説明

電動機の制御装置

【課題】熱電素子により電動機を効果的に冷却できるとともに、その熱電素子による発電電力を効率良く利用して全体の電力消費量を低減することが可能な電動機の制御装置を提供する。
【解決手段】電力を供給することにより吸熱面と放熱面との間で熱を移動させる熱移動状態と、前記吸熱面と前記放熱面との間の温度差に応じた電力を発生させる発電状態とを選択的に切り替えて制御可能な熱電素子を用いて冷却を行う電動機の制御装置において、運転者が前記電動機を駆動する意志の有無を検出する駆動意志検出手段(ステップS1,S2)と、前記駆動意志検出手段により前記電動機を駆動する意志がないことを検出した場合に、前記熱電素子を前記発電状態に制御する熱電素子制御手段(ステップS6)とを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、熱電素子を用いて冷却を行う電動機の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モータは、コイルに通電することによる損失や電磁力の作用によって不可避的に発熱するが、一方で、温度が高くなると磁気特性が低下するなどの不都合が生じる。そのため、放熱性を高めた構造や所定の冷却機構を設ける必要がある。特にハイブリッド車や電気自動車などの駆動力源として使用されるモータには、動力性能と車両への搭載性とを両立させるために高出力化と小型・軽量化とが同時に要求される。さらに、走行中に駆動とエネルギ回生とが繰り返されるなど使用環境が厳しいことから、走行時の発熱による温度上昇も大きくなるので、その温度上昇を抑制するための高い冷却性能も併せて要求される。
【0003】
このような事情を背景として開発された装置が特許文献1に記載されている。この特許文献1に記載された装置は、コアにコイルを巻き付けて構成されるモータや発電機のステータであって、特にコイルの冷却対策としてステータの一部にペルチェ素子が固着されていて、そのペルチェ素子をコイルの温度に応じて、冷却モードと発電モードとに切り替えて制御するように構成されている。
【0004】
なお、特許文献2には、リニアモータにより可動ステージを移動させるステージ装置であって、可動ステージを移動駆動するための入力情報とリニアモータの所定部位の温度情報とに基づいて、リニアモータの駆動により生ずるリニアモータの温度上昇を予測し、その温度上昇の予測値に基づいて、リニアモータの磁界発生用のコイルを冷却する冷却手段を制御するように構成された装置が記載されている。そしてこの特許文献2には、上記の冷却手段がペルチェ素子を有する電子冷却装置である構成が記載されている。
【0005】
また、特許文献3には、複数のコイルが並設されたコイル部と、複数の永久磁石がコイル部に対向するように並設されたマグネットヨーク部と、コイル部を冷却するコイル冷却部とを有するリニアモータであって、上記のコイル冷却部が、コイルからの熱伝導により発電を行う熱電変換手段と、その熱電変換手段からの電流供給によりコイル部の冷却を行う電熱変換手段とを備えたリニアモータが記載されている。そしてこの特許文献3には、上記の熱電変換手段が、コイル部に接する高温側と放熱を行う低温側との温度差によって発電する熱電変換素子を有する構成、および上記の電熱変換手段が、電流供給によりコイル部を冷却するペルチェ素子を有する構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−206302号公報
【特許文献2】特開2007−325412号公報
【特許文献3】特開2006−33909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特許文献1に記載されている装置で用いられているペルチェ素子は、いわゆる熱−電変換素子と称されることもあり、熱の出入りおよび電流の出入りの関係に応じて、熱を電力に変換するペルチェ効果を生じたり、あるいはこれと反対の現象であるゼーベック効果を生じたりする。例えば、ペルチェ素子に電力を供給すること、すなわちペルチェ素子に電圧を加えて電流を流すことにより吸熱側の面から放熱側の面へ熱が移動するので、その現象を利用してコイルを冷却することができる。反対に、ペルチェ素子の吸熱面と放熱面との間に温度差を与えることによりその温度差に応じた電圧が生じる、すなわち発電させることができる。したがって、上記の特許文献1に記載されている装置よれば、コイルの温度に応じてペルチェ素子を冷却モードと発電モードとに切り替えて制御することにより、コイルの温度を適正範囲に収めつつ、熱の有効利用を図ることができる、とされている。
【0008】
しかしながら、上記の特許文献1に記載されている装置では、コイルの温度が設定値以上であるか否かによって、すなわちコイルの温度に依存して、ペルチェ素子が冷却モードと発電モードとに切り替えられる。そのため、例えばコイルの温度が設定値以上の状態でモータが停止したような場合は、その後、モータのコイルは自然冷却されるのでそれ以降の冷却を行う必要はないにもかかわらず、ペルチェ素子が冷却モードに制御されてペルチェ素子に電力が供給される。その結果、電力が無駄に消費されてしまうことになって、モータのエネルギ効率が低下してしまう可能性があった。
【0009】
この発明は、上述した技術的課題に着目してなされたものであって、熱電素子により電動機を効果的に冷却するとともに、その熱電素子による発電電力を効率良く利用して電動機全体の電力消費量を低減することが可能な電動機の制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、電力を供給することにより吸熱面と放熱面との間で熱を移動させる熱移動状態と、前記吸熱面と前記放熱面との間の温度差に応じた電力を発生させる発電状態とを選択的に切り替えて制御可能な熱電素子を用いて冷却を行う電動機の制御装置において、運転者が前記電動機を駆動する意志の有無を検出する駆動意志検出手段と、前記駆動意志検出手段により前記電動機を駆動する意志がないことを検出した場合に、前記熱電素子を前記発電状態に制御する熱電素子制御手段とを備えていることを特徴とする電動機の制御装置である。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記電動機は、駆動力源として車両に搭載された電動機を含み、前記駆動意志検出手段は、運転者が前記車両を走行させる意志の有無を検出する手段を含み、前記熱電素子制御手段は、前記駆動意志検出手段により前記車両を走行させる意志がないことを検出した場合に、前記熱電素子を前記発電状態に制御する手段を含むことを特徴とする電動機の制御装置である。
【0012】
請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記車両は、前記運転者がシフト位置を手動で選択的に設定可能な車両を含み、前記駆動意志検出手段は、前記シフト位置がニュートラル位置もしくはパーキング位置に設定された場合に、前記車両を走行させる意志がないことを判断する手段を含むことを特徴とする電動機の制御装置である。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、熱電素子に電力を供給してその熱電素子の吸熱面側の熱を放熱面側へ移動させることにより、コイルなどの発熱部分の冷却を行うように構成された電動機に対して、運転者が電動機を駆動する意志の有無、言い換えると、この後に運転者により電動機が駆動される可能性について予測される。そして電動機を駆動する意志がないと判断された場合には、熱電素子がその吸熱面と放熱面との間の温度差に応じて発電を行う状態となるように制御される。そのため、この後に電動機が駆動される予定がなく、電動機の温度が今以上に上昇する可能性がないことから、その電動機を熱電素子により冷却する必要がない場合に、熱電素子を発電状態にして電力を発生させることができる。したがって、熱電素子による電動機の冷却を必要に応じて効果的に行うことができるとともに、その熱電素子による電動機の冷却を必要以上に行ってしまいその分電力を無駄に消費してしまうことを回避もしくは抑制することができる。その結果、電動機全体としての電力消費量を低減すること、すなわち、電動機のエネルギ効率を向上させることができる。
【0014】
また、請求項2の発明によれば、例えばハイブリッド車あるいは電気自動車やインホイールモータ車など、電動機を駆動力源として搭載した車両に対して、その車両の電動機を効果的に冷却するとともに、車両のエネルギ効率を向上させることができる。
【0015】
そして、請求項3の発明によれば、運転者が車両を走行させる意志、すなわち電動機を駆動する意志を、車両のシフト位置の設定状態に基づいて、容易にかつ確実に判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の電動機の制御装置による制御の一例を説明するためのフローチャートである。
【図2】この発明の電動機の制御装置による他の制御例を説明するためのフローチャートである。
【図3】この発明の電動機の制御装置の基本的な構成および制御系統を示す模式図である。
【図4】この発明の電動機の制御装置を車両に適用した構成例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
この発明は、電圧を加えて電流を流すこと、すなわち電力を供給することにより吸熱側の面と放熱側の面との間で熱を移動させるとともに、それら吸熱側の面と放熱側の面との間の温度差に応じた電圧を発生させること、すなわち発電させることが可能な熱電素子を用いて冷却を行うように構成された電動機を制御の対象としている。具体的には、図3に示すように、この発明における電動機すなわちモータ1は、直流モータ、あるいは同期モータや誘導モータなどの交流モータ等、電力を供給することにより駆動トルクを発生させる公知の動力発生装置である。この図3に示す例では、例えば永久磁石式同期モータにより構成されている。
【0018】
したがって、モータ1は、インバータ2を介して二次電池(バッテリ)やキャパシタなどによって構成される蓄電装置3に接続されている。すなわち、モータ1は、駆動時には、蓄電装置3の直流電力がインバータ2によって交流電力に変換され、その交流電力がモータ1に供給されることにより、モータ1が力行制御されてトルクを発生するようになっている。また、モータ1は、駆動時の回転エネルギを利用して回生制御することも可能である。すなわち、モータ1は、駆動時に保有した回転エネルギを電気エネルギに変換して、その際に生じる電力を蓄電装置3に蓄えることができる。
【0019】
そして、上記のインバータ2は、モータ1の回転状態を制御する電子制御装置(ECU)4に接続されている。また、この電子制御装置4には、例えば、運転者がモータ1の回転状態を操作するための操作盤5が接続されていて、モータ1の駆動および停止を指示する制御信号が入力されるように構成されている。この操作盤5は、例えば、各種スイッチとスイッチング回路とから構成されるスイッチボックスや、あるいは、モニターの表示画面に触れることにより各種の操作信号を出力するタッチパネルなどによって構成することができる。要は、この操作盤5は、運転者が、モータ1を駆動させたり、モータ1の回転数を調節したり、あるいはモータ1を停止させたりする際に、その運転者の意志に基づいて手動で操作される装置である。
【0020】
したがって、上記の操作盤5から電子制御装置4へ入力される制御信号に基づいて、モータ1の回転状態を制御する際の運転者の意志を判断することができる。例えば、操作盤5からモータ1を駆動するON信号、あるいはモータ1の回転数を所定の値にする制御信号が出力された場合には、それらON信号や所定の制御信号を検出することにより、運転者がモータ1を駆動する意志があると判断することができる。すなわち、運転者がモータ1を駆動する意志があることを検出することができる。反対に、操作盤5からモータ1を停止するOFF信号、あるいはモータ1の回転数を0にする信号が出力された場合には、それらOFF信号や所定の制御信号を検出することにより、運転者がモータ1を駆動する意志がないと判断することができる。すなわち、運転者がモータ1を駆動する意志がないことを検出することができる。そして、電子制御装置4には、モータ1の温度、例えばモータ1のコイルエンド部の温度を検出するモータ温度センサ6の検出信号、およびインバータ2からの情報信号などが入力されるように構成されている。
【0021】
前述したように、モータ1は、運転時には不可避的な発熱を伴い、そのモータ1の温度が過度に上昇すると、効率が低下したりひいては焼損を招いてしまうおそれがある。特に、ハイブリッド車や電気自動車などの車両の駆動力源として使用される場合は、高出力化および小型・軽量化が要求されるとともに、過熱を防止するための高い冷却性能が要求される。
【0022】
そこで、この発明におけるモータ1では、その冷却性能を向上させるための1つの手段として、熱電素子を用いた冷却機構7が設けられている。この冷却機構7は、外部から熱を吸収する吸熱面7aと、その吸熱面7aから吸収した熱が伝達して外部に放出される放熱面7bとを有している。そして、電力を供給することにより吸熱面7aと放熱面7bとの間で熱を移動させることができるとともに、吸熱面7aと放熱面7bとの間に温度差を与えることによりその温度差に応じた電力を発生させることが可能なペルチェ素子8と、電力を放電する状態(放電状態)と電力を蓄電する状態(蓄電状態)とを選択的に切り替えて制御することが可能な蓄電装置9とから構成されている。
【0023】
具体的には、ペルチェ素子8は、従来熱電素子として知られているものであって、図3に示すように、P型半導体8pとN型半導体8nとを電極8a,8bによっていわゆるπ型に接続したものであり、通電の方向に応じて一方の電極8a(もしくは8b)で発熱し、かつ他方の電極8b(もしくは8a)で吸熱が生じるように構成されている。この図3に示す例では、蓄電装置9が放電状態に設定されて、その蓄電装置9からペルチェ素子8へ電力が供給される場合には、電極8aが吸熱面7aとなり、電極8bが放熱面7bとなるように構成されている。
【0024】
また、蓄電装置9は、例えば、二次電池(バッテリ)やキャパシタなどの蓄電と放電とを繰り返し行うことが可能な蓄電器に、その蓄電状態と放電状態とを切り替えるための切替スイッチもしくは切替回路等が設けられた装置である。そして、蓄電装置9は、前述の電子制御装置5に接続されていて、電子制御装置5から出力される制御信号に基づいて、蓄電状態と放電状態とが選択的に切り替えられて設定されるように構成されている。この図3に示す例では、蓄電装置9が蓄電状態に設定されて、その蓄電装置9へ電力を蓄電することが可能な状態では、ペルチェ素子8で吸熱面7aすなわち電極8aと放熱面7bすなわち電極8bとの間の温度差に応じた電力が発生した際に、その発電電力が蓄電装置9に蓄電されるように構成されている。
【0025】
そして、冷却機構7の吸熱面7aが、例えばモータ1のコイルエンド部などのモータ1の発熱部分に熱伝達可能に接合されている。また、冷却機構7の放熱面7bには、例えば放熱板や放熱フィンあるいはヒートシンクなどが熱伝達可能に接合されている。したがって、この冷却機構7におけるペルチェ素子8は、蓄電装置9が放電状態に設定されることにより、その蓄電装置9から電力が供給されて、吸熱面7aと放熱面7bとの間で熱を移動させる熱移動状態(冷却モード)に設定される。この熱移動状態では、モータ1の発熱部分の熱が、冷却機構7の吸熱面7aからペルチェ素子8の内部に伝達されて冷却機構7の放熱面7bからペルチェ素子8の外部へ放出される。すなわち、モータ1の発熱部分が冷却される。
【0026】
一方、この冷却機構7におけるペルチェ素子8は、蓄電装置9が蓄電状態に設定されることにより、そのペルチェ素子8で発生させた電力を蓄電装置9に蓄えることが可能な状態、すなわちペルチェ素子8で電圧が生じた場合に、そのペルチェ素子8から蓄電装置9へ電流が流れ込むことが可能な状態になり、その結果、吸熱面7aと放熱面7bとの間の温度差に応じた電力が発生する発電状態(発電モード)に設定される。そして、この発電状態のときに発電された電力が、蓄電装置9に蓄えられるようになっている。
【0027】
図4には、上述したこの発明における電動機の制御装置を、インホイールモータを駆動力源とする電気自動車に適用した構成例が示してある。すなわち、この図4に示す車両Veは、左右の前輪11,12および左右の後輪13,14に、それれら各車輪11,12,13,14のそれぞれに個別にトルクを付与する駆動力源として、モータ15,16およびモータ17,18が設けられている。
【0028】
具体的には、この車両Veは、車両Veの幅方向(図4での左右方向)における左右の前輪11,12および左右の後輪13,14を有している。そして、前輪11,12は、互いにもしくはそれぞれ独立してサスペンション機構(図示せず)を介して車両Veの車台に支持されている。同様に、後輪13,14も、互いにもしくはそれぞれ独立してサスペンション機構を介して車両Veの車台に支持されている。
【0029】
車両Veの駆動力源として、前輪11,12のホイール内部および後輪13,14のホイール内部には、それぞれ、モータ15,16およびモータ17,18が組み込まれていて、それらモータ15,16の出力軸およびモータ17,18の出力軸と、前輪11,12および後輪13,14とが、それぞれ動力伝達可能に連結されている。すなわち、それら各モータ15,16,17,18は、いわゆるインホイールモータであり、前輪11,12および後輪13,14と共に車両Veのばね下に配置されている。そして、各インホイールモータ15,16,17,18の回転をそれぞれ個別に独立して制御することにより、前輪11,12および後輪13,14の駆動トルクあるいは制動トルクを、それぞれ独立して制御することができる構成となっている。
【0030】
これらの各インホイールモータ15,16,17,18は、例えば永久磁石式同期モータにより構成されていて、インバータ19を介してバッテリやキャパシタなどの蓄電装置20に接続されている。したがって、各インホイールモータ15,16,17,18の駆動時には、蓄電装置20の直流電力がインバータ19によって交流電力に変換され、その交流電力が各インホイールモータ15,16,17,18に供給されることによりそれら各インホイールモータ15,16,17,18が力行制御されて、前輪11,12および後輪13,14に駆動トルクが付与される。
【0031】
また、各インホイールモータ15,16,17,18は前輪11,12および後輪13,14の回転エネルギを利用して回生制御することも可能である。すなわち、各インホイールモータ15,16,17,18の回生・発電時には、前輪11,12および後輪13,14の回転(運動)エネルギが各インホイールモータ15,16,17,18によって電気エネルギに変換され、その際に生じる電力がインバータ19を介して蓄電装置20に蓄電される。このとき、前輪11,12および後輪13,14には回生・発電力に基づく制動トルクが付与されるようになっている。
【0032】
上記のインバータ19は、各インホイールモータ15,16,17,18の回転状態を制御する電子制御装置(ECU)21に、それぞれ接続されている。この電子制御装置21には、例えば、各駆動輪11,12,13,14の回転速度(車輪速度)をそれぞれ検出する車輪速センサや各インホイールモータ15,16,17,18の出力軸の回転角度を検出するレゾルバ(共に図示せず)、そして、車両VeのエントリースイッチのON−OFFの位置を検出するエントリースイッチセンサ23、車両Veのシフト位置を検出するシフトポジションセンサ24、各インホイールモータ15,16,17,18の温度、例えば各インホイールモータ15,16,17,18のコイルエンド部の温度をそれぞれ検出するモータ温度センサ25,26,27,28などの各種センサ類からの検出信号、およびインバータ19からの情報信号などが入力されるように構成されている。
【0033】
ここで、エントリースイッチは、言い換えればメインスイッチ、あるいはイグニションスイッチに相当するものであり、車両Veの駆動力源すなわち各インホイールモータ15,16,17,18の電源をON−OFFに制御するため、運転者によって選択的に切り替えられるスイッチのことである。
【0034】
したがって、上記のエントリースイッチセンサ23からこのエントリースイッチのON−OFFの位置を検出することにより、運転者が車両Veを走行させる意志の有無を検出することができる。例えば、エントリースイッチセンサ23でエントリースイッチのON信号を検出することにより、運転者が車両Veを走行させる意志があると判断することができる。すなわち、運転者が車両Veを走行させる意志があることを検出することができる。反対に、エントリースイッチセンサ23でエントリースイッチのOFF信号を検出することにより、運転者が車両Veを走行させる意志がないと判断することができる。すなわち、運転者が車両Veを走行させる意志がないことを検出することができる。
【0035】
また、車両Veのシフト位置は、シフトポジションあるいはシフトレンジなどと言い換えることができ、例えば車両Veが変速機を搭載している場合には、その変速機で設定される変速段の位置、あるいは、その変速機で設定される変速状態もしくは駆動状態を示すものである。要するに、車両Veのシフト位置は、運転者の手動操作により切り替えられて選択的に設定される車両Veの変速状態もしくは駆動状態のことである。車両Veが図4に示すようなインホイールモータ車の場合は、車両Veの駆動状態、すなわち、例えば、車両が前進走行するドライブ位置、車両Veが後進走行するリバース位置、車両Veの駆動力源と駆動輪との間の動力伝達を遮断するニュートラル位置、車両Veの停車時にパーキングロック機構を作動させて駆動輪の回転をロックするパーキング位置を示すものである。
【0036】
したがって、上記のシフトポジションセンサ24からこの車両Veのシフト位置を検出することにより、運転者が車両Veを走行させる意志の有無を検出することができる。例えば、シフトポジションセンサ24で車両Veのシフト位置がドライブ位置もしくはリバース位置であることを検出することにより、運転者が車両Veを走行させる意志があると判断することができる。すなわち、運転者が車両Veを走行させる意志があることを検出することができる。反対に、シフトポジションセンサ24で車両Veのシフト位置がニュートラル位置もしくはパーキング位置であることを検出することにより、運転者が車両Veを走行させる意志がないと判断することができる。すなわち、運転者が車両Veを走行させる意志がないことを検出することができる。
【0037】
一方、電子制御装置21からは、インバータ19を介して各インホイールモータ15,16,17,18の回転をそれぞれ制御する信号が出力されるように構成されている。すなわち、各インホイールモータ15,16,17,18の回転(力行・回生)を制御するために、各インホイールモータ15,16,17,18へ供給する、もしくは各インホイールモータ15,16,17,18から回収する電流を制御するための制御信号が、電子制御装置21からインバータ19へ出力されるようになっている。
【0038】
そして、上記の各インホイールモータ15,16,17,18に、前述の図3で示したこの発明における冷却機構7がそれぞれ設けられている。前述したように、車両Veの駆動力源として用いられる各インホイールモータ15,16,17,18には、小型・軽量でかつ高出力が要求されるとともに、高い冷却性能が要求される。そのため、各インホイールモータ15,16,17,18には、例えば放熱性を高めた構造のケーシング(図示せず)が採用され、あるいはオイルや冷却水等による冷却装置が設けられている。そして冷却性能をさらに向上させるために、各インホイールモータ15,16,17,18に、前述の冷却機構7、すなわちペルチェ素子8を用いてそれら各インホイールモータ15,16,17,18の冷却を行う機構が設けられている。
【0039】
各インホイールモータ15,16,17,18にそれぞれ設けられた各冷却機構7は、電子制御装置21にそれぞれ接続されていて、その電子制御装置21から出力される制御信号に基づいて、各冷却機構7の蓄電装置9の蓄電状態と放電状態とがそれぞれ選択的に切り替えられて設定されるように構成されている。すなわち、電子制御装置21から出力される制御信号に基づいて、各ペルチェ素子8がそれぞれ熱移動状態(冷却モード)と発電状態(発電モード)とに選択的に切り替えられて設定されるように構成されている。
【0040】
なお、電子制御装置21には、各冷却機構7における各ペルチェ素子8の吸熱面7aおよび放熱面7bの温度を検出する温度センサ(図示せず)が接続されていて、その温度センサの検出信号が入力されるように構成されている。したがって、電子制御装置21によって各冷却機構7における各ペルチェ素子8の吸熱面7aと放熱面7bとの間の温度差を求めることができる。
【0041】
上記のように構成された車両Veを対象としたこの発明の制御装置による制御例を、図1のフローチャートを基に説明する。図1において、先ず、車両VeのエントリースイッチもしくはイグニションスイッチがONであるか否かが判断される(ステップS1)。これは、前述したように、エントリースイッチセンサ23の検出値に基づいて判断することができる。
【0042】
車両VeのエントリースイッチもしくはイグニションスイッチがONであることにより、このステップS1で肯定的に判断された場合は、ステップS2へ進み、車両Veのシフト位置が、ドライブ(D)位置もしくはリバース(R)位置であるか否かが判断される。これは、前述したように、シフトポジションセンサ24の検出値に基づいて判断することができる。
【0043】
車両Veのシフト位置がドライブ(D)位置もしくはリバース(R)位置であることにより、このステップS2で肯定的に判断された場合は、ステップS3へ進み、車両Veのアクセル開度が閾値A以上であるか否かが判断される。ここでの閾値Aは、各インホイールモータ15,16,17,18が冷却機構7による冷却を必要な状態であるか否かを判断するために予め設定された値である。
【0044】
したがって、車両Veのアクセル開度が閾値Aよりも小さいことにより、このステップS3で否定的に判断された場合は、以降の制御は行わず、このルーチンを一旦終了する。一方、車両Veのアクセル開度が閾値A以上であることにより、このステップS3で肯定的に判断された場合には、ステップS4へ進み、各インホイールモータ15,16,17,18の温度、例えば各インホイールモータ15,16,17,18のコイルエンド部の温度が、閾値B以上であるか否かが判断される。これは、前述したように、各モータ温度センサ25,26,27,28の検出値に基づいて判断することができる。また、ここでの閾値Bは、各インホイールモータ15,16,17,18が冷却機構7による冷却を必要な状態であるか否かを判断するために予め設定された値である。
【0045】
したがって、各インホイールモータ15,16,17,18のコイルエンド部の温度が閾値B以上であること、具体的には、各インホイールモータ15,16,17,18のうちの少なくとも1つのコイルエンド部の温度が閾値B以上であることにより、このステップS4で肯定的に判断された場合は、冷却機構7による冷却が必要な状態であるので、ステップS5へ進み、ペルチェ素子8が冷却モードとなるように冷却機構7が制御される。すなわち、冷却機構7の蓄電装置9が放電状態に設定され、その蓄電装置9からペルチェ素子8へ電力が供給される。その結果、ペルチェ素子8が冷却モードとなり、冷却機構7による冷却が必要な状態であると判断されたインホイールモータのコイルエンド部がそのペルチェ素子8によって冷却される。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
【0046】
これに対して、車両VeのエントリースイッチもしくはイグニションスイッチがONでないこと、すなわち車両VeのエントリースイッチもしくはイグニションスイッチがOFFであること、例えば、運転者の手動操作によってエントリースイッチがONからOFFFへ切り替えられたことにより、前述のステップS1で否定的に判断された場合には、ステップS6へ進み、ペルチェ素子8が発電モードとなるように冷却機構7が制御される。
【0047】
車両VeのエントリースイッチもしくはイグニションスイッチがOFFにされた場合は、運転者が車両Veを走行させる意志がないと判断することができ、そのため、各インホイールモータ15,16,17,18は駆動されることはなく、そのコイルエンド部の温度も上昇することはないと判断することができる。仮にその時点でコイルエンド部の温度が相対的に高温であったとしても、各インホイールモータ15,16,17,18が駆動されないことから、それらのコイルエンド部は自然に冷却されるので、その時点以上に温度上昇することはないと判断できる。
【0048】
したがって、上記のように車両VeのエントリースイッチもしくはイグニションスイッチがOFFにされた場合は、冷却機構7による冷却は不要な状態であるので、ペルチェ素子8が発電モードとなるよう制御される。すなわち、冷却機構7の蓄電装置9が蓄電状態に設定され、その蓄電装置9へペルチェ素子8から電流が流れ込むことが可能な状態にされる。その結果、ペルチェ素子8が発電モードとなり、ペルチェ素子8の吸熱面7aと放熱面7bとの間の温度差に応じて発生した電力が蓄電装置9に蓄電される。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
【0049】
また、車両Veのシフト位置がドライブ(D)位置およびリバース(R)位置でないこと、例えば車両Veのシフト位置がニュートラル(N)位置もしくはパーキング(P)位置であることにより、前述のステップS2で否定的に判断された場合も、上記と同様に、ステップS6へ進み、ペルチェ素子8が発電モードとなるように冷却機構7が制御される。
【0050】
上記のように車両Veのシフト位置がニュートラル(N)位置もしくはパーキング(P)位置に設定された場合は、運転者が車両Veを走行させる意志がないと判断することができ、そのため、各インホイールモータ15,16,17,18は駆動されることはなく、そのコイルエンド部の温度も上昇することはないと判断することができる。例えば車両Veのシフト位置がニュートラル(N)位置もしくはパーキング(P)位置に設定された状態で、仮に運転者によりアクセルペダルが踏み込まれたとしても、それは車両Veの加速を意図したものではなく、また、その場合に各インホイールモータ15,16,17,18の回転数が増大しても、各インホイールモータ15,16,17,18にはほとんど負荷は掛からないため、各インホイールモータ15,16,17,18は温度上昇しないと判断できる。
【0051】
したがって、上記のように車両Veのシフト位置がニュートラル(N)位置もしくはパーキング(P)位置に設定された場合は、冷却機構7による冷却は不要な状態であるので、ペルチェ素子8が発電モードとなるよう制御される。すなわち、冷却機構7の蓄電装置9が蓄電状態に設定され、その蓄電装置9へペルチェ素子8から電流が流れ込むことが可能な状態にされる。その結果、ペルチェ素子8が発電モードとなり、ペルチェ素子8の吸熱面7aと放熱面7bとの間の温度差に応じて発生した電力が蓄電装置9に蓄電される。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
【0052】
そして、各インホイールモータ15,16,17,18のコイルエンド部の温度が閾値Bよりも低いこと、具体的には、各インホイールモータ15,16,17,18のコイルエンド部の温度がいずれも閾値Bよりも低いことにより、前述のステップS4で否定的に判断された場合も、上記と同様に、ステップS6へ進み、ペルチェ素子8が発電モードとなるように冷却機構7が制御される。
【0053】
上記のように各インホイールモータ15,16,17,18のコイルエンド部の温度がいずれも閾値Bよりも低い場合は、冷却機構7による冷却の必要度は低いもしくは不要な状態であると判断することができる。そのため、ペルチェ素子8が発電モードとなるよう制御される。すなわち、冷却機構7の蓄電装置9が蓄電状態に設定され、その蓄電装置9へペルチェ素子8から電流が流れ込むことが可能な状態にされる。その結果、ペルチェ素子8が発電モードとなり、ペルチェ素子8の吸熱面7aと放熱面7bとの間の温度差に応じて発生した電力が蓄電装置9に蓄電される。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
【0054】
このように、例えば前述の図3の構成例に示すようなこの発明の電動機の制御装置を、例えばこの図4の構成例に示すようなインホイールモータ車に適用することにより、電動機を駆動力源として搭載した車両Veに対して、その車両Veの駆動力源を効果的に冷却するとともに、車両Veのエネルギ効率を向上させることができる。
【0055】
図2のフローチャートに、この発明の制御装置による他の制御例を示してある。前述の図3に示した冷却機構7において、例えば、ペルチェ素子8と蓄電装置9との間の電気回路の一部を選択的に遮断できるように構成しておくことにより、前述した冷却モードおよび発電モードに加えて、ペルチェ素子8を冷却も発電も行わない言わば電気的にニュートラルのモードを選択的に制御することができる。
【0056】
上記のような構成のもとで、図2のフローチャートで示す制御例では、ステップS6’に示すように、ペルチェ素子8が発電モードとなるように冷却機構7が制御される前に、ペルチェ素子8の吸熱面7aと放熱面7bとの間の温度差が検出されるとともに、その温度差が閾値C以上であるか否かが判断される。ここでの閾値Cは、ペルチェ素子8による発電が可能な状態であるか否か、もしくはペルチェ素子8による発電の効果が期待できる状態であるか否かを判断するために予め設定された値である。
【0057】
したがって、図2のフローチャートにおいて、ペルチェ素子8の吸熱面7aと放熱面7bとの間の温度差が閾値Cよりも少ないことにより、このステップS6’で否定的に判断された場合は、ペルチェ素子8が冷却も発電も行わない状態すなわちいわゆる電気的ニュートラルモードとなるように冷却機構7が制御される。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
【0058】
これに対して、前述の図1のフローチャートで示した制御例の場合と同様に、車両VeのエントリースイッチもしくはイグニションスイッチがOFFであることにより、ステップS1で否定的に判断された場合、あるいは車両Veのシフト位置がニュートラル(N)位置もしくはパーキング(P)位置であることによりステップS2で否定的に判断された場合、あるいは各インホイールモータ15,16,17,18のコイルエンド部の温度がいずれも閾値Bよりも低いことによりステップS4で否定的に判断された場合のいずれかであり、なおかつ、ペルチェ素子8の吸熱面7aと放熱面7bとの間の温度差が閾値C以上であることにより、このステップS6’で肯定的に判断された場合には、ステップS6へ進み、ペルチェ素子8が発電モードとなるように冷却機構7が制御される。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
【0059】
このように、冷却機構7におけるペルチェ素子8が、冷却モードと発電モードと電気的ニュートラルモードとに選択的に設定可能なように構成されて、そして、上記のような運転者が車両Veを走行させる意志の有無についての判断結果、および電動機の温度、ならびにペルチェ素子8の吸熱面7aと放熱面7bとの間の温度差に基づいて、ペルチェ素子8の各モードが設定されることにより、ペルチェ素子8による電動機の冷却をより適切に行うことができる。すなわち、その車両Veの駆動力源となる電動機をより効果的に冷却するとともに、車両Veのエネルギ効率を確実に向上させることができる。
【0060】
以上のように、この発明における電動機の制御装置によれば、ペルチェ素子8に電力を供給してそのペルチェ素子8の吸熱面7a側の熱を放熱面7b側へ移動させることにより、コイルエンド部の冷却を行うように構成されたモータ1(図4に示す構成例においては各インホイールモータ15,16,17,18)に対して、運転者がモータ1を駆動する意志の有無、言い換えると、この後に運転者によりモータ1が駆動される可能性について予測される。そしてモータ1を駆動する意志がないと判断された場合には、ペルチェ素子8がその吸熱面7aと放熱面7bとの間の温度差に応じて発電を行う発電モードとなるように制御される。
【0061】
そのため、この後にモータ1が駆動される予定がなく、モータ1の温度が今以上に上昇する可能性がないことから、そのモータ1をペルチェ素子8により冷却する必要がない場合に、ペルチェ素子8を発電モードにして電力を発生させることができる。したがって、ペルチェ素子8によるモータ1の冷却を必要に応じて効果的に行うことができるとともに、そのペルチェ素子8によるモータ1の冷却を必要以上に行ってしまいその分電力を無駄に消費してしまう事態を回避もしくは抑制することができる。その結果、モータ1全体としての電力消費量を低減することができる。図4に示す構成例のように、車両Veの駆動力源として搭載されるモータにこの発明の制御装置を適用することにより、車両Veのエネルギ効率を向上させることができる。
【0062】
ここで、上述した具体例とこの発明との関係を簡単に説明すると、ステップS1,S2を実行する機能的手段が、この発明における「駆動意志検出手段」に相当する。そして、ステップS6を実行する機能的手段が、この発明における「熱電素子制御手段」に相当する。
【符号の説明】
【0063】
1…モータ(電動機)、 4,21…電子制御装置(ECU)、 5…操作盤、 6…モータ温度センサ、 7…冷却機構、 7a…吸熱面、 7b…放熱面、 8…ペルチェ素子(熱電素子)、 9…蓄電装置、 15,16,17,18…インホイールモータ(電動機)、 23…イグニションスイッチセンサ、 24…シフトポジションセンサ、 Ve…車両。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力を供給することにより吸熱面と放熱面との間で熱を移動させる熱移動状態と、前記吸熱面と前記放熱面との間の温度差に応じた電力を発生させる発電状態とを選択的に切り替えて制御可能な熱電素子を用いて冷却を行う電動機の制御装置において、
運転者が前記電動機を駆動する意志の有無を検出する駆動意志検出手段と、
前記駆動意志検出手段により前記電動機を駆動する意志がないことを検出した場合に、前記熱電素子を前記発電状態に制御する熱電素子制御手段と
を備えていることを特徴とする電動機の制御装置。
【請求項2】
前記電動機は、駆動力源として車両に搭載された電動機を含み、
前記駆動意志検出手段は、運転者が前記車両を走行させる意志の有無を検出する手段を含み、
前記熱電素子制御手段は、前記駆動意志検出手段により前記車両を走行させる意志がないことを検出した場合に、前記熱電素子を前記発電状態に制御する手段を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の電動機の制御装置。
【請求項3】
前記車両は、前記運転者がシフト位置を手動で選択的に設定可能な車両を含み、
前記駆動意志検出手段は、前記シフト位置がニュートラル位置もしくはパーキング位置に設定された場合に、前記車両を走行させる意志がないとを判断する手段を含む
ことを特徴とする請求項2に記載の電動機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−223696(P2011−223696A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−88176(P2010−88176)
【出願日】平成22年4月6日(2010.4.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】