金型内面の微細形状をプラスチック成型品の表面に精密に転写するために、成型時の金型温度を高めることが求められている。金型温度を高めるために、例えば熱水または油などの伝熱媒体を使用するか、あるいは金型表面に電気ヒータを設置することなどが行われる。
【0003】
ところが、金型の熱容量は比較的大きいため、加熱・冷却能力が不足する場合もある。このような場合には、金型の加熱および冷却に要する時間が長くなるので、成型品の生産性が低下することになる。このような事態を改善するために、発熱密度の高い電気ヒータを設置することが考えられるが、電気ヒータの使用に伴う付帯設備の大きさおよび費用が新たな問題になる。また、微少なプラスチック成型品を作成する場合には、電気ヒータを金型に設置すること自体が困難になり、金型温度を要求通りに上昇させられない場合もある。
【0004】
特許文献1および特許文献2に開示される金型温度制御装置においては、電気ヒータの設置に代えて、伝熱媒体として蒸気を金型内部に流通させ、それにより、金型温度を高めるようにしている。このような蒸気の使用は、微少なプラスチック成型品を作成する場合に特に有利である。
【特許文献1】特開平6−31785号公報
【特許文献2】特開平7−276369号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これら特許文献1、2に開示される金型温度制御装置においては、金型を加熱するための蒸気の発生源と、金型を冷却するための冷却水源とを別々に備える必要がある。このため、従来技術の金型温度制御装置は装置全体の構成が複雑になり、その製造費用が増すだけでなく、加熱用蒸気および冷却水のランニングコストもかなり増加することになる。
【0006】
また、特許文献2においては、金型の冷却時に金型内部の蒸気を排出するための吸引ポンプが必要とされるので、金型温度制御装置の構成はさらに複雑になる。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、従来技術の場合と比較して金型の加熱および冷却に要する時間を短くできて構成が単純な金型温度制御方法およびこの方法を実施する金型温度制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した目的を達成するために1番目の発明によれば、伝熱媒体流路が形成されている金型と、伝熱媒体を加熱して蒸気を発生させるボイラと、伝熱媒体の蒸気を凝縮するコンデンサとを具備し、前記ボイラおよびコンデンサは前記伝熱媒体流路の一方の端部に互いに切換可能に接続されており、さらに、前記伝熱媒体流路の他方の端部に接続されると共に凝縮した伝熱媒体を回収する伝熱媒体タンクとを具備し、前記ボイラにより発生した前記伝熱媒体の蒸気を前記金型の前記伝熱媒体流路に供給することにより前記金型を加熱し、前記金型の前記伝熱媒体流路において凝縮して前記伝熱媒体タンクに回収された前記伝熱媒体を前記伝熱媒体流路に戻して該伝熱媒体流路において沸騰した前記伝熱媒体の蒸気を前記伝熱媒体流路の前記一方の端部を通じて前記コンデンサに供給することにより、前記金型を冷却するようにした金型温度制御装置が提供される。
【0009】
すなわち1番目の発明においては、伝熱媒体の蒸気が伝熱媒体流路内で凝縮する際の凝縮熱伝達によって金型を加熱でき、また伝熱媒体流路に再び供給された凝縮後伝熱媒体の沸騰蒸発により金型を冷却できる。つまり、1番目の発明においては、加熱作用および冷却作用の両方において熱伝達率の高い相変化伝熱を用いているので、加熱および冷却に要する時間を短くでき、結果的に成型品の生産性を高められる。さらに、1番目の発明においては、加熱時に凝縮した伝熱媒体を冷却水の代わりに使用する、つまり加熱および冷却に同一の伝熱媒体を使用している。従って、蒸気の発生源と冷却水源の両方が必要とされる従来技術の場合と比較して、金型温度制御装置の構成が単純になり、またランニングコストを低下させられる。さらに1番目の発明においては、冷却時に沸騰蒸発した伝熱媒体の蒸気をコンデンサにおいて再び凝縮させられる。なお、冷却作用の開始時には、伝熱媒体流路の一方の端部を予めコンデンサに切換えておくのが好ましい。
【0010】
2番目の発明によれば、1番目の発明において、前記金型の冷却時には、前記伝熱媒体流路内の圧力が限界熱流束条件近傍となるように、前記コンデンサと前記伝熱媒体流路との間の圧力差を制御しつつ前記伝熱媒体を沸騰させるようにした。
すなわち、2番目の発明においては、沸騰液膜が切れるのを回避できるので、金型を迅速に冷却できる。
【0011】
3番目の発明によれば、1番目または2番目の発明において、さらに、前記金型温度制御装置に接続された吸引ポンプを具備し、前記金型温度制御装置内の不凝縮ガスは前記吸引ポンプによって予め排除されている。
すなわち3番目の発明においては、不凝縮ガスを予め排除するので、金型温度制御装置のシステム内は伝熱媒体の蒸気により満たされる。この目的のために、伝熱媒体はボイラに供給する前に、予め脱気しておくのが好ましい。
【0012】
4番目の発明によれば、1番目から3番目のいずれかの発明において、さらに、前記伝熱媒体通路の他方の端部と前記伝熱媒体タンクとの間に配置された第一ポンプを具備し、該第一ポンプは前記伝熱媒体タンクに収容された前記伝熱媒体を前記伝熱媒体流路に戻すのに使用される。
すなわち4番目の発明においては、第一ポンプを駆動すれば、伝熱媒体を伝熱媒体流路に短時間で戻せるので、金型の冷却作用を迅速に開始できる。
【0013】
5番目の発明によれば、1番目から4番目のいずれかの発明において、さらに、前記コンデンサと前記ボイラとの間に配置された第二ポンプを具備し、該第二ポンプは前記コンデンサにおいて凝縮した伝熱媒体を前記ボイラまで供給するのに使用される。
すなわち5番目の発明においては、ボイラ内の伝熱媒体が不足した場合には、第二ポンプを駆動して、コンデンサ内の伝熱媒体でもって補うことができる。
【0014】
6番目の発明によれば、4番目の発明において、前記金型内における前記伝熱媒体流路には、凝縮した伝熱媒体を収容する伝熱媒体室が形成されている。
すなわち6番目の発明においては、金型の伝熱媒体流路において凝縮した一部の伝熱媒体を伝熱媒体室に一時的に収容できる。伝熱媒体室が凝縮後の伝熱媒体で完全に充填された場合には、第一ポンプを逆転方向に駆動して伝熱媒体室の伝熱媒体を伝熱媒体タンクまで移動させられる。
【0015】
7番目の発明によれば、1番目から6番目のいずれかの発明において、さらに、別の伝熱媒体流路が形成されている別の金型とを具備し、前記ボイラは前記別の伝熱媒体流路の一方の端部に前記金型と切換可能に接続されており、
【0016】
さらに、前記別の伝熱媒体流路の他方の端部に接続されていて凝縮した伝熱媒体を収容する別の伝熱媒体タンクと、前記金型の前記伝熱媒体流路と前記別の金型の前記別の伝熱媒体流路とを連通させるのに使用される開閉弁とを具備し、前記金型の加熱時または冷却時の初期には、前記開閉弁を開放して、前記金型の前記伝熱媒体流路と前記別の金型の前記別の伝熱媒体流路との間で前記伝熱媒体を流通させるようにした。
すなわち7番目の発明においては、二つの金型の間の温度差が比較的大きい加熱時または冷却時の初期に、それぞれの金型の伝熱媒体を加熱または冷却のために使用できる、これにより、両方の金型の加熱または冷却に必要とされるエネルギ消費を抑えることができる。なお、二つの金型の温度が概ね等しくなった後においては、それぞれの金型をボイラまたはコンデンサに切換えれば足りる。
【0017】
8番目の発明によれば、金型に形成された伝熱媒体流路の一方の端部から伝熱媒体の蒸気を前記伝熱媒体流路に供給することにより前記金型を加熱し、前記伝熱媒体流路において凝縮して前記伝熱媒体流路の他方の端部から流出した伝熱媒体を伝熱媒体タンクに回収し、前記伝熱媒体の蒸気の供給を停止し、前記伝熱媒体タンクに収容された前記伝熱媒体を前記伝熱媒体流路の他方の端部から前記伝熱媒体流路に戻して該伝熱媒体流路において沸騰した前記伝熱媒体の蒸気を前記伝熱媒体流路の前記一方の端部を通じてコンデンサに供給することにより、前記金型を冷却する金型温度制御方法が提供される。
【0018】
すなわち8番目の発明においては、伝熱媒体の蒸気が伝熱媒体流路内で凝縮する際の凝縮熱伝達によって金型を加熱でき、また伝熱媒体流路に再び供給された凝縮後伝熱媒体の沸騰蒸発により金型を冷却できる。つまり、8番目の発明においては、加熱作用および冷却作用の両方において熱伝達率の高い相変化伝熱を用いているので、加熱および冷却に要する時間を短くでき、結果的に成型品の生産性を高められる。さらに、8番目の発明においては、加熱時に凝縮した伝熱媒体を冷却水の代わりに使用する、つまり加熱および冷却に同一の伝熱媒体を使用している。従って、蒸気の発生源と冷却水源の両方が必要とされる従来技術の場合と比較して、金型温度制御装置の構成が単純になり、またランニングコストを低下させられる。さらに8番目の発明においては、冷却時に沸騰蒸発した伝熱媒体の蒸気をコンデンサにおいて再び凝縮させられる。なお、冷却作用の開始時には、伝熱媒体流路の一方の端部を予めコンデンサに切換えておくのが好ましい。
【0019】
9番目の発明によれば、8番目の発明において、前記金型の冷却時には、前記伝熱媒体流路内の圧力が限界熱流束条件近傍となるように、前記コンデンサと前記伝熱媒体流路との間の圧力差を制御しつつ前記伝熱媒体を沸騰させるようにした。
すなわち、9番目の発明においては、沸騰液膜が切れるのを回避できるので、金型を迅速に冷却できる。
【0020】
10番目の発明によれば、8番目または9番目の発明において、前記金型を加熱する前に、少なくとも前記金型の前記伝熱媒体流路内の不凝縮ガスを排除する。
すなわち10番目の発明においては、不凝縮ガスを予め排除するので、金型温度制御装置のシステム内は伝熱媒体の蒸気により満たされる。この目的のために、伝熱媒体はボイラに供給する前に、予め脱気しておくのが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の図面において同一の部材には同一の参照符号が付けられている。理解を容易にするために、これら図面は縮尺を適宜変更している。
図1は本発明の第一の実施形態に基づく金型温度制御装置の概念図である。図1に示される金型温度制御装置10の金型20は固定型21と可動型22とからなり、可動型22が固定型21に対して移動することにより金型20は開閉する。これら固定型21と可動型22の当接面にはキャビティ(図示しない)が形成されている。金型20は例えば射出成形を行うのに使用され、加熱溶融させた材料がシリンダ(図示しない)などによってキャビティに供給され、周知の手法により金型20内で成形される。
【0022】
図示されるように、固定型21および可動型22には当接面に沿って延びる伝熱媒体流路25、26がそれぞれ形成されている。これら伝熱媒体流路25、26のそれぞれの下端25b、26bには伝熱媒体室27、28が形成されている。図1から分かるように、伝熱媒体室27、28の当接面側の面は伝熱媒体流路25、26と同一平面になっており、伝熱媒体室27、28の反対側の面が当接面から離れる方向に延びている。後述するように、これら伝熱媒体室27、28は凝縮した伝熱媒体の一部を一時的に保管する役目を果たす。
【0023】
伝熱媒体室27、28から固定型21および可動型22の外側までそれぞれ延びる配管41、42は配管43として互いに合流し、伝熱媒体タンク35に接続している。配管43には第一ポンプP1が配置されている。第一ポンプP1は正転時には伝熱媒体タンク35内の伝熱媒体を伝熱媒体室27、28まで供給すると共に、逆転時には伝熱媒体室27、28内の伝熱媒体を伝熱媒体タンク35まで供給する。
【0024】
図1に示されるように、金型温度制御装置10は、コンデンサCとボイラBとをさらに含んでいる。これらコンデンサCおよびボイラBには伝熱媒体がそれぞれ適量ずつ充填されている。本発明の金型温度制御装置10において使用される伝熱媒体は、例えば水であり、以下、伝熱媒体が液体の水であるものとして説明するが、伝熱媒体が金型20の温度制御条件に適した他の流体、例えばフルオロカーボンまたはアンモニア等の冷媒であってもよい。
【0025】
図1に示されるように、ボイラBは、図示しない電源に接続された電気ヒータ31を含んでいる。電気ヒータ31はボイラBにおける伝熱媒体に浸漬されている。このため、電気ヒータ31は伝熱媒体を加熱して伝熱媒体の蒸気を発生させるのに十分な温度にまで昇温できる。
【0026】
また、コンデンサCは、図示しない冷媒源において冷却された冷媒を循環する冷媒循環路32を含んでいる。冷媒循環路32はコンデンサCにおける伝熱媒体よりも上方に位置決めされている。コンデンサCに供給された伝熱媒体の蒸気は冷媒循環路32の表面において冷却されて凝固し、コンデンサC内に貯留される。
【0027】
さらに、図示されるように、コンデンサC内の伝熱媒体とボイラB内の伝熱媒体とは配管44によって互いに接続されている。配管44に設けられる第二ポンプP2はコンデンサC内の伝熱媒体をボイラBまで搬送する役目を果たす。
【0028】
また、コンデンサCおよびボイラBからそれぞれ延びる配管45、46は切換弁V1に接続している。切換弁V1から延びる配管47は配管48、49に分岐している。これら配管48、49は伝熱媒体流路25、26の上端25a、26aにそれぞれ接続している。なお、コンデンサCと切換弁V1とを接続する配管45には、流量調整弁V2が設けられている。この流量調整弁V2は例えばPICコントロールバルブであり、通常は開放状態にある。
【0029】
さらに、配管45、46、47の途中から延びる細管95、96、97は互いに合流して吸引ポンプP3に接続されている。これら細管95、96、97には開閉弁がそれぞれ設けられており、これら三つの開閉弁をまとめて開閉弁V3と呼ぶ。また、図面には示さないものの、開閉弁を備えた別の細管が他の配管41〜44を吸引ポンプP3に接続していてもよい。なお、各弁、ポンプ、ボイラBおよびコンデンサCはデジタルコンピュータなどの制御装置(図示しない)に接続されており、この制御装置が金型温度制御装置10全体の動作を制御するものとする。
【0030】
本発明の金型温度制御装置10に含まれる固定型21および可動型22の伝熱媒体流路25、26、伝熱媒体タンク35、ボイラB、コンデンサC、第一ポンプP1、第二ポンプP2、切換弁V1、流量調整弁V2ならびに配管41〜49は互いに流体密に接続されている。従って、金型温度制御装置10の駆動時に伝熱媒体が金型温度制御装置10から漏洩することはない。また、配管41〜49による圧力損失は十分に小さく、その影響は無視できるものとする。
【0031】
本発明の金型温度制御装置10を動作させるにあたって、はじめに細管95、96、97上の開閉弁V3を開放して、吸引ポンプP3を駆動する。これにより、金型温度制御装置10内に存在していた不凝縮ガス、例えば空気は細管95、96、97を通じて金型温度制御装置10外部に排出される。その結果、金型温度制御装置10のシステム内は伝熱媒体の蒸気で充満されるようになる。不凝縮ガスの排出後は、開閉弁V3を閉鎖して吸引ポンプP3を停止する。
【0032】
なお、開閉弁V3の閉鎖後においては、新たな不凝縮ガスが金型温度制御装置10内部で発生した場合、例えば金型温度制御装置10内の伝熱媒体から空気が発生した場合などを除いて、吸引ポンプP3を再駆動する必要はない。このため、金型温度制御装置10において使用される伝熱媒体は予め脱気しておくのが好ましく、それにより、金型温度制御装置10の駆動時に伝熱媒体内の溶存空気が金型温度制御装置10内に発生するのを抑制することができる。
【0033】
ボイラBおよびコンデンサCを予め駆動する。ボイラB内の伝熱媒体は電気ヒータ31によって蒸気となり、ボイラB内部を充填するので、ボイラB内の圧力はコンデンサC内の圧力よりも高くなる。
【0034】
図2は金型温度制御装置10の動作を示すタイムチャートである。具体的には、図2におけるタイムチャートは切換弁V1、第一ポンプP1および金型20の状態を示している。さらに、図3(a)および図3(b)のそれぞれは、加熱作用から冷却作用への切換時における金型の圧力と時間との関係および金型の温度と時間との関係の一例を示す図である。これら図面においては横軸は時間を示しており、縦軸はそれぞれ金型の伝熱媒体流路25、26における圧力および温度を示している。以下、これら図面を参照しつつ、本発明の金型温度制御装置10の動作について説明する。
【0035】
はじめに、図2に示される時間t0において切換弁V1をボイラB側に切換える。ボイラB内の圧力は伝熱媒体の蒸気によって高くなっているので、ボイラB内の伝熱媒体の蒸気が配管46、47、48、49を通って固定型21および可動型22の伝熱媒体流路25、26にそれぞれ流入する。従って、伝熱媒体流路25、26内の圧力はボイラBの圧力に応じた圧力、例えば9kPaまで上昇する。
【0036】
これにより、伝熱媒体の蒸気が凝縮熱伝達を生じさせ、伝熱媒体流路25、26の内壁を通じて固定型21および可動型22全体が加熱されるようになる。従って、金型20は所望の温度、例えば40℃まで上昇する(図3(b)を参照されたい)。凝縮熱伝達は金型の温度が蒸気の飽和温度よりも低い箇所で集中的に生じるので、固定型21および可動型22は所望の温度まで概ね均等に加熱される。伝熱媒体の相変化伝熱が生じる温度は伝熱媒体の圧力によって定まるので、ボイラB内の圧力は金型20を所望の加熱温度にするのに適した圧力に予め調節されているものとする。
【0037】
図3(b)における破線X1は伝熱媒体流路25、26内の温度を示しており、実線X2は金型20のキャビティの温度を示している。金型20を加熱するにあたって、キャビティの温度が伝熱媒体流路25、26の温度よりもわずかながら遅れて上昇するのが分かるであろう。
【0038】
金型20を加熱しているときには、伝熱媒体の蒸気はボイラBから金型20の伝熱媒体流路25、26まで連続的に供給される。一方、伝熱媒体流路25、26において蒸気から液体に凝縮した伝熱媒体は伝熱媒体室27、28に一時的に収容される。そして、これら伝熱媒体室27、28が液体の伝熱媒体により完全に満たされると、図2の時刻t1において第一ポンプP1が逆転方向に駆動して、伝熱媒体室27、28内の伝熱媒体が伝熱媒体タンク35まで搬送される。
【0039】
このような加熱作用を所定時間にわたって行うことによって金型20のキャビティに充填された材料の附形が終了すると、第一ポンプP1を正転方向に駆動して(時刻t2)、伝熱媒体タンク35内の伝熱媒体を伝熱媒体流路25、26に再び戻す。そして、第一ポンプP1の正転方向駆動と同時に、切換弁V1を比較的低圧のコンデンサC側に切換える。
【0040】
これにより、伝熱媒体流路25、26内の圧力は低下し、伝熱媒体流路25、26内の伝熱媒体は比較的低温であっても沸騰する。従って、固定型21および可動型22は冷却されるようになる(図3(b)を参照されたい)。伝熱媒体流路25、26中での伝熱媒体の沸騰による冷却を効率化するために、金型温度制御装置10中の不凝縮ガスは十分に排除され、制御装置内の圧力がそれぞれの位置における温度に対応した飽和圧力、例えば水を伝熱媒体とする場合、20℃で2.3kPaとなっているものとする。
【0041】
金型20の冷却時に生じた伝熱媒体の蒸気は配管48、49、47および配管45を通じてコンデンサCに流入する。そして、コンデンサCに流入した伝熱媒体の蒸気は冷媒循環路32の表面において凝縮し、液体の伝熱媒体としてコンデンサC内に貯留される。
【0042】
金型20が所定の温度まで冷却されると、可動型22を固定型21から離間させてキャビティ内の成型品を取出し、可動型22を固定型21に当接させ、次の加熱溶融材料をキャビティに充填する。そして、金型20を加熱させる準備が終了すると、時刻t3において第一ポンプP1を停止して切換弁V1をボイラB側に切換えて、前述した加熱作用を行う。その後は、前述したのと同様に冷却作用を行い、以下、加熱作用およびび冷却作用を繰返すものとする。
【0043】
このような加熱作用および冷却作用を繰返すと、ボイラB内の伝熱媒体量は次第に少なくなり、その代わりにコンデンサC内の伝熱媒体量が増加する。従って、所定の回数だけ加熱作用および冷却作用を繰返した後で、第二ポンプP2を駆動し、それにより、コンデンサC内の伝熱媒体の一部をボイラBまで搬送する。つまり、ボイラB内の伝熱媒体が不足した場合には、コンデンサC内の伝熱媒体でもって補うようにする。このため、本発明においては、ボイラBおよびコンデンサC内の伝熱媒体量を所定の範囲内に維持することができる。
【0044】
このように、本発明においては加熱作用および冷却作用の両方において熱伝達率の高い相変化伝熱を利用しているので、加熱および冷却に要する時間を短くでき、結果的に成型品の生産性を高められる。さらに、本発明においては、加熱および冷却に同一の伝熱媒体を使用しているので、金型温度制御装置10の構成が単純になる。
【0045】
また、吸引ポンプP3によって金型温度制御装置10を減圧した後においては吸引ポンプP3を再駆動する必要はなく、また、従来技術のように蒸気の発生源と冷却水源の両方を必要とすることがない。従って、本発明の金型温度制御装置10においては、従来技術の場合と比較してランニングコストを低下させられる。
【0046】
さらに、本発明においては、金型20に伝熱媒体流路25、26等を形成して、その内面を加熱および冷却のための伝熱面として使用している。このような伝熱媒体流路25、26等は比較的小型の金型20であっても形成することができるので、本発明の金型温度制御装置10は、電気ヒータの設置場所が制限されるマイクロ射出成形の場合などに特に有利である。
【0047】
ところで、図4(a)および図4(b)は、それぞれ金型の加熱時および冷却時における過熱度と熱流束値との関係の一例を示す図である。これら図面において横軸は過熱度ΔT、すなわち伝熱媒体蒸気の飽和温度と金型20温度との間の温度差を示しており、縦軸は伝熱媒体流路25、26の表面における熱流束値qを示している。なお、図4(a)においては金型加熱熱流束を正とし、図4(b)においては冷却熱流束を負としている。
【0048】
図4(a)から分かるように、金型20の加熱時における熱流束値qは過熱度ΔTに比例している。このため、金型20を加熱する際には、より飽和温度の高い蒸気、すなわちより圧力の高い蒸気を用いるのが好ましく、これにより、金型20の加熱に要する時間をより短くすることが可能となる。
【0049】
また、図4(b)から分かるように、金型20の冷却時における熱流束値qは過熱度ΔTの3乗に概ね比例している。すなわち、金型20を冷却する際には、伝熱媒体蒸気を低下させることにより、より短時間での冷却が可能となる。ただし、コンデンサC内の圧力によって定まる飽和温度と金型20の温度との間の温度差(過熱度)が所定の値よりも大きい場合には沸騰液膜が切れて熱流束が減少する限界熱流束条件に至り、冷却性能が低下する。従って、伝熱媒体の蒸気圧力が限界熱流束条件を越えない範囲で当該蒸気圧力が最も低くなるように調節するのが好ましく、それにより、金型20を迅速に冷却することができる。伝熱媒体の蒸気圧力の調整は流量調整弁V2により行うようにし、冷却開始時からの経過時間に応じてコンデンサCに流れる蒸気圧力を徐々に低下させるようにする。
【0050】
さらに、図5は或る実験例において金型の温度と時間との関係を示す他の例図である。図5において横軸は時間を示しており、縦軸は金型20の温度を示している。図5における実線Y1は金型20のキャビティの温度を表しており、破線Y2は伝熱媒体流路25、26の温度を表している。なお、図5における実線Y0は、電気ヒータによる加熱と冷却水による冷却とを行うようにした従来技術の金型の温度を表している。
【0051】
図5に示されるように、金型20を加熱して例えば50℃まで冷却させることを望む場合には、従来技術の場合には時間A3が必要とされる。一方、本発明の金型温度制御装置10を用いた場合には、加熱と冷却との両方に要する時間は時間A1またはA2まで短縮できる。図5から分かるように、本発明の金型温度制御装置10によって加熱および冷却に要する時間の総量を約15%から約20%程度だけ短縮できる。
【0052】
なお、図5においては、金型20の冷却の初期段階Z1と後期段階Z2とではコンデンサCに流入する伝熱媒体の蒸気圧力を変化させている。すなわち、後期段階Z2における蒸気圧力は初期段階Z1における蒸気圧力よりも低く設定されている。そして、初期段階Z1と後期段階Z2との間の領域においては流量調整弁V2を閉鎖している。前述したように、このような制御を行うことによって、伝熱媒体の蒸気圧力が限界熱流束条件を越えない範囲で低くなるような調節ができ、その結果、金型20を迅速に冷却することが可能となる。当然のことながら、流量調整弁V2の閉鎖段階を設けることなしに、冷却開始時からの経過時間に応じて蒸気圧力を徐々に小さくするようにしてもよい。
【0053】
図6は本発明の第二の実施形態に基づく金型温度制御装置の概念図である。第二の実施形態において前述したのと同じ部材については説明を省略する。図6に示される金型温度制御装置10’は金型20に加えて他の金型50をさらに備えている。金型50は金型20と同一の構成であり、伝熱媒体流路55および伝熱媒体室57が形成されている固定型51と、伝熱媒体流路56および伝熱媒体室58が形成されている可動型52とを含んでいる。また、図示されるように、伝熱媒体室57、58から延びる配管75、76は配管77に合流して伝熱媒体タンク65に接続されている。配管77上には、第一ポンプP1と同様な構成の他のポンプP1’が配置されている。
【0054】
また、第二の実施形態においては、配管47が延びる切換弁V1は配管45、46を接続する配管71に設けられている。そして、図示されるように、配管45、46は他の切換弁V1’にも接続している。他の切換弁V1’から延びる配管73は途中で配管78、79に分岐しており、これら配管78、79は伝熱媒体流路55、56の上端にそれぞれ接続している。
【0055】
さらに、第二の実施形態においては、切換弁V1から延びる配管47と他の切換弁V1’から延びる配管73とが、配管74によって互いに接続されている。そして、開閉弁V4が配管74に設けられている。また、図示されるように、吸引ポンプP3から延びる細管95、96、97、98は配管45、配管46、配管47、配管73にそれぞれ接続されている。なお、これら開閉弁V4およびポンプP1’も制御装置(図示しない)に接続されているものとする。
【0056】
第二の実施形態における金型20および他の金型50の加熱作用および冷却作用は図1等を参照して説明したのと概ね同様であり、それぞれの金型20、50に対応するポンプP1、P1’および切換弁V1、V1’を前述したように動作させることにより行われる。
【0057】
図7は第二の実施形態に基づく金型温度制御装置のタイムチャートである。図7に示されるように、第二の実施形態においては金型20と他の金型50の加熱および冷却作用は交互に行われる。すなわち、金型20が加熱状態にあるときには他の金型50は冷却状態にあり、他の金型50が加熱状態にあるときには金型20は冷却状態にある。
【0058】
ただし、図7から分かるように、加熱作用と冷却作用とを切換えるときには、切換弁V1および他の切換弁V1’はOFF状態、すなわちボイラBおよびコンデンサCの両方に一時的に接続しないようにする。そして、これら切換弁V1、V1’がOFF状態にあるときに、開閉弁V4を開放し、高温側金型のポンプP1もしくはP1’を正転方向に運転して伝熱媒体を伝熱媒体流路25、26もしくは伝熱媒体流路55、56に戻す。これにより、高温側の金型、つまり加熱作業が直前まで行われていた金型においては、伝熱媒体が沸騰し、それにより、金型が冷却される。同時に、低温側の金型、つまり冷却作業が直前まで行われていた金型においては、高温側の金型から伝熱媒体の蒸気が流入して凝縮し、それにより、金型の加熱が行われる。
【0059】
言い換えれば、第二の実施形態においては、高温側の金型をボイラBとして、および低温側の金型をコンデンサCとして一時的に利用する。第二の実施形態においては、加熱作用および冷却作用の初期において、ボイラBおよびコンデンサCを一時的に利用しないようにしているので、両方の金型の加熱または冷却に必要とされるエネルギ消費を抑えることが可能となる。
【0060】
このような金型の利用は、二つの金型の間の温度差が比較的大きい切換直後にのみ行われる。或る程度の時間が経過すると二つの金型の温度は概ね等しくなるので、第二の実施形態においては、所定の時間T0が経過すると、切換弁V1、V1’を本来の切換対象(ボイラBまたはコンデンサC)に切換えると共に開閉弁V4を閉鎖する。これにより、第一の実施形態の場合と同様の加熱作用および冷却作用が行われるようになる。
【0061】
なお、さらに多数の金型を使用することは本発明の範囲に含まれるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の第一の実施形態に基づく金型温度制御装置の概念図である。
【図2】図1に示される金型温度制御装置の各要素の動作を示すタイムチャートである。
【図3】(a)加熱作用から冷却作用への切換時における金型の圧力と時間との関係の一例を示す図である。(b)加熱作用から冷却作用への切換時における金型の温度と時間との関係の一例を示す図である。
【図4】(a)金型の加熱時における過熱度と熱流束値との関係の一例を示す図である。(b)金型の冷却時における過熱度と熱流束値との関係の一例を示す図である。
【図5】金型の温度と時間との関係を示す他の例図である。
【図6】本発明の第二の実施形態に基づく金型温度制御装置の概念図である。
【図7】図6に示される金型温度制御装置のタイムチャートである。
【符号の説明】
【0063】
10、10’ 金型温度制御装置
20 金型
25、26 伝熱媒体流路
25a、26a 上端
25b、26b 下端
27、28 伝熱媒体室
31 電気ヒータ
32 冷媒循環路
35 伝熱媒体タンク
41〜49 配管
50 金型
55、56 伝熱媒体流路
57、58 伝熱媒体室
65 伝熱媒体タンク
71、73〜79 配管
95、96、97、98 細管
B ボイラ
C コンデンサ
P1、P1’ 第一ポンプ
P2 第二ポンプ
P3 吸引ポンプ
V1、V1’ 切換弁
V2 流量調整弁
V3 開閉弁
V4 開閉弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝熱媒体流路が形成されている金型と、
伝熱媒体を加熱して蒸気を発生させるボイラと、
伝熱媒体の蒸気を凝縮するコンデンサとを具備し、
前記ボイラおよびコンデンサは前記伝熱媒体流路の一方の端部に互いに切換可能に接続されており、
さらに、
前記伝熱媒体流路の他方の端部に接続されると共に凝縮した伝熱媒体を回収する伝熱媒体タンクとを具備し、
前記ボイラにより発生した前記伝熱媒体の蒸気を前記金型の前記伝熱媒体流路に供給することにより前記金型を加熱し、
前記金型の前記伝熱媒体流路において凝縮して前記伝熱媒体タンクに回収された前記伝熱媒体を前記伝熱媒体流路に戻して該伝熱媒体流路において沸騰した前記伝熱媒体の蒸気を前記伝熱媒体流路の前記一方の端部を通じて前記コンデンサに供給することにより、前記金型を冷却するようにした金型温度制御装置。
【請求項2】
前記金型の冷却時には、前記伝熱媒体流路内の圧力が限界熱流束条件近傍となるように、前記コンデンサと前記伝熱媒体流路との間の圧力差を制御しつつ前記伝熱媒体を沸騰させるようにした請求項1に記載の金型温度制御装置。
【請求項3】
さらに、前記金型温度制御装置に接続された吸引ポンプを具備し、前記金型温度制御装置内の不凝縮ガスは前記吸引ポンプによって予め排除されている請求項1または2に記載の金型温度制御装置。
【請求項4】
さらに、前記伝熱媒体通路の他方の端部と前記伝熱媒体タンクとの間に配置された第一ポンプを具備し、該第一ポンプは前記伝熱媒体タンクに収容された前記伝熱媒体を前記伝熱媒体流路に戻すのに使用される請求項1から3のいずれか一項に記載の金型温度制御装置。
【請求項5】
さらに、前記コンデンサと前記ボイラとの間に配置された第二ポンプを具備し、該第二ポンプは前記コンデンサにおいて凝縮した伝熱媒体を前記ボイラまで供給するのに使用される請求項1から4のいずれか一項に記載の金型温度制御装置。
【請求項6】
前記金型内における前記伝熱媒体流路には、凝縮した伝熱媒体を収容する伝熱媒体室が形成されている請求項4に記載の金型温度制御装置。
【請求項7】
さらに、別の伝熱媒体流路が形成されている別の金型とを具備し、前記ボイラは前記別の伝熱媒体流路の一方の端部に前記金型と切換可能に接続されており、
さらに、前記別の伝熱媒体流路の他方の端部に接続されていて凝縮した伝熱媒体を収容する別の伝熱媒体タンクと、
前記金型の前記伝熱媒体流路と前記別の金型の前記別の伝熱媒体流路とを連通させるのに使用される開閉弁とを具備し、
前記金型の加熱時または冷却時の初期には、前記開閉弁を開放して、前記金型の前記伝熱媒体流路と前記別の金型の前記別の伝熱媒体流路との間で前記伝熱媒体を流通させるようにした請求項1から6のいずれか一項に記載の金型温度制御装置。
【請求項8】
金型に形成された伝熱媒体流路の一方の端部から伝熱媒体の蒸気を前記伝熱媒体流路に供給することにより前記金型を加熱し、
前記伝熱媒体流路において凝縮して前記伝熱媒体流路の他方の端部から流出した伝熱媒体を伝熱媒体タンクに回収し、
前記伝熱媒体の蒸気の供給を停止し、
前記伝熱媒体タンクに収容された前記伝熱媒体を前記伝熱媒体流路の他方の端部から前記伝熱媒体流路に戻して該伝熱媒体流路において沸騰した前記伝熱媒体の蒸気を前記伝熱媒体流路の前記一方の端部を通じてコンデンサに供給することにより、前記金型を冷却する金型温度制御方法。
【請求項9】
前記金型の冷却時には、前記伝熱媒体流路内の圧力が限界熱流束条件近傍となるように、前記コンデンサと前記伝熱媒体流路との間の圧力差を制御しつつ前記伝熱媒体を沸騰させるようにした請求項8に記載の金型温度制御方法。
【請求項10】
前記金型を加熱する前に、少なくとも前記金型の前記伝熱媒体流路内の不凝縮ガスを排除する請求項8または9に記載の金型温度制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−290279(P2007−290279A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−122054(P2006−122054)
【出願日】平成18年4月26日(2006.4.26)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】