説明

電動送風機

【課題】電動送風機を小型化するとともに、電動機駆動用電力変換装置をも小型化・軽量化した電気掃除機や手乾燥装置を得ること。
【解決手段】送風ファンを有し送風ファンを駆動するブラシレスモータを内蔵している電動送風機であって、ブラシレスモータ制御用の制御部と、交流電源から供給される交流電圧を整流して直流電圧に変換するコンバータ部と、直流電圧を交流電圧に変換して交流電圧をブラシレスモータに供給するインバータ部とを有する電源部と、ブラシレスモータの回転数を所定回転数以上となるようにして、送風ファンの径及びブラシレスモータの径がほぼ等しくなるよう形成するとともに、コンバータ部に昇圧回路を設け、昇圧回路にて直流電圧を昇圧するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、商用交流電源を電源として用い、インバータにより駆動される電動送風機、及びこれ用いた電気掃除機や手乾燥装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、家電機器等に用いられるモータには、ブラシレスDCモータ(以降BLDCMと略記する)の採用が進んでいる。BLDCMは、可変速範囲が広く駆動効率が高く、インバータ装置で駆動することにより、使い勝手の向上や消費電力の低減といった性能の向上が図られている。
【0003】
従来技術として、BLDCMをインバータ駆動する駆動制御系を持つ電動送風機において、モータの駆動電流を流すパワー配線部材を効率的に冷却することにより、回路基盤や回路部品の信頼性を高める技術が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4021436号公報(第9頁、図7)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来技術では、電動機の回転数は最大でも40000rpmに留まっているため、電動掃除機として適した吸塵力を得たり、手乾燥装置として適した風力を得たりするためには、送風機の直径を大きくする必要があり、電動機の直径に比べて倍程度の直径を要していた。このため、実装される機器の空間利用効率を悪化させていた。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、電動送風機を小型化するとともに、電動機駆動用電力変換装置をも小型化・軽量化した電気掃除機や手乾燥装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかる電動送風機は、送風ファンを有し送風ファンを駆動するブラシレスモータを内蔵している電動送風機であって、ブラシレスモータ制御用の制御部と、交流電源から供給される交流電圧を整流して直流電圧に変換するコンバータ部と、直流電圧を交流電圧に変換して交流電圧をブラシレスモータに供給するインバータ部とを有する電源部と、ブラシレスモータの回転数を所定回転数以上となるようにして、送風ファンの径及びブラシレスモータの径がほぼ等しくなるよう形成するとともに、コンバータ部に昇圧回路を設け、昇圧回路にて直流電圧を昇圧するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、電動送風機を小型化するとともに、電動機駆動用電力変換装置をも小型化・軽量化した電気掃除機や手乾燥装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施の形態1に係る電動機駆動用電力変換装置の回路図である。
【図2】実施の形態1に係る掃除機断面の模式図である。
【図3】実施の形態1に係る出力電圧とインダクタ重量の関係を示す図である。
【図4】実施の形態6に係るインバータに印加される直流電圧の時間変化を示す図である。
【図5】実施の形態6に係る制御フローチャート図である。
【図6】実施の形態8に係る手乾燥装置の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る電動機駆動用電力変換装置の回路図である。図1において、2は商用交流電源である。4は商用交流電源2に接続されたノイズフィルタであり、電力変換装置が発生し商用交流電源2に伝播するノイズを低減する。5はノイズフィルタ4に接続された整流回路である。6a、6bは電源電圧検出用分圧抵抗であり、整流回路5の出力側の直流母線間に直列に接続されている。7は高周波インダクタであり、整流回路5の正電圧側に接続されている。
【0011】
8は昇圧コンバータ用IGBT(絶縁ゲート・バイポーラ・トランジスタ)、10は電流検出抵抗であり、昇圧コンバータ用IGBT8と電流検出抵抗10とは、高周波インダクタ7の出力側の直流母線間に、直列に接続されている。9はフライホイールダイオードであり、昇圧コンバータ用IGBT8と並列に接続されている。
【0012】
11はIGBT用ゲートドライバであり、昇圧コンバータ用IGBT8のゲート端子に接続されている。12はファーストリカバリダイオードであり、高周波インダクタ7の出力側にアノードが接続されている。13は平滑コンデンサであり、ファーストリカバリダイオード12のカソード側の直流母線間に接続されている。
【0013】
高周波インダクタ7と、昇圧コンバータ用IGBT8と、フライホイールダイオード9と、電流検出抵抗10と、ファーストリカバリダイオード12と、平滑コンデンサ13と、により昇圧コンバータ部が構成される。
【0014】
14a、14bは昇圧コンバータ出力電圧検出用分圧抵抗であり、平滑コンデンサ13と並列に接続されている。15はインバータ部電流検出抵抗であり、昇圧コンバータ出力電圧検出用分圧抵抗の出力側の母線側に接続されている。
【0015】
16a〜16fはインバータ用IGBTであり、インバータ部電流検出抵抗15の出力側の直流母線間に直列に接続されている。17a〜17fはフライホイールダイオードであり、それぞれインバータ用IGBTに並列に接続されている。これらインバータ用IGBTとフライホイールダイオードとにより、インバータ部が構成される。
【0016】
18は、インバータ部に接続された電動送風機のBLDCMである。20はインバータ部IGBTゲートドライバであり、インバータ用IGBTのゲート端子に接続されている。
【0017】
22は、使用者が操作し電気掃除機の運転・停止や吸い込み力の設定などを行う手元操作手段である。23は、後述するマイクロコンピュータ24の動作基準となるクロックを生成するクロック生成回路である。25は、商用交流電源2からノイズフィルタ4を通り整流回路5で整流された脈流から、電源周波数に同期した信号を生成するHz信号回路である
【0018】
24はマイクロコンピュータであり、電源電圧検出用分圧抵抗6bにかかる電圧をVi端子で、昇圧コンバータ出力電圧検出用分圧抵抗14bにかかる電圧をVo端子で、電流検出抵抗10を流れる電流をIS端子で、インバータ部電流検出抵抗15を流れる電流をIL端子でそれぞれ検出するとともに、手元操作手段22の信号、クロック生成回路23の信号、Hz信号回路25の信号を入力とし、これらの情報に基づいて、IGBT8用ゲートドライバ11及びインバータ部IGBTゲートドライバ20を制御する。
【0019】
図2は、実施の形態1に係る掃除機断面の模式図である。30は集塵室であり、吸い込んだ塵埃を集積する。31は吸塵力を発生する電動機であり、内部にBLDCM18を収容している。32は電動機31に接続され吸塵用の風を発生させる送風機である。
【0020】
33は電動機31に電力を供給する電力変換装置を構成する電力変換装置回路基板であり、図1で示した回路が形成されている。なお、7は高周波インダクタであり、図1に示す回路が構成されるよう電力変換装置回路基板33と電気的に接続されている。34は、電力変換装置回路基板33と商用交流電源とを接続するコンセントである。
【0021】
35は掃除機を移動させるための後輪、36は前輪、37は集塵部30に塵埃を導入する集塵ホース、38は塵埃を集塵室から外に出さない集塵フィルタである。また39は前記の部品を一体の構造に保つ本体ケースである。
【0022】
次に動作について説明する。
使用者が手元操作手段22を適宜に操作すると、マイクロコンピュータ24は、BLDCM18の運転制御を開始する。マイクロコンピュータ24は、手元操作手段22からの運転指令信号を受けると、Hz信号回路25からの信号によって商用交流電源2の周波数を確認した後、手元操作手段22で設定された吸い込み力となるよう制御を開始する。
【0023】
すなわち、まずマイクロコンピュータ24は、Vo端子から電圧を読み込み、マイクロコンピュータ24内のROM(読み出し専用メモリ)内に格納してある設定値と比較する。この比較結果と、Vi端子に入力される電圧とIS端子に入力される電流値とから、Vo端子の入力電圧をROM内のデータと一致させるようにするとともに、電流検出抵抗10で検出される電流波形とVi端子に入力される電源電圧波形とを一致させるよう、IGBT8用ゲートドライバ11へ信号を出力し、昇圧コンバータ用IGBT8をスイッチングする。
【0024】
昇圧コンバータ用IGBT8がオンすると、高周波インダクタ7、昇圧コンバータ用IGBT8、電流検出抵抗10に電流が流れ、高周波インダクタ7にエネルギが蓄えられる。この後、昇圧コンバータ用IGBT8がオフすると、高周波インダクタ7が蓄えたエネルギを放出して高電圧が発生し、ファーストリカバリダイオード12を通して平滑コンデンサ13に充電される。
【0025】
ここで、マイクロコンピュータ24は、電流検出抵抗10を流れる電流を監視しており、整流後の電圧と電流の位相が一致するように、昇圧コンバータ用IGBT8を制御する。これにより、商用交流電源2側から見た力率がほぼ1となるようにし、高調波電流を抑制する。すなわち、昇圧コンバータをアクティブフィルタとして使用することで、電流波形を正弦波に近づけて、力率をほぼ1とする。
【0026】
なお、運転時の昇圧コンバータ部での昇圧率は、任意であるが、例えば本実施の形態では、150〜300V程度の出力となるように設定してある。一般的に高調波電流抑制のためには昇圧比で1.2以上取る事が必要とされており、コンバータ回路の軽量化と高効率化を考えたとき出力電圧は170V以上で、できる限り低い値が良い。さらに、このように回路を高効率化することにより、重量部品であるスイッチング素子の放熱フィンを軽量化することも可能となる。
【0027】
なお、昇圧コンバータ用IGBT8のスイッチングは、室内で使用される機器であることを考慮すると、使用者の可聴感度のおちる10kHz以上とすることが望ましい。一方、コンセント34から出されるノイズに対する規制が150kHz以上のため、スイッチング周波数はそれ以下でできる限り高い値が良い。ただし150kHz近傍の場合、スイッチング周波数の基本周期もしくは低次高調波がすでに規制の範囲にかかるため、スイッチング周波数は70kHz以下とすることが望ましい。
【0028】
一般に、電力変換装置の全体の重量に対し高周波インダクタの比率は高い。このため機器の軽量化を考えた場合、高周波インダクタンスの軽量化を図る必要がある。
【0029】
図3に入力電力1kW時の高周波インダクタ7の重量と、出力電圧・スイッチング周波数の関係を示す。また比較のため高周波スイッチングを伴わないコンバータ回路である倍電圧整流時の電源高調波対策用リアクタの重量もプロットする。図3から、高周波インダクタの軽量化を図るには出力電圧は低く、スイッチング周波数は高くとる方が有利であることが分かる。
【0030】
なお、スイッチング周波数を高くすると高周波インダクタ7の軽量化を図ることができるが、ノイズフィルタ4のサイズ・重量が大きくなる。従って、ノイズフィルタ4と高周波インダクタ7の合計重量やサイズがミニマムとなるスイッチング周波数を選定することが望ましい。
【0031】
次に、昇圧コンバータ部から出力された直流電圧は、インバータ部において交流へ変換され、BLDCM18に供給される。
【0032】
すなわち、マイクロコンピュータ24は、モータ電流としてインバータ部電流検出抵抗15を流れる電流(シャント電流)をIL端子で参照しつつ、ROM内の制御プログラムに従って、PWM(パルス幅変調)制御信号をインバータ部IGBTゲートドライバ20に出力する。そして、インバータ部IGBTゲートドライバ20が、インバータ用IGBT16a〜16fを選択的にスイッチング制御することにより、BLDCM18に交流電圧が供給され、BLDCM18が回転する。
【0033】
この際、インバータ部の制御によって、BLDCM18の可変速運転が可能であり、使用者の好みや、被掃除面の状況に応じて最適な吸い込み力となるよう、電動送風機の回転数を制御することで、使い勝手の良い電気掃除機とすることができる。
【0034】
そして、BLDCM18の回転は、電動機31に接続された送風機32が吸塵用の風を発生させ、集塵ホース37から吸い込まれた塵埃が集塵室30に集められることになる。
【0035】
実施の形態1によれば、ロータ位置検出素子を用いずに、シャント電流によりロータ位置を検知することにより、固定部品が不要となった分電動機の小型化・軽量化が図られる効果があるとともに、電動機を5万rpm以上の高速に回転させることが可能になり、これに伴う電動機及び送風機の小型化が可能になるという効果がる。
【0036】
また、その際にノイズフィルタを設けたことにより、スイッチング素子を高速にスイッチングさせる際に発生するノイズが商用交流電源に及ぼす影響を低減することが可能になる効果がある。
【0037】
例えば、従来は一般的には4万rpmしか回せなかったところを、6万rpmで回転させた場合、従来に比べ回転数で1.5倍となる。一般的に送風機の風量は回転数の三乗に比例することから、同じ風量を送風するのに回転数を1.5倍に上げた場合、送風機の容積は1/3.4ですむ。また電動機も同一出力の場合、出力トルクと回転数は反比例するため、回転数を1.5倍とすると出力トルクも2/3に低減でき、出力トルクが小さくできる分モータを小径化する事が可能となる。
【0038】
このように、電動機31と送風機32の小型化が可能になり、双方略同径とすると、図2に示す様に、空間の利用効率が高く小型化の電気掃除機が得られる。これら機器の小径化により、電動送風機の使用材料も低減し電動送風機の軽量化(例えば1kwクラスで1.5kg→0.5kg)が可能となる効果がある。
【0039】
また、実施の形態1によれば、昇圧コンバータ用IGBT8のスイッチング周波数を16kHz以上70kHz以下で、ノイズフィルタ4と高周波インダクタ7の合計重量やサイズがミニマムとなるスイッチング周波数にすることにより、回路全体としての軽量化が可能になる効果がある。
【0040】
なお、電気掃除機などの非接地機器では、コモンモードのインピーダンスが高いため、コモンモードチョークコイル等のノイズフィルタ回路の重量・サイズに大きなウエートを占める部品が不要もしくは小容量ですむ。このため、高周波スイッチングの昇圧コンバータと組み合わせた場合軽量化・小型化効果が高い。
【0041】
なお、電気掃除機など移動して使う機器では、コンセント34のケーブルが長いため、ノーマルモードのインピーダンスも高く、ノーマルモードチョークコイル等のノイズフィルタ回路の重量・サイズに大きなウエートを占める部品についてもその他の機器に比べ小容量ですむ。このため、高周波スイッチングの昇圧コンバータと組み合わせた場合の軽量化・小型化効果が高い。
【0042】
また、一般に同一回転数・トルク点で運転される場合、BLDCM18の入力電流は入力電圧が高いほど低減できるから、本実施の形態1によれば、インバータの入力は昇圧コンバータからの出力を用いるため、電動機の入力電流を昇圧しなかった場合に比べ低減可能な効果がある。
【0043】
そのため、インバータの出力電流も低減でき、インバータ出力スイッチ素子のIGBTの定常損失も昇圧しなかった場合に比べ低減でき、重量部品であるインバータIGBTの放熱フィン(図示せず)も小型化・軽量化可能な効果がある。
【0044】
また、この放熱フィンは、電動送風機の排気風路に配置すればさらに小型化・軽量化が可能である。特に掃除機の場合電動送風機の吸い込み側には集塵室30がありそこで塵埃がフィルタリングされ、清浄な排気風が得られるため、塵埃をきらう電力変換装置の冷却には適している。同様に整流回路5、昇圧コンバータ用IGBT8の放熱フィン、ファーストリカバリダイオード12の放熱フィン、高周波インダクタ7も電動送風機の排気風路に配置すればさらに小型化・軽量化が可能である。
【0045】
また、昇圧コンバータ高速モータに適用することで、5万rpm以上の高速時に対しても必要充分な電圧を発生させることが可能となり、この電圧を後段のインバータへ供給することで充分な送風機出力を得る効果がある。
【0046】
実施の形態2.
上記実施の形態では、ファーストリカバリダイオード12を用いているが、炭化珪素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)等のワイドバンドギャップ半導体を用いたダイオードを用いることも可能である。
【0047】
なお、ワイドバンドギャップ半導体とは、一般に、シリコンよりバンドギャップが大きい半導体の事を指し、例えば、SiC、ダイヤモンド、GaN等が、ワイドバンドギャップ半導体として知られている。
【0048】
ファーストリカバリダイオード12に替えて、ワイドバンドギャップ半導体からなるダイオードを用いることにより、昇圧コンバータ用IGBT8がスイッチングしたときのリカバリー電流が低減でき、昇圧コンバータ用IGBT8及びファーストリカバリダイオード12のスイッチング損失が低減でき、放熱フィンの小型化・軽量化が可能となる。またリカバリー電流低減によりスイッチングノイズも低減でき、先に述べた重量ウエートが大きなノイズフィルタ4も小型化・軽量化が可能となる効果がある。
【0049】
実施の形態3.
これまで、昇圧回路に一般的な一石式DCチョッパ回路を用い説明してきたが、ゼロ電流スイッチを行うインターリーブ型の昇圧コンバータを用いることも可能である。
【0050】
これにより、スイッチング時の損失やノイズを低減でき、昇圧回路やノイズフィルタの小型化・軽量化が可能となる効果がある。
【0051】
なお、二石以上のものや、交流側をスイッチングするコンバータ回路を用いても同様の効果が得られることはいうまでもない。
【0052】
実施の形態4.
これまで電力変換回路の制御にマイコンを用いて説明してきたが、高速ロジックICやアナログICを用いることも可能である。
【0053】
これにより、昇圧回路のスイッチングの高速化や、モータの高速回転化に有利でより小型化・軽量化が可能となる効果がある。
【0054】
実施の形態5.
上記実施の形態ではモータとしてBLDCMを用いたが、BLDCMに替えて誘導電動機を用いることも可能である。
【0055】
誘導電動機もブラシを持たないため、同様の効果があることは言うまでもなく、さらに誘導電動機の場合ロータ内に磁石が必要ないため、高速回転時のロータの機械強度についてはBLDCMに比べ有利となる。
【0056】
実施の形態6.
本実施の形態では、ロータ停止位置により起動初期のモータトルクがばらついた場合であっても、モータが有効に起動する電圧条件の調整を行う。
【0057】
図4は、インバータに印加される直流電圧の時間変化を示す図である。コンバータを起動させない場合、インバータに印加される直流電圧は、図4の点線のような時間変化を示す。交流電源電圧は100V±10%の範囲で変動しているので、これを全波整流すると154V(MAX値)、140V(TYP値)、126V(MIN値)の母線電圧が出力される。そして、時刻t1においてインバータが起動されると、インバータに印加される直流電圧は低下してしまうので、インバータの出力電圧も安定しなくなる。
【0058】
このためロータの停止位置のばらつきだけでなく、商用の交流電源のばらつきも起動時のモータ始動トルクのばらつきに加わる。これによりモータ起動の信頼性が大きく低下する。直接使用者が起動を指示する掃除機や手乾燥装置では、起動を失敗した場合すぐにリトライしても使用者に違和感を与えてしまう事になる。またスイッチを押して即モータが起動しない場合も、ユーザに違和感を覚えさせてしまう。なお、時刻t2以降はモータは定常回転を行う。
【0059】
これを防ぐために、本実施の形態では、図4の実線に示したように、モータが起動する前の時刻t0においてコンバータを起動して、モータ起動時刻t1に所定の目標電圧(例えば180V)に到達するよう制御する。この目標電圧に整定後インバータを起動すれば起動時の直流電圧は商用の交流電源電圧に依存することなく一意に決まるため、起動の確率は飛躍的に向上する。なお回路構成は、図1と同様である。
【0060】
動作について説明する。図5は、本実施の形態に係る制御フローチャート図である。
【0061】
使用者がコンセントを電源に接続して電源を投入した(S1)後、マイクロコンピュータ24がイニシャル処理を行う(S2)。イニシャル処理では、マイクロコンピュータ24は、Hz信号回路25からの信号によって、商用交流電源2の周波数を確認する。その後、マイクロコンピュータ24は、コンバータを起動する(S3)。S4は、コンバータの出力電圧が整定するまで待つステップであり、例えば10msec程度の間、コンバータの出力電圧が整定するのを待つ。
【0062】
S5では、使用者が手元操作手段22を適宜操作して運転スイッチを投入したか否かを
判別するステップであり、運転スイッチが投入されれば、マイクロコンピュータ24は、インバータを起動することによりBLDCM18を起動する(S6)。さらに、マイクロコンピュータ24は、出力電圧の昇圧電圧が整定したのち、手元操作手段22からの運転指令信号を受けると(S7)、手元操作手段22で設定された吸い込み力となるように、インバータを制御することによりBLDCM18を定常回転させる(S8)。
【0063】
なお、コンバータの昇圧動作以降については、実施の形態1と同様である。
【0064】
なお、起動時間を優先させる場合は、使用者がコンセントを入れたのち、事前にコンバータを起動させておき、使用者が手元のスイッチを入れたら即モータを起動するようにしてもよい。また、モータ停止時の回生により前記コンバータの昇圧電圧が目標値より上昇していた場合には、目標値に整定したのちモータの起動を行う。直流電源から低圧の制御電源を降圧させて作成すれば、前記回生による昇圧電圧が所定の電圧に到達する整定時間は短くなりなお良い。
【0065】
なお、コンバータの直流電圧に対しインバータの出力電圧を一意になるようインバータの出力電圧をPWMにより補正する手段も考えられるが、2極以上のモータで5万rpm以上の回転数において、BLDCM18を磁極位置センサを用いないベクトル制御にて駆動するためには、電気的回転周波数1.2kHzに対し、10倍以上の12kHz以上のキャリア周波数とする必要がある。12kHz以上のキャリア周波数の場合、1kWクラスのインバータ主回路で許容されるインバータデットタイム4μsecであるのに対して、4.8%以上デットタイムによる電圧誤差が発生してしまう。この誤差の補正は単純なPWM補正では除去不能である。
【0066】
このように5万rpm以上の高速でBLDCMを駆動する場合、直流母線電圧のばらつきの影響でインバータ出力電圧らつきが生じるため、コンバータの出力電圧制御により直流電圧を制御する構成が、起動性改善に対し非常に原理的に効果が高い。この効果は、上述した通り、モータ極数・回転数を上昇させるほど顕著になる。
【0067】
先ほどの述べたデットタイムによる電圧誤差に対し、電流位相を検知してデットタイム補正をする方法も考えられるが、この場合電流位相の検知回路が必要となったり、補正のために制御用CPUの処理負荷が大きくなったりして、高速駆動との両立は難しい。また、シャント電流検出方式により電流位相を検知しようとした場合、特に起動時の電圧を低くする必要のある高速回転型送風機においては、シャント電流のリンギング時間に対し起動時のPWM幅が狭く、先に述べた12kHz以上の高キャリア周波数の場合電流検出が極めて難しく、正確に電流位相を検知し補正をかけることは難しい。
【0068】
また、図4の点線に示されるように、コンバータを起動しなかった場合、モータ起動(t1)から定常(t2)に至る加速時においては、直流電圧が低下しさらにインバータの出力電圧はばらつく事になる。図4の実線に示されるように、コンバータ起動後モータを起動した場合、モータの加速中のインバータ出力電圧も毎回一意に決まるため、加速時の電圧変動に起因する条件ばらつきによる脱調もなくなる。前記脱調現象の場合脱調を検知して再起動を行う場合時間がかかり、ユーザへの不快感が大きい。特に起動速度を要求されかつユーザに起動失敗による不快感を与えてはいけない掃除機や手乾燥装置に適用した場合その効果が高い。
【0069】
実施の形態6によれば、コンバータ出力電圧が整定後に、インバータを起動するため、安定した状態でモータを起動させることができるという効果がある。
【0070】
また、本実施の形態では定常時もコンバータ回路の動作により直流電圧も高くできる。ブラシレスDCモータは回転数に比例して誘起電圧を発生するため、高速で回転させる場合それに打ち勝つ高電圧をインバータにより与える必要がある。しかしながら、インバータの出力電圧は入力の直流電圧で規定されるため、図4の実線の方がモータの高速化に有利である。先に述べたようにモータを高速化することで送風機とモータの径が同経化でき軽量化と容積効率が飛躍的に高まる掃除機用の電動送風機で効果が高い。
【0071】
また、インバータ出力電圧が高い分、同一のモータ出力に対しモータ電流を低減できる。モータ電流の低減により、インバータIGBTとダイオード等のスイッチ素子の定常損失が低減でき、インバータ回路の重量部品である放熱フィンの重量が低減でき送風機とその駆動回路トータルの重量を低減できる。特に、使用者が自力で引っ張って移動させる掃除機では、軽いことで快適に掃除ができるという効果がある。
【0072】
また、加速時もインバータの出力電圧を大きくできるため、モータから多くのトルクを発生でき、起動時間も短縮できる。特に乾燥時間の短縮が要求される業務用の手乾燥装置に対し効果が高い。
【0073】
また、集塵フィルタ目詰まりや集塵室の圧力損失増大等でモータの負荷が軽くなった場合、モータ電流が低減し回路電流に余裕ができ、その分直流電圧を高め、目詰まり前より回転数を増速させることにより吸引力を維持する事ができ、フィルタ目詰まりを気にせず快適に掃除をすることができる。また、夜間等の低速運転時は昇圧しなくてもモータを回しきることができるので、起動後にコンバータの昇圧のためのスイッチングを停止し、効率を優先した運転も可能である。
【0074】
なお、上記実施の形態では、商用電源を電力源とした例について述べてきたが、電力源にリチュームイオン電池や燃料電池等の低圧直流電源を用いたり、それらの直流電源と商用電源を併用したりして送風機を高速化し、軽量・小型化しつつ起動信頼性のあるモータ・圧縮機・回路トータルのシステム得ることかできる。また昇圧回路を用いた場合はさらなる高速化により大きな効果を得ることができる。
【0075】
実施の形態7.
実施の形態6では、デットタイム誤差の影響が小さくなるよう、コンバータにより直流電圧を一定にすることで、起動時の信頼性を向上する方法について述べたが、デットタイム自体を小さくできるように、主回路素子をシリコンIGBT(スイッチング時間μsecオーダー)から、高速のMOSFET(スイッチング時間100nsecオーダー)やワイドギャップ半導体(スイッチング時間10〜100nsecオーダー)を用いることで、デットタイムの影響を小さくすることもできる。例えば、シリコンIGBTのデッドタイムは4μsecであるのに対し、高速MOSFETやワイドバンドギャップ半導体のデッドタイムは0.8μsec以下であり、デッドタイム誤差を1%以下とする事ができる。これによっても、信頼性向上が可能となる効果がある。
【0076】
ただし、実施の形態1で述べたシリコンIGBTと違い、シリコンMOSFETでは、素子の電圧降下が電流に依存するため、この補正が必要となる。しかしながら、実施の形態1で述べた起動時等の狭幅PWM条件では、電流の検出精度が確保できず、電圧誤差を補正しきれず、結局、直流電圧に依存した誤差が残る事になり、昇圧コンバータを用いて直流電圧を制御し、安定した後起動する方が起動の信頼性が高くなる。このため、素子の電圧降下が小さいワイドギャップ半導体を持いる方が、電圧降下自体が小さくなるため一層効果が高い。
【0077】
実施の形態8.
これまでは、掃除機に適用した場合について述べてきたが、設置場所が狭いトイレや洗面所の壁や洗面台の上に固定され、手を乾燥する手乾燥装置においても、システムのサイズを小型化できるためBLDCMを高速化してモータ・圧縮機・回路トータルサイズを小型化できる。
【0078】
図6は、実施の形態8に係る手乾燥装置の縦断面図である。図6に示すように、背面630側が部屋の壁に取付けられる略直方体状の手乾燥装置601は、上方及び左右側方に開口する(左右側方は閉じていてもよい)略U字溝状の手挿入室602を有している。
【0079】
手挿入室602の内壁面603は、第1の内壁面としての前面604と、略垂直な後下面607と、第2の内壁面としての、手挿入室602の奥側に向けて傾斜させた後上面606と、中央部を低くした底面608と、を有している。底面608の低くした中央部には、手から飛散した水を排水する排水口609が設けられており、排水口609には排水管610が接続され、排水管610の下端は排水タンク611に接続されている。
【0080】
手挿入室602の前面604の上部と、前面604と底面608との角部には、それぞれ、手の挿入の有無を検出する第1、第2の手検出手段としての赤外線発光部612、614が設置されている。赤外線発光部612、614は、後上面606の中央部に設置された赤外線受光部613と協働して手の挿入の有無を検出する。
【0081】
手乾燥装置601は、後述の第1、第2のノズル615、616に高圧空気を供給する給気ダクト618を備えている。給気ダクト618には、高圧空気供給装置619が接続されている。高圧空気供給装置619の吸気口620には、吸気中の埃等を除去する着脱可能なフィルタ621が備えられている。
【0082】
手挿入室602の前面604(第1の内壁面)の上部には、後上面606(第2の内壁面)に向けて第1の空気流aを噴出する第1のノズル615が設置され、後上面606(第2の内壁面)の上部には、前面604(第1の内壁面)に向けて第2の空気流cを噴出する第2のノズル616が設置されている。第1、第2のノズル615、616は、上下方向に位置をずらして、すなわち、第1のノズル615の位置を第2のノズル616の位置よりも下方(手挿入室602の奥側)にずらして設置している。
【0083】
高圧空気供給装置619内には、BLDCM640によって回転させられる送風ファン641が設けられている。この送風ファン641が回転することにより、給気ダクト618に高圧空気が供給される。
【0084】
ここで、実施の形態1に係る電動送風機を用いれば、送風ファン641とBLDCM640は、共通の回転軸を持ち、両者の径の長さがほぼ等しくなるよう形成されているので、手乾燥装置としての高さを低くでき、洗面台上への直接設置を可能とすることもできる。また、BLDCM640を高速化してモータ・圧縮機・回路トータルの重量を軽量化できるので、手乾燥装置601全体の軽量化を図ることもできる。
【0085】
また、塵埃除去フィルタ621通過後の塵埃が除去された空気をコンバータ・インバータの放熱フィンとモータに通過させる構成とすれば、コンバータ・インバータ・モータの高圧主素子の冷却が効率的にでき、フィンサイズ・重量を軽量化できる。また、フィンから空気に移動した熱により、乾燥用にノズルから噴出す空気の温度が高まり、乾燥性能が高まるとともに、冬場の使用者の快適性が向上する。
【0086】
特に、本発明で昇圧コンバータのスイッチングにより発生する発熱が、従来のパッシブ式や簡易スイッチングコンバータに比べ多くなるので、廃熱による乾燥性と快適性が高まる。また塵埃が除去された空気で放熱フィンを冷却するので、放熱フィンへの塵埃の付着がなく、フィンの方熱性能の経年劣化が発生しない効果がある。
【0087】
実施の形態8によれば、実施の形態1に係る電動送風機を用いることにより、手乾燥装置としての高さを低くでき、洗面台上への直接設置を可能とする効果がある。また、モータ・圧縮機・回路トータルの重量を軽量化できるので、手乾燥装置601全体の軽量化を図ることもできるという効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は、電気掃除機や手乾燥装置のみならず、洗濯機に内蔵される衣類乾燥用ヒートポンプシステムや、ヒートポンプ式の浴室乾燥機等の、電動機と電力変換装置トータルの小型化・軽量化が特に求められる機器についても適用することが出来る。
【0089】
また、天井裏や洗濯機の中に設置され、衣類を乾燥するためのヒートポンプシステムについても適用可能である。このようなシステムでは、設置場所の床の強度や天井裏の強度に対し、システムの重量を軽量化できるため、BLDCMを高速化してモータ・圧縮機・回路トータルの重量を軽量化することができる効果がある。
【0090】
また、空調機の圧縮機電動機とその電力変換装置にも適用可能であり、同様に機器の小型化・軽量化の効果が得られる。
【符号の説明】
【0091】
2 商用交流電源
4 ノイズフィルタ
5 整流回路
6a、6b 電源電圧検出用分圧抵抗
7 高周波インダクタ
8 昇圧コンバータ用IGBT
9 フライホイールダイオード
10 電流検出抵抗
11 IGBT8用ゲートドライバ
12 ファーストリカバリダイオード
13 平滑コンデンサ
14a、14b 昇圧コンバータ出力電圧検出用分圧抵抗
15 インバータ部電流検出抵抗
16a〜16f インバータ用IGBT
17a〜17f フライホイールダイオード
18 BLDCM
20 インバータ部IGBTゲートドライバ
22 手元操作手段
23 クロック生成回路
24 マイクロコンピュータ
25 Hz信号回路
30 集塵室
31 電動機
32 送風機
33 電力変換装置回路基板
34 コンセント
35 後輪
36 前輪
37 塵埃吸引用ホース
38 集塵フィルタ
39 本体ケース
601 手乾燥装置
602 手挿入室
603 内壁面
604 前面
606 後上面
607 後下面
608 底面
609 排水口
610 排水管
611 排水タンク
612、614 赤外線発光部
613 赤外線受光部
615、616 ノズル
618 給気ダクト
619 高圧空気供給装置
620 吸気口
621 フィルタ
630 背面
640 BLDCM
641 送風ファン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送風ファンを有し前記送風ファンを駆動するブラシレスモータを内蔵している電動送風機であって、
前記ブラシレスモータ制御用の制御部と、
交流電源から供給される交流電圧を整流して直流電圧に変換するコンバータ部と、前記直流電圧を交流電圧に変換して前記交流電圧を前記ブラシレスモータに供給するインバータ部とを有する電源部と、
前記ブラシレスモータの回転数を所定回転数以上となるようにして、前記送風ファンの径及び前記ブラシレスモータの径がほぼ等しくなるよう形成するとともに、前記コンバータ部に昇圧回路を設け、前記昇圧回路にて前記直流電圧を昇圧する電動送風機。
【請求項2】
前記所定回転数は50000rpmである請求項1記載の電動送風機。
【請求項3】
前記電源部はノイズフィルタを含み、
前記コンバータ部は、入力側の正電圧側に接続されたインダクタと、直流母線間に接続されたコンバータ部スイッチング素子とを含み、
前記ノイズフィルタと前記インダクタのサイズが最適化されるように前記ブラシレスモータの回転数と前記コンバータ部スイッチング素子のスイッチング周波数を設定した請求項1又は2記載の電動送風機。
【請求項4】
前記コンバータ部スイッチング素子のスイッチング周波数が16kHz以上70kHz以下である請求項3記載の電動送風機。
【請求項5】
前記コンバータ部は、
前記コンバータ部スイッチング素子に並列に直流母線間に接続された平滑コンデンサと、
前記コンバータ部スイッチング素子と前記平滑コンデンサとの間の正電圧側に接続されたファーストリカバリダイオードとを含む請求項3又は4記載の電動送風機。
【請求項6】
前記ファーストリカバリダイオードは、ワイドバンドギャップ半導体によって形成される請求項5記載の電動送風機。
【請求項7】
前記ワイドバンドギャップ半導体は、SiC、GaN系材料又はダイヤモンドである請求項6記載の電動送風機。
【請求項8】
前記昇圧回路により電圧を所定値に昇圧したのち、前記インバータを起動する請求項1乃至7のいずれかに記載の電動送風機。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載の電動送風機において、コンバータ回路素子をMOSFET又はワイドバンドギャップ半導体により構成し、デッドタイムを短縮した電動送風機。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかに記載の電動送風機を用いた電気掃除機。
【請求項11】
請求項1乃至9のいずれかに記載の電動送風機を用いた手乾燥装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−38507(P2011−38507A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131(P2010−131)
【出願日】平成22年1月4日(2010.1.4)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】