説明

金属−絶縁樹脂基板及びその製造方法

【課題】絶縁層中の空隙を抑え、耐熱性、寸法安定性に加え、熱伝導特性と電気絶縁性にも優れ且つ安定し、金属層との優れた接着性を有する金属−絶縁樹脂基板及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の金属−絶縁樹脂基板は、金属層上に、直接又は接着樹脂層を介して、絶縁層となる耐熱性樹脂層(A)が設けられ、耐熱性樹脂層(A)は、金属層側に設けられる絶縁層(a)と、絶縁層(a)に積層する絶縁層(b)とを有し、絶縁層(a)は、平均粒子径が5μm以上の充填材(F1)を20体積%以上含むとともに充填材(F1)に起因する突き出し形状部を有し、また、絶縁層(b)は、前記突き出し形状部を埋没させていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属−絶縁樹脂基板に関し、特には熱伝導性に優れた絶縁層を有する熱伝導性金属−絶縁樹脂基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、LED照明器具、自動車エンジ周り関連部品に代表されるように、電子機器の小型化、軽量化に対する要求は高まってきている。それに伴い機器の小型化、軽量化に有利なフレキシブル回路基板は電子技術分野において広く使用されるようになってきている。そして、その中でもポリイミド樹脂を絶縁層とするフレキシブル回路基板は、その耐熱性、耐薬品性などが良好なことから従来から広く用いられている。
【0003】
最近の電子機器の小型化により、回路の集積度は上がってきており、情報処理の高速化と信頼性とも相まって、機器内に生じる熱の放熱手段が注目されている。
電子機器内に生じる熱の放熱特性を高めるには、電子機器部材の熱伝導性を高めることが有効と考えられている。配線基板等を構成する絶縁層中に熱伝導性フィラー(充填材)を含有させる技術が検討されており、この場合、絶縁層を形成する樹脂中に、酸化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの熱伝導性の高い充填材が用いられている。
【0004】
このような技術を応用し、特に高い熱伝導率を得るために板状熱伝導性フィラーと球状熱伝導性フィラーを組み合わせて充填した放熱シートが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。かかる提案は、板状熱伝導性フィラーをマトリックス樹脂に多段状に分布させ、その層間に球状熱伝導性フィラーを分布させることで放熱特性を高めようとするものである。
【0005】
また、高熱伝導性を有する粒子状のフィラーとして、熱伝導率が10W/mK以上でかつ粒径が9μm以上の高熱伝導性フィラーと、熱伝導率が10W/mK以上でかつ粒径が2.5〜5μm以下の高熱伝導性フィラーとを組合せた高熱伝導性樹脂や、積層部材が提案されている(例えば、特許文献2を参照)。
【0006】
このような高熱伝導性フィラーを含有する絶縁層を形成する場合の多くは、基材上に高熱伝導性フィラーを含有する樹脂溶液を塗布し、乾燥等の熱処理により絶縁層を形成する。しかし、高熱伝導性フィラーの充填率を高めたり、また粒子径のサイズをより大きなものを用いると、絶縁層の形成過程で絶縁層中に多くの空隙が発生してしまうという問題があった。このような問題を有する熱伝導性樹脂シートの製造方法において、体積配合比や乾燥後の圧縮によりこれをなくそうとする技術が検討されている(例えば、特許文献3を参照)。
【0007】
しかしながら、絶縁層の圧縮は、その条件によっては他の特性にも影響を与えるおそれがあり、通常の塗布、乾燥等の熱処理によって空隙の少ない金属−絶縁樹脂基板の提供が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平5‐70317号公報
【特許文献2】特開2005‐281467号公報
【特許文献3】特開2008‐308576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、絶縁層中の空隙を抑え、耐熱性、寸法安定性に加え、熱伝導特性と電気絶縁性にも優れ且つ安定し、金属層との優れた接着性を有する金属−絶縁樹脂基板及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明者等は鋭意検討を重ねた結果、金属層に絶縁性の耐熱樹脂層を構成する際の層構成、及び層形成方法を工夫することで上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を解決するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、金属層上に、直接又は接着樹脂層を介して、絶縁層となるマトリックス樹脂中に充填材(F)を含有する耐熱性樹脂層(A)が設けられ、耐熱性樹脂層(A)は、金属層側に設けられる絶縁層(a)と、絶縁層(a)に積層する絶縁層(b)とを有し、絶縁層(a)は、平均粒子径が5μm以上の充填材(F1)を20体積%以上含むとともに充填材(F1)に起因する突き出し形状部を有し、また、絶縁層(b)は、前記突き出し形状部を埋没させていることを特徴とする金属−絶縁樹脂基板である。
また、絶縁層(a)及び(b)には、平均粒子径が0.1〜3μmの充填材(F2)を10〜50体積%の範囲で含むことが好ましい。
【0012】
また、本発明は、金属層上に、直接又は接着樹脂層を介して、絶縁層(a)と絶縁層(b)とを有する耐熱性樹脂層(A)を形成する方法であって、金属層面に、平均粒子径が5μm以上の充填材(F1)をマトリッスク樹脂固形分に対して20体積%以上含む樹脂溶液を塗布、熱処理し、熱処理後の耐熱性樹脂層(A)の厚さtxの0.3〜0.7倍の範囲となるように塗布、熱処理して、充填材(F1)に起因する突き出し形状部を有する絶縁層(a)を形成する第一塗布工程と、絶縁層(a)面に絶縁層(b)を形成する工程であって、充填材(F1)を有しない樹脂溶液を塗布、熱処理する第二塗布工程と、を有することを特徴とする金属−絶縁樹脂基板の製造方法でもある。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、この金属−絶縁樹脂基板の耐熱樹脂層を二段階で製造及び構成することにより、また、第一段階で充填材を突き出させることにより、耐熱樹脂層中には充填材による空隙が少ないか有しないものとなることから、乾燥後に圧縮することなく、充填材の体積配合比の増量が可能であり、熱伝導特性、電気絶縁性、耐熱性、寸法安定性に優れ且つ安定な特性が得られ、絶縁層と金属層との接着性も優れた金属−絶縁樹脂基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(a)は、製造途中の本実施態様に係る金属−絶縁層基板の概略断面図であり、(b)はその完成を示した概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の金属−絶縁樹脂基板とその製造方法の好ましい形態について詳細に説明する。
図1に示すように、金属層1上に、直接又は接着樹脂層2を介して、マトリックス樹脂中に充填材(F)を含有する絶縁層となる耐熱性樹脂層(A)が設けられ、耐熱性樹脂層(A)は、金属層側に設けられる絶縁層(a)と、絶縁層(a)に積層する絶縁層(b)とを有し、平均粒子径が5μm以上の充填材3を20体積%以上含むとともに充填材3に起因する突き出し形状部5を有し、また、絶縁層(b)は、前記突き出し形状部を埋没させている金属−絶縁樹脂基板である。
また、好ましくは、絶縁層(a)及び(b)は、平均粒子径が0.1〜3μmの充填材4を10〜50体積%を含むことが好ましい。
【0016】
本発明の金属−絶縁樹脂基板は、金属層上に充填材を含有する耐熱性樹脂層(A)が設けられたものであり、耐熱性樹脂層(A)は、金属層上に、直接設けられていても、接着樹脂層を介して設けられていてもよい。金属層の種類は特に限定されるものではなく、銅、アルミニウム、ステンレス等が挙げられ、厚さは10μm〜5mmの範囲である。
【0017】
接着樹脂層は、主に、充填材を含有する耐熱樹脂層と金属層との接着性を高めるために設けられ、耐熱性が高い樹脂であることが好ましく、ポリイミド又はエポキシ樹脂であることが好ましい。また、耐熱性樹脂層(A)のマトリックス樹脂としてポリイミドを用いる場合には、その接着樹脂層には同様にポリイミドを用いることが好ましい。但し、その同様のポリイミドとは、イミド結合を有するポリイミド材料であればよく、化学構造まで同じである必要はない。接着樹脂層をポリイミドとする場合、そのガラス転移温度が150〜380℃の範囲にある熱可塑性ポリイミドであることが好ましい。接着樹脂層には、上記目的を阻害しない範囲で充填材を含有させることもできる。接着樹脂層の厚さが厚すぎると熱伝導性が低下するので、5μm以下、特には3μm以下の層であることが好ましい。
【0018】
絶縁層である耐熱性樹脂層(A)は、絶縁層(a)及び絶縁層(a)に積層する絶縁層(b)を有する。本発明の目的を損なわない範囲で、耐熱性樹脂層(A)は、絶縁層(a)及び(b)以外の層を含んでも良い。但し、絶縁層(a)と(b)との総厚さTxは、10〜150μmの範囲が好ましい。厚さがこの範囲を下回れば、十分な絶縁性を失うおそれがある。また、厚さがこの範囲を上回れば、熱伝導性が悪くなる。
耐熱性樹脂層(A)としては、上述したようにポリイミド又はエポキシ樹脂であることが好ましいが、上記接着樹脂層よりも耐熱性の高いポリイミド樹脂であることがより好ましい。そのようなポリイミド樹脂としては、公知のポリイミド樹脂を適用することができる。
【0019】
絶縁層(a)は、平均粒子径が5μm以上の充填材(F1)を20体積%以上含むとともに充填材(F1)に起因する突き出し形状部を有する。絶縁層(a)で使用される充填材(F1)の割合は、好ましくは25〜75体積%の範囲、特に、35〜65体積%の範囲が好ましい。上記20体積%未満の割合では、平均粒子径の大きさにもよるが、絶縁層(a)面に熱伝導性充填材(F1)に起因する突き出し形状部が十分に生じない。また、上記75体積%の範囲を超えると、絶縁層(a)の機械的強度に問題を生じる虞がある。
【0020】
充填材(F1)は、平均粒子径が5μm以上の充填材である。充填材(F1)は板状及び球状フィラーでも良い。なお、充填材はフィラーとも称される。
充填材(F1)としてフィラー形状が板状、燐片状のもの(以下、板状充填材という。)を用いる場合、その充填材(F1)の平均粒子径は、平均長径DLで示される値をいう。ここで板状充填材とは、平均厚さが、表面部の平均長径又は平均短径より十分に小さいもの(好ましくは1/2以下)をいう。本発明で板状充填材を用いる場合、その平均長径DLが5μm以上のものである。また、上限は90μm以下のものが好ましく、特に、7.5〜50μmの範囲、更には、10〜30μmの範囲が好ましい。平均長径DLが5μmに満たないと、絶縁層(a)面に充填材(F1)に起因する突き出し形状部が十分に生じないと共に、熱伝導率が低く、熱膨張係数が大きくなり、板状の効果が小さくなってしまう。90μmを超えると製膜時に支障を来たす虞がある。
板状充填材の好ましい具体例を挙げると、窒化ホウ素、酸化アルミニウムが挙げられ、これらを単独で又は2種以上併用して使用することもできる。
【0021】
充填材(F1)としてフィラー形状が球状及び球状に近いもの(以下、球状充填材という。)を用いる場合、その充填材(F1)の平均粒子径は、球状充填材の粒子の直径の平均値(メディアン径)を示す。ここで球状充填材とは、平均長径と平均短径の比が1又は1に近いもの(好ましくは0.8以上)をいう。本発明で充填材(F1)に球状充填材を用いる場合、その平均粒子径DRが5μm以上のものである。また、上限は90μm以下のものが好ましく、特に、7.5〜50μmの範囲、更には、10〜30μmの範囲が好ましい。平均粒子径DRが5μmに満たないと、絶縁層(a)面に充填材(F1)に起因する突き出し形状部が十分に生じないと共に、熱伝導率が低く、熱膨張係数が大きくなり、その効果が小さくなってしまう。90μmを超えると製膜時に支障を来たす虞がある。
球状充填材の好ましい具体例を挙げると、酸化アルミニウム、溶融シリカ、窒化アルミニウムが挙げられ、これらを単独で又は2種以上併用して使用することもできる。
【0022】
充填材(F1)と耐熱性絶縁層(A)の総厚さtxの関係にあっては、充填材の平均粒子径は、耐熱性絶縁層(A)の総厚さtxの0.1〜0.9倍の範囲、特に、0.5〜0.7倍の範囲であることが好ましい。上記平均粒子径が0.1倍未満では、充填材(F1)に起因する突き出し形状部が十分に生じない。上記0.9倍を超えると、絶縁層(b)の絶縁層(a)に対する厚さが過度に拡大して機械的特性を悪くする。
【0023】
絶縁層(a)及び(b)には、平均粒子径が0.1〜3μmの充填材(F2)を含むことが好ましい。絶縁層(a)に充填材(F2)を含めると、より空隙などを塞ぐことができ、熱伝導性を更に補填する。また、絶縁層(b)は、絶縁層(a)上に設けられ、充填材(F1)を含有しないが、充填材(F1)以外の充填材を含有させることは、熱伝導性の向上のためには好ましい。その場合に含有させる充填材は、充填材(F1)の平均粒子径の半分以下の大きさの平均粒子径であることが好ましい。
このような充填材(F2)は、上述したように板状及び球状の充填材でも良く、材質も充填材(F1)と同じものが使用できる。両絶縁層には、10〜50体積%の範囲で含まれることが好ましく、より好ましくは、15〜40体積%の範囲である。
なお、本発明でいう充填材(F)は熱伝導性充填材で、熱伝導率が1.0W/m・K以上であることがよい。
【0024】
以下、本発明の金属−絶縁樹脂基板の製造方法について説明する。
本発明の金属−絶縁樹脂基板の製造方法において、金属層は上記したものと同じ金属箔を用いることができる。この金属層上に、直接又は接着樹脂層を介して充填材を含有する耐熱性絶縁層を形成するわけであるが、接着樹脂層を設ける場合は、ポリイミドやエポキシ樹脂層を形成するための樹脂溶液を金属層上に塗布し、必要により熱処理し、溶剤を乾燥する。ここで熱硬化性樹脂を接着樹脂層とした場合、硬化させて樹脂層を形成してもよい。
【0025】
絶縁層となる耐熱性樹脂層(A)は、耐熱性樹脂層(A)のマトリッスク樹脂となる樹脂溶液に充填材(F)を含有させ、この充填材含有樹脂溶液を金属層上に直接又は接着樹脂層を介して塗布し、その後、樹脂溶液中の溶剤を乾燥により除去する。ここで、マトリックス樹脂が熱硬化性樹脂である場合には、必要に応じて硬化させる。本発明では、耐熱性樹脂層(A)のマトリックス樹脂がポリイミドであることが好ましく、この場合、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸の樹脂溶液に、上記充填材を含有させたものを塗布する。また、この場合に使用される、ポリアミド酸の樹脂溶液は、固形分濃度が、10〜30質量%の範囲にあることが好ましく、これに対して、充填材をそれぞれの体積%の範囲となるように配合する。なお、使用される充填材は上記したものと同じものを使用する。
【0026】
本発明では、耐熱性樹脂層(A)は少なくとも二以上の塗布工程に分けて形成される。
金属層面に、平均粒子径が5μm以上の充填材(F1)を樹脂固形分に対して20体積%以上含む樹脂溶液を塗布、熱処理し、熱処理後の樹脂層(A)の厚さtxの0.3〜0.7の範囲となるように塗布、熱処理して、充填材(F1)に起因する突き出し形状部を有する絶縁層(a)を形成する第一塗布工程と、絶縁層(a)面に絶縁層(b)を形成する工程であって、充填材(F1)を含有しない樹脂溶液を塗布、熱処理する第二塗布工程とである。
【0027】
第一塗布工程で、充填材(F1)を少なくとも20体積%以上含有する樹脂溶液を塗布、熱処理し、1層目を形成し、その後の第二塗布工程で、充填材(F1)を含有しない樹脂溶液を塗布、熱処理する。
【0028】
本発明では、第1工程で、塗布、熱処理し、熱処理後の耐熱性樹脂層(A)の厚さtxの0.3〜0.7の範囲となるように、即ち、充填材含有樹脂層中の空隙の発生を抑えるため、第一工程で、耐熱性樹脂層(A)全体の樹脂層の30〜70体積%を形成し、続く第二工程で残りの70〜30体積%を形成し、最終的に耐熱性樹脂層(A)を形成する。耐熱性樹脂層(A)に占める充填材の含有割合は、20〜70体積%であることが好ましい。
本発明では、耐熱性樹脂層(A)形成後、更に、接着樹脂層を設けることで他の部材との接着性を向上させることもできる。
【0029】
本発明のフレキシブル基板用積層体に絶縁層を硬化・形成する方法は、特に限定されるものではなく公知の手法を採用することができる。その最も代表的な例を示せば、絶縁層の原料である熱伝導性の充填材(フィラー)を含有するポリイミド前駆体樹脂であるポリアミド酸の樹脂溶液を、金属層である銅箔等の金属箔上に直接流延塗布して150℃以下の温度である程度溶媒を乾燥除去し、その後更にイミド化のために100〜450℃、好ましくは300〜450℃の温度範囲で5〜40分間程度の熱処理を行って金属層上に充填材を含有するポリイミド樹脂からなる絶縁層を形成する方法が一般的である。
また、絶縁層を2層以上のポリイミド層とする場合、第一のポリアミド酸の樹脂溶液を塗布、乾燥したのち、第二のポリアミド酸の樹脂溶液を塗布、乾燥し、以下同様にして第三以下のポリアミド酸の樹脂溶液を順次、塗布、乾燥したのち、まとめて300〜450℃の温度範囲で5〜40分間程度の熱処理を行って、イミド化を行うことがよい。熱処理の温度が100℃より低いとポリイミドの脱水閉環反応が十分に進行せず、反対に450℃を超えると、ポリイミド樹脂層及び銅箔が酸化等により劣化するおそれがある。
【0030】
上記絶縁層の形成において用いられる充填材を含有するポリアミド酸の樹脂溶液は、ポリアミド酸の樹脂溶液に充填材を直接配合してもよいが、フィラー分散性を考慮し、原料(酸二無水物成分又はジアミン成分)の一方を投入した反応溶媒に予め充填材を配合し、攪拌下に重合を進行させてもよい。
【0031】
また本発明では、上記のように、金属層/耐熱性樹脂層(A)を形成した樹脂層側に、更に、金属層を設けることもできる、この場合、耐熱性樹脂層(A)と金属層間に接着層を設けてもよく、積層は、プレスまたはロールによるラミネートなどの加熱圧着により行うことができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例に基づいて本発明の内容を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0033】
本実施例に用いた略号を以下に示す。
m−TB:2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル
TPE−R:1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン
BAPP:2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン
PMDA:ピロメリット酸二無水物
BPDA:3,3’4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸
DMAc:N,N−ジメチルアセトアミド
【0034】
また、実施例において評価した各特性については、下記評価方法に従った。なお、実施例中、積層基板は金属−絶縁樹脂基板であり、フィルムはこの積層基板から金属層を除去して得られる絶縁層のフィルムを意味する。
【0035】
[厚さ方向熱伝導率(λz)]
測定対象のフィルム(絶縁層、以下同じ)を20mm×20mmのサイズに切り出し、レーザーフラッシュ法による厚さ方向の熱拡散率(ブルカー・エイエックスエス製LFA 447 Nanoflash装置)、DSCによる比熱、気体置換法による密度をそれぞれ測定し、これらの結果をもとに熱伝導率を算出した。
【0036】
[接着強度]
テンションテスターを用い、幅1mmの積層体の樹脂側を両面テープによりアルミ板に固定し、銅を180°方向に50mm/minの速度で剥離してピール強度を求めた。値が0.6kN/m以上のものは○とし、それ以下は×とした。
【0037】
[絶縁破壊電圧]
両面に銅箔を有する金属−絶縁樹脂基板を5cm×5cmのサイズでカットし、片側の銅箔を直径2cm円状に加工し、不要部分は銅箔エッチング液で除去した。JIS C2110に基づき、KIKUSUI製TOS 5101装置にて段階昇圧法、絶縁油中にて耐電圧を測定した。0.2kV刻みで電圧をステップ上昇させ、各電圧において20秒保持し、漏れ電流8.5mAとし、破壊した電圧の一つ前の値を初期絶縁破壊電圧とする。
サンプルを120℃/95RH%湿度の環境に24時間保持後、測定した絶縁破壊電圧を湿熱後耐電圧とする。
【0038】
(合成例1)
窒素気流下で、m−TB(20.73g、0.0976mol)を500mlのセパラブルフラスコの中で攪拌しながら溶剤DMAc255g中に溶解させた。次いで、PMDA(11.54g、0.053mol)、BPDA(12.73g、0.043mol)を加えた。その後、溶液を室温で3時間攪拌を続けて重合反応を行い、茶褐色の粘稠なポリアミド酸溶液(P1)を得た。
【0039】
(合成例2)
窒素気流下で、BAPP(15.02g、0.037mol)を300mlのセパラブルフラスコの中で攪拌しながら溶剤DMAc170g中に溶解させた。次いで、PMDA(17.73g、0.035mol)、BPDA(0.55g、0.002mol)を加えた。その後、溶液を室温で3時間攪拌を続けて重合反応を行い、茶褐色の粘稠なポリアミド酸溶液(P2)を得た。
【0040】
(実施例1)
固形分濃度15wt%のポリアミド酸溶液(P1)100質量部と、板状充填材として窒化ホウ素(昭和電工(株)社製、商品名:UHP−1、鱗片形状、平均長径DL8μm)11質量部(但し、分級機により25μm以上の粒子を取除いた。)を均一になるまで遠心攪拌機で混合し、充填材を含有するポリアミド酸溶液(実1−1)を得た(樹脂固形分に対する充填材は30体積%)。
また、固形分濃度15wt%のポリアミド酸溶液(P1)100質量部と、板状充填材として窒化ホウ素(電気化学(株)社製、商品名:SP−3’、鱗片形状、平均長径DL2.5μm)11質量部を均一になるまで遠心攪拌機で混合し、充填材を含有するポリアミド酸溶液(実1−2)を得た(樹脂固形分に対する充填材は30体積%)。
【0041】
厚さ12μmの電解銅箔上に充填材を配合していないポリアミド酸溶液(P2)を硬化後の厚さが2μmとなるように塗布し、130℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。次に、その上に板状充填材を含有するポリアミド酸溶液(実1−1)を硬化後の厚さが44μmとなるように塗布し、130℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。さらに、その上に板状充填材を含有するポリアミド酸の溶液(実1−2)を硬化後の厚さが12μmとなるように塗布し、130℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。最後に、その上に充填材を配合していないポリアミド酸溶液(P2)を硬化後の厚さが2μmとなるように塗布し、130℃で加熱乾燥し溶剤を除去し、その後、130〜360℃の温度範囲で、段階的に30分かけて昇温加熱して、銅箔上に4層のポリイミド層からなる60μm厚さの絶縁性及び熱伝導性の耐熱樹脂層(両側合計4μmの接着剤層を含む。)を有する金属−絶縁樹脂基板を作製した。耐熱樹脂層の構成を表1に、フィルムと金属−絶縁樹脂基板の評価結果を表2に示す。
【0042】
(実施例2)
実施例1で用いた板状窒化ホウ素(UHP−1)の代わりに、充填材として球状アルミナDAW10(平均粒子径10μm)を18質量部、板状充填材(SP−3’)の量を15質量部とし、実施例1と同様の方法で厚さ構成が2/80/16/2(μm)の4層ポリイミド層からなる100μm厚さの絶縁性及び熱伝導性の耐熱樹脂層(両側合計4μmの接着剤層を含む。)を有する金属−絶縁樹脂基板を作製した。耐熱樹脂層の構成を表1に、フィルムと金属−絶縁樹脂基板の評価結果を表2に示す。
【0043】
(実施例3)
実施例1で用いた板状窒化ホウ素(UHP−1)の代わりに、充填材として球状アルミナDAW10(平均粒径10μm)を19質量部用い、2/76/10/2(μm)の厚さ構成で4層ポリイミド層からなる80μm厚さの絶縁性及び熱伝導性の耐熱樹脂層(両側合計4μmの接着剤層を含む。)を有する金属積層体を作製した。耐熱樹脂層の構成を表1に、フィルムと金属−絶縁樹脂基板の評価結果を表2に示す。
【0044】
(実施例4)
実施例1の板状窒化ホウ素(UHP−1)の代わりに、充填材として球状アルミナDAW10(平均粒径10μm、最大粒径60μm)を11質量部用い、実施例1と同様の方法で、第4層目まで板状充填材を含有する樹脂(実1−2)を130℃加熱終了後、その上に樹脂(実1−2)を更に塗布し、130℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。最終的に銅箔上に5層のポリイミド層からなる130μm厚さの絶縁性及び熱伝導性の耐熱樹脂層(両側合計4μmの接着剤層を含む。)を有する金属−絶縁樹脂基板を作製した。硬化後の厚さ構成は2/100/12/14/2であった。耐熱樹脂層の構成を表1に、フィルムと金属−絶縁樹脂基板の評価結果を表2に示す。
【0045】
(実施例5)
実施例4の球状アルミナDAW10の代わりに、板状充填材として窒化ホウ素(昭和電工(株)社製、商品名:UHP−1、鱗片形状、平均長径DL8μm)11質量部(但し、分級機により25μm以上の粒子を取除いた。)を11質量部用い、実施例4と同様の方法で銅箔上に5層のポリイミド層からなる95μm厚さの絶縁性及び熱伝導性の耐熱樹脂層(両側合計4μmの接着剤層を含む。)を有する金属−絶縁樹脂基板を作製した。硬化後の厚さ構成は2/70/11/10/2であった。耐熱樹脂層の構成を表1に、フィルムと金属−絶縁樹脂基板の評価結果を表2に示す。
【0046】
得られた金属−絶縁樹脂基板における絶縁性及び熱伝導性の耐熱樹脂層(フィルム)の特性を評価するために銅箔をエッチング除去してフィルムを作製し、熱伝導率をそれぞれ評価した。結果を表2に示す。更に、金属−絶縁樹脂基板の積層体の特性評価結果を示した。
【0047】
また、得られた金属−絶縁樹脂基板の耐熱樹脂層の上に12μm電解銅箔を最高380℃の温度でプレスを行い、両面に金属層を有する金属−絶縁樹脂基板を得た。絶縁破壊電圧測定に使用した。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
(比較例1)
固形分濃度15wt%のポリアミド酸溶液(P1)100質量部と、板状充填材として窒化ホウ素(電気化学工業(株)社製、商品名:SP−3’、鱗片形状、平均長径2.5μm)を分級機により10μm以上の粒子を取除いたもの29質量部と、球状充填材としてアルミナ(住友化学(株)社製、商品名:AA−3、球状形状、平均長径3.0μm、最大粒径15μm)51質量部とを均一になるまで遠心攪拌機で混合し、熱伝導性充填材を含有するポリアミド酸溶液(比1−1)を得た。
厚さ12μmの電解銅箔上に充填材を配合していないポリアミド酸溶液(P2)を硬化後の厚さが2μmとなるように塗布し、130℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。次に、その上に充填材を含有するポリアミド酸の溶液(比1−1)を硬化後の厚さが46μmとなるように塗布し、130℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。さらに、その上に充填材を配合していないポリアミド酸溶液(P2)を硬化後の厚さが2μmとなるように塗布し、130℃で加熱乾燥し溶剤を除去し、その後、130〜360℃の温度範囲で、段階的に30分かけて昇温加熱して、銅箔上に3層のポリイミド層からなる50μm厚さの耐熱樹脂層(両側合計4μmの接着剤層を含む。)を有する金属−絶縁樹脂基板を作製した。耐熱樹脂層の構成を表3に、フィルムと金属−絶縁樹脂基板の評価結果を表4に示す。
【0051】
(比較例2)
比1−1樹脂の中の2種類フィラーを板状フィラーSP−3’1種類(11質量部)に変更し、その他は比較例1と同様に行った。なお、フィルムの評価において、熱伝導率が低かったためその他の項目は評価しなかった。
【0052】
(比較例3)
樹脂溶液(比1−1)の中の2種類充填材を球状充填材AA−3 1種類(19質量部)に変更し、その他は比較例1と同様に行った。なお、フィルムの評価において、熱伝導率が低かったためその他の項目は評価しなかった。
【0053】
(比較例4)
樹脂溶液(比1−19の中の2種類充填材を球状充填材AA−1.5(平均粒径1.5μm、最大粒径15μm) 1種類(104質量部)に変更し、その他は比較例1と同様に行った。なお、フィルムの評価において、耐電圧が低かったためその他の項目は評価しなかった。
【0054】
(比較例5)
樹脂溶液(比1−1)の中の2種類充填材を球状充填材DAW10(平均粒径10μm、最大粒径60μm) 1種類(19質量部)に変更し、その他は比較例1と同様に行った。なお、金属−絶縁樹脂基板の評価において、接着性が低かったためその他の項目は評価しなかった。
【0055】
【表3】

【0056】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の金属−絶縁樹脂基板は、高い絶縁破壊電圧が要求される放熱基板に有用に用いることができる。また本発明の金属−絶縁樹脂基板の製造方法によれば、高い絶縁破壊電圧が要求される放熱基板を簡易な方法で製造することができ、産業上の利用価値は高い。
【符号の説明】
【0058】
1 金属層
2 接着樹脂層
3 充填材(F1)
4 充填材(F2)
5 突き出し部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属層上に、直接又は接着樹脂層を介して、絶縁層となるマトリックス樹脂中に充填材(F)を含有する耐熱性樹脂層(A)が設けられ、
耐熱性樹脂層(A)は、金属層側に設けられる絶縁層(a)と、絶縁層(a)に積層する絶縁層(b)とを有し、
絶縁層(a)は、平均粒子径が5μm以上の(熱伝導性)充填材(F1)を20体積%以上含むとともに(熱伝導性)充填材(F1)に起因する突き出し形状部を有し、
また、絶縁層(b)は、前記突き出し形状部を埋没させていることを特徴とする金属−絶縁樹脂基板。
【請求項2】
耐熱性樹脂の厚さtxが、10〜100μmであり、充填材(F1)の平均粒子径が樹脂層厚さtxに対して0.1〜0.9倍であることを特徴とする請求項1記載の金属−絶縁樹脂基板。
【請求項3】
耐熱性樹脂(A)がポリイミド、エポキシ樹脂の何れかである請求項1又は2何れか記載の金属−絶縁樹脂基板。
【請求項4】
充填材(F1)は、平均長径DLが5〜50μmの板状充填材及び/又は平均粒径DRが5〜50μmの球状充填材であり、酸化アルミニウム、窒化ホウ素、溶融シリカ及び窒化アルミニウムからなる少なくとも1種以上のフィラーである請求項1〜3何れか一つに記載の金属−絶縁樹脂基板。
【請求項5】
絶縁層(a)及び/又は絶縁層(b)は平均粒子径が0.1〜3μmの充填材(F2)を10〜50体積%含むものである請求項1〜4何れか一つに記載の金属−絶縁樹脂基板。
【請求項6】
金属層上に、直接又は接着樹脂層を介して、絶縁層(a)と絶縁層(b)とを有する耐熱性樹脂層(A)を形成する方法であって、
金属層面に、平均粒子径が5μm以上の充填材(F1)をマトリッスク樹脂固形分に対して20体積%以上含む樹脂溶液を塗布、熱処理し、熱処理後の耐熱性樹脂層(A)の厚さtxの0.3〜0.7倍の範囲となるように塗布、熱処理して、熱伝導性充填材(F1)に起因する突き出し形状部を有する絶縁層(a)を形成する第一塗布工程と、
絶縁層(a)面に絶縁層(b)を形成する工程であって、充填材(F1)を含有しない樹脂溶液を塗布、熱処理する第二塗布工程と、を有することを特徴とする金属−絶縁樹脂基板の製造方法。
【請求項7】
耐熱性樹脂の厚さtxが、10〜100μmの範囲にあり、充填材(F1)の平均粒子径が樹脂層厚さtxに対して0.1〜0.9倍である請求項6記載の金属−絶縁樹脂基板の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−177929(P2011−177929A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−42072(P2010−42072)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】