説明

電圧制御発振器

【課題】各発振周波数において出力信号の品質を劣化させずにすむような2周波数選択電圧制御発振器を提供することにある。
【解決手段】発振周波数を決定する帯域通過フィルタと、これの前段および後段に設けられた整合回路と、フィードバックループの損失を補完するための増幅回路と、発振条件および発振周波数を決定する固定移相器と、発振周波数を外部からの電圧信号によってコントロールするための電圧制御可変移相器と、外部出力とループ内出力への分配を決める分配器とをシリーズに配置して構成される電圧制御発振器を2回路有し、更に各該電圧制御発振器の電源切り替え回路と各該電圧制御発振器の出力信号を束ねる結合回路を有する2周波数電圧制御発振器において、前記結合回路として、キャパシタ、インダクタ、抵抗から成る2入力低域通過フィルタの回路構成を持たせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯域通過フィルタを用いたシリーズフィードバック型電圧制御発振器に関し、特に複数の信号発生部のうち、1つの信号発生部からの出力信号のみを選択的に出力する2周波数選択電圧制御発振器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複数の周波数帯域を用いる無線通信機、或いは複数の基準周波数をもつ光通信機においては、複数の異なる周波数から所望の周波数を得るために、複数の発振器を並べて、出力信号を切り替え回路によってスイッチする方法が用いられている。しかし、この場合関与しない発振器も動作し続けるため、消費電力が大きくなり、また、不要なスプリアスノイズが発生するという問題があった。また、発振器の電源回路まで含めてスイッチする方法も採られるが、この場合回路規模が大きくなり、よって実装面積も大きくなり不利であった。
【0003】
こうしたなか、より小型化の要求が厳しい分野では、複数の周波数で発振可能であり、且つ、出力する周波数が選択可能な発振器が用いられるようになった。シリーズフィードバック型電圧制御発振器における周波数の切り替え方式には、複数の発振回路を内蔵していてその電源と出力を同時に切り替えるものと、発振回路内部のフィルタを切り替えるものがある。前者は発振回路自体が単体で完結しているため、基本的に単独の1周波数の発振器と変わらぬ特性が得られるが、後者はフィードバックループ内に複数の帰還経路ができるため、しばしば不安定な発振を引き起こし取り扱いが非常に難しい。そのため、信頼性の要求が高いシステムには前者の複数の発振回路を内蔵するタイプが用いられている。
図2は従来の2周波数選択発振器のなかで、電源、出力を同時に切り替えて発振周波数を切り替えるタイプの一例である。この回路構成では、2つの発振器の出力をコンデンサ結合で束ねているだけであるので、2つの発振回路を内蔵する2周波数発振器のなかでは最も回路規模が小さく抑えられる。
同様に図3も電源、出力を同時に切り替えて発振周波数を切り替えるタイプの一例であるが、ダイオードのスイッチングにより動作中の発振器の出力回路から停止中の発振器の出力回路へ向かうインピーダンスを増加させている。このような従来の2周波数選択発振器の例では、停止中の発振器への発振信号の漏れ込みが小さく抑えられ、出力信号強度の低下が抑えられるという特徴がある。また、動作中の発振回路のバイアスを利用してダイオードのスイッチングを行うことにより、回路規模の増加を比較的小さく抑えることも可能である(例えば、特開2000−59142公報参照)。
【0004】
図4は従来の2周波数選択発振器のなかで、発振回路内の帯域通過フィルタを切り替えて発振周波数を切り替えるタイプのものである。この回路では、例えばダイオードスイッチによって所望の周波数の帯域通過フィルタを選択することによって、複数の発振周波数で発振可能な電圧制御発振器が構成される。また、発振回路内の帯域通過フィルタを切り替える方法には、ダイオード等のスイッチ回路を用いずに、電圧制御移相器によってフィードバックループの位相を切り替えることにより、発振に寄与するフィルタを切り替える方法もある(特開2001−127548公報参照)。これらの方法では、発振に供される増幅回路や電圧制御移相回路が共用であるため、切り替え前後でドリフトが殆ど無く、常に切り替えが頻繁に発生する用途に有利である。
【0005】

次に、帯域通過フィルタ、例えば弾性表面波フィルタを用いたフィードバック型電圧制御発振器の基本回路は、例えば特開昭59−158106により公知である。従来のこの種の電圧制御発振器の一例として、図5にシリーズフィードバック型弾性表面波発振器のブロック図を示す。周波数選択素子として、弾性表面波フィルタ(SAWフィルタ)1が設けられており、このフィルタの前段および後段には整合回路2が配置される。増幅回路3はフィードバックループの損失を補完して適正なループゲインを確保するためのもので、分配器4によって発振出力とフィードバックループに信号が振り分けられる。固定移相器6はSAWフィルタの製造バラツキや実装バラツキによる位相誤差を補正して発振周波数を調整するためのもので、電圧制御可変移相器5は、固定移相器6によってセットされた発振周波数から適当な周波数可変帯域内で、周波数制御入力に従って発振周波数をコントロールするものである。なお、整合回路2は、SAWフィルタの入出力インピーダンスとその前後の回路との整合条件により省略されることがあり、固定移相器6についても、電圧制御可変移相器5のみで可変帯域が確保できる場合は省略されることがある。
【0006】
このタイプの発振器の発振条件は、フィードバックループの位相条件がn×360度(n=1、2、…n)で、且つ、ループゲインが0dB以上になることであり、通常はSAWフィルタの通過帯域内において位相条件を満たすように設計される。
【0007】
電圧制御可変移相器5には、電圧可変素子として、一般に可変容量ダイオードが用いられる。具体的には、オールパスフィルタ型電圧制御移相器や、ハイパスフィルタ型、ローパスフィルタ型、90度ハイブリッドを用いたもの等が適用される。
【特許文献1】特開昭59−158106公報
【特許文献2】特開2001−127548公報
【特許文献3】特開2000−59142公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図2に示した従来の2周波数選択発振器では、2つのそれぞれ独立した発振器の出力ラインをコンデンサにより結合して1つのラインに束ねている。そのため、動作中の発振器から停止中の発振器への信号の漏れ込みが少なくなく、単独の発振回路で取り出される発振信号に対して、出力信号強度が低下したり、インピーダンス・ミスマッチによる波形歪みが発生したりするという問題があった。
図3に示した従来2周波数選択発振器の例では、ダイオードのスイッチングにより動作中の発振器の出力回路から停止中の発振器の出力回路へ向かうインピーダンスを増加させているため、停止中の発振器への発振信号の漏れ込みが小さく抑えられ、出力信号強度の低下が抑えられる一方で、ダイオードの非線形効果によって出力波形が歪んで基本波の2倍、3倍等の高調波が発生し、特にデジタルシステムのクロック源に用いる場合などには、デューティー比が悪化してエラーレートが増加するなどの弊害が発生するという問題があった。
図4に示した従来の2周波数選択発振器では、発振条件を決める重要なフィードバックループ内に複数の帰還経路を持つため、実装等のレイアウト設計によっては不安定な発振器となり易く、取り扱いが非常に難しい。また、ダイオードスイッチやチョークコイル等の切り替え回路用の部品は、増幅回路に用いるトランジスタやチップ抵抗、チップコンデンサ等の部品と比較して一般に高価であり、部品数が少ないわりにトータルコストが下げられないという問題があった。
【0009】
本発明はこの様な従来技術の課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、各発振周波数において出力信号の品質を劣化させずにすむような2周波数選択電圧制御発振器を提供することにある。なお、ここでいう出力信号の品質は、主に信号強度、スプリアスレベルに関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1における2周波数選択電圧制御発振器は、帯域通過フィルタと、これの前段および後段に設けられた整合回路と、フィードバックループの損失を補完するための増幅回路と、発振条件および発振周波数を決定する固定移相器と、発振周波数を外部からの電圧信号によってコントロールするための電圧制御可変移相器と、外部出力とループ内出力への分配を決める分配器とをシリーズに配置して構成される電圧制御発振器を2回路有し、更に各該電圧制御発振器の電源切り替え回路と各該電圧制御発振器の出力信号を束ねる結合回路を有する2周波数選択電圧制御発振器において、前記結合回路に低域通過フィルタの機能をもった結合回路を用いることを特徴としており、これによって出力端子部において出力信号強度の低下が小さく、且つ、スプリアスレベルの小さな品質の高い電圧制御発振器を実現することができる。
【0011】
請求項2における発振器は、帯域通過フィルタとして弾性表面波フィルタを用いることにより、弾性表面波フィルタの優位性であるサイズメリットを生かして、コンパクトな回路レイアウトが実現できるという特徴があり、高周波帯域でさまざまなパラスティックを考慮する際に有利であるとともに、トータルサイズを小さく抑えることができるという利点がある。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、2つの異なる発振周波数をもつ電圧制御発振器を組み合わせて構成する2周波数選択電圧制御発振器において、単体の電圧制御発振器の電気特性を劣化させることなく、小スペースな電圧制御発振器を提供する事ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
図1は本発明の請求項1になる実施例の構成を示すブロック図である。以下、図1に従って2周波数選択電圧制御発振器10について説明する。
【0014】
図1に示したように、帯域通過フィルタ1と、これの前段および後段に設けられた整合回路2と、フィードバックループの損失を補完するための増幅回路3と、発振条件および発振周波数を決定する固定移相器6と、発振周波数を外部からの電圧信号によってコントロールするための電圧制御可変移相器5と、外部出力とループ内出力への分配を決める分配器4とをシリーズに配置して、フィードバックループを構成している。2つの電圧制御発振器の出力は、低域通過形フィルタの特性を有する結合回路に送り込まれて、一つの出力端子に集約される。
【0015】
帯域通過フィルタには、SAWフィルタの他に、誘電体共振器を用いたフィルタが使用できる。整合回路は、L、C、Rの集中定数デバイスを用いて実現しているが、その他にマイクロストリップライン等の分布定数回路を用いたものが適用できる。固定移相器には、LCフィルタ回路を採用しているが、他に、RCフィルタ回路や、勿論文字通り遅延線や、更には外部調整を可能にする目的で電圧制御可変移相器を用いることもできる。また、電圧制御可変移相器には、電圧可変素子として可変容量ダイオードを用い、オールパスフィルタ型電圧制御移相器やハイパスフィルタ型、ローパスフィルタ型、90度ハイブリッドを用いたものが適用できる。
【0016】
このような構成において、電源電圧が印加されると、各素子が発生するノイズを増幅回路3が増幅して分配器、固定移相器、電圧制御可変移相器、整合回路、帯域通過フィルタ、整合回路の順番でループ内を循環するが、SAWフィルタを通過する際に必要な周波数成分のみが抽出されて増幅回路に帰還される。このときの発振条件は、フィードバックループの位相条件がn×360度(n=1、2、…n)で、且つ、ループゲインが0dB以上になることであり、SAWフィルタの通過帯域内において位相条件を満たすように設計することにより、安定した発振出力が得られる。
【0017】
結合回路は、図1に示されるようにL、C、Rから構成される2入力1出力の低域通過フィルタであり、各発振周波数に応じて、fc=1/√LCで最適なカットオフ周波数が選択される。2つの発振周波数に乖離がある場合、結合回路の入力側のコンデンサとインダクタを発振周波数毎に設定して、適切なカットオフ周波数をそれぞれに用意する事ができる。また、結合回路に用いるL、C、R部品は、マイクロストリップラインから成る分布定数回路を用いることも可能である。
【実施例】
【0018】
本発明の請求項1にかかる実施例を以下に説明する。
下記の表1に、実施例1によって製作した2周波数選択電圧制御発振器の各発振周波数毎の発振出力レベル、並びに高調波レベルを示したものである。比較のため、従来例1として図2の回路構成における各特性値を示し、従来例2として図3の回路構成における各特性値を併せて示す。また、同様の発振回路構成における電圧制御発振器の1周波数回路分を分離した単体での代表的な特性値を示す。なお、本発振器は発振周波数が622.08MHz、出力レベルが6dBmとなるように設計している。
【0019】
【表1】

【0020】
表1から分かるように、従来例1の回路構成で製作した2周波数選択電圧制御発振器では、1段分の出力レベルに対して、4〜5dB程度出力が低下しており、また、スプリアス特性として高調波信号強度が6dB悪化している。次に、従来例2の回路構成では、1段分の出力レベルに対して、1.5dB程度の出力低下に抑えられているが、高調波信号強度が同様に4dB程度悪化している。
【0021】
これらに対して、実施例による回路構成で製作した2周波数選択電圧制御発振器では、出力減衰量は1.5dB程度と従来例2と同程度であるが、高調波強度が−31dBcと基本となる発振器の特性よりも高調波が抑えられていることが確認できる。これは、結合回路に低域通過フィルタの機能を盛り込んだために、高調波スペクトルが減衰して信号純度の高い発振出力が抜き出された結果であると考察される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施例1を示す機能ブロック図である。
【図2】従来例1を示す機能ブロック図である。
【図3】従来例2を示す機能ブロック図である。
【図4】従来例3を示す機能ブロック図である。
【図5】シリーズフィードバック型電圧制御発振器の基本回路である。
【符号の説明】
【0023】
1 帯域通過フィルタ(SAWフィルタ)
2 整合回路
3 増幅回路
4 分配器
5 電圧制御可変移相器
6 固定移相器
7 抵抗器
8 キャパシタ
9 インダクタ
10 請求項1による弾性表面波電圧制御発振器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発振周波数を決定する帯域通過フィルタと、これの前段および後段に設けられた整合回路と、フィードバックループの損失を補完するための増幅回路と、発振条件および発振周波数を決定する固定移相器と、発振周波数を外部からの電圧信号によってコントロールするための電圧制御可変移相器と、外部出力とループ内出力への分配を決める分配器とをシリーズに配置して構成される電圧制御発振器を2回路有し、更に各該電圧制御発振器の電源切り替え回路と各該電圧制御発振器の出力信号を束ねる結合回路を有する2周波数選択電圧制御発振器において、前記結合回路として、キャパシタ、インダクタ、抵抗から成る2入力低域通過フィルタの回路構成を持たせたことを特徴とする2周波数選択電圧制御発振器。
【請求項2】
請求項1の2周波数選択電圧制御発振において、前記帯域通過フィルタとして、弾性表面波フィルタを用いることを特徴とする2周波数選択電圧制御発振器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−13733(P2006−13733A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−185787(P2004−185787)
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】