説明

銀ベースの粒子及び電気接点材料の製造方法

【課題】銀ベースの粒子及び電気接点材料の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、微細な、貴金属を含む粒子、とりわけ中間体銀(+1)酸化物種を経由する銀ベースの粒子の製造方法及び電気接点材料の製造方法に関するものである。本方法は、第一工程において有機分散剤を含む銀塩水溶液に塩基を添加することにより、熱的に不安定な銀(+1)酸化物種の形成を含む。有機分散剤の存在に起因して、得られた銀(+1)酸化物種は熱的に不安定であり、従って、前記種は、100℃未満の温度で金属銀に分解する。本方法は所望により、無機酸化物、金属及び炭素ベースの化合物の群から選択された、粉末状のコンパウンドの添加を含み得る。更に本方法は、分離工程及び乾燥工程を含み得る。本方法は多目的で、コスト効率が高く且つ環境に優しく、そして銀ベースの粒子及び電気接点材料の製造のために使用される。本発明の方法により製造された銀ナノ粒子は、狭い粒径分布により特徴付けられる。本発明の方法により製造された電気接点材料は、改良された接点溶接性を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貴金属ベースの(precious metal−based)粒子の製造方法、とりわけ中間体銀(+1)酸化物種を経由する銀ベースの(silver−based)ナノ粒子及び電気接点材料の製造方法に関するものである。更に、導電性インク及び抗菌用途における銀ベースの粒子の使用方法が開示されている。
【背景技術】
【0002】
近年、一定の形状及び寸法の微細金属粒子、特にナノ粒子が、それらの好ましい性質及び、例えば半導体、消費財、光電子工学、電子工学、触媒反応、輸送、エネルギー、医科学及び生物工学における潜在的用途のために、大きな興味及び注意を持たれている。微細金属粒子の固有特性は、主に、それらの寸法、形状、組成、結晶性及び構造により決定される。
微細貴金属粒子の製造のために、アルコール還元、ポリオール法、音響化学法、有機金属前躯体の分解、蒸発縮合法及び金属塊の電気分解を含む多くの技術が提案されている。
一般的に、金属銀粒子は、有機酸、アルコール、ポリオール、アルデヒド、糖などのような還元剤を用いて還元法により製造される[ディー.ヴイ.ゴイア(D.V.Goia)、イー.マチジェヴィック(E.Matijevic)、ニュー ジャーナル オブ ケミストリー(New.J.Chem.)、1998年、第1203〜1215頁(非特許文献1)を参照]。
この直接(即ち、1工程)法において、適するAg(+1)化合物(これは、酸化状態+1の銀を含む)は、酸性雰囲気(即ち、pH0ないし5)において、酸化状態0を持つ金属銀に還元される。
【0003】
通常使用される化学的還元剤は、毒性及び/又は発癌性化合物(例えば、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム、ホルムアルデヒド)であり、そして量産する際に、安全性及び健康上の問題を生じる。
周知のポリオール法において、銀ナノ粒子は、約160℃においてエチレングリコールを用いて硝酸銀を還元することにより製造される。エチレングリコールは、還元剤及び溶剤の両方として役立つ。典型的には、ポリビニルピロリドン(PVP)のような安定剤が用いられる[ワイ.サン(Y.Sun)及びワイ.シァ(Y.Xia)、サイエンス(Science)、第298巻、第2176〜2179頁(2002年)(非特許文献2)を参照]。
この方法の持つ欠点は、高いエネルギー消費、高価な有機グリコール溶剤の使用及び使用後の廃溶剤の再生利用である。
【0004】
ホルムアルデヒドを用いた化学的還元により合成され、そして水/グリコール系に分散された、ナノ寸法の銀コロイドが、最近、報告された[エイチ.−エイチ.リー(H.−H.Lee)、ケイ.−エス.シュー(K.−S.Chou)及びケイ.−シー.ファン(K.−C.Huang)、ナノテクノロジー(Nanotechnology)、第16巻、第2436〜2441頁(2005年)(非特許文献3)を参照]。これらの粒子は、10nmないし50nmの広い粒径分布を示し、そして十分な電気伝導度を得るためには、260℃の硬化温度を必要とする。
上記方法に加えて、中間体水酸化銀(AgOH)、中間体炭酸銀(Ag2 CO3 )又は中間体酸化銀(Ag2 O)を経由する銀粒子の製造は最新技術である。これらの2工程法は、中間体銀(+1)酸化物種を形成するために、塩基、通常NaOH又はKOHのような水酸化アルカリの添加を必要とする。この中間体種は続いて、還元剤の添加により還元される。
【0005】
特開昭60−77907号明細書(特許文献1)は、硝酸銀水溶液を水酸化アルカリ水溶液を用いて中和して酸化銀沈澱を含むスラリーを形成する、銀ダストの製造を開示している。前記スラリーは、銀粒子を形成するために、還元剤を添加することにより還元される。
ドイツ国特許第1185821号明細書(特許文献2)は、ホルムアルデヒドを用いる沈澱酸化銀の還元を経由する、銀粉末の製造のための2工程法を教示している。
中間体Ag(+1)酸化物種は、熱処理によっても還元され得る。欧州特許第370897B1号明細書(特許文献3)は、酸化錫の存在下で強塩基を用いてAg2 Oを沈澱させることによる、銀/錫酸化物接点材料の製造のための2工程法を開示している。更なる工程において、前記酸化銀は、200℃ないし500℃の範囲の温度で熱的に還元されて金属銀を形成する。
用いられた高温は、反応混合物を加熱することに起因して高いエネルギーコストを生じさせる。更に、水の沸点が原因で、水ベースの(water−based)反応法においては、必要とされる温度が達成され得ない。それ故、熱処理の前に、更なる分離工程が必要である。その結果、欧州特許第370897B1号明細書(特許文献3)に従う製造方法は、高価であり且つ複雑である。
要するに、銀粒子を製造するための現在知られている方法(1工程法によるか、又は、2工程法によるかの何れかの方法)は、環境的安全性、工程の単純さ、原料コスト及びエネルギーコストに関して満足されるものでない。
【非特許文献1】ディー.ヴイ.ゴイア(D.V.Goia)、イー.マチジェヴィック(E.Matijevic)、ニュー ジャーナル オブ ケミストリー(New.J.Chem.)、1998年、第1203〜1215頁
【非特許文献2】ワイ.サン(Y.Sun)及びワイ.シァ(Y.Xia)、サイエンス(Science)、第298巻、第2176〜2179頁(2002年)
【非特許文献3】エイチ.−エイチ.リー(H.−H.Lee)、ケイ.−エス.シュー(K.−S.Chou)及びケイ.−シー.ファン(K.−C.Huang)、ナノテクノロジー(Nanotechnology)、第16巻、第2436〜2441頁(2005年)
【特許文献1】特開昭60−77907号明細書
【特許文献2】ドイツ国特許第1185821号明細書
【特許文献3】欧州特許第370897B1号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、貴金属ベースの粒子、特に銀ベースの粒子を製造するための新規方法を提供することであった。
本発明のもう一つの目的は、貴金属ベースの電気接点材料を製造するための新規方法を提供することがであった。
これらの方法は、例えば、多目的で、単純で、直接的で、省エネルギーで、コスト効率が高く、環境に優しい方法であるべきである。
本発明の別の目的は、改良された材料特性を持つ銀ナノ粒子及び銀ベースの電気接点材料を提供することがであった。
これらの目的は、本発明の方法及び生成物により満たされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、塩基を、有機分散剤の存在下で、銀塩水溶液と反応させる、熱的に不安定な銀(+1)酸化物種の製造方法を含む。熱的に不安定な銀(+1)酸化物種は、ヒドロキシ(OH)基、オキシ(O)基、ヒドロカルボキシ(HCO3 )基又はカルボキシ(CO3 )基及びそれらの混合物又は組み合わせを含み得る。本発明は更に、微細な、銀ベース
の粒子の製造のための、好ましくは、銀ナノ粒子の製造のための方法を提供する。本方法は、上記の熱的に不安定な銀(+1)酸化物種の製造を含み、そして
a)熱的に不安定な銀(+1)酸化物種を形成するために、有機分散剤の存在下で、塩基を銀塩水溶液と反応させる工程、
b)前記混合物を100℃未満の温度、好ましくは40℃ないし95℃の範囲の温度に加熱し、それにより、前記熱的に不安定な銀(+1)酸化物種を金属銀に分解する工程
を含む。
本発明のより良い理解のために、実施例と併せて下記記載について言及する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の好ましい実施態様を用意する際に、本発明の目的を促進するために、種々の代替物を使用し得る。これらの実施態様は本発明の理解を助けるために提供されており、そして如何なる意味においても、本発明を限定することを意図せず、そして本発明を限定すると解釈されるべきではない。本発明の開示を読むことにより当業者に明らかになるであろう全ての代替物、変性物及び等価物は、本発明の精神及び範囲に含まれる。
本発明の第一の側面は、塩基を、有機分散剤の存在下で、銀塩水溶液と反応させる、熱的に不安定な銀(+1)酸化物種の製造方法を含む。熱的に不安定な銀(+1)酸化物種は、ヒドロキシ(OH)基、オキシ(O)基、ヒドロカルボキシ(HCO3 )基又はカルボキシ(CO3 )基及びそれらの混合物又は組み合わせを含み得る。熱的に不安定な銀(+1)酸化物種は、反応後に分離され得るか、又は、更に分離すること無く、中間体として直接使用され得る。
熱的に不安定な銀(+1)酸化物種は、金、白金、ロジウム、パラジウム及びそれらの混合物又は合金からなる群から選択された更なる貴金属種を少量更に含み得る。銀(+1)酸化物種中の更なる貴金属種の全量は、前記銀(+1)酸化物種の全質量に基づいて20質量%を越えるべきではない。
更なる貴金属の量は、前記種の全質量に基づいて20質量%を越えるべきではない。
熱的に不安定な銀(+1)酸化物種の特性は、100℃未満の非常に低い温度における金属銀(Ag(0))への分解である。
【0009】
第二の側面において、本発明は、微細な、銀ベースの粒子の製造方法、好ましくは、銀ナノ粒子の製造方法を含む。本方法は、上記の熱的に不安定な銀(+1)酸化物種の製造を含み、そして
a)熱的に不安定な銀(+1)酸化物種を形成するために、有機分散剤の存在下で、塩基を銀塩水溶液と反応させる工程、及び
b)前記混合物を100℃未満の温度、好ましくは40℃ないし95℃の範囲の温度に加熱し、それにより、前記熱的に不安定な銀(+1)酸化物種を金属銀に分解する工程
を含む。
前記方法は、所望により、反応懸濁液を室温に冷却し、該懸濁液から銀ベースの粒子を分離し、そして該粒子を乾燥する工程を更に含み得る。前記乾燥は一般的に、20℃ないし150℃の範囲の温度において、1分ないし180分の範囲の乾燥時間にて行なわれる。
本発明の方法を実施する場合、塩基(例えば、NaOH水溶液)を有機分散剤を含む銀塩溶液に添加することにより、銀塩溶液を有機分散剤を含む塩基に添加することにより、又は、銀塩溶液及び塩基を有機分散剤を含む水溶液に同時に添加することにより、熱的に不安定な銀(+1)酸化物種が形成され得る。これら全ての場合において、銀粒子は、中程度の加熱工程により、そして有害な化学的還元剤を使用することなく、反応水溶液中に形成され得る。
好ましい実施態様(同時添加)において、銀塩水溶液が別に製造され、その後、工程a)において熱的に不安定な銀(+1)酸化物種を形成するために、有機分散剤の水溶液を含む反応容器に、塩基と同時に添加され得る。続いて、懸濁液を100℃未満、好ましく
は40℃ないし95℃の範囲の温度に加熱し、それにより、前記熱的に不安定な銀(+1)酸化物種の分解が起こる。
【0010】
第三の側面において、本発明は、電気接点材料の製造方法を含む。この実施態様において、本方法は粉末状コンパウンドの存在を更に含む。前記粉末状コンパウンドは、銀塩水溶液に添加され得る。同時法により本方法を実施する場合には、前記粉末状コンパウンドを、反応容器中の有機分散剤の水溶液に添加してもよい。
前記実施態様の好ましい変形において、本方法は、工程b)の後、沈澱した銀粒子からアルカリ性母液を分離し、そして脱イオン水に前記銀粒子を再分散することにより実施され得る。この場合には、アルカリ性及び酸性の環境において不安定な粉末状化合物を使用することができる。
前記粉末状化合物は、無機酸化物、金属、金属炭化物、炭素ベースの(carbon−based)化合物並びにそれらの混合物及び組み合わせを含み得る。粉末状無機化合物の例は、SnO2 、In2 3 、Bi2 3 、CuO、MoO3 、WO3 、ZnO、NbO3 、TiO2 、SiO2 、ZrO2 、HfO3 、GeO2 並びにそれらの混合物及び組み合わせである。粉末状金属の例は、Ni、Co、W、Cu、Znのような非貴金属(卑金属)並びにそれらの混合物及び組み合わせである。炭素ベースの化合物の例は、炭化物(例えば、WCのようなもの)、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、カーボンナノチューブ並びにそれらの混合物及び組み合わせである。
【0011】
典型的には、本方法において存在する粉末状化合物の量は、前記銀ベースの接点材料の全質量に基づいて、1質量%ないし80質量%の範囲、好ましくは3質量%ないし50質量%の範囲にある。
本発明の方法により製造された前記接点材料は、非常に微細な銀粒子を含み、そして、例えばAg/Ni、Ag/SnO2 及びAg/グラファイトのような電気接点材料の製造のために特に適している。
一般的に、中間体Ag(+1)酸化物種の場合と同様に、結果として得られる、銀ベースの粒子は、金、白金、ロジウム、パラジウム並びにそれらの混合物及び合金からなる群から選択された更なる貴金属種を少量更に含み得る。銀ベースの粒子における更なる貴金属種の全量は、前記粒子の全質量に基づいて、20質量%を越えるべきではない。
本発明の方法は、Ag(+1)酸化物種を経由する銀粒子の製造のための2工程法に基づく。この中間体化合物は、第一工程[工程a)]において、銀塩(例えば、AgNO3 )水溶液に塩基(例えば、NaOH水溶液)を添加することにより形成される。

Ag(+1)NO3 +NaOH→Ag(+1)酸化物種 (a)

第二工程[工程b)]において、金属銀粒子は、中間体Ag(+1)酸化物種の熱分解により生成する。

T<100℃
Ag(+1)酸化物種→Ag(0) (b)
【0012】
本発明の方法において、Ag(+1)酸化物種の形成の間に、反応混合物中の有機分散剤の存在は不可欠である。Ag(+1)酸化物種の形成の間に、有機分散剤が存在する場合には、金属銀Ag(0)への前記種の熱分解は、非常に低い温度、即ち、100℃未満で既に起こることが見出された。本方法の工程a)における有機分散剤の存在に起因して、中間体Ag(+1)酸化物種は熱的に不安定になり、そして従来知られているよりも遥かに低い温度で分解する。この効果は驚くべきことであり、そしてその理由はまだ理解されていない。結局のところ、粒子形成における特定の核形成及び成長工程が関与している
のであろう。加えて、中間体である酸素含有Ag(+1)酸化物種の小さい粒径が重要であり得る。
低温分解反応は、XRD測定により観察され且つ確認され得る。得られた銀ナノ粒子のXRDスペクトルは金属銀Ag(0)のみの反射を示し、他のAg成分の付随する如何なるピークも失われている。
【0013】
本発明の方法において使用される有機分散剤は、一般的に、反応混合物に少量添加される場合に、表面張力を下げる表面活性極性有機化合物である。適する有機分散剤は、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、極性有機溶剤、保護コロイド、安定剤及びそれらの混合物及び/又は組み合わせからなる群から選択された水混和性又は水溶性化合物である。
適するアニオン性、カチオン性、非イオン性又は両性界面活性剤は、分子中に、疎水性及び親水性部分を含む。この例は、ポリエチレングリコール−400(PEG)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、セチル−トリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)又はビス(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム塩である。
極性有機溶剤としては、メチル−エチルケトン、アセチルアセトン、ジメチルケトン、ジエチルケトン、ジアセトン−アルコール並びにそれらの混合物及び/又は組み合わせのような有機ケトン化合物が好ましい。
適する保護コロイドのための例は、ポリエチレンオキシド(PEO)及びポリビニル−ピロリドン(PVP)のような水溶性ポリマーである。
適する安定剤は、炭水化物、トラガンスゴム、ブドウ糖、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ゼラチン並びにそれらの混合物及び組み合わせからなる群から選択された多糖類である。
好ましくは、水酸化アルカリ水溶液を添加する前に、有機分散剤が銀塩水溶液に添加される。銀塩と水酸化アルカリ水溶液との並行した同時添加を実施する場合には、有機分散剤は、反応容器中の水溶液に添加される。水酸化アルカリ塩基に銀塩溶液を添加する場合には、有機分散剤は、反応容器中の水酸化アルカリ溶液に添加される。
典型的には、反応混合物中の水/有機分散剤の比率(本方法を開始する前)は、100:1ないし1:6の範囲、好ましくは50:1ないし1:3の範囲にある。
【0014】
銀塩は容易に水に溶解し得るべきであり、そして硝酸銀、酢酸銀、蓚酸銀、クエン酸銀、硫酸銀、チオ硫酸銀並びにそれらの混合物及び組み合わせからなる群から選択される。
塩基として、水酸化アルカリ、即ち、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム並びにそれらの混合物及び組み合わせの水溶液が用いられ得る。適する塩基の例は、10M又は2MNaOH溶液である。更に、炭酸ナトリウム又は炭酸カリウムが使用され得る。
中間体Ag(+1)酸化物種の熱分解のために、反応混合物は、100℃未満の温度、好ましくは40℃ないし95℃の範囲の温度に加熱される。加熱工程は、1分ないし180分間、好ましくは10分ないし120分間実施される。続いて、懸濁液を室温に冷却し得る。
本発明の方法により得られた、銀ベースの粒子は、非常に小さいメジアン粒径(“d50”)により特徴付けられる。典型的には、メジアン粒径は、1nmないし1000nmの範囲、好ましくは1nmないし750nmの範囲、そしてより好ましくは、銀ナノ粒子の場合において、1nmないし50範囲にある。10nmないし30nmの範囲のメジアン粒径(d50)が非常に低い温度(<150℃)において銀ナノ粒子の急速且つ均質な焼成に導くので、最も好ましいのはこの粒径である。
【0015】
特有の製造方法に起因して、銀ベースの粒子は、非常に低い粗粒子%により特徴付けられる非常に狭い粒径分布を示す。銀ナノ粒子の特定の種類におけるNnmの所定のメジアン粒径(d50)に対して、前記粒子の最大粒径(即ち、“d100”値)は、3×Nn
mを越えないであろう。この結果は、下記の相関関係により与えられ得る。

d100(nm)≦3×d50(nm)

一例として、d50=25nmのメジアン粒径を持つ銀ナノ粒子に対して、最大粒径は75nm、即ち、全ての粒子は75nmに等しいか、又はそれより小さい(実施例2を参照)。最大粒径におけるこの制限は、熱的に不安定な銀(+1)酸化物粒子の核形成及び成長が厳格に制御されるところの、特有の製造方法に起因する。この特に狭い粒径分布(即ち、粗粒子の不在)は、種々の用途、例えばナノ粒子を含むインクを配合する場合及び印刷する場合に、非常に都合が良い。
幾つかの場合には、d100値は測定することが困難である。或いは、本発明の銀粒子の特に狭い粒径分布は、下記方程式:

[d90(nm)−d10(nm)]/d50(nm)≦1.3

(式中、d90、d50及びd10は粒径分布から得られ、そして粒子の90%、50%及び10%がその寸法値よりも小さい粒径を示す。)により特徴付けられ得る。粒径分布は、対応する粒子の数に基づいて計算される。
【0016】
1nmないし50nm、好ましくは1nmないし30nmの範囲の小さい粒径と共に、特有の粒径分布特性(d100≦3×d50及び[d90(nm)−d10(nm)]/d50(nm)≦1.3;上記参照)に起因して、銀粒子の焼成は非常に低い温度、即ち、150℃未満で起こる。従って、本発明により製造された粒子を含む銀インクは、<150℃の非常に低い焼成温度において、非常に高い電気伝導性(Ag塊の導電性に近い)を持つ銀フィルムを与える。
銀粒子は、導電性銀インク及びスクリーン印刷可能なペーストを製造するために、湿潤形態又は銀水性の懸濁液形態において使用され得る。本発明の銀ナノ粒子を用いて製造された導電性銀インク及びスクリーン印刷可能なペーストは、好ましくは水性であり、そして有害な又は毒性の有機溶剤を含まない。インク組成物は、それ故、環境に優しい。前記インクの銀含有率は、配合物の全質量に基づいて、5質量%Agないし50質量%Ag、好ましくは10質量%Agないし30質量%Agである。粘度、乾燥性及び湿潤挙動等の調整のために、銀インクは、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、テルピネオール又はブチルカルビトール等のようなグリコール溶剤又はアルコール溶剤を5質量%ないし50質量%の範囲の量含み得る。更に、前記インクは有機系のものであり得、そして有機溶剤を主に含み得る。
【0017】
本発明の方法により得られた銀粒子は、医科学用途及び抗菌用途に更に使用され得る。銀粒子懸濁液は如何なる還元剤も、また微量のそれらの反応残渣も含まないので、前記懸濁液は、実質的に非毒性成分のみを含む。従って、銀ベースのナノ粒子は、ウイルス及びバクテリアとの相互作用のためのような医科学用途及びヘルスケア用途のために使用され得る。抗菌用途は例えば、家庭用途、浴室ウェア、織布、靴及び衣類のための抗菌コーティングを含み得る。
更に、本発明の方法は、電気接点材料の製造のために特に適する。本発明により製造された電気接点材料は、非常に変化に富む粒径を持つ、非常に広範な様々な粉末状の化合物を含み得る。それ故、本発明の方法は非常に多目的であり、そして慣用の粉末混合法及び化学的沈澱法に比べて、生成物の融通性に関して優れている。本発明の銀ベースの粒子を含む接点材料は、非常に高い均質度及び銀の均一分散度を示し、優れた機能性をもたらす。一例として、これらの接点材料は、改良された接点溶接性及び非常に低い腐食速度を示す。それらは、慣用の銀ベースの生成物に比べて、多数の切り替え回数に耐えることができる。従って、これらの接点材料は、標準材料に比べて著しく長い耐用寿命を示す。
【0018】
分析方法
メジアン及び最大粒径(d50値及びd100値)及び粒径分布を、高倍率透過電子顕微鏡(TEM)、走査電子顕微鏡(SEM)により、又は、UV−VIS分光法により、特徴付けた。粒径分布は、300個のランダムに選択された粒子についてTEM/SEMにより決定された。このような方法は、最新技術において良く知られている。
d10値及びd90値(及び更に、適切であればd50値)は、電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)により決定された。銀ナノ粒子の水分散液(10質量%Ag)を1時間超音波付与し、そして試験スライドに付着させ、これを、室温で乾燥するために放置した。粒径分布の決定のために、300個の一次粒子を、ソフトウェアLINCE[ダルムシュタット工業大学(Darmstadt University of Technology)、材料科学部門(Materials Science Department)、非金属−無機材料研究所(Institute of Nonmetallic−Inorganic Materials(NAW)]からのフリーウェア]を使用して、2種の異なる倍率で、手作業にて計数した。異方性形状の粒子の寸法は、該粒子の最長側を測定することにより決定された。統計上の理由のために、同一方法により製造された種々の試料を評価した。
慣用のX線回折(XRD)を、粒子のキャラクタリゼーション及び組成分析のために適用した。
生成物の銀含有率を、標準分析法により決定した。Agの定量分析のために、容量滴定法を使用した。
【0019】
接点材料の電気的試験
本発明により製造された、銀ベースの接点材料の接点溶接性の評価のために、ピー.ブラウマン(P.Braumann)、第13回VDEセミナー“接触挙動及び接続(Kontaktverhalten und Schalten)”、カールスルーエ(Karlsruhe)、1995年、第171〜178頁に記載された方法を適用した。前記試験は、所定数の切り替え回数に対して、前記刊行物に記載されたモデルスイッチにおいて実施した。一般的な特徴として、リレーコイル電流は、低下した開口力によって、接点溶接を引き起こすために下げた。詳細な試験条件及び結果は、実施例5に示されている。
Ag/C接触材料の接点溶接力及び特定の接触腐食性の測定のために、エム.ポニャトウスキー(M.Poniatowski)らにより、第7回電気接触に関する国際会議、パリ1974年、第477〜483頁に記載された前記モデルスイッチ及び方法を適用した。詳細な試験条件及び結果は、実施例6に与えられている。
【0020】
導電層の抵抗試験
導電性銀層の抵抗を評価するために、エイチ.−エイチ.リー(H.−H.Lee)、ケイ.−エス.シュー(K.−S.Chou)及びケイ.−シー.ファン(K.−C.Huang)、ナノテクノロジー(Nanotechnology)、第16巻、第2436〜2441頁(2005年)に記載された方法と同様の方法を用いた。導電性銀フィルムは、ガラススライド上に所定面積製造された。フィルム厚は、所定面積に予め決定された容積のインクを注ぐことにより達成された。フィルムの最終厚は、乾燥された銀フィルムの断面積をSEMにより測定することにより決定した。銀フィルムの電気抵抗を、4点測定装置を使用して測定した。乾燥された銀フィルムの、測定された抵抗、大きさ及び厚さを、銀フィルムの抵抗を計算するために使用した。
本発明を、下記実施例により説明する。下記実施例は単に説明のためのみのものであり、本発明の範囲を限定するためと解釈されるべきではない。
【実施例】
【0021】
実施例1
銀(+1)酸化物種の製造
メチルエチルケトン(MEK)250mLを、4.4M硝酸銀水溶液[AgNO3 、ハーナウ(Hanau)のユミコア(Umicore)製]1.5Lに添加した。反応混合物中の水/MEK比率は6:1であった。30分以内に10MNaOH溶液1Lを添加することにより、Ag(+1)酸化物種の微細な沈澱物が得られた。必要であれば、Ag(+1)酸化物中間体を、吸引ロートを用いて母液から分離し、続いて、脱イオン(DI)水及びエタノールを用いて洗浄することができる。続く加工工程における更なる使用のために、Ag(+1)酸化物中間体を、水性懸濁液中に貯蔵することができる。
銀粒子の製造
実施例1a)において製造されたAg(+1)酸化物中間体の水性懸濁液を使用した。温度を70℃に昇温し、そして反応混合物を45分間撹拌した。銀粒子が形成される間に、暗褐色から淡灰色への変色が起きた。吸引ロートを用いて銀粒子を母液から沈澱させ、続いて、脱イオン(DI)水を用いて洗浄し、次いでエタノールを用いて2回洗浄した。その後、粒子を60℃で一晩乾燥させ、そして250μmスクリーンを通してふるい分けした。
粒子特性
メジアンAg粒径(TEM):d50=450nm
粒子組成(XRD):金属銀Ag(0)反射のみ
【0022】
実施例2
銀ナノ粒子の製造
ナノ寸法の銀粒子の20gバッチの製造のために、多糖類[米国、ニュージャージー、ノース バーゲン(North Bergen)のフルタロム(Frutarom)社製]10gを、少なくとも30分間脱イオン水400mLに溶解し、そして温度を25℃に調整した。この多糖類溶液に、AgNO3 (ハーナウのユミコア社より供給)31.5gを溶解した。非常に強い撹拌下で10MNaOH溶液30mLを添加することにより、Ag(+1)酸化物種の微細な沈澱物が得られた。その後、温度を60〜65℃に上昇させ、そして懸濁液を少なくとも45分間撹拌した。
得られた銀ナノ粒子を母液から分離し、続いて脱イオン水及びエタノールを用いて洗浄した。その後、粉末を60℃で一晩乾燥し、そして100メッシュのステンレススチール製スクリーンを通してふるい分けした。
粒子特性
メジアンAg粒径(TEM):d50=25nm
最大粒径(TEM):d100=75nm
d100≦3×d50≦3×25nm=75nm
Ag粒径(d10値、FE−SEMによる):d10=15nm
Ag粒径(d50値、FE−SEMによる):d50=25nm
Ag粒径(d90値、FE−SEMによる):d90=40nm
(d90/d10)/d50=25nm/25nm=1
メジアンAg粒径(UV−VIS):30nm(分散液中)
粒子組成(XRD):金属Ag(0)反射のみ
【0023】
実施例3
銀ナノ粒子の製造(同時添加法)
銀ナノ粒子の20gバッチの製造のために、AgNO3 [ハーナウのユミコア社より供給]31.5gの溶液を、別容器中の脱イオン水100mLに溶解した。その後、多糖類(実施例2を参照)5gを、脱イオン水200mLと混合して溶解し、そして反応容器内に移した。その後、2MNaOH水溶液150mLを調製した。
前記多糖類の水溶液を含む反応容器に、強撹拌下で、AgNO3 溶液及び2MNaOH溶液を同時に添加することにより、反応を開始した。それにより、Ag(+1)酸化物種
が生成した。その後、温度を60〜65℃に上昇させ、そして懸濁液を45分間撹拌した。得られた銀ナノ粒子を母液から分離し、続いて脱イオン水及びエタノールを用いて洗浄した。その後、粉末を60℃で一晩乾燥し、そして100メッシュのスクリーンを通してふるい分けした。
粒子特性
メジアンAg粒径(TEM):d50=20nm
最大粒径(TEM):d100=60nm
d100≦3×d50≦3×20nm=60nm
Ag粒径(d10値、FE−SEMによる):d10=15nm
Ag粒径(d50値、FE−SEMによる):d50=20nm
Ag粒径(d90値、FE−SEMによる):d90=35nm
(d90/d10)/d50=20nm/20nm=1
メジアンAg粒径(UV−VIS):23nm(分散液中)
粒子組成(XRD):金属Ag(0)反射のみ
【0024】
実施例4
錫酸化物/タングステン酸化物上における銀粒子の製造(Ag/SnO2 /WO3
酸化錫11.9質量%及びWO3 0.1質量%を含むAg/SnO2 /WO3 コンポジット材料750gバッチの製造のために、酸化錫粉末[SnO2 、d50=0.7μm、英国のキーリング アンド ウォーカー(Keeling & Walker)社により供給]74.25gを、超音波エネルギー(5Lビーカー中の脱イオン水1.5L中で15分間超音波付与した)により分散させた。
その後、AgNO3 (ハーナウのユミコア社製)1062.5gを、酸化錫分散液に添加し、そして800rpmで10分間撹拌することにより溶解した。MEK溶剤1.5Lを反応混合物に添加した。水:ケトン比は1:1であった。
その後、水酸化ナトリウム水溶液(NaOH、10M)1Lを30分かけて添加した。その後、温度を60〜65℃に上昇させ、そして混合物を更に60分間撹拌した。吸引ロートを用いて固形分を母液から分離し、そして脱イオン水及びエタノールを用いて洗浄した。
続いて、Ag/SnO2 コンポジット材料を、高速混合装置(回転速度10.000L/分で15分間)により、酸化タングステン粉末(WO3 、d50=2μm、スイス国のシグマ−アルドリッヒ社から供給)0.75gと一緒に5L容器中の脱イオン水3Lに再分散させた。吸引ロートを用いて固形分を分散液から単離し、100℃にて一晩乾燥させた。その後、得られた生成物を、100メッシュのステンレススチール製スクリーンを通してふるい分けした。
粒子特性
メジアンAg粒径(TEM):d50=465nm
銀含有率:87.97質量%
【0025】
実施例5
ニッケル上における銀粒子の製造(Ag/Ni)
ニッケル10質量%を含むAg/Niコンポジット材料750gバッチの製造のために、球状ニッケル粉末[d50=200nm、ナノダイナミックス インコーポレーテッド(NanoDynamics Inc.)により供給;ND200型]75gを、5Lビーカー中の脱イオン水1.5Lに分散させ、そして5分間超音波処理(超音波付与)した。その後、AgNO3 (ハーナウのユミコア社製)1062.5gを、Ni粉末分散液に添加し、そして800rpmで10分間撹拌することにより溶解した。その後、MEK1.5LをAgNO3 /Ni粉末分散液に添加した。水:ケトン比は1:1であった。
その後、水酸化ナトリウム水溶液(NaOH、10M)1Lを15分かけて添加した。温度を60〜65℃に上昇させ、そして分散液を更に60分間撹拌した。吸引ロートを用
いて固形分を母液から分離し、そして脱イオン水及びエタノールを用いて洗浄した。粉末を100℃で一晩乾燥し、そして最後に、100メッシュのステンレススチール製スクリーンを通してふるい分けした。
粒子特性
メジアンAg粒径(TEM):d50=340nm
Ag含有率:89.87質量%
接点溶接性の電気的試験
Ag/Ni接点材料の接点溶接性の評価のために、直径1.5mmのワイヤを、押出及びワイヤ引きにより製造した。前記ワイヤからリベットを製造し、そして標準的な業務用リレーに組み入れた。比較のために、同一組成を持つAg/Ni標準材料からなる同様のリベットを、伝統的な乾燥粉末ブレンド、押出及びワイヤ引きにより製造した。接点溶接の傾向を、ブラウマン(Braumann)法により評価した(本明細書を参照)。接点は、“遮断”操作の開始後1秒以内に回路が開くことが無い場合、即座に“溶接された”として定義される。
更なる試験条件は、下記の通りであった:室温25℃、試験電圧:13.5V、直流10A;ピーク電流21A、リレーコイル電流140/110mA(低下した開口力によって接点溶接を引き起こすために標準値140mAに比べて低下した値)。
これらの条件の下に、2種のAg/Ni接点材料からなる5種の異なるリレーを試験した。最初に、安定状態を達成するために、140mAの標準コイル電流を用いて10000のスイッチングサイクルを実施し、その後更に、接点溶接を引き起こすために、110mAの低下したコイル電流の下で、10000サイクルを実施した。第二試験実施中に起こる不合格(即ち、接点溶接)の数を記録した(表1を参照)。
【表1】

表1から判るように、本発明のAg/Ni接点材料は、対照材料に比べて、接点溶接に関して非常に改良された抵抗を示す。特に、接点溶接の数が著しく減少する。前記改良は、以下の相関関係:

1 /N0 ≦0.30

(式中、
1 =本発明の接点材料における溶接の数
0 =対照の接点材料における溶接の数
に基づく相対不合格比により記載することができる。
【0026】
実施例6
グラファイト上における銀ナノ粒子の製造(Ag/C)
グラファイト5質量%を含むAg/Cコンポジット材料750gバッチの製造のために、グラファイト粉末37.5g[K36型、ドイツ国の チムカル デュッセルドルフ(Timcal Duesseldorf)社製、d50=3.5μm]を、混合装置において1L容器中の脱イオン水250mLと60分間混合した。その後、5.3MAgNO3 水溶液(ハーナウのユミコア社製)1.25L及びMEK250mLを、グラファイト粉末分散液に添加した。水:ケトン比を6:1にした。水酸化ナトリウム水溶液(NaOH、10M)1.0Lを30分間かけて添加することにより、微細粉末が得られた。 その後、温度を65〜70℃に上昇させ、そして分散液を更に60分間撹拌した。固形分を分離し、そして脱イオン水及びエタノールを用いて洗浄した。その後、粉末を100℃で一晩乾燥し、そしてその後、250μmスクリーンを通してふるい分けした。
粒子特性
メジアンAg粒径(TEM):d50=630nm
銀含有率:95.07質量%
接点溶接力(CWF)の電気的試験
Ag/C接点材料の接点溶接力値の決定のために、押出及びローリングにより、異形材を製造した。前記異形材から接点チップを製造し、そして“接続”操作及び“遮断”操作モデルスイッチを組み込んだ。比較及び参考のために、同一組成を持つAg/C標準材料からなる同様のチップを、伝統的な乾燥粉末ブレンド、押出及び異形材ローリングにより製造した。“接続”操作及び“遮断”操作モデルスイッチは、ポニャトウスキーらによりにより記載されている(明細書を参照)。
“接続”操作のためのモデルスイッチは、700A、230V、300サイクルのACにて操作された。“接続”操作工程における接点溶接の測定のため、試験システムは、電流無しにてスイッチの開口を達成するため加えねばならない力(ニュートンによる;N)を測定するための装置を装備していた。95%値が記録される、即ち、力の値の95%は、所定値未満である。
【表2】

表2から判るように、本発明のAg/C接点材料は、対照Ag/C材料に比べて、非常に低い接点溶接力を示し、従って、又しても改良された接点溶接性を示す。本発明のAg/C接点材料により示された接点溶接力(95%値)は、対照材料において必要な力のほぼ半分である。
比接点腐食(SCE)の決定:
Ag/C接点材料の比接点腐食の決定のために、先に記載したものと同一の試験装置を使用した。接点材料の比接点腐食は、接点チップの質量損失(μgによる)と電気アークエネルギー(Wによる)との商より計算した。

接点チップの質量損失(μgによる)
SCE=───────────────────
電気アークエネルギー(Wによる)

“接続”操作及び“遮断”操作モデルスイッチにおける比接点腐食を決定した。比較及び参照のために、Ag/C標準材料からなるチップを同時に試験した。結果を表3に示す。
【表3】

表3から判るように、本発明のAg/C接点材料は、対照Ag/C材料に比べて、非常に低い比接点腐食値(SCE−値)を示し、従って、又しても改良された材料特性を示す。両方のスイッチ操作モード(“接続”及び“遮断”)について、SCE値は、対照Ag/C材料に比べて約30%低い。
【0027】
実施例7
銀ナノ粒子を含む導電性インク
実施例2において得られた銀粒子は、湿潤形態で、適する有機樹脂システムに添加され、そして導電性銀インクを製造するために、その中に分散された。小さい粒径及び特有の粒径分布に起因して、銀粒子の焼成が非常に低い温度において起こった。実施例2において製造されたナノ粒子ベースの銀インクは、150℃未満の温度において乾燥した後、優れた電気伝導性(Ag塊の導電性に近い)を与えた。
【0028】
実施例8
銀ナノ粒子を含む、水ベースの導電性インク
銀ナノ粒子のバッチを、実施例2と同様に製造した。銀粒子を形成するために、Ag(+1)酸化物中間体の水懸濁液を70℃の温度で15分間処理した。d50値(FE−SEMにより決定)は13.2nmであった。脱イオン水及びエタノールを用いて洗浄した後、Ag10質量%の固形分含有率を持つ水懸濁液を形成するために、1時間超音波付与することにより、湿った粉末を脱イオン水に再分散させた。前記懸濁液の容積25μLを、50×5mmの所定面積を持つガラススライド上に乗せた。フィルムを約15分間室温で乾燥させた。銀粒子の焼成/硬化を、4種の異なる焼成/硬化条件(260℃で3分間、260℃で15分間、150℃で1時間及び150℃で15分間)を使用して対流炉内で行った。最終フィルム厚を、断面のSEM検査により決定した。
導電フィルムの抵抗試験
銀フィルムの電気抵抗を、HP A3478抵抗計を用いて、ケルビンクラップを用いる4点測定設定を使用して測定した。乾燥された銀フィルムの測定された抵抗、寸法及び厚さを、銀フィルムの抵抗を計算するために使用した。
結果を表4に示す。明らかに、本発明の銀ナノ粒子ベースの銀インクは、150℃のような低い温度にて焼成した後に非常に良好な電気伝導性を持つ銀フィルムを与える。典型的には、得られた抵抗値(μオーム* cm)は、Ag塊の抵抗[約1.5μオーム* cm;エイチ.−エイチ.リー、ケイ.−エス.シュー及びケイ.−シー.ファン、ナノテクノロジー、第16巻、第2436〜2441頁(2005年)を参照]の10倍未満である。低温焼成性は、本発明の銀ナノ粒子の粒径範囲と粒径分布との特有の組み合わせに依
存する。
【表4】

【0029】
実施例9
抗菌剤用途のための銀ナノ粒子の使用
実施例2において得られた銀ナノ粒子約17.5質量%を滅菌ミクロポア水に添加した。初期のナノ粒子分散液を、1時間の超音波付与により形成した。その後前記分散液を、滅菌ミクロポア水を用いて、1:10、1:100及び1:1000にそれぞれ希釈した。希釈された分散液に30分間超音波付与した。
水性分散液中における銀ナノ粒子の抗菌効果を研究するために、グラム陰性大腸菌(Escherichica coli)(DH5α株)並びにグラム陽性表皮ブドウ球菌(Staphylococus epidermidis)を使用した。バクテリアをL培地(Luria Broth)中で37℃で一晩生育した。バクテリア懸濁液を、滅菌ミクロポア水を用いて、1:1000に希釈した。バクテリアの正確な初期濃度を、以下のように、固体寒天プレート法により決定した。希釈されたバクテリア懸濁液1mLを、ミクロ滴定トレイの各ウェル内に供給した。その後、ナノ粒子分散液10μLを添加した。ミクロ滴定プレート全体を室温で穏やかに振震した。懸濁液中の生細胞濃度を、24時間の培養時間後に決定した。懸濁液10μLを各ウェルから取り、ミクロポア水を用いて好適に希釈し、そしてドリガルスキー(Drigalski)スパチュラを用いてL培地固体寒天プレート上に均一に分散させた。寒天プレートを37℃で24時間培養した。前記時間の間に、各生バクテリア細胞は、0.5mmないし2mmの良好な観察可能の直径を有する細胞コロニーに成長した。これらのコロニーを計数した。ナノ粒子分散液と接触した24時間後に、生存したバクテリア濃度を、コロニーの数及びバクテリア懸濁液の希釈計数から計算した。結果を、mL当たりのコロニー形成単位(CFU/mL)にて表わす。
【表5】

【表6】

【0030】
本発明の銀ナノ粒子は、水分散液として、Ag17.5質量%の初期分散液の少なくとも1:1000の希釈まで、抗菌剤として著しく有効であることが観察された。
本発明の特定の実施態様を参照にして本発明を記載したけれども、本発明は更なる変性が可能であり、そして本明細書は、本発明の一般原理に従う本発明の如何なる及び全ての変法、使用又は適応を含むことを意図すると理解すべきである。本明細書の開示を読むことにより当業者に明らかになるであろう全てのこのような代替物、変性物及び均等物は、添付の請求項に反映されているように、本発明の精神及び範囲の範囲内に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱的に不安定な銀(+1)酸化物種であって、前記種が100℃未満の温度で金属銀に分解する銀(+1)酸化物種。
【請求項2】
前記種がヒドロキシ(OH)基、オキシ(O)基、ヒドロカルボキシ(HCO3 )基又はカルボキシ(CO3 )基及びそれらの混合物又は組み合わせを含む、請求項1に記載の銀(+1)酸化物種。
【請求項3】
前記種が、該種の全質量に基づいて20質量%までの量の、金(Au)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)及びそれらの混合物又は合金からなる群から選択された貴金属種を更に含む、請求項1又は2に記載の銀(+1)酸化物種。
【請求項4】
塩基を、有機分散剤の存在下で、銀(+1)塩溶液と反応させる、請求項1ないし3の何れか一項において定義された、熱的に不安定な銀(+1)酸化物種の製造方法。
【請求項5】
前記反応後に、銀(+1)酸化物種の分離及び所望により乾燥工程を更に含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記銀塩溶液及び前記塩基が前記有機分散剤を含む溶液に同時に添加される、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記有機分散剤がアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、極性有機溶剤、保護コロイド、安定剤及びそれらの混合物及び/又は組み合わせからなる群から選択された表面活性極性化合物である、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記有機分散剤が極性有機ケトン溶剤である、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記有機分散剤が多糖類である、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
前記反応を開始する前の反応混合物における水/有機分散剤の比率が、100:1ないし1:6の範囲、好ましくは50:1ないし1:3の範囲にある、請求項4に記載の方法。
【請求項11】
硝酸銀、酢酸銀、蓚酸銀、クエン酸銀、硫酸銀又はチオ硫酸銀及びそれらの混合物及び組み合わせが銀塩として使用される、請求項4に記載の方法。
【請求項12】
水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、水酸化リチウム(LiOH)、炭酸ナトリウム(Na2 CO3 )、炭酸カリウム(K2 CO3 )及びそれらの混合物又は組み合わせが前記塩基として使用される、請求項4に記載の方法。
【請求項13】
a)請求項4ないし12の何れか一項に記載の方法に従って、反応混合物中で熱的に不安定な銀(+1)酸化物種を製造する工程、及び
b)前記反応混合物を100℃未満の温度に加熱し、それにより、前記熱的に不安定な銀(+1)酸化物種を金属銀に分解する工程
を含む、銀ベースの(silver−based)粒子の製造方法。
【請求項14】
前記銀ベースの粒子を前記混合物から分離する工程及び所望により、該粒子を乾燥する工程を更に含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
工程a)が、前記熱的に不安定な銀(+1)酸化物種を形成するために、前記有機分散剤を含む溶液に、銀塩溶液と塩基とを同時に添加することを含む、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
前記銀ベースの粒子のメジアン粒径(d50)が1nmないし1000nmの範囲、好ましくは1nmないし750nmの範囲、そして最も好ましくは1nmないし50nmの範囲にある、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
銀ベースの粒子のメジアン粒径(d50)が10nmないし30nmの範囲にある、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
a)反応混合物を形成するために、粉末化されたコンパウンドの存在下で、請求項4ないし12の何れか一項に記載の方法に従って、熱的に不安定な銀(+1)酸化物種を製造する工程、及び
b)前記反応混合物を100℃未満の温度に加熱し、それにより、前記粉末化されたコンパウンドの存在下で、前記熱的に不安定な銀(+1)酸化物種を金属銀に分解する工程
を含む、銀ベース(silver−based)の電気接点材料の製造方法。
【請求項19】
前記銀ベースの接点材料を前記反応混合物から分離する工程及び所望により、該接点材料を乾燥する工程を更に含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
工程a)が、粉末化されたコンパウンドの存在下で、前記熱的に不安定な銀(+1)酸化物種を形成するために、前記有機分散剤を含む溶液に、銀塩溶液と塩基とを同時に添加することを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記粉末化されたコンパウンドが無機酸化物、金属、炭素を基にした化合物(炭化物を含む)並びにそれらの混合物及び組み合わせの群から選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記粉末化されたコンパウンドが、無機酸化物例えばSnO2 、In2 3 、Bi2 3 、CuO、MoO3 、WO3 、ZnO、NbO3 、TiO2 、SiO2 、ZrO2 、HfO3 、GeO2 、金属例えばNi、Co、W、WC、炭素ベースの(carbon−based)化合物例えばカーボンブラック、グラファイト、炭素繊維又はカーボンナノチューブである、請求項18記載の方法。
【請求項23】
前記粉末化されたコンパウンドの量が、前記銀ベースの接点材料の全質量に基づいて、1質量%ないし80質量%の範囲、好ましくは5質量%ないし50質量%の範囲にある、請求項18記載の方法。
【請求項24】
工程b)の後に前記反応混合物からの生成物の分離、水中への該生成物の再分散及び更なる粉末化されたコンパウンドの添加を更に含む、請求項18ないし23の何れか一項に記載の方法。
【請求項25】
請求項18ないし24の何れか一項に記載の方法により作られた、銀ベースの電気接点材料。
【請求項26】
請求項13ないし17の何れか一項に記載の方法により作られた、銀ベースの粒子。
【請求項27】
1nmないし50nmの範囲にあるメジアン粒径(d50)を持つ銀ベースの粒子であ
って、最大粒径(nmによるd100)が下記の相関関係:
d100≦3×d50(nm)
により与えられる、銀ベース(silver−based)の粒子。
【請求項28】
1nmないし50nmの範囲、好ましくは10nmないし30nmの範囲にあるメジアン粒径(d50)を持つ銀ベースの粒子であって、d10値、d50値及びd90値(これらはnmによる)が下記の相関関係:
[d90−d10]/d50≦1.3
に従う、銀ベース(silver−based)の粒子。
【請求項29】
請求項26に記載の銀ベースの粒子を含む導電性インク。
【請求項30】
請求項27に記載の銀ベースの粒子を含む導電性インク。
【請求項31】
請求項28に記載の銀ベースの粒子を含む導電性インク。
【請求項32】
請求項29ないし31の何れか一項に記載の導電性銀インクであって、該インクは水性である導電性銀インク。
【請求項33】
請求項29ないし31の何れか一項に記載の導電性銀インクであって、該インクが有機系のもの(organic−based)である導電性銀インク。
【請求項34】
請求項29ないし33の何れか一項に記載の導電性銀インクであって、銀含有率が、配合物の全質量に基づいて、5質量%ないし50質量%の範囲、好ましくは10質量%ないし30質量%の範囲にある、導電性銀インク。
【請求項35】
抗菌用途のための、請求項26に記載の銀ベースの粒子の使用。
【請求項36】
抗菌用途のための、請求項27に記載の銀ベースの粒子の使用。
【請求項37】
抗菌用途のための、請求項28に記載の銀ベースの粒子の使用。

【公表番号】特表2009−531540(P2009−531540A)
【公表日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−501953(P2009−501953)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際出願番号】PCT/EP2007/002795
【国際公開番号】WO2007/112926
【国際公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【出願人】(508291652)ユミコア ソシエテ アノニム (4)
【Fターム(参考)】