説明

難溶解性薬剤の溶解剤、乳化香料製剤及び飲料

【課題】従来溶解剤として使用されている中鎖脂肪酸トリグリセリドよりも難溶解性薬剤を高濃度に溶解できる溶解剤、並びに該溶解剤が配合された乳化香料製剤、医薬品、化粧品及び飲食品を提供する。
【解決手段】中鎖脂肪酸と多価アルコールとのエステルからなる、難溶解性薬剤の溶解剤であって、前記多価アルコールが、ポリグリセリン、糖アルコール及び糖アルコールの環状縮合物からなる群から選択される一種又は二種以上であり、水酸基価が100mgKOH/g以下であることを特徴とする難溶解性薬剤の溶解剤;かかる溶解剤が配合されたことを特徴とする乳化香料製剤、医薬品、化粧品又は食品;かかる乳化香料製剤が配合されたことを特徴とする飲料;かかる溶解剤と、難溶解性薬剤として植物性ステロール、コエンザイムQ10又はαリポ酸が配合されたことを特徴とする化粧品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品、化粧品又は飲食品等の分野において利用でき、難溶解性薬剤を油系組成物又は乳化組成物として安定して保持できる溶解剤、並びに該溶解剤が配合された乳化香料製剤、医薬品、化粧品及び飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、医薬品、化粧品、飲食品等の分野において、水への溶解性が低い化合物は、油脂等に溶解させた上で、油系組成物又は乳化組成物として利用されている。そしてその際には、通常の植物性油脂よりも溶解性が高い中鎖脂肪酸トリグリセリドが広く使用されている。ここで中鎖脂肪酸トリグリセリドは、その分子構造に水酸基がほとんど残っていない、極性の低いトリエステル体の油剤である。また、溶解性の低い薬剤等を溶解剤に溶解させる時には、中鎖脂肪酸トリグリセリド以外に、さらに活性剤としてグリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、ショ糖、ソルビタン、1,3−ブチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール等の多価アルコールの脂肪酸部分エステルが使用されている(特許文献1参照)。これらは、その分子構造に水酸基を残しており、界面活性剤として機能する。例えば、ジグリセリン脂肪酸エステルとしては、ジグリセリンモノカプリレート、ジグリセリンモノラウレート、ジグリセリンモノオレエート等が使用されており(特許文献2及び3参照)、ソルビタン脂肪酸エステルとしては、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタントリステアレート、ソルビタンセスキオレエート等が使用され(特許文献4及び5参照)、それぞれ溶解剤組成物として利用されている。
【0003】
一方、飲料(アルコール飲料を含む)の製造に際しては、その嗜好性を高めるために香料が使用されている。しかし、香料は油溶性成分からなるため、水溶性材料からなる飲料中にそのままの形態では含有させることができない。そこで通常は、あらかじめ香料を中鎖脂肪酸トリグリセリドに溶解し、これを乳化して乳化香料製剤としたものを、水溶性材料へ添加している。
また、結晶性が高く水に溶け難い薬剤を飲料に配合する際にも、あらかじめ薬剤を植物性油脂や中鎖脂肪酸トリグリセリドに溶解して利用している。
【0004】
しかし、香料や結晶性が高い薬剤等は、中鎖脂肪酸トリグリセリドへの溶解性が十分ではないので配合量を多くすることができず、このような香料や薬剤の溶解性が高い溶解剤が求められている。また、中鎖脂肪酸トリグリセリドの比重は約0.95であって、水の比重との差が大きいため、乳化香料製剤として飲料へ添加した際には、保存中にいわゆるオイルオフやネックリング(飲料の保存時に、液面に浮遊した物質がビンの首の壁面にリング状に付着する現象)を生ずることがある。このような現象を解消又は低減するために、通常はショ糖酢酸イソ酪酸エステル(以下、SAIBと略記することがある)を比重調整剤として添加して、香料を溶解した油溶性成分の比重を、水溶性材料の比重よりも0.015〜0.020程度小さくなるように調整した後、乳化香料製剤として水溶性材料に添加して飲料とする方法が採用されている。
SAIBは、酢酸及びイソ酪酸が約2:6の比でエステル結合したショ糖であり、わずかな黄色と酢酸臭を有し、25℃における比重は1.146と大きく、比重調整剤として使用される。また、20℃における屈折率が1.4541であり、25℃における水の屈折率1.3301と比較して大きく、水溶液に適度な混濁を与え、飲料の見た目の美味しさを引き出すことができるので、良好な混濁剤としても使用される(非特許文献2参照)。
これに対し、SAIBは、室温において約20000Pa・sという非常に高い粘度を有するため、ハンドリングが悪く、純粋な形で使用することが困難である。そのため、使用に当たっては、(1)60℃以上の高温に加熱して流動性を得る、(2)エタノールを添加して流動性を得る、(3)テルペン油を添加して流動性を得る等の手段が必要である。
【特許文献1】特開平5−178763号公報
【特許文献2】特開2001−299240号公報
【特許文献3】特開昭63−237743号公報
【特許文献4】特開2005−008599号公報
【特許文献5】特開2000−262213号公報
【非特許文献1】日高徹、「食品用乳化剤 第2版」幸書房、1991年、25,26,91ページ
【非特許文献2】Eastman社ホームページ(http://www.eastman.com)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、水への溶解性が低い難溶解性薬剤を溶解させるために種々の手法が提案されている。
しかし、中鎖脂肪酸トリグリセリドと活性剤とを併用する場合には、該活性剤中の水酸基が苦味等の呈味の原因となり、経口用途、特に飲食品用途において、風味に悪影響を与える恐れがあるという問題点があった。
また、SAIBを使用する場合、例えば(1)については、通常、香料が容易に揮発する性質を有することを考慮すると、60℃以上に加熱したSAIBへの香料の混合は非常に困難である。また、αリポ酸等の高温で変質し易い薬剤を溶解するのにも不向きである。(2)については、非アルコール系飲料での使用には不向きである。(3)については、テルペン油が酸化され易いことに加え、強い芳香を有するために、系統の違う香料を使用する場合には利用できない。このように、SAIBの使用時には種々の問題点があった。
さらに、SAIB、香料、水及び乳化剤を混合して得られた乳化香料製剤を使用する場合には、SAIBが沈殿することがある。このため、中鎖脂肪酸トリグリセリドを用いてSAIBに流動性を与え、沈殿が起こり難いようにする必要がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みて為されたものであり、従来溶解剤として使用されている中鎖脂肪酸トリグリセリドよりも難溶解性薬剤を高濃度に溶解できる溶解剤、並びに該溶解剤が配合された乳化香料製剤、医薬品、化粧品及び飲食品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ジグリセリン、ソルビトール又はソルビタンと中鎖脂肪酸とをエステル化して得られる特定の化合物を使用することで上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、前記課題を解決するため、
本発明の第1の発明は、中鎖脂肪酸と多価アルコールとのエステルからなる、難溶解性薬剤の溶解剤であって、前記多価アルコールが、ポリグリセリン、糖アルコール及び糖アルコールの環状縮合物からなる群から選択される一種又は二種以上であり、水酸基価が100mgKOH/g以下であることを特徴とする難溶解性薬剤の溶解剤である。
本発明の第2の発明は、前記多価アルコールが、ジグリセリン、ソルビトール及びソルビタンからなる群から選択される一種又は二種以上であり、前記水酸基価が50mgKOH/g以下であることを特徴とする第1の発明に記載の難溶解性薬剤の溶解剤である。
本発明の第3の発明は、前記中鎖脂肪酸がオクタン酸であることを特徴とする第1又は第2の発明に記載の難溶解性薬剤の溶解剤である。
本発明の第4の発明は、前記難溶解性薬剤が、マルトール、バニリン、植物性ステロール、コエンザイムQ10及びαリポ酸からなる群から選択される一種又は二種以上であることを特徴とする第1〜第3の発明のいずれか一つに記載の難溶解性薬剤の溶解剤である。
本発明の第5の発明は、前記難溶解性薬剤が香料であることを特徴とする第1〜第3の発明のいずれか一つに記載の難溶解性薬剤の溶解剤である。
本発明の第6の発明は、前記香料がマルトール又はバニリンであることを特徴とする第5の発明に記載の難溶解性薬剤の溶解剤である。
本発明の第7の発明は、前記難溶解性薬剤が、薬理効果を有する物質又はその粗製物であることを特徴とする第1〜第3の発明のいずれか一つに記載の難溶解性薬剤の溶解剤である。
本発明の第8の発明は、前記薬理効果を有する物質が、植物性ステロール、コエンザイムQ10又はαリポ酸であることを特徴とする第7の発明に記載の難溶解性薬剤の溶解剤である。
本発明の第9の発明は、医薬品、化粧品又は飲食品用であることを特徴とする第1〜第8の発明のいずれか一つに記載の難溶解性薬剤の溶解剤である。
本発明の第10の発明は、香料、水及び乳化剤を含有する混合物用であることを特徴とする第1〜第8の発明のいずれか一つに記載の難溶解性薬剤の溶解剤である。
本発明の第11の発明は、前記水酸基価が5mgKOH/g以下であることを特徴とする第1〜第10の発明のいずれか一つに記載の難溶解性薬剤の溶解剤である。
本発明の第12の発明は、前記水酸基価が0〜1mgKOH/gであることを特徴とする第11の発明に記載の難溶解性薬剤の溶解剤である。
本発明の第13の発明は、比重が0.95〜1.03であることを特徴とする第1〜第12の発明のいずれか一つに記載の難溶解性薬剤の溶解剤である。
本発明の第14の発明は、屈折率が1.45〜1.46であることを特徴とする第1〜第13の発明のいずれか一つに記載の難溶解性薬剤の溶解剤である。
【0009】
本発明の第15の発明は、第1〜第14の発明のいずれか一つに記載の難溶解性薬剤の溶解剤が配合されたことを特徴とする乳化香料製剤である。
本発明の第16の発明は、さらにショ糖酢酸イソ酪酸エステルが配合されたことを特徴とする第15の発明に記載の乳化香料製剤である。
【0010】
本発明の第17の発明は、第15又は第16の発明に記載の乳化香料製剤が配合されたことを特徴とする飲料である。
【0011】
本発明の第18の発明は、難溶解性薬剤として植物性ステロール、コエンザイムQ10又はαリポ酸が配合され、さらに第1〜第14の発明のいずれか一つに記載の難溶解性薬剤の溶解剤が配合されたことを特徴とする化粧品である。
【0012】
本発明の第19の発明は、第1〜第14の発明のいずれか一つに記載の難溶解性薬剤の溶解剤が配合されたことを特徴とする医薬品、化粧品又は食品である。
【発明の効果】
【0013】
従来よりも難溶解性薬剤を高濃度に溶解した乳化香料製剤、医薬品、化粧品及び飲食品等を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について詳しく説明する。
<溶解剤>
まず、本発明の難溶解性薬剤の溶解剤について説明する。
本発明の難溶解性薬剤の溶解剤(以下、溶解剤と略記する)は、中鎖脂肪酸と多価アルコールとのエステルからなり、前記多価アルコールが、ポリグリセリン、糖アルコール及び糖アルコールの環状縮合物からなる群から選択される一種又は二種以上であり、水酸基価が100mgKOH/g以下であることを特徴とする。
【0015】
難溶解性薬剤とは、水に対する溶解度が低い成分やこのような成分を含有する組成物全般を指す。そして具体的には、医薬品、化粧品又は飲食品に含有される成分が例示でき、好ましいものとして、薬理効果を有する物質、香料又はこれらの粗製物が例示できる。そしてこれらの中でも、経口用途のものがより好ましい。
【0016】
薬理効果を有する物質としては、機能性食品、健康飲料、化粧品等への配合成分や、医薬品の有効成分が例示できる。より具体的には、天然物由来の水溶性抽出液に含有される物質、天然物由来の油溶性抽出液に含有される物質、植物性ステロール、コエンザイムQ10、αリポ酸、ビタミンA、ビタミンB類、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、パンテトン酸、ナイアシン、葉酸、ビオチン、ミネラル類、リコピン、カロテン、アスタキサンチン、ゼアキサンチン、クリプトキサンチン、ルテイン、トコトリエノール、酢酸トコフェロール、アスコルビン酸パルミテート、アミノ酸、エイコサンペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、アラキドン酸、共役リノール酸、脂肪酸、オリゴ糖、カルニチン、クエン酸、有機酸、コラーゲン、コンドロイチン、乳清タンパク質、大豆タンパク質、ヒアルロン酸、ペプチド類、ポリフェノール、ムコ多糖、植物性ステロールエステル、ラクトフェリン、リン脂質、キチン、キトサン、γ−アミノ酪酸(GABA)、松樹脂エキス、フコイダン、フラボノイド、ペクチン、セラミド、ヘスペリジン、カテキン、セサミン、ケルセチン、イソフラボン、クルクミン、スルアラン、スクアレンフィチン酸、アントシアニン、イヌリン、糖類、糖アルコール、グルタチオン、SOD様物質(抗酸化物質)、高級アルコール、カゼインホスホペプチド、核酸、カプサイシン、グルコサミン、サポニン、サンショオール、スルフォラファン、シトラール、タウリン、ナスニン、プロタミン、白金ナノコロイド、ムチン、ヤラピン、クロロフィル、リグニン、澱粉、加工澱粉、カフェイン、ヒノキチオール、アルブチン、コウジ酸、ハイドロキノン、酵素類、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール及び没食子酸エステル類;紫外線吸収剤;これらの薬学的に許容しうる塩、配糖体又は誘導体が例示できる。これらの中でも特に好ましいものとして、植物性ステロール、コエンザイムQ10又はαリポ酸が例示できる。
【0017】
香料は、天然香料、合成香料及びこれらの混合物である調合香料のいずれでも良く、目的に応じて適宜選択できる。
天然香料は植物由来のもの、動物由来のもの等いずれでも良く特に限定されないが、特に好ましいものとしては、マルトール又はバニリンが例示できる。また、その他にも植物由来の天然香料として、柑橘類から抽出された柑橘油が好適である。柑橘油としては、ミカン油、オレンジ油、レモン油、グレープフルーツ油、ライム油、ユズ油、夏ミカン油が例示できる。また、これら柑橘油に含有されるテルペンの一部又は全部を除去したものでも良い。
合成香料も特に限定されず、いずれも使用できる。
そして、調合香料における香料の組み合わせ及び比率も特に限定されない。
【0018】
本発明の溶解剤に溶解されるこれら難溶解性薬剤は、一種でも良いし、二種以上でも良い。二種以上である場合には、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択し得る。なかでも難溶解性薬剤は、マルトール、バニリン、植物性ステロール、コエンザイムQ10及びαリポ酸からなる群から選択される一種又は二種以上が特に好ましい。
このように本発明の溶解剤は、医薬品、化粧品又は飲食品用に好適である。
【0019】
前記中鎖脂肪酸としては、直鎖状の脂肪酸が好ましく、炭素数が6〜10の脂肪酸が好ましい。そして、安定性に優れることから、飽和脂肪酸が特に好ましい。このような好ましい脂肪酸としては、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸及びデカン酸が例示できる。
そして中鎖脂肪酸は、目的に応じて適宜選択すれば良く、例えば、溶解剤を経口用途で使用する場合には、食品用途に適したものであれば良い。このようなものとして、具体的には、ヘキサン酸、オクタン酸及びデカン酸が例示でき、オクタン酸が特に好ましい。
中鎖脂肪酸は一種単独でも良いし、二種以上でも良い。二種以上である場合には、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択し得る。
【0020】
前記多価アルコールは、ポリグリセリン、糖アルコール又は糖アルコールの環状縮合物である。ここで糖アルコールとは、糖のアルデヒド基及びケトン基を還元して、それぞれ一級水酸基、二級水酸基としたものに相当する多価アルコールを指す。
ポリグリセリンとしては、重合度が2〜10のものが好ましく、2〜5のものがより好ましく、ジグリセリンが特に好ましい。
糖アルコールとしては、エリスリトール、ラクチトール、マルチトール、マンニトール、ソルビトール及びキシリトールが例示でき、なかでもソルビトールが特に好ましい。
糖アルコールの環状縮合物としては、前記糖アルコールが分子内で脱水縮合した環状縮合物や、前記糖アルコールの複数の分子が分子間で環構造を形成するように脱水縮合した環状縮合物が例示できる。なかでも、分子内で脱水縮合した環状縮合物が好ましく、ソルビタンが特に好ましい。
多価アルコールは一種単独でも良いし、二種以上でも良い。二種以上である場合には、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択し得る。
【0021】
本発明の溶解剤の水酸基価は、100mgKOH/g以下であり、50mgKOH/g以下であることが好ましく、35mgKOH/g以下であることがより好ましく、5mgKOH/g以下であることが特に好ましく、0〜1mgKOH/gであることが最も好ましい。溶解剤の分子構造中に水酸基が多いほど、溶解剤が異味、特に苦味を呈する傾向にあるので、溶解剤を飲食品等の経口用途に使用する場合には、例えば、その配合量を多くできるよう、水酸基価は小さいほど好ましい。水酸基価が0〜1mgKOH/gであると、苦味はほとんど感じられない。そして、水酸基価が上記のように好ましい範囲のものは、常温における溶解剤の析出も概ね抑制される。
【0022】
本発明の溶解剤のヨウ素価は、「基準油脂分析試験法3.3.3−1996」に準拠した試験法による試験値で、3g(I)/100g以下であることが好ましく、1g(I)/100g以下であることがより好ましく、0.5g(I)/100g以下であることが特に好ましい。ヨウ素価がこのような範囲である溶解剤は、変質が抑制され、極めて安定性に優れる。溶解剤のヨウ素価をこのように低い値に調整するためには、ヨウ素化が低い中鎖脂肪酸、特に飽和脂肪酸を使用すれば良い。
【0023】
本発明の溶解剤は、これを構成する中鎖脂肪酸と多価アルコールの比率を変えることで、水酸基価を適宜調整できる。また、中鎖脂肪酸と多価アルコールの種類や比率を変えることで、比重や屈折率を適宜調整できる。
【0024】
本発明の溶解剤であるエステルを構成する中鎖脂肪酸と多価アルコールの組み合わせは特に限定されるものではないが、例えば、下記の組み合わせとすることにより、従来溶解剤として使用されてきた中鎖脂肪酸トリグリセリドと比べ、特定の難溶解性薬剤に対して特に溶解性にすぐれた溶解剤となる。
具体的には、ポリグリセリンとオクタン酸、好ましくはジグリセリンとオクタン酸とのエステルであって、水酸基価が100mgKOH/g以下、好ましくは50mgKOH/g以下の溶解剤は、特にバニリン及びαリポ酸の溶解性に優れる。
また、糖アルコールとオクタン酸、好ましくはソルビトールとオクタン酸とのエステルであって、水酸基価が100mgKOH/g以下、好ましくは50mgKOH/g以下の溶解剤は、特にマルトール、バニリン、植物性ステロール、及びαリポ酸の溶解性に優れる。
また、糖アルコールの環状縮合物とオクタン酸、好ましくはソルビタンとオクタン酸とのエステルであって、水酸基価が100mgKOH/g以下、好ましくは50mgKOH/g以下の溶解剤は、特にマルトール、バニリン、及びαリポ酸の溶解性に優れ、さらに同様のエステルで水酸基価が35mgKOH/g以下の溶解剤は、特にマルトール、バニリン、コエンザイムQ10及びαリポ酸の溶解性に優れる。
【0025】
<比重調整剤>
飲料は、例えば、溶解剤に薬剤や香料等を溶解して得られた油相の比重を調整した後、これに水及び乳化剤、さらに必要に応じて乳化安定剤を添加して乳化香料製剤を調製し、この乳化香料製剤を水溶性材料に添加することで製造される。
そして、本発明の溶解剤は、乳化香料製剤の比重を水の比重に近い値に調整する、飲料用の比重調整剤として使用することもできる。このような目的においては、溶解剤の比重は、0.95〜1.03であることが好ましい。
【0026】
<クラウディー>
飲料には嗜好性の高い混濁の付与が要求されることがある。そして、飲料の混濁の程度は、その構成成分である水と油性成分との屈折率の差に依存しており、通常、その差が大きいほど顕著な混濁が得られる傾向にある。
そして、本発明の溶解剤は、飲料に混濁を付与するクラウディーとして使用することもできる。このような目的においては、溶解剤の屈折率は、SAIBと同等以上であることが好ましく、25℃において1.45〜1.46であることが好ましい。このような屈折率を有することで、飲料に嗜好性の高い好適な懸濁を付与できる。
【0027】
本発明の溶解剤は、難溶解性薬剤の溶解性に優れ、ほとんど無味無臭とすることができ、医薬品、化粧品又は飲食品等にこれらの風味を損ねることなく、油系組成物又は乳化組成物として難溶解性薬剤を多く配合するのに好適である。また、飲料に配合する乳化香料製剤の比重調整や、飲料への混濁の付与も容易に行うことができる。
【0028】
<溶解剤の製造方法>
次に、本発明の溶解剤の製造方法について説明する。
本発明の溶解剤は、例えば、前記中鎖脂肪酸、前記多価アルコール、及び必要に応じて触媒を混合した後、エステル化反応を行い、反応終了後、適宜必要に応じて、触媒の除去、脱酸、脱色及び脱臭等の後処理を行うことにより製造できる。また、得られた溶解剤をさらに、洗浄、抽出、各種クロマトグラフィー等により精製しても良い。
エステル化反応は、公知の手法を適用すれば良い。例えば、使用する原料の一部が加熱条件下で液状であれば、反応溶媒を使用せずに反応を行っても良い。また、エステル化反応の進行に伴い水が副生するが、これは生成したエステル結合を加水分解する原因となるので、溶解剤の収率を向上させるために、エステル化反応は水を留去しながら行なうのが好ましく、窒素等の不活性ガスを吹き込みながら行うのが好ましい。未反応の中鎖脂肪酸は、例えば、加熱撹拌下、減圧留去することで溶解剤から分離できる。この時、水蒸気を吹き込みながら減圧することで、効率良く中鎖脂肪酸を留去できる。
また、エステル化反応の進度は、反応液をサンプリングして水酸基価を測定することで確認できる。
【0029】
反応条件は、使用する中鎖脂肪酸及び多価アルコールの種類等に応じて適宜調整すれば良い。例えば、中鎖脂肪酸として、ヘキサン酸、オクタン酸又はデカン酸を、多価アルコールとして、ジグリセリン、ソルビトール又はソルビタンを使用する場合には、反応温度は160〜230℃が好ましく、180〜220℃がより好ましく、190〜210℃が特に好ましい。反応時間は、3〜60時間が好ましく、4〜50時間がより好ましく、5〜40時間が特に好ましい。また、活性炭を触媒量添加して反応を行うのが好ましい。活性炭によって、エステル化反応が促進されると共に、生成した溶解剤を脱臭、脱色することができる。活性炭は、ろ過により容易に除去できる。
【0030】
<乳化香料製剤>
次に、本発明の乳化香料製剤について説明する。
本発明の乳化香料製剤は、上記本発明の溶解剤が配合されたことを特徴とする。具体的には、香料、水、乳化剤及び上記本発明の溶解剤が配合されたものが例示できる。そして、溶解剤が上記のように比重調整能を有するものであれば、該溶解剤を配合することで乳化香料製剤を比重調整することもできるし、溶解剤の比重調整能の有無によらず、別途、公知の比重調整剤を配合して乳化香料製剤としても良い。
本発明の乳化香料製剤は、医薬品、化粧品及び飲食品のいずれにも配合できるが、特に飲料への配合に好適である。
【0031】
乳化香料製剤中の本発明の溶解剤の配合量は特に限定されないが、乳化香料製剤全量に対して1〜50質量%であることが好ましい。
【0032】
また、乳化香料製剤に本発明の溶解剤を比重調整剤も兼ねて配合する場合には、乳化香料製剤中の比重調整剤全量に占める溶解剤の比率は、10〜100質量%であることが好ましい。ここで溶解剤の比率が100質量%であるとは、乳化香料製剤に比重調整剤として本発明の溶解剤のみを配合することを意味する。
また、溶解剤をその他の比重調整剤と併用する時には、併用する比重調整剤がSAIB等の流動性が低いものである場合、その流動性を改善することもできる。比重調整剤全量に占める溶解剤の比率が上記範囲内であれば、優れた流動性改善効果が得られるし、溶解剤の比率を高くするほど、より優れた流動性が得られる。
【0033】
乳化香料製剤に配合される公知の比重調整剤は特に限定されず、目的に応じて適宜選択し得る。例えば、大豆油、菜種油、とうもろこし油、紅花油、やし油、パーム油、パーム核油、オリーブ油、綿実油、ゴマ油、アマニ油、米油、米ぬか油、落花生油、カカオ脂、月見草油、ひまし油、トール油、牛脂、豚脂、魚油、鯨油、海獣油、トリアセチン、中鎖脂肪酸トリグリセリド、SAIB、エステル合成油、エステル交換油が例示できる。
本発明の溶解剤を配合することで、従来、使用が困難であった比重調整剤の配合も容易となる。
【0034】
また、比重調整剤の配合量も特に限定されないが、乳化香料製剤全量に対して0.5〜25質量%であることが好ましい。ここで、比重調整剤の配合量とは、本発明の溶解剤を比重調整剤としても使用する場合には、溶解剤とその他の比重調整剤との合計の配合量を指す。
【0035】
乳化香料製剤に配合される香料としては、上記の難溶解性薬剤の香料と同様のもので良く、従来使用されている香料のいずれでも良い。より具体的には、炭化水素類、アルコール類、フェノール類、エステル類、アルデヒド類、ケトン類、アセタール類、エーテル類、ニトリル類、カルボン酸類、ラクトン類、その他の天然精油や天然抽出物が例示できる。
【0036】
香料である前記炭化水素類としては、リモネン、α−ピネン、β−ピネン、テルピネン、セドレン、ロンギフォレン、バレンセンが例示できる。
香料である前記アルコール類としては、リナロール、シトロネロール、ゲラニオール、ネロール、テルピネオール、ジヒドロミルセノール、エチルリナロール、ファルネソール、ネロリドール、シス−3−ヘキセノール、セドロール、メントール、ボルネオール、フェニルエチルアルコール、ベンジルアルコール、ジメチルベンジルカルビノール、フェニルエチルジメチルカルビノール、フェニルヘキサノール、2,2,6−トリメチルシクロヘキシル−3−ヘキサノール、1−(2−t−ブチルシクロヘキシルオキシ)−2−ブタノールが例示できる。
香料である前記フェノール類としては、バニリン、グアヤコール、オイゲノール、イソオイゲノール、チモールが例示できる。
【0037】
香料である前記エステル類としては、ギ酸エステル、酢酸エステル、プロピオン酸エステル、酪酸エステル、ノネン酸エステル、安息香酸エステル、桂皮酸エステル、サリチル酸エステル、ブラシル酸エステル、チグリン酸エステル、ジャスモン酸エステル、グリシド酸エステル、アントラニル酸エステル等が例示できる。
【0038】
ここで、前記ギ酸エステルとしては、リナリルホルメート、シトロネリルホルメート、ゲラニルホルメートが例示できる。
前記酢酸エステルとしては、n−ヘキシルアセテート、シス−3−ヘキセニルアセテート、リナリルアセテート、シトロネリルアセテート、ゲラニルアセテート、ネリルアセテート、テルピニルアセテート、ノピルアセテート、ボルニルアセテート、イソボルニルアセテート、o−t−ブチルシクロヘキシルアセテート、p−t−ブチルシクロヘキシルアセテート、トリシクロデセニルアセテート、ベンジルアセテート、スチラリルアセテート、シンナミルアセテート、ジメチルベンジルカルビニルアセテート、フェニルエチルフェニルアセテート、3−ペンチルテトラヒドロピラン−4−イルアセテートが例示できる。
前記プロピオン酸エステルとしては、シトロネリルプロピオネート、トリシクロデセニルプロピオネート、アリルシクロヘキシルプロピオネート、エチル2−シクロヘキシルプロピオネート、ベンジルプロピオネートが例示できる。
前記酪酸エステルとしては、シトロネリルブチレート、ジメチルベンジルカルビニルn−ブチレート、トリシクロデセニルイソブチレートが例示できる。
前記ノネン酸エステルとしては、メチル2−ノネノエート、エチル2−ノネノエート、エチル3−ノネノエートが例示できる。
安息香酸エステルとしては、メチルベンゾエート、ベンジルベンゾエート、3,6−ジメチルベンゾエートが例示できる。
桂皮酸エステルとしては、メチルシンナメート、ベンジルシンナメートが例示できる。
サリチル酸エステルとしては、メチルサリシレート、n−ヘキシルサリシレート、シス−3−ヘキセニルサリシレート、シクロヘキシルサリシレート、ベンジルサリシレートが例示できる。
ブラシル酸エステルとしては、エチレンブラシレートが例示できる。
チグリン酸エステルとしては、ゲラニルチグレート、1−ヘキシルチグレート、シス−3−ヘキセニルチグレートが例示できる。
ジャスモン酸エステルとしては、メチルジャスモネート、メチルジヒドロジャスモネートが例示できる。
グリシド酸エステルとしては、メチル2,4−ジヒドロキシ−エチルメチルフェニルグリシデート、4−メチルフェニルエチルグリシデートが例示できる。
アントラニル酸エステルとしては、メチルアントラニレート、エチルアントラニレート、ジメチルアントラニレートが例示できる。
【0039】
香料である前記アルデヒド類としては、n−オクタナール、n−デカナ−ル、n−ドデカナ−ル、2−メチルウンデカナール、10−ウンデセナール、シトロネラール、シトラール、ヒドロキシシトロネラール、ベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、フェニルプロピルアルデヒド、シンナミックアルデヒド、ジメチルテトラヒドロベンズアルデヒド、4(3)−(4−ヒドロキシ−4−メチルペンチル)−3−シクロヘキセン−1−カルボアルデヒド、2−シクロヘキシルプロパナール、p−t−ブチル−α−メチルヒドロシンナミックアルデヒド、p−イソプロピル−α−メチルヒドロシンナミックアルデヒド、p−エチル−α,α−ジメチルヒドロシンナミックアルデヒド、α−アミルシンナミックアルデヒド、α−ヘキシルシンナミックアルデヒド、ヘリオトロピン、α−メチル−3,4−メチレンジオキシヒドロシンナミックアルデヒドが例示できる。
【0040】
香料である前記ケトン類としては、マルトール、α−イオノン、β−イオノン、γ−イオノン、α−メチルイオノン、β−メチルイオノン、γ−メチルイオノン、メチルヘプテノン、4−メチレン−3,5,6,6−テトラメチル−2−ヘプタノン、アミルシクロペンタノン、3−メチル−2−(シス−2−ペンテン−1−イル)−2−シクロペンテン−1−オン、メチルシクロペンテノロン、ローズケトン、γ−メチルヨノン、α−ヨノン、カルボン、メントン、樟脳、アセチルセドレン、イソロンギフォラノン、ヌートカトン、ベンジルアセトン、アニシルアセトン、メチルβ−ナフチルケトン、2,5−ジメチル−4−ヒドロキシ−3(2H)−フラノン、ムスコン、シベトン、シクロペンタデカノン、シクロヘキサデセンが例示できる。
【0041】
香料である前記アセタール類としては、ホルムアルデヒドシクロドデシルエチルアセタール、アセトアルデヒドエチルフェニルプロピルアセタール、シトラールジエチルアセタール、フェニルアセトアルデヒドグリセリンアセタール、エチルアセトアセテートエチレングリコールアセタールが例示できる。
【0042】
香料である前記エーテル類としては、セドリルメチルエーテル、アネトール、β−ナフチルメチルエーテル、β−ナフチルエチルエーテル、リモネンオキサイド、ローズオキサイド、ネロールオキサイド、1,8−シネオール、ローズフラン、デカヒドロ−3a,6,6,9a−テトラメチルナフト[2.1−b]フランが例示できる。
【0043】
香料である前記ニトリル類としては、ゲラニルニトリル、シトロネリルニトリル、ドデカンニトリルが例示できる。
【0044】
香料である前記カルボン酸類としては、安息香酸、フェニル酢酸、桂皮酸、ヒドロ桂皮酸、酪酸、2−ヘキセン酸が例示できる。
【0045】
香料である前記ラクトン類としては、γ−デカラクトン、δ−デカラクトン、γ−バレロラクトン、γ−ノナラクトン、γ−ウンデカラクトン、δ−ヘキサラクトン、γ−ジャスモラクトン、ウイスキーラクトン、クマリン、シクロペンタデカノリド、シクロヘキサデカノリド、アンブレットリド、エチレンブラシレート、11−オキサヘキサデカノリド、ブチリデンフタリドが例示できる。
【0046】
香料である前記その他の天然精油や天然抽出物としては、オレンジ、レモン、ライム、ベルガモット、バニラ、マンダリン、ペパーミント、スペアミント、ラベンダー、カモミル、ローズマリー、ユーカリ、セージ、バジル、ローズ、ロックローズ、ゼラニウム、ジャスミン、イランイラン、アニス、クローブ、ジンジャー、ナツメグ、カルダモン、セダー、ヒノキ、ベチバー、パチュリ、レモングラス、ラブダナム等に由来する精油や抽出物が例示できる。
【0047】
本発明の溶解剤は、従来の中鎖脂肪酸トリグリセリドよりも難溶解性薬剤の溶解性に優れるので、これら香料を従来よりも多く乳化香料製剤に配合できる。そして、香料の配合量は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
【0048】
乳化香料製剤に配合される乳化剤は特に限定されず、通常使用される公知のもので良い。具体的には、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン、酵素処理レシチンが例示できる。そして、乳化剤の配合量は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
【0049】
また、乳化香料製剤には、本発明の効果を損なわない範囲内で適宜必要に応じて、その他の成分として如何なる成分を配合しても良い。ここでその他の成分としては、具体的には、乳化香料製剤に通常使用される乳化安定剤、天然色素類、脂溶性ビタミン類、多価アルコール類、酸味料、酸化防止剤が例示できる。乳化香料製剤へのこれらその他の成分の配合量は、目的に応じて適宜選択できる。
【0050】
前記乳化安定剤としては、デンプン、デンプン分解物、加工デンプン、デキストリン、グアーガム、キサンタンガム及びアラビアガムが例示できる。なかでもアラビアガムが特に好ましい。
前記天然色素類としては、β−カロチン、パプリカ色素、アナトー色素及びクロロフィルが例示できる。
前記脂溶性ビタミン類としては、肝油、ビタミンA、ビタミンA油、ビタミンB酪酸エステル及び天然ビタミンE混合物が例示できる。
前記多価アルコール類としては、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マルチトール、デキストリン、水飴、ショ糖、オリゴ糖、ぶどう糖、果糖、麦芽糖、乳糖及びトレハロースが例示できる。
前記酸味料としては、クエン酸及びクエン酸ナトリウムが例示できる。
前記酸化防止剤としては、ビタミンCが例示できる。
【0051】
本発明の溶解剤は、従来の中鎖脂肪酸トリグリセリドよりも香料の溶解性に優れ、比重調整剤としても使用できるので、安定した乳化香料製剤が得られる。
【0052】
<乳化香料製剤の製造方法>
次に、本発明の乳化香料製剤の製造方法について説明する。
本発明の乳化香料製剤は、例えば、香料を本発明の溶解剤に良く溶解させ、必要に応じてSAIB等の公知の比重調整剤を加えた後、適切な乳化剤及び水、並びに必要に応じて乳化安定剤やその他の成分を加え、ホモミキサー等を用いて強力に撹拌及び乳化することで製造できる。そして、撹拌及び乳化は、高圧ホモジナイザー等を用いることで、より均一に行うことができる。高圧ホモジナイザーは、液体中に他の液体粒子を細かく分散させて、均一なエマルジョンを得る装置であり、バネを利用した弁等を通じて、極めて狭い空間に50〜300kg/cm程度の高圧で混合液を噴出させることで、強い剪断作用により乳化する。
【0053】
<飲料>
次に、本発明の飲料について説明する。
本発明の飲料は、上記本発明の乳化香料製剤が配合されたことを特徴とする。
乳化香料製剤の飲料への配合量は、目的に応じて、また、所望の混濁及び香りの強さ等を考慮して適宜選択すれば良い。通常は、飲料全量に対して0.01〜0.5質量%であることが好ましく、0.05〜0.2質量%であることがより好ましい。
そして、本発明の飲料には、前記乳化香料製剤以外に、目的に応じて任意の成分を配合できる。
【0054】
本発明の飲料は、本発明の溶解剤により、香料を多く配合できるので、所望の風味に容易に調整できる。また、本発明の溶解剤により、乳化香料製剤の比重が水の比重に近い値に調整されるので、保存時のオイルオフやネックリングが抑制される。また、SAIB等の従来の比重調整剤の使用量低減又は使用回避が可能であり、流動性も改善できるので、製造時のハンドリングが改善される。特に高価なSAIBの使用量低減は、製造コストの低減にも有利である。さらに、本発明の溶解剤により、嗜好性の高い好適な懸濁が付与される。このように本発明の飲料は、所望の品質で安定して容易に製造できる。
【0055】
<飲料の製造方法>
次に、本発明の飲料の製造方法について説明する。
本発明の飲料は、乳化香料製剤として従来のものに代わり本発明のものを使用すること以外は、公知の手法で製造でき、例えば、乳化香料製剤を所望の水溶性材料と良く混合することで製造できる。ここで、乳化香料製剤は油溶性であり、水溶性のものとは混合し難いので、水溶性材料と混合する際には撹拌装置を使用するのが好ましい。撹拌装置としては撹拌効率の高いものが好ましく、上記の高圧ホモジナイザーが好適である。
【0056】
<化粧品及びその製造方法>
次に、本発明の化粧品及びその製造方法について説明する。
本発明の化粧品は、難溶解性薬剤として植物性ステロール、コエンザイムQ10又はαリポ酸が配合され、さらに上記本発明の難溶解性薬剤の溶解剤が配合されたことを特徴とする。本発明の溶解剤の配合量は特に限定されず、植物性ステロール、コエンザイムQ10又はαリポ酸の配合量等に応じて適宜調整すれば良い。そして、本発明の化粧品には、本発明の効果を損なわない範囲内で、目的に応じてその他の成分を配合できる。本発明の化粧品は、配合されている溶解剤が難溶解性薬剤の溶解性に優れるので、品質の安定したものである。
本発明の化粧品は、溶解剤として従来のものに代わり本発明のものを使用すること以外は、公知の手法で製造できる。そして、例えば、本発明の溶解剤を植物性ステロール、コエンザイムQ10又はαリポ酸と共に、水溶性材料と混合する際は、上記の乳化香料製剤や飲料の場合と同様に、高圧ホモジナイザー等、撹拌効率が高い撹拌装置を使用するのが好ましい。
【0057】
<医薬品、化粧品又は食品、及びこれらの製造方法>
本発明の医薬品、化粧品又は食品は、上記本発明の難溶解性薬剤の溶解剤が配合されたことを特徴とする。本発明の溶解剤の配合量は特に限定されず、目的に応じて適宜選択できる。そして、これら医薬品、化粧品又は食品は、本発明の効果を損なわない範囲内で、目的に応じて該溶解剤以外にその他の成分が配合されても良く、該溶解剤が難溶解性薬剤の溶解性に優れるので、品質の安定したものとなる。
本発明の医薬品、化粧品又は食品は、従来の溶解剤に代わり本発明の溶解剤を使用すること以外は、公知の手法で製造できる。
【実施例】
【0058】
以下、具体例を挙げて、本発明についてさらに詳しく説明するが、本発明はこれら具体例に何ら限定されるものではない。
<溶解剤の製造>
[試験例1]溶解剤Aの製造
市販のジグリセリン332.1g(20.8質量%)に、オクタン酸1267.9g(79.2質量%)を、四つ口フラスコ(容積2L)に充填し、活性炭を8.0g添加し、窒素気流下、200℃において加熱、撹拌し、Dean Stark水分離器を用いて、還流するオクタン酸と共に留出する水を分離しながら、28時間反応させた。
得られた反応混合物を冷却した後、減圧下(約20mmHg)、180℃において攪拌しながら1時間処理することによって未反応のオクタン酸を留去した。その後、水蒸気を吹き込みながら、減圧下(約3mmHg)、165℃において3時間処理することによってオクタン酸を完全に除去し、再び冷却した後、濾過によって活性炭を除去して、目的とするジグリセリンのオクタン酸エステルよりなる溶解剤Aを1279.7g得た(収率;約95%)。また、溶解剤Aのヨウ素価は、「基準油脂分析試験法3.3.3−1996」に準拠した試験法による試験値で、0.1g(I)/100g以下であり、ランシマット試験にて、溶解剤Aは大豆油よりも安定であることを確認した。
【0059】
[試験例2]溶解剤Bの製造
市販のソルビトール394.5g(24.6質量%)に、オクタン酸1205.8g(75.4質量%)を、四つ口フラスコ(容積2L)に充填し、活性炭を8.0g添加し、窒素気流下、200℃において加熱、撹拌し、Dean Stark水分離器を用いて、還流するオクタン酸と共に留出する水を分離しながら、39時間反応させた。
得られた反応混合物を冷却した後、減圧下(約20mmHg)、180℃において攪拌しながら1時間処理することによって未反応のオクタン酸を留去した。その後、水蒸気を吹き込みながら、減圧下(約3mmHg)、165℃において3時間処理することによってオクタン酸を完全に除去し、再び冷却した後、濾過によって活性炭を除去して、目的とするソルビタンのオクタン酸エステルよりなる溶解剤Bを1117.2g得た(収率;約97%)。
【0060】
[試験例3]溶解剤Cの製造
市販のソルビトール455.7g(28.5質量%)に、オクタン酸1144.3g(71.5質量%)を、四つ口フラスコ(容積2L)に充填し、活性炭を8.0g添加し、窒素気流下、200℃において加熱、撹拌し、Dean Stark水分離器を用いて、還流するオクタン酸と共に留出する水を分離しながら、22時間反応させた。
得られた反応混合物を冷却した後、減圧下(約20mmHg)、180℃において攪拌しながら1時間処理することによって未反応のオクタン酸を留去した。その後、水蒸気を吹き込みながら、減圧下(約3mmHg)、165℃において3時間処理することによってオクタン酸を完全に除去し、再び冷却した後、濾過によって活性炭を除去して、目的とするソルビタンのオクタン酸エステルよりなる溶解剤Cを得た。
【0061】
[試験例4]溶解剤Dの製造
市販のソルビタン332.8g(27.4質量%)に、オクタン酸871.5g(72.6質量%)を、四つ口フラスコ(容積2L)に充填し、活性炭を6.0g添加し、窒素気流下、200℃において加熱、撹拌し、Dean Stark水分離器を用いて、還流するオクタン酸と共に留出する水を分離しながら、22時間反応させた。
得られた反応混合物を冷却した後、減圧下(約20mmHg)、180℃において攪拌しながら1時間処理することによって未反応のオクタン酸を留去した。その後、水蒸気を吹き込みながら、減圧下(約3mmHg)、165℃において3時間処理することによってオクタン酸を完全に除去し、再び冷却した後、濾過によって活性炭を除去して、目的とするソルビタンのオクタン酸エステルよりなる溶解剤Dを737.0g得た(収率;約80%)。また、溶解剤Dのヨウ素価は、前記試験法による試験値で、0.1g(I)/100g以下であり、ランシマット試験にて、溶解剤Dは大豆油よりも安定であることを確認した。
【0062】
[試験例5]溶解剤Eの製造
市販のソルビタン542.4g(30.1質量%)に、オクタン酸1257.0g(69.9質量%)を、四つ口フラスコ(容積500mL)に充填し、活性炭を9.0g添加し、窒素気流下、200℃において加熱、撹拌し、Dean Stark水分離器を用いて、還流するオクタン酸と共に留出する水を分離しながら、12時間反応させた。
得られた反応混合物を冷却した後、減圧下(約20mmHg)、180℃において攪拌しながら30分間処理することによって未反応のオクタン酸を留去した。その後、水蒸気を吹き込みながら、減圧下(約3mmHg)、165℃において3時間処理することによってオクタン酸を完全に除去し、再び冷却した後、濾過によって活性炭を除去して、目的とするソルビタンのオクタン酸エステルよりなる溶解剤Eを1124.8g得た(収率;約76%)。
【0063】
[試験例6]溶解剤Fの製造
市販のソルビタン108.0g(30.8質量%)に、オクタン酸242.0g(69.2質量%)を、四つ口フラスコ(容積500mL)に充填し、活性炭を3.5g添加し、窒素気流下、200℃において加熱、撹拌し、Dean Stark水分離器を用いて、還流するオクタン酸と共に留出する水を分離しながら、6時間反応させた。
得られた反応混合物を冷却した後、減圧下(約20mmHg)、180℃において攪拌しながら30分間処理することによって未反応のオクタン酸を留去した。その後、水蒸気を吹き込みながら、減圧下(約3mmHg)、165℃において3時間処理することによってオクタン酸を完全に除去し、再び冷却した後、濾過によって活性炭を除去して、目的とするソルビタンのオクタン酸エステルよりなる溶解剤Fを205.0g得た(収率;約73%)。
【0064】
[試験例7]溶解剤Hの製造
市販のソルビトール394.4g(24.6質量%)に、オクタン酸1206.0g(75.4質量%)を、四つ口フラスコ(容積2L)に充填し、活性炭を8.0g添加し、窒素気流下、200℃において加熱、撹拌し、Dean Stark水分離器を用いて、還流するオクタン酸と共に留出する水を分離しながら、6時間反応させた。
得られた反応混合物の一部を冷却した後、減圧下(約20mmHg)、180℃において攪拌しながら30分間処理することによって未反応のオクタン酸を留去した。その後、水蒸気を吹き込みながら、減圧下(約3mmHg)、165℃において3時間処理することによってオクタン酸を完全に除去し、再び冷却した後、濾過によって活性炭を除去して、目的とするソルビタンのオクタン酸エステルよりなる溶解剤Gを174.0g得た。
【0065】
[試験例8]溶解剤Gの製造
溶解剤Hの反応混合物をさらに1時間反応し、得られた反応混合物を冷却した後、減圧下(約20mmHg)、180℃において攪拌しながら1時間処理することによって未反応のオクタン酸を留去した。その後、水蒸気を吹き込みながら、減圧下(約3mmHg)、165℃において3時間処理することによってオクタン酸を完全に除去し、再び冷却した後、濾過によって活性炭を除去して、目的とするソルビタンのオクタン酸エステルよりなる溶解剤Hを452.5g得た。
【0066】
<溶解剤の物性・特性の評価>
試験例1〜8の溶解剤A〜H、及び比較対象である中鎖脂肪酸トリグリセリド(O.D.O、日清オイリオグループ株式会社製)(試験例9)について、けん化価、水酸基価、比重及び屈折率を測定し、苦味に関する官能評価を行い、0℃における結晶析出の有無を確認した。結果を表1に示す。
【0067】
表1に示す酸価、けん化価、水酸基価、比重及び屈折率は、それぞれ下記の基準法に従って測定した。なお、表1中、符号「−」は、未測定であることを示す。
酸価:基準油脂分析試験法2.3.1−1996
けん化価:基準油脂分析試験法2.3.2.1−1996
水酸基価:基準油脂分析試験法2.3.6.2−1996
比重:基準油脂分析試験法2.2.2−1996
屈折率:基準油脂分析試験法2.2.3−1996
【0068】
また、表1に示す苦味に関する評価結果の符合は、下記の意味を有する。
○:ほとんど苦味を感じない
△:苦味を僅かに感じる
×:苦味を感じる
【0069】
また、0℃における結晶析出の有無は、溶解剤を0℃にて2週間静置することで行った。表1に示す確認結果の符合は、下記の意味を有する。
○:析出なし
×:析出あり
【0070】
【表1】

【0071】
表1に示すように、ジグリセリンとオクタン酸から得られた溶解剤については、苦味をほとんど感じなかった。また、ソルビトールとオクタン酸から得られた溶解剤については、水酸基価が35mgKOH/g以下であれば苦味をほとんど感じず、50mgKOH/g以下であれば苦味をほとんど感じないか又は軽度であり、60mgKOH/gを超えるものははっきりと苦味を感じた。一方、ソルビタンとオクタン酸から得られた溶解剤については、水酸基価が1mgKOH/g以下であれば苦味をほとんど感じず、水酸基価が20mgKOH/gを超えるものははっきりと苦味を感じた。そして、試験例1〜8の結果から、苦味をほとんど感じず析出も見られない溶解剤とするためには、水酸基価を5mgKOH/g以下にすれば良いことが確認された。
【0072】
溶解剤A、C、D及びF、並びに比較対象である前記中鎖脂肪酸トリグリセリドについて、難溶解性の薬剤の溶解性を確認した。具体的には、以下に示す難溶解性の薬剤(香料としてバニリン、マルトール;薬理効果を有する物質として植物性ステロール、αリポ酸、コエンザイムQ10)の所定量を、各溶解剤20gにそれぞれ添加して加熱することにより完全に溶解させ、次いで0℃の恒温層内にて2週間静置した。そして、2週間後に析出物が確認されないことをもって溶解していると判断し、その時の前記薬剤の濃度(質量%)を確認した。結果を表2に示す。なお、溶解剤Bは表1に示すように0℃にて析出するため、ここでは使用していない。
【0073】
【表2】

【0074】
表2に示すように、中鎖脂肪酸トリグリセリドと比較して、溶解剤Aはバニリン及びαリポ酸の溶解性に優れ、溶解剤Cはバニリン、マルトール、植物性ステロール及びαリポ酸の溶解性に優れ、溶解剤Dはバニリン、マルトール、αリポ酸及びコエンザイムQ10の溶解性に優れ、溶解剤Fはバニリン、マルトール及びαリポ酸の溶解性に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、医薬品、化粧品又は飲食品等に利用可能であり、特に乳化香料製剤による比重調整や嗜好性の高い混濁の付与が求められる飲料への利用に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中鎖脂肪酸と多価アルコールとのエステルからなる、難溶解性薬剤の溶解剤であって、
前記多価アルコールが、ポリグリセリン、糖アルコール及び糖アルコールの環状縮合物からなる群から選択される一種又は二種以上であり、
水酸基価が100mgKOH/g以下であることを特徴とする難溶解性薬剤の溶解剤。
【請求項2】
前記多価アルコールが、ジグリセリン、ソルビトール及びソルビタンからなる群から選択される一種又は二種以上であり、前記水酸基価が50mgKOH/g以下であることを特徴とする請求項1に記載の難溶解性薬剤の溶解剤。
【請求項3】
前記中鎖脂肪酸がオクタン酸であることを特徴とする請求項1又は2に記載の難溶解性薬剤の溶解剤。
【請求項4】
前記難溶解性薬剤が、マルトール、バニリン、植物性ステロール、コエンザイムQ10及びαリポ酸からなる群から選択される一種又は二種以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の難溶解性薬剤の溶解剤。
【請求項5】
前記難溶解性薬剤が香料であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の難溶解性薬剤の溶解剤。
【請求項6】
前記香料がマルトール又はバニリンであることを特徴とする請求項5に記載の難溶解性薬剤の溶解剤。
【請求項7】
前記難溶解性薬剤が、薬理効果を有する物質又はその粗製物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の難溶解性薬剤の溶解剤。
【請求項8】
前記薬理効果を有する物質が、植物性ステロール、コエンザイムQ10又はαリポ酸であることを特徴とする請求項7に記載の難溶解性薬剤の溶解剤。
【請求項9】
医薬品、化粧品又は飲食品用であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の難溶解性薬剤の溶解剤。
【請求項10】
香料、水及び乳化剤を含有する混合物用であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の難溶解性薬剤の溶解剤。
【請求項11】
前記水酸基価が5mgKOH/g以下であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の難溶解性薬剤の溶解剤。
【請求項12】
前記水酸基価が0〜1mgKOH/gであることを特徴とする請求項11に記載の難溶解性薬剤の溶解剤。
【請求項13】
比重が0.95〜1.03であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載の難溶解性薬剤の溶解剤。
【請求項14】
屈折率が1.45〜1.46であることを特徴とする請求項1〜13のいずれか一項に記載の難溶解性薬剤の溶解剤。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の難溶解性薬剤の溶解剤が配合されたことを特徴とする乳化香料製剤。
【請求項16】
さらにショ糖酢酸イソ酪酸エステルが配合されたことを特徴とする請求項15に記載の乳化香料製剤。
【請求項17】
請求項15又は16に記載の乳化香料製剤が配合されたことを特徴とする飲料。
【請求項18】
難溶解性薬剤として植物性ステロール、コエンザイムQ10又はαリポ酸が配合され、さらに請求項1〜14のいずれか一項に記載の難溶解性薬剤の溶解剤が配合されたことを特徴とする化粧品。
【請求項19】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の難溶解性薬剤の溶解剤が配合されたことを特徴とする医薬品、化粧品又は食品。

【公開番号】特開2009−120566(P2009−120566A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−297989(P2007−297989)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(000227009)日清オイリオグループ株式会社 (251)
【Fターム(参考)】