電子キーシステムの通信エリア形成装置
【課題】通信マスタのアンテナ数を削減でき、しかも電子キーの位置検出精度も確保することができる電子キーシステムの通信エリア形成装置を提供する。
【解決手段】スマート通信の車両送信アンテナである車両発信機10を、互いにアンテナ軸が直交する一対のコイルバーアンテナ16a,16bを備えた2軸一体アンテナとする。車外照合の際には、第1コイルバーアンテナ16aのみを単独送信させて第1通信エリアE1を形成し、次にコイルバーアンテナ16a,16bを同相で同時送信させて第3通信エリアE3を形成し、続いてコイルバーアンテナ16a,16bを逆相で同時送信させて第4通信エリアE4を形成して、車両周囲に車外通信エリアを形成する。また、車内照合の際には、第2コイルバーアンテナのみを単独送信させて第2通信エリアE2を形成し、車両1に車内通信エリアを形成する。
【解決手段】スマート通信の車両送信アンテナである車両発信機10を、互いにアンテナ軸が直交する一対のコイルバーアンテナ16a,16bを備えた2軸一体アンテナとする。車外照合の際には、第1コイルバーアンテナ16aのみを単独送信させて第1通信エリアE1を形成し、次にコイルバーアンテナ16a,16bを同相で同時送信させて第3通信エリアE3を形成し、続いてコイルバーアンテナ16a,16bを逆相で同時送信させて第4通信エリアE4を形成して、車両周囲に車外通信エリアを形成する。また、車内照合の際には、第2コイルバーアンテナのみを単独送信させて第2通信エリアE2を形成し、車両1に車内通信エリアを形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信マスタからID返信要求の通信エリアを形成し、このID返信要求に応答して電子キーが返信してきたIDコードによりID照合を実行する電子キーシステムの通信エリア形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両キーとしての電子キーから無線によりIDコードを車両に送信してID照合を実行する電子キーシステムが広く使用されている。この電子キーシステムには、車両からIDコード返信要求としてリクエストを送信し、このリクエストに応答して電子キーが返信してきたIDコードによりID照合を行うキー操作スマートシステムがある。キー操作フリーシステムには、車外でID照合が成立すると、ドアロック施解錠が許可又は実行されるスマートエントリーシステムと、車内でID照合が成立すると、車内のエンジンスイッチの単なる押し操作のみでエンジン始動が可能となるワンプッシュエンジンスタートシステムとがある。
【0003】
この電子キーシステムの一種には、図9に示すように、車両80の運転席ドア81側(車体右側)にアンテナ83を配置し、助手席ドア82側(車体左側)にアンテナ84を設置し、これらアンテナ83,84からの送信電波に対して電子キー85が返してきた応答の論理判定によってキー位置を判定する技術(特許文献1,2等)が考案されている。この論理判定キー位置検出方式は、車体右側に設置された運転席アンテナ83と、車体左側に設置された助手席アンテナ84とから順にリクエストを送信して、運転席アンテナエリア86と助手席アンテナエリア87とを順に形成し、これらリクエストに対して電子キー85が返信するIDコード、即ち応答の論理判定によってキー位置を判定する。
【0004】
例えば、運転席アンテナ83のリクエストに対して電子キー85からの応答があり、助手席アンテナ84のリクエストに対して電子キー85から応答がないと、電子キー85が車外に位置すると判定する。また、運転席アンテナ83のリクエストに対して電子キー85からの応答がなく、助手席アンテナ84からのリクエストに対して電子キー85の応答があれば、電子キー85が車外に位置すると判定する。さらに、運転席アンテナ83のリクエストと助手席アンテナ84のリクエストとに対して両方とも応答があれば、電子キー85が車内に位置していると判定する。
【0005】
図9に示す論理判定キー位置検出方式は、車体右側と車体左側とに設けた一対のアンテナで車外と車内との両方の位置を見ることができる。よって、論理判定キー位置検出方式は、例えば車外アンテナとして各ドアにアンテナを設置しつつ、更に車内アンテナとして車内に複数のアンテナを設置して電子キーの位置を検出する場合に比べて、アンテナを車体の左右にのみ設置すればよい分だけ、アンテナ本数を少なく抑えることができる利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−84406号公報
【特許文献2】特開2005−76329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、論理判定キー位置検出方式は、運転席側と助手席側とにアンテナを各々配置しなくてはならないので、アンテナ本数を削減したい要望があった。また、例えば図10に示すように、電子キー2が車内運転席側の角位置88に位置した際、この角位置88には、運転席アンテナエリア86しか届かない。よって、位置判定結果としては、両方のアンテナ83,84に反応しないことになるので、電子キー2が車内にあるにも拘らず、車内と判定できないヌル点となってしまう。このため、電子キー2の位置を誤判定してしまう問題があった。
【0008】
本発明の目的は、通信マスタのアンテナ数を削減でき、しかも電子キーの位置検出精度も確保することができる電子キーシステムの通信エリア形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記問題点を解決するために、本発明では、通信マスタからのID返信要求に応答して電子キーが返信してきたIDコードによりID照合を行う電子キーシステムの通信エリア形成装置において、前記通信マスタの送信アンテナとして形成され、軸方向が異なる向きに配置された少なくとも2つのアンテナ部材が設けられた複数軸一体アンテナと、複数の前記アンテナ部材から各々個別に電波を単独送信させるとともに、前記アンテナ部材の複数から電波を同時送信させることにより、互いに指向性の異なる通信エリアを形成して、前記電子キーとの前記ID照合を実行させる送信実行手段とを備えたことを要旨とする。
【0010】
この構成によれば、複数軸一体アンテナの各軸を単独送信又は同時送信させることにより、通信マスタに種々の通信エリアを形成して、電子キーとの間の通信を実行する。このため、通信マスタに種々の通信エリアを形成して電子キーとのID照合を実行する形式をとる場合であっても、通信マスタに設置するアンテナが複数軸一体アンテナの1つで済むので、通信マスタ側のアンテナ本数を少なく抑えることが可能となる。また、複数軸一体アンテナの各軸を単独送信させた際と、これら軸を同時送信させた際とでは、互いに指向性が異なる通信エリアが形成される。このため、例えば単独送信時の通信エリアではヌル点となってしまう箇所も、同時送信時の通信エリアで補完することが可能となるので、通信成立性を確保することも可能となる。
【0011】
本発明では、前記送信実行手段は、複数の前記アンテナ部材を同時送信させる際、当該アンテナ部材を同相で同時送信させるとともに、当該アンテナ部材を逆相で同時送信させることにより、指向性が互いに直交する通信エリアを形成することを要旨とする。
【0012】
この構成によれば、同時送信を同相と逆相とで実行するので、同時送信においても、互いに指向性の異なる通信エリアを形成することが可能となる。よって、通信エリアの形状に多様性を持たせることが可能となるので、通信成立性を一層確保することが可能となる。
【0013】
本発明では、前記送信実行手段は、前記通信エリアとして室外通信エリア及び室内通信エリアを形成し、前記ID照合が前記室外通信エリア及び前記室内通信エリアのどちらで成立するのかを確認することにより、前記電子キーが室外及び室内のどちらに位置するのかを判定することを要旨とする。
【0014】
この構成によれば、通信エリアとして室外通信エリア及び室内通信エリアを形成して、電子キーの位置を室内外判定するので、電子キーが室外及び室内のどちらに位置するのかを、より精度よく判定することが可能となる。
【0015】
本発明では、前記アンテナ部材が前記通信エリアを形成する際、該アンテナ部材の送信強度を変更することにより、前記通信アンテナの大きさを切り換える通信エリア変更手段を備えたことを要旨とする。
【0016】
この構成によれば、2軸一体アンテナの送信強度を変更することにより、大きさを変えて通信エリアを形成可能としたので、例えば全ての通信エリアが送信強度一定下で形成される場合と比較して、好適な範囲の通信エリアを形成することが可能となる。よって、通信マスタの部品配置や形状等に見合った好適な通信エリアが形成されるので、通信成立性をより一層確保することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、通信マスタのアンテナ数を削減でき、しかも電子キーの位置検出精度も確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1実施形態における通信エリア形成装置の概略構成を示す構成図。
【図2】2軸一体アンテナの部品構成を示す構成図。
【図3】2軸一体アンテナが放射する電波イメージを示す概念図。
【図4】車外通信エリアに電子キーが位置した状態を示す概念図。
【図5】(a)は車外通信エリアに電子キーが位置した状態を示す概念図、(b)は車内通信エリアに電子キーが位置した状態を示す概念図。
【図6】第2実施形態における通信エリア形成装置の概略構成を示す構成図。
【図7】車外通信エリアに電子キーが位置した状態を示す概念図。
【図8】(a)は電子キーが車外にあるときの概念図、(b)は電子キーが車内にあるときの概念図。
【図9】従来における電子キーシステムの概略構成を示す模式図。
【図10】車内のヌル点に電子キーが位置した状態を示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1実施形態)
以下、本発明を具体化した電子キーシステムの通信エリア形成装置の第1実施形態を図1〜図5に従って説明する。
【0020】
図1に示すように、車両1には、無線によりキー照合を行う電子キーシステムの一種として、電子キー2が車両1に近づくと自動でID(Identification)照合を実行するキー操作フリーシステム3が設けられている。このキー操作フリーシステム3には、実際のキー操作を行うことなくドア開閉の一連の操作過程の中でドアロックの施解錠が実行されるスマートエントリーシステムと、車内に設置されたプッシュ式のエンジンスイッチ4を押し操作するのみでエンジンを始動することが可能なワンプッシュエンジンスタートシステムとがある。なお、車両1が通信マスタに相当し、キー操作フリーシステム3が電子キーシステムに相当する。
【0021】
この場合、車両1には、電子キー2との間でID照合を実行するキー照合装置5と、ドアロック動作を管理するドアロック装置6と、エンジンの動作を管理するエンジン始動装置7とが設けられ、これらが車内バス8によって接続されている。キー照合装置5には、同装置5のコントロールユニットとして照合ECU(Electronic Control Unit)9が設けられている。照合ECU9のメモリ(図示略)には、車両1と組みをなす電子キー2のIDコードが登録されている。照合ECU9には、車両周囲及び車内にLF(Low Frequency)帯の電波を発信する車両発信機10と、UHF(Ultra High Frequency)帯の電波を受信する車両チューナ11とが接続されている。車両発信機10は、車両1の車幅方向中央位置に1つ設けられ、電子キー2に対するID返信要求としてリクエスト信号SrqをLF帯の電波により断続的に送信する。なお、車両発信機10が複数軸一体アンテナに相当する。
【0022】
電子キー2には、電子キー2の動作を統括制御する通信制御部12が設けられている。通信制御部12のメモリ(図示略)には、キー固有のIDとしてIDコードが登録されている。通信制御部12には、LF帯の電波を受信可能なLF受信機13と、UHF帯の電波を送信可能なUHF送信機14とが接続されている。電子キー2は、LF受信機13でリクエスト信号Srqを受信すると、IDコードを含むID信号SidをUHF送信機14によりUHF帯の電波で送信する。
【0023】
電子キー2が車外に位置する際、車両発信機10からリクエスト信号Srqが断続的に送信される。このとき、電子キー2がリクエスト信号Srqを受信すると、このリクエスト信号Srqに応答して、ID信号SidをUHF帯の電波で返信する。ID信号Sidには、電子キー2のIDコードが含まれている。照合ECU9は、ID信号Sidを車両チューナ11で受信して車外のスマート通信(車外通信)が確立すると、ID照合(スマート照合)として車外照合を実行する。そして、この車外照合が成立すると、ドアロック装置6によるドアロック施解錠が許可又は実行される。
【0024】
また、運転者が乗車したことが例えばカーテシスイッチ等により検出されると、このときも車両発信機10からリクエスト信号Srqの送信が開始される。このとき、電子キー2が車両発信機10のリクエスト信号Srqを受信して車内のスマート通信(車内通信)が確立すると、照合ECU9はID照合(スマート)として車内照合を実行する。そして、この車内照合が成立すると、エンジンスイッチ4(エンジン始動装置7)による電源遷移操作及びエンジン始動操作が許可される。
【0025】
図1〜図3に示すように、本例のキー操作フリーシステム3には、車両発信機10として2軸一体アンテナを使用し、同アンテナの各軸を個別送信又は同時送信させることにより、互いに指向性の異なる通信エリアを形成して、スマート照合を成立させる通信エリア形成装置15が設けられている。なお、2軸一体アンテナとは、図2に示すように、コイル軸L1,L2を互いに直交する向きに並べた一対のコイルバーアンテナ16a,16bを備えたアンテナのことを言う。通信エリア形成装置15は、これらアンテナ16a,16bから電波を個別送信又は同時送信させることで、互いに異なる向きの通信エリアを形成して、車外照合及び車内照合を実行させる。なお、コイルバーアンテナ16a,16bがアンテナ部材を構成し、コイル軸L1,L2が軸に相当する。
【0026】
図2及び図3に示すように、車両発信機10には、車両発信機10の電子部品の実装先として基板17が設けられ、この基板17上に一対のコイルバーアンテナ16a,16bが実装されている。車両発信機10は、コイル軸L1が車両幅方向に沿う向きをとる第1コイルバーアンテナ16aと、コイル軸L2が車両前後方向に沿う向きをとる第2コイルバーアンテナ16bとを備えている。コイルバーアンテナ16a,16bは、例えばフェライト等の磁性体にアンテナエレメントを複数巻回したアンテナである。コイルバーアンテナ16a,16bは、同一平面上に並び配置されるとともに、互いのコイル軸L1,L2が直交する向きで配置されている。コイル軸L1(L2)は、コイルバーアンテナ16a(16b)の各コイルが並ぶ方向の線、即ちコイル内部を通る磁界に沿う線であって、アンテナ軸に相当する。
【0027】
これらコイルバーアンテナ16a,16bの通信エリア(磁界エリア)は、アンテナ軸方向(長手方向)の磁界がその直角方向の磁界よりも大きく形成される。実際のところ、アンテナ軸方向の磁界は、アンテナ軸直交方向に対して約2倍の大きさで形成される。よって、これらコイルバーアンテナ16a,16bは、図3に示すように、楕円形状の通信エリアを形成し、結果、指向性がアンテナ軸方向を向いて形成される。
【0028】
ところで、図3に示すように、第1コイルバーアンテナ16aを単独送信させた際に形成される第1通信エリアE1と、第2コイルバーアンテナ16bを単独送信させた際に形成される第2通信エリアE2とは、指向性が互いに直交する向きに形成される。これは、コイルバーアンテナ16a,16bを、互いにアンテナ軸を直交する向きとして配置しているからである。
【0029】
また、第1コイルバーアンテナ16aと第2コイルバーアンテナ16bとを同相で同時送信させた際に形成される第3通信エリアE3は、第1通信エリアE1(第2通信エリアE2)に対して、位相が45度傾く、即ち指向性が45度異なる向きで形成される。一方、第1コイルバーアンテナ16aと第2コイルバーアンテナ16bとを逆相で同時送信させた際に形成される第4通信エリアE4は、同相での同時送信の際にできる第3通信エリアE3に対して、位相が90度傾く、即ち指向性が90度異なる向き向きで形成される。
【0030】
ところで、これら第1通信エリアE1〜第4通信エリアE4は、1つの通信エリアで見るとエリア外の箇所も、他の通信エリアではエリア内に含まれる相関関係が存在することが分かる。よって、これら第1通信エリアE1〜第4通信エリアE4を適宜使い分ければ、1つの通信エリアで見た場合はエリア外となってしまう箇所も、他の通信エリアで補完できる。このため、本例の通信エリア形成装置15は、車外照合及び車内照合で第1通信エリアE1〜第4通信エリアE4を使い分けることにより、車外通信エリア(室外通信エリア)と、車内通信エリア(室内通信エリア)とを形成する。
【0031】
本例の場合、第1コイルバーアンテナ16aが車幅方向に配置され、第2コイルバーアンテナ16bが車両前後方向に配置されるので、第1通信エリアE1は、車幅方向に長い楕円形状のエリアで形成され、第2通信エリアE2は、車両前後方向に長い楕円形状のエリアで形成される。ここでは、車幅方向にエリア形成する第1通信エリアE1を車外通信エリアとして使用する。また、第3通信エリアE3及び第4通信エリアは、第1通信エリアE1又は第2通信エリアE2に対して指向性が45度傾く向き、即ち車体の対角線に沿う向きのエリアで形成される。ここでは、通信エリアE2〜E4を車内通信エリアとして使用する。
【0032】
照合ECU9には、車外照合時において車両周囲に車外通信エリアを形成する車外通信エリア形成部18が設けられている。車外通信エリア形成部18は、最初に第1コイルバーアンテナ16aを単独送信させて車両周囲に第1通信エリアE1を形成し、続いて2つのコイルバーアンテナ16a,16bを同相で同時送信させて車両周囲に第3通信エリアE3を形成し、最後に2つのコイルバーアンテナ16a,16bを逆相で同時送信させて車両周囲に第4通信エリアE4を形成する。これにより、車両周囲には、第1通信エリアE1と第3通信エリアE3と第4通信エリアE4との3エリアに跨る大きなエリアが車外通信エリアとして形成され、この車外通信エリアに電子キー2が位置すると、車外照合が実行される。なお、車外通信エリア形成部18が送信実行手段を構成する。
【0033】
照合ECU9には、車内照合時において車両1に車内通信エリアを形成する車内通信エリア形成部19が設けられている。車内通信エリア形成部19は、車内照合の際、2つのコイルバーアンテナ16a,16bのうち第2コイルバーアンテナ16bのみを単独送信させ、車内に第2通信エリアE2を形成する。これにより、車内には、第2通信エリアE2が車内エリアとして形成され、この車内通信エリアに電子キー2が位置すると、車内照合が実行される。なお、車内通信エリア形成部19が送信実行手段を構成する。
【0034】
図4に示すように、第1コイルバーアンテナ16aには、コイル20と、コンデンサ21と、第1アンテナ駆動回路22とが設けられている。コイル20及びコンデンサ21は、第1コイルバーアンテナ16aの直列共振回路として形成され、第1アンテナ駆動回路22により駆動される。また、第2コイルバーアンテナ16bには、コイル23と、コンデンサ24と、第2アンテナ駆動回路25とが設けられている。コイル23及びコンデンサ24は、第2コイルバーアンテナ16bの直列共振回路として形成され、第2アンテナ駆動回路25により駆動される。
【0035】
また、照合ECU9には、車両発信機10に送信データDを生成出力する送信波形発生回路26が設けられている。送信波形発生回路26は、第1スイッチ27を介して第1コイルバーアンテナ16aに接続されるとともに、反転回路28及び第2スイッチ29を介して第2コイルバーアンテナ16bに接続されている。反転回路28には、入力信号を位相反転して出力するインバータ30と、1回路2接点スイッチからなる第3スイッチ31が設けられている。第3スイッチ31は、第2コイルバーアンテナ16bを送信波形発生回路26に直に接続するのか、或いはインバータ30を介して接続するのかを決めるスイッチである。
【0036】
第1コイルバーアンテナ16aを単独送信させる際、第1スイッチ27がオンされ、第2スイッチ29がオフされ、第3スイッチ31がa接点31aに接続される。これにより、送信波形発生回路26からの送信データDが第1コイルバーアンテナ16aにのみ流れ、第1コイルバーアンテナ16aのみから電波が送信される。また、第2コイルバーアンテナ16bを単独送信させる際、第1スイッチ27がオフされ、第2スイッチ29がオンされ、第3スイッチ31がa接点31aに接続される。これにより、送信波形発生回路26からの送信データDが第2コイルバーアンテナ16bにのみ流れ、第2コイルバーアンテナ16bのみから電波が送信される。
【0037】
第1コイルバーアンテナ16a及び第2コイルバーアンテナ16bから電波を同相で同時送信する際、第1スイッチ27及び第2スイッチ29がともにオンされるとともに、第3スイッチ31がa接点31aに接続される。これにより、送信波形発生回路26からの送信データDが、第1コイルバーアンテナ16a及び第2コイルバーアンテナ16bにともに同相で流れ、これらコイルバーアンテナ16a,16bから電波が同相に同時送信される。
【0038】
第1コイルバーアンテナ16a及び第2コイルバーアンテナ16bから電波を逆相で同時送信する際、第1スイッチ27及び第2スイッチ29がともにオンされるとともに、第3スイッチ31がb接点31bに接続される。よって、第2コイルバーアンテナ16bは、インバータ30を介して送信波形発生回路26と接続される。このため、送信波形発生回路26の送信データDは、第1コイルバーアンテナ16aにそのまま流れ込むものの、第2コイルバーアンテナ16bには位相が反転した状態で流れる。よって、第1コイルバーアンテナ16a及び第2コイルバーアンテナ16bから電波が逆相に同時送信される。
【0039】
次に、本例の通信エリア形成装置15の動作を図5に従って説明する。
車両1が駐車状態の際、車外通信エリア形成部18は、車両1に接近する電子キー2の有無を確認するために、図5(a)に示すように車外通信エリアを断続的に形成する。このとき、車外通信エリア形成部18は、第1コイルバーアンテナ16aのみからリクエスト信号Srqを単独送信させ、続いて2つのコイルバーアンテナ16a,16bからリクエスト信号Srqを同相で同時送信させ、続いて2つのコイルバーアンテナ16a,16bからリクエスト信号Srqを逆相で同時送信させ、この一連の送信動作を、所定間隔をおいて繰り返し実行する。これにより、車両周囲には、第1通信エリアE1、第3通信エリアE3及び第4通信エリアE4が順に形成され、車外通信エリアが広範囲に亘って形成される。
【0040】
第1通信エリアE1、第3通信エリアE3及び第4通信エリアE4のどれかに電子キー2が進入すると、電子キー2はリクエスト信号Srqを受信して、ID信号Sidを車両1に返信する。照合ECU9は、車外通信の下でID信号Sidを車両チューナ11で受信すると、車外通信が確立したと認識して、受信したID信号SidのIDコードでID照合、即ち車外照合を実行する。照合ECU9は、車外照合が成立することを確認すると、以降の通信エリア形成を停止するとともに、ドアロック装置6による解錠操作を許可する。よって、車外ドアハンドルノブがタッチ操作されると、ドアロックが解錠される。
【0041】
運転者が乗車したことを例えばカーテシスイッチ等により検出すると、車内通信エリア形成部19は、車内において電子キー2の有無を確認するために、今度は図5(b)に示すように車内通信エリアを断続的に形成する。このとき、車内通信エリア形成部19は、第2コイルバーアンテナ16bのみからリクエスト信号Srqを単独送信させ、この送信動作を、所定間隔をおいて繰り返し実行する。これにより、車内には、第3通信エリアE3が断続的に形成され、車内通信エリアが車内全域に亘り形成される。
【0042】
第2通信エリアE2に電子キー2が進入すると、電子キー2はリクエスト信号Srqを受信して、ID信号Sidを車両1に返信する。照合ECU9は、車内通信の下でID信号Sidを車両チューナ11で受信すると、車内通信が確立したと認識して、受信したID信号SidのIDコードでID照合、即ち車内照合を実行する。照合ECU9は、車内照合が成立することを確認すると、エンジンスイッチ4によるエンジン始動操作及び電源遷移操作を許可する。
【0043】
運転終了後に運転者が降車して、車外ドアハンドルノブのロックボタンが押し操作されると、車外照合が成立するか否かを確認する動作を実行するが、まずは先に、車内照合を実行して、車内に電子キー2が置き忘れていないかを確認する。このとき、車内通信エリア形成部19は、第2コイルバーアンテナ16bのみを単独送信して車内通信エリアを形成し、車内照合が不成立となれば、車内に電子キー2が置き忘れていないと認識する。
【0044】
車内に電子キー2が置き忘れていないことが確認できれば、今度は車外照合に移行する。このとき、車外通信エリア形成部18は、ドアロック解錠時と同様に、第1通信エリアE1、第3通信エリアE3及び第4通信エリアE4を順に形成して、車両周囲に車外通信エリアを形成する。そして、照合ECU9は、この車外通信エリアに位置する電子キー2からID信号Sidを取得して、同ID信号SidでID照合、即ち車外照合が成立することを確認すると、ドアロック装置6にドアロックを施錠させる。
【0045】
従って、本例の場合、車両発信機10を2軸一体アンテナとしたので、車両1側は、1つのアンテナで車外照合と車内照合との両方を実行することが可能となる。このため、車両1に用意する送信アンテナを1つのみで済ませられるので、車両1のアンテナ数を少なく抑えることが可能となる。また、2軸一体アンテナを単独送信又は同時送信させて、互いに異なる指向性の通信エリアを形成することにより、車外通信エリア及び車内通信エリアを形成するので、ヌル点の少ない通信エリアが形成可能となる。よって、ヌル点が補完された通信エリアが形成されるので、スマート通信の通信成立性も確保することが可能となる。
【0046】
本実施形態の構成によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
(1)部品としては1部品の2軸一体アンテナを車両発信機10としたので、車両1に設置する送信アンテナを1つに削減することができる。また、2軸一体アンテナのコイルバーアンテナ16a,16bを各々単独送信させるとともに、これらコイルバーアンテナ16a,16bを同時送信させることにより、互いに指向性の異なる通信エリアE1〜E4を形成してスマート通信を実行する。よって、スマート通信に必要な車両通信エリアも問題なく形成可能となるので、スマート通信の通信成立性も今までと同様に確保することもできる。
【0047】
(2)2つのコイルバーアンテナ16a,16bを同時送信させて車外通信エリアを形成する際、これらコイルバーアンテナ16a,16bを同相と逆相との両方で同時送信させる。このため、互いに向きが90度傾く指向性の通信エリアE3,E4を形成して、これらエリアE3,E4も車外通信エリアとすることができる。よって、車外通信エリアの形状に多様性を持たせることが可能となるので、スマート通信の通信成立性を一層確保することができる。
【0048】
(3)2軸一体アンテナで車外通信エリアと車内通信エリアを形成して、電子キー2の位置を車内外判定するので、電子キー2が車外及び車内のどちらに位置するのかを、より精度よく判定することができる。
【0049】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態を図6〜図8に従って説明する。なお、本例は、2軸一体アンテナの各コイルバーアンテナ16a,16bの送信強度を可変とした点が第1実施形態と異なるのみである。よって、第1実施形態と同一部分に関しては同一符号を付して詳しい説明を省略し、異なる部分についてのみ詳述する。
【0050】
図6に示すように、照合ECU9には、通信エリアE1〜E4を異なる送信強度で形成させる送信強度切換部40が設けられている。送信強度切換部40は、車両発信機10が通信エリアE1〜E4を形成する際の送信強度を異なる値とすることにより、各通信エリアE1〜E4の大きさを設定する。本例の場合、図7に示すように、第1通信エリアE1が強送信強度により大きめのエリアで車外通信エリアとして形成され、第2通信エリアE2〜第4通信エリアE4が弱送信強度により小さめのエリアで車内通信エリアとして形成されている。なお、送信強度切換部40が通信エリア変更手段に相当する。
【0051】
さて、車両1が駐車状態の際には、図8(a)に示すように、第1コイルバーアンテナ16aのみからリクエスト信号Srqが単独送信されて、車両周囲に第1通信エリアE1が車外通信エリアとして形成される。このとき、送信強度切換部40は、強送信強度で第1通信エリアE1を形成する。よって、車両周囲には、広範囲に亘って第1通信エリアE1、即ち車外通信エリアが形成される。そして、この車外通信エリアに電子キー2が進入して車外照合が成立すると、ドアロック解錠が許可される。
【0052】
また、運転者が乗車すると、今度は図8(b)に示すように、車内に車内通信エリアが形成される。このとき、第2コイルバーアンテナ16bの単独送信と、コイルバーアンテナ16a,16bの同相同期送信と、逆相同期送信とが順に実行され、車内には第2通信エリアE2と第3通信エリアE3と第4通信エリアE4とが順に形成される。本例の場合、送信強度切換部40は、弱送信強度でこれら通信エリアE2〜E4を形成する。このため、これら通信エリアE2〜E4が車内にのみ形成され、結果、これが車内通信エリアとなる。
【0053】
ここで、第2通信エリアE2を見た場合、同エリアE2は、見かけ上、楕円形状のエリアとなっているので、円先端付近にヌル点が生じる。しかし、第2通信エリアE2のヌル点は、第3通信エリアE3及び第4通信エリアE4の通信範囲に含まれるので、第2通信エリアE2のヌル点が第3通信エリアE3及び第4通信エリアE4によって補完されることが分かる。このため、弱送信強度の第2通信エリアE2〜第4通信エリアE4で車内通信エリアを形成すると、車内全域が確実にカバーされたエリアが形成される。そして、この車内通信エリアに電子キー2が進入して車内照合が成立すると、エンジン始動操作及び電源遷移操作が許可される。
【0054】
従って、本例においては、車両発信機10が単独送信又は同時送信する際の送信強度を切り換えて、車外通信エリアと車内通信エリアとを形成するので、これら通信エリアを、より細分化して設定することが可能となる。よって、本例のように、車内通信エリアのヌル点を補完してエリア形成することも可能となるので、スマート通信の通信成立性を一層向上することが可能となる。
【0055】
本実施形態の構成によれば、第1実施形態に記載の(1)〜(3)の効果に加えて、以下の効果を得ることができる。
(4)車外通信と車外通信とでコイルバーアンテナ16a,16bの送信強度を変えて、リクエスト信号Srqを送信可能とした。このため、通信エリアE1〜E2を単なる一定範囲のエリアとして形成するのではなく、それぞれ車両1に見合った範囲の通信エリアE1〜E4として形成するので、好適な範囲の通信エリアE1〜E4を適宜形成することができる。
【0056】
(5)第1通信エリアE1(即ち、車外通信エリア)を形成するときよりも、送信強度を低く抑えてコイルバーアンテナ16a,16bから電波送信させて、第1通信エリアE1よりもサイズの小さい第2通信エリアE2〜第4通信エリアE4を車内通信エリアとして形成する。よって、ヌル点を補完した車内通信エリアを形成することが可能となるので、車内照合の通信成立性を一層向上することができる。
【0057】
なお、実施形態はこれまでに述べた構成に限らず、以下の態様に変更してもよい。
・第1及び第2実施形態において、複数軸一体アンテナは、2つのコイルバーアンテナ16a,16bを持つ2軸一体アンテナに限定されない。例えば、アンテナ部品を3つ設けて、3軸(X軸、Y軸、Z軸)対応のアンテナとしてもよい。
【0058】
・第1及び第2実施形態において、2軸一体アンテナのコイルバーアンテナ16a,16bは、コイル軸L1,L2が互いに直交する向きに配置されることに限定されず、直交以外の角度をとってもよい。
【0059】
・第1及び第2実施形態において、車両発信機10のアンテナ部材は、コイルバーアンテナ16a,16bに限らず、例えばループアンテナやダイポールアンテナとしてもよい。
【0060】
・第1及び第2実施形態において、同時送信は、例えば3つ以上のアンテナ部材が存在する場合、これらの中の2つが同時に電波を送信する動作としてもよい。
・第1実施形態において、第1通信エリアE1を車外通信エリアとし、第2通信エリアE2は省略して、第3通信エリアE3及び第4通信エリアE4を車内通信エリアとしてもよい。
【0061】
・第1及び第2実施形態において、どのような通信エリア(エリアの大きさや数)を形成して、キー位置をどのように判定するのかは、自由に設定可能である。
・第1及び第2実施形態において、コイルバーアンテナ16a,16bを同時送信させる際、同相送信と逆相送信との両方を必ず実行することに限らず、一方のみ行うものでもよい。
【0062】
・第1及び第2実施形態において、リクエスト信号Srqは、ID返信要求に限らず、電子キー2に応答を求める信号であればよい。
・第1及び第2実施形態において、電子キー2は、車両キーに限定されず、種々の端末(携帯電話、ICカード等)が使用可能である。また、電子キー2は、必ずしもキー機能を持つものに限らず、広義として認証行為が必要な通信端末(認証端末)を広く含むものとする。
【0063】
・第1及び第2実施形態において、キー操作フリーシステム3は、相互通信の往路と復路とで周波数が異なることに限定されず、同じ周波数としてもよい。また、キー操作フリーシステム3の通信周波数は、LFやUHFに限らず、例えばHF(High Frequency)等の他の周波数を使用してもよい。
【0064】
・第1及び第2実施形態において、スマート通信の過程で車両1から電子キー2の電力電波を送信し、この電力電波により電子キー2を駆動させることで、電子キー2を電池レスとしてもよい。
【0065】
・第1及び第2実施形態において、電子キーシステムは、キー操作フリーシステム3に限定されず、車両1と電子キー2とが相互無線通信によりID照合を行うものであればよい。
【0066】
・第1及び第2実施形態において、キー操作フリーシステム3は、車両1に搭載されることに限らず、他の機器や装置に採用可能である。
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに以下に追記する。
【0067】
(イ)請求項1〜4のいずれかにおいて、前記送信実行手段は、前記通信エリアを複数形成して前記電子キーとID照合を行う際、当該ID照合の成立を確認した時点で、以降の通信エリア形成を停止する。この構成によれば、無駄な通信エリア形成を行わずに済むので、通信マスタの電源を省電力化することが可能となる。
【符号の説明】
【0068】
1…通信マスタとしての車両、2…電子キー、3…電子キーシステムとしてのキー操作フリーシステム、10…複数軸一体アンテナとしての車両発信機、15…通信エリア形成装置、16a…アンテナ部材を構成する第1コイルバーアンテナ、16b…アンテナ部材を構成する第2コイルバーアンテナ、18…送信実行手段を構成する車外通信エリア形成部、19…送信実行手段を構成する車内通信エリア形成部、40…通信エリア変更手段としての送信強度切換部、L1,L2…軸としてのコイル軸、E1…通信エリアを構成する第1通信エリア、E2…通信エリアを構成する第2通信エリア、E3…通信エリアを構成する第3通信エリア、E4…通信エリアを構成する第4通信エリア。
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信マスタからID返信要求の通信エリアを形成し、このID返信要求に応答して電子キーが返信してきたIDコードによりID照合を実行する電子キーシステムの通信エリア形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両キーとしての電子キーから無線によりIDコードを車両に送信してID照合を実行する電子キーシステムが広く使用されている。この電子キーシステムには、車両からIDコード返信要求としてリクエストを送信し、このリクエストに応答して電子キーが返信してきたIDコードによりID照合を行うキー操作スマートシステムがある。キー操作フリーシステムには、車外でID照合が成立すると、ドアロック施解錠が許可又は実行されるスマートエントリーシステムと、車内でID照合が成立すると、車内のエンジンスイッチの単なる押し操作のみでエンジン始動が可能となるワンプッシュエンジンスタートシステムとがある。
【0003】
この電子キーシステムの一種には、図9に示すように、車両80の運転席ドア81側(車体右側)にアンテナ83を配置し、助手席ドア82側(車体左側)にアンテナ84を設置し、これらアンテナ83,84からの送信電波に対して電子キー85が返してきた応答の論理判定によってキー位置を判定する技術(特許文献1,2等)が考案されている。この論理判定キー位置検出方式は、車体右側に設置された運転席アンテナ83と、車体左側に設置された助手席アンテナ84とから順にリクエストを送信して、運転席アンテナエリア86と助手席アンテナエリア87とを順に形成し、これらリクエストに対して電子キー85が返信するIDコード、即ち応答の論理判定によってキー位置を判定する。
【0004】
例えば、運転席アンテナ83のリクエストに対して電子キー85からの応答があり、助手席アンテナ84のリクエストに対して電子キー85から応答がないと、電子キー85が車外に位置すると判定する。また、運転席アンテナ83のリクエストに対して電子キー85からの応答がなく、助手席アンテナ84からのリクエストに対して電子キー85の応答があれば、電子キー85が車外に位置すると判定する。さらに、運転席アンテナ83のリクエストと助手席アンテナ84のリクエストとに対して両方とも応答があれば、電子キー85が車内に位置していると判定する。
【0005】
図9に示す論理判定キー位置検出方式は、車体右側と車体左側とに設けた一対のアンテナで車外と車内との両方の位置を見ることができる。よって、論理判定キー位置検出方式は、例えば車外アンテナとして各ドアにアンテナを設置しつつ、更に車内アンテナとして車内に複数のアンテナを設置して電子キーの位置を検出する場合に比べて、アンテナを車体の左右にのみ設置すればよい分だけ、アンテナ本数を少なく抑えることができる利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−84406号公報
【特許文献2】特開2005−76329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、論理判定キー位置検出方式は、運転席側と助手席側とにアンテナを各々配置しなくてはならないので、アンテナ本数を削減したい要望があった。また、例えば図10に示すように、電子キー2が車内運転席側の角位置88に位置した際、この角位置88には、運転席アンテナエリア86しか届かない。よって、位置判定結果としては、両方のアンテナ83,84に反応しないことになるので、電子キー2が車内にあるにも拘らず、車内と判定できないヌル点となってしまう。このため、電子キー2の位置を誤判定してしまう問題があった。
【0008】
本発明の目的は、通信マスタのアンテナ数を削減でき、しかも電子キーの位置検出精度も確保することができる電子キーシステムの通信エリア形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記問題点を解決するために、本発明では、通信マスタからのID返信要求に応答して電子キーが返信してきたIDコードによりID照合を行う電子キーシステムの通信エリア形成装置において、前記通信マスタの送信アンテナとして形成され、軸方向が異なる向きに配置された少なくとも2つのアンテナ部材が設けられた複数軸一体アンテナと、複数の前記アンテナ部材から各々個別に電波を単独送信させるとともに、前記アンテナ部材の複数から電波を同時送信させることにより、互いに指向性の異なる通信エリアを形成して、前記電子キーとの前記ID照合を実行させる送信実行手段とを備えたことを要旨とする。
【0010】
この構成によれば、複数軸一体アンテナの各軸を単独送信又は同時送信させることにより、通信マスタに種々の通信エリアを形成して、電子キーとの間の通信を実行する。このため、通信マスタに種々の通信エリアを形成して電子キーとのID照合を実行する形式をとる場合であっても、通信マスタに設置するアンテナが複数軸一体アンテナの1つで済むので、通信マスタ側のアンテナ本数を少なく抑えることが可能となる。また、複数軸一体アンテナの各軸を単独送信させた際と、これら軸を同時送信させた際とでは、互いに指向性が異なる通信エリアが形成される。このため、例えば単独送信時の通信エリアではヌル点となってしまう箇所も、同時送信時の通信エリアで補完することが可能となるので、通信成立性を確保することも可能となる。
【0011】
本発明では、前記送信実行手段は、複数の前記アンテナ部材を同時送信させる際、当該アンテナ部材を同相で同時送信させるとともに、当該アンテナ部材を逆相で同時送信させることにより、指向性が互いに直交する通信エリアを形成することを要旨とする。
【0012】
この構成によれば、同時送信を同相と逆相とで実行するので、同時送信においても、互いに指向性の異なる通信エリアを形成することが可能となる。よって、通信エリアの形状に多様性を持たせることが可能となるので、通信成立性を一層確保することが可能となる。
【0013】
本発明では、前記送信実行手段は、前記通信エリアとして室外通信エリア及び室内通信エリアを形成し、前記ID照合が前記室外通信エリア及び前記室内通信エリアのどちらで成立するのかを確認することにより、前記電子キーが室外及び室内のどちらに位置するのかを判定することを要旨とする。
【0014】
この構成によれば、通信エリアとして室外通信エリア及び室内通信エリアを形成して、電子キーの位置を室内外判定するので、電子キーが室外及び室内のどちらに位置するのかを、より精度よく判定することが可能となる。
【0015】
本発明では、前記アンテナ部材が前記通信エリアを形成する際、該アンテナ部材の送信強度を変更することにより、前記通信アンテナの大きさを切り換える通信エリア変更手段を備えたことを要旨とする。
【0016】
この構成によれば、2軸一体アンテナの送信強度を変更することにより、大きさを変えて通信エリアを形成可能としたので、例えば全ての通信エリアが送信強度一定下で形成される場合と比較して、好適な範囲の通信エリアを形成することが可能となる。よって、通信マスタの部品配置や形状等に見合った好適な通信エリアが形成されるので、通信成立性をより一層確保することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、通信マスタのアンテナ数を削減でき、しかも電子キーの位置検出精度も確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1実施形態における通信エリア形成装置の概略構成を示す構成図。
【図2】2軸一体アンテナの部品構成を示す構成図。
【図3】2軸一体アンテナが放射する電波イメージを示す概念図。
【図4】車外通信エリアに電子キーが位置した状態を示す概念図。
【図5】(a)は車外通信エリアに電子キーが位置した状態を示す概念図、(b)は車内通信エリアに電子キーが位置した状態を示す概念図。
【図6】第2実施形態における通信エリア形成装置の概略構成を示す構成図。
【図7】車外通信エリアに電子キーが位置した状態を示す概念図。
【図8】(a)は電子キーが車外にあるときの概念図、(b)は電子キーが車内にあるときの概念図。
【図9】従来における電子キーシステムの概略構成を示す模式図。
【図10】車内のヌル点に電子キーが位置した状態を示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1実施形態)
以下、本発明を具体化した電子キーシステムの通信エリア形成装置の第1実施形態を図1〜図5に従って説明する。
【0020】
図1に示すように、車両1には、無線によりキー照合を行う電子キーシステムの一種として、電子キー2が車両1に近づくと自動でID(Identification)照合を実行するキー操作フリーシステム3が設けられている。このキー操作フリーシステム3には、実際のキー操作を行うことなくドア開閉の一連の操作過程の中でドアロックの施解錠が実行されるスマートエントリーシステムと、車内に設置されたプッシュ式のエンジンスイッチ4を押し操作するのみでエンジンを始動することが可能なワンプッシュエンジンスタートシステムとがある。なお、車両1が通信マスタに相当し、キー操作フリーシステム3が電子キーシステムに相当する。
【0021】
この場合、車両1には、電子キー2との間でID照合を実行するキー照合装置5と、ドアロック動作を管理するドアロック装置6と、エンジンの動作を管理するエンジン始動装置7とが設けられ、これらが車内バス8によって接続されている。キー照合装置5には、同装置5のコントロールユニットとして照合ECU(Electronic Control Unit)9が設けられている。照合ECU9のメモリ(図示略)には、車両1と組みをなす電子キー2のIDコードが登録されている。照合ECU9には、車両周囲及び車内にLF(Low Frequency)帯の電波を発信する車両発信機10と、UHF(Ultra High Frequency)帯の電波を受信する車両チューナ11とが接続されている。車両発信機10は、車両1の車幅方向中央位置に1つ設けられ、電子キー2に対するID返信要求としてリクエスト信号SrqをLF帯の電波により断続的に送信する。なお、車両発信機10が複数軸一体アンテナに相当する。
【0022】
電子キー2には、電子キー2の動作を統括制御する通信制御部12が設けられている。通信制御部12のメモリ(図示略)には、キー固有のIDとしてIDコードが登録されている。通信制御部12には、LF帯の電波を受信可能なLF受信機13と、UHF帯の電波を送信可能なUHF送信機14とが接続されている。電子キー2は、LF受信機13でリクエスト信号Srqを受信すると、IDコードを含むID信号SidをUHF送信機14によりUHF帯の電波で送信する。
【0023】
電子キー2が車外に位置する際、車両発信機10からリクエスト信号Srqが断続的に送信される。このとき、電子キー2がリクエスト信号Srqを受信すると、このリクエスト信号Srqに応答して、ID信号SidをUHF帯の電波で返信する。ID信号Sidには、電子キー2のIDコードが含まれている。照合ECU9は、ID信号Sidを車両チューナ11で受信して車外のスマート通信(車外通信)が確立すると、ID照合(スマート照合)として車外照合を実行する。そして、この車外照合が成立すると、ドアロック装置6によるドアロック施解錠が許可又は実行される。
【0024】
また、運転者が乗車したことが例えばカーテシスイッチ等により検出されると、このときも車両発信機10からリクエスト信号Srqの送信が開始される。このとき、電子キー2が車両発信機10のリクエスト信号Srqを受信して車内のスマート通信(車内通信)が確立すると、照合ECU9はID照合(スマート)として車内照合を実行する。そして、この車内照合が成立すると、エンジンスイッチ4(エンジン始動装置7)による電源遷移操作及びエンジン始動操作が許可される。
【0025】
図1〜図3に示すように、本例のキー操作フリーシステム3には、車両発信機10として2軸一体アンテナを使用し、同アンテナの各軸を個別送信又は同時送信させることにより、互いに指向性の異なる通信エリアを形成して、スマート照合を成立させる通信エリア形成装置15が設けられている。なお、2軸一体アンテナとは、図2に示すように、コイル軸L1,L2を互いに直交する向きに並べた一対のコイルバーアンテナ16a,16bを備えたアンテナのことを言う。通信エリア形成装置15は、これらアンテナ16a,16bから電波を個別送信又は同時送信させることで、互いに異なる向きの通信エリアを形成して、車外照合及び車内照合を実行させる。なお、コイルバーアンテナ16a,16bがアンテナ部材を構成し、コイル軸L1,L2が軸に相当する。
【0026】
図2及び図3に示すように、車両発信機10には、車両発信機10の電子部品の実装先として基板17が設けられ、この基板17上に一対のコイルバーアンテナ16a,16bが実装されている。車両発信機10は、コイル軸L1が車両幅方向に沿う向きをとる第1コイルバーアンテナ16aと、コイル軸L2が車両前後方向に沿う向きをとる第2コイルバーアンテナ16bとを備えている。コイルバーアンテナ16a,16bは、例えばフェライト等の磁性体にアンテナエレメントを複数巻回したアンテナである。コイルバーアンテナ16a,16bは、同一平面上に並び配置されるとともに、互いのコイル軸L1,L2が直交する向きで配置されている。コイル軸L1(L2)は、コイルバーアンテナ16a(16b)の各コイルが並ぶ方向の線、即ちコイル内部を通る磁界に沿う線であって、アンテナ軸に相当する。
【0027】
これらコイルバーアンテナ16a,16bの通信エリア(磁界エリア)は、アンテナ軸方向(長手方向)の磁界がその直角方向の磁界よりも大きく形成される。実際のところ、アンテナ軸方向の磁界は、アンテナ軸直交方向に対して約2倍の大きさで形成される。よって、これらコイルバーアンテナ16a,16bは、図3に示すように、楕円形状の通信エリアを形成し、結果、指向性がアンテナ軸方向を向いて形成される。
【0028】
ところで、図3に示すように、第1コイルバーアンテナ16aを単独送信させた際に形成される第1通信エリアE1と、第2コイルバーアンテナ16bを単独送信させた際に形成される第2通信エリアE2とは、指向性が互いに直交する向きに形成される。これは、コイルバーアンテナ16a,16bを、互いにアンテナ軸を直交する向きとして配置しているからである。
【0029】
また、第1コイルバーアンテナ16aと第2コイルバーアンテナ16bとを同相で同時送信させた際に形成される第3通信エリアE3は、第1通信エリアE1(第2通信エリアE2)に対して、位相が45度傾く、即ち指向性が45度異なる向きで形成される。一方、第1コイルバーアンテナ16aと第2コイルバーアンテナ16bとを逆相で同時送信させた際に形成される第4通信エリアE4は、同相での同時送信の際にできる第3通信エリアE3に対して、位相が90度傾く、即ち指向性が90度異なる向き向きで形成される。
【0030】
ところで、これら第1通信エリアE1〜第4通信エリアE4は、1つの通信エリアで見るとエリア外の箇所も、他の通信エリアではエリア内に含まれる相関関係が存在することが分かる。よって、これら第1通信エリアE1〜第4通信エリアE4を適宜使い分ければ、1つの通信エリアで見た場合はエリア外となってしまう箇所も、他の通信エリアで補完できる。このため、本例の通信エリア形成装置15は、車外照合及び車内照合で第1通信エリアE1〜第4通信エリアE4を使い分けることにより、車外通信エリア(室外通信エリア)と、車内通信エリア(室内通信エリア)とを形成する。
【0031】
本例の場合、第1コイルバーアンテナ16aが車幅方向に配置され、第2コイルバーアンテナ16bが車両前後方向に配置されるので、第1通信エリアE1は、車幅方向に長い楕円形状のエリアで形成され、第2通信エリアE2は、車両前後方向に長い楕円形状のエリアで形成される。ここでは、車幅方向にエリア形成する第1通信エリアE1を車外通信エリアとして使用する。また、第3通信エリアE3及び第4通信エリアは、第1通信エリアE1又は第2通信エリアE2に対して指向性が45度傾く向き、即ち車体の対角線に沿う向きのエリアで形成される。ここでは、通信エリアE2〜E4を車内通信エリアとして使用する。
【0032】
照合ECU9には、車外照合時において車両周囲に車外通信エリアを形成する車外通信エリア形成部18が設けられている。車外通信エリア形成部18は、最初に第1コイルバーアンテナ16aを単独送信させて車両周囲に第1通信エリアE1を形成し、続いて2つのコイルバーアンテナ16a,16bを同相で同時送信させて車両周囲に第3通信エリアE3を形成し、最後に2つのコイルバーアンテナ16a,16bを逆相で同時送信させて車両周囲に第4通信エリアE4を形成する。これにより、車両周囲には、第1通信エリアE1と第3通信エリアE3と第4通信エリアE4との3エリアに跨る大きなエリアが車外通信エリアとして形成され、この車外通信エリアに電子キー2が位置すると、車外照合が実行される。なお、車外通信エリア形成部18が送信実行手段を構成する。
【0033】
照合ECU9には、車内照合時において車両1に車内通信エリアを形成する車内通信エリア形成部19が設けられている。車内通信エリア形成部19は、車内照合の際、2つのコイルバーアンテナ16a,16bのうち第2コイルバーアンテナ16bのみを単独送信させ、車内に第2通信エリアE2を形成する。これにより、車内には、第2通信エリアE2が車内エリアとして形成され、この車内通信エリアに電子キー2が位置すると、車内照合が実行される。なお、車内通信エリア形成部19が送信実行手段を構成する。
【0034】
図4に示すように、第1コイルバーアンテナ16aには、コイル20と、コンデンサ21と、第1アンテナ駆動回路22とが設けられている。コイル20及びコンデンサ21は、第1コイルバーアンテナ16aの直列共振回路として形成され、第1アンテナ駆動回路22により駆動される。また、第2コイルバーアンテナ16bには、コイル23と、コンデンサ24と、第2アンテナ駆動回路25とが設けられている。コイル23及びコンデンサ24は、第2コイルバーアンテナ16bの直列共振回路として形成され、第2アンテナ駆動回路25により駆動される。
【0035】
また、照合ECU9には、車両発信機10に送信データDを生成出力する送信波形発生回路26が設けられている。送信波形発生回路26は、第1スイッチ27を介して第1コイルバーアンテナ16aに接続されるとともに、反転回路28及び第2スイッチ29を介して第2コイルバーアンテナ16bに接続されている。反転回路28には、入力信号を位相反転して出力するインバータ30と、1回路2接点スイッチからなる第3スイッチ31が設けられている。第3スイッチ31は、第2コイルバーアンテナ16bを送信波形発生回路26に直に接続するのか、或いはインバータ30を介して接続するのかを決めるスイッチである。
【0036】
第1コイルバーアンテナ16aを単独送信させる際、第1スイッチ27がオンされ、第2スイッチ29がオフされ、第3スイッチ31がa接点31aに接続される。これにより、送信波形発生回路26からの送信データDが第1コイルバーアンテナ16aにのみ流れ、第1コイルバーアンテナ16aのみから電波が送信される。また、第2コイルバーアンテナ16bを単独送信させる際、第1スイッチ27がオフされ、第2スイッチ29がオンされ、第3スイッチ31がa接点31aに接続される。これにより、送信波形発生回路26からの送信データDが第2コイルバーアンテナ16bにのみ流れ、第2コイルバーアンテナ16bのみから電波が送信される。
【0037】
第1コイルバーアンテナ16a及び第2コイルバーアンテナ16bから電波を同相で同時送信する際、第1スイッチ27及び第2スイッチ29がともにオンされるとともに、第3スイッチ31がa接点31aに接続される。これにより、送信波形発生回路26からの送信データDが、第1コイルバーアンテナ16a及び第2コイルバーアンテナ16bにともに同相で流れ、これらコイルバーアンテナ16a,16bから電波が同相に同時送信される。
【0038】
第1コイルバーアンテナ16a及び第2コイルバーアンテナ16bから電波を逆相で同時送信する際、第1スイッチ27及び第2スイッチ29がともにオンされるとともに、第3スイッチ31がb接点31bに接続される。よって、第2コイルバーアンテナ16bは、インバータ30を介して送信波形発生回路26と接続される。このため、送信波形発生回路26の送信データDは、第1コイルバーアンテナ16aにそのまま流れ込むものの、第2コイルバーアンテナ16bには位相が反転した状態で流れる。よって、第1コイルバーアンテナ16a及び第2コイルバーアンテナ16bから電波が逆相に同時送信される。
【0039】
次に、本例の通信エリア形成装置15の動作を図5に従って説明する。
車両1が駐車状態の際、車外通信エリア形成部18は、車両1に接近する電子キー2の有無を確認するために、図5(a)に示すように車外通信エリアを断続的に形成する。このとき、車外通信エリア形成部18は、第1コイルバーアンテナ16aのみからリクエスト信号Srqを単独送信させ、続いて2つのコイルバーアンテナ16a,16bからリクエスト信号Srqを同相で同時送信させ、続いて2つのコイルバーアンテナ16a,16bからリクエスト信号Srqを逆相で同時送信させ、この一連の送信動作を、所定間隔をおいて繰り返し実行する。これにより、車両周囲には、第1通信エリアE1、第3通信エリアE3及び第4通信エリアE4が順に形成され、車外通信エリアが広範囲に亘って形成される。
【0040】
第1通信エリアE1、第3通信エリアE3及び第4通信エリアE4のどれかに電子キー2が進入すると、電子キー2はリクエスト信号Srqを受信して、ID信号Sidを車両1に返信する。照合ECU9は、車外通信の下でID信号Sidを車両チューナ11で受信すると、車外通信が確立したと認識して、受信したID信号SidのIDコードでID照合、即ち車外照合を実行する。照合ECU9は、車外照合が成立することを確認すると、以降の通信エリア形成を停止するとともに、ドアロック装置6による解錠操作を許可する。よって、車外ドアハンドルノブがタッチ操作されると、ドアロックが解錠される。
【0041】
運転者が乗車したことを例えばカーテシスイッチ等により検出すると、車内通信エリア形成部19は、車内において電子キー2の有無を確認するために、今度は図5(b)に示すように車内通信エリアを断続的に形成する。このとき、車内通信エリア形成部19は、第2コイルバーアンテナ16bのみからリクエスト信号Srqを単独送信させ、この送信動作を、所定間隔をおいて繰り返し実行する。これにより、車内には、第3通信エリアE3が断続的に形成され、車内通信エリアが車内全域に亘り形成される。
【0042】
第2通信エリアE2に電子キー2が進入すると、電子キー2はリクエスト信号Srqを受信して、ID信号Sidを車両1に返信する。照合ECU9は、車内通信の下でID信号Sidを車両チューナ11で受信すると、車内通信が確立したと認識して、受信したID信号SidのIDコードでID照合、即ち車内照合を実行する。照合ECU9は、車内照合が成立することを確認すると、エンジンスイッチ4によるエンジン始動操作及び電源遷移操作を許可する。
【0043】
運転終了後に運転者が降車して、車外ドアハンドルノブのロックボタンが押し操作されると、車外照合が成立するか否かを確認する動作を実行するが、まずは先に、車内照合を実行して、車内に電子キー2が置き忘れていないかを確認する。このとき、車内通信エリア形成部19は、第2コイルバーアンテナ16bのみを単独送信して車内通信エリアを形成し、車内照合が不成立となれば、車内に電子キー2が置き忘れていないと認識する。
【0044】
車内に電子キー2が置き忘れていないことが確認できれば、今度は車外照合に移行する。このとき、車外通信エリア形成部18は、ドアロック解錠時と同様に、第1通信エリアE1、第3通信エリアE3及び第4通信エリアE4を順に形成して、車両周囲に車外通信エリアを形成する。そして、照合ECU9は、この車外通信エリアに位置する電子キー2からID信号Sidを取得して、同ID信号SidでID照合、即ち車外照合が成立することを確認すると、ドアロック装置6にドアロックを施錠させる。
【0045】
従って、本例の場合、車両発信機10を2軸一体アンテナとしたので、車両1側は、1つのアンテナで車外照合と車内照合との両方を実行することが可能となる。このため、車両1に用意する送信アンテナを1つのみで済ませられるので、車両1のアンテナ数を少なく抑えることが可能となる。また、2軸一体アンテナを単独送信又は同時送信させて、互いに異なる指向性の通信エリアを形成することにより、車外通信エリア及び車内通信エリアを形成するので、ヌル点の少ない通信エリアが形成可能となる。よって、ヌル点が補完された通信エリアが形成されるので、スマート通信の通信成立性も確保することが可能となる。
【0046】
本実施形態の構成によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
(1)部品としては1部品の2軸一体アンテナを車両発信機10としたので、車両1に設置する送信アンテナを1つに削減することができる。また、2軸一体アンテナのコイルバーアンテナ16a,16bを各々単独送信させるとともに、これらコイルバーアンテナ16a,16bを同時送信させることにより、互いに指向性の異なる通信エリアE1〜E4を形成してスマート通信を実行する。よって、スマート通信に必要な車両通信エリアも問題なく形成可能となるので、スマート通信の通信成立性も今までと同様に確保することもできる。
【0047】
(2)2つのコイルバーアンテナ16a,16bを同時送信させて車外通信エリアを形成する際、これらコイルバーアンテナ16a,16bを同相と逆相との両方で同時送信させる。このため、互いに向きが90度傾く指向性の通信エリアE3,E4を形成して、これらエリアE3,E4も車外通信エリアとすることができる。よって、車外通信エリアの形状に多様性を持たせることが可能となるので、スマート通信の通信成立性を一層確保することができる。
【0048】
(3)2軸一体アンテナで車外通信エリアと車内通信エリアを形成して、電子キー2の位置を車内外判定するので、電子キー2が車外及び車内のどちらに位置するのかを、より精度よく判定することができる。
【0049】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態を図6〜図8に従って説明する。なお、本例は、2軸一体アンテナの各コイルバーアンテナ16a,16bの送信強度を可変とした点が第1実施形態と異なるのみである。よって、第1実施形態と同一部分に関しては同一符号を付して詳しい説明を省略し、異なる部分についてのみ詳述する。
【0050】
図6に示すように、照合ECU9には、通信エリアE1〜E4を異なる送信強度で形成させる送信強度切換部40が設けられている。送信強度切換部40は、車両発信機10が通信エリアE1〜E4を形成する際の送信強度を異なる値とすることにより、各通信エリアE1〜E4の大きさを設定する。本例の場合、図7に示すように、第1通信エリアE1が強送信強度により大きめのエリアで車外通信エリアとして形成され、第2通信エリアE2〜第4通信エリアE4が弱送信強度により小さめのエリアで車内通信エリアとして形成されている。なお、送信強度切換部40が通信エリア変更手段に相当する。
【0051】
さて、車両1が駐車状態の際には、図8(a)に示すように、第1コイルバーアンテナ16aのみからリクエスト信号Srqが単独送信されて、車両周囲に第1通信エリアE1が車外通信エリアとして形成される。このとき、送信強度切換部40は、強送信強度で第1通信エリアE1を形成する。よって、車両周囲には、広範囲に亘って第1通信エリアE1、即ち車外通信エリアが形成される。そして、この車外通信エリアに電子キー2が進入して車外照合が成立すると、ドアロック解錠が許可される。
【0052】
また、運転者が乗車すると、今度は図8(b)に示すように、車内に車内通信エリアが形成される。このとき、第2コイルバーアンテナ16bの単独送信と、コイルバーアンテナ16a,16bの同相同期送信と、逆相同期送信とが順に実行され、車内には第2通信エリアE2と第3通信エリアE3と第4通信エリアE4とが順に形成される。本例の場合、送信強度切換部40は、弱送信強度でこれら通信エリアE2〜E4を形成する。このため、これら通信エリアE2〜E4が車内にのみ形成され、結果、これが車内通信エリアとなる。
【0053】
ここで、第2通信エリアE2を見た場合、同エリアE2は、見かけ上、楕円形状のエリアとなっているので、円先端付近にヌル点が生じる。しかし、第2通信エリアE2のヌル点は、第3通信エリアE3及び第4通信エリアE4の通信範囲に含まれるので、第2通信エリアE2のヌル点が第3通信エリアE3及び第4通信エリアE4によって補完されることが分かる。このため、弱送信強度の第2通信エリアE2〜第4通信エリアE4で車内通信エリアを形成すると、車内全域が確実にカバーされたエリアが形成される。そして、この車内通信エリアに電子キー2が進入して車内照合が成立すると、エンジン始動操作及び電源遷移操作が許可される。
【0054】
従って、本例においては、車両発信機10が単独送信又は同時送信する際の送信強度を切り換えて、車外通信エリアと車内通信エリアとを形成するので、これら通信エリアを、より細分化して設定することが可能となる。よって、本例のように、車内通信エリアのヌル点を補完してエリア形成することも可能となるので、スマート通信の通信成立性を一層向上することが可能となる。
【0055】
本実施形態の構成によれば、第1実施形態に記載の(1)〜(3)の効果に加えて、以下の効果を得ることができる。
(4)車外通信と車外通信とでコイルバーアンテナ16a,16bの送信強度を変えて、リクエスト信号Srqを送信可能とした。このため、通信エリアE1〜E2を単なる一定範囲のエリアとして形成するのではなく、それぞれ車両1に見合った範囲の通信エリアE1〜E4として形成するので、好適な範囲の通信エリアE1〜E4を適宜形成することができる。
【0056】
(5)第1通信エリアE1(即ち、車外通信エリア)を形成するときよりも、送信強度を低く抑えてコイルバーアンテナ16a,16bから電波送信させて、第1通信エリアE1よりもサイズの小さい第2通信エリアE2〜第4通信エリアE4を車内通信エリアとして形成する。よって、ヌル点を補完した車内通信エリアを形成することが可能となるので、車内照合の通信成立性を一層向上することができる。
【0057】
なお、実施形態はこれまでに述べた構成に限らず、以下の態様に変更してもよい。
・第1及び第2実施形態において、複数軸一体アンテナは、2つのコイルバーアンテナ16a,16bを持つ2軸一体アンテナに限定されない。例えば、アンテナ部品を3つ設けて、3軸(X軸、Y軸、Z軸)対応のアンテナとしてもよい。
【0058】
・第1及び第2実施形態において、2軸一体アンテナのコイルバーアンテナ16a,16bは、コイル軸L1,L2が互いに直交する向きに配置されることに限定されず、直交以外の角度をとってもよい。
【0059】
・第1及び第2実施形態において、車両発信機10のアンテナ部材は、コイルバーアンテナ16a,16bに限らず、例えばループアンテナやダイポールアンテナとしてもよい。
【0060】
・第1及び第2実施形態において、同時送信は、例えば3つ以上のアンテナ部材が存在する場合、これらの中の2つが同時に電波を送信する動作としてもよい。
・第1実施形態において、第1通信エリアE1を車外通信エリアとし、第2通信エリアE2は省略して、第3通信エリアE3及び第4通信エリアE4を車内通信エリアとしてもよい。
【0061】
・第1及び第2実施形態において、どのような通信エリア(エリアの大きさや数)を形成して、キー位置をどのように判定するのかは、自由に設定可能である。
・第1及び第2実施形態において、コイルバーアンテナ16a,16bを同時送信させる際、同相送信と逆相送信との両方を必ず実行することに限らず、一方のみ行うものでもよい。
【0062】
・第1及び第2実施形態において、リクエスト信号Srqは、ID返信要求に限らず、電子キー2に応答を求める信号であればよい。
・第1及び第2実施形態において、電子キー2は、車両キーに限定されず、種々の端末(携帯電話、ICカード等)が使用可能である。また、電子キー2は、必ずしもキー機能を持つものに限らず、広義として認証行為が必要な通信端末(認証端末)を広く含むものとする。
【0063】
・第1及び第2実施形態において、キー操作フリーシステム3は、相互通信の往路と復路とで周波数が異なることに限定されず、同じ周波数としてもよい。また、キー操作フリーシステム3の通信周波数は、LFやUHFに限らず、例えばHF(High Frequency)等の他の周波数を使用してもよい。
【0064】
・第1及び第2実施形態において、スマート通信の過程で車両1から電子キー2の電力電波を送信し、この電力電波により電子キー2を駆動させることで、電子キー2を電池レスとしてもよい。
【0065】
・第1及び第2実施形態において、電子キーシステムは、キー操作フリーシステム3に限定されず、車両1と電子キー2とが相互無線通信によりID照合を行うものであればよい。
【0066】
・第1及び第2実施形態において、キー操作フリーシステム3は、車両1に搭載されることに限らず、他の機器や装置に採用可能である。
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに以下に追記する。
【0067】
(イ)請求項1〜4のいずれかにおいて、前記送信実行手段は、前記通信エリアを複数形成して前記電子キーとID照合を行う際、当該ID照合の成立を確認した時点で、以降の通信エリア形成を停止する。この構成によれば、無駄な通信エリア形成を行わずに済むので、通信マスタの電源を省電力化することが可能となる。
【符号の説明】
【0068】
1…通信マスタとしての車両、2…電子キー、3…電子キーシステムとしてのキー操作フリーシステム、10…複数軸一体アンテナとしての車両発信機、15…通信エリア形成装置、16a…アンテナ部材を構成する第1コイルバーアンテナ、16b…アンテナ部材を構成する第2コイルバーアンテナ、18…送信実行手段を構成する車外通信エリア形成部、19…送信実行手段を構成する車内通信エリア形成部、40…通信エリア変更手段としての送信強度切換部、L1,L2…軸としてのコイル軸、E1…通信エリアを構成する第1通信エリア、E2…通信エリアを構成する第2通信エリア、E3…通信エリアを構成する第3通信エリア、E4…通信エリアを構成する第4通信エリア。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信マスタからのID返信要求に応答して電子キーが返信してきたIDコードによりID照合を行う電子キーシステムの通信エリア形成装置において、
前記通信マスタの送信アンテナとして形成され、軸方向が異なる向きに配置された少なくとも2つのアンテナ部材が設けられた複数軸一体アンテナと、
複数の前記アンテナ部材から各々個別に電波を単独送信させるとともに、前記アンテナ部材の複数から電波を同時送信させることにより、互いに指向性の異なる通信エリアを形成して、前記電子キーとの前記ID照合を実行させる送信実行手段と
を備えたことを特徴とする電子キーシステムの通信エリア形成装置。
【請求項2】
前記送信実行手段は、複数の前記アンテナ部材を同時送信させる際、当該アンテナ部材を同相で同時送信させるとともに、当該アンテナ部材を逆相で同時送信させることにより、指向性が互いに直交する通信エリアを形成する
ことを特徴とする請求項1に記載の電子キーシステムの通信エリア形成装置。
【請求項3】
前記送信実行手段は、前記通信エリアとして室外通信エリア及び室内通信エリアを形成し、前記ID照合が前記室外通信エリア及び前記室内通信エリアのどちらで成立するのかを確認することにより、前記電子キーが室外及び室内のどちらに位置するのかを判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の電子キーシステムの通信エリア形成装置。
【請求項4】
前記アンテナ部材が前記通信エリアを形成する際、該アンテナ部材の送信強度を変更することにより、前記通信エリアの大きさを切り換える通信エリア変更手段を備えた
ことを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか一項に記載の電子キーシステムの通信エリア形成装置。
【請求項1】
通信マスタからのID返信要求に応答して電子キーが返信してきたIDコードによりID照合を行う電子キーシステムの通信エリア形成装置において、
前記通信マスタの送信アンテナとして形成され、軸方向が異なる向きに配置された少なくとも2つのアンテナ部材が設けられた複数軸一体アンテナと、
複数の前記アンテナ部材から各々個別に電波を単独送信させるとともに、前記アンテナ部材の複数から電波を同時送信させることにより、互いに指向性の異なる通信エリアを形成して、前記電子キーとの前記ID照合を実行させる送信実行手段と
を備えたことを特徴とする電子キーシステムの通信エリア形成装置。
【請求項2】
前記送信実行手段は、複数の前記アンテナ部材を同時送信させる際、当該アンテナ部材を同相で同時送信させるとともに、当該アンテナ部材を逆相で同時送信させることにより、指向性が互いに直交する通信エリアを形成する
ことを特徴とする請求項1に記載の電子キーシステムの通信エリア形成装置。
【請求項3】
前記送信実行手段は、前記通信エリアとして室外通信エリア及び室内通信エリアを形成し、前記ID照合が前記室外通信エリア及び前記室内通信エリアのどちらで成立するのかを確認することにより、前記電子キーが室外及び室内のどちらに位置するのかを判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の電子キーシステムの通信エリア形成装置。
【請求項4】
前記アンテナ部材が前記通信エリアを形成する際、該アンテナ部材の送信強度を変更することにより、前記通信エリアの大きさを切り換える通信エリア変更手段を備えた
ことを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか一項に記載の電子キーシステムの通信エリア形成装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2011−127368(P2011−127368A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288172(P2009−288172)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【Fターム(参考)】
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