説明

電力蓄積手段を備える鉄道システム

【課題】本発明は、電気車の電力過不足分を電力蓄積手段を搭載した車両が、電力蓄積手段の充放電によって補足し、電力需要と供給の関係を周辺の車両同士で個別に行い、省エネルギを実現し、環境に優しい鉄道車両の駆動システムを提供する。
【解決手段】連続した電車線のある軌道区間において、この軌道区間内を電車線から給電されて走行する複数の鉄道車両と、軌道区間内の複数の鉄道車両のうち少なくともひとつは、電力蓄積手段を搭載した鉄道車両であって、電力蓄積手段を搭載した鉄道車両が、電力蓄積手段の充放電を軌道区間内の他の鉄道車両との電力需給を電車線を通して行い、電力蓄積手段の充放電を行い、特定の編成間で電力のやりとりを行うことを特徴とする鉄道システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の駆動装置に係り、特に、鉄道車両に電力蓄積手段を搭載して、鉄道車両の電力補足をこの電力蓄積手段の蓄電エネルギを利用する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両は、鉄の車輪がレール面上を転がることにより走行するため、走行抵抗が自動車に比べて小さいことが特徴である。電気鉄道車両(以下、電気車)は、電車線から電力を給電し、この電力を車両の走行用駆動電力や車内照明などのサービス機器用補機電力にて消費する。また、電気車は燃料を搭載して走行する内燃動車に比較して、加減速性能がよく、メンテナンス性に優れている。最近の電気車では、制動時に主電動機を発電機として作用させることで制動力を得ると同時に、制動時に主電動機で発生する電気的エネルギを電車線に戻して他車両の力行エネルギとして再利用する回生ブレーキ制御を行っている。この回生ブレーキを備える電気車は、回生ブレーキを備えていない電気車に比べて、約半分のエネルギ消費で走行することが可能とされており、走行抵抗が小さい鉄道車両の特徴を生かした省エネ手法といえる。
【0003】
ところで、電車線は変電所などの地上給電設備の負荷管理によって、電車線にかかる負荷変動があっても電力容量を適切に制御することで電車線電圧の安定化が図られている。地上給電設備からの電力給電が不十分な場合には、電車線の電圧が小さくなり、電気車は走行に必要な駆動電力を確保できず、所望の性能で加速することができなくなる。必要な給電電力を確保するために地上給電設備を増強することは、とくに直流電化の路線においては多くのコストが必要となる。
【0004】
このため、電力給電設備を地上給電設備に加え、移動体すなわち車両に電力蓄積手段を搭載し、電車線の給電電力と電力蓄積手段からの給電電力と負荷全体の電力を管理制御し、給電設備から適切に電力を配分することで、電車線の電圧安定化と省エネルギを図るものが特許文献1に示されている。
【0005】
特許文献1には、移動体の電力供給を管理する制御装置が示されている。本発明の移動体電力供給管理制御装置は、地上電力供給設備を用いて移動体に電力を供給するき電設備があり、移動体の一部に蓄電装置を備え、移動体が集電した電力と蓄電装置に内蔵の電力を利用して走行路上を移動する移動体に供給する電力を管理制御するものである。これは、移動体の運行をつかさどる運転ダイヤと移動体の位置とに基づいて移動体運行のための所要電力を予測し、予測所要電力を前記地上電力供給設備との間で最適に配分するための電力管理システムと、前記電力管理システムで配分された電力供給指示に基づいて地上電力供給設備から前記移動体への供給電力を制御する移動体電力制御装置とを備えたものである。これにより、移動体の全体での電力管理を行うことができ、省エネルギ化を実現し、運行の乱れ防止や機器の最適化を図るものである。
【0006】
また、電気車で回生ブレーキが動作するときには、回生された電力を吸収する相手が必要である。これまでの一般的な鉄道車両は、回生ブレーキで発電した電力を、車両が備える集電装置を通して電車線に戻し、その車両と同じ給電区間を走行する他の車両の力行電力として再利用する。同じ給電区間を複数の車両が走行しているときは、一車両の回生ブレーキが動作するタイミングで、力行する他車両が存在する確率が高い。逆に、同じ給電区間に一車両のみ走行しているときは、その車両の回生ブレーキが動作しても、その電力を吸収する力行車両がいない。このため、架線に戻る回生ブレーキ電流が僅少であるため、回生電力によりインバータ装置の直流電圧が大きくなる。この結果、インバータ装置の許容電圧を上回り、高電圧保護で回生ブレーキ失効が発生し、以降は回生ブレーキが動作せずに空気ブレーキだけで停車するので、回生ブレーキによる省エネルギ効果が得られない。このように、回生ブレーキ電力を架線に戻すには、その電力を吸収する力行車両が必要という制限がある。しかし、回生ブレーキ電力を吸収し、蓄電できる設備を設けられるならば、他の力行車両の存在に関わらず、回生ブレーキによる省エネルギ効果を得ることができる。
【0007】
例えば、特許文献2には、回生電力を吸収する蓄電装置を車上側のインバータ装置に併設する車両用駆動制御装置の例が開示されている。回生ブレーキ電力を吸収する他のカ行車両がいない場合でも、自車両に搭載した蓄電装置で回生ブレーキ電力を吸収することで回生ブレーキを動作させて省エネルギ効果を得ることが可能である。
【0008】
また、特許文献3には、架線瞬断が発生した場合など、回生ブレーキ中に集電装置から電力線への電流経路が断たれ、高速に回生ブレーキ電力の充電制御を始めなければならないとき、インバータ直流部の電圧検出値の変化率に基づいて、瞬時に回生電力を蓄電装置で吸収する充電制御を開始し、またその後も連続的に蓄電装置による回生電力の吸収を可能とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−24206号公報
【特許文献2】特開2005−278269号公報
【特許文献3】特開2008−228451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで特許文献1のシステムでは移動体の電力を、移動体全体での電力管理を中央管理システムによって行うものであり、中央管理システムの不具合時には移動体全体の電力需給が適切に行われるとは限らない。また、運転ダイヤの管理や移動体の運転状況を予測し、給電設備から適切に電力を配分することで、電車線の電圧安定化と省エネルギを図るものであり、車両性能,路線データなどの情報を必要とし、中央管理システムでは多くの情報に基づいた電力管理制御となるため制御構成が複雑になる。そこで、車両間で個別に電力過不足分を電力配分できれば、簡易的に省エネルギ化と電力需給の安定化すなわち電車線電圧の安定化が図れる。
【0011】
また、とくに制動時の回生ブレーキにおいて、回生電力を吸収する相手がいない場合や電車線瞬断時の電力蓄積手段による回生電力の吸収システムにおいては、特許文献2あるいは特許文献3のシステムでは、電力蓄積手段を搭載した車両が、自車の電力蓄積手段で吸収するものであり、運転状態によって他車の回生ブレーキ動作時に回生電力の吸収を行って、他車の回生電力を負担し、電車線電圧の安定化と省エネ化を図ることについては開示されていない。
【0012】
そこで、本発明の目的は、電力蓄積手段を搭載した車両が電力蓄積手段の充放電を行って、電気車の電力過不足分を電車線を介して周辺の車両同士で送受電することにより、省エネルギを実現し、環境に優しい鉄道車両の駆動システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、電車線から電力を得る集電装置と、電車線から電力充電し、または電車線へ電力を放電することが可能な電力蓄積手段と、集電装置および電力蓄積手段と接続されて電動機を駆動するインバータ装置と、を備えた鉄道車両を有する鉄道システムであって、電力蓄積手段を搭載した自車両が停車中あるいは惰行運転中のとき、電車線を介して他の車両の回生電力を電力蓄積手段に充電、または電車線を介して他の鉄道車両へ電力蓄積手段の放電電力を供給する制御装置を備える。
【0014】
さらに、他の車両の状態情報を含む車両情報信号を車両外部から受信、または自車両の状態情報を含む車両情報信号を車両外部へ送信する車両情報伝達装置を備え、制御装置は、自車両の状態が停車中あるいは惰行運転中のとき、車両外部から受信した車両情報信号の状態情報に基づいて電力蓄積手段の充放電制御を行い、他の車両との前記電車線を介した電力の送受電を行っても良い。
【0015】
さらに、電車線により印加される自車両の直流電圧を検出する手段を備え、電力蓄積手段を搭載した車両の制御装置は、自車両が停車中あるいは惰行運転中のとき、直流電力の電圧検出値に基づいて、電車線を介して他の車両の回生電力を前記電力蓄積手段に充電、または電車線を介して他の鉄道車両へ電力蓄積手段の放電電力を供給しても良い。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、電力蓄積手段を搭載した車両が電力蓄積手段の充放電を行って、電気車の電力過不足分を電車線を介して周辺の車両同士で送受電することにより、省エネルギを実現することができる。
【0017】
また、全車両の電力を管理する中央管理システムを用いずに、車両間での電力過不足分の電力需給を行うことで、移動体全体の電力を管理する中央管理システムに依らず簡易的に電車線の電圧安定化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例1における第一の状況での電力需給を示す図である。
【図2】実施例2における第一の状況での電力需給を示す図である。
【図3】実施例1における第二の状況での電力需給を示す図である。
【図4】実施例1における第三の状況での電力需給を示す図である。
【図5】実施例1における第四の状況での電力需給を示す図である。
【図6】実施例1における第五の状況での電力需給を示す図である。
【図7】実施例3における第一の状況での電力需給を示す図である。
【図8】車両の種類と運転状態に応じた本発明の車両別動作をまとめた例を示す図である。
【図9】本発明の実施例1または3の機器構成例を示す図である。
【図10】本発明の実施例1または3の他の機器構成例を示す図である。
【図11】本発明の図1に示す機器構成例における制御構成の一実施例を示す図である。
【図12】本発明の車両の電力蓄積手段の動作判別フローチャートの一実施例を示す図である。
【図13】本発明の実施例1または3の機器構成例を示す図である。
【図14】本発明の図13に示す機器構成例における制御構成例の一実施例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明していく。
【実施例1】
【0020】
図1は本発明の実施例1における第一の状況での電力需給を示す図である。
【0021】
連続した電車線2は図示しない地上の給電設備より電力を給電し、車両1A,車両1B,車両1Cは連続した同一の給電区間にある電車線2のある軌道6の区間にある。車両1Aは電車線2の電力を集電装置4Aによって受電し、集電装置4Aによって受電した電力を車両の駆動用電力として走行する。
【0022】
図1では車両1Aは回生ブレーキによる制動運転中であり、この制動時には回生ブレーキによる回生電力を集電装置4Aによって電車線2へ電力を戻す。このとき車両1Aは回生ブレーキをかけたときに、例えば電車線2の電圧が所定の値以上であり、回生ブレーキ運転中であるという所定の条件を満たしていれば、車両1Aは車両情報伝達装置13Aより車両情報信号12Aを出力する。
【0023】
ここで車両情報信号12Aは例えば回生吸収要求信号等の他車への回生電力の吸収要求を意味する情報を含んでいる。車両1Bおよび車両1Cは、電車線2の電力を集電装置4B,4Cによって受電し、集電装置4B,4Cによって受電した電力を車両の駆動用電力として走行する。また、車両1B,1Cには電力蓄積手段3B,3Cを搭載しており、集電装置4B,4Cよりとりこんだ電力を電力蓄積手段3B,3Cにて吸収し蓄電する。
【0024】
図1では車両1Bは惰行運転中で、車両1Cは駅5に停車中であり、車両情報伝達装置13B,13Cは車両1Aから送信された車両情報信号12Aを車両情報伝達線14を介して車両情報信号12B,12Cとして受信する。車両情報信号12の伝達には、車両情報伝達線14として路線に通信回線などのアンテナ線等を敷設し、これを用いて行うようにしてもよい。このとき車両1B,1Cは、例えば電車線2の電圧が所定の値以上であり、車両1B,1Cが惰行中または停車中であるという所定の条件を満たしていれば電力蓄積手段3B,3Cへの充電動作を開始する。
【0025】
これにより車両1Aの回生電力を車両1B,1Cの電力蓄積手段によって吸収することができる。このとき電気エネルギの流れ11のように、車両1Aから車両1B,1Cの方向に電気エネルギが流れる。自車の回生電力を他車の電力蓄積手段で吸収可能とすることで、自車の回性電力を力行電力として負担する他車がいないときでも車両間の情報をやりとりし、回生電力を吸収する相手を同じタイミングで作ることにより、電車線2の電圧上昇を抑制し、電車線2電圧の上昇に伴う電気車のブレーキロスを低減することができる。
【0026】
車両情報信号12の伝達には、例えば図1に示すように、車両情報伝達線14として路線に通信回線などのアンテナ線等を敷設し、これを用いて行うようにしてもよい。
【0027】
また図1では車両1B惰行運転中、車両1Cは駅5に停車中の場合を示しているが、車両1B,1Cは惰行運転,停車の何れの状態であってもよい。ここでは、車両1Aと車両1B,1Cの3つの車両間の電力需給について記述しているが、例えば車両1B,1Cのような車両が3つ以上あり、電力蓄積手段による回生電力の吸収を行う車両が多数ある場合や、車両1Aのような回生電力の補足を要求する車両が2つ以上あるように、より複数の車両で電力需給を行ってもよい。
【0028】
なお、電車線2の抵抗に起因する送電ロス低減させるために、電力の需給は、できるだけ近傍の車両間で行うのが望ましい。これには例えば図1に示すように、車両情報伝達線14の通信可能範囲をL1に設定して、この範囲内で通信できる車両間同士で車両情報の伝達を行って、車両間の電力需給を行う方式としてもよい。あるいは、車両情報伝達線L1内の情報を基地局P17Aにて操作することにより、車両情報信号を最も近傍の車両間同士で送受信する(図1の場合には車両Aの車両情報信号12Aを車両Bにのみ車両情報信号12Bとして送信する)ことで、送電ロスを極力低減する方式としてもよい。基地局の詳細な機能については後述する。
【0029】
図3は本発明の実施例1における第二の状況での電力需給を示す図である。
【0030】
図3は図1の実施形態において、車両1Bが電力蓄積手段を搭載していない場合を示しており、車両1A,1Cの機器構成と走行状態は図1と同様である。
【0031】
図3では車両1Bは惰行運転中で、車両1Cは駅5に停車中であり、車両情報伝達装置13B,13Cは車両1Aから送信された車両情報信号12Aを車両情報伝達線14を介して車両情報信号12B,12Cとして受信する。このとき車両1Cは、例えば電車線2の電圧が所定の値以上であり、車両1Cが惰行中または停車中であるという所定の条件を満たしていれば電力蓄積手段3Cへの充電動作を開始する。これにより車両1Aの回生電力を車両1Cの電力蓄積手段によって吸収することができる。車両1Bは、電力蓄積手段を有していないため、回生吸収動作は行わないため、電気エネルギは電気エネルギの流れ11のように車両1Aから車両1Cへ流れることとなる。
【0032】
図4は本発明の実施例1における第三の状況での電力需給を示す図である。
【0033】
図4は図1の実施形態において、車両1Bが力行運転している場合を示しており、車両1A,1Cの機器構成と走行状態は図1と同様である。
【0034】
図4では車両1Bは力行運転中で、車両1Cは駅5に停車中であり、車両情報伝達装置13B,13Cは車両1Aから送信された車両情報信号12Aを車両情報伝達線14を介して車両情報信号12B,12Cとして受信する。このとき車両1Cは、例えば電車線2の電圧が所定の値以上であり、車両1Cが惰行中または停車中であるという所定の条件を満たしていれば電力蓄積手段3Cへの充電動作を開始する。これにより車両1Aの回生電力を車両1Cの電力蓄積手段によって吸収することができる。車両1Bは、力行運転中のため、車両1Aの回生電力の一部または大半を駆動用電力として消費する。これと同時に車両1Cでの回生吸収動作が行われるため、電気エネルギは電気エネルギの流れ11のように車両1Aから車両1B,1Cへ流れることとなる。
【0035】
図5は本発明の実施例1における第四の状況での電力需給を示す図である。
【0036】
図5は図1の実施形態において、車両1Aが力行運転している場合を示しており、車両1A,1Cの機器構成と走行状態は図1と同様である。
【0037】
図5では車両1Aは力行運転中であり、このとき車両1Aは力行運転時に、例えば電車線2の電圧が所定の値以下であり、力行運転中であるという所定の条件を満たしていれば、車両1Aは車両情報伝達装置13Aより車両情報信号12Aを出力する。ここで車両情報信号12Aは、例えば力行電力要求信号等の他車への力行電力供給の要求を意味する情報を含んでいる。
【0038】
図5では車両1Bは惰行運転中で、車両1Cは駅5に停車中であり、車両情報伝達装置13B,13Cは車両1Aから送信された車両情報信号12Aを車両情報伝達線14を介して車両情報信号12B,12Cとして受信する。このとき車両1B,1Cは、例えば電車線2の電圧が所定の値以下であり、車両1B,1Cが停車中または惰行中であるという所定の条件を満たしていれば電力蓄積手段3B,3Cの放電動作を開始し、集電装置4B,4Cを介して電車線2へ電力を送る。これにより車両1Aの駆動電力を車両1B,1Cの電力蓄積手段によって供給することができる。
【0039】
このときの電気エネルギは、図5の流れ11のように車両1B,1Cから車両1Aへ電気エネルギが流れる。このように車両間で車両情報をやりとりし、自車の力行電力を他車の電力蓄積手段から供給可能とし、電力供給のタイミングを合わせることにより、電車線2の電圧降下を抑制し、電車線2電圧の降下に伴う電気車の駆動電力不足を低減することができる。
【0040】
図6は本発明の実施例1における第五の状況での電力需給を示す図である。
【0041】
図6は図1の実施形態において、車両1Aが電力蓄積手段を搭載している場合を示しており、車両1A,1Cの機器構成と走行状態は図1と同様である。
【0042】
図6に示す状況では、車両1Aは、回生ブレーキによる制動運転中であり、この制動時には回生ブレーキによる回生電力を集電装置4Aによって電車線2へ電力を戻す。さらに電力蓄積手段3Aを充電制御して回生電力を吸収する。ここで車両1Aは回生ブレーキをかけたときに、例えば電車線2の電圧が所定の値以上であり、回生ブレーキ運転中であり、電力蓄積手段3Aの蓄電量が所定の値以上という所定の条件を満たしていれば、車両1Aは車両情報伝達装置13Aより車両情報信号12Aを出力する。ここで車両情報信号12Aは例えば回生吸収要求信号等の他車への回生電力の吸収要求を意味する情報を含んでいる。
【0043】
車両1Bは惰行運転中で、車両1Cは駅5に停車中であり、車両情報伝達装置13B,13Cは車両1Aから送信された車両情報信号12Aを車両情報伝達線14を介して車両情報信号12B,12Cとして受信する。このとき車両1B,1Cは、例えば電車線2の電圧が所定の値以上であり、車両1B,1Cが停車あるいは惰行運転中であるという所定の条件を満たしていれば電力蓄積手段3B,3Cへの充電動作を開始する。これにより車両1Aの回生電力を自車車両1Aの電力蓄積手段3Aに加え車両1B,1Cの電力蓄積手段3B,3Cによって吸収することができる。このとき電気エネルギは、図6に示す流れ11のように車両1Aから車両1B,1Cへ電気エネルギが流れる。
【0044】
このように、自車の回生電力を自車及び他車の電力蓄積手段3A,3B,3Cで吸収可能とすることで、回生電力を負担する相手がなく、自車の電力蓄積手段で回生電力を全て吸収することができないような場合でも、車両間で車両情報をやりとりし、回生電力を吸収する相手を同じタイミングで作ることにより、電車線2の電圧上昇を抑制し、電車線2電圧の上昇に伴う電気車のブレーキロスを低減することができる。
【0045】
このように回生電力を自車の電力蓄積手段と他車の電力蓄積手段とで分散して吸収できれば、回生電力を発生する車両に搭載する電力蓄積手段の容量を低減でき、搭載する電力蓄積手段を小型,軽量化できる。
【0046】
また、図6では車両1B惰行運転中、車両1Cは駅5に停車中の場合を示しているが、車両1B,1Cは惰行運転,停車の何れの状態であってもよい。
【0047】
なお、本実施例では、車両1Aと車両1B,1Cの3つの車両間の電力需給について記述しているが、例えば車両1B,1Cのような回生電力を吸収する車両が3つ以上あり、電力蓄積手段による回生電力の吸収を行う車両が多数ある場合や、車両1Aのような回生電力の吸収補足を要求する車両が2つ以上ある場合のように、図6に示す車両数よりも多くの車両間で電力需給を行ってもよい。このように回生電力を吸収する電力蓄積手段を自車の電力蓄積手段と他車の電力蓄積手段とに分散できれば、車両に搭載する電力蓄積手段の容量を低減でき、搭載する電力蓄積手段を小型,軽量化できる。
【実施例2】
【0048】
図2は本発明の実施例2における第一の状況での電力需給を示す図である。
【0049】
図2に示す実施例2は、各車両の間で車両情報信号を送受信しない点において実施例1と相違し、車両情報信号に関する機器構成以外は、図1と同様である。
【0050】
図2では車両1Aは回生ブレーキ中であり、車両1Bは惰行運転中で、車両1Cは駅5に停車中である。このとき車両1B,1Cは、例えば電車線2の電圧が所定の値以上であり、車両1B,1Cが惰行中または停車中であるという所定の条件を満たしていれば電力蓄積手段3B,3Cへの充電動作を開始する。
【0051】
これにより車両1Aの回生電力を車両1B,1Cの電力蓄積手段によって吸収することができる。このとき電気エネルギの流れ11のように、車両1Aから車両1B,1Cの方向に電気エネルギが流れる。自車の回生電力を他車の電力蓄積手段で吸収可能とすることで、自車の回性電力を力行電力として負担する他車がいないときでも、回生電力を吸収する相手を同じタイミングで作ることにより、電車線2の電圧上昇を抑制し、電車線2電圧の上昇に伴う電気車のブレーキロスを低減することができる。
【0052】
また図2では車両1B惰行運転中、車両1Cは駅5に停車中の場合を示しているが、車両1B,1Cは惰行運転,停車の何れの状態であってもよい。図1と同様に、車両1Aと車両1B,1Cの3つの車両間の電力需給について記述しているが、例えば車両1B,1Cのような車両が3つ以上あり、電力蓄積手段による回生電力の吸収を行う車両が多数ある場合や、車両1Aのような回生電力の補足を要求する車両が2つ以上あるように、より複数の車両で電力需給を行ってもよい。
【0053】
本実施形態では、車両情報伝達線14などを介した車両間の情報のやり取りを行わなくても電車線2の電圧を監視することにより、他車で回生吸収動作を行うことができ、本発明を簡易的な構成で実施することが可能となるため、設備コストを抑えることができる。特に回生電力を吸収する車両1B,1Cの回生吸収動作のタイミングを合わせ、また電車線の電圧検出によらずに回生吸収側の動作を可能とし、また近傍の車両と電力需給を行うためには、先に示した図1の実施形態を採用する必要がある。
【0054】
図2では、車両1Aの回生電力を車両1B,1Cの電力蓄積手段によって吸収する例について説明したが、車両1Aが力行または停車・惰行運転中である場合に、車両1Aの力行電力または補助機器で必要となる電力を車両1B,1Cの電力蓄積手段から供給することも可能である。この場合は、車両1B,1Cは、例えば力行電力要求信号を受信し、電車線2の電圧が所定の値以下であり、車両1B,1Cが惰行中または停車中であるという所定の条件を満たしていれば電力蓄積手段3B,3Cへの放電動作を開始する。
【実施例3】
【0055】
図7は本発明の実施例3における第一の状況での電力需給を示す図である。
【0056】
図7に示す実施例3は、各車両の間での車両情報信号の送受信を無線により行う点において実施例1と相違し、無線通信に関する機器構成以外は、図1と同様である。本実施例では、図1にて説明した車両情報伝達装置13A,13B,13Cの代わりに車両情報伝達用アンテナ15A,15B,15Cを用いて無線によって車両情報信号12A,12B,12Cを送受信する例を示している。
【0057】
図7に示す状況では、車両1Aは回生ブレーキによる制動運転中であり、この制動時には回生ブレーキによる回生電力を集電装置4Aによって電車線2へ電力を戻す。このとき車両1Aは回生ブレーキをかけたときに、例えば電車線2の電圧が所定の値以上であり、回生ブレーキ運転中であるという所定の条件を満たしていれば、車両1Aは車両情報伝達用アンテナ15Aから基地局S17Bへ車両情報信号12Aを出力する。ここで車両情報信号12Aは例えば回生吸収要求信号等の他車への回生電力の吸収要求を意味する情報を含んでいる。
【0058】
図7では車両1Bは惰行運転中で、車両1Cは駅5に停車中であり、車両情報伝達装置13B,13Cは車両1Aから送信された車両情報信号12Aを基地局S17Bを介して車両情報信号12B,12Cとして受信する。このとき車両1B,1Cは、例えば電車線2の電圧が所定の値以上であり、車両1B,1Cが惰行中または停車中であるという所定の条件を満たしていれば電力蓄積手段3B,3Cへの充電動作を開始する。これにより車両1Aの回生電力を車両1B,1Cの電力蓄積手段によって吸収することができる。
【0059】
このとき電気エネルギは、図7の流れ11のように車両1Aから車両1B,1Cへ電気エネルギが流れる。このように自車の回生電力を他車の電力蓄積手段にて吸収可能とすることで、自車の回生電力を負担する相手がいないときでも車両間の情報をやりとりし、回生電力を吸収する相手を同じタイミングで作ることにより、電車線2の電圧上昇を抑制し、電車線2電圧の上昇に伴う電気車のブレーキロスを低減することができる。
【0060】
電車線2の抵抗に起因する送電ロス低減させるために、電力の需給は、できるだけ近傍の車両間で行うのが望ましい。そのため、車両情報電波送受信範囲16内の情報を基地局S17Bにて操作することにより、車両情報信号を最も近傍の車両間同士で行う(図7の場合には、例えば、車両Aの車両情報信号12Aを車両Bにのみ車両情報12Bとして送信する)ことで、送電ロスを極力低減することが可能となる。基地局の詳細な機能については後述する。
【0061】
図7では、車両1Aの回生電力を車両1B,1Cの電力蓄積手段によって吸収する例について説明したが、車両1Aが力行または停車・惰行運転中である場合に、車両1Aの力行電力または補助機器で必要となる電力を車両1B,1Cの電力蓄積手段から供給することも可能である。この場合は、車両1B,1Cは、例えば電車線2の電圧が所定の値以下であり、車両1B,1Cが惰行中または停車中であるという所定の条件を満たしていれば電力蓄積手段3B,3Cへの放電動作を開始する。
【0062】
図8は、車両の種類(電力蓄積手段の搭載の有無)と運転状態(回生,力行,停車・惰行)に応じた本発明の車両別動作をまとめた例を示す図である。図8に示す動作の決定方法は、上述した図1〜図7の各実施例に適用することが可能である。
【0063】
図8では6つのケース1a,1b,1c,2a,2b,2cについて示している。A車両とB車両の2車両間で電車線を介して電力需給を行う場合の、A車両およびB車両の電力蓄積手段の有無と運転状態によってケースを分類し、各分類におけるA車両とB車両の電力蓄積手段の動作状態(回生電力の吸収を行うか、電力供給を行うか)を示している。B車両は、全ケースにおいて、電力蓄積手段を搭載しており、運転状態は停車あるいは惰行中である。また、B車両では、後述する回生吸収条件が成立しているものとする。
【0064】
ケース1aは、A車両の電力蓄積手段がなくA車両の運転状態が回生ブレーキ運転の場合である。このときB車両の電力蓄積手段は充電動作を行って、A車両の回生電力の吸収を行う回生吸収動作を行う。これにより、A車両の回生電力をB車両の電力蓄積手段によって吸収することができ、電車線の電圧上昇を抑制し、電車線電圧の上昇に伴う電気車のブレーキロスを低減することができる。ただし、B車両の電力蓄積手段の充電量SOC_BがB車両の電力蓄積手段の充電可能限界SOC_MAより大きい場合は、過充電となるため充電動作を行わない。
【0065】
ケース1bは、A車両の電力蓄積手段がなくA車両の運転状態が停車中あるいは惰行運転中の場合である。このときB車両の電力蓄積手段は放電動作を行って、A車両の停車あるいは惰行中のサービス機器等に消費する補機電力の供給を行う電力供給動作を行う。これにより、A車両の補機電力をB車両の電力蓄積手段によって供給することができ、車両間の電力蓄積手段のみによる電力需給を行うことにより電車線に電力を供給する外部電源電力に依らないため省エネ効果が図れ、また電車線の電圧降下を抑制し、電車線電圧降下に伴う電気車の駆動電力不足の低減を図ることができる。ただし、B車両の電力蓄積手段の充電量SOC_BがB車両の電力蓄積手段の放電可能限界SOC_MIより小さい場合は、過放電となるため放電動作を行わない。
【0066】
ケース1cは、A車両の電力蓄積手段がなくA車両の運転状態が力行運転中の場合である。このときB車両の電力蓄積手段は放電動作を行って、A車両の力行運転のための駆動電力の供給を行う電力供給動作を行う。これにより、A車両の駆動電力をB車両の電力蓄積手段によって供給することができ、車両間の電力蓄積手段のみによる電力需給を行うことにより電車線に電力を供給する外部電源電力に依らないため省エネ効果が図れ、また電車線の電圧降下を抑制し、電車線電圧降下に伴う電気車の駆動電力不足の低減を図ることができる。ただし、B車両の電力蓄積手段の充電量SOC_BがB車両の電力蓄積手段の放電可能限界SOC_MIより小さい場合は、過放電となるため放電動作を行わない。
【0067】
ケース2aは、A車両に電力蓄積手段がありA車両の運転状態が回生ブレーキ運転の場合である。このときA車両の電力蓄積手段は充電動作を行って、自車であるA車両の回生電力の吸収を行うと同時に、他車であるB車両の電力蓄積手段も充電動作を行って、A車両の回生電力の吸収を行う回生吸収動作を行う。これにより、A車両の回生電力を自車であるA車両の電力蓄積手段とB車両の電力蓄積手段によって吸収することができ、回生吸収負荷を増やすことができ、電車線の電圧上昇を抑制し、電車線電圧の上昇に伴う電気車のブレーキロスをさらに低減することができる。このように回生電力を自車の電力蓄積手段と他車の電力蓄積手段とに分散できれば、車両に搭載する電力蓄積手段の容量を低減でき、搭載する電力蓄積手段を小型,軽量化できる。ただし、A車両の電力蓄積手段の充電量SOC_A、B車両の電力蓄積手段の充電量SOC_Bが電力蓄積手段の充電可能限界SOC_MAより大きい場合は、過充電となるため充電動作を行わない。
【0068】
ケース2bは、A車両に電力蓄積手段がありA車両の運転状態が停車中あるいは惰行運転中の場合である。このときA車両の電力蓄積手段は放電動作を行って、自車であるA車両の停車あるいは惰行中のサービス機器等に消費する補機電力の供給を行うと同時に、B車両の電力蓄積手段は放電動作を行って、A車両の補機電力の供給を行う電力供給動作を行う。これにより、A車両の補機電力を自車であるA車両の電力蓄積手段とB車両の電力蓄積手段によって供給することができ、自車内あるいは車両間の電力蓄積手段のみによる電力需給を行うことにより電車線に電力を供給する外部電源電力に依らないため省エネ効果が図れ、また電車線の電圧降下を抑制し、電車線電圧降下に伴う電気車の駆動電力不足の低減を図ることができる。ただし、A車両の電力蓄積手段の充電量SOC_A、B車両の電力蓄積手段の充電量SOC_Bが電力蓄積手段の放電可能限界SOC_MIより小さい場合は、過放電となるため放電動作を行わない。
【0069】
ケース2cは、A車両に電力蓄積手段がありA車両の運転状態が力行運転中の場合である。このときA車両の電力蓄積手段は放電動作を行って、自車であるA車両の力行用の駆動電力の供給を行うと同時に、B車両の電力蓄積手段は放電動作を行って、A車両の力行運転のための駆動電力の供給を行う電力供給動作を行う。これにより、A車両の駆動電力を自車であるA車両の電力蓄積手段とB車両の電力蓄積手段によって供給することができ、車両間の電力蓄積手段のみによる電力需給を行うことにより電車線に電力を供給する外部電源電力に依らないため省エネ効果が図れ、また電車線の電圧降下を抑制し、電車線電圧降下に伴う電気車の駆動電力不足の低減を図ることができる。ただし、A車両の電力蓄積手段の充電量SOC_A、B車両の電力蓄積手段の充電量SOC_Bが電力蓄積手段の放電可能限界SOC_MIより小さい場合は、過放電となるため放電動作を行わない。
【0070】
図9は車両情報伝送装置を有する実施例の車両Aが電力蓄積手段を搭載していない場合における本発明の機器構成例を示す図である。
【0071】
車両A1Aの集電装置4Aから給電した直流電流は、フィルタリアクトル21A、およびフィルタコンデンサ24Aで構成するLC回路(フィルタ回路)により高周波数域の変動分を除去した後、インバータ装置22Aに入力する。インバータ装置22Aは、入力された直流電力を可変電圧可変周波数(VVVF)の3相交電力に変換して、交流電動機23Aを駆動する。なお、ここではインバータ装置22Aが駆動する主電動機が2台の場合を示しているが、インバータ装置22Aが駆動する主電動機の台数は限定しない。電圧センサ26Aは、フィルタコンデンサ24Aの両端の直流部電圧Ecf_Aを検出する。電流センサ30A,30B,30Cは、インバータ装置22Aと、交流電動機23Aの間の3相交流電力線を流れる電流を各相毎に検出して、インバータ装置22Aに入力する。接地点25Aはこの回路の基準電位を決めている。
【0072】
制御装置31Aは、インバータ装置22Aの回生電力P_inv_A、電圧センサ26Aの電圧検出値Ecf_Aを入力とし、車両情報伝達装置32AにA車両の車両情報としてA車両の回生吸収要求信号ReqS_Aaを出力する。車両情報伝達装置32Aは他車の車両情報伝達装置と通信を行う。ここでは車両情報伝達装置32AはB車両の車両情報伝達装置32BにA車両の車両情報DATA_0を送信する。
【0073】
B車両1Bの集電装置4Bから給電した直流電流は、フィルタリアクトル21B、およびフィルタコンデンサ24Bで構成するLC回路(フィルタ回路)により高周波数域の変動分を除去した後、インバータ装置22Bに入力する。インバータ装置22Bは、入力された直流電力を可変電圧可変周波数(VVVF)の3相交電力に変換して、交流電動機23Bを駆動する。なお、ここではインバータ装置22Bが駆動する主電動機が2台の場合を示しているが、インバータ装置22Bが駆動する主電動機の台数は限定しない。電圧センサ26Bは、フィルタコンデンサ24Bの両端の直流部電圧Ecf_Bを検出する。電流センサ30D,30E,30Fは、インバータ装置22Bと、交流電動機23Bの間の3相交流電力線を流れる電流を各相毎に検出して、インバータ装置22Bに入力する。接地点25Bはこの回路の基準電位を決めている。
【0074】
スイッチング素子27C,27Dは、前述の集電装置4Bおよび接地点25Bとインバータ装置22Bの間にある直流電力部のうち、高電位側と低電位側の間に直列配置する。電圧センサ26Dは平滑リアクトル29Bと電流センサ30Hの電力間に配置して、後述の電力蓄積手段3Bの端子間電圧Vb_Bを検出する。なお、電圧センサ26Dは平滑リアクトル29B,電流センサ30Hの電力線間に配置しているが、これは電力蓄積手段3Bと平滑リアクトル29Bの電力線間に配置しても、電力蓄積手段3Bの端子間電圧Vb_Bを検出できる。
【0075】
制御装置31Bは、インバータ装置22Bの回生電力P_inv_B、電圧センサ26Bの電圧検出値Ecf_B、電圧センサ26Dの電圧検出値Vb_B、電流センサ30Hの電流検出値Ib_Bを入力とし、ゲートアンプ28C,28Dにスイッチング素子27C,27Dのオン/オフを指令するゲートパルス信号GP1_B,GP2_Bを出力する。ゲートアンプ28C,28Dは、ゲートパルス信号GP1_B,GP2_Bを入力とし、これを基にスイッチング素子27C,27Dをオン/オフ可能な電圧制御信号に変換し、スイッチング素子27C,27Dをオン/オフ制御する。電圧センサ26Dは後述の電力蓄積手段3Bの端子間電圧を検出する。電流センサ30Hは、後述の電力蓄積手段3Bに入出力する電流を検出する。
【0076】
電力蓄積手段3Bとしては、鉄道車両の回生電力量を負担でき、力行電力量を供給できる蓄電量を小容量で実現することが要求され、単位面積あたりの蓄電能力が高いリチウムイオン電池などで構成することが望ましい。
【0077】
電力蓄積手段3Bの充放電制御は、スイッチング素子27Cまたは27Dを周期的にオン/オフすることで実現する。この充放電制御において、平滑リアクトル29Bは、電力蓄積手段3Bに通流する電流の変化率を所定値内に抑えるように設計される。
【0078】
まずスイッチング素子27Dを周期的にオン/オフすることにより、電力蓄積手段3Bの電力を放電する制御について説明する。
【0079】
前述のスイッチング素子27Dを所定時間Ton_bだけオンすると、電力蓄積手段3Bの出力端子間は短絡されるが、平滑リアクトル29Bは、電流増加率を一定値内抑えると同時に、Ton_bの期間に通流した電流と、電力蓄積手段3Bの端子電圧の積を時間積分した電力エネルギを蓄える。その後、スイッチング素子27Dを所定時間Toft_bだけオフすると、直流電力部側に平滑リアクトル29Bに蓄えられた電力エネルギは、スイッチング素子27Cのダイオード部を介して、前述の集電装置4Bおよび接地点25Bとインバータ装置22Bの間にある直流電力部側に放出される。このとき、直流電力側で得られる電圧値Ecf_Bは、電力蓄積手段3Bの端子電圧Vb_Bを基準として、前述のスイッチング素子27Dをオンする時間Ton_bと、オフする時間Toft_bの比率から次式で決定する。
【0080】
Ecf_B=Vb_B×((Ton_b+Toft_b)/Toft_b) …式1
次に、スイッチング素子27Cを周期的にオン/オフすることにより、電力蓄積手段3Bに電力を充電する制御について説明する。
【0081】
前述のスイッチング素子27Cを所定時間Ton_aだけオンすると、前述の集電装置4Bおよび接地点25Bとインバータ装置22Bの間にある直流電力部の、接地点25Bとインバータ装置22Bの間にある直流電力部の、接地点25Bに対する電位Ecf_Bが、電力蓄積手段3Bの端子間電圧(接地点25Bに対する電位)Vb_Bよりも高いとき(Ecf_B>Vb_B)、直流電力部から電力蓄積手段3Bの向きに電流が流れる。このとき、平滑リアクトル29Bは、その電流増加率を一定値内に抑えると同時に、Ton_aの期間に通流した電流と、電力蓄積手段3Bの端子電圧の積を時間積分した電力エネルギを蓄える、その後、スイッチング素子27Cを所定時間Toft_aだけでオフすると、直流電力部側に平滑リアクトル29Bに蓄えられた電力エネルギは、電力蓄積手段3Bの高電位側端子から、低電位側端子に抜け、スイッチング素子27Dのダイオード部を経て、平滑リアクトル29Bに戻る一巡の回路が構成される。すなわち、スイッチング素子27Cを所定時間Toft_aだけオフしている期間は、平滑リアクトル29Bに蓄えられた電力エネルギが放出されるに従い、放電電流は減衰していく。このとき、電力蓄積手段3Bで得られる端子間電圧値Vb_Bは、直流電力側Ecf_Bを基準として、前述のスイッチング素子27Cをオンする時間Ton_aとオフする時間Toft_aの比率から次式で決定する。
【0082】
Vb_B=Ecf_B×(Ton_a/(Ton_a+Toft_a)) …式2
以上の構成により、電圧センサ26Bの直流電圧検出値Ecf_Bの値を制御装置31Bで監視し、Ecf_Bの検出値および電力蓄積手段の充放電を行う所定の条件を満たしていれば、電流センサ30Hの電流検出値Ib_Bを、所定の充電電流指令値Ibp_B(図示しない)に追従するように、ゲートアンプ28C,28Dの出力であるゲートパルス信号GP1_B…GP2_Bを制御して、スイッチング素子27C,27Dを駆動できる。
【0083】
制御装置31Bは、インバータ装置22Bの回生電力P_inv_B、電圧センサ26Bの電圧検出値Ecf_B、車両情報伝達装置32BよりA車両の車両情報としてA車両の回生吸収要求信号ReqS_Abを入力する。A車両の回生吸収要求信号ReqS_Abは車両情報伝達装置32Aから32Bに送信されたA車両間の車両情報DATA_0に含まれた情報信号である。
【0084】
以上の構成により、以下の動作を実現する。
【0085】
A車両の回生ブレーキ中に電圧センサ26Aの検出値Ecf_Aが所定の値以上となった場合に、回生電力を吸収する相手が少なくなり、軽負荷の状態となったことを判断し、制御装置31Aより回生吸収要求信号ReqS_Aaを車両情報伝達装置32Aを送信する。車両情報伝達装置32AよりB車両の車両情報伝達装置32Bへ回生吸収要求信号ReqS_Aaを含むA車両の車両情報Data_0が送信され車両情報伝達装置32Bは車両情報Data_0を受信する。車両情報伝達装置32BはB車両の制御装置31Bへ回生吸収要求信号ReqS_Abを送信し、制御装置31Bは回生吸収要求信号ReqS_Abを受信する。制御装置31Bは、回生吸収要求信号ReqS_Abを受信しているとき、電圧センサ26Bの直流電圧検出値Ecf_Bの値が所定の値以上で、B車両の運転状態が停車中あるいは惰行中であり、電力蓄積手段3Bの蓄電量が所定の値以下であれば、電流センサ30Hの電流検出値Ib_Bを、所定の充電電流指令値Ibp_B(図示しない)に追従するように、ゲートアンプ28C,28Dの出力であるゲートパルス信号GP1_B,GP2_Bを制御して、スイッチング素子27C,27Dを駆動し、電力蓄積手段3Bに電力を充電する制御を行う。この動作により、A車両の回生電力はB車両の電力蓄積手段3Bの充電電力として吸収される。これにより、A車両の回生電力をB車両の電力蓄積手段によって吸収することができ、電車線2の電圧上昇を抑制し、電車線電圧の上昇に伴う電気車のブレーキロスを低減することができる。
【0086】
ここで、図2に示すような車両情報伝送装置を有さない実施例の機器構成は、図9から車両情報伝送装置を取り除いた構成となる。この際の電力蓄積手段3Bの動作決定は、下記のように回生吸収要求信号を用いずに行われる。
【0087】
つまり、電圧センサ26Bの直流電圧検出値Ecf_Bの値が所定の値以上で、B車両の運転状態が停車中あるいは惰行中であり、電力蓄積手段3Bの蓄電量が所定の値以下であることを条件として、電流センサ30Hの電流検出値Ib_Bを、所定の充電電流指令値Ibp_B(図示しない)に追従するように、ゲートアンプ28C,28Dの出力であるゲートパルス信号GP1_B,GP2_Bを制御して、スイッチング素子27C,27Dを駆動し、電力蓄積手段3Bに電力を充電する制御を行う。
【0088】
図10は車両情報伝送装置を有する実施例の車両Aが電力蓄積手段を有するケース(図8のケース2a,2b,2c)における本発明の機器構成例を示す図である。
【0089】
図10と図9の機器構成の相違点を以下に説明する。図10と図9で共通する構成については説明を省略する。
【0090】
スイッチング素子27A,27Bは、前述の集電装置4Aおよび接地点25Aとインバータ装置22Aの間にある直流電力部のうち、高電位側と低電位側の間に直列配置する。電圧センサ26Cは平滑リアクトル29Aと電流センサ30Gの電力間に配置して、後述の電力蓄積手段3Aの端子間電圧Vb_Aを検出する。なお、電圧センサ26Cは平滑リアクトル29A,電流センサ30Gの電力線間に配置しているが、これは電力蓄積手段3Aと平滑リアクトル29Aの電力線間に配置しても、電力蓄積手段3Aの端子間電圧Vb_Aを検出できる。
【0091】
制御装置31Aは、インバータ装置22Aの回生電力P_inv_A、電圧センサ26Aの電圧検出値Ecf_Aを入力とし、車両情報伝達装置32AにA車両の車両情報としてA車両の回生吸収要求信号ReqS_Aaを出力する。車両情報伝達装置32Aは他車の車両情報伝達装置と通信を行う。ここでは車両情報伝達装置32AはB車両の車両情報伝達装置32BにA車両の車両情報DATA_0を送信する。
【0092】
電力蓄積手段3Aとしては、鉄道車両の回生電力量を負担でき、力行電力量を供給できる蓄電量を小容量で実現することが要求され、単位面積あたりの蓄電能力が高いリチウムイオン電池などで構成することが望ましい。
【0093】
電力蓄積手段3Aの充放電制御は、スイッチング素子27Aまたは27Bを周期的にオン/オフすることで実現する。この充放電制御において、平滑リアクトル29Aは、電力蓄積手段3Aに通流する電流の変化率を所定値内に抑えるように設計される。
【0094】
まずスイッチング素子27Bを周期的にオン/オフすることにより、電力蓄積手段3Aの電力を放電する制御について説明する。
【0095】
前述のスイッチング素子27Bを所定時間Ton_bAだけオンすると、電力蓄積手段3Aの出力端子間は短絡されるが、平滑リアクトル29Aは、電流増加率を一定値内抑えると同時に、Ton_bAの期間に通流した電流と、電力蓄積手段3Aの端子電圧の積を時間積分した電力エネルギを蓄える。その後、スイッチング素子27Bを所定時間Toft_bAだけオフすると、直流電力部側に平滑リアクトル29Aに蓄えられた電力エネルギは、スイッチング素子27Aのダイオード部を介して、前述の集電装置4Aおよび接地点25Aとインバータ装置22Aの間にある直流電力部側に放出される。このとき、直流電力側で得られる電圧値Ecf_Aは、電力蓄積手段3Aの端子電圧Vb_Aを基準として、前述のスイッチング素子27Bをオンする時間Ton_bAと、オフする時間Toft_bAの比率から次式で決定する。
【0096】
Ecf_A=Vb_A×((Ton_bA+Toft_bA)/Toft_bA)…式3
次に、スイッチング素子27Aを周期的にオン/オフすることにより、電力蓄積手段3Aに電力を充電する制御について説明する。
【0097】
前述のスイッチング素子27Aを所定時間Ton_aAだけオンすると、前述の集電装置4Aおよび接地点25Aとインバータ装置22Aの間にある直流電力部の、接地点25Aとインバータ装置22Aの間にある直流電力部の、接地点25Aに対する電位Ecf_Aが、電力蓄積手段3Aの端子間電圧(接地点25Aに対する電位)Vb_Aよりも高いとき(Ecf_A>Vb_A)、直流電力部から電力蓄積手段3Aの向きに電流が流れる。このとき、平滑リアクトル29Aは、その電流増加率を一定値内に抑えると同時に、Ton_aAの期間に通流した電流と、電力蓄積手段3Aの端子電圧の積を時間積分した電力エネルギを蓄える、その後、スイッチング素子27Aを所定時間Toft_aAだけでオフすると、直流電力部側に平滑リアクトル29Aに蓄えられた電力エネルギは、電力蓄積手段3Aの高電位側端子から、低電位側端子に抜け、スイッチング素子27Bのダイオード部を経て、平滑リアクトル29Aに戻る一巡の回路が構成される。すなわち、スイッチング素子27Aを所定時間Toft_aAだけオフしている期間は、平滑リアクトル29Aに蓄えられた電力エネルギが放出されるに従い、放電電流は減衰していく。このとき、電力蓄積手段3Aで得られる端子間電圧値Vb_Aは、直流電力側Ecf_Aを基準として、前述のスイッチング素子27Aをオンする時間Ton_aAとオフする時間Toft_aAの比率から次式で決定する。
【0098】
Vb_A=Ecf_A×(Ton_aA/(Ton_aA+Toft_aA)) …式4
以上の構成により、電圧センサ26Aの直流電圧検出値Ecf_Aの値を制御装置31Aで監視し、Ecf_Aの検出値および電力蓄積手段の充放電を行う所定の条件を満たしていれば、電流センサ30Gの電流検出値Ib_Aを、所定の充電電流指令値Ibp_A(図示しない)に追従するように、ゲートアンプ28A,28Bの出力であるゲートパルス信号GP1_A,GP2_Aを制御して、スイッチング素子27A,27Bを駆動できる。
【0099】
B車両の機器構成は、図9と同一である。以上の構成により、以下の動作を実現する。
【0100】
A車両の回生ブレーキ中に電圧センサ26Aの検出値Ecf_Aが電圧目標値Vp_A(図示しない)に追従するように、ゲートアンプ28A,28Bの出力であるゲートパルス信号GP1_A,GP2_Aを制御して、スイッチング素子27A,27Bを駆動し、電力蓄積手段3Bに電力を充電する制御を行う。このとき同時に制御装置31Aより回生吸収要求信号ReqS_Aaを車両情報伝達装置32Aを送信する。車両情報伝達装置32AよりB車両の車両情報伝達装置32Bへ回生吸収要求信号ReqS_Aaを含むA車両の車両情報Data_0が送信され車両情報伝達装置32Bは車両情報Data_0を受信する。車両情報伝達装置32BはB車両の制御装置31Bへ回生吸収要求信号ReqS_Abを送信し、制御装置31Bは回生吸収要求信号ReqS_Abを受信する。制御装置31Bは、回生吸収要求信号ReqS_Abを受信しているとき、電圧センサ26Bの直流電圧検出値Ecf_Bの値が所定の値以上で、B車両の運転状態が停車中あるいは惰行中であり、電力蓄積手段3Bの蓄電量が所定の値以下であれば、電流センサ30Hの電流検出値Ib_Bを、所定の充電電流指令値Ibp_B(図示しない)に追従するように、ゲートアンプ28C,28Dの出力であるゲートパルス信号GP1_B,GP2_Bを制御して、スイッチング素子27C,27Dを駆動し、電力蓄積手段3Bに電力を充電する制御を行う。この動作により、A車両の回生電力はA車両自車の電力蓄積手段3Aの充電電力と、B車両の電力蓄積手段3Bの充電電力として吸収される。これにより、A車両の回生電力を自車であるA車両の電力蓄積手段と他車であるB車両の電力蓄積手段によって吸収することができ、電車線2の電圧上昇を抑制し、電車線電圧の上昇に伴う電気車のブレーキロスを低減することができる。このように回生電力を自車の電力蓄積手段と他車の電力蓄積手段とに分散できれば、車両に搭載する電力蓄積手段の容量を低減でき、搭載する電力蓄積手段を小型,軽量化できる。
【0101】
ここで、図2に示すような車両情報伝送装置を有さない実施例の機器構成は、図10から車両情報伝送装置を取り除いた構成となる。この際の電力蓄積手段3Bの動作決定は、下記のように回生吸収要求信号を用いずに行われる。
【0102】
つまり、電圧センサ26Bの直流電圧検出値Ecf_Bの値が所定の値以上で、B車両の運転状態が停車中あるいは惰行中であり、電力蓄積手段3Bの蓄電量が所定の値以下であることを条件として、電流センサ30Hの電流検出値Ib_Bを、所定の充電電流指令値Ibp_B(図示しない)に追従するように、ゲートアンプ28C,28Dの出力であるゲートパルス信号GP1_B,GP2_Bを制御して、スイッチング素子27C,27Dを駆動し、電力蓄積手段3Bに電力を充電する制御を行う。
【0103】
図11は、図10に示すように車両情報伝送装置を有する実施形態おける本発明の制御構成の一実施例を示す図である。
【0104】
A車両の制御装置31Aにて、A車両が回生ブレーキ運転中であるときに電圧センサ26Aの電圧検出値Ecf_Aは、電圧目標値Vp_A1と減算を行って定電圧制御器33に入力される。定電圧制御器33は前述の電圧検出値Ecf_Aを電圧目標値Vp_A1に速やかに一致させるための電圧制御操作量Dlt_Vcmd_Aを出力する。高位選択器35Aと低位選択器36Aは、電圧制御操作量Dlt_Vcmd_Aの下限値及び上限値を決定する。まず、高位選択器35Aは、電圧制御操作量Dlt_Vcmd_Aと0のうち大きい値を選んで出力し、低位選択器36Aは、高位選択器35Aの出力値と、1のうち小さい値を選んで出力する。すなわち、電圧制御操作量Dlt_Vcmd_Aは、高位選択器35Aと低位選択器36Aにより、その範囲を0から1に制限して、制限つき電圧制御操作量Duty_GP_Aを出力する。
【0105】
ゲートパルス発生器37Aは、制限つき電圧制御操作量Duty_GP_Aをもとに、図10に示すスイッチング素子27Bのオン/オフを制御するチョッパゲートパルスGP_Aを出力する。この動作はA車両の電力蓄積手段3Aの蓄電量が所定の値以下であるときに動作させる。
【0106】
比較演算器34Aは電圧センサ26Aの電圧検出値Ecf_Aと、電圧目標値Vp_A2を入力として、電圧検出値Ecf_Aが電圧目標値Vp_A2より大きければ回生吸収要求信号ReqS_Aaを「1」にて出力し、この条件を満たしていなければ「0」を出力する。
【0107】
図11では上述した通り、図10のようにA車両に電力蓄積手段3Aを搭載した機器構成における制御構成を示したが、図9のようにA車両に電力蓄積手段3Aを搭載しない機器構成における制御構成は、A車両の制御構成から、定電圧制御器33,高位選択器35A,低位選択器36A,ゲートパルス発生器37Aを取り除き、比較演算器34Aを有する構成となる。
【0108】
B車両の制御装置31Bにて、比較演算器34BはB車両の電力蓄積手段3Bの充電量SOC_Bと充電許可充電量SOCp_Bを入力とし、充電量SOC_Bが充電許可充電量SOCp_Bより小さい値であれば「1」を出力し、この条件を満たしていなければ「0」を出力する。比較演算器34Cは電圧センサ26Bの電圧検出値Ecf_Bと電圧上昇検知レベルVups_Bを入力とし、電圧検出値Ecf_Bが電圧上昇検知レベルVups_Bより大きければ「1」を出力し、この条件を満たしていなければ「0」を出力する。惰行・停車中フラグMD_NOFFはB車両が停車中あるいは惰行運転中のときに「1」を出力し、これ以外のときは「0」を出力する。回生吸収要求信号ReqS_Abは先に示した車両情報伝達手段によって例えばA車両の回生吸収要求信号ReqS_Aaを「1」出力にて受信した場合に回生吸収要求信号ReqS_Abも「1」出力となる。
【0109】
論理積演算器38は、回生吸収要求信号ReqS_Abと、惰行・停車中フラグMD_NOFFと、比較演算器34Bの出力と、比較演算器34Cの出力を入力とし、この4入力全てが「1」入力の場合「1」を出力する。この論理積演算器38は電力蓄積手段3Bを充電制御する条件を満たしているかを判定している。電力蓄積手段電流指令生成部39は電力蓄積手段3Bの充放電制御のための電力蓄積手段電流指令値Ibp_Bを生成する。例えば電圧センサ26Bの電圧検出値Ecf_Bと電圧センサ26Dの電圧検出値Vb_Bを入力とし、電圧検出値Ecf_Bと電圧検出値Vb_Bの時間的変化率から電力蓄積手段電流指令値Ibp_Bを生成する。
【0110】
選択器40は、論理積演算器38が「0」出力のとき、すなわち電力蓄積手段3Bを充電制御する条件にないときは選択器40の入力を「0」入力の側に選択し「0」出力し、論理積演算器38が「1」出力のとき、すなわち電力蓄積手段3Bを充電制御する条件にあるときは選択器40の入力を電力蓄積手段電流指令生成部39の出力する電力蓄積手段電流指令値Ib_P入力の側に選択し、電力蓄積手段電流指令値Ib_Pを出力する。
【0111】
選択器40の出力は電流センサ30Hの電流検出値Ib_Bと減算し定電流制御器41に入力される。定電流制御器41は、選択器40の入力が電力蓄積手段電流指令生成部39の出力する電力蓄積手段電流指令値Ib_P入力の側に選択されている場合、前述の電流検出値Ib_Bを電力蓄積手段電流指令値Ib_Pに速やかに一致させるための電流制御操作量Dlt_Ib_cmd_Bを出力する。高位選択器35Bと低位選択器36Bは、電流制御操作量Dlt_Ib_cmd_Bの下限値及び上限値を決定する。まず、高位選択器35Bは、電流制御操作量Dlt_Ib_cmd_Bと0のうち大きい値を選んで出力し、低位選択器36Bは、高位選択器35Bの出力値と、1のうち小さい値を選んで出力する。すなわち、電流制御操作量Dlt_Ib_cmd_Bは、高位選択器35Bと低位選択器36Bにより、その範囲を0から1に制限して、制限つき電圧制御操作量Duty_GP_Bを出力する。ゲートパルス発生器37Bは、制限つき電圧制御操作量Duty_GP_Bをもとに、図6に示すスイッチング素子27Dのオン/オフを制御するチョッパゲートパルスGP_Bを出力する。
【0112】
これにより、以下の動作を実現する。
【0113】
A車両の回生ブレーキ中に電圧センサ26Aの検出値Ecf_Aが電圧目標値Vp_Aに追従するように、ゲートアンプ28Bの出力であるゲートパルス信号GP2_Aを制御して、スイッチング素子27Bを駆動し、電力蓄積手段3Bに電力を充電する制御を行う。このとき同時に制御装置31Aより回生吸収要求信号ReqS_Aaを出力する。B車両の制御装置31Bは回生吸収要求信号ReqS_Abを受信する。
【0114】
制御装置31Bは、回生吸収要求信号ReqS_Abを受信しているとき、電圧センサ26Bの直流電圧検出値Ecf_Bの値が所定の値以上で、B車両の運転状態が停車中あるいは惰行中であり、電力蓄積手段3Bの蓄電量が所定の値以下であれば、電流センサ30Hの電流検出値Ib_Bを、所定の充電電流指令値Ibp_Bに追従するように、ゲートアンプ28Dの出力であるゲートパルス信号GP2_Bを制御して、スイッチング素子27Dを駆動し、電力蓄積手段3Bに電力を充電する制御を行う。
【0115】
この動作により、A車両の回生電力はA車両自車の電力蓄積手段3Aの充電電力と、B車両の電力蓄積手段3Bの充電電力として吸収される。これにより、A車両の回生電力を自車であるA車両の電力蓄積手段と他車であるB車両の電力蓄積手段によって吸収することができ、電車線2の電圧上昇を抑制し、電車線電圧の上昇に伴う電気車のブレーキロスを低減することができる。
【0116】
図11では、車両情報伝送装置を有する機器構成の制御について説明したが、図2に示すような車両情報伝送装置を有さない実施例においては、B車両の制御構成から回生吸収要求フラグを取り除いて、論理積演算器38が、惰行・停車中フラグMD_NOFFと、比較演算器34Bの出力と、比較演算器34Cの出力を入力とし、この3入力全てが「1」入力の場合「1」を出力する制御構成となる。
【0117】
図12は本発明の車両情報伝送装置を有する実施例における車両の電力蓄積手段の動作判別フローチャートの一実施例を示す図である。図12により車両の動作状態による回生吸収要求フラグ信号および電力蓄積手段の動作パタンについて説明する。図12では、車両情報信号として回生吸収要求信号が送受信される場合について説明するが、車両情報信号として力行電力要求信号が送受信される実施形態にも本発明は適用可能である。
【0118】
判断51Aによって自車両が回生中であれば判断51Dに進み、回生中でなければ判断51Bに進む。自車両が停車中あるいは惰行運転中であれば判断51Eに進み、停車中あるいは惰行運転中でなければ判断51Cに進む。自車両が力行運転中であれば処理52Cに進み電力蓄積手段の放電動作を行い、判断51Mに進む。電力蓄積手段の充電量(SOC)が電力蓄積手段の放電限界(SOC_MI)より大きければ処理52Cを継続し、小さければ処理52Eに進み、電力蓄積手段は動作を停止する。
【0119】
判断51Dにて自車両が電力蓄積手段を搭載している場合は判断51Gに進む。電力蓄積手段を搭載していなければ判断51Hに進む。判断51Gにて直流電圧検出値Ecfが所定の電圧Ecf_1より大きければ、処理52Aに進み、電力蓄積手段の充電動作を行い、判断51Kに進む。判断51Gにて直流電圧検出値Ecfが所定の電圧Ecf_1より小さければ、処理52Eに進み、電力蓄積手段は動作を停止する。判断51Kにて電力蓄積手段の充電量(SOC)が電力蓄積手段の充電限界(SOC_MA)より小さければ処理52Aを継続し、大きければ処理52Dに進み回生吸収要求フラグを出力するとともに処理52Eに進み、電力蓄積手段は動作を停止する。判断51Hにて直流電圧検出値Ecfが所定の電圧Ecf_1より大きければ処理52Dに進み回生吸収要求フラグを出力する。判断51Hにて直流電圧検出値Ecfが所定の電圧Ecf_1より小さければ回生吸収要求フラグは出力しない。
【0120】
判断51Eにて電力蓄積手段を搭載していれば判断51Fに進む。判断51Eにて電力蓄積手段を搭載していなければ処理を終了する。判断51Fにて回生吸収要求フラグを受信していれば、判断51Jに進む。回生吸収要求フラグを受信していなければ処理52Cに進む。判断51Jにて直流電圧検出値Ecfが所定の電圧Ecf_1より大きければ処理52Bに進み電力蓄積手段の充電動作を行い、判断51Lに進む。直流電圧検出値Ecfが所定の電圧Ecf_1より小さければ処理52Cに進む。判断51Lにて電力蓄積手段の充電量(SOC)が電力蓄積手段の充電限界(SOC_MA)より小さければ処理52Bを継続し、大きければ処理52Eに進み電力蓄積手段は動作を停止する。
【0121】
図13は本発明の特に図1や図7に示す基地局を有する場合の機器構成例を示す図である。
【0122】
図10の機器構成例とは、基地局によって車両間の電力需給を近傍の車両間で行うことで、電力需給による送電ロスを低減する点が相違している。以下では図10に対して構成に差のある部分を説明し、共通する構成については説明を省略する。
【0123】
車両情報伝達装置32Aは基地局と通信を行う。ここでは車両情報伝達装置32Aは基地局17Cに車両情報DATA_0を送信する。基地局17Cでは、A車両に最も近傍した位置を走行しているB車両の車両情報伝達装置32B対して、A車両の車両情報DATA_0にB車両を特定するための車両識別番号信号を加えた車両情報DATA_1を送信する。
【0124】
制御装置31Bは、車両情報伝達装置32Bより車両情報DATA_1を受信し、これに含まれるA車両の回生吸収要求信号ReqS_AaとB車両を特定するための車両識別番号信号Car_ID_Sを入力する。制御装置31Bは、回生吸収要求信号ReqS_AaとB車両を特定するための車両識別番号信号Car_ID_Sを受信しているとき、回生吸収動作を許可し、電圧センサ26Bの直流電圧検出値Ecf_Bの値が所定の値以上で、B車両の運転状態が停車中あるいは惰行中であり、電力蓄積手段3Bの蓄電量が所定の値以下であれば、電流センサ30Hの電流検出値Ib_Bを、所定の充電電流指令値Ibp_B(図示しない)に追従するように、ゲートアンプ28C,28Dの出力であるゲートパルス信号GP1_B,GP2_Bを制御して、スイッチング素子27C,27Dを駆動し、電力蓄積手段3Bに電力を充電する制御を行う。
【0125】
この動作により、A車両の回生電力はA車両自車の電力蓄積手段3Aの充電電力と、A車両の最も近傍を走るB車両の電力蓄積手段3Bの充電電力として吸収される。これにより、A車両の回生電力を自車であるA車両の電力蓄積手段と他車であるB車両の電力蓄積手段によって吸収することができ、電車線2の電圧上昇を抑制し、電車線電圧の上昇に伴う電気車のブレーキロスを低減することができ、車両間の送電ロスも低減することができる。
【0126】
図14は、図13に示すように車両情報伝送装置と基地局を有する実施形態における本発明の制御構成例を示す図である。
【0127】
図11の制御構成例に対して、図14の制御構成例では、特に基地局によって車両間の電力需給を近傍の車両間で行うことで、電力需給による送電ロスを低減する場合の構成例を示している。以下では図11に対して構成に差のある部分を説明し、共通する構成については説明を省略する。
【0128】
B車両の制御装置31Bにて、回生吸収許可信号ReqS_AbSは図13に示す基地局から発信された車両情報信号42(図13のDATA_1)に含まれる回生吸収要求信号ReqS_AaとB車両を特定するための車両識別番号信号(基地局からの発信信号)Car_ID_Sを入力し、回生吸収許可フラグ生成部43にて、車両識別番号信号(基地局からの発信信号)Car_ID_Sと車両識別番号(車両側)信号Car_ID_Cとを比較し、この2つの車両識別番号が一致していれば回生吸収許可フラグReqS_AbSを「1」出力する。
【0129】
論理積演算器38は、回生吸収許可信号ReqS_AbSと、惰行・停車中フラグMD_NOFFと、比較演算器34Bの出力と、比較演算器34Cの出力を入力とし、この4入力全てが「1」入力の場合「1」を出力する。この論理積演算器38は電力蓄積手段3Bを充電制御する条件を満たしているかを判定している。これにより、A車両の回生電力はA車両自車の電力蓄積手段3Aの充電電力と、A車両の最も近傍を走るB車両の電力蓄積手段3Bの充電電力として吸収される。
【0130】
これにより、A車両の回生電力を自車であるA車両の電力蓄積手段と他車であるB車両の電力蓄積手段によって吸収することができ、電車線2の電圧上昇を抑制し、電車線電圧の上昇に伴う電気車のブレーキロスを低減することができ、車両間の送電ロスも低減することができる。
【0131】
図14では、図13のようなA車両に電力蓄積手段3Aを搭載した機器構成における制御構成を示したが、A車両に電力蓄積手段3Aを搭載しない機器構成における制御構成は、A車両の制御構成から、定電圧制御器33,高位選択器35A,低位選択器36A,ゲートパルス発生器37Aを取り除き、比較演算器34Aを有する構成となる。
【0132】
図9〜図14における説明では、車両情報信号として回生吸収要求信号が車両間で送受信される実施形態(つまり、図8におけるケース1a,2a)について詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、車両情報信号として力行電力要求信号を車両間で送受信する実施形態(つまり、図8における1b,1c,2b,2c)もある。この場合の実施形態は、図9〜図14の回生吸収要求信号を力行電力要求信号と置き換えたものとなる。また、この場合の図11及び図14における比較演算器34A,比較演算器34B,比較演算器34Cは、それぞれ下記のような機能を有する。
【0133】
比較演算器34Aは、車両Aが力行運転状態または停車中・惰行運転中の場合に、電圧センサ26Aの電圧検出値Ecf_Aと、電圧目標値Vp_A3を入力として、電圧検出値Ecf_Aが電圧目標値Vp_A3より小さければ力行電力要求信号ReqS_Aaを「1」にて出力し、この条件を満たしていなければ「0」を出力する。
【0134】
比較演算器34BはB車両の電力蓄積手段3Bの充電量SOC_Bと充電許可充電量SOCp_Bを入力とし、充電量SOC_Bが放電許可充電量SOCp_B(過放電とならない充電量の下限値)より大きい値であれば「1」を出力し、この条件を満たしていなければ「0」を出力する。
【0135】
比較演算器34Cは電圧センサ26Bの電圧検出値Ecf_Bと電圧上昇検知レベルVups_Bを入力とし、電圧検出値Ecf_Bが電圧上昇検知レベルVups_Bより小さければ「1」を出力し、この条件を満たしていなければ「0」を出力する。
【符号の説明】
【0136】
1A,1B,1C 車両
2 電車線
3A,3B,3C 電力蓄積手段
4A,4B,4C 集電装置
5 駅
6 軌道
11 電気エネルギの流れ
12A,12B,12C 車両情報信号
13A,13B,13C,32A,32B 車両情報伝達装置
14 車両情報伝達線
15A,15B,15C 車両情報伝達用アンテナ
16 車両情報電波送受信範囲
17A,17B,17C 基地局
21A,21B フィルタリアクトル
22A,22B インバータ装置
23A,23B 交流電動機
24A,24B フィルタコンデンサ
25A,25B 接地点
26A,26B,26C,26D 電圧センサ
27A,27B,27C,27D スイッチング素子
28A,28B,28C,28D ゲートアンプ
29A,29B 平滑リアクトル
30A,30B,30C,30D,30E,30F,30G,30H 電流センサ
31A,31B 制御装置
33 定電圧制御器
34A,34B 比較演算器
35A,35B 高位選択器
36A,36B 低位選択器
37A,37B ゲートパルス発生器
38 論理積演算器
39 電力蓄積手段電流指令生成部
40 選択器
41 定電流制御器
42 基地局からの車両情報信号
43 回生吸収許可フラグ生成部
51A,51B,51C,51D,51E,51F,51G,51H,51J,51K,51L,51M 判断
52A,52B,52C,52D,52E 処理

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電車線から電力を得る集電装置と、
前記電車線から電力充電し、または前記電車線へ電力を放電することが可能な電力蓄積手段と、
前記集電装置および前記電力蓄積手段と接続されて電動機を駆動するインバータ装置と、を備えた鉄道車両を有する鉄道システムであって、
前記電力蓄積手段を搭載した自車両が停車中あるいは惰行運転中のとき、前記電車線を介して他の車両の回生電力を前記電力蓄積手段に充電、または前記電車線を介して他の鉄道車両へ前記電力蓄積手段の放電電力を供給する制御装置を備えることを特徴とする鉄道システム。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄道システムにおいて、
他の車両の状態情報を含む車両情報信号を車両外部から受信、または自車両の状態情報を含む車両情報信号を車両外部へ送信する車両情報伝達装置を備え、
前記制御装置は、自車両の状態が停車中あるいは惰行運転中のとき、車両外部から受信した前記車両情報信号の状態情報に基づいて前記電力蓄積手段の充放電制御を行い、他の車両との前記電車線を介した電力の送受電を行うことを特徴とする鉄道システム。
【請求項3】
請求項2に記載の鉄道システムにおいて、
前記車両情報信号を受信して、前記車両情報信号の送信元の車両の近傍に存在する車両を示す車両識別信号を前記車両情報信号に付加する基地局を地上側に備え、
前記基地局から前記車両情報信号を受信した車両は、前記車両情報信号の前記車両識別信号と自車両の識別信号とが一致する場合に、前記車両情報信号の状態情報に基づいた前記電力蓄積手段の充放電制御を行うことを特徴とする鉄道システム。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の鉄道システムにおいて、
前記電車線により印加される自車両の直流電圧を検出する手段を備え、
前記車両情報伝達手段は、前記直流電圧の電圧検出値に基づいて、前記状態情報として回生吸収要求信号または力行電力要求信号を車両外部へ送信することを特徴とする鉄道システム。
【請求項5】
請求項4に記載の鉄道システムにおいて、
自車両が回生運転状態である場合に、前記直流電圧の電圧検出値が所定値よりも大きければ、前記状態情報として回生吸収要求信号を車両外部へ送信することを特徴とする鉄道システム。
【請求項6】
請求項4に記載の鉄道システムにおいて、
自車両が力行運転状態または停車状態・惰行運転状態である場合に、前記直流電圧の電圧検出値が所定値よりも小さければ、前記状態情報として力行電力要求信号を車両外部へ送信することを特徴とする鉄道システム。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の鉄道システムにおいて、
前記電車線により印加される自車両の直流電圧を検出する手段を備え、
前記電力蓄積手段を搭載した車両の前記制御装置は、自車両が停車中あるいは惰行運転中のとき、前記直流電力の電圧検出値に基づいて、前記電車線を介して他の車両の回生電力を前記電力蓄積手段に充電、または前記電車線を介して他の鉄道車両へ前記電力蓄積手段の放電電力を供給することを特徴とする鉄道システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−175803(P2012−175803A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35303(P2011−35303)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】