説明

雰囲気清浄化装置

【課題】被処理体へのパーティクルの付着を抑制できる雰囲気清浄化装置を提供すること。
【解決手段】ウエハWの位置する雰囲気にダウンフローを形成するFFU15と、ウエハWの位置する領域よりも上方位置に領域を挟んで対称に配置され、各々ダウンフローに対して正または負の一方に帯電した気体を供給する複数のイオナイザー5と、イオナイザー5の電極に印加されている電圧と同符号の直流電圧をウエハWに印加する電源とを備え、イオナイザー5同士を互いに向き合わせた。この結果パーティクルに対して適切な静電斥力を作用させることができるので、微細なパーティクルであってもウエハWへの付着を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体製造工場で使用される雰囲気清浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に半導体製造工場内のクリーンルームは、天井部に設けたファンフィルタユニット(FFU)を介して空気を供給すると共に床下に配置した吸い込みファンにより空気を吸い込むことにより、半導体ウエハやガラス基板などの基板が置かれる雰囲気に下降流(いわゆるダウンフロー)を形成している。またこのようなダウンフローの形成は、半導体製造装置における大気搬送雰囲気においても採用されている。
【0003】
このような手法によればFFUにより清浄化された空気が、基板が位置する雰囲気に供給され、また基板の搬送などに伴って雰囲気中において発生するパーティクルについても重力とダウンフローとに基づく慣性力により雰囲気の下方へと強制的に移動せしめられて雰囲気の外に排出され、こうして雰囲気の清浄化を維持するようにしている。そして基板の置かれる雰囲気の中でも特に大気搬送雰囲気では基板搬送機構の駆動部分から発塵しやすく、また基板の受け渡し時に基板の周縁に付着している薄膜が剥れてパーティクルを発生しやすいため、このようなパーティクル汚染防止対策は重要である。
【0004】
しかしながら、基板の配線パターンが緻密になるにつれてパーティクルの付着管理がより一層厳しくなってきている。即ちパターンの微細化に伴い、今まで許容されていた粒径のパーティクルも問題になってきており、このため付着防止の対象となるパーティクルの粒径が小さくなっている。そしてパーティクル等が微細化し、その粒径が小さくなったため、従来の手法では次のような問題が発生する。即ちパーティクル等の粒径が小さくなると、パーティクルに発生する重力やダウンフローによる慣性力の影響が小さくなる。そのため従来のFFUによる気流制御では、拡散の影響が大きくなり微小パーティクルを制御できず、ダウンフローによって基板の下方へと移動させることができなくなって基板にパーティクル等が付着する虞がある。
【0005】
上記の問題に対し、搬送装置にイオン発生装置を設け、装置内のパーティクルを帯電させると共に、帯電したパーティクルと同極性の直流電圧を半導体基板に印加してパーティクルと基板の同極性の電場との静電反発力によって基板へのパーティクルの付着を防止する大気搬送装置が知られている(特許文献1)。この大気搬送装置では、静電反発力によってパーティクルが基板から弾かれるため、FFUによる気流制御に比べてパーティクルの付着をより精度よく防止できるが、イオン発生装置による電界については全く考慮されていないため、さらに微小なパーティクルの付着を防止する手法としては、十分とは言い難い。
【0006】
【特許文献1】特開2005−116823号公報(段落番号0043、0044)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、被処理体へのパーティクルの付着を抑制できる雰囲気清浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の雰囲気清浄化装置では、
被処理体が位置する雰囲気にダウンフローを形成する手段と、
被処理体が位置する領域よりも上方位置であってかつ上から見たレイアウトにおいて前記領域を挟んで対称に配置され、各々前記ダウンフローに対して正または負のいずれか一方のイオンを横方向に供給する複数のイオナイザーと、
これら複数のイオナイザーの電極に印加されている電圧と同符号の直流電圧を前記領域に位置する被処理体に印加する手段と、を備え、
前記領域を挟んで対称に配置されたイオナイザーは、互いに向き合うように配置されることを特徴としている。
【0009】
複数のイオナイザーは、前記領域を挟んで対称に配置されたイオナイザーの組が被処理体の周囲に複数組設けられて構成されている。また複数のイオナイザーからなるグループ同士が前記領域を挟んで対称に配置されて前記イオナイザーの組をなしていてもよい。そして前記グループは、複数のイオナイザーが横一列に配列されたグループであることが好適である。
【0010】
本発明の雰囲気清浄化装置では、被処理体が位置する領域は帯状の搬送路であり、この搬送路の両側に夫々複数のイオナイザーが平面上のレイアウトにおいて一列に並んで配列されていることを特徴としている。
【0011】
本発明の雰囲気清浄化装置では、被処理体が位置する雰囲気にダウンフローを形成する手段と、被処理体が位置する領域よりも上方位置にて互いに横方向に離れて配置され、各々前記ダウンフローに対して正または負のいずれか一方のイオンを下方に向けて供給する複数のイオナイザーと、これら複数のイオナイザーの電極に印加されている電圧と同符号の直流電圧を被処理体に印加する手段と、を備えたことを特徴としている。また被処理体が位置する雰囲気は、搬送装置により被処理体が搬送される雰囲気であり、前記複数のイオナイザーは、被処理体の搬送方向に沿って配置されている。また複数のイオナイザーは、被処理体の搬送路の真上に配置されていてもよい。
【0012】
本発明の雰囲気清浄化装置では、被処理体が位置する雰囲気は、搬送装置により被処理体が搬送される雰囲気であり、前記複数のイオナイザーは、上からみたレイアウトにおいて互いに同じ大きさの複数の四角形に分割したときの各四角形の頂点に配置されるかまたは千鳥状に配置されることを特徴としている。また前記複数のイオナイザーのレイアウトは、縦方向及び横方向のいずれの方向にも3列以上のイオナイザーの列が形成されている。
【0013】
本発明の雰囲気清浄化装置では、搬送装置により被処理体が搬送される雰囲気にダウンフローを形成する手段と、被処理体の搬送領域よりも上方位置であってかつ上から見たレイアウトにおいて多数配置され、各々前記ダウンフローに対して正または負のいずれか一方のイオンを供給する複数のイオナイザーと、これら複数のイオナイザーの電極に印加されている電圧と同符号の直流電圧を被処理体に印加する手段と、被処理体の位置に応じて前記イオナイザーの電極に印加する電圧の大きさを制御する手段と、を備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、イオナイザーにより帯電したパーティクルと電圧が印加された被処理体との間の静電斥力により被処理体へのパーティクルの付着を防止するにあたり、イオナイザーと被処理体との相対位置が被処理体へのパーティクルの付着防止に影響を与え、被処理体の電圧の大きさによりパーティクルの付着量が変わるというデータなどに基づいて、前記影響がイオナイザーの電気力線による被処理体の表面近傍の電位分布に関係しているという知見を得、この知見に基づき、被処理体が位置する領域を挟んで対称に複数のイオナイザーを配置した。このため一のイオナイザーに基づく被処理体の表面近傍の電位勾配が他のイオナイザーに基づく電位勾配によりならされ、イオナイザーの電気力線による被処理体の表面への影響について面内でのばらつきが小さくなる。この結果被処理体の表面全体に亘ってパーティクルに対して適切な静電斥力を作用させることができるので、微細なパーティクルであっても被処理体への付着を低減することができる。
【0015】
また他の発明では、被処理体が位置する領域よりも上方位置にて、イオンを下方に向けて供給する複数のイオナイザーを横方向に離して配置しているため、被処理体の表面の電位のばらつきが小さくなり、同様に微細なパーティクルであっても被処理体への付着を低減することができる。更にまた他の発明では、大気搬送雰囲気における被処理体の搬送領域の上方に多数のイオナイザーを配置し、被処理体の位置に応じてイオナイザーの電極に印加する電圧を制御するようにしているので、被処理体の表面の電位のばらつきが小さくなり、同様の効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
[本発明者が得た知見]
本発明の具体的な態様を説明する前に本発明者が得た知見について述べておく。半導体製造工場では、被処理体である半導体ウエハ(以下「ウエハ」という)Wが置かれる大気雰囲気にはダウンフローが形成されており、ダウンフローはウエハWが置かれる雰囲気の上方及び下方に夫々配置されたFFU及び排気ファンにより形成される。本発明は、図1に示すようにウエハWの上方位置に、正、若しくは負どちらか一方のイオンを取り出してそのイオンを供給するイオナイザー5が配設されており、ダウンフローに対してイオン化された気体を供給し(図1(a))、これによりダウンフローに乗って流れるパーティクルを帯電させると共に、イオナイザー5の電極に印加される電圧の極性と同極性の電圧をウエハWに印加することにより(図1(b))、パーティクルとウエハWとを互いに静電斥力により反発させようとする(図1(c))手法である。尚イオナイザー5の詳細については後述する。
【0017】
本発明者は、図2に示すようにウエハW1、W2の上方に4個のイオナイザー5を横一列に並べて第1の実験を行った。この実験では、FFU15及び図示しない排気ファンによりダウンフローを形成しているボックス60内を立て板61により2つに等分に仕切り、一方の領域R1にイオナイザー5を設けてウエハW1の側方から正の電荷を加え、他の一方の領域R2にはイオナイザー5を設けずに、各領域に配置したウエハW1、W2を所定時間ダウンフローに曝す。その状態でウエハW1に正の電圧を印加すると共にその電圧値を連続的に変更し、またウエハW2は接地させて両領域に配置されたウエハW1、W2上のパーティクルを調べた。
【0018】
実験の結果を図3に示す。図3は、領域R1側のウエハW1に付着したパーティクルの数をa個、領域R2側のウエハW2に付着したパーティクルの数をb個とし、aをbで割ることにより両領域でのパーティクルの相対付着率を求めたものである。ウエハW1に印加する電圧を0Vから500Vに上昇させていくと相対付着率は低下していき、500V付近で約0.25となる。従ってウエハW1に500Vの電圧を印加した場合、ウエハW1ではウエハW2に比べて約75%のパーティクルの付着を防止していることが判る。また印加する電圧を500Vよりさらに上昇させた場合、逆に相対付着率は上昇する。
【0019】
このような現象が起きる理由としては、以下の要因が考えられる。図4は縦軸にパーティクルの数、横軸に電荷数をとったグラフであり、実線(1)で示すように正の電荷の分布と負の電荷の分布は概ね対象になっている。これに対しイオナイザー5によってパーティクルに正の電荷を加えた状態での電荷の分布は、実線(2)に示すように正側に大きく片寄っている。そのためウエハW1に正の電圧を印加すると静電斥力によって反発するパーティクルの量が増え、その結果パーティクルの付着量が低下する。
【0020】
しかしイオナイザー5によりパーティクルを正に帯電させたとしても、実際には実線(2)のように負に帯電したパーティクルが残存する。この負に帯電したパーティクルは正の電位に引かれるため、ウエハW1に正の電圧を印加すると、逆にこれらのパーティクルの付着は促進されると考えられる。従って本実験から、ウエハW1に印加する正の電圧を上昇させていくと、ある値(本実験では500V)まではパーティクルの付着量の低減に有益であることが判り、その値を超えて上昇させると逆の電荷を帯びたパーティクルを引き寄せる力が強くなるため、パーティクルの付着量の低減を阻害することが判る。
【0021】
次にウエハW1上のパーティクルの分布を図5(a)に示す。パーティクルの多少に応じて大まかに領域を分けてみると、図5(b)に示すようにパーティクルの付着量の多い領域R3と付着量の少ない領域R4に分けることができる。この理由としては、次のように考えることができる。即ちイオナイザー5の電極針に印加される高電圧により当該電極針から電気力線が形成され、ウエハW表面近傍にて電位分布が生じるが、領域R3はイオナイザー5に近いため領域R4に比べて電位が高い。従ってこの電位によってパーティクルがウエハW1側に向かう引力が作用する。これを模式的に説明すれば、パーティクルからウエハW1を見ると、当該領域R3についてはウエハW1の電位は負として見えることになる。そのためパーティクルが当該領域R3に引き寄せられてしまい、図5(a)に示す結果となる。そこでイオナイザー5からの電気力線に基づく領域R3の電位を低くするようにイオナイザー5の供給電圧を設定すると、イオナイザー5から離れた側の領域R4においてはイオナイザー5からの電気力線に基づく電位が低くなって、パーティクルからはウエハWの電位が図3に示す最適値よりも大きく見え、このため既述のように負に帯電しているパーティクルが領域R4に引き寄せられてしまい、図5とは逆の結果になってしまう。
【0022】
次に本発明者は図6に示すように、図2に示す第1の実験のイオナイザー5を3個、ウエハW1の鉛直方向の上方領域に横一列に並べて第2の実験を行った。この実験は、領域R1のウエハW1の鉛直方向上方の、ウエハW1の中心を通る線上にイオナイザー5を設けて、真下にあるウエハW1に向けて正の電荷を加えている点以外は、図2に示す実験と同じ態様で行わっている。この実験の結果を図7に示す。図7の折れ線S1に示すように、ウエハW1への印加電圧を0Vから1kVに上昇させていくと、ウエハW1のパーティクルの相対付着率が低下していき、1kV付近で約0.04となる。従ってウエハW1に1kVの電圧を印加した場合、ウエハW1では、イオナイザー5を用いないダウンフロー下のウエハW2に比べて約96%のパーティクルの付着を防止していることが判る。また印加する電圧を1kVよりさらに上昇させた場合、既述の実験の場合と同様に相対付着率は上昇するが、1.0より高くなることはないことから、高電圧下においてもパーティクルの付着防止に効果があることが判る。
【0023】
なお同図に既述の図3に示す実験結果を折れ線S2として併せて記載してある。折れ線S1、S2とを比較しても分かるように、イオナイザー5をウエハW1の鉛直方向に配置してイオンを真下に供給する雰囲気にウエハW1が置かれる場合には、パーティクルの付着防止効果が大きいことが判る。以上の知見を元に、ウエハW上のパーティクルを低減させるために有効である本発明の雰囲気清浄化装置に係る実施の形態を以下列挙する。
【0024】
[第1の実施の形態]
図8に示す実施の形態である雰囲気清浄化装置では、ウエハWが置かれる雰囲気の上方にイオナイザー5を複数、例えば一列に並ぶ4個を組としたイオナイザー5の組5A〜5Dが、上から見たレイアウトにおいてウエハWの周方向に等間隔で配設されている。即ちイオナイザー5の組5A及び5Cが図示Y方向に互いに対向し、かつイオナイザー5の組5B及び5Cが、図示X方向に対向している。また7は、イオナイザー5を支持している支持部である。
【0025】
尚本実施形態ではイオンの供給方向は横方向、例えば水平方向であるが、斜め下向きであってもよく、この場合においても、一のイオナイザー5と他のイオナイザー5とが「互いに向き合う」状態をなしているものである。またR5で示す枠は、例えばウエハWが置かれる雰囲気を区画する筐体であってもよいが、大きな筐体内の一部の領域を便宜上区画する仮想ラインであってもよい。つまりイオナイザー5は筐体の壁部に設けられることに限られるものではない。
【0026】
イオナイザー5は、正の電荷を発生させる電極と負の電荷を発生させる電極を同数有しており、基本的に正の電荷と負の電荷を等量発生させて、帯電物と同極性を持ったイオンを帯電物と反発させ、逆極性を持ったイオンを帯電物に引き寄せて電荷を中和して除電するものである。このようなイオナイザー5では発生したイオンを供給する際に、同極性のイオンは反発し、異なる極性のイオンは引き合うという力、即ちイオンのクーロン力を利用してイオンを供給している。
【0027】
そして本実施形態ではイオナイザー5から、正、若しくは負の電荷を帯びたイオンのみを供給する必要があるため、正の電荷を発生させる電極、若しくは負の電荷を発生させる電極どちらか一方にのみ高電圧を印加して、正、若しくは負の電荷を帯びたイオンのみを発生させ、同極性のイオンが反発する力のみを利用してダウンフローに正、若しくは負の電荷を帯びたイオンどちらか一方を供給している。
【0028】
図8(b)において、62は例えば導電体からなる載置台であり、直流電源63により載置台62に例えば0.5kVの正の電圧が印加されている。従ってウエハWにはこの正の電圧が載置台62を介して印加されることになる。この実施形態を実際の半導体製造工場に適用した場合、載置台62は、例えば大気搬送雰囲気における第1のウエハ搬送機構と第2のウエハ搬送機構との中継位置に設置される受け渡し部として使用される。あるいは図8に示すウエハWは、載置台の代わりにウエハ搬送機構の保持部に保持されている例であってもよく、この場合当該ウエハWの位置は、ウエハ搬送機構の中でウエハWの保持時間が最も長くなる確率が最も大きい位置、例えばレジスト膜塗布形成装置を構成する処理ユニット群の一つの処理ユニットに臨む位置であってもよい。なお図8(b)において、15はFFUであり、またウエハWが置かれる雰囲気の底部には、図示していないが排気ファンが上向きに設置されていて、FFU15によって発生するダウンフローを吸い込んで外部に搬出、あるいはクリーンルーム内の循環ダクトに送るようになっている。
【0029】
この雰囲気清浄化装置では、FFU15からダウンフローがウエハWに向けて供給され、FFU15とウエハWとの間に配設されたイオナイザー5の電極への印加電圧を同じ大きさに設定し、ダウンフローに対してイオンを供給して、ウエハW周辺の雰囲気に含まれるパーティクルを+の極性に帯電させる。そしてウエハWに正の電圧を加えて正に帯電しているパーティクルに対して静電斥力を作用させる。
【0030】
ここでイオナイザー5に供給した高電圧によりウエハWの表面に電界が生じるが、平面的に見るとウエハWを挟んでイオナイザー5がX方向にもY方向にも対向しているため、一つのイオナイザー5によりウエハWの表面近傍に生じた電位勾配が、相対向する他のイオナイザー5による電位勾配によりならされ、この結果イオナイザー5の電気力線によるウエハWの表面近傍電位と、ウエハWの電位との相対電位への影響について面内でのばらつきが小さくなる。従ってウエハWの電位を設定するにあたり、その電位がパーティクルの付着防止に適した範囲内に揃う程度が大きくなるので、大部分のパーティクルとウエハWとの間で静電斥力が作用し、微細なパーティクルであっても被処理体への付着を低減することができる。
【0031】
また本実施形態では、イオナイザー5がイオンのクーロン力を利用してイオンを供給するイオナイザーであるため、イオンの供給に気流を使用しない。そのためFFU15によって形成されたダウンフローの流れに対してイオナイザー5が影響を及ぼさないので、ダウンフローが本来有するパーティクル除去作用を阻害しない点で好ましい。
【0032】
ここで本発明は、イオナイザー5の組5A、5Cを用い(5B、5Dは用いない)、図2に示した実験装置を用いてパーティクルの付着の様子を調べたが、図5に示すようなウエハWの半分の領域にパーティクルが多く付着するといったことがなく、全面に亘ってパーティクルの付着が少なかった。このため図2に示すようにイオナイザー5を片側に配置する場合に比べてパーティクルの低減効果が格別に大きいことが判った。
【0033】
図9に示す実施の形態である雰囲気清浄化装置は、第1の実施形態の変形例である。図9に示すようにこの雰囲気清浄化装置では、ウエハWが置かれる雰囲気の上方、例えば装置の上部に、複数個例えば8個イオナイザー5が、周方向に等間隔を置いてウエハWと同心の円に沿って配設されている。各イオナイザー5のイオンの供給方位は水平方向に設定され、従って対向するイオナイザー5同士が向き合った状態となっている。このためウエハWの中心から各イオナイザー5までの距離が全て等しい。このような構成においても、一つのイオナイザー5によりウエハWの表面近傍に生じた電位勾配が相対向する他のイオナイザー5による電位勾配によりならされるため、同様の効果が得られる。
【0034】
[第2の実施の形態]
図10は第2の実施の形態に係る雰囲気清浄化装置の一例を示しており、この例では、ウエハWが置かれる領域の上方領域を含む領域、言い換えればウエハWが置かれる領域とその周囲の領域との上方の領域、例えば装置の上部に多数の(図10では13個の)イオナイザー5が千鳥状に配列されている。各イオナイザー5はイオンの供給方位が下、例えば真下を向いている。このようなイオナイザー5の配置レイアウトは、特にウエハWが搬送される搬送雰囲気に好適である。この搬送雰囲気とは例えばチャンバ内を挙げることができるが、レジストや絶縁膜等の塗布膜をウエハW上に形成するために、各プロセスユニット(塗布液を塗布するユニットや加熱ユニットなど)間でウエハWを搬送するための搬送領域であってもよい。
【0035】
図11は第2の実施形態における他の例であり、図11中のR6で示すラインはチャンバの壁部あるいは搬送領域内の仮想ラインである。8はウエハWを搬送する搬送装置であるが、ウエハWを保持する保持アーム9部分だけを便宜上図示している。またウエハWには直流電源63から搬送装置8を介して正の電圧が供給されるようになっている。この搬送装置8は進退自在、鉛直軸周りに回転自在及び昇降自在に構成されている。この例ではウエハWが搬送される搬送領域の上方領域を含む領域、言い換えればウエハWが搬送装置8によって搬送される領域とその周囲の領域との上方の領域に、多数の(図11では18個の)イオナイザー5が千鳥状に配列されている。
【0036】
以下に、この第2の実施の形態をより具体化した例について述べる。図12、13はマルチチャンバと呼ばれるものであり、大気搬送室14と、大気搬送室14内に設けられた第1搬送装置13と、大気搬送室14の図示前面側にクローズ型のウエハキャリアであるフープを載置するフープ載置台11a〜11cと、各フープ載置台11a〜11cに対応する大気搬送室14の側壁に設けられた搬入出扉12a〜12cとを備えている。また大気搬送室14には、マルチチャンバ内に搬入されたウエハWの向き及び位置決めを行う機能モジュールであるオリエンタ容器41に収められたオリエンタ4が備えられている。
【0037】
また大気搬送室14の上部には、第1気流形成手段を構成するFFU15a〜15cが設けられている。FFU15a〜15cは、筐体内に回転翼とモータとからなるファンを格納したファンユニットと、ファンユニットの吐き出し側に配置された例えばULPA(Ultra Low Penetration Air)フィルタを格納したフィルタユニットとから構成されている。また大気搬送室の下部には、第2気流形成手段を構成する排気FFU16が、FFU15a〜15cと対向するように設けられており、排気FFU16は、ULPAフィルタの変わりに酸性ガスを除去するケミカルフィルタユニットが設けられている以外は、FFU15a〜15cと同構成である。そして第1気流形成手段と第2気流形成手段とにより、大気搬送室14の内部に清浄空気のダウンフローを形成し、大気搬送室14内を清浄空気からなるミニエンバイロメントとしている。
【0038】
また図13に示すように、大気搬送室14には搬入出扉12a〜12cの対面側にゲートG1が設けられ、このゲートG1を介して第2搬送装置21a、21bを内部に備えたロードロック室22a、22bが夫々接続されている。ロードロック室22a、22bには、ゲートG2を介して処理容器31a、31bが接続され、排気管24a、24bを介して真空ポンプ23a、23bが接続されており、ゲートG1、G2を閉鎖した状態でロードロック室22a、22b内の圧力を所定の真空雰囲気と常圧雰囲気とを切り替えることが可能となっている。
【0039】
このマルチチャンバでは、フープ載置台11a〜11cに載置されたフープから、第1搬送装置13によりウエハWを取り出し、オリエンタ4へと搬入してウエハWの向きと位置決めを行う。その後、第1搬送装置13はオリエンタ4からウエハWを搬出し、ゲートG1を開放して第2搬送装置21a、21bのどちらかにウエハWを引き渡す。ウエハWが引き渡されたロードロック室22a、22bではゲートG1を閉鎖後、必要に応じてロードロック室22a、22b内を減圧して所定の真空雰囲気に変更してから、ゲートG2を開いて処理装置31a、31bにウエハWを搬入する。そして処理装置31a、31bにおいて、例えばエッチング処理等を行う。
【0040】
このようなマルチチャンバにおいて、本実施形態では図14、15に示すように大気搬送室14のFFU15a〜15cの下方側にイオナイザー5を、図11に示す実施形態と同様の形態で複数設けており、大気搬送室14内の清浄空気のダウンフローをイオナイザー5によってイオン化している。そして第1搬送装置13に、ウエハWに対してダウンフローと同極性の電圧を加える図示しない電圧印加手段を設けており、搬送されるウエハWに電圧を印加することが可能となっている。
【0041】
従って第2の実施形態に係る各構成においては、イオナイザー5を、格子状(格子の交点にイオナイザー5を配置したレイアウト)若しくは千鳥状に配列しているため、ウエハWがどこに位置していても、ウエハWからイオナイザー5を見るとイオナイザー5の配置の片寄りの程度が少なくなり、一つのイオナイザー5によりウエハWの表面近傍に生じた電位勾配が他のイオナイザー5による電位勾配によりならされる作用が働き、ウエハWに対するパーティクルの付着低減効果が得られる。そして図7に示す第2の実験結果では、ウエハWの真上に1列に3個のイオナイザー5を設けただけで、格別の効果があることが判っており、第2の実施形態に係る各構成においてはさらに優れたパーティクルの付着低減効果が得られる。
【0042】
この実施形態は、領域を複数の四角形(正方形、長方形あるいは平行四辺形)に分割して、その四角形の交点にイオナイザー5を配置する、あるいは千鳥状に配置する例であると言える。更にまた本実施形態は、平面のレイアウトにおいてイオナイザー5を2列配置し、この2列の中央において当該列の伸びる方向に沿って搬送路が形成されている構成としてもよい。即ちこの例は、図15のイオナイザー5の3列の中央の列を削除し、当該中央の列に沿って搬送路が形成されている構成であり、一方の列のイオナイザー5と他方のイオナイザー5とは搬送路を介して互いに対向している。
【0043】
そしてイオナイザー5の配置は以上に述べた例に限ることなく、図7に示す第2の実験結果からすれば、ウエハWが位置する領域の上方位置にて複数のイオナイザー5を互いに横方向に離れて配置することでウエハWに対するパーティクルの付着の低減効果が期待できる。この場合ウエハWが位置する雰囲気がウエハWの搬送領域である場合には、複数のイオナイザー5はウエハWの搬送方向に沿って例えば一列にあるいは千鳥状に配置することが好ましく、この場合ウエハWの搬送路の真上領域に配置すること(上から見たときに搬送領域とイオナイザー5とが重なること)が好ましい。更にまたイオナイザー5の配置レイアウトとしては、ウエハWが搬送路のいずれの位置にあってもその真上には少なくとも1個のイオナイザーが配置されるように設定することが好ましい。
【0044】
[第3の実施形態]
また本発明では、各イオナイザー5の電極の印加電圧をウエハWの位置に応じて制御するようにしてもよい。このような実施の形態を以下に述べる。図16は第3の実施の形態に係る液処理システムの一例を示しており、この例では、絶縁膜やレジスト膜を塗布液の塗布により形成する液処理システムの基本的な構成例を示している。100はウエハの搬入出ポートであり、受け渡し台を備えている。101は大気搬送領域であり、この領域の両側には処理ユニット102が配列されている。大気搬送領域には例えば進退自在かつ鉛直軸周りに回転自在な関節アームからなる搬送装置103がガイド104に沿って移動できるように構成されている。外部から搬入出ポート100に搬入されたウエハWは搬送装置103により順次処理ユニット102に搬送される。処理ユニット102は、ウエハWに塗布液を塗布する塗布ユニット、塗布後のウエハを減圧乾燥させる乾燥ユニット、減圧乾燥後のウエハをベーク処理するベークユニットなどが相当する。
【0045】
この液処理システムでは、予め処理ユニット群に対してウエハWの搬送の順序が決められており、処理ユニット102の処理状況によっては、図17に示すようにウエハWをある処理ユニット102の前で待機する場合がある。そしてイオナイザー5はX方向に沿って直線状に配列したイオナイザー5の列が、ガイド104に対して対称に例えばL1、L2、L3に示すように3列分配置されている。そして既述のようにウエハWが搬送機構上で待機しているときには、2列目L2にあるイオナイザー5Fよりも3列目L3にあるイオナイザー5Gの方がウエハWの中心に近くなる。
【0046】
そのためイオナイザー5Fと5Gとの電極針に同じ大きさの電圧を印加すると、上述した第2の実験の結果から判るように、イオナイザー5G側の領域がイオナイザー5Gからの電気力線に基づいて電位が高くなり、パーティクルがイオナイザー5G側のウエハWに引き寄せられてしまう。これを是正するためにウエハWを待機させる場合には、その待機位置が投影領域となるイオナイザー5Gに印加する電圧をイオナイザー5Fに印加する電圧より小さくするように制御部110にて調整する。
【0047】
一方図16に示すように、ガイド104上を搬送されているときは2列目L2のイオナイザー5FがウエハWの中心に近くなり、1列目L1、3列目L3にあるイオナイザー5E、5GがウエハWの周縁部から等距離だけ離れる。そのためイオナイザー5Fからの電位力線に基づく電位が高くなることを是正するために、2列目L2のイオナイザー5Fに印加する電圧を、1、3列目L1、3のイオナイザー5E、5Gに印加する電圧より小さくするように制御部110にて調整する。この調整する電圧は、ウエハWの中心位置と、各列L1、L2、L3に配置されたイオナイザーとの距離の比によって決定してもよい。
【0048】
図18は第3の実施形態における他の例であり、ウエハWの搬送領域の上方領域を含む領域、言い換えればウエハWがガイド104によって搬送される全ての領域とその周囲の領域との上方の領域に、多数の(図18では18個の)イオナイザー5が千鳥状に配列されている。そのためウエハWは、常にイオナイザー5の投影領域で搬送されることになり、常に帯電したダウンフローが供給される。このような第3の実施形態に係る各構成においても、イオナイザー5を、格子状若しくは千鳥状に配列しているため、一つのイオナイザー5によりウエハWの表面近傍に生じた電位勾配が隣接する他のイオナイザー5による電位勾配によりならされることになり、第2の実施形態の雰囲気清浄化装置と同様の効果が得られる。
【0049】
尚本実施形態では、イオナイザー5を搬送領域の上方に配置する場合、装置本体上面の各辺に対応する直交座標における座標を基に、上面を複数の四角形に分割したときの各四角形の頂点位置ごと、若しくは千鳥状にイオナイザー5を配置することに限定されるものではない。例えば、装置本体上面の各辺に対して斜交する座標系における座標を基にイオナイザーを配置してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、作業環境の雰囲気を清浄化する必要がある装置であればどのような装置でも適用可能であり、半導体製造工場に限らず、例えばペレット状の医薬の製造工場等にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の原理を説明するための説明図である。
【図2】本発明の実験装置の構成図である。
【図3】本発明に係る実験の結果を示す特性図である。
【図4】本発明に係る実験の結果を説明するための説明図である。
【図5】本発明に係る実験の結果を示す説明図である。
【図6】本発明の第2の実験装置の構成図である。
【図7】本発明に係る第2実験結果を示す特性図である。
【図8】本発明の第1の実施形態に係る雰囲気清浄化装置を示す平面図及び側面図である。
【図9】本発明の第1の実施形態に係る変形例を示す平面図である。
【図10】本発明の第2の実施形態に係る雰囲気清浄化装置を示す平面図である。
【図11】本発明の第2の実施形態に係る変形例を示す平面図及び側面図である。
【図12】図11に示す雰囲気清浄化装置を備えた半導体製造装置を示す斜視図である。
【図13】図11に示す雰囲気清浄化装置を備えた半導体製造装置を示す概略平面図である。
【図14】図11に示す雰囲気清浄化装置を備えた半導体製造装置を示す縦断面図である。
【図15】図11に示す雰囲気清浄化装置を備えた半導体製造装置を示す部分平面図である。
【図16】本発明の第3の実施形態に係る液処理システムを示す平面図である。
【図17】図16に示す液処理システムでの、ウエハWの待機状態を説明するための説明図である。
【図18】図16に示す液処理システムの変形例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0052】
5、5A、5B、5C、5D、5E、5F、5G イオナイザー
7 支持部
8 搬送装置
9 保持アーム
13 第1搬送装置
14 大気搬送室
15、15a、15b、15c FFU(ファンフィルタユニット)
16 排気FFU
31a、31b 処理容器
60 ボックス
制御部 110
R1、R2、R3、R4、R5、R6 領域
W ウエハ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理体が位置する雰囲気にダウンフローを形成する手段と、
被処理体が位置する領域よりも上方位置であってかつ上から見たレイアウトにおいて前記領域を挟んで対称に配置され、各々前記ダウンフローに対して正または負のいずれか一方のイオンを横方向に供給する複数のイオナイザーと、
これら複数のイオナイザーの電極に印加されている電圧と同符号の直流電圧を前記領域に位置する被処理体に印加する手段と、を備え、
前記領域を挟んで対称に配置されたイオナイザーは、互いに向き合うように配置されることを特徴とする雰囲気清浄化装置。
【請求項2】
複数のイオナイザーは、前記領域を挟んで対称に配置されたイオナイザーの組が被処理体の周囲に複数組設けられて構成されていることを特徴とする請求項1記載の雰囲気清浄化装置。
【請求項3】
複数のイオナイザーからなるグループ同士が前記領域を挟んで対称に配置されて前記イオナイザーの組をなしていることを特徴とする請求項1または2記載の雰囲気清浄化装置。
【請求項4】
前記グループは、複数のイオナイザーが横一列に配列されたグループであることを特徴とする請求項3記載の雰囲気清浄化装置。
【請求項5】
被処理体が位置する領域は帯状の搬送路であり、
この搬送路の両側に夫々複数のイオナイザーが平面上のレイアウトにおいて一列に並んで配列されていることを特徴とする請求項1に記載の雰囲気清浄化装置。
【請求項6】
被処理体が位置する雰囲気にダウンフローを形成する手段と、
被処理体が位置する領域よりも上方位置にて互いに横方向に離れて配置され、各々前記ダウンフローに対して正または負のいずれか一方のイオンを下方に向けて供給する複数のイオナイザーと、
これら複数のイオナイザーの電極に印加されている電圧と同符号の直流電圧を被処理体に印加する手段と、を備えたことを特徴とする雰囲気清浄化装置。
【請求項7】
被処理体が位置する雰囲気は、搬送装置により被処理体が搬送される雰囲気であり、前記複数のイオナイザーは、被処理体の搬送方向に沿って配置されていることを特徴とする請求項6記載の雰囲気清浄化装置。
【請求項8】
複数のイオナイザーは、被処理体の搬送路の真上に配置されていることを特徴とする請求項7記載の雰囲気清浄化装置。
【請求項9】
被処理体が位置する雰囲気は、搬送装置により被処理体が搬送される雰囲気であり、
前記複数のイオナイザーは、上からみたレイアウトにおいて互いに同じ大きさの複数の四角形に分割したときの各四角形の頂点に配置されるかまたは千鳥状に配置されることを特徴とする請求項6記載の雰囲気清浄化装置。
【請求項10】
前記複数のイオナイザーのレイアウトは、縦方向及び横方向のいずれの方向にも3列以上のイオナイザーの列が形成されていることを特徴とする請求項9に記載の雰囲気清浄化装置。
【請求項11】
搬送装置により被処理体が搬送される雰囲気にダウンフローを形成する手段と、
被処理体の搬送領域よりも上方位置であってかつ上から見たレイアウトにおいて多数配置され、各々前記ダウンフローに対して正または負のいずれか一方のイオンを供給する複数のイオナイザーと、
これら複数のイオナイザーの電極に印加されている電圧と同符号の直流電圧を被処理体に印加する手段と、
被処理体の位置に応じて前記イオナイザーの電極に印加する電圧の大きさを制御する手段と、を備えたことを特徴とする雰囲気清浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2009−259918(P2009−259918A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−105187(P2008−105187)
【出願日】平成20年4月14日(2008.4.14)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】