説明

電力制御器システム

【課題】落雷などの故障過渡電流が流れる間はスイッチング装置を開いて過電流が流れるのを防止する一方、その間、負荷電流が中断されない電力制御器システムを提供する。
【解決手段】電力制御器システム10は、電気経路31内に設けられた、負荷20に電流を供給するスイッチング装置30を備える。スイッチング装置30の両端間の電圧または電流が所定のレベルを超えたとき、制御器50がスイッチング装置10を開くように構成する。スイッチング装置30が開いているときも、並列電気経路60を負荷に接続する回路11内の誘導素子32に蓄積された誘導エネルギーの放散により、負荷電流61が並列電気経路60および負荷20に流れ続ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力制御器システムに関し、特に、例えば落雷または故障状態から保護された電力制御器システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電力制御器システムは、落雷または故障状態の際に、負荷への電力供給を中断する電気機械スイッチなどのスイッチング装置を含む。しかし、より迅速な反応時間を実現し、かつスイッチング装置のサイズおよびコストを低減させるために、微小電気機械スイッチ(MEMS)、およびMOSFETなどのトランジスタなど、より高速で動作する装置が使用されている。これらの装置は動作がより高速ではあるが、そのサイズは、それらの装置が対処できる故障過渡電流(fault transient)に比例する。こうした装置は一般に、熱質量が比較的低いので、限られた故障過渡電流にしか対処することができない。
【0003】
航空機など航空産業における用途では、故障状態または落雷によって所与の負荷に対する電流が中断しないことが重要であり、中断した場合、例えば、操縦室制御装置および計器、着陸装置、エンジン制御装置、環境システムなど、航空機にとってきわめて重大なことになり得る。さらに、航空産業における電力分配は、ますます高電圧のアーキテクチャに移行しつつあり、したがって故障電流、および落雷など環境上の考慮事項もますます厳しくなりつつある。従来、電力分配システムは過剰設計(over engineered)であり、例えば、トランジスタスイッチは、そのような過渡事象の間、負荷を停止させずに落雷および故障などの事象を吸収できるように遙かに大きなものである。しかし、電力分配システムおよびスイッチの過剰設計によって、コスト、サイズ、および重量が増大し、その結果、航空機の可航距離が減少し、その燃料消費量は増大する。
【発明の概要】
【0004】
本発明の第1の態様によれば、回路を介して負荷に電力供給するように構成された電力制御器システムであって、
負荷に電流を供給するために電気経路内に設けられたスイッチング装置と、
スイッチング装置に流れる電流、またはスイッチング装置の両端間の電圧が、所定のレベルを超えたとき、スイッチング装置を開くように構成された制御器と、
負荷に並列の電気経路であって、スイッチング装置が開いているときも、負荷電流が並列電気経路および負荷に流れ続け、並列電気経路を負荷に接続する回路内に蓄積された誘導エネルギーを放散させることを可能とする、電気経路と
を備える、システムが提供される。
【0005】
落雷など、スイッチング装置に流れる電流が所定のレベル、例えば意図した電流の10倍を超える故障過渡電流シナリオの間、スイッチング装置は、制御器によってオフの命令を受けることになる。この間、負荷電流は、負荷に並列の電気経路を流れ続けることになり、したがって分配システムと負荷とを接続する回路ケーブル内に蓄積された誘導エネルギーが放散されることになる。したがって、負荷電流が中断されることはなく、このことは、例えば、飛行中の航空機が依存する航空システムにとって非常に重要となる。
【0006】
電気経路は、好ましくは、回路内に蓄積された誘導エネルギーが、回路中を確実に適切な方向で流れ続けるようにするダイオードを含む。
【0007】
この制御器は、好ましくは、落雷などの過渡事象が鎮静したと思われる、または故障が修正されたと思われる所定の期間後、スイッチを再度閉じるように構成され、したがって、負荷は、電力分配システムによって引き続き供給を受けることができる。
【0008】
本発明の第2の態様によれば、回路を介して負荷に電力供給するように構成された電力制御器システムを動作させる方法であって、
スイッチング装置に流れる電流、またはスイッチング装置の両端間の電圧が、所定のレベルを超えたときも、負荷電流が負荷および負荷に並列の電気経路に流れ続け、並列電気経路を含み、かつ並列電気経路を負荷に接続する回路内に蓄積された誘導エネルギーを放散させるように、電気経路内の、負荷に電流を供給するスイッチング装置を開くステップ
を含む、方法が提供される。
【0009】
このスイッチング装置は、好ましくは、負荷が供給源から電流を再度受け取ることができるように、所定の期間後、閉じられ、供給電流または電圧がなおも所定のレベルを超えている場合には、スイッチング装置は再度開き、そうでない場合は、スイッチング装置は、所定のレベルを超える電流または電圧が再度検出されるまで、閉じたままとなる。
【0010】
次に、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態を単なる例によって説明する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の例を示す、負荷を備えた電力制御器システムを示す図である。
【図2】スイッチング装置が開閉している間の、スイッチング装置の両端間の電圧、および負荷に並列の電気経路に流れる電流を示すグラフである。
【図3】本発明の実施形態の方法を示す流れ図である。
【図4】本発明を示す電力制御器システムのより詳細な例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、負荷20に電力供給するように構成された電力制御器システム10を示す。この電力制御器システムは、電気経路31内に設けられた、負荷20に電流を供給するスイッチング装置30を備えた回路11を含む。電気経路31は、スイッチング装置30に接続された電源40を含み、スイッチング装置30は、負荷20に接続されている。実際には、電気経路31は一般に、電気ケーブルなどを備えることができ、その長さは、航空機によっては数メートル、または数十メートルとなることがあり、こうしたケーブルは、本質的に、図1の符号32で示す、ある量のインダクタンスとなる。
【0013】
制御器50が、スイッチング装置30に流れる電流、またはスイッチング装置の両端間の電圧が所定のレベルを超えたとき、スイッチング装置30を開くように構成されている。この制御器50は、好ましくは、電気経路31に流れる電流、またはスイッチング装置30の両端間の電圧を検出するように、電気経路31に接続されている。制御器50は、検出した電流または電圧が所定のレベルを超えたとき、スイッチング装置30を開く、マイクロプロセッサなどの適切な制御手段を含むことができる。スイッチング装置30は、例えば、MOSFETなどのトランジスタ、MEMS、または電気機械スイッチなど、適切な任意の装置でよい。
【0014】
電気経路60が、負荷20に並列に設けられている。制御器50によってスイッチング装置30が開くと、供給源40が負荷20から切断され、電流は、矢印61で示すように、並列電気経路60および負荷20に流れ続け、並列電気経路60を負荷20に接続する回路内に蓄積された誘導エネルギー32を放散させることができる。この回路は、典型的にはケーブルなどから形成されることになる。並列電気経路60は、電流が、確実にスイッチ30が閉じた場合と同じ方向で負荷20に流れ続けるようにするダイオード62を含むことができる。
【0015】
制御器50は、好ましくは、所定の期間後、スイッチング装置30を再度閉じるように構成される。この所定の期間は、並列電気経路60を負荷20に接続する回路内のインダクタンスの量、および落雷などの過渡事象が持続すると思われる持続時間、または故障が自動的に修正される時間に依存することになる。この所定の期間は、例えば、システム内のインダクタンスの量に依存して、数マイクロ秒、数十マイクロ秒、またはそれより長くてもよく、インダクタンスは、寄生インダクタンスの場合も、または追加の構成要素による影響を含む場合もある。並列電気経路60を負荷20に接続する回路内のインダクタンスは、矢印61によって示す電流が維持されるのに十分な時間をもたらすのに適当となり得、したがって、過渡事象は、スイッチ30が再度閉じられる時点までに実質的に鎮静していることになる。しかし、必要に応じて、追加のインダクタンスを、負荷20と並列経路60との間に設けてもよい。この所定の期間の経過後、制御器50は、スイッチング装置30を閉じ、したがって電力を供給源40によって再度供給することができる。この動作によって、負荷20を並列電気経路60に接続する回路内のインダクタンスがリフレッシュされることになる。しかし、スイッチング装置30に流れる電流、またはスイッチング装置30の両端間の電圧がなおも所定のレベルを超えている場合、制御器50は、スイッチング装置を再度開き、その結果、並列電気経路60と負荷20とを接続するケーブルまたは回路内で生じた誘導エネルギー32が再度放散されることになる。
【0016】
この制御器は、過渡事象が終結する、または故障が修正されるまで、スイッチング装置30をオンおよびオフにし続けることができる。
【0017】
図1に示す例によって、落雷または故障などの過渡事象の際にも、負荷20に電流を供給し続けることが可能となる。このことは、例えば、操縦室またはエンジン制御装置など、航空機の重要な構成要素における、過渡的な落雷または故障などの際にも、負荷に供給し続けることが望まれる場合に特に重要となる。上記は、従来技術のようにスイッチング構成要素を過剰設計する必要なく実現され、したがってコストおよび重量が低減される。
【0018】
図2は、スイッチング装置30をオンおよびオフにスイッチングする間の、スイッチング装置30に流れる電流IS、およびスイッチング装置30の両端間の電圧VSを示す。図2から分かるように、スイッチング装置30が閉じていると、スイッチング装置30に電流ISが流れ、電圧VSはかからない。しかし、電流または電圧が所定のレベルを超える故障が検出されると、スイッチング装置30は開き、したがって電流ISはもはやスイッチング装置30に流れず、電圧VSがスイッチング装置にかかる。その後、電流は並列電気経路60に流れる。所定の期間後、その間に過渡事象はかなり鎮静したことになり、制御器50は、スイッチング装置30を再度閉じ、スイッチング装置30に流れる電流ISが再開し、並列電気経路60には電流が流れなくなる。
【0019】
スイッチング装置30の両端間の電圧、またはスイッチング装置30に流れる電流がなおも所定のレベルを超えていることが分かった場合、スイッチング装置30は2回目で開く。必要ならば、スイッチング装置30は、故障状態が鎮静するまで繰り返し開閉することができる。スイッチング装置30が閉じる度に、負荷20を並列電気経路60と接続するケーブルなどの回路内のインダクタンス32がリフレッシュされることになる。
【0020】
図3は、本発明の実施形態の電力制御器システムを動作させる方法を示す流れ図である。時間ステップ100で、制御器50によって、過電流または過電圧状態があるか検出する。過電流または過電圧が検出された場合、ステップ200で、スイッチング装置30を開き、発電機または供給源40からの電流を停止する。スイッチング装置30が開いている間も、回路31、および並列電気経路60のインダクタンスによって、電流が負荷20に流れ続ける。
【0021】
ステップ300で、過渡事象がかなり鎮静したと思われる所定の期間後、制御器によってスイッチング装置30を閉じる。スイッチング装置30を閉じた後、制御器50はステップ100に戻り、ここでスイッチング装置30に過電流または過電圧状態があるか判定する。過渡事象が十分に鎮静して、スイッチング装置30に流れる電流、またはスイッチング装置の両端間の電圧が所定のレベル未満となった場合、スイッチング装置30は、閉じたままとなる。しかし、スイッチング装置30に流れる電流、またはスイッチング装置30の両端間の電圧がなおも所定のレベルより高い場合、図3に示すステップ200、300のシーケンスが繰り返される。
【0022】
図4は、本発明を示す電力制御器システムのより詳細な例を示す。図4から分かるように、構成要素の多くは、図1に示したものと同じであり、同じ参照番号が付されている。図4に示す電力制御器システムは、プラス/マイナス270Vの直流分配システムに適した、可能なアーキテクチャを示す。この例のスイッチング装置30は、MOSFETであるが、MEMSまたはIGBTなどの他のスイッチング装置を使用してもよい。落雷などの故障過渡電流シナリオの間、MOSFET30に流れる電流が所定のレベル(例えば、意図した保護電流の10倍)を超えると、MOSFET30は、制御器50によってオフの命令を受けることになる。この間も、負荷電流は、転流ダイオード62に流れ続け、したがってシステムを負荷20に接続するケーブルおよび任意の誘導素子32内に蓄積された誘導エネルギーが放散されることになる。
【0023】
スイッチング装置30は、短時間後、制御器50によってオンに戻る命令を受けることになり、この時点までに、過渡事象はかなり鎮静したことになる。正味の効果は、過渡事象の間も、負荷電流が中断されなかったこと、およびMOSFETに全過渡エネルギーが加わらなかったことである。
【0024】
この技術によって、電力分配の目的で電流をデジタルに制限する能力が得られ、スイッチング構成要素の過剰設計が不要となり、したがってコストおよび重量が節減される。
【0025】
本発明の範囲から逸脱することなく、上述の例に数多くの変更を行うことができる。例えば、回路内に負荷20をいくつでも設けることができ、または、回路をいくつでも設けることができる。航空産業の例に関して説明してきたが、本発明は、いかなる用途、例えば船舶、車両、工場、電力供給網、または家庭にも使用することができる。
【符号の説明】
【0026】
10 電力制御器システム
11 回路
20 負荷
30 スイッチング装置
31 電気経路
32 インダクタンス、誘導エネルギー、誘導素子
40 電源
50 制御器
60 並列電気経路
62 転流ダイオード
100 ステップ
200 ステップ
300 ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回路を介して負荷に電力供給するように構成された電力制御器システムであって、
前記負荷に電流を供給するために電気経路内に設けられたスイッチング装置と、
前記スイッチング装置に流れる電流、または前記スイッチング装置の両端間の電圧が、所定のレベルを超えたとき、前記スイッチング装置を開くように構成された制御器と、
前記負荷に並列に設けられた電気経路であって、前記スイッチング装置が開いているときも、負荷電流が前記並列電気経路および前記負荷に流れ続け、前記並列電気経路を前記負荷に接続する前記回路内に蓄積された誘導エネルギーを放散させることを可能とする、電気経路と
を備える、システム。
【請求項2】
前記並列電気経路が、前記スイッチング装置が閉じたときと同じ方向で前記回路内に蓄積された前記誘導エネルギーが流れ続けるように構成されている、請求項1記載のシステム。
【請求項3】
前記並列電気経路が、確実に前記スイッチング装置が閉じたときと同じ方向で前記回路内に蓄積された前記誘導エネルギーが流れ続けるようにするダイオードを含む、請求項2記載のシステム。
【請求項4】
前記制御器が、所定の期間後、前記スイッチング装置を閉じるように構成されている、請求項1乃至3のいずれか記載のシステム。
【請求項5】
前記制御器が、前記スイッチング装置に流れる前記電流、または前記スイッチング装置にかかる前記電圧がなおも前記所定のレベルを超えている場合、前記スイッチング装置を再度開くように構成されている、請求項4記載のシステム。
【請求項6】
前記並列電気経路と、前記負荷との間のインダクタンスを増大させる誘導素子を含む、請求項1乃至5のいずれか記載のシステム。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか記載の電力制御器システムを含む航空機。
【請求項8】
回路を介して負荷に電力供給するように構成された電力制御器システムを動作させる方法であって、
スイッチング装置に流れる電流、または前記スイッチング装置の両端間の電圧が所定のレベルを超えたときも前記負荷に電流を供給するために電気経路内の前記スイッチング装置を開くステップであって、負荷電流が前記負荷および前記負荷に並列の電気経路に流れ続け、前記並列電気経路を含む、かつ前記並列電気経路を前記負荷に接続する前記回路内に蓄積された誘導エネルギーを放散させるようにする、ステップ
を含む、方法。
【請求項9】
前記スイッチング装置が開いてから所定の期間後、前記スイッチング装置を閉じるステップをさらに含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記スイッチング装置に流れる前記電流、または前記スイッチング装置にかかる前記電圧がなおも所定のレベルを超えている場合、前記スイッチング装置を再度開くステップをさらに含む、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記スイッチング装置に流れる前記電流、または前記スイッチング装置にかかる前記電圧が、前記所定のレベルをもはや超えなくなるまで、前記スイッチング装置を繰返し開閉するステップをさらに含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
請求項8乃至11のいずれか1項記載の、航空機の電力制御器システムを動作させる方法。
【請求項13】
実質的に添付の図面を参照して上述した回路を介して負荷に電力供給するように構成された電力制御器システム。
【請求項14】
実質的に添付の図面を参照して上述した回路を介して負荷に電力供給するように構成された電力制御器システムを動作させる方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−109947(P2012−109947A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−228394(P2011−228394)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(509133300)ジーイー・アビエイション・システムズ・リミテッド (28)
【氏名又は名称原語表記】GE AVIATION SYSTEMS LIMITED
【Fターム(参考)】