鉄筋ダンパー定着構造及び耐震工法
【課題】定着部の変形性能を高めて鉄筋定着部のエネルギー吸収機能が得られるようにした鉄筋ダンパー定着構造及び耐震工法を提供する。
【解決手段】構造物母材1内に施工されたさや管30内に充填された粘性体40を通して鉄筋を挿入施工してダンパー定着部50とし、粘性体の粘性抵抗により鉄筋の定着力を得るようにする。
【解決手段】構造物母材1内に施工されたさや管30内に充填された粘性体40を通して鉄筋を挿入施工してダンパー定着部50とし、粘性体の粘性抵抗により鉄筋の定着力を得るようにする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエネルギー吸収機能が得られるようにした鉄筋ダンパー定着構造及び耐震工法に関する。
【背景技術】
【0002】
図9は従来の接着系アンカー構造を説明する図で、図9(a)は鉄筋曲げ定着構造、図9(b)はあと施工アンカー定着構造を説明する図である。
鉄筋曲げ定着構造の場合、鉄筋コンクリート構造物等の母材1中に先端部分を上方へ折り曲げた鉄筋2を埋め込み、軸力が作用したとき、鉄筋と母材との付着、先端曲げ部分の引き抜き抵抗により定着力が確保される。
あと施工アンカー定着構造の場合、鉄筋コンクリート構造物等の母材1の削孔部3に鉄筋4を施工してモルタルや樹脂等の固化材料(充填材)5を充填して定着し、鉄筋と充填剤、母材との付着により定着力が確保される。
このような接着系アンカーをラーメン高架橋等の鉄筋コンクリート構造物に適用した従来例について図10により説明する。
図10(a)は、完成直後のラーメン高架橋10を示しており、ここでは列車11が走行する高架橋の例であり、柱12を支持する柱基部13には、例えば図10(b)に示すような鉄筋の曲げ定着構造が使用されている。この定着構造の場合、符合Aで示す円で囲んだ先端部分を上方へ折り曲げた鉄筋17を柱基部13内に埋め込んだもので、矢印15で示すような軸力が作用したとき、鉄筋17と柱基部コンクリート構造物との付着、先端部Aの曲げ部分の引き抜き抵抗により定着力が確保される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の接着系アンカー定着構造は、鉄筋がコンクリート構造物等の母材から抜け出さない、鉄筋と母材との滑りを許容しない構造となっている。しかし、鉄筋コンクリートラーメン高架橋などの不静定構造物においては、図11(a)に示すように、コンクリートの温度変化や乾燥収縮によるひずみによって柱や床版部材の長さが変化して柱などの部材に曲げが作用するが、鉄筋の抜け出し量がほとんどないため、柱12を支持する柱基部13に矢印で示すような持続的な引っ張り軸力15が作用し続ける。そのため、図11(b)に示すように、鉄筋17と母材との付着力によって柱基部13に破線19で示すようなコーン破壊力が作用し、ひび割れ発生の原因となる。また、このような定着部のひび割れだけでなく、例えば、図11(c)(一部拡大図)に示すように、柱12の下端部の一方の面には引っ張り力が作用してひび割れ14が発生し、柱12の上端部の反対面にも引っ張り力が用してひび割れ16が発生する。このように、鉄筋に付加的な応力が作用する部材には構造物を設計する際に、通常の列車荷重や地震荷重に加えて、付加応力の発生をあらかじめ見込んで鉄筋の耐震設計を行う必要があり、不経済になってしまう。また、単純桁を連結して連続桁化する場合やラーメン構造化し構造物の不静定次数を高めて耐震性を向上させる場合に、柱に曲げによるひび割れが生じることになる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は上記課題を解決しようとするもので、定着部の変形性能を高めて鉄筋定着部のエネルギー吸収機能が得られるようにした鉄筋ダンパー定着構造及び耐震工法を提供することを目的とする。
本発明の鉄筋ダンパー定着構造は、構造物母材内に施工されたさや管内に充填された粘性体を通して鉄筋を挿入施工してダンパー定着部を構成し、粘性体の粘性抵抗により鉄筋の定着力を得ることを特徴とする。
また、本発明の鉄筋ダンパー定着構造は、鉄筋がダンパー定着部のさや管を貫通して施工されていることを特徴とする。
また、本発明の耐震工法は、前記鉄筋ダンパー定着構造を鉄筋コンクリート構造物の柱または梁に配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明の鉄筋ダンパー定着構造は、鉄筋に温度変化や乾燥収縮等の緩やかな荷重が作用した場合には、粘性体が徐々に変形することで部材に作用する不要な応力を緩和することができ、一方、地震荷重のような急激な荷重が作用した場合には粘性体の粘性抵抗により鉄筋の動きが抑制され、大きな定着力を得ることができる。また、鉄筋コンクリート構造物の耐震補強に適用した場合、構造物部材を損傷することなく地震エネルギを吸収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】粘性体を用いた鉄筋ダンパ定着部の構造の例を説明する図である。
【図2】粘性体ダンパ定着部を備えた柱鉄筋の全体構造を説明する図である。
【図3】粘性体を収納するさや管の例を説明する図である。
【図4】緩やか引き抜き力が作用したときの粘性体の変形を説明する図である。
【図5】急激な引き抜き力が作用したときの粘性抵抗を説明する図である。
【図6】鉄筋が粘性体ダンパー部を貫通している例を説明する図である。
【図7】ラーメン高架橋に粘性体ダンパ定着部を適用した例を説明する図である。
【図8】粘性体ダンパ定着機構の設置箇所を説明する図である。
【図9】従来の接着系アンカーを説明する図である。
【図10】従来の接着系アンカーを高架橋に適用した例を説明する図である。
【図11】図10におけるひび割れ発生を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
図1は粘性体を用いた鉄筋ダンパー定着部の構造の例を説明する図、図2は粘性体を用いた鉄筋ダンパー定着部を備えた柱鉄筋構造を説明する図である。
図1において、さや管30にオイルなどの粘性体40を収納したダンパー定着部50を鉄筋コンクリート柱等のコンクリート構造物の母材1中に一体施工し、鉄筋20をダンパー定着部50に通して施工する。このような構造において、鉄筋20に温度変化や乾燥収縮等の緩やかな荷重が作用した場合には、粘性体が徐々に変形することで部材に作用する不要な応力を緩和し、コンクリート構造物等のひび割れの発生を防止することができる。一方、地震荷重のような急激な荷重が作用した場合には粘性体の粘性抵抗により鉄筋の動きが抑制され、大きな定着力が得られる。
鉄筋20は粘性体の粘性抵抗が作用し易いように異径鉄筋を用いることが望ましいが丸棒であってもよい。丸棒であっても粘性抵抗は作用するとともに、鉄筋20に対しては長さ方向だけでなく、これに直交する方向の成分の力も同時に作用して粘性体に対して剪断力が働くので、十分抵抗力が作用して定着力が得られる。なお、使用する粘性体は硬めの粘度の大きいオイル等を使用し、その物性としては、アスファルト系の粘性体を使用する場合は、比重1.0以上、粘度10000±2000pのものが望ましい。
また、ダンパー定着部の変形性能を高めるためには、鉄筋20が母材1に対して可動であることが必要であり、そのためには、図2に示すように、ダンパー定着部50を通して延びる鉄筋20の側面と母材1との間は摩擦力が働かないように付着を切った縁切り部60とすることが望ましい。縁切り部60は母材1との間に空隙があるように模式的に示しているが、空隙がなくても、例えばシース管やビニールホースで鉄筋を被覆したり、鉄筋にビニールテープを巻き付けるなどの方法を用いて付着を切るようにしてもよい。なお、図では鉄筋20を一本のように図示しているが、本発明のダンパー定着構造は、主鉄筋を複数本束ね、或いは全部束ねてダンパー定着部に施工することも可能である。
【0008】
図3は粘性体を収納するさや管構造の例を説明する図である。
オイル等の粘性体を収納するさや管30は、母材1と一体であることが必要であり、そのために、引っ張り力等が作用したときの抜け出し防止用に側面にリブ31を設けるとともに、下端部にアンカー筋33を設けるようにしている。なお、さや管としては、リブ31やアンカー筋33を省略して、側面が波形の管等を用いるようにしてもよい。
【0009】
次に、図4、図5により鉄筋に引っ張り力が作用したときの鉄筋に作用する粘性抵抗について説明する。
図4は緩やかな引き抜き力が作用したときの粘性体の変形を説明する図である。
さや管30にオイル等の粘性体40を収納したダンパー定着部50に鉄筋20の端部の定着部分が浸かっている状態で(図4(a))、鉄筋20に緩やかな引き抜き力Aが作用して鉄筋20が徐々に引き上げられようとすると、粘性体40が徐々に鉄筋に追随して変形部43のように変形するため(図4(b))、鉄筋20の抜け出しに抵抗し、さや管内への押し込み力として作用する。
図5は急激な引き抜き力が作用したときの粘性抵抗を説明する図である。
さや管30にオイル等の粘性体40を収納したダンパー定着部50に鉄筋20の端部の定着部分が浸かっている状態で(図5(a))、鉄筋20に急激な引き抜き力Bが作用すると(図5(b))、急激に上昇しようとする鉄筋20の側面、下端面にはそれぞれ矢印23、25で示す粘性抵抗が作用するため鉄筋の抜け出しを抑制することができる(図5(c)拡大図)。
このように、温度変化等の緩やかな荷重が作用した場合には、粘性体が徐々に変形することで部材に作用する不要な応力を緩和することができる。一方、列車荷重や地震荷重のような急激な荷重が作用した場合には粘性体の粘性抵抗により、鉄筋定着部と母材コンクリートとの間で従来の定着部と同程度の定着力を発揮することができる。
【0010】
図6は鉄筋ダンパー定着部の他の例を説明する図である。
上記した例では、鉄筋端部を粘性体を充填したダンパー定着部に浸けるようにしたが、図示するようにさや管30にオイル等の粘性体40を収納したダンパー定着部を鉄筋20が貫通するようにしてもよい。この例では鉄筋がダンパー定着部を貫通するさや管30の上下端部に粘性体の漏れ止め70を設けるようにしている。漏れ止め70は鉄筋20に密着して鉄筋の移動に追随できるフレキシブルな素材のものを用いることが望ましい。このような貫通タイプの定着構造とすることで、柱や梁の中間部に鉄筋ダンパー定着部を施工することが可能となる。このような構造であっても、鉄筋端部をダンパー定着部に浸ける場合と全く同じように粘性抵抗が作用して定着力が得られる。
【0011】
図7は本発明の鉄筋ダンパー定着構造をラーメン高架橋に適用した耐震工法の例を説明する図で、図7(a)は、列車11が走行する完成直後のラーメン高架橋10を示しており、柱12を支持する柱基部13には、図7(b)に示す本発明の鉄筋ダンパー定着構造が使用されている。この場合、母材と鉄筋との間は付着力が作用しないように縁切り部60とし、鉄筋先端部をダンパー定着部50のさや管30内に収納されている粘性体40に浸かるように柱基部13の母材中に施工する。このような構造とすることで、鉄筋20に加わる軸力をダンパー定着部の粘性抵抗により減衰させることができる。
このように、本発明の鉄筋ダンパー定着構造は、鉄筋表面と母材との付着を切った領域を持つため、鉄筋に軸力が発生したときに鉄筋が母材を損傷することなく、軸力をそのままダンパー定着部に伝達することができ、温度変化やコンクリートの乾燥収縮など鉄筋に持続的に軸力が作用したとき、作用した力に応じて粘性抵抗によりエネルギーを吸収してその力を緩和するため、図7(c)に示すように、ラーメン高架橋10において柱や床版部材の長さが変化して曲げが作用しても鉄筋の軸力が開放されるため定着部や柱にひび割れが発生するのを防止することができ、付加応力の発生をあらかじめ見込んだ鉄筋の耐震設計を行う必要をなくすことができる。また、鉄筋に持続的に軸力が作用しても定着部の損傷はなく、列車荷重や地震荷重など急な荷重に対しては従来と同等の耐震性能を発揮させることができ、従来に比してラーメン高架橋の長さを大幅に長くすることが可能である。なお、本発明の鉄筋ダンパー定着構造は高架橋に限らず、一般のコンクリート構造物に対しても適用可能であることは言うまでもない。
【0012】
図8は本発明の鉄筋ダンパー定着構造の設置箇所を説明する図である。
高架橋の場合、柱が高いと柱頭部と柱基部にかかる力は小さくなるためラーメン構造にすることができる。しかし、高さが低い高架橋の場合、ラーメン構造にすると柱に作用する力が大きくなるため、柱の水平力が小さくなるように柱頭部に沓座を設けて桁を連続桁とする場合がある。上記(図7)したように、柱基部に本発明の鉄筋ダンパー定着構造を適用することで柱に作用する力を緩和することができ、高さが低い高架橋でもラーメン構造化することが可能になる。この場合沓座を不要にすることができるため、材料費のコストダウン、沓座メンテナンス費のコストダウンを図ることが可能になる。
本発明の鉄筋ダンパー定着構造は、図示するように、高架橋80の柱基部81に限らず、柱頭部82に設置することが可能であるとともに、図6に示した鉄筋がダンパー定着部を貫通する構造のものを使用すれば、柱中間部83、梁84などにも設置することが可能で、現場の状況に応じて適宜設置することができる。また、このような適用は、高架橋に限らず、一般のコンクリート構造物の柱や梁に対して施工することも可能である。
【符号の説明】
【0013】
1…コンクリート構造物の母材、20…鉄筋、30…さや管、40…粘性体、50…ダンパー定着部、60…縁切り部、70…漏れ止め。
【技術分野】
【0001】
本発明はエネルギー吸収機能が得られるようにした鉄筋ダンパー定着構造及び耐震工法に関する。
【背景技術】
【0002】
図9は従来の接着系アンカー構造を説明する図で、図9(a)は鉄筋曲げ定着構造、図9(b)はあと施工アンカー定着構造を説明する図である。
鉄筋曲げ定着構造の場合、鉄筋コンクリート構造物等の母材1中に先端部分を上方へ折り曲げた鉄筋2を埋め込み、軸力が作用したとき、鉄筋と母材との付着、先端曲げ部分の引き抜き抵抗により定着力が確保される。
あと施工アンカー定着構造の場合、鉄筋コンクリート構造物等の母材1の削孔部3に鉄筋4を施工してモルタルや樹脂等の固化材料(充填材)5を充填して定着し、鉄筋と充填剤、母材との付着により定着力が確保される。
このような接着系アンカーをラーメン高架橋等の鉄筋コンクリート構造物に適用した従来例について図10により説明する。
図10(a)は、完成直後のラーメン高架橋10を示しており、ここでは列車11が走行する高架橋の例であり、柱12を支持する柱基部13には、例えば図10(b)に示すような鉄筋の曲げ定着構造が使用されている。この定着構造の場合、符合Aで示す円で囲んだ先端部分を上方へ折り曲げた鉄筋17を柱基部13内に埋め込んだもので、矢印15で示すような軸力が作用したとき、鉄筋17と柱基部コンクリート構造物との付着、先端部Aの曲げ部分の引き抜き抵抗により定着力が確保される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の接着系アンカー定着構造は、鉄筋がコンクリート構造物等の母材から抜け出さない、鉄筋と母材との滑りを許容しない構造となっている。しかし、鉄筋コンクリートラーメン高架橋などの不静定構造物においては、図11(a)に示すように、コンクリートの温度変化や乾燥収縮によるひずみによって柱や床版部材の長さが変化して柱などの部材に曲げが作用するが、鉄筋の抜け出し量がほとんどないため、柱12を支持する柱基部13に矢印で示すような持続的な引っ張り軸力15が作用し続ける。そのため、図11(b)に示すように、鉄筋17と母材との付着力によって柱基部13に破線19で示すようなコーン破壊力が作用し、ひび割れ発生の原因となる。また、このような定着部のひび割れだけでなく、例えば、図11(c)(一部拡大図)に示すように、柱12の下端部の一方の面には引っ張り力が作用してひび割れ14が発生し、柱12の上端部の反対面にも引っ張り力が用してひび割れ16が発生する。このように、鉄筋に付加的な応力が作用する部材には構造物を設計する際に、通常の列車荷重や地震荷重に加えて、付加応力の発生をあらかじめ見込んで鉄筋の耐震設計を行う必要があり、不経済になってしまう。また、単純桁を連結して連続桁化する場合やラーメン構造化し構造物の不静定次数を高めて耐震性を向上させる場合に、柱に曲げによるひび割れが生じることになる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は上記課題を解決しようとするもので、定着部の変形性能を高めて鉄筋定着部のエネルギー吸収機能が得られるようにした鉄筋ダンパー定着構造及び耐震工法を提供することを目的とする。
本発明の鉄筋ダンパー定着構造は、構造物母材内に施工されたさや管内に充填された粘性体を通して鉄筋を挿入施工してダンパー定着部を構成し、粘性体の粘性抵抗により鉄筋の定着力を得ることを特徴とする。
また、本発明の鉄筋ダンパー定着構造は、鉄筋がダンパー定着部のさや管を貫通して施工されていることを特徴とする。
また、本発明の耐震工法は、前記鉄筋ダンパー定着構造を鉄筋コンクリート構造物の柱または梁に配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明の鉄筋ダンパー定着構造は、鉄筋に温度変化や乾燥収縮等の緩やかな荷重が作用した場合には、粘性体が徐々に変形することで部材に作用する不要な応力を緩和することができ、一方、地震荷重のような急激な荷重が作用した場合には粘性体の粘性抵抗により鉄筋の動きが抑制され、大きな定着力を得ることができる。また、鉄筋コンクリート構造物の耐震補強に適用した場合、構造物部材を損傷することなく地震エネルギを吸収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】粘性体を用いた鉄筋ダンパ定着部の構造の例を説明する図である。
【図2】粘性体ダンパ定着部を備えた柱鉄筋の全体構造を説明する図である。
【図3】粘性体を収納するさや管の例を説明する図である。
【図4】緩やか引き抜き力が作用したときの粘性体の変形を説明する図である。
【図5】急激な引き抜き力が作用したときの粘性抵抗を説明する図である。
【図6】鉄筋が粘性体ダンパー部を貫通している例を説明する図である。
【図7】ラーメン高架橋に粘性体ダンパ定着部を適用した例を説明する図である。
【図8】粘性体ダンパ定着機構の設置箇所を説明する図である。
【図9】従来の接着系アンカーを説明する図である。
【図10】従来の接着系アンカーを高架橋に適用した例を説明する図である。
【図11】図10におけるひび割れ発生を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
図1は粘性体を用いた鉄筋ダンパー定着部の構造の例を説明する図、図2は粘性体を用いた鉄筋ダンパー定着部を備えた柱鉄筋構造を説明する図である。
図1において、さや管30にオイルなどの粘性体40を収納したダンパー定着部50を鉄筋コンクリート柱等のコンクリート構造物の母材1中に一体施工し、鉄筋20をダンパー定着部50に通して施工する。このような構造において、鉄筋20に温度変化や乾燥収縮等の緩やかな荷重が作用した場合には、粘性体が徐々に変形することで部材に作用する不要な応力を緩和し、コンクリート構造物等のひび割れの発生を防止することができる。一方、地震荷重のような急激な荷重が作用した場合には粘性体の粘性抵抗により鉄筋の動きが抑制され、大きな定着力が得られる。
鉄筋20は粘性体の粘性抵抗が作用し易いように異径鉄筋を用いることが望ましいが丸棒であってもよい。丸棒であっても粘性抵抗は作用するとともに、鉄筋20に対しては長さ方向だけでなく、これに直交する方向の成分の力も同時に作用して粘性体に対して剪断力が働くので、十分抵抗力が作用して定着力が得られる。なお、使用する粘性体は硬めの粘度の大きいオイル等を使用し、その物性としては、アスファルト系の粘性体を使用する場合は、比重1.0以上、粘度10000±2000pのものが望ましい。
また、ダンパー定着部の変形性能を高めるためには、鉄筋20が母材1に対して可動であることが必要であり、そのためには、図2に示すように、ダンパー定着部50を通して延びる鉄筋20の側面と母材1との間は摩擦力が働かないように付着を切った縁切り部60とすることが望ましい。縁切り部60は母材1との間に空隙があるように模式的に示しているが、空隙がなくても、例えばシース管やビニールホースで鉄筋を被覆したり、鉄筋にビニールテープを巻き付けるなどの方法を用いて付着を切るようにしてもよい。なお、図では鉄筋20を一本のように図示しているが、本発明のダンパー定着構造は、主鉄筋を複数本束ね、或いは全部束ねてダンパー定着部に施工することも可能である。
【0008】
図3は粘性体を収納するさや管構造の例を説明する図である。
オイル等の粘性体を収納するさや管30は、母材1と一体であることが必要であり、そのために、引っ張り力等が作用したときの抜け出し防止用に側面にリブ31を設けるとともに、下端部にアンカー筋33を設けるようにしている。なお、さや管としては、リブ31やアンカー筋33を省略して、側面が波形の管等を用いるようにしてもよい。
【0009】
次に、図4、図5により鉄筋に引っ張り力が作用したときの鉄筋に作用する粘性抵抗について説明する。
図4は緩やかな引き抜き力が作用したときの粘性体の変形を説明する図である。
さや管30にオイル等の粘性体40を収納したダンパー定着部50に鉄筋20の端部の定着部分が浸かっている状態で(図4(a))、鉄筋20に緩やかな引き抜き力Aが作用して鉄筋20が徐々に引き上げられようとすると、粘性体40が徐々に鉄筋に追随して変形部43のように変形するため(図4(b))、鉄筋20の抜け出しに抵抗し、さや管内への押し込み力として作用する。
図5は急激な引き抜き力が作用したときの粘性抵抗を説明する図である。
さや管30にオイル等の粘性体40を収納したダンパー定着部50に鉄筋20の端部の定着部分が浸かっている状態で(図5(a))、鉄筋20に急激な引き抜き力Bが作用すると(図5(b))、急激に上昇しようとする鉄筋20の側面、下端面にはそれぞれ矢印23、25で示す粘性抵抗が作用するため鉄筋の抜け出しを抑制することができる(図5(c)拡大図)。
このように、温度変化等の緩やかな荷重が作用した場合には、粘性体が徐々に変形することで部材に作用する不要な応力を緩和することができる。一方、列車荷重や地震荷重のような急激な荷重が作用した場合には粘性体の粘性抵抗により、鉄筋定着部と母材コンクリートとの間で従来の定着部と同程度の定着力を発揮することができる。
【0010】
図6は鉄筋ダンパー定着部の他の例を説明する図である。
上記した例では、鉄筋端部を粘性体を充填したダンパー定着部に浸けるようにしたが、図示するようにさや管30にオイル等の粘性体40を収納したダンパー定着部を鉄筋20が貫通するようにしてもよい。この例では鉄筋がダンパー定着部を貫通するさや管30の上下端部に粘性体の漏れ止め70を設けるようにしている。漏れ止め70は鉄筋20に密着して鉄筋の移動に追随できるフレキシブルな素材のものを用いることが望ましい。このような貫通タイプの定着構造とすることで、柱や梁の中間部に鉄筋ダンパー定着部を施工することが可能となる。このような構造であっても、鉄筋端部をダンパー定着部に浸ける場合と全く同じように粘性抵抗が作用して定着力が得られる。
【0011】
図7は本発明の鉄筋ダンパー定着構造をラーメン高架橋に適用した耐震工法の例を説明する図で、図7(a)は、列車11が走行する完成直後のラーメン高架橋10を示しており、柱12を支持する柱基部13には、図7(b)に示す本発明の鉄筋ダンパー定着構造が使用されている。この場合、母材と鉄筋との間は付着力が作用しないように縁切り部60とし、鉄筋先端部をダンパー定着部50のさや管30内に収納されている粘性体40に浸かるように柱基部13の母材中に施工する。このような構造とすることで、鉄筋20に加わる軸力をダンパー定着部の粘性抵抗により減衰させることができる。
このように、本発明の鉄筋ダンパー定着構造は、鉄筋表面と母材との付着を切った領域を持つため、鉄筋に軸力が発生したときに鉄筋が母材を損傷することなく、軸力をそのままダンパー定着部に伝達することができ、温度変化やコンクリートの乾燥収縮など鉄筋に持続的に軸力が作用したとき、作用した力に応じて粘性抵抗によりエネルギーを吸収してその力を緩和するため、図7(c)に示すように、ラーメン高架橋10において柱や床版部材の長さが変化して曲げが作用しても鉄筋の軸力が開放されるため定着部や柱にひび割れが発生するのを防止することができ、付加応力の発生をあらかじめ見込んだ鉄筋の耐震設計を行う必要をなくすことができる。また、鉄筋に持続的に軸力が作用しても定着部の損傷はなく、列車荷重や地震荷重など急な荷重に対しては従来と同等の耐震性能を発揮させることができ、従来に比してラーメン高架橋の長さを大幅に長くすることが可能である。なお、本発明の鉄筋ダンパー定着構造は高架橋に限らず、一般のコンクリート構造物に対しても適用可能であることは言うまでもない。
【0012】
図8は本発明の鉄筋ダンパー定着構造の設置箇所を説明する図である。
高架橋の場合、柱が高いと柱頭部と柱基部にかかる力は小さくなるためラーメン構造にすることができる。しかし、高さが低い高架橋の場合、ラーメン構造にすると柱に作用する力が大きくなるため、柱の水平力が小さくなるように柱頭部に沓座を設けて桁を連続桁とする場合がある。上記(図7)したように、柱基部に本発明の鉄筋ダンパー定着構造を適用することで柱に作用する力を緩和することができ、高さが低い高架橋でもラーメン構造化することが可能になる。この場合沓座を不要にすることができるため、材料費のコストダウン、沓座メンテナンス費のコストダウンを図ることが可能になる。
本発明の鉄筋ダンパー定着構造は、図示するように、高架橋80の柱基部81に限らず、柱頭部82に設置することが可能であるとともに、図6に示した鉄筋がダンパー定着部を貫通する構造のものを使用すれば、柱中間部83、梁84などにも設置することが可能で、現場の状況に応じて適宜設置することができる。また、このような適用は、高架橋に限らず、一般のコンクリート構造物の柱や梁に対して施工することも可能である。
【符号の説明】
【0013】
1…コンクリート構造物の母材、20…鉄筋、30…さや管、40…粘性体、50…ダンパー定着部、60…縁切り部、70…漏れ止め。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物母材内に施工されたさや管内に充填された粘性体を通して鉄筋を挿入施工してダンパー定着部を構成し、粘性体の粘性抵抗により鉄筋の定着力を得ることを特徴とする鉄筋ダンパー定着構造。
【請求項2】
前記鉄筋は、ダンパー定着部のさや管を貫通して施工されている請求項1記載の鉄筋ダンパー定着構造。
【請求項3】
請求項1または2記載の鉄筋ダンパー定着構造を鉄筋コンクリート構造物の柱または梁に配置したことを特徴とする耐震工法。
【請求項1】
構造物母材内に施工されたさや管内に充填された粘性体を通して鉄筋を挿入施工してダンパー定着部を構成し、粘性体の粘性抵抗により鉄筋の定着力を得ることを特徴とする鉄筋ダンパー定着構造。
【請求項2】
前記鉄筋は、ダンパー定着部のさや管を貫通して施工されている請求項1記載の鉄筋ダンパー定着構造。
【請求項3】
請求項1または2記載の鉄筋ダンパー定着構造を鉄筋コンクリート構造物の柱または梁に配置したことを特徴とする耐震工法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−11143(P2013−11143A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145810(P2011−145810)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【Fターム(参考)】
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