説明

電動機

【課題】本発明は、電動機巻線の設置容積を減らすことなく振動抑制を可能とする電動機を提供することを課題とする。
【解決手段】回転トルク発生用の巻線11u,11v,11wが設けられた固定子と、固定子に対して間隙を介して同心に配設された回転子を備える電動機であって、巻線11u,11v,11wの途中に一端が結線される電線14u,14v,14wと、電線14u,14v,14wの他端が接続され、電線14u,14v,14wを介して巻線11u,11v,11wの途中から回転子の振動を抑制するための電流を供給する電流供給装置(振動抑制用インバータ)33fを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機の小型化を考えた場合、小型化によって出力トルクが制限されるので、電動機の出力を高めるためには高回転化することが一般的である。しかし、電動機には構造上で決まる危険速度があるので、電動機の高回転化を進めてゆくと、電動機の回転速度が危険速度に入り、大きな振動が発生する。その危険速度での振動を抑制するために、電動機では、固定子に回転トルクを発生させるための電動機巻線とは別に支持巻線が設けられ、この支持巻線に電流を供給して振動抑制力を発生させている。図5には、2極電動機2極支持の電動機100の一例を示しており、固定子には電動機巻線101とは別に支持巻線102が設けられている(図5では、U相のみ巻線を描いているが、他の相にも同様に巻線が施されている)。特許文献1に記載の電動機では、固定子に回転トルク発生用の第1巻線と、回転子の変位を検出するとともにその変位を打ち消す方向に電磁力を作用させるための第2巻線が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−110387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の電動機のように電動機巻線とは別に支持巻線を設けた場合、電動機巻線の設置容積が減少するので、電動機巻線が少なくなり、回転加速度が抑制される。そのため、短時間で所望の高回転速度まで到達できない。また、支持巻線による振動抑制力が必要となるのは電動機の回転速度が危険速度のときであり、通常運転時には支持巻線は使用されない。
【0005】
そこで、本発明は、電動機巻線の設置容積を減らすことなく振動抑制を可能とする電動機を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る電動機は、回転トルク発生用の巻線が設けられた固定子と、当該固定子に対して間隙を介して同心に配設された回転子を備える電動機であって、巻線の途中に一端が結線される電線と、電線の他端が接続され、電線を介して巻線の途中から回転子の振動を抑制するための電流を供給する電流供給装置とを備えることを特徴とする。
【0007】
この電動機では、固定子に回転トルク発生用の巻線が設けられおり、その巻線の中間点と電流供給装置を電線で接続している。そして、電動機では、回転子に振動が発生する回転速度域になると、電流供給装置から電線を介して巻線の途中から回転子の振動を抑制するための電流を供給する。この電流の供給によって、巻線では、巻線の途中まで(巻線の一方側)は回転トルクを発生するための電流だけが流れ、巻線の途中から(巻線の他方側)は回転トルクを発生するための電流と回転子の振動を抑制するための電流が流れる。そのため、巻線の一方側と他方側とで電流量に不平衡が生じるため、固定子と回転子間の間隙に磁束の疎密が生じる。その磁束の疎密によって振動抑制力が発生し、回転子の振動を抑制する。このように、電動機では、巻線の途中から回転子の振動を抑制するための電流を供給できるようにすることにより、回転トルク発生用の巻線の設置容積を減らすことなく、振動を抑制することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、巻線の途中から回転子の振動を抑制するための電流を供給できるようにすることにより、回転トルク発生用の巻線の設置容積を減らすことなく、振動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施の形態に係る電動機システムの構成図である。
【図2】図1の電動機(特に、巻線)と電動機用インバータ及び振動抑制用インバータとの間の配線図である。
【図3】図1の電動機の断面図である。
【図4】図1の電動機システムにおける振動抑制力発生の説明図である。
【図5】従来の電動機の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明に係る電動機の実施の形態を説明する。なお、各図において同一又は相当する要素については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0011】
本実施の形態では、本発明に係る電動機を、自動車などで用いられる高回転用の電動機システムに適用する。本実施の形態に係る電動機システムは、2極電動機4極支持制御システムであり、通常の回転速度域では電動機制御を行い、危険速度域では電動機制御に加えて振動抑制制御を行う。特に、本実施の形態に係る電動機システムは、振動抑制制御を行う場合、電動機の回転トルク発生用の巻線の一部を利用して振動抑制力を発生させる。
【0012】
図1〜図4を参照して、電動機システム1について説明する。図1は、本実施の形態に係る電動機システムの構成図である。図2は、図1の電動機と電動機用インバータ及び振動抑制用インバータとの間の配線図である。図3は、図1の電動機の断面図である。図4は、図1の電動機システムにおける振動抑制力発生の説明図である。
【0013】
電動機システム1は、電動機10、ギャップセンサ20,21、回転角度位置センサ22、制御装置30を備えている。制御装置30は、回転角度位置演算部31、電動機制御部32(電動機制御電流演算部32a、電動機用インバータ32b)、振動抑制部33(減算部33a,33b、PID制御部33c、変調部33d、二相三相変換部33e、振動抑制用インバータ33f)を有している。
【0014】
電動機10は、固定子11及び回転子12を備えている。固定子11には、各相(U相、V相、W相)の回転トルク発生用の巻線11u,11v,11wが設けられている。回転子12は、固定子11の内側に固定子11と同心となるように配設され、固定子11との間にはエアギャップ(間隙)がある。回転子12には、永久磁石が設けられている。回転子12の中心部には、回転軸13が取り付けられている。回転軸13の両端部には、軸受け(図示せず)がそれぞれ配設されている。
【0015】
図2に示すように、各相の巻線11u,11v,11wの一端には、電動機用インバータ32bが接続されている。各相の巻線11u,11v,11wの中間点には、電線14u,14v,14wの一端がそれぞれ接続されている。電線14u,14v,14wの他端は、振動抑制用インバータ33fに接続されている。各相の巻線11u,11v,11wにおける中間点の位置は、電動機10の設計上の各種条件で変わり、例えば、中間点で巻数が1対1で分かれるような中間点とする。なお、電線14u,14v,14wが、特許請求の範囲に記載する電線に相当する。
【0016】
このように電線14u,14v,14wを配線することによって、電動機用インバータ32bからの電動機駆動用の三相交流電流i,i,iに加えて、振動抑制用インバータ33fからの振動抑制用の三相交流電流isu,isv,iswを巻線11u,11v,11wの途中から供給できる。したがって、U相の巻線11uの中間点からの巻線u2には電流iに加えて電流isuが流れる。また、V相の巻線11vの中間点からの巻線v2には電流iに加えて電流isvが流れる。また、W相の巻線11wの中間点からの巻線w2には電流iに加えて電流iswが流れる。
【0017】
ギャップセンサ20,21は、軸受けの内部に設けられ、回転軸13の軸ずれを検出するセンサである。ギャップセンサ20では、一定時間毎に、x方向における回転軸13の正常な支持位置からの軸ずれ量を検出し、その検出値xを制御装置30に出力する。ギャップセンサ21では、一定時間毎に、y方向における回転軸13の正常な支持位置からの軸ずれ量を検出し、その検出値yを制御装置30に出力する。
【0018】
回転角度位置センサ22は、回転子12に設けられ、回転子12の回転角度位置を検出するためのセンサである。回転角度位置センサ22は、例えば、エンコーダであり、回転子12の回転角度位置に応じたパルス数をカウントする。回転角度位置センサ22では、一定時間毎に、回転角度位置に応じた所定の値を検出し、その検出値を制御装置30に出力する。
【0019】
ここで、制御装置30について具体的に説明する前に、巻線11u,11v,11wの一部(u2,v2,w2)を利用した振動抑制力を発生させる原理について説明しておく。
【0020】
電動機10の回転速度が高くなり、危険速度になると、回転子12が振動し、回転軸13が半径方向にたわみ振動する。このような振動が大きくなると、軸受け、回転軸13、回転子12、固定子11が損傷する虞があるので、直ちに、振動を抑制する必要がある。なお、危険速度は、電動機10の構造上決まり、予め判っている(共振周波数に応じた値)。
【0021】
そこで、電動機10の回転速度が危険速度になると、電動機用インバータ32bから電動機駆動用の三相交流電流i,i,iに加えて、振動抑制用インバータ33fから振動抑制用の三相交流電流isu,isv,iswを供給する。これによって、図2に示すように、U相の巻線11uには、電線14uが接続される中間点までの巻線u1には電流iだけが流れ、中間点からの巻線u2には電流iに加えて電流isuが流れる。V相の巻線11vには、電線14vが接続される中間点までの巻線v1には電流iだけが流れ、中間点からの巻線v2には電流iに加えて電流isvが流れる。W相の巻線11wには、電線14wが接続される中間点までの巻線w1には電流iだけが流れ、中間点からの巻線w2には電流iに加えて電流iswが流れる。このように、各相の巻線11u,11v,11wでは、中間点までの巻線u1,v1,w1に流れる各電流量と中間点からの巻線u2,v2,w2に流れる各電流量とに不平衡が生じる。
【0022】
この巻線u1,v1,w1と巻線u2,v2,w2間の電流量の不平衡によって、固定子11と回転子12との間のエアギャップに磁束の疎密が生じる。この磁束の疎密によって振動抑制力が発生する。この振動抑制力を危険速度時に回転子12(回転軸13)の半径方向の変位を適正な支持位置(中心位置)に戻すように制御することによって、振動を抑制することができる。このように、磁束の疎密による振動抑制力で振動を抑制することによって、回転子12(特に、回転軸13)を適正な支持位置で非接触で支持することができる。
【0023】
図4を参照して、回転角度が90度の場合に振動がy軸マイナス方向に発生しているときの振動抑制力について説明する。回転角度が90度のときの電動機駆動用のU相の電流i=0A、V相の電流i=−0.87A、W相の電流i=0.87Aとする。この場合、電動機10の回転速度が危険速度に入るまでは、U相の巻線u1と巻線u2には電流が流れず、V相の巻線v1と巻線v2には−0.87Aの電流が流れ、W相の巻線w1と巻線w2には0.87Aの電流が流れる。
【0024】
電動機10の回転速度が危険速度になると、回転子12の変位を適正な支持位置に戻すために振動抑制用インバータ33fからU相のみに振動抑制用の電流isu(マイナス値)を供給する。これによって、U相の巻線u2には電流isuが流れる。
【0025】
このとき、回転子12の永久磁石のN極12Nはy軸マイナス側に位置し、S極12Sはy軸プラス側に位置している。この永久磁石のN極12Nによる各磁束MN1、MN2,MN3,MN4,MN5の方向は、中心から外方向である。一方、永久磁石のS極12Sによる各磁束MS1、MS2,MS3,MS4,MS5の方向は、中心方向である。また、振動抑制用の電流isuによる鉄心C1での磁束MF1の方向は、中心から外方向である。振動抑制用の電流isuによる鉄心C2での磁束MF2の方向は、中心方向である。振動抑制用の電流isuによる鉄心C3での磁束MF3の方向は、中心から外方向である。振動抑制用の電流isuによる鉄心C4での磁束MF4の方向は、中心方向である。
【0026】
その結果、鉄心C1では、永久磁石のN極12Nによる磁束MN1の方向と振動抑制用の電流isuによる磁束MF1の方向とが同方向となり、エアギャップの磁束が密D1となる。鉄心C2では、永久磁石のN極12Nによる磁束MN2の方向と振動抑制用の電流isuによる磁束MF2の方向とが逆方向となり、エアギャップの磁束が疎S1となる。鉄心C3では、永久磁石のS極12Sによる磁束MS1の方向と振動抑制用の電流isuによる磁束MF3の方向とが逆方向となり、エアギャップの磁束が疎S2となる。鉄心C4では、永久磁石のS極12Sによる磁束MS2の方向と振動抑制用の電流isuによる磁束MF4の方向とが同方向となり、エアギャップの磁束が密D2となる。
【0027】
このようなエアギャップにおける磁束の疎密D1,D2,S1,S2によって、振動抑制力F1,F2,F3,F4が発生する。この振動抑制力F1,F2,F3,F4の場合、y軸マイナス方向の振動抑制力F1,F2の合力よりもy軸プラス方向の振動抑制力F3,F4の合力が大きくなるので、振動抑制力F1,F2,F3,F4を合成した最終的な振動抑制力CFは、y軸プラス方向に作用する。このように、U相にマイナスの電流isuを供給することよって、y軸プラス方向に振動抑制力CFが作用し、y軸マイナス方向に発生している振動を抑制できる。
【0028】
それでは、制御装置30について具体的に説明する。制御装置30は、電動機10を駆動制御するとともに電動機10の振動を抑制制御する制御装置である。そのために、制御装置30は、回転角度位置演算部31、電動機制御部32、振動抑制部33を有している。制御装置30では、一定時間毎に、ギャップセンサ20,21、回転角度位置センサ22からの各検出値を入力する。そして、制御装置30では、電動機駆動用の三相交流電流i,i,iを電動機10に供給し、危険速度時には振動抑制用の三相交流電流isu,isv,iswも電動機10に供給する。
【0029】
回転角度位置演算部31では、一定時間毎に、回転角度位置センサ22からの検出値を入力すると、その検出値から所定の演算式によって回転角度位置φを演算する。そして、回転角度位置演算部31では、その回転角度位置φを変調部33dに出力する。所定の演算式は、回転角度位置センサ22で回転子12の回転角度位置に応じたどのような値を検出するかによって決まる。
【0030】
電動機制御部32は、自動車の車両制御装置などからの回転速度指令値ωになるような電動機駆動用の三相交流電流指令値i,i,iを求め、その三相交流電流指令値i,i,iに応じて電動機駆動用の三相交流電流i,i,iを電動機10に供給する。そのために、電動機制御部32は、電動機制御電流演算部32a及び電動機用インバータ32bを有している。
【0031】
電動機制御電流演算部32aでは、回転速度指令値ωと電流指令値Iが入力されると、その回転速度指令値ωと電流指令値Iを用いて、式(1)により電動機駆動用の三相交流電流指令値i,i,iを演算する。そして、電動機制御電流演算部32aでは、その三相交流電流指令値i,i,iを電動機用インバータ32bに出力する。
【数1】

【0032】
電動機用インバータ32bでは、電動機制御電流演算部32aから電動機駆動用の三相交流電流指令値i,i,iを入力すると、三相交流電流指令値i,i,iになるようにバッテリなどの電源装置からの直流電流を交流電流に変換する。そして、電動機用インバータ32bでは、その変換した三相交流電流i,i,iを電動機10に供給する。
【0033】
振動抑制部33は、電動機10の回転速度が危険速度になると、ギャップセンサ20,21で検出した軸ずれ(x,y)を正常な支持位置に戻すような振動抑制用の三相交流電流指令値isu,isv,iswを求め、その三相交流電流指令値isu,isv,iswに応じて振動抑制用の三相交流電流isu,isv,iswを電動機10に供給する。そのために、振動抑制部33は、減算部33a,33b、PID制御部33c、変調部33d、二相三相変換部33e、振動抑制用インバータ33fを備えている。なお、本実施の形態では、振動抑制用インバータ33fが特許請求の範囲に記載する電流供給装置に相当する。
【0034】
減算部33aでは、ギャップセンサ20からx方向の軸ずれxが入力されると、x方向の軸位置指令値xからx方向の軸ずれxを減算する。そして、減算部33aでは、その減算値(x−x)をPID制御部33cに出力する。減算部33bでは、ギャップセンサ21からy方向の軸ずれyが入力されると、y方向の軸位置指令値yからy方向の軸ずれyを減算する。そして、減算部33bでは、その減算値(y−y)をPID制御部33cに出力する。軸位置指令値x,yは、回転子12(回転軸13)に対する正常な支持位置(例えば、中心位置)であり、予め設定される。
【0035】
PID制御部33cでは、減算部33a,33bから減算値(x−x),(y−y)が入力されると、減算値(x−x),(y−y)に対してPID制御を行い、振動抑制力指令値(支持力指令値)F,Fを生成する。そして、PID制御部33cでは、振動抑制力指令値F,Fを変調部33dに出力する。この振動抑制力指令値F,Fに相当する振動抑制力F,Fが回転子12に作用することにより、回転子12に発生している振動が抑制されることになる。
【0036】
変調部33dでは、PID制御部33cから振動抑制力指令値F,Fが入力されると、その振動抑制力指令値F,Fと回転角度位置演算部31からの回転角度位置φを用いて式(2)で変調を行い、二相電流指令値isa,isbを演算する。そして、変調部33dでは、その二相電流指令値isa,isbを二相三相変換部33eに出力する。二相電流指令値isa,isbに相当する三相交流電流isu,isv,iswを電動機10に供給することにより、振動抑制力指令値F,Fに相当する振動抑制力F,Fでありかつ回転子12の永久磁石(N極、S極)の位置関係と同期がとれた振動抑制力F,Fを発生できる。
【数2】

【0037】
二相三相変換部33eでは、変調部33dから二相電流指令値isa,isbが入力されると、その二相電流指令値isa,isbを式(3)で二相三相変換し、振動抑制用(支持用)の三相交流電流指令値isu,isv,iswを演算する。そして、二相三相変換部33eでは、その振動抑制用の三相交流電流指令値isu,isv,iswを振動抑制用インバータ33fに出力する。
【数3】

【0038】
振動抑制用インバータ33fでは、二相三相変換部33eから振動抑制用の三相交流電流指令値isu,isv,iswを入力すると、三相交流電流指令値isu,isv,iswになるようにバッテリなどの電源装置からの直流電流を交流電流に変換する。そして、振動抑制用インバータ33fでは、その変換した三相交流電流isu,isv,iswを電動機10に供給する。
【0039】
図1〜図2を参照して、電動機システム1における動作について説明する。特に、電動機10の回転速度が危険速度になったときの動作について詳細に説明する。
【0040】
ギャップセンサ20,21では、一定時間毎に、各方向の軸ずれx,yを検出し、その各検出値を制御装置30に出力している。回転角度位置センサ22では、一定時間毎に、回転角度位置に応じた所定の値を検出し、その検出値を制御装置30に出力している。制御装置30では、回転角度位置センサ22からの検出値を入力すると、その検出値から回転角度位置φを演算している。
【0041】
回転速度指令値ωが入力されると、制御装置30では、制御周期毎に、その回転速度指令値ωになるための電動機駆動用の三相交流電流指令値i,i,iを演算し、電動機用インバータ32bから三相交流電流指令値i,i,iに応じた電動機駆動用の三相交流電流i,i,iを電動機10に供給する。電動機10では、各相の巻線11u(u1,u2),11v(v1,v2),11w(w1,w2)に電流i,i,iがそれぞれ流れ、回転速度指令値ωに等しい回転速度なるように回転子12が回転する。なお、三相交流電流指令値i,i,iの値が0Aのときにはその相の巻線には電流が流れず、プラス値のときにはその相の巻線には正方向に電流が流れ、マイナス値のときにはその相の巻線には逆方向に電流が流れる。
【0042】
電動機10の回転速度が高くなり、危険速度に到達すると、制御装置30では、制御周期毎に、x方向の軸位置指令値xから軸ずれxを減算するとともに、y方向の軸位置指令値yからy方向の軸ずれyを減算する。そして、制御装置30では、その減算値(x−x)、(y−y)をPID制御して振動抑制力指令値F,Fを生成する。さらに、制御装置30では、その振動抑制力指令値F,Fと回転角度位置φにより変調して二相電流指令値isa,isbを生成する。そして、制御装置30では、その二相電流指令値isa,isbを二相三相変換して振動抑制用の三相交流電流指令値isu,isv,iswを生成する。
【0043】
そして、制御装置30では、振動抑制用インバータ33fから三相交流電流指令値isu,isv,iswに応じた三相交流電流isu,isv,iswを電動機10に供給する。電動機10では、各相の巻線11u,11v,11wの途中から(すなわち、巻線u2,v2,w2に)電流isu,isv,iswがそれぞれ流れる。なお、三相交流電流指令値isu,isv,iswの値が0Aのときにはその相の巻線の途中から電流が加えられず、プラス値のときにはその相の巻線の途中から正方向の電流が加えられ、マイナス値のときにはその相の巻線の途中から逆方向の電流が加えられる。
【0044】
巻線の途中から電流が加えられた相(U相、V相、W相のうちの少なくとも1つの相)では、巻線における中間点までの巻線(u1,v1,w1)に流れる電流量と中間点からの巻線(u2,v2,w2)に流れる電流量とが異なる電流量となる。この電流量の不平衡によって、固定子11と回転子12間のエアギャップにおいて磁束が疎になる部分と密になる部分ができる。その磁束の疎密によって振動抑制力が発生し、その振動抑制力が回転子12(回転軸13)を正常な支持位置に戻すように作用する(すなわち、回転子12の振動を抑制する)。
【0045】
この電動機システム1によれば、各相の巻線11u,11v,11wの途中から振動抑制用の三相交流電流isu,isv,iswを供給できるようにすることにより、回転トルク発生用の巻線の設置容積を減らすことなく、振動を抑制することができる。これによって、回転トルク発生用の巻線が減らないので、電動機10の性能を低下させることなく、高出力、高回転化を実現できる。特に、電動機10では、高い回転加速度を発生させることができるので、短時間で高回転速度となる。また、大きな振動による軸受け、回転軸13、回転子12、固定子11の損傷を防止できる。
【0046】
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されることなく様々な形態で実施される。
【0047】
例えば、本実施の形態では自動車などに適用する電動機としたが、高回転用の様々な用途に適用可能である。また、低回転域でも振動が発生する電動機がある場合にはそのような電動機にも適用可能である。
【0048】
また、本実施の形態では2極電動機4極支持制御システムとしたが、この各極数については電動機の設計上の各種条件によって変わる。
【0049】
また、本実施の形態では電動機の回転速度が危険速度になると振動抑制制御を行う構成としたが、ギャップセンサで検出される軸ずれ量が閾値より大きくなると振動抑制制御を行ってもよい。
【0050】
また、本実施の形態では回転子(回転軸)を正常な支持位置に戻す振動抑制用の三相交流電流指令値を求めるための一つの方法を説明したが、他の方法によって振動抑制用の三相交流電流指令値を求めてもよい。
【0051】
また、本発明に係る電動機を、ベアリングレス電動機に適用してもよい。
【符号の説明】
【0052】
1…電動機システム、10…電動機、11…固定子、11u,11v,11w…巻線、12…回転子、13…回転軸、14u,14v,14w…電線、20,21…ギャップセンサ、22…回転角度位置センサ、30…制御装置、31…回転角度位置演算部、32…電動機制御部、32a…電動機制御電流演算部、32b…電動機用インバータ、33…振動抑制部、33a,33b…減算部、33c…PID制御部、33d…変調部、33e…二相三相変換部、33f…振動抑制用インバータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転トルク発生用の巻線が設けられた固定子と、当該固定子に対して間隙を介して同心に配設された回転子を備える電動機であって、
前記巻線の途中に一端が結線される電線と、
前記電線の他端が接続され、前記電線を介して前記巻線の途中から前記回転子の振動を抑制するための電流を供給する電流供給装置と
を備えることを特徴とする電動機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−45163(P2011−45163A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−189951(P2009−189951)
【出願日】平成21年8月19日(2009.8.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】