説明

金属化シートを製造する方法

透湿性シートを少なくとも1種類の金属でコーティングし、新たに付着したその金属を酸化プラズマに露出して、保護用合成金属酸化物を金属上に形成することによる低輻射率の透湿性の金属化複合体シートの製造方法。この複合体シート材料は、屋根ライニングやハウスラップ等の建物建築バリア層として用いるのに好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属層の優れた耐食性と低輻射率を有する低輻射率の透湿性金属化シートを作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シートの少なくとも1つの表面に、金属層例えばアルミニウム、および保護外側ポリマーコーティング例えばアクリレートまたはラッカー、を付着させた、布、フィルムまたはこれらの複合体等の透湿性複合体シート製品は、ハウスラップや屋根ライニングの形態で、建物建築物における熱および電磁放射線バリア(「建築バリア層」とも呼ぶ)として有用である。複合体シートを、建築バリア層として用いるときは、金属層は赤外線を反射し、ほとんど赤外線を透過せず、熱バリアとなって、エネルギーの損失を減じ、建物を夏は涼しく、冬は暖かく保つ。
【0003】
かかる金属化シートによって、水蒸気が、シートを通過し、シート背面に取り付けられた断熱材において水分が凝結するのを防ぎ、同時に、空気ならびに液体の水に対するバリアとなって、建物のエネルギー効率を増大する。Jonesらによる米国特許第4,999,222号明細書には、プレキシフィラメント状フィルム−フィブリルシートをカレンダ加工した後、真空金属化により作製される低輻射率の透湿性金属化ポリエチレンシートが記載されている。Avellanetによる米国特許第4,974,382号明細書には、少なくとも1つの金属化層を有する透湿性または不透過性とすることのできる浸透およびエネルギーバリアが記載されている。Squiresらによる公開PCT国際特許出願、国際公開第01/28770号パンフレットには、マイクロポーラスフィルムの下層と、透湿性反射金属コーティングを備えたフィラメント状ポリマー布、例えば、スパンボンド布で形成された上層とを含む通気性建物膜が記載されている。Brownらによる米国特許出願公開第2003/0136078号明細書には、反射層と通気性テキスタイル層とを含む断熱膜を、外側被覆層と枠との間の空洞に設ける工程を含む、建物を断熱する方法が記載されている。金属化層は、プラスチックまたはニスの保護層で任意でコートされていて、金属表面を保護してもよい。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、透湿性の金属化複合体シートを製造する方法であって、多孔性の透湿性シートを前記真空チャンバに入れて、真空チャンバ内で真空を引く工程と、透湿性シートの外側表面を実質的にカバーするが、その気孔を実質的にカバーしないままとするように、金属コーティングを、多孔性の透湿性シートの少なくとも1つの表面に付着する工程と、金属コーティングの表面を、前記真空チャンバ内で、酸素含有プラズマにより酸化して、合成金属酸化物コーティングを形成する工程とを含む方法に関する。
【0005】
本発明の他の実施形態は、第1および第2の外側表面と、少なくとも1つの多層コーティングとを有する多孔性の透湿性シートを含む透湿性の金属化複合体シートであって、多孔性の透湿性シートの第1の外側表面に付着した約15ナノメートル〜200ナノメートルの厚さを有する金属コーティングと、金属コーティングを、酸素含有プラズマにより酸化することにより形成された厚さ約10nm未満の合成金属酸化物コーティングと、金属酸化物コーティング上に付着した、厚さ約0.05μm〜約1μmの外側有機コーティングとを含み、多層コーティングが、多孔性の透湿性シートの外側表面を実質的にカバーするが、その気孔を実質的にカバーしないままとする、透湿性の金属化複合体シートである。
【0006】
本発明の他の実施形態は、建築バリア層であって、不織布、織布、マイクロポーラスフィルム、微細孔フィルムおよびこれらの複合体からなる群から選択され、第1および第2の外側表面と、少なくとも1つの多層コーティングとを有する多孔性の透湿性シートであって、少なくとも1つの多層コーティングが、透湿性シートの第1の外側表面に付着した厚さ約15ナノメートル〜200ナノメートルの金属コーティングと、酸素含有プラズマで、金属層を酸化することにより形成された厚さが約10nm未満の合成金属酸化物コーティングと、金属層上に付着した、厚さ約0.05μm〜約1μmの外側有機コーティングとを含み、多層コーティングが、透湿性シートの外側表面を実質的にカバーするが、気孔を実質的にカバーしないままとする、建築バリア層である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本明細書で用いる「不織布」、「不織シート」、「不織層」および「不織ウェブ」という用語は、編または織布とは対照的に、不規則に配置されて、識別可能なパターンのない平坦な材料を形成する個々のストランド(例えば、ファイバー、フィラメントまたは糸)の構造のことを指す。「ファイバー」という用語は、本明細書では、ステープルファイバーおよび連続フィラメントを含むものとして用いられている。不織布としては、メルトブローンウェブ、スパンボンド不織ウェブ、フラッシュスパンウェブ、梳毛およびエアレイドウェブを含むステープルベースのウェブ、スパンレースウェブおよび2つ以上の不織ウェブを含む複合体シートが例示される。
【0008】
本明細書で用いる「プレキシフィラメント状」という用語は、多数の長さが不規則で、平均フィルム厚さが約4ミクロン未満、中央フィブリル幅が、約25ミクロン未満の薄い、リボン状、フィルム−フィブリル要素の3次元一体型網またはウェブを意味する。プレキシフィラメント状構造では、フィルム−フィブリル要素は、通常、構造の長手方向軸と同一の広がりをもって並んでいて、構造の長さ、幅および厚さ全てについて、様々な場所において、不規則な間隔で、断続的に結合したり、分離したりして、連続した3次元網を形成している。プレキシフィラメント状フィルム−フィブリル要素の不織ウェブは、本明細書では、「フラッシュスパンプレキシフィラメント状シート」および「プレキシフィラメント状フィルム−フィブリルシート」と区別なく呼ばれる。プレキシフィラメント状フィルム−フィブリル構造の一例としては、E.I.du Pont de Nemours and Company(Wilmington,Delaware)よりTyvek(登録商標)という商品名で販売されているフラッシュスパンポリオレフィンシートが挙げられる。
【0009】
建築バリア層として用いるのに好適な金属化シートの従来の製造においては、付着した金属層は、場合によっては、保護ポリマーコーティングによりカバーされる前、数日間にわたって、空気や水分を含む周囲条件に露出される。この露出の結果、薄い金属酸化物層が、金属の表面に形成される。数分から数日にわたって、空気に連続的に露出されて、酸化物フィルムの厚さが厚くなり、その後、酸化物層が、酸素と金属層の接触を防ぐ、または大幅に阻害する厚さに達し、さらなる酸化を減じる。
【0010】
典型的に、金属酸化物は、貯蔵や搬送中に形成され、金属化シートが露出される環境を制御するのに格別な注意は払われない。例えば、高湿環境においては、形成された酸化物は、水和され、金属が腐食し始め、外側ポリマーコーティングでコートする前に、金属層の品質が損なわれる。周囲条件への露出の結果として、金属表面に形成される自然金属酸化物層は、非常に薄い(約ナノメートル)ことが知られており、金属を十分に保護せず、金属化シートの輻射率を増大し望ましくないと以前は考えられていた。
【0011】
意外にも、薄い金属酸化物層は、実際には、金属層を腐食からある程度保護し、金属化複合体シートの輻射率に事実上影響しない、または影響しても最小であること知見した。
【0012】
上記の金属化複合体シートは、従来のコーティング技術を利用しているため、建築バリア層として用いるには、透湿性が低く望ましくない。その結果、建築バリア層として用いるのに好適な金属化シートを形成する変形プロセスが開発され、その全内容がここに参考文献として援用される2004年8月23日出願の同時係属米国特許出願第10/924,218号明細書に記載されている。これらのプロセスでは、金属層およびポリマーコーティングが、真空中で透湿性シート上に付着されて、ポリマーコーティングが、新たに付着した金属層上に直接形成され、金属層上に金属酸化物形態が存在することはない。保護ポリマーコーティングの存在にも関わらず、かかるプロセスにより形成されたシートは、シートを素手で触って、高温および相対湿度環境に晒すと、残念ながら、金属層が腐食し易いということが見出された。人の汗に溶けた塩が、ポリマーコーティングに浸透して、金属層に到達するものと考えられる。かかる製品の金属層も、ポリマーコーティングが不連続な場合、湿った周囲環境に露出されると、腐食する。
【0013】
金属層の腐食により、数多くの望ましくない影響がでる。その1つは、腐食によって、金属が変色することである。アルミニウム層の場合には、これは、アルミニウムの、水和酸化アルミニウムまたは水酸化アルミニウムへの変化の程度に応じて、金属光沢の喪失から、灰色または白色領域の形成、アルミニウム層の完全な白色変化まで及ぶ。外観の悪さは別にしても、腐食によって、シートの輻射率が増大し、断熱値が減少する。金属の腐食はまた、金属層の強度および完全性も損ない、耐久性の低い製品となってしまう。
【0014】
耐久性のある低輻射率の金属化透湿性シートを形成する、経済的で高処理量のプロセスが望まれている。金属化およびポリマーコーティングプロセス工程が、真空中で1回の通過でなされ、保持される最終金属化シートが、透湿性で、金属層の腐食に対して良好な抵抗性を有するようなものである。
【0015】
一実施形態において、本発明は、金属コーティングを、多孔性の透湿性シートの少なくとも1つの表面に蒸着した後、金属コーティングを、例えば、酸素ガス、空気、酸素と窒素の混合物、酸素と少なくとも1種類の希ガスの混合物、窒素またはオゾンの酸化物の形態にある遊離酸素源を含有するプラズマ場に、金属層の表面部分が酸化するのに十分な時間にわたって露出することにより、下にある金属コーティングを腐食から保護する合成金属酸化物コーティングを形成することを含む、透湿性の金属化複合体シートの製造方法に関する。金属および合成金属酸化物コーティングは、真空中で形成され、合成金属酸化物は、周囲条件で形成された自然金属酸化物コーティングとは対照的に、金属水和物をほとんど含まず、あったとしても僅かである。金属コーティングは、その透湿性を大幅に減じることなく、シート層を実質的にコートする条件下で、蒸着技術を用いて形成することができる。合成金属酸化物コーティングは、金属コーティングを酸素含有プラズマに露出することにより形成されるため、金属酸化物コーティングは、金属コーティングの外側表面部分から形成される。従って、下にあるシートの孔をカバーせず、かつ、得られる複合体シートの透湿性を減じることなく、金属コーティングのみをカバーする。
【0016】
本発明の方法は、新たに付着した金属コーティングを周囲条件に露出して形成するのに、数分から数日要していたのに対し、数ミリ秒で金属酸化物コーティングを形成する。本発明の方法の利点は、金属の腐食に対して最良の保護を与えるために、酸化物が形成される条件を真空中で制御できること、そして、金属化シートを、湿度のある周囲条件に露出する前に保護コーティングでオーバーコートできることである。
【0017】
本発明の方法により形成される複合体シートは、シート/M/MO、シート/M/MO/L2、シート/L1/M/MO/L2およびシート/L1/M/L2/M/MO/L3等の構造を有する。シートは、透湿性シート層(本明細書では出発シートとも呼ばれる)であり、Mは、低輻射率金属コーティングであり、L1、L2およびL3は、有機ポリマー、有機オリゴマーまたはこれらの組み合わせを含む有機コーティングであり、MOは、金属コーティングの合成金属酸化物である。本明細書では略記「L1」は、金属コーティングを付着する前に、シート層表面に付着できる任意の中間有機コーティングのことを指すのに用いられる。中間コーティングは、中間コーティングを含まない複合体シートに比べて、複合体シートの熱バリア特性を改善することが分かっている。
【0018】
複合体シートは、上述した構造に、L2やL3等の金属酸化物コーティングMOを覆う「外側」有機コーティングを含むのが好ましい。2つ以上の金属コーティングを有する複合体シート構造において、個々の金属コーティングは、同じまたは異なる金属から形成でき、同じまたは異なる厚さとすることができる。本発明の複合体シートは、シート/M/MO/L2およびシート/L1/M/MO/L2複合体構造のように、最外金属コーティングの酸化物として、金属酸化物コーティングMOを含む。しかしながら、複合体シートはまた、例えば、シート/L1/M/MO/L2/M/MO/L3等の中間金属酸化物の酸化物コーティングを含むこともできる。同様に、2つ以上の有機コーティングを有する構造において、個々の有機コーティングは、同じまたは異なる組成および/または厚さを有することができる。各金属コーティングは、1つ以上の金属コーティングに隣接させることができる。金属は同じまたは異なるものとすることができる。同様に、各有機コーティングは、1つ以上の有機コーティングに隣接させることができる。隣接する有機コーティングは、同じまたは異なるものとすることができる。シート層は、上述した構造のように、片側に、または、例えば、L2/MO/M/シート/M/MO/L2、L2/MO/M/L1/シート/L1/M/MO/L2構造のように両側にコートすることができる。
【0019】
本発明の一実施形態において、透湿性シート層の片側または両側は、有機、金属および合成金属酸化物コーティングでコートされた繊維状表面や多孔性フィルム等の多孔性外側表面を含む。ポリマーおよび金属コーティングは、多孔性表面に付着して、孔はカバーされずに、コート側のファイバーまたはフィルムの露出または「外側」表面のみがコートされている。「外側表面」は、多孔性布シートのファイバー間等の間隙や孔の壁の内側表面、およびコート側のシート層の外側表面から見たときに露出したファイバー表面を含むが、布の内側構造のファイバー表面は未コートのままとする。金属コーティングをカバーする金属酸化物コーティングは、付着金属の酸化により形成されるため、金属酸化物は、シート表面のモルホロジーに適合して、透湿性シートの間隙または孔は実質的にカバーされないままとなる。「実質的にカバーされない」とは、間隙または孔の少なくとも35%にコーティングがないことを意味する。その結果、本発明の複合体シートの水蒸気透過速度は影響されず、ポリマーおよび金属コーティングを付着する前に測定した出発透湿性シートの水蒸気透過速度の少なくとも約80%、さらに少なくとも約85%、さらに少なくとも約90%である。
【0020】
水蒸気透過速度(MVTR)は、材料の透湿性の尺度であり、ここに参考文献として援用されるASTM F1249に従って、23℃および85%の相対湿度の条件下で測定され、g/m2/24hrの単位で記録してある。本発明のコートされた複合体シートの透湿性と、未コートの出発シートの透湿性を、米国特許出願第10/924,218号明細書に記載されたとおりにして比較した。
【0021】
本発明の透湿性複合体シートは、90℃で蒸気に露出した後、腐食の目視される兆候(本明細書では、試験方法セクションに記載されているとおり、「蒸気試験」と呼ぶ)が実質的にないことが分かっているため、耐食性である。合成金属酸化物コーティングは、疎水性または撥液性上部コーティングでコートして、金属コーティングに水分が浸透するのをさらに防ぐと有利である。合成金属酸化物コーティングと外側疎水性または撥水性有機コーティングで保護された本発明による金属化試料は、汗で湿った素手で処理し、90℃の温度および90%の相対湿度で5日間環境チャンバに露出すると(本明細書では、試験方法セクションに記載されているとおり、「耐食性試験」と呼ぶ)、目視される腐食の兆候は実質的にない。
【0022】
好適な透湿性シート層は、多孔性シートであり、織布、例えば、織ファイバーまたはテープのシート、不織布、例えば、フラッシュスパンプレキシフィラメント状シート、スパンボンド不織シート、スパンボンド−メルトブローン不織シート、スパンボンド−メルトブローン−スパンボンド不織シート、多孔性の透湿性フィルム、例えば、マイクロポーラスフィルム、微細孔フィルム、紙、および不織または織布やスクリムと多孔性の透湿性フィルムとを含むラミネートが挙げられる。出発シート層は、従来のコーティング方法を用いてコートされた透湿性シートを含むことができる。例えば、建築業界で現在用いられているシートとしては、ポリマーフィルム層でコートされ、微細孔加工された織テープのシートが挙げられる。シート層は、様々なポリマー組成物から形成してよい。例えば、建築業界で用いられるシートは、典型的に、ポリプロピレンや高密度ポリエチレン、ポリエステルまたはポリアミド等のポリオレフィンから形成されている。
【0023】
一実施形態において、透湿性シートは、E.I.du Pont de Nemours and Company(Wilmington,Delaware)より入手可能なTyvek(登録商標)等のフラッシュスパンプレキシフィラメント状ポリオレフィンシートである。好適なフラッシュスパンプレキシフィラメント状フィルムフィブリル材料もまた、ポリプロピレンから作製してよい。透湿性シートは、1つ以上の追加の層を備えたフラッシュスパンプレキシフィラメント状シートのラミネート、例えば、フラッシュスパンプレキシフィラメント状シートとメルトスパンスパンボンドシートを含むラミネートとすることができる。プレキシフィラメント状フィルム−フィブリルストランド材料のウェブ層を形成するフラッシュ紡糸プロセスは、その内容がここに参考文献として援用される米国特許第3,081,519号明細書(Bladesら)、第3,169,899号明細書(Steuber)、第3,227,784号明細書(Bladesら)および第3,851,023号明細書(Brethauerら)に開示されている。
【0024】
本発明において出発シートとして用いる透湿性シートは、米国特許出願第10/924,218号明細書に記載されているような市販のハウスラップや屋根ライニング製品とすることができる。
【0025】
マイクロポーラスフィルムは、当該技術分野で周知であり、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン)と微粒子フィラ−の混合物から形成されるようなものがあり、薄フィルムへと溶融押出し、鋳造またはブローされて、単軸または二軸のいずれかで延伸されて、フィルムの厚さを通して連続的に延在する不規則形状の微細孔を形成する。米国特許第5,955,175号明細書には、公称孔サイズが約0.2マイクロメートルのマイクロポーラスフィルムが開示されている。マイクロポーラスフィルムは、熱または接着ラミネーション等当該技術分野に公知の方法を用いて、不織または織層間でラミネートすることができる。
【0026】
微細孔フィルムは、ポリマーをフィルムへと鋳造またはブローして、フィルムを機械的に穿孔することにより形成され、これは、欧州特許出願公開第1 400 348 A2号明細書に開示されており、微細孔の直径は、典型的に、約0.1mm〜1.0mmであると示されている。
【0027】
金属およびポリマーコーティングの厚さは、輻射率が約0.20以下、約0.15以下、さらに約0.10以下の複合体シートを与える範囲内に制御されるのが好ましい。外側ポリマーコーティングの厚さおよび組成は、シート層の透湿性を実質的に変えずに、金属化基材の輻射率を大幅に増大しないようなものを選択する。外側ポリマーコーティングの組成は、複合体シートの輻射率を最小にするために、低赤外吸収である。外側ポリマーコーティングの厚さは、約0.05μm〜2.5μmであり、これは、約0.15g/m2〜1.9g/m2の重量に対応している。中間コーティングを用いるときは、中間コーティングと外側ポリマーコーティングを組み合わせた厚さは、約2.5μm以下、約2.0μm以下、さらに約1.5μm以下であるのが好ましく、透湿性シートの表面の孔は実質的にカバーされないようにする。かかるコーティングプロセスは、その全内容がここに参考文献として援用される2003年6月19日出願の米国特許出願公開第2004−0028931−A1号明細書に記載されている。
【0028】
ポリマーコーティングの好適な組成としては、その全内容がここに参考文献として援用される米国特許第6,083,628号明細書および国際公開第98/18852号パンフレットに記載されているような、ポリアクリレートポリマー、オリゴマーおよび化合物、ビニルポリマー、オリゴマーおよび化合物が挙げられる。
【0029】
本発明の透湿性の金属化複合体シートの表面に凝結した水は、水に濡れず、水が水滴の形態のままである疎水性コーティングや、水、油およびアルコールを含む液体に濡れない撥液性コーティングよりも、接触すると即時に水が広がって濡れる親水性ポリマーコーティングに、より容易に浸透できる。疎水性または撥液性コーティング表面に凝結する水滴は、典型的には、少なくとも100度という大きな接触角を有するため、高温、例えば、90℃であっても、水と表面との間の接触面積が制限される。対照的に、親水性コーティングで凝結する水分は、広い接触面積と十分な濡れ性を有しているため、親水性コーティングを透過し易く、溶解した塩がもたらされ、金属コーティングの腐食が促進されてしまう。従って、疎水性または撥水性コーティングは、金属コーティングを腐食から、より保護するものである。
【0030】
本発明の複合体シートの金属コーティングを形成するのに好適な金属としては、アルミニウム、錫、亜鉛、ケイ素、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、インジウムおよびこれらの合金が挙げられる。金属合金は、合金組成が、低輻射率の複合体シートを与える限りは、他の金属を含むことができる。各金属コーティングの厚さは、約15nm〜200nmまたは約30nm〜60nmである。一実施形態において、金属コーティングは、アルミニウムを含む。金属コーティングは、抵抗蒸発、電子ビーム金属蒸着またはスパッタリングにより真空中で付着される。金属コーティングが薄すぎると、所望の熱バリア特性が得られない。金属コーティングが厚すぎると、欠けたり剥がれたりする可能性がある。本発明の複合体シートを、ハウスラップや屋根ライニングとして用いるときは、金属コーティングは赤外線を反射して、赤外線をほとんど透過せず、熱バリアとなって、エネルギーの損失を減じ、建物を、夏は涼しく、冬は暖かく保つ。合成金属酸化物コーティングは、金属コーティングを、酸素を含むプラズマに露出した後、即時に、真空中で金属付着を行うことにより形成される。金属酸化物コーティングの厚さは、約10nm未満、さらに約5nm未満とすることができる。
【0031】
材料の熱バリア特性は、その輻射率により特徴付けられる。輻射率は、材料の熱吸収および反射特性の尺度であり、型番AE D&S Emissometer(Devices and Services Company,Dallas,TX)製)を用いてASTM C1371−98およびASTM C408−71に従って、シート試料の金属化側を放射線源に向けて、測定される。輻射率は、表面により輻射された単位面積当たりの力対同じ温度での黒体により輻射されたものの比である。従って、黒体は、輻射率1であり、完全なリフレクタの輻射率はゼロである。輻射率が低ければ低いほど、熱バリア特性は高くなる。
【0032】
図1は、真空中での、シート層の有機および金属コーティングの蒸着コーティングに好適な装置10の概略図である。以下の説明におけるモノマーという用語は、蒸発性モノマー、化合物、オリゴマーおよび低分子量ポリマーのことを指すのに用いられる。真空チャンバ12は、真空ポンプ14に接続されていて、チャンバを所望の圧力まで排気する。好適な圧力は、2×10-4〜2×10-5トル(2.66×10-5〜2.66×10-6kPa)である。多孔性の透湿性シート20は、矢印「A」で示される方向に回転する回転ドラム16上で巻き出しロール18から、ガイドロール24を介して供給される。ドラム16の表面速度は、通常、1〜1000cm/秒の範囲である。シートは、いくつかの付着ステーションを通過した後、ガイドローラ26により回転ドラム表面から引っ張られ、コートした複合体シートとして、巻き取りロール22に取られる。ドラム16は、ポリマーコーティングを形成するのに用いる特定のモノマーに固有の温度まで冷却でき、約−20℃まで冷却して、モノマーの凝結を促すことができる。ロール18から巻き出した後、シート層は、任意のプラズマ前処理ユニット36を通過して、そこで、シートの表面がプラズマに露出されて、金属またはモノマーコーティングをその上に形成する前に、シートの表面の吸着酸素、水分および低分子量種が除去される。基材の表面エネルギーは、通常、修正されて、コーティングによる表面の濡れ性が改善される。プラズマ源は、低周波RF、高周波RF、DCまたはACであってよい。好適なプラズマ前処理方法は、米国特許第6,066,826号明細書、国際公開第99/58757号パンフレットおよび国際公開第99/59185号パンフレットに記載されている。
【0033】
中間有機コーティングが、金属コーティング付着前に、任意で、シート層上に形成される。一実施形態において、有機モノマー、オリゴマーまたは化合物(本明細書では、単に「モノマー」とも呼ばれる)が、モノマー蒸発器28により透湿性シート上に付着する。蒸発器28は、超音波噴霧器42を通して、リザーバ40から液体モノマーを供給し、ヒータ(図示せず)を利用して、モノマー液体を即時に気化する、すなわち、フラッシュ気化して、シート層に付着する前に、重合や熱分解する可能性を最小にする。モノマーは、ここに参考文献として援用される米国特許第5,547,508号明細書に記載されているように、蒸気として、真空チャンバに注入する前に、脱気するのが好ましい。フラッシュ蒸発およびモノマー付着プロセスの具体的な態様は、その全内容がここに参考文献として援用される米国特許第4,842,893号明細書、第4,954,371号明細書および第5,032,461号明細書に詳細に記載されている。
【0034】
フラッシュ気化モノマーは、シート表面で凝結して、液体モノマーフィルムコーティングを形成する。モノマーコーティングは、シート層の孔を実質的にカバーしないよう十分に薄く、複合体シートは、出発シート層の少なくとも約80%の透湿性を有するようにする。凝結液体モノマーは、放射線硬化手段30を用いて、シート上で凝結した後、約数ミリ秒以内に固化する。好適な放射線硬化手段としては、電子ビームおよび紫外線源が挙げられ、凝結したコーティングを重合または架橋することにより、モノマーフィルムコーティングを硬化させるものである。電子ビームガンを用いる場合は、電子のエネルギーは、ここに参考文献として援用される米国特許第6,083,628号明細書に記載されたとおり、全厚で、コーティングを重合するのに十分なものでなければならない。モノマーおよびオリゴマーコーティングの重合または硬化はまた、米国特許第4,842,893号明細書、第4,954,371号明細書および第5,032,461号明細書にも記載されている。あるいは、オリゴマーまたは低分子量ポリマーは、冷却と同時に固化することができる。室温で固体のオリゴマーまたは低MWポリマーについては、ここに参考文献として援用される米国特許第6,270,841号明細書に記載されたとおり、硬化は必要ない。
【0035】
任意の中間有機コーティングを付着した後、コートしたシートを、金属化システム32に通し、そこで、抵抗蒸発、スパッタリングまたは電子ビーム蒸発を介して、固化および硬化した有機コーティング上に、金属コーティングを付着する。抵抗金属蒸発システムを用いるときは、金属化システムに、線材供給部44から金属源を連続的に提供する。
【0036】
金属化工程後、金属化シートをプラズマ後処理ユニット50に通し、そこで、金属コーティングは、遊離酸素が金属コーティングの一部と反応するのに十分なエネルギーレベルおよび十分な時間にわたって、酸素含有プラズマに露出されて、金属コーティングをカバーする合成金属酸化物コーティングが形成される。遊離酸素は、酸素ガス、空気、酸素と窒素の混合物、酸素ガスと1種類以上の希ガスを含むガスの混合物、窒素またはオゾンの酸化物の形態とすることができる。
【0037】
プラズマ源は、有利には、マグネトロンを備えたRF駆動であるのが好ましく、これだと、金属コーティングの表面と最大の相互作用を得るために、小さな空間内で、金属化シート表面に、帯電プラズマ種を集束することができる。透湿性出発シートが繊維状シートのときは、プラズマ源を制御して、ファイバーの垂直側をカバーするようにする。シートの金属化から非金属化内側表面へと遷移すると、金属化コーティングの厚さがゼロまで減少するためである。一方、フィルムは連続していて、平坦で平滑な傾向があり、金属化すると、金属コーティング上に形成された金属コーティングおよび保護酸化物は、フィルム表面の元のモルホロジーに適合する。従って、ファイバー交点に数多くの不連続性を有する繊維状金属化シートよりも、表面酸化物により、金属化フィルムを保護するのが容易である。プラズマ源は、約0.25kW〜約10kWの出力レベルを有していると有利である。好適なプラズマ後処理方法は、米国特許第6,066,826号明細書、国際公開第99/58757号パンフレットおよび国際公開第99/59185号パンフレットに記載されている。
【0038】
金属コーティングの酸化は、プラズマ源の出力レベルを変えることにより、かつ/または回転ドラム16の速度を変えることにより制御することができ、金属コーティングのプラズマへの露出時間を変えられる。
【0039】
金属コーティングの表面は、約5ミリ秒〜約5000ミリ秒にわたって、酸素含有プラズマに露出されると有利である。得られる金属酸化物コーティングは、酸化物、または酸化物とプラズマの成分が、金属コーティングの金属と反応すると形成されるその他化合物との混合物を含有し、厚さは約10nm未満、有利には、約5nm未満である。合成金属酸化物コーティングは、複合体シートが後に水分に露出されたときの腐食や望ましくない水和化合物の形成を阻止する。
【0040】
金属酸化物コーティング形成後、金属化シートを、外側有機コーティング付着ステーションに通過させる。外側有機コーティングは、蒸発器128、モノマーリザーバ140、超音波噴霧器142および放射線硬化手段130を用いた中間有機コーティングで上述したのと同様のプロセスで付着する。外側有機コーティングの組成は、中間有機コーティングと同じまたは異なるものとすることができる。
【0041】
あるいは、回転ドラム上を動くのではなく、透湿性出発シートを、直線経路に沿って、上述のプロセス工程を連続的に通過しながら、巻き出しロールから巻き取りロールへ供給することができるものと考えられる。多数の有機コーティングおよび金属コーティングを付着するために、透湿性シートを、巻き出しロールと巻き取りロール(図示せず)の間で前後に動かすことができる。
【0042】
コーティングの厚さは、蒸着プロセスで用いるフラッシュ蒸発器のライン速度および蒸気フラックスにより制御される。コーティング厚さが厚くなると、電子をコーティングに透過させて効率的に重合を行うために、電子ビームのエネルギーを調整しなければならない。例えば、10kVおよび120mAの電子ビームだと、厚さ2μmまでのアクリレートコーティングを効率的に重合することができる。
【0043】
2つ以上の金属コーティングおよび/または3つ以上の有機コーティングが望ましい場合には、追加のフラッシュ蒸発装置および金属化ステーションを、真空チャンバ内側に追加することができる。あるいは、シート層は、図1に示す装置に1回目の通過を行ってコートして、コートしたシートを真空中で巻き出して、装置に2回目の通過で流すことによりコートすることができる。あるいは、金属化と有機コーティング工程に、別の装置を用いることができる。当業者であれば、コーティングをシート層の逆側に適用するのが望ましい場合には、第2の回転ドラム16を、所望であれば、独立して動作可能な追加のプラズマ前処理ユニット36、モノマー蒸発器28、128、放射線硬化手段30、130、金属化システム32およびプラズマ後処理ユニット50を備えた真空チャンバ12内に追加できることが分かるであろう。
【0044】
本発明の金属化複合体シートは、建物建築の屋根および壁システムの建築バリア層として用いるのに特に好適である。複合体シートの高反射金属化表面は、低輻射率表面を与え、断熱性能を高め、壁および屋根システムのエネルギー効率を改善することによって、建物所有者の燃料コストを減じる。さらなる利点としては、寒冷気候における壁および屋根の構造の内側の凝結を最小にし、建物を、夏季の過剰な熱から防護することが挙げられる。本発明の一実施形態において、透湿性複合体シートは壁または屋根システムに用いられ、輻射率は約0.20未満、透湿性は、少なくとも約35g/m2/24hr、静水頭は少なくとも約20cmである。複合体シートは、金属化側が、空隙に隣接するように、壁または屋根システムに取り付けられるのが好ましい。あるいは、金属化側の逆側を空隙に隣接させることもできる。金属化複合体シートを、空隙に隣接して取り付けると、輻射エネルギーをほとんど透過しないようにしたり、輻射エネルギーを反射するようにしたりすることによって、熱バリアとしての複合体シートの効率を最大にするものと考えられる。
【0045】
熱バリアとしての機能に加えて、本発明の金属化複合体シートは、ハウスラップおよび/または屋根ライニングとして取り付けると、建物を、電磁波(EMF)から防護することができる。複合体シートは、出入りするEMF信号を減衰して、建物を透過できないようにする。アルミニウムホイルまたはその他金属シートを用いることができるが、かかるシートは、透湿性でなく、建物ラップとしては望ましくない。標準ハウスラップおよび屋根ライニング取り付け方法を用いて、EMF防護の利点を得ることができる。最も完全な保護のためには、複合体シートは、全ての壁および屋根のラップとして取り付けるものとする。
【0046】
試験方法
以下の限定されない実施例においては、以下の試験方法を用いて、様々な記録された特徴および特性を判断した。ASTMとは、米国材料試験協会のことである。ISOとは、国際標準化機構のことである。TAPPIとは、パルプ製紙業界技術協会のことである。
【0047】
蒸気試験では、金属化シート試料に蒸気を施して、経時による腐食の程度を目視で評価する。金属化試料を、90℃の温度で水の容器を覆うガラス片にテープで留め、水の表面から約2.5cmで、試料の金属化側が水に向くようにする。水が、試料の金属化表面上に凝結し、試料が不合格とみなされる灰色または暗灰色の変色の兆候がでるまで、目視で観察する。
【0048】
耐食性試験は、蒸気および残った汗の形態の塩の存在を含む腐食を促す条件に、金属化シート試料を晒して、経時による腐食の程度を目視で評価するものである。汗で湿った素手で触った特定の試料10個と、触っていない試料を、90℃および90%の相対湿度の環境チャンバに懸架した。試料を毎日観察した。変色は不合格と判断された。
【0049】
蒸着したポリマーコーティングの厚さを、試料に取り付けられ、試料として、正確に金属化およびコーティング処理を行った平滑なフィルムで、干渉法により測定し、マイクロメートル(μm)で記録した。
【0050】
金属コーティングの厚さを、透過電子顕微鏡法を用いて、クライオミクロトーム試料で測定し、ナノメートル(nm)で記録した。
【0051】
ACインピーダンスを、電気化学インピーダンス分光法により測定した。金属化試料の金属化表面を、3%水性NaCl溶液と30℃で接触させて配置し、金属化表面のインピーダンスにおける変化(腐食による)を、周波数スキャン(0.01Hz〜10kHz)により測定する。
【実施例】
【0052】
実施例
以下に定義する略記を実施例では用いている。
モノマー/オリゴマー組成物:
SR833S=トリシクロデカンジメタノールジアクリレート
SR9003=プロポキシル化ネオペンチルグリコールジアクリレート
HDODA=ヘキサンジオールジアクリレート
Zonyl(登録商標)TM=フッ素化テロマーBメタクリレート
SR833S、SR9003およびHDODAは、Sartomer Company)(Exton,PA)より市販されている。Zonyl(登録商標)TMフッ素化テロマーBメタクリレートは、E.I.du Pont de Nemours and Company)(Wilmington,DE)より入手可能である。上記の略記は、対応のモノマーを硬化することにより形成されたポリアクリレートコーティングについて実施例で用いられている。互いに比較すると、SR9003は、比較的親水性のSR833Sに比べて比較的疎水性である。SR9003とSR833Sの両方に比べて、Zonyl(登録商標)TMは、極めて疎水性で、比較的疎油性である。
【0053】
実施例1〜4および比較例1
本発明の実施例は、アルミニウムコーティングを、真空中で酸素プラズマにより処理することにより、透湿性の金属化複合体シートにおける、保護酸化アルミニウムコーティングの形成を例示するものであり、アルミニウムを、周囲条件で、空気に露出することにより形成された自然酸化アルミニウムコーティングを有する同様の透湿性の金属化複合体シートと性能を比較している。
【0054】
坪量が60g/m2のTyvek(登録商標)1560B(E.I.du Pont de Nemours and Company)(Wilmington,Delaware)の試料と、超高密度ポリエチレンフィルム(UHDPE)の試料を、プラズマ処理を備えた真空チャンバ内で、ウェブ金属化機の回転ドラムに取り付けた。ノズルからアクリルモノマー蒸気を導入でき、電子ガンでアクリルモノマーを硬化できる。回転ドラムの周囲の半分が、Tyvek(登録商標)試料でカバーされ、残り半分はフィルムでカバーされる。いずれも、ドラムの全幅をカバーしている。真空チャンバを5×10-4トル未満までポンプダウンし、試料を1kWの出力で、RF電源を用い、周波数を340kHzに設定し、395msの滞留時間で酸素プラズマ前処理した。次に、試料を99.89%の純度のアルミウムで、Tyvek(登録商標)試料で測定されたように、平均光学密度が2.9になるまで、金属化した。機械の周囲の空気へと機械を排気し、試料を周囲大気条件に露出して、自然酸化アルミニウムを形成した(比較例1)。
【0055】
金属化後すぐに、真空のままで、比較例1と同じRF電源を用いて(340kHzの周波数設定)、395msの滞留時間で、酸素プラズマに試料を露出した以外は、実験を繰り返した(実施例1〜4)。前処理および後処理のプラズマガスとして、酸素を用いた。酸素プラズマ前処理に用いた出力レベルは、各例において1kWであった。酸素プラズマ後処理に用いた出力レベルは、表1に示すとおり、0.2kW〜2kWまで変えた。試料の蒸気試験性能を、製造後24時間以内と、製造後少なくとも2週間でも評価した。結果を表1に示す。
【0056】
表1

【0057】
表1の蒸気試験データによれば、1kW以上で酸素プラズマ後処理した試料は、金属化したが、金属化後に酸素プラズマに露出しなかった比較例1に比べて、蒸気試験では遥かに良好であることが分かる。蒸気試験を、試料作製後、24時間以内に実施すると、1kW以上で酸素プラズマ後処理した試料は、不合格になる前、蒸気に2倍の時間露出した比較例1よりも優れていた。蒸気試験を、試料作製後、2週間以内に実施すると、プラズマ後処理した試料は、不合格になる前、蒸気に2〜3倍の時間露出した比較例1よりも優れていた。蒸気試験の前に、製造後少なくとも2週間、本発明と比較例の酸素プラズマ後処理試料の両方を周囲条件に露出することにより酸化物を形成し続けた。後処理試料は、製造後24時間以内および少なくとも2週間で試験すると良好に機能したという事実は、保護合成酸化アルミニウムコーティングが、酸素プラズマ後処理により形成されることを示している。この実験前は、酸素は、後処理試料においてプラズマにより形成された酸化アルミニウムコーティングのバリアを通して拡散するため、比較例は、プラズマ後処理試料よりも早く酸化物を形成すると予測された。しかしながら、意外なことに、酸素プラズマにより形成された酸化アルミニウムは、周囲条件で成長し続け、周囲条件で同じ時間にわたって比較試料に形成された酸化物よりも、蒸気による腐食に対して、より保護を与えるコーティングを形成する。
【0058】
金属化Tyvek(登録商標)試料およびUHDPEフィルムの表面に酸化アルミニウムを形成する際の、酸素プラズマの有効性を理解するために、化学分析用電子分光(ESCA)またはX線光電子分光(XPS)を用いて、比較例1および実施例2、3の表面を特徴付けた。試料を、プラズマ後処理して、周囲雰囲気に露出した後、少なくとも2週間分析した。これは、プラズマ後処理および対照試料の両方に自然酸化物を形成するのに十分な時間であった。UHDPEフィルムで、角度分解ESCA(AR−ESCA)を、30度および90度光電子の電子出口角度で実施した。これは、それぞれ、5nmと10nmの試料深さに対応している。対応のTyvek(登録商標)試料を、90度出口角度で分析した。これは、比較的粗いTyvek(登録商標)表面の高い点が、スペクトルに導入される陰影アーチファクトを排除するためだけであった。
【0059】
図2は、比較例1と本発明の実施例2、3のTyvek(登録商標)Al2pESCAスペクトルを比較するものである。スペクトルオーバレイでは、3つの試料の全ての表面が、アルミニウム金属と酸化アルミニウムの両方からなることが観察された。ESCAにより測定したところ、アルミニウム金属と酸化アルミニウムの両方が表面に共存しているため、単一連続コーティングとしての酸化アルミニウムの厚さは、10nm未満でなければならない。いずれの場合も、酸化アルミニウムの量は、アルミニウム金属よりも多い。アルミニウム金属と酸化アルミニウムのピークを近似曲線で示し、比Al23/Alを表2に示す。Al23/Alは、0.25kWの出力レベルの酸素プラズマで処理した実施例2では1.8に等しい。これは、比較例1のAl23/Al比(1.9のAl23/Al)とほぼ同じである。これは、真空中で酸素プラズマ処理し、後に周囲条件に露出した結果、酸化物が形成されたプラズマ後処理した実施例2とほぼ同量の自然酸化物が、比較例1に形成されたことを示している。しかしながら、1kWで後処理した実施例3では、酸化アルミニウムがかなり広い表面で豊富なことが測定され、Al23/Al比が3.2で、その酸化物コーティングが、比較例1または実施例2よりも厚いことを示している。実施例2、3はそれぞれ、395msの酸素プラズマに露出されたことから、プラズマの出力レベルが、酸化物形成に大きな役割を演じることが明らかである。
【0060】
図3Aおよび3Bは、30度および90度光電子出口角度で、すなわち、それぞれ、5nmおよび10nmの表面サンプリング深さで、比較例1および実施例2、3のフィルム試料のAl2pスペクトルを比較するものである。スペクトルによれば、UHDPEフィルム試料の表面は、金属化Tyvek(登録商標)の表面と同様に、アルミニウムと酸化アルミニウムからなっていて、酸化アルミニウムが豊富であることが分かる。5nmの深さから10nmの深さに変わる際、酸化アルミニウムの量が減じ、アルミニウム金属の量は比例して増える。実施例3の表面は、比較例1および実施例2よりも、一定して、酸化アルミニウムが豊富であり、これは、形成される酸化アルミニウムの量とほぼ同一と考えられる。アルミニウム金属は、全ての場合において、30度の出口角度で検出されるため、酸化アルミニウムの全体の厚さは、全ての場合において、5nm未満でなければならない。
【0061】
酸化アルミニウムは、真空中での酸素プラズマによる金属の酸化、そして、金属表面を後に周囲酸素に露出する結果として、アルミニウム金属コーティングの表面に形成される。プラズマ後処理した実施例と比較例1の両方共、試料を雰囲気に露出している間、酸化アルミニウムが形成され続けることを示している。酸化アルミニウムは、酸素に対するバリアであるため、酸素プラズマにより形成された酸化アルミニウムは、周囲酸素にさらに露出されることによるさらなる酸化を遅くする、または停止するものと考えられる。これが本当ならば、酸素プラズマにより処理された金属化試料は、周囲条件露出後、蒸気試験性能において改善を示すはずはない。意外なことに、プラズマ後処理試料は全て、蒸気試験で、比較例1よりも改善された性能を示した。
【0062】
UHDPEフィルム試料の、30℃での3%塩化ナトリウム水溶液に対する耐食性を、ACインピーダンス試験を用いて、試料作製後少なくとも2週間で測定した(表2)。375キロオーム−cm2の耐食性が実施例3について測定された。これは、比較例1よりも64%の改善であり、蒸気試験で測定された耐久性における2〜3倍の対応の改善と一致している。ACインピーダンス測定によれば、酸素プラズマ後処理および周囲酸素への露出により形成された全体の酸化物構造は、周囲条件に露出しただけで形成された自然酸化物よりも良好な保護を提供し、多孔性でないことが確認された。
【0063】
表2

【0064】
実施例5〜11および比較例2
これらの例は、アルミニウムコーティングを真空中で、酸素または他のガスとブレンドした酸素のプラズマにより処理することにより、透湿性の金属化複合体シートにおける保護合成酸化アルミニウムコーティングの形成を例示するものであり、周囲条件でアルミニウムを空気に露出することにより形成された自然酸化アルミニウムコーティングを有する同様のシートと性能を比較するものである。
【0065】
Tyvek(登録商標)1560BおよびUHDPEフィルムの試料を、実施例1〜4と同様にして作製した。試料は、酸素および他のガスとブレンドした酸素に基づくプラズマで後処理した。各試料についてのプラズマ前処理と後処理において、周波数120kHzおよび出力1kWで、交流電流の電源を、395msの滞留時間で用いた(特に断りのない限り)。実施例6では、酸素プラズマ後処理の前に、アルゴンガスプラズマ後処理を用いた。プラズマに用いたガスおよび蒸気試験性能を以下の表3に示す。
【0066】
表3

【0067】
表3によれば、酸素と他のガスのブレンド、例えば、酸素−アルゴン、酸素−ヘリウムおよび酸素−窒素を含むプラズマで後処理された金属化試料は、蒸気による腐食に対する抵抗性において、比較例2より優れていることが分かる。
【0068】
実施例12〜15および比較例3〜12
この例は、撥水性コーティングを有する透湿性の金属化複合体シートと、親水性コーティングを有する同様の複合体シートの製造を示すものであり、耐食性試験における90℃および90%相対湿度の環境チャンバに露出した後の試料の耐久性を比較するものである。
【0069】
Tyvek(登録商標)1560Bの長さ1000m×幅1mのロールを金属化し、実施例1と同様にして、巻き出しおよび巻き取りロールを備えた機械でプラズマ処理した。長さ25cm×幅1mのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの1つの矩形試料を、各Tyvek(登録商標)ロールの表面に取り付けて、Tyvek(登録商標)と全く同じ処理となるようにした。PET試料を用いて、干渉分光法により上部コーティングの厚さを測定した。プラズマ前処理および後処理は、周波数40kHz、露出時間287msおよび出力レベル1kWで、各試料について同じであった。金属化試料を、比較的親水性のアクリレートSR9003か、80%Zonyl(登録商標)TMと20%HDODAの撥水処方のいずれかにより、蒸着でコートした。プロセス工程は全て、多数回通過で真空中で行った。1回目の通過では、基材(Tyvek(登録商標)1560B)を、O2プラズマで処理し、親水性コーティングでコートした。2回目の通過では、コートした基材を再びO2プラズマで処理し、アルミニウムで金属化した。3回目の通過では、金属化した基材をO2プラズマで処理し、任意のコーティングL2(a)でコートした。4回目の通過では、金属化基材をコーティングL2(b)でコートした。
【0070】
SR9003かZonyl(登録商標)TM/HDODA(80/20)のいずれかでコートした約18cm×18cmの10個の金属化Tyvek(登録商標)試料を、汗で湿った指で、金属化表面を押した。それらを、作製後少なくとも2週間、90℃、90%相対湿度に設定した環境チャンバに入れた。試料に腐食の兆候があるか目視で毎日評価した。押していない処理していない対照例も、同チャンバで並べて評価したが、耐食の目視される兆候は示さなかった。典型的に、耐食の最初の兆候は、暗灰色のしみとして検出され、最終的には白色となって、指の形状を採る。最初に灰色のしみが現れた場合、試料は不合格とみなされた。試料の作製および耐食性のその性能の詳細を表4に示す。
【0071】
表4

【0072】
アルミニウムのO2プラズマ後処理をした、またはしていない中間コーティング(L1)としてSR9003を、外側コーティング(L2(b))としてSR9003を有する複合体シートは、5日以内に不合格となり、5日間腐食なしという目標を満たさなかった。SR9003の中間コーティングを有し、SR9003上部コーティングの厚さを0.5から1.2μmまで増やし、O2プラズマ処理により、酸化物を形成しても、耐食性試験性能は、試料のいくつかについて、2から4日、僅かに改善されただけであった。O2プラズマ後処理と、厚さ約0.5μmの疎水性SR833Sまたは撥液性/疎油性Zonyl(登録商標)TM/HDODA(80/20)の組み合わせだけが、ラッカーの厚さ1.5mmのコーティングでコートされた自然酸化物コーティングを有する比較例9のベンチマークTyvek(登録商標)Reflex3460Mと同様に機能した。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の複合体シートを形成するのに好適な装置の概略図である。
【図2】自然形成酸化アルミニウムを有する金属化高密度ポリエチレンプレキシフィラメント状フィルム−フィブリルシートと、金属化され、酸素プラズマにより真空中で後処理された2枚の高密度ポリエチレンプレキシフィラメント状フィルム−フィブリルシートの化学分析用電子分光(ESCA)スペクトルのグラフであり、10nmの表面深さで、アルミニウムと酸化アルミニウムの両方の存在が示されている。
【図3A−3B】自然形成酸化アルミニウムを有する金属化UHDPEフィルムと、金属化され、酸素プラズマにより真空中で後処理された2枚のUHDPEフィルムのESCAスペクトルのグラフであり、5nm(図3A)と10nm(図3B)の表面深さで、アルミニウムと酸化アルミニウムの両方の存在が示されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透湿性の金属化複合体シートを製造する方法であって、
多孔性の透湿性シートを真空チャンバに入れて、前記真空チャンバ内で真空を引く工程と、
透湿性シートの外側表面を実質的にカバーするが、その気孔を実質的にカバーしないままとするように、金属コーティングを、多孔性の透湿性シートの少なくとも1つの表面に付着する工程と、
前記金属コーティングの前記表面を前記真空チャンバ内で酸素含有プラズマにより酸化して、合成金属酸化物コーティングを形成する工程と
を含む方法。
【請求項2】
少なくとも1つの有機コーティングを、前記合成金属酸化物コーティング上に形成する工程をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属コーティングの前記表面を、前記プラズマに、約5ミリ秒〜約5000ミリ秒露出する請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記プラズマ源が、前記合成金属酸化物コーティングを生成するのに十分な周波数および電力レベルの交流電圧を有する請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記有機コーティングが、ポリマー、オリゴマーまたはこれらの組み合わせから選択される請求項2記載の方法。
【請求項6】
前記金属コーティングを付着する前に、前記透湿性シートに少なくとも1つの有機コーティングを形成する工程をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項7】
第1および第2の外側表面と、少なくとも1つの多層コーティングとを有する多孔性の透湿性シートを含む透湿性の金属化複合体シートであって、
前記多孔性の透湿性シートの前記第1の外側表面に付着した約15ナノメートル〜200ナノメートルの厚さを有する金属コーティングと、
前記金属コーティングを、酸素含有プラズマにより酸化することにより形成された厚さ約10nm未満の合成金属酸化物コーティングと、
前記金属酸化物コーティング上に付着した、厚さ約0.05μm〜約1μmの外側有機コーティングとを含み、
前記多層コーティングが、前記多孔性の透湿性シートの前記外側表面を実質的にカバーするが、その気孔を実質的にカバーしないままとする、透湿性の金属化複合体シート。
【請求項8】
輻射率が、約0.20未満である請求項7に記載の透湿性の金属化複合体シート。
【請求項9】
前記金属が、アルミニウム、錫、亜鉛、ケイ素、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、インジウムおよびこれらの合金からなる群から選択される請求項7に記載の透湿性の金属化複合体シート。
【請求項10】
前記金属がアルミニウムであり、前記合成金属酸化物コーティングが酸化アルミニウムを含む請求項7に記載の透湿性の金属化複合体シート。
【請求項11】
前記多孔性の透湿性シートと前記金属コーティングとの間に中間有機コーティングをさらに含む請求項7に記載の透湿性の金属化複合体シート。
【請求項12】
前記有機コーティングが、ポリマー、オリゴマーおよびこれらのブレンドから選択される請求項7に記載の透湿性の金属化複合体シート。
【請求項13】
撥液性である請求項12に記載の透湿性の金属化複合体シート。
【請求項14】
耐食性である請求項12に記載の透湿性の金属化複合体シート。
【請求項15】
前記有機コーティングが、架橋ポリアクリレートまたはビニルを含む請求項7に記載の透湿性の金属化複合体シート。
【請求項16】
前記中間有機コーティングが、架橋ポリアクリレートまたはビニルを含む請求項11に記載の透湿性の金属化複合体シート。
【請求項17】
前記多孔性の透湿性シートが、不織布、織布、マイクロポーラスフィルム、微細孔フィルム、紙およびこれらの複合体からなる群から選択される請求項7に記載の透湿性の金属化複合体シート。
【請求項18】
建築バリア層であって、
不織布、織布、マイクロポーラスフィルム、微細孔フィルムおよびこれらの複合体からなる群から選択され、第1および第2の外側表面と、少なくとも1つの多層コーティングとを有する多孔性の透湿性シートを含み、前記多層コーティングが、
前記透湿性シートの前記第1の外側表面に付着した厚さ約15ナノメートル〜200ナノメートルの金属コーティングと、
酸素含有プラズマで、前記金属層を酸化することにより形成された厚さが約10nm未満の合成金属酸化物コーティングと、
前記金属層上に付着した、厚さ約0.05μm〜約1μmの外側有機コーティングと
を含み、
前記多層コーティングが、前記透湿性シートの前記外側表面を実質的にカバーするが、気孔を実質的にカバーしないままとする、建築バリア層。
【請求項19】
前記有機コーティングが撥液性である請求項18に記載の建築バリア層。
【請求項20】
前記合成金属酸化物コーティングが酸化アルミニウムを含む請求項18に記載の建築バリア層。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【公表番号】特表2009−523916(P2009−523916A)
【公表日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−551414(P2008−551414)
【出願日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際出願番号】PCT/US2007/001432
【国際公開番号】WO2007/084663
【国際公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】