説明

電動車両の電気システムおよびその制御方法

【課題】車両駆動用の電動機を駆動制御するインバータの直流側電圧を可変制御するためのコンバータを含む電動車両の電気システムにおいて、機器故障を回避しつつ車両駆動力を増加させるように、コンバータの出力電圧を適切に設定する。
【解決手段】ECU30は、電動機に印加される電流の振幅を検出するための電流検出手段と、予め想定される電動機に印加される電流の振幅の最大値に対する電流検出手段の検出値の余裕度に基づいて、振幅の最大値に対応させて予め定められたシステム電圧の上限値のデフォルト値に対するシステム電圧の余裕度を算出するための余裕度算出手段と、算出されたシステム電圧の余裕度をデフォルト値に加算することにより、上限値を補正するための上限値補正手段と、システム電圧VHが補正された上限値を超えないように電動機に要求される駆動力に応じて電圧指令値を生成するための電圧指令値生成手段とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動車両の電気システムおよびその制御方法に関し、より特定的には、交流電動機を駆動制御するインバータの直流側電圧を可変制御するためのコンバータを含む電動車両の電気システムに関する。
【背景技術】
【0002】
交流電動機を駆動制御するインバータの直流側電圧を可変制御するためのコンバータを含んだ電気システムとして、たとえば特開2006−101636号公報(特許文献1)には、コンバータによって可変制御された直流電圧を、インバータによって交流電動機を駆動するための交流電圧に変換する電源装置が開示されている。
【0003】
この特許文献1に記載される電源装置においては、昇圧コンバータの負荷電流を検出し、この負荷電流が所定の制限電流値よりも低電流である制限開始電流値以下のときには、インバータの出力電圧の電圧振幅値を100%とし、制限電流値のときに電圧振幅値が0%となるように、負荷電流に応じて電圧振幅値を低下させることにより、一時的な過負荷によって保護機能が働いて昇圧コンバータの出力が停止されるのを回避している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−101636号公報
【特許文献2】特開2009−017716号公報
【特許文献3】特開2008−017682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、インバータには、たとえば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)素子やMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)等の半導体スイッチング素子が用いられ、該半導体スイッチング素子のオフ時には配線の寄生インピーダンスによりサージ電圧が発生する。このサージ電圧は、インバータ入力電圧(システム電圧)から、寄生インダクタンスにより生じる逆起電圧までの電圧上昇分を指す。この逆起電圧が半導体スイッチング素子の耐圧を超えないようにするためには、サージ電圧による電圧上昇分を考慮してインバータ入力電圧を定める必要がある。
【0006】
ここで、上記のサージ電圧による電圧上昇分は、スイッチング時の遮断電流通過率(di/dt)と寄生インピーダンスLとを乗じて算出される。そのため、サージ電圧が最大となるとき、すなわち、遮断電流変化率が最大となるときのサージ電圧による電圧上昇分に基づいてインバータ入力電圧を定めることができる。
【0007】
しかしながら、上記のようにサージ電圧による電圧上昇分が最大となる場合を見込んでインバータ入力電圧を所定値に定める構成では、サージ電圧が最大値よりも低い場合、すなわち、遮断電流変化率が小さい場合であっても、インバータ入力電圧を上げることができない。その結果、交流電動機が発生可能な駆動力がインバータ入力電圧によって制限されてしまうという問題が生じる。
【0008】
それゆえ、この発明はかかる課題を解決するためになされたものであって、その目的は、車両駆動用の電動機を駆動制御するインバータの直流側電圧を可変制御するためのコンバータを含む電動車両の電気システムにおいて、機器故障を回避しつつ車両駆動力を増加させるように、コンバータの出力電圧を適切に設定することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明のある局面では、車両駆動用の電動機を搭載した電動車両の電気システムであって、直流電源と、直流電源から出力される直流電圧を電圧変換して出力するコンバータと、複数のスイッチング素子を含んで構成され、複数のスイッチング素子のスイッチング動作によりコンバータから出力される直流電圧を電動機の駆動電圧に変換するインバータと、インバータへの入力電圧が電圧指令値に一致するように、コンバータを制御する制御装置とを備える。制御装置は、電動機に印加される電流の振幅を検出するための電流検出手段と、予め想定される電動機に印加される電流の振幅の最大値に対する電流検出手段の検出値の余裕度に基づいて、振幅の最大値に対応させて予め定められたインバータ入力電圧の上限値のデフォルト値に対するインバータ入力電圧の余裕度を算出するための余裕度算出手段と、余裕度算出手段により算出されたインバータ入力電圧の余裕度をデフォルト値に加算することにより、上限値を補正するための上限値補正手段と、インバータ入力電圧が補正された上限値を超えないように、電動機に要求される駆動力に応じて電圧指令値を生成するための電圧指令値生成手段とを含む。
【0010】
好ましくは、デフォルト値は、少なくとも電動機に印加される電流の振幅が最大となるときに複数のスイッチング素子のスイッチング動作により発生するサージ電圧を考慮することにより、予め定められたインバータ入力電圧の上限値である。余裕度算出手段は、少なくとも電動機に印加される電流の振幅が最大となるときに対するサージ電圧の余裕度に基づいて、インバータ入力電圧の余裕度を算出する。
【0011】
この発明の別の局面では、車両駆動用の第1の電動機および第2の電動機を搭載した電動車両の電気システムであって、直流電源と、複数のスイッチング素子のスイッチング素子のスイッチング動作により直流電源から出力される直流電圧を電圧変換して出力するコンバータと、複数のスイッチング素子のスイッチング素子のスイッチング動作によりコンバータから出力される直流電圧を第1の電動機の駆動電圧に変換する第1のインバータと、複数のスイッチング素子のスイッチング動作によりコンバータから出力される直流電圧を第2の電動機の駆動電圧に変換する第2のインバータと、第1および第2のインバータへの入力電圧が電圧指令値に一致するように、コンバータを制御する制御装置とを備える。制御装置は、第1の電動機に印加される電流の振幅を検出するための第1の電流検出手段と、第2の電動機に印加される電流の振幅を検出するための第2の電流検出手段と、コンバータを流れる電流を検出するための第3の電流検出手段と、予め想定される第1の電動機に印加される電流の振幅の最大値に対する第1の電流検出手段の検出値の余裕度に基づいて、当該振幅の最大値に対応させて予め定められたインバータ入力電圧の上限値のデフォルト値に対するインバータ入力電圧の余裕度を算出するための第1の余裕度算出手段と、予め想定される第2の電動機に印加される電流の振幅の最大値に対する第2の電流検出手段の検出値の余裕度に基づいて、当該振幅の最大値に対応させて予め定められたインバータ入力電圧の上限値のデフォルト値に対するインバータ入力電圧の余裕度を算出するための第2の余裕度算出手段と、予め想定されるコンバータを流れる電流の最大値に対する第3の電流検出手段の検出値の余裕度に基づいて、当該電流の最大値に対応させて予め定められたインバータ入力電圧の上限値のデフォルト値に対するインバータ入力電圧の余裕度を算出するための第3の余裕度算出手段と、第1から第3の余裕度算出手段によりそれぞれ算出されたインバータ入力電圧の余裕度のうちの最小値をデフォルト値に加算することにより、上限値を補正するための上限値補正手段と、インバータ入力電圧が補正された上限値を超えないように、第1および第2の電動機に要求される駆動力に応じて電圧指令値を生成するための電圧指令値生成手段とを含む。
【0012】
好ましくは、デフォルト値は、少なくとも第1および第2の電動機に印加される電流の振幅が最大となるときに複数のスイッチング素子のスイッチング動作により発生するサージ電圧を考慮することにより、予め定められたインバータ入力電圧の上限値である。第1の余裕度算出手段は、少なくとも第1の電動機に印加される電流の振幅が最大となるときに対するサージ電圧の余裕度に基づいて、インバータ入力電圧の余裕度を算出する。第2の余裕度算出手段は、少なくとも第2の電動機に印加される電流の振幅が最大となるときに対するサージ電圧の余裕度に基づいて、インバータ入力電圧の余裕度を算出する。第3の余裕度算出手段は、少なくともコンバータを流れる電流が最大となるときに対するサージ電圧の余裕度に基づいて、インバータ入力電圧の余裕度を算出する。
【0013】
好ましくは、電動車両は、燃料の燃焼によって作動するエンジンと、第2の電動機に連結され、駆動輪に動力を出力するための出力部材と、出力部材、エンジンの出力軸および第1の電動機の出力軸とそれぞれ結合された複数の回転要素を互いに相対回転可能に連結し、かつ、第1の電動機による電力および動力の入出力を伴なってエンジンからの出力の少なくとも一部を出力部材へ出力する動力分割機構とをさらに備える。
【0014】
この発明の別の局面では、車両駆動用の電動機を搭載した電動車両の電気システムの制御方法であって、電気システムは、直流電源と、直流電源から出力される直流電圧を電圧変換して出力するコンバータと、複数のスイッチング素子を含んで構成され、複数のスイッチング素子のスイッチング動作によりコンバータから出力される直流電圧を電動機の駆動電圧に変換するインバータとを含む。制御方法は、電動機に印加される電流の振幅を検出するステップと、予め想定される電動機に印加される電流の振幅の最大値に対する電流の振幅の検出値の余裕度に基づいて、振幅の最大値に対応させて予め定められたインバータ入力電圧の上限値のデフォルト値に対するインバータ入力電圧の余裕度を算出するステップと、算出されたインバータ入力電圧の余裕度をデフォルト値に加算することにより、上限値を補正するステップと、インバータ入力電圧が補正された上限値を超えないように、電動機に要求される駆動力に応じて電圧指令値を生成するステップと、インバータ入力電圧が電圧指令値に一致するように、コンバータを制御するステップとを備える。
【0015】
好ましくは、デフォルト値は、少なくとも電動機に印加される電流の振幅が最大となるときに複数のスイッチング素子のスイッチング動作により発生するサージ電圧を考慮することにより、予め定められたインバータ入力電圧の上限値である。余裕度を算出するステップは、少なくとも電動機に印加される電流の振幅が最大となるときに対するサージ電圧の余裕度に基づいて、インバータ入力電圧の余裕度を算出する。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、車両駆動用の電動機を駆動制御するインバータの直流側電圧を可変制御するためのコンバータを含む電動車両の電気システムにおいて、機器故障を回避しつつ車両駆動力を増加させるように、コンバータの出力電圧を適切に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態による電動車両の電気システムを搭載した車両の一例として示されるハイブリッド車両の概略構成図である。
【図2】図1のハイブリッド車両におけるパワートレインの詳細を説明するための模式図である。
【図3】モータジェネレータMG1,MG2の制御構成を示す概略ブロック図である。
【図4】ECUにおけるモータ制御構成を説明するブロック図である。
【図5】図2におけるコンバータ制御部による電圧変換制御構成を説明するブロック図である。
【図6】システム電圧VHの上限値を概念的に説明する図である。
【図7】IGBT素子によるサージ電圧を概念的に説明する図である。
【図8】システム電圧指令生成部によるシステム電圧上限値設定の処理を説明する図である。
【図9】本発明の実施の形態によるモータ制御によるモータジェネレータMG2の動作可能領域を示す概念図である。
【図10】全開加速時におけるモータ電流MCRT1,MCRT2およびリアクトル電流ILの振幅の遷移を説明する図である。
【図11】図3に示したシステム電圧指令生成部によるシステム電圧指令を生成する処理を説明する図である。
【図12】記憶部に記憶される耐圧余裕度算出用マップの一例を説明する図である。
【図13】本発明の実施の形態に従うシステム電圧指令値の生成方法を説明するフローチャートである。
【図14】本発明の実施の形態に従うシステム電圧指令値の生成方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明が繰返さない。
【0019】
図1は、本発明の実施の形態による電動車両の電気システムを搭載した車両の一例として示されるハイブリッド車両5の概略構成図である。
【0020】
図1を参照して、ハイブリッド車両5は、エンジンENGと、モータジェネレータMG1,MG2と、バッテリ10と、電力変換ユニット(PCU:Power Control Unit)20と、動力分割機構PSDと、減速機RDと、前輪70L,70Rと、後輪80L,80Rと、電子制御ユニット(Electrical Control Unit:ECU)30とを備える。本実施の形態に係る制御装置は、たとえばECU30が実行するプログラムにより実現される。なお、図1には、前輪70L,70Rを駆動輪とするハイブリッド車両5が例示されるが、前輪70L,70Rに代えて後輪80L,80Rを駆動輪としてもよい。あるいは、図1に構成に加えて後輪80L,80R駆動用のモータジェネレータをさらに設けて、4WD構成とすることも可能である。
【0021】
エンジンENGが発生する駆動力は、動力分割機構PSDにより、2経路に分割される。一方は、減速機RDを介して前輪70L,70Rを駆動する経路である。もう一方は、モータジェネレータMG1を駆動させて発電する経路である。
【0022】
モータジェネレータMG1は、代表的には三相交流同期電動発電機により構成される。モータジェネレータMG1は、動力分割機構PSDにより分割されたエンジンENGの駆動力により、発電機として発電する。また、モータジェネレータMG1は、発電機としての機能だけでなく、エンジンENGの回転数を制御するアクチュエータとしても機能をも有する。
【0023】
なお、モータジェネレータMG1により発電された電力は、車両の運転状態やバッテリ10のSOC(State Of Charge)の状態に応じて使い分けられる。たとえば、通常走行時や急加速時では、モータジェネレータMG1により発電された電力はそのままモータジェネレータMG2をモータとして駆動させる動力となる。一方、バッテリ10のSOCが予め定められた値よりも低い場合には、モータジェネレータMG1により発電された電力は、電力変換ユニット20により交流電力から直流電力に変換されてバッテリ10に蓄えられる。
【0024】
このモータジェネレータMG1は、エンジンENGを始動する際の始動機としても利用される。エンジンENGを始動する際、モータジェネレータMG1は、バッテリ10から電力の供給を受けて、電動機として駆動する。そして、モータジェネレータMG1は、エンジンENGをクランキングして始動する。
【0025】
モータジェネレータMG2は、代表的には三相交流同期電動発電機により構成される。モータジェネレータMG2が電動機として駆動される場合には、バッテリ10に蓄えられた電力およびモータジェネレータMG1により発電された電力の少なくともいずれか一方により駆動される。モータジェネレータMG2の駆動力は、減速機RDを介して前輪70L,70Rに伝えられる。これにより、モータジェネレータMG2は、エンジンENGをアシストして車両を走行させたり、モータジェネレータMG2の駆動力のみにより車両を走行させたりする。
【0026】
車両の回生制動時には、減速機RDを介して前輪70L,70RによりモータジェネレータMG2が駆動され、モータジェネレータMG2が発電機として作動させられる。これによりモータジェネレータMG2は、制動エネルギを電気エネルギに変換する回生ブレーキとして作用する。モータジェネレータMG2により発電された電力は、電力変換ユニット20を介してバッテリ10に蓄えられる。
【0027】
バッテリ10は、たとえば、ニッケル水素またはリチウムイオン等の二次電池により構成される。本発明の実施の形態において、バッテリ10は「直流電源」の代表例として示される。すなわち、電気二重層キャパシタ等の他の直流電源をバッテリ10に代えて用いることも可能である。バッテリ10は、直流電圧を電力変換ユニット20へ供給するとともに、電力変換ユニット20からの直流電圧によって充電される。
【0028】
電力変換ユニット20は、バッテリ10よって供給される直流電力と、モータを駆動制御する交流電力およびジェネレータによって発電される交流電力との間で双方向の電力変換を行なう。
【0029】
ハイブリッド車両5は、さらに、ハンドル40と、アクセルペダルポジションAPを検出するアクセルポジションセンサ44と、ブレーキペダルポジションBPを検出するブレーキペダルポジションセンサ46と、シフトポジションSPを検出するシフトポジションセンサ48とを備える。
【0030】
また、モータジェネレータMG1,MG2には、ロータ回転角を検出する回転角センサ51,52がさらに設けられる。回転角センサ51によって検出されたモータジェネレータMG1のロータ回転角θ1および回転角センサ52によって検出されたモータジェネレータMG2のロータ回転角θ2は、ECU30へ伝達される。なお、回転角センサ51,52は、ECU30においてモータジェネレータMG1の電流、電圧等からロータ回転角θ1を推定し、また、モータジェネレータMG2の電流、電圧等からロータ回転角θ2を推定することによって、配置を省略してもよい。
【0031】
ECU30は、エンジンENG、電力変換ユニット20およびバッテリ10と電気的に接続されている。ECU30は、各種センサからの検出信号に基づいて、ハイブリッド車両5が所望の走行状態となるように、エンジンENGの運転状態と、モータジェネレータMG1,MG2の駆動状態と、バッテリ10の充電状態とを統合的に制御する。
【0032】
図2は、図1のハイブリッド車両5におけるパワートレインの詳細を説明するための模式図である。
【0033】
図2を参照して、ハイブリッド車両5のパワートレイン(ハイブリッドシステム)は、モータジェネレータMG2と、モータジェネレータMG2の出力軸160に接続される減速機RDと、エンジンENGと、モータジェネレータMG1と、動力分割機構PSDとを備える。
【0034】
動力分割機構PSDは、図2に示す例では遊星歯車機構により構成され、クランクシャフト150に軸中心を貫通された中空のサンギヤ軸に結合されたサンギヤ151と、クランクシャフト150と同軸上を回転可能に支持されているリングギヤ152と、サンギヤ151とリングギヤ152との間に配置され、サンギヤ151の外周を自転しながら公転するピニオンギヤ153と、クランクシャフト150の端部に結合され各ピニオンギヤ153の回転軸を支持するプラネタリキャリヤ154とを含む。
【0035】
動力分割機構PSDは、サンギヤ151に結合されたサンギヤ軸と、リングギヤ152に結合されたリングギヤケース155およびプラネタリキャリヤ154に結合されたクランクシャフト150の3軸が動力の入出力軸とされる。そしてこの3軸のうちいずれか2軸へ入出力される動力が決定されると、残りの1軸に入出力される動力は他の2軸へ入出力される動力に基づいて定まる。
【0036】
動力の取出用のカウンタドライブギヤ170がリングギヤケース155の外側に設けられ、リングギヤ152と一体的に回転する。カウンタドライブギヤ170は、動力伝達減速ギヤRGに接続されている。リングギヤケース155は、本発明での「出力部材」に対応する。このようにして、動力分割機構PSDは、モータジェネレータMG1による電力および動力の入出力を伴って、エンジンENGからの出力の少なくとも一部を出力部材へ出力するように動作する。
【0037】
さらに、カウンタドライブギヤ170と動力伝達減速ギヤRGとの間で動力の伝達がなされる。そして、動力伝達減速ギヤRGは、駆動輪である前輪70L、70Rと連結されたディファレンシャルギヤDEFを駆動する。また、下り坂等では駆動輪の回転がディファレンシャルギヤDEFに伝達され、動力伝達減速ギヤRGはディファレンシャルギヤDEFによって駆動される。
【0038】
モータジェネレータMG1は、回転磁界を形成するステータ131と、ステータ131内部に配置され複数個の永久磁石が埋め込まれているロータ132とを含む。ステータ131は、ステータコア133と、ステータコア133に巻回される三相コイル134とを含む。ロータ132は、動力分割機構PSDのサンギヤ151と一体的に回転するサンギヤ軸に結合されている。ステータコア133は、電磁鋼板の薄板を積層して形成されており、図示しないケースに固定されている。
【0039】
モータジェネレータMG1は、ロータ132に埋め込まれた永久磁石による磁界と三相コイル134によって形成される磁界との相互作用によりロータ132を回転駆動する電動機として動作する。またモータジェネレータMG1は、永久磁石による磁界とロータ132の回転との相互作用により三相コイル134の両端に起電力を生じさせる発電機としても動作する。
【0040】
モータジェネレータMG2は、回転磁界を形成するステータ136と、ステータ136内部に配置され複数個の永久磁石が埋め込まれたロータ137とを含む。ステータ136は、ステータコア138と、ステータコア138に巻回される三相コイル139とを含む。
【0041】
ロータ137は、動力分割機構PSDのリングギヤ152と一体的に回転するリングギヤケース155に減速機RDを介して結合されている。ステータコア138は、たとえば電磁鋼板の薄板を積層して形成されており、図示しないケースに固定されている。
【0042】
モータジェネレータMG2は、永久磁石による磁界とロータ137の回転との相互作用により三相コイル139の両端に起電力を生じさせる発電機としても動作する。またモータジェネレータMG2は、永久磁石による磁界と三相コイル139によって形成される磁界との相互作用によりロータ137を回転駆動する電動機として動作する。
【0043】
減速機RDは、プラネタリギヤの回転要素の一つであるプラネタリキャリヤ166がケースに固定された構造により減速を行なう。すなわち、減速機RDは、ロータ137の出力軸160に結合されたサンギヤ162と、リングギヤ152と一体的に回転するリングギヤ168と、リングギヤ168およびサンギヤ162に噛み合いサンギヤ162の回転をリングギヤ168に伝達するピニオンギヤ164とを含む。たとえば、サンギヤ162の歯数に対しリングギヤ168の歯数を2倍以上にすることにより、減速比を2倍以上にすることができる。
【0044】
このようにモータジェネレータMG2の回転力は、減速機RDを介して、リングギヤ152,168と一体的に回転する出力部材(リングギヤケース)155に伝達される。すなわち、モータジェネレータMG2は、出力部材155から駆動輪までの間で動力を加えるように構成される。なお、減速機RDの配置を省略して、すなわち減速比を設けることなく、モータジェネレータMG2の出力軸160および出力部材155の間を連結してもよい。
【0045】
電力変換ユニット20は、コンバータ12と、インバータ14,22とを含む。コンバータ12は、バッテリ10からの直流電圧Vbを電圧変換して電源ラインPLおよび接地ラインGL間に直流電圧VHを出力する。また、コンバータ12は、双方向に電圧変換可能に構成されて、電源ラインPLおよび接地ラインGL間の直流電圧VHをバッテリ10の充電電圧Vbに変換する。
【0046】
インバータ14,22は、一般的な三相インバータで構成されて、電源ラインPLおよび接地ラインGL間の直流電圧VHを交流電圧に変換してそれぞれモータジェネレータMG2,MG1へ出力する。また、インバータ14,22は、モータジェネレータMG2,MG1によって発電された交流電圧を直流電圧VHに変換して、電源ラインPLおよび接地ラインGL間に出力する。
【0047】
図1および図2に示した構成において、インバータ14および22の直流電圧側は、共通の電源ラインPLおよび接地ラインGLを介して、コンバータ12と接続される。モータジェネレータMG1は本発明における「第1の電動機」に対応し、モータジェネレータMG2は本発明における「第2の電動機」に対応する。また、インバータ22は本発明での「第1のインバータ」に対応し、インバータ14は本発明での「第2のインバータ」に対応する。以下では、インバータ14,22の入力電圧に相当する、電源ラインPLの直流電圧VHを「システム電圧VH」とも称する。
【0048】
図3は、モータジェネレータMG1,MG2の制御構成を示す概略ブロック図である。
図3を参照して、電力変換ユニット20は、コンデンサC1,C2と、コンバータ12と、インバータ14,22と、電流センサ24,28とを含む。
【0049】
図1および図2に示したECU30は、上位の電子制御ユニットから入力されたモータジェネレータMG1およびMG2の運転指令に従ってモータジェネレータMG1,MG2が動作するように、コンバータ12およびインバータ14,22のスイッチング制御のためのスイッチング制御信号PWMC,PMWI1,PMWI2を生成する。
【0050】
コンバータ12は、リアクトルL1と、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)素子Q1,Q2と、ダイオードD1,D2とを含む。リアクトルL1の一方端は、バッテリ10の電源ラインに接続され、他方端はIGBT素子Q1とIGBT素子Q2との中間点、すなわち、IGBT素子Q1のエミッタとIGBT素子Q2のコレクタとの間に接続される。IGBT素子Q1,Q2は、電源ラインPLと接地ラインGLの間に直列に接続される。IGBT素子Q1のコレクタは電源ラインPLに接続され、IGBT素子Q2のエミッタは接地ラインGLに接続される。また、各IGBT素子Q1,Q2のコレクタ−エミッタ間には、エミッタからコレクタ側へ電流を流すためのダイオードD1,D2はそれぞれ接続されている。
【0051】
インバータ14は、U相アーム15と、V相アーム16と、W相アーム17とからなる。U相アーム15、V相アーム16、W相アーム17は、電源ラインPLおよび接地ラインGLの間に並列に設けられる。U相アーム15は、直列接続されたIGBT素子Q3,Q4から成り、V相アーム16は、直列接続されたIGBT素子Q5,Q6からなり、W相アーム17は、直列接続されたIGBT素子Q7,Q8から成る。また、各IGBT素子Q3〜Q8のコレクタ−エミッタ間には、エミッタ側からコレクタ側へ電流を流すダイオードD3〜D8がそれぞれ接続されている。
【0052】
各相アームの中間点は、モータジェネレータMG2の各相コイルの各相端に接続される。すなわち、U,V,W相の3つのコイルの一端が中性点に共通接続されるとともに、U相コイルの他端がIGBT素子Q3,Q4の中間点に、V相コイルの他端がIGBT素子Q5,Q6の中間点に、W相コイルの他端はIGBT素子Q7,Q8の中間点にそれぞれ接続されている。
【0053】
インバータ22は、インバータ14と同じ構成からなる。
電圧センサ11は、バッテリ10から出力される直流電圧Vbを検出し、その検出した直流電圧VbをECU30へ出力する。コンデンサC1は、バッテリ10から供給された直流電圧Vbを平滑化し、その平滑化した直流電圧Vbをコンバータ12へ供給する。
【0054】
コンバータ12は、コンデンサC1から供給された直流電圧Vbを昇圧してコンデンサC2へ供給する。具体的には、コンバータ12は、ECU30から信号PWMCを受けると、信号PWMCによってIGBT素子Q2がオンされた期間に応じて直流電圧Vbを昇圧してコンデンサC2に供給する。
【0055】
また、コンバータ12は、ECU30から信号PWMCを受けると、コンデンサC2を介してインバータ14および/またはインバータ22から供給された直流電圧(システム電圧VH)を降圧してバッテリ10を充電する。電流センサ26は、リアクトルL1に流れるリアクトル電流ILを検出し、その検出したリアクトル電流ILをECU30へ出力する。
【0056】
コンデンサC2は、コンバータ12からの直流電圧を平滑化し、その平滑化した直流電圧を、電源ラインPLおよび接地ラインGLを介してインバータ14,22へ供給する。電圧センサ13は、コンデンサC2の両端の電圧、すなわち、コンバータ12の出力電圧VH(インバータ14,22の入力電圧に相当する。以下同じ。)を検出し、その検出した出力電圧(システム電圧)VHをECU30へ出力する。
【0057】
インバータ14は、コンデンサC2からシステム電圧VHが供給されると、MG−ECU35からの信号PWMI2に基づいて直流電圧を交流電圧に変換してモータジェネレータMG2を駆動する。これにより、モータジェネレータMG2は、トルク指令値TR2によって指定されたトルクを発生するように駆動される。
【0058】
また、インバータ14は、ハイブリッド車両5の回生制動時、モータジェネレータMG2が発電した交流電圧をECU30からの信号PWMI2に基づいて直流電圧(システム電圧VH)に変換し、その変換した直流電圧をコンデンサC2を介してコンバータ12へ供給する。なお、ここにいう回生制動とは、ハイブリッド車両5を運転するドライバーによるフットブレーキ操作があった場合の回生制動を伴なう制動や、フットブレーキを操作しないものの、走行中にアクセルペダルをオフすることで回生発電をさせながら車両を減速(または加速の中止)させることを含む。
【0059】
インバータ22は、コンデンサC2からシステム電圧VHが供給されると、ECU30からの信号PWMI1に基づいて直流電圧を交流電圧に変換してモータジェネレータMG1を駆動する。これにより、モータジェネレータMG1は、トルク指令値TR1によって指定されたトルクを発生するように駆動される。
【0060】
電流センサ24は、モータジェネレータMG1に流れるモータ電流MCRT1を検出し、その検出したモータ電流MCRT1をECU30へ出力する。電流センサ28は、モータジェネレータMG2に流れるモータ電流MCRT2を検出し、その検出したモータ電流MCRT2をECU30へ出力する。
【0061】
さらに、回転角センサ51によって検出されたモータジェネレータMG1のロータ回転角θ1および回転角センサ52によって検出されたモータジェネレータMG2のロータ回転角θ2は、ECU30へ伝達される。
【0062】
ECU30は、電圧センサ11から直流電圧Vbを受け、電流センサ24,28からモータ電流MCRT1,MCRT2をそれぞれ受け、電圧センサ13からコンバータ12の出力電圧(システム電圧)VHを受け、回転角センサ51,52からロータ回転角θ1,θ2をそれぞれ受ける。ECU30は、ロータ回転角θ1,θ2に基づきモータジェネレータMG1,MG2の回転数MRN1,MRN2をそれぞれ算出することができる。
【0063】
さらに、ECU30は、上位のECUより、モータジェネレータMG1およびMG2の運転指令を受ける。なお、上位のECUから送出される運転指令には、モータジェネレータMG1,MG2のトルク指令値TR1,TR2が含まれる。
【0064】
図4は、ECU30におけるモータ制御構成を説明するブロック図である。
図4を参照して、ECU30は、インバータ14,22における電力変換制御を行なうインバータ制御部42と、コンバータ12における電圧変換制御を行なうコンバータ制御部40とを含む。
【0065】
インバータ制御部42は、システム電圧VH、モータ電流MCRT2、ロータ回転角θ2(モータ回転数MRN2)およびトルク指令値TR2に基づいて、インバータ14がモータジェネレータMG2を駆動するときに、インバータ14のIGBT素子Q3〜Q8をスイッチング制御するための信号PWMI2を生成し、その生成した信号PWMI2をインバータ14へ出力する。また、インバータ制御部42は、システム電圧VH、モータ電流MCRT1、ロータ回転角θ1(モータ回転数MRN1)およびトルク指令値TR1に基づいて、インバータ22がモータジェネレータMG1を駆動するときに、インバータ22のIGBT素子Q3〜Q8をスイッチング制御するための信号PWMI1を生成し、その生成した信号PWMI1をインバータ22へ出力する。これらの際に、信号PWMI1,PWMI2は、たとえば周知のPWM制御方式に従う、センサ検出値を用いたフィードバック制御により生成される。
【0066】
コンバータ制御部40は、コンバータ12の電圧指令値(システム電圧指令値)VHcomを生成するとともに、コンバータ12の出力電圧(システム電圧)VHがシステム電圧指令値VHcomに追従するようにコンバータ12を制御する。具体的には、コンバータ制御部40は、システム電圧指令値VHcomと、直流電圧Vbおよびシステム電圧VHとに基づいて、コンバータ12のIGBT素子Q1,Q2をスイッチング制御するための信号PWMCを生成してコンバータ12へ出力する。
【0067】
次に、コンバータ制御部40によるコンバータ12における電圧変換制御について詳細に説明する。
【0068】
図5は、図2におけるコンバータ制御部40による電圧変換制御構成を説明するブロック図である。
【0069】
図5を参照して、コンバータ制御部40は、システム電圧指令生成部50と、コンバータ用デューティー比変換部53と、コンバータ用PWM信号変換部54とを含む。
【0070】
システム電圧指令生成部50は、上位ECUからのトルク指令値TR1,TR2、ロータ回転角θ1,θ2(モータ回転数MRN1,MRN2)、モータ電流MCRT1,MCRT2、およびリアクトル電流ILに基づいてシステム電圧VHの最適値、すなわちシステム電圧指令値VHcomを演算し、その演算したシステム電圧指令値VHcomをコンバータ用デューティー比変換部53へ出力する。
【0071】
コンバータ用デューティー比変換部53は、システム電圧指令生成部50からシステム電圧指令値VHcomを受け、電圧センサ11から直流電圧Vbを受けると、電圧センサ13からのシステム電圧VHをシステム電圧指令値VHcomに設定するためのデューティー比を演算し、その演算したデューティー比をコンバータ用PWM信号変換部54へ出力する。
【0072】
コンバータ用PWM信号変換部54は、コンバータ用デューティー比変換部53から与えられるデューティー比に基づいてコンバータ12のIGBT素子Q1,Q2をスイッチング制御するための信号PWMCを生成し、その生成した信号PWMCをコンバータ12へ出力する。
【0073】
(システム電圧指令値VHcomの生成)
図5に示す構成において、モータジェネレータMG(MG1,MG2を総括的に表記するもの、以下同じ)を円滑に駆動するためには、モータジェネレータMGの動作点、回転数およびトルクに応じて、コンバータ12の出力電圧(システム電圧)VHを適切に設定する必要がある。
【0074】
その一方で、インバータ14,22では、IGBT素子のオンオフに伴なってサージ電圧が発生する。このサージ電圧は、インバータ14,22の入力電圧(システム電圧)VHに重畳されてIGBT素子のコレクタ−エミッタ間に印加される。したがって、サージ電圧がIGBT素子の耐圧を超えると、IGBT素子の破壊や、モータ巻線の被膜に発生する絶縁破壊等によって、機器故障が発生する虞がある。このような機器故障を回避するため、コンバータ12の出力可能な上限電圧、すなわち、システム電圧VHの上限値は、IGBT素子の耐圧により制限される。
【0075】
図6は、システム電圧VHの上限値を概念的に説明する図である。
図6に示すように、インバータ入力電圧(システム電圧)VHには、サージ電圧ΔVHが加算される。したがって、システム電圧VHの上限値(以下、「システム電圧上限値」とも称する)VHmaxは、少なくともサージ電圧を考慮して、インバータのIGBT素子の耐圧を超えないように定める必要がある。
【0076】
ここで、図6に示されるサージ電圧には、IGBT素子Q3〜Q8のオンオフに伴なって、当該IGBT素子Q3〜Q8によるサージ電圧および逆並列ダイオードD3〜D8によるサージ電圧が含まれている。IGBT素子Q3〜Q8によるサージ電圧は、モータ電流をオフする際に、di/dtに応じて発生する。図7は、IGBT素子によるサージ電圧を概念的に説明する図である。このサージ電圧(以下、「ターンオフサージ」と称する)ΔVHは、IGBT素子のスイッチング速度が大きくなるにつれて増大する。また、スイッチング速度が一定となる場合には、ターンオフサージは、IGBT素子の通過電流が大きくなるにつれて増大する。そして、IGBT素子の通過電流が最大となるタイミング、すなわちモータ電流の振幅が最大となるタイミングでIGBT素子をオンオフするときに最大となる。
【0077】
一方、逆並列ダイオードD3〜D8によるサージ電圧(以下、「リカバリーサージ」とも称する)は、ダイオード電流が零になって逆回復電流が生じているタイミング、すなわち、モータ電流のゼロクロスタイミング付近でIGBT素子をオンオフするときに最大となる。なお、IGBT素子Q3〜Q8に生じる上記ターンオフサージと、逆並列ダイオードD3〜D8に生じる上記リカバリーサージとのいずれが大きくなるかについては、電気システムのハード構成や、使用する電流領域によって変化する。
【0078】
本発明の実施の形態によるモータ制御では、上記ターンオフサージとモータ電流の大きさとの関係に着目し、以下に説明する図8に従って、モータ電流の大きさに応じてシステム電圧上限値VHmaxを可変に設定する。
【0079】
図8は、システム電圧指令生成部50によるシステム電圧上限値設定の処理を説明する図である。
【0080】
図8(a)は、システム電圧VHとモータジェネレータMG2の動作可能領域との関係を示す概念図である。図8(a)を参照して、モータジェネレータMG2の動作可能領域は、回転数およびトルクの組み合わせによって示される。モータジェネレータMG2では、回転数やトルクが増加すると誘起電圧が高くなり、その必要電圧が高くなる。このモータ必要電圧(誘起電圧)の最大値は、システム電圧VHで決まる。
【0081】
図中の実線L1は、システム電圧VH=VHmax(システム電圧上限値)であるときの動作可能領域の限界(最大出力線)を示すものである。なお、システム電圧VHがVHmaxよりも増加すると、破線L2に示すように、動作可能領域は拡大される。すなわち、モータジェネレータMG2のトルク上限値(出力可能な最大トルク)は大きくなる。
【0082】
トルク上限値は、回転数がN2未満の範囲では最大値で一定となっている。この最大値は、最大トルク制御における電流制限によるものである。そして、回転数の増加に伴なってモータ必要電圧が増大することにより、最大トルク制御で電圧制限に達した後は、弱め界磁電流を増加させることにより、モータ必要電圧がシステム電圧上限値VHmaxを超えないように制御する。回転数がN2以上の範囲では、回転数が大きくなるほどトルク上限値が低下する。
【0083】
図8(b)は、運転者によりアクセルペダルポジションAPが全開位置WOT(Wide Open Throttle)に操作されたときに、図8(a)に示されるモータジェネレータMG2に印加される電流(モータ電流)を説明する図である。同図では、モータジェネレータMG2の動作点が最大出力線L1上を遷移している状態、すなわち、モータジェネレータMG2がトルク上限値を出力している状態において、モータ電流MCRT2の振幅が遷移する様子が示されている。回転数がN2未満の範囲では、最大トルク制御によってモータ電流MCRT2の振幅が大きくなっているのに対して、回転数がN2以上の範囲では、弱め界磁制御によってモータ電流MCRT2の振幅が小さくなっている。モータ電流MCRT2の振幅は回転数がN2のときに最大値(最大モータ電流MCRT2_max)となる。
【0084】
上述したように、IGBT素子Q3〜Q8に生じるターンオフサージは、モータ電流MCRT2の振幅が大きくなるについて増加する。したがって、モータ電流MCRT2の振幅が図8(b)に示される態様で遷移する場合、IGBT素子Q3〜Q8に発生するターンオフサージは、図8(c)に示すように、回転数がN2未満の領域よりも回転数がN2以上の領域の方が小さくなっている。また、回転数がN2のときにターンオフサージが最大値(最大ターンオフサージΔVHmax)となる。したがって、機器故障を確実に回避するためには、モータジェネレータMG2の運転時に発生し得る最大ターンオフサージΔVHmaxを考慮して、システム電圧上限値VHmaxを設定する必要がある。
【0085】
その一方で、回転数がN2以上の領域においては、回転数が高くなるにつれてモータ電流MCRT2の振幅が小さくなっている。そのため、この領域では、ターンオフサージにおいても最大ターンオフサージΔVHmaxに対する余裕度が、回転数が高くなるにつれて大きくなっていることが分かる。
【0086】
本発明の実施の形態では、上記の最大ターンオフサージΔVHmaxに対するターンオフサージ発生の余裕度を、システム電圧上限値VHmaxの設定に反映させる。具体的には、図8(d)に示すように、最大モータ電流MCRT2に対応させて予め設定されたシステム電圧上限値VHmax0をデフォルト値とする。そして、実際にモータジェネレータMG2に印加される電流MCRT2の振幅に基づいて、最大ターンオフサージΔVHmaxに対するターンオフサージの余裕度ΔVH2を算出し、その算出した余裕度ΔVH2をデフォルト値VHmax0に加算することによって、システム電圧上限値VHmaxを補正(嵩上げ)する。
【0087】
ここで、ターンオフサージの余裕度ΔVH2は、回転数がN2以上の領域、すなわち、モータジェネレータMG2の動作点が中回転数域および高回転数域に位置するときに、モータ電流MCRT2の振幅が減少するのを受けて増加している。したがって、ターンオフサージの余裕度ΔVH2をシステム電圧上限値VHmaxに反映させることによって、システム電圧上限値VHmaxは、動作点が中回転数域および高回転数域に位置するときにデフォルト値VHmax0よりも高い電圧に補正されることとなる。
【0088】
図9は、本発明の実施の形態によるモータ制御によるモータジェネレータMG2の動作可能領域を示す概念図である。
【0089】
図9を参照して、最大出力線L1は、システム電圧VH=VHmax0(デフォルト値)であるときの動作可能領域の限界を示す。これに対して、本発明による最大出力線L3は、中回転数域および高回転数域におけるトルク上限値が増加している。これは、図8(d)で説明したように、中回転数域および高回転数域において、システム電圧上限値VHmaxがデフォルト値VHmax0よりも高い電圧に補正されたことによる。この結果、本発明によるモータジェネレータMG2の動作可能領域は、図中に斜線で示された領域だけ拡大されている。よって、全開加速時において、中回転数域および高回転数域での車両駆動力が増加する。
【0090】
なお、図1に示したハイブリッド車両5においては、運転者によりアクセルペダルポジションAPが全開位置WOTに操作されたときには、モータジェネレータMG2に印加される電流(モータ電流MCRT2)の振幅が遷移するのに並行して、モータジェネレータMG2に印加される電流(モータ電流MCRT1)およびコンバータ12に流れる電流(リアクトル電流IL)の振幅がそれぞれ遷移する。図10には、モータジェネレータMG2の動作点が最大出力線L1上を遷移している状態、すなわち、トルク上限値を出力している状態において、モータ電流MCRT1,MCRT2およびリアクトル電流ILの振幅が遷移する様子が示される。
【0091】
図10を参照して、モータ電流MCRT1の振幅は、エンジンENGをクランキングするとき(回転数がN1のとき)に最大値となる。そして、回転数がN1以上の範囲では、モータ電流MCRT1の振幅は回転数の増加に従って減少している。同様に、リアクトル電流ILの振幅は、エンジンENGをクランキングするときに最大値となり、回転数がN1以上の範囲において、回転数の増加に従って減少する。
【0092】
すなわち、図10においては、モータ電流MCRT1,MCRT2およびリアクトル電流ILのいずれもが、モータジェネレータMG2の動作点が中回転数域および高回転数域に位置するときには、振幅が最大値よりも小さくなっている。したがって、中回転数領域および高回転数領域においては、モータジェネレータMG1,MG2およびコンバータ12のいずれにおいても、最大ターンオフサージΔVHmaxに対する余裕度が生じていることが理解される。したがって、この最大ターンオフサージΔVHmaxに対する余裕度を、システム電圧上限値VHmaxの設定に反映させることができ、その結果、図9に示したモータジェネレータMG2の動作領域の拡大が実現される。
【0093】
図11は、図3に示したシステム電圧指令生成部50によるシステム電圧指令を生成する処理を説明する図である。
【0094】
図11を参照して、システム電圧指令生成部50は、システム電圧上限値設定部500と、記憶部502と、システム電圧指令値演算部510とを含む。
【0095】
システム電圧上限値設定部500は、電流センサ26からリアクトル電流ILを受け、電流センサ24,28からモータ電流MCRT1,MCRT2を受ける。システム電圧上限値設定部500は、リアクトル電流ILおよびモータ電流MCRT1,MCRT2に基づいて、システム電圧上限値VHmaxを設定し、その設定したシステム電圧上限値VHmaxをシステム電圧指令値演算部510へ出力する。
【0096】
具体的には、システム電圧上限値設定部500は、電流センサ24からモータ電流MCRT1を取得し、電流センサ28からモータ電流MCRT2を取得し、電流センサ26からリアクトル電流ILを取得すると、記憶部502から読み出した耐圧余裕度マップを参照することによって、モータ電流MCRT1,MCRT2およびリアクトル電流ILに基づいて耐圧余裕度ΔVHを算出する。耐圧余裕度ΔVHは、最大ターンオフサージΔVHmaxに対するターンオフサージの余裕度に相当する。
【0097】
記憶部502には、MG2用耐圧余裕度算出用マップ504と、MG1用耐圧余裕度算出用マップ506と、コンバータ用耐圧余裕度算出用マップ508とが予め記憶されている。MG2用耐圧余裕度算出用マップ504は、インバータ14における最大ターンオフサージに対するターンオフサージの余裕度を算出するためのマップである。MG1用耐圧余裕度算出用マップ506は、インバータ22における最大ターンオフサージに対するターンオフサージの余裕度を算出するためのマップである。コンバータ用耐圧余裕度算出用マップ508は、コンバータ12における最大ターンオフサージに対するターンオフサージの余裕度を算出するためのマップである。図12は、記憶部502に記憶される耐圧余裕度算出用マップの一例を説明する図である。図12(a)は、MG2用耐圧余裕度算出用マップ504の一例を示し、図12(b)は、MG1用耐圧余裕度算出用マップ506の一例を示し、図12(c)は、コンバータ用耐圧余裕度算出用マップ508の一例を示す。なお、各マップに示される電流および耐圧余裕度の数値は一例であって、これに限定されるものではない。また、耐圧余裕度の数値は、インバータ14,22の直流側に設けられた平滑用コンデンサC2の耐圧を考慮して定められる。
【0098】
図12(a)を参照して、インバータ14において、耐圧余裕度ΔVH2は、モータ電流MCRT2の振幅が最大値(たとえば、300Aとする)となるときの耐圧余裕度を0Vとして、振幅が小さくなるに従って耐圧余裕度が大きくなるように設定される。この耐圧余裕度ΔVH2は、図8(b),(c)で説明した、最大ターンオフサージΔVHmaxに対するターンオフサージの余裕度に相当する。
【0099】
同様に、図12(b)においては、インバータ22における耐圧余裕度ΔVH1は、モータ電流MCRT1の振幅が最大値(たとえば、100Aとする)となるときの耐圧余裕度を0Vとして、振幅が小さくなるに従って耐圧余裕度が大きくなるように設定される。また、図12(c)において、コンバータ12における耐圧余裕度ΔVHcは、リアクトル電流ILの振幅が最大値(たとえば、200Aとする)となるときの耐圧余裕度を0Vとして、振幅が小さくなるに従って耐圧余裕度が大きくなるように設定される。なお、図12(a)〜(c)に示すマップは、電流の振幅と耐圧余裕度との関係を予め実験等によって求めて予め記憶部502に記憶したものである。
【0100】
再び図11を参照して、システム電圧上限値設定部500は、電流センサ28からのモータ電流MCRT2の振幅から、MG2用耐圧余裕度算出用マップ504の参照により、耐圧余裕度ΔVH2を算出する。また、システム電圧上限値設定部500は、電流センサ24からのモータ電流MCRT1の振幅から、MG1用耐圧余裕度算出用マップ506の参照により、耐圧余裕度ΔVH1を算出する。さらに、システム電圧上限値設定部500は、電流センサ26からのリアクトル電流ILの振幅から、コンバータ用耐圧余裕度算出用マップ508の参照により、耐圧余裕度ΔVHcを算出する。
【0101】
そして、システム電圧上限値設定部500は、算出した耐圧余裕度ΔVH2,ΔVH1,ΔVHcのうちの最小値を選択し、その選択した最小値を電力変換ユニット20全体での耐圧余裕度ΔVHとする。システム電圧上限値設定部500は、耐圧余裕度ΔVHを、デフォルト値VHmax0に加算すると、その加算結果をシステム電圧上限値VHmaxとしてシステム電圧指令値演算部510へ出力する。
【0102】
システム電圧指令値演算部510は、モータジェネレータMG2のトルク指令値TR2および回転数MRN2(以下、指令動作点ともいう)から、モータジェネレータMG2の動作点を実現するために必要なシステム電圧VHを算出する。このとき、システム電圧指令値演算部510は、システム電圧VHを、システム電圧上限値VHmax以下の電圧値に設定する。
【0103】
同様に、システム電圧指令値演算部510は、モータジェネレータMG1のトルク指令値TR1および回転数MRN1(指令動作点)から、モータジェネレータMG1の動作点を実現するために必要なシステム電圧VHを算出する。システム電圧指令値演算部510は、システム電圧VHを、システム電圧上限値VHmax以下の電圧値に設定する。
【0104】
そして、システム電圧指令値演算部510は、モータジェネレータMG2に対応するシステム電圧VHおよびモータジェネレータMG1に対応するシステム電圧VHの最大値を、システム電圧VHの目標値に設定する。この目標値は、コンバータ12への電圧指令値VHcomに相当する。電圧指令値VHcomは、コンバータ用デューティー比変換部53へ送出される。
【0105】
次に、図面を参照して、ECU30によって制御される、システム電圧指令値VHcomの生成方法を説明する。図13および図14は、本発明の実施の形態に従うシステム電圧指令値VHcomの生成方法を説明するフローチャートである。図13および図14に示す処理は、ECU30によって所定周期で実行される。また、図13および図14のフローチャートに記載される各ステップの処理は、図1に示したECU30が図2、図3および図11に示す各制御ブロックとして機能することで実現される。
【0106】
図13を参照して、システム電圧上限値設定部500は、システム電圧上限値のデフォルト値VHmax0を設定する(ステップS01)。このデフォルト値VHmax0は、モータ電流MCRT2の振幅が最大値(最大モータ電流MCRT2)となるときのターンオフサージ(最大ターンオフサージΔVHmax)、制御変動分およびセンサ誤差分などを考慮して定められる。
【0107】
次に、システム電圧上限値設定部500は、ハイブリッド車両5が高地を走行中であるか否かを判定する(ステップS02)。ステップS02における判定は、車両周囲の大気圧を検出する大気圧センサから送信される大気圧の検出値に基づいて行なわれる。ハイブリッド車両5が高地を走行中である場合(ステップS02においてYES判定時)には、システム電圧上限値設定部500は、高地走行のためのシステム電圧上限値(以下、高地走行用上限値ともいう)VHmax_hを算出する(ステップS03)。
【0108】
ステップS02,S03に示す処理は、モータジェネレータMG1,MG2において、絶縁体の絶縁性能の劣化の抑制を図ったものである。すなわち、山間部等の高地においては、大気圧が低いために空気の誘電率が上昇することによって、モータジェネレータMG1,MG2において絶縁体内への部分放電量が増加するという問題が生じる。そして、部分放電量が増加すると、絶縁体の絶縁性能が劣化し、耐久寿命の劣化を招く虞がある。そこで、このような大気圧の変化による絶縁性能の劣化を防止するため、ステップS03により、高地走行用上限値VHmax_hは、部分放電量が、絶縁体の絶縁性能の促進を抑制できる許容範囲内になるように設定される。
【0109】
次に、システム電圧上限値設定部500は、インバータ14,22を構成するIGBT素子の温度が所定の閾値以下であるか否かを判定する(ステップS04)。ステップS04における判定は、IGBT素子の温度を検出する温度センサから送信される温度の検出値に基づいて行なわれる。所定の閾値は、IGBT素子が極低温状態となる場合を想定して、たとえば−20℃程度に設定される。IGBT素子の温度が所定の閾値よりも高い場合(ステップS04においてNO判定時)には、システム電圧上限値設定部500は、ステップS03で算出した高地走行用上限値VHmax_hをシステム電圧上限値VHmaxに設定する(ステップS08)。
【0110】
これに対して、IGBT素子の温度が所定の閾値以下である場合(ステップS04においてYES判定時)には、システム電圧上限値設定部500は、低温時のためのシステム電圧上限値(以下、低温時用上限値ともいう)VHmax_lを算出する(ステップS05)。
【0111】
ステップS04,S05に示す処理は、IGBT素子の耐圧が素子温度が低下するに従って低下することに基づいている。IGBT素子に生じるターンオフサージは、スイッチング速度が大きくなるに従って増加するとともに、IGBT素子の通過電流が大きくなるに従って大きくなる。システム電圧上限値VHmaxを素子温度によらず一定とした場合には、低温時にはターンオフサージの許容量が制限されるため、スイッチング速度を制限せざるを得ず、インバータにおける損失の増加や効率の低下を招いてしまう。
【0112】
これに対して、IGBT素子の耐圧が低下する低温時には、システム電圧上限値を低下させることによって、ターンオフサージの許容量を大きくすることができる。これにより、低温下においてもスイッチング速度を常温時と同等レベルに保つことができるため、インバータの損失を低減できるとともに、効率を向上することができる。
【0113】
次に、システム電圧上限値設定部500は、高地走行用上限値VHmax_hおよび低温時用上限値VHmax_lの最小値であるMin(VHmax_h,VHmax_l)を、システム電圧上限値VHmaxに設定する(ステップS06)。これにより、システム電圧指令値演算部510は、ステップS06により設定されたシステム電圧上限値VHmaxを超えない範囲で、モータジェネレータMG1,MG2の指令動作点(トルク指令値および回転数)に基づいてシステム電圧指令値VHcomを算出する(ステップS07)。
【0114】
以上に示したステップS02〜S08の処理を行なうことにより、高地走行中または極低温時においては、モータジェネレータの絶縁性能の劣化およびIGBT素子の耐圧の低下を考慮して、システム電圧上限値VHmaxが設定される。
【0115】
さらに、本発明の実施の形態では、上記の高地走行中および極低温時と比較してシステム電圧への制限が緩和される低地走行中および常温時においては、機器の保護に支障を来たさない範囲でシステム電圧上限値VHmaxをデフォルト値から嵩上げする。この嵩上げ量は、図12で説明したように、モータ電流およびリアクトル電流の振幅に応じた耐圧余裕度に基づいて可変に設定される。これにより、機器故障を回避しながらシステム電圧を増加させることができるため、図9に示すように、モータジェネレータの動作領域が拡大される。この結果、ハイブリッド車両5の駆動力を増加させることができる。
【0116】
図14を参照して、システム電圧上限値設定部500は、電流センサ28からモータ電流MCRT2の検出値を取得すると(ステップS10)、モータ電流MCRT2の振幅から、MG2用耐圧許容度算出用マップ504(図12(a))の参照により、耐圧余裕度ΔVH2を算出する(ステップS11)。
【0117】
また、システム電圧上限値設定部500は、電流センサ24からモータ電流MCRT1の検出値を取得すると(ステップS12)、モータ電流MCRT1の振幅から、MG1用耐圧余裕度算出用マップ506(図12(b))の参照により、耐圧余裕度ΔVH1を算出する(ステップS13)。
【0118】
さらに、システム電圧上限値設定部500は、電流センサ26からリアクトル電流ILの検出値を取得すると(ステップS14)、リアクトル電流ILの振幅から、コンバータ用耐圧余裕度算出用マップ508(図12(c))の参照により、耐圧余裕度ΔVHcを算出する(ステップS15)。
【0119】
次に、システム電圧上限値設定部500は、ステップS13,S15,S17においてそれぞれ算出した耐圧余裕度ΔVH2,ΔVH1,ΔVHcの最小値であるMin(ΔVH2,ΔVH1,ΔVHc)を、電力変換ユニット20全体での耐圧余裕度ΔVHに設定する(ステップS16)。そして、この耐圧余裕度ΔVHをステップS01で設定したデフォルト値VHmax0に加算することにより、システム電圧上限値VHmaxを算出する(ステップS17)。システム電圧上限値設定部500は、算出したシステム電圧上限値VHmaxをシステム電圧指令値演算部510(図11)へ送出する。
【0120】
システム電圧指令値演算部510は、ステップS17により設定されたシステム電圧上限値VHmaxを超えない範囲で、モータジェネレータMG1,MG2の指令動作点(トルク指令値および回転数)に基づいてシステム電圧指令値VHcomを算出する(ステップS18)。
【0121】
以上説明したように、この発明の実施の形態によれば、システム電圧の上限値は、モータ電流の振幅の最大値に対する実際にモータジェネレータに印加される電流の振幅の余裕度に基づいて算出された耐圧余裕度に応じて可変に設定される。これにより、耐圧余裕度が大きくなる中回転数域および高回転数域においては、システム電圧の上限値が高められるため、モータジェネレータのトルク上限値が増大する。この結果、モータジェネレータの動作可能領域が拡大され、ハイブリッド車両5の駆動力を増加させることができる。
【0122】
さらに、中回転数域および高回転数域においては、弱め界磁電流を増加させることによって、モータ必要電圧がシステム電圧上限値を超えないように制御されるところ、この発明の実施の形態によれば、当該回転数域でのシステム電圧の上限値が高められたことによって、弱め界磁電流を減らすことができる。この結果、モータジェネレータで発生する損失(銅損)やインバータで発生する損失(オン損失)などの電力損失を低減することができるため、熱性能の向上が可能となる。
【0123】
また、システム電圧の上限値が高められたことによって、モータジェネレータMG1の動作領域も拡大されることから、モータジェネレータMG1を高回転数域まで駆動させることができる。本実施の形態によるハイブリッド車両5では、エンジンENGを始動する場合には、モータジェネレータMG1を電動機として駆動させ、モータジェネレータMG1のトルクを、動力分割機構PSD(図2)のプラネタリキャリヤ154およびクランクシャフト150を介してエンジンENGに伝達することにより、エンジンENGをクランキング(回転駆動)させる。モータジェネレータMG1を高回転数域まで使用可能となったことによって、モータジェネレータMG1の回転数により制約されていたエンジンENGの動作範囲を拡大することができる。
【0124】
なお、本発明の実施の形態では、ハイブリッド車両の電気システムについて代表的に例示したが、本発明の適用はこのようなケースに限定されるものではない。すなわち、本発明に従う電動車両の電気システムは、電気自動車、ハイブリッド車、燃料電池自動車等、車両駆動力発生用の電動機を搭載した電動車両に対して、共通に適用することができる。
【0125】
さらに、電動車両の駆動系についても、交流電動機を駆動制御するインバータの直流側電圧を可変制御するためのコンバータを含む電気システムを採用している限り、図3の構成に限定されることなく任意の構成とすることができる。
【0126】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0127】
5 ハイブリッド車両、10 バッテリ、11,13 電圧センサ、12 コンバータ、14,22 インバータ、15 U相アーム、16 V相アーム、17 W相アーム、20 電力変換ユニット、24,26,28 電流センサ、30 ECU、40 コンバータ制御部、41 ハンドル、42 インバータ制御部、44 アクセルポジションセンサ、46 ブレーキペダルポジションセンサ、48 シフトポジションセンサ、50 システム電圧指令生成部、51,52 回転角センサ、53 コンバータ用デューティー比変換部、54 コンバータ用PWM信号変換部、70L,70R 前輪、80L,80R 後輪、131,136 ステータ、132,137 ロータ、133,138 ステータコア、134,139 三相コイル、150 クランクシャフト、151,162 サンギヤ、152 リングギヤ、152,168 リングギヤ、153,164 ピニオンギヤ、154,166 プラネタリキャリヤ、155 リングギヤケース、155 出力部材、160 出力軸、170 カウンタドライブギヤ、500 システム電圧上限値設定部、501 システム電圧指令値演算部、502 記憶部、504 MG2用耐圧余裕度算出用マップ、506 MG1用耐圧余裕度算出用マップ、508 コンバータ用耐圧余裕度算出用マップ、510 システム電圧指令値演算部、C1,C2 コンデンサ、D1〜D8 逆並列ダイオード、DEF ディファレンシャルギヤ、ENG エンジン、L1 リアクトル、MG1,MG2 モータジェネレータ、PSD 動力分割機構、Q1〜Q8 IGBT素子、RD 減速機、RG 動力伝達減速ギヤ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両駆動用の電動機を搭載した電動車両の電気システムであって、
直流電源と、
前記直流電源から出力される直流電圧を電圧変換して出力するコンバータと、
複数のスイッチング素子を含んで構成され、前記複数のスイッチング素子のスイッチング動作により前記コンバータから出力される直流電圧を前記電動機の駆動電圧に変換するインバータと、
前記インバータへの入力電圧が電圧指令値に一致するように、前記コンバータを制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、
前記電動機に印加される電流の振幅を検出するための電流検出手段と、
予め想定される前記電動機に印加される電流の振幅の最大値に対する前記電流検出手段の検出値の余裕度に基づいて、前記振幅の最大値に対応させて予め定められた前記インバータ入力電圧の上限値のデフォルト値に対する前記インバータ入力電圧の余裕度を算出するための余裕度算出手段と、
前記余裕度算出手段により算出された前記インバータ入力電圧の余裕度を前記デフォルト値に加算することにより、前記上限値を補正するための上限値補正手段と、
前記インバータ入力電圧が前記補正された上限値を超えないように、前記電動機に要求される駆動力に応じて前記電圧指令値を生成するための電圧指令値生成手段とを含む、電動車両の電気システム。
【請求項2】
前記デフォルト値は、少なくとも前記電動機に印加される電流の振幅が最大となるときに前記複数のスイッチング素子のスイッチング動作により発生するサージ電圧を考慮することにより、予め定められた前記インバータ入力電圧の上限値であり、
前記余裕度算出手段は、少なくとも前記電動機に印加される電流の振幅が最大となるときに対する前記サージ電圧の余裕度に基づいて、前記インバータ入力電圧の余裕度を算出する、請求項1に記載の電動車両の電気システム。
【請求項3】
車両駆動用の第1の電動機および第2の電動機を搭載した電動車両の電気システムであって、
直流電源と、
複数のスイッチング素子のスイッチング素子のスイッチング動作により前記直流電源から出力される直流電圧を電圧変換して出力するコンバータと、
複数のスイッチング素子のスイッチング素子のスイッチング動作により前記コンバータから出力される直流電圧を前記第1の電動機の駆動電圧に変換する第1のインバータと、
複数のスイッチング素子のスイッチング動作により前記コンバータから出力される直流電圧を前記第2の電動機の駆動電圧に変換する第2のインバータと、
前記第1および第2のインバータへの入力電圧が電圧指令値に一致するように、前記コンバータを制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、
前記第1の電動機に印加される電流の振幅を検出するための第1の電流検出手段と、
前記第2の電動機に印加される電流の振幅を検出するための第2の電流検出手段と、
前記コンバータを流れる電流を検出するための第3の電流検出手段と、
予め想定される前記第1の電動機に印加される電流の振幅の最大値に対する前記第1の電流検出手段の検出値の余裕度に基づいて、当該振幅の最大値に対応させて予め定められた前記インバータ入力電圧の上限値のデフォルト値に対する前記インバータ入力電圧の余裕度を算出するための第1の余裕度算出手段と、
予め想定される前記第2の電動機に印加される電流の振幅の最大値に対する前記第2の電流検出手段の検出値の余裕度に基づいて、当該振幅の最大値に対応させて予め定められた前記インバータ入力電圧の上限値のデフォルト値に対する前記インバータ入力電圧の余裕度を算出するための第2の余裕度算出手段と、
予め想定される前記コンバータを流れる電流の最大値に対する前記第3の電流検出手段の検出値の余裕度に基づいて、当該電流の最大値に対応させて予め定められた前記インバータ入力電圧の上限値のデフォルト値に対する前記インバータ入力電圧の余裕度を算出するための第3の余裕度算出手段と、
前記第1から第3の余裕度算出手段によりそれぞれ算出された前記インバータ入力電圧の余裕度のうちの最小値を前記デフォルト値に加算することにより、前記上限値を補正するための上限値補正手段と、
前記インバータ入力電圧が前記補正された上限値を超えないように、前記第1および第2の電動機に要求される駆動力に応じて前記電圧指令値を生成するための電圧指令値生成手段とを含む、電動車両の電気システム。
【請求項4】
前記デフォルト値は、少なくとも前記第1および第2の電動機に印加される電流の振幅が最大となるときに前記複数のスイッチング素子のスイッチング動作により発生するサージ電圧を考慮することにより、予め定められた前記インバータ入力電圧の上限値であり、
前記第1の余裕度算出手段は、少なくとも前記第1の電動機に印加される電流の振幅が最大となるときに対する前記サージ電圧の余裕度に基づいて、前記インバータ入力電圧の余裕度を算出し、
前記第2の余裕度算出手段は、少なくとも前記第2の電動機に印加される電流の振幅が最大となるときに対する前記サージ電圧の余裕度に基づいて、前記インバータ入力電圧の余裕度を算出し、
前記第3の余裕度算出手段は、少なくとも前記コンバータを流れる電流が最大となるときに対する前記サージ電圧の余裕度に基づいて、前記インバータ入力電圧の余裕度を算出する、請求項3に記載の電動車両の電気システム。
【請求項5】
前記電動車両は、
燃料の燃焼によって作動するエンジンと、
前記第2の電動機に連結され、駆動輪に動力を出力するための出力部材と、
前記出力部材、前記エンジンの出力軸および前記第1の電動機の出力軸とそれぞれ結合された複数の回転要素を互いに相対回転可能に連結し、かつ、前記第1の電動機による電力および動力の入出力を伴なって前記エンジンからの出力の少なくとも一部を前記出力部材へ出力する動力分割機構とをさらに備える、請求項3または4に記載の電動車両の電気システム。
【請求項6】
車両駆動用の電動機を搭載した電動車両の電気システムの制御方法であって、
前記電気システムは、
直流電源と、
前記直流電源から出力される直流電圧を電圧変換して出力するコンバータと、
複数のスイッチング素子を含んで構成され、前記複数のスイッチング素子のスイッチング動作により前記コンバータから出力される直流電圧を前記電動機の駆動電圧に変換するインバータとを含み、
前記制御方法は、
前記電動機に印加される電流の振幅を検出するステップと、
予め想定される前記電動機に印加される電流の振幅の最大値に対する前記電流の振幅の検出値の余裕度に基づいて、前記振幅の最大値に対応させて予め定められた前記インバータ入力電圧の上限値のデフォルト値に対する前記インバータ入力電圧の余裕度を算出するステップと、
前記算出された前記インバータ入力電圧の余裕度を前記デフォルト値に加算することにより、前記上限値を補正するステップと、
前記インバータ入力電圧が前記補正された上限値を超えないように、前記電動機に要求される駆動力に応じて電圧指令値を生成するステップと、
前記インバータ入力電圧が前記電圧指令値に一致するように、前記コンバータを制御するステップとを備える、電動車両の電気システムの制御方法。
【請求項7】
前記デフォルト値は、少なくとも前記電動機に印加される電流の振幅が最大となるときに前記複数のスイッチング素子のスイッチング動作により発生するサージ電圧を考慮することにより、予め定められた前記インバータ入力電圧の上限値であり、
前記余裕度を算出するステップは、少なくとも前記電動機に印加される電流の振幅が最大となるときに対する前記サージ電圧の余裕度に基づいて、前記インバータ入力電圧の余裕度を算出する、請求項6に記載の電動車両の電気システムの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−186905(P2012−186905A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−47697(P2011−47697)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】