説明

電動機

【課題】電磁鋼板の圧延方向の磁気特性を有効に活用できる電動機、及びこの電動機を備えた電動機ユニットを提供する。
【解決手段】周方向に分割されたバックヨーク部(66)と、バックヨーク部(66)から電磁鋼板の圧延方向に平行に突出するティース部(53)とを有する複数の分割コア(65)と、複数の分割コア(65)の内側に配置され、ティース部(53)に対向する複数の永久磁石(72)を有するロータ(70)とを備えた電動機において、分割コア(65)のティース部(53)には、ティース部(53)の突出方向に延びる空隙部(80)が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分割コアを備えた電動機に関し、特にこの電動機のモータの効率の向上対策に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ステータ及びロータを有する電動機が知られており、圧縮機やファン等に広く適用されている。この種の電動機として、ロータに永久磁石が取り付けられる、永久磁石式のブラシレスDCモータがある。この種の電動機として、モータ効率の向上や、加工性の向上を図るために、いわゆる分割コア式の電動機が用いられることがある。
【0003】
特許文献1には、この種の分割コア式の電動機が開示されている。この電動機の分割コアは、周方向に分割されたバックヨーク部と、該バックヨーク部から径方向内方に突出するティース部とを備えている。分割コアでは、ティース部が電磁鋼板の圧延方向に延びるように形成されている。これにより、ティース部の磁路は、磁気特性に優れた圧延方向に沿うように形成されるため、モータ効率の向上が図られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−6731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のような分割コア式の電動機において、ティース部を流れる磁束の方向は、必ずしも圧延方向になるとは限らず、厳密には、圧延方向と異なるベクトルを有する磁束が混在する状態となる。従って、この種の分割コア式の電動機においても、電磁鋼板の磁気特性を十分に有効に利用することができないことがある。すなわち、この種の電動機において、モータ効率の更なる改善が望まれる。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、電磁鋼板の圧延方向の磁気特性を有効に活用できる電動機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、周方向に分割されたバックヨーク部(66)と、該バックヨーク部(66)から電磁鋼板の圧延方向に平行に突出するティース部(53)とを有する複数の分割コア(65)と、該複数の分割コア(65)の内側に配置され、上記ティース部(53)に対向する複数の永久磁石(72)を有するロータ(70)とを備えた電動機を対象とする。そして、この電動機は、上記分割コア(65)のティース部(53)には、該ティース部(53)の突出方向に延びる空隙部(80)が形成されていることを特徴とする。
【0008】
第1の発明の分割コア(65)では、電磁鋼板の圧延方向に沿うようにティース部(53)が突出して形成される。このティース部(53)には、該ティース部(53)の突出方向(即ち、善事鋼板の圧延方向)に延びる空隙部(80)が形成される。このため、ティース部(53)では、圧延方向以外への磁束の流れが、空隙部(80)によって阻止され、圧延方向における磁束の流れが、空隙部(80)によって許容される。その結果、ティース部(53)では、主として圧延方向の磁束の流れが多くなる。これにより、ティース部(53)では、電磁鋼板の磁気特性が有効に利用される。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、上記永久磁石(72)は、上記ロータ(70)の内部に埋設されていることを特徴とする。
【0010】
第2の発明の電動機は、いわゆる埋込磁石形の電動機で構成される。これにより、ティース部(53)の突出端と永久磁石(72)との間には、ロータ(70)の一部が介在することになる。ところで、ティース部(53)に上記のような空隙部(80)を形成すると、ティース部(53)では、空隙部(80)を挟んで幅方向(周方向)の両側にそれぞれ磁束の流路が形成される。このような構成で、仮に表面磁石形の電動機を用いると、永久磁石と2つの流路との間に磁束が流れるための十分な領域を形成できず、一方の流路に磁束が偏流してしまうことがある。その結果、一方の流路での磁束密度が増大し、いわゆる磁気飽和が生じて効率の低下を招く虞がある。
【0011】
これに対し、本発明のように埋込磁石形の電動機を用いると、永久磁石と2つの流路との間に磁束の流れを許容する領域を十分に確保できる。このため、2つの流路を均一に磁束が流れ易くなり、2つの流路での磁束密度も均一化される。その結果、これらの流路での磁気飽和を回避できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ティース部(53)の突出方向に延びるように、該ティース部(53)に空隙部(80)を形成している。このため、ティース部(53)では、電磁鋼板の圧延方向に沿う磁束の流れを促すことができ、圧延方向の磁気特性を有効に活用できる。これにより、鉄損を低減してモータの効率を向上できる。
【0013】
特に、第2の発明のように埋込磁石形の電動機を用いると、空隙部(80)の両側の磁路における磁気飽和をそれぞれ回避できる。これにより、モータの効率を更に向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、実施形態に係る圧縮機の概略構成を示す縦断面図である。
【図2】図2は、実施形態に係る電力変換装置の概略構成を示す回路図である。
【図3】図3は、実施形態に係る電動機の横断面図である。
【図4】図4は、実施形態に係る分割コアの斜視図である。
【図5】図5は、図3のA−A断面に対応した1つのティース部の縦断面図である。
【図6】図6は、実施形態に係るロータの平面図である。
【図7】図7は、実施形態のステータコアを軸方向から視た平面図である。
【図8】図8は、実施形態の電動機の要部を拡大した横断面図であり、磁束線の一例を付与したものである。
【図9】図9は、変形例1に係るステータコアの要部を拡大した平面図である。
【図10】図10は、変形例2に係るステータコアの要部を拡大した平面図である。
【図11】図11は、変形例3に係るステータコアの要部を拡大した平面図である。
【図12】図12は、変形例4に係るステータコアの要部を拡大した平面図である。
【図13】図13は、変形例5に係るティース本体の縦断面図である。
【図14】図14は、変形例5に係る他の例のティース本体の縦断面図である。
【図15】図15は、変形例6に係るステータコアの要部を拡大した平面図である。
【図16】図16は、変形例7に係るステータコアの概略の分解斜視図である。
【図17】図17は、その他の実施形態の第1の例に係る図5相当図である。
【図18】図18は、その他の実施形態の第2の例に係る図5相当図である。
【図19】図19は、その他の実施形態の第3の例に係る図5相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、或いはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0016】
《発明の実施形態》
本発明の実施形態に係る電動機ユニット(10)は、電動式の圧縮機(1)に適用されている。圧縮機(1)は、例えば空気調和機等の冷媒回路に接続されている(図示省略)。図1に示すように、圧縮機(1)は、ケーシング(20)、圧縮機構(25)、及び電動機(40)を備えている。電動機ユニット(10)は、電動機(40)と電力変換装置(30)とによって構成されている。
【0017】
〈圧縮機の全体構成〉
ケーシング(20)は、円筒縦長の密閉状の容器である。ケーシング(20)の内部には、圧縮機構(25)で圧縮された後の高圧冷媒が満たされる。この高圧冷媒は、吐出管(21)を経由して冷媒回路へ送られる。ケーシング(20)内の冷媒中には、圧縮機構(25)の各摺動部を潤滑するための潤滑油が含まれる。この潤滑油は、ケーシング(20)の底部の油溜まり(22)に貯留される。
【0018】
圧縮機構(25)は、容積型の圧縮機構である。圧縮機構(25)は、シリンダ(26)の内部でピストン(27)が偏心回転する回転式の圧縮機構である。圧縮機構(25)の方式は、これに限らず、例えばスクロール式、揺動ピストン式等であってもよい。圧縮機構(25)は、駆動軸(28)を介して電動機(40)と連結している。
【0019】
電動機(40)は、ブラシレスDCモータである。電動機(40)は、ケーシング(20)の内周壁に固定される固定子(ステータ(50))と、該ステータ(50)の内側に挿通される回転子(ロータ(70))とを有している。電動機(40)は、ロータ(70)の内部に複数の永久磁石(72)が埋設される、埋め込み磁石形の電動機である(図6を参照)。電動機(40)には、電力変換装置(30)から出力される所定周波数の交流電力が供給される。即ち、電動機(40)は、いわゆるインバータ制御により、回転速度(即ち、運転周波数)が可変となっている。電動機(40)の詳細は後述する。
【0020】
〈電力変換装置の構成〉
図2に示すように、電力変換装置(30)は、コンバータ回路(31)、直流リンク部(32)、インバータ回路(33)、及び制御部(34)を有している。電力変換装置(30)は、単相の交流電源(5)から供給された交流電力を所定の周波数の電力に変換して電動機(40)に供給する。なお、電力変換装置(30)は、三相の交流電源に対応するものであってもよい。
【0021】
コンバータ回路(31)は、交流電源(5)に接続されている。コンバータ回路(31)は、複数のダイオード(D1〜D4)がブリッジ状に結線された、いわゆるダイオードブリッジ回路である。コンバータ回路(31)は、交流電源(5)から出力された交流を直流に全波整流する全波整流回路である。
【0022】
直流リンク部(32)は、コンバータ回路(31)の出力側に並列に接続されている。コンバータ回路(31)と直流リンク部(32)との間には、リアクタ(35)が接続されている。直流リンク部(32)は、コンデンサ(36)を有している。コンデンサ(36)は、フィルムコンデンサによって構成されている。コンデンサ(36)は、その静電容量が比較的小さい容量(例えば数十μF)に設定されている。具体的に、コンデンサ(36)は、インバータ回路(33)のスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)が動作する際、このスイッチング動作の周波数に対応して生じるリプル電圧(電圧変動)を平滑化可能な静電容量を有している。一方で、コンデンサ(36)は、コンバータ回路(31)によって整流された電圧(電源電圧に起因する電圧変動)を平滑化できない静電容量を有している。このことに起因して、インバータ回路(33)には、電源電圧の2倍の周波数の脈動を有する直流電圧が入力される。この直流電圧は、その最大値が最小値の2倍以上となるような、大きな脈動を有している。
【0023】
インバータ回路(33)は、直流リンク部(32)の出力電圧を三相交流に変換する変換部を構成している。インバータ回路(33)には、6個のスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)を備えている。各スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)には、還流ダイオード(Du,Dv,Dw,Dx,Dy,Dz)が逆並列に接続されている。インバータ回路(33)は、これらのスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)のオンオフ動作によって、直流リンク部(15)からの出力電圧を三相交流電圧に変換し、電動機(40)へ供給する。
【0024】
制御部(34)は、インバータ回路(33)のスイッチング(オンオフ動作)をPWM制御するゲート信号(G)をインバータ回路(33)に出力する。制御部(34)は、例えば電動機(40)の負荷トルクに応じて電動機(40)の出力トルクを変動させる、トルク制御動作を行う。
【0025】
〈電動機の詳細な構成〉
電動機(40)の詳細な構成について図3〜図7を参照しながら詳細に説明する。
【0026】
〈ステータ〉
ステータ(50)は、略筒状のステータコア(51)と、該ステータコア(51)の周囲に巻回されるコイル(60)と、一対のインシュレータ(61)とを備えている。
【0027】
図3及び図4にも示すように、ステータコア(51)は、環状のバックヨーク部(52)と、該バックヨーク部(52)から径方向内側に突出した複数(本実施形態では6つ)のティース部(53)とを有している。
【0028】
バックヨーク部(52)は、円環状に形成されている。バックヨーク部(52)の外周縁部は、複数の円弧部(54)と、隣り合う円弧部(54)の間に形成される平坦状のコアカット部(55)とによって構成される。バックヨーク部(52)の円弧部(54)は、ケーシング(20)の内壁面に固定される。コアカット部(55)は、ケーシング(20)の内壁面と離間している。これにより、ケーシング(20)とコアカット部(55)との間に、冷媒が流通可能な冷媒通路(56)が形成される。この冷媒通路(56)は、電動機(40)の上側の空間と下側の空間とを連通する。
【0029】
ティース部(53)は、ステータ(50)の径方向に直線状に延びるティース本体(53a)と、該ティース本体(53a)の径方向内側端部に形成されるツバ部(53b)とで構成される。ティース本体(53a)は、幅方向(ステータ(50)の周方向)の長さが、ティース本体(53a)の突出方向の全域に亘って概ね均一になっている。ツバ部(53b)は、ティース本体(53a)から幅方向の両側に張り出すような傘状に形成されている。ツバ部(53b)のうちステータ(50)の径方向内方の側辺部(内辺(53c))は、ステータ(50)の軸直角断面視において略円弧状に形成されている。ツバ部(53b)のうちステータ(50)の径方向外側辺(外辺(53d))は、ステータ(50)の軸直角断面視において直線状に形成されている。
【0030】
各ティース部(53)には、集中巻方式によって、それぞれコイル(60)が巻回されている。隣り合うティース本体(53a)の間には、それぞれコイル(60)が収容されるスロット(57)が形成される。コイル(60)とティース部(53)との間には、PET(ポリエチレンテレフタレート)材料から成る絶縁フィルム(図示省略)が設けられている。
【0031】
本実施形態のステータ(50)は、分割式のステータコアを構成している。即ち、ステータ(50)は、複数(本実施形態では6つ)の分割コア(65)が一体的に組み付けられて構成されている。各分割コア(65)は、バックヨーク部(66)の一部をなす分割バックヨーク部(66)と、各分割バックヨーク部(66)の周方向の中間部位から径方向内方に突出する上記ティース部(53)とを備えている。各分割コア(65)は、多数の積層板(電磁鋼板(51a))が厚さ方向に積層される積層式のコアである。積層板(51a)は、電磁鋼板をプレス加工によって打ち抜いて作成される。分割コア(65)では、ティース部(53)が電磁鋼板(51a)の圧延方向(図7の矢印aで示す方向)に沿うように突出し、且つ分割バックヨーク部(66)が電磁鋼板(51a)の圧延方向と略直角な方向(図7の矢印bで示す方向)に沿うように周方向に延びている。なお、各分割コア(65)としては、圧延方向における磁化特性に優れ、鉄損も小さい無方向性電磁鋼板を用いるのが好ましいが、方向性電磁鋼板を用いてもよい。
【0032】
図4に示すように、インシュレータ(61)は、分割コア(65)の上端部と下端部とにそれぞれ1つずつ積層されている。図5に示すように、インシュレータ(61)は、コイル(60)とティース部(53)とを絶縁する絶縁部材である。本実施形態のインシュレータ(61)は、コイル(60)の巻き付け力に起因するステータコア(51)の変形を防止するための、補強部材を兼ねている。インシュレータ(61)におけるコイル(60)の巻きつけ力(圧縮応力)に対する強度は、ステータコア(51)におけるコイル(60)の圧縮応力に対する強度よりも大きくなっている。
【0033】
〈ロータ〉
図6に示すように、ロータ(70)は、略円筒状のロータコア(71)と、該ロータコア(71)の内部に埋設される複数の永久磁石(72)とを備えている。本実施形態のロータ(70)は、4つの永久磁石(72)を備える4極ロータである。
【0034】
ロータコア(71)は、多数の積層板(71a)が厚さ方向に積層される積層式のコアである。積層板(71a)は、電磁鋼板をプレス加工によって打ち抜いて作成される。
【0035】
ロータコア(71)には、永久磁石(72)が装填される、複数の磁石用スロット(73)が形成されている。磁石用スロット(73)は、ロータコア(71)の軸心回りに90°ピッチで4つ配列されている。磁石用スロット(73)は、軸方向視において概ねU字状の穴形状を有し、ロータコア(71)を軸方向に貫通している。磁石用スロット(73)は、ロータコア(71)の半径と直交する磁石挿入部(74)と、該磁石挿入部(74)から外周側に延びる2つのバリア部(75,75)とで構成されている。磁石挿入部(74)は、永久磁石(72)が内嵌する長方形状に形成されている。ロータコア(71)には、4つのボルト穴(76)が貫通している。ロータコア(71)には、駆動軸(28)が挿通されて焼き嵌めされる軸穴(77)が形成されている。
【0036】
〈スリット部の構成〉
本実施形態のステータ(50)には、空隙部をなすスリット部(80)が形成されている。このスリット部(80)の詳細について説明する。
【0037】
図3及び図7に示すように、本実施形態のステータ(50)では、ステータコア(51)の積層板(51a)にそれぞれスリット部(80)が形成されている。積層板(51a)では、6つのティース部(53)に1つずつスリット部(80)が形成される。スリット部(80)は、電磁鋼板をプレス加工によって打ち抜いて積層板(51a)を形成する際に成型される。本実施形態のスリット部(80)は、積層板(51a)を厚さ方向に貫通している。
【0038】
スリット部(80)は、ティース部(53)において、ティース本体(53a)の突出方向に延びる空隙部を構成している。即ち、スリット部(80)は、ティース部(53)の電磁鋼板(51a)の圧延方向に沿うように延びている。スリット部(80)は、ティース本体(53a)に形成される主スリット部(81)と、ツバ部(53b)に形成される屈曲部(82)とを有している。
【0039】
主スリット部(81)は、ティース本体(53a)の径方向の外側端部から内側端部に亘ってティース部(53)の突出方向に延びており、主空隙部を構成している。本実施形態の主スリット部(81)は、ティース本体(53a)の幅方向(ステータ(50)の周方向)の中間線(図7に示す一点鎖線M)よりもロータ(70)の回転方向(図7に示す白抜きの矢印)側に、該中間線と平行となるように偏倚している。
【0040】
屈曲部(82)は、主スリット部(81)に対してロータ(70)の回転方向と逆側に所定の角度θ1をなすように屈曲している。屈曲部(82)の径方向外側端部は、主スリット部(81)と繋がっている。屈曲部(82)の径方向内側端部は、ツバ部(53b)の内辺(53c)に至っている。主スリット部(81)と屈曲部(82)との間の鋭角側の角度θ1は、ティース本体(53a)の長辺(53e)とツバ部(53b)の外辺(53d)との間の鋭角側の角度θ2よりも小さくなっている(図7を参照)。
【0041】
ティース部(53)は、スリット部(80)を挟んで幅方向(周方向)に2つの領域に区画される。つまり、ティース部(53)において、スリット部(80)よりもロータ(70)の回転方向側には、第1領域(84)が形成され、スリット部(80)よりもロータ(70)の逆回転方向側には、第2領域(85)が形成されている。ロータ(70)の回転中心Oを基準とした場合に、第1領域(84)の径方向内側端部の角度範囲θs1は、第2領域(85)の径方向内側端部の角度範囲θs2よりも小さくなっている。また、これらの角度範囲θs1及びθs2は、図6に示すロータ(70)において互いに隣接する一対のバリア部(75,75)の角度範囲θrよりも小さくなっている。
【0042】
〈運転動作〉
圧縮機(1)の運転時には、電力変換装置(30)のインバータ回路(33)から電動機(40)に電力が供給される。インバータ回路(33)では、PWM制御によってスイッチング素子がON/OFFされ、所定の周波数の交流電力が生成される。電動機(40)が通電状態になると、ステータ(50)によって回転磁界が形成され、この回転磁界によってロータ(70)が回転駆動される。ロータ(70)の回転に伴い駆動軸(28)が回転すると、圧縮機構(25)のピストン(27)が駆動されて冷媒が圧縮される。圧縮機構(25)で圧縮された冷媒は、ケーシング(20)の内部空間を介して吐出管(21)へ送られ、冷媒回路の冷凍サイクルに利用される。
【0043】
〈スリット部の作用〉
本実施形態では、上述のように、ティース部(53)が電磁鋼板(51a)の圧延方向に延びている。そして、電磁鋼板(51a)は、圧延方向における磁気特性に優れている。このため、ティース部(53)の突出方向に流れる磁束に対する鉄損の低減が図られている。
【0044】
ところで、ティース部(53)を流れる磁束は、必ずしもティース部(53)の突出方向(即ち、電磁鋼板(51a)の圧延方向)のみを指向しておらず、厳密には、この方向とは異なる多数のベクトルを有する磁束が混在した状態となっている。そこで、本実施形態では、ティース部(53)の電磁鋼板(51a)の圧延方向における磁束の流れを促すために、スリット部(80)を形成している。
【0045】
具体的に、本実施形態では、ティース部(53)の突出方向に沿うようにスリット部(80)を形成し、このスリット部(80)によって電磁鋼板(51a)の圧延方向に延びる空隙部を構成している。このため、ティース部(53)を流れる磁束は、スリット部(80)に沿うように流れるベクトル成分が多くなる。その結果、電磁鋼板(51a)の磁気特性を有効に活用でき、鉄損の更なる低減、ひいてはモータ効率の更なる向上を図ることができる。
【0046】
また、本実施形態では、スリット部(80)をロータ(70)の回転方向側に偏倚させているため、第1領域(84)と比較して第2領域(85)を広くすることができる。ここで、ティース部(53)では、ロータ(70)の逆回転側寄りの領域(即ち、第2領域(85))に流入する磁束量が大きくなる。このため、第2領域(85)を広げることで、第2領域(85)での磁束密度の増大を防止して、磁気飽和を回避できる。
【0047】
更に、スリット部(80)では、主スリット部(81)の径方向内側端部に屈曲部(82)を形成し、この屈曲部(82)を主スリット部(81)に対してロータ(70)の逆回転方向にθ1だけ屈曲させている。これにより、第2領域(85)では、屈曲部(82)によってq軸方向の電流の磁路が阻害されることがない。このため、q軸方向の磁束が大きくなり、q軸インダクタンスLqを十分に得ることができる。その結果、電動機(40)のおけるリラクタンストルクを増大できる。
【0048】
更に、主スリット部(81)と屈曲部(82)との間の鋭角側の角度θ1を、ティース本体(53a)の長辺(53e)とツバ部(53b)の外辺(53d)との間の鋭角側の角度θ2よりも小さくすると、第2領域(85)の径方向内側端部が狭くなってしまうことがない。このため、第2領域(85)側へ流入する磁束が飽和してしまうのを確実に回避できる。
【0049】
また、本実施形態では、電動機(40)として埋め込み磁石形(IPM式)の電動機を用いている。これにより、第1領域(84)と第2領域(85)での磁束密度を均一化できる。この点について、図8を参照しながら説明する。図8は、本実施形態の電動機(40)における磁束線の一例を表したものである。
【0050】
埋込磁石形の電動機(40)では、ロータ(70)の永久磁石(72)とティース部(53)のツバ部(53b)との間に、ロータコア(71)の電磁鋼板(71a)の一部が介在し、この部位に磁束が流通可能な領域(図8の破線で囲んだ領域S)が形成される。このため、ティース部(53)と永久磁石(72)との間では、第1領域(84)と第2領域(85)との双方を比較的均等に磁束が流れる。その結果、第1領域(84)と第2領域(85)との磁束密度が平均化される。
【0051】
これに対し、表面磁石形(SPM式)の電動機では、永久磁石がロータの外周表面に固定されるため、ティース部のツバ部と永久磁石との間に磁束の流れを許容するための十分な領域が確保できない。このため、SPM式の電動機に本実施形態のスリット部(80)を採用すると、磁束が流れ易い第2領域(85)の磁束密度が高くなってしまい、磁気飽和を招く可能性が高くなってしまう。
【0052】
−実施形態の効果−
上記実施形態では、ティース部(53)の突出方向に延びるように、該ティース部(53)にスリット部(80)を形成している。このため、ティース部(53)では、電磁鋼板の圧延方向に沿う磁束の流れを促すことができ、圧延方向の磁気特性を有効に活用できる。これにより、鉄損を低減してモータの効率を向上できる。
【0053】
また、図8にも示すように、埋込磁石形の電動機(40)を用いると、スリット部(80)の両側の領域(84,85)における磁束密度を均一化できる。更に、スリット部(80)をロータ(70)の回転方向側に偏倚させることで、第2領域(85)の面積を広げることができる。以上により、第2領域(85)での磁気飽和を回避してモータの効率を更に向上できる。
【0054】
また、屈曲部(82)は、q軸方向の磁束を許容するように逆回転方向に屈曲しているため、スリット部(80)を形成してもq軸方向の磁束が阻害されることを回避できる。その結果、q軸方向のインダクタンスを低減してリラクタンストルクを増大できる。
【0055】
また、上述した電力変換装置(30)は、コンバータ回路(31)からインバータ回路(33)へ脈動する直流電圧が出力される、いわゆるコンデンサレス式の電力変換装置で構成される。このため、電力変換装置(30)の小型化、低コスト化を図ることができる。また、このようにしてコンデンサレス式とすると、電動機(40)の全体的な電流値の変動幅(振幅)が大きくなる。一方、上記のリラクタンストルクは、概ね電動機(40)の電流値の2乗に比例して大きくなるため、このようにして電流値が大きくなると、リラクタンストルクを更に増大できる。
【0056】
また、上記実施形態では、図4及び図5に示すように、ステータコア(51)の上端部と下端部とにそれぞれインシュレータ(61)を配置している。このインシュレータ(61)により、コイル(60)の巻き付け力に起因してステータコア(51)が変形してしまうのを防止できる。特に、本実施形態では、各ティース部(53)にそれぞれスリット部(80)を形成しているため、ティース部(53)の強度が小さくなり易い。しかしながら、このようにティース部(53)の上端部と下端部とにそれぞれ肉厚(少なくとも積層板(71a)よりも大きな厚み)のインシュレータ(61)を形成することで、ティース部(53)の変形を効果的に抑制できる。
【0057】
《実施形態の変形例》
上記実施形態については、以下のような各変形例の構成としてもよい。また、以下に示す各変形例やその他の例の構成を適宜組み合わせてもよい。
【0058】
−スリット部(空隙部)の形状−
〈変形例1〉
上記実施形態では、図7に示すように、屈曲部(82)の径方向内側端部が、ツバ部(53b)の内辺(53c)にまで至っている。しかしながら、例えば図9に示すように、スリット部(80)(屈曲部(82))の径方向内側端部を、ツバ部(53b)の内辺(53c)よりも径方向外方寄りに形成してもよい。つまり、図9の例では、ツバ部(53b)の内辺(53c)が、スリット部(80)によって周方向に分断されてない。この構成では、実施形態と比較して各ティース部(53)の強度が向上するため、例えばコイル(60)の巻き付けに起因するティース部(53)の変形を防止できる。なお、スリット部(80)の径方向内側端部と、内辺(53c)との間の厚みは、第1領域(84)と第2領域(85)との間での磁束の短絡を防止できる程度の厚みに設定されており、例えば電磁鋼板を構成する積層板(51a)の厚み(例えば0.5mm)よりも小さく設定されている。
【0059】
〈変形例2〉
上記実施形態では、図7に示すように、1つのティース部(53)に対応するスリット部(80)が1本のスリット部で構成されている。しかしながら、例えば図10に示すように、スリット部(80)を互いに別体に形成される複数のスリット(81a,81b,82a)で構成してもよい。具体的に、図10の例では、スリット部(80)が、外側スリット(81a)、中間スリット(81b)、及び内側スリット(82a)で構成される。外側スリット(81a)、中間スリット(81b)は、ティース本体(53a)に形成され、内側スリット(82a)は、ツバ部(53b)に形成されている。
【0060】
外側スリット(81a)と中間スリット(81b)とは、互いに連なるようにティース部(53)の突出方向に延びている。外側スリット(81a)と中間スリット(81b)とは、実施形態と同様、ティース部(53)の幅方向の中間線よりもロータ(70)の回転方向側に偏倚している。内側スリット(82a)は、中間スリット(81b)に対してロータ(70)の逆回転方向に屈曲している。内側スリット(82a)と中間スリット(81b)との間の厚みは、第1領域(84)と第2領域(85)との間での磁束の短絡を防止できる程度の厚みに設定されており、例えば電磁鋼板を構成する積層板(51a)の厚み(例えば0.5mm)よりも小さく設定されている。同様に、中間スリット(81b)と内側スリット(82a)との間の厚みは、第1領域(84)と第2領域(85)との間での磁束の短絡を防止できる程度の厚みに設定されており、例えば電磁鋼板を構成する積層板(51a)の厚み(例えば0.5mm)よりも小さく設定されている。
【0061】
この構成では、ティース本体(53a)に非分断箇所を2つ形成しているため、ティース本体(53a)の強度を更に向上できる。その結果、コイル(60)の巻きつけに起因してティース部(53)が変形してしまうことを確実に防止できる。
【0062】
〈変形例3〉
上記実施形態では、図7に示すように、スリット部(80)をティース本体(53a)の幅方向の中間線Mよりもロータ(70)の回転方向側に偏倚させている。しかしながら、例えば図11に示すように、スリット部(80)の少なくとも一部を中間線Mと一致させてもよい。この場合には、屈曲部(82)の少なくとも一部が中間線Mよりも逆回転側に至るように、屈曲部(82)を屈曲させるとよい。この構成においても、d軸方向の磁束を飽和させてd軸インダクタンスLdを低減させるとともに、q軸方向の磁束を許容してq軸インダクタンスLqを増大できる。
【0063】
〈変形例4〉
上記実施形態の屈曲部(82)を必ずしも形成しなくてもよい。例えば図12のスリット部(80)は、バックヨーク部(52)からティース部(53)の内辺(53c)に至るまで、ティース部(53)の突出方向に直線状に延びている。このスリット部(80)は、中間線Mよりも回転側に偏倚している。この構成においても、d軸方向の磁束を飽和させてd軸インダクタンスLdを低減させるとともに、q軸方向の磁束を許容してq軸インダクタンスLqを増大できる。なお、この例のスリット部(80)をティース本体(53a)の幅方向の中間部に形成してもよい。
【0064】
〈変形例5〉
上記実施形態の空隙部(80)は、ティース本体(53a)の積層板(51a)を板厚方向に貫通するスリット部によって形成されている。しかしながら、例えば図13に示すように、積層板(51a)の厚さ方向の一部に溝部(86)を形成し、この溝部(86)内に空隙部(80)を形成してもよい。この構成では、実施形態と比較してティース部(53)の強度が向上する。なお、図14に示すように、積層板(51a)の表面と裏面との双方にそれぞれ溝部(86a,86b)を形成し、これらの溝部(86a,86b)の内部に空隙部(80)を形成してもよい。なお、スリット部(80)や溝部(86)は、金属加工以外にも、例えばレーザー加工によって成形することができる。また、溝部(86)の縦断面形状は、矩形状、三角形状、円弧溝状等如何なる形状であってもよい。
【0065】
〈変形例6〉
図15に示すように、ツバ部(53b)の内辺(53c)からティース本体(53a)に亘って2本の切り込み(87,87)を加工し、両者の切り込み(87,87)に介在する部位(88)(図15において網掛け線を付した領域)を板厚方向に僅かに曲げるようにしてもよい。この場合にも、2本の切り込み(87,87)の間に空隙部(80)を形成することができる。
【0066】
−スリット部(空隙部)の配列パターン−
〈変形例7〉
図16に示すように、分割コア(65)の積層板(51a)の一部を、スリット部(80)が形成されていない非スリット積層板(90)で構成してもよい。図16の例では、ステータコア(51)の最も上側と下側の積層板が、それぞれ非スリット積層板(90)で構成されている。これにより、ステータコア(51)(即ち、分割コア(65))の上端部と下端部の強度が向上するため、コイル(60)の巻きつけに伴うステータコア(51)の変形を防止できる。なお、非スリット積層板(90)の枚数や積層箇所はこれに限らず、種々のパターンを採用することができる。
【0067】
《その他の実施形態》
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
【0068】
実施形態では、ステータコア(51)の上端部と下端部とにそれぞれインシュレータ(61)を積層し、このインシュレータ(61)を補強部材として利用している。しかしながら、図17に示すように、このインシュレータ(61)におけるロータ(70)の回転方向の幅を、ティース部(53)の幅よりも大きくしてもよい。これにより、コイル(60)の巻回時にティース部(53)に作用するテンションを更に軽減でき、ステータコア(51)の変形を防止できる。
【0069】
また、図18に示すように、コイル(60)とティース部(53)との間に介設される絶縁材(92)とインシュレータ(61)とを一体に形成してもよい。
【0070】
更に、図19に示すよう、スリット部(80)の一部に非磁性の補強部材(93)を設けてもよい。図19の例では、インシュレータ(61)と一体となるように板状の補強部材(93)がスリット部(80)の内部に挿通される。これにより、インシュレータの位置決めや、固定が容易になるとともに、ステータコア(51)の強度を向上できる。
【0071】
更に、複数のスリット部(80)の一部、及びステータコア(51)の外側に樹脂材を一体的にモールド成型してもよい。
【0072】
また、本実施形態の電動機(40)は、圧縮機構(25)の駆動源であるが、例えばファンやポンプ等の駆動源として、電動機(40)を用いてもよい。
【0073】
また、本実施形態の電動機(40)は、埋込磁石形の電動機であるが、これを表面磁石形の電動機として本発明を適用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
以上説明したように、本発明は、ステータ、及び永久磁石を有するロータを備えた電動機、及び該電動機を有する電動機ユニットについて有用である。
【符号の説明】
【0075】
40 電動機
53 ティース部
65 分割コア
66 分割ヨーク部(バックヨーク部)
50 ステータ(固定子)
70 ロータ(回転子)
72 永久磁石
80 スリット部(空隙部)
81 主スリット部(主空隙部)
82 屈曲部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に分割されたバックヨーク部(66)と、該バックヨーク部(66)から電磁鋼板の圧延方向に平行に突出するティース部(53)とを有する複数の分割コア(65)と、該複数の分割コア(65)の内側に配置され、上記ティース部(53)に対向する複数の永久磁石(72)を有するロータ(70)とを備えた電動機であって、
上記分割コア(65)のティース部(53)には、該ティース部(53)の突出方向に延びる空隙部(80)が形成されていることを特徴とする電動機。
【請求項2】
請求項1において、
上記永久磁石(72)は、上記ロータ(70)の内部に埋設されていることを特徴とする電動機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−244739(P2012−244739A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111640(P2011−111640)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】