説明

電動ディスクブレーキ装置

【課題】引き摺り現象の発生を防止することで、ブレーキパッドおよびディスクの寿命を延ばすことができ、走行駆動源の無駄なエネルギ消費を抑制できるとともに、ジャダーの発生を抑制できる電動ディスクブレーキ装置の提供。
【解決手段】ディスク11にブレーキパッド14,15を押圧する推力機構13,21,22とこれを駆動する電動モータ20とを内包する電動キャリパ10と、電動モータを制御する制御手段29と、ディスクの回転位置を検出する回転位置検出手段32と、ディスクの肉厚を検出するディスク肉厚検出手段25,26とを備え、制御手段が、回転位置検出手段およびディスク肉厚検出手段の検出結果に基づいてディスクの各回転位置毎の肉厚を算出し、非制動時に、各回転位置毎の肉厚に基づいて電動モータによるパッドクリアランス制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制動用に用いられる電動式の電動ディスクブレーキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の制動用に用いられる電動式の電動ディスクブレーキ装置として、ディスクにブレーキパッドを押圧する推力機構とこの推力機構を駆動する電動モータとを内包する電動キャリパと、電動モータを制御してディスクにブレーキパッドを押圧し制動力を発生させる制御手段とを有するものがある(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−36657号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、電動ディスクブレーキ装置は、ブレーキパッドをディスクに接触させて制動力を発生させるものであるため、当然のことながらブレーキパッドおよびディスクの両方に摩耗を生じることになるが、ディスクについては、摩耗が一定せず、回転位置により肉厚が変わる肉厚変動を生じることがある。このような肉厚変動を生じると、非制動のディスク空転時にディスクにブレーキパッドが接触する、いわゆる引き摺り現象を生じてしまうことがあった。このようなブレーキパッドの引き摺り現象が生じると、ブレーキパッドおよびディスクの摩耗が必要以上に増大し寿命が短くなり、また、走行駆動源に不要な負荷となり、無駄なエネルギを消費してしまうとともに、肉厚変動が増大して制動時のジャダーを発生させてしまう。
【0004】
したがって、本発明は、ディスクの肉厚変動に起因したブレーキパッドの引き摺り現象の発生を防止することで、ブレーキパッドおよびディスクの寿命を延ばすことができ、走行駆動源の無駄なエネルギ消費を抑制できるとともに、ジャダーの発生を抑制できる電動ディスクブレーキ装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、ディスクにブレーキパッドを押圧する推力機構と該推力機構を駆動する電動モータとを内包する電動キャリパと、前記電動モータを制御する制御手段とを有する電動ディスクブレーキ装置において、前記ディスクの回転位置を検出する回転位置検出手段と、前記ディスクの肉厚を検出するディスク肉厚検出手段とを備え、前記制御手段は、これら回転位置検出手段およびディスク肉厚検出手段の検出結果に基づいて前記ディスクの各回転位置毎の肉厚を算出し、非制動時に、該算出した各回転位置毎の肉厚に基づいて前記電動モータによる前記ブレーキパッドと前記ディスクとのパッドクリアランスの制御を行うことを特徴としている。
【0006】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において、前記パッドクリアランスの制御は、前記ブレーキパッドと前記ディスクとのパッドクリアランスを一定に保持することを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に係る発明によれば、制御手段は、回転位置検出手段およびディスク肉厚検出手段の検出結果に基づいてディスクの各回転位置毎の肉厚を算出し、非制動時に、この算出した各回転位置毎の肉厚に基づいて電動モータによるブレーキパッドとディスクとのパッドクリアランスの制御を行うため、ディスクに肉厚変動が生じてもそれに応じてパッドクリアランスを保持することができる。したがって、ディスクの肉厚変動に起因したブレーキパッドの引き摺り現象の発生を防止することができるため、ブレーキパッドおよびディスクの寿命を延ばすことができ、走行駆動源の無駄なエネルギ消費を抑制できるとともに、ジャダーの発生を抑制できる。
【0008】
請求項2に係る発明によれば、制御手段は、パッドクリアランスの制御として、ブレーキパッドとディスクとのパッドクリアランスを一定に保持するため、ディスクの肉厚が厚い位置でのブレーキパッドの引き摺りを防止しつつ、肉厚が薄い位置でのクリアランスが広すぎることによる応答遅れを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の一実施形態の電動ディスクブレーキ装置を図面を参照しつつ以下に説明する。
【0010】
図1に示すように、本実施形態の電動ディスクブレーキ装置は電動キャリパ10を有する電動ディスク電動ディスクブレーキ装置である。
【0011】
電動キャリパ10は、車両の非回転部に取り付けられるもので、図示せぬ車輪とともに回転するディスク11の軸線方向における一側にキャリパ本体12が配置されており、このキャリパ本体12に、ディスク11を跨いで反対側へ延びる爪部(推力機構)13が一体的に結合されている。ディスク11の軸線方向における両側にそれぞれブレーキパッド14,15が設けられている。ブレーキパッド14,15は、車体側に固定される図示略のキャリアによってディスク11の軸線方向に沿って移動可能に支持されて、制動トルクをキャリアに伝達するようになっており、また、キャリパ本体12は、キャリアに取り付けられた図示せぬスライドピンによってディスク11の軸線方向に沿って摺動可能に案内されている。
【0012】
キャリパ本体12には、電動モータ20と、電動モータ20の回転運動を直線運動に変換するボールランプ機構等の回動−直動変換機構(推力機構)21とが内包されており、回動−直動変換機構21とブレーキパッド15との間にはピストン(推力機構)22がディスク軸線方向に沿って摺動可能に設けられている。電動モータ20の正逆回転により回動−直動変換機構21を介してピストン22を進退させることになる。そして、制御時に、電動モータ20でピストン22をディスク11の方向に前進させるとピストン22と爪部13とで両ブレーキパッド14,15を挟持しディスク11に押圧して制動力を増大させることになり、ピストン22をディスク11から離間する方向に後退させるとブレーキパッド14,15のディスク11への押圧を解除して制動力を減少させる。また、非制動時に、電動モータ20の回転位置を制御しピストン22の位置を制御することでブレーキパッド14,15とディスク11とのパッドクリアランスの量を調整する。
【0013】
キャリパ本体12内には、さらに、電動モータ20の回転位置つまりピストン22の軸方向位置を検出する位置検出器(ディスク肉厚検出手段)25と、ピストン40が受けるピストン推力を検出する推力センサ(ディスク肉厚検出手段)26とが内包されている。
【0014】
電動モータ20、位置検出器25および推力センサ26は、キャリパ本体12に一体的に設けられたモータECU28に接続されている。このモータECU28は、電動キャリパ10とは別に設けられたメインECU(制御手段)29に電気ケーブル30を介して通信可能に接続されている。
【0015】
メインECU29には、各車輪に設けられた車輪速センサ(回転位置検出手段)32、車両挙動センサ33、運転者が制動意思に応じて操作を行うブレーキペダルの操作量を検出するブレーキペダルセンサ34がそれぞれ電気ケーブル30を介して通信可能に接続されており、メインECU29は、これらの信号に基づいて電動キャリパ10の制動力およびパッドクリアランスの量を制御する。
【0016】
車輪速センサ32は、車両の非回転部に取り付けられるセンサ本体36と、車輪に取り付けられ、車輪およびディスク11と一体に回転するセンサロータ37とで構成されている。センサロータ37には、外周部に等間隔で複数の歯が形成されており、これらの歯がセンサ本体36を通過する際にセンサ本体36でパルスを発生させることになり、メインECU29はこのパルスを計数し、その計数値と回転方向とによってディスク11の回転位置を検出する。例えば、センサロータ37の歯数が36の場合、メインECU29に入力されるパルスが36パルスでディスク11の一回転分となる。したがって、今現在のディスク11の回転位置を基準位置としこの基準位置がゼロパルス目であると仮定すると、1パルス目は基準位置から10deg回転した位置、2パルス目は基準位置から20deg回転した位置となって、何パルス目であるかによって回転位置を特定できる。このとき、車両の進行方向を認識し、車両前進時にはパルスを加算し、車両後退時にはパルスを減算する。また、メインECU29は、パルスの計数値と時間とに基づいて車輪速を割り出すことになる。なお、車両の前後方向検出は、車輪速センサにその機能を有するものを用いても良いが、ギヤポジションや車両加速度によりロジック的に検出しても良い。
【0017】
メインECU29によるパッドクリアランス量の制御は、例えば、車両のイグニッションスイッチがONされると、図3のフローチャートに示すように、ディスク11の回転位置を特定し(ステップS1)、別途の図示略のパーキングブレーキ装置で車両の制動状態が維持された条件下で、一旦電動モータ20によりピストン22を所定位置まで後退させてパッドクリアランスを確保した状態とした後、ピストン22を前進させ、その後、推力センサ26による検出値が所定値に達すると、ブレーキパッド14,15のディスク11への押圧が開始されたと判断し、このときの位置検出器25の検出位置をパッドクリアランスがゼロとなるピストン22の位置とする(ステップS2)。このようなパッドクリアランスがゼロとなるピストン22の位置の検出は、電動ディスクブレーキ装置の制動解除時にそれまで高かった推力センサ26による検出値が所定値まで下がったことにより検出しても良い。なお、パッドクリアランスがゼロとなるピストン22の位置の検出は、電動モータ20への電流を検出するモータECU28に設けられた電流センサの電流検出値の変化によって検出することも可能である。
【0018】
そして、メインECU29は、例えば、車両の走行開始直後のディスク11が最初に一回転する間について、推力センサ26による検出値を所定値に維持するように電動モータ20によりピストン22を前進あるいは後退させることで、ディスク11の一回転中におけるパッドクリアランスが常にゼロとなるようにピストン22の位置を制御し、その間に、車輪速センサ32で検出されるディスク11の各回転位置毎のピストン22の位置を推力センサ26および位置検出器25で検出して、ディスク11の各回転位置毎の肉厚を算出する(ステップS3)。このとき、ディスク11の肉厚に応じてピストン22の位置が決まることになり、ピストン22が前進しているほど肉厚が薄くなる。また、ステップS2で述べたピストン位置検出の動作を車両停止やブレーキ解除時に実施し、その度にディスク11の一回転中の肉厚変動を算定していき、この動作を常に継続して行い、肉厚変動を随時更新することとしてもよい。
【0019】
このようにして、ディスク11の各回転位置毎の肉厚を算出し記憶したメインECU29は、電動ディスクブレーキ装置の非制動時に(ステップS4)、各回転位置毎の肉厚に基づいて電動モータ20によりブレーキパッド14,15とディスク11とのパッドクリアランスを制御する(ステップS5)。具体的には、電動モータ20によりブレーキパッド14,15とディスク11とのパッドクリアランスを一定に保持するように制御する。つまり、ディスク11のピストン22と重なる位置が肉厚が薄い部分から肉厚が厚い部分に移る際には電動モータ20によりピストン22を肉厚の変化に対応して後退させる一方、ディスク11のピストン22と重なる位置が肉厚が厚い部分から肉厚が薄い部分に移る際には電動モータ20によりピストン22を肉厚の変化に対応して前進させ、ディスク11のピストン22と重なる位置の肉厚が変動しない状態では、ピストン22を停止させる。
【0020】
以上に述べた本実施形態の電動ディスクブレーキ装置によれば、メインECU29は、ディスク11の各回転位置毎の肉厚を算出し、非制動時に、この各回転位置毎の肉厚に基づいて電動モータ20によるブレーキパッド14,15とディスク11とのパッドクリアランスの制御を行うため、ディスク11に肉厚変動が生じてもそれに応じてパッドクリアランスを任意の値に制御することで、パッドクリアランスを保持することができる。したがって、ディスク11の肉厚変動に起因したブレーキパッド14,15の引き摺り現象の発生を防止することができるため、ブレーキパッド14,15およびディスク11の寿命を延ばすことができ、走行駆動源の無駄なエネルギ消費を抑制できるとともに、ジャダーの発生を抑制できる。
【0021】
しかも、メインECU29は、パッドクリアランスの制御として、ブレーキパッド14,15とディスク11とのパッドクリアランスを一定に保持するように制御するため、ディスク11の肉厚が厚い位置でのブレーキパッド14,15の引き摺りを防止しつつ、肉厚が薄い位置でのクリアランスが広すぎることによる推力発生時(制動時)の応答遅れを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態の電動ディスクブレーキ装置を概略的に示す構成図である。
【図2】本発明の一実施形態の電動ディスクブレーキ装置の図1におけるA矢視図である。
【図3】本発明の一実施形態の電動ディスクブレーキ装置のパッドクリアランス制御の制御内容を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0023】
10 電動キャリパ
11 ディスク
13 爪部(推力機構)
14,15 ブレーキパッド
20 電動モータ
21 回動−直動変換機構(推力機構)
22 ピストン(推力機構)
25 位置検出器(ディスク肉厚検出手段)
26 推力センサ(ディスク肉厚検出手段)
29 メインECU(制御手段)
32 車輪速センサ(回転位置検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクにブレーキパッドを押圧する推力機構と該推力機構を駆動する電動モータとを内包する電動キャリパと、前記電動モータを制御する制御手段とを有する電動ディスクブレーキ装置において、
前記ディスクの回転位置を検出する回転位置検出手段と、
前記ディスクの肉厚を検出するディスク肉厚検出手段とを備え、
前記制御手段は、これら回転位置検出手段およびディスク肉厚検出手段の検出結果に基づいて前記ディスクの各回転位置毎の肉厚を算出し、非制動時に、該算出した各回転位置毎の肉厚に基づいて前記電動モータによる前記ブレーキパッドと前記ディスクとのパッドクリアランスの制御を行うことを特徴とする電動ディスクブレーキ装置。
【請求項2】
前記パッドクリアランスの制御は、前記ブレーキパッドと前記ディスクとのパッドクリアランスを一定に保持することを特徴とする請求項1記載の電動ディスクブレーキ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−133922(P2008−133922A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−321606(P2006−321606)
【出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】