説明

電圧駆動型スイッチング素子の駆動装置

【課題】 従来のIGBTの駆動装置では、IGBTのゲート電圧精度向上のため、IGBTと電源入力端子との間に定電圧回路を介設しているが、IGBTのターンオン時に大きなゲート充電電流が流れるため、定電圧回路を大型で大電流用のものを用いる必要があった。
【解決手段】 IGBT1等の電圧駆動型スイッチング素子の駆動装置であって、電源装置3と、電源装置3よりも高精度な出力電圧を有するシリーズレギュレータ11と、IGBT1のゲート電極への電気的な接続先を、前記電源装置3とシリーズレギュレータ11とに切り換える切り換えスイッチ13とを備え、前記切り換えスイッチ13は、IGBT1のターンオン開始時には、ゲート電極と電源装置3とが電気的に接続される側へ切り換えられ、IGBT1のターンオン状態から定常状態への移行時に、IGBT1のゲート電極の電気的な接続先を、電源装置3からシリーズレギュレータへ切り換える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧駆動型スイッチング素子の駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
IGBT(Insulated gate bipolar transistor)やMOSGTO(Metal oxide gate turn−off thyristor)等は、絶縁ゲートに加える電圧で電流を制御できる、いわゆる電圧駆動型スイッチング素子であり、インバータ等に広く用いられている。
近年では、特にハイブリッド電気自動車(Hybrid Electric Vehicle:HEV)用のインバータに多く用いられてきている。
このHEV等に用いられるインバータにおける電源装置は、モータ制御性の自由度やコストやサイズ等の観点からトランス方式が一般的に使用されている。
【0003】
また、HEV等に用いられるIGBT等の電圧駆動型スイッチング素子においては、小型・低コストの電圧駆動型スイッチング素子を用いて、電流密度を上げつつ短絡耐量も確保するために、該電圧駆動型スイッチング素子の制御電圧であるゲート電圧の精度向上が強く望まれている。
従って、ゲート電圧の精度向上を図るべく、電圧駆動型スイッチング素子と電源入力端子との間に定電圧回路を介設した、電圧駆動型スイッチング素子駆動用の半導体素子が考案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】実開平6−13227号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述のごとく、電圧駆動型スイッチング素子と電源入力端子との間に定電圧回路を介設することにより、電源入力端子に入力される電源電圧が変動したとしても、定電圧回路により定電圧化され、電圧駆動型スイッチング素子に常に一定のゲート電圧を供給することが可能となる。
しかし、電圧駆動型スイッチング素子のターンオン時には、該電圧駆動型スイッチング素子に大きなゲート充電電流が流れるため、電圧駆動型スイッチング素子と電源入力端子との間に介設する定電圧回路は、大型で大電流用のものを用いる必要があり、電力損失も大きくなってしまう。
そこで、本発明においては、電圧駆動型スイッチング素子の駆動装置が大型化せずに電力損失も抑えながら、電圧駆動型スイッチング素子のゲート電圧の精度向上を図ることができる電圧駆動型スイッチング素子の駆動装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する電圧駆動型スイッチング素子の駆動装置は、以下の特徴を有する。
即ち、請求項1記載のごとく、電圧駆動型スイッチング素子の駆動装置であって、第1の駆動電源と、第1の駆動電源よりも高精度な出力電圧を有する第2の駆動電源と、電圧駆動型スイッチング素子の制御端子への電気的な接続先を、前記第1の駆動電源と第2の駆動電源とに切り換える切り換え手段とを備え、前記切り換え手段は、電圧駆動型スイッチング素子のターンオン開始時には、電圧駆動型スイッチング素子の制御端子と第1の駆動電源とが電気的に接続される側へ切り換えられ、電圧駆動型スイッチング素子のターンオン状態から定常状態への移行時に、電圧駆動型スイッチング素子の制御端子の電気的な接続先を、第1の駆動電源から第2の駆動電源へ切り換える。
これにより、ターンオン時の大電流が流れる期間では第1の駆動電源によりゲート充電電流を供給して、定常時のゲート充電電流が微少で良い期間を第2の駆動電源により充電することができ、電流供給能力が小さな小型・小電流出力の第2の駆動電源、および小電流型の切り換え手段を用いることが可能となる。
また、小型・小電流型の第2の駆動電源および切り換え手段を用いることで、該第2の駆動電源および切り換え手段での電力損失を微少にすることができるため、駆動装置を構成するICチップ内に、これらの第2の駆動電源および切り換え手段を組み込むことが可能となる。
そして、インバータ装置の小型化、低コスト化、および高信頼性化を図ることができる。
【0006】
また、請求項2記載のごとく、前記駆動装置は、電圧駆動型スイッチング素子の制御端子の電圧を検出する検出手段を有し、前記切り換え手段は、検出手段の検出結果に基づいて、該制御端子の電気的な接続先の切り換えを行う。
これにより、例えば、電圧駆動型スイッチング素子のターンオン特性に変化があった場合でも、切り換え手段の切り換えを、タイマー等を用いて画一的に行った場合に比べて、確実に行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、本発明にかかる駆動装置を備えたインバータ装置の小型化、低コスト化、および高信頼性化を図ることができる。
また、電圧駆動型スイッチング素子の制御端子への電気的な接続先を、第1の駆動電源と第2の駆動電源とに切り換える切り換え手段の切り換えを、確実に行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
次に、本発明を実施するための形態を、添付の図面を用いて説明する。
【0009】
本発明にかかる電圧駆動型スイッチング素子の駆動装置が適用されるインバータの構成について説明する。
例えば、3相モータを駆動するインバータは、電圧駆動型スイッチング素子であるIGBT、ダイオード、および本発明にかかるIGBTの駆動装置からなる組を6組備えている。
【0010】
図1には、これら6組のうちの、1組についてのブロック図を示している。つまり、IGBT1、ダイオードD1、およびIGBT1の駆動装置10からなる組を示している。
駆動装置10の電源入力端子10aには、トランス方式の電源装置3が接続されている。また、IGBT1にはダイオードD1が並列接続されている。
【0011】
IGBT1の駆動装置10は、高電位側に接続されるスイッチ素子M1と、低電位側に接続されるスイッチ素子M2と、前記スイッチ素子M1およびスイッチ素子M2のオン・オフ制御を行う制御回路12と、シリーズレギュレータ11とを、備えている。
スイッチ素子M1はPMOSトランジスタにて構成され、スイッチ素子M2はNMOSトランジスタにて構成されている。
【0012】
シリーズレギュレータ11は、電源装置3から電源供給を受けており、該電源装置3の出力端子11aは、切り換えスイッチ13を介して駆動装置10の出力端子10bに電気的に接続可能とされている。
また、スイッチ素子M1・M2のドレイン電極は、駆動装置10の出力電極10b・10cにそれぞれ接続され、該出力電極10b・10cは、それぞれゲート抵抗R1・R2を介してIGBT1のゲート電極に接続されている。
【0013】
そして、切り換えスイッチ13のオン・オフは制御回路12により制御され、該切り換えスイッチ13のオン・オフ切り換えにより、シリーズレギュレータ11からの出力電圧の、IGBT1への供給・停止が切り換えられるように構成している。
また、電源装置3は、前記スイッチ素子M1を介してIGBT1のゲート電極と電気的に接続可能とされており、電源装置3からの出力電圧をIGBT1のゲート電極へ供給可能となっている。
電源装置3からの出力電圧の、IGBT1への供給・停止は、前記スイッチ素子M1のオン・オフを切り換えることにより切り換えられるように構成している。
【0014】
図2に示すように、例えば、前記シリーズレギュレータ11は、主に、PMOSトランジスタにて構成されるスイッチ素子M3とオペアンプAMPとで構成されており、電源装置3からの出力電圧を、駆動装置10の電源入力端子10aを通じてシリーズレギュレータ11内に入力して、シリーズレギュレータ11の出力端子11aの出力電圧が+15Vとなるようにフィードバック制御している。
【0015】
シリーズレギュレータ11の出力電圧の精度は、一般的に±3〜5%程度と、電源装置3の一般的な精度である10%程度に対して、高精度に構成されている。
さらに、シリーズレギュレータ11は、出力電圧の精度が±1%以内に構成された、更なる高精度品を用いることもできる。
また、前記シリーズレギュレータ11は、図3、および図4に示すように、スイッチ素子M3を、PNPバイポーラ型トランジスタまたはNPNバイポーラ型トランジスタにて構成することも可能である。
【0016】
前記電源装置3からの出力電圧は、前述のように、その精度が一般的に±10%程度であるため、例えば+18V程度に設定している。すなわち、+18Vに設定すると、出力電圧が下限に振れたときでも+16.2Vとなるため、+15V以上を確保することが可能となる。さらには、電源装置3からの出力電圧の精度が、仮に±10%よりも悪い±15%であったとしても、出力電圧は+15.3V〜+20.7Vの範囲となるため、+15V以上を確保することができる。
また、後述するように、IGBT1のターンオン後の定常時には、電源装置3からの出力電圧が、前記シリーズレギュレータ11を通じてIGBT1へ供給されるため、該IGBT1のゲート電極への入力電圧が、通常±20V程度に設定されているゲート・エミッタ間耐圧を超えることもない。
【0017】
これにより、前述の出力電圧の精度が±15%程度である、簡素化された構造の精度が悪いトランス方式の電源装置3を使用することも可能となっている。
なお、電源装置としては、トランス方式以外にも、チャージポンプ方式やブートストラップ方式等のものを適用することも可能である。
このように、制御装置10は、精度があまり要求されない、第1の電源装置となる電源装置3と、高精度な第2の電源装置となるシリーズレギュレータ11とを、備えている。
【0018】
さらに、駆動装置10はコンパレータ14を備えており、該コンパレータ14によりIGBT1のゲート電圧Vgeと基準電圧V1とを比較して、その比較結果を制御回路12に入力するように構成している。
また、図2に示すように、前記切り換えスイッチ13は、具体的には、PMOSトランジスタにて構成されるスイッチ素子にて構成することができる。
【0019】
このように構成される駆動装置10においては、IGBT1の駆動が次のように行われる。
つまり、図5のタイミングチャートに示すように、まず、IGBT1のターンオン開始時には、駆動回路12にゲート制御信号が入力され、駆動回路12が、前記スイッチ素子M2をオフし、スイッチ素子M1をオンする。
また、駆動回路12により前記切り換えスイッチ13はオフ状態を保持され、シリーズレギュレータ11の出力端子11aがIGBT1のゲート電極から切り離された状態となっている。
【0020】
このようにしてターンオンが開始されると、電源装置3からIGBT1に対してゲート充電電流が供給される。この場合、電源装置3からのIGBT1へのゲート充電電流は、アンペアオーダーの電流が供給される。
なお、このターンオン開始時には、最初にスイッチ素子M2をオフした後に、スイッチ素子M1をオンしてゲート充電電流を供給するようにしている。これは、スイッチ素子M1とスイッチ素子M2とが同時にオンして貫通電流が流れることを防止するためである。
【0021】
その後、IGBT1のターンオン動作がほぼ終了して定常状態へ移行する際に、その定常状態へ移行することをコンパレータ14にて検出する。
つまり、ターンオン開始時から、IGBT1のゲート電圧Vgeが上昇して、予め設定された基準電圧V1以上に達すると、その旨がコンパレータ14から駆動回路12へ出力され、該駆動回路12によりスイッチ素子M1がオフされるとともに、切り換えスイッチ13がオンされる。
この定常状態への移行時においては、予め設定される基準電圧V1を、ゲート電圧Vgeの90%程度の電圧値に設定しておけば、十分充電電流が小さくなった状態で切り換えることが可能となる。
【0022】
これにより、電源装置3からIGBT1のゲート電極への電力供給が停止し、その代わりにIGBT1のゲート電極とシリーズレギュレータ11とが接続される。
そして、IGBT1のゲート電極への電力供給源が電源装置3からシリーズレギュレータ11へ切り換わって、該シリーズレギュレータ11にて高精度にIGBT1が駆動されることとなる。
【0023】
この場合、前記基準電圧V1は、通常12〜13V程度に設定されているため、ゲート電圧Vgeを15Vに充電するまでの電流値は微少で良く、電流供給能力が小さな小型・小電流出力のシリーズレギュレータ11、および小電流型の切り換えスイッチ13を用いることが可能となっている。
【0024】
また、小型・小電流型のシリーズレギュレータ11および切り換えスイッチ13を用いることで、該シリーズレギュレータ11および切り換えスイッチ13での電力損失を微少にすることができるため、駆動装置10を構成するICチップ内に、これらのシリーズレギュレータ11および切り換えスイッチ13を組み込むことが可能となる。
これにより、インバータ装置の小型化、低コスト化、および高信頼性化を図ることができる。
【0025】
さらに、定常時にシリーズレギュレータ11による高精度なゲート電圧制御を行うことで、小型のIGBT1の電流密度を上げつつ、短絡耐量を確保することができ、インバータ装置のさらなる低コスト化を図ることが可能である。
また、電源装置3からシリーズレギュレータ11への切り換えは、ターンオン時のスイッチング動作が終了してから行われるため、IGBT1のスイッチング特性やスイッチング損失に影響を与えることもない。
【0026】
さらに、電源装置3からシリーズレギュレータ11への切り換えは、IGBT1のゲート電圧検出手段となるコンパレータ14による検出結果に基づいて行われるので、例えば、IGBT1のターンオン特性に変化があった場合でも、切り換えスイッチの切り換えを、タイマー等を用いて画一的に行った場合に比べて、確実に行うことが可能となる。
【0027】
また、前記制御装置10は、次のように構成することもできる。
すなわち、図6、図7に示すように、制御回路12からシリーズレギュレータ11のオペアンプAMPに対して、アンプ起動信号を出力するように構成することもできる。
【0028】
インバータ装置において、シリーズレギュレータ11による高精度なゲート電圧制御が必要となるのは、IGBT1が定常的にオンしているときだけである。
従って、ターンオン開始時からIGBT1のゲート電圧Vgeがコンパレータ14の基準電圧V1に達するまでの間は、制御回路12からのアンプ起動信号をオフしておいて、シリーズレギュレータ11をスタンバイ状態とさせておく。
そして、IGBT1のゲート電圧が基準電圧V1超えた定常時になると、オペアンプAMPに対する制御回路12からのアンプ起動信号をオンして、シリーズレギュレータ11を15V出力状態とする。
【0029】
このように、シリーズレギュレータ11からの出力電圧にて高精度な制御を行うこが必要となるときのみ、該シリーズレギュレータ11をオンするように構成することで、シリーズレギュレータ11の動作時間を短縮することができて、駆動装置10の低消費電力化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明にかかるIGBTの駆動装置を示す回路図である。
【図2】駆動装置が備えるシリーズレギュレータおよび切り換えスイッチの具体的構成を示す回路図である。
【図3】シリーズレギュレータ具体的構成の第2実施例を示す回路図である。
【図4】シリーズレギュレータ具体的構成の第3実施例を示す回路図である。
【図5】駆動装置におけるIGBT駆動のタイミングチャートを示す図である。
【図6】駆動装置の第2の実施例を示す回路図である。
【図7】図6に示す駆動装置におけるIGBT駆動のタイミングチャートを示す図である。
【符号の説明】
【0031】
1 IGBT
3 電源装置(第1の駆動電源)
10 駆動装置
11 シリーズレギュレータ(第2の駆動電源)
12 制御回路
13 切り換えスイッチ
14 コンパレータ
M1・M2 スイッチ素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧駆動型スイッチング素子の駆動装置であって、
第1の駆動電源と、
第1の駆動電源よりも高精度な出力電圧を有する第2の駆動電源と、
電圧駆動型スイッチング素子の制御端子への電気的な接続先を、前記第1の駆動電源と第2の駆動電源とに切り換える切り換え手段とを備え、
前記切り換え手段は、電圧駆動型スイッチング素子のターンオン開始時には、電圧駆動型スイッチング素子の制御端子と第1の駆動電源とが電気的に接続される側へ切り換えられ、
電圧駆動型スイッチング素子のターンオン状態から定常状態への移行時に、電圧駆動型スイッチング素子の制御端子の電気的な接続先を、第1の駆動電源から第2の駆動電源へ切り換えることを特徴とする電圧駆動型スイッチング素子の駆動装置。
【請求項2】
前記駆動装置は、電圧駆動型スイッチング素子の制御端子の電圧を検出する検出手段を有し、
前記切り換え手段は、検出手段の検出結果に基づいて、該制御端子の電気的な接続先の切り換えを行う、ことを特徴とする請求項1に記載の電圧駆動型スイッチング素子の駆動装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−324963(P2006−324963A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−146431(P2005−146431)
【出願日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】