説明

長繊維樹脂成形体、並びに、長繊維樹脂成形体の製造方法

【課題】 樹脂成形体の強度低下がほとんどなく、制振性に優れる長繊維樹脂成形体を提供する。
【解決手段】 本発明の長繊維樹脂成形体1は、樹脂部10と、長繊維である繊維部11とを有しており、樹脂部10が繊維部11によって補強されている。また、長繊維樹脂成形体1はゲル状樹脂12を有しており、ゲル状樹脂12は、繊維部11と樹脂部10との間に介在している。そのため、ゲル状樹脂12によって振動を減衰させることができ、長繊維樹脂成形体1の制振性は優れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長繊維樹脂成形体、並びに、長繊維樹脂成形体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
長繊維で強化された樹脂成形体は高強度であるので、各種構造体に用いられている。そして、ポリウレタン発泡樹脂を長繊維で強化した樹脂成形体は、軽くて高強度であるので、まくら木などに用いられている。このようなまくら木は合成まくら木と呼ばれており、特許文献1に記載されている方法などにより製作される。
【特許文献1】特公昭48−36420号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このような成形体をまくら木として使用する場合など、使用時に伝達する振動を低減させたい場合がある。かかる場合、樹脂成形体に用いられる樹脂を軟らかくするなどすれば振動伝達が低減されるが、強度が低下してしまうことになる。
そのため、制振性と強度とが両立するものが求められている。
【0004】
そこで、本発明は、樹脂成形体の強度低下がほとんどなく、制振性に優れる長繊維樹脂成形体、並びに、長繊維樹脂成形体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そして、上記した目的を達成するための請求項1に記載の発明は、樹脂部と、長繊維である繊維部とを有し、樹脂部が繊維部によって補強されている長繊維樹脂成形体であって、繊維部と樹脂部との間にはゲル状樹脂が介在していることを特徴とする長繊維樹脂成形体である。
【0006】
請求項1に記載の発明によれば、長繊維である繊維部と樹脂部との間にはゲル状樹脂が介在しているので、ゲル状樹脂によって振動を減衰させることにより、制振性が優れる。
成形体に振動が伝達されて、曲げ変形が発生する場合、繊維部と樹脂部の界面で滑ろうとする摩擦力が発生する。繊維部と樹脂部の間にゲル状樹脂が介在すると、摩擦力によりゲル状樹脂が剪断変形する。その変形は、塑性変形である為、変形のエネルギーは、熱エネルギーとして散逸し、結果、振動が減衰する。
【0007】
請求項2に記載の発明は、繊維部は複数の長繊維が用いられており、一部の長繊維についてゲル状樹脂を介在させるものであることを特徴とする請求項1に記載の長繊維樹脂成形体である。
【0008】
請求項2に記載の発明によれば、繊維部は複数の長繊維が用いられており、一部の長繊維についてゲル状樹脂を介在させるものであるので、制振性を向上させつつ、高強度とすることができる。
即ち、成形体の曲げ剛性は、上述の樹脂部と繊維部の間の摩擦力が大きい為に保たれている。全ての繊維部と樹脂部の間にゲル状樹脂が介在すると、その間で滑りが発生し、強度を保つ事は出来ない。従って、成形体の制振性と強度を両立する為には、一部の長繊維にのみゲル状樹脂を介在させる必要がある。
【0009】
請求項3に記載の発明は、繊維部の長繊維は所定の長さを有しており、長繊維の一部分についてゲル状樹脂を介在させるものであることを特徴とする請求項1に記載の長繊維樹脂成形体である。
【0010】
請求項3に記載の発明によれば、繊維部の長繊維は所定の長さを有しており、長繊維の一部分についてゲル状樹脂を介在させるものであるので、制振性を向上させつつ、高強度とすることができる。
上述と同じ理由で、全ての繊維と樹脂の間で滑りが発生すると、強度を維持する事は出来ない為、繊維の一部分にのみゲル状樹脂を介在させる事により、その部分でのみ、ゲル状樹脂を剪断変形させて、振動を熱に変換させるものである。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の長繊維樹脂成形体の製造方法であって、長尺の長繊維を連続的に供給しながら、長尺の長繊維にゲル状樹脂となる原料液、樹脂部となる樹脂液の順に付着させ、樹脂液を固化させて成形することを特徴とする長繊維樹脂成形体の製造方法である。
【0012】
請求項4に記載の発明によれば、長尺の長繊維を連続的に供給しながら、長尺の長繊維にゲル状樹脂となる原料液、樹脂部となる樹脂液の順に付着させ、樹脂液を固化させて成形するものであるので、連続的に製造が可能である。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項3に記載の長繊維樹脂成形体の製造方法であって、長尺の長繊維を連続的に供給しながら、長尺の長繊維にゲル状樹脂となる原料液を断続的に付着させ、さらに、樹脂部となる樹脂液を付着させ、樹脂液を固化させて成形することを特徴とする長繊維樹脂成形体の製造方法である。
【0014】
請求項5に記載の発明によれば、長尺の長繊維を連続的に供給しながら、長尺の長繊維にゲル状樹脂となる原料液を断続的に付着させ、さらに、樹脂部となる樹脂液を付着させ、樹脂液を固化させて成形するものであるので、連続的に製造が可能である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の長繊維樹脂成形体によれば、強度低下がほとんどなく、制振性に優れ、また、本発明の長繊維樹脂成形体の製造方法によれば、かかる長繊維樹脂成形体を容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下さらに本発明の具体的実施例について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態における長繊維樹脂成形体の斜視図である。図2は、図1に示す長繊維樹脂成形体の一部を切り欠いた斜視図である。図3は、図2のA部を拡大した斜視図である。図4は、本発明の第2の実施形態における長繊維樹脂成形体の正面図である。図5は、本発明の第3の実施形態における長繊維樹脂成形体の側面図である。図6は、連続成形ラインを示した模式図である。
【0017】
本発明の第1の実施形態における長繊維樹脂成形体1は、図1、図2に示されており、樹脂部10と繊維部11とを有している。
そして、長繊維樹脂成形体1の形状は、角柱状であって、長尺状である。そして、長繊維樹脂成形体1は、まくら木として用いられる。
【0018】
本実施形態における樹脂部10の材質は、ポリウレタン樹脂であり、ポリオールとイソシアネートを原料として、これらを反応させて得られるものである。また、繊維部11は、ガラス長繊維が用いられている。また、樹脂部10は発泡して成形されるものであり、発泡樹脂である。
【0019】
繊維部11は複数の長繊維が用いられており、図2に示されるように、繊維部11の配向方向は長繊維樹脂成形体1の長尺方向である。
そして、繊維部11は、樹脂部10に含有した状態で存在している。長繊維樹脂成形体1を高強度とすることができる。
【0020】
また、図3に示されるように、繊維部11の周りには、ゲル状樹脂12が配置している。ゲル状樹脂12は、樹脂部10や繊維部11よりも軟らかく、樹脂部10や繊維部11と比較して振動を減衰することができるものである。
ゲル状樹脂12は、特に限定されるものでないが、例えば、ウレタン樹脂系のゲルやオレフィン系のゲルを用いることができる。
【0021】
本実施形態の長繊維樹脂成形体1では、ゲル状樹脂12は、繊維部11の全ての長繊維の全域に配置しているものである。
また、ゲル状樹脂12は、繊維部11の一部の周りに配置することができる。例えば、図4に示される、第2の実施形態における長繊維樹脂成形体2では、繊維部11の内、上側の長繊維をゲル状樹脂配置領域20とし、下側をゲル状樹脂非配置領域21とし、ゲル状樹脂配置領域20の繊維部11の長繊維の周りにのみゲル状樹脂12が配置されている。
そして、図5に示される第3の実施形態における長繊維樹脂成形体3では、樹脂部10の長手方向の両端付近をゲル状樹脂配置領域20とし、中央付近をゲル状樹脂非配置領域21とし、ゲル状樹脂配置領域20の繊維部11の長繊維の周りにのみゲル状樹脂12が配置されている。
さらに、ゲル状樹脂12の配置をランダムにするなど、上記した以外の方法で繊維部11の一部の周りに配置することができる
【0022】
次に、長繊維樹脂成形体1の製造方法について説明する。
長繊維樹脂成形体1は、図6に示すような連続成形ライン50を用いて製造される。連続成形ライン50には、繊維供給工程51、ゲル状樹脂原料液塗布工程54、樹脂含浸工程52、成形工程53、引取部55を有している。
そして、繊維供給工程51から引取部55へ向かって進むように連続的に繊維部11を供給し、引取部55に引き取られて出来上がった成形体41が出てくる。なお、連続成形ライン50を示した図6においては、左から右へと工程が進む。
【0023】
繊維供給工程51は、繊維部11となる繊維を連続的に供給する部分であり、図示は省略しているが、ガラス長繊維をボビンなどに巻きつけておき、これから繰り出して供給される。また、繊維供給工程51には、複数本のガラス長繊維が束状に供給され、このガラス長繊維はゲル状樹脂原料液塗布工程54へと進む。
【0024】
ゲル状樹脂原料液塗布工程54は、繊維部11の表面にゲル状樹脂12の原料となる原料液12aを塗布する工程である。本実施形態では、原料液12aが入った容器に繊維部11を連続的に浸漬することにより、繊維部11のガラス長繊維の全ての全長に塗布される。
この原料液12aの塗布は表面に薄く行われるものである。
【0025】
続いて、原料液12aが塗布された繊維部11が樹脂含浸工程52に移動する。樹脂含浸工程52には、噴霧ノズル60を有している。そして、噴霧ノズル60から樹脂液を繊維部11に向けて噴霧する。
樹脂液は、ポリオール、イソシアネート及び発泡剤などを混合したものであり、発泡させながら固化させて樹脂部10となるものである。
なお、必要に応じて、含浸ロール及び揉み板などを用い、噴霧ノズル60から樹脂液を全体に均一に行き渡るようにすることもできる。
【0026】
そして、原料液12a及び樹脂液が付着した繊維部11は、成形工程53に供給される。成形工程53は、4つの無端ベルト63を有しており、この4つの無端ベルト63の内側に成形通路68が形成される。各無端ベルト63の表面は平面状であり、成形通路68の断面形状はほぼ長方形状となっており、長繊維樹脂成形体1の断面形状に合わせられている。
【0027】
成形の際には無端ベルト63が作動する。そして、無端ベルト63が作動したときの内側の進行方向及び速度は、繊維部11の進行方向及び速度と同じである。したがって、無端ベルト63と、成形途中の樹脂との間の摩擦を小さくすることができる。
【0028】
また、無端ベルト63によって形成される成形通路68は、樹脂液が硬化に必要な程度に加熱されている。そして、繊維部11に含浸された樹脂は、成形通路68内で硬化する。この樹脂には発泡剤が添加されているので、この硬化の際に発泡する。
【0029】
成形通路68を通過して硬化して成形体41となり、この成形体41は、引取部55によって引き取られる。引取部55では、上側ベルト55aと下側ベルト55bが設けられており、成形体41が上側ベルト55aと下側ベルト55bとの間に挟まれた状態で作動する。
そして、カッター40で所定の長さに切断され、切断された成形品は表面仕上げなどが行われて、長繊維樹脂成形体1ができあがる。
【0030】
このように、長繊維樹脂成形体1を、連続成形ライン50を用いて製造することにより、効率よく製造することができる。
【0031】
また、ゲル状樹脂原料液塗布工程54を連続成形ライン50に設けないで、あらかじめ、繊維部11の長繊維に、ゲル状樹脂12の原料液12aを塗布しておいたものを供給しても良い。
【0032】
そして、ゲル状樹脂12を繊維部11と樹脂部10との間に介在させることができれば、連続成形ライン50を用いないで成形しても良い。例えば、金型などの成形型を用いて、繊維部11の長繊維にゲル状樹脂12の原料液12aを塗布して、さらに樹脂部10となる樹脂液を付着させたものを成型型内に配置して成形することもできる。
【0033】
そして、ゲル状樹脂12を繊維部11の一部の周りに配置する場合には、以下のような方法で製造することができる。
例えば、上記した第2の実施形態における長繊維樹脂成形体2の場合、ゲル状樹脂原料液塗布工程54の原料液12aに通過させる長繊維を一部とする方法や、あらかじめ原料液12aを塗布する長繊維を一部のものとすることにより製造することができる。
また、第3の実施形態における長繊維樹脂成形体3の場合、ゲル状樹脂原料液塗布工程54において、原料液12aに通過させる状態と通過させない状態とを選択できるようにし、ゲル状樹脂12を必要とする部分にだけ、原料液12aに通過させるようにして製造することができる。
【0034】
このように製造された長繊維樹脂成形体1、2、3では、繊維部11の長繊維と樹脂部10との間にゲル状樹脂12が介在しているので、長繊維樹脂成形体1、2、3が振動したときに、ゲル状樹脂12によって振動を減衰することができる。
長繊維樹脂成形体1、2、3が振動すると、全体、或いは、部分的に樹脂部10が変形する。そして、この変形によって、繊維部11と樹脂部10との間に相対移動が発生するので、ゲル状樹脂12はせん断などの変形が発生し、振動を減衰する。
【0035】
なお、繊維部11と樹脂部10との間に相対移動するような力が発生した場合、ゲル状樹脂12が介在していると、介在していないものに比べて、ゲル状樹脂12が変形して、繊維部11と樹脂部10との間がずれやすく、全体の強度が低下しやすい。このような場合には、ゲル状樹脂12を部分的に介在させることにより、強度維持と制振性とを両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の第1の実施形態における長繊維樹脂成形体の斜視図である。
【図2】図1に示す長繊維樹脂成形体の一部を切り欠いた斜視図である。
【図3】図2のA部を拡大した斜視図である。
【図4】本発明の第2の実施形態における長繊維樹脂成形体の正面図である。
【図5】本発明の第3の実施形態における長繊維樹脂成形体の側面図である。
【図6】連続成形ラインを示した模式図である。
【符号の説明】
【0037】
1、2、3 長繊維樹脂成形体
10 樹脂部
11 繊維部
12 ゲル状樹脂
12a 原料液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂部と、長繊維である繊維部とを有し、樹脂部が繊維部によって補強されている長繊維樹脂成形体であって、繊維部と樹脂部との間にはゲル状樹脂が介在していることを特徴とする長繊維樹脂成形体。
【請求項2】
繊維部は複数の長繊維が用いられており、一部の長繊維についてゲル状樹脂を介在させるものであることを特徴とする請求項1に記載の長繊維樹脂成形体。
【請求項3】
繊維部の長繊維は所定の長さを有しており、長繊維の一部分についてゲル状樹脂を介在させるものであることを特徴とする請求項1に記載の長繊維樹脂成形体。
【請求項4】
請求項1に記載の長繊維樹脂成形体の製造方法であって、長尺の長繊維を連続的に供給しながら、長尺の長繊維にゲル状樹脂となる原料液、樹脂部となる樹脂液の順に付着させ、樹脂液を固化させて成形することを特徴とする長繊維樹脂成形体の製造方法。
【請求項5】
請求項3に記載の長繊維樹脂成形体の製造方法であって、長尺の長繊維を連続的に供給しながら、長尺の長繊維にゲル状樹脂となる原料液を断続的に付着させ、さらに、樹脂部となる樹脂液を付着させ、樹脂液を固化させて成形することを特徴とする長繊維樹脂成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−106969(P2007−106969A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−302172(P2005−302172)
【出願日】平成17年10月17日(2005.10.17)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】