説明

金属膜の剥離方法及び成膜装置用の構成部品

【課題】金属膜を成膜するための成膜装置の真空チャンバーを大気開放する際に、金属膜が発火するおそれを短時間で低減することを目的とする。
【解決手段】基板106に金属膜を成膜するための成膜装置の真空チャンバー101に配備された構成部品であるチムニー104や防着板107の外面に開口する多数のガス供給孔を設ける。構成部品の表面に付着した金属膜に対して、前記ガス供給孔から酸素を含むガスを供給し、金属膜を裏面側からも酸化させる。これにより、真空チャンバー101から構成部品を大気中に出して金属膜の除去処理を行っても発火しなくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空中で成膜を行う装置内に配置された成膜装置用の構成部品に付着した金属膜の剥離方法及び成膜装置用の構成部品に関する。なお、ここで言う真空中で成膜を行う装置とは、大気圧よりも低い圧力下で成膜を行う装置を言い、蒸着装置、スパッタ装置、CVD装置などが含まれる。以下では、これらの装置を単に「成膜装置」と表記する。
【背景技術】
【0002】
成膜装置で基板表面に金属膜を成膜する工程を繰り返し行うと、成膜装置の壁面や成膜装置内の構成部品表面に金属膜が付着してしまう。スパッタ装置におけるターゲットや、蒸着装置における蒸着源などの、いわゆる成膜材料源の近くでは前記金属膜が特に厚く付着する。
【0003】
また、基板を固定する部品の基板の陰に相当する部分であっても、金属膜の回り込み現象によって金属膜が付着することもある。このようにして付着した金属膜は、剥離してコンタミとして金属膜中に混入したり、思わぬところで電気導通を引き起こしたりするなどと、様々な問題の原因となる。従って、成膜装置用の構成部品は定期的にメンテナンスを行い、付着した金属膜を除去、洗浄する必要がある。
【0004】
ところで、金属膜の除去処理方法としては、金属膜が付着した部品を取り出し、サンドブラストなどの物理的除去方法、もしくは洗浄液などの化学的除去方法を用いるのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4072920号公報
【特許文献2】特開2007−189175号公報
【特許文献3】特許第4049423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
成膜装置内で堆積する金属膜は、その材料や成膜環境によって性質が異なる。例えばLaのように非常に反応性の高い材料を用いて成膜した場合、金属膜が付着した防着板などの構成部品を真空中から大気へ取り出す際に、金属膜が酸素と激しく反応して発火する場合がある。また、Siのようにそれほど反応性が高くない材料であっても、成膜装置の到達圧力が0.1Pa以下になるような高真空の装置であった場合、付着した金属膜は純金属となって、高い反応性を有することがあり、同様に発火する恐れがある。金属膜の発火は、突然起こる上に連鎖的に拡がるため、金属膜の発火を抑える対策が必要となる。
【0007】
特許文献1や特許文献2に開示された構成部品に付着した金属膜の除去に関する従来技術は、構成部品を成膜装置外に取り出してから除去作業を行うものであり、金属膜の発火を抑える対策には適用できない。
【0008】
特許文献3に開示されたものは、成膜装置内に付着した銅を除去するもので、成膜装置から構成部品を取り出すことなく金属膜を除去することができる。具体的には、まず銅を洗浄液にて酸化させ、次に特殊なガスで錯体化させ、最後に昇華させるというステップを踏む。しかし、この従来技術は、銅以外の材料で同様の手段を講じることができる保証はない。また、成膜材料源自体にも同様の処理が施されてしまい、成膜材料源の消耗、汚染が懸念される。
【0009】
また、金属膜が付着した構成部品を長時間大気中に晒してから取り出し作業を行うことも考えられるが、この場合、まず酸化されるのは厚い金属膜の表層付近のみで、金属膜の内部まで酸化を進行させるには莫大な時間を要してしまう。
【0010】
本発明の目的は、付着した金属膜が発火することを短時間で防止することが可能な金属膜の剥離方法及び成膜装置用の構成部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の金属膜の剥離方法は、金属膜を成膜するための成膜装置の真空チャンバー内に配備された構成部品に付着した金属膜の剥離方法であって、前記構成部品の外面に開口する多数のガス供給孔を通じて酸素を含むガスを前記金属膜に対して供給して前記ガスにより前記金属膜を裏面側からも酸化させる工程と、前記真空チャンバーを大気開放したのちに前記金属膜を剥離する工程と、を順に行うことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の成膜装置用の構成部品は、金属膜を成膜するための成膜装置の真空チャンバー内に配備された構成部品において、前記構成部品の外面に開口する多数のガス供給孔を設け、前記構成部品の外面に付着した金属膜に対して前記ガス供給孔から酸素を含むガスを供給し、前記金属膜を裏面側からも酸化することを可能としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明を用いることにより、成膜装置のメンテナンスの際に金属膜が発火するおそれを短時間で低減することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の構成部品が用いられる成膜装置の概略図である。
【図2】本発明の第一の実施形態による成膜装置用の構成部品の模式断面図である。
【図3】本発明の第二の実施形態による成膜装置用の構成部品の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0016】
図1は本発明の構成部品が用いられる成膜装置の概略図である。真空チャンバー101は基板106を固定、回転させるための基板固定冶具105とターゲットユニット102を備えている。ターゲットユニット102の各面にはそれぞれターゲット103とチムニー104が付いており、ターゲットユニット102を回転させることで、任意のターゲットを基板側へ向けることが可能である。真空チャンバー101はメインバルブ108を介して真空排気手段112で真空引きされ、その到達圧力は1.0E−5Pa程度である。
【0017】
成膜を行う際には、真空チャンバー101の外に設けられたスパッタガス供給手段109からガス管111を通じてスパッタガスを供給し、電力印加手段114からターゲットへ200W程度の電力を与える。成膜中も真空排気手段112からの排気は継続して行い、真空チャンバー内の圧力は約0.03Paに保たれる。また、図示は省略するが、真空チャンバー101には、ゲートバルブを介してロードロックチャンバーが併設されており、成膜を終えた基板はロードロックチャンバーへ自動的に移送される。基板を取り出す際は、ゲートバルブを閉めて真空チャンバー101とロードロックチャンバーを空間的に切り離した状態でロードロックチャンバーのみを大気開放する。これにより、真空チャンバー101は常に真空を保った状態で、基板の出し入れが可能となる。
【0018】
この成膜装置を使って繰り返し成膜を行うと、ターゲットに近い構成部品であるチムニー104の表面には厚い金属膜が付着する。また、他の構成部品であるチャンバー内壁用の防着板107にも金属膜の付着が見られる。
【0019】
真空チャンバー内に配備された構成部品であるチムニー104と防着板107には、酸素供給手段110から一方のガス管111、他方のガス管113を通じて酸素を供給することが可能である。また、成膜中にスパッタガス供給手段109からスパッタガスを供給することもできる。一方のガス管111には、スパッタガスを流す場合と酸素を流す場合とを切り分けるためにバルブ116が備えられている。防着板107については、酸素供給時に加熱できるよう、チャンバー外壁に防着板107を加熱するための加熱手段115が備えられている。
【0020】
本発明を実施して成膜装置のメンテナンスを行う方法を、以下に順を追って説明する。まず成膜装置を用いてMoとSiから成る多層膜をガラス基板上に成膜した。多層膜は、MoとSiをそれぞれ40回ずつ交互に成膜したものであり、Mo一層当りの成膜時間は約3分、Siの成膜時間は約5分である。成膜を終えた基板はロードロックチャンバーへ自動的に移送され、真空チャンバー101の外に取り出される。このような多層膜の成膜を繰り返し、計50枚作成した。
【0021】
50枚目の多層膜成膜を終えて基板を取り出した後にはチムニー104やチャンバー内壁用の防着板107などに厚い金属膜が付着していたため、真空チャンバー内部のメンテナンスを行った。まず、真空チャンバー101を真空排気手段112で排気した状態で、酸素供給手段110から酸素を100sccm流し、付着した金属膜の裏面側からも酸化させた。このときの圧力は約0.03Paであった。この状態を約10分間保持した。
【0022】
次に、酸素の供給を停止し、真空チャンバー101を大気開放した。チムニー104と防着板107を取り外し、サンドブラストをかけて金属膜を剥離した。
【0023】
最後に、金属膜を剥離した構成部品をアルコールで拭いた後、成膜装置に設置して真空引きを行った。
【0024】
以上の行程を順に行うことにより、短時間でチムニー104や防着板107が発火するおそれを低減することが可能となる。
【0025】
図2は、本発明の第一の実施形態による構成部品であるチムニー104の模式断面図である。チムニー104は内部に中空部201を有し、中空部201から外面へ貫通する形で開口する多数のガス供給孔202があけられている。これにより、チムニー104の外面には、成膜中にはスパッタガスが、金属膜の剥離作業の前には酸素ガスが、ガス管111を通じて供給される。
【0026】
なお、ガス供給孔202の直径は約1mmとした。これは、直径が小さすぎると金属膜によって孔が塞がれてしまうことと、直径が大きすぎると多量の金属膜がガス供給孔の内部にまで侵入してしまうこととを考慮した上で決定した。そして、隣り合うガス供給孔の間隔は約5mmとし、成膜中に流すスパッタガスの流量は20sccmとした。
【0027】
図3は、本発明の第二の実施形態による構成部品である防着板の模式断面図である。防着板107の表面にはスポンジ状チタン303を図示しないネジで固定し、その裏側からはガス管113を通じて酸素を供給することができる。
【0028】
本実施形態は実施形態1と酸素供給の形態が異なる。実施形態1では整然と並んだ直径約1mmのガス供給孔から酸素が供給される。一方、実施形態2では、中空部301から外面へ貫通する複数のガス供給孔302の開口から出た酸素を含むガスが、真空チャンバー側の多孔質構造の壁面であるスポンジチタン303で拡散されて供給される。これにより、金属膜の裏面側のより広い面積を酸化することができる。また、金属膜の付着によってガス供給孔が塞がれる可能性も低くなる。
【0029】
まず、真空チャンバー101のメンテナンスを開始する前に、真空排気手段112で排気した状態で、酸素供給手段110から酸素を100sccm流す。このときの圧力は約0.03Paである。その際、加熱手段115を用いて防着板107を約100℃に加熱する。この状態を約10分間保持する。
【0030】
次に、酸素の供給を停止し、防着板107が常温に戻るまで約10分待った後、真空チャンバー101を大気開放する。チムニー104と防着板107を取り外し、チムニー104はサンドブラストをかけて金属膜を剥離する。防着板107は、スポンジチタン301を新しいものに交換する。
【0031】
最後に、金属膜を剥離した構成部品であるチムニー104、防着板107をアルコールで拭いた後、成膜装置に設置して真空引きを行う。
【0032】
以上の方法でメンテナンスを行うことにより、短時間で成膜装置用の構成部品であるチムニー104や防着板107が発火するおそれを低減することが可能となる。
【符号の説明】
【0033】
101 真空チャンバー
102 ターゲットユニット
103 ターゲット
104 チムニー
105 基板固定冶具
106 基板
107 防着板
108 メインバルブ
109 スパッタガス供給手段
110 酸素供給手段
111 ガス管
112 真空排気手段
113 ガス管
114 電力印加手段
115 加熱手段
116 バルブ
201,301 中空部
202,302 ガス供給孔
303 スポンジ状チタン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属膜を成膜するための成膜装置の真空チャンバー内に配備された構成部品に付着した金属膜の剥離方法であって、
前記構成部品の外面に開口する多数のガス供給孔を通じて酸素を含むガスを前記金属膜に対して供給して前記ガスにより前記金属膜を裏面側からも酸化させる工程と、
前記真空チャンバーを大気開放したのちに前記金属膜を剥離する工程と、
を順に行うことを特徴とする金属膜の剥離方法。
【請求項2】
金属膜を成膜するための成膜装置の真空チャンバー内に配備された構成部品において、
前記構成部品の外面に開口する多数のガス供給孔を設け、前記構成部品の外面に付着した金属膜に対して前記ガス供給孔から酸素を含むガスを供給し、前記金属膜を裏面側からも酸化することを可能としたことを特徴とする成膜装置用の構成部品。
【請求項3】
金属膜を成膜するための成膜装置の真空チャンバー内に配備された構成部品において、
前記構成部品の前記真空チャンバー側の壁面を多孔質構造とし、前記多孔質構造の壁面に付着した前記金属膜に対して前記多孔質構造の壁面を通じて前記金属膜に対して酸素を含むガスを供給し、前記金属膜を裏面側からも酸化することを可能としたことを特徴とする成膜装置用の構成部品。
【請求項4】
前記構成部品は、酸素を含むガスを供給する際に加熱する加熱手段を有することを特徴とする請求項2又は3に記載の成膜装置用の構成部品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−41602(P2012−41602A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−184206(P2010−184206)
【出願日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】