説明

鋼板の突合せ溶接継手

【課題】中厚板からなる鋼板の端部同士の突合せ溶接継手において、レーザ溶接の有する特徴を活用した高能率な溶接施工を実現すると共に、その溶接継手部の高品質化、高性能化も図ることができる中厚鋼板の突合せ溶接継手を提案する。
【解決手段】板厚が10mm以上30mm以下の鋼板1の端部1a同士の突合せ溶接継手である。開先形状をX開先とし、その板厚中央部の開先ルートフェイス部2を深溶込み溶接により1パスで溶接した後、残りの板厚方向両側の開先部分3,4をそれぞれ1パスで仕上げ溶接した。これにより断面形状が3層の積層構造を有する中厚鋼板の突合せ溶接継手とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中厚板の鋼板同士の突合せ溶接継手に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、板厚20mm前後の中厚鋼板同士の突合せ溶接には、ガスシールドアーク溶接やサブマージアーク溶接といったアーク溶接が用いられている。また、最近では、電子ビームやレーザビームなどの高エネルギー密度ビーム溶接の適用も広がっている。このようなビーム溶接は、アーク溶接に比べて溶接速度が速く、母材への熱的ダメージも小さいという利点を有している。
【0003】
なかでもレーザ溶接は、大気中での溶接ができることや、近年の大容量発振器の開発もあいまって、これまでの数mm程度の薄板から10mmを越える厚板の溶接へ、その適用範囲は拡大している。
これに対し、厚板同士のレーザ溶接に関する従来技術としては、次のような提案がなされている。
【0004】
特許文献1では、金属板の突合せ溶接において、開先形状を幅2〜4mmのI型開先とし、レーザビームをその開先間隙の幅方向にオシレートさせながら照射させると共に、その間隙を充填するためにフィラメタルを供給して溶接を行う狭開先レーザ溶接方法が提案されている。
特許文献2では、狭く設定したI型開先にフィラーワイヤを供給しつつ、レーザビームをその狭い開先幅の空間に通し、そのフィラーワイヤの先端部に照射することで溶接層を形成し、これを繰り返すことで順次奥から手前へ溶接層を形成させて積層溶接を行うとする狭開先レーザ溶接方法が提案されている。
【0005】
特許文献3では、厚板を突合せ溶接する際の開先形状をY型狭開先とし、そのI型のルートフェイス部を1パス完全溶込み溶接した後、2層目以上はレーザビームの焦点位置を、ルートフェイス部から焦点距離の1/20以上離してビームを照射しつつ、溶加材を供給してV型開先部分を多層溶接するレーザ溶接方法が提案されている。
特許文献4では、ルートフェイスと開先を有するY型狭開先の突合せ溶接において、そのI型のルートフェイス部を溶接する際に、開先側からレーザを照射してルートフェイス部を溶融させ、この溶融箇所に開先角度に応じて設定した量の溶加材を供給する、突合せレーザ溶接方法が提案されている。
【特許文献1】特開昭62−220293号公報
【特許文献2】特開平9−201687号公報
【特許文献3】特開平7−323386号公報
【特許文献4】特開2002−273587号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1および2の方法では、突合せ溶接部の開先形状を間隙を狭くしたI型開先とし、その狭い間隙にフィラーワイヤを挿入すると共にレーザビームをそのフィラーワイヤに照射するとしているが、溶接長が数mとなるような構造物を溶接する場合を考えると、開先間隙の寸法管理を厳重に行う必要があるなど実用性に課題が残る。
【0007】
また、特許文献3の方法では、溶接欠陥の発生を抑制するためにデフォーカスしてビームのエネルギー密度を低下させており、レーザ溶接の最大の特徴である高エネルギー密度を犠牲にしている。
さらに、特許文献4の方法では、安定した裏波形成を図るために、その開先角度に対応した溶化材を供給する必要があるとしているが、実際の構造物では開先角度を溶接線全長にわたって一定に保つことは難しく、実用性に課題が残る。
【0008】
以上のように、上記各特許文献で提案される技術は、レーザ溶接による施工効率の向上を目的としているものの、開先間隙の寸法精度、フィラーワイヤの安定供給やビーム照射の狙い精度など、実用性を考えると逆に非能率的な方法と思われる。
本発明は、このような点に着目してなされたもので、中厚板の鋼板の端部同士の突合せ溶接継手において、できるだけ従来の溶接施工と同等の施工管理で、レーザ溶接の有する特徴を活用した高能率な溶接施工を実現すると共に、その溶接継手部の高品質化、高性能化も図ることができる中厚鋼板の突合せ溶接継手を提案することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明のうち請求項1に記載した発明は、板厚が10mm以上30mm以下の鋼板の端部同士の突合せ溶接継手であって、開先形状をX開先とし、その板厚中央部の開先ルートフェイス部を深溶込み溶接により1パスで溶接した後、残りの板厚方向両側の開先部分をそれぞれ1パスで仕上げ溶接した、断面形状が3層の積層構造を有することを特徴とするものである。
【0010】
ここで、鋼板の板厚を10mm以上30mm以下と規定しているのは、次の通りである。板厚10mm未満では、レーザ溶接だけで溶接が可能であることから、本発明を適用しなくても問題が無いと思われるので、下限値を10mmとしている。また、板厚30mmを越えると、開先ルートフェイス部2の寸法が長くなって、十分な深溶込み溶接が確保できない可能性があるため、上限値を30mmとしている。
【0011】
次に、請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した構成に対し、上記開先ルートフェイス部の深溶込み溶接は、少なくともレーザ溶接によって行われることを特徴とするものである。
次に、請求項3に記載した発明は、請求項1または請求項2に記載した構成に対し、板厚方向両側の開先部分の仕上げ溶接に、アーク溶接を適用することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、中厚板からなる鋼板の端部同士の突合せ溶接継手を、板厚を特定しつつ板厚中央部の開先ルートフェイス部が1パスの深溶込み溶接、さらに残る板厚方向両側に位置する各開先部分がそれぞれ1パスの仕上げ溶接とした3層積層構造の溶接継手とすることで、全体的な溶接入熱の低減が可能となる。この結果、HAZ靭性の劣化やHAZ軟化が抑制され、溶接継手の高性能化が達成できる。また、熱歪が小さく、溶接材料の使用量も軽減できるので低コスト化も図られる。すなわち、溶接工程は3回で、全体的な溶接入熱が低減でき、溶接継手の性能が向上する。
このとき、請求項2を適用すると、開先ルートフェイス部の深溶接込み溶接が可能であると共に、開先ルートフェイス部の溶接速度に優れて、溶接施工の能率は向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
(構成)
図1は、本実施形態における鋼板同士の突合せ溶接継手の断面概要図である。
まず、鋼板1の両端部1aをX開先に開先加工する。ここで、符号2は、板厚方向中央部に形成されている開先ルートフェイス部であり、符号3および符号4は板厚方向両側(裏面側および表面側)の開先部分をそれぞれ示している。
【0014】
この突合せ溶接は、まず、板厚中央部の開先ルートフェイス部2を、1パスの深溶込み溶接によって本溶接する。符号5がその深溶込み溶接部である。続いて、裏面側の開先部分3および表面側の開先部分4を仕上げ溶接する。このとき、それぞれの裏面仕上げ溶接部6と表面仕上げ溶接部7の溶込み部分をオーバラップさせない。もっとも、深溶込み溶接部5の一部と、裏面仕上げ溶接部6および表面仕上げ溶接部7とはそれぞれ溶込み部分をオーバラッブさせる。
【0015】
ここで、開先ルートフェイス部2の深溶込み溶接としては、レーザ溶接、電子ビーム溶接、プラズマ溶接などの適用が考えられる。これらのうち、レーザ溶接が好適である。すなわち、電子ビーム溶接は、最も深く深溶接込みとすることができるが、大気中で用いることができないという難点がある。また、プラズマ溶接は、他の溶接方法に比べると溶接速度が劣る。以上のことから、大気中で溶接でき、さらに最近では大出力でもビーム品質に優れたレーザも開発が進んでいることから、レーザ溶接を適用することが好適である。
【0016】
また、裏面側および表面側の開先部分3、4の仕上げ溶接には、例えば、ガスシールドアーク溶接やサブマージアーク溶接などの一般的なアーク溶接を適用することができる。本実施形態においては、この裏面仕上げ溶接部6と表面仕上げ溶接部7の溶込み部同士をオーバラップさせない3層構造としているので、それぞれの開先部分3、4の断面積は小さくできる。このため、1パスのガスシールドアーク溶接やサブマージアーク溶接で溶接することが可能で、溶接継手の健全性に対して何ら問題はない。
【0017】
(作用効果)
次に、本実施形態の詳細について説明する。
一般に、板厚20mm前後の中厚板からなる鋼板同士の突合せ溶接には、上述の従来例のように、比較的溶接入熱が小さいガスシールドアーク溶接による多層盛り溶接継手、溶接入熱を増大させて高能率化を図ったサブマージアーク溶接による両面一層溶接継手、さらにエレクトロガスアーク溶接などによる1パスの大入熱溶接継手がある。このような、大入熱溶接を適用した場合、HAZ靭性の劣化やHAZ軟化が問題となる。これに対して、鋼材成分組成の最適化など材料面からのアプローチと、高エネルギー密度ビーム溶接の適用など溶接施工面からのアプローチが検討されてきたが、これまで実用化に至ったのは前者の技術が圧倒的に多い。
そこで、本発明者らは、高能率溶接施工とその溶接継手部の高性能化とを同時に実現させるべく、レーザ溶接の特徴を効果的に活用しつつ実用性も考慮した溶接施工面からの検討を試みて本願発明を成した。
【0018】
本実施形態では、従来のレーザ溶接で課題であった実用性の阻害要因である開先間隙の寸法精度、フィラーワイヤの安定供給やビーム照射の狙い精度をできるだけ緩和すべく、図1に示すように、開先形状を板厚中央部にルートフェイス部を有するX開先とすることで開先間隙を制御する必要を省略した。また、板厚中央部の開先ルートフェイス部2を1パスの深溶込み溶接で溶接する際には、溶着金属の不足を充填するためのフィラーワイヤを添加する必要がなく、ビーム照射の狙いをフィラーワイヤに制御する必要もない。このとき、ポロシティやブローなどの溶接欠陥を抑制するために、ルートフェイス部の深溶込み溶接は貫通溶接させることが望ましい。さらには、次工程にて裏面側の開先部分3は通常のアーク溶接にて仕上げ溶接されるため、ルートフェイル部の深溶込み溶接部5の裏波ビードの凹凸状態については必ずしも重要とはならない。
【0019】
すなわち、本実施形態では、厚板の突合せ溶接をレーザ溶接に代表される高エネルギービーム溶接にて開先ルートフェイス部2を深溶込み溶接し、その後、裏面側および表面側の断面積が小さい開先部分3、4をそれぞれアーク溶接で仕上げ溶接することで、溶接継手の積層構造は3層構造となるが、全体的な溶接入熱は低減し、溶接継手の性能は向上する。
ここで、板厚を10mm以上30mm以下と限定したのは、板厚10mm未満では、レーザ溶接だけで溶接が可能であることから、本発明を適用しなくても問題が無いと思われ、また、板厚30mmを越えると、開先ルートフェイス部2の寸法が長くなって、十分な深溶込み溶接が確保できない可能性があるためである。
【0020】
また、上記実施形態では、開先ルートフェイス部2をレーザ溶接単独で深溶込み溶接を行う場合を例示しているが、これに限定されない。レーザ溶接とアーク溶接を組み合わせたレーザハイブリッド溶接であっても良い。レーザハイブリッド溶接では、制御すべき条件因子は多くなるものの、レーザ溶接単独の場合に比べて溶接線に対する狙い精度を緩和することができるため、確実に開先ルートフェイス部2を深溶込み溶接させるには有効である。
【実施例1】
【0021】
次に、本発明の実施例について説明する。
板厚12mm、20mm、25mm、28mmの鋼板の突合せ溶接について、本発明法による溶接継手(発明例)と従来法の溶接継手(比較例)とを比較検討した。なお、供試鋼板はTMCPプロセスで製造した引張強さが490MPa級の低合金鋼である。
表1に、本発明による発明例、および従来法による比較例の溶接条件とその結果を示す。
【0022】
【表1】

【0023】
発明例1〜4は、開先形状をX開先として、まず開先ルートフェイス部をレーザ溶接によって深溶込み溶接を行い、続いて裏面側と表面側の開先部分を、MAG溶接あるいはサブマージアーク溶接によって、それぞれ1パス溶接で仕上げ溶接を行った場合である。レーザ溶接には、従来のレーザよりもエネルギー密度が高くビーム品質にも優れているファイバーレーザを用いた。
【0024】
発明例5は、発明例1〜4と同じく開先形状をX開先として、開先ルートフェイス部をレーザ溶接の代わりにプラズマ溶接によって深溶込み溶接を行ったものである。プラズマ溶接の場合も深溶込みが得られるが、レーザ溶接に比べると溶接速度は0.3m/minと非常に遅くしなければならず、この点ではレーザ溶接に比べると劣っている。
比較例6は、開先形状をI開先とし、その間隙を1mmに設定して、レーザ溶接単独による1パス深溶込み溶接にて仕上げたものである。
比較例7は、開先形状をY開先とし、そのI型のルートフェイス部をレーザ溶接にて2層溶接を行った後、表面側の開先部分をサブマージアーク溶接によって仕上げたものである。
【0025】
発明例1〜5では、板厚中央部の開先ルートフェイス部を完全に突合せることが容易であり、その結果、フィラーワイヤを添加する必要もなく、ビーム照射の狙い位置の高精度管理など溶接作業性を阻害する要因が少ない。また、深溶込み溶接部の上下にあたる開先部分は汎用的なアーク溶接にて仕上げ溶接を行うため、開先ルートフェイス部の溶接における裏波形成は必ずしも必要ではなく、この点においても溶接作業性は容易となる。さらには、ビーム溶接で問題とされるポロシティなどの溶接欠陥も、初段の開先ルートフェイス部を貫通溶接とすることで、その発生頻度は低減し、継手性状も良好である。
【0026】
一方、比較例6は、厚板をレーザ溶接1パスで仕上げるため、ビーム照射の狙い位置の僅かなずれが最終的な継手性状に影響を与えるため、開先間隙の寸法を厳しく管理する必要がある。さらには、狭開先の深溶込み溶接では裏面に凹みが生じやすく、溶込み不良が発生しやすい。
また、比較例7は、Y開先とすることで、溶接作業性は本発明例と同様であるが、2パスのレーザ溶接が非貫通溶接となるため、ポロシティなどの溶接欠陥が発生しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に基づく実施形態に係る鋼板の突合せ溶接継手の構造を示す断面概略図である。
【符号の説明】
【0028】
1 鋼板
1a 端部
2 開先ルートフェイス部
3 裏面側の開先部分
4 表面側の開先部分
5 開先ルートフェイス部の深溶込み溶接部
6 裏面側開先部分の仕上げ溶接部
7 表面側開先部分の仕上げ溶接部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板厚が10mm以上30mm以下の鋼板の端部同士の突合せ溶接継手であって、
開先形状をX開先とし、その板厚中央部の開先ルートフェイス部を深溶込み溶接により1パスで溶接した後、残りの板厚方向両側の開先部分をそれぞれ1パスで仕上げ溶接した、断面形状が3層の積層構造を有することを特徴とする鋼板の突合せ溶接継手。
【請求項2】
上記開先ルートフェイス部の深溶込み溶接は、少なくともレーザ溶接によって行われることを特徴とする請求項1に記載した鋼板の突合せ溶接継手。
【請求項3】
板厚方向両側の開先部分の仕上げ溶接に、アーク溶接を適用することを特徴とする請求項1または請求項2に記載した鋼板の突合せ溶接継手。

【図1】
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【公開番号】特開2008−168319(P2008−168319A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−3637(P2007−3637)
【出願日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】