説明

防振装置、及び、防振装置の製造方法

【課題】簡易な構成でブラケットと外筒との締結力を確保することの可能な防振装置、及び、この防振装置の製造方法を提供する。
【解決手段】外筒14は、射出成形で形成されており、樹脂の注入部分である樹脂注入口14Hを有している。樹脂注入口14Hは、円筒部14Aの内側に1点のみ構成されている。外筒14は、ブラケット12内に圧入されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のリアサスペンションアーム、トレーディングアーム、トルクロッド、その他の腕部材に取り付けられた、いわゆるブッシュ式の防振装置、および、この防振装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブッシュ式防振装置の外筒としては、従来より金属製のものが用いられているが、樹脂製のものも採用されている。樹脂製の外筒は、軽量で成形が容易であるというメリットを有している。
【0003】
一方、外筒を樹脂製とした場合、樹脂は金属と比較して強度が低いため、抜け力を大きくしてブラケットに圧入すると、外筒が破損してしまうことも考えられる。
【0004】
そこで、特許文献1では、樹脂製の外筒と、内筒と、それらの間に配置されたゴム弾性体とを有するゴムブッシュを剛性のブラケットに圧入してなる筒形防振装置において、ブラケットの内面に凹陥部を形成することによって、ブラケットの内面形状を段付形状とする一方、外筒の外面を実質的に軸方向のストレート形状とし、樹脂の弾性変形を利用して外筒を縮径させながらブラケット内部に圧入し、圧入後の弾性復元力によりブラケットの段付部と外筒の段付部とを軸方向にかつ抜け方向に互いに係合させている。
【0005】
また、特許文献1では、ブラケットの内面をブラスト加工して表面を粗して摩擦係数を高くすることにより外筒の締結力を確保したり、外筒の一端に係合用の突起部を形成しブラケットの端面に当てて抜け止めにしたり、などの工夫がなされている。
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術では、以下の不都合が生じる。すなわち、ブラケットの内面に凹部を構成する場合や、表面を粗す場合には、加工の手間が生じコストアップとなる。また、外筒の一端に係合用の突起部を形成する場合には、この突起部がブラケットの外側に露出してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許3767545号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記事実を考慮して成されたものであり、簡易な構成でブラケットと外筒との締結力を確保することの可能な防振装置、及び、この防振装置の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1に係る防振装置は、振動発生部および振動受部の一方に連結される筒状のブラケットと、円筒状とされて前記ブラケットの筒内に圧入され、繊維補強材を含んだ樹脂製とされて繊維が周方向に配向する外筒と、前記外筒の内周側に配置されると共に振動発生部および振動受部の他方に連結される内筒と、前記外筒の内周面と前記内筒の外周面との間に配置され、前記外筒と前記内筒とを互いに連結する弾性体と、を備えている。
【0010】
上記構成では、外筒は、繊維補強材を含んだ樹脂製とされており、繊維の配向が周方向とされている。これにより、周方向の強度が向上し、ブラケットへの圧入力を大きくすることができる。したがって、ブラケットと外筒を係合させたり、表面を粗して摩擦係数を高くしたりすることなく、簡易に外筒の抜けを抑制することができる。
【0011】
ここで、「繊維が周方向に配向する」とは、繊維の多くが周方向、または、周方向に沿った方向に配置されていることを意味し、周方向と異なる方向に配置された繊維を有する場合を含んでいる。すなわち、全ての繊維の向きが完全に周方向であるとの意味ではない。
【0012】
本発明の請求項2に係る防振装置は、前記外筒が、射出成形用の樹脂注入口が1点であること、を特徴とする。
【0013】
このように、樹脂注入口を1点とすることにより、周方向に並んだ複数点とした場合と比較して、繊維を周方向に配向させることができる。
【0014】
本発明の請求項3に係る防振装置は、前記外筒が、射出成形用の樹脂注入口が筒軸方向に並んだ複数点であること、を特徴とする。
【0015】
このように、樹脂注入口を筒軸方向に並んだ複数点とすることにより、周方向に並んだ複数点とした場合と比較して繊維を周方向に配向させることができる。
【0016】
本発明の請求項4に係る防振装置は、前記樹脂注入口が、前記外筒の内側に形成されていること、を特徴とする。
【0017】
このように、外筒の内側に樹脂注入口が形成されていれば、ブラケットへの圧入の際に樹脂注入口が引っ掛かったりするなどの障害がなく、スムーズに圧入することができる。
【0018】
本発明の請求項5に係る防振装置の製造方法は、請求項1に記載の防振装置の製造方法であって、前記外筒を射出成形する際に、1点の樹脂注入口のみから樹脂を注入すること、を特徴とする。
【0019】
このように、外筒を射出成形するときの樹脂注入口を1点とすることにより、樹脂注入口を周方向に並んだ複数点とした場合と比較して、繊維を周方向に配向させることができる。
【0020】
本発明の請求項6に係る防振装置の製造方法は、請求項1に記載の防振装置の製造方法であって、前記外筒を射出成形する際に、筒軸方向に並んだ複数点の樹脂注入口から樹脂を注入すること、を特徴とする。
【0021】
このように、外筒を射出成形するときの樹脂注入口を筒軸方向に並んだ複数点とすることにより、樹脂注入口を周方向に並んだ複数点とした場合と比較して、繊維を周方向に配向させることができる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように本発明によれば、簡易な構成でブラケットと外筒との締結力を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態に係る防振装置の構成を示す分解斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る防振装置の軸方向からみた断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る防振装置の側面図である。
【図4】本発明の実施形態の外筒の(A)は側断面図であり、(B)は展開図である。
【図5】本発明の実施形態の外筒を射出成形する際のモールドの(A)は側断面図であり、(B)は軸方向からみた断面図である。
【図6】本発明の実施形態の変形例に係る外筒の(A)は側断面図であり、(B)は展開図である。
【図7】本発明の実施形態の変形例に係る外筒の側断面図である。
【図8】樹脂注入口が周方向に複数形成された場合の、繊維の配向を示す外筒の展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態に係る防振装置、及び、防振装置の製造方法について図面を参照して説明する。
【0025】
図1〜3には本実施形態に係る防振装置10が示されている。防振装置10は、ブラケット12、外筒14、内筒16、及び、ゴム弾性体18を備えている。
【0026】
外筒14は、円筒部14A及びフランジ部14Bを備えている。円筒部14Aは円筒形状とされ、一定の厚みを有している。円筒部14Aの厚みは1mm〜4mm程度とされている。フランジ部14Bは、円筒部14Aの一端部の径方向外側に連続して構成されており、板リング形状とされている。
【0027】
外筒14は、繊維強化材入りの樹脂製とされている。樹脂としては、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレートなどを用いることができる。また、繊維強化材としては、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維、などを用いることができる。繊維強化材は、樹脂材に10〜60%程度で含有させることが好ましい。
【0028】
外筒14は、射出成形で形成されており、図4(A)に示すように、樹脂の注入部分である樹脂注入口14Hを有している。樹脂注入口14Hは、円筒部14Aの内側に1点のみ構成されている。
【0029】
外筒14の内周側には、軸方向Sに沿って筒状の内筒16が配置されている。内筒16の外周面と外筒14の内周面との間にはゴム弾性体18が配置され、ゴム弾性体18により内筒16と外筒14とが弾性的に連結されている。ゴム弾性体18は内周側が内筒16の外周面に加硫接着されると共に、外周側が外筒14の内周面に加硫接着されている。
【0030】
ブラケット12は、円筒状とされ、不図示の連結部により車両の振動発生部及び振動受部の一方に連結されている。外筒14は、ブラケット12内に圧入されている。内筒16には、連結軸(不図示)が挿通され、挿通された状態で内筒16は連結軸へ固定される。内筒16は、当該連結軸を介して、車両の振動発生部または振動受部の他方に連結されている。
【0031】
次に、外筒14の製造方法について説明する。
【0032】
まず、図5(A)に示すように、射出成形用の2分割された内モールド20、外モールド22を合わせてセットする。内モールド20には、樹脂射出流路20Aが構成されている。そして、樹脂射出流路20Aを通じて繊維強化材入りの樹脂材を注入する。
【0033】
ここで、樹脂注入は内周側の1点のみから行われており、樹脂材に混在されている繊維15は、樹脂材の流れる方向、主として周方向Rに向く。図4(B)には、外筒14を軸方向で切断して展開した図が示されている。繊維15は、樹脂注入口14Hの近傍では、樹脂注入口14Hを中心として放射状に向いているが、樹脂注入口14Hから離れるに連れて周方向Rに向き、樹脂注入口14Hと逆側では2方向からの流れが合わさって軸方向Sに向いている。このように、1点の樹脂注入口14Hのみから樹脂を注入することにより、繊維15の配向を周方向にすることができる。
【0034】
樹脂注入後に、所定時間をおいて、内モールド20、外モールド22を外して、外筒14を取り出す。
【0035】
次に、防振装置10の製造方法について説明する。
【0036】
まず、ゴム弾性体18の加硫成形用のモールド内(不図示)に、上記のようにして成形された外筒14と、この外筒14と同軸となるように内筒16をセットする。そして、ゴム材をモールド内に注入し、加硫する。加硫により、内筒16の外周面と外筒14の内周面に、ゴム弾性体18が接着される。
【0037】
外筒14、内筒16、及び、ゴム弾性体18のセットを、圧入用のプレス装置によりブラケット12の内周側へ圧入し、ブラケット12の内周面と外筒14の外周面との間の摩擦力等により固定する。
【0038】
本実施形態では、外筒14を構成する樹脂材に混入された繊維強化材の繊維15の配向が周方向Rとなっているので、繊維が軸方向に配向している場合と比較して外筒14の周方向の強度が高い。したがって、外筒14のブラケット12への圧入力を大きくして、抜けを防止することができる。
【0039】
また、本実施形態では、外筒14の内周側に樹脂注入口14Hが形成されていれるので、ブラケット12への圧入の際に樹脂注入口14Hが引っ掛かったりするなどの障害がなく、スムーズに圧入することができる。
【0040】
なお、本実施形態では、樹脂注入口14Hを1点のみとした例について説明したが、樹脂注入口14Hは、図6(A)に示すように、外筒14の軸方向Sに並ぶ複数点(図6では3点)としてもよい。樹脂注入口14Hが軸方向Sに1列に並ぶようにすることで、樹脂注入の際の樹脂の流れを周方向Rとすることができ、繊維15を周方向Rに配向させることができる(図6(B)参照)。この場合にも、樹脂注入口14Hは、外筒14の内側に形成することが好ましい。
【0041】
また、本実施形態では、外筒14の内周側から樹脂材を注入した例について説明したが、樹脂材の注入は、外筒14の外周側から行ってもよい。この場合には、図7に示すように、少なくとも樹脂注入口14H部分が凹状となる凹部14Dを構成することが好ましい。凹部14Dを構成することにより、ブラケット12への圧入時に、樹脂注入口14Hがブラケット12に接触することを防止することができる。
なお、凹部14Dは、樹脂注入口14H部分のみに構成しても、外筒14の全周に構成してもよい。
【0042】
また、樹脂注入口Hを周方向に複数設けた射出成形により外筒114を製造した場合には、図8に示すように(図8では樹脂注入口Hは6個)、繊維強化材の繊維115は、軸方向Sに配向されることとなり、本実施形態の繊維15と異なる配向となる。
【符号の説明】
【0043】
10 防振装置
12 ブラケット
14 外筒
14H 樹脂注入口
15 繊維
16 内筒
18 ゴム弾性体
R 周方向
S 軸方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動発生部および振動受部の一方に連結される筒状のブラケットと、
円筒状とされて前記ブラケットの筒内に圧入され、繊維補強材を含んだ樹脂製とされて繊維が周方向に配向する外筒と、
前記外筒の内周側に配置されると共に振動発生部および振動受部の他方に連結される内筒と、
前記外筒の内周面と前記内筒の外周面との間に配置され、前記外筒と前記内筒とを互いに連結する弾性体と、
を備えた防振装置。
【請求項2】
前記外筒は、射出成形用の樹脂注入口が1点であること、を特徴とする請求項1に記載の防振装置。
【請求項3】
前記外筒は、射出成形用の樹脂注入口が筒軸方向に並んだ複数点であること、を特徴とする請求項1に記載の防振装置。
【請求項4】
前記樹脂注入口は、前記外筒の内側に形成されていること、を特徴とする請求項2または請求項3に記載の防振装置。
【請求項5】
請求項1に記載の防振装置の製造方法であって、
前記外筒を射出成形する際に、1点の樹脂注入口のみから樹脂を注入すること、を特徴とする防振装置の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の防振装置の製造方法であって、
前記外筒を射出成形する際に、筒軸方向に並んだ複数点の樹脂注入口から樹脂を注入すること、を特徴とする防振装置の製造方法。
【請求項7】
前記樹脂注入口は、前記外筒の内側に形成されていること、を特徴とする請求項5または請求項6に記載の防振装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−210025(P2010−210025A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−57524(P2009−57524)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】