説明

金属被覆基板及びその製造方法

金属とプラスチックフィルムの密着強度及び安定性の大幅な向上を図る。
基体プラスチックフィルム層3の上に熱可塑性プラスチックフィルム層2を積層して積層プラスチックフィルムとし、この積層プラスチックフィルムの温度を制御しながら、金属層1を気相法により該熱可塑性プラスチックフィルム層2上へ成膜した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックフィルムの上に金属層が設けられ、フレキシブル回路基板、フレキシブル配線板、あるいはTABテープ等に好適に用いられる金属被覆基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックフィルム上に金属層が設けられてなる金属被覆基板は、金属被覆部分で回路を形成し、場合によっては、その回路上にICやコンデンサなどのマイクロチップを積載することで、携帯電話やデジタルカメラなどの電子機器を高密度実装化するための必須材料となっている。
【0003】
この種の金属被覆基板の金属層としては、価格、加工性、電気的特性、耐マイグレーション性などの面から、銅が最も多く用いられている。また、基板材料であるプラスチックフィルムとして、当該金属被覆基板の用途により、様々なプラスチックフィルムが用いられているが、高精細に加工した金属層の導電回路上へマイクロチップをはんだ接合したりする場合等には、高度な熱的寸法安定性が求められることから、熱的に安定で金属層との線膨張係数差が少ないポリイミドフィルムが好適に用いられている。
【0004】
これらの金属被覆基板の製造方法としては、
(1)圧延法ないし電解法を用いて予め銅箔を作製し、この銅箔を接着剤でプラスチックフィルムに接合する方法、
(2)接着剤を介さず、プラスチックフィルムの前駆体を銅箔に塗布して重合させ、銅箔とプラスチックフィルムとを接着させるキャスティング法(例えば、特許文献1参照)、
(3)熱可塑性プラスチックフィルムを銅箔と積層してラミネートし、銅箔とプラスチックフィルムとを接着させるラミネート法(例えば、特許文献2参照)、
(4)プラスチックフィルムへスパッタ法などにより金属を薄く被覆し、その被覆された金属上へメッキで金属を所定の厚さまで被覆する蒸着メッキ法(例えば、特許文献3参照)
などが用いられている。
【0005】
そして、上記(2)キャスティング法、(3)ラミネート法、等の接着剤を使用しない方法で製造された金属被覆基板は、比較的高温密着性に優れているため、チップ部品を実装するような用途に広く用いられている。しかし近年の技術進歩に伴い、高密度実装化の要望が一層高まり、回路の高精細化対応のために被覆金属をより薄くしたいとの要望が高まっている。
【0006】
この要望を満足するために、キャスティング法やラミネート法においては、なるべく薄い銅箔を用いてプラスチックフィルムをキャスト成膜したり、積層ラミネートすることがおこなわれている。しかし、この銅箔として薄いものを作製し、これを接着することには限界がある。例えば、膜厚9μm以下の銅箔を電解法や圧延法で作製したとしても、貼り付け加工などの際のハンドリング性が悪く、皺などが発生するという問題がある。
【0007】
そこで、ハンドリング性の向上、皺などの回避を目的として、プラスチックフィルムへ、予め厚物の銅箔を貼り付けておき、後の工程で、薬品によるエッチング等により銅箔を薄く加工する方法や、金属層中に予めバッファ層を積層しておき、金属層積層後に前記バッファ層を引き剥がすなどして、金属層の薄膜化を達成する方法が採られている(例えば、特許文献4参照)。
【0008】
一方、上記(4)蒸着メッキ法においては、比較的低コストで、薄い金属層をプラスチックフィルム上に被覆することが可能であるが、プラスチックフィルムと被覆金属との接着安定性は、他の方法と比較して大きく劣っているという問題点があった。
【0009】
この、プラスチックフィルムと被覆金属との接着安定性が大きく劣っている問題点を解決する手段としては、蒸着メッキ前に、プラズマ処理によりプラスチックフィルム(ポリイミドフィルム)の表面を改質する手法が提案されている。(例えば、非特許文献1参照)。
【0010】
【特許文献1】特開昭60−157286
【特許文献2】米国特許第4543295
【特許文献3】特開昭61−47015
【特許文献4】特開2001−30847
【非特許文献1】真空 第39巻 第1号(1996年発行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記(1)接着剤を用いて接合する手法において、銅箔とプラスチックフィルムとの高温密着安定性が低いために、所定のチップ部品を高温接着処理が必要な半田材を用いて積層することができないという問題があった。
【0012】
また、上記(2)キャスティング法では、後工程において、エッチング法では金属層を均一にエッチングする技術が難しいために生産性が低く、(3)ラミネート法の手法にバッファ層を設ける手法を併用した場合、2種以上の金属箔を積層することになる。結局、いずれの手法も製造工程が複雑でコストの高いものとなっていた。
【0013】
さらに、上記(4)蒸着メッキの手法において、蒸着メッキ前にプラスチックフィルムへプラズマ処理を行うと、例えば、ポリイミドフィルム中のケトン基のC−CやC−N結合が切断されて極性基が形成され、これが被覆金属とイオン結合することにより、金属層とポリイミドフィルムの密着性がある程度向上することが確認されている。しかしながら、このような極性基の形成だけでは、金属層とプラスチックフィルムとの間で、ある程度の密着性の向上は見られるものの、携帯電話の屈曲部や、はんだ処理などの高温耐熱性を満たすような十分な密着性は得られなかった。
【0014】
本発明は、上記事情を考慮してなされたもので、コストアップを極力抑えながらプラスチックフィルム上に金属被覆を形成するに当たり、金属とプラスチックフィルムの密着強度及び安定性の大幅な向上を図ることのできる金属被覆基板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために、本発明者等は、金属被覆基板において、金属被覆基板の基体となる第1層目のプラスチックフィルム層と金属層との組み合わせを選択して、両者の線膨張係数差を所定値以下とすること。および、前記基体プラスチックフィルム層と金属層との間に熱可塑性プラスチックを含む熱可塑性プラスチックフィルム層を介在させ積層プラスチックフィルムとし、この積層プラスチックフィルム上へ気相法により金属層を成膜すると、金属とプラスチックフィルムの密着強度及び安定性が著しく向上することを見出し、本発明をなすことができた。
【0016】
即ち、第1の手段は、
複数のプラスチックフィルム層を有する積層プラスチックフィルムの片側または両側に金属層が設けられた金属被覆基板であって、
前記積層プラスチックフィルムは、少なくとも基体となるプラスチックフィルム層と、熱可塑性プラスチックを含む熱可塑性プラスチックフィルム層とを有し、
前記基体となるプラスチックフィルム層は、前記金属層との線膨張係数差が15×10−6/K以下のプラスチックフィルム層であり、
前記金属層は、前記熱可塑性プラスチックフィルム層上に気相法にて成膜されたものであることを特徴とする金属被覆基板である。
【0017】
第2の手段は、第1の手段に記載の金属被覆基板であって、
前記熱可塑性プラスチックフィルム層に含まれる熱可塑性プラスチックのガラス転移点温度は180℃以上であることを特徴とする金属被覆基板である。
【0018】
第3の手段は、第1または第2の手段に記載の金属被覆基板であって、
前記金属層は、前記積層プラスチックフィルムの温度が、前記熱可塑性プラスチックフィルムのガラス転移点温度より100℃低い温度から、前記熱可塑性プラスチックフィルムの分解温度未満の温度に制御された状態で成膜されたものであることを特徴とする金属被覆基板である。
【0019】
第4の手段は、第1〜第3のいずれかの手段に記載の金属被覆基板であって、
前記金属層と熱可塑性プラスチックフィルム層との接合界面から金属層へ向かって、Si、Ti、Alから選択される1種以上の元素を含むことを特徴とする金属被覆基板である。
【0020】
第5の手段は、第1〜第4のいずれかの手段に記載の金属被覆基板であって、
前記気相法とは、スパッタ法またはイオンプレーティング法であることを特徴とする金属被覆基板である。
【0021】
第6の手段は、第1〜第5のいずれかの手段に記載の金属被覆基板であって、
前記積層プラスチックフィルムの引っ張り弾性率が1000MPa以上であることを特徴とする金属被覆基板である。
【0022】
第7の手段は、第1〜第6のいずれかの手段に記載の金属被覆基板であって、
前記気相法により成膜された金属層の上に、更にメッキ法による金属層が積層されていることを特徴とする金属被覆基板である。
【0023】
第8の手段は、
複数のプラスチックフィルム層を有する積層プラスチックフィルムの片側または両側に金属層が設けられた金属被覆基板の製造方法であって、
前記積層プラスチックフィルムにおいて、前記金属層との線膨張係数差が15×10−6/K以下である基体となるプラスチックフィルム層を選択し、この基体となるプラスチックフィルム層の片面または両面へ熱可塑性プラスチックを含む熱可塑性プラスチックフィルム層を形成した後、
前記金属層を、前記熱可塑性プラスチックフィルム層の上へ、気相法にて成膜することを特徴とする金属被覆基板の製造方法である。
【0024】
第9の手段は、第8の手段に記載の金属被覆基板であって、
前記金属層を成膜する際に、前記熱可塑性プラスチックフィルム層の温度を、前記熱可塑性プラスチックフィルムのガラス転移点温度より100℃低い温度から、前記熱可塑性プラスチックフィルムの分解温度未満に制御することを特徴とする金属被覆基板の製造方法である。
【0025】
第10の手段は、第9の手段に記載の金属被覆基板の製造方法であって、
前記金属層を成膜する前に、前記熱可塑性プラスチックフィルム層へSi、Ti、Alから選択される1種以上の元素を含む有機物質を付着させる工程を、有することを特徴とする金属被覆基板の製造方法である。
【0026】
第11の手段は、第10の手段に記載の金属被覆基板の製造方法であって、
前記金属層を成膜する前に、前記熱可塑性プラスチックフィルム層へSi、Ti、Alから選択される1種以上の元素を含む有機物質を付着させる工程と、
前記Si、Ti、Alから選択される1種以上の元素を含む有機物質が付着した積層プラスチックフィルムを150℃以上で熱処理する工程とを、有することを特徴とする金属被覆基板の製造方法である。
【0027】
第12の手段は、第11の手段に記載の金属被覆基板の製造方法であって、
前記金属層を成膜する前に、前記熱可塑性プラスチックフィルム層へSi、Ti、Alから選択される1種以上の元素を含む有機物質を付着させる工程と、
前記Si、Ti、Alから選択される1種以上の元素を含む有機物質が付着した積層プラスチックフィルムを150℃以上で熱処理する工程とを、同時におこなうことを特徴とする金属被覆基板の製造方法である。
【0028】
第13の手段は、第8〜第12の手段のいずれかに記載の金属被覆基板の製造方法であって、
前記金属層を成膜する気相法として、スパッタ法またはイオンプレーティング法を行うことを特徴とする金属被覆基板の製造方法である。
【0029】
第14の手段は、第8〜第13の手段のいずれかに記載の金属被覆基板の製造方法であっ3て、
前記気相法により成膜した前記金属層の上へ、更にメッキ法により同種または異種の金属層を積層するメッキ成膜工程を備えることを特徴とする金属被覆基板の製造方法である。
【0030】
第15の手段は、第14の手段に記載の金属被覆基板の製造方法であって、
前記気相法による金属層の成膜後、または、前記メッキ成膜工程後に、前記金属層へエッチング加工を施すことにより、前記金属層へ所定の回路パターンを形成することを特徴とする金属被覆基板の製造方法である。
【0031】
第16の手段は、第14または第15の手段に記載の金属被覆基板の製造方法であって、
前記気相法により成膜した前記金属層の上へ、レジスト膜を設けることで所定の回路パターンを形成する工程と、
当該回路パターンが形成された金属層の上へ、メッキ法により同種または異種の金属層を積層する工程と、
前記レジスト膜を剥離し、当該剥離されたレジスト膜下の金属層を除去する工程と、を有し、前記金属層に所定の回路パターンを形成することを特徴とする金属被覆基板の製造方法である。
【発明の効果】
【0032】
第1の手段に係る金属被覆基板は、少なくとも基体となるプラスチックフィルム層と熱可塑性プラスチックフィルム層とが積層された積層プラスチックフィルムに金属層が被覆された金属被覆基板において、基体プラスチックフィルム層は前記金属層との線膨張係数差が15×10−6/K以下であるプラスチックフィルム層であり、前記基体プラスチックフィルム層の片側または両側に熱可塑性プラスチックを含む熱可塑性プラスチックフィルム層が積層され、前記熱可塑性プラスチックフィルム層上に気相法にて成膜された金属層が積層していることを特徴とする金属被覆基板であり、各層間の密着性が非常に高く、当該金属被覆基板への熱処理後における各層間の密着性や寸法安定性に優れる。
【0033】
第2の手段に係る金属被覆基板は、前記熱可塑性プラスチックフィルム層が180℃以上のガラス転移点温度を有することから、金属層とプラスチックフィルム層との密着強度、および金属被覆基板への熱処理後における各層間の密着性や寸法安定性に優れる。
【0034】
第3の手段に係る金属被覆基板は、前記金属層が、前記熱可塑性プラスチックフィルムのガラス転移点温度より100℃低い温度から、前記熱可塑性プラスチックフィルムの分解温度未満の温度に制御された状態で、気相法により成膜されたものであるため、金属層とプラスチックフィルム層との密着強度、および金属被覆基板への熱処理後における各層間の密着性や寸法安定性に優れる。
【0035】
第4の手段に係る金属被覆基板は、金属層とプラスチックフィルム層との密着強度の密着性に優れる。
【0036】
第5の手段に係る金属被覆基板は、前記金属層が、スパッタ法ないしイオンプレーティング法で被覆された金属層であり、金属層とプラスチックフィルム層との密着強度、および金属被覆基板への熱処理後における各層間の密着性が非常に大きい。
【0037】
第6の手段に係る金属被覆基板は、前記基体プラスチックフィルム層と熱可塑性プラスチックフィルム層からなる積層プラスチックフィルム層の引っ張り弾性率が1000MPa以上であることから、機械強度に優れる。
【0038】
第7の手段に係る金属被覆基板は、気相法により成膜された金属層の上に、更に、メッキ法による金属層が積層されているので、金属層の成膜効率が高く、金属層とプラスチックフィルム層との密着強度及び安定性の高い低コストな金属被覆基板となる。
【0039】
第8の手段に係る金属被覆基板の製造方法によれば、金属層との線膨張係数差が15×10−6/K以下である基体プラスチックフィルム層へ熱可塑性プラスチックフィルム層を積層して積層プラスチックフィルムを製造した後、前記熱可塑性プラスチックフィルム層の表面に気相法を用いて金属を被覆するので、金属層とプラスチックフィルムとの密着強度及び密着安定性が高く、なおかつ、機械強度、寸法安定性にも優れた極薄の金属被覆基板を低コストで得ることができる。
【0040】
第9の手段に係る金属被覆基板の製造方法によれば、気相法を用いて金属層を成膜する際に、熱可塑性プラスチックフィルム層の温度を、前記熱可塑性プラスチックフィルム層に含まれる熱可塑性プラスチックフィルムのガラス転移点温度より100℃低い温度から、前記熱可塑性プラスチックフィルム分解温度未満の温度に制御された状態で、気相法により成膜するので、金属層とプラスチックフィルムとの密着強度及び密着安定性を大きく高めることができる。
【0041】
第10の手段に係る金属被覆基板の製造方法によれば、金属層とプラスチックフィルム層との密着強度の密着性に優れた金属被覆基板を得ることができる。
【0042】
第11の手段に係る金属被覆基板の製造方法によれば、金属層とプラスチックフィルム層との密着強度の密着性に優れた金属被覆基板を得ることができる。
【0043】
第12の手段に係る金属被覆基板の製造方法によれば、金属層とプラスチックフィルム層との密着強度の密着性に優れた金属被覆基板を、高い生産性をもって得ることができる。
【0044】
第13の手段に係る金属被覆基板の製造方法によれば、金属を被覆する気相法がスパッタ法またはイオンプレーティング法であるので、金属層とプラスチックフィルムとの密着強度及び密着安定性を更に大きく高めることができる。
【0045】
第14の手段に係る金属被覆基板の製造方法によれば、気相法により成膜した金属層の上へ更にメッキ法により同種または異種の金属層を積層するので、金属層の厚さや種類を自由に選択でき効率良く制御することができる。
【0046】
第15の手段に係る金属被覆基板の製造方法によれば、前記金属層にエッチング加工を施すことで、金属層部分に所定の回路パターンを形成された基板を得ることができる。
【0047】
第16の手段に係る金属被覆基板の製造方法によれば、パターンのピッチが狭い場合でも、金属層を厚くすることができ、高精細且つ低抵抗の回路パターンを形成することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本実施の形態に係る金属被覆基板は、基体プラスチックフィルム層と熱可塑性プラスチックフィルム層との積層フィルムを形成後、前記熱可塑性プラスチックフィルムの上にスパッタ法またはイオンプレーティング法等の気相法により金属層を被覆し、この金属層の上へ、更にメッキ法により金属層を積層形成したものである。図1は片面にのみ金属層を積層したタイプ、図2は両面に金属層を積層したタイプの断面図を示している。各図において、1は金属層、2は熱可塑性プラスチックフィルム層、3は基体プラスチックフィルム層である。そして、本発明の実施の形態に係る基体プラスチックフィルム層は、金属層との線膨張係数差が15×10−6/K以下であるものが選択される。
【0049】
実施形態の金属被覆基板を得るには、まず、基体プラスチックフィルムと熱可塑性プラスチックフィルムとの前駆体を用意し、これらから積層プラスチックフィルムを作製する。この積層プラスチックフィルム作製は、基体プラスチックフィルムと熱可塑性プラスチックフィルムとを同時に成形しても良いし、順次成形しても良い。
【0050】
まず、基体プラスチックフィルムと熱可塑性プラスチックフィルムとを同時に成形する工程について説明する。
この場合は、基体プラスチックフィルムと熱可塑性プラスチックフィルムとの前駆体を平滑な金属またはプラスチックの基板上へ順次別個に、または、多層押出しダイスなどを用いて同時に、膜状に成形する。成形する順番は、片面金属被覆基板を製造する場合は、基体プラスチックフィルム前駆体と熱可塑性プラスチックフィルム前駆体のいずれが先でも良い。両面金属被覆基板を製造する場合は、熱可塑性プラスチックフィルム前駆体、基体プラスチックフィルム前駆体、熱可塑性プラスチックフィルム前駆体の順に積層されるように成形する。
【0051】
次に、この前駆体成形膜を80℃〜140℃付近で加熱乾燥して溶媒を揮散させ、部分的に重合を進めて、自己支持性を有するゲルフィルムとする。得られたゲルフィルムを基板から引き剥がし、加熱炉で300℃〜450℃付近まで徐々に昇温することにより重合反応を進めて、基体プラスチックフィルム層と熱可塑性プラスチックフィルム層とを有する積層プラスチックフィルムを作製する。
【0052】
次に、基体プラスチックフィルムと熱可塑性プラスチックフィルムとを、順次成形する工程について説明する。
この場合は、まず、基体プラスチックフィルムの前駆体を基板上で成膜し、この前駆体成形膜を80℃〜140℃付近で加熱乾燥して溶媒を揮散させ、部分的に重合を進めて、自己支持性を有するゲルフィルムとする。得られたゲルフィルムを基板から引き剥がし、加熱炉で300℃〜450℃付近まで徐々に昇温することにより重合反応を進めて、基体プラスチックフィルム層とする。次に、この作製された基体プラスチックフィルム層上に熱可塑性プラスチックフィルムの前駆体を成膜し、この前駆体成形膜を80℃〜140℃付近で加熱乾燥して溶媒を揮散させ、さらに、加熱炉で300℃〜450℃付近まで徐々に昇温することにより重合反応を進めて、基体プラスチックフィルム層上に熱可塑性プラスチックフィルム層が積層された積層プラスチックフィルムを作製する。
【0053】
上述の方法で作製された積層プラスチックフィルムを、加熱および冷却機構が備わった温度制御可能な支持台上に設置して、この熱可塑性プラスチックフィルムのガラス転移点温度(Tg)から100℃低い温度から、この熱可塑性プラスチックフィルムの分解温度未満の温度範囲に温度を制御する。そして、熱可塑性プラスチックフィルム上へ気相法により、金属層を成膜する。金属層を被覆する方法としては、気相法のなかでもスパッタ法ないしイオンプレーティング法にて行うことが、高い密着性を得られることから望ましい。
【0054】
さらに、前記金属層を被覆する際の温度を、前記ガラス転移点温度(Tg)から100℃低い温度から、ガラス転移温度(Tg)までとすると、積層プラスチックフィルムの平均粗さRaが0.08μm以下となる結果、透明性が高い積層プラスチックフィルムを得ることができる。この透明性が高い積層プラスチックフィルムは、TABテープ等に加工されたとき、位置合わせ工程において光学的位置合わせが容易に実施でき、チップ積載や配線の操作性や生産性を向上させることができ好ましい構成である。
【0055】
次に、この気相法を用いて成膜された熱可塑性プラスチックフィルム上の金属層(以下、シード層と記載する場合もある。)上へ、電解または無電解のメッキ法を用い、所定の厚さまで金属層を成膜する構成を採ることができる。このメッキ法を用いて金属層を成膜することにより、生産性良く、所望の膜厚を有する金属層を被覆することが可能となる。
【0056】
なお、必要に応じてシード層を成膜する前の前処理として、予め積層プラスチックフィルムにコロナ放電やグロー放電等の放電処理を施し、熱可塑性プラスチックフィルム表面に官能基を付加すると、シード層と熱可塑性プラスチックフィルムとの密着強度をより高めることができるので、より好ましい。
【0057】
また、予め積層プラスチックフィルム上へ、シランカップリング剤やテトラメトキシシラン等のシラン化合物、またはこれらを加水分解したシラノール化合物等の有機物質を塗布して付着させた後、熱可塑性プラスチックフィルム上へシード層を成膜すると、熱可塑性プラスチックフィルムとシード層との密着強度をより高めることができるので好ましい。
【0058】
ここで、積層プラスチックフィルム上へ付着させる有機物質として、シランカップリング剤やテトラメトキシシラン等のシラン化合物、またはこれらを加水分解したシラノール化合物等のSi元素を含むものを挙げているが、Si元素以外に、Ti元素、Al元素であっても良く、これらの混合物であっても良い。即ち、Alカップリング剤、Tiカップリング剤、トリメトキシAl、テトラメトキシTi等の化合物、およびこれらの混合物も好適に用いることができる。
以下の説明は、シランカップリング剤等のシラン化合物、またはシラノール化合物等を用いた場合を例としておこなうが、含Al有機物質、含Ti有機物質の場合も同様である。
【0059】
シランカップリング剤等のシラン化合物、またはシラノール化合物等を、熱可塑性プラスチックフィルム上へ塗布して付着させる方法の例について説明する。
まず、後述する処理に耐える耐熱性を有する前記積層プラスチックフィルムを準備する。そして、当該積層プラスチックフィルムを加熱炉内に設置し、乾燥した窒素ガスを流しながら150℃〜300℃で加熱乾燥し、さらに当該積層プラスチックフィルムを引き続き150℃〜400℃に加熱しておく。
一方、シランカップリング剤、シラン化合物、またはシラノール化合物等の有機物質を150℃〜400℃で加熱しガス化する。そして当該ガス化したシランカップリング剤等を、加熱されている積層プラスチックフィルムへ所定の時間にて吹き付ける。その後、乾燥した窒素ガスを加熱炉内に流しながら、積層プラスチックフィルムを室温付近まで冷却する。
【0060】
また、積層プラスチックフィルムを加熱炉に設置した後、上述の方法を簡略化するために、加熱炉内に乾燥した窒素ガスを流しながら積層プラスチックフィルムを150℃〜300℃で加熱乾燥すると同時に、150℃〜400℃で加熱ガス化したシランカップリング剤、シラン化合物、またはシラノール化合物等の有機物質吹き付け、その後、乾燥した窒素ガスを流しながら、積層プラスチックフィルムを室温付近まで冷却することとしても良い。
【0061】
当該有機物質であるシランカップリング剤、シラン化合物、またはシラノール化合物を積層プラスチックフィルム上へ付着させることで、後述する耐熱密着性改善のための下地層として、例えば、Cr、Ni、Mo、W、V、Ti、Si、Fe、Alから選択される1種以上の金属または合金を含む層をシード層として設けることを省略することができる。当該シード層を省略することでさらなる後工程におけるエッチング工程をも簡略化することが可能となり、生産性の向上に寄与することから好ましい構成である。
【0062】
上述した、有機物質をガス化して積層プラスチックフィルム上へ付着させることで、シード層を設けることを省略しても、積層プラスチックフィルムと金属層との耐熱密着性が改善される理由は明確ではないが、有機物質が積層プラスチックフィルムへ加熱被覆されることにより、有機物質と熱可塑性プラスチックフィルムとの間で、結合性を改善されるような反応が起こっているものと考えられる。
【0063】
上述した、放電処理とシラン化合物等の塗布処理とは、組み合わせて実施しても、どちらか一方を実施しても、熱可塑性プラスチックフィルムとシード層との密着強度をより高める効果を得ることが出来る。
【0064】
積層プラスチックフィルム上を被覆するシード層に含まれる金属としては、価格や加工性などの点から、銅ないし銅を主相とする燐青銅、黄銅等の耐酸化性合金等が望ましい。この他にも例えば、Al、ステンレスなど好個に使用できるが、これらに限定されるものではない。
【0065】
さらに前記有機物質の付着処理を行わない場合の構成として、上述したシード層において熱可塑性プラスチックフィルム層と接する最下層の部分に下地層を設けても良い。このシード層において下地層を設ける構成を採る場合、下地層として、例えば、Cr、Ni、Mo、W、V、Ti、Si、Fe、Alから選択される1種以上の金属または合金を含む層を選択することができる。そして、下地層を設ける構成を採る場合、上述の温度制御された積層プラスチックフィルム上へ、まずCr、Ni等の下地層を気相法により成膜し、さらにその下地層上へ銅ないし銅を主相とする燐青銅、黄銅等の耐酸化性合金等を有する金属層を成膜すればよい。
【0066】
この構成を採ると、シード層と熱可塑性プラスチックフィルム層との密着力の高温安定性を更に向上させることができる。ここで、後工程である、金属被覆基板へ回路形成を行う際のエッチング性を良好に保つため、下地層の金属の厚さは、おおよそ10〜500Åの範囲に設定するのが望ましい。
【0067】
そして、これらCr、Ni等の下地層の有無に拘わらず、シード層の厚みは1000Å以上に設定するのが望ましい。
【0068】
一方、図2に示す、積層プラスチックフィルムの両面に金属被覆が施された金属被覆基板を製造する場合には、上述した金属被覆処理を片面ずつ行っても良いし、両面同時に行うこともできる。
【0069】
ここで、これらのシード層を成膜する際、積層プラスチックフィルムの温度を、その積層プラスチックフィルム中の熱可塑性プラスチックフィルムが有するガラス転移点温度(Tg)より100℃低い温度から分解温度未満の範囲に制御することで、シード層と熱可塑性プラスチックフィルム層との密着強度及び安定性を著しく向上させることができる。この温度制御は、積層プラスチックフィルムを設置する支持台の温度を制御したり、支持台の熱容量、熱伝導性、放熱性を所定のものにして、スパッタないしイオンプレーティングにより照射されるエネルギーとのバランスをとることでおこなえばよい。そして、熱可塑性プラスチックフィルムの温度の計測は、例えば、熱可塑性プラスチックフィルム自体、および/または、当該熱可塑性プラスチックフィルムが接触する支持台に、熱電対や測温テープを貼り付けることで実施することができる。
【0070】
また、携帯電話などの屈曲部向けとして、さらに高い密着安定性を有する金属被覆基板を得るためには、積層プラスチックフィルムへのシード層の成膜時における積層プラスチックフィルムの温度範囲を、その積層プラスチックフィルム中の熱可塑性プラスチックフィルムのガラス転移点温度(Tg)より50℃低い温度から分解温度未満の範囲に制御すればよい。例えば、熱可塑性プラスチックとして180℃以上のガラス転移点温度(Tg)を有するものを選択し、上述の温度範囲でシード層の成膜処理を行うと、180℃で1時間の加熱処理後でも0.8N/mm以上の高い密着性を維持する金属被覆基板を低コストで得ることができる。
【0071】
なお、積層プラスチックフィルムにおいて熱可塑性プラスチックフィルム層と基体プラスチックフィルム層の厚さの比は、図1に示す片面のみに金属を積層するタイプの場合、熱可塑性:基体=1:100から2:3にするのが望ましい。熱可塑性プラスチックフィルムと基体プラスチックフィルムとの割合を1:100以上とすることで、シード層と熱可塑性プラスチックフィルムとの間で所定以上の密着性が得られ、2:3以下とすることで、積層フィルム全体の機械的強度が低下するのを回避することができる。また、図2に示す、積層プラスチックフィルムの両面に金属を被覆するタイプの場合、その積層プラスチックフィルム両面に設けられた各々の熱可塑性プラスチックフィルムの厚さが上記の範囲内に入っていることが望ましい。
【0072】
例えば、前記熱可塑性プラスチックフィルムとして、ガラス転移点温度(Tg)が180℃以上のポリイミドフィルムを用いると、高い機械的強度と高耐熱性の金属被覆基板が得られる。この場合のポリイミドフィルムの前駆体としては、ジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物の略等モル量を、有機溶媒中で反応させて作製されたポリアミド酸の溶液を用いることが望ましい。
【0073】
前記テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ビフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ビフェニル−2,3,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノン−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ジフェニルスルホン−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、4,4’−(2,2−ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物、m(p)−ターフェニル−3,4,3‘,4’−テトラカルボン酸二無水物、シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、1−カルボキシメチル−2,3,5−シクロペンタントリカルボン酸−2,6:3,5−二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エ−テル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物など、およびこれらから選ばれる2種以上の混合物が好個に使用できるが、これらに限定されるものではない。
【0074】
また、ジアミン成分としては、例えば、1,4−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、2,4ジアミノトルエン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエ−テル、3,4’−ジアミノジフェニルエ−テル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、3,7−ジアミノ−ジメチルジベンゾチオフェン−5,5−ジオキシド、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、4,4’−ビス(4−アミノフェニル)ジフェニルメタン、4,4’−ビス(4−アミノフェニル)ジフェニルエ−テル、4,4’−ビス(4−アミノフェニル)ジフェニルスルホン、4,4’−ビス(4−アミノフェニル)ジフェニルスルフィド、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ジフェニルエ−テル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ジフェニルスルフィド、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノベンズアニリド、1,n−ビス(4−アミノフェノキシ)アルカン(n=3,4,5)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−2,2−ジメチルプロパン、1,2−ビス[2−(4−アミノフェノキシ)エトキシ]エタン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、5(6)−アミノ−1−(4−アミノメチル)−1,3,3−トリメチルインダン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス〔4−(アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、3,3’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,6−ジヒドロキシ−1,3−フェニレンジアミン、3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’,4,4’−テトラアミノビフェニル、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、1,3−ビス(3−アミノプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,8−ジアミノオクタン、1,10−ジアミノデカン、1,12−ジアミノドデカン、2,2’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノベンズアニリド、2−メトキシ−4,4’−ジアミノベンズアニリドなどの芳香族ジアミン、脂肪族ジアミン、キシレンジアミンなど、および、これらから選ばれる2種以上の混合物が好個に使用できるが、これらに限定されるものではない。
【0075】
また、前記のポリアミド酸製造に使用できる有機溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルアミド、N−メチルカプロラクタム、クレゾ−ル類などが好個に使用できる。これらの有機溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を混合して使用してもよいが、これらに限定されるものではない。
【0076】
また、閉環剤としては、ジカルボン酸無水物や、2種以上のジカルボン酸無水物の混合物、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の脂肪族第3級アミン、およびイソキノリン、ピリジン、ベータピコリン等の複素環式第3級アミンなど、およびこれら脂肪族第3級アミンや複素環式第3級アミンなどの2種以上の混合物を好個に使用することができるが、これらに限定されるものではない。
【0077】
また、本願発明に係る金属被覆基板において、被覆された金属層と積層プラスチックフィルムとの材料選択を検討する際、両者の線膨張係数差が15×10−6/K以下となる組み合わせを選択することが好ましい。両者の線膨張係数差を15×10−6/K以下とすることで、金属被覆時における積層プラスチックフィルムのカールや、金属被覆基板に熱処理をおこなったとき発生する応力を低減でき、この結果、金属被覆基板の熱安定性を向上できるので好ましい。そのような金属層と積層プラスチックフィルムとの組み合わせ例として、例えば、金属層が銅の場合、銅は300K付近において16.6×10−6/Kの線膨張係数を有するので、積層プラスチックフィルムは線膨張係数が1.6〜31.6×10−6/Kのものを選択することが望ましい。さらに、積層プラスチックフィルムとして、引っ張り弾性率が1000MPa以上のものを選択することで、高信頼性の金属被覆基板を得ることができる。
【0078】
ここで、本発明において線膨張係数とは、測定対象のプラスチックフィルムを200℃から20℃まで5℃/minで降温した際、当該プラスチックフィルムの製造時に前駆体を加熱処理するときに支持した方向と垂直な方向(以下、この方向をMD方向と記載する。)で測定した線膨張係数をいう。また、引っ張り弾性率とは、当該プラスチックフィルムのMD方向において、ASTM D882に従って計測された引っ張り弾性率をいう。
【0079】
そして、引っ張り弾性率が1000MPa以上で、線膨張係数が10〜23×10−6/Kである積層プラスチックフィルムを製造するのに適したジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物の組み合わせとしては、例えば、テトラカルボン酸二無水物としてビフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ジアミン成分として1,4−ジアミノベンゼンを主成分としたものを挙げることができる。これらの成分は、何れも各々ジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物として50%以上含まれていることが望ましく、その他の成分は、前述したジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物の1種以上と置き換えることができる。
【0080】
また、所望により、まず、ポリアミド酸等を基材に塗布し乾燥させて自己支持性を有するゲルフィルムを作製し、次に、このフィルムの端を固定して縦横に引き延ばすことで、所定の伸延処理を行い、このフィルムの線膨張係数を被覆する金属の線膨張係数に近づけることもできる。
【0081】
上述の方法により得られた、積層プラスチックフィルムの上に気相法により成膜した金属層が設けられたものにおいて、当該気相法により成膜した金属層の上へ、更にメッキ法により同種または異種の金属層を積層して、金属被覆基板を得るのも好ましい構成である。当該メッキ法によれば、金属層の厚さや、金属の種類を自由に選択でき効率良く制御することができると伴に、積層の生産性も高いからである。
【0082】
このようにして得られた金属被覆基板の金属層にエッチング加工等の金属加工を施し、金属層部分に所定の回路パターンを形成することで、例えば、フレキシブル回路基板やフレキシブル配線板を得ることができる。
【0083】
さらに、前記金属加工をエッチング加工にておこなう際、前記気相法により成膜した前記金属層の上へ、レジスト膜を設けることで所定の回路パターンを形成し、当該回路パターンが形成された金属層の上へ、メッキ法により同種または異種の金属層を積層する構成も好ましい。当該構成によれば、メッキ法により積層される金属層は、レジスト膜が設けられていない部分にのみ積層することになる。この結果、メッキ法完了後にレジスト膜を剥離し、当該レジスト膜下の金属層をエッチングして除去するのみでエッチング処理が完了するので、回路パターンのピッチが狭い場合でも、金属層を厚くすることができ、高精細且つ低抵抗の回路パターンを形成することが出来るからである。
【0084】
次に実施形態としての金属被覆基板(以下、「銅張りフレキシブル基板」と記載する場合もある。)を得るための具体的な製造方法の実施例について説明する。
【実施例】
【0085】
(実施例1)
(1)基体となるポリイミドの前駆体の製造工程
窒素気流下、重合槽中のN,N−ジメチルアセトアミド1800gへ、1,4−ジアミノベンゼン108gと、ビフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物294gとを添加して撹拌し、ポリアミド酸溶液を作製した。このポリアミド酸溶液100gに対し、0.5gのコロイダルシリカを添加して基体となるポリイミドの前駆体を作製した。
【0086】
(2)熱可塑性ポリイミド前駆体の製造工程
窒素気流下、重合槽中のN,N−ジメチルアセトアミド1800gへ、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン292gと、ビフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物294gとを添加して20時間撹拌し、ポリアミド酸溶液を作製した。次に、このポリアミド酸溶液に、無水フタル酸を5g添加し、さらに3時間撹拌して熱可塑性のポリイミド前駆体を作製した。この熱可塑性ポリイミド前駆体から作製された熱可塑性ポリイミドのガラス転移点温度(Tg)は220℃だった。
【0087】
(3)ポリイミドフィルム前駆体の製膜工程
上記で作製したポリイミド前駆体を、表面平均粗さRaが0.02μm以下の平滑な基板上へ流延塗布して積層体を形成した。この流延塗布においては、2層押し出しダイスを用い、「(1)基体となるポリイミドの前駆体の製造工程」で作製した基体となるポリイミドの前駆体の膜厚は100μm、「(2)熱可塑性ポリイミド前駆体の製造工程」で作製した熱可塑性ポリイミド前駆体の膜厚25μmとし、さらに基体となるポリイミドの前駆体が基板側となるように流延塗布して積層体を形成した。次に、この積層体を120℃で10分間乾燥させて、自己支持性を有する積層膜として形成し、それから基板と熱可塑性ポリイミドの界面で、基板からポリイミド前駆体塗布膜を引き剥がし、ポリイミドフィルム前駆体を作製した。
【0088】
(4)流延塗布の熱処理工程
上記で得られたポリイミドフィルム前駆体の両端部を支持して、加熱炉の中に設置し、350℃まで徐々に昇温した後、10分間保持することにより、ポリイミドフィルム前駆体の脱水、溶媒除去とイミド化を行った。このようにして得られたポリイミドフィルムは厚さが約25μmで、基体となるポリイミドと熱可塑性ポリイミドとが強く接合された積層プラスチックフィルムとなった。
【0089】
また、基体となるポリイミドフィルムの線膨張係数を測定するため、前記「(1)基体となるポリイミドの前駆体の製造工程」で作製した基体となるポリイミド前駆体のみを用い、表面平均粗さRaが0.02μm以下の平滑な基板上に押し出しダイスを用いて、基体となるポリイミド前駆体の膜厚が100μmとなるように、流延塗布して被膜を形成した。次に、この被膜を120℃で10分間乾燥させて自己支持性を有する膜を形成し、基板から基体となるポリイミド前駆体塗布膜を引き剥がしてポリイミドフィルム前駆体を作製した。熱処理工程は、前記「(4)流延塗布の熱処理工程」と同様に行った。このようにして作製した基体となるポリイミドフィルムのMD方向の線膨張係数と引っ張り弾性率とを各々測定したところ、線膨張係数は13×10−6/K、引っ張り弾性率は8000MPaであった。
【0090】
(5)スパッタ成膜工程
前記(4)で作製した積層プラスチックフィルムの熱可塑性ポリイミド面に、下記条件でCrと銅とをスパッタ成膜した。
まず、Crと銅のターゲットが設置されたスパッタ装置内に、積層プラスチックフィルムの熱可塑性ポリイミド面がターゲット側となるように設置した。次にスパッタ装置の真空チャンバ内を10−4Paまで排気した後、アルゴンガスを導入して、全圧約0.4Paとし、出力2KWを加えてフィルム上に、まずCrを膜厚50Å、次に銅を膜厚2000Å成膜した。この成膜時、積層プラスチックフィルムの温度を200℃または260℃の2水準のどちらかに保たれるようフィルム支持台を温度制御した。
【0091】
(6)メッキ成膜工程
上記で作製したスパッタ被覆付き積層ポリイミドフィルム上に、メッキ液((株)ワールドメタル社製の硫酸銅メッキ浴BMP−CUS)を用いて電流密度2A/dmで光沢銅被覆を約5μmメッキし、フィルムと金属層との密着強度に優れた極薄の銅張りフレキシブル基板を作製した。
【0092】
(7)エッチング性評価工程
上記銅張りフレキシブル基板をパターン間隔30μmにエッチング加工し、それにより得た回路基板へ無電解Snメッキをおこなった後に、電圧100Vを加えて絶縁抵抗値を測定したところ、いずれの試料も1011Ω以上の高い絶縁抵抗値が得られた。
【0093】
(8)密着性評価
密着性の評価は、引き剥がし試験において銅金属層の強度が必要なため、得られた銅張りフレキシブル基板の銅金属層の厚さを30μmまで厚く再メッキして行った。試験はJIS C6471の90゜方向引き剥がし試験に準じ、試料を180゜Cで1時間加熱処理する前後に行った。その結果、表1に示すように熱処理前後とも非常に高い密着強度が得られた。
【0094】
(9)表面粗さ評価
上記(8)の密着性評価の際、積層プラスチックフィルムと金属層との界面で引き剥がした当該評価試料における、プラスチックフィルム層の引き剥がし面の表面粗さを下記のように評価したところ、当該プラスチックフィルムのTgである220℃より低い200℃で成膜した試料の平均粗さは0.06μmであり、透明性が高かった。一方Tgより高い260℃で成膜した試料の平均粗さは0.32μmと透明性が低かった。この結果を表1に示す。
尚、表面粗さの計測には(株)キーエンス製の超深度形状測定顕微鏡VK-8500を用い、当該のプラスチックフィルムの代表的な部分を選択し、149×112μmの範囲を測定レンジ0.02μm、白黒超深度で観察した。次に、この測定範囲から任意に20×20μmの範囲を5点選んで、その範囲内の平均粗さRaを計測し、その平均値を測定値とした。
【0095】
(実施例2)
実施例1と同様に、
(1)基体となるポリイミドの前駆体の製造工程
(2)熱可塑性ポリイミド前駆体の製造工程
(3)ポリイミドフィルム前駆体の製膜工程
(4)流延塗布の熱処理工程
の各工程を行って、基体となるポリイミドと熱可塑性ポリイミドとが強く接合された、厚さが約25μmの積層プラスチックフィルムを作製した。
【0096】
前記(4)で作製した積層プラスチックフィルムを幅20mm長さ150mmに切断し、図3に示す、気化したガス状の有機物質をプラスチックフィルム上に付着させる装置内に設置して、当該プラスチックフィルムの表面にガス化した有機物質を付着させた。本実施例においては、Siを含有する有機物質としてシランカップリング剤を用いた。
【0097】
ここで図3に示す、気化したガス状の有機物質をプラスチックフィルム上に付着させる装置について説明する。
当該気化したガス状の有機物質をプラスチックフィルム上に付着させる装置は、加熱炉10内に有機物質(カップリング剤)22が充填された金属容器21および積層プラスチックフィルム32が収納された金属容器31を設置されている。これら二つの金属容器には耐熱性のホース40が連結されている。ホース40は、ホース入口41から2本に分岐しホース44とホース47となる、一方のホース44はバルブ51を経て金属容器21へ気密を保ちながら連結している。金属容器21にはホース45とホース46とが気密を保ちながら連結され、ホース45はバルブ53を経てホース出口42へ至り、ホース46は金属容器31に気密を保ちながら連結する。他方のホース47もバルブ52を経て金属容器31に気密に保ちながら連結する。さらに金属容器31には、ホース48が気密に保ちながら連結されホース出口43へ至るものである。
【0098】
まず、室温にて、ホース入口41から有機物質搬送用の純度5Nの窒素ガスを5L/minで流し、バルブ51〜53全てを開けて、ホース40内および金属容器21、31の中を窒素ガスで置換する。次に、バルブ52、53は開けたままで、バルブ51を閉め、金属容器31の中に窒素ガスを5L/minで送り込みながら、加熱炉の温度を200℃まで昇温して60分間保持し、積層プラスチックフィルム32中の水分や揮発性有機物成分を乾燥させる。
【0099】
次に、加熱炉の温度を200℃に保ったまま、バルブ52、53を閉め、バルブ51を開けて窒素ガスの流れを、有機物質22が入った金属容器21へ誘導する。そして気化した有機物質22を、窒素ガスによりホース46を経由して金属容器31に搬送して積層プラスチックフィルム32へ1分間吹き付ける。その後、バルブ51を閉め、バルブ52、53を開けて、金属容器31の中に窒素ガスを5L/minで送り込みながら300℃まで昇温し、20分間保持した後、室温まで冷却し、有機物質が付着し、被覆された積層プラスチックフィルムを得た。ここで、有機物質22としては、アミノ系シランカップリング剤3-トリエトキシシリル-N-(1,3-シ゛メチル-フ゛チリテ゛ン)フ゜ロヒ゜ルアミン(製品番号KBE-9103信越化学工業(株)製)を用いた。
【0100】
(5)スパッタ成膜工程
作製したシランカップリング剤が被覆された積層プラスチックフィルムの熱可塑性ポリイミド面に、下記条件で銅をスパッタ成膜した。
まず、銅のターゲットが設置されたスパッタ装置内に、積層プラスチックフィルムの熱可塑性ポリイミド面がターゲット側となるように設置した。次にスパッタ装置の真空チャンバ内を10−4Paまで排気した後、アルゴンガスを導入して、全圧約0.4Paとし、電圧2kVを加えてフィルム上に、銅を膜厚2000Å成膜した。この成膜時、積層プラスチックフィルムの温度を193℃または236℃の2水準のどちらかに保たれるようフィルム支持台を温度制御した。
【0101】
(6)メッキ成膜工程
上記で作製したスパッタ被覆付き積層ポリイミドフィルム上に、メッキ液((株)ワールドメタル社製の硫酸銅メッキ浴BMP−CUS)を用いて電流密度2A/dmで光沢銅被覆を約5μmメッキし、フィルムと金属層との密着強度に優れた極薄の銅張りフレキシブル基板を作製した。
【0102】
(7)エッチング性評価工程
上記銅張りフレキシブル基板をパターン間隔30μmに塩化鉄水溶液よりなるエッチング液で銅をエッチング加工し、それにより得た回路基板へ無電解Snメッキをおこなった後に、電圧100Vを加えて絶縁抵抗値を測定したところ、いずれの試料も1011Ω以上の高い絶縁抵抗値が得られた。
【0103】
(8)密着性評価
密着性の評価は、引き剥がし試験において銅金属層の強度が必要なため、得られた銅張りフレキシブル基板の銅金属層の厚さを30μmまで厚く再メッキして行った。試験はJIS C6471の90゜方向引き剥がし試験に準じ、各々、熱処理前、および大気中試料を180゜Cで1時間加熱処理した後に行った。その結果、表1のように熱処理後も非常に高い密着強度が得られた。
【0104】
(9)表面粗さ評価
実施例1と同様に、上記(8)の密着性評価の際、積層プラスチックフィルムと金属層との界面で引き剥がした当該評価試料における、プラスチックフィルム層の引き剥がし面の表面粗さを下記のように評価したところ、本実施例のプラスチックフィルムのTgである220℃より低い193℃で成膜した試料の平均粗さは0.04μmであり、透明性が高かった。
一方Tgより高い236℃で成膜した試料の平均粗さは0.26μmと透明性が低かった。この結果を表1に示す。
【0105】
(10)接合界面評価
上記(8)の密着性評価において、プラスチックフィルムと金属層との界面で引き剥がした当該評価試料における、金属層の引き剥がし面から金属層の深さ方向に直径0.8mmの範囲のSiの存在比率を光電子分光装置(アルバックファイ製 ESCA PHI5800)により計測したところ5nmと10nm付近に0.5mol%から2mol%存在していた。ここでスパッタ掘削の際のレート(掘削距離)は、SiO2層なら5nm間隔で掘削できるエネルギー(電圧4kV、電子間電流25mA)を順次加えて10nmまでスパッタ掘削した。
【0106】
(参考例1)
実施例2と同様であるが、(5)スパッタ成膜工程において、まずCrを成膜し、次にCuを成膜した例である。
まず、実施例1と同様に、
(1)基体となるポリイミドの前駆体の製造工程
(2)熱可塑性ポリイミド前駆体の製造工程
(3)ポリイミドフィルム前駆体の製膜工程
(4)流延塗布の熱処理工程
の各工程を行って、基体となるポリイミドと熱可塑性ポリイミドとが強く接合された、厚さが約25μmの積層プラスチックフィルムを作製した。そして、実施例2と同様に、当該積層プラスチックフィルム上へ、シランカップリング剤を付着させた。
(5)スパッタ成膜工程
作製したシランカップリング剤が被覆された積層プラスチックフィルムの熱可塑性ポリイミド面に、下記条件でCrと銅をスパッタ成膜した。
まず、Crと銅のターゲットが設置されたスパッタ装置内に、積層プラスチックフィルムの熱可塑性ポリイミド面がターゲット側となるように設置した。次にスパッタ装置の真空チャンバ内を10−4Paまで排気した後、アルゴンガスを導入して、全圧約0.4Paとし、電圧2kVを加えてフィルム上に、まずCrを膜厚50Å、次に銅を膜厚2000Å成膜した。この成膜時、積層プラスチックフィルムの温度を193℃または236℃の2水準のどちらかに保たれるようフィルム支持台を温度制御した。
【0107】
(6)メッキ成膜工程
実施例2と同様に実施した。
(7)エッチング性評価工程
上記銅張りフレキシブル基板をパターン間隔30μmに塩化鉄水溶液よりなるエッチング液で銅を、フェリシアン化カリ[K3Fe(CN)6]と水酸化カリウムを含むエッチング液でCrをエッチング加工し、それにより得た回路基板へ無電解Snメッキをおこなった後に、電圧100Vを加えて絶縁抵抗値を測定したところ、いずれの試料も1011Ω以上の高い絶縁抵抗値が得られた。
【0108】
(8)密着性評価
実施例2と同様に実施し、その結果を表1に示した。
表1の結果より、参考例1と実施例2とは、ほぼ同程度の密着性を示した。このことから、金属元素を含むカップリング剤にて積層プラスチックフィルムの表面を被覆することで、Crのスパッタによる成膜を省略しても良いことが判明した。
【0109】
(9)表面粗さ評価
実施例1と同様に、上記(8)の密着性評価の際、積層プラスチックフィルムと金属層との界面で引き剥がした当該評価試料における、プラスチックフィルム層の引き剥がし面の表面粗さを下記のように評価したところ、本実施例のプラスチックフィルムのTgである220℃より低い193℃で成膜した試料の平均粗さは0.04μmであり、透明性が高かった。
一方Tgより高い236℃で成膜した試料の平均粗さは0.27μmと透明性が低かった。この結果を表1に示す。
【0110】
(参考例2)
実施例2と同様であるが、(4)流延塗布の熱処理工程において積層プラスチックフィルム上へシランカップリング剤を付着させず、且つ、(5)スパッタ成膜工程においてCrを成膜しなかった例である。
まず、実施例1と同様に、
(1)基体となるポリイミドの前駆体の製造工程
(2)熱可塑性ポリイミド前駆体の製造工程
(3)ポリイミドフィルム前駆体の製膜工程
(4)流延塗布の熱処理工程
の各工程を行って、基体となるポリイミドと熱可塑性ポリイミドとが強く接合された、厚さが約25μmの積層プラスチックフィルムを作製した。
(5)スパッタ成膜工程
作製したシランカップリング剤が被覆されていない積層プラスチックフィルムの熱可塑性ポリイミド面に、実施例2と同条件で銅をスパッタ成膜した。
(6)メッキ成膜工程
実施例2と同様に実施した。
(7)エッチング性評価工程
上記銅張りフレキシブル基板をパターン間隔30μmに塩化鉄水溶液よりなるエッチング液で銅をエッチング加工し、それにより得た回路基板へ無電解Snメッキをおこなった後に、電圧100Vを加えて絶縁抵抗値を測定したところ、いずれの試料も1011Ω以上の高い絶縁抵抗値が得られた。
【0111】
(8)密着性評価
実施例2と同様に実施し、その結果を表1に示した。
表1の結果より、参考例2は、熱処理前の密着性において実施例2、参考例1とほぼ同程度の強度を示し、熱処理後の密着性において実施例2、参考例1よりは強度が劣ったが、用途によって、十分に適用可能なものであった。
【0112】
(9)表面粗さ評価
実施例1と同様に、上記(8)の密着性評価の際、積層プラスチックフィルムと金属層との界面で引き剥がした当該評価試料における、プラスチックフィルム層の引き剥がし面の表面粗さを下記のように評価したところ、本実施例のプラスチックフィルムのTgである220℃より低い193℃で成膜した試料の平均粗さは0.04μmであり、透明性が高かった。
一方Tgより高い236℃で成膜した試料の平均粗さは0.24μmと透明性が低かった。この結果を表1に示す。
【0113】
【表1】

【0114】
(比較例1)
実施例1、2と比較するために、比較例を次の条件で作製した。
即ち、実施例の「(1)基体となるポリイミドの前駆体の製造工程」で作製した基体となるポリイミド前駆体だけを用いて、表面平均粗さRaが0.02μm以下の平滑な基板上に押し出しダイスを用いて、基体となるポリイミド前駆体の膜厚100μmとなるように、流延塗布して被膜を形成した。次に、この積層被膜を120℃で10分間乾燥させて自己支持性を有する膜を形成し、基板から基体となるポリイミド前駆体塗布膜を引き剥がし、ポリイミドフィルム前駆体を作製した。
【0115】
熱処理工程は、実施例の「(4)流延塗布の熱処理工程」と同様に行った。スパッタ成膜工程は、実施例の「(5)スパッタ成膜工程」において、ポリイミドフィルムの温度を約150℃に保たれるように、フィルム支持台を温度制御して行った。以下、実施例と同様に「(6)メッキ成膜工程」、「(7)エッチング性評価工程」、「(8)密着性評価」を行った。
【0116】
その結果、比較例1に係る銅張りフレキシブル基板では、絶縁抵抗値は1011Ω以上の値いが得られたが、加熱後の密着性に関しては0.1N/mm以下と、ほとんど密着性が得られなかった。
【0117】
(比較例2)
比較例1において、スパッタ成膜工程前にポリイミドフィルムへ出力100WでRFプラズマ処理を行って成膜した以外は、比較例1と同様に比較例2に係る銅張りフレキシブル基板を作製し、比較例1と同様の評価を行い、以下の結果を得た。
【0118】
その結果、比較例2に係る銅張りフレキシブル基板では、絶縁抵抗値は1011Ω以上の値いが得られたが、加熱後の密着性に関しては、0.2〜0.4N/mmと密着性が低かった。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】片面に金属層が設けられた本発明の実施形態に係る金属被覆基板の断面図である。
【図2】両面に金属層が設けられた本発明の異なる実施形態に係る金属被覆基板の断面図である。
【図3】積層プラスチックフィルムに有機物質を付着させる装置を示す概念図である。
【符号の説明】
【0120】
1 気相法で成膜された金属層
2 熱可塑性プラスチックフィルム層
3 基体プラスチックフィルム層
10 加熱炉
21 金属容器
22 有機物質
31 金属容器
32 積層プラスチックフィルム
40 ホース
41 ホース入口
42、43 ホース出口
43〜48 ホース
51〜53 バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のプラスチックフィルム層を有する積層プラスチックフィルムの片側または両側に金属層が設けられた金属被覆基板であって、
前記積層プラスチックフィルムは、少なくとも基体となるプラスチックフィルム層と、熱可塑性プラスチックを含む熱可塑性プラスチックフィルム層とを有し、
前記基体となるプラスチックフィルム層は、前記金属層との線膨張係数差が15×10−6/K以下のプラスチックフィルム層であり、
前記金属層は、前記熱可塑性プラスチックフィルム層上に気相法にて成膜されたものであることを特徴とする金属被覆基板。
【請求項2】
請求項1に記載の金属被覆基板であって、
前記熱可塑性プラスチックフィルム層に含まれる熱可塑性プラスチックのガラス転移点温度は180℃以上であることを特徴とする金属被覆基板。
【請求項3】
請求項1または2に記載の金属被覆基板であって、
前記金属層は、前記積層プラスチックフィルムの温度が、前記熱可塑性プラスチックフィルムのガラス転移点温度より100℃低い温度から、前記熱可塑性プラスチックフィルムの分解温度未満の温度に制御された状態で成膜されたものであることを特徴とする金属被覆基板。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の金属被覆基板であって、
前記金属層と熱可塑性プラスチックフィルム層との接合界面から金属層へ向かって、Si、Ti、Alから選択される1種以上の元素を含むことを特徴とする金属被覆基板。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の金属被覆基板であって、
前記気相法とは、スパッタ法またはイオンプレーティング法であることを特徴とする金属被覆基板。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の金属被覆基板であって、
前記積層プラスチックフィルムの引っ張り弾性率が1000MPa以上であることを特徴とする金属被覆基板。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の金属被覆基板であって、
前記気相法により成膜された金属層の上に、更にメッキ法による金属層が積層されていることを特徴とする金属被覆基板。
【請求項8】
複数のプラスチックフィルム層を有する積層プラスチックフィルムの片側または両側に金属層が設けられた金属被覆基板の製造方法であって、
前記積層プラスチックフィルムにおいて、前記金属層との線膨張係数差が15×10−6/K以下である基体となるプラスチックフィルム層を選択し、この基体となるプラスチックフィルム層の片面または両面に熱可塑性プラスチックを含む熱可塑性プラスチックフィルム層を形成した後、
前記金属層を、前記熱可塑性プラスチックフィルム層の上へ、気相法にて成膜することを特徴とする金属被覆基板の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の金属被覆基板の製造方法であって、
前記金属層を成膜する際に、前記熱可塑性プラスチックフィルム層の温度を、前記熱可塑性プラスチックフィルムのガラス転移点温度より100℃低い温度から、前記熱可塑性プラスチックフィルムの分解温度未満に制御することを特徴とする金属被覆基板の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の金属被覆基板の製造方法であって、
前記金属層を成膜する前に、前記熱可塑性プラスチックフィルム層へSi、Ti、Alから選択される1種以上の元素を含む有機物質を付着させる工程を、有することを特徴とする金属被覆基板の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の金属被覆基板の製造方法であって、
前記金属層を成膜する前に、前記熱可塑性プラスチックフィルム層へSi、Ti、Alから選択される1種以上の元素を含む有機物質を付着させる工程と、
前記Si、Ti、Alから選択される1種以上の元素を含む有機物質が付着した積層プラスチックフィルムを150℃以上で熱処理する工程とを、有することを特徴とする金属被覆基板の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の金属被覆基板の製造方法であって、
前記金属層を成膜する前に、前記熱可塑性プラスチックフィルム層へSi、Ti、Alから選択される1種以上の元素を含む有機物質を付着させる工程と、
前記Si、Ti、Alから選択される1種以上の元素を含む有機物質が付着した積層プラスチックフィルムを150℃以上で熱処理する工程とを、同時におこなうことを特徴とする金属被覆基板の製造方法。
【請求項13】
請求項8〜12のいずれかに記載の金属被覆基板の製造方法であって、
前記金属層を成膜する気相法として、スパッタ法またはイオンプレーティング法を行うことを特徴とする金属被覆基板の製造方法。
【請求項14】
請求項8〜13のいずれかに記載の金属被覆基板の製造方法であって、
前記気相法により成膜した前記金属層の上へ、更にメッキ法により同種または異種の金属層を積層するメッキ成膜工程を備えることを特徴とする金属被覆基板の製造方法。
【請求項15】
請求項14に記載の金属被覆基板の製造方法であって、
前記気相法による金属層の成膜後、または、前記メッキ成膜工程後に、前記金属層へエッチング加工を施すことにより、前記金属層へ所定の回路パターンを形成することを特徴とする金属被覆基板の製造方法。
【請求項16】
請求項14または15に記載の金属被覆基板の製造方法であって、
前記気相法により成膜した前記金属層の上へ、レジスト膜を設けることで所定の回路パターンを形成する工程と、
当該回路パターンが形成された金属層の上へ、メッキ法により同種または異種の金属層を積層する工程と、
前記レジスト膜を剥離し、当該剥離されたレジスト膜下の金属層を除去する工程と、を有し、前記金属層に所定の回路パターンを形成することを特徴とする金属被覆基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【国際公開番号】WO2005/051652
【国際公開日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【発行日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515785(P2005−515785)
【国際出願番号】PCT/JP2004/017470
【国際出願日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(000224798)DOWAホールディングス株式会社 (550)
【Fターム(参考)】