説明

閉鎖系水域の浄化方法およびその装置

【解決手段】 浄化装置は、複数の浮体1 により半没水状態に支持された反応器2 と、反応器2 底部に原水導管3 を介して接続された水中ポンプ6 とからなる。反応器2 内の下部には、パンチングメタルからなる活性炭支持部材7 が水平に配置され、同部材7 の上に粒状の活性炭が充填され、上向流膨張床である活性炭床4 が形成されている。反応器2 の頂部は水面上に出る上端開口5 となされている。水中ポンプ6 は水底部G 付近の原水を吸い込んで反応器2 へ流入させる。
【効果】 反応器は半没水式であり、反応器の上端開口が水面上にあるため、浄化水の排水に同伴して活性炭が反応器から流出する恐れがなく、そのためネットなどの活性炭流出防止手段が不要になる。加えて、反応器が水面上でなく、半没水式であるため、揚程の小さいポンプでも原水を反応器内に容易に流入させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湖沼や海域などの閉鎖系水域の浄化方法およびこの方法に用いられる浄化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
湖沼や海域などの閉鎖系水域は、水の入れ替えが少ないため、その周囲の都市化が進行するに伴って生活排水などの流入も増え、自然の浄化作用だけでは浄化が追いつかなくなってきており、汚濁が進行しているのが現状である。
【0003】
閉鎖系水域を浄化するには、積極的な人為的浄化機能を付加することが有効であり、いくつかの取り組み事例がある。
【0004】
例えば、特許文献1には、活性炭を流動させる反応器を水面下に完全に沈めて水中に浮遊状態に設置して、閉鎖系水域での水質浄化を行なう装置が提案されている。
【特許文献1】特開平6−99185号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
反応器が完全に水中に没している水浄化装置では、活性炭が反応器から流出しないようにネットなどの流出防止手段が設けられる。しかし、平均粒径が小さくて浄化機能が高い活性炭を用いるにはネットの目開きを小さくする必要があり、その結果ネットの通水抵抗が大きくなるため、水中ポンプの能力を大きくする必要があるとともに、ネットが活性炭で目詰まりを起こし、通水不能となることがある。
【0006】
本発明は、反応器が完全に水中に没している水浄化装置における上記のような問題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、半没水状態に支持された反応器に水底部付近の原水を流入させ、反応器内で原水を浄化し、水面上にある反応器の上端開口から浄化水を水域へ還流させることを特徴とする閉鎖水域の浄化方法である。
【0008】
請求項2記載の発明は、浮体により半没水状態に支持され、活性炭を保持し、かつ水面上に出る上端開口を有する反応器と、反応器に原水導管を介して接続され、かつ水底部付近の原水を反応器へ流入させる水中ポンプとを具備することを特徴とする閉鎖系水域の浄化装置である。
【0009】
請求項3記載の発明は、水中ポンプの吸い込み側に、水面上から空気を供給する空気導管が接続されていることを特徴とする請求項2記載の閉鎖系水域の浄化装置である。
【0010】
請求項4記載の発明は、空気導管の空気取り込み口に流量調整バルブが設けられていることを特徴とする請求項3に記載の閉鎖系水域の浄化装置である。
【0011】
請求項5記載の発明は、反応器の上端開口に活性炭流出防止部材が設けられていることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の閉鎖系水域の浄化装置である。
【発明の効果】
【0012】
請求項1または2記載の発明によれば、反応器が半没水式であり、反応器の上端開口が水面上にあるため、浄化水の排水に同伴して活性炭が反応器から流出する恐れがなく、そのためネットなどの活性炭流出防止手段が不要になる。加えて、反応器が水面上でなく、半没水式であるため、揚程の小さいポンプでも原水を反応器内に容易に流入させることができる。
【0013】
請求項3記載の発明によれば、エジェクタの原理で原水に空気(酸素)を供給し、これにより水底部の貧酸素の原水を効果的に浄化することができる。
【0014】
請求項4記載の発明によれば、閉鎖系水域ごとに異なる溶存酸素濃度の必要値に応じて、流量調整バルブにより適切な空気量を反応器へ供給することができる。
【0015】
請求項5記載の発明によれば、原水への空気導入により浄化水が上端開口から噴出することがあっても、これに同伴して活性炭が流出するのを効果的に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明による閉鎖系水域の浄化方法では、浮体により半没水状態に支持された反応器を閉鎖系水域に浮かべ、同水域の原水を水中ポンプで反応器内に流入させて浄化し、浄化水を同水域へ還流する。したがって、この水域外に装置を設置するスペースは不要であり、装置の移設も容易である。
【0017】
閉鎖系水域では、その水底部に汚濁物質が滞留し易く、貧酸素な状態にあり自然浄化が進みにくいため、水底部近傍の原水を浄化することにより、効率的な浄化が可能となる。しかし、水底部にはヘドロなどがあるため、水中ポンプに支持脚などを設け、これを水底部から少し持ち上げてヘドロを吸い込まないようにすることが好ましい。
【0018】
水底部付近の原水を反応器へ流入させる水中ポンプと反応器を接続する原水導管は、蛇腹式の伸縮自在ホース等の長さ可変のものであることが好ましい。このような導管を用いることにより、水深に関係なく常に水中ポンプを水底部近傍に配置することができる。
【0019】
反応器内の下部には活性炭の支持部材を水平に配置され、その上に活性炭を保持させ、活性炭床を形成する。活性炭の支持部材は、活性炭の平均粒径より小さい目開きを持つパンチングメタルや、砂利層で構成するのが好ましい。これは、活性炭を支持すると共に水流を分散させ、反応器内の偏流を防ぐ働きをする。原水を反応器に供給して浄化を行なうにつれて、水域に生息する微生物が活性炭に付着して、活性炭は生物活性炭として機能するようになる。生物活性炭は、汚濁成分の生物学的分解作用を行なうと共に、微生物にとって難分解性成分を活性炭に吸着して、その後時間をかけて生物学的分解を行なうことができるという特徴がある。活性炭としては粒状活性炭を用い、活性炭床を上向流膨張床とすることが効果的である。粒状活性炭は重力による固液分離性に優れ、上向流膨張床は反応器の閉塞を防止し、粒状活性炭の磨耗を防ぐ利点がある。活性炭の平均粒径は0.5〜2mmとするのがよい。平均粒径が0.5mm以下であると活性炭の流出が起こり易くなり、2mm以上であると表面積が小さくなるため浄化効果が低下する嫌いがある。
【0020】
膨張床における活性炭の膨張率は1.1〜1.5、空間速度(SV(1/h))は1〜10であると、反応器の利用効率が良い。膨張率が1.1以下であると活性炭の充填密度が大きくなるので圧力損失が増し、1.5以上であると反応器レベルを過度に高くする必要がある。また、空間速度が1以下でありと反応器のサイズが過大となり、10以上であると浄化水に未反応の有機物が残存する。
【0021】
反応器のレベルは、上端開口が水面よりやや上に出る程度に浮力で調整する。このようにすることにより、上端開口から表層水が流入することがなく、かつ水中ポンプの揚程を小さくすることができる。
【0022】
反応器内の活性炭床は、膨張しても反応器の上端開口よりも下のレベルになるようにし、浄化水は反応器の上端開口を越流して水域へ還流される。
【0023】
水中ポンプの吸い込み側に空気を供給する空気導管を接続することが好ましい。同導管も、水中ポンプと反応器底部を接続する原水道管と同様、蛇腹式の伸縮自在ホース等の長さ可変管とすることが好ましい。
【0024】
空気導管の上端にある空気取り込み口は水面上に出ており、好ましくは流量調整バルブを備えている。閉鎖系水域ごとに異なる溶存酸素濃度の必要値に応じて、同調整バルブにより適切な空気量を反応器へ供給することができる。
【0025】
空気導管の空気取り込みロは、サポート材により反応器側部またはその浮体に取付けられている。
【0026】
水中ポンプの吸い込み側に空気を供給した場合、空気の塊が反応器の活性炭床を通過して噴出することがあり、これに同伴して活性炭が反応器から流出する恐れがあるが、反応器の上端に活性炭流出防止部材を設けることによって、活性炭の流出を効果的に防止することができる。
【0027】
活性炭流出防止部材は、反応器の上端開口と、同開口上に立設された複数の支持脚と、支持脚により支持された傘状または平板状の屋根とからなるものであってよい。支持脚の隙間から浄化水は水域へ還流される。噴出による活性炭が水に同伴して流出するのを防ぐために、支持脚の長さ、すなわち反応器上端部と屋根との間隔は、浄化水の水域への還流を阻害しない程度に短くすることが好ましい。活性炭流出防止部材は、反応器の上端開口と、同開口内にて浮体によって浄化水面上に浮かべられた傘状または平板状の屋根とからなるものであってもよい。この場合、屋根の直径は反応器の上端開口の直径よりもわずかに小さくしてあり、屋根の周縁と反応器の上端開口内面との間の隙間から浄化水は水域へ還流され、噴出による活性炭の流出は阻止される。
【0028】
つぎに、本発明を具体的に説明するために、本発明の実施例をいくつか挙げる。
【0029】
実施例1
図1において、本発明による閉鎖系水域の浄化装置は、複数の浮体(1) により半没水状態に支持された反応器(2) と、反応器(2) 底部に原水導管(3) を介して接続された水中ポンプ(6) とからなる。反応器(2) は縦横2m×2mの有底角筒状であって、その20%が水面上に出るように浮遊している。反応器(2) 内の下部には、パンチングメタルからなる活性炭支持部材(7) が水平に配置され、同部材(7) の上に粒状の活性炭が高さ2mで充填され、上向流膨張床である活性炭床(4) が形成されている。活性炭支持部材(7) は活性炭を支持すると共に水流を分散させ、反応器内の偏流を防ぐ働きをする。活性炭の平均粒径は約1mmであり、パンチングメタルは活性炭の平均粒径より小さい目開きを持つ。反応器(2) の頂部は水面上に出る上端開口(5) となされている。水中ポンプ(6) は水底部(G) 付近の原水を吸い込んで反応器(2) へ流入させる。原水導管(3) は、蛇腹式の伸縮自在ホースで構成されている。反応器(2) のレベルは、上端開口(5) が水面よりやや上に出る程度に浮力で調整する。これにより、上端開口(5) から表層水が流入することがなく、かつ水中ポンプ(6) の揚程を小さくすることができる。
【0030】
反応器(2) 内の活性炭床(4) は、膨張しても反応器の上端開口(5) よりも下のレベルになるようにし、浄化水は反応器(2) の上端開口(5) を越流して水域へ還流される。
【0031】
水中ポンプ(6) の吸い込み側に、水面上から空気を供給する空気導管(8) が接続されている。空気導管(8) も、蛇腹式の伸縮自在ホースで構成されている。空気導管(8) の空気取り込みロ(9) は水面上に出ており、サポート材(11)により浮体(1) に取付けられている。空気導管(8) の空気取り込み口(9) には流量調整バルブ(10)が設けられている。
【0032】
溜池を仮設の仕切り材でほぼ等しい面積の2つの区画水域に分けて、一方の区画水域に上記構成の閉鎖系水域の浄化装置を設置した。水中ポンプ(6) を駆動させて反応器(2) にこの区画水域の水底部(G) 付近の原水を流入させ、膨張床における活性炭の膨張率1.3、空間速度(SV(1/h))5で反応器(2) を稼動させ、水中ポンプ(6) の吸い込み力によって空気導管(8) を経て空気を反応器(2) に供給した。こうして原水の浄化を行い、反応器(2) の上端開口(5) から浄化水を区画水域へ還流させ、この区画水域におけるCOD濃度の経時変化を計測した。この計測結果を図5のグラフに「浄化装置あり」として示す。
【0033】
もう一方の区画水域についてもCOD濃度の経時変化を測定した。この計測結果を図5のグラフに「浄化装置なし」として示す。
【0034】
このグラフから明らかなように、運転開始から約1ケ月は両区画水域ともほとんどCOD濃度変化が無く、約12mg/Lであったが、その後「浄化装置あり」の区画水域でのCOD濃度が低減し始め、約5ケ月後には「浄化装置あり」の区画水域でのCOD濃度は約6mg/Lとなり、浄化装置の有効性を確認した。
【0035】
実施例2
図2において、反応器(2) は有底円筒状であって、その上に活性炭流出防止部材(15)が設けられている。活性炭流出防止部材(15)は、反応器(2) の上端開口(16)と、同開口(16)の上に等間隔で立設された複数の支持脚(12)と、複数の支持脚(12)の上に亘って支持された傘状の屋根(14)とからなる。浄化水は支持脚(12)の隙間から水域へ還流される。導入された空気の噴出により活性炭が水に同伴して流出するのを防ぐために、支持脚(12)の長さ、すなわち上端開口(16)と屋根(14)との間隔は、浄化水の水域への還流を阻害しない程度に短くされている。その他の構成は、実施例1のものと同じである。
【0036】
実施例3
図3において、屋根(17)は円板で構成されている。その他の構成は、実施例2のものと同じである。
【0037】
実施例4
図4において、活性炭流出防止部材(19)は、反応器(2) の上端開口(16)と、同開口(16)内にて浮体(18)によって浄化水面上に浮かべられた傘状の屋根(14)とからなる。屋根(14)の直径は反応器(2) の上端開口(16)の直径よりもわずかに小さくしてあり、屋根(14)の周縁と反応器(2) の上端開口(16)内面との間の隙間から浄化水は水域へ還流され、噴出による活性炭の流出は阻止される。
【0038】
その他の構成は、実施例2のものと同じである。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施例1による閉鎖系水域の浄化装置を示す垂直断面図である。
【図2】実施例2による閉鎖系水域の浄化装置を示す垂直断面図である。
【図3】実施例3による閉鎖系水域の浄化装置を示す垂直断面図である。
【図4】実施例4による閉鎖系水域の浄化装置を示す垂直断面図である。
【図5】COD濃度の経時変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0040】
(1) (18):浮体
(2) :反応器
(3) :原水導管
(4) :活性炭床
(5) :上端開口
(6) :水中ポンプ
(7) :活性炭支持部材
(8) :空気導管
(9) :空気取り込み口
(10):流量調整バルブ
(11):サポート材
(12):支持脚
(14)(17):屋根
(15)(19):活性炭流出防止部材
(16):上端開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半没水状態に支持された反応器に水底部付近の原水を流入させ、
反応器内で原水を浄化し、
水面上にある反応器の上端開口から浄化水を水域へ還流させる
ことを特徴とする閉鎖系水域の浄化方法。
【請求項2】
浮体により半没水状態に支持され、活性炭を保持し、かつ水面上に出る上端開口を有する反応器と、
反応器に原水導管を介して接続され、かつ水底部付近の原水を反応器へ流入させる水中ポンプとを
具備することを特徴とする閉鎖系水域の浄化装置。
【請求項3】
水中ポンプの吸い込み側に、水面上から空気を供給する空気導管が接続されていることを特徴とする請求項2記載の閉鎖系水域の浄化装置。
【請求項4】
空気導管の空気取り込み口に流量調整バルブが設けられていることを特徴とする請求項3に記載の閉鎖系水域の浄化装置。
【請求項5】
反応器の上端開口に活性炭流出防止部材が設けられていることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の閉鎖系水域の浄化装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−334506(P2006−334506A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−162146(P2005−162146)
【出願日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】